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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G09G
管理番号 1282490
審判番号 不服2012-15916  
総通号数 170 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-02-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-08-15 
確定日 2013-12-05 
事件の表示 特願2008-130865「投写型表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 9月25日出願公開、特開2008-225503〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
特許出願: 平成20年5月19日
(特願2005-19301号(優先権主張平成10年12月 1日)の分割出願)
手続補正: 平成20年6月18日(以下、「補正1」という。)
手続補正: 平成23年12月19日(以下、「補正2」という。)
拒絶査定: 平成24年5月7日(送達日:同年5月15日)
拒絶査定不服審判の請求: 平成24年8月15日
手続補正: 平成24年8月15日(以下、「補正3」という。)
補正却下の決定: 平成25年6月26日(送達日:同年7月9日、
補正3の却下)
拒絶理由通知: 平成25年6月26日(以下、「当審拒絶理由」と
いう。発送日:同年7月2日)
手続補正: 平成25年8月30日(以下、「本件補正」という。)
意見書: 平成25年8月30日(以下、「本件意見書」という。)


2.本願発明
本願の請求項1ないし10に係る発明は、本件補正によって補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明は次のとおりである。

「複数の色光のうち特定の一色の光が生成される間隔の周波数で時間順次で前記複数の色光を繰り返し生成する色光生成部と、
前記複数の色光のそれぞれに対応した画像を時間順次で生成するように、画像入力信号を該画像入力信号中の同期信号のタイミングでメモリに書き込むとともに、前記複数の色光のタイミングに同期して各色光に対応した画像データを前記メモリから読み出し、前記複数の色光を前記画像データに応じて光強度を画素毎に変調する画像生成部と、
前記画像を投写するレンズと、を備えた投写型表示装置であって、
前記周波数を、所定の網膜移動速度においてカラーブレイクアップ知覚が生じない色生成周波数に設定した、投写型表示装置。」(以下、「本願発明」という。)


3.当審拒絶理由
これに対し、当審拒絶理由における理由(2)の概要は、本願の各請求項に係る発明は、いずれも、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平8-51633号公報(発明の名称:シーケンシャル・カラー画像化方法並びに装置、出願人:テキサス インスツルメンツ インコーポレイテツド、公開日:平成8年2月20日、以下、「引用例」という。)に記載された発明、及び周知技術に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。


4.引用例記載の事項・引用発明
(1)記載事項
引用例には、次の事項(a)ないし(c)が図面の図1ないし図7とともに記載されている。

(a)
「【0004】シーケンシャルと非シーケンシャル・カラーシステムとの間の区別の秀逸な例は、空間光変調器(”spacial light modulator:SLM”)投影システムにより与えられる。SLM画像化システムのひとつの形式は個別素子、例えば変形可能ミラー素子(”deformable mirrordevices:DMDs”)のアレイを使用して、投影スクリーン上へまたは投影スクリーンから光を反射させている。非シーケンシャル・カラーシステムでは、三つのDMDアレイが並列に、各々が赤用、緑用そして青用に使用されている。これに比較して、シーケンシャル・カラーシステムSLM素子はこのようなアレイを唯ひとつのみ必要とし、赤、緑そして青の光は順番に単一のDMDアレイで反射される。・・・」

(b)
「【0019】
【実施例】図1a-図3bは既に発明の背景、及びシーケンシャル・カラーシステムに於ける色分離の問題の説明に関連して説明した。シーケンシャル・カラーシステムは無数の異なる技術を含み、SLM技術(これに派生するものにDMD技術がある)およびCRT技術も含まれる。シーケンシャル・カラーシステムのアプリケーションの中でも特定のアプリケーションは、従来式のテレビ(NTSC,PAL,SECAMまたはその他の方式に係わらず)、ワイド画面従来方式テレビ、高画質テレビ、工業用投影機、家庭用投影機、そして映写機があげられる。
【0020】図4は本発明の特定のアプリケーションのブロック図を図示する。図示されるように、シーケンシャル・カラー画像化システム20はプロセッサ22を含み、これはDMDアレイ26を制御する。プロセッサ22はメモリ24とDMDアレイ26とに結合されている。メモリ24はまたDMDアレイ26に対して直接メモリ入力するためにDMDアレイ26にも結合されている。プロセッサ22はまた受信機27にも結合されている。受信機27は画像入力を受信するが、これはケーブルシステムまたは空中電波を介して伝送されるアナログまたはディジタルビデオ画像である。受信機27からのデータはメモリ24に記憶される。メモリ24はまた、画像入力から直接入力を受信することもあるが、これは例えば画像入力がディジタル画像データとして伝送されるときである。受信機27で受信された画像入力データはプロセッサ22で処理されてDMDアレイ26、光源28および色円盤30の操作に適切な形式に変換される。
【0021】プロセッサ22は光源28、色円盤30、およびDMDアレイ26を制御し、光源28からの光が色円盤30を通って伝送され、DMDアレイ26で反射されてスクリーン32に達するようにする。」

(c)
「【0023】図5a-5dは本発明の教えに基づいて構成された色円盤30の種々の実施例を図示する。色円盤30は順番に色領域がDMDアレイ26からスクリーン32上に反射されるように回転する。色円盤30は本発明を図示するために使用されているが、色円盤30に関連して説明された技術はその他の装置を制御するためにも同様に用いられる。例えば、三つの光源、赤色光源、緑色光源、そして青色光源が順番に赤、緑および青の区域を生成するために単一のDMDアレイと共に使用できる。同様に、CRTシステムに於て赤、それから緑そして青を生成するために使用される電子線が以下の教えに従って順番に制御出来る。
【0024】図5aに図示されるように、色円盤30には三つの色区域、赤、緑、そして青が用意されており、それらの各々は色円盤30の使用可能領域のほぼ三分の一である。単一画像フレーム、通常は1/60秒、に対して従来システムでは色円盤30を画像フレーム毎に一度、または3,600回転毎分(RPM)で回転させている。この様なシステムでは、三つのカラーサブフレームが存在し、その各々は赤、緑そして青であって、各々の画像フレームは図5aに図示される従来からのフレーム同期(SYNC)点から開始(同期)される。
【0025】本発明のひとつの実施例では、図5aに示されるように従来式フレームSYNCが赤サブフレームの中央に移動されている。この改善されたフレームSYNCでも、色円盤は3,600RPMで回転されている。フレームSYNCを赤サブフレームの中央に移動する結果、カラーシーケンスは赤サブフレームの半分、緑サブフレームをひとつ、青サブフレームをひとつ、そして赤サブフレームの半分となる。この結果人の目が移動する対象物の先端で赤を知覚する時間量が半分に減少される。従って人の目は赤と緑の混合を更に早く始めることが可能であり、その結果、先端部に従来式システムに比較してより望ましい色に近いものを提供する。この改善されたフレームSYNCにより、赤サブフレームは二つのサブフレームに分割され、ひとつは緑サブフレームの前に来、もう一方は青サブフレームの後に来る。従って、DMDアレイ26の鏡はもう一度追加して設定されねばならず、これは赤サブフレームがビデオフレームの開始時点に一度と、青サブフレームが完了した時点に一度設定されなければならないという事実の結果である。フレームSYNCはまた、青または緑カラーサブフレームの中央にも同様に設置出来ることは理解されたい。
【0026】図5aはまた本発明の別の実施例をも図示しており、ここでは画像フレームは従来式ビデオフレームと同じ場所から開始されるが、色円盤がより早い速度で回転されるところが異なる。このより早い速度は、先端部がひとつの特定の色、ここで説明されている例では赤、となる時間量が減少される。例えば色円盤を従来速度の二倍、または7,200RPMで回転することにより、単一画像フレームは二つの赤サブフレーム、二つの緑サブフレーム、そして二つの青サブフレームを含むことになる。サブフレームの順番は赤、緑、青、赤、緑、青となる。この様な技法を実現するために、従来システムの各々のカラーサブフレームは二つのサブフレームに分割され、その各々は従来式カラーサブフレームの半分継続する。実験の結果カラーサブフレームの順番は、色分離を知覚しないようにするためには、従来方式の四倍まで増加すべきであることが分かっている。しかしながらより低い速度、例えば従来方式の二倍でも色分離の知覚は改善されるが、それを完全には取り除かない。速度が増すにつれて複雑さと費用とが増大するため、個別のアプリケーション毎にどれだけ速度を増すのが適当であるかが指定される。」

(2)引用発明
前記記載(a)ないし(c)、及び図面の内容を総合勘案すると、引用例には次の発明が記載されているものと認められる。

「光源28及び光源28からの光が通される、順番に赤、緑、青の色領域が回転する色円盤30と、
前記赤、緑、青の色領域のそれぞれに対応したカラーサブフレームが生成するように、画像入力データがメモリ24に記憶されるとともに、前記画像入力データはプロセッサ22で処理され、前記プロセッサ22で処理された画像入力データによりDMDアレイ26が操作されるように構成された、メモリ24、プロセッサ22及びDMDアレイ26と、
画像を投写するレンズと、を備えた投影機であって、
前記色円盤30の回転速度は、従来方式である3600RPMの4倍である、投影機。」(以下、「引用発明」という。)

ここで、引用例には画像を投写するレンズについての明示的な記載はないが、引用例に記載のものが投影機である以上、画像を投写するための何らかのレンズを備えていることは明らかである。


5.対比
本願発明と引用発明とを対比する。
まず、引用発明の「光源28及び光源28からの光が通される、順番に赤、緑、青の色領域が回転する色円盤30」は、本願発明の「複数の色光のうち特定の一色の光が生成される間隔の周波数で時間順次で前記複数の色光を繰り返し生成する色光生成部」に相当する。また、引用発明の「前記赤、緑、青の色領域のそれぞれに対応したカラーサブフレーム」は、本願発明の「前記複数の色光のそれぞれに対応した画像」に相当し、このカラーサブフレームが時間順次で生成されることも明らかである。
次に、引用発明における「画像入力データがメモリ24に記憶される」ことと、本願発明の「画像入力信号を該画像入力信号中の同期信号のタイミングでメモリに書き込む」こととは、いずれも画像入力信号をメモリに書き込む点で共通である。
そして、引用発明における「前記プロセッサ22で処理された画像入力データによりDMDアレイ26が操作される」ことは、本願発明の「前記複数の色光を前記画像データに応じて光強度を画素毎に変調する」ことに相当し、引用発明の「メモリ24、プロセッサ22及びDMDアレイ26」が、本願発明の「画像生成部」に相当し、引用発明の「画像を投写するレンズ」が、本願発明の「前記画像を投写するレンズ」に相当し、引用発明の「投影機」が、本願発明の「投写型表示装置」に相当する。

してみると、両者の一致点、相違点は次のとおりである。

(一致点)
「複数の色光のうち特定の一色の光が生成される間隔の周波数で時間順次で前記複数の色光を繰り返し生成する色光生成部と、
前記複数の色光のそれぞれに対応した画像を時間順次で生成するように、画像入力信号をメモリに書き込むとともに、前記複数の色光を前記画像データに応じて光強度を画素毎に変調する画像生成部と、
前記画像を投写するレンズと、を備えた投写型表示装置。」

(相違点)
相違点1
本願発明においては、画像入力信号のメモリへの書き込みが「画像入力信号中の同期信号のタイミング」で行なわれるとしているのに対し、引用発明においては該書き込みのタイミングが特定されていない点。

相違点2
本願発明においては、「前記複数の色光のタイミングに同期して各色光に対応した画像データを前記メモリから読み出」すとしているのに対し、引用発明においてはそのような特定はされていない点。

相違点3
本願発明が、「前記周波数を、所定の網膜移動速度においてカラーブレイクアップ知覚が生じない色生成周波数に設定した」としているのに対し、引用発明においては「前記色円盤30の回転速度は、従来方式である3600RPMの4倍である」とされている点。


6.判断
上記相違点1ないし3についてそれぞれ検討する。

相違点1について
順次送信される画像データを、漏れや重複無くメモリへ記憶するためには、画像データと同期させてメモリへの書き込みを制御する必要があることは、当業者にとって自明であり、引用発明においてもそのような制御が必要とされることは明らかである。そしてそのような制御を実施する際に、最も一般的な「画像入力信号中の同期信号のタイミング」による制御を行うか、該同期信号と連動するような他の信号による制御とするかは、必要に応じて適宜選択されるべき設計事項に過ぎない。

相違点2について
引用発明において、各色領域に対応したカラーサブフレームの出力が、その対応する色光のタイミングと同期して行われていることは明らかであるから、該カラーサブフレームを生成するために用いられる画像入力データのメモリからの読み出しを、前記色光のタイミングと同期させる程度のことは、当業者が容易になし得たものである。

相違点3について
引用発明における、色円盤30の回転速度3600×4=14400RPMは、本願発明における、「複数の色光のうち特定の一色の光が生成される間隔の周波数」に換算すれば、周波数240Hzとなる。本願発明においては、網膜移動速度は何ら特定されていないので、例えば200deg/secよりも小さい速度を想定すると(本願の明細書、段落【0049】には、眼球運動の説明として「例えば飛んでるハエを眼で追うような30?35deg/sec程度の低速度の随従運動」などが挙げられている。)、本願の図7に示されているデータからも明らかなように、周波数240Hzにおいてカラーブレイクアップ知覚が生じることはない。
すなわち、引用発明における「従来方式である3600RPMの4倍」である「前記色円盤30の回転速度」は、本願発明の「所定の網膜移動速度においてカラーブレイクアップ知覚が生じない色生成周波数」に含まれるものであり、相違点3は実質的な相違点ではない。

そして、本願発明の作用効果も、引用発明から当業者が予測可能なものであって、格別のものではない。

したがって、本願発明は引用発明に基づいて当業者が容易に発明し得たものである。


7.請求人の主張について
審判請求人は、本件意見書において、概略、以下のように主張しているので、検討する。
(1)請求人の主張の概要
「本願の今般補正後の請求項1に係る発明(以下、本願発明1と略記する)は、「複数の色光のうち特定の一色の光が生成される間隔の周波数で時間順次で前記複数の色光を繰り返し生成する・・・前記周波数を、所定の網膜移動速度においてカラーブレイクアップ知覚が生じない色生成周波数に設定した」点を特徴点としております。
また、本願発明1は、プレゼンテータの行う動作に起因するカラーブレイクアップの知覚や、(観察者の)眼球運動に起因するカラーブレイクアップの知覚が発生を抑制することを課題・目的としております(段落0010等参照)。
・・・
引用刊行物1には、「カラーサブフレームの順番は、色分離を知覚しないようにするためには、従来方式の四倍まで増加すべき」との記載があるのみであり、そこでは、本願のような、網膜移動速度とカラーブレイクアップ知覚との関係について何らの考慮もなされておらず、本願の上記特徴点や、その特徴点によってどのような機能・作用により目的が達成されるかについては、引用刊行物1は、何等の開示も示唆もするものではありません。
もちろん、こうした特徴点、あるいはその特徴点に伴った機能・作用は、引用刊行物2においても開示も示唆もされておりません。
以上のように、上記のような本願発明1の特徴点について開示も示唆もない引用文献1、2は、本願発明1とは機能・作用の共通性が全くなく、当然、本願発明1が奏する有利な効果を得ることができるものではありません。換言すれば、引用文献1、2には、本願発明1を想到するための契機ないし動機づけとなり得るものがなく、引用文献1、2は本願発明1の進歩性を否定する根拠とはなり得ません。」

(2)検討
請求人は、特に本願発明の「複数の色光のうち特定の一色の光が生成される間隔の周波数で時間順次で前記複数の色光を繰り返し生成する・・・前記周波数を、所定の網膜移動速度においてカラーブレイクアップ知覚が生じない色生成周波数に設定した」という点に関し、引用例においては「本願のような、網膜移動速度とカラーブレイクアップ知覚との関係について何らの考慮もなされておらず、本願の上記特徴点や、その特徴点によってどのような機能・作用により目的が達成されるかについては、引用刊行物1は、何等の開示も示唆もするものではありません。」と主張している。
しかしながら、上記「6.判断」の「相違点3について」において述べたように、本願発明の、「前記周波数を、所定の網膜移動速度においてカラーブレイクアップ知覚が生じない色生成周波数に設定した」点については、引用発明も同様である。本願発明は、現に、周波数が、所定の網膜移動速度においてカラーブレイクアップ知覚が生じない色生成周波数に設定されているのであるから、「網膜移動速度とカラーブレイクアップ知覚との関係について」の考察が引用例に記載されているか否かによらず、本願発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、審判請求人の主張は採用できない。


8.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について審理するまでもなく、本願は当審拒絶理由によって拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-10-04 
結審通知日 2013-10-08 
審決日 2013-10-21 
出願番号 特願2008-130865(P2008-130865)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G09G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 堀部 修平  
特許庁審判長 飯野 茂
特許庁審判官 中塚 直樹
小林 紀史
発明の名称 投写型表示装置  
代理人 特許業務法人 信栄特許事務所  

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