• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C10G
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C10G
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C10G
管理番号 1283578
審判番号 不服2012-15548  
総通号数 171 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-03-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-08-09 
確定日 2014-01-06 
事件の表示 特願2006-545529「原油生成物を製造するためのシステム、方法及び触媒」拒絶査定不服審判事件〔平成17年7月14日国際公開、WO2005/063938、平成19年6月7日国内公表、特表2007-514850〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.本願の経緯
本願は、平成16年12月16日(パリ条約による優先権主張 2003年12月19日及び2004年10月14日 いずれもアメリカ合衆国)を国際出願日とする特許出願であって、平成19年12月4日に手続補正書が提出され、平成22年10月29日付けで拒絶理由が通知され、平成23年5月30日に意見書及び手続補正書が提出され、平成24年3月19日付けで拒絶査定され、同年8月9日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

2.本願発明
本願に係る発明は、平成23年5月30日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?15にそれぞれ記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。
「0.101MPaにおいて95?260℃の沸点範囲分布を有する炭化水素を原油生成物1g当たり0.001g以上、0.101MPaにおいて260?320℃の沸点範囲分布を有する炭化水素を原油生成物1g当たり0.001g以上、0.101MPaにおいて320?650℃の沸点範囲を有する炭化水素を原油生成物1g当たり0.001g以上、及び1種以上の触媒を原油生成物1g当たり0gを超え0.01g未満含有する原油生成物であって、触媒の少なくとも1種は、周期表第5?10族の1種以上の金属、及び/又は周期表第5?10族の1種以上の金属の1種以上の化合物を含み、該1種以上の金属を含んだ触媒は支持体を有し、該支持体は、アルミナ、θ-アルミナ、γ-アルミナ、シリカ、シリカ-アルミナ、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、又はそれらの混合物を含む該原油生成物。」

3.原査定について
原査定の拒絶理由は、「平成22年10月29日付け拒絶理由通知書に記載した理由1,2,3」であるところ、そのうち理由3は「特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない」というものである。
そして、拒絶査定には、備考として次の点が付記されている。
「請求項1をはじめとする本願各請求項の「原油生成物」は、請求項1に特定するように「1種以上の触媒を原油生成物1g当たり0gを超え0.01g未満含有する」という特定を含む。
一方本願明細書中では、形式的には発明が解決しようとする課題(【0013】)として「不利な原油を更に望ましい特性を有する原油生成物に転化するために改良したシステム、方法、及び/又は触媒が極めて経済的かつ技術的に必要である。また、不利な原油の選択した特性を変える場合、他の特性だけを選択的に変化させながら、選択した特性を変化できるシステム、方法、及び/又は触媒も極めて経済的かつ技術的に必要である。」と記載が有る。しかし後続する課題を解決するための手段(【0014】?【0068】)の記載をみても、上記請求項1に係る発明に相当することは記載されていない。したがって【0013】で提唱している課題は本願各請求項とは関係のない事項である。
他方、明細書中では唯一【0155】に「輸送及び/又は処理中、原油生成物の安定化を助ける。また触媒は、腐食及び摩擦を防止し、及び/又は原油生成物の水分離能力を向上できる。ここで説明した方法は、処理中、原油生成物に、ここで説明した1種以上の触媒を加えるように構成してもよい。」と記載されている。この記載からすると、本願請求項に係る発明に対応する解決しようとする課題は「輸送及び/又は処理中、原油生成物の安定化を助ける。また触媒は、腐食及び摩擦を防止し、及び/又は原油生成物の水分離能力を向上」させることと認められる。
これに対して、明細書中には他に本願請求項に係る発明に対応する何らかの記載を発見することができない。実施例と思われる本願明細書中例1?21をみても、触媒を原油生成物1g当たり0gを超え0.01g未満加えたことに該当する記載を認められない。
明細書中の各例について具体的に検討すると、例えば例5では予備加熱帯、塔頂接触帯、中間部接触帯、塔底接触帯及び塔底支持体に相当する5つの加熱帯を有する炉(【0223】)にて、原油原料を水素ガスの存在下で各触媒と接触させている。他の例もいずれも触媒は接触帯で所定の条件、具体的には水素存在下ある温度、圧力、空間速度である環境下で原油原料と接触している。すなわち単に触媒を含むものではなく何らかの水素化反応を経て化学的に精製する操作を行っている。
各表に示される物性の原油生成物も、接触帯から留出した段階のものであるからそもそも触媒は含有しないものと解される。また例21は唯一スラリー状接触の例であるが、接触後にフィルター及び/又は遠心器のような分離装置を用いて原油生成物を分離すると明記されており、これも触媒は除去されていて含有しない。そしてこれら例では、各表に原油生成物中に存在する硫黄他の不純物の評価が記載されているが、輸送や処理中の安定性、腐食及び摩擦の程度、水分離能力については評価した記載を発見できない。
したがって、これらの例からは輸送や処理中の安定化、腐食及び摩擦の防止、水分離能力を向上等の効果を有すると結論づけることは到底できない。
さらに、触媒を原油原料に単に添加した場合に、その触媒をいくらか含有する原油生成物がどのような性状を示すかは、通常は予測性の無い事項である。技術常識を勘案するとしても、触媒を所定量含有することで、輸送や処理中の安定化を助ける、腐食及び摩擦を防止する、原油生成物の水分離能力を向上するなどの事項がこの出願前、周知技術又は技術常識化しており、ふんだんに証拠となる文献が存在するためデータを提示するまでもないといった事情も見いだせない。
……
そうすると、本願各請求項に係る発明は明細書の記載により実質的に裏付けられておらず、請求項1と引用する各請求項に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。」

4.当審の判断
そこで、原査定の拒絶理由のうち理由3について、その当否につき検討する。

(1)本願明細書の発明の詳細な説明の記載
本願明細書の発明の詳細な説明(以下、単に「発明の詳細な説明」という。)には、以下の記載がある。

ア.「【技術分野】
発明の分野
本発明は、一般には原油原料(crude feed)を処理するためのシステム、方法及び触媒に関し、またこのようなシステム、方法及び触媒を用いて製造できる組成物に関する。更に詳しくは、ここで説明した特定の実施態様は、原油原料を、25℃、0.101MPaにおいて液体混合物であって、該原油原料の特性に対してそれぞれ変化させた1種以上の特性を有する原油生成物を含む全生成物に転化するためのシステム、方法及び触媒に関する。
【背景技術】
関連技術の説明
原油を経済的に輸送できないか、或いは従来の設備を用いて処理できないような不適当な特性を1つ以上有する原油(crude)は、普通、“不利な原油”と言われている。
……
要するに、不利な原油は、一般に望ましくない特性(例えば比較的高いTAN、処理中、不安定化する傾向、及び/又は処理中、比較的多量の水素を消費する傾向)を有する。他の望ましくない特性は、望ましくない成分(例えば残留物、有機的に結合したヘテロ原子、金属汚染物、有機酸金属塩中の金属、及び/又は有機酸素化合物)を比較的多量に含有することである。これらの特性は、従来の輸送及び/又は処理設備において、腐食の増大、触媒寿命の低下、プロセスの閉塞、及び/又は処理中の水素の使用量増大等の問題を起こしやすい。
……
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
したがって、不利な原油を更に望ましい特性を有する原油生成物に転化するために改良したシステム、方法、及び/又は触媒が極めて経済的かつ技術的に必要である。また、不利な原油の選択した特性を変える場合、他の特性だけを選択的に変化させながら、選択した特性を変化できるシステム、方法、及び/又は触媒も極めて経済的かつ技術的に必要である。
【課題を解決するための手段】
発明の概要
ここに記載の発明は、一般的には原油原料を、原油生成物及び、幾つかの実施態様では、非凝縮性ガスを含む全生成物に転化するためのシステム、方法及び触媒に関する。ここに記載の発明は、一般的には各種成分の新規な組合わせからなる新規な組成物にも関する。このような組成物は、ここに記載のシステム及び方法を用いて得られる。」(段落0001?0014)

イ.「また本発明は、0.101MPaにおいて95?260℃の沸点範囲を有する炭化水素を原油組成物1g当たり0.001g以上、0.101MPaにおいて260?320℃の沸点範囲を有する炭化水素を原油組成物1g当たり0.001g以上、0.101MPaにおいて320?650℃の沸点範囲を有する炭化水素を原油組成物1g当たり0.001g以上、及び1種以上の触媒を原油組成物1g当たり0gを超え0.01g未満含有する原油組成物も提供する。」(段落0062)

ウ.「【発明を実施するための最良の形態】
幾つかの実施態様では、本発明は、本発明方法又は組成物の1つ以上と組合わせて、以下の原油原料も提供する。この原油原料は、(a)製油所で処理、蒸留、及び/又は分別蒸留されされていない、(b)炭素数が5以上の成分を原油原料1g当たり0.5g以上含有し、(c)炭化水素の一部は、0.101MPaで100℃未満の沸点範囲分布、0.101MPaで100?200℃の沸点範囲分布、0.101MPaで200?300℃の沸点範囲分布、0.101Mpaで300?400℃の沸点範囲分布、及び0.101MPaで400?650℃の沸点範囲分布である炭化水素を含み、(d)原油原料1g当たり、沸点範囲分布が0.101MPaで100℃未満の炭化水素を0.001g以上、沸点範囲分布が0.101MPaで100?200℃の炭化水素を0.001g以上、沸点範囲分布が0.101Mpaで200?300℃の炭化水素を0.001g以上、沸点範囲分布が0.101MPaで300?400℃の炭化水素を0.001g以上、及び沸点範囲分布が0.101MPaで400?650℃の炭化水素を0.001g以上含み、(e)TANが0.1以上、0.3以上、或いは0.3?20、0.4?10又は0.5?5の範囲であり、(f)初期沸点が0.101MPaで200℃以上であり、(g)ニッケル、バナジウム及び鉄を含み、(h)合計Ni/V/Fe含有量が原油原料1g当たり0.00002g以上であり、(i)硫黄を含有し、(j)硫黄含有量が原油原料1g当たり少なくとも0.0001g又は0.05gであり、(k)VGO含有量が原油原料1g当たり0.001g以上であり、(l)残留物含有量が原油原料1g当たり0.1g以上であり、(m)酸素含有炭化水素を含み、(n)1種以上の有機酸の1種以上のアルカリ金属塩、1種以上の有機酸の1種以上のアルカリ土類金属塩、又はそれらの混合物を含み、(o)有機酸の少なくとも1種の亜鉛塩を含み、及び/又は(p)有機酸の少なくとも1種の砒素塩を含む。
幾つかの実施態様では、本発明は、本発明方法又は組成物の1つ以上と組合わせて、原油(crude)からナフサ及びナフサよりも揮発性の化合物を除去して得られる原油原料も提供する。」(段落0069?0070)

エ.「幾つかの実施態様では、本発明は、本発明方法又は組成物の1つ以上と組合わせて、原油生成物も提供する。この原油生成物は、(a)TANが0.1以下、又は0.001?0.5、0.01?0.2、又は0.05?0.1であり、(b)有機酸金属塩中にアルカリ金属及びアルカリ土類金属を、原油生成物1g当たり0.000009g以下含有し、(c)Ni/V/Feを原油生成物1g当たり0.00002g以下含有し、及び/又は(d)原油生成物1g当たり、触媒の少なくとも1種を、0gを超え0.01g未満含有する。
……
幾つかの実施態様では、本発明は、本発明方法又は組成物の1つ以上と組合わせて、原油組成物も提供する。この原油組成物は、(a)TANが1以下、0.5以下、0.3以下又は0.1以下であり、(b)組成物1g当たり、沸点範囲分布が0.101MPaで95?260℃の炭化水素を0.001g以上、沸点範囲分布が0.101MPaで260?320℃の炭化水素を0.001g以上、0.005g以上、又は0.01g以上、及び沸点範囲分布が0.101MPaで320?650℃の炭化水素を0.001g以上含有し、(c)塩基性窒素を組成物1g当たり0.0005g以上含有し、(d)全窒素を組成物1g当たり0.001g以上又は0.01g以上含有し、及び/又は(e)合計ニッケル及びバナジウムを組成物1g当たり0.00005g以下含有する。
幾つかの実施態様では、本発明は、本発明方法又は組成物の1つ以上と組合わせて、1種以上の触媒を含む原油組成物も提供する。ここで、触媒の少なくとも1種は、(a)中央値細孔径が180Å以上、500Å以下、及び/又は90?180Å、100?140Å、120?130Åの範囲である細孔サイズ分布を有し、(b)中央値細孔径が90Å以上であり、かつ細孔サイズ分布での全細孔数の60%を超える細孔が中央値細孔径の45Å以内、35Å以内、又は25Å以内の細孔径を有し、(c)表面積が100m2/g以上、120m2/g以上又は220m2/g以上であり、及び/又は(d)アルミナ、シリカ、シリカ-アルミナ、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、ゼオライト、及び/又はそれらの混合物を含む支持体を有し、(e)周期表第5?10欄の1種以上の金属、第5?10欄の1種以上の金属の1種以上の化合物、又はそれらの混合物を含み、(f)周期表第5欄の1種以上の金属、第5欄の1種以上の金属の1種以上の化合物、又はそれらの混合物を含み、(g)周期表第5欄の1種以上の金属、第5欄の1種以上の金属の1種以上の化合物、又はそれらの混合物を、触媒1g当たり0.0001g以上含有し、(h)周期表第6欄の1種以上の金属、第6欄の1種以上の金属の1種以上の化合物、又はそれらの混合物を含み、(i)周期表第6欄の1種以上の金属、第6欄の1種以上の金属の1種以上の化合物、又はそれらの混合物を、触媒1g当たり0.0001g以上含有し、(j)周期表第10欄の1種以上の金属、第10欄の1種以上の金属の1種以上の化合物、又はそれらの混合物を含み、及び/又は(k)周期表第15欄の1種以上の元素、第15欄の1種以上の元素の1種以上の化合物、又はそれらの混合物を含む。
……
更なる実施態様では、原油生成物は、ここで説明した方法及びシステムのいずれかで得られる。
更なる実施態様では、ここで説明した特定の実施態様に他の特徴を追加してよい。」(段落0083、0086?0088)

オ.「原油は、炭化水素含有配合物から製造及び/又は乾留(retort)し、次いで安定化してよい。原油は生原油(crude oil)を含有してよい。原油は、一般に固体、半固体、及び/又は液体である。安定化法としては、限定されるものではないが、原油から非凝縮性ガス、水、塩又はそれらの組合わせを除去して、安定化原油を形成する方法が挙げられる。このような安定化は、多くの場合、製造及び/又は乾留場所又はその近辺で行ってよい。
安定化原油は、通常、特定の沸点範囲分布を有する複数の成分(例えばナフサ、蒸留物、VGO、及び/又は潤滑油)を製造するために、処理設備で蒸留又は精留を行っていない。蒸留法としては、限定されるものではないが、常圧蒸留法及び/又は真空蒸留法が挙げられる。未蒸留及び/又は非精留安定化原油は、炭素数が5以上の成分を、原油1g当たり0.5g以上の量で含有してよい。安定化原油の例としては、原油全体、トッピング済み(topped)原油、脱塩原油、トッピング済み脱塩原油、又はそれらの組合わせが挙げられる。“トッピング済み”とは、0.101MPaにおいて35℃未満(1気圧で95°F未満)の沸点を有する複数成分の少なくとも幾つかの成分が除去されるように、処理した原油を言う。通常、トッピング済み原油は、これらの成分を、トッピング済み原油1g当たり0.1g以下、0.05g以下又は0.02g以下含有する。
幾つかの安定化原油は、輸送キャリヤー(例えばパイプライン、トラック又は船舶)により従来の処理設備に輸送可能な特性を有する。その他の原油は、不利になる不適当な特性を1つ以上有する。不利な原油は、輸送キャリヤー及び/又は処理設備に受入れ不能かも知れず、したがって、不利な原油に与える経済的価値は低い。この経済的価値は、不利な原油を含むリザーバーが製造、輸送及び/又は処理にコストがかかり過ぎるとみなされるような価値であるかも知れない。
……
不利な原油は、該原油1g当たり、沸点範囲分布が0.101MPaにおいて95?200℃の炭化水素を0.001g以上、0.005g以上又は0.01g以上;沸点範囲分布が0.101MPaにおいて200?300℃の炭化水素を0.01g以上、0.005g以上又は0.001g以上;沸点範囲分布が0.101MPaにおいて300?400℃の炭化水素を0.001g以上、0.005g以上又は0.01g以上;及び沸点範囲分布が0.101MPaにおいて400?650℃の炭化水素を0.001g以上、0.005g以上又は0.01g以上含有してよい。
不利な原油は、該原油1g当たり、沸点範囲分布が0.101MPaにおいて100℃以下の炭化水素を0.001g以上、0.005g以上又は0.01g以上;沸点範囲分布が0.101MPaにおいて100?200℃の炭化水素を0.001g以上、0.005g以上又は0.01g以上;沸点範囲分布が0.101MPaにおいて200?300℃の炭化水素を0.001g以上、0.005g以上又は0.01g以上;沸点範囲分布が0.101MPaにおいて300?400℃の炭化水素を0.001g以上、0.005g以上又は0.01g以上;及び沸点範囲分布が0.101MPaにおいて400?650℃の炭化水素を0.001g以上、0.005g以上又は0.01g以上含有してよい。
幾つかの不利な原油は、沸点が100℃を超える成分の他に、沸点範囲分布が0.101MPaにおいて100℃以下の炭化水素を、該原油1g当たり0.001g以上、0.005g以上又は0.01g以上含有してよい。通常、不利な原油は、このような炭化水素を、該原油1g当たり0.2g以下又は0.1g以下含有してよい。
幾つかの不利な原油は、沸点範囲分布が0.101MPaにおいて200℃以上の炭化水素を、該原油1g当たり0.001g以上、0.005g以上又は0.01g以上含有してよい。
幾つかの不利な原油は、沸点範囲分布が0.101MPaにおいて650℃以上の炭化水素を、該原油1g当たり0.001g以上、0.005g以上又は0.01g以上含有してよい。
……
処理すべき原油及び/又は不利な原油は、ここでは“原油原料”と言う。原油原料は、ここで説明したようにトッピングしてよい。原油原料の処理で得られる原油生成物は、一般に輸送及び/又は処理用に好適である。ここで説明したように製造した原油生成物の特性は、原油原料よりもWest Texas Intermediate原油の対応する特性に近いか、或いはBrent原油の対応する特性に近いので、原油原料の経済的価値が高まる。このような原油生成物は、予備処理を少なくするか、予備処理しないで、精製できるので、精製効率が高まる。予備処理には、不純物を除去するための、脱硫、脱金属及び/又は大気圧蒸留を含んでよい。」(段落0107?0117)

カ.「原油生成物及び/又はブレンド生成物は、製油所及び/又は処理設備に輸送される。原油生成物及び/又はブレンド生成物は、輸送用燃料、加熱用燃料、潤滑剤又は化学薬品のような工業製品を製造するため、処理してよい。処理には、1種以上の蒸留物フラクションを製造するための原油生成物及び/又はブレンド生成物の蒸留及び/又は分別蒸留が含まれる。幾つかの実施態様では、原油生成物、ブレンド生成物及び/又は1種以上の蒸留物フラクションを水素化してよい。」(段落0135)

キ.「原油生成物は、或る沸点範囲の成分を含有する。幾つかの実施態様では原油生成物は、原油生成物1g当たり、沸点範囲分布が0.101MPaで100℃以下の炭化水素を0.001g以上、又は0.001?0.5g;沸点範囲分布が0.101Mpaで100?200℃の炭化水素を0.001g以上、又は0.001?0.5g;沸点範囲分布が0.101Mpaで200?300℃の炭化水素を0.001g以上、又は0.001?0.5g;沸点範囲分布が0.101MPaで300?400℃の炭化水素を0.001g以上、又は0.001?0.5g ;及び沸点範囲分布が0.101MPaで400?538℃の炭化水素を0.001g以上、又は0.001?0.5g含有する。
幾つかの実施態様では原油生成物は、原油生成物1g当たり、沸点範囲分布が0.101MPaで100℃以下の炭化水素を0.001g以上、及び/又は沸点範囲分布が0.101Mpaで100?200℃の炭化水素を0.001g以上含有する。
幾つかの実施態様では原油生成物は、ナフサを原油生成物1g当たり0.001g以上又は0.01g以上含有してよい。他の実施態様では原油生成物は、ナフサを原油生成物1g当たり0.6g以下又は0.8g以下の含有量で含有してよい。」(段落0148?0149)

ク.「幾つかの実施態様では原油生成物は、触媒を原油生成物1g当たり、0gを超え0.01g未満、0.000001?0.001g、又は0.00001?0.0001g含有する。この触媒は、輸送及び/又は処理中、原油生成物の安定化を助ける。また触媒は、腐食及び摩擦を防止し、及び/又は原油生成物の水分離能力を向上できる。ここで説明した方法は、処理中、原油生成物に、ここで説明した1種以上の触媒を加えるように構成してもよい。」(段落0155)

(2)発明の詳細な説明に記載された発明
本願発明は「原油生成物」に係るものであるが、当該原油生成物はその沸点範囲分布及び特定の1種以上の触媒を含有することにより特定されているところ、このような本願発明に関して、発明の詳細な説明には、以下の事項が記載されている。
「また本発明は、0.101MPaにおいて95?260℃の沸点範囲を有する炭化水素を原油組成物1g当たり0.001g以上、0.101MPaにおいて260?320℃の沸点範囲を有する炭化水素を原油組成物1g当たり0.001g以上、0.101MPaにおいて320?650℃の沸点範囲を有する炭化水素を原油組成物1g当たり0.001g以上、及び1種以上の触媒を原油組成物1g当たり0gを超え0.01g未満含有する原油組成物も提供する。」(摘示イ)
「幾つかの実施態様では、本発明は、本発明方法又は組成物の1つ以上と組合わせて、原油生成物も提供する。この原油生成物は、……(d)原油生成物1g当たり、触媒の少なくとも1種を、0gを超え0.01g未満含有する。」(摘示エ)
「幾つかの実施態様では、本発明は、本発明方法又は組成物の1つ以上と組合わせて、原油組成物も提供する。この原油組成物は、……、(b)組成物1g当たり、沸点範囲分布が0.101MPaで95?260℃の炭化水素を0.001g以上、沸点範囲分布が0.101MPaで260?320℃の炭化水素を0.001g以上、0.005g以上、又は0.01g以上、及び沸点範囲分布が0.101MPaで320?650℃の炭化水素を0.001g以上含有し、……。
幾つかの実施態様では、本発明は、本発明方法又は組成物の1つ以上と組合わせて、1種以上の触媒を含む原油組成物も提供する。ここで、触媒の少なくとも1種は、……(d)アルミナ、シリカ、シリカ-アルミナ、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、ゼオライト、及び/又はそれらの混合物を含む支持体を有し、(e)周期表第5?10欄の1種以上の金属、第5?10欄の1種以上の金属の1種以上の化合物、又はそれらの混合物を含み、……。」(摘示エ)
「幾つかの実施態様では原油生成物は、触媒を原油生成物1g当たり、0gを超え0.01g未満、0.000001?0.001g、又は0.00001?0.0001g含有する。」(摘示ク)

なお、発明の詳細な説明には、「原油生成物」の他に「原油組成物」との用語が使用されているところ(摘示イ及びエ)、両者をどのように使い分けているのかは必ずしも明らかではない。ただし、「原油生成物」については、原油原料(処理すべき原油及び/又は不利な原油)の処理で得られ、一般に輸送及び/又は処理用に好適なものであって、予備処理(不純物を除去するための、脱硫、脱金属及び/又は大気圧蒸留等)を少なくするか、しないで、精製できるもの(摘示オ)、又は、製油所及び/又は処理設備に輸送され、輸送用燃料、加熱用燃料、潤滑剤又は化学薬品のような工業製品を製造するために処理(1種以上の蒸留物フラクションを製造するための、蒸留及び/又は分別蒸留、又は当該蒸留物フラクションの水素化等)される(摘示カ)旨の説明がある一方で、「原油組成物」についてはなんら説明がないことにかんがみれば、「原油生成物」と「原油組成物」とは同じ意味で使用されているものと解される。

そうすると、発明の詳細な説明には、「0.101MPaにおいて95?260℃の沸点範囲を有する炭化水素を原油生成物1g当たり0.001g以上、0.101MPaにおいて260?320℃の沸点範囲を有する炭化水素を原油生成物1g当たり0.001g以上、0.101MPaにおいて320?650℃の沸点範囲を有する炭化水素を原油生成物1g当たり0.001g以上、及び1種以上の触媒を原油生成物1g当たり0gを超え0.01g未満含有する原油生成物」の点、及び、1種以上の触媒を含む原油組成物において、触媒の少なくとも1種は、「アルミナ、シリカ、シリカ-アルミナ、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、ゼオライト、及び/又はそれらの混合物を含む支持体を有し、周期表第5?10欄の1種以上の金属、第5?10欄の1種以上の金属の1種以上の化合物、又はそれらの混合物」を含む点が記載されているから、形式的には本願発明が記載されているといえる。

(3)サポート要件について
ア.特許法第36条第6項第1号の規定に関し、知的財産高等裁判所平成17年(行ケ)第10042号大合議判決では、次のように判示している。
「特許制度は,発明を公開させることを前提に,当該発明に特許を付与して,一定期間その発明を業として独占的,排他的に実施することを保障し,もって,発明を奨励し,産業の発達に寄与することを趣旨とするものである。そして,ある発明について特許を受けようとする者が願書に添付すべき明細書は,本来,当該発明の技術内容を一般に開示するとともに,特許権として成立した後にその効力の及ぶ範囲(特許発明の技術的範囲)を明らかにするという役割を有するものであるから,特許請求の範囲に発明として記載して特許を受けるためには,明細書の発明の詳細な説明に,当該発明の課題が解決できることを当業者において認識できるように記載しなければならないというべきである。特許法旧36条5項1号の規定する明細書のサポート要件が,特許請求の範囲の記載を上記規定のように限定したのは,発明の詳細な説明に記載していない発明を特許請求の範囲に記載すると,公開されていない発明について独占的,排他的な権利が発生することになり,一般公衆からその自由利用の利益を奪い,ひいては産業の発達を阻害するおそれを生じ,上記の特許制度の趣旨に反することになるからである。
そして,特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり,明細書のサポート要件の存在は,特許出願人又は特許権者が証明責任を負うと解するのが相当である。」
上記判示に従えば、発明の詳細な説明に形式的に記載されているとした本願発明が「発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か」、また、「その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か」を検討する必要がある。

イ.発明が解決しようとする課題
発明の詳細な説明の記載(摘示ア)によれば、「不利な原油(経済的に輸送できないか、或いは従来の設備を用いて処理できないような不適当な特性を1つ以上有する原油)は、一般的に望ましくない特性を有し、これらの特性は、従来の輸送及び/又は処理設備において、腐食の増大、触媒寿命の劣化、プロセスの閉塞、及び/又は処理中の水素の使用量増大等の問題を起こしやすい」ことから、「不利な原油を更に望ましい特性を有する原油生成物に転化するために改良したシステム、方法、及び/又は触媒」や「不利な原油の選択した特性を変える場合、他の特性だけを選択的に変化させながら、選択した特性を変化できるシステム、方法、及び/又は触媒」が極めて経済的かつ技術的に必要であるとして、「原油原料を、(25℃、0.101MPaにおいて液体混合物であって、該原油原料の特性に対してそれぞれ変化させた1種以上の特性を有する)原油生成物を含む全生成物に転化するためのシステム、方法及び触媒」、更には「このようなシステム、方法及び触媒を用いて製造できる(各種成分の組合せからなる)組成物」を提供しようとするものであることが記載されている。
そうすると、従来の輸送及び/又は処理設備では問題を起こす望ましくない特性を有する原油原料(不利な原油)について、問題を起こさないように更に望ましい特性に変化させた原油生成物を得ることが、発明が解決しようとする課題であるといえる。

また、「いくつかの実施態様では原油生成物は、触媒を原油生成物1g当たり、0gを超え0.01g未満、……含有する。この触媒は、輸送及び/又は処理中、原油生成物の安定化を助ける。また触媒は、腐食及び摩擦を防止し、及び/又は原油生成物の水分離能力を向上できる。」(摘示ク)と記載されており、原油生成物が1種以上の触媒を含有することの作用が述べられている。
そうすると、「輸送及び/又は処理中、原油生成物の安定化を助け、腐食及び摩擦を防止し、及び/又は原油生成物の水分離能力を向上する」ことも、発明が解決しようとする課題であると解される。

ウ.検討
(ア)「原油生成物」の沸点範囲分布について
本願発明における原油生成物の沸点範囲分布は「0.101MPaにおいて95?260℃の沸点範囲分布を有する炭化水素を原油生成物1g当たり0.001g以上、0.101MPaにおいて260?320℃の沸点範囲分布を有する炭化水素を原油生成物1g当たり0.001g以上、0.101MPaにおいて320?650℃の沸点範囲を有する炭化水素を原油生成物1g当たり0.001g以上」というものである。
発明の詳細な説明には、原油生成物の沸点範囲分布について、本願発明と同一のものが摘示イ及びエにおいて示されている。また、摘示キにも原油生成物の沸点範囲分布の記載があるが、これは、本願発明における原油生成物の沸点範囲分布とは異なるものである。そして、いずれの沸点範囲分布についてもその技術的な意義は示されていない。
本願発明の「原油生成物」は、摘示アによれば、原油原料(特に不利な原油)が有する不適当な特性の1つ以上を望ましい特性にそれぞれ変化させたものであると解されるが、本願発明が特定する沸点範囲分布は、原油原料におけるどのような不適当な特性を変化させたものか不明である。
例えば、発明の詳細な説明には、原油原料の沸点範囲分布について
「(b)炭素数が5以上の成分を原油原料1g当たり0.5g以上含有し、(c)炭化水素の一部は、0.101MPaで100℃未満の沸点範囲分布、0.101MPaで100?200℃の沸点範囲分布、0.101MPaで200?300℃の沸点範囲分布、0.101Mpaで300?400℃の沸点範囲分布、及び0.101MPaで400?650℃の沸点範囲分布である炭化水素を含み、(d)原油原料1g当たり、沸点範囲分布が0.101MPaで100℃未満の炭化水素を0.001g以上、沸点範囲分布が0.101MPaで100?200℃の炭化水素を0.001g以上、沸点範囲分布が0.101Mpaで200?300℃の炭化水素を0.001g以上、沸点範囲分布が0.101MPaで300?400℃の炭化水素を0.001g以上、及び沸点範囲分布が0.101MPaで400?650℃の炭化水素を0.001g以上含み、……、(f)所期沸点が0.101MPaで200℃以上であり」(摘示ウ)
「原油(crude)からナフサ及びナフサよりも揮発性の化合物を除去して得られる原油原料も提供する。」(摘示ウ)
「不利な原油は、該原油1g当たり、沸点範囲分布が0.101MPaにおいて95?200℃の炭化水素を0.001g以上、0.005g以上又は0.01g以上;沸点範囲分布が0.101MPaにおいて200?300℃の炭化水素を0.01g以上、0.005g以上又は0.001g以上;沸点範囲分布が0.101MPaにおいて300?400℃の炭化水素を0.001g以上、0.005g以上又は0.01g以上;及び沸点範囲分布が0.101MPaにおいて400?650℃の炭化水素を0.001g以上、0.005g以上又は0.01g以上含有してよい。
不利な原油は、該原油1g当たり、沸点範囲分布が0.101MPaにおいて100℃以下の炭化水素を0.001g以上、0.005g以上又は0.01g以上;沸点範囲分布が0.101MPaにおいて100?200℃の炭化水素を0.001g以上、0.005g以上又は0.01g以上;沸点範囲分布が0.101MPaにおいて200?300℃の炭化水素を0.001g以上、0.005g以上又は0.01g以上;沸点範囲分布が0.101MPaにおいて300?400℃の炭化水素を0.001g以上、0.005g以上又は0.01g以上;及び沸点範囲分布が0.101MPaにおいて400?650℃の炭化水素を0.001g以上、0.005g以上又は0.01g以上含有してよい。
幾つかの不利な原油は、沸点が100℃を超える成分の他に、沸点範囲分布が0.101MPaにおいて100℃以下の炭化水素を、該原油1g当たり0.001g以上、0.005g以上又は0.01g以上含有してよい。通常、不利な原油は、このような炭化水素を、該原油1g当たり0.2g以下又は0.1g以下含有してよい。
幾つかの不利な原油は、沸点範囲分布が0.101MPaにおいて200℃以上の炭化水素を、該原油1g当たり0.001g以上、0.005g以上又は0.01g以上含有してよい。
幾つかの不利な原油は、沸点範囲分布が0.101MPaにおいて650℃以上の炭化水素を、該原油1g当たり0.001g以上、0.005g以上又は0.01g以上含有してよい。」(摘示オ)
との記載があるが、これらの原油原料の沸点範囲分布は本願発明の「原油生成物」の沸点範囲分布と実質的な差異はないものと解される。(そもそも、本願発明においては、原油生成物1g当たり、合計0.003g以上(0.3重量%以上)の炭化水素成分の含有量しか特定していないのであるから、明らかに多種多様の炭化水素組成を有する原油原料もそのような特定範囲に含まれるものといえる。)
そして、発明の詳細な説明には、背景技術として、「不利な原油は、一般に望ましくない特性(例えば比較的高いTAN、処理中、不安定化する傾向、及び/又は処理中、比較的多量の水素を消費する傾向)を有する。他の望ましくない特性は、望ましくない成分(例えば残留物、有機的に結合したヘテロ原子、金属汚染物、有機酸金属塩中の金属、及び/又は有機酸素化合物)を比較的多量に含有することである。これらの特性は、従来の輸送及び/又は処理設備において、腐食の増大、触媒寿命の低下、プロセスの閉塞、及び/又は処理中の水素の使用量増大等の問題を起こしやすい。」(摘示ア)と記載され、また、例えば、摘示ウには、原油原料について、「TAN(全酸価)」、「ニッケル、バナジウム及び鉄」、「硫黄」、「VGO(真空ガス油)」、「残留物」、「酸素含有炭化水素」、「有機酸のアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩」、「有機酸の亜鉛塩」及び/又は「有機酸の砒素塩」を含むことが記載されているように、本願発明においては、「原油原料(特に不利な原油)」は「望ましくない特性」及び当該特性を誘導する「望ましくない成分」を有しているものであることから、このような望ましくない特性の少なくとも一部を変化させることにより、望ましい特性を有する「原油生成物」を得ることを、発明が解決しようとする課題とするものであるが、本願発明の原油生成物はこのような望ましくない特性/成分については何も触れておらず、原油原料が有する望ましくない特性/成分について変化させたものであることが明らかではないことから、当該課題を解決できるものであるとは認められない。

(イ)触媒について
まず、摘示イ及びクにおいては、「1種以上の触媒」又は「触媒」と記載されているのみで、どのような触媒か何も記載されていない。一方、摘示エには、1種以上の触媒を含む原油組成物において、触媒の少なくとも1種は、「(d)アルミナ、シリカ、シリカ-アルミナ、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、ゼオライト、及び/又はそれらの混合物を含む支持体を有し、(e)周期表第5?10欄の1種以上の金属、第5?10欄の1種以上の金属の1種以上の化合物、又はそれらの混合物」を含むことが記載されている。
ところで、本願発明における「触媒の少なくとも1種は、周期表第5?10族の1種以上の金属、及び/又は周期表第5?10族の1種以上の金属の1種以上の化合物を含み、該1種以上の金属を含んだ触媒は支持体を有し、該支持体は、アルミナ、θ-アルミナ、γ-アルミナ、シリカ、シリカ-アルミナ、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、又はそれらの混合物を含む」との事項について検討すると、発明の詳細な説明には、実施例の記載を含めて、当該触媒は、原油原料を接触させて25℃、0.101MPaにおいて液体混合物である(又は凝縮可能な)原油生成物を含む全生成物を製造するために使用することが記載されているにすぎず、原油生成物にさらに加えることによって、発明が解決しようとする課題に係る「原油生成物の安定化」や「腐食及び摩擦を防止し、原油生成物の水分離能力を向上」させることに寄与する触媒であることは一切記載されていない。特に、触媒及びその使用について記載された段落0157?0212(摘示していない)や実施例(段落0214?0270:摘示していない)をみても、当該触媒は原油原料に接触させて原油生成物を製造するためのものであることしか記載されていない。
ここで、触媒はある目的(反応)に応じて種々のものが使用されるものであり、一般的には、ある触媒が特定の反応に関与することが知られているとしても、その触媒が他の反応にも有効であるとは必ずしもいえず、したがって、単に「1種以上の触媒」というだけでは、どのような触媒か特定できないものである。
特に、上記したとおり、原油生成物に触媒を添加する目的が「輸送及び/又は処理中、原油生成物の安定化を助ける。また触媒は、腐食及び摩擦を防止し、及び/又は原油生成物の水分離能力を向上できる。」というものである場合には、その目的(課題)に応じた触媒を使用する必要があるが、そのような課題を解決し得る触媒は当業者に自明であるとはいえない。
そうすると、「原油生成物の安定化」や「腐食及び摩擦を防止し、原油生成物の水分離能力を向上」させるとの課題を解決するような触媒については、発明の詳細な説明には記載されているということはできない。

(ウ)触媒の含有量について
触媒の含有量については、発明の詳細な説明の摘示イ、エ及びクに一応記載されている。
このうち、摘示イ及びエには、原油生成物に触媒を含有させることの意義については何も記載されていないが、摘示クには、「この触媒は、輸送及び/又は処理中、原油生成物の安定化を助ける。また触媒は、腐食及び摩擦を防止し、及び/又は原油生成物の水分離能力を向上できる。」と記載されているものの、具体的に特定された含有量で触媒を含む原油生成物は発明の詳細な説明には一切記載されていない。
特に、実施例においては、原油原料を1種以上の触媒に接触させて原油生成物を得ることについて具体的に記載されているが(例5?21)、この原油生成物が1種以上の触媒を0gを超え0.01g未満含有するものであることは記載されていない。
そもそも、上記したとおり、触媒自体が発明が解決しようとする課題を解決できるように記載されていないのであるから、その触媒の含有量についても同様に記載されているということはできない。

なお、原油原料に接触させて原油生成物を製造するために使用する触媒の一部が、製造された原油生成物に混入されているとしても、そのような触媒(もはや“触媒”と呼ぶことが適切か否かは措くとして)が原油生成物のなかでどのような挙動をする(効果を奏する)のかは当業者が理解できるところではなく、したがって、そのような触媒を含有する原油生成物が上記発明が解決しようとする課題を解決できることは明らかではない。

(4)まとめ
そうすると、本願発明は、上記したように、形式的には発明の詳細な説明に記載されているとしても、発明の詳細な説明には、本願発明が発明が解決しようとする課題を解決できることを当業者に理解できるように記載されておらず、本願発明は、発明の詳細な説明に記載したものということはできない。

(5)請求人の主張について
請求人は、審判請求書の請求の理由において、特許法第36条第6項第1号違反の拒絶理由について、以下の主張をしている。
「本願明細書は複数の発明の出願にそれぞれ別々の特許出願として使用されていることに注目して頂きたい。このような明細書を、本願請求項の発明が明細書の記載に裏付けられていない証拠として使用すべきではない。」
「出願人は、特定量の触媒を原油生成物に混合することを実施例において詳細に記載する必要はないと考える。」

しかし、いずれの主張もその根拠が記載されていない。
請求人は、「本願明細書は複数の発明の出願にそれぞれ別々の特許出願として使用されていることに注目して頂きたい。」と述べるが(なお、請求人は、その主張の根拠となる複数の発明の出願の存在すら立証していない。)、そもそも明細書及び特許請求の範囲の記載要件は各出願ごとに判断すべきものであるから、本願明細書が別の特許出願として使用されていることは、本願発明についての明細書及び特許請求の範囲に係る記載要件を緩和する理由にはなり得ず、したがって、本願明細書が別の特許出願として使用されているか否かとは無関係に、特許請求の範囲の請求項に記載された発明は、発明の詳細な説明に具体的に記載されている必要がある。そうすると、なぜ「このような明細書を、本願請求項の発明が明細書の記載に裏付けられていない証拠として使用すべきではない。」と言えるのか、その具体的な理由をまったく理解できないものである。

また、「出願人は、特定量の触媒を原油生成物に混合することを実施例において詳細に記載する必要はないと考える。」との主張についても、その理由が示されておらず、なぜそのように言えるのか、まったく理解できないものである。
本願発明において、「特定量の触媒を原油生成物に混合すること」により新たな効果が奏される場合には、当業者がその記載がなくても理解できる場合を除き、その新たな効果について当業者が理解できるように、発明の詳細な説明に実施例を示すなどして具体的に記載する必要がある。そして、新規な発明というのであれば、一般的にはその効果は実施例等の具体的な記載なしには当業者が理解することができるものとはいえないはずである。

したがって、請求人のいずれの主張も採用することはできない。

5.むすび
以上のとおりであるから、請求項1の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、同項に規定する要件を満たしていない。
そうすると、他の拒絶理由について検討するまでもなく、原査定の拒絶理由の理由3と同一の理由により、本願は拒絶すべきものである。
よって、上記結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-08-08 
結審通知日 2013-08-09 
審決日 2013-08-23 
出願番号 特願2006-545529(P2006-545529)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C10G)
P 1 8・ 537- Z (C10G)
P 1 8・ 113- Z (C10G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 澤村 茂実  
特許庁審判長 松浦 新司
特許庁審判官 新居田 知生
橋本 栄和
発明の名称 原油生成物を製造するためのシステム、方法及び触媒  
代理人 小林 泰  
代理人 寺地 拓己  
代理人 星野 修  
代理人 富田 博行  
代理人 沖本 一暁  
代理人 小野 新次郎  
代理人 田上 靖子  
代理人 奥村 義道  
代理人 野口 勝彦  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ