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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B09B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 B09B
管理番号 1283880
審判番号 不服2013-11849  
総通号数 171 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-03-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-06-24 
確定日 2014-02-12 
事件の表示 特願2011- 27932「汚染土壌の洗浄方法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 9月22日出願公開、特開2011-183380、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は平成23年2月10日(優先権主張 平成22年2月10日)の出願であって、平成24年5月28日付けで拒絶理由が通知され、同年7月13日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成25年3月19日付けで拒絶査定がなされ、これに対して同年6月24日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされ、同年9月12日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由1」という。)が通知され、同年11月25日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年12月13日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由2」という。)が通知され、同年12月26日付けで手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明について
本願の請求項1-3に係る発明は、平成25年12月26日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1-3に記載される事項によって特定される以下のとおりのものである。
(各請求項に係る発明を請求項の順に「本願発明1」「本願発明2」「本願発明3」と記載し、それらを総称して「本願発明」と記載する。)

「 【請求項1】
汚染物質により汚染された土壌と、液体と、該汚染物質を吸着する能力を有する微粒子とを混合攪拌する工程と、
前記混合攪拌する工程の後、前記汚染物質を吸着した前記微粒子を含む前記土壌に高圧水を噴射してすすぎを行い、前記汚染物質を吸着した前記微粒子を、所定粒径以下の土壌粒子と共に分級除去して、該所定粒径を超える洗浄土壌を得る工程と、
を有することを特徴とする汚染土壌の洗浄方法。
【請求項2】
前記汚染物質を吸着する能力を有する微粒子は、下記(1)又は(2)の何れか1種又はそれらの組み合わせであることを特徴とする請求項1記載の汚染土壌の洗浄方法。
(1)前記土壌を含む前記液体中で、その微粒子自体が該汚染物質を吸着する能力を有する微粒子
(2)前記土壌を含む前記液体中で生成した微粒子であり、且つ該汚染物質を吸着する能力を有する微粒子
【請求項3】
前記混合攪拌する工程の前に、前記汚染物質により汚染された土壌に対して、水による分級により、所定粒径以下の土壌粒子の除去を行うことを特徴とする請求項1又は2記載の汚染土壌の洗浄方法。」

第3 拒絶理由の概要
1.原査定の理由の概要
原査定の理由の概要は、請求項1に係る発明(本願発明1に対応)は、下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献3に記載された技術的事項から当業者が容易に想到し得たものであるから特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、または、引用文献2に記載された発明及び引用文献1,3に記載された技術的事項から当業者が容易に想到し得たものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、とするものである。

引用文献1:特開2005-262076号公報
引用文献2:特開2006-75800号公報
引用文献3:特開2004-141783号公報

2.当審拒絶理由1の概要
当審拒絶理由1の概要は、請求項1に係る発明(本願発明1に対応)は、上記引用文献1に記載された発明及び下記の引用文献4に記載された技術的事項から当業者が容易に想到し得たものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、とするものである。

引用文献4:特開2004-155031号公報

3.当審拒絶理由2の概要
当審拒絶理由2の概要は、請求項1に係る発明(本願発明1に対応)及び請求項1を引用する請求項2,3に係る発明(本願発明2,3に対応)は、請求項の記載が不備なため明確でなく、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないというものである。

第4 刊行物の記載
原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用された特開2005-262076号公報には、図面と共に次の事項が記載されている。
(1-ア)「【請求項1】
油分に汚染された土壌に加水し混合及び撹拌してスラリーとするとともに前記土壌の洗浄を行う洗浄工程と、
前記スラリーから油分の付着が少ない清浄な土壌粒子を多く含む粗粒分を分離する第1の分級工程と、
前記粗粒分を分離した後のスラリーに含まれる土壌の細粒分を分離する土壌粒子分離工程と、
分離した前記細粒分に油分吸着剤を添加し、混合及び撹拌して、前記細粒分に付着した油分を前記油分吸着剤に吸着させる油分吸着工程と、
混合及び撹拌された前記細粒分及び前記油分吸着剤から、前記細粒分の所定粒径以上の土壌粒子を取り出す第2の分級工程と、を含むことを特徴とする油汚染土壌洗浄方法。」(【特許請求の範囲】)
(1-イ)「油分吸着剤は、粒径が100μm以下のものを多く含むことによって、土壌に添加する油分吸着剤の総表面積が大きくなり、該油分吸着剤によって効果的に土壌粒子に付着した油分を吸着することができる。また、第2の分級工程では、油分の含有率が高く、廃棄物として処理する必要がある土壌粒子を、油を吸着した油分吸着剤とともに分離して、油分が低減された清浄分を効率良く回収することができる。」(【0020】)
(1-ウ)「そして、分離槽3内に沈殿した土壌粒子の細粒分を油分吸着剤とともに第2のドラム式攪拌器4に投入し、攪拌器を回転駆動して細粒分と油分吸着剤とを混合撹拌し、細粒分に付着している油分を油分吸着剤に吸着させる。次に、混合撹拌された細粒分と油分吸着剤との混合物を液体サイクロン5によって分級し、粒径がほぼ75μm以上の部分と75μm以下の部分とに分離する。粒径がほぼ75μm以上の土壌粒子は、上記第2のドラム式攪拌器4による混合撹拌によって油分が油分吸着剤に転移しており、油分がほとんど付着していない。このため、そのまま清浄分として原地盤等への埋め戻しが可能となる。一方、粒径がほぼ75μm以下の土壌粒子及び油分吸着剤を含むスラリーは凝集槽6に搬送し、凝集沈降した土壌粒子及び油分吸着剤は脱水装置8で脱水した後に汚染ケーキとして廃棄する。」(【0033】)
(1-エ)「本願に係る発明の一実施形態である油汚染土壌洗浄方法に用いる設備を示す概略構成図」(【図面の簡単な説明】)と題された【図1】(10頁)を以下に示す。
同図には、「分離槽3」の後の「沈殿した細粒分」の処理に着目すると、(1-ウ)に記載された処理がなされることがみてとれ、さらに当該処理内で、「第2のドラム式攪拌器4」に「油分吸着剤」を投入するとともに「加水(処理水でも可)」がなされていることがみてとれる。



第5 審判合議体の判断
5-1.原査定の理由について
5-1-1.本願発明1について
(1)引用文献1に記載された発明の認定
i)引用文献1の記載事項(1-ア)(以下、単に「(1-ア)」のように記す。)の記載から、引用文献1には、
「油分に汚染された土壌に加水し混合及び撹拌してスラリーとするとともに前記土壌の洗浄を行う洗浄工程と、
前記スラリーから油分の付着が少ない清浄な土壌粒子を多く含む粗粒分を分離する第1の分級工程と、
前記粗粒分を分離した後のスラリーに含まれる土壌の細粒分を分離する土壌粒子分離工程と、
分離した前記細粒分に油分吸着剤を添加し、混合及び撹拌して、前記細粒分に付着した油分を前記油分吸着剤に吸着させる油分吸着工程と、
混合及び撹拌された前記細粒分及び前記油分吸着剤から、前記細粒分の所定粒径以上の土壌粒子を取り出す第2の分級工程と、を含む油汚染土壌洗浄方法。」について示されている。
ii)ここで、上記「方法」は、上記「油分に汚染された土壌」の「細粒分」に、「油分吸着剤」が添加される際に、(1-エ)によると、「加水」されていることが示され、その「油分吸着剤」について、(1-イ)には「油分吸着剤は、粒径が100μm以下のものを多く含むことによって、土壌に添加する油分吸着剤の総表面積が大きくなり、該油分吸着剤によって効果的に土壌粒子に付着した油分を吸着することができる。」と記載されているから、「油分吸着剤」は油分を吸着する粒径100μm以下の粒子状のものであるといえる。
iii)上記「方法」の「第2の分級工程」について、(1-エ)の視認事項を併せてみると、(1-ウ)には「混合撹拌された細粒分と油分吸着剤との混合物を液体サイクロン5によって分級し、粒径がほぼ75μm以上の部分と75μm以下の部分とに分離する。」ことが示されている。
すると、上記「方法」の「第2の分級工程」は、「細粒分と油分吸着剤との混合物を液体サイクロン5によって分級し、粒径がほぼ75μm以上の部分と75μm以下の部分とに分離」するものといえる。
iv)以上によると、「洗浄工程」と「第1の分級工程」を経て「粗粒分」を分離した後の「細粒分」の処理に着目して、本願発明の記載に沿って整理すると、刊行物1には、
「油分に汚染された土壌の細粒分に粒径が100μm以下の粒子状の油分吸着剤を添加し、加水し、前記油分に汚染された土壌の細粒分に付着した油分を前記油分吸着剤に吸着させる混合及び撹拌工程と、
前記汚染された土壌の細粒分及び前記油分吸着剤を、液体サイクロンによって粒径がほぼ75μm以上の部分と75μm以下の部分に分級し、粒径がほぼ75μm以上の土壌粒子を取り出す分級工程と、を含む油汚染土壌洗浄方法。」(以下、「引用発明」という。)の発明が記載されていると認められる。

(2)本願発明と引用発明との対比
i)引用発明の「油分」及び「油汚染土壌洗浄方法」は、本願発明の「汚染物質」及び「汚染土壌の洗浄方法」にそれぞれ相当する。
ii)引用発明の「油分吸着剤」は、粒径が100μm以下であって、汚染物質である油分を吸着する微粒子といえるから、本願発明の「汚染物質を吸着する能力を有する微粒子」に相当する。
iii)引用発明の「油分に汚染された土壌の細粒分に油分吸着剤を添加し、加水し、前記油分に汚染された土壌の細粒分に付着した油分を前記油分吸着剤に吸着させる混合及び撹拌工程」は、汚染された土壌と、水と、油分吸着剤とを混合撹拌する工程であるから、本願発明1の「汚染物質により汚染された土壌と、液体と、該汚染物質を吸着する能力を有する微粒子とを混合攪拌する工程」に相当するといえる。
iv)引用発明の「前記汚染された土壌の細粒分及び前記油分吸着剤を、液体サイクロンによって粒径がほぼ75μm以上の部分と75μm以下の部分に分級し、粒径がほぼ75μm以上の土壌粒子を得る分級工程」は、本願発明1の「前記汚染物質を吸着した前記微粒子を、所定粒径以下の土壌粒子と共に分級除去して、該所定粒径を超える洗浄土壌を得る工程」に相当する。
v)以上から、本願発明と引用発明とは、
「汚染物質により汚染された土壌と、液体と、該汚染物質を吸着する能力を有する微粒子とを混合攪拌する工程と、
前記混合攪拌する工程の後、前記汚染物質を吸着した前記微粒子を、所定粒径以下の土壌粒子と共に分級除去して、該所定粒径を超える洗浄土壌を得る工程と、を有する汚染土壌の洗浄方法。」の点で一致し、次の点で相違する。

(相違点)本願発明は、「分級除去」の前に、「汚染物質を吸着した前記微粒子を含む前記土壌に高圧水を噴射してすすぎを行」うのに対して、引用発明では分級除去前の処理について不明な点。

(3)相違点の判断
上記相違点に関する技術的事項について、原審の引用した引用文献2及び3の記載を検討する。
3-1)原査定の拒絶の理由に引用文献2として引用された特開2006-75800号公報には次のa)?c)の記載がある。
a)「有害物質を含有する汚染土壌から有害物質を除去し、洗浄土砂と有害物質の濃縮した微細土粒子とに分離し、洗浄土砂を再生利用に供し、かつ有害物質の濃縮した微細土粒子を回収処理する汚染土壌の浄化方法であって、前記有害物質を含有する汚染土壌に水と添加剤(1)を添加して混合し、スラリーとする工程(A-1)と、該スラリーを濯いで、微粒子と土砂粒子(1)とに分離し、該微粒子を懸濁水(1)として除去する第1濯ぎ工程(A-2)と、分離した前記土砂粒子(1)の汚染レベルを判定する工程(A-3)とを有し、該工程(A-3)において、汚染レベルが基準値以下であれば、この土砂粒子(1)を洗浄土砂とし、前記工程(A-2)で除去した懸濁水(1)を凝集分離濃縮し、フロックと分離水(1)とに分離する工程(B-1)と、該フロックを脱水処理し、微細土粒子と分離水(2)とに分離する工程(B-2)とを経て、前記有害物質の濃縮した微細土粒子を得ることを特徴とする有害物質を含有する汚染土壌の浄化方法。」(【請求項1】)
b)「次いで、第1濯ぎ工程(A-2)では、工程(A-1)で得たスラリーを濯いで、微粒子と土砂粒子(1)とに分離し、該微粒子を懸濁水(1)として除去する。この微粒子とは、粒子径75μm以下のものをいい、土壌中の土粒子の他に、添加剤として加えた吸着剤等も含まれる。これらは、水中で沈降が遅いため、懸濁水(1)となる。一方、粒子径75μmを超えるものは、比重が2.5?2.9程度であり、土砂粒子(1)として沈降する。有害物質は、土壌中の75μm以下の粒子に大部分が存在しており、これらは吸着剤に吸着することから、微粒子とともに、あるいは微粒子・吸着剤に吸着して懸濁水(1)へと移行する。したがって、この粒子径75μm以下の微粒子を水に懸濁させた状態のまま分離することで、有害物質を土壌から除去することができる。」(【0028】)
c)「この第1濯ぎ工程(A-2)では、骨材洗浄プラントで採用されている砂分級機を用いることができる。砂分級機は、土砂粒子(1)の水切り促進と懸濁水(1)の効率的除去を行うため、2連式や3連式の濯ぎ装置等を採用してもよい。2連式濯ぎ装置の場合、1連目の濯ぎでは、土壌に対し水量は1?8倍が好ましく、2連目の濯ぎでは、水量は土壌と等量であるのが好ましい。この第1濯ぎ工程(A-2)で、スラリー化混合時に添加した界面活性剤及び吸着剤は全て懸濁水(1)として土砂粒子(1)から分離除去される。
スラリー化時に有害物質を吸着する粉末活性炭を添加して、有害物質を微細土粒子と粉末活性炭に捕集し、これを懸濁水(1)として土砂粒子(1)から分離することにより、洗浄土砂への粉末活性炭や添加剤の残留を防止することができる。」(【0029】)
d)上記a)の「汚染土壌の浄化方法」では「有害物質を含有する汚染土壌に水と添加剤(1)を添加して混合し、スラリー」とするもので、b)に記載されるように「スラリー」中の「微粒子」には「有害物質」が含まれており、「スラリーを濯いで、微粒子と土砂粒子(1)とに分離し、該微粒子を懸濁水(1)として除去する第1濯ぎ工程(A-2)」では、上記c)に記載されるように、「砂分級機」で「微粒子と土砂粒子(1)とに分離」する前処理として「2連式や3連式の濯ぎ装置」を用いることが示され、「2連式濯ぎ装置の場合、1連目の濯ぎでは、土壌に対し水量は1?8倍が好ましく、2連目の濯ぎでは、水量は土壌と等量」を用いて「濯ぎ」を行うことが示されているが、この「濯ぎ」が、上記相違点に係る「汚染物質を吸着した前記微粒子を含む前記土壌に高圧水を噴射して」行われるものであることは記載も示唆も見いだすことはできない。

3-2)また、原査定の拒絶の理由に引用文献3として引用された特開2004-141783号公報には次のa)b)の記載がある。
a)「汚染物質を含む掘削土砂を水と混合して掘削泥水を作製する混練ミキサー及び該混練ミキサーで作製された掘削泥水を貯留する貯留槽からなる泥水作製装置と、前記貯留槽内の掘削泥水に含まれる土砂を分級する泥水分級装置とで構成するとともに、該泥水分級装置を、原水槽と該原水槽の上方に配置され所定の粒径で土粒子の選別を行う篩が設けられた振動篩機構と前記篩上の土砂に向けて水を下方に噴射する水噴射機構とで構成した汚染物質の分離除去装置と、前記泥水分級装置で粗粒分が分級除去された泥水を固液分離する固液分離設備と、前記固液分離設備で分離された水に含まれる汚染物質を分離除去する水処理装置とを備えたことを特徴とする汚染土壌の処理システム。」(【請求項1】)
b)「このようにすると、掘削泥水中に土塊、特に粘土塊の形態になっている土砂が存在する場合には、噴射された水の勢いによって該土塊がまず破砕され、次いで、該土塊状の土砂中に含まれていた汚染物質が噴射された水の勢いで吹き飛ばされ、篩を通過して原水槽に落下する。また、破砕された土塊由来の土砂中の土粒子表面に付着していた汚染物質や該汚染物質を含む表面水は、噴射された水の勢いで同様に吹き飛ばされ、篩を通過して原水槽に落下する。」(【0025】)
c)上記a)の「汚染土壌の処理システム」は、「所定の粒径で土粒子の選別を行う篩が設けられた振動篩機構」と「前記篩上の土砂に向けて水を下方に噴射する水噴射機構とで構成した汚染物質の分離除去装置」を有し、この「分離除去装置」は、上記b)によれば、「噴射された水の勢いによって該土塊がまず破砕」され、「次いで、該土塊状の土砂中に含まれていた汚染物質」、「土砂中の土粒子表面に付着していた汚染物質」、「該汚染物質を含む表面水」が「吹き飛ばされ」て「篩を通過」することにより汚染物質を分離除去するものである。
したがって、引用文献2には、篩による分級除去の前に「高圧水を噴射」してすすぎを行うことにより、土砂を分散させるとともに、汚染物質を吹き飛ばすことが示されているといえるが、「汚染物質」を吸着した吸着剤の挙動については何らの示唆もない。
d)これに対して、本願発明1のすすぎは、「本発明の微粒子は、汚染物質を化学的に吸着するので、高圧水を噴射しても汚染物質と微粒子の吸着は、圧力水の物理的作用により破壊されることはほとんど無く、吸着した状態を維持することができる。一方で、圧力水の物理的作用により攪拌されるので、微粒子は効率よく水中に拡散もしくは分散する。すすぎを行うことにより、土壌粒子と汚染物質を吸着した微粒子が離れ、微粒子が水中に拡散もしくは分散するので、後段の分級において微粒子が分離しやすくなる。」(【0067】)というものである。
そうすると、引用文献3には、高圧水の噴射によって土壌(土砂)が分散されるという本願発明のすすぎの作用効果を示唆する記載はあるといえるものの、高圧水の噴射によっても汚染物質が微粒子から離れることがなく、「汚染物質を吸着した微粒子」の分級除去によって汚染物質も除去されるという本願発明のすすぎの作用効果については、「微粒子」の使用を想定しない引用文献3に何ら示されていないし、当該作用効果が技術常識から導かれる自明な事項であるとも認められない。

3-3)よって、引用文献2,3の記載から、上記相違点に相当する記載を見出すことはできず、さらに、上記の点について当業者にとって周知ないし技術常識から自明な事項であるとも認められない。
そして、上記相違点に係る本願発明1の特定事項により、本願発明1は上記した本願明細書【0067】【0068】に記載の効果が奏されるものといえる。
したがって、上記相違点に係る本願発明1の特定事項は、引用文献1-3に記載された技術手段から当業者が容易に想到し得るものであるとすることはできない。
ゆえに本願発明1は原査定による拒絶理由を有しない。

5-1-2.本願発明2、3について
本願発明2、3は、いずれも結果的に請求項1の記載を引用し、本願発明1の特定事項を有しているので、本願発明1が上記のように原査定による拒絶理由を有するものではないから、本願発明2、3も原査定による拒絶理由を有するものでない。

5-1-3.原査定についてのむすび
以上から、本願発明1-3は、引用文献1-3に記載された技術手段から当業者が容易に想到し得たものであるということはできないから、本願発明1-3は原査定による拒絶理由を有しない。

5-2.当審拒絶理由1について
5-2-1.本願発明1について
当審拒絶理由1の概要は、上記「第3 2.」に記載したように、本願発明1は、上記引用文献1に記載された発明及び引用文献4(特開2004-155031号公報)に記載された技術的事項から当業者が容易に想到し得たとするものである。
引用発明及び本願発明1と引用発明との一致点相違点は、上記「5-1-1.(1)(2)」で認定したとおりである。
以下、引用文献4の記載から相違点について検討する。

上記引用文献4には、上記相違点に関する技術的事項について、次のa)b)の記載がある。
a)「本発明のインクの作成方法としては、はじめに分散剤の水溶液に顔料を添加し、撹拌した後、後述の分散手段を用いて分散を行い、粗大粒子を除く為に遠心分離、メンプランを用いた加圧濾過などを行い、所望の分散液を得る。次に、この分散液に前記した溶剤を加え、必要に応じその他の添加剤(界面活性剤、pH調整剤、防腐剤など)を加え撹拌して記録液とする。」(【0042】)
b)「またビーズを用いず、高圧下で分散液をジェットノズルから噴射させて分散を行う方式の分散装置等も適用が可能である。本発明において、所望の粒度分布を有する分散体を得る方法としては、分散機の粉砕メディアのサイズを小さくする、粉砕後加圧濾過、遠心分離で分級するなどの手法が用いられる。またそれらの組み合わせが挙げられる。」(【0045】)
c)引用文献4には、a)に記載されるように、「インク」の作成において、「分散剤」である「水溶液に顔料を添加し、撹拌した」後、「分散手段」として「高圧下で分散液をジェットノズルから噴射させて分散を行う方式の分散装置」を用いて「分散を行」い、「粗大粒子を除く為に遠心分離」を行うという技術的事項が示されている。
d)ここで、上記技術的事項における「高圧下で分散液をジェットノズルから噴射させて分散を行う方式の分散装置」は、単に「顔料」の分散を高めるために用いられるものであって、「顔料」に何らかの物質が吸着しており、上記「分散装置」で分散させても当該物質が「顔料」から分離しないということまでを示すものとはいえない。
したがって、上記引用文献4は、「微粒子」を混合して「汚染物質を化学的に吸着」しているために「高圧水を噴射」しても「汚染物質と微粒子」が分離することはなく、「土壌粒子と汚染物質を吸着した微粒子が離れ、微粒子が水中に拡散もしくは分散するので、後段の分級において微粒子が分離しやすくなる、ということを示唆するものとはいえない。
e)したがって、上記相違点に係る本願発明1の特定事項は、引用文献1及び引用文献4から当業者が容易に想到し得るものであるとすることはできない。
ゆえに、本願発明1は当審拒絶理由1による拒絶理由を有しない。

5-2-2.本願発明2、3について
本願発明2、3は、いずれも結果的に請求項1の記載を引用し、本願発明1の特定事項を有しているので、本願発明1が上記のように当審拒絶理由1による拒絶理由を有するものではないから、本願発明2、3も当審拒絶理由1による拒絶理由を有するものでない。

5-2-3.当審拒絶理由1についてのむすび
以上から、本願発明1-3は、引用文献1及び引用文献4に記載された技術手段から当業者が容易に想到し得たものであるということはできないから、本願発明1-3は当審拒絶理由1による拒絶理由を有しない。

5-3.当審拒絶理由2について
平成25年12月26日付け手続補正書によって特許請求の範囲の請求項1の記載は「前記汚染物質を吸着した前記微粒子を、所定粒径以下の土壌粒子と共に分級除去して」と補正され、請求項1に記載された発明は、明確なものとなった。
よって、本願発明は、記載要件を満足するものとなり、当審拒絶理由2は解消した。

第6 むすび
以上のとおりであるから、本願については、原査定の拒絶理由及び当審拒絶理由1,2を検討しても、それらの理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2014-01-27 
出願番号 特願2011-27932(P2011-27932)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B09B)
P 1 8・ 537- WY (B09B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 大島 彰公  
特許庁審判長 吉水 純子
特許庁審判官 川端 修
中澤 登
発明の名称 汚染土壌の洗浄方法  
代理人 丸山 英一  

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