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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1283718
審判番号 不服2012-1775  
総通号数 171 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-03-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-01-30 
確定日 2014-01-16 
事件の表示 特願2001-177375「脱色剤組成物及び染毛剤組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成14年12月24日出願公開、特開2002-370949〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成13年6月12日の出願であって、平成16年11月30日付けで手続補正がなされ、平成22年10月19日付けで拒絶理由が通知され、平成22年12月27日付けで手続補正がなされるとともに意見書が提出されたが、平成23年10月28日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成24年1月30日に手続補正がなされるとともに拒絶査定不服審判が請求されたものである。

第2 平成24年1月30日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成24年1月30日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正の内容
前記手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項2の記載は次のとおりである。

「【請求項2】 酸化剤と混合して使用される染毛剤組成物であって、(a)アンモニアとアンモニウム塩との少なくとも一方、(b)アルカノールアミンを2.8?6重量%、(c)エステル型非イオン性界面活性剤、(d)水及び(e)染料を含有し、成分(a)の含有量がアンモニア換算で0.08?0.98重量%であることを特徴とする染毛剤組成物。」

2.補正の適否
前記請求項2は、(b)アルカノールアミンの含有量に関し、補正前には特定していなかったのを「2.8?6重量%」と限定するものであるから、この補正は、補正前の請求項に記載された発明を特定するために必要な事項を限定するものである。
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項2に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するか否か)について以下に検討する。

(1)本願補正発明
本願補正発明は、前記「1.補正の内容」に記載したとおりのものである。

(2)刊行物及びその記載事項
(2-1)原査定の拒絶理由に引用された本願の出願前に頒布された刊行物である「特開平11-71249号公報」(原査定の引用文献1。以下、「刊行物1」という。)には、次の記載がある。
なお、下線は、当審にて付したものである。以下、同様である。

(刊1-1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 2剤以上からなり、使用時に染料と酸化剤とが組み合わされる染毛剤組成物であって、二重結合を一つ有し、炭素原子数が14?24の不飽和脂肪族アルコールを配合してなることを特徴とする染毛剤組成物。
【請求項2】 不飽和脂肪族アルコールがホホバアルコールである請求項1記載の染毛剤組成物。」

(刊1-2)「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は染毛剤組成物に関する。より詳細には毛髪への染着性が良好で、染毛後の毛髪に滑らかな感触としなやかさを与える染毛剤組成物に関する。
【0002】
【従来の技術および発明が解決しようとする課題】従来、一般によく用いられている2剤式の染毛剤は、芳香族アミノ化合物を主剤とする第1剤と、過酸化水素等の酸化剤を主剤とする第2剤を使用時に混合して使用するものである。この混合物は通常、黒髪を脱色しながら目的の色調へ染毛するため、使用時にはアルカリ性で使用されている。その結果、染毛後の毛髪の感触は著しく悪化する傾向にあった。これに対し、染毛後の毛髪の感触を改善し、毛髪に滑らかさや光沢を付与する目的でシリコーン油、エステル油、炭化水素油などの油分が用いられている。特にシリコーン油は、表面張力が低く、毛髪へのなじみに優れ、良い光沢が得られるため、近年多用されている。しかし、これらの油分は、酸化染料が毛髪へ浸透するのを妨げるため、染毛効果が劣るという欠点があった。また、近年、環境保護の観点からシリコーン油を用いずに毛髪に滑らかさや光沢を与えることのできる天然植物系の油性成分が望まれていた。本発明の目的は、毛髪への染着性が良好で、染毛後の毛髪にシリコーン油を使用した場合と同等またはそれ以上の滑らかな感触としなやかさを与える天然植物系の成分を用いた染毛剤組成物を提供することにある。
【0003】
【課題を解決するための手段】本発明者は上記事情に鑑み、種々検討を重ねた結果、天然植物由来で生分解性も可能なホホバアルコールを用いて染毛剤組成物を調製した場合、毛髪への染着性が良好で、かつ染毛後の毛髪にシリコーン油を使用した場合と同等またはそれ以上の滑らかな感触としなやかさを与えることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0004】すなわち、本発明は、2剤以上からなり、使用時に染料と酸化剤とが組み合わされる染毛剤組成物であって、二重結合を一つ有し、炭素原子数が14?24の不飽和脂肪族アルコールを配合してなることを特徴とする染毛剤組成物である。
【0005】以下、本発明の構成について、詳細に説明する。本発明に用いられる、二重結合を一つ有し、炭素原子数が14?24の不飽和脂肪族アルコールとしては、例えば、ホホバアルコール、・・・等が挙げられる。二重結合を有していない脂肪族アルコールでは滑らかさが不十分である。炭素数が14未満ではきしみを生じ、炭素数が24を超えるとべたつきを感じる。
【0006】不飽和脂肪族アルコールのうち特に好ましいものはホホバアルコールである。ホホバアルコールは、ホホバ(Jojoba;Simmondsia chinensis)の乾燥種子より得られた油を金属ナトリウムで還元して得られるアルコールを指し、その組成はオクタデセノール(C_(18))、エイコセノール(C_(20))、ドコセノール(C_(22))、テトラコセノール(C_(24))からなるもので、次の一般式(1)で表されるものである。
【0007】
【化1】
CH_(3)(CH_(2))_(7)-CH=CH-(CH_(2))_(m)CH_(2)OH …(1)
【0008】(式中、m=7、9、11、13)
ホホバアルコールは、NIKKOLホホバアルコール(日光ケミカルズ社製)、ホバコール(香栄興業社製)として上市されている。」

(刊1-3)「【0014】また、毛髪への染着性および脱色効果の点から、アンモニア、モノエタノールアミン、トリエタノールアミン、アミノメチルプロパノール、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ剤を配合することができる。これらのアルカリ剤の配合量は、染毛剤組成物のpHが6?12に調整されるような配合量である。このpH範囲では、染料の浸透性が良く、優れた染色性を示す。」

(刊1-4)「【0038】
実施例9
[第1剤]
流動パラフィン 3.0 重量%
ステアリルアルコール 10.0
ステアリル硫酸ナトリウム 3.0
ステアリルモノグリセリド 5.0
オクチルデカノエート 3.0
ホホバアルコール 5.0
モノエタノールアミン 2.0
アンモニア水(28%) 8.0
パラフェニレンジアミン 1.0
レゾルシン 1.0
L-アスコルビン酸 0.5
ハイドロサルファイトナトリウム 0.1
EDTA塩 0.5
香料 適量
精製水 残余
合計 100.0
[第2剤]
過酸化水素水(30%) 20.0
流動パラフィン 1.0
ステアリルアルコール 3.0
ラウリル硫酸ナトリウム 1.0
ポリオキシエチレン(20E.O.)セチルエーテル 1.0
メチルパラベン 適量
錫酸ナトリウム 適量
リン酸緩衝液 pH3に調整
精製水 残余
合計 100.0」

(刊1-5)「【0041】
【発明の効果】以上説明したように、本発明の染毛剤組成物は、毛髪への染着性が良好であると共に、染毛後の毛髪に滑らかな感触としなやかさを与えるものである。」

(2-2)本願の出願前に頒布された刊行物である「特開平9-255541号公報」、「特開2001-114657号公報」、「特開平10-45547号公報」(以下、各々「周知文献1」?「周知文献3」という。)には、次の記載がある。

(周知文献1):
(周知1-1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 アンモニアと不揮発性アルカリからなるアルカリ剤とを含有する第1剤と、酸化剤を含有する第2剤からなり、第1剤中における遊離アルカリ値が0.5?2.0で、且つアンモニア:不揮発性アルカリの比率が重量比で0.5:1?3:1であることを特徴とする脱色用組成物。
【請求項2】 請求項1記載の組成物において、さらに第1剤中に酸化染料を含有することを特徴とする染毛用組成物。」

(周知1-2)「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、脱色・染毛用組成物、特にアルカリ剤組成の改良に関する。
【0002】
【従来の技術】酸化染毛剤は永久染毛剤の中で最も広く使用されているもので、染毛剤中の酸化染料が毛髪中に浸透して酸化重合し、発色することにより毛髪を化学的に染着するので染毛効果が持続することが特徴である。酸化染毛剤の剤型は、粉末剤で用時水と混合して用いる1剤型や、3剤以上の多剤型もあるが、酸化染料とアルカリ剤を含む第1剤と、酸化剤を含む第2剤とを用時混合して用いる2剤型が最も多い。
【0003】酸化染毛剤や脱色用組成物において、アルカリ剤は重要な作用を有している。すなわち、アルカリ剤は系をアルカリ性にすることによって毛髪を柔軟、膨潤させて脱色や染毛をしやすくする他、第1剤と第2剤を混合した際に、第2剤の有効成分である過酸化水素のような酸化剤をアルカリ性により分解させ、発生する酸素によって毛髪中のメラニン色素を分解し、毛髪を脱色する作用を有する。また、酸化染毛剤においては発生した酸素が酸化染料を毛髪中に酸化定着させる基礎的な作用も有している。染毛用組成物や脱色用組成物において通常用いられるアルカリ剤としてはアンモニアの他、モノエタノールアミンや水酸化カリウム等の不揮発性アルカリがある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、何れのアルカリ剤を用いた場合にも使用時に系がアルカリ性となるため、毛髪に対するダメージが大きいという問題点があった。この中で、アンモニアは揮発性であるために毛髪に残留性がなく、毛髪へのダメージも他のアルカリ剤に比べて少ないことから汎用されているが、使用時にアンモニアが目にしみたり、アンモニア臭が気になるという大きな問題点があった。
【0005】これに対し、モノエタノールアミン等の不揮発性アルカリ剤は無臭性ではあるが、揮発性がないため毛髪中に残留するおそれがある、毛髪に対するダメージが大きい、染毛効果がアンモニアに比して劣る等の欠点を有していた。一方、毛髪へのダメージを少なくするために使用時に弱酸性の酸化染毛剤も開発されたが、明るさがない、色数が少ない、使用方法が複雑などの理由で従来の使用時アルカリ性の酸化染毛剤組成物に代るまでには至っていないのが現状である。
【0006】本発明はこのような従来技術の課題に鑑み成されたものであり、その目的は、使用時アルカリ性でありながら、毛髪に対するダメージが少なく、しかも脱色効果や染毛効果に優れる脱色用組成物及び染毛用組成物を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明者らは前記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、アルカリ剤として揮発性のアンモニアと、モノエタノールアミンのような不揮発性のアルカリ剤とを特定の割合で併用し、且つ、遊離アルカリ値を調整することによって使用時の毛髪に対するダメージが低減され、しかも、脱色効果や染毛効果が優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】すなわち、本発明の脱色用組成物は、アンモニアと不揮発性アルカリからなるアルカリ剤とを含有する第1剤と、酸化剤を含有する第2剤からなり、第1剤中における遊離アルカリ値が0.5?2.0で、且つアンモニア:不揮発性アルカリの比率が重量比で0.5:1?3:1であることを特徴とする。また、本発明の染毛用組成物は、前記脱色用組成物において、さらに第1剤中に酸化染料を含有することを特徴とする。
【0009】
【発明の実施の形態】以下に本発明の実施の形態を詳述する。まず、本発明において用いられる不揮発性アルカリとは通常染毛剤組成物に用いられるアルカリ剤のうち、不揮発性のものを指し、例えば、モノエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアミン、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等の無機塩基、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、硫酸アンモニウム等のアンモニウム塩、塩基性アミノ酸、アミノ-メチル-プロパンジオール等が挙げられる。このうち、モノエタノールアミンが特に好適である。
【0010】また、本発明で用いられるアンモニアは通常アンモニア水として市販されているものを用いれば便利である。本発明で用いられる酸化剤としては、例えば、過酸化水素、過硫酸塩、過ホウ酸塩、臭素酸塩、過ヨウ素酸塩、過酸化尿素等が挙げられ、中でも過酸化水素が好ましい。
・・・
【0012】本発明に係る脱色用組成物及び染毛用組成物においては、アルカリ剤を含有する第1剤と、酸化剤を含有する第2剤を用時混合して用いる2剤型が製品安定性の点で好ましい。そして、本発明に係る組成物において用いられるアルカリ剤の配合量は、アルカリ剤が配合される第1剤中の遊離アルカリ値が0.5?2.0%の範囲になるように配合される。遊離アルカリ値が0.5%未満となるような少ない配合量では脱色効果や染毛効果が充分得られず、また、2.0%を超えるような過剰な配合量の場合には毛髪損傷が激しくなる。
・・・
【0014】また、本発明においてはアルカリ剤としてアンモニアと不揮発性アルカリを重量比で0.5:1?3:1の割合で用いることが好適である。アンモニアの重量が不揮発性アルカリの重量の0.5倍より少ない場合には脱色効果や染毛効果が充分発揮されず、また、3倍を超えて配合した場合には脱色や染毛処理中におけるアンモニアの揮散の影響が大きくなり、アルカリ剤が不足することから、所望の染毛効果が得られない。」

(周知文献2):
(周知2-1)「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、毛髪を染色あるいは脱色するための染毛剤組成物に係わり、更に詳細には刺激臭や毛髪へのダメージの原因となるアルカリ剤の配合量を抑えることのできる、脱色・染毛効果に優れ、毛髪を補修する効果を併せ持つ染毛剤組成物に関する。
【0002】染毛剤は、広義には毛髪等を染色する「染毛剤」と、毛髪等を脱色する「ブリーチ剤」とがある。本明細書においては、上記両者を含めて「染毛剤組成物」と称する。
【0003】
【従来の技術】酸化染毛剤としては、第1剤にアルカリ剤や酸化染料を、第2剤に酸化剤をそれぞれ必須成分として含有する二剤型の酸化染毛剤が従来より知られている。また、ブリーチ剤としては第1剤にアルカリ剤を、第2剤に酸化剤をそれぞれ必須成分として含有する二剤型ブリーチ剤が、従来から知られている。これら二剤型のものは、使用時に第1剤と第2剤とを混合して用いる。
【0004】これら染毛剤組成物中に、必須成分として配合されているアルカリ剤は、染毛・脱色の際に反応系をアルカリ性にすることによって毛髪を膨潤させて、有効成分である酸化染料あるいは酸化剤を毛髪中に浸透させるはたらきをもつ。また、アルカリ条件下では、過酸化水素に代表される酸化剤による、毛髪中のメラニンの分解による脱色や、酸化染料の酸化重合による染色が促される。しかし、この染毛剤組成物による染毛・脱色においては、このようなアルカリによる毛髪の膨潤の課程は、毛髪にダメージを与える大きな要因となっている。
【0005】染毛剤組成物に通常用いられるアルカリ剤としては、アンモニアをはじめとする揮発性の高いアミン類と、モノエタノールアミンやアミノメチルプロパノールのような不揮発性有機アミン類が挙げられる。これらアルカリ剤の中でもよく用いられるアンモニアは、その揮発性の高さから、染毛・脱色処理後の毛髪へのアルカリ成分の残留と、それによる毛髪へのダメージは少ないものの、染毛・脱色時に使用者に対して、アンモニア特有の刺激臭が不快感を与えるという大きな問題点があった。
【0006】そこで、最近では、染毛・脱色時の刺激臭を抑えるため、アンモニアに代えて、モノエタノールアミンに代表される不揮発性アミン類を用いるようになってきた。しかし、これら不揮発性アミン類は、通例アンモニアに比べて分子量が大きい為、毛髪内部への浸透の効果がアンモニアに比べて弱く、染毛や脱色の効果が劣ることや、不揮発性であるがゆえに、染毛・脱色処理後も毛髪にこれらアルカリ成分が残留し、毛髪にダメージを与えるといった問題がある。
【0007】最近、毛髪ダメージ抑制・修復を目的として、各種脂肪酸の四級アンモニウム塩を染毛剤組成物に配合することを提唱する特許出願がなされている(例えば、特開平10-139620号)。しかし、この場合であっても、満足できる染毛効果を得るためにはアルカリ剤として上記アンモニアを一定量以上使用しなければならず、上記のような問題は解消されず、また、モノエタノールアミンを一定量使用した場合には、毛髪にダメージを与えるという問題は解消できず、染色・脱色効果も必ずしも満足すべきものでは無かった。」

(周知文献3):
(周知3-1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 染毛剤組成物において、(a)モノエタノールアミンおよび(b)アンモニアを含有し、(a)と(b)の配合量の合計が0.5重量%?12重量%であり、(a)と(b)の重量比が1:0.05?1:0.5であることを特徴とする染毛剤組成物。
・・・」

(周知3-2)「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は染毛剤組成物に係わり、毛髪に充分な明度を付与し、染毛力および堅牢性に優れ、継続使用しても良好な感触を有する染毛剤組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】従来より染毛剤としては酸化染料中間体を含有する第1剤と酸化剤を含有する第2剤よりなる二剤型の酸化染毛剤が広く利用されている。この染毛剤は無色の低分子の酸化染料中間体を毛髪中に浸透させ、毛髪の中で酸化重合を行なわせることにより色素を生成させ毛髪を染着するものである。これらの酸化染毛剤は要望に応じた種々の色調に毛髪を染毛することができ、しかもその染毛力は非常に優れており、一般に広く利用されているものである。第1剤のアルカリ剤としては、アンモニアおよびモノエタノールアミンなどのアルカノールアミンが用いられている。
【0003】また、これら酸化染毛剤の利点である良好な染毛力を得るためには、毛髪全体に均一に塗布することが必要であり、そのため様々な剤型が考案され、液状、クリーム状、ジェリー状、エアゾール状等の製品が上市されてきた。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、第1剤のアルカリ剤としてアンモニアを単独で配合すると刺激臭が生じる問題がある。一方モノエタノールアミンを単独で配合すると、刺激臭はないが毛髪に十分な明度を付与できず、染毛力が弱く、堅牢性も欠ける。更に、染毛後に染液を流す(以下、プレーンリンスという)際、毛髪がゴワついたり、きしみが生じる。毛髪を乾燥(以下、ドライという)後は、毛髪の感触にごわつきが生じたり櫛通りが悪くなり、良好な感触を得ることができない。また、継続的に染毛を繰り返すと、毛髪のごわつきや櫛通りの悪さが増加するという新たな問題が生じる。
【0005】
【課題を解決するための手段および作用】そこで本発明者は上記の欠点を解決するために鋭意検討した結果、特定量のモノエタノールアミンおよびアンモニアを特定の比率で配合することにより、毛髪に十分な明度および染毛効果を付与し、堅牢性に優れ、プレーンリンス時、およびドライ後の感触が良好で、継続的に染毛を繰り返しても感触が良好である染毛剤を得た。更に配合するアンモニア量が従来必要とされる配合量より少ないため、染毛時のアンモニア由来の刺激臭を軽減することを可能にして本発明を完成させるに至った。
【0006】本発明は、染毛剤組成物において、(a)モノエタノールアミンおよび(b)アンモニアを含有し、(a)および(b)の配合量の合計が0.5重量%?12重量%、さらに好ましくは1重量%?8重量%である。0.5重量%より少ないと十分な明度、染毛力、堅牢性、プレーンリンスおよびドライ後の良好な感触が得られず、12重量%を超えると明度、染毛力、堅牢性および継続使用における感触の効果の上昇は殆どない。
【0007】また(a)および(b)の配合重量比は1:0.05?1:0.5、さらに好ましくは1:0.1?1:0.35である。配合重量比が1:0.05より小さいと十分な明度が得られず、染毛力、堅牢性に欠け、プレーンリンス時およびドライ後の感触が悪くなり、継続使用においても良好な感触が得られない。また1:0.5を超えると、明度、染毛力、堅牢性、継続使用における感触の効果の上昇はほとんどない。」

(2-3)刊行物1に記載された発明
前記(刊1-1)?(刊1-4)によれば、刊行物1には、毛髪への染着性が良好で、染毛後の毛髪に滑らかな感触としなやかさを与える天然植物系の成分を用いた染毛剤組成物を提供することを目的として完成された、不飽和脂肪族アルコールであるホホバアルコールを配合してなる2剤式染毛剤組成物の第1剤として、次の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されていると認められる。

(刊行物1発明):
「用時混合して用いる2剤型の染毛剤組成物の第1剤であって、流動パラフィン3.0 重量%、ステアリルアルコール10.0重量%、ステアリル硫酸ナトリウム3.0重量%、ステアリルモノグリセリド5.0重量%、オクチルデカノエート3.0重量%、ホホバアルコール5.0重量%、モノエタノールアミン2.0重量%、アンモニア水(28%)8.0重量%、パラフェニレンジアミン1.0重量%、レゾルシン1.0重量%、L-アスコルビン酸0.5重量%、ハイドロサルファイトナトリウム0.1重量%、EDTA塩0.5重量%、香料適量、残余精製水からなる第1剤。」

(3)対比(一致点・相違点の認定)
ア 前記(刊1-4)によれば、刊行物1発明は、過酸化水素水(30%)を20重量%含有する第2剤と混合されて使用される染毛剤組成物の第1剤として記載されているものであるから、本願補正発明の「酸化剤と混合して使用される染毛剤組成物」に相当するということができる。

イ また、刊行物1発明の「アンモニア水(28%)」、「モノエタノールアミン」、「ステアリルモノグリセリド」、「精製水」、「パラフェニレンジアミン及びレゾルシン」が、各々、本願補正発明の「(a)アンモニア」、「(b)アルカノールアミン」、「(c)エステル型非イオン性界面活性剤」、「(d)水」、及び「(e)染料」に包含される概念の成分であることは、当業者において明らかである。

ウ 刊行物1発明のアンモニア水は、アンモニアの濃度が28%の水溶液であるから、その水溶液を8重量%含有する第1剤においては、アンモニア換算で2.24重量%のアンモニアが含有されているということができる。

エ 刊行物1発明には、前記「アンモニア水(28%)」、「モノエタノールアミン」、「ステアリルモノグリセリド」、「精製水」、「パラフェニレンジアミン及びレゾルシン」の他に、流動パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリル硫酸ナトリウム、ステアリルモノグリセリド、オクチルデカノエート、ホホバアルコール、L-アスコルビン酸、ハイドロサルファイトナトリウム、EDTA塩、香料(以下、「その他の成分」という。)が含まれているところ、本願補正発明は、前記「1.補正の内容」のとおり、アンモニアとアンモニウム塩の少なくとも一方、アルカノールアミン、エステル型非イオン性界面活性剤、水及び染料を「含有」することを特定するものであり、これら以外の成分を含有することを排除するものではないから、刊行物1発明に「その他の成分」が含まれている点は、本願補正発明との相違点ではない。この点は、本願明細書の段落【0023】に「第1の実施形態の脱色剤組成物には、その他の添加成分として、アルカリ剤、高級アルコール、油性成分・・・エステル型非イオン性界面活性剤以外の非イオン性界面活性剤・・・EDTA-Na等のキレート剤・・・pH調整剤、植物抽出物、生薬抽出物、ビタミン類、香料・・を配合してもよい。」と記載されるとおりである。
なお、特に、刊行物1発明のホホバアルコールについては、前記(刊1-2)の記載に照らし、刊行物1発明における必須成分としての「不飽和脂肪族アルコール」成分であるところ、炭素数18?24のオクタデセノール(C_(18))、エイコセノール(C_(20))、ドコセノール(C_(22))、テトラコセノール(C_(24))からなり、一般式:
CH_(3)(CH_(2))_(7)-CH=CH-(CH_(2))_(m)CH_(2)OH
(式中、m=7、9、11、13)
で表されるものであるから、本願補正発明の任意成分である高級アルコールに当たり、本願補正発明との相違点となるものではない。

オ 以上から、本願補正発明と刊行物1発明との間には、次の一致点・相違点があるということができる。

(一致点):酸化剤と混合して使用される染毛剤組成物であって、(a)アンモニア、(b)アルカノールアミン、(c)エステル型非イオン性界面活性剤、(d)水及び(e)染料を含有する染毛剤組成物。

(相違点):(a)アンモニア、(b)アルカノールアミンの含有量に関し、本願補正発明は、各々、0.08?0.98重量%、2.8?6重量%であるのに対して、刊行物1発明は、各々、2.24重量%(アンモニア換算)、2.0重量%である点。

(4)判断(相違点の容易想到性の検討)
ア 本願明細書には、アルカノールアミンの配合に関し、次の記載がある。

(ア-1)「【0004】一方、染毛剤組成物は、染料としての酸化染料中間体、エーテル型非イオン性界面活性剤及びアンモニアを含有する第1剤と、酸化剤を含有する第2剤とからなる二剤型の酸化染毛剤として知られている。さらに第1剤は、アンモニア臭に基づく染毛剤組成物の刺激臭を低減するために、アンモニアの代わりとして、アルカノールアミンが含有されることがある。そして、アンモニアの含有量を低減することによって染毛剤組成物の刺激臭を低減するようになっている。」

(ア-2)「【0018】アルカノールアミンは、アンモニア及びアンモニウム塩の代わりとして配合されることによって、脱色剤組成物の刺激臭を低減するとともに、酸化剤の作用を促進することにより、毛髪に明度を付与するために配合される。アルカノールアミンの具体例としては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノプロパノールアミン、イソプロパノールアミン、ジプロパノールアミン、トリプロパノールアミン、2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、2-アミノ-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール等が挙げられる。これらの中でも、毛髪に明度を付与する効果が高いことからモノエタノールアミンが好ましい。アルカノールアミンの配合量は好ましくは2.0?6.0重量%、さらに好ましくは3.0?4.5重量%、最も好ましくは3.2?4.0重量%である。2.0重量%未満では酸化剤の作用を十分に促進することができない。一方、6.0重量%を超えて配合すると、脱色後に脱色液を流すときに、毛髪にごわつきやきしみが生じやすい。さらに、毛髪を乾燥した(以下、ドライと言う)後には、毛髪の感触にごわつきやきしみが生じたり櫛通りが悪くなりやすい。また、継続的に毛髪の脱色を繰り返すと、毛髪のごわつきや櫛通りの悪さが増加しやすい。」

(ア-3)「【0039】さらに、アルカノールアミンは、前述の機能に加えて、毛髪を膨潤させて染料及び酸化剤を毛髪に浸透しやすくするために配合される。アルカノールアミンの具体例及び配合量は、第1の実施形態の脱色剤組成物と同じである。尚、アルカノールアミンの配合量は、2.0重量%未満では毛髪を十分に膨潤することができないとともに、酸化剤の作用を十分に促進することができない。一方、6.0重量%を超えて配合すると、染毛後に染液を流すときに、毛髪にごわつきやきしみが生じやすい。さらに、ドライ後には、毛髪の感触にごわつきやきしみが生じたり櫛通りが悪くなりやすい。また、継続的に染毛を繰り返すと、毛髪のごわつきや櫛通りの悪さが増加しやすい。」

これらによれば、染毛剤組成物において、アルカノールアミンは、アンモニアの代わりに含有され得るアルカリ剤であり、アンモニアの含有量を低減することによってアンモニア臭に基づく染毛剤組成物の刺激臭を低減するために配合される成分であるといういうことができる。そして、アルカノールアミンの配合量は、染毛剤組成物の刺激臭の低減効果と、アルカリ剤として、毛髪を十分に染毛し得る程度にまで脱色する作用や毛髪に与えるダメージとの兼ね合いにおいて決定され、2.0重量%?6.0重量%が好ましい範囲として開示されていると解すことができる。

イ また、本願明細書には、アルカノールアミンとは別のアルカリ剤の配合に関し、次の記載がある。

(イ-1)「【0024】アルカリ剤は、アルカノールアミンと同様に、酸化剤の作用を促進することにより、毛髪に明度を付与するために配合される。アルカリ剤の具体例としては、有機アミン類(・・・、グアニジン等)、無機アルカリ(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、・・・)、・・・が挙げられる。・・・アルカリ剤の配合量は、脱色剤組成物のpHが好ましくは8?12となる量である。脱色剤組成物のpHは、8未満では酸化剤の作用を十分に促進することができない。一方、12を超えると脱色を行うときに毛髪に損傷等の不具合が発生しやすい。」

これによれば、本願補正発明は、アルカリ剤として、(a)アンモニア、(b)アルカノールアミンの他にも、グアニジン等の有機アミンや、水酸化ナトリウム等の無機アルカリを含有することを排除するものではないということができる。

ウ さらに、本願明細書には、刺激臭の低減に関し、次の記載もある。

(ウ-1)「【0019】さらに、エステル型非イオン性界面活性剤は、後述する水と、高級アルコールと、油性成分とにより水中油滴型(O/W型)乳化物を構成して脱色剤組成物の刺激臭をより低減するために配合される。さらに、後述する水と、高級アルコールとにより液晶構造を形成して臭いの成分を液晶構造内に組み込むことによって脱色剤組成物の刺激臭をさらに低減するために配合される。」

(ウ-2)「【0038】アンモニア及びアンモニウム塩は、前述の機能に加えて、毛髪を膨潤させて染料及び酸化剤を毛髪に浸透しやすくするために配合される。アンモニア及びアンモニウム塩の具体例及び配合量は第1の実施形態の脱色剤組成物と同じである。尚、アンモニアとアンモニウム塩とを合わせた配合量は、アンモニア換算で0.08重量%未満では毛髪を十分に膨潤することができないとともに、酸化剤の作用を十分に促進することができない。一方、0.98重量%を超えて配合すると染毛剤組成物の刺激臭を低減しにくい。

これらによれば、本願補正発明は、染毛剤組成物の刺激臭を低減する技術手段として、アンモニアの一部をモノエタノールアミンに代えることのみならず、エステル型非イオン性界面活性剤と水と高級アルコールとを配合することにより液晶構造を形成し、臭いの成分をこの液晶構造内に取り込むという手段をも採用し得るものであるということができる。ただし、本願補正発明は、高級アルコールを必須の含有成分とするものではない。

エ 一方、前記(周知1-2)、(周知2-1)、(周知3-2)の記載に照らして明らかなように、染毛剤組成物においては、アルカリ剤成分としてアンモニアがよく用いられるところ、そのアンモニアには特有の刺激臭等があるため、染毛時にはこの刺激臭等による不快感があること、これを抑えるべく、揮発性のアンモニアに代えて不揮発性のモノエタノールアミン等がよく用られることが当業者に周知であり、そのモノエタノールアミンは、アンモニアと比較すると、毛髪へのダメージが大きく、毛髪内部への浸透作用が弱く、染毛効果が劣るなどの相違があることも周知である。そして、アンモニアとモノエタノールアミンとを併用する場合に、アンモニアとモノエタノールの各々の配合量(あるいは、総配合量とその配合割合)を、染毛剤組成物の刺激臭の低減効果と、アルカリ剤として、毛髪を十分に染毛し得る程度にまで脱色する作用や毛髪に与えるダメージとの兼ね合いにおいて決定・調整することも、当然のことながら、周知である(前記(周知1-1)、前記(周知3-1)参照。)。

オ そうすると、染毛剤組成物においてアルカリ剤として配合されるアンモニアとモノエタノールアミンの相対的な配合割合については、アンモニアによる刺激臭を抑える観点からはアンモニアを減らしてモノエタノールアミンを増やすことが好ましいが、毛髪に与えるダメージが少なく十分な染毛効果を得る観点からはアンモニアを増やしてモノエタノールアミンを減らすことが好ましいことは、本願補正発明の出願前にすでに周知の事項であったということができる。
そして、当業者であれば、これらの要素を考慮して、染毛剤組成物においてアルカリ剤として配合されるアンモニアとモノエタノールアミンの各々の配合量を調整し最適化を図ることは、適宜行うことであるというべきである。

カ このような観点から前記ア?ウをみると、特に、前記アによれば、本願補正発明におけるアルカノールアミンの配合量については、染毛剤組成物の刺激臭の低減効果と、アンモニアとともに配合されるアルカリ剤として、毛髪を十分に染毛し得る程度にまで脱色する作用や毛髪に与えるダメージとの兼ね合いにおいて、2.0重量%?6.0重量%が「好まし」い範囲として開示されているから、その配合量の決定過程における技術思想において、前記オと相違するところはない。具体的な配合量についても、前記の好ましい範囲は、刊行物1発明の2.0重量%と重複する。そして、本願補正発明は、本願明細書に記載された実施例のアルカノールアミンの配合量が2.8重量%と3.8重量%の2つの態様のみであることに基づき、2.8?6重量%に限定されたが、補正前の2.0重量%?6.0重量%の範囲からの調整が格別困難なものというべき理由はない。
一方、アルカリ剤としてのアンモニアの配合量は、アルカノールアミンを併用することによって低減されるものであり、アンモニア以外のアルカリ剤の作用が十分であれば、刺激臭の低減のために低減すべき成分であるから、アルカノールアミンの配合量を増やすのに伴ってアンモニアの配合量を減らすことは、何ら難しいことではない。
したがって、刊行物1発明において、アルカノールアミンの配合量を「2.0重量%」から「2.8?6.0重量%」へ増やすとともに、アルカリ剤としてのアンモニアの配合量を、アンモニア換算で2.24重量%から0.98重量%以下(0.08?0.98重量%)へ低減することは、当業者が適宜調整し得る範囲のことであるというべきである。

キ なお、前記(周知1-2)のとおり、周知文献1の段落【0014】には、「本発明においてはアルカリ剤としてアンモニアと不揮発性アルカリを重量比で0.5:1?3:1の割合で用いることが好適である。アンモニアの重量が不揮発性アルカリの重量の0.5倍より少ない場合には脱色効果や染毛効果が充分発揮されず、また、3倍を超えて配合した場合には脱色や染毛処理中におけるアンモニアの揮散の影響が大きくなり、アルカリ剤が不足することから、所望の染毛効果が得られない。」との記載があるところ、本願補正発明におけるアンモニアと不揮発性アルカリとの重量比は、アンモニアの量が最多の態様であれば、0.98:2.8=0.35:1と算出され、0.5倍より少なく、所望の染毛効果が得られない可能性があると解される一方、前記(周知3-1)、(周知3-2)記載「染毛剤組成物において、(a)モノエタノールアミンおよび(b)アンモニアを含有し、(a)と(b)の配合量の合計が0.5重量%?12重量%であり、(a)と(b)の重量比が1:0.05?1:0.5であることを特徴とする染毛剤組成物。」、「【0007】また(a)および(b)の配合重量比は1:0.05?1:0.5、さらに好ましくは1:0.1?1:0.35である。配合重量比が1:0.05より小さいと十分な明度が得られず、染毛力、堅牢性に欠け、プレーンリンス時およびドライ後の感触が悪くなり、継続使用においても良好な感触が得られない。」に照らすならば、本願補正発明のアルカリ剤の配合比率は、むしろ好ましい範囲の態様である可能性があるとも解されるから、刊行物1発明において、アルカノールアミンの配合量を「2.0重量%」から「2.8?6.0重量%」へ増やすとともに、アルカリ剤としてのアンモニアの配合量を、アンモニア換算で2.24重量%から0.98重量%以下(0.08?0.98重量%)へ低減することは、当業者が効果を確認しつつ適宜検討するべき範囲のことであるということができる。

ク なお、審判請求人は、平成25年5月27日付け回答書において、追加の比較例として、モノエタノールアミンの配合量が2.0重量%,0.5重量%,6.5重量%,8.0重量%の追加比較例17,18,19,20を示し、モノエタノールアミンの配合量が2.0重量%の追加比較例では、項目「刺激臭」の評価が「○」であっても、項目「明度」と「染色性」の評価が「△」であるから、モノエタノールアミンの配合量が2.8重量%?6.0重量%である本願補正発明は顕著な効果を奏するものである旨主張する。
しかし、前記ア及びカのとおり、染毛剤組成物において、アルカノールアミンは、アンモニアの代わりに含有され得るアルカリ剤であり、アンモニアの含有量を低減することによってアンモニア臭に基づく染毛剤組成物の刺激臭を低減するために配合される成分であるといういうことができ、その配合量は、染毛剤組成物の刺激臭の低減効果と、アルカリ剤として、毛髪を十分に染毛し得る程度にまで脱色する作用や毛髪に与えるダメージとの兼ね合いにおいて決定されるものである。そうであれば、アルカリ剤の総量が十分でない場合には、当然に、染毛効果が劣る結果となることは当業者に明らかであるから、エタノールアミンの配合量が2.0重量%の追加比較例17の結果との比較をもって、格別顕著な効果を奏するものであるということはできない。
さらに、追加比較例17の結果については、本願補正発明の実施例12,14,15が、項目「感触」または「毛髪損傷度」において評価が「△」となっているのと同様に、項目「明度」と「染色性」において評価が「△」となっているに過ぎないものであるから、結局、実施例12,14,15と同様に、実用上の許容範囲をどこに決定するかという設計事項にすぎないということができ、この相違をもって格別顕著な効果を奏するものであるということはできない。
また、審判請求人は、「引用文献1の実施例9に開示される構成において、pH調整及びアンモニア臭低減の観点から、アンモニアの配合量を低下させる動機付けが生じたとしても、アルカノールアミンの含有量をさらに増加させる動機付けは生じないと思量する。」とも主張するが、アルカノールアミンの含有量は、前記カのとおり、染毛剤組成物の刺激臭の低減効果と、アンモニアとともに配合されるアルカリ剤として、毛髪を十分に染毛し得る程度にまで脱色する作用や毛髪に与えるダメージとの兼ね合いにおいて、アンモニアの含有量とともに調整・決定されるべきものであって、pH調整及びアンモニア臭低減効果の観点のみから決定されるものではないから、この点の審判請求人の主張も採用の限りでない。

ケ まとめ
以上のとおりであるから、本願補正発明は、刊行物1に記載された発明及び周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)小括
よって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反してなされたものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成24年1月30日付けの手続補正は、前記のとおり却下されたので、本願の請求項2に係る発明は、平成22年12月27日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項2に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項2に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「【請求項2】 酸化剤と混合して使用される染毛剤組成物であって、(a)アンモニアとアンモニウム塩との少なくとも一方、(b)アルカノールアミン、(c)エステル型非イオン性界面活性剤、(d)水及び(e)染料を含有し、成分(a)の含有量がアンモニア換算で0.08?0.98重量%であることを特徴とする染毛剤組成物。」

2.刊行物
原査定の拒絶の理由で引用された刊行物、及び、その記載事項は、前記「第2[理由]2.(2)」に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、前記「第2[理由]2.」で検討した本願補正発明の「アルカノールアミンの含有量」について、「2.8?6重量%」との含有量を削除する関係にあるものである。
そうすると、本願発明の構成要件の一部を数値範囲で限定したものに相当する本願補正発明が、前記「第2[理由]2.」に記載したとおり、刊行物1に記載された発明及び周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、刊行物1に記載された発明及び周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.まとめ
以上のとおり、本願発明は、刊行物1に記載された発明及び周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
以上から、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願の他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-11-13 
結審通知日 2013-11-19 
審決日 2013-12-02 
出願番号 特願2001-177375(P2001-177375)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
P 1 8・ 575- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 八次 大二朗  
特許庁審判長 板谷 一弘
特許庁審判官 関 美祝
安藤 倫世
発明の名称 脱色剤組成物及び染毛剤組成物  
代理人 恩田 博宣  
代理人 恩田 誠  

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