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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  C01B
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C01B
審判 全部無効 特17 条の2 、4 項補正目的  C01B
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  C01B
管理番号 1282469
審判番号 無効2012-800034  
総通号数 170 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-02-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2012-03-26 
確定日 2013-11-11 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第4659741号発明「化合物の製造方法、蛍光体、及び発光装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 I.手続の経緯
・平成16年11月17日
本件出願(特願2006-517878号)
特許法第41条に基づく優先権主張(優先日:平成15年11月19日
出願番号:特願2003-389695号、優先日:平成16年5月1
9日 出願番号:特願2004-149616号)
・平成23年1月7日
設定登録(特許第4659741号)
・平成24年3月26日
無効審判請求(無効2012-800034号)
・平成24年6月8日
手続補正書(請求人提出)
・平成24年6月14日
答弁指令(被請求人宛)
・平成24年8月15日
答弁書及び訂正請求書(被請求人提出)
・平成24年11月13日
上申書(被請求人提出)
・平成24年12月20日
手続補正指令書(方式)(被請求人宛)
・平成25年1月11日
手続補正書(被請求人提出)(訂正請求書を補正するもの)
・平成25年1月24日
審理事項通知書(請求人及び被請求人宛)
・平成25年2月25日
口頭審理陳述要領書(請求人及び被請求人提出)
・平成25年3月4日
口頭審理
・平成25年3月11日
無効理由通知書(請求人及び被請求人宛)
・平成25年4月8日
意見書(請求人提出)
・平成25年4月11日
意見書及び訂正請求書(被請求人提出)
・平成25年4月26日
弁駁指令(請求人宛)(応答なし)

II.当事者の主張
(II-1)請求人の主張の概要
(II-1-1)無効審判請求書における主張
(1)請求項1ないし19に係る各発明は、甲1ないし5号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当して特許を受けることができないものであり、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

(2)請求項1ないし19に係る各発明は、甲第1ないし5号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

(3)証拠方法
・甲第1号証:特開昭62-167209号公報
・甲第2号証:"Luminescence Properties of Terbium or Europium-Doped α-Sislon Materials"
・甲第3号証:"Preparation and Luminescence Spectra of Calcium-and Rare-Earth(R=Eu、Tb、and Pr)-Codoped α-SAIALON Ceramic")
・甲第4号証:特表2003-515655号公報
・甲第5号証:"High temperature syntheses of novel nitriro-and oxonitrido-silicates and saialon using (rf) furnances"

(II-1-2)平成25年2月25日付け口頭陳述要領書における主張
請求人は、口頭審理調書において請求人陳述2※として記載された以下の(1)(2)を主張した。※下記(II-2-2)参酌。
(1)訂正した請求項1ないし11に係る各発明は、甲第1号証ないし甲第5号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

(2)訂正した請求項1に記載された発明は明確でないから、特許法第36条第6項第2号の規定により特許を受けることができないものであり、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。

(3)証拠方法
・甲第6号証:特開2002-363554号公報
・甲第7号証:特開2002-28474号公報

(II-1-3)平成25年4月8日付け意見書における主張
(1)訂正した特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、甲第1号証ないし甲第5号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

(2)訂正した特許請求の範囲の請求項1に記載された発明は明確でないから、特許法第36条第6項第2号の規定により特許を受けることができないものであり、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。

(II-2)被請求人の主張の概要
(II-2-1)平成24年8月15日付け答弁書における主張
(1)請求項1ないし19に係る各発明は、甲1ないし5号証に記載された発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当して特許を受けることができないものではなく、特許法第123条第1項第2号に該当せず、無効とすべきではない。

(2)請求項1ないし19に係る各発明は、甲第1ないし5号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではなく、特許法第123条第1項第2号に該当せず、無効とすべきではない。

(3)証拠方法
・乙第1号証:「新版ニューセラミックス」(1984年10月30日)株式会社シーエムシー P.100-101
・乙第2号証:特許第2593658号公報
・乙第3号証:特開2001-262136号公報
・乙第4号証:特開2005-306692号公報

(II-2-2)平成25年2月25日付け陳述要領書における主張
被請求人は、口頭審理調書において「請求人が主張する無効理由は請求人陳述2のとおりであることを認める。」と記載されたように請求人陳述2※を認めた上で、以下の(1)(2)を主張した。※上記(II-1-2)参酌。
(1)訂正した請求項1ないし11に係る各発明は、甲第1号証ないし甲第5号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではなく、特許法第123条第1項第2号に該当せず、無効とすべきではない。

(2)訂正した請求項1に記載された発明は明確であり、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしているから、特許を受けることができないものではなく、特許法第123条第1項第4号に該当せず、無効とすべきではない。

(3)証拠方法
・乙第5号証:甲第5号証「2.1」欄(P290?291)および「2.3」(P292?295)欄の和訳

(II-2-3)平成25年4月11日付け意見書における主張
平成25年4月11日付け訂正請求書に添付された特許請求の範囲の請求項1(ないし10)に記載された発明は明確であり、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしているから、特許を受けることができないものではなく、特許法第123条第1項第4号に該当せず、無効とすべきではない。

III.当審による無効理由通知
平成25年1月11日付け手続補正書により補正された訂正請求書に添付された特許請求の範囲の請求項1ないし11に記載された発明は明確でないから、特許法第36条第6項第2号の規定により特許を受けることができないものであり、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。

IV.訂正について
(IV-1)請求の趣旨
平成24年8月15日付け訂正請求書及び同訂正請求書を補正する平成25年1月11日付け手続補正書並びに平成25年4月11日付け訂正請求書が提出されたが、平成24年8月15日付けの訂正請求は、特許法第134条の2第4項の規定により取り下げられたものとみなされることから、被請求人の求める訂正(以下、「本件訂正」という。)の趣旨は、特許第4659741号の明細書及び特許請求の範囲を、以下で示す、平成25年4月11日付け訂正請求書に添付された明細書及び特許請求の範囲のとおりに訂正するというものである。

(IV-2)訂正事項
(1)訂正事項1について
ア)特許第4659741号の特許請求の範囲の請求項1の「焼成原料」に関して、「前記焼成原料は、加熱によってアルカリ土類金属酸化物MO(但し、Mは、Mg、Ca、Sr、及びBaから選ばれる少なくとも一つの元素、Oは、酸素元素)を生成しうるアルカリ土類金属化合物と、珪素化合物と、Eu又はCeを含む化合物と、必要に応じてアルミニウム化合物とを含み」及び「前記珪素化合物は、窒化珪素であり、」を付加し、
イ)同請求項1の「化合物」を「蛍光体」にし、
ウ)同請求項1の「焼成原料を還元及び窒化する」ことに関して、「前記焼成原料の還元及び窒化は、アルカリ土類金属化合物が含有する酸素成分を炭素によって除去し、さらに窒化性ガスとの反応によって窒化しながら珪素化合物と反応させるものであり、」を付加し、
エ)同請求項1の「前記ニトリドシリケート系化合物は、少なくとも、アルカリ土類金属元素又は希土類元素と、珪素と、窒素とを主要構成元素として含み、かつ、一般式M’_(p/2)Si_(12-p-q)Al_(p+q)O_(q)N_(16-q)(但し、M’はCa単独又はSrと組み合わせたCa、qは0?2.5、pは1.5?3)で表されるサイアロンを除く化合物である」を「前記蛍光体は、ニトリドシリケート系化合物1モル当たり、アルカリ土類金属の原子数よりも酸素の原子数が少ないニトリドシリケート系化合物である高窒化性のニトリドシリケート系化合物に、発光中心としてEu^(2+)イオン又はCe^(3+)イオンを含むものであり、
前記ニトリドシリケート系化合物は、M_(2)Si_(5)N_(8)、MSi_(7)N_(10)、M_(2)Si_(4)AlON_(7)、MSiN_(2)、及びCaAlSiN_(3)(M、Oは前記と同じ)中から選ばれる少なくとも一つである」にし、
オ)同請求項2ないし19の「【請求項2】
前記ニトリドシリケート系化合物は、ニトリドシリケート、オクソニトリドシリケート、ニトリドアルミノシリケート、及びオクソニトリドアルミノシリケートのいずれかである請求項1に記載の化合物の製造方法。
【請求項3】
前記ニトリドシリケート系化合物は、高窒化性のニトリドシリケート系化合物であり、
前記高窒化性のニトリドシリケート系化合物は、ニトリドシリケート系化合物1モル当たり、アルカリ土類金属の原子数よりも酸素の原子数が少ないニトリドシリケート系化合物、又は、ニトリドシリケート系化合物1モル当たり、希土類金属の原子数を1.5倍した数よりも酸素の原子数が少ないニトリドシリケート系化合物のいずれかである請求項1に記載の化合物の製造方法。
【請求項4】
前記ニトリドシリケート系化合物は、M_(2)Si_(5)N_(8)、MSi_(7)N_(10)、M_(2)Si_(4)AlON_(7)、MSiN_(2)、及びCaAlSiN_(3)の中から選ばれる少なくとも一つの化合物であり、
前記Mは、Mg、Ca、Sr、及びBaから選ばれる少なくとも一つの元素である請求項3に記載の化合物の製造方法。
【請求項5】
前記窒化性ガスは、窒素ガス及びアンモニアガスから選ばれる少なくとも一つのガスである請求項1に記載の化合物の製造方法。
【請求項6】
前記炭素の性状は、固体炭素、無定形炭素、及び浸炭性ガスのいずれかである請求項5に記載の化合物の製造方法。
【請求項7】
前記焼成原料は、加熱によってアルカリ土類金属酸化物MO(但し、Mは、Mg、Ca、Sr、及びBaから選ばれる少なくとも一つの元素、Oは、酸素元素)を生成しうるアルカリ土類金属化合物、及び加熱によって希土類酸化物LnO又はLn_(2)O_(3)(但し、Lnは、原子番号21、39、及び57?71の希土類元素から選ばれる少なくとも一つの元素、Oは、酸素元素)を生成しうる希土類化合物のうちの少なくとも一つの化合物と、珪素化合物とを含む請求項1に記載の化合物の製造方法。
【請求項8】
前記アルカリ土類金属化合物は、アルカリ土類金属の炭酸塩、蓚酸塩、酸化物、及び水酸化物から選ばれる少なくとも一つのアルカリ土類金属化合物である請求項7に記載の化合物の製造方法。
【請求項9】
前記希土類化合物は、希土類の炭酸塩、蓚酸塩、酸化物、及び水酸化物から選ばれる少なくとも一つの希土類化合物である請求項7に記載の化合物の製造方法。
【請求項10】
前記珪素化合物は、窒化珪素、酸窒化珪素、酸化珪素、及びシリコンジイミドから選ばれる少なくとも一つの珪素化合物である請求項7に記載の化合物の製造方法。
【請求項11】
前記反応は、加熱により行われる請求項1に記載の化合物の製造方法。
【請求項12】
反応温度は、1400℃以上2000℃以下である請求項11に記載の化合物の製造方法。
【請求項13】
前記化合物は、蛍光体である請求項1?12のいずれかに記載の化合物の製造方法。
【請求項14】
前記蛍光体は、Ce、Pr、Eu、Tb、及びMnから選ばれる少なくとも一つの元素を含む請求項13に記載の化合物の製造方法。
【請求項15】
反応雰囲気は、水素を用いる還元雰囲気である請求項14に記載の化合物の製造方法。
【請求項16】
前記蛍光体は、340nmを超え500nm以下の近紫外又は青色の波長領域に発光ピークを有する光で励起され、前記光のピーク波長よりも波長の長い可視光に変換する請求項13に記載の化合物の製造方法。
【請求項17】
請求項3に記載の製造方法によって得られる化合物を蛍光体母体とし、発光中心となりうる元素を含むことを特徴とする蛍光体。
【請求項18】
前記化合物は、アルカリ土類金属を主たる構成成分として含み、
前記発光中心としてEu^(2+)イオン又はCe^(3+)イオンを含む請求項17に記載の蛍光体。
【請求項19】
請求項17または18のいずれかに記載の蛍光体を発光源として用いたことを特徴とする発光装置。」を
「【請求項2】
前記窒化性ガスは、窒素ガス及びアンモニアガスから選ばれる少なくとも一つのガスである請求項1に記載の化合物の製造方法。
【請求項3】
前記炭素の性状は、固体炭素、無定形炭素、及び浸炭性ガスのいずれかである請求項2に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項4】
前記アルカリ土類金属化合物は、アルカリ土類金属の炭酸塩、蓚酸塩、酸化物、及び水酸化物から選ばれる少なくとも一つのアルカリ土類金属化合物である請求項1に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項5】
前記窒化性ガス雰囲気中における焼成原料と炭素との反応は、加熱により行われる請求項1に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項6】
反応温度は、1400℃以上2000℃以下である請求項5に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項7】
反応雰囲気は、水素を用いる還元雰囲気である請求項5に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項8】
前記蛍光体は、340nmを超え500nm以下の近紫外又は青色の波長領域に発光ピークを有する光で励起され、前記光のピーク波長よりも波長の長い可視光に変換する請求項1に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項9】
請求項1に記載の製造方法によって得られ、前記ニトリドシリケート化合物を蛍光体母体とし、発光中心としてEu^(2+)イオン又はCe^(3+)イオンを含むことを特徴とする蛍光体。
【請求項10】
請求項9に記載の蛍光体を発光源として用いたことを特徴とする発光装置。」にするものである。

(2)訂正事項2
特許第4659741号の明細書の「【0013】
本発明は、窒化性ガス雰囲気中における炭素との反応によって焼成原料を還元及び窒化する、還元窒化反応法による化合物の製造方法であり、前記化合物は、ニトリドシリケート系化合物であり、前記ニトリドシリケート系化合物は、少なくとも、アルカリ土類金属元素又は希土類元素と、珪素と、窒素とを主要構成元素として含み、かつ、一般式M’_(p/2)Si_(12-p-q)Al_(p+q)O_(q)N_(16-q)(但し、M’はCa単独又はSrと組み合わせたCa、qは0?2.5、pは1.5?3)で表されるサイアロンを除く化合物であることを特徴とする化合物の製造方法である。」を
「【0013】
本発明は、窒化性ガス雰囲気中における炭素との反応によって焼成原料を還元及び窒化する、還元窒化反応法による蛍光体の製造方法であり、前記焼成原料は、加熱によってアルカリ土類金属酸化物MO(但し、Mは、Mg、Ca、Sr、及びBaから選ばれる少なくとも一つの元素、Oは、酸素元素)を生成しうるアルカリ土類金属化合物と、珪素化合物と、Eu又はCeを含む化合物と、必要に応じてアルミニウム化合物とを含み、前記焼成原料の還元及び窒化は、アルカリ土類金属化合物が含有する酸素成分を炭素によって除去し、さらに窒化性ガスとの反応によって窒化しながら珪素化合物と反応させるものであり、前記珪素化合物は、窒化珪素であり、前記蛍光体は、ニトリドシリケート系化合物1モル当たり、アルカリ土類金属の原子数よりも酸素の原子数が少ないニトリドシリケート系化合物である高窒化性のニトリドシリケート系化合物に、発光中心としてEu^(2+)イオン又はCe^(3+)イオンを含むものであり、前記ニトリドシリケート系化合物は、M_(2)Si_(5)N_(8)、MSi_(7)N_(10)、M_(2)Si_(4)AlON_(7)、MSiN_(2)、及びCaAlSiN_(3)(M、Oは前記と同じ)中から選ばれる少なくとも一つであることを特徴とする蛍光体の製造方法である。」にするものである。

(3)訂正事項3
特許第4659741号の明細書の「【0097】
(実施例2)
以下、本発明にかかるニトリドシリケート系化合物の製造方法の実施例2として、Eu_(2)Si_(5)N_(8)化合物の製造方法を説明する。」を
「【0097】
(実施例2)(参考例)
以下、本発明にかかるニトリドシリケート系化合物の製造方法の実施例2として、Eu_(2)Si_(5)N_(8)化合物の製造方法を説明する。」にするものである。

(IV-3)訂正の適否
(1)訂正事項1について
前記ア)ないしエ)は、特許第4659741号の特許請求の範囲の請求項1の「焼成原料」、「化合物」、「ニトリドシリケート系化合物」及び「焼成原料を還元及び窒化する」ことのそれぞれを具体的内容に限定するものであることから、特許請求の範囲の減縮を目的にするものであり、前記オ)は、同請求項1の訂正との整合を図るために訂正するものであり、明りょうでない記載の釈明を目的にするものである。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、特許第4659741号の特許請求の範囲の請求項1の訂正との整合を図るために訂正するものであり、明りょうでない記載の釈明を目的にするものである。

(3)訂正事項3について
訂正事項3は、特許第4659741号の特許請求の範囲の請求項1の訂正との整合を図るために訂正するものであり、明りょうでない記載の釈明を目的にするものである。

(4)まとめ
上記より、上記訂正事項1ないし3は、特許請求の範囲の減縮、明りょうでない記載の釈明を目的とし、いずれも、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載されている事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
よって、本件訂正は、平成23年法律第63号改正附則第2条第18項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第134条の2第1項ただし書き、及び同条第5項において準用する同法第126条第3項、4項の規定に適合するので適法な訂正と認める。

V.本件特許発明
上記「IV.訂正について」において、本件訂正を適法な訂正と認めたので、本件特許の請求項1ないし10に係る発明(以下、「本件特許発明1ないし10」という。)は、平成25年4月11付け訂正請求書に添付された特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
窒化性ガス雰囲気中における炭素との反応によって焼成原料を還元及び窒化する、還元窒化反応法による蛍光体の製造方法であり、
前記焼成原料は、加熱によってアルカリ土類金属酸化物MO(但し、Mは、Mg、Ca、Sr、及びBaから選ばれる少なくとも一つの元素、Oは、酸素元素)を生成しうるアルカリ土類金属化合物と、珪素化合物と、Eu又はCeを含む化合物と、必要に応じてアルミニウム化合物とを含み、
前記焼成原料の還元及び窒化は、アルカリ土類金属化合物が含有する酸素成分を炭素によって除去し、さらに窒化性ガスとの反応によって窒化しながら珪素化合物と反応させるものであり、
前記珪素化合物は、窒化珪素であり、
前記蛍光体は、ニトリドシリケート系化合物1モル当たり、アルカリ土類金属の原子数よりも酸素の原子数が少ないニトリドシリケート系化合物である高窒化性のニトリドシリケート系化合物に、発光中心としてEu^(2+)イオン又はCe^(3+)イオンを含むものであり、
前記ニトリドシリケート系化合物は、M_(2)Si_(5)N_(8)、MSi_(7)N_(10)、M_(2)Si_(4)AlON_(7)、MSiN_(2)、及びCaAlSiN_(3)(M、Oは前記と同じ)中から選ばれる少なくとも一つであることを特徴とする蛍光体の製造方法。
【請求項2】
前記窒化性ガスは、窒素ガス及びアンモニアガスから選ばれる少なくとも一つのガスである請求項1に記載の化合物の製造方法。
【請求項3】
前記炭素の性状は、固体炭素、無定形炭素、及び浸炭性ガスのいずれかである請求項2に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項4】
前記アルカリ土類金属化合物は、アルカリ土類金属の炭酸塩、蓚酸塩、酸化物、及び水酸化物から選ばれる少なくとも一つのアルカリ土類金属化合物である請求項1に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項5】
前記窒化性ガス雰囲気中における焼成原料と炭素との反応は、加熱により行われる請求項1に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項6】
反応温度は、1400℃以上2000℃以下である請求項5に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項7】
反応雰囲気は、水素を用いる還元雰囲気である請求項5に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項8】
前記蛍光体は、340nmを超え500nm以下の近紫外又は青色の波長領域に発光ピークを有する光で励起され、前記光のピーク波長よりも波長の長い可視光に変換する請求項1に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項9】
請求項1に記載の製造方法によって得られ、前記ニトリドシリケート化合物を蛍光体母体とし、発光中心としてEu^(2+)イオン又はCe^(3+)イオンを含むことを特徴とする蛍光体。
【請求項10】
請求項9に記載の蛍光体を発光源として用いたことを特徴とする発光装置。」

VI.証拠方法(甲第1ないし7号証)について
(VI-1)甲第1号証
甲第1号証には、以下の記載がある。
(1-1)特許請求の範囲の請求項2
「2)一般式M_(X)(Si、Al)_(12)(O、N)_(16)(ただし、MはLi、Mg、Ca、Mn、Y及びランタニド金属から選ばれた1種または2種以上、0<X≦2を表わす)
で示されるα-サイアロンの製造に際し、酸化けい素または加熱により酸化けい素を生成するけい素化合物、酸化アルミニウムまたは加熱により酸化アルミニウムを生成するアルミニウム化合物、カーボン及び前記M金属酸化物または加熱によりM金属酸化物を生成するM化合物からなる組成割合混合物を、窒素気流中で1400?1700℃で加熱することを特徴とするα-サイアロン質粉末の製造法。」

(1-2)公報第2頁左上欄第11?15行
「α-サイアロンの焼結体は高温に耐え、強度や硬度が大きくかつ耐食耐摩耗性が優れており、切削工具、線引きダイス、メカニカルシール等の耐熱性と耐摩耗性の要求される機械部品への応用が期待されるセラミツクスである。」

(1-3)公報第2頁右下欄第2?7行
「(1)シリカ、アルミナ、カーボンとLi、Mg、Ca、Mn、Y及びランタニド金属(以下M金属と言う)の酸化物、あるいは加熱によってM金属酸化物を生成する化合物例えば炭酸塩、水酸塩、しゆう酸塩の単独または混合物を機械的に混合する方法。」

(1-4)公報第3頁左下欄第3?4行
「カーボン粉末は、シリカとアルミナを還元・窒化するために必要である。」

(1-5)公報第5頁左下欄第1?7行
「発明の効果
本発明は従来得られなかったα-サイアロン質粉末を提供し得、この粉末により射出成形やスリツプキャステイング等により成形品が容易に得られる。従って、粉末を原料として得た焼結体は組織が均一で高強度のものとなし得る優れた効果を奏し得られる。」

上記(1-1)ないし(1-5)の記載事項より、甲第1号証には、
「窒素気流中(窒化性ガス雰囲気中)における炭素との反応によって焼結(焼成)原料を還元及び窒化する『切削工具、線引きダイス、メカニカルシール等の機械部品』の製造方法であり、
焼結原料は、加熱によってアルカリ土類金属Mの酸化物を生成しうるアルカリ土類金属化合物と、珪素化合物と、ランタニド金属化合物と、アルミニウム化合物とを含み、
焼結原料の還元及び窒化は、アルカリ土類金属化合物が含有する酸素成分を炭素によって除去し、さらに窒化性ガスとの反応によって窒化しながら珪素化合物と反応させるものであり、
珪素化合物は、窒化珪素であり、
『切削工具、線引きダイス、メカニカルシール等の機械部品』は、M_(X)(Si、Al)_(12)(O、N)_(16)(ただし、MはMg、Ca及びランタニド金属から選ばれた1種または2種以上、0<X≦2を表わす)である『切削工具、線引きダイス、メカニカルシール等の機械部品』の製造方法。」の発明(以下、「甲第1号証記載の発明」という。)が記載されているものと認める。

(VI-2)甲第2号証
甲第2号証には、以下の記載(請求人提出の訳文)がある。
(2-1)第19頁左欄第1?4行
「新規で興味深い、Ce、TbまたはEuでドープしたα-サイアロン蛍光材料(MSi_(12-(m+n))Al_((m+n))O_(n)N_((16-n))(M=Ca、Y)が調整され、その蛍光特性が研究された。」

(2-2)第19頁左欄第28?29行
「Fキーワード:テルビウム;ユーロピウム;セリウム;発光;オキシニトライド,サイアロン。」

(2-3)第19頁左欄下から第6行?同第2行
「M-αサイアロン(M^(val+)_((M/val+))Si_(12-(m+n))O_(n)N_((16-n)),valは金属イオンの価数)はα-窒化けい素から導かれる。MはLi,Ca^(2+),Y^(3+)(1)または希土類元素イオン(2)である。」

(2-4)第19頁右欄第6?8行
「希土類元素イオンは効率的な発光を与えることが知られており、例えば希土類元素をドープした蛍光体は蛍光ランプや陰極線管(6-7)に応用されている。」

(2-5)第20頁右欄第26?43行
「(Y_(0.9)Ce_(0.1))-α-サイアロン粉末とを、m=1.5、n=1.5の組成になるように秤量した。(Ca_(0.98)Ce_(0.02)-α-サイアロン粉末としては、m=0.5-3およびn=0-2.5と成る複数の組成のものが選択された。出発材料粉末は、α-窒化けい素(スターク社LC12),γ-アルミナ(AKPGおよび住友社製),窒化アルミニウム(スクーク社製、グレードC),酸化イットリウム(レーネポーレンク社製、純度99.999%),炭酸カルシウム(メルク社製),窒化カルシウム(ジョンソンマッテイ有限会社製、純度98%),酸化テルビウム(フィリップス社製、純度99.999%),酸化セリウム(レーネポーレンク社製、純度99.99%)および酸化ユーロピウム(レーネポーレンク社製、純度99.99%)とした。これらの原材料は化学量論的に秤量された後に、イソプロパノール中に懸濁され、さらに窒化けい素ボールを使用したローラーペンチ48時間混合された。得られた混合体は、モリブデン製の坩堝の中で乾燥され、さらに5‰の水素ガスと95%の窒素ガスとから成る雰囲気中で温度1700℃で2時間焼成され、さらに毎分3゜Cの速度で冷却された。この焼結完了後において、得られた複数の試料サンプルは粉砕されて微細な粉末が得られた。そして、参照部(25)で述べているような、緻密で透明な(Ca_(0.3125)Ce_(0.209))-α-サイアロン(m=1.25,n=1.15)セラミックスが調製された。」

(2-6)第21頁第2図の説明
「図2(a)はY_(0.5)Si_(9)Al_(3)O_(1.5)N_(14.5)およびY_(0.45)Tb_(0.05)Si_(9)Al_(3)O_(1.5)N_(14.5)の反射スペクトルを示す。」

(2-7)第21頁表1の説明
「表1はドープ剤を含有しないα-サイアロン試料および希土類元素をドープしたα-サイアロン試料の色,吸収端波長,254nm/365nmの照射光による発光色、励起最大波長(nm)、最大発光波長(nm)およびストークシフト(cm^(-1))を示し、表1には、Ca_(0.3125)Ce_(0.209)セラミックス(が例示されている)。」

(2-8)第22頁図3の説明
「図3はCa_(0.3125)Ce_(0.209)Si_(9.6)Al_(2.4)O_(1.15)N_(14.85)の励起スペクトルおよび発光スペクトルを示す。」

(2-9)第22頁左欄第3?6行
「このことから我々は、Ce(セリウム)はわずかにY-α-サイアロンマトリックス中に取り込まれていると結論付ける。このことは文献データ(21-23)と一致する。」

(2-10)第22頁左欄第8?12行
「したがって、我々はCa_(0.3125)Ce_(0.209)-α-サイアロン試料について(検討を)続けた。Ca_(0.3125)Ce_(0.209)-α-サイアロン試料は黄色発光であり、紫外光の照射により輝度が高い緑一黄色発光を示す(図3および表1)。」

上記(2-1)ないし(2-10)の記載事項より、甲第2号証には、
「Ce、TbまたはEuでドープしたα-サイアロン蛍光体(MSi_(12-(m+n))Al_((m+n))O_(n)N_((16-n))(M=Ca、Y)の製造方法であって、
例えば、95%の窒素ガスと5%の水素ガスとからなる雰囲気中(窒化性ガス雰囲気中)で焼成される焼成原料は、カルシウム化合物と、珪素化合物と、Eu又はCeを含む化合物と、アルミニウム化合物とを含み、
珪素化合物は、窒化珪素であり、
蛍光体は、Ca_(0.3125)Ce_(0.209)Si_(9.6)Al_(2.4)O_(1.15)N_(14.85)である(アルカリ土類金属の原子数よりも酸素の原子数が多い)蛍光体の製造方法。」の発明(以下、「甲第2号証記載の発明」という。)が記載されているものと認める。

(VI-3)甲第3号証
甲第3号証には、以下の記載(請求人提出の訳文)がある。
(3-1)第1229頁左欄第1?6行
「希土類元素をドープしたオキシニトライドまたはニトライド化合物が発光体となることが報告されている。これらの発光体は熱的安定性および化学的安定性が良好な蛍光体として使用される可能性かある。この報文においては、我々はユーロピウム、テルビウムまたはプラセオジムをドープしたCa-α-サイアロンセラミックスの発光(PL:フォトルミネッセンス)スペクトルを報告する。」

(3-2)第1229頁右欄第11?14行
「近年になって、莫大な工業的利用を伴うプラズマ発光型や電界放出型の表示装置の発展は、より高度に改善された熱的または化学的な安定性および工業的な処理加工性を備えた材料の需要を増加させている。」

(3-3)第1229頁右欄第20?24行
「近年、希土類元素(RE)イオンを含有し、フッ素、塩素、臭素よりも窒素で調整された発光材料が報告されている。(その発光材料の)例としては、セリウム(Ce^(3+))をドープしたY-Si-O-N化合物、ユーロピウム(Eu^(3+))をドープしたランタンニトリドシリケート(LaSi_(3)N_(5))、ユーロピウム(Eu^(3+))をドープしたバリウムニトリドシリケート(Ba_(2)Si_(5)N_(8))、Zr-Eu/Ce-O-Nセラミックスがある。」

(3-4)第1229頁右欄第33?40行
「α-サイアロン結晶構造は、α一窒化けい素(Si_(3)N_(4))から得られ、具体的にはSi^(4+)のAl^(+3)による部分的な置換により得られ、[Si,Al]-[O,N]の結晶格子間の隙間に、リチウム、カルシウム、イッテルビウム、希土類金属(RE meta1s)等の変性陽イオン元素を捕捉することにより安定化される。この(α-サイアロン)の全体組成は下記(1)式で与えられる。
Me^(p+)_(X)Si_(12-(m+n))Al_((m+n))O_(n)N_(16-n) (1)

(3-5)第1230頁左欄第28?38行
「出発材料としては、窒化けい素(Si_(3)N_(4))(宇部興産製UBE10;日本国山口県)、窒化アルミニウム(AlN)(徳山曹達社製タイプF;日本国山口県)、炭酸カルシウム(CaCO_(3))(高純度化学研究所製;日本国坂戸)、希土類酸化物(R_(2)O_(3))(Rは、Eu,Tb,Pr;純度99.9 %、昭和化学社製;目本国東京)が使用された。各粉末混合体は、20gずつ回分操作において、窒化けい素製の粉砕媒体を使用して無水ヘキサン中で2時間のボールミル処理を行った。乾燥後に、密度が緩い各粉末混合体は、ボロンナイトライド(BN)でコーティングされたグラファイト(黒鉛)成形型に充填されて、1気圧(atm)の窒素(N_(2))ガス雰囲気中で温度1750℃で1時間のホットプレス処理がなされた。ホットプレス処理中には緻密化を促進するために一定の加圧力(20MPa)を作用させた。」

(3-6)第1232頁左欄
「図4(a)はユーロピウム濃度を関数として表した、Ca/Euをドープしたα-サイアロンセラミックスの発光励起スペクトルであり、図4(a)は同セラミックスの発光スペクトルである。」

上記(3-1)ないし(3-6)の記載事項より甲第3号証には、
「窒素ガス雰囲気中(窒化性ガス雰囲気中)における『ボロンナイトライド(BN)でコーティングされたグラファイト(黒鉛)成形型』に充填された原料をホットプレス処理する蛍光体の製造方法であり、
原料は、アルカリ土類金属化合物と、珪素化合物と、Euを含む化合物と、アルミニウム化合物とを含み、
珪素化合物は、窒化珪素であり、
蛍光体は、Me^(p+)_(X)Si_(12-(m+n))Al_((m+n))O_(n)N_(16-n)である蛍光体の製造方法。」の発明(以下、「甲第3号証記載の発明」という。)が記載されていると認める。

(VI-4)甲第4号証
甲第4号証には、以下の記載がある。
(4-1)「【0009】
詳細には、黄色から赤色を放射する蛍光体を用いる新しい光源は、ニトリドシリケートタイプM_(X)Si_(Y)N_(Z):Eu[ここで、MはCa、Sr、Baの群から選択される少なくとも1つのアルカリ土類金属でありかつz=2/3x+4/3yである]のホスト格子を使用する。窒素の組み込みは、共有結合及び配位子場分裂の割合を増大させる。結果として、これは酸化物格子と比較してより長波長に励起及び放射バンドの著しいシフトをもたらす。」

(4-2)「【0015】
詳細な実施態様
Eu_(2)O_(3)(純度99.99%を有する)、又はEu金属(99.99%)、Ba金属(>99%);Sr金属(99%)、Ca_(3)N_(2)(98%)又はCa粉末(99.5%)及びSi_(3)N_(4)(99.9%)を、商業的に入手可能な出発材料として使用した。Ba及びSrを、窒素雰囲気下での550及び800℃での焼成により窒化した。その後、Ca_(3)N_(2)又は窒化されたBa、Ca又はSrを、乳鉢中で粉砕し、かつ窒素雰囲気下にSi_(3)N_(4)と化学量論的に混合した。Eu-濃度は、アルカリ土類金属イオンに対して10原子%であった。粉末にした混合物を、窒素/水素雰囲気下で水平管炉中で約1300?1400℃でモリブデンるつぼ中で焼成した。焼成後、粉末を、粉末X線回折(Cu、Kα-線)によって特性決定し、これは全ての化合物が形成されたことを示した。
【0016】
ドープされていないBa_(2)Si_(5)N_(8)、Ca_(2)Si_(5)N_(8)及びBaSi_(7)N_(10)は、灰色がかった白色粉末である。これらのドープされていない、希土類で活性化された窒化ケイ素は、可視範囲(400?650nm)における高い反射及び250?300nmの間の反射の強い低下を示している(図1及び2)。反射率の低下はホスト-格子吸収に起因している。Euでドープされた試料は、オレンジ-黄色であるBaSi_(7)N_(10):Euを除いて、オレンジ-赤色である(第1表)。強い着色は、Eu^(2+)でドープされ、希土類で活性化された窒化ケイ素に特有のものであり、かつこれらの材料を興味深いオレンジ-赤色の蛍光体にする。Ba_(2)Si_(5)N_(8):Euの反射スペクトルの典型的な例は、Euのために吸収がホスト-格子吸収に重ね合わされ、かつ500?550nmまで広がることを示している(図1)。これは、これらの化合物の赤-オレンジ色を説明する。類似した反射スペクトルは、Sr_(2)Si_(5)N_(8):Eu及びCa_(2)Si_(5)N_(8):Euに観察された。
【0017】
BaSi_(7)N_(10):Euでは、Euの吸収は可視部分(図2)をそれほど離れておらず、これはこの化合物のオレンジ-黄色を説明する。」

(4-3)「【0026】
窒化物合成のためには、出発材料はSi_(3)N_(4)(99.9%(主にα-相)、Alfa Aesar)、Sr金属(樹枝状片99.9%、Alfa Aesar)及びEu_(2)O_(3)(4N)である。Sr金属は窒化されなければならず、かつEu_(2)O_(3)の代わりにEu金属を使用する場合には、これも窒化されなければならない。
【0027】
Sr金属を、アルゴングローブボックス中で、アガース(agath)乳鉢中で手で粉砕しかつN_(2)下に800℃で窒化する。これは、80%を上回る窒化をもたらす。
【0028】
再び粉砕した後に、Si_(3)N_(4)及びEu_(2)O_(3)と共に、窒化された金属を粉砕し、かつグローブボックス中で再び手で混合する。この混合物の加熱は、典型的には以下のパラメータを有する:
800℃まで18℃/分、
800℃で5時間
Tend(1300?1575℃)まで18℃/分
Tend(1300?1575℃)で5時間
H_(2)(3.75%)/N_(2) 400l/h
Ca_(2)Si_(5)N_(8):Eu^(2+)試料を、出発材料としてCa_(3)N_(2)で製造した。
【0029】
全ての試料の概要は、第1表に与えられている。典型的には、試料をまず最初に800℃で加熱し、ついで、これらを高められた温度で(1300?1600℃)、同じサイクルで二回加熱した。ついで試料を粉砕し(空気下でのミル)、ふるいにかけかつ測定した。」

上記(4-1)ないし(4-3)の記載事項より、甲第4号証には、
「窒素/水素(【0028】では3.75%)雰囲気(窒化性ガス雰囲気中において焼成原料を窒化する蛍光体の製造方法であり、
焼成原料は、アルカリ土類金属M(Ca、Sr、Ba)の窒化物(アルカリ土類金属化合物)と、珪素化合物と、Euを含む化合物(Eu_(2)O_(3))とを含み、
珪素化合物は、窒化珪素であり、
蛍光体は、例えばM_(2)Si_(5)N_(8):Eu、MSi_(7)N_(10):Euである(アルカリ土類金属の原子数よりも酸素の原子数が少ない)蛍光体の製造方法。」の発明(以下、「甲第4号証記載の発明」という。)が記載されているものと認める。

(VI-5)甲第5号証
甲第5号証には、以下の記載(請求人提出の訳文)がある。
(5-1)第289頁右欄第35?38行
「今まで得られた最も高度に凝結した3元系(3成分)のニトリドシリケートであるBaSi_(7)N_(10)においては、我々は角(頂点)共有と端部共有の双方によって接続されたSiN_(4)四面体構造を特定(同定)した(図3)。」

(5-2)第291頁左欄第7?10行
「ルツボ材料(例えば、タングステン、タンタル、グラファイト(黒鉛))の選択に際しては、高温下における化学的不活性および電子伝導性(導電性)等の特性を考慮した。」

(5-3)第291頁左欄第16?18行
「共鳴周波数の最適化された調整により、タングステン製ルツボでは2350℃の最高温度が得られ、グラファイトルツボでは3000℃を超える最高温度が得られた。」

(5-4)第291頁左欄第23?26行
「石英反応器は真空引き配管および不活性ガス(Ar,N_(2))供給配管に接続されている。このような段取りにより、早い加熱速度(500℃min^(-1))および反応生成物の急冷か可能になる。」

(5-5)第291頁右欄第1?15行
「2.2ニトリドシリケートおよびオキソニトリドシリケートの合成
新規な合成の取り組みとして、二元系(2成分系)の窒素化合物の使用をやめて、その代りに純粋な金属とシリコンジイミド[Si(NH)_(2)]とを処理することにより、[下記(1)式および(2)式]に示すような複数のニトリドシリケートの合成に成功することが実証された。
反応式(1)には金属M(Ca、Sr、Ba、Eu)とシリコンジイミド[Si(NH)_(2)]とを高周波加熱炉(rf furnace)で温度1500-1650℃に加熱することにより、金属Mを含むニトリドシリケート(M_(2)Si_(5)N_(8))が生成すると共に、窒素ガス(N_(2))ガスおよび水素(H_(2))ガスが副成することが記載されている。
一方、反応式(2)には金属M’(Ce、Pr)とシリコンジイミド[Si(NH)_(2)]とを高周波加熱炉(rf furnace)で温度1650℃に加熱することにより、金属M’を含むニトリドシリケート(M’_(3)Si_(6)N_(11))が生成すると共に、窒素ガス(N_(2))ガスおよび水素(H_(2))ガスが副成することが記載されている。」

(5-6)第292頁右欄第16?19行
「その特殊な熱的挙動により炭酸ストロンチウム(SrCO_(3))は、オキソニトリドシリケートの合成のために有用な出発材料である。各アルミノシリケートに対して、我々は付加的に窒化アルミニウム(AIN)を使用した。」

(5-7)第292頁右欄第22?24行
「2.3ストロンチウム含有サイアロン(SrSiAl_(2)O_(3)N_(2))およびストロンチウムエルビウム含有サイアロン(SrErSiAl_(3)O_(3)N_(4))の合成と分析
双方のサイアロンは炭酸ストロンチウム(SrCO_(3);メルク社製)と、シリコンジイミド(Si(NH)_(2))(上記参照)と、窒化アルミニウム(AlN)との高温度反応によって得られた。」

(5-8)上記(5-5)より、甲第5号証には、「原料としてのM(Ca、Sr、Ba、Eu)を還元することなくニトリドシリケート(M_(2)Si_(5)N_(8))を生成する反応式(1)及び同M’(Ce、Pr)を還元することなくニトリドシリケート(M’_(3)Si_(6)N_(11))を生成する反応式(2)」が記載されているということができる。

上記(5-1)乃至(5-7)の記載及び(5-8)の検討事項より、甲第5号証には、
「原料としてのM(Ca、Sr、Ba、Eu)を還元することなく高温加熱して生成されるニトリドシリケート(M_(2)Si_(5)N_(8))、炭酸ストロンチウム(SrCO_(3))を出発原料(の一つ)として生成されるオキソニトリドシリケート、炭酸ストロンチウム(SrCO_(3))とシリコンジイミド(Si(NH)_(2))と窒化アルミニウム(AlN)を原料として高温度反応により生成されるSrSiAl_(2)O_(3)N_(2)又はSrErSiAl_(3)O_(3)N_(4)の製造方法。」の発明(以下、「甲第5号証記載の発明」という。)が記載されているものと認める。

(VI-6)甲第6号証
甲第6号証には、以下の記載がある。
(6-1)「【請求項1】 一般式:Me_(x)Si_(12-(m+n))Al_((m+n))O_(n)N_(16-n):Re1_(y)Re2_(y)で示され、アルファサイアロンに固溶する金属Me(Meは、Ca、Mg、Y、又はLaとCeを除くランタニド金属の一種若しくは二種以上)の一部若しくは全てが、発光の中心となるランタニド金属Re1(Re1は、Ce、Pr、Eu、Tb、Yb、又はErの一種若しくは二種以上)又は二種類のランタニド金属Re1及び共付活剤としてのRe2(Re2はDy)で置換された蛍光体であることを特徴とする希土類元素を付活させた酸窒化物蛍光体。」

(6-2)「【0031】
【実施例】希土類元素を付活させた酸窒化物蛍光体を、ホットプレス装置を用い、20MPaの加圧下、1700℃、1atmの窒素雰囲気中で1時間反応させて、以下に示す八つの原料粉末を作製した。この原料の出発原料として用いた化学試薬のモル比も以下の通りとした。
○の1Ca-アルファサイアロン(Ca_(0.75)Si_(9.75)Al_(2.25)N_(15.25)O_(0.75))
窒化ケイ素(Si_(3)N_(4)):窒化アルミニウム(AlN):酸化カルシウム(CaO)=13:9:3
○の2Eu-アルファサイアロン(Eu_(0.5)Si_(9.75)Al_(2.25)N_(15.25)O_(0.75))
窒化ケイ素(Si_(3)N_(4)):窒化アルミニウム(AlN):酸化ユーロピウム(Eu_(2)O_(3))=13:9:1
・・・(中略)・・・
(実施例1)Eu^(2+)イオンの付活量を変化させたCa-アルファサイアロン蛍光体を、上記及びの原料粉末を用いて七種類作製した。作製条件は、原料粉末を以下のモル比に混合し、ホットプレス装置を用い、20MPaの加圧下、1700℃、1atmの窒素雰囲気中で1時間反応させた。
[1] Ca(0%Eu)-アルファサイアロン蛍光体(Ca_(0.75)Si_(9.75)Al_(2.25)N_(15.25)O_(0.75))
○の1Ca-アルファサイアロンのみを原料とした。
[2] Ca(5%Eu)-アルファサイアロン蛍光体(Ca_(0.71)Eu_(0.025)Si_(9.75)Al_(2.25)N_(15.25)O_(0.75))
○の1Ca-アルファサイアロン: ○の2Eu-アルファサイアロン=95:5
[3] Ca(10%Eu)-アルファサイアロン蛍光体(Ca_(0.68)Eu_(0.05)Si_(9.75)Al_(2.25)N_(15.25)O_(0.75))
○の1Ca-アルファサイアロン:○の2 Eu-アルファサイアロン=90:10
[4] Ca(20%Eu)-アルファサイアロン蛍光体(Ca_(0.60)Eu_(0.10)Si_(9.75)Al_(2.25)N_(15.25)O_(0.75))
○の1Ca-アルファサイアロン:○の2 Eu-アルファサイアロン=80:20
[5] Ca(30%Eu)-アルファサイアロン蛍光体(Ca_(0.53)Eu_(0.15)Si_(9.75)Al_(2.25)N_(15.25)O_(0.75))
○の1Ca-アルファサイアロン:○の2 Eu-アルファサイアロン=70:30
[6] Ca(50%Eu)-アルファサイアロン蛍光体(Ca_(0.38)Eu_(0.25)Si_(9.75)Al_(2.25)N_(15.25)O_(0.75))
○の1Ca-アルファサイアロン:○の2 Eu-アルファサイアロン=50:50
[7] Ca(70%Eu)-アルファサイアロン蛍光体(Ca_(0.23)Eu_(0.35)Si_(9.75)Al_(2.25)N_(15.25)O_(0.75))
○の1Ca-アルファサイアロン:○の2 Eu-アルファサイアロン=30:70
図1は、これら[1]?[7]の蛍光体の赤色発光に関するスペクトルを示したチャートである。」(上記「○の数字」は、「丸数字」を意味する。)

(6-3)上記(6-2)より、甲第6号証には、「Caの原子数よりも酸素の原子数が多いCa(5、10、20、30、50、70%Eu)-アルファサイアロン蛍光体」が記載されているものと認める。

上記(6-1)(6-2)の記載事項及び上記(6-3)の検討事項より、甲第6号証には、
「窒素雰囲気中(窒化性ガス雰囲気中)においてホットプレス装置を用いて原料を処理する蛍光体の製造方法であり、
原料は、酸化カルシウムと、窒化ケイ素と、酸化ユーロピウムと、窒化アルミニウムとを含み、
蛍光体はCa_(0.75)Si_(9.75)Al_(2.25)N_(15.25)O_(0.75)、Ca_(0.71)Eu_(0.025)Si_(9.75)Al_(2.25)N_(15.25)O_(0.75)、Ca_(0.68)Eu_(0.05)Si_(9.75)Al_(2.25)N_(15.25)O_(0.75)、Ca_(0.60)Eu_(0.10)Si_(9.75)Al_(2.25)N_(15.25)O_(0.75)、Ca_(0.53)Eu_(0.15)Si_(9.75)Al_(2.25)N_(15.25)O_(0.75)、Ca_(0.38)Eu_(0.25)Si_(9.75)Al_(2.25)N_(15.25)O_(0.75)、Ca_(0.23)Eu_(0.35)Si_(9.75)Al_(2.25)N_(15.25)O_(0.75)である、Caの原子数よりも酸素の原子数が多い蛍光体の製造方法。」の発明(以下、「甲第6号証記載の発明」という。)が記載されているものと認める。

(VI-7)甲第7号証
甲第7号証には、以下の記載がある。
(7-1)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、蛍光体粉末などの高温加熱合成により製造される無機化合物粉末の製造方法に係り、特に製造設備の敷設平面積を狭くできる縦軸又は傾斜軸の管状炉心体で高温での処理温度の連続処理ができるようにした無機化合物粉末の製造方法に関する。」

(7-2)「【0027】本発明により得ることができる無機化合物粉末としては、セラミックス材料や蛍光体粉末として用いられる各種酸化物(MgAl_(2)O_(4)など)、窒化物(AlGaNやSiAlONなど)、ハロゲン化物(BaFClなど)、炭化物((Ta、Nb)Cなど)など、あらゆる無機化合物粉末がある。」

(7-3)「【0035】なお、炉本体内の加熱雰囲気は、前記大気、窒素、還元雰囲気、不活性ガス雰囲気、硫化ガス雰囲気、真空雰囲気、減圧雰囲気等の中から選ばれる。」

(7-4)「【0053】なお、省電力化を図るために、粉体の受入ホッパーへの投入、フィーダー室への粉体の移送、炉心管の内部における化合物原料の加熱処理、炉本体からの無機化合物粉末の切り出し作業などを全自動化することが好ましい。
【0054】上記キャリアは、最高炉室温度よりも融点が高い素材で構成することが好ましく、好ましくは炉心管と同等の素材で構成されるが、最低限、製造する無機化合物粉末よりも融点が高い素材で構成すればよい。すなわち、耐熱性が高く、流動性の良好なセラミックス、白金などの金属、カーボンなどでキャリアを構成する。」

(7-5)「【0082】
【発明の効果】以上説明したように、本発明の無機化合物粉末の製造方法によれば、化合物原料に流動性のよいキャリアを添加することにより、炉心管内で無機化合物が大きく燒結することを防止し、炉心管内で自重落下、転動等のキャリアの動きを利用して燒結した無機化合物を解砕または破砕するので、燒結して縦軸または傾斜軸の炉心管を詰まるらせるような流動性の悪い無機化合物、とりわけ蛍光体(特にアルミネート蛍光体)の粉末を炉心管で量産できる効果が得られる。」

上記(7-1)ないし(7-5)の記載事項より、甲第7号証には、
「窒素雰囲気中、還元雰囲気中においてキャリアとしてのカーボンを用いて原料を加熱する蛍光体(特にアルミネート蛍光体)の製造方法。」の発明(以下、「甲第7号証記載の発明」という。)が記載されているものと認める。

VII.無効理由についての判断
(VII-1)本件特許発明1について
(1-1)特許法第29条第1項第3号について
本件特許発明1(蛍光体の製造方法)は、「炭素との反応によって焼成原料を還元・・する」こと、「焼成原料の還元・・は、アルカリ土類金属化合物が含有する酸素成分を炭素によって除去」すること、「蛍光体は、ニトリドシリケート系化合物1モル当たり、アルカリ土類金属の原子数よりも酸素の原子数が少ないニトリドシリケート系化合物である高窒化性のニトリドシリケート系化合物に、発光中心としてEu^(2+)イオン又はCe^(3+)イオンを含む」こと、及び「ニトリドシリケート系化合物は、M_(2)Si_(5)N_(8)、MSi_(7)N_(10)、M_(2)Si_(4)AlON_(7)、MSiN_(2)、及びCaAlSiN_(3)(M、Oは前記と同じ)中から選ばれる少なくとも一つである」ことを発明特定事項にするものであり、これらの発明特定事項は「アルカリ土類金属化合物が含有する酸素成分を炭素によって除去(還元)してアルカリ土類金属の原子数よりも酸素の原子数を少なくした、M_(2)Si_(5)N_(8)、MSi_(7)N_(10)、M_(2)Si_(4)AlON_(7)、MSiN_(2)、及びCaAlSiN_(3)中から選ばれる少なくとも一つのニトリドシリケート系化合物に発光中心としてEu^(2+)イオン又はCe^(3+)イオンを含ませる」ことであるということができる。
ここで、上記「VI.」で示したように、
甲第1号証記載の発明は、「切削工具、線引きダイス、メカニカルシール等の機械部品」に関するものであって蛍光体そのものの技術に関するものでなく、さらに、炭素による酸素成分の除去(還元)を行うものであるとしても、M_(2)Si_(5)N_(8)、MSi_(7)N_(10)、M_(2)Si_(4)AlON_(7)、MSiN_(2)、又はCaAlSiN_(3)を生成するかどうかを明らかにするものでないことから、上記「アルカリ土類金属化合物が含有する酸素成分を炭素によって除去(還元)して・・M_(2)Si_(5)N_(8)、MSi_(7)N_(10)、M_(2)Si_(4)AlON_(7)、MSiN_(2)、及びCaAlSiN_(3)中から選ばれる少なくとも一つのニトリドシリケート系化合物に発光中心としてEu^(2+)イオン又はCe^(3+)イオンを含ませる」ものではなく、
甲第2号証記載の発明(蛍光体の製造方法)は、炭素による酸素成分の除去(還元)を行うものではなく、また、M_(2)Si_(5)N_(8)、MSi_(7)N_(10)、M_(2)Si_(4)AlON_(7)、MSiN_(2)、又はCaAlSiN_(3)を生成するかどうかを明らかにするものでないことから、上記「アルカリ土類金属化合物が含有する酸素成分を炭素によって除去(還元)して・・M_(2)Si_(5)N_(8)、MSi_(7)N_(10)、M_(2)Si_(4)AlON_(7)、MSiN_(2)、及びCaAlSiN_(3)中から選ばれる少なくとも一つのニトリドシリケート系化合物に発光中心としてEu^(2+)イオン又はCe^(3+)イオンを含ませる」ものではなく、
甲第3号証記載の発明(蛍光体の製造方法)は、BNコートグラファイト(黒鉛)成形型を用いて炭素による酸素成分の除去(還元)を行うものであるとしても、M_(2)Si_(5)N_(8)、MSi_(7)N_(10)、M_(2)Si_(4)AlON_(7)、MSiN_(2)、又はCaAlSiN_(3)を生成するかどうかを明らかにするものでなく、さらに、甲第3号証には、「ユーロピウム(Eu^(3+))をドープしたバリウムニトリドシリケート(Ba_(2)Si_(5)N_(8))。」(VI-3)(3-3)との記載があるものの、これの製造方法が不明であることから、上記「アルカリ土類金属化合物が含有する酸素成分を炭素によって除去(還元)して・・M_(2)Si_(5)N_(8)、MSi_(7)N_(10)、M_(2)Si_(4)AlON_(7)、MSiN_(2)、及びCaAlSiN_(3)中から選ばれる少なくとも一つのニトリドシリケート系化合物に発光中心としてEu^(2+)イオン又はCe^(3+)イオンを含ませる」ものではなく、
甲第4号証記載の発明(蛍光体の製造方法)は、アルカリ土類金属の原子数よりも酸素の原子数を少なくする(例えば、M_(2)Si_(5)N_(8)、MSi_(7)N_(10)を生成する)ものであるとしても、アルカリ土類金属化合物が窒化物であって、炭素による酸素成分の除去(還元)を行うものでないことから、上記「アルカリ土類金属化合物が含有する酸素成分を炭素によって除去(還元)して・・M_(2)Si_(5)N_(8)、MSi_(7)N_(10)、M_(2)Si_(4)AlON_(7)、MSiN_(2)、及びCaAlSiN_(3)中から選ばれる少なくとも一つのニトリドシリケート系化合物に発光中心としてEu^(2+)イオン又はCe^(3+)イオンを含ませる」ものではなく、
甲第5号証記載の発明は、蛍光体そのものの技術に関するものであるということができず、さらに、「原料としてのM(Ca、Sr、Ba、Eu)を還元することなく高温加熱して生成されるニトリドシリケート(M_(2)Si_(5)N_(8))、炭酸ストロンチウム(SrCO_(3))を出発原料(の一つ)として生成されるオキソニトリドシリケート、炭酸ストロンチウム(SrCO_(3))とシリコンジイミド(Si(NH)_(2))と窒化アルミニウム(AlN)を原料として高温度反応により生成されるSrSiAl_(2)O_(3)N_(2)又はSrErSiAl_(3)O_(3)N_(4)の製造方法。」であることから、上記「アルカリ土類金属化合物が含有する酸素成分を炭素によって除去(還元)して・・M_(2)Si_(5)N_(8)、MSi_(7)N_(10)、M_(2)Si_(4)AlON_(7)、MSiN_(2)、及びCaAlSiN_(3)中から選ばれる少なくとも一つのニトリドシリケート系化合物に発光中心としてEu^(2+)イオン又はCe^(3+)イオンを含ませる」ものではない。
つまり、甲第1ないし5号証は、「アルカリ土類金属化合物が含有する酸素成分を炭素によって除去(還元)してアルカリ土類金属の原子数よりも酸素の原子数を少なくした、M_(2)Si_(5)N_(8)、MSi_(7)N_(10)、M_(2)Si_(4)AlON_(7)、MSiN_(2)、及びCaAlSiN_(3)中から選ばれる少なくとも一つのニトリドシリケート系化合物に発光中心としてEu^(2+)イオン又はCe^(3+)イオンを含ませる」ものではない。
したがって、本件特許発明1は、甲1ないし5号証に記載された発明であるとはいえない。

(1-2)特許法第29条第2項について
上記(VII-1)(1-1)で示したように、本件特許発明1は、「アルカリ土類金属化合物が含有する酸素成分を炭素によって除去(還元)して・・M_(2)Si_(5)N_(8)、MSi_(7)N_(10)、M_(2)Si_(4)AlON_(7)、MSiN_(2)、及びCaAlSiN_(3)中から選ばれる少なくとも一つのニトリドシリケート系化合物に発光中心としてEu^(2+)イオン又はCe^(3+)イオンを含ませる」ものであり、一方、甲第1ないし5号証記載の発明は、「アルカリ土類金属化合物が含有する酸素成分を炭素によって除去(還元)して・・M_(2)Si_(5)N_(8)、MSi_(7)N_(10)、M_(2)Si_(4)AlON_(7)、MSiN_(2)、及びCaAlSiN_(3)中から選ばれる少なくとも一つのニトリドシリケート系化合物に発光中心としてEu^(2+)イオン又はCe^(3+)イオンを含ませる」ものではなく、また、これが従来周知の技術であるということもできず、さらに、「アルカリ土類金属化合物が含有する酸素成分を炭素によって除去(還元)」することと「M_(2)Si_(5)N_(8)、MSi_(7)N_(10)、M_(2)Si_(4)AlON_(7)、MSiN_(2)、及びCaAlSiN_(3)中から選ばれる少なくとも一つのニトリドシリケート系化合物に発光中心としてEu^(2+)イオン又はCe^(3+)イオンを含ませる」ことを組み合わせる動機付けが甲第1ないし5号証に示されているとはいえないことから、本件特許発明1は、甲第1ないし5号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
そして、上記「VI.」で示したように、
甲第6号証記載の発明(蛍光体の製造方法)は、炭素による酸素成分の除去(還元)を行うものであるとしても、アルカリ土類金属の原子数よりも酸素の原子数を多くするものであり、さらに、甲第6号証には、「【請求項1】 一般式:Me_(x)Si_(12-(m+n))Al_((m+n))O_(n)N_(16-n):Re1_(y)Re2_(y)で示され、アルファサイアロンに固溶する金属Me(Meは、Ca、Mg、Y、又はLaとCeを除くランタニド金属の一種若しくは二種以上)の一部若しくは全てが、発光の中心となるランタニド金属Re1(Re1は、Ce、Pr、Eu、Tb、Yb、又はErの一種若しくは二種以上)又は二種類のランタニド金属Re1及び共付活剤としてのRe2(Re2はDy)で置換された蛍光体である」(VI-6)(6-1)との記載があるものの、M_(2)Si_(5)N_(8)、MSi_(7)N_(10)、M_(2)Si_(4)AlON_(7)、MSiN_(2)、又はCaAlSiN_(3)を生成するかどうかを明らかにするものでないことから、上記「アルカリ土類金属化合物が含有する酸素成分を炭素によって除去(還元)して・・M_(2)Si_(5)N_(8)、MSi_(7)N_(10)、M_(2)Si_(4)AlON_(7)、MSiN_(2)、及びCaAlSiN_(3)中から選ばれる少なくとも一つのニトリドシリケート系化合物に発光中心としてEu^(2+)イオン又はCe^(3+)イオンを含ませる」ものではなく、
甲第7号証記載の発明(蛍光体の製造方法)は、炭素による酸素成分の除去(還元)を行うものであるとしても、M_(2)Si_(5)N_(8)、MSi_(7)N_(10)、M_(2)Si_(4)AlON_(7)、MSiN_(2)、又はCaAlSiN_(3)を生成するかどうかを明らかにするものでないことから、上記「アルカリ土類金属化合物が含有する酸素成分を炭素によって除去(還元)して・・M_(2)Si_(5)N_(8)、MSi_(7)N_(10)、M_(2)Si_(4)AlON_(7)、MSiN_(2)、及びCaAlSiN_(3)中から選ばれる少なくとも一つのニトリドシリケート系化合物に発光中心としてEu^(2+)イオン又はCe^(3+)イオンを含ませる」ものではない。
そうすると、甲第1ないし5記載の発明に甲第6、7号証記載の発明を加味したとしても、本件特許発明1は、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(1-3)記載不備(特許法第36条第2項)について
当審による無効理由通知に対して提出された平成25年4月11日付け訂正請求書に添付された特許請求の範囲の請求項1ないし10(以下、「訂正後の請求項1ないし10」という。)は、以下のとおりである。(再掲)
「【請求項1】
窒化性ガス雰囲気中における炭素との反応によって焼成原料を還元及び窒化する、還元窒化反応法による蛍光体の製造方法であり、
前記焼成原料は、加熱によってアルカリ土類金属酸化物MO(但し、Mは、Mg、Ca、Sr、及びBaから選ばれる少なくとも一つの元素、Oは、酸素元素)を生成しうるアルカリ土類金属化合物と、珪素化合物と、Eu又はCeを含む化合物と、必要に応じてアルミニウム化合物とを含み、
前記焼成原料の還元及び窒化は、アルカリ土類金属化合物が含有する酸素成分を炭素によって除去し、さらに窒化性ガスとの反応によって窒化しながら珪素化合物と反応させるものであり、
前記珪素化合物は、窒化珪素であり、
前記蛍光体は、ニトリドシリケート系化合物1モル当たり、アルカリ土類金属の原子数よりも酸素の原子数が少ないニトリドシリケート系化合物である高窒化性のニトリドシリケート系化合物に、発光中心としてEu2+イオン又はCe3+イオンを含むものであり、
前記ニトリドシリケート系化合物は、M_(2)Si_(5)N_(8)、MSi_(7)N10、M_(2)Si_(4)AlON_(7)、MSiN_(2)、及びCaAlSiN_(3)(M、Oは前記と同じ)中から選ばれる少なくとも一つであることを特徴とする蛍光体の製造方法。
【請求項2】
前記窒化性ガスは、窒素ガス及びアンモニアガスから選ばれる少なくとも一つのガスである請求項1に記載の化合物の製造方法。
【請求項3】
前記炭素の性状は、固体炭素、無定形炭素、及び浸炭性ガスのいずれかである請求項2に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項4】
前記アルカリ土類金属化合物は、アルカリ土類金属の炭酸塩、蓚酸塩、酸化物、及び水酸化物から選ばれる少なくとも一つのアルカリ土類金属化合物である請求項1に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項5】
前記窒化性ガス雰囲気中における焼成原料と炭素との反応は、加熱により行われる請求項1に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項6】
反応温度は、1400℃以上2000℃以下である請求項5に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項7】
反応雰囲気は、水素を用いる還元雰囲気である請求項5に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項8】
前記蛍光体は、340nmを超え500nm以下の近紫外又は青色の波長領域に発光ピークを有する光で励起され、前記光のピーク波長よりも波長の長い可視光に変換する請求項1に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項9】
請求項1に記載の製造方法によって得られ、前記ニトリドシリケート化合物を蛍光体母体とし、発光中心としてEu^(2+)イオン又はCe^(3+)イオンを含むことを特徴とする蛍光体。
【請求項10】
請求項9に記載の蛍光体を発光源として用いたことを特徴とする発光装置。」

(1-3-1)当審による無効理由通知において指摘する記載不備について
平成25年1月11日付け手続補正書により補正された訂正請求書に添付された特許請求の範囲の請求項1について、当審による無効理由通知において以下の記載不備(1)ないし(3)を指摘した。
(1)請求項2ないし11に引用される請求項1の記載は、「原子番号21、39、及び57?71の希土類元素から選ばれる元素(Ln)」と、「Eu^(2+)イオン又はCe^(3+)イオン」との関係を明確に記載するものであるとはいえない。

(2)同請求項1の記載は、「アルカリ土類金属化合物又は希土類化合物が含有する酸素成分を炭素によって除去し」における「アルカリ土類金属化合物又は希土類化合物」と、「窒化性ガスとの反応によって前記アルカリ土類金属化合物又は希土類化合物を窒化しながら」における「アルカリ土類金属化合物又は希土類化合物」との関係を明確に記載するものであるとはいえない。

(3)同請求項1の記載は、「アルカリ土類金属酸化物MO(但し、Mは、Mg、Ca、Sr、及びBaから選ばれる少なくとも一つの元素、Oは、酸素元素)を生成しうるアルカリ土類金属化合物、及び加熱によって希土類酸化物LnO又はLn_(2)O_(3)(但し、Lnは、原子番号21、39、及び57?71の希土類元素から選ばれる少なくとも一つの元素、Oは、酸素元素)を生成しうる希土類化合物のうちの少なくとも一つの化合物と、珪素化合物とを含み」と、「ニトリドシリケート系化合物は、M_(2)Si_(5)N_(8)、MSi_(7)N_(10)、M_(2)Si_(4)AlON_(7)、MSiN_(2)、及びCaAlSiN_(3)の中から選ばれる少なくとも一つの化合物であり」における「Al」との関係を明確に記載するものであるとはいえない。

上記記載不備(1)ないし(3)について検討する。
訂正後の請求項1ないし10の記載について、
(1)訂正により「Eu又はCeを含む化合物」及び「Eu^(2+)イオン又はCe^(3+)イオン」とすることで、記載不備(1)は解消し、
(2)訂正により「アルカリ土類金属化合物が含有する酸素成分を炭素によって除去し、さらに窒化性ガスとの反応によって窒化しながら」とすることで、記載不備(2)は解消し、
(3)訂正により「必要に応じてアルミニウム化合物とを含み、」を付加することで、記載不備(3)は解消し、この付加は、特許第4659741号の明細書の「【0045】・・・製造方法において、さらに、アルミニウム化合物(窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウムなど)を反応させて製造すると、ニトリドアルミノシリケート化合物やオクソニトリドアルミノシリケート化合物も製造可能である。」に基づくものである。

上記より、訂正後の請求項1ないし10の記載は、当審による拒絶理由通知において指摘する記載不備を解消するものであり、同請求項1ないし10に記載された発明は明確である。

(1-3-2)平成25年2月25日付け口頭陳述要領書(請求人提出)において請求人が主張する記載不備について
平成25年1月11日付け手続補正書により補正された訂正請求書に添付された特許請求の範囲の請求項1について、請求人は、上記口頭審理陳述要領書において以下の記載不備(1)ないし(3)を主張する。
(1)請求項1の「原子番号21、39、及び57?71の希土類元素から選ばれる少なくとも一つの元素」と「Eu^(2+)イオン又はCe^(3+)イオン」とが整合していない。(大意)

(2)請求項1の「前記焼成原料は、加熱によってアルカリ土類金属酸化物MO(但し、Mは、Mg、Ca、Sr、及びBaから選ばれる少なくとも一つの元素、Oは、酸素元素)を生成しうるアルカリ土類金属化合物、及び加熱によって希土類酸化物LnO又はLn_(2)O_(3)(但し、Lnは、原子番号21、39、及び57?71の希土類元素から選ばれる少なくとも一つの元素、Oは、酸素元素)を生成しうる希土類化合物のうちの少なくとも一つの化合物と、珪素化合物とを含み」との記載は、「アルカリ土類金属化合物」と「希土類化合物」のいずれかを含むと解釈されるものであり、そうすると、蛍光体が、アルカリ土類金属と希土類金属(Eu^(2+)イオン又はCe^(3+)イオン)の両方を含むことと整合しなくなる。(大意)

(3)請求項1の「M_(2)Si_(4)AlON_(7)、・・CaAlSiN_(3)」で表されるAl元素を必須とするニトリドシリケート化合物が生成される理由が不明である。(大意)

上記記載不備(1)ないし(3)について検討する。
訂正後の請求項1の記載について、
(1)訂正により「Eu又はCeを含む化合物」及び「Eu^(2+)イオン又はCe^(3+)イオン」とすることで、記載不備(1)は解消し、
(2)そもそも、請求項1の記載は「アルカリ土類金属化合物」と「希土類化合物」のいずれかを含むとの解釈を意図するものではないとみるのが妥当であり、また、訂正により「焼成原料は・・・アルカリ土類金属化合物と、珪素化合物と、Eu又はCeを含む化合物と、必要に応じてアルミニウム化合物とを含み」とすることで、上記解釈の余地が排除されることで、記載不備(2)は解消し、
(3)訂正により「必要に応じてアルミニウム化合物とを含み、」を付加することで、上記(3)の不備は解消し、この付加は、特許第4659741号の明細書の「【0045】・・・製造方法において、さらに、アルミニウム化合物(窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウムなど)を反応させて製造すると、ニトリドアルミノシリケート化合物やオクソニトリドアルミノシリケート化合物も製造可能である。」に基づくものである。

上記より、訂正後の請求項1の記載は、平成25年2月25日付け口頭陳述要領書(請求人提出)において請求人が主張する記載不備を解消するものであり、同請求項1に記載された発明は明確である。

(1-3-3)平成25年4月8日付け意見書(請求人提出)において請求人が主張する記載不備について
平成25年1月11日付け手続補正書により補正された訂正請求書に添付された特許請求の範囲の請求項1について、請求人は、上記意見書において以下の記載不備を主張する。
請求項1の「M_(2)Si_(4)AlON_(7)、・・CaAlSiN_(3)」で表されるAl元素を必須とするニトリドシリケート化合物が生成される理由が不明である。(大意)

上記記載不備について検討する。
訂正後の請求項1の記載について、
訂正により「必要に応じてアルミニウム化合物とを含み、」を付加することで、上記不備は解消し、この付加は、特許第4659741号の明細書の「【0045】・・・製造方法において、さらに、アルミニウム化合物(窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウムなど)を反応させて製造すると、ニトリドアルミノシリケート化合物やオクソニトリドアルミノシリケート化合物も製造可能である。」に基づくものである。

なお、請求人は、請求項1の「前記ニトリドシリケート系化合物は、M_(2)Si_(5)N_(8)、MSi_(7)N10、M_(2)Si_(4)AlON_(7)、MSiN_(2)、及びCaAlSiN_(3)中から選ばれる少なくとも一つの化合物」を、「前記高窒化性ニトリドシリケート系化合物は、M_(2)Si_(5)N_(8)、MSi_(7)N10、M_(2)Si_(4)AlON_(7)、MSiN_(2)、及びCaAlSiN_(3)中から選ばれる少なくとも一つの化合物」にすべきであるとの主張をしているが、ニトリドシリケート系化合物である「M_(2)Si_(5)N_(8)、MSi_(7)N10、M_(2)Si_(4)AlON_(7)、MSiN_(2)、及びCaAlSiN_(3)」が高窒化性であることは、当然の事項であることから、「高窒化性」を明記するまでもないものと認める。

上記より、訂正後の請求項1の記載は、平成25年4月8日付け意見書(請求人提出)において請求人が主張する記載不備を解消するものであり、同請求項1に記載された発明は明確である。

(VII-2)本件特許発明2ないし8について
(2-1)特許法第29条第1項第3号について
本件特許発明2ないし8(蛍光体の製造方法)は、本件特許発明1(蛍光体の製造方法)に従属するものであることから、上記(VII-1)(1-1)と同じ理由で、甲1ないし5号証に記載された発明であるとはいえない。

(2-2)特許法第29条第2項について
本件特許発明2ないし8(蛍光体の製造方法)は、本件特許発明1(蛍光体の製造方法)に従属するものであることから、上記(VII-1)(1-2)と同じ理由で、甲第1ないし5(1ないし7)号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(VII-3)本件特許発明9、10について
(3-1)特許法第29条第1項第3号について
本件特許発明9(蛍光体)は「請求項1に記載の製造方法によって得られ」るものであり、本件特許発明10(発光装置)は「請求項9に記載の蛍光体を発光源として用い」るものであって、本件特許発明1の「MO(但し、Mは、Mg、Ca、Sr、及びBaから選ばれる少なくとも一つの元素、Oは、酸素元素)」及び「蛍光体は、ニトリドシリケート系化合物1モル当たり、アルカリ土類金属の原子数よりも酸素の原子数が少ないニトリドシリケート系化合物である高窒化性のニトリドシリケート系化合物に、発光中心としてEu^(2+)イオン又はCe^(3+)イオンを含むものであり、」「ニトリドシリケート系化合物は、M_(2)Si_(5)N_(8)、MSi_(7)N_(10)、M_(2)Si_(4)AlON_(7)、MSiN_(2)、及びCaAlSiN_(3)中から選ばれる少なくとも一つである」との事項を含むものであり、これからして、本件特許発明9(蛍光体)及び本件特許発明10(発光装置)は、発明の対象となる「蛍光体」及び「発光装置」の構成を製造方法によることなく,物の構造により直接的に特定することが可能なものであるというべきである。
そして、上記事項は、出願当初の特許請求の範囲の「【請求項14】
前記ニトリドシリケート系蛍光体は、M_(2)Si_(5)N_(8):Eu^(2+)、M_(2)Si_(4)AlON_(7):Eu^(2+)、MSiN_(2):Eu^(2+)及びM_(2)Si_(5)N_(8):Ce^(3+)(但し、Mは、Mg、Ca、Sr、及びBaから選ばれる少なくとも一つの元素)から選ばれるいずれか一つの一般式で表される請求項13に記載のニトリドシリケート系化合物の製造方法。」、同明細書の「【0026】
このような材料性能向上に関する作用効果は、とりわけ、ニトリドシリケート系化合物1モル当たり、アルカリ土類金属の原子数よりも酸素の原子数が少ない、高窒化性のニトリドシリケート系化合物、及び希土類金属の原子数を1.5倍した数よりも酸素の原子数が少ない、高窒化性のニトリドシリケート系化合物を製造する際に発揮される。特に、酸素成分を含まないニトリドシリケート系化合物(例えば、M_(2)Si_(5)N_(8)やM_(2)Si_(5)N_(8):Eu^(2+)蛍光体、MSiN_(2)やMSiN_(2):Eu^(2+)蛍光体)の製造において顕著なものとなる。」、「【0051】
本発明の製造方法によって、CaSiN_(2)、BaSiN_(2)、Sr_(2)Si_(5)N_(8)、Ba_(2)Si_(5)N_(8)、(Sr,Eu)_(2)Si_(5)N_(8)、Eu_(2)Si_(5)N_(8)、BaSi_(7)N_(10)、Sr_(2)Si_(4)AlON_(7)、CaAlSiN_(3)をはじめ、先に記述した数多くのニトリドシリケート系化合物が製造できる。このようなニトリドシリケート系化合物は、セラミックス部材などへの応用が可能なだけでなく、蛍光体としての応用も可能である。M_(2)Si_(5)N_(8)、MSiN_(2)などのニトリドシリケート系化合物は、高効率蛍光体の蛍光体母体として機能するので、本発明のニトリドシリケート系化合物の製造方法は、ニトリドシリケート系蛍光体の製造方法に広く応用可能である。」等からして、出願時において開示されている事項である。
上記より、本件特許発明9(蛍光体)及び本件特許発明10(発光装置)は、「特許無効審判請求における発明の要旨の認定に際して、『物の発明』に係る特許請求の範囲にその物の『製造方法』が記載されているプロダクト・バイ・プロセス・クレームの場合、発明の対象となる物の構成を製造方法によることなく物の構造又は特性により直接的に特定することが出願時において不可能又は困難であるとの事情が存在するといえないときは、その発明の要旨は、記載された製造方法により製造された物に限定して認定されるべきである(不真正プロダクト・バイ・プロセス・クレーム)。」(平成22年(ネ)第10043号参照)に該当するものであり、よって、本件特許発明1の製造方法により製造された物に限定して認定されるべきである。
そうすると、本件特許発明1の製造方法により製造された物に限定して認定されるべき本件特許発明9、10は、上記(VII-1)(1-1)からして、本件特許発明1と同じく、甲1ないし5号証に記載された発明であるとはいえない。

(3-2)特許法第29条第2項について
本件特許発明9、10は、上記(VII-3)(3-1)及び上記(VII-1)(1-2)からして、本件特許発明1と同じく、甲第1ないし5(1ないし7)号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

VIII.むすび
以上のとおり、請求人の主張する理由及び証拠方法並びに当審における無効理由通知によっては、本件訂正発明1ないし10を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定において準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人の負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
化合物の製造方法、蛍光体、及び発光装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス材料や蛍光体材料等として応用可能なニトリドシリケート系化合物(例えば、ニトリドシリケート、オクソニトリドシリケート、ニトリドアルミノシリケート、オクソニトリドアルミノシリケートなどの、少なくともアルカリ土類金属元素又は希土類元素と、珪素元素と、窒素元素とを含む化合物)の製造方法、及びニトリドシリケート蛍光体とそれを用いた発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、少なくとも、(1)アルカリ土類金属元素M(但し、Mは、Mg、Ca、Sr、Baの中から選ばれる少なくとも一つの元素)と、(2)珪素と、(3)窒素とを主要構成元素として含むニトリドシリケート系化合物、及び、少なくとも、(1)希土類元素Ln(但し、Lnは、原子番号21、39、及び57?71の希土類元素から選ばれる少なくとも一つの元素)と、(2)珪素と、(3)窒素とを主要構成元素として含むニトリドシリケート系化合物が知られている。
【0003】
上記ニトリドシリケート系化合物の一例としては、Sr_(2)Si_(5)N_(8)、Ba_(2)Si_(5)N_(8)(下記特許文献1?3、非特許文献1参照。)、BaSi_(7)N_(10)(下記特許文献1?3参照。)、SrSiAl_(2)O_(3)N_(2)、Sr_(2)Si_(4)AlON_(7)、La_(3)Si_(6)N_(11)(下記特許文献4参照。)、Eu_(2)Si_(5)N_(8)、EuYbSi_(4)N_(7)(下記非特許文献2参照。)、(Ba,Eu)_(2)Si_(5)N_(8)(下記非特許文献3参照。)、Ce_(4)(Si_(4)O_(4)N_(6))O、Sr_(3)Ce_(10)Si_(18)Al_(12)O_(18)N_(36)(下記非特許文献4参照。)、CaSiN_(2)(下記非特許文献5参照。)などであり、本明細書では、一般式M_(p/2)Si_(12-p-q)Al_(p+q)O_(q)N_(16-q)(但し、MはCa単独又はSrと組み合わせたCa、qは0?2.5、pは1.5?3)で表されるサイアロン(下記特許文献5参照。)を除くものとしている。
【0004】
なお、上記CaSiN_(2)は、Eu^(2+)イオンを発光中心として付活することによって、630nm付近に発光ピークを有する赤色光を放つCaSiN_(2):Eu^(2+)蛍光体となることが知られている。この蛍光体の励起スペクトルは370nm付近にピークを有し、440nm以上500nm未満の青色光の励起では強度の強い赤色光を放つことはないものの、330?420nmの近紫外光励起では、出力の強い赤色光を放つことも知られている。このため、近紫外光を放つ発光素子を励起源とする発光装置への応用が有望視されている(下記非特許文献5参照。)。
【0005】
また、上記ニトリドシリケート系化合物は、セラミックス材料としての応用だけでなく、蛍光体材料としての応用も可能であり、例えば、Eu^(2+)イオンやCe^(3+)イオンを含有する、上記ニトリドシリケート系化合物は、高効率の蛍光体となることも知られている(下記特許文献1?6参照。)。
【0006】
さらに、ニトリドシリケート系化合物によって構成される上記高効率蛍光体は、近紫外?青色光で励起され、青、緑、黄、橙、又は赤の可視光を放つため、LED光源用として適するものであることも知られている(下記特許文献1?3、非特許文献5参照。)。
【0007】
従来から、このようなニトリドシリケート系化合物の製造には、アルカリ土類金属の供給源として、アルカリ土類金属(金属Ca、金属Sr、金属Baなど)又はアルカリ土類金属の窒化物(Ca_(3)N_(2)、Sr_(3)N_(2)、Ba_(3)N_(2)など)が用いられ、希土類の供給源として、希土類金属(金属La、金属Ce、金属Euなど)が用いられ、アルカリ土類金属や希土類金属を除く還元剤(下記固体炭素など)を用いることのない製造方法が用いられていた(下記特許文献1?6、非特許文献1?4参照。)。
【0008】
その一方で、従来から、このような製造方法で製造したニトリドシリケート系化合物の蛍光体を、LED光源などの発光装置に用いることが検討されていた。
【0009】
【特許文献1】特表2003-515655号公報
【特許文献2】特表2003-515665号公報
【特許文献3】特開2002-322474号公報
【特許文献4】特開2003-206481号公報
【特許文献5】特開2003-203504号公報
【特許文献6】特開2003-124527号公報
【非特許文献1】T.Schlieper et al.,Z.anorg.allg.Chem.,第621巻、(1995年)、第1380-1384頁
【非特許文献2】H.Huppertz and W.Schnick,Acta Cryst.,第53巻、(1997年)、第1751-1753頁
【非特許文献3】H.A.Hoppe et al.,J.Phys.Chem.Solids,第61巻、(2000年)、第2001-2006頁
【非特許文献4】W.Schnick,Int.J.Inorg.Mater.,第3巻、(2001年)、第1267-1272頁
【非特許文献5】上田恭太ほか、電気化学会第71回大会学術講演予稿集、(2004年)、第75頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、従来のニトリドシリケート系化合物の製造方法、とりわけ酸素の原子数が少ない、高窒化性のニトリドシリケート系化合物(例えば、M_(2)Si_(5)N_(8)、MSi_(7)N_(10)、M_(2)Si_(4)AlON_(7)、MSiN_(2)(但し、Mは、Mg、Ca、Sr、及びBaから選ばれる少なくとも一つの元素)など)、特に、酸素成分を実質的に含まないニトリドシリケート系化合物の製造方法では、化学的に不安定であり発火などの危険性も有り得るアルカリ土類金属や希土類金属、又は、入手が困難で極めて高価かつ大気中での取扱いが困難なアルカリ土類金属や希土類の窒化物を、アルカリ土類金属又は希土類の供給源として用いていたために、以下の課題を抱え、工業生産が著しく難しいという課題があった。
【0011】
(1)大量生産が困難
(2)純度の高い高品質の化合物を再現性良く製造することが困難
(3)安価な化合物の提供が困難
【0012】
なお、従来の製造方法がこのような課題を抱えていたために、従来のニトリドシリケート系化合物は、(1)不純物酸素が多く、純度が低い、(2)このため、例えば、蛍光体の発光性能が低いなど、材料性能が低い、(3)かつ高価である、などの課題があり、例えば、従来のニトリドシリケート系蛍光体を発光源として用いた従来の発光装置には、(1)光束や輝度が低く、(2)高価になる、などの課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、窒化性ガス雰囲気中における炭素との反応によって焼成原料を還元及び窒化する、還元窒化反応法による蛍光体の製造方法であり、前記焼成原料は、加熱によってアルカリ土類金属酸化物MO(但し、Mは、Mg、Ca、Sr、及びBaから選ばれる少なくとも一つの元素、Oは、酸素元素)を生成しうるアルカリ土類金属化合物と、珪素化合物と、Eu又はCeを含む化合物と、必要に応じてアルミニウム化合物とを含み、前記焼成原料の還元及び窒化は、アルカリ土類金属化合物が含有する酸素成分を炭素によって除去し、さらに窒化性ガスとの反応によって窒化しながら珪素化合物と反応させるものであり、前記珪素化合物は、窒化珪素であり、前記蛍光体は、ニトリドシリケート系化合物1モル当たり、アルカリ土類金属の原子数よりも酸素の原子数が少ないニトリドシリケート系化合物である高窒化性のニトリドシリケート系化合物に、発光中心としてEu^(2+)イオン又はCe^(3+)イオンを含むものであり、前記ニトリドシリケート系化合物は、M_(2)Si_(5)N_(8)、MSi_(7)N_(10)、M_(2)Si_(4)AlON_(7)、MSiN_(2)、及びCaAlSiN_(3)(M,Oは前記と同じ)の中から選ばれる少なくとも一つであることを特徴とする蛍光体の製造方法である。
【0016】
また、本発明は、本発明の製造方法によって得られる化合物を蛍光体母体とし、発光中心となりうる元素を含むことを特徴とする蛍光体である。
【0017】
また、本発明は、本発明の蛍光体を発光源として用いたことを特徴とする発光装置である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明は、化学的に不安定で大気中での取扱いが困難かつ入手が困難で高価な、アルカリ土類金属又はアルカリ土類金属の窒化物や、希土類金属又は希土類の窒化物を用いることなく、取扱いや入手が容易で安価なアルカリ土類金属塩や希土類酸化物などをアルカリ土類金属又は希土類の供給源として用いて、ニトリドシリケート系化合物を製造することができ、材料性能の良好なニトリドシリケート系化合物やそれを用いた蛍光体を、再現性良く安価に工業生産することができる。
【0019】
また、本発明は、安価で高性能のニトリドシリケート系化合物やニトリドシリケート系蛍光体を提供するとともに、安価で高性能のニトリドシリケート系化合物の応用製品(LED光源など)を提供することもできる。
【0020】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0021】
本発明のニトリドシリケート系化合物(ニトリドシリケート系蛍光体を含む)の製造方法の一例は、加熱によってアルカリ土類金属酸化物MO(但し、Mは、Mg、Ca、Sr、及びBaから選ばれる少なくとも一つの元素)を生成しうるアルカリ土類金属化合物を、窒化性ガス雰囲気中における炭素との反応によって還元及び窒化しながら、上記アルカリ土類金属化合物を、少なくとも珪素化合物と反応させるものである。
【0022】
また、本発明のニトリドシリケート系化合物の製造方法の他の一例は、加熱によって希土類酸化物LnO又はLn_(2)O_(3)(但し、Lnは、原子番号21、39、及び57?71の希土類元素から選ばれる少なくとも一つの元素)を生成しうる希土類化合物を、窒化性ガス雰囲気中における炭素との反応によって還元及び窒化しながら、上記希土類化合物を、少なくとも珪素化合物と反応させるものである。
【0023】
このようにすると、上記ニトリドシリケート系化合物を構成するアルカリ土類金属又は希土類の供給源として、例えば、炭酸塩、蓚酸塩、水酸化物、酸化物などの、安価で取扱いが容易なアルカリ土類金属化合物や希土類化合物を用いることができるようになる。
【0024】
また、ニトリドシリケート系化合物の製造に際して使用する、アルカリ土類金属又は希土類以外の供給材料(炭素、珪素化合物など)や供給ガス(窒素ガスなど)も、比較的入手が容易で取扱いも易しく安価であるので、ニトリドシリケート系化合物を安価に再現性良く提供できるようになる。
【0025】
さらに、還元剤となる炭素との反応によって、積極的に焼成原料を還元し、焼成原料中の酸素成分を一酸化炭素ガス或いは二酸化炭素ガスとして除去できるので、ニトリドシリケート系化合物中の不純物酸素の混入量が低くなり、ニトリドシリケート系化合物の純度が高まり、結果として、さまざまな性能がより高く発揮できる。
【0026】
このような材料性能向上に関する作用効果は、とりわけ、ニトリドシリケート系化合物1モル当たり、アルカリ土類金属の原子数よりも酸素の原子数が少ない、高窒化性のニトリドシリケート系化合物、及び希土類金属の原子数を1.5倍した数よりも酸素の原子数が少ない、高窒化性のニトリドシリケート系化合物を製造する際に発揮される。
特に、酸素成分を含まないニトリドシリケート系化合物(例えば、M_(2)Si_(5)N_(8)やM_(2)Si_(5)N_(8):Eu^(2+)蛍光体、MSiN_(2)やMSiN_(2):Eu^(2+)蛍光体)の製造において顕著なものとなる。
【0027】
ここで、本発明のニトリドシリケート系化合物は、例えば、ニトリドシリケート、オクソニトリドシリケート、ニトリドアルミノシリケート、オクソニトリドアルミノシリケートなどの、少なくともアルカリ土類金属元素又は希土類元素と、珪素元素と、窒素元素とを含む化合物を意味するが、本明細書では、サイアロン型の結晶構造を有する化合物を除くものとしている。
【0028】
本発明の製造方法は、例えば、還元窒化反応法と呼び得るニトリドシリケート系化合物の製造方法であり、特に、粉末状のニトリドシリケート系化合物の工業生産に適する製造方法である。
【0029】
上記アルカリ土類金属化合物は、上記アルカリ土類金属酸化物MOを生成しうるアルカリ土類金属化合物であれば特に限定されるものではないが、高純度化合物の入手の容易さや大気中での取扱いの容易さ、価格などの面から、好ましくはアルカリ土類金属の炭酸塩、蓚酸塩、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、酸化物、過酸化物、水酸化物の中から選ばれる少なくとも一つのアルカリ土類金属化合物、より好ましくはアルカリ土類金属の炭酸塩、蓚酸塩、酸化物、水酸化物、特に好ましくはアルカリ土類金属の炭酸塩である。また、純度の高いニトリドシリケート系化合物を得る目的で、好ましいMは、Sr及びBaから選ばれる少なくとも一つの元素である。
【0030】
上記アルカリ土類金属化合物の性状については特に限定されるものではなく、粉末状、塊状などから適宜選択すればよい。なお、粉末状のニトリドシリケート系化合物を得る目的で好ましい性状は粉末である。
【0031】
上記希土類化合物は、上記希土類酸化物LnO又はLn_(2)O_(3)のいずれかを生成しうる希土類化合物であれば特に限定されるものではないが、高純度化合物の入手の容易さや大気中での取扱いの容易さ、価格などの面から、好ましくは、希土類の炭酸塩、蓚酸塩、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、酸化物、過酸化物、水酸化物の中から選ばれる少なくとも一つの希土類化合物、より好ましくは、希土類の炭酸塩、蓚酸塩、酸化物、水酸化物、特に好ましくは希土類の酸化物である。
【0032】
上記希土類化合物の性状についても特に限定されるものではなく、粉末状、塊状などから適宜選択すればよい。なお、粉末状のニトリドシリケート系化合物を得る目的で好ましい性状は粉末である。
【0033】
また、上記珪素化合物は、上記反応によってニトリドシリケート系化合物を形成し得る珪素化合物であれば特に限定されるものではないが、上記アルカリ土類金属化合物及び希土類化合物の場合と同様の理由で、好ましくは、窒化珪素(Si_(3)N_(4))、酸窒化珪素(Si_(2)ON_(2))、酸化珪素(SiO又はSiO_(2))、シリコンジイミド(Si(NH)_(2))、より好ましくは、窒化珪素、シリコンジイミドの中から選ばれる少なくとも一つの珪素化合物、特に好ましくは窒化珪素である。
【0034】
上記珪素化合物の性状についても特に限定されるものではなく、粉末状、塊状などから適宜選択するが、粉末状のニトリドシリケート系化合物を得る目的で好ましい性状は粉末である。
【0035】
なお、本発明の製造方法において、珪素の供給源は珪素単体であってもよい。この場合、窒化性ガス雰囲気中の窒素などと反応して、珪素の窒素化合物(窒化珪素など)を形成し、上記アルカリ土類金属窒化物や上記希土類窒化物と反応させるようにする。この理由で、本発明にあっては、上記珪素化合物は珪素単体も含めるものとする。
【0036】
上記炭素の性状についても特に限定されるものではない。好ましい性状は固体炭素であり、その中でも特に黒鉛(グラファイト)である。しかし、無定形炭素(石炭類、コークス、木炭、ガスカーボンなど)であってもよい。この他にも、例えば、浸炭性ガスである天然ガス、メタン(CH_(4))、プロパン(C_(3)H_(8))、ブタン(C_(4)H_(10))などの炭化水素や、一酸化炭素(CO)などの炭素酸化物などを、炭素供給源として用いてもよい。
【0037】
なお、真空雰囲気や例えば不活性ガス雰囲気中などの中性雰囲気中で、炭素質の焼成容器や発熱体を用いた場合、炭素の一部が蒸発することもあるが、このような蒸発炭素を還元剤として用いることも原理上は可能である。
【0038】
上記固体炭素については、その大きさや形状についても特に限定されない。入手の容易さから、好ましい固体炭素の大きさと形状は、1μm以上1cm以下の粉末或いは粒であるが、これ以外の固体炭素であってもよい。粉末状、粒状、塊状、板状、棒状など、様々な形状の固体炭素を用いることができる。固体炭素の純度についても特に限定されるものではない。但し、高品質のニトリドシリケート系化合物を得る目的で、固体炭素の純度は高ければ高いほどよく、例えば純度99%以上、好ましくは純度99.9%以上の高純度炭素を用いる。
【0039】
なお、反応させる上記固体炭素は、発熱体を兼ねるもの(カーボンヒーター)や焼成容器を兼ねるもの(カーボンるつぼ等)であってもよい。還元剤として用いる上記炭素は、ニトリドシリケート系化合物の原料と混合して用いてもよいし、単に接触させるだけでもよい。
【0040】
また、上記窒化性ガスは、窒化反応を起こし得るガスであれば特に限定されるものではないが、高純度ガスの入手の容易さや取扱いの容易さ、価格などの面から、好ましくは、窒素ガス又はアンモニアガスの中から選ばれる少なくとも一種のガス、より好ましくは窒素ガスである。
【0041】
窒化性ガスを含む好ましい反応雰囲気は、単純な設備を利用できる理由で、常圧雰囲気であるが、高圧雰囲気、加圧雰囲気、減圧雰囲気、真空雰囲気のいずれであってもよい。得られる化合物(又は蛍光体)の高性能化を目的とした好ましい反応雰囲気は、高圧雰囲気であり、例えば、2気圧以上100気圧以下、雰囲気の取扱いの面を考慮すると、好ましくは5気圧以上20気圧以下の、窒素ガスを主体にしてなる雰囲気である。このような高圧雰囲気にすると、高温焼成中に生じる化合物(窒化物)の分解を防止又は抑制でき、得られる化合物の組成ずれを抑制して、発揮性能の高い化合物を製造できる。なお、反応物(焼成物)の脱炭を促す目的で、上記反応雰囲気中に少量又は微量の水蒸気を含ませるようにしてもよい。
【0042】
また、反応物(化合物原料)同士の反応性を高めるために、フラックスを添加して反応させてもよい。フラックスとしては、アルカリ金属化合物(Na_(2)CO_(3)、NaCl、LiF)やハロゲン化合物(SrF_(2)、CaCl_(2)など)などから、適宜選択して用いる。
【0043】
本発明の最大の特徴は、(1)ニトリドシリケート系化合物の原料として、アルカリ土類金属や希土類金属、又は、アルカリ土類金属の窒化物や希土類の窒化物を、実質的に用いず、(2)代わりに、加熱によってアルカリ土類金属酸化物や希土類酸化物を生成しうるアルカリ土類金属化合物又は希土類化合物を用い、(3)これら化合物が含有する酸素成分を、炭素、好ましくは固体炭素との反応によって除去し、(4)さらに窒化性ガスとの反応によって、上記アルカリ土類金属化合物又は希土類化合物を窒化しながら、(5)珪素化合物と反応させて、ニトリドシリケート系化合物を製造することにある。
【0044】
なお、本発明の製造方法では、上記珪素化合物も窒化性ガスに曝され、原料同士の反応過程で窒化作用を受けながら上記アルカリ土類金属化合物又は希土類化合物と反応することになるので、本発明のニトリドシリケート系化合物の製造方法は、実質的に、(1)アルカリ土類金属酸化物と、(2)炭素、特に固体炭素と、(3)窒素と、(4)窒化珪素とを、少なくとも反応させて製造する製造方法、又は、実質的に、(1)希土類酸化物と、(2)炭素、特に固体炭素と、(3)窒素と、(4)窒化珪素とを、少なくとも反応させて製造する製造方法とみなすこともできる。
【0045】
また、上記した本発明のニトリドシリケート系化合物の製造方法において、さらに、アルミニウム化合物(窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウムなど)を反応させて製造すると、ニトリドアルミノシリケート化合物やオクソニトリドアルミノシリケート化合物も製造可能である。
【0046】
また、上記本発明のニトリドシリケート系化合物の製造方法において、さらに、金属亜鉛又は亜鉛化合物(酸化亜鉛、窒化亜鉛など)、金属チタン又はチタン化合物(酸化チタンや窒化チタンなど)、金属ジルコニウム又はジルコニウム化合物(酸化ジルコニウムや窒化ジルコニウムなど)、金属ハフニウム又はハフニウム化合物(酸化ハフニウムや窒化ハフニウムなど)、金属タングステン又はタングステン化合物(酸化タングステンや窒化タングステンなど)、金属錫又は錫化合物(酸化錫や窒化錫など)などの遷移金属又は遷移金属化合物を反応させて製造すると、これら遷移金属元素を含むニトリドシリケート系化合物を製造することもできる。また、燐又は燐化合物(五酸化燐、五窒化燐、燐酸塩類、燐酸水素二アンモニウムなど)を反応させて製造すると、燐を含むニトリドシリケート系化合物を製造することもできるし、硼素又は硼素化合物(硼酸、窒化硼素、無水硼酸など)を反応させて製造すると、硼素を含むニトリドシリケート系化合物を製造することもできる。
【0047】
本発明の製造方法における反応は、反応材料にエネルギーを加える操作、例えば、加熱などによって開始され維持される。
【0048】
上記本発明のニトリドシリケート系化合物の製造方法において、好ましい反応温度は1400℃以上2000℃以下、より好ましい反応温度は1500℃以上1800℃以下である。また、反応は、数回に分けて実施してもよい。このようにすると、上記アルカリ土類金属化合物又は希土類化合物が、加熱によってアルカリ土類金属酸化物又は希土類酸化物となり、さらに炭素との反応によって、上記アルカリ土類金属酸化物又は希土類酸化物が一酸化炭素や二酸化炭素を発生しながら還元されることになる。さらに、還元された上記アルカリ土類金属酸化物又は希土類酸化物は窒化性ガスによって窒化され、窒化物を形成しながら、上記珪素化合物などの他の化合物やガスなどと反応する。このようにしてニトリドシリケート系化合物が生成されることになる。
【0049】
なお、上記温度範囲よりも低い温度では上記反応や還元が不十分であり、高品質のニトリドシリケート系化合物を得ることが困難になるし、これよりも高い温度ではニトリドシリケート系化合物が、分解或いは融解して、所定の組成や形状(粉末状、成形体状など)の化合物を得ることが困難になったり、製造設備に高価な発熱体や耐熱性の高い断熱材を使用せざるを得なくなるなどして設備費用が高くなり、安価にニトリドシリケート系化合物を提供することが困難になる。
【0050】
本発明の製造方法に用いる上記材料の量は、目的とするニトリドシリケート系化合物の組成に合わせて調整すればよい。但し、炭素の量は、用いる各材料が含有する酸素成分の中の所定の酸素量を完全に還元できるように過剰にすることが好ましい。
【0051】
本発明の製造方法によって、CaSiN_(2)、BaSiN_(2)、Sr_(2)Si_(5)N_(8)、Ba_(2)Si_(5)N_(8)、(Sr,Eu)_(2)Si_(5)N_(8)、Eu_(2)Si_(5)N_(8)、BaSi_(7)N_(10)、Sr_(2)Si_(4)AlON_(7)、CaAlSiN_(3)をはじめ、先に記述した数多くのニトリドシリケート系化合物が製造できる。このようなニトリドシリケート系化合物は、セラミックス部材などへの応用が可能なだけでなく、蛍光体としての応用も可能である。M_(2)Si_(5)N_(8)、MSiN_(2)などのニトリドシリケート系化合物は、高効率蛍光体の蛍光体母体として機能するので、本発明のニトリドシリケート系化合物の製造方法は、ニトリドシリケート系蛍光体の製造方法に広く応用可能である。
【0052】
さらに、本発明のニトリドシリケート系化合物の製造方法の他の一例として、アルカリ土類金属、アルカリ土類金属の窒化物、希土類金属、及び希土類の窒化物から選ばれる少なくとも一つと、珪素化合物と、炭素とを含む材料を、窒化性ガス雰囲気中で反応させる方法を採用することができる。より具体的には、ニトリドシリケート系化合物を形成するための原料として用いる、アルカリ土類金属(M)又はアルカリ土類金属の窒化物(M_(3)N_(2))と窒化珪素(Si_(3)N_(4))などの珪素化合物、又は、希土類金属又は希土類金属の窒化物と珪素化合物に、還元剤として炭素を添加して、窒化性ガス雰囲気中で焼成すると、焼成中に不純物酸素を一酸化炭素ガス(CO)として除去でき、上記化合物中への、上記不純物酸素の混入を防止又は抑制できるので、純度の高い、高性能のニトリドシリケート系化合物を製造できるようになる。
【0053】
なお、ニトリドシリケート系蛍光体を製造するには、上記反応過程において、さらに、発光中心となり得る元素を含む金属又は化合物を少なくとも反応させればよい。このような元素としては、原子番号58?60、又は62?71のランタニドや遷移金属、特にCe、Pr、Eu、Tb、Mnがあり、このような元素を含む化合物としては、上記ランタニドや遷移金属の酸化物、窒化物、水酸化物、炭酸塩、蓚酸塩、硝酸塩、硫酸塩、ハロゲン化物、燐酸塩などがある。
【0054】
すなわち、本発明は、金属ランタン及び金属プロメチウム、又はランタン化合物及びプロメチウム化合物を除く、金属ランタニド又はランタニド化合物の少なくとも一つをさらに反応させて製造するニトリドシリケート系蛍光体の製造方法や、遷移金属又は遷移金属化合物の少なくとも一つをさらに反応させて製造するニトリドシリケート系蛍光体の製造方法とすることもできる。
【0055】
なお、Ce^(3+)、Pr^(3+)、Eu^(2+)、Tb^(3+)などのランタニドイオンやMn^(2+)イオンを発光中心として含むニトリドシリケート系蛍光体の製造方法では、反応雰囲気が還元雰囲気であることが好ましく、強い還元力が比較的安価かつ容易に得られる理由から、窒素水素混合ガス雰囲気であることが特に好ましい。このようにすると、Ce^(4+)、Pr^(4+)、Eu^(3+)、Tb^(4+)、Mn^(3+)など、所望とする高効率蛍光体の発光中心として実質的に機能しないイオンの生成を防止でき、Ce^(3+)、Pr^(3+)、Eu^(2+)、Tb^(3+)、Mn^(2+)など、高効率発光を放つ、ランタニドイオン或いは遷移金属イオンの濃度が高くなるので、高効率のニトリドシリケート系蛍光体を提供できるようになる。また、水素を用いる還元雰囲気では、水素ガスによる脱炭の効果によって、焼成物の高純度化が図れることも期待できる。
【0056】
本発明のニトリドシリケート系化合物の製造方法によれば、高効率のニトリドシリケート系蛍光体を安価に提供できるようになる。なお、代表的な上記ニトリドシリケート系蛍光体としては、MSiN_(2):Eu^(2+)、M_(2)Si_(5)N_(8):Eu^(2+)、M_(2)Si_(5)N_(8):Ce^(3+)、Sr_(2)Si_(4)AlON_(7):Eu^(2+)などが挙げられる。
【0057】
このようなニトリドシリケート系蛍光体は、例えば、(1)照明用LED光源の発光源、(2)BaAl_(2)S_(4):Eu^(2+)などの青色蛍光体を発光層として用い、さらに、波長変換層を組み合わせて構成した多色表示無機薄膜EL(エレクトロルミネッセンス)パネルの波長変換層、(3)蛍光ランプ(放電灯)の温色系(黄?橙?赤色)発光成分の発光源などとして用いることができ、また、温度特性に優れ、高温下にあっても高い発光性能を維持するので、温度特性を改善した前記発光装置を安価に提供することができるようにもなる。
【0058】
本発明のニトリドシリケート系蛍光体の製造方法は、特に、近紫外?青色系光で励起され、高効率の温色系発光(黄?橙?赤色発光)を放つ、LED照明用の、Sr_(2)Si_(5)N_(8):Eu^(2+)、Ba_(2)Si_(5)N_(8):Eu^(2+)、Sr_(2)Si_(5)N_(8):Ce^(3+)、Ba_(2)Si_(5)N_(8):Ce^(3+)、CaSiN_(2):Eu^(2+)、BaSiN_(2):Eu^(2+)、Sr_(2)Si_(4)AlON_(7):Eu^(2+)などの蛍光体の工業生産に適する製造方法である。
【0059】
なお、赤色発光を放つM_(2)Si_(5)N_(8):Eu^(2+)蛍光体などについては、Ce^(3+)イオンを共付活して、M_(2)Si_(5)N_(8):Ce^(3+),Eu^(2+)蛍光体とすることもできる。例えば、赤色光を放つM_(2)Si_(5)N_(8):Eu^(2+)の励起スペクトルと黄緑色光を放つM_(2)Si_(5)N_(8):Ce^(3+)の発光スペクトルとは、重なりを有するので、このようにすると、Ce^(3+)イオンからEu^(2+)イオンへのエネルギー伝達が生じることに関係し、M_(2)Si_(5)N_(8):Ce^(3+),Eu^(2+)蛍光体は、その励起スペクトル形状が、M_(2)Si_(5)N_(8):Ce^(3+)蛍光体の励起スペクトルに似通ったものに変化し、250?400nmの紫外?近紫外励起条件下で、上記M_(2)Si_(5)N_(8):Eu^(2+)蛍光体よりも高い発光効率を示す赤色蛍光体になる。このため、M_(2)Si_(5)N_(8):Ce^(3+),Eu^(2+)蛍光体は、上記M_(2)Si_(5)N_(8):Eu^(2+)蛍光体よりも、このような波長範囲にある紫外光又は近紫外光を励起光とする発光装置において、有効な赤色蛍光体になる。
【0060】
本発明の製造方法によって製造したニトリドシリケート系化合物は、安価で入手や取扱いが容易な、アルカリ土類金属化合物や希土類化合物、固体炭素又は炭素系ガス、珪素化合物、窒化性ガスを用いて製造するので、安価かつ簡便である。
【0061】
また、本発明の製造方法によって製造したニトリドシリケート系化合物、とりわけ、アルカリ土類金属の原子数よりも酸素の原子数が少ない、高窒化性のニトリドシリケート系化合物、又は希土類金属の原子数を1.5倍した数よりも酸素の原子数が少ない、高窒化性のニトリドシリケート系化合物、特に、酸素成分を実質的に含まないニトリドシリケート系化合物は、還元剤となる炭素との反応によって、積極的に焼成原料を還元し、焼成原料中の酸素成分を一酸化炭素や二酸化炭素として除去しながら製造するので、不純物酸素の混入量が少なく、純度が高く、結果として、高い材料性能を示す。
【0062】
したがって、本発明の製造方法を用いて製造したニトリドシリケート系化合物を用いた応用製品(LED光源など)についても、安価で高性能(高光束など)なものが提供可能となる。
【0063】
次に、本発明の発光装置の実施の形態を図面に基づき説明する。図1に、ニトリドシリケート系蛍光体を発光源として用いた発光装置(応用製品)の一例を示す。図1に示す発光装置は、LEDを応用した光源でもある。図1は、照明又は表示装置用として多用される半導体発光素子の一例でもあり、その断面図である。
【0064】
図1は、サブマウント素子4の上に、少なくとも一つの発光素子1を導通搭載するとともに、少なくとも上記ニトリドシリケート系蛍光体2を内在し、蛍光体層3を兼ねる母材(例えば、樹脂や低融点ガラスなど)のパッケージによって発光素子1を封止した構造の半導体発光素子を示す。
【0065】
図1において、発光素子1は電気エネルギーを光に換える光電変換素子であり、具体的には、発光ダイオード、レーザーダイオード、面発光レーザーダイオード、無機エレクトロルミネッセンス素子、有機エレクトロルミネッセンス素子などが該当する。特に、光源の高出力化の面からは、発光ダイオード又は面発光レーザーダイオードが好ましい。発光素子1が放つ光の波長については、基本的には特に限定されるものではなく、ニトリドシリケート系蛍光体を励起し得る波長範囲内(例えば、250?550nm)であればよい。しかし、ニトリドシリケート系蛍光体が高効率励起され、需要の多い白色系発光を放つ高発光性能の光源を製造し得るためには、340nmを超え500nm以下、好ましくは350nmを超え420nm以下又は420nmを超え500nm以下、好ましくは360nmを超え410nm以下又は440nmを超え480nm以下の波長範囲、すなわち、近紫外又は青色の波長領域に発光ピークを有する発光素子1にする。
【0066】
また、図1において、蛍光体層3は、少なくともニトリドシリケート系蛍光体2を含む蛍光体層であり、例えば、透明樹脂(エポキシ樹脂やシリコン樹脂など)や低融点ガラスなどの透明母材に少なくともニトリドシリケート系蛍光体2を分散させて構成する。ニトリドシリケート系蛍光体2の透明母材中における含有量は、例えば、上記透明樹脂の場合では、5?80質量%が好ましく、10?60質量%がより好ましい。蛍光体層3中に内在するニトリドシリケート系蛍光体2は、駆動によって上記発光素子1が放つ光の一部又は全部を吸収して、発光素子1が放つ光のピーク波長よりも波長の長い可視光(青、緑、黄、橙、又は赤の光)に変換する光変換材料であるので、発光素子1にニトリドシリケート系蛍光体2が励起され、半導体発光素子が少なくともニトリドシリケート系蛍光体2が放つ発光成分を含む光を放つようになる。
【0067】
したがって、例えば、以下のような組み合わせ構造の発光装置にすると、発光素子1が放つ光と蛍光体層3が放つ光との混色などによって、白色系光が得られ、需要の多い白色系光を放つ光源になる。
【0068】
(1)近紫外光を放つ発光素子と、青色蛍光体と、緑色蛍光体と、赤色蛍光体とを組み合わせてなる構造。
【0069】
(2)近紫外光を放つ発光素子と、青色蛍光体と、緑色蛍光体と、黄色蛍光体と、赤色蛍光体とを組み合わせてなる構造。
【0070】
(3)近紫外光を放つ発光素子と、青色蛍光体と、黄色蛍光体と、赤色蛍光体とを組み合わせてなる構造。
【0071】
(4)青色光を放つ発光素子と、緑色蛍光体と、黄色蛍光体と、赤色蛍光体とを組み合わせてなる構造。
【0072】
(5)青色光を放つ発光素子と、黄色蛍光体と、赤色蛍光体とを組み合わせてなる構造。
【0073】
(6)青色光を放つ発光素子と、緑色蛍光体と、赤色蛍光体とを組み合わせてなる構造。
【0074】
(7)青緑色光を放つ発光素子と、赤色蛍光体とを組み合わせてなる構造。
【0075】
なお、Sr_(2)Si_(5)N_(8):Eu^(2+)やCaSiN_(2):Eu^(2+)などの、赤色発光を放つニトリドシリケート系蛍光体は、青色光励起下で高い内部量子効率を示す蛍光体である。したがって、このようなニトリドシリケート系蛍光体の励起源として、440nm以上500nm未満、好ましくは450nm以上480nm未満の青色系の波長領域に発光ピークを有する青色発光素子を用い、上記ニトリドシリケート蛍光体が、上記青色発光素子が放つ青色系光によって励起され、かつ、上記青色発光素子が放つ青色系光成分と、上記ニトリドシリケート蛍光体が放つ発光成分とを、少なくとも出力光として含んで放つように発光装置を構成すると、赤色発光成分強度の強い、暖色系発光を放つ高光束の発光装置を構成でき好ましいものとなる。
【0076】
ニトリドシリケート系蛍光体は、組成によって、青色、緑色、黄色、又は赤色のいずれの蛍光体にもなり得るので、上記の青色蛍光体、緑色蛍光体、黄色蛍光体、赤色蛍光体の、少なくとも一つに用いることが可能である。
【0077】
なお、ニトリドシリケート系蛍光体以外の、上記青色蛍光体、上記緑色蛍光体、上記黄色蛍光体、上記赤色蛍光体としては、(Ba,Sr)MgAl_(10)O_(17):Eu^(2+)青色蛍光体、(Sr,Ca,Ba,Mg)_(10)(PO_(4))_(6)Cl_(2):Eu^(2+)青色蛍光体、(Ba,Sr)_(2)SiO_(4):Eu^(2+)緑色蛍光体、BaMgAl_(10)O_(17):Eu^(2+),Mn^(2+)緑色蛍光体、Y_(2)SiO_(5):Ce^(3+),Tb^(3+)緑色蛍光体、(Y,Gd)_(3)Al_(5)O_(12):Ce^(3+)黄色蛍光体、Y_(3)Al_(5)O_(12):Ce^(3+),Pr^(3+)黄色蛍光体、(Sr,Ba)_(2)SiO_(4):Eu^(2+)黄色蛍光体、CaGa_(2)S_(4):Eu^(2+)黄色蛍光体、CaS:Eu^(2+)赤色蛍光体、SrS:Eu^(2+)赤色蛍光体、La_(2)O_(2)S:Eu^(3+)赤色蛍光体等が使用できる。
【0078】
なお、Eu^(2+)イオンを付活剤として添加したニトリドシリケート系蛍光体(化合物)を構成する上記MがSrである場合、例えば、Sr_(2)Si_(5)N_(8):Eu^(2+)などの高性能の赤色蛍光体になり、発光装置用として好ましい蛍光体を提供できるようになる。
【0079】
また、Eu^(2+)イオンを付活剤として添加したニトリドシリケート系蛍光体(化合物)を構成する上記MがBaである場合、例えば、BaSiN_(2):Eu^(2+)などの高性能の緑色蛍光体になり発光装置用として好ましい蛍光体を提供できるようになる。
【0080】
従来から、M_(x)Si_(y)N_(z)の化学式で表されるニトリドシリケート系の化合物(但し、x、y、zは、z=2/3x+4/3yを満足する数値)を蛍光体母体とし、発光中心としてEu^(2+)イオンを含む赤色蛍光体は知られているが、この蛍光体においてMの主成分がBaであり、x=1及びy=1であることを特徴とした蛍光体については知られていない。まして、このような蛍光体が、意外にも緑色蛍光体となることは、当業者であっても容易に予想できない。したがって、本発明は、BaSiN_(2)の化学式で表されるニトリドシリケート化合物、又は、BaSiN_(2):Eu^(2+)で表されるニトリドシリケート蛍光体とこれを用いた発光装置に関するものでもある。
【0081】
なお、Mの主成分がBaであるとは、Mの過半数以上、好ましくは80原子%以上、より好ましくはMの全てが、Baであることを意味する。
【実施例】
【0082】
(実施例1)
以下、本発明にかかるニトリドシリケート系化合物の製造方法の実施例1として、Sr_(2)Si_(5)N_(8):Eu^(2+)蛍光体の製造方法を説明する。
【0083】
実施例1では蛍光体原料として、以下の化合物を用いた。
(1)炭酸ストロンチウム粉末(SrCO_(3):純度99.9モル%):14.47g
(2)酸化ユーロピウム粉末(Eu_(2)O_(3):純度99.9モル%):0.35g
(3)窒化珪素粉末(Si_(3)N_(4):純度99モル%):12.36g
【0084】
また、上記炭酸ストロンチウム及び上記酸化ユーロピウムの還元剤(添加還元剤)として、以下の固体炭素を用いた。
(4)炭素(黒鉛)粉末(C:純度99.9モル%):1.20g
【0085】
まず、これら蛍光体原料と添加還元剤とを、大気中において自動乳鉢で十分混合した後、この混合粉末をアルミナるつぼに仕込み、雰囲気炉中の所定の位置に配置した。その後、脱ガスを目的として、混合粉末を800℃の窒素水素混合ガス(97容量%窒素、3容量%水素)雰囲気中で5時間加熱して仮焼成した。仮焼成後、1600℃の上記窒素水素混合ガス雰囲気中で2時間加熱して本焼成した。なお、簡略化のため、解砕、分級、洗浄などの後処理については省略した。
【0086】
(比較例1)
比較のため、アルカリ土類金属の窒化物を用いる従来の製造方法によっても、Sr_(2)Si_(5)N_(8):Eu^(2+)蛍光体を製造した。比較用サンプルの製造では、蛍光体原料として、以下の化合物を用いた。
(1)窒化ストロンチウム粉末(Sr_(3)N_(2):純度99.5モル%):25.00g
(2)酸化ユーロピウム粉末(Eu_(2)O_(3):純度99.9モル%):0.93g
(3)窒化珪素粉末(Si_(3)N_(4):純度99モル%):32.51g
【0087】
なお、比較用サンプルの製造では、添加還元剤としての炭素粉末を一切用いなかった。また、グローブボックスを用い、窒化ストロンチウム粉末を窒素雰囲気中で秤量し、蛍光体原料を窒素雰囲気中で十分手混合した以外は、実施例1のSr_(2)Si_(5)N_(8):Eu^(2+)蛍光体の製造方法と同様の方法及び条件で製造した。
【0088】
以下、上記製造方法によって得られた焼成物(Sr_(2)Si_(5)N_(8):Eu^(2+)蛍光体)の特性を説明する。
【0089】
上記焼成物の体色は鮮やかな橙色であった。図2は、上記製造方法によって得られた実施例1の焼成物のX線回折パターンである。図2は、焼成物の主体がSr_(2)Si_(5)N_(8)化合物であることを示している。
【0090】
図3は、254nmの紫外線励起下における実施例1と比較例1の焼成物の発光スペクトルである。図3は、焼成物が波長633nm付近に発光ピークを有する赤色蛍光体であることを示している。
また、実施例1の赤色蛍光体の発光ピーク高さ(発光強度)は、比較例1の蛍光体の発光強度を100%とすると107%であり、従来の製造方法で製造したSr_(2)Si_(5)N_(8):Eu^(2+)蛍光体よりも高輝度であった。なお、CIE色度座標における発光の色度(x、y)は、x=0.605、y=0.380であった。
【0091】
さらに、X線マイクロアナライザー(XMA)を用いて上記焼成物の構成元素を評価したところ、焼成物はSrとEuとSiとNを主体にしてなる化合物であった。また、比較例1の焼成体からは少量の酸素(O)が検出されたのに対して、実施例1の焼成物からは、Oは実質的に検出されなかった。実施例1の焼成物を構成する金属元素の原子割合は、Sr:Eu:Si=1.96:0.04:5.0に近いものであった。
【0092】
これらの結果は、実施例1の製造方法によって、(Sr_(0.98)Eu_(0.02))_(2)Si_(5)N_(8)化合物、すなわち、Sr_(2)Si_(5)N_(8):Eu^(2+)蛍光体が製造できたことを示すものである。
【0093】
なお、実施例1では、以下の化学反応式1に基づき、実質的に、炭素Cによって、アルカリ土類金属酸化物のSrOがランタニド酸化物のEuOとともに還元されながら、窒素及び窒化珪素と反応して、(Sr_(0.98)Eu_(0.02))_(2)Si_(5)N_(8)化合物が生成したと考えられる。
【0094】
(化学反応式1)
5.88SrCO_(3)+0.06Eu_(2)O_(3)+5Si_(3)N_(4)+6C+2N_(2)+0.06H_(2)→3(Sr_(0.98)Eu_(0.02))_(2)Si_(5)N_(8)+5.88CO_(2)↑+6CO↑+0.06H_(2)O↑
【0095】
このように、実施例1の製造方法を用いれば、化学的に不安定で大気中での取扱いが困難かつ高価なSr金属やSr_(3)N_(2)を一切用いることなく、取扱いが容易で安価な炭酸ストロンチウムをアルカリ土類金属の供給源として用いて、ニトリドシリケート系化合物を製造できた。
【0096】
なお、上記実施例1では、アルカリ土類金属としてSrを主たる構成成分とし、Eu^(2+)イオンを発光中心として含むニトリドシリケート系化合物の場合を説明したが、Sr以外のアルカリ土類金属(例えば、CaやBa)を主たる構成成分とするニトリドシリケート系化合物や、Eu^(2+)イオン以外の発光中心イオン(例えばCe^(3+)イオン)を含むニトリドシリケート系化合物も同様の製造方法で製造できる。
【0097】
(実施例2)(参考例)
以下、本発明にかかるニトリドシリケート系化合物の製造方法の実施例2として、Eu_(2)Si_(5)N_(8)化合物の製造方法を説明する。
【0098】
化合物原料及び添加還元剤として、以下の材料を用いる以外は、実施例1と同様の製造方法、焼成条件で製造した。
(1)酸化ユーロピウム粉末(Eu_(2)O_(3):純度99.9モル%):7.04g
(2)窒化珪素粉末(Si_(3)N_(4):純度99モル%):4.94g
(3)炭素(黒鉛)粉末(C:純度99.9モル%):0.48g
【0099】
以下、上記製造方法によって得られた焼成物(Eu_(2)Si_(5)N_(8)化合物)の特性を説明する。
【0100】
上記焼成物の体色は深紅であった。図4は、上記製造方法によって得られた焼成物のX線回折パターンである。図4は、焼成物の主体がEu_(2)Si_(5)N_(8)化合物であることを示している。また、発光スペクトルのデータは省略するが、この焼成物は紫外?近紫外?青色光の励起によって、波長720nm付近に発光ピークを有し、かつ、スペクトル半値幅が約150nmと広い、深赤色発光を示した。XMAによる構成元素の評価結果は、焼成物がEuとSiとNとを主体にしてなる化合物であることと、金属元素のおおよその原子割合がEu:Si=2:5であることを示した。これらの結果は、実施例2の製造方法によって、Eu_(2)Si_(5)N_(8)化合物が製造できたことを示すものである。
【0101】
なお、実施例2では、以下の化学反応式2に基づき、実質的に、炭素Cによって、ランタニド酸化物のEuOが還元されながら、窒素及び窒化珪素と反応して、Eu_(2)Si_(5)N_(8)化合物が生成したと考えられる。
【0102】
(化学反応式2)
3Eu_(2)O_(3)+5Si_(3)N_(4)+6C+2N_(2)+3H_(2)→3Eu_(2)Si_(5)N_(8)+6CO↑+3H_(2)O↑
【0103】
実施例2では、希土類としてEuを主たる構成成分とするニトリドシリケート系化合物の場合を説明したが、Eu以外の希土類を主たる構成成分とするニトリドシリケート系化合物も同様の製造方法で製造できる。
【0104】
(実施例3)
以下、本発明にかかるニトリドシリケート系化合物の製造方法の実施例3として、BaSiN_(2):Eu^(2+)蛍光体の製造方法を説明する。
【0105】
実施例3では蛍光体原料として、以下の化合物を用いた。
(1)炭酸バリウム粉末(BaCO_(3):純度99.9モル%):19.34g
(2)酸化ユーロピウム粉末(Eu_(2)O_(3):純度99.9モル%):0.35g
(3)窒化珪素粉末(Si_(3)N_(4):純度99モル%):4.94g
【0106】
また、上記炭酸バリウム及び上記酸化ユーロピウムの還元剤(添加還元剤)として、以下の固体炭素を用いた。
(4)炭素(黒鉛)粉末(C:純度99.9モル%):1.20g
【0107】
これら蛍光体原料と添加還元剤とを用いて、実施例1のSr_(2)Si_(5)N_(8):Eu^(2+)蛍光体の製造方法と同様の方法及び条件で製造した。
【0108】
以下、上記製造方法によって得られた焼成物(BaSiN_(2):Eu^(2+)蛍光体)の特性を説明する。
【0109】
上記焼成物の体色は鮮やかな緑色であった。
図5は、上記製造方法によって得られた実施例3の蛍光体の254nmの紫外線励起下における発光スペクトルAと励起スペクトルBを示す。
【0110】
図5は、焼成物が波長220?470nmの紫外?近紫外?青色の光で励起可能であり、波長510nm付近に発光ピークを有する緑色発光を放つ緑色蛍光体であることを示している。
【0111】
さらに、実施例1の蛍光体と同様に、上記焼成物の構成元素を評価したところ、焼成物はBaとEuとSiとNを主体にしてなる化合物であり、焼成物を構成する金属元素の原子割合は、Ba:Eu:Si=0.98:0.02:1.0に近いものであった。
【0112】
これらの結果は、実施例3の製造方法によって、(Ba_(0.98)Eu_(0.02))SiN_(2)化合物、すなわち、BaSiN_(2):Eu^(2+)蛍光体が製造できたことを示すものである。
【0113】
なお、従来、赤色光を放つCaSiN_(2):Eu^(2+)蛍光体が知られているが、CaをBaに置換すると、意外にも緑色蛍光体となることは、当業者であっても容易に予想できない。また、BaSiN_(2):Eu^(2+)蛍光体の発光強度(ピーク高さ)も、同様の手法で製造したCaSiN_(2):Eu^(2+)蛍光体の10倍以上あり、従来にない顕著な効果を有する。
【0114】
なお、実施例3では、以下の化学反応式3に基づき、実質的に、炭素Cによって、アルカリ土類金属酸化物のBaOがランタノイド酸化物のEuOとともに還元されながら、窒素及び窒化珪素と反応して、(Ba_(0.98)Eu_(0.02))SiN_(2)化合物が生成したと考えられる。
【0115】
(化学反応式3)
2.94BaCO_(3)+0.03Eu_(2)O_(3)+Si_(3)N_(4)+3C+N_(2)+0.03H_(2)→3(Ba_(0.98)Eu_(0.02))SiN_(2)+2.94CO_(2)↑+3CO↑+0.03H_(2)O↑
【0116】
このように、実施例3の製造方法を用いれば、化学的に不安定で大気中での取扱いが困難かつ高価なBa金属やBa_(3)N_(2)を一切用いることなく、取扱いが容易で安価な炭酸バリウムをアルカリ土類金属の供給源として用いて、(Ba_(0.98)Eu_(0.02))SiN_(2)の化学式で表されるニトリドシリケート系化合物を製造できた。
【0117】
なお、上記実施例1?3では、(Sr_(0.98)Eu_(0.02))_(2)Si_(5)N_(8)化合物、Eu_(2)Si_(5)N_(8)化合物、(Ba_(0.98)Eu_(0.02))SiN_(2)化合物の場合を各々例に上げて説明したが、本発明のニトリドシリケート系化合物の製造方法は、先に説明した上記以外のニトリドシリケート系化合物に広く応用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明のニトリドシリケート系化合物の製造方法は、加熱によってアルカリ土類金属酸化物を生成しうるアルカリ土類金属化合物、又は、加熱によって希土類酸化物を生成しうる希土類化合物を、窒化性ガス雰囲気中における炭素との反応によって還元及び窒化しながら、上記アルカリ土類金属化合物又は上記希土類化合物を、少なくとも珪素化合物と反応させて、ニトリドシリケート系化合物を製造するので、化学的に不安定で大気中での取扱いが困難かつ高価な、アルカリ土類金属又はアルカリ土類金属の窒化物や、希土類金属又は希土類の窒化物を用いることなく、取扱いが容易で安価なアルカリ土類金属塩や希土類酸化物などをアルカリ土類金属又は希土類の供給源として用いて、ニトリドシリケート系化合物を製造できる。したがって、材料性能の良好なニトリドシリケート系化合物やそれを用いた蛍光体を安価に工業生産することが必要な用途に適用できる。
【0119】
また、上記製造方法によってニトリドシリケート系化合物を製造するので、安価で高性能のニトリドシリケート系化合物が必要な用途にも広く適用できるし、安価で高性能のニトリドシリケート系化合物を用いて機器などを構成するので、ニトリドシリケート系化合物を応用した、安価で高性能の製品(LED光源など)を提供することが必要な用途への応用も適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0120】
【図1】ニトリドシリケート系蛍光体を用いた発光装置の一例を示す断面図である。
【図2】実施例1にかかるニトリドシリケート系化合物のX線回折パターンである。
【図3】実施例1及び比較例1にかかるニトリドシリケート系化合物の発光スペクトルである。
【図4】実施例2にかかるニトリドシリケート系化合物のX線回折パターンである。
【図5】実施例3にかかるニトリドシリケート系化合物の発光/励起スペクトルである。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化性ガス雰囲気中における炭素との反応によって焼成原料を還元及び窒化する、還元窒化反応法による蛍光体の製造方法であり、
前記焼成原料は、加熱によってアルカリ土類金属酸化物MO(但し、Mは、Mg、Ca、Sr、及びBaから選ばれる少なくとも一つの元素、Oは、酸素元素)を生成しうるアルカリ土類金属化合物と、珪素化合物と、Eu又はCeを含む化合物と、必要に応じてアルミニウム化合物とを含み、
前記焼成原料の還元及び窒化は、アルカリ土類金属化合物が含有する酸素成分を炭素によって除去し、さらに窒化性ガスとの反応によって窒化しながら珪素化合物と反応させるものであり、
前記珪素化合物は、窒化珪素であり、
前記蛍光体は、ニトリドシリケート系化合物1モル当たり、アルカリ土類金属の原子数よりも酸素の原子数が少ないニトリドシリケート系化合物である高窒化性のニトリドシリケート系化合物に、発光中心としてEu^(2+)イオン又はCe^(3+)イオンを含むものであり、
前記ニトリドシリケート系化合物は、M_(2)Si_(5)N_(8)、MSi_(7)N_(10)、M_(2)Si_(4)AlON_(7)、MSiN_(2)、及びCaAlSiN_(3)(M,Oは前記と同じ)の中から選ばれる少なくとも一つであることを特徴とする蛍光体の製造方法。
【請求項2】
前記窒化性ガスは、窒素ガス及びアンモニアガスから選ばれる少なくとも一つのガスである請求項1に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項3】
前記炭素の性状は、固体炭素、無定形炭素、及び浸炭性ガスのいずれかである請求項2に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項4】
前記アルカリ土類金属化合物は、アルカリ土類金属の炭酸塩、蓚酸塩、酸化物、及び水酸化物から選ばれる少なくとも一つのアルカリ土類金属化合物である請求項1に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項5】
前記窒化性ガス雰囲気中における焼成原料と炭素との反応は、加熱により行われる請求項1に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項6】
反応温度は、1400℃以上2000℃以下である請求項5に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項7】
反応雰囲気は、水素を用いる還元雰囲気である請求項1に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項8】
前記蛍光体は、340nmを超え500nm以下の近紫外又は青色の波長領域に発光ピークを有する光で励起され、前記光のピーク波長よりも波長の長い可視光に変換する請求項1に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項9】
請求項1に記載の製造方法によって得られ、前記ニトリドシリケート系化合物を蛍光体母体とし、発光中心としてEu^(2+)イオン又はCe^(3+)イオンを含むことを特徴とする蛍光体。
【請求項10】
請求項9に記載の蛍光体を発光源として用いたことを特徴とする発光装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2013-09-09 
結審通知日 2013-09-11 
審決日 2013-10-03 
出願番号 特願2006-517878(P2006-517878)
審決分類 P 1 113・ 113- YA (C01B)
P 1 113・ 121- YA (C01B)
P 1 113・ 537- YA (C01B)
P 1 113・ 57- YA (C01B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 廣野 知子  
特許庁審判長 豊永 茂弘
特許庁審判官 吉水 純子
中澤 登
登録日 2011-01-07 
登録番号 特許第4659741号(P4659741)
発明の名称 化合物の製造方法、蛍光体、及び発光装置  
復代理人 豊田 佳与  
代理人 西澤 利夫  
復代理人 豊田 佳与  
代理人 西澤 利夫  
復代理人 中川 文貴  
復代理人 中川 文貴  
代理人 小山 輝晃  
代理人 市川 誠  

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