• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 1項2号公然実施  D03D
審判 全部無効 2項進歩性  D03D
管理番号 1284126
審判番号 無効2013-800132  
総通号数 171 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-03-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2013-07-25 
確定日 2014-01-27 
事件の表示 上記当事者間の特許第5100895号発明「エアバッグ用基布」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1.手続の経緯
平成22年 8月23日 優先日(日本国)
平成23年 8月23日 出願
平成24年10月 5日 設定登録(特許第5100895号)
平成25年 7月25日付 無効審判請求
平成25年10月11日付 答弁書
平成25年10月23日付 審理事項通知(1)
平成25年11月15日付 両者・口頭審理陳述要領書(1)
平成25年11月18日付 審理事項通知(2)
平成25年11月27日付 両者・口頭審理陳述要領書(2)
平成25年11月29日 口頭審理
平成25年12月 3日付 審理終結通知

各証拠は、「甲第1号証」を「甲1」のように、口頭審理陳述要領書は、「要領書」と略記した。

第2.本件発明
本件特許の請求項1ないし7に係る発明(以下「本件発明1ないし7」という。)は、以下のとおりである。

「【請求項1】
沸水収縮率が7.3?13%であるナイロン66繊維を原糸として用いた、総繊度が200?550dtexおよび単糸繊度が2.0?7.0dtexのマルチフィラメントから構成され、樹脂被膜を有さず、50N/cmおよび300N/cm荷重時の伸度が経緯の平均値でそれぞれ5?15%および15?30%であり、構成糸の引抜抵抗が経緯の平均値で50?200N/cm/cmであり、下記の特定縫製で縫合した縫合境界部における100N/cm負荷後の動的通気度が差圧50kPaにおいて2300mm/s以下であり、下式で表されるカバーファクター(CF)が2100?2500である平織りからなることを特徴とするエアバッグ用基布。
特定縫製:織物を2枚、1350dtexの撚り糸を用いて50回/10cmで本縫いする。
CF=√(0.9×d)×(2×W)
(但し、dは構成糸の経緯平均の総繊度(dtex)であり、Wは経緯平均の織密度(本/2.54cm)である。)
【請求項2】
ASTM D4032剛軟度が3.0?7.5Nである請求項1に記載の基布。
【請求項3】
構成糸の4.7cN/dtex荷重時の伸度が経緯の平均値で10?20%である請求項1または2に記載の基布。
【請求項4】
構成糸の強度が経緯の平均値で7.5cN/dtex以上である請求項1?3のいずれか一項に記載の基布。
【請求項5】
JIS L1017 7.7に規定の一定荷重時伸び率が5?15%であるナイロン66繊維を原糸として用いた請求項1?4のいずれか一項に記載の基布。
【請求項6】
請求項1?5のいずれか一項に記載の基布からなるエアバッグ。
【請求項7】
膨張部と非膨張部の境界部に100N/cmの荷重を負荷した後、膨張部と非膨張部の境界部分における動的通気度が差圧50kPaにおいて2300mm/s以下である請求項6に記載のエアバッグ。」

第3.請求人の主張
1.無効理由の要点
請求人が主張する無効理由は、以下のとおりである(審理事項通知(1)の「第1」、口頭審理調書「両当事者 1」)。

本件発明1?3、5?7に対し
理由1の1:甲1の市中エアバッグによる公然実施(29条1項2号)
理由1の2:甲3の基布保管サンプルによる公然実施(29条1項2号)
理由2の2:甲1又は甲3から容易(29条2項)
理由2の3:審査で引用された文献などにより進歩性欠如
本件発明4に対し
理由2の1:甲1又は甲3から容易(29条2項)
理由2の3:審査で引用された文献などにより進歩性欠如

このうち、理由2の3は、取り下げられた(請求人要領書(2)の5.(第1))。

2.証拠
請求人が提出した証拠は、以下のとおりである。

甲1:甲1-1ないし甲1-16からなり、「三菱自動車株式会社」の名古屋製作所(愛知県岡崎市)で保管されていたエアバッグモジュール回収品から分解して回収されたエアバッグ基布を試験試料として、一般財団法人日本繊維製品品質技術センターの福井試験センターで物性などを測定した資料。
甲1-1:1?3ページ、試験結果、試験方法、試験材料を纏めて示す「試験成績証明書」(原本)
甲1-2:4ページ、エアバッグモジュールの解体手順を示す「試験記録用紙」(写し)
甲1-3:5ページ、サンプリング状況を示す「試験記録用紙」(写し)
甲1-4:6ページ、繊維鑑別についての「試験成績証明書」(写し)
甲1-5:7ページ、構成糸繊度についての「試験記録用紙」(写し)
甲1-6:8ページ、構成糸フィラメント数についての「試験記録用紙」(写し)
甲1-7:9ページ、構成糸強度についての「試験記録用紙」(写し)
甲1-8:10ページ、構成糸4.7cN/dtex荷重時伸度についての「試験記録用紙」(写し)
甲1-9:11ページ、構成糸引抜抵抗値についての「試験記録用紙」(写し)
甲1-10:12ページ、密度についての「試験記録用紙」(写し)
甲1-11:13ページ、カバーファクターについての「試験記録用紙」(写し)
甲1-12:14ページ、エアバッグモジュール内エアバッグ基布の「引張強さ」(写し)
甲1-13:15ページ、100N/cm負荷後境界部通気度についての「試験記録用紙」(写し)
甲1-14:16ページ、たて方向の動的通気度を示すデータ用紙(写し)
甲1-15:17ページ、よこ方向の動的通気度を示すデータ用紙(写し)
甲1-16:18ページ、剛軟度についての「試験記録用紙」(写し)
甲2:甲1の回収品にかかるエアバッグモジュールから分解されたハンドルカバー(モジュール筐体に相当する)の背面写真および要部拡大写真。
甲3:甲3-1ないし甲3-4からなり、「一般財団法人日本繊維製品品質技術センターの福井試験センター」で保管されていたサンプルの中から、製造年月(いずれも本件特許の優先日以前)の異なるア時系列とイ時系列を入手し、それらを試験試料として、請求人総合研究所で物性などを測定した資料。
甲3-1:1?6ページ、試験の目的、内容、測定サンプル、測定結果詳細を纏めて示す「試験成績証明書」(原本)
甲3-2:7?9ページ、福井試験センターにおけるサンプル保管状況の写真(写し)、及び10?12ページ、保管状況を記録したノート(原本)
甲3-3:13?14ページ、製品製造に用いた原糸(写し)
甲3-4:15?17ページ、「製品安全データシート」(写し)
甲4のアの1:請求人の敦賀機能材工場における「紡糸履歴」、「使用原糸」、「銘柄」などを示す、エアバッグ整経条件管理実績書(原本)

甲4のアの2:シミズ社におけるエアバッグ製織管理実績表(原本)
甲4のアの3:「一般財団法人日本繊維製品品質技術センターの福井試験センター」から「株式会社シミズ」宛で、2008年11月13日に送付された物理特性試験報告書(原本)
甲4のアの4:「請求人の自動車テキスタイル事業部エアバッグG」から「株式会社中央倉庫福井営業所」宛で、2008年11月27日に送付された入庫管理書(原本)
甲4のアの5:「請求人の自動車テキスタイル事業部エアバッグG」から「株式会社セ-レンオーカス」および「株式会社中央倉庫福井営業所」宛で、2009年5月28日に送付された出荷指図書(原本)
甲4のアの6:「株式会社中央倉庫福井営業所」から「請求人の自動車TX事業部エアバッググループ」宛で、2009年5月29日に送付された「出荷報告書」と題する書面(原本)
甲4のイの1:エアバッグ整経条件管理実績書。甲第4号証のアの1と同一書証。(原本)
甲4のイの2:シミズ社におけるエアバッグ製織管理実績表(写し)
甲4のイの3:「一般財団法人日本繊維製品品質技術センターの福井試験センター」から「株式会社シミズ」宛で、2008年12月9日に送付された物理特性試験報告書(写し)
甲4のイの4:「請求人の自動車テキスタイル事業部エアバッグG」から「株式会社中央倉庫福井営業所」宛で、2008年12月26日に送付された入庫管理書(写し)
甲4のイの5:「請求人の自動車テキスタイル事業部エアバッグG」から「株式会社セ-レンオーカス」および「株式会社中央倉庫福井営業所」宛で、2009年9月25日に送付された出荷指図書(写し)
甲4のイの6:「株式会社中央倉庫福井営業所」から「請求人の自動車TX事業部エアバッググループ」宛で、2009年10月05日に送付された「出荷報告書」と題する書面(写し)
甲5:東洋紡株式会社 自動車テキスタイル事業部 エアバッググループの足立将孝氏による陳述書(原本)
甲6:東洋紡株式会社 自動車テキスタイル事業部 事業部長の加島壮郎氏による陳述書(原本)
甲7:特開2003-171842号公報:審査過程における引用文献1
甲8:特開平7-42043号公報:審査過程における引用文献2
甲9:特開平11-293541号公報:審査過程における引用文献3
甲10:特開2004-217203号公報:審査過程における引用文献4
甲11:特開2001-277972号公報:審査過程における引用文献5
甲12:特開2004-100056号公報:審査過程における引用文献6
甲13:特開2002-327352号公報:審査過程における引用文献7
甲14:特開2010-47872号公報:審査過程における引用文献8
甲15:特開2006-256474号公報:審査過程における引用文献9
甲16:特開2012-52280号公報:本件特許権と同一発明者による特許出願
甲17:特開2002-67850号公報:審査過程における引用文献1(甲7)と同一の発明者による別の特許出願
甲18:日本工業新聞(1993年7月13日版)朝刊第11面(写し)
甲19:日刊工業新聞(1993年7月13日版)朝刊第16面(写し)
甲20:化学工業日報(1998年1月30日版)朝刊第3面(写し)
甲21:特開2001-32145号公報
甲22:特開2002-317342号公報
甲23:特開2006-124859号公報
甲24:三菱自動車の部品照合システムを示す東都ピストン社の出力帳票(写し)
甲25:請求人の自動車テキスタイル事業部長である加島壮郎氏による陳述書(平成25年11月25日付)(原本)

なお、甲第1ないし17号証は、審判請求書とともに、甲第18ないし25号証は、その後、提出された。

3.主張の概要
(1)理由1の1(甲1)
請求人は、三菱自動車グランディス2007年式に搭載されている運転席エアバッグモジュールの交換品を、三菱自動車の部品取扱商社である東都ピストン社を経由して入手した。
この入手品の製造履歴について、請求人の「自動車テキスタイル事業部」「エアバッググループ」所属の足立将孝氏(名古屋支社駐在)がエアバッグモジュール製造会社であるオートリブ株式会社(以下「オートリブ社」という。)の担当者に問い合わせて確認したところ、このエアバッグの製造日は、2010年3月15日であること、並びにこのエアバッグを組み込んだエアバッグモジュールの製造日は、2010年4月19日であることが分かった(甲5)。
上記入手したエアバッグモジュールを解体してエアバッグを取り出し、更にそのエアバッグから切り出した測定用サンプル布片を対象として、その物性などの試験・測定を第三者機関である一般財団法人日本繊維製品品質技術センターの福井試験センターに求めたところ、審判請求書11頁の表1に示すように、本件発明1?3に係る基布と同一であることが証明できた(甲1-1)。
本件発明1の要件のうち、ナイロン66繊維の原糸の沸水収縮率は、請求人において通常製造しているエアバッグ用のナイロン66原糸の沸水収縮率が安定して10.0%近傍(変動幅9.8?10.2%:甲3-3参照)の値を示すので、本件発明1の規定幅(7.3?13%)を十分に満足し、よって要件具備と判断した。

エアバッグは、自動車交換部品として、定常的な提供義務の下、コンスタントに生産を続けることができ、且つそのことが社会的役割であるところ、甲1は市中から回収されたエアバッグ製品に関する証拠である。
技術情報を体現した『物』は自由な商取引の世界に解放され、技術情報を内包した『物』が完全な脱秘密状態で自由に取引される。エアバッグに体現された技術情報を秘密に保つことは不可能である。
また自動車についての新車種発表や仕様変更発表などがなされると、関係業界では当該新車を購入し、関係する商流のほぼ全ての会社が徹底的なリバース・エンジニアリングに付す。機械構造部品、電気関係部品、これらの素材についての徹底的な解析がなされ、その解析結果はそれを希望する人の手に渡る。技術情報は完全なオープン状態となる。
したがって、本件発明1?3に係る基布の発明は、本件特許出願前に公然実施をされていた発明である。

本件発明5に規定される数値要件は、原糸としての要件であり、回収エアバッグでは測定不能であるが、請求人において通常製造しているエアバッグ用のナイロン66原糸の JIS L1017 7.7に規定の一定荷重時伸び率は、9.6%近傍(変動幅9.3?9.8%:甲3-3参照)であり、請求項5の規定幅(5?15%)を十分に満足する、即ち要件を具備すると判断した。
本件発明6,7のエアバッグについては、本件発明1?3に係る基布を用いて製造されたエアバッグ発明である。

よって、本件発明1?3、5?7は、いずれも本件特許出願前に公然実施されていた発明であるから、特許法第29条第1項第2号の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
(審判請求書8ページの(3-2-1)、請求人要領書(1)7ページ3?13行、請求人要領書(2)2ページ9?24行)

(2)理由1の2(甲3)
請求人は、品質保証のため保管されていた基布のサンプル保管品(東洋紡品名LTA203LS)を、福井試験センターから入手した。ここでは製造・出荷の時期が異なる2つの時系列(以下ア時系列、イ時系列と言う)の基布を入手した。
ア時系列のサンプル保管品は、平成20年(2008年)11月に製造され、平成21年(2009年)6月1日に出荷された基布であり、イ時系列のサンプル保管品は、平成20年(2008年)12月に製造され、平成21年(2009年)10月6日に出荷された基布であり、これら保管品と同一ロットにかかる基布が、エアバッグ用基布として、守秘義務を負わないエアバッグ製造会社である株式会社セーレンオーカス(以下「セーレンオーカス社」という。)に納入されている。
かかるエアバッグ用基布は、三菱自動車グランディスに採用されている(甲6)。
エアバッグを縫製する際の素材である基布は、特定の製造事業者間で取引されるが、本件の事業者間取引においては、取引慣行上、守秘義務を課すものではなく(甲25)、また、仮に事業者間で守秘義務を課しても、理由1の1で述べた通り第三者に容易に知られるという事情がある。
上記保管品にかかる基布を請求人の研究者が試験・測定したところ、審判請求書14頁の表2に示す様に、本件発明1?3に係る基布と同一であることが証明された。従って請求項1?3に係る基布の発明は、本件特許出願前に公然実施をされていた発明である。
本件発明1の要件のうち、ナイロン66繊維の原糸の沸水収縮率は、請求人において通常製造しているエアバッグ用のナイロン66原糸(235T 72-A72)の沸水収縮率が、安定して10.0%近傍(変動幅9.8?10.2%:甲3-3参照)の値を示すので、本件発明1の規定幅(7.3?13%)を十分に満足する、即ち要件を具備すると判断している。

本件発明5に規定される数値要件は、原糸としての要件であるが、請求人の品質管理基準(甲3-3)に基づいて、要件具備の判定を下すことが可能であり、公然実施に当たることを証明できたと判断した。
本件発明6,7のエアバッグについては、本件発明1?3および5に係る基布を用いて製造されたエアバッグに係る発明であり、且つ公然実施の状況下でエアバッグとして製造・提供されたものである。

よって、本件発明1?3、5?7は、いずれも本件特許出願前に公然実施されていた発明であるから、特許法第29条第1項第2号の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
(審判請求書9ページの(3-2-2))

(3)理由2の2(甲1又は甲3)
本件発明1ないし3,5ないし7に係る広い数値範囲の発明は、理由1の1および理由1の2で述べた公然実施発明を明らかに包含している点を含めて、該公然実施発明に基づいて、当業者が容易に数値範囲の設定を想定できた発明である。
また当該広い数値範囲の設定によって達成される効果はいずれも当該公然実施発明または当業者の技術知識から容易に推測できるほどのものと言うべきである。
(審判請求書9ページの(3-3))

(4)理由2の1(本件発明4につき甲1又は甲3)
本件発明4に規定された要件は、前記公然実施発明に基づいて、当業者が適宜規定できる数値範囲にすぎない。
(審判請求書9ページの(3-3))

第4.被請求人の主張
1.要点
これに対し、被請求人は、本件審判請求は成り立たないとの審決を求めている。

2.証拠
被請求人が提出した証拠は、以下のとおりである。
乙1:中山 信弘、小泉 直樹 編集、「新・注解 特許法 「(上巻)」、2011年4月26日発行、株式会社 青林書院) 第244?247頁、及び後付
乙2:東京地判平成17・2・10判決(平成15年(ワ)第19324号)
乙3:特許第5100895号公報
乙4:本件特許出願の審査における平成24年5月22日付け拒絶理由通知書
乙5:本件特許出願の審査における原審査官との面接記録
乙6:応対記録(作成日 平成24年7月17日)
乙7:平成24年8月28日付け意見書
乙8:平成24年8月28日付け手続補正書
乙9:平成24年8月28日付け手続補足書(実験成績証明書)
乙10:本件特許発明と甲第16号証に記載された発明との対比説明資料
乙11:特開2000-129530号公報
乙12:特開2002-266161号公報
乙13:特開2006-124859号公報(甲23に同じ)
乙14:特開2007-23410号公報
乙15:特開2007-162187号公報
乙16:特開2009-235593号公報
乙17:特開2011-58118号公報
乙18:特開2001-32145号公報(甲21に同じ)
乙19:特開2005-105446号公報
乙20:最高裁 最二小判 平3.3.8(昭和62(行ツ)3)判決文
乙21:知財高裁特別部 平成22年(ネ)第10043号判決文

3.主張の概要
その主張の概要は、以下のとおりである。

(1)理由1の1(甲1)
製織後の後加工(処理)においては、加熱処理が行われるため、基布を構成する一定の沸水収縮率をもつ原糸はかかる加熱処理によって不可逆的に収縮率や寸法などの物性が変化してしまう。製織・加工処理された基布を事後的に分析したとしても、製織において使用された原糸の沸水収縮率や一定荷重伸び率を測定することはもはやできない。
発明の実施品が市場において販売されたものの、実施品を分析してもその構成ないし組成を知りえない場合には公然実施にあたらず、また、明示黙示の秘密保持契約がある場合や、工場内等でせまい領域でしか認識していない場合には公用とはならない。
甲1のエアバッグモジュールは保管されていたものであって、本件特許出願の優先日より前に販売されたものでないことは明らかであり、甲1の特定のエアバッグモジュールと「同一」のエアバッグモジュールが搭載された自動車が、優先日より前に販売されたことについて、立証されていない。
すなわち、本件発明の要件「沸水収縮率が7.3?13%である(ナイロン66繊維)を原糸として用いた」が、守秘義務を負わない当業者が利用可能な分析技術を用いて発明の実施品であるところの市場において販売されたとされる基布を分析することにより、特許請求の範囲に記載されている物に該当するかの判断が可能な状態にならない以上、本件発明1は公然実施に当たらない。
(答弁書7ページの(イ)?12ページの(ク)、被請求人要領書(1)4ページ22行?5ページ4行)

(2)理由1の2(甲3)
理由1の1と同様。
甲4のアの1に、東洋紡エアバッグ用基布の品番LTA0203Aの経糸に使用された原糸銘柄が235T-72-A72であることが記載されているとしても、甲4のアの1は、請求人から生産委託を受けた守秘義務を負う株式会社シミズ(以下「シミズ社」という。)における、請求人から提供された原糸を用いてエアバッグ縫製用の反物(基布)の製織を管理するための書類であるから、公然実施の根拠とはなりえない。
(答弁書7ページの(イ)?12ページの(ク)、被請求人要領書(2)の16ページ「イ」)

(3)理由2の2(甲1又は甲3)
本件特許発明1は、公然実施された発明ではないので、本件発明1ないし3,5ないし7は、かかる公然実施された発明の外延を広い数値範囲により適宜定めているにすぎないという理由に基づき、その進歩性が否定されるべきではない。
(答弁書15ページのウ)

(4)理由2の1(本件発明4につき甲1又は甲3)
本件発明4で特定する要件が、エアバッグとしたときのエアバッグ展開時の破壊を抑制できるという技術的意義を有することは明らかである。
(答弁書12ページのイ)

第5.当審の判断
1.本件発明
本件発明1ないし7は、上記第2.のとおりである。

2.理由1の1(甲1)
(1)エアバッグモジュールの生産・流通
甲1のエアバッグモジュールには、その箱、本体に「MN103444XA」なる番号、エアバッグに「BGCA3FZ9ADC」なる番号が付されている(甲1-2)。
品名が「モジュールエアバッグ」で、部品番号「MN103444XA」のものは、2005年5月から2007年5月まで、及び2007年6月から2009年3月まで、「MITSUBISHI」の「グランディス」に用いられていたことが、甲24の「三菱自動車の部品照合システムを示す東都ピストン社の出力帳票」より明らかである。
また、職権調査(ウィキペディア、ホームページ)によれば、三菱自動車のグランディスは、2003年5月発売、2005年5月及び2007年7月にモデルチェンジ、2009年3月国内販売終了とされ、上記の時期と整合している。
以上から、部品番号「MN103444XA」のエアバッグモジュールは、少なくとも2005年5月から2009年3月まで販売された、三菱自動車のグランディスに用いられていたものである。
甲1のエアバッグモジュールには、本体に「BGCA3FZ9ADC」なる番号が付されており、甲5によれば、エアバッグモジュールは2010年4月にオートリブ社により製造されたものである。
自動車用交換部品は、その車種の生産・販売が終了した後であっても、部品交換のため、生産・販売が継続される。
よって、甲1のエアバッグモジュールが、グランディスの国内販売終了後である2010年4月に、オートリブ社により製造されたことに、不自然なところはない。
甲1のエアバッグモジュールは、三菱自動車の部品を取り扱う東都ピストン社を経由して、請求人が入手したものであり、修理・交換用部品として保管されていたことは明らかである。
保管時期については、オートリブ社が、製造後、部品を保管し続けることは、保管費用を生じること、自動車用部品は、必要な場合、直ちに供給する必要があることからみて、オートリブ社による2010年4月の製造後、速やかに三菱自動車名古屋製作所(愛知県岡崎市)に保管されたと考えることが自然である。
すなわち、本体に「BGCA3FZ9ADC」なる番号が付された甲1のエアバッグモジュール(部品番号「MN103444XA」)は、2010年4月以降で、それほど遅くない時期に、オートリブ社から三菱自動車名古屋製作所に譲渡され、求めに応じて販売される用意があったと認められる。
エアバッグモジュールは、特定車種のみが備える専用部品ではなく、汎用性のある部品であるから、取引に際し、秘密保持義務があるとは考えられない。
よって、譲渡された以上、リバースエンジニアリングを含め、自由に処分が可能である。
以上から、「BGCA3FZ9ADC」なる番号が付された甲1のエアバッグモジュールは、2010年4月以降で、それほど遅くない時期に、譲渡、及びその申出がなされ、公然実施されたと認められる。

また、自動車部品、特に安全に関する部品は、一般に部品管理が厳格であり、物性を変えた際に、部品番号を変えないとは、到底考えらない。
甲1と同一の物性を持つ、部品番号「MN103444XA」のエアバッグモジュールは、三菱自動車のグランディスに、少なくとも2005年5月から2009年3月まで搭載され、グランディスが販売された結果、エアバッグモジュールについても譲渡されたと認められる。
自動車は、多くの台数が一般消費者に販売され、交換部品も修理工場等に多く保管されること、エアバッグモジュールは汎用部品であることから、エアバッグモジュールについて秘密管理されているとは考えられない。
したがって、「BGCA3FZ9ADC」なる番号が付された甲1のエアバッグモジュール、及び甲1と同一物性の部品番号「MN103444XA」のエアバッグモジュールは、オートリブ社から出荷された後は、自由な取引が行われ、公然実施されていたと認められる。

(2)エアバッグモジュールの構造
甲1のエアバッグモジュールを解体し、取り出した基布を、福井試験センターが分析・試験した結果である甲1-1には、以下の記載がある。




かかる記載を、請求項1?6を引用する本件発明7に照らし整理すると、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。

「ナイロン66繊維を原糸として用いた、総繊度が236dtexおよび単糸繊度が3.3dtexのマルチフィラメントから構成され、樹脂被膜を有さず、50N/cmおよび300N/cm荷重時の伸度が経緯の平均値でそれぞれ9.3%および24.3%であり、構成糸の引抜抵抗が経緯の平均値で53N/cm/cmであり、下記の特定縫製で縫合した縫合境界部における100N/cm負荷後の動的通気度が差圧50kPaにおいて1498mm/sであり、下式で表されるカバーファクター(CF)が2131である平織りからなるエアバッグ用基布。
特定縫製:織物を2枚、1350dtexの撚り糸を用いて50回/10cmで本縫いする。
CF=√(0.9×d)×(2×W)
(但し、dは構成糸の経緯平均の総繊度(dtex)であり、Wは経緯平均の織密度(本/2.54cm)である。)、
かつ、
ASTM D4032剛軟度が4.3Nであり、
構成糸の4.7cN/dtex荷重時の伸度が経緯の平均値で19.0%であり、
構成糸の強度が経緯の平均値で6.4cN/dtexであり、
上記基布からなるエアバッグであり、
膨張部と非膨張部の境界部に100N/cmの荷重を負荷した後、膨張部と非膨張部の境界部分における動的通気度が差圧50kPaにおいて1498mm/sであるエアバッグ。」

なお、甲1発明の認定について、両者間に争いはない(審理事項通知(2)「第3の2.」)。

(3)対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の各数値は、本件発明1の各数値範囲に含まれる。

したがって、両者は次の点で一致する。
「ナイロン66繊維を原糸として用いた、総繊度が236dtexおよび単糸繊度が3.3dtexのマルチフィラメントから構成され、樹脂被膜を有さず、50N/cmおよび300N/cm荷重時の伸度が経緯の平均値でそれぞれ9.3%および24.3%であり、構成糸の引抜抵抗が経緯の平均値で53N/cm/cmであり、下記の特定縫製で縫合した縫合境界部における100N/cm負荷後の動的通気度が差圧50kPaにおいて1498mm/sであり、下式で表されるカバーファクター(CF)が2131である平織りからなるエアバッグ用基布。
特定縫製:織物を2枚、1350dtexの撚り糸を用いて50回/10cmで本縫いする。
CF=√(0.9×d)×(2×W)
(但し、dは構成糸の経緯平均の総繊度(dtex)であり、Wは経緯平均の織密度(本/2.54cm)である。)」

本件発明1と甲1発明は、次の点で相違する。
相違点1:原糸について、本件発明1では「沸水収縮率が7.3?13%」であるが、甲1発明では明らかでない点。

なお、一致点、相違点の認定について、両者間に争いはない(審理事項通知(2)「第3の2.」)。

(4)判断
理由1の1は、いわゆる「同一」であるところ、本件発明1と甲1発明とは、相違点1がある。
請求人は、周知技術、技術常識で補うことで、実質同一である旨、主張する(調書の「請求人 2」)。
提出された証拠は、いずれも、エアバッグ用基布に関し、原糸の収縮率について、以下の記載がある。
甲18:収縮率の高い糸、収縮率5?16%と高いナイロン糸
甲19:収縮性のあるナイロン66糸
甲20:ナイロン66繊維、糸の加工段階で高収縮
甲21:沸水収縮率5?15%、好ましくは8?12%(段落0015)
甲22:沸水収縮率5?15%、好ましくは8?12%(段落0011)
甲23:沸水収縮率5?10%、好ましくは6?9%(段落0030)

しかし、甲18?20における「収縮率」が「沸水収縮率」であるかは明らかでない。また、甲21?23における「沸水収縮率」は、相違点1に係る範囲と重なる部分があるものの、これらに記載されたものが、甲1の「特定の」エアバッグ用基布に採用されたとする根拠はない。
すなわち、甲1の特定のエアバッグ用基布の原糸が「沸水収縮率が7.3?13%」である点についての証拠は提出されていない。

請求人は、また、本件発明1は「プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」発明であり、「生産物自体」を意味するから、「原糸の沸水収縮率」についての相違点1は、新規性判断とは無縁である旨、主張する(請求人要領書(1)8ページの「3-2」)。
しかし、相違点1に係る点は、審査における平成24年8月28日付け補正(乙8)により、新たに特定され、これにより構成糸の引抜抵抗、すなわち「物」である「エアバッグ用基布」の特性に寄与するものである(本件特許明細書の段落0022、平成24年8月28日付け意見書(乙7)の3.(1)の2)及び3))。
かかる技術的意義を踏まえれば、相違点1を新規性判断とは無縁とすることはできない。

よって、相違点1を実質同一とすることはできない。

(5)小活
以上、理由1の1によっては、本件発明1を無効とすることはできない。

(6)本件発明2?3、5?7
本件発明2?3、5?7は、本件発明1に従属し、本件発明1の構成を全て含むものである。
したがって、本件発明2?3、5?7と甲1発明とを対比すると、少なくとも相違点1が存在し、同様の理由により、これを実質同一とすることはできない。
以上、理由1の1によっては、本件発明2?3、5?7を無効とすることはできない。

3.理由1の2(甲3)
(1)基布の生産・流通
甲3は、福井試験センターで保管されていた、ロット番号「HR02548-101」反番「21-08A01」の基布(以下「ア系列基布」という。)、ロット番号「HS02929-101」反番「21-08A06」の基布(以下「イ系列基布」という。)で、ともに品名「LTA203LS」である2つの基布に関するものである。

ア系列基布は、シミズ社により、11月8日に製織・検反され(甲4のアの2)、かかる基布の一部が11月10日に福井試験センターに送付され(甲3-2の11ページ)、試験結果が2008年11月13日にシミズ社にファクシミリ送信された(甲4のアの3)。
ア系列基布はさらに、シミズ社から株式会社中央倉庫(以下「中央倉庫社という。)に2008年11月28日着として「LOT NO 101」である620m分が移送され(甲4のアの4)、2009年6月1日に中央倉庫社からセーレンオーカス社に620m分納入する旨の指示が2009年5月28日になされ(甲4のアの5)、中央倉庫社はセーレンオーカス社あてに620m分を6月1日必着で出庫する旨の報告書を2009年5月29日に作成している(甲4のアの6)。

イ系列基布は、同様に、シミズ社により、12月2日に製織・検反され(甲4のイの2)、かかる基布の一部が12月4日に福井試験センターに送付され(甲3-2の12ページ)、試験結果が2008年12月8日にシミズ社にファクシミリ送信された(甲4のイの3)。
イ系列基布はさらに、シミズ社から中央倉庫社に2008年12月26日着として「LOT NO 101」である505m分が移送され(甲4のイの4)、2009年10月6日に中央倉庫社からセーレンオーカス社に505m分納入する旨の指示が2009年9月25日になされ(甲4のイの5)、中央倉庫社はセーレンオーカス社あてに505m分を10月6日必着で出庫する旨の報告書を2009年10月5日に作成している(甲4のイの6)。

また、品名「LTA203LS」なる基布は、エアバッグ用として、2002年から2008年までの間、継続的に生産・販売されている(甲6)。

被請求人は、品名「LTA203LS」につき、「LTA203LS」、「LTA203A」、「LTA0203A」、「LTA0203G」のように表記が不統一であるから、同一性に疑義がある旨、主張する(被請求人要領書(2)18ページのオ)。
しかし、請求人によれば、末尾の符号「A」、「G」、「LS」、「LS1」は、製造段階を示す符号であるとのことであり(請求人要領書(1)12ページの1-1)、その説明には合理性がある。
また、「0」の有無は、システム入力の桁合わせのためと解され、不自然ではない。

品名「LTA203LS」のエアバッグ用基布(甲3)は、自動車部品として、継続的に生産・販売されたことから、部品番号「MN103444XA」のエアバッグモジュール(甲1)に用いられたか、三菱自動車のグランディスに搭載されたかは別論として、何らかの自動車に搭載されたと認められる。
自動車は、多くの台数が一般消費者に販売され、交換部品も修理工場等に多く保管されることから、交換部品についての秘密管理は困難であり、一般には秘密として管理されていない。
したがって、品名「LTA203LS」であるア系列基布、イ系列基布は、ともに2008年から2009年にかけて、シミズ社が生産し、中央倉庫社を経て、セーレンオーカス社に販売され、ほかにも、品名「LTA203LS」のエアバッグ用基布が、2002年から2008年までの間に、自由な取引が行われ、公然実施されていたと認められる。

(2)基布の構造
福井試験センターで保管されていた品名「LTA203LS」である、ア系列基布、イ系列基布を、請求人総合研究所が分析・試験した結果である甲3-1には、以下の記載がある。




かかる記載を請求項1?6を引用する本件発明7に照らし整理すると、以下の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されている。

「ナイロン66繊維を原糸として用いた、総繊度が245又は243dtexおよび単糸繊度が3.4dtexのマルチフィラメントから構成され、樹脂被膜を有さず、50N/cmおよび300N/cm荷重時の伸度が経緯の平均値でそれぞれ9.5又は9.3%および26.0又は25.7%であり、構成糸の引抜抵抗が経緯の平均値で57又は67N/cm/cmであり、下記の特定縫製で縫合した縫合境界部における100N/cm負荷後の動的通気度が差圧50kPaにおいて1598又は1488mm/sであり、下式で表されるカバーファクター(CF)が2133又は2128である平織りからなるエアバッグ用基布。
特定縫製:織物を2枚、1350dtexの撚り糸を用いて50回/10cmで本縫いする。
CF=√(0.9×d)×(2×W)
(但し、dは構成糸の経緯平均の総繊度(dtex)であり、Wは経緯平均の織密度(本/2.54cm)である。)、
かつ、
ASTM D4032剛軟度が6.9又は6.5Nであり、
構成糸の4.7cN/dtex荷重時の伸度が経緯の平均値で16.6又は16.5%であり、
構成糸の強度が経緯の平均値で7.3又は7.4cN/dtexであり、
JIS L1017 7.7に規定の一定荷重時伸び率が9.6%であり、
上記基布からなるエアバッグであり、
膨張部と非膨張部の境界部に100N/cmの荷重を負荷した後、膨張部と非膨張部の境界部分における動的通気度が差圧50kPaにおいて1598又は1488mm/sであるエアバッグ。」

請求人は、甲3発明として、原糸の「沸水収縮率が10.0%である」点も認定すべき旨、主張する。
しかし、甲3-1の表の注釈「※3」に「測定サンプルからは測定できないが、製品製造に用いた原糸物性(・・・)に従って記入した。」と記載されているように、「沸水収縮率が10.0%である」点は、「基布」自体から測定することはできない。
請求人が根拠とする甲3-3は、請求人が保有する内部資料であり、一般に公開されたものではないから、「自由な取引」に置かれた「基布」自体を前提とした甲3発明の認定に、甲3-3を採用することはできない。

(3)対比
本件発明1と甲3発明とを対比する。
甲3発明の各数値は、本件発明1の各数値範囲に含まれる。

したがって、両者は次の点で一致する。
「ナイロン66繊維を原糸として用いた、総繊度が245又は243dtexおよび単糸繊度が3.4dtexのマルチフィラメントから構成され、樹脂被膜を有さず、50N/cmおよび300N/cm荷重時の伸度が経緯の平均値でそれぞれ9.5又は9.3%および26.0又は25.7%であり、構成糸の引抜抵抗が経緯の平均値で57又は67N/cm/cmであり、下記の特定縫製で縫合した縫合境界部における100N/cm負荷後の動的通気度が差圧50kPaにおいて1598又は1488mm/sであり、下式で表されるカバーファクター(CF)が2133又は2128である平織りからなるエアバッグ用基布。
特定縫製:織物を2枚、1350dtexの撚り糸を用いて50回/10cmで本縫いする。
CF=√(0.9×d)×(2×W)
(但し、dは構成糸の経緯平均の総繊度(dtex)であり、Wは経緯平均の織密度(本/2.54cm)である。)」

本件発明1と甲3発明は、次の点で相違する。
相違点2:原糸について、本件発明1では「沸水収縮率が7.3?13%」であるが、甲3発明では明らかでない点。

(4)判断
理由1の2は、いわゆる「同一」であるところ、本件発明1と甲3発明とは、相違点2があり、相違点2は相違点1と同じである。
したがって、相違点1と同様の理由により、相違点2を実質同一とすることはできない。

(5)小活
以上、理由1の2によっては、本件発明1を無効とすることはできない。

(6)本件発明2?3、5?7
本件発明2?3、5?7は、本件発明1に従属し、本件発明1の構成を全て含むものである。
したがって、本件発明2?3、5?7と甲3発明とを対比すると、少なくとも相違点2が存在し、同様の理由により、これを実質同一とすることはできない。
以上、理由1の2によっては、本件発明2?3、5?7を無効とすることはできない。

4.理由2の2
請求人が主張する理由2の2は、本件発明1が甲1発明又は甲3発明と同一であることを前提に、「広い数値範囲」の部分について、容易性を主張するものである(請求書9ページの(3-3))。
しかし、上記2.、3.で検討したとおり、本件発明1が甲1発明又は甲3発明と同一とすることはできないから、請求人の主張はその前提を欠く。
よって、請求人の主張する理由2の2によっては、本件発明1を無効とすることはできない。
本件発明2?3、5?7についても、同様に、無効とすることはできない。

5.理由2の1
請求人が主張する理由2の1は、本件発明1が甲1発明又は甲3発明と同一であることを前提に、本件発明4の「構成糸の強度」の特定について、容易性を主張するものである(請求書9ページの(3-3))。
しかし、上記2.、3.で検討したとおり、本件発明1が甲1発明又は甲3発明と同一とすることはできないから、請求人の主張はその前提を欠く。
よって、請求人の主張する理由2の1によっては、本件発明4を無効とすることはできない。

第6.むすび
以上、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件発明1ないし7に係る特許を無効とすることはできない。
また、他に本件発明1ないし7に係る特許を無効とすべき理由を発見しない。
審判費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-12-03 
結審通知日 2013-12-05 
審決日 2013-12-17 
出願番号 特願2011-553636(P2011-553636)
審決分類 P 1 113・ 121- Y (D03D)
P 1 113・ 112- Y (D03D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 奥野 剛規  
特許庁審判長 千葉 成就
特許庁審判官 栗林 敏彦
熊倉 強
登録日 2012-10-05 
登録番号 特許第5100895号(P5100895)
発明の名称 エアバッグ用基布  
代理人 中村 和広  
代理人 菅河 忠志  
代理人 青木 篤  
代理人 古賀 哲次  
代理人 胡田 尚則  
代理人 植木 久彦  
代理人 植木 久一  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ