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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  A21C
管理番号 1283683
審判番号 無効2013-800096  
総通号数 171 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-03-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2013-05-29 
確定日 2014-01-14 
事件の表示 上記当事者間の特許第5140492号発明「包被食品製造装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第5140492号は、平成20年5月23日に出願され、平成24年11月22日に設定登録がなされたものである。
また、本件無効審判請求後の手続の経緯は、以下のとおりである。

平成25年 5月29日 無効審判請求
平成25年 8月27日 答弁書提出
平成25年10月 3日 口頭審理陳述要領書提出(請求人)
平成25年10月17日 口頭審理陳述要領書提出(被請求人)
平成25年10月31日 口頭審理

2.本件特許発明
本件特許第5140492号の請求項1ないし4に係る発明(以下「本件特許発明1」ないし「本件特許発明4」という。)は、特許明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】
外皮材でもって内材を包み込んだ構成の包被食品を製造するための包被食品製造装置であって、当該包被食品製造装置における本体フレームの前面側に備えた載置部材の開口部を覆うように偏平状の外皮材を前記載置部材上に移送するための外皮材移送手段と、前記載置部材上に載置された外皮材の外周縁部を押圧自在かつ上下動自在な生地押圧部材と、前記載置部材上の外皮材の中央部に内材を吐出自在かつ上下動自在なノズル部材と、前記載置部材の前記開口部から下降する外皮材を下側から支持自在かつ上下動自在な昇降支持手段と、前記ノズル部材及び前記生地押圧部材の上昇後に前記外皮材の周縁部を中央部に寄せ集めて封着するための封着手段と、を備え、前記ノズル部材及び生地押圧部材は個別に上下動可能かつ上下動位置を個別に調節可能であることを特徴とする包被食品製造装置。
【請求項2】
請求項1に記載の包被食品製造装置において、前記ノズル部材を上下動するためのノズル上下動機構を前記本体フレームに備えると共に、当該ノズル上下動機構に上下動自在に備えたノズル昇降部材に対して前記ノズル部材を前方向から着脱可能であり、前記生地押圧部材を上下動するための押圧部材上下動機構を前記本体フレームに備えると共に、当該押圧部材上下動機構に上下動自在に備えた押圧部材昇降部材に対して前記押圧部材を前方向から着脱可能であることを特徴とする包被食品製造装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の包被食品製造装置において、前記本体フレームの前面に備えた内材供給手段と不動状態に一体的に連結可能かつ前記本体フレームの前面に対して前方向から着脱可能に取付けた外筒内に前記ノズル部材を上下動自在に備え、前記外筒の外側に前記生地押圧部材を上下動自在に備え、前記外筒,ノズル部材及び生地押え部材によってノズルユニットを構成していることを特徴とする包被食品製造装置。
【請求項4】
請求項1,2又は3に記載の包被食品製造装置において、前記封着手段及び前記内材供給手段は、前記本体フレームに対して前方向から着脱可能であることを特徴とする包被食品製造装置。」

3.請求人の主張及び証拠方法
請求人は、「第5140492号発明の明細書の請求項1?4に係る発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、無効理由の概要は以下のとおりであると主張している。

本件特許の請求項1?4に係る特許発明は、甲第1号証ないし甲第10号証に記載された発明又は周知の発明に基づき当業者が容易に発明できたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであから、この特許は、同法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきものである。

また、請求人は、証拠方法として、以下の甲第1?13号証を提出している。ただし、甲第11?13号証は、口頭審理陳述要領書に添付して提出されたものである。
[証拠方法]
甲第1号証:特許第3587458号公報
甲第2号証:特開2001-132708号公報
甲第3号証:特開2002-250308号公報
甲第4号証:特許第3439207号公報
甲第5号証:特開平3-47025号公報
甲第6号証:特開2004-329078号公報
甲第7号証:特開2005-13843号公報
甲第8号証:特開昭52-154534号公報
甲第9号証:実願昭59-29585号(実開昭60-141791号)の明細書及び図面のマイクロフイルム
甲第10号証:実願平2-24025号(実開平3-114996号)のマイクロフイルム
甲第11号証:特開平11-137231号公報
甲第12号証:特開2000-50854号公報
甲第13号証:本件特許公報

なお、当事者間に甲第1ないし13号証の成立に争いはない。
また、請求人は、口頭審理において、甲第11及び12号証に基づく主張は、予備的な主張であり、審判請求理由の要旨を変更するものではない旨の主張をしている。

4.被請求人の主張の概要
一方、被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、」との審決を求め、上記請求人の主張に対し、以下のとおり、本件特許を無効とすべき理由はない旨の主張をしている。

本件特許発明1?4の技術思想は、甲第1号証?甲第10号証に記載された発明の技術思想とは全く異なっており、甲第1号証等は、少なくとも、技術思想を反映した本件特許の必須の構成を有していない。そして、当該技術思想の違いからすれば、本件特許発明1?4は、当業者が甲第1号証等に記載された発明に基づいて容易に想到し得たものではない。したがって、本件特許を無効にする理由はない。

また、被請求人は、証拠方法として、以下の乙第1?3号証を提出している。
[証拠方法]
乙第1号証:特許第4045319号公報
乙第2号証:特許技術用語集[初版]、8頁
乙第3号証:広辞苑[第六版]、1220頁

さらに、被請求人は、口頭審理において、甲第11及び12号証に基づく請求人の主張は、審判請求理由の要旨を変更するものであるので、甲第11及び12号証は、証拠として採用すべきではない旨の主張をしている。

5.甲各号証の記載事項
甲第1?4号証には、以下の各事項が記載されている。

[甲第1号証]
(1a)「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、食品成形装置、より詳しくは、パン生地、饅頭生地等の外皮材によって、餡、調理した肉・野菜等の内材を確実に包み込み成形することができる食品成形装置に関するものである。」

(1b)「【0009】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を添付図面に示す実施形態に基づいて詳しく説明する。図1は本発明に係る食品成形装置の正面図であり、内部構造を示すために一部断面図としている。
【0010】
図1において符号1で指示するものは、図2の平面図に示した計4枚のシャッタ片10・10…が組み合って開閉可能に構成されたシャッタである。シャッタ1は、図1及び図2に示すように、駆動軸11・11…に各々固定された各シャッタ片10がこの駆動軸11を中心に往復揺動して各シャッタ片10の先端が隣りのシャッタ片10の側辺を摺動移動するように構成されており、これらシャッタ片10・10…の側辺で囲んだ開口領域を開閉させる。図1において符号2で指示するものは、シャッタ1の上面に配置された薄板状の受け部材である。図2の平面図に示すように、受け部材2には円形状の開口部20が設けられている。・・・
【0012】
図1において符号3で指示するものは、外皮材を椀状に形成するための押込み手段である。本実施形態の押込み手段3は、図1に示すように、ステー31に固定された押込み部材30と、このステー31を上下動させる送りねじ機構32と、この送りねじ機構32を駆動するモータ33とから構成されており、このモータ33の回転方向、回転角度等を制御することによって押込み部材30を適宜に上下昇降させる。改めて詳述するが、この押込み部材30を下降させて受け部材2の開口部20に進入させて、受け部材2上に供給したシート状外皮材の中央部を窪ませて椀状に形成することができる。
【0013】
また、本実施形態では、外皮材を椀状に形成すると共に椀状形成した外皮材の底部に内材を供給する内材供給手段を備えている。即ち、押込み部材30は、下端に内材を吐出するための吐出孔を備えた筒体により構成されており、この吐出孔を開閉するための弁40が内装されている。・・・
【0014】
図1において符号5で指示するものは、外皮材の縁部を受け部材2上に保持する保持手段である。保持手段5は、押込み部材30を囲むように設けられた複数の通孔を有するリング状のステー52、このステー52の通孔に上下スライド可能に挿嵌され、上端にステー52に係止可能な頭部を備えた複数の支持ロッド51、この支持ロッド51の下端に固定されるとともに押込み部材30を囲むように設けられたリング状の押え部材50、ステー52を上下動させるエアシリンダ53を備えている。押え部材50とステー52との間には、各支持ロッド51に被嵌され、押え部材50を下方へ付勢するためのコイルばねが設けられており、押え部材50が常時下方に付勢されるようになっている。したがって、エアシリンダ53によってステー52を下降させることで、押え部材50を受け部材2上の外皮材に押し付けることができる。
【0015】
図1において符号6で指示するものは、シャッタ1の下方に配設され、外皮材を支持するための支持手段である。支持手段6は、図1に示すように、支持部材60と、この支持部材60によってベルトが上下動されるベルトコンベヤ63とから構成されている。・・・」

(1c)「【0017】
図4では、シャッタ1のシャッタ片10は閉じた状態になっている。図ではシャッタ片10の間に隙間があるが、完全に閉じた状態でも構わない。外皮材Fは受け部材2及び受け部材2の開口部20に露出したシャッタ片10の上面に載置されている。外皮材Fは従来技術と同様にベルトコンベア等により供給される。押込み部材30及び押え部材50は上昇した状態で待機している。図5では、エアシリンダ53が作動して押え部材50が下降し、外皮材Fの周縁部を受け部材2に押し付けて外皮材Fの周縁部を保持する。一方シャッタ1が開口して受け部材2の開口部20から退避し、図2(a)の状態にセットされる。図6では、押込み部材30が下降して弁40が開き、内材Gが外皮材Fの上に供給される。この場合押込み部材30が外皮材Fに接触した後内材Gを供給してもよいし、接触せずに内材Gを供給してもよく、いずれにしても外皮材Fが開口部から下方に湾曲して椀状形成がなされればよい。図7では、シャッタ1が閉動作に入り、シャッタ片10の開口領域が狭められるとともに、押え部材50が上昇して外皮材Fの周縁部は解放される。したがって、シャッタ1の閉動作に従って外皮材Fの周縁部は受け部材2の開口部20の中に引き込まれていくことになる。このとき、外皮材Fの周縁部はシャッタ1の封着面に対してほぼ沿った状態になっている。そして、シャッタ1が閉動作を完了すると、図8に示すように外皮材Fの周縁部が確実に封着され、内材Gが外皮材Fに包み込まれて成形される。・・・」

以上の記載より、甲第1号証には、以下の発明(以下「甲1発明」ともいう。)が記載されている。
「パン生地、饅頭生地等の外皮材によって、餡、調理した肉・野菜等の内材を包み込み成形することができる食品成形装置に関し、
計4枚のシャッタ片10が組み合って開閉可能に構成された外皮材の周縁部を封着するシャッタ1と、
シャッタ1の上面に配置され、外皮材を載置する円形状の開口部20が設けられた薄板状の受け部材2と、
シャッタ1の下方に配設され、支持部材60と、この支持部材60によってベルトが上下動されるベルトコンベヤ63とから構成される外皮材を支持するための支持手段6と、
ステー31に固定された押込み部材30と、このステー31を上下動させる送りねじ機構32と、この送りねじ機構32を駆動するモータ33とから構成された、シート状外皮材の中央部を窪ませて椀状に形成する押込み手段3であって、モータ33の回転方向、回転角度等を制御することによって押込み部材30を適宜に上下昇降させ、外皮材を椀状に形成し、また、押込み部材30は下端に内材を吐出するための吐出孔を備えた筒体により構成された内材供給手段を備えた押込み手段3と、
押込み部材30を囲むように設けられた複数の通孔を有するリング状のステー52、このステー52の通孔に上下スライド可能に挿嵌され、上端にステー52に係止可能な頭部を備えた複数の支持ロッド51、この支持ロッド51の下端に固定されるとともに押込み部材30を囲むように設けられたリング状の押え部材50、ステー52を上下動させるエアシリンダ53を備えている外皮材の周縁部を受け部材2上に保持する保持手段5であって、押え部材50とステー52との間には、各支持ロッド51に被嵌され、押え部材50を下方へ付勢するためのコイルばねが設けられ、押え部材50が常時下方に付勢されるようになっており、エアシリンダ53によってステー52を下降させることで、押え部材50を受け部材2上の外皮材に押し付けることができる保持手段5と、を備え、
ベルトコンベア等により供給される外皮材は、受け部材2及び受け部材2の開口部20に露出したシャッタ片10の上面に載置され、
エアシリンダ53が作動して押え部材50が下降し、外皮材の周縁部を受け部材2に押し付けて外皮材の周縁部を保持し、
押込み部材30が下降して、内材が外皮材の上に供給され、外皮材が開口部から下方に湾曲して椀状形成され、
シャッタ1が閉動作に入り、シャッタ片10の開口領域が狭められるとともに、押え部材50が上昇して外皮材の周縁部は解放され、シャッタ1が閉動作を完了すると、外皮材の周縁部が確実に封着され、内材が外皮材に包み込まれて成形される食品成形装置。」

[甲第2号証]
(2a)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ピストンのストロークを調整を可能にした流体圧シリンダに関するものである。」

(2b)「【0020】上記実施例においては、ヘッドカバー28に螺着したストッパロッド31を、ピストン23の移動方向に進退させることによって、ピストン23のストロークを調整することができるので、ピストン23のストロークSを、ロッド24に取付けたワーク(図示省略)に応じた所望のストロークとすることができる。・・・」

[甲第3号証]
(3a)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、スポット溶接のためのガンシリンダ等のように、シリンダに複数段の行程と、そのストロークを調整可能にすることが要求される場合に使用するのに適した多段行程型シリンダに関するものである。」

(3b)「【0024】上記主ピストン12の中間停止位置は、中間停止位置設定手段2によって設定されるものである。即ち、ヘッドカバー14に設けた給排ポート28から停止位置設定ピストン21の背後の圧力室27へ圧縮空気を供給すると、該停止位置設定ピストン21が、それに連結したロッド22の先端のストッパ23が当接位置調節ピストン31の外面の当接部31aに当接する位置まで移動して停止し、それによって停止位置設定ピストン21が主ピストン12の停止位置を設定する中間位置(図1及び図2の鎖線位置)まで移動する。
【0025】上記停止位置設定ピストン21が停止する中間位置は、該ピストン21の停止位置を可変にする可変手段、つまり、ロッド22の先端に設けたストッパ23における、当接位置調節ピストン31の当接部31aへ当接する部分の位置、あるいは、当接位置調節ピストン31における当接部31aの位置のいずれか、またはその双方の調整により、他段階に調節することができる。」

[甲第4号証]
(4a)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、食品の椀状成形方法とその機構に関し、より詳しくは、パン生地、饅頭生地等から成るシート状の外皮材を略椀状に成形すると同時にこの外皮材の内側に餡、調理した肉・野菜等から成る内材を供給する食品の椀状成形方法とその機構に関するものである。」

(4b)「【0012】図1中、符号3で指示するものは、上記吐出ノズル2を上下動させるためのノズル昇降手段である。このノズル昇降手段3は、前記ステー31を上下動させる送りねじ機構32と、この送りねじ機構32をタイミングベルト33を介して駆動するモータ34とから構成されており、このモータ34の回転方向、回転角度等を制御することにより吐出ノズル2を適宜に昇降させて外皮材に対する内材の吐出上下位置を調整する。
【0013】図1中、符号4で指示するものは、前記受け部材1の上方に配設され、外皮材の縁部を受け部材1上で保持する保持手段である。この保持手段4は、図5に示すように、吐出ノズル2の筒体に固定され、複数の通孔を有するリング状のステー42と、このステー42の通孔に上下スライド可能に挿嵌され、上端にステー42に係止可能な頭部を備えた複数の支持ロッド41と、この支持ロッド41の下端に固定されたリング状の押え部材40と、この押え部材40とステー42との間において各支持ロッド41に被嵌され、押え部材40を下方へ付勢するコイルばね43とから構成されており、上記吐出ノズル2を下降させることにより押え部材40で受け部材1上の外皮材Fの縁部を押えて保持する(図6参照)。このように本実施形態では、保持手段4を吐出ノズル2に固定し、上記ノズル昇降手段3の上下動を利用して保持手段4を昇降させているが、勿論、ノズル昇降手段3とは別個の昇降手段で保持手段4を昇降させても良い。」

(4c)「【0027】また、上記実施形態では、外皮材の縁部を保持手段4で保持した状態で内材を吐出させ、吐出終了後に保持手段4を外しているが、内材を吐出している途中で保持手段2を上昇させて外皮材の縁部から外すようにしても良い。このように、内材の吐出途中で保持手段2を外した場合、内材吐出により外皮材の縁部が下方にずり落ちることになるので、この保持手段2を外すタイミングを変更することによって椀状成形したときの外皮材の上縁部の生地量を調整することが可能となる。また、このとき、保持手段2を外皮材の縁部から完全に外してしまわずに、保持手段4を若干上昇させておき、外皮材の縁部がずり落ちる際に保持手段4に接触させるようにすれば、この保持手段4との接触抵抗を利用して外皮材縁部のずり落ち程度を調整して外皮材の上縁部の生地量調節を行うことも可能となる。これら保持手段4の保持タイミングや外皮材との接触度は、外皮材の物性、サイズ、厚みや、その後の外皮材の封着工程を考慮して種々の変更が可能である。」

6.当審の判断
6-1.請求理由の要旨変更について
被請求人の主張する審判請求理由の要旨の変更について検討すると、請求人は、請求理由の補正の許可を求めているものではないが、口頭審理陳述要領書提出時に、甲第11及び12号証を提出し、後述する本件特許発明1と甲1発明との相違点2に係る構成(口頭弁論陳述要領書では「構成要件G1」)は、甲第11、12号証に記載された「周知の構成」に過ぎず、相違点2に係る構成は、当業者にとって容易に想到し得た旨の主張をしている。しかし、審判請求時の上記相違点2に係る判断は、甲第2、3号証に記載された周知事項、或いは甲第4号証に記載された発明に基づき当業者が容易に想到し得たとするものであって、上記主張は、容易想到性の判断の根拠となる証拠を差し替え、その判断の論理構成を変更するものであり、特許を無効にする根拠となる事実を変更するものである。
よって、甲第11及び12号証に基づく請求人の主張は、実質的に特許法第131条の2第1項本文に規定する要旨を変更する請求の理由の補正に該当するものである。
また、同項第1号に規定するような、訂正の請求あったわけではなく、同項第2号に規定する審判請求時の請求書に記載しなかったことにつき合理的な理由があり、被請求人が当該補正に同意したわけでもない。
したがって、甲第11及び12号証は、証拠として採用しない。また、甲第11及び12号証に基づく請求人の主張は、採用しない。

6-2.無効理由について
6-2-1.本件特許発明1について
<対比>
本件特許発明1と甲1発明とを対比すると、
甲1発明の「パン生地、饅頭生地等の外皮材によって、餡、調理した肉・野菜等の内材を包み込み成形」された食品は、本件特許発明1の「包被食品」に相当し、
甲1発明の「食品成形装置」は、本件特許発明1の「包被食品製造装置」に相当し、
甲1発明の「受け部材2」、「ベルトコンベア等」、「押え部材50」、「支持手段6」及び「シャッタ1」は、それぞれ本件特許発明1の「載置部材」、「外皮材移送手段」、「生地押圧部材」、「昇降支持手段」及び「封着手段」に相当し、
甲1発明の「押込み部材30」は、下端に内材を吐出するための吐出孔を備えた筒体により構成され、また、上下昇降されるものであることから、本件特許発明1の「内材を吐出自在かつ上下動自在なノズル部材」といえ、
甲1発明の「外皮材」は、シート状であることから、本件特許発明1の「偏平状」といえ、
甲1発明の「押え部材50」は、下降して外皮材の周縁部を受け部材2に押し付けて外皮材の周縁部を保持し、その後、上昇して外皮材の周縁部を解放するものであることから、本件特許発明1でいう「外皮材の外周縁部を押圧自在かつ上下動自在」なものと認められ、
甲1発明において、シャッタ1による外皮材の封着は、押込み部材30及び押え部材50の上昇後に行われることは明らかであり、
甲1発明の「押込み部材30」と「押え部材50」とは、別々の上下動させるための機構を備えていることから、本件特許発明1でいう「個別に上下動可能」なものと認められ、
甲1発明の「押込み部材30」は、モータ33の回転方向、回転角度等を制御することによって適宜に上下昇降されるものであることから、本件特許発明1でいう「上下動位置を個別に調節可能」なものと認められる。
よって、両者は、
「外皮材でもって内材を包み込んだ構成の包被食品を製造するための包被食品製造装置であって、載置部材の開口部を覆うように偏平状の外皮材を前記載置部材上に移送するための外皮材移送手段と、前記載置部材上に載置された外皮材の外周縁部を押圧自在かつ上下動自在な生地押圧部材と、前記載置部材上の外皮材の中央部に内材を吐出自在かつ上下動自在なノズル部材と、前記載置部材の前記開口部から下降する外皮材を下側から支持自在かつ上下動自在な昇降支持手段と、前記ノズル部材及び前記生地押圧部材の上昇後に前記外皮材の周縁部を中央部に寄せ集めて封着するための封着手段と、を備え、前記ノズル部材及び生地押圧部材は個別に上下動可能かつ前記ノズル部材は上下動位置を個別に調節可能である包被食品製造装置。」である点一致し、以下の各点で相違する。
相違点1:本件特許発明1では、載置部材が、包被食品製造装置における本体フレームの前面側に備えられているのに対し、甲1発明では、受け部材2は、そのような特定がされていない点。
相違点2:本件特許発明1では、生地押圧部材は、上下動位置を(ノズル部材とは)個別に調節可能であるのに対し、甲1発明では、押え部材50は、そのような特定がされていない点。

<判断>
そこで、上記各相違点について検討すると、
・相違点1について
甲1発明の食品成型装置は、特定されていないものの各種機構等を支持するための本件特許発明1でいう「本体フレーム」に相当する構成を備えていることは明らかであり、また、「受け部材2」の当該「本体フレーム」における配置は、当業者が設計上適宜に決め得る事項と認められる。
よって、上記相違点1は、当業者が容易になし得たものといえる。

・相違点2について
本件特許発明1において、「生地押圧部材は、上下動位置を(ノズル部材とは)個別に調節可能である」ことについて、本件特許発明1に係る請求項1には、「前記載置部材上に載置された外皮材の外周縁部を押圧自在かつ上下動自在な生地押圧部材」及び「前記ノズル部材及び生地押圧部材は個別に上下動可能かつ上下動位置を個別に調節可能である」ことが記載されているが、「上下動位置」とは、常に一定した位置なのか、或いは、変動を許容した位置なのか等、その技術的な意義は、必ずしも一義的に明確ではないので、本件特許明細書を参照する。
本件特許明細書には、「従来の構成においては、・・・前記押え部材によって押圧される外皮材の周縁部の厚さは、外皮材の性状などの影響もあり、常に一定に保持することが難しく、例えば封着部を常に一定厚に保持することが難しいという問題がある。」(段落【0005】)、「外皮材11の芯出しが行われた後、ロータリーアクチュエータ105が作動されて生地押圧部材15が下降されて外皮材11の外周縁を載置部材9に押圧固定する。この際、前記ロータリーアクチュエータ105の回転角を常に一定に保持することにより、前記生地押圧部材15の下降位置は常に一定に保持されるものであり、外皮材11の外周縁部の厚さは常に一定に保持されるものである。」(段落【0036】)、「外皮材11の周縁部の厚さは常に一定厚に保持されるので、封着部に寄せ集められた外皮材11の厚さ(量)は常にほぼ一定であり、外皮材11の封着を安定的にかつ確実に行うことができるものである。」(段落【0041】)等の記載からすると、本件特許発明1に係る「生地押圧部材は、上下動位置を(ノズル部材とは)個別に調節可能である」こと、特に、その下動位置を調節可能であることとは、外皮材の封着を安定的にかつ確実に行うことができるように外皮材の周縁部の厚さを常に一定厚に保持し得るように生地押圧部材の下動位置を調節可能なことを意味するものと認められ、外皮材の周縁部の厚さを常に一定厚に保持し得ない生地押圧部材の位置調節はこれには含まれないものと解される。
これに対して、甲1発明においては、保持手段5は「押え部材50を下方へ付勢するためのコイルばねが設けられ、押え部材50が常時下方に付勢されるようになっており、エアシリンダ53によってステー52を下降させることで、押え部材50を受け部材2上の外皮材に押し付けることができる」ものである。ここで、請求人が主張するように(口頭審理陳述要領書第5頁12?15行)、エアシリンダのストロークの下端位置を外皮材の硬さや厚さに合わせて調節できるようにすべきことは理解できるとしても、押え部材50は、コイルばねにより常時下方に付勢され、受け部材2上の外皮材に押し付けられているものであり、また、搬送されてくる外皮材の周縁部の厚さや硬さなどの性状のばらつきは避けられないことから、押え部材50の下動位置は、上記ばらつきにより違いが生じるものと認められる。よって、甲1発明において、エアシリンダのストロークの下端位置を調節することによっては、外皮材の周縁部の厚さを常に一定厚に保持するような押え部材50の下動位置を調節し得ないものである。
一方、甲第2及び3号証に記載されているように、一般のシリンダにおいて、駆動ロットの行程端位置を調節できるようにすることが本件出願前周知の技術といえるが、甲1発明の「エアシリンダ53」に当該周知の技術を適用しても、上記したように外皮材の周縁部の厚さを常に一定厚に保持するような押え部材50の下動位置を調節し得ないものであり、上記相違点2に係る本件特許発明1のようになし得るものではない。
また、甲第4号証には、押え部材40で外皮材の縁部を押えて保持する保持手段4に関して、「これら保持手段4の保持タイミングや外皮材との接触度は、外皮材の物性、サイズ、厚みや、その後の外皮材の封着工程を考慮して種々の変更が可能である。」(記載事項(4c)参照)と記載されているものの、この「押え部材40」も甲第1号証の「押え部材50」と同様に「コイルばね43」を介して外皮材を押えて保持するものであること(記載事項(4b)参照)から、外皮材の周縁部の厚さを常に一定厚に保持するような押え部材の下動位置を調節し得ないものであり、上記相違点2に係る本件特許発明1のようになす動機付けにはならない。
さらに、甲第1?10号証には、外皮材の周縁部の厚さを常に一定厚に保持するような押え部材の位置調節についての記載または示唆はない。

よって、甲1発明において、上記相違点2を容易になし得たとすることはできない。

したがって、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明及び、甲第2?10号証に記載された発明または周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明できたものとすることはできない。

6-2-2.本件特許発明2?4について
本件特許発明2?4と甲1発明とを対比すると、両者は、少なくとも上記「6-2-1.本件特許発明1について<対比>」で挙げた相違点2において相違し、該相違点は、その「6-2-1.本件特許発明1について<判断>」で述べたように容易になし得たとすることはできないことより、本件特許発明2?4は、本件特許発明1と同様に、甲第1号証に記載された発明及び、甲第2?10号証に記載された発明または周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明できたものとすることはできない。

7.むすび
以上のとおり、請求人の主張する理由及び証拠方法によっては、本件特許発明1?4を無効にすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担するものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-11-15 
結審通知日 2013-11-19 
審決日 2013-12-02 
出願番号 特願2008-135732(P2008-135732)
審決分類 P 1 113・ 121- Y (A21C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 木村 麻乃  
特許庁審判長 鳥居 稔
特許庁審判官 山崎 勝司
竹之内 秀明
登録日 2012-11-22 
登録番号 特許第5140492号(P5140492)
発明の名称 包被食品製造装置  
代理人 小林 正和  
代理人 富岡 英次  
代理人 渡邊 徹  
代理人 川崎 好昭  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 根本 恵司  

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