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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G11B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G11B
管理番号 1284058
審判番号 不服2012-23815  
総通号数 171 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-03-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-11-30 
確定日 2014-01-29 
事件の表示 特願2007-181237「ハードディスクドライブおよびハードディスクドライブアセンブリー」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 1月31日出願公開、特開2008- 21404〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
第1 手続の経緯

本願は、平成19年7月10日(パリ条約による優先権主張 2006年7月10日 韓国)の出願であって、平成24年1月31日付けの拒絶理由通知に対して同年7月9日付けで手続補正がなされたが、同年7月24日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年11月30日付けで拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正がなされ、その後、平成25年3月4日付けの審尋に対し、同年6月5日付けで回答書が提出されたものである。


第2 平成24年11月30日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成24年11月30日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]

1 本件補正

本件補正は、特許請求の範囲について、本件補正前に、

「 【請求項1】
コイルが巻き取られたボビンが挿入されるVCMヨークと、
前記VCMヨークが支持され前記VCMヨークと相異なる材質からなるベースと、
前記VCMヨークと実質的に同一の材質で前記VCMヨークと前記ベースとの間に設けられて前記VCMヨークと前記ベースとの間の相異なる熱膨張係数による機構的変形を阻止する熱変形阻止部と、
を含むことを特徴とするハードディスクドライブ。
【請求項2】
前記熱変形阻止部は、前記VCMヨークと別途に製作されて板状を有する熱変形阻止プレートであることを特徴とする請求項1に記載のハードディスクドライブ。
【請求項3】
前記ベースは、前記熱変形阻止プレートが挿設されるように厚さ方向に沿って所定の深さほど主表面から陥没形成された陥没溝部を含み、
前記挿設された熱変形阻止プレートは、前記ベースの一部を形成することを特徴とする、請求項2に記載のハードディスクドライブ。
【請求項4】
前記熱変形阻止プレートは、前記ベースに結合され、前記VCMヨークは、前記熱変形阻止プレートに結合されることを特徴とする、請求項3に記載のハードディスクドライブ。
【請求項5】
前記熱変形阻止プレートは、少なくとも一つの第1スクリュー溝を含み、
前記ベースは、前記少なくとも一つの第1スクリュー溝を通過する少なくとも一つの第1スクリューが締結されるように前記第1スクリュー溝と対応する位置に厚さ方向に沿って所定の深さ陥没形成された第1スクリュー孔を含むことを特徴とする、請求項4に記載のハードディスクドライブ。
【請求項6】
前記第1スクリューは、前記熱変形阻止プレートと実質的に同一の材質からなることを特徴とする、請求項5に記載のハードディスクドライブ。
【請求項7】
前記第1スクリューは、頭部が前記熱変形阻止プレートの上面に突出されないように皿状を有する前記第1スクリューの頭部を含むことを特徴とする、請求項5に記載のハードディスクドライブ。
【請求項8】
前記VCMヨークは、少なくとも一つの第2スクリュー孔を含み、
前記熱変形阻止プレートは、前記第2スクリュー孔を通過する少なくとも一つの第2スクリューが締結されるように前記第2スクリュー孔と対応する位置に厚さ方向に沿って所定の深さ陥没形成された第2スクリュー溝を含むことを特徴とする、請求項4に記載のハードディスクドライブ。
【請求項9】
コイルが巻き取られたボビンが挿入されるVCMヨークと、
前記VCMヨークが支持されて前記VCMヨークと相異なる材質からなり表面から厚さ方向に沿って所定の深さ陥没形成された陥没溝部が形成されているベースと、
前記陥没溝部に挿入されて前記VCMヨークと前記ベースとにそれぞれ結合されて前記VCMヨークと前記ベースとの間の相異なる熱膨張係数による機構的変形を阻止する熱変形阻止部と、
を含むことを特徴とする、ハードディスクドライブ。
【請求項10】
VCMヨークと、
前記VCMヨークを支持するベースと、
前記VCMヨークと実質的に同一の材質であり、前記ベースと実質的に異なる材質で製作され、前記VCMヨークと前記ベースとに結合される熱変形阻止部と、
を含むことを特徴とするハードディスクドライブアセンブリー。
【請求項11】
前記熱変形阻止部は、前記ベースの陥没溝部に配されることを特徴とする、請求項10に記載のハードディスクドライブアセンブリー。
【請求項12】
データを交換するための外部マイクロプロセッサに連結されるコネクタをさらに含むことを特徴とする、請求項10に記載のハードディスクドライブアセンブリー。
【請求項13】
前記マイクロプロセッサは、中央処理装置(CPU)であり、前記ハードディスクドライブと前記マイクロプロセッサは、一装置に収容されることを特徴とする、請求項12に記載のハードディスクドライブアセンブリー。
【請求項14】
前記VCMヨークと前記ベースは、相互実質的に平行な隣接表面を含み、前記熱変形阻止部は、前記表面に平行な方向に配されることを特徴とする、請求項1に記載のハードディスクドライブ。
【請求項15】
ヘッドスタックアセンブリー(HSA)をさらに含み、
前記熱変形阻止部は、
前記VCMヨークの形状に対応する第1部分と、
前記ヘッドスタックアセンブリー(HSA)部分の形状に対応する第2部分と、
を含むことを特徴とする、請求項1に記載のハードディスクドライブ。
【請求項16】
前記熱変形阻止部は、前記VCMヨークに対向する表面上に配される補強部を含み、前記VCMヨークは、前記熱変形阻止部の補強部に結合されることを特徴とする、請求項1に記載のハードディスクドライブ。」

とあったところを、

「【請求項1】
コイルが巻き取られたボビンが挿入されるVCMヨークと、
前記VCMヨークと相異なる材質からなるベースと、
前記VCMヨークと実質的に同一の材質で前記VCMヨークと前記ベースとの間に設けられて前記VCMヨークと前記ベースとの間の相異なる熱膨張係数による機構的変形を阻止する熱変形阻止部と、
を含むことを特徴とするハードディスクドライブ。
【請求項2】
前記熱変形阻止部は、前記VCMヨークと別途に製作されて板状を有する熱変形阻止プレートであることを特徴とする請求項1に記載のハードディスクドライブ。
【請求項3】
前記ベースは、前記熱変形阻止プレートが挿設されるように厚さ方向に沿って所定の深さほど主表面から陥没形成された陥没溝部を含み、
前記挿設された熱変形阻止プレートは、前記ベースの一部を形成することを特徴とする、請求項2に記載のハードディスクドライブ。
【請求項4】
前記熱変形阻止プレートは、前記ベースに結合され、前記VCMヨークは、前記熱変形阻止プレートに結合されることを特徴とする、請求項3に記載のハードディスクドライブ。
【請求項5】
前記熱変形阻止プレートは、少なくとも一つの第1スクリュー溝を含み、
前記ベースは、前記少なくとも一つの第1スクリュー溝を通過する少なくとも一つの第1スクリューが締結されるように前記第1スクリュー溝と対応する位置に厚さ方向に沿って所定の深さ陥没形成された第1スクリュー孔を含むことを特徴とする、請求項4に記載のハードディスクドライブ。
【請求項6】
前記第1スクリューは、前記熱変形阻止プレートと実質的に同一の材質からなることを特徴とする、請求項5に記載のハードディスクドライブ。
【請求項7】
前記第1スクリューは、頭部が前記熱変形阻止プレートの上面に突出されないように皿状を有する前記第1スクリューの頭部を含むことを特徴とする、請求項5に記載のハードディスクドライブ。
【請求項8】
前記VCMヨークは、少なくとも一つの第2スクリュー孔を含み、
前記熱変形阻止プレートは、前記第2スクリュー孔を通過する少なくとも一つの第2スクリューが締結されるように前記第2スクリュー孔と対応する位置に厚さ方向に沿って所定の深さ陥没形成された第2スクリュー溝を含むことを特徴とする、請求項4に記載のハードディスクドライブ。
【請求項9】
コイルが巻き取られたボビンが挿入されるVCMヨークと、
前記VCMヨークと相異なる材質からなり表面から厚さ方向に沿って所定の深さ陥没形成された陥没溝部が形成されているベースと、
前記陥没溝部に挿入されて、前記VCMヨークと前記ベースとにそれぞれ結合されて前記VCMヨークと前記ベースとの間の相異なる熱膨張係数による機構的変形を阻止する熱変形阻止部と、
を含むことを特徴とする、ハードディスクドライブ。
【請求項10】
VCMヨークと、
ベースと、
前記VCMヨークと実質的に同一の材質であり、前記ベースと実質的に異なる材質で製作され、前記VCMヨークと前記ベースとの間に設けられて前記VCMヨークと前記ベースとに結合される熱変形阻止部と、
を含むことを特徴とするハードディスクドライブアセンブリー。
【請求項11】
前記熱変形阻止部は、前記ベースの陥没溝部に配されることを特徴とする、請求項10に記載のハードディスクドライブアセンブリー。
【請求項12】
データを交換するための外部マイクロプロセッサに連結されるコネクタをさらに含むことを特徴とする、請求項10に記載のハードディスクドライブアセンブリー。
【請求項13】
前記マイクロプロセッサは、中央処理装置(CPU)であり、前記ハードディスクドライブと前記マイクロプロセッサは、一装置に収容されることを特徴とする、請求項12に記載のハードディスクドライブアセンブリー。
【請求項14】
前記VCMヨークと前記ベースは、相互実質的に平行な隣接表面を含み、前記熱変形阻止部は、前記表面に平行な方向に配されることを特徴とする、請求項1に記載のハードディスクドライブ。
【請求項15】
ヘッドスタックアセンブリー(HSA)をさらに含み、
前記熱変形阻止部は、
前記VCMヨークの形状に対応する第1部分と、
前記ヘッドスタックアセンブリー(HSA)部分の形状に対応する第2部分と、
を含むことを特徴とする、請求項1に記載のハードディスクドライブ。
【請求項16】
前記熱変形阻止部は、前記VCMヨークに対向する表面上に配される補強部を含み、前記VCMヨークは、前記熱変形阻止部の補強部に結合されることを特徴とする、請求項1に記載のハードディスクドライブ。」

とする補正を含むものである。

本件補正について検討する。

(1)本件補正は、本件補正前の請求項1における「前記VCMヨークが支持され前記VCMヨークと相異なる材質からなるベース」との特定事項を、「前記VCMヨークと相異なる材質からなるベース」とするものであり、本件補正により、VCMヨークがベースに支持されるという構成要件を削除するものである。ここで、本願明細書の段落【0064】の「熱変形阻止部70がVCMヨーク50とベース60との間に設けられる」との記載、及び段落【0065】の「熱変形阻止プレート70は、ベース60に結合され、VCMヨーク50は、熱変形阻止プレート70に結合される」との記載から、本願に開示されているハードディスクドライブのベースは、VCMヨークを直接支持するものではないことから、「前記VCMヨークが支持され」との特定事項の削除は、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。

(2)本件補正は、本件補正前の請求項9における「前記VCMヨークが支持されて前記VCMヨークと相異なる材質からなり表面から厚さ方向に沿って所定の深さ陥没形成された陥没溝部が形成されているベース」との特定事項を、「前記VCMヨークと相異なる材質からなり表面から厚さ方向に沿って所定の深さ陥没形成された陥没溝部が形成されているベース」とするものであり、かかる補正は上記(1)と同様のものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。

(3)本件補正は、本件補正前の請求項10における「VCMヨークを支持するベース」との特定事項を、「ベース」とするものであり、かかる補正は上記(1)と同様のものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
また、本件補正は、本件補正前の請求項10における「前記VCMヨークと前記ベースとに結合される熱変形阻止部」との特定事項を「前記VCMヨークと前記ベースとの間に設けられて前記VCMヨークと前記ベースとに結合される熱変形阻止部」に限定するものである。

よって、本件補正は、本件補正前の請求項に記載された発明を特定するために必要な事項を限定し、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであるから、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第5項第4号の規定を満たすものである。

そこで、本件補正後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される請求項10に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定する要件を満たすか)について以下に検討する。

本願補正発明は、再掲すれば、次に記載するとおりのものである。

「【請求項10】
VCMヨークと、
ベースと、
前記VCMヨークと実質的に同一の材質であり、前記ベースと実質的に異なる材質で製作され、前記VCMヨークと前記ベースとの間に設けられて前記VCMヨークと前記ベースとに結合される熱変形阻止部と、
を含むことを特徴とするハードディスクドライブアセンブリー。」


2 引用例及びその記載事項

(1)原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願の日前に頒布された刊行物である特開昭64-39668号公報(昭和64年2月9日公開、以下「引用例」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている(なお、下線は当審で付した。)。

a 「本発明は、可動コイル型アクチュエータを記憶トラックの選択用として使用したハードディスク装置に係り、特にパーソナル・コンピュータに好適な、ユニット化された小型のハードディスク装置に関する。」(2頁左上欄10ないし14行)

b 「[実施例]
以下、本発明によるハードディスク装置について、図示の実施例により詳細に説明する。
まず、本発明の一実施例が適用されたハードディスク装置の全体構成を第3図により説明する。
アルミダイキャストなどで作られたベース9にスピンドルモータが18が取付けられ、これには単板、又は複数の円板(磁気ディスク)16がスペーサ17を介してクランプ15で取付けられている。データを読み書きする磁気ヘッド1はアーム2に取付けられ、そして、このアーム2はシャフト7によりベース9に、回動可能に保持されている。一方、このシャフト7には、VCMの可動コイル部31が取付いている。VCMの界磁を構成する固定子ヨーク11a、11bはコイル部31をはさみ込む構造でベース9に取付けられており、下側の固定子ヨーク11aには2個のフェライトマグネットMが取付けられている。」(3頁左上欄18行ないし右上欄15行)

c 「ここで、VCMについて説明する。
まず、従来例によるVCMについて第4図により説明する。
通常VCMは、その下側の固定子ヨークllaの両端部近傍でネジ32によってベース9に固定されている。ところで、ハードディスク装置は、ヘッド1と円板16の相対位置が温度変化によってずれないように、各構成部品の材質、熱膨張率について考慮されており、その為、上記したように、一般にベース9の材質としてはアルミダイキャストが使用される場合が多い。これに対し、VCMは、その磁気回路の存在の為に、Fe系の材質が主成分となり、VCMのベース9への取付部では、熱膨張係数が合わせられず、熱膨張の大きさに差を生ずる。」(3頁左下欄15ないし右下欄9行)

d 「しかして、以下の実施例では、VCMの固定子ヨークとベース基板の間に、これらのいずれとも熱膨張係数の異なる第3の板状部材を介在させることにより、熱膨張による応力の発生を抑え、サーマルオフトラックを除くようにしたものについて説明する。
まず、第11図の実施例は、VCMの固定子ヨーク11の両端にそれぞれ第3の部材42を設け、これらの部材42を介して、ネジ40によりVCMをベース9に固定するようにした実施例である。ここで、固定子ヨークllaの熱膨張率をαV、ベース9の熱膨張率をαB、部材42の熱膨張率をαS、各部の寸法を、第11図に示すようにxA、xB、xC,xDとすると、
xA×αV+xB×αS+xC×αS=xD×αB
となるような、熱膨張率αSと、各寸法をとることによって、ベース9と、VCMの熱膨張率の差による応力の発生をなくすことができ、この結果、ベース、VCMの熱膨張率の差により生ずるバイメタル変形がなくなる為、サーマルオフトラックをなくすことができる。」(4頁右下欄11行ないし5頁左上欄11行)

ア 上記aの「本発明は、可動コイル型アクチュエータを記憶トラックの選択用として使用したハードディスク装置に係り、特にパーソナル・コンピュータに好適な、ユニット化された小型のハードディスク装置に関する。」との記載から、引用例には、「ハードディスク装置」が記載されている。

イ 上記bの「まず、本発明の一実施例が適用されたハードディスク装置の全体構成を第3図により説明する。‥‥‥VCMの界磁を構成する固定子ヨーク11a、11bはコイル部31をはさみ込む構造でベース9に取り付けられており」との記載から、引用例には、「VCMの界磁を構成する固定子ヨークと、ベースと、を含む」ハードディスク装置が記載されているということができる。
ここで、上記cの「一般にベース9の材質としてはアルミダイキャストが使用される場合が多い。」との記載から、引用例に記載の「ベース」は「アルミダイキャストで作られたベース」といえるから、引用例には、「VCMの界磁を構成する固定子ヨークと、アルミダイキャストで作られたベースとを含む」ハードディスク装置が記載されているということができる。

ウ 上記cの「これに対し、VCMは、その磁気回路の存在の為に、Fe系の材質が主成分となり」との記載、上記bの「VCMの界磁を構成する固定子ヨーク11a、11b」との記載、及び、VCMの界磁を構成する固定子ヨークが磁気回路を構成することは明らかであることから、VCMを構成する固定子ヨークの材質は、Fe系の材質を主成分としているといえる。
したがって、引用例には、「VCMの界磁の構成する固定子ヨークは、Fe系を主成分とする」ハードディスク装置が記載されているということができる。

エ 上記cの「しかして、以下の実施例では、VCMの固定子ヨークとベース基板の間に、これらのいずれとも熱膨張係数の異なる第3の板状部材を介在させることにより、熱膨張による応力の発生を抑え、サーマルオフトラックを除くようにしたものについて説明する。‥‥‥第11図の実施例は、VCMの固定子ヨーク11の両端にそれぞれ第3の部材42を設け、これらの部材42を介して、ネジ40によりVCMをベース9に固定するようにした実施例である。」との記載において、「ベース基板」と「ベース」とは同一の部材といえ、また、「VCMの固定子ヨークとベースの間に、これらのいずれとも熱膨張係数の異なる第3の板状部材を介在させること」は、「VCMの固定子ヨークの熱膨張係数、ベースの熱膨張係数のいずれとも熱膨張係数の異なる第3の板状部材を介在させること」といえるから、引用例には「VCMの固定子ヨークとベースの間に、VCMの固定子ヨークの熱膨張係数、ベースの熱膨張係数のいずれとも熱膨張係数の異なる第3の板状部材を介在させ」ることが記載されているということができる。
一方、「第3の部材42」と「第3の板状部材」とは同一の部材といえるから、「第3の部材42を設け、これらの部材42を介して、ネジ40によりVCMをベース9に固定する」ことは、「第3の板状部材を介して、VCMをベースに固定する」ことということができる。
よって、引用例には「VCMの固定子ヨークとベースの間に、VCMの固定子ヨークの熱膨張係数、ベースの熱膨張係数のいずれとも熱膨張係数の異なる第3の板状部材を介在させて、VCMをベースに固定することにより、熱膨張による応力の発生を抑える」ハードディスク装置が記載されているということができる。

したがって、上記引用例に記載された事項、図面の記載を勘案すると、引用例には、以下のとおりの発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「VCMの界磁を構成する固定子ヨークと、
アルミダイキャストで作られたベースと、
を含み、
VCMの界磁を構成する固定子ヨークは、Fe系を主成分とするものであって、
VCMの固定子ヨークとベースの間に、VCMの固定子ヨークの熱膨張係数、ベースの熱膨張係数のいずれとも熱膨張係数の異なる第3の板状部材を介在させて、VCMをベースに固定することにより、熱膨張による応力の発生を抑える、
ハードディスク装置。」


3 対比

本願補正発明と引用発明とを対比する。

(1)引用発明の「VCMの界磁を構成する固定子ヨーク」は、本願補正発明の「VCMヨーク」に相当する。

(2)引用発明の「アルミダイキャストで作られたベース」は、本願補正発明の「ベース」に相当する。

(3)引用発明は、「VCMの固定子ヨークとベースの間に、VCMの固定子ヨークの熱膨張係数、ベースの熱膨張係数のいずれとも熱膨張係数の異なる第3の板状部材を介在させて、VCMをベースに固定することにより、熱膨張による応力の発生を抑える」ものであって、「第3の板状部材」を、「VCMの固定子ヨークとベースの間に」設けて「VCMをベースに固定する」ものであるから、「第3の板状部材」は、「前記VCMヨークと前記ベースとの間に設けられて前記VCMヨークと前記ベースとに結合される」部材であるということができる。
ここで、引用発明の「ハードディスク装置」は、「第3の板状部材」を「VCMの固定子ヨーク」と「ベース」のいずれとも熱膨張係数の異なるものとすることにより、熱膨張による応力の発生を抑えるものであるから、引用発明の「第3の板状部材」は、熱膨張による熱変形を阻止する部材であるといえ、本願補正発明の「熱変形阻止部」である点で共通する。
したがって、引用発明と本願補正発明とは、「前記VCMヨークと前記ベースとの間に設けられて前記VCMヨークと前記ベースとに結合される熱変形阻止部」である点で共通する。

(4)引用発明の「ハードディスク装置」は、VCMの固定子ヨーク、ベース等の各部品を組み合わせた状態のものであることから、本願補正発明の「ハードディスクドライブアッセンブリー」に相当する。

すると、本願補正発明と引用発明とは、次の<一致点>及び<相違点>を有する。

<一致点>
「VCMヨークと、
ベースと、
前記VCMヨークと前記ベースとの間に設けられて前記VCMヨークと前記ベースとに結合される熱変形阻止部と、
を含むハードディスクドライブアセンブリー。」

<相違点>
本願補正発明は「熱変形阻止部」が、「前記VCMヨークと実質的に同一の材質であり、前記ベースと実質的に異なる材質で製作され」ているのに対し、引用発明は、「第3の板状部材」の熱膨張係数が、VCMの固定子ヨークの熱膨張係数、ベースの熱膨張係数のいずれとも異なるものであるものの、VCMヨークと実質的に同一の材質であり、ベースと実質的に異なる材質で製作されることについて特定がない点。

4 判断

<相違点>について
ハードディスク装置において、ハードディスク装置を構成する部品にステンレスを用いることは、例えば、特開2006-179104号公報の段落【0025】の「サスペンション4を支持する‥‥‥ステンレスを素材とするヘッド・アーム3‥‥‥。ピボット・ベアリング1は、ステンレス‥‥‥を素材とする回転中心軸112と、回転中心軸112の両端にボール・ベアリング111を介して設けられた‥‥‥ステンレス‥‥‥を素材とするピボット・ハブ113とで構成される。ヘッド・アーム3を回転駆動するため、ステンレス‥‥‥を素材とした下ヨーク10及び上ヨーク11とそのどちらか、あるいは両方に接着で設けられた永久磁石7からなるVCMがベース61に設けられている。‥‥‥。ヘッド・アーム3とコイル81を接着した‥‥‥ステンレス‥‥‥を素材とするコイル・スペーサ82は、ピボット・ハブ113に積層されて‥‥‥ステンレス‥‥‥を素材とするナット116にてピボット・ハブ113にネジ或いは接着にて固定されている。」との記載、国際公開第2004/093077号の6頁4行ないし5行の「‥‥‥ヨーク25は例えば‥‥‥ステンレス鋼といった磁性体から構成される。」との記載のように、本願出願時において周知である。

一方、ステンレスはその含有成分等により、異なる熱膨張係数を備えることも、例えば、特開2003-214426号公報の段落【0051】の「このSUS300系材料の熱膨張係数は、概ね17.3×10^(-6)である。‥‥‥。このSUS400系材料の熱膨張係数は、概ね10.1×10^(-6)である。」との記載、特開2004-001072号公報の段落【0086】【表3】の、SUS403の熱膨張係数が10.4×10^(-6)、SUS04の熱膨張係数が17.3×10^(-6)であるとの記載のように、本願出願時においてよく知られた周知な事項である(なお、「SUS」は、ステンレス鋼材の材料記号(JIS規格)である。)。
したがって、引用発明において、「VCMの固定子ヨークの熱膨張係数、ベースの熱膨張係数のいずれとも熱膨張係数の異なる第3の板状部材」を用いるにあたり、ステンレスを採用することは当業者が普通になし得る事項であり、また、ステンレスはその含有成分等により、異なる熱膨張係数を備えることも、上記のように周知な事項であるから、引用発明においてステンレスを用いる際に、固定子ヨークの熱膨張係数、ベースの熱膨張係数のいずれとも異なるような材質のステンレスを選択することに格別の困難性を有しない。
そして、引用発明の「第3の板状部材」にステンレスを用いた場合、ステンレスはFe系の材質を主成分とするものであるから、「第3の板状部材」の材質は、「Fe系の材質を主成分とする」「VCMの界磁の構成する固定子ヨーク」と「実質的に同一の材質」であるということができ、また、「アルミダイキャストで作られたベース」とは「実質的に異なる材質で製作され」たものということができる。

したがって、引用発明の第3の板状部材として、VCMの固定子ヨークとは熱膨張係数が異なる、ステンレス(Fe系の材質を主成分とする部材)を用いて、本願補正発明のように、「熱変形阻止部がVCMヨークと実質的に同一の材質であり、ベースと実質的に異なる材質で製作」することは当業者が容易になし得る事項である。


そして、上記相違点を総合的に判断しても、本願補正発明が奏する効果は、引用発明及び周知な事項から当業者が十分に予測できたものであって格別なものとはいえない。

よって、本願補正発明は、引用発明及び周知な事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。


5 本件補正についてのむすび

以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について

1 本願発明

平成24年11月30日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項10に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記「第2[理由]1 」の本件補正前の「請求項10」として記載したとおりのものである。

2 引用例

原査定の拒絶の理由で引用された引用例及びその記載事項は、上記「第2[理由]2 引用例及びその記載事項」に記載したとおりである。

3 対比・判断

本願発明は、上記「第2」で検討した本願補正発明の「ベース」との特定事項から、「VCMヨークを支持する」との構成を付加して「VCMヨークを支持するベース」とし、本願補正発明の「前記VCMヨークと前記ベースとの間に設けられて前記VCMヨークと前記ベースとに結合される熱変形阻止部」との特定事項から、「前記VCMヨークと前記ベースとの間に設けられて」との限定を削除して「前記VCMヨークと前記ベースとに結合される熱変形阻止部」とするものである。

本願補正発明の「ベース」との特定事項から、「VCMヨークを支持する」との構成を付加して「VCMヨークを支持するベース」とする点については、前記「第2 [理由] 1 本件補正」に示したとおり、本願に開示されているハードディスク装置のベースはVCMを直接支持するものではないから、不明りょうな記載ではあるものの、引用発明の「第3板状部材を介在させて、VCMをベースに固定する」ことは、第3の板状部材を介在させて、間接的にではあるがVCMヨークをベースに固定するものということができるから、引用発明の「第3の板状部材を介在させて、VCMをベースに固定する」ことと、本願発明の「VCMヨークを支持するベース」とは、「VCMヨークを支持するベース」である点で一致する。

そうすると、本願発明の特定事項を全て含み、更に他の特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が前記「第2 [理由] 4 判断」に示したとおり、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明及び周知な事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび

以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の請求項に論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-08-28 
結審通知日 2013-09-03 
審決日 2013-09-17 
出願番号 特願2007-181237(P2007-181237)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G11B)
P 1 8・ 575- Z (G11B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山澤 宏  
特許庁審判長 酒井 伸芳
特許庁審判官 石丸 昌平
石井 研一
発明の名称 ハードディスクドライブおよびハードディスクドライブアセンブリー  
代理人 アイ・ピー・ディー国際特許業務法人  

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