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審決分類 審判 全部無効 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降)  B24D
審判 全部無効 2項進歩性  B24D
審判 全部無効 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  B24D
管理番号 1282465
審判番号 無効2012-800186  
総通号数 170 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-02-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2012-11-09 
確定日 2013-11-05 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3061605号発明「ドーナツ状基板の円孔研削工具」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1.手続の経緯
平成 6年 8月22日 原出願(特願平6-219521号)
平成10年 4月28日 本件分割出願(特願平10-134510号)
平成12年 4月28日 設定登録(特許第3061605号)
平成13年 1月10日 特許異議申立(異議2001-70048号)
平成13年 9月 4日 特許異議決定(請求項1、2取消)
平成13年10月18日 出訴(平成13年(行ケ)470号)
平成15年 4月 8日 判決(請求棄却、確定)
平成24年11月 9日 無効審判請求(請求項3に対し)
平成25年 1月29日 答弁書
平成25年 2月18日 通知書(審理事項通知)
平成25年 3月14日 両者・口頭審理陳述要領書
平成25年 3月19日 通知書(審理事項通知(2))
平成25年 3月29日 両者・口頭審理陳述要領書(2)
平成25年 3月29日 第1回口頭審理
平成25年 4月 3日 審決の予告
平成25年 6月 4日 訂正請求書、答弁書(2)
平成25年 7月12日 弁駁書
平成25年 7月30日 通知書(審理事項通知(3))
平成25年 8月22日 両者・口頭審理陳述要領書(3)
平成25年 8月28日 第2回口頭審理当日進行メモ(両当事者あて)
平成25年 8月29日 請求人・口頭審理陳述要領書(4)
平成25年 9月 4日 被請求人・口頭審理陳述要領書(4)
平成25年 9月 4日 請求人・口頭審理陳述要領書(5)
平成25年 9月 4日 第2回口頭審理

本審決において、記載箇所を行により特定する場合、行数は空行を含まない。
原文の丸囲み数字は、丸1のように置き換えた。

第2.訂正請求について
1.訂正請求の内容
被請求人が、平成25年6月4日付け訂正請求書で求める訂正請求の内容は、以下のとおりである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項3の記載を請求項2の記載を引用しないものとし、該請求項3に「ドーナツ状基板」とあるのを、「ドーナツ状ガラス基板」に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3の記載を請求項2の記載を引用しないものとし、該請求項3に「環状凹部」とあるのを、「ダイヤモンド砥石面の上部傾斜面と下部傾斜面とで形成される開放角を有する環状凹部」に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3の記載を請求項2の記載を引用しないものとし、該請求項3に「相対的水平運動を与え、」とあるのを、「相対的水平運動を与えて」に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項3の記載を請求項2の記載を引用しないものとし、該請求項3に「ドーナツ状基板の円孔の内周の仕上げ研削を行う」とあるのを、「前記粗仕上げ研削が行われた前記ドーナツ状ガラス基板の円孔の内周の仕上げ研削を行う」に訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項3の記載を請求項2の記載を引用しないものとし、該請求項3に「複数の環状凹部」とあるのを、「ダイヤモンド砥石面の上部傾斜面と下部傾斜面とで形成される開放角を有する複数の環状凹部」に訂正する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項3の記載を請求項2の記載を引用しないものとし、該請求項3に「開放角」とあるのを、「上部傾斜面と下部傾斜面とで形成される開放角」に訂正する。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項3の記載を請求項2の記載を引用しないものとし、該請求項3に「前記粗仕上げ研削に用いられるダイヤモンド砥石面の上部傾斜面と下部傾斜面とで形成される開放角は、前記仕上げ研削に用いられるダイヤモンド砥石面の上部傾斜面と下部傾斜面とで形成される開放角より大きく、前記粗仕上げ研削に用いられるダイヤモンド砥石面の上部傾斜面と下部傾斜面とで形成される開放角を有する環状凹部のダイヤモンドの粒度は、前記仕上げ研削に用いられるダイヤモンド砥石面の上部傾斜面と下部傾斜面とで形成される開放角を有する環状凹部のダイヤモンドの粒度より大きい」を追加する。

2.訂正請求についての当審の判断
訂正請求について検討する。
訂正事項1ないし7に関し、請求項3の記載を請求項2の記載を引用しないものとする点は、特許法第134条の2第1項ただし書き第4号の規定に適合する。

(1)訂正事項1
訂正事項1の「ドーナツ状基板」を「ドーナツ状ガラス基板」とする点は、「ドーナツ状基板」について、その構成を、より特定する訂正であり、特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張、変更するものでもない。

(2)訂正事項2
訂正事項2の「環状凹部」を「ダイヤモンド砥石面の上部傾斜面と下部傾斜面とで形成される開放角を有する環状凹部」とする点は、「環状凹部」について、その構成を、より特定する訂正であり、特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張、変更するものでもない。

(3)訂正事項3
訂正事項3の「相対的水平運動を与え、」を「相対的水平運動を与えて」とする点は、訂正前の請求項3において「相対的水平運動を与え、」と「相対的水平運動を与えて」なる記載が混在し、不統一であったため、「相対的水平運動を与えて」なる記載に統一するものであり、明瞭でない記載の釈明を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張、変更するものでもない。

請求人は、弁駁書において、「相対的水平運動を与え、」は粗仕上げ研削に関する記載部分であり、「相対的水平運動を与えて」は仕上げ研削に関する記載部分であって、使い分けがなされているから、訂正により統一することは、技術的内容が変更される旨、主張する。
しかし、訂正前後ともに、「コアー部材とドーナツ状(ガラス)基板との間に相対的仕上げ水平運動を与え」ることで「粗仕上げ研削」がなされることに変わりはなく、技術的内容が変更されるとは認められないから、請求人の主張は根拠がない。

(4)訂正事項4
訂正事項4のうち、「ドーナツ状基板」を「ドーナツ状ガラス基板」とする点は、訂正事項1の検討と同様である。
「ドーナツ状基板の円孔の内周の仕上げ研削を行う」を「前記粗仕上げ研削が行われた前記ドーナツ状ガラス基板の円孔の内周の仕上げ研削を行う」とする点は、「ドーナツ状基板」の構成をより特定するとともに、仕上げ研削を行う円孔の内周の具体的箇所を特定する訂正であり、特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張、変更するものでもない。

(5)訂正事項5
訂正事項5の「複数の環状凹部」を「ダイヤモンド砥石面の上部傾斜面と下部傾斜面とで形成される開放角を有する複数の環状凹部」とする点は、「複数の環状凹部」について、その構成を、より特定する訂正であり、特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張、変更するものでもない。

(6)訂正事項6
訂正事項6の「開放角」を「上部傾斜面と下部傾斜面とで形成される開放角」とする点は、「開放角」について、その構成を、より特定する訂正であり、特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張、変更するものでもない。

(7)訂正事項7
訂正事項7は、「前記粗仕上げ研削に用いられるダイヤモンド砥石面の上部傾斜面と下部傾斜面とで形成される開放角は、前記仕上げ研削に用いられるダイヤモンド砥石面の上部傾斜面と下部傾斜面とで形成される開放角より大きく、前記粗仕上げ研削に用いられるダイヤモンド砥石面の上部傾斜面と下部傾斜面とで形成される開放角を有する環状凹部のダイヤモンドの粒度は、前記仕上げ研削に用いられるダイヤモンド砥石面の上部傾斜面と下部傾斜面とで形成される開放角を有する環状凹部のダイヤモンドの粒度より大きい」を追加し、粗仕上げ研削と仕上げ研削との環状凹部における開放角とダイヤモンドの粒度との関係を特定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とし、実質上特許請求の範囲を拡張、変更するものではない。

訂正事項7が、新規事項の追加に該当するかについて、検討する。
特許明細書には、以下の記載がある。
「【0018】
図3、図4に基づいて、研削工具1を用いたドーナツ状基板6の粗加工から仕上げの工程についてその一例を説明する。
【0019】
回転している研削工具もしくは非回転状態の研削工具1内に、(a)に示されるようにドーナツ状基板6が挿入され、所定の高さのダイヤモンド砥石面12に臨むように位置決めされる。この位置で、所定の回転が与えられた研削工具に、(b)に示されるように水平運動を与え、例えば、粒度の大きいダイヤモンドを使用したダイヤモンド砥石面12で粗加工が行われる。・・・。」
「【0023】
この位置で図3(b)と同様に水平移動が与えられ、例えば、粒度の小さいダイヤモンドを使用したダイヤモンド砥石面12’で仕上げ加工が行われる。・・・。
【0024】
図5は環状凹部即ちダイヤモンド砥石面12の開放角θをそれぞれ変化させた実施例であり、前述の工程における、粗仕上げの際、(a)に示されるように上部傾斜面9と下部傾斜面10とで形成される開放角θ1の大きいダイヤモンド砥石面12で糸面部11を予め削り落とす。このため、次段階の仕上げ用のダイヤモンド砥石面12’を用いた研削時には、(b)に示されるように上部傾斜面9’と下部傾斜面10’とで形成される開放角θ2の小さいダイヤモンド砥石面12’にかかる研削負担は極めて少なくなる。・・・。」

すなわち、ダイヤモンドの粒度に関し、粗加工は、粒度の大きいダイヤモンドを使用したダイヤモンド砥石面12により行われ(段落0019)、仕上げ加工は、粒度の小さいダイヤモンドを使用したダイヤモンド砥石面12’で行われる(段落0023)ことが記載されている。
また、開放角に関し、粗仕上げは、開放角θ1の大きいダイヤモンド砥石面12で行い、仕上げは、開放角θ2の小さいダイヤモンド砥石面12’で行う(段落0024)ことが記載されている。
また、図5(a)には、ダイヤモンド砥石面12(段落0019のとおり粒度は大きい)が、開放角θ1で形成されている点が、図5(b)には、ダイヤモンド砥石面12’ (段落0023のとおり粒度は小さい)が、開放角θ2で形成されている点が、記載されている。
したがって、訂正事項7は、特許明細書、図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、新規事項の追加に該当しない。

請求人は、訂正事項7は、特許明細書に、具体的な実施例が記載されておらず、適用可能性が記載されているにすぎないから、新規事項の追加に当たる旨、主張する。
しかし、上記のとおり、図5(a)、図5(b)には、開放角とダイヤモンドの粒度とを組み合わせた具体的な実施例が記載されていることから、請求人の主張は根拠がない。

(8)通常実施権者の承諾
本件特許権には、特許法第78条第1項の規定による通常実施権者(旭ダイヤモンド工業株式会社、株式会社オリエンタルダイヤ工具研究所)があり、訂正請求についての通常実施権者の承諾は得られている(第2回口頭審理調書「被請求人 1」)。

(9)小括
したがって、上記訂正は、特許法第134条の2第1項の規定に適合し、同条第9項で準用する特許法第126条第4項ないし第6項、第127条の規定にも適合するので、上記訂正を認める。

第3.本件発明
本件特許の請求項3に係る発明(以下「訂正発明」という。)は、訂正された特許請求の範囲によれば、以下のとおりである。

「【請求項3】
コアー部材をドーナツ状ガラス基板の円孔に挿入して、該ドーナツ状ガラス基板を前記コアー部材の所定高さに位置するダイヤモンド砥石面の上部傾斜面と下部傾斜面とで形成される開放角を有する環状凹部に位置させ、回転状態の前記コアー部材とドーナツ状ガラス基板との間に相対的水平運動を与えて前記所定高さのダイヤモンド砥石面の上部傾斜面と下部傾斜面とで形成される開放角を有する環状凹部でドーナツ状ガラス基板の円孔の内周の粗仕上げ研削を行い、
続いて前記コアー部材の中心軸とドーナツ状ガラス基板の中心軸とを接近させ、前記コアー部材とドーナツ状ガラス基板とを上下方向に相対移動して、ドーナツ状ガラス基板を前記使用したダイヤモンド砥石面の上部傾斜面と下部傾斜面とで形成される開放角を有する環状凹部と異なる高さに位置する別のダイヤモンド砥石面の上部傾斜面と下部傾斜面とで形成される開放角を有する環状凹部に位置させ、
再度、前記コアー部材とドーナツ状ガラス基板との間に相対的水平運動を与えて前記粗仕上げ研削が行われた前記ドーナツ状ガラス基板の円孔の内周の仕上げ研削を行う研削工具であり、前記コアー部材の外周部には上下位置にダイヤモンド砥石面の上部傾斜面と下部傾斜面とで形成される開放角を有する複数の環状凹部が形成されており、この一の環状凹部は、他の異なる高さの環状凹部に対して環状凹部の上部傾斜面と下部傾斜面とで形成される開放角が相異なるように形成されたダイヤモンド砥石面であり、一の環状凹部は、他の異なる高さの環状凹部に対して粒度の異なるダイヤモンドを使用したダイヤモンド砥石面であり、
前記粗仕上げ研削に用いられるダイヤモンド砥石面の上部傾斜面と下部傾斜面とで形成される開放角は、前記仕上げ研削に用いられるダイヤモンド砥石面の上部傾斜面と下部傾斜面とで形成される開放角より大きく、
前記粗仕上げ研削に用いられるダイヤモンド砥石面の上部傾斜面と下部傾斜面とで形成される開放角を有する環状凹部のダイヤモンドの粒度は、前記仕上げ研削に用いられるダイヤモンド砥石面の上部傾斜面と下部傾斜面とで形成される開放角を有する環状凹部のダイヤモンドの粒度より大きいことを特徴とするドーナツ状ガラス基板の円孔研削工具。」

第4.請求人の主張
1.条文
特許法第29条第2項(第123条第1項第2号)

2.証拠
請求人が提出した証拠は、以下のとおりである。
なお、甲第4号証は甲第3号証を補助するものであり、甲第5?7号証は、参考資料とされ、甲第8?16号証は、周知技術、技術常識を説明するために提出されたものである。(第1回口頭審理調書「請求人 2、3」、第2回口頭審理調書「請求人 5、6」)。

甲第1号証:実願昭61-159433号(実開昭63-64460号) のマイクロフィルム
甲第2号証:特開平5-243196号公報
甲第3号証:特開平6-190700号公報
甲第4号証:特開昭63-22259号公報
甲第8号証:特開昭62-241841号公報
甲第9号証:特開平5-2182号公報
甲第10号証:特開平5-13388号公報
甲第11号証:特開平5-200728号公報
甲第12号証:特開平6-55426号公報
甲第13号証:特開平6-104228号公報
甲第14号証:特開平6-170629号公報
甲第15号証:「ダイヤモンド砥石の選び方・使い方」初版発行1988(S63).12.23)、日刊工業新聞社、第23?27、第30?34、第97?101ページ
甲第16号証:「でか版技能ブックス丸7 研削盤活用マニュアル」初版発行1990(H02).02.20、株式会社大河出版、第154?157ページ「難削材の総形研削とトラブル対策」

3.概要
請求人の主張の概要は、以下のとおりである。
なお、(1)?(4)は訂正前に関し、(5)?(10)は訂正後に関するものである。

(1)審判請求書第7ページ第18行?第19ページ第4行
「丸2 先行技術が存在する事実及び証拠の説明
丸2-1:甲第1号証
・・・
これらの記載から、甲第1号証には、次の発明が記載されている。
「コア部を有するドーナツ形デスクの回転仕上げ用の工具であって、
コア部をドーナツ形の切り出しデスクの内径部に挿入しつつ、コア部のみぞ形環状の砥石面をドーナツ形の切り出しデスクに対向させ、回転状態のコア部にドーナツ形の切り出しデスクを水平方向に移動させ、上記みぞ形環状の砥石面でドーナツ形の切り出しデスクの内面の面取りを行い、
面取り後、ドーナツ形の切り出しデスクの中心が工具の軸線に合うように水平送りして、元の位置に戻し、その位置で工具を上昇させて面取りを終了する研削工具であり、前記コア部の外周面にみぞ形環状の砥石面が形成されており、このみぞ形環状の砥石面はダイヤモンド等の超硬砥粒からなる砥石面であるドーナツ形デスクの回転仕上げ用の工具。」
丸2-2:甲第2号証
・・・
これらの記載から、甲第2号証には、次の発明が記載されている。
「ウエーハ面取部の鏡面研磨装置において、円筒総形バフの外周部には上下位置に複数の加工溝が形成されており、一の溝は、他の異なる高さの溝に対して溝の挟角が相異なるように形成されていること。」
丸2-3:甲第3号証
・・・
これらの記載から、甲第3号証には、次の発明が記載されている。
「ロータリーエンコーダ用符号円板の加工工具において、符号円板の中心孔と同一径の円筒形砥石と、該円筒形砥石と同軸に一体に成形され、かつ前記中心孔の縁部に整合する位置に円弧状に凹んだ傾斜面を有する切頭円錐状砥石と、からなり、円筒形砥石は粗い砥粒からなり、前記切頭円錐状砥石は細かい砥粒からなること。」
・・・
丸3 本件特許発明と先行技術発明との対比
丸3-1 甲第1号証との対比
・・・
そして、甲第1号証記載の発明と本件特許発明とは、次の点において相違する。
<相違点1>
本件特許発明のコアー部材の外周部には上下位置に複数の環状凹部が形成されており、この一の環状凹部は、他の異なる高さの環状凹部に対して環状凹部の開放角が相異なるように形成されている(本件特許発明のD)ことに対して、甲第1号証記載の発明はコア部にみぞ形環状の砥石面が一つしかない点。
<相違点2>
本件特許発明の一の環状凹部は、他の異なる高さの環状凹部に対して粒度の異なるダイヤモンドを使用したダイヤモンド砥石面とされている(本件特許発明のE)ことに対して、甲第1号証にはこのような構成を備えていない点。
丸3-2 本件特許発明と甲第1号証との相違点について
<相違点1>
相違点1は、甲第1号証のコア部における単一のみぞ形環状の砥石面を、直列的に複数設けて、その複数のみぞ形環状の砥石面の各形状を同一とせずに、種々の形状にしたものとみることができる。
甲第2号証には、複数の加工溝において、一の溝が他の異なる高さの溝に対して溝の挟角が相異なるように形成されている円筒総形バフが記載されている。
甲第2号証に記載された複数の加工溝における一の溝が他の異なる高さの溝に対して溝の挟角が相異なるように形成されていることは、本件特許発明の複数の環状凹部おける一の環状凹部を、他の異なる高さの環状凹部に対して環状凹部の開放角が相異なるように形成すること、に相当する。
そして、甲第1号証と甲第2号証とは、どちらも、ガラスや半導体ウエハなどの硬脆材料からなる円板を加工する研削技術に関するものであるから、甲第1号証に甲第2号証を適用することによって、本件特許発明のコアー部材の外周部に、上下位置に複数の環状凹部を形成し、この一の環状凹部を、他の異なる高さの環状凹部に対して環状凹部の開放角が相異なるように形成する(本件特許発明のD)ことは、当業者であれば容易になしえるものである。
<相違点2>
そもそも研削加工技術において、粗加工から仕上げ加工に順次研削精度を上げようとする場合、研削砥石の砥石面を構成するダイヤモンドの粒度について、大きな粒度から小さな粒度のものを適宜選択使用することは、研削加工技術分野における当業者の技術常識である。
そうすると、複数の環状凹部が形成されたコアー部材において、粗加工から仕上げ加工に順次研削精度を上げるため、一の環状凹部を、他の異なる高さの環状凹部に対して粒度の異なるダイヤモンドを使用することは、当業者にとって自明なものである。このことは甲第3号証や甲第4号証において、粒度の異なる砥粒を使用して、粗加工と仕上げ加工を行う研削加工技術が記載されていることから明らかである。
加えて、甲第3号証には、「ロータリーエンコーダ用符号円板の加工工具において、符号円板の中心孔と同一径の円筒形砥石と、該円筒形砥石と同軸に一体に成形され、かつ前記中心孔の縁部に整合する位置に円弧状に凹んだ傾斜面を有する切頭円錐状砥石と、からなり、円筒形砥石は粗い砥粒からなり、前記切頭円錐状砥石は細かい砥粒からなる」ことが記載されている。
この甲第3号証の円筒形砥石と、円弧状に凹んだ傾斜面を有しかつ前記円筒形砥石に同軸の切頭円錐状砥石とは、研削加工するための研削面形状が異なるものである。そして、その円筒形砥石に粗い砥粒を用い、切頭円錐形状砥石に細かい砥粒を用いることによって、ロータリーエンコーダ用符号円板の中心孔の内周面を、粗加工した後に仕上加工することが、甲第3号証に記載されている。
この甲第3号証の円筒形砥石の研削面形状と切頭円錐状砥石の研削面形状とが異なることは、本件特許発明の一の環状凹部を、他の異なる高さの環状凹部に対して環状凹部の開放角が相異なるように形成することの一態様に相当する。
そして、この甲第3号証のロータリーエンコーダ用符号円板は材質がガラスであり、本件特許発明の対象とする硬脆材料である。
そうすると、複数の環状凹部が形成されたコアー部材において、一の環状凹部を、他の異なる高さの環状凹部に対して粒度の異なるダイヤモンドを使用することは、甲第3号証に基づけば、当業者にとって容易になしえるものである。
つまり、甲第1号証に甲第2号証を適用した際に、粗加工から仕上げ加工に順次研削精度を上げるために、コアー部材の外周部に形成された複数の環状凹部における一の環状凹部を、他の異なる高さの環状凹部に対して粒度の異なるダイヤモンドを使用することは、甲第3号証に基づけば、当業者によって当然に採用される構成である。
以上のように、本件特許発明は、甲第1号証乃至甲第3号証に基づけば、当業者が容易に発明をすることができたものである。」

(2)口頭審理陳述要領書第7ページ第12行?第8ページ第12行
「(5)甲1に、甲2の角度の点、甲3、4の粒度の点を、それぞれ同時適用する「積極的」動機について
(5-1)まず、本件発明の属する研削加工の技術分野においては、粗仕上げ研削を行い、その後、仕上げ研削を行う場合、研削砥石の砥石面を構成するダイヤモンドの粒度を、大きな粒度から小さな粒度のものを適宜選択して適用することは、当業者の技術常識である。
そのため、粗仕上げ研削から仕上げ研削を行う場合、複数の砥石(本件発明の複数の環状凹部)に、粒度の異なるダイヤモンド砥粒を適用することは、当業者の技術常識である。この点は甲4に記載されている通りである。
(5-2)甲1に、甲2の角度の点、甲3、4の粒度の点を、それぞれ同時適用する「積極的」動機として、甲2、甲3の作用効果の共通性がある。
甲2には、挟角異なる複数の加工溝により順次押圧研磨することで、ウェーハWの外周面取り部W1の形状を変化させて加工できるという作用効果があり、これは、本件発明の異なる開放角の環状凹部により研削する場合の作用効果、つまり、ドーナツ状基板の内周における糸面部の形状を変化させて加工できるという作用効果と共通する。
そして、甲3では、符号円板の中心孔の縁部への研削加工としてみると、粗いダイヤモンド砥粒からなる円筒形砥石により、符号円板の中心孔の内面を粗仕上げ研削を行うことで、符号円板の中心孔の縁部を構成する内面側を粗仕上げ研削し、この内面側を粗仕上げ研削された縁部を、細かいダインヤモンド砥粒からなる切頭円錐状砥石により仕上げ研削するという作用効果を奏する。
本件発明では、異なる開放角の環状凹部に、粒度の異なるダイヤモンド砥石を採用することで、ドーナツ状円板の内周を、粗仕上げ研削した後に仕上げ研削するものであるが、実質的な研削部分は、ドーナツ状円板の内周における糸面部を研削するものであり、この本件発明の作用効果は、甲3の縁部を研削する作用効果と共通する。
そうすると、甲1ないし甲3に接した当業者であれば、ドーナツ状基板の内周を研削加工する際に、粗仕上げ研削から仕上げ研削の加工処理を実現するために、甲1に、甲2及び甲3を同時に適用することを試みることは明らかである。」

(3)口頭審理陳述要領書(2)第10ページ第19行?第11ページ第22行
「(3-2)甲2がバフであり、甲3、4がダイヤモンド砥粒であって、工具の性質が異なるから、同時適用は不合理である旨の被請求人の主張について。
・・・。
被請求人は、甲1に甲2を適用することで、甲1のみぞ形環状の砥石面が、甲2の弾性を有するバフからなる断面形状の異なる加工溝となるとしている。しかし、当業者であれば、甲1のみぞ形環状の砥石面を複数にし、その複数のみぞ形環状の砥石面の断面形状を異なるものとするのが通常の適用である。
甲1は、被請求人も認めるように、ダイヤモンド等からなる超硬粒の砥石面によって表面加工、面取りを行う研削に関する技術であり、この研削に関する技術の甲1発明を出発点としたときに、甲2が鏡面研磨を行うバフの加工溝であるからといって、甲1の砥石を甲2のバフに変更して適用することは、あまりにも形式的な適用である。
当業者であれば、甲1に甲2を適用する場合には、甲1の研削に関する技術に、甲2における技術的思想の適用、即ち、複数の加工溝の断面形状が異なるように形成することを適用すると考えることが、当業者の通常の創作能力である。
甲1に甲2を適用する際に、甲1の砥石を甲2のバフに変更するという、形式的な適用は、研削技術に関する甲1を出発点とする際に、当業者の技術常識を無視したものであり、被請求人のこの適用手法は全く誤ったものである。
当業者であれば、甲1に甲2を適用することで、甲1のみぞ形環状の砥石面を複数にし、その複数のみぞ形環状の砥石面の断面形状を異なるもの(環状凹部の開放角が相異なるように形成すること)とすることは容易になしえる。
そして、この断面形状の異なる、複数のみぞ形環状の砥石面に、甲3、4の粒度の異なるダイヤモンド砥粒を適用することは合理的な工具の構成になることは明らかである。
従って、甲2がバフであり、甲3、4がダイヤモンド砥粒であって、工具の性質が異なるから、同時適用は不合理である旨の被請求人の主張は、甲1?甲4の組み合わせ手法を誤ったものに基づくものであり、失当である。」

(4)第1回口頭審理調書の請求人欄
「1 無効理由は、甲1に甲2,甲3を適用し容易ということであり、これのみである。
2 甲4は、甲3を補助するものである。
3 甲5?7は参考資料とする。
・・・
6 甲2を甲1に適用するにあたり、研削と研磨は対象物を削る点で共通の技術であるから、加工に寄与する甲2の溝の数・形状のみ適用しうる。
7 甲3はむしろ周知技術というべきもの。
8 甲3には、角度とともに粒度を変える点が記載されている。」

(5)弁駁書第6ページ第19行?第7ページ下から3行
「しかしながら、本件訂正発明における「前記コアー部材の外周部には上下位置にダイヤモンド砥石面の上部傾斜面と下部傾斜面とで形成される開放角を有する複数の環状凹部が形成されており、この一の環状凹部は、他の異なる高さの環状凹部に対して環状凹部の上部傾斜面と下部傾斜面とで形成される開放角が相異なるように形成されたダイヤモンド砥石面であり、前記粗仕上げ研削に用いられるダイヤモンド砥石面の上部傾斜面と下部傾斜面とで形成される開放角は、前記仕上げ研削に用いられるダイヤモンド砥石面の上部傾斜面と下部傾斜面とで形成される開放角より大きく、前記粗仕上げ研削に用いられるダイヤモンド砥石面の上部傾斜面と下部傾斜面とで形成される開放角を有する環状凹部のダイヤモンド粒度は、前記仕上げ研削に用いられるダイヤモンド砥石面の上部傾斜面と下部傾斜面とで形成される開放角を有する環状凹部のダイヤモンド粒度よりもより大きい」なる構成に関しては、本件明細書において具体的な実施例は何ら記載されていなく、その構成による作用効果に関しても、何ら記載はなく、示唆もない。
即ち、・・・研削負担を極めて少なくすることについて、その研削負担の軽減度合いを示すデータ等は全く記載されてなく、その効果は不明である。そして、この本件訂正発明の特徴的な構成により、ドーナツ状ガラス基板の円孔研削工具の寿命を延ばすことができるという効果についても、全く記載が無く、その効果は不明である。
そのため、本件訂正発明の効果は、開放角が異なる場合の効果と、ダイヤモンド粒度が異なる場合の効果とを単に足し合わせた程度の効果にすぎず、被請求人が主張する効果を、本件訂正発明が奏するものであるかは、全く不明である。
本件訂正発明の特徴的な構成としている「前記コアー部材の外周部には・・・環状凹部のダイヤモンド粒度よりもより大きい」という構成は、本件明細書段落0024に記載してある「・・・ここで、粗加工と仕上げ加工とに用いられるダイヤモンド砥石面において、ダイヤモンドの粒子の大小と開放角とを組み合わせることも可能である。」と適用可能性の一態様を選択して記載したに過ぎず、何ら特徴的な構成ではない。」

(6)弁駁書第11ページ下から4行?第13ページ下から6行
「(2-B-6)次に、被請求人は、答弁書2(3)(3-2)において、本件訂正発明と甲1発明との相違点に関し、甲1発明乃至甲3発明に基づいても、当業者が本件訂正発明を容易に導けるものではない、と主張している。その被請求人の主張要点は次のとおりである。
(ア)甲2発明は、弾性を有する円筒総形バフ40の外周面の上下位置に複数の加工溝40a?dを形成し、加工溝とウェーハの外周面間にスラリーを使用して研摩する鏡面研磨技術であり、本件訂正発明とは研削、研磨加工手段が異なる点。
(イ)甲2発明は、粗仕上げから仕上げ研削を行う技術思想が開示されていない点。
(ウ)甲2発明における加工溝の挟角の大きさ、その加工溝の適用順序は、本件訂正発明と異なる点。
(エ)甲3発明は、上下糸面部を同時に研削できる構成でなく、上下糸面部を同時に粗仕上げ研削した後、上下糸面部を同時に仕上げ研削できない点。
(オ)甲3発明は、本件訂正発明の環状凹部における開放角の大きさとダイヤモンド粒度の大きさとの関係を示す構成が開示されていない点。
そして、被請求人は、上記のように甲1発明乃至甲3発明には、本件訂正発明の構成が記載されていないから、本件訂正発明の構成を導くことができない、と主張をしている。さらに、甲1発明に甲2発明を提供する動機付けが存在しないか、仮に、甲1発明乃至甲3発明を組み合わせることができたとしても、本件訂正発明の構成を導くことができないばかりか、本件訂正発明の効果を奏し得るものでない旨主張している。
しかしながら、本件訂正発明は、甲1発明乃至甲3発明に基づけば、当業者に容易に導けるものであり、進歩性を有するものではない。その理由を以下に説明する。
まず、研削加工、研磨加工(鏡面研磨を含む)の両加工技術は、極めて近接した技術分野であり、審決の予告第30頁20行乃至第32頁第28行目(4.判断)に記載されているように、両加工技術を相互に適用、利用することは、当業者であれば当然に行うものである。そして、その適用においては、一連の研削・研磨工程において、各工程に適した加工条件(粒径、形状)を備えた研削・研磨工具が適宜選択されるものである。
つまり、甲1発明、甲2発明、甲3発明は、研削或いは研磨という文言表現上の相違はあるものの、それはあくまで加工精度の違いが主であり、砥粒が加工対象物を削り取るという加工技術であるという点においては共通したものであり、明らかな阻害要因などの特段の事情がなければ、当業者であれば当然にこれら両技術の適用を行うのは明らかである。
甲1発明乃至甲3発明は、いずれの円板状物品を加工対象物としており、その加工位置も、円板状物品の外周或いは内周の面取加工を行うものであり、これらの加工技術を相互に適用することは当業者であれば当然に試みるものである。
したがって、甲1発明に甲2発明を適用する動機付けがないことを理由とする被請求人の主張は失当である。
そして、甲1発明乃至甲3発明の組み合わせを検討すると、訂正前の本件発明の構成が当業者であれば容易に導けるものであることは、審決の予告(4.判断)に示されている通りである。
また、被請求人の主張要点については、上記(ア)は、両加工技術が極めて近接する技術分野であり相互に適用可能な関係であるので、研削加工と研磨加工との相違により適用できない理由にはならない。上記(イ)は、甲3発明に同様な技術思想が開示されている。上記(ウ)は、当業者であれば、円板状物品の材質、形状、最終的な仕上げ形状などを考慮して、その面取加工条件を適宜決定でき、当業者にとって、何ら困難性を有しない構成である。上記(エ)は、上下糸面部を同時に加工することは甲2発明も同様である。また、甲1発明において、切り出しデスクの厚みが大きな場合や工具Tの環状凹部の開放幅が狭い場合、切り出しデスクを工具Tに対して相対的水平運動させるのみで、切り出しデスクの内面の上下の周縁を同時に研削できることは明らかである。上記(オ)は、上記(2-B-4)に記載したように、甲3発明には、同様な開放角の大きさとダイヤモンド粒度との関係を開示している。
従って、上記(ア)?(オ)の被請求人の主張は、本件訂正発明の構成が、甲1発明乃至甲3発明から導くことができないとの理由にはならない。」

(7)口頭審理陳述要領書(3)第5ページ第11?18行
「尚、甲2と本件訂正発明とは、角度の大きさと加工順序が逆である。この点については、弁駁書(2-B-3)にも主張したように、円板状物品の研削、研磨加工において、特にその内周面や外周面の面取加工を行う場合、当業者であれば、その円板状物品の材質、形状、最終的な仕上げ形状などを考慮して、その面取加工条件を決定することは、技術常識である。そのため、本件訂正発明における環状凹部の角度の大きさと加工順序は、円板状物品の材質、形状、最終的な仕上げ形状などを考慮して、その面取形状・面取加工条件を適宜決定するものであり、当業者にとって何ら困難性を有しない構成である。」

(8)口頭審理陳述要領書(4)第3ページ下から5行?第4ページ第2行
「甲第8号証?甲第15号証に示されているように、研削技術において面取加工条件、例えば、環状凹部の断面形状やその傾斜面の角度などの条件を適宜決定することは、当業者にとって何ら困難性を有しないことは明らかである。
また、これらの先行文献に示されているように、相対的な水平運動を与えるのみで、円孔内周(或いは外周)の上下糸面部を同時に研削(研磨)することは何ら困難性がないばかりか、この程度の構成は当業者にとって周知慣用技術であることは明らかである。」

(9)口頭審理陳述要領書(5)第4ページ第2行?第5ページ末行
「(3)「開放角が大きいものから小さいものへ順次押圧研磨する点が、甲第1?4号証のいずれにも記載されていないが、この構成が容易といえる理由」
本件訂正発明における開放角の大きさとダイヤモンド粒度との関係については、甲1及び甲2を組み合わせ、当業者の技術常識を用いれば容易に導くことができる。
甲1、甲2に基づけば、訂正前の本件発明(請求項2:開放角が異なる複数の環状凹部を備えるもの)は、当業者が容易に導くことができることは、既に主張した通りである。
また、粗仕上げ研削の場合において、ダイヤモンド粒度が大きなものを用い、その後の仕上げ研削の場合に、ダイヤモンド粒度が小さなものを用いることについては、研削、研摩に関わる当業者の技術常識であり、困難性を全く有しない構成である。
つまり、甲1及び甲2に、当業者の技術常識を適用すれば、本件訂正発明における開放角の大きさとダイヤモンド粒度との関係は、当業者であれば容易に導くことができる。
また、甲2と本件訂正発明とは、角度の大きさと加工順序が逆である点については、平成12年7月15日提出の弁駁書(2-B-3)にも主張したように、円板状物品の研削、研磨加工において、特にその内周面や外周面の面取加工を行う場合、当業者であれば、その円板状物品の材質、形状、最終的な仕上げ形状などを考慮して、その面取加工条件を決定することは、技術常識である。そのため、本件訂正発明における環状凹部の角度の大きさと加工順序は、円板状物品の材質、形状、最終的な仕上げ形状などを考慮して、その面取形状・面取加工条件を適宜決定するものであり、当業者にとって何ら困難性を有しない構成である。
・・・。
この本件訂正発明の効果が明らかでないことからも、本件訂正発明の開放角とダイヤモンド砥粒の粒度との関係は、適用可能性の一態様を選択して記載したに過ぎず、何ら困難性を有する構成ではない。」

(10)第2回口頭審理調書の請求人欄
「1 研削負担の軽減による工具の長寿命化という効果は明細書に記載がない。
2 仮に構成に基づく効果であるなら当然予測される効果に過ぎない。
3 研削負担は仕上げ砥石にワーク研削境界の角が最初に当たるため負担は減らない。
4 無効理由は、甲第1号証に甲第2号証、甲第3号証を適用し容易ということであり、これのみである。
5 甲第4号証は、甲第3号証を補助するためのものである。
6 甲第8号証?甲第16号証の提出趣旨は、周知技術、技術常識を説明するものである。
7 開放角が大きいものから小さいものへ順次押圧研削する点は、容易である。理由は、角度と粒度を選択しただけである。」

第5.被請求人の主張
これに対し、被請求人は、本件審判請求は成り立たないとの審決を求めている。
その主張の概要は、以下のとおりである。
なお、(1)?(4)は訂正前に関し、(5)?(9)は訂正後に関するものである。

(1)答弁書第6ページ第12行?第8ページ第5行
「(3-4)相違点の検討
甲第2号証は「ウエ-ハ面取部の鏡面研磨方法及び装置」に関する発明、すなわちウエーハの外周面の加工に関するものであり、本件特許発明のようにドーナツ状基板の円孔の内周の研削に関する技術を何ら開示するものではない。
また甲第2号証に記載のものは、・・・、未研磨部分が残らないように弾力性のあるバフに断面形状の異なる多数の加工溝を設けて鏡面研磨するものであって、本件特許発明のようにダイヤモンドを用いて粗仕上げ研削を行うことに続いてダイヤモンドを用いて仕上げ研削を行うものではない。
さらに、甲第2号証の加工溝は弾性を有しスラリーと協働して研磨加工するものであって、本件特許発明のようにダイヤモンド砥石で形成された環状凹部により研削するものではなく、両者はその加工手段を全く異にしている。
・・・。
甲第3号証は・・・、甲第3号証記載のものは符号円板10と駆動軸との位置関係を変化させることなく中心孔12を研削するものであって、本件特許発明のようにコアー部材とドーナツ状基板との間に相対的水平運動を与えるものではない。
また、甲第3号証の孔開された符号円板10の中心孔12は、段落【0010】にも記載されているように、符号円板10と駆動軸との位置関係を変化させることなく、切頭円錐状砥石16の円弧状に凹んだ傾斜面15で中心孔12の縁部13を研削するものであって、甲第3号証記載のものは本件特許発明のドーナツ状基板の円孔の内周の粗仕上げ研削を行い、続いてドーナツ状基板の円孔の内周の仕上げ研削を行うものではない。
・・・
このように、本件特許発明の研削方式と甲第1号証の研削方式、甲第2号証の研磨方式、及び甲第3、4号証の研削方式とは全く異なるものであり、また甲第1号証の研削方式、甲第2号証の研磨方式、甲第3、4号証の研削方式もそれぞれ異なるので、甲第1号証記載のものに甲第2号証ないし甲第4号証記載のものを適用する動機付けが存在しないばかりか、例え適用したとしても、甲第2号証ないし甲第4号証記載のものに相違点に係る構成が開示されていない以上、本件特許発明の相違点に係る構成には到達し得ない。」

(2)口頭審理陳述要領書第7ページ第4行?第8ページ第12行
「(エ)甲1?甲4の技術分野の共通性について
・・・。
しかしながら、上記した如く甲2は未研磨部分が残らないように弾力性のあるバフに断面形状の異なる多数の加工溝を設けスラリーを使用して鏡面研磨するものであって、ダイヤモンド砥粒からなる砥石面を用いて研削を行うためのものではない。
甲2の段落【0003】に「ところで、前述のようなウエーハ製造工程において従来行われている面取りは…通常、硬剛性砥石によってウエーハエッジ部分を削り取る方法が採用されていた。」と研削に関する記載があり、段落【0004】に「…その結果、ウエーハ面取部に対しても、ウエーハの鏡面部並に研磨する必要性が高まってきた。」と鏡面研磨に関する記載があることから、硬剛性砥石を用いた研削と弾性を有するバフを用いた鏡面研磨とは区別して記載されていることからしても、甲2と甲1、3、4とはその加工手段が異なるものであり、技術分野が共通しているとはいえない。
(5)「甲1に、甲2の角度の点、甲3?4の粒度の点を、それぞれ、又は同時に適用しえない事情は、研削態様、対象のほかに何かあるか。」に関して(相違点1に関して)
甲1発明は上記認定した如く、「…前記コア部3の外周面にみぞ形環状の砥石面5が形成されており、このみぞ形環状の砥石面5はダイヤモンド等の超硬粒からなる砥石面であるドーナツ形デスクの回転仕上げ用の工具。」であって、ドーナツ形の切り出しデスク20の内面をダイヤモンド等からなる超硬粒の砥石面によって表面加工、面取りを行う研削に関する技術である。
これに対して、甲2はウエーハWの外周面取部W1に未研磨部分が残らないように弾力性のあるバフに断面形状の異なる多数の加工溝40a?40dを設けスラリーを使用して鏡面研磨する技術であって、甲1と甲2とは加工手段が異なるものである。
そして、甲1発明のみぞ形環状の砥石面5はダイヤモンド等の超硬粒からなる砥石面であって、研削加工において砥石面5は変形を伴わないのに対し、甲2の断面形状が異なる多数の加工溝40a?40dは弾性を有するバフからなるものであって、スラリーを使用した研磨加工においては加工溝の断面形状は変形を伴うものであるので、基本的に甲1発明のみぞ形環状の砥石面5と甲2の断面形状が異なる多数の加工溝40a?40dとは、それらの役割や機序が全く異なる。
甲1発明にあっては一つの同じみぞ形環状の砥石面により切り出しデスク20の内周面の表面加工と上下の周縁の面取り加工を行うものであり、甲2にあっては断面形状の異なる複数の加工溝40a?40dに順次押圧研磨することによりウエーハWの外周面取部W1に未研磨部分が残らないように鏡面研磨するものであって、いずれの発明にも本件発明のように一つの環状凹部で粗仕上げ研削を行い、続いて前記使用した環状凹部とは別の環状凹部で仕上げ研削を行う技術の開示はない。」

(3)口頭審理陳述要領書(2)第7ページ第4行?第8ページ第25行
「(キ)請求人は「甲1に、甲2の角度の点、甲3、4の粒度の点を、それぞれ同時適用する「積極的」動機として、甲2、甲3の作用効果の共通性がある」(陳述要領書第7ページ第22行ないし第23行)と主張している。
しかしながら、上述した如く、甲2には鏡面研磨用の弾力性のあるバフに断面形状の異なる多数の加工溝が設けられているだけで、本件特許発明の「ダイヤモンド砥石面である環状凹部」なる構成は開示されていない。
そして、本件特許発明はドーナツ状基板の円孔の内周をダイヤモンド砥石面によって研削する技術であるのに対し、甲2はウエーハWの外周面取部W1に弾力性のあるバフに断面形状の異なる多数の加工溝40a?40dを設け、加工溝とウエーハWの外周面間にスラリーを使用して研磨する鏡面研磨技術であって、本件特許発明と甲2とは加工手段が異なるものである。
そして、本件特許発明のダイヤモンド砥石面は、研削加工において砥石面は変形を伴わないのに対し、甲2の断面形状が異なる多数の加工溝40a?40dは弾性を有するバフからなるものであって、スラリーを使用した研磨加工においては加工溝の断面形状は変形を伴うものであるので、本件特許発明のダイヤモンド砥石面と甲2の断面形状が異なる多数の加工溝40a?40dとは、それらの役割や機序が全く異なる。
さらに、甲2には本件特許発明のように、ドーナツ状基板の内孔の研削に関して、研削工具に設けた上下の環状凹部をそれぞれ粒度の異なるダイヤモンド砥石面とし粗仕上げ研削と仕上げ研削の役割を各環状凹部で分担させることの記載もその示唆もない。
・・・。
(ク)・・・。
しかしながら、甲2発明は弾力性のあるバフに断面形状の異なる多数の加工溝40a?40dを設け、加工溝とウエーハWの外周面間にスラリーを使用して研磨する鏡面研磨に関する発明であり、一方、甲3、4はダイヤモンド砥粒からなる砥石面を用いて研削を行うものである。
したがって、甲1発明に甲2の角度の点、甲3、4の粒度の点を同時に適用すべく甲1?4を組み合わせた場合、まず甲1発明と甲2の組み合わせで甲1発明の一つのみぞ形環状の砥石面が、甲2のように弾性を有するバフからなるスラリー使用の断面形状の異なる加工溝となり、さらに甲3、4を組み合わせることにより、このスラリーを使用する断面形状の異なる加工溝が、異なる粒度のダイヤモンド砥粒を用いた砥石面となることから、砥粒を効果的に利用できない不合理な工具の構成になることは明らかであり、本件特許発明のように、高い加工精度を保ちつつダイヤモンド砥石の寿命、延いてはダイヤモンド工具の寿命を大幅に延ばすことができるとともに、環状凹部の開放角とダイヤモンドの粒度とをそれぞれ組み合わせることにより、より広範囲なドーナツ状基板の仕上げ加工を可能とする作用効果を奏するものとはならない。」

(4)第1回口頭審理調書の被請求人欄
「1 甲2は溝の断面形状が異なるにすぎず、ダイヤモンド砥石面の開放角が異なるものではない。
2 甲1に甲2を適用し、さらに甲3を適用することは、容易の容易となる。
3 甲3は、そもそも凹部がないから角度の概念がない。」

(5)答弁書(2)第3ページ第21行?第5ページ第9行
「(2-2)本件訂正発明の特徴点
本件訂正発明は、「前記コアー部材とドーナツ状ガラス基板との間に相対的水平運動を与えて前記所定高さのダイヤモンド砥石面の上部傾斜面と下部傾斜面とで形成される開放角を有する環状凹部でドーナツ状ガラス基板の円孔の内周の粗仕上げ研削を行い、続いて・・・前記粗仕上げ研削が行われた前記ドーナツ状ガラス基板の円孔の内周の仕上げ研削を行う研削工具」であることにより、研削工具を取り外すことなく上下方向に移動するのみで研削加工の少ないドーナツ状ガラス基板の仕上げ研削を一連の作業として行え、ドーナツ状ガラス基板の円孔内周の粗加工から仕上げまでを高精度かつ短時間で処理できることになる。
さらに本件訂正発明は上記構成を有することにより、コアー部材とドーナツ状ガラス基板との間に相対的水平運動を与えるのみで円孔内周の上下糸面部を同時に研削、すなわち、ドーナツ状ガラス基板の円孔内周の上糸面部を環状凹部のダイヤモンド砥石面の上部傾斜面により、ドーナツ状ガラス基板の円孔内周の下糸面部を環状凹部のダイヤモンド砥石面の下部傾斜面により、円孔内周の上下糸面部を同時に研削して粗仕上げ研削を行い、その後、粗仕上げ研削が行われた円孔内周の上下糸面部を、別の仕上げ研削用の環状凹部のダイヤモンド砥石面の上部傾斜面と下部傾斜面により円孔内周の上下糸面部を同時に仕上げ研削を行うことができるため、ドーナツ状ガラス基板の円孔内周の粗加工から仕上げまでの加工時間を短縮することが可能となる。
また本件訂正発明が、「前記コアー部材の外周部には上下位置にダイヤモンド砥石面の上部傾斜面と下部傾斜面とで形成される開放角を有する複数の環状凹部が形成されており、・・・環状凹部のダイヤモンドの粒度より大きい」なる構成を有することにより、粗仕上げ研削において、開放角及びダイヤモンド粒度の大きいダイヤモンド砥石面の環状凹部でドーナツ状ガラス基板の円孔内周の上下糸面部は予め削り落とされることとなるため、次段階の仕上げ研削に用いられるダイヤモンド砥石面を用いた研削時には、仕上げ研削に用いられるダイヤモンド砥石面の上部傾斜面と下部傾斜面とで形成される開放角を有する環状凹部のダイヤモンド砥石面にかかる研削負担を極めて少なくすることができ、ドーナツ状ガラス基板の円孔研削工具の寿命を延ばすことができることになる。
すなわち、本件訂正発明は、・・・、粗仕上げ研削と仕上げ研削の役割を効果的に分担させることができて、粗加工から仕上げまでを高い加工精度を保ちつつ短時間で処理することができ、ダイヤモンド砥石の寿命、延いてはダイヤモンド工具の寿命を大幅に延ばすことができるとともに、環状凹部の開放角とダイヤモンド粒度とをそれぞれ組み合わせることにより、より広範囲なドーナツ状ガラス基板の仕上げ加工を可能としたものである。」

(6)答弁書(2)第22ページ第21行?第23ページ第19行
「以上により、本件訂正発明の「環状凹部」と甲1発明の「みぞ形環状の砥石面5」とは個数並びに研削の機序が全く異なり、本件訂正発明の「ダイヤモンド砥石面の上部傾斜面と下部傾斜面とで形成される開放角を有する複数の環状凹部」と甲2の「断面形状の異なる複数の加工溝」とはその役割や機序を全く異なり、甲3は本件訂正発明3の構成を何ら開示するものではない。
したがって、甲1発明に甲2の「断面形状が異なる複数の加工溝」を適用する動機付けは存在しないばかりか、仮に、甲1?甲3を組み合わせることができたとしても本件訂正発明の「前記コアー部材とドーナツ状ガラス基板との間に相対的水平運動を与えて・・・、再度、前記コアー部材とドーナツ状ガラス基板との間に相対的水平運動を与えて前記粗仕上げ研削が行われた前記ドーナツ状ガラス基板の円孔の内周の仕上げ研削を行う研削工具」なる構成を前提として、「前記コアー部材の外周部には上下位置にダイヤモンド砥石面の上部傾斜面と下部傾斜面とで形成される開放角を有する複数の環状凹部が形成されており、この一の環状凹部は、他の異なる高さの環状凹部に対して環状凹部の上部傾斜面と下部傾斜面とで形成される開放角が相異なるように形成されたダイヤモンド砥石面であり、一の環状凹部は、他の異なる高さの環状凹部に対して粒度の異なるダイヤモンドを使用したダイヤモンド砥石面であり、前記粗仕上げ研削に用いられるダイヤモンド砥石面の上部傾斜面と下部傾斜面とで形成される開放角は、前記仕上げ研削に用いられるダイヤモンド砥石面の上部傾斜面と下部傾斜面とで形成される開放角より大きく、前記粗仕上げ研削に用いられるダイヤモンド砥石面の上部傾斜面と下部傾斜面とで形成される開放角を有する環状凹部のダイヤモンドの粒度は、前記仕上げ研削に用いられるダイヤモンド砥石面の上部傾斜面と下部傾斜面とで形成される開放角を有する環状凹部のダイヤモンドの粒度より大きい」なる構成には到達し得ないばかりか、本件訂正発明の上述した効果を奏し得るものではない。
したがって、本件訂正発明は甲1?3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではなく進歩性を有するものである。」

(7)口頭審理陳述要領書(3)第6ページ第5?11行
「(e)請求人は、本件訂正発明における環状凹部の角度の大きさと加工順序は、円板状物品の材質、形状、最終的な仕上げ形状などを考慮して、その面取加工条件を適宜決定できるものであり、当業者にとって、何ら困難性を有しない構成であると主張している(・・・)。
しかしながら、請求人は、本件訂正発明における環状凹部の角度の大きさと加工順序が当業者にとって何ら困難性を有しない構成であることについて、研削技術の分野における周知技術などを提示していない。」

(8)口頭審理陳述要領書(4)第4ページ第1?17行
「図5(a)は本件明細書の段落【0024】にも記載されているように、粗仕上げの際、上部傾斜面9と下部傾斜面10とで形成される開放角θ1及びダイヤモンド粒度が大きいダイヤモンド砥石面12で糸面部11を予め削り落とす様子を示したものである。粗仕上げ研削で削り落とされる箇所を青色で示している。
図5(a)に示すように粗仕上げを行う場合、基板6の表面と研削面との境界部分にクラックが発生することとなりこのクラックを次段階の仕上げ研削で研削する。図5(b)の次段階の仕上げ研削では、上部傾斜面9’と下部傾斜面10’とで形成された開放角θ2及びダイヤモンド粒度が小さいダイヤモンド砥石12’により糸面部(粗仕上げ工程でクラックの発生した研削境界)を主に研削することになり、既に粗仕上げ済みの基板外周側を研削する研削負担が少なくなる。仕上げ研削で削り落とされる箇所を赤色で示している。
すなわち、仕上げ研削に用いられるダイヤモンド砥石面を用いた研削時には、仕上げ研削に用いられる開放角及びダイヤモンド粒度の小さいダイヤモンド砥石面の上部傾斜面と下部傾斜面とで形成される環状凹部のダイヤモンド砥石面にかかる研削負担を極めて少なくすることができ、ドーナツ状ガラス基板の円孔研削工具の寿命を延ばすことができるものである。」

(9)第2回口頭審理調書の被請求人欄
「1 訂正請求にあたり、通常実施権者の承諾は得ている。
2 研削負担の軽減による工具の長寿命化という効果は構成に基づく効果である。
3 仕上げ砥石の研削量は全体として減少している。
4 開放角が大きいものから小さいものへ順次押圧研削する点は、容易でない。理由は、証拠のいずれにも記載も示唆もなく、これによる格別の技術的意義が生じる。」

第6.当審の判断
1.訂正発明
本件特許の訂正発明は、上記第3.のとおりと認められる。

2.証拠記載事項
(1)甲第1号証
甲第1号証には、以下の記載がある。

ア.明細書第2ページ第4?7行
「(産業上の利用分野)
この考案はドーナツ形デスク主としてガラスなどの硬脆材料からなるドーナツ形デスクの内外面を仕上げるための工具に関する。」

イ.明細書第4ページ第11行?第5ページ第8行
「(実施例)
第1図はこの考案に係る工具Tの一部を切除して示すものであり、所要直径の円形のデスク部1と中央部において上方に伸びる所要長さの筒状のシャンク部2とからなり、デスク部1の下側には、中央において直径がドーナツ形切り出しデスク20の内径より小さく下向きに突出する所要高さのコア部3と、これと一定間隔(切り出しデスクの外径より大きな間隔)の外周においてコア部3と高さを等しくして下向きに突出する環状のリブ4が設けられ、コア部3の外周面と環状リブ4の内周面には、ダイヤモンド、窒化硼素などの超硬砥粒からなり、上下の部分が互いに向き合う側に外に開く斜面5b,6bをなし中央部が加工ドーナツ板の肉厚より大きな直立面5a,6aをなしたみぞ形環状の砥石面5,6がそれぞれ電鋳、電着、焼結などの手段で埋め込み固着されている。」

ウ.明細書第7ページ第4行?第8ページ第16行
「かくて、第3図の状態でテーブル10をゆっくり回転させ、それと同時に上方の研削ユニット(図示せず)を作動して油圧チャック9と工具Tを急速に回転させ、かつ冷却液をチャック9内の通孔9a、工具Tの中心通孔2aを通じて供給し、これを放射通孔8、小孔8aおよび仕切板7の内外の通孔7a,7bを介しコア部3の砥石面5と外周リブ4の砥石面6に向って流出させ、次いで研削ユニットを支える自動縦送りユニット(図示せず)を作動して油圧チャック9と一しよに工具Tを下降させ、そのコア部3を切り出しデスク20の内径部に挿入しつつ内,外の砥石面5,6を切り出しデスク20の内外の周面に対向させる。
その状態でテーブル10を回転させながら水平方向(図示の例では右方)に移動させ、切り出しデスク20の中心線に対し反対側の内周面と外周面を工具Tの内外の砥石面5,6の対向直立面5a,6aに第2図のように圧接させて表面加工を行い、所定の寸法位置でテーブル10の水平送りを停止させ(回転は続行)、次いで工具Tを縦送りユニットにより上下させて砥石面5,6の上下の斜面5b,6bを切り出しデスク20の内面、外面の上下の周縁に交互に圧接させて面取りを行う。
所定の面取りが終れば、切り出しデスク20の中心が工具Tの軸線に合うようにテーブル10を水平送りして第3図の、元の位置に戻し、その位置で工具Tを上昇させて回転を止めると共に冷却液の供給を止め、それと同時にテーブル10の回転も止めて吸着台11の真空を開放すれば、第5図ロのように内外面の仕上げられたドーナツ形のデスク20’が得られる。」

エ.第1図ないし第3図
工具Tは、みぞ形環状の砥石面5が一つであること。

これらを、技術常識を踏まえ、本件発明1に照らして整理すると、甲第1号証には、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
「コア部3を有するドーナツ形切り出しガラスデスク20の回転仕上げ用の工具Tであって、
コア部3をドーナツ形の切り出しガラスデスク20の内径部に挿入しつつ、コア部3の一つのみぞ形環状の砥石面5をドーナツ形の切り出しガラスデスク20に対向させ、回転状態のコア部3にドーナツ形の切り出しガラスデスク20を水平方向に移動させて切り出しガラスデスク20の内周面を砥石面5の対向直立面5aに圧接させて表面加工を行い、次いで工具Tを上下させて砥石5の上下の斜面5bを切り出しガラスデスク20の内面の上下の周縁に交互に圧接させて面取りを行い、
面取り後、ドーナツ形の切り出しガラスデスク20の中心が工具の軸線に合うように水平送りして、元の位置に戻し、その位置で工具Tを上昇させて面取りを終了する研削工具であり、前記コア部3の外周面にみぞ形環状の砥石面5が形成されており、このみぞ形環状の砥石面5はダイヤモンド等の超硬砥粒からなる砥石面であるドーナツ形切り出しガラスデスクの回転仕上げ用の工具。」

甲1発明の認定について、両当事者間に争いはない(第2回口頭審理調書「両当事者 1」)。

(2)甲第2号証
甲第2号証には、以下の記載がある。

ア.特許請求の範囲の請求項1?3
「【請求項1】 円筒総形バフに多段に形成された断面形状の異なる複数の加工溝に、回転するウエーハの面取部を順次押圧して該ウエーハの面取部全面を鏡面研磨することを特徴とするウエーハ面取部の鏡面研磨方法。
【請求項2】 断面形状の異なる複数の加工溝を多段に形成して成る円筒総形バフと、該円筒総形バフを回転駆動するバフ回転手段と、同円筒総形バフをこれの軸方向に移動させるバフ移動手段と、ウエーハを保持してこれを回転駆動するウエーハ回転手段と、ウエーハを前記円筒総形バフの各加工溝に押圧するウエーハ押圧手段を含んで構成されることを特徴とするウエーハ面取部の鏡面研磨装置。
【請求項3】 前記円筒総形バフは、その外周部に前記複数の加工溝を形成して成る外筒総形バフであることを特徴とする請求項2記載のウエーハ面取部の鏡面研磨装置。」

イ.段落0012?0013
「【0012】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成すべく本発明方法は、円筒総形バフに多段に形成された断面形状の異なる複数の加工溝に、回転するウエーハの面取部を順次押圧して該ウエーハの面取部全周を鏡面研磨することをその特徴とする。
【0013】又、本発明は、断面形状の異なる複数の加工溝を多段に形成して成る円筒総形バフと、該円筒総形バフを回転駆動するバフ回転手段と、同円筒総形バフをこれの軸方向に移動させるバフ移動手段と、ウエーハを保持してこれを回転駆動するウエーハ回転手段と、ウエーハを前記円筒総形バフの各加工溝に押圧する押圧手段を含んで鏡面研磨装置を構成したことをその特徴とする。」

ウ.段落0016?0017
「【0016】更に、本発明においては、円筒総形バフの材質として、硬質ポリウレタン樹脂や同樹脂から成る合成皮革、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂等の比較的硬質な弾性体材料を用いることにより、円筒総形バフの摩耗を小さく抑えてその寿命の延長を図ることができる。
【0017】
【実施例】以下に本発明の実施例を添付図面に基づいて説明する。」

エ.段落0037?0042
「【0037】而して、最上段の加工溝40aは前述のようにその挟角θ1が20°に設定されているため、図4に示すようにウエーハWの外周面取部W1のうち挟角θ1=20°の直線aに接触する部分が先ず最上段の加工溝40aによって鏡面研磨される。
【0038】上記のように最上段の加工溝40aによる鏡面研磨が終了すると、ウエーハ押圧手段70のシリンダー71の駆動が解除される。すると、吸着板59とウエーハWは板バネ61の調心作用によってそれらの中心が回転軸51の中心に一致する位置まで移動せしめられるため、ウエーハWは外筒総形バフ40から離脱する。
【0039】次に、コントローラー50はモーター25に制御信号を送って該モーター25を駆動し、前述と同様の作用によって回転軸21及び外筒総形バフ40を下降せしめる。・・・、即ち、2段目の加工溝40bがウエーハWの高さ位置に一致した時点で、モーター25に制御信号を送って該モーター25の駆動を停止して外筒総形バフ40をその位置に停止させる。この状態でウエーハ押圧手段70を再び駆動すれば、ウエーハWの外周面取部W1は2段目の加工溝40bに押圧され、該加工溝40bによって鏡面研磨される。
【0040】而して、2段目の加工溝40bは前述のようにその挟角θ2が40°に設定されているため、図4に示すようにウエーハWの外周面取部W1のうち挟角θ2=40°の直線bに接触する部分が2段目の加工溝40bによって鏡面研磨される。
【0041】以後同様にしてウエーハWの外周面取部W1を3段目の加工溝40c、最下段のストレートな加工溝40dに順次押圧すれば、該外周面取部W1は3段目の加工溝40c、最下段の加工溝40dによって順次鏡面研磨され、図4に示すようにウエーハWの外周面取部W1のうち挟角θ3=60°の直線cに接触する部分、θ4=180°の直線dに接触する部分(外周端縁)が加工溝40c,40dによって順次鏡面研磨される。
【0042】以上のように、本実施例によれば、ウエーハWの外周面取部W1が断面形状の異なる複数の加工溝40a,40b,40c,40dによって順次鏡面研磨されるため、ウエーハWの外周面取部W1に未研磨部分が残らず、該外周面取部W1の全面が均一に平滑鏡面化されて該ウエーハWの品質が高められる。」

これらを、技術常識を踏まえ整理すると、甲第2号証には、以下の事項(以下「甲2事項」という。)が記載されている。
「ウエーハW外周面取部W1の鏡面研磨装置において、弾性を有する円筒総形バフ40の外周面に上下位置に断面形状の異なる複数の加工溝40a?dを形成し、一の溝は、他の異なる溝に対して溝の挟角が相異なるように形成し、ウエーハWの上下外周面取部W1を同時に研磨し、スラリーを使用して、開放角が小さいものから大きいものへ順次押圧研磨すること。」

甲2事項の認定について、両当事者間に争いはない(第2回口頭審理調書「両当事者 1」)。

(3)甲第3号証
甲第3号証には、以下の記載がある。

ア.特許請求の範囲の請求項1?4
「【請求項1】 符号円板の中心孔を円筒形砥石の端面で孔開し、次いで前記円筒形砥石の外周面で前記中心孔の内面を研削し、次いで円弧状に凹んだ傾斜面を有しかつ前記円筒形砥石に同軸の切頭円錐状砥石で前記中心孔の縁部を研削する、ことを特徴とするロータリーエンコーダ用符号円板の加工方法。
【請求項2】 符号円板の中心孔と同一径の円筒形砥石と、該円筒形砥石と同軸に一体に成形され、かつ前記中心孔の縁部に整合する位置に円弧状に凹んだ傾斜面を有する切頭円錐状砥石と、からなるロータリーエンコーダ用符号円板の加工工具。
【請求項3】 前記円筒形砥石は粗い砥粒からなり、前記切頭円錐状砥石は細かい砥粒からなる、ことを特徴とする請求項2に記載のロータリーエンコーダ用符号円板の加工工具。
【請求項4】 前記粗い砥粒は#400以下のダイヤモンド砥粒であり、前記細かい砥粒は#600以上のダイヤモンド砥粒である、ことを特徴とする請求項3に記載のロータリーエンコーダ用符号円板の加工工具。」

イ.段落0001?0002
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、ロータリーエンコーダに係わり、更に詳しくは、ロータリーエンコーダ用符号円板の加工方法及び加工工具に関する。
【0002】
【従来の技術】・・・。符号円板1は、中心孔を有する円板であり、透明度の高いガラスで作られている。・・・。」

ウ.段落0006
「【0006】
【作用】上記本発明の構成によれば、加工工具は、円筒形砥石と、この砥石に同軸に一体に成形された切頭円錐状砥石とからなるので、符号円板の中心孔を円筒形砥石の端面で孔開し、次いで前記円筒形砥石の外周面で前記中心孔の内面を研削し、次いで円弧状に凹んだ傾斜面を有しかつ前記円筒形砥石に同軸の切頭円錐状砥石で前記中心孔の縁部を研削することにより、縁部が円弧状に加工されたR付き孔を一工程で効率良く加工することができる。また、本発明による加工工具は、円筒形砥石と切頭円錐状砥石とが同軸に一体に成形されているので、円弧状に凹んだ傾斜面を有する円錐状砥石を、中心孔の中心軸と同軸に正確に位置決めすることが簡単にできる。これにより、縁部の円弧状部分を均一に加工できる。」

エ.段落0010
「【0010】図示の加工工具は以下のように使用する。まず、駆動軸17をボール盤等の加工機械に取り付け、駆動軸17を回転させる。次いで、図1(A)に示すように、符号円板10の中心孔12を円筒形砥石14の端面で孔開し、次いで円筒形砥石14の外周面で中心孔12の内面を研削する。円筒形砥石14は#400以下の粗いダイヤモンド砥粒からなるので、効率よく孔開け、内面研削を行うことができる。次いで、図1(B)に示すように、符号円板10と駆動軸17との位置関係を変化させることなく、切頭円錐状砥石16の円弧状に凹んだ傾斜面15で中心孔12の縁部13を研削する。円筒形砥石14と切頭円錐状砥石16とが同軸に一体に成形されているので、円弧状に凹んだ傾斜面15を中心孔12の中心軸と同軸に正確に位置決めすることができ、縁部の円弧状部分を均一に加工できる。また、切頭円錐状砥石16は#600以上の細かいダイヤモンド砥粒からなるので、縁部の円弧状部分を滑らかに加工できる。更に、縁部が円弧状に加工されるため、R面と符号円板表面及び中心孔内面との境界にコーナ部ができず、応力集中の核になるチッピングやマイクロクラックがほとんどできない。」

これらを、技術常識を踏まえ整理すると、甲第3号証には、以下の事項(以下「甲3事項」という。)が記載されている。
「ガラス製の符号円板10の加工工具において、符号円板の中心孔12と同一径の円筒形砥石14と、円筒形砥石と同軸に一体成形され、中心孔12の縁部に整合する位置に円弧状に凹んだ傾斜面15を有する切頭円錐状砥石16とからなり、粗い砥粒からなる円筒形砥石14による研削後、細かい砥粒からなる切頭円錐状砥石16により、符号円板10の中心孔12の縁部13を研削を行うもの。」

甲3事項の認定について、両当事者間に争いはない(第2回口頭審理調書「両当事者 1」)。

3.訂正発明と甲1発明との対比
甲1発明における「コア部3」は訂正発明における「コアー部材」に相当し、同様に「ドーナツ形切り出しガラスデスク20」は「ドーナツ状ガラス基板」に、「内径部」は「円孔」に、「コア部の外周面」は「コアー部材の外周部」に、「ダイヤモンド等の超硬砥粒からなる砥石面」は「ダイヤモンド砥石面」に、それぞれ相当する。
甲1発明における「みぞ形環状の砥石面5」と、訂正発明における「所定高さのダイヤモンド砥石面の上部傾斜面と下部傾斜面とで形成される開放角を有する環状凹部」とは、「環状凹溝」である限りにおいて一致する。
甲1発明において「コア部3の一つのみぞ形環状の砥石面5をドーナツ形の切り出しガラスデスク20に対向させ」ることと、訂正発明において「ドーナツ状ガラス基板をコアー部材の所定高さに位置するダイヤモンド砥石面の上部傾斜面と下部傾斜面とで形成される開放角を有する環状凹部に位置させ」ることとは、「ドーナツ状ガラス基板をコアー部材の環状凹溝に位置させ」ることである限りにおいて一致する。
甲1発明において「コア部3にドーナツ形の切り出しガラスデスク20を水平方向に移動させて切り出しガラスデスク20の内周面を砥石面5の対向直立面5aに圧接させて表面加工を行い、次いで工具Tを上下させて砥石5の上下の斜面5bを切り出しガラスデスク20の内面の上下の周縁に交互に圧接させて面取りを行」うことと、訂正発明において「コアー部材とドーナツ状ガラス基板との間に相対的水平運動を与えて所定高さのダイヤモンド砥石面の上部傾斜面と下部傾斜面とで形成される開放角を有する環状凹部でドーナツ状ガラス基板の円孔の内周の粗仕上げ加工を行」うこととは、「コアー部材とドーナツ状ガラス基板との間に相対的水平運動を与えて、環状凹溝でドーナツ状ガラス基板の円孔の内周の研削を行」うものである限りにおいて、一致する。

訂正発明と甲1発明は、以下の点で一致する。
「コアー部材をドーナツ状ガラス基板の円孔に挿入して、該ドーナツ状ガラス基板を前記コアー部材の環状凹溝に位置させ、回転状態の前記コアー部材とドーナツ状ガラス基板との間に相対的水平運動を与え、前記環状凹溝でドーナツ状ガラス基板の円孔の内周の研削を行う研削工具であり、前記コアー部材の外周部には環状凹溝が形成されており、この環状凹溝はダイヤモンド砥石面であるドーナツ状ガラス基板の円孔研削工具。」

訂正発明と甲1発明は、次の、構造に関する相違点1、動作に関する相違点2で相違する。
相違点1:コアー部材の外周部について、訂正発明では「上下位置にダイヤモンド砥石面の上部傾斜面と下部傾斜面とで形成される開放角を有する複数の環状凹部が形成されており、この一の環状凹部は、他の異なる高さの環状凹部に対して環状凹部の上部傾斜面と下部傾斜面とで形成される開放角が相異なるように形成され」、さらに「一の環状凹部は、他の異なる高さの環状凹部に対して粒度の異なるダイヤモンドを使用したダイヤモンド砥石面であ」り、「粗仕上げ研削に用いられるダイヤモンド砥石面の上部傾斜面と下部傾斜面とで形成される開放角は、前記仕上げ研削に用いられるダイヤモンド砥石面の上部傾斜面と下部傾斜面とで形成される開放角よりも大きく、前記粗仕上げ研削に用いられるダイヤモンド砥石面の上部傾斜面と下部傾斜面とで形成される開放角を有する環状凹部のダイヤモンドの粒度は、前記仕上げ研削に用いられるダイヤモンド砥石面の上部傾斜面と下部傾斜面とで形成される開放角を有する環状凹部のダイヤモンドの粒度よりも大きい」のに対し、甲1発明では、「みぞ形環状の砥石面」が「一つ」しか設けられていない点。
相違点2:訂正発明では「所定高さの環状凹部」で「粗仕上げ研削」後に、「コアー部材の中心軸とドーナツ状ガラス基板の中心軸とを接近させ、前記コアー部材とドーナツ状ガラス基板とを上下方向に相対移動して、ドーナツ状ガラス基板を前記使用したダイヤモンド砥石面の上部傾斜面と下部傾斜面とで形成される開放角を有する環状凹部と異なる高さに位置する別のダイヤモンド砥石面の上部傾斜面と下部傾斜面とで形成される開放角を有する環状凹部に位置させ、再度、前記コアー部材とドーナツ状ガラス基板との間に相対的水平運動を与えて前記粗仕上げ研削が行われた前記ドーナツ状ガラス基板の円孔の内周の仕上げ研削を行う」ものであるのに対し、甲1発明では「コア部3にドーナツ形の切り出しガラスデスク20を水平方向に移動させて切り出しガラスデスク20の内周面を砥石面5の対向直立面5aに圧接させて表面加工を行い、次いで工具Tを上下させて砥石5の上下の斜面5bを切り出しガラスデスク20の内面の上下の周縁に交互に圧接させて面取りを行」うもの、すなわち同一みぞ内の移動であり、粗仕上げ用の一のみぞ形環状の砥石面に対向する位置から、仕上げ研削用の他のみぞ形環状の砥石面に位置合わせする構成がない点。

かかる一致点、相違点の認定について、両当事者間に争いはない(第2回口頭審理調書「両当事者 1」)。

4.判断
相違点1について検討する。
加工対象物の研削・研磨においては、必要な最終形状とするため、大径砥粒による粗加工から小径砥粒による仕上げ加工に至る、複数の加工工程を設け、徐々に加工精度を上げ、最終形状とする加工工程を採用することが一般的である。
研削と研磨とは、ともに砥粒が加工対象物を削り取る加工という点で共通し、加工効率を重視し大径砥粒を用いる加工を「研削」、精度を重視し小径砥粒を用いる加工を「研磨」と呼んでいるが、厳密な定義、規格は存在しない。
そして、一連の研削・研磨工程においては、各工程に適した粒径・形状の研削・研磨工具が用いられている。
甲1発明は「面取り研削」を行うものであるところ、加工対象物・加工形態によっては、さらに前段階又は後段階の加工が必要となることが予想される。
その際、甲1発明における環状凹部は「一つ」であるから、他の加工工程用の工具を用意するとともに、加工対象物の工具への搬入・搬出工程が必要となる。
甲2事項、甲3事項は、いずれも、円板状物品の研削・研磨加工に関するものであり、甲1発明の「ドーナツ状ガラス基板(ドーナツ形ガラスデスク)」の研削加工と、砥粒が加工対象物を削り取る加工である「研削・研磨」という点で、技術分野は共通している。
甲2事項は、上記のとおり「上下位置に断面形状の異なる複数の加工溝40a?dを形成し、一の溝は、他の異なる溝に対して溝の挟角が相異なるように形成」するもの、すなわち「上下位置に複数」の「開放角の相異なる」複数の加工溝である「環状凹部」が形成され、加工対象物であるウエーハを、工具に搬入・搬出することなく、「スラリーを使用して、開放角が小さいものから大きいものへ順次押圧研磨」し、一つの工具内で形状を変える一連の複数工程を行うものである。
すなわち、「面取り研削」加工である甲1発明において、さらに前段階又は後段階の加工が必要となる場合、「環状凹部」が「上下位置に複数」形成され、「この一の環状凹部は、他の異なる高さの環状凹部に対して環状凹部の開放角が相異なるように形成され」ている甲2事項の適用により、工具への搬入・搬出工程が不要となるから、加工効率の向上が期待される。
しかしながら、甲2事項は、「スラリーを使用して、開放角が小さいものから大きいものへ順次押圧研磨する」ものであり、仮に、甲1発明に甲2事項を適用すると、開放角の大小関係が、訂正発明とは逆になり、研削態様が異なってしまう。
そして、開放角が大きいものから小さいものへ研削する点は、他の証拠にも記載されていない。
訂正発明は、粗仕上げ研削における開放角を大、ダイヤモンドの粒度を大、仕上げ研削における開放角を小、ダイヤモンドの粒度を小とすることにより、研削負担を軽減し、工具の長寿命化を図るという技術的意義を有する。
よって、相違点1を容易想到とすることはできない。

請求人は、開放角が大きいものから小さいものへ研削する点は、被加工物品の材質、形状、最終的な仕上げ形状などを考慮して、適宜選択したにすぎない旨、主張する。
訂正発明は、図5(a)(b)からも明らかなように、開放角が大きいものから小さいものへ研削することにより、粗仕上げ研削で、ガラス基板の上下糸面部があらかじめ削り落とされる。
他方、開放角の関係が逆である甲2事項においては、ガラス基板の周面部があらかじめ削り落とされることとなり、研削態様が異なる。
甲1発明、訂正発明が研削対象とする「ガラス基板」は、研削に伴い、クラックが生じやすいものであるが、開放角の関係如何により、クラックの発生部位が異なることも予想される。
さらに、甲2事項は、「スラリーを使用」した研削であるから、スラリーを使用しない研削である甲1発明、訂正発明とは、工具の研削条件、研削負担が異なる。
よって、請求人の主張は根拠がない。

請求人は、訂正発明の「研削負担を軽減し、工具の長寿命化を図る」なる効果は、特許明細書に記載がない旨、主張する。
しかし、特許明細書の段落0007には「寿命」について、段落0024には「研削負担」について、記載されていることから、請求人の主張は根拠がない。

相違点2について検討する。
みぞ形砥石の同一みぞ内で、水平移動のみにより、板状物品の上下縁部を同時に研削すること、それ自体は、甲第2号証、甲第8、10?14号証にみられるごとく周知である。
しかしながら、相違点2は、相違点1の構造を前提としたものであることから、相違点1を容易想到とすることができない以上、相違点2についても、容易想到とすることはできない。

したがって、訂正発明を当業者が容易に発明をすることができたとすることはできない。

第7.むすび
以上、請求人の主張及び証拠方法によっては、訂正発明に係る特許を無効とすることはできない。
また、他に訂正発明に係る特許を無効とすべき理由を発見しない。
審判費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ドーナツ状基板の円孔研削工具
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアー部材をドーナツ状基板の円孔に挿入して、該ドーナツ状基板を前記コアー部材の所定高さに位置する環状凹部に位置させ、回転状態の前記コアー部材とドーナツ状基板との間に相対的水平運動を与え、前記所定高さの環状凹部でドーナツ状基板の円孔の内周の粗仕上げ研削を行い、
続いて前記コアー部材の中心軸とドーナツ状基板の中心軸とを接近させ、前記コアー部材とドーナツ状基板とを上下方向に相対移動して、ドーナツ状基板を前記使用した環状凹部と異なる高さに位置する別の環状凹部に位置させ、
再度、前記コアー部材とドーナツ状基板との間に相対的水平運動を与えてドーナツ状基板の円孔の内周の仕上げ研削を行う研削工具であり、前記コアー部材の外周部には上下位置に複数の環状凹部が形成されており、この一の環状凹部は、他の異なる高さの環状凹部に対して粒度の異なるダイヤモンドを使用したダイヤモンド砥石面であることを特徴とするドーナツ状基板の円孔研削工具。
【請求項2】
コアー部材をドーナツ状基板の円孔に挿入して、該ドーナツ状基板を前記コアー部材の所定高さに位置する環状凹部に位置させ、回転状態の前記コアー部材とドーナツ状基板との間に相対的水平運動を与え、前記所定高さの環状凹部でドーナツ状基板の円孔の内周の粗仕上げ研削を行い、
続いて前記コアー部材の中心軸とドーナツ状基板の中心軸とを接近させ、前記コアー部材とドーナツ状基板とを上下方向に相対移動して、ドーナツ状基板を前記使用した環状凹部と異なる高さに位置する別の環状凹部に位置させ、
再度、前記コアー部材とドーナツ状基板との間に相対的水平運動を与えてドーナツ状基板の円孔の内周の仕上げ研削を行う研削工具であり、前記コアー部材の外周部には上下位置に複数の環状凹部が形成されており、この一の環状凹部は、他の異なる高さの環状凹部に対して環状凹部の開放角が相異なるように形成されたダイヤモンド砥石面であることを特徴とするドーナツ状基板の円孔研削工具。
【請求項3】
コアー部材をドーナツ状ガラス基板の円孔に挿入して、該ドーナツ状ガラス基板を前記コアー部材の所定高さに位置するダイヤモンド砥石面の上部傾斜面と下部傾斜面とで形成される開放角を有する環状凹部に位置させ、回転状態の前記コアー部材とドーナツ状ガラス基板との間に相対的水平運動を与えて前記所定高さのダイヤモンド砥石面の上部傾斜面と下部傾斜面とで形成される開放角を有する環状凹部でドーナツ状ガラス基板の円孔の内周の粗仕上げ研削を行い、
続いて前記コアー部材の中心軸とドーナツ状ガラス基板の中心軸とを接近させ、前記コアー部材とドーナツ状ガラス基板とを上下方向に相対移動して、ドーナツ状ガラス基板を前記使用したダイヤモンド砥石面の上部傾斜面と下部傾斜面とで形成される開放角を有する環状凹部と異なる高さに位置する別のダイヤモンド砥石面の上部傾斜面と下部傾斜面とで形成される開放角を有する環状凹部に位置させ、
再度、前記コアー部材とドーナツ状ガラス基板との間に相対的水平運動を与えて前記粗仕上げ研削が行われた前記ドーナツ状ガラス基板の円孔の内周の仕上げ研削を行う研削工具であり、前記コアー部材の外周部には上下位置にダイヤモンド砥石面の上部傾斜面と下部傾斜面とで形成される開放角を有する複数の環状凹部が形成されており、この一の環状凹部は、他の異なる高さの環状凹部に対して環状凹部の上部傾斜面と下部傾斜面とで形成される開放角が相異なるように形成されたダイヤモンド砥石面であり、一の環状凹部は、他の異なる高さの環状凹部に対して粒度の異なるダイヤモンドを使用したダイヤモンド砥石面であり、
前記粗仕上げ研削に用いられるダイヤモンド砥石面の上部傾斜面と下部傾斜面とで形成される開放角は、前記仕上げ研削に用いられるダイヤモンド砥石面の上部傾斜面と下部傾斜面とで形成される開放角より大きく、
前記粗仕上げ研削に用いられるダイヤモンド砥石面の上部傾斜面と下部傾斜面とで形成される開放角を有する環状凹部のダイヤモンドの粒度は、前記仕上げ研削に用いられるダイヤモンド砥石面の上部傾斜面と下部傾斜面とで形成される開放角を有する環状凹部のダイヤモンドの粒度より大きいことを特徴とするドーナツ状ガラス基板の円孔研削工具。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、板ガラス等の硬脆材料を用いて製造されるドーナツ状基板の円孔研削工具及び円孔研削方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
高密度情報記録媒体に用いられるディスク基板の材料は、アルミ材等の金属材の他ガラス、セラミック、プラスチック等の非金属材料が用いられており、最近では平面性に優れるという理由でガラス等の材料が多用されている。
【0003】
ディスク基板としては、一般にその中心部に円孔を有するドーナツ状基板が多く用いられ、切出し直後のガラス等のドーナツ状基板の場合は、その内外周に切削時の微小な凹凸が残り、それらの凹凸の除去および強度の向上を図る上で、周端面の仕上加工と面取りとを行わなければならなかった。
【0004】
そのため、従来は、例えば、実開昭63-201048号公報および実開昭63-64460号公報に示されるように、ガラスを図10(イ)のようにドーナツ状に切出し、この切出したドーナツ状基板を真空吸着テーブルの上に吸着およびまたは押し付け等により固定し、その後内外周研削具内に前記ドーナツ状基板を収納し、周壁部とコアー部の内外周にそれぞれ形成された環状凹部に前記ドーナツ状基板の内周部と周縁部とを当接させ、内外周研削具と真空吸着テーブルとをそれぞれを回転させるとともに、内外周研削具とドーナツ状基板との間に水平運動を与え、ドーナツ状基板の内周部と周縁部とを研削し、図10(ロ)のような研削仕上げ加工を行っていた。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記従来のドーナツ状基板の研削工程にあっては、周壁部とコアー部の内外周にそれぞれ形成された一対の環状凹部で一気にドーナツ状基板の研削を行うようにすると種々の問題が発生する。
【0006】
即ち、環状凹部のダイヤモンド砥石面には仕上げ研削に適した粒度のダイヤモンドが使用されているため、ドーナツ状基板が図10(イ)から図10(ロ)に変化するまで、言い換えると粗加工から仕上げ加工まで同じ粒度のダイヤモンドが使用されることになり、研削時間が長時間となる。
【0007】
また、仕上げ研削に適した細かい粒度のダイヤモンドで粗加工を行うとすると、ダイヤモンド砥石面の寿命が短くなり、工具の取り換えを頻繁に行わなければならなくなる。
【0008】
そこで、粗仕上げ加工と仕上げ加工とを別々の工具を用いて同一の装置で2工程で行うとすると、工具取り換えが必要になり、手間を要する。また、別々の複数の装置で上述の2工程を行うとすると、ドーナツ状基板を固定テーブルに設置する際、軸合せが煩雑になるばかりか、軸の中心が狂ってしまうとドーナツ状基板の精度が落ちるといった問題がある。
【0009】
本発明は、上記のような問題に着目してなされたもので、粗仕上げから仕上げまでを短時間に行え、かつダイヤモンド砥石の寿命を大幅に延ばせる高精度のドーナツ状基板の円孔研削工具およびこの工具を利用した円孔研削方法を提供することである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明のドーナツ状基板の円孔研削工具は、コアー部材をドーナツ状基板の円孔に挿入して、該ドーナツ状基板を前記コアー部材の所定高さに位置する環状凹部に位置させ、回転状態の前記コアー部材とドーナツ状基板との間に相対的水平運動を与え、前記所定高さの環状凹部でドーナツ状基板の円孔の内周の粗仕上げ研削を行い、続いて前記コアー部材の中心軸とドーナツ状基板の中心軸とを接近させ、前記コアー部材とドーナツ状基板とを上下方向に相対移動して、ドーナツ状基板を前記使用した環状凹部と異なる高さに位置する別の環状凹部に位置させ、再度、前記コアー部材とドーナツ状基板との間に相対的水平運動を与えてドーナツ状基板の円孔の内周の仕上げ研削を行う研削工具であり、前記コアー部材の外周部には上下位置に複数の環状凹部が形成されており、この一の環状凹部は、他の異なる高さの環状凹部に対して粒度の異なるダイヤモンドを使用したダイヤモンド砥石面であることを特徴としている。もちろん、環状凹部の形状は限定されるものではなく、全て同一形状または相異ならせることも可能である。この特徴によれば、例えば、粒度の大きなダイヤモンドを有するダイヤモンド砥石面でドーナツ状基板の粗仕上げ加工を行った後、コアー部材の中心軸とドーナツ状基板の中心軸とを接近させるのみで、このコアー部材が回転中であったとしても、自由にドーナツ状基板を同一のコアー部材の高さの異なる他の環状凹部の高さまで移動させることができる。すなわち、高さの異なる環状凹部のダイヤモンド砥石面のダイヤモンドの粒度がそれぞれ上下で異なっているため、研削工具を取り外すことなく上下方向に移動するのみで、次の粒度の小さなダイヤモンドを有するダイヤモンド砥石面でのドーナツ状基板の中心の円孔に対して高精度な仕上げ研削を一連の作業として行え、ドーナツ状基板の円孔の内面の粗加工から仕上げまでを高精度かつ短時間に処理できる。
【0011】
本発明のドーナツ状基板の円孔研削工具は、コアー部材をドーナツ状基板の円孔に挿入して、該ドーナツ状基板を前記コアー部材の所定高さに位置する環状凹部に位置させ、回転状態の前記コアー部材とドーナツ状基板との間に相対的水平運動を与え、前記所定高さの環状凹部でドーナツ状基板の円孔の内周の粗仕上げ研削を行い、続いて前記コアー部材の中心軸とドーナツ状基板の中心軸とを接近させ、前記コアー部材とドーナツ状基板とを上下方向に相対移動して、ドーナツ状基板を前記使用した環状凹部と異なる高さに位置する別の環状凹部に位置させ、再度、前記コアー部材とドーナツ状基板との間に相対的水平運動を与えてドーナツ状基板の円孔の内周の仕上げ研削を行う研削工具であり、前記コアー部材の外周部には上下位置に複数の環状凹部が形成されており、この一の環状凹部は、他の異なる高さの環状凹部に対して環状凹部の開放角が相異なるように形成されたダイヤモンド砥石面であることを特徴としている。この特徴によれば、ドーナツ状基板の仕上げ研削の前段階での粗仕上げ加工を行った後、コアー部材の中心軸とドーナツ状基板の中心軸とを接近させるのみで、このコアー部材が回転中であったとしても、自由にドーナツ状基板を同一のコアー部材の高さの異なる他の環状凹部の高さまで移動させることができる。すなわち、高さの異なるダイヤモンド砥石面の環状凹部の開放角がそれぞれ上下で異なっているため、研削工具を取り外すことなく上下方向に移動するのみで研削加工の少ないドーナツ状基板の仕上げ研削を一連の作業として行え、ドーナツ状基板の円孔の内面の粗加工から仕上げまでを高精度かつ短時間に処理できる。
【0012】
本発明のドーナツ状基板の円孔研削工具は、一の環状凹部が、他の異なる高さの環状凹部に対して粒度の異なるダイヤモンドを使用したダイヤモンド砥石面にすることもできる。このようにすることで、環状凹部の開放角とダイヤモンドの粒度とをそれぞれ組み合わせることにより、より広範囲なドーナツ状基板の仕上げ加工ができる。
【0013】
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
【0015】
図1には、ガラス等の硬脆材料の板からなるドーナツ状基板を研削するための研削工具1が示されており、天板2の上方にはシャンク3が突設されているとともに、シャンク3と同軸下方には円柱状のコアー部材4が延びており、また天板2の円周部からは前記コアー部材4を包囲するようにフレアー部材5が垂設されている。
【0016】
研削工具1は主に鋼製でできており、このコアー部材4の外周およびフレアー部材5の内周には、同じ高さ位置に環状凹部8が複数本切設され、その形状は断面がほぼ台形状をしている。ただし、断面台形に限らずその用途によっては半月状または三角形になってもよい。
【0017】
これら環状凹部8はダイヤモンド砥石部12を構成しており、このダイヤモンド砥石部12は、メタルボンド砥石あるいは電着砥石等として製作される。ここで、図1では明らかではないが、ダイヤモンド砥石部は、各同じ高さの内外の環状凹部8、8を一対として使用されるダイヤモンドの粒度や環状凹部の形状等が異なっている。即ち、環状凹部の断面については、例えば図5(a)、(b)に示されるように、上下の環状凹部の開放角θがそれぞれθ1、θ2のように異なっている。
【0018】
図3、図4に基づいて、研削工具1を用いたドーナツ状基板6の粗加工から仕上げの工程についてその一例を説明する。
【0019】
回転している研削工具もしくは非回転状態の研削工具1内に、(a)に示されるようにドーナツ状基板6が挿入され、所定の高さのダイヤモンド砥石面12に臨むように位置決めされる。この位置で、所定の回転が与えられた研削工具に、(b)に示されるように水平運動を与え、例えば、粒度の大きいダイヤモンドを使用したダイヤモンド砥石面12で粗加工が行われる。この場合、ドーナツ状基板6に回転や水平運動を与えても同じ効果がある。
【0020】
この粗加工において、ドーナツ状基板6を最終形状に近付け、続いてこのセット状態のまま(c)に示されるように研削工具1の回転中心とドーナツ状基板6の中心とを近付けることにより、この研削工具とドーナツ状基板とは上下に移動可能となる。
【0021】
図2に示されるように、円板状のドーナツ状基板6がこの研削工具1内に収納され、所定の環状凹部8に対応する水平位置にセットされると、コアー部材4の回転中心Oに対して所定の寸法の水平移動が与えられる。この水平運動はドーナツ状基板6の中心点の回りを研削工具の回転中心Oが円周軌道を描く移動形態、さらには研削工具を所定の方向に往復移動させながら、ドーナツ状基板6を低速で回転させることもできる。言い換えると、研削中にドーナツ状基板6の内外周がコアー部材4とフレアー部材5とに形成された所定のダイヤモンド砥石面12にほぼ均一に接触すれば足りるため、相対的な両者の水平移動が達成されればよい。
【0022】
この状態で、再度研削工具1とドーナツ状基板6とに上下方向の移動を与え、次の加工、即ちドーナツ状基板6が仕上げ用のダイヤモンド砥石面12’に臨む図4(d)の位置で位置決めされる。
【0023】
この位置で図3(b)と同様に水平移動が与えられ、例えば、粒度の小さいダイヤモンドを使用したダイヤモンド砥石面12’で仕上げ加工が行われる。この後、研削工具1の回転中心とドーナツ状基板6との中心とを近付けることにより、ドーナツ状基板を研削工具から容易に分離できる。この研削工具1による研削加工にはダイヤモンド砥石面12と12’とを使用したが、更にダイヤモンド砥石面12”を使用し、粗仕上げ、中仕上げ、そして高精度仕上げのように、3段階の工程を行ってもよい。
【0024】
図5は環状凹部即ちダイヤモンド砥石面12の開放角θをそれぞれ変化させた実施例であり、前述の工程における、粗仕上げの際、(a)に示されるように上部傾斜面9と下部傾斜面10とで形成される開放角θ1の大きいダイヤモンド砥石面12で糸面部11を予め削り落とす。このため、次段階の仕上げ用のダイヤモンド砥石面12’を用いた研削時には、(b)に示されるように上部傾斜面9’と下部傾斜面10’とで形成される開放角θ2の小さいダイヤモンド砥石面12’にかかる研削負担は極めて少なくなる。ここで、粗加工と仕上げ加工とに用いられるダイヤモンド砥石面において、ダイヤモンドの粒子の大小と開放角とを組み合わせることも可能である。
【0025】
図6には、円筒状のフレアー部材5にダイヤモンド砥石面が上下2箇所に形成されたものが、さらに図7にはフレアー部材5が円筒状ではなくバランス良く複数片垂下されたフレアー部材を有するものが示されている。
【0026】
図8には、更に他の実施例が示されており、研削工具1のフレアー部材5とコアー部材4とが同じ回転中心軸を共有するが、それぞれ別々の回転駆動部(図示せず)と連結されるように、フレアー部材5のシャンク3内にコアー部材4と一体のコアーシャンク7が形成されている。
【0027】
この研削工具を使用して例えば、コアー部材4の回転方向とフレアー部材5の回転方向とを逆にすることにより、下方で真空吸着テーブル(図示せず)等で固定されたドーナツ状基板6に掛かる一方向の回転研削抵抗が減少し、固定する力の多少にかかわらずドーナツ状基板の位置ずれ等の危険を防止することができる。
【0028】
また、この研削工具を使用して、コアー部材4の周速度をフレアー部材5の周速度よりも高めることにより、それぞれの部材4、5のダイヤモンド砥石面の寿命を等しくすることができる。
【0029】
図9には、本発明の更に他の実施例が示されており、これは、前述の形態と異なり、コアー部材4とフレアー部材5とが回転軸の異なる別々のシャンク13、14を有しているものである。これらコアー部材4とフレアー部材5とはテーブルプレート15に対して位置決めされ使用されるものであり、回転中のコアー部材4とフレアー部材5とでドーナツ状基板が研削される。
【0030】
以上、実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成は実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加等があっても本発明に含まれる。
【0031】
例えば、フレアー部材5とコアー部材4の下方にドリル部を設け、ドーナツ状基板の切取りを行い、続いて本発明の仕上げ工程を行うようにしてもよい。また、この研削工具やドーナツ状基板の水平移動幅やその速度ついても材質やその大きさ等によって種々に変更できることは明らかである。
【0032】
【発明の効果】
本発明は次の効果を奏する。
【0033】
(a)請求項1の発明によれば、この特徴によれば、例えば、粒度の大きなダイヤモンドを有するダイヤモンド砥石面でドーナツ状基板の粗仕上げ加工を行った後、コアー部材の中心軸とドーナツ状基板の中心軸とを接近させるのみで、このコアー部材が回転中であったとしても、自由にドーナツ状基板を同一のコアー部材の高さの異なる他の環状凹部の高さまで移動させることができる。すなわち、高さの異なる環状凹部のダイヤモンド砥石面のダイヤモンドの粒度がそれぞれ上下で異なっているため、研削工具を取り外すことなく上下方向に移動するのみで、次の粒度の小さなダイヤモンドを有するダイヤモンド砥石面でのドーナツ状基板の中心の円孔に対して高精度な仕上げ研削を一連の作業として行え、ドーナツ状基板の円孔の内面の粗加工から仕上げまでを高精度かつ短時間に処理できる。
【0034】
(b)請求項2の発明によれば、この特徴によれば、ドーナツ状基板の仕上げ研削の前段階での粗仕上げ加工を行った後、コアー部材の中心軸とドーナツ状基板の中心軸とを接近させるのみで、このコアー部材が回転中であったとしても、自由にドーナツ状基板を同一のコアー部材の高さの異なる他の環状凹部の高さまで移動させることができる。すなわち、高さの異なるダイヤモンド砥石面の環状凹部の開放角がそれぞれ上下で異なっているため、研削工具を取り外すことなく上下方向に移動するのみで研削加工の少ないドーナツ状基板の仕上げ研削を一連の作業として行え、ドーナツ状基板の円孔の内面の粗加工から仕上げまでを高精度かつ短時間に処理できる。
【0035】
(c)請求項3の発明によれば、環状凹部の開放角とダイヤモンドの粒度とをそれぞれ組み合わせることにより、より広範囲なドーナツ状基板の仕上げ加工ができる。
【0036】
【0037】
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明実施例の研削工具の断面図である。
【図2】研削工具とドーナツ状基板との関係を示す平面図ある。
【図3】研削工具を利用した仕上げ工程を示す断面図である。
【図4】研削工具を利用した仕上げ工程を示す断面図である。
【図5】研削工具のダイヤモンド砥石面の部分断面図である。
【図6】本発明の他の実施例の研削工具の断面図である。
【図7】本発明の他の実施例の研削工具の斜視図である。
【図8】本発明の更に他の実施例の研削工具の断面図である。
【図9】本発明の更に他の実施例の研削工具の断面図である。
【図10】ドーナツ状基板の加工前と加工後の斜視図である。
【符号の説明】
1 研削工具
2 天板
3 シャンク
4 コアー部材
5 フレアー部材
6 ドーナツ状基板
7 コアーシャンク
8 環状凹部
9 上部傾斜面
10 下部傾斜面
11 糸面部
12 ダイヤモンド砥石部
13 シャンク
14 シャンク
15 テーブルプレート
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2013-09-06 
結審通知日 2013-09-10 
審決日 2013-09-24 
出願番号 特願平10-134510
審決分類 P 1 113・ 121- YA (B24D)
P 1 113・ 851- YA (B24D)
P 1 113・ 841- YA (B24D)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 千葉 成就
特許庁審判官 菅澤 洋二
長屋 陽二郎
登録日 2000-04-28 
登録番号 特許第3061605号(P3061605)
発明の名称 ドーナツ状基板の円孔研削工具  
代理人 重信 和男  
代理人 秋庭 英樹  
代理人 溝渕 良一  
代理人 小椋 正幸  
代理人 秋庭 英樹  
代理人 重信 和男  
代理人 小椋 正幸  
代理人 特許業務法人田中・岡崎アンドアソシエイツ  
代理人 溝渕 良一  
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