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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 取り消して特許、登録 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L
管理番号 1284156
審判番号 不服2013-7811  
総通号数 171 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-03-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-04-26 
確定日 2014-02-18 
事件の表示 特願2011-111532「回路接続用接着フィルム、これを用いた回路接続構造体及び回路部材の接続方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 2月 2日出願公開、特開2012- 23338、請求項の数(8)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、特許法第41条に基づく優先権主張(優先日:平成22年6月14日、出願番号:特願2010-135312号)を伴う平成23年5月18日を出願日とする出願であって、平成24年10月3日付けの拒絶理由に対して、同年11月26日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成25年1月23日付けで拒絶査定がなされた。
これに対し、同年4月26日に拒絶査定不服審判の請求がされるとともに手続補正書が提出され、その後、当審において、同年8月28日付けで審尋がなされ、同年9月24日に回答書が提出された。

第2 平成25年4月26日に提出された手続補正書による補正の適否
1 補正の内容
平成25年4月26日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)は、補正前の特許請求の範囲の請求項1?8を、補正後の特許請求の範囲の請求項1?8と補正するものであり、補正前後の請求項1及び請求項5は、それぞれ次のとおりである。

(補正前)
「【請求項1】
厚み0.3mm以下の第1の回路基板の主面上に第1の回路電極が形成された第1の回路部材と、
厚み0.3mm以下の第2の回路基板の主面上に第2の回路電極が形成され、前記第2の回路電極が前記第1の回路電極と対向するように配置され、前記第2の回路電極が前記第1の回路電極と電気的に接続されている第2の回路部材と、
前記第1の回路部材と前記第2の回路部材との間に介在する接続部と、
を備え、
前記接続部が、回路接続用接着フィルムの硬化物であり、
前記第1の回路基板がガラス基板であり、前記第2の回路部材が半導体素子であり、
前記回路接続用接着フィルムが、接着剤組成物及び導電粒子を含有する導電性接着剤層と、接着剤組成物を含有し、導電粒子を含有しない絶縁性接着剤層と、を備え、
前記絶縁性接着剤層に含有される接着剤組成物が、(a)フィルム形成材、(b)エポキシ当量が200?3000であるエポキシ樹脂及び(c)潜在性硬化剤を含む、回路接続構造体。」
「【請求項5】
厚み0.3mm以下の第1の回路基板の主面上に第1の回路電極が形成された第1の回路部材と、
厚み0.3mm以下の第2の回路基板の主面上に第2の回路電極が形成された第2の回路部材と、
前記第1の回路部材及び前記第2の回路部材の間に配置された回路接続用接着フィルムと、
を前記第1の回路電極と前記第2の回路電極とが対向配置された状態で加熱及び加圧して、前記第1の回路電極と前記第2の回路電極とを電気的に接続する、回路接続構造体の製造方法であり、
前記第1の回路基板がガラス基板であり、前記第2の回路部材が半導体素子であり、
前記回路接続用接着フィルムが、接着剤組成物及び導電粒子を含有する導電性接着剤層と、接着剤組成物を含有し、導電粒子を含有しない絶縁性接着剤層と、を備え、
前記絶縁性接着剤層に含有される接着剤組成物が、(a)フィルム形成材、(b)エポキシ当量が200?3000であるエポキシ樹脂及び(c)潜在性硬化剤を含む、製造方法。」

(補正後)
「【請求項1】
厚み0.3mm以下の第1の回路基板の主面上に第1の回路電極が形成された第1の回路部材と、
厚み0.3mm以下の第2の回路基板の主面上に第2の回路電極が形成され、前記第2の回路電極が前記第1の回路電極と対向するように配置され、前記第2の回路電極が前記第1の回路電極と電気的に接続されている第2の回路部材と、
前記第1の回路部材と前記第2の回路部材との間に介在する接続部と、
を備え、
前記接続部が、回路接続用接着フィルムの硬化物であり、
前記第1の回路基板がガラス基板であり、前記第2の回路部材が半導体素子であり、
前記回路接続用接着フィルムが、接着剤組成物及び導電粒子を含有する導電性接着剤層と、接着剤組成物を含有し、導電粒子を含有しない絶縁性接着剤層と、を備え、
前記絶縁性接着剤層に含有される接着剤組成物が、(a)フィルム形成材、(b)エポキシ当量が200?2500であるエポキシ樹脂及び(c)潜在性硬化剤を含む、回路接続構造体。」
「【請求項5】
厚み0.3mm以下の第1の回路基板の主面上に第1の回路電極が形成された第1の回路部材と、
厚み0.3mm以下の第2の回路基板の主面上に第2の回路電極が形成された第2の回路部材と、
前記第1の回路部材及び前記第2の回路部材の間に配置された回路接続用接着フィルムと、
を前記第1の回路電極と前記第2の回路電極とが対向配置された状態で加熱及び加圧して、前記第1の回路電極と前記第2の回路電極とを電気的に接続する、回路接続構造体の製造方法であり、
前記第1の回路基板がガラス基板であり、前記第2の回路部材が半導体素子であり、
前記回路接続用接着フィルムが、接着剤組成物及び導電粒子を含有する導電性接着剤層と、接着剤組成物を含有し、導電粒子を含有しない絶縁性接着剤層と、を備え、
前記絶縁性接着剤層に含有される接着剤組成物が、(a)フィルム形成材、(b)エポキシ当量が200?2500であるエポキシ樹脂及び(c)潜在性硬化剤を含む、製造方法。」

2 本件補正の適否
(1)補正事項の整理
本件補正を整理すると次のとおりである。
[補正事項1]
補正前の請求項1及び請求項5に記載された「(b)エポキシ当量が200?3000であるエポキシ樹脂」を、「(b)エポキシ当量が200?2500であるエポキシ樹脂」として、それぞれ補正後の請求項1及び請求項5とする。
[補正事項2]
補正前の請求項4及び請求項8に記載された「(b)エポキシ当量が200?3000であるエポキシ樹脂」を、「(b)エポキシ当量が200?2500であるエポキシ樹脂」として、それぞれ補正後の請求項4及び請求項8とする。

(2)補正の適否についての検討
ア 補正事項1について
補正事項1は、請求項1及び請求項5に記載した発明を特定するために必要な事項である「前記絶縁性接着剤層に含有される接着剤組成物」が含む「エポキシ樹脂」の「エポキシ当量」について、「エポキシ当量が200?3000である」を「エポキシ当量が200?2500である」として、限定を付加するものであって、補正前の請求項1及び請求項5に記載された発明と補正後の請求項1及び請求項5に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題がそれぞれ同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、補正事項1は、特許法第17条の2第3項、第4項に規定する要件を満たしている。

イ 補正事項2について
補正事項2は、請求項4及び請求項8に記載した発明を特定するために必要な事項である「前記導電性接着剤層に含有される接着剤組成物」に含まれる「エポキシ樹脂」の「エポキシ当量」について、「エポキシ当量が200?3000である」を「エポキシ当量が200?2500である」として、限定を付加するものであって、補正前の請求項4及び請求項8に記載された発明と補正後の請求項4及び請求項8に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題がそれぞれ同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、補正事項1は、特許法第17条の2第3項、第4項に規定する要件を満たしている。

ウ 補正の適否についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第3項?第5項に規定する要件を満たしている。
そして、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正を含むものであるから、補正後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について、以下において検討する。

(3)独立特許要件について
ア 本件補正後の発明
本件補正後の請求項1に係る発明(以下「補正発明1」という。また、本件補正後の請求項2?8に係る発明をそれぞれ「補正発明2」?「補正発明8」という。)及び補正発明5は、上記「1 補正の内容」の「(補正後)」に記載したとおりである。

イ 引用例の記載と引用発明
(ア)引用例1:特開2006-13542号公報
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開2006-13542号公報(以下「引用例1」という。)には、「半導体チップの接続構造及びこれに用いる配線基板」(発明の名称)に関して、図1?9とともに以下の記載がある(下線は当審において付加した。以下同じ。)。

a 「【請求項1】
周縁部に多数の電極を有する半導体チップと、これに相対する電極を有する配線基板の接続構造であって、前記半導体チップおよび/または配線基板の電極が絶縁面より突起してなり、少なくてもいずれかの電極の接続面の表面が凹凸状であり、その接続面の平均粗さ(JIS、B0601、10点平均粗さ)が0.5μm以上であり、少なくとも接続後の半導体チップの周縁部電極に囲まれた領域内に前記突起電極と略同等高さのダミー電極が設けられ、前記ダミー電極は接続面を投影した時、三角状、エル(L)字状のいずれかもしくはこれらの2種が接続領域内に複数個存在し、さらにこれらの頂点が接続領域の中央部に向けて形成されており、厚みが0.3mm以下の前記半導体チップと配線基板とが接着剤で接続されてなる半導体チップの接続構造。
【請求項2】
周縁部に多数の電極を有する半導体チップと、これに相対する電極を有する配線基板の接続構造であって、前記半導体チップおよび/または配線基板の電極が絶縁面より突起してなり、少なくてもいずれかの電極の接続面の表面が凹凸状であり、その接続面の平均粗さ(JIS、B0601、10点平均粗さ)が0.5μm以上であり、少なくとも接続後の半導体チップの周縁部電極に囲まれた領域内に前記突起電極と略同等高さのダミー電極が設けられ、前記ダミー電極は接続面を投影した時、半円弧状、コの字状のいずれかもしくはこれらの2種が接続領域内に複数個存在し、さらにこれらの非開口部が接続領域の中央部に向けて形成されており、厚みが0.3mm以下の前記半導体チップと配線基板とが接着剤で接続されてなる半導体チップの接続構造。
【請求項3】
ダミー電極が、導電性および/または絶縁性であり、接続領域の中央に対し対称形に配設されてなる請求項1または2に記載の半導体チップの接続構造。
【請求項4】
接着剤が、加圧により厚み方向のみに導電性の得られる程度の導電粒子を含有してなる請求項1乃至3のいずれかに記載の半導体チップの接続構造。
…(略)…」

b 「【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体チップの配線基板への接続構造及びこれに用いる配線基板に関する。」

c 「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
最近、半導体チップの厚みを薄くすることで、例えばICカードや液晶表示体等の電子部品を薄型化し、携帯性や操作性等を向上する試みが行われている。例えば薄型の電子部品として、プリペイドカードの厚みは約0.25mm、バーコードラベルの場合約0.15mm等であり、さらに薄型化の方向にある。これらに用いる半導体チップの厚みは、例えば従来の0.6mm程度から0.3mm程度への半減や、極端な場合0.02mm程度の厚さも検討され、厚みが減少する状況にある。この場合、半導体チップと配線基板の間に接着剤を介在させて加圧もしくは加熱加圧すると、チップに反りが発生し接続信頼性が著しく低下する。また接続時に半導体チップの中央部が変形し易いので、残留応力による接着強度の低下や曲げ強度が不足して、薄型電子部品としての携帯に耐え難い欠点があった。」

d 「【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明を、図面を参照しながら説明する。図1?4は本発明の一実施例を説明する半導体チップの接続構造の断面模式図である。図1及び2は半導体チップ1としてバンプレスチップを用いており、図3及び4はバンプつき(突起電極7)の場合を示す。半導体チップ1は前述のように厚みを薄くする方向にあり、本発明はチップの撓み性が増加する薄い場合に特に有効である。また半導体チップ1は、シリコーン、ガリウム-ヒ素等が代表的であるが、その他の類似の電子部品のチップ類であって良い。
【0010】
本発明の電極2は、半導体チップ1の配線であるAlが一般的であるが、Cu、Au、はんだ、Cr、Ni、Ag、Mo、Ta、Sn、ITO(酸化インジウム)、導電性インク類等で良く、これらを主体とする化合物や混合物もしくは複層構成であっても良い。電極2の表面側には、電極2が露出するように厚みが5μm以下、通常1?2μm程度の窒化ケイ素、酸化シリコーン、ポリイミド類等の絶縁層3が形成される。電極2の露出部には図3のように、通称バンプと呼ばれる突起電極7が形成されても良い。本発明ではバンプのないチップをバンプレスチップ(図1?2)という。電極2が露出した部分は半導体チップ1の周縁部に形成されると、接続基板への入出力が容易であることから多用される。ここで周縁部とは、2辺以上(後述図5、c、d)であれば良い。突起電極7は基板4側(図2)に形成されても双方に形成(図略)されても良く、各種回路類や端子類を含むことができる。この場合、バンプレスチップは製造工程が短縮されるので好ましい。
【0011】
基板4としては、ポリイミドやポリエステルなどのプラスチックフィルム、ガラス・エポキシなどの複合体、シリコンなどの半導体、ガラスやセラミックスなどの無機物があり、必要により接着剤(図略)を介して回路5を有する。回路5の材質としては特に限定されないが、電極2で例示したものと同様なものが適用可能である。回路5の厚みは0.1?50μm程度である。一般的には厚みが数μm以上の場合は銅箔や導電性ペイントで形成される。また基板4面あるいは絶縁層3面からの凹凸がないか、あっても数μm以下とわずかな場合は、アディティブ法や薄膜法で電極類を得るのが代表的である。これらの材質や厚みは導電性や腐食性などの特性や経済性を考慮して選択される。
【0012】
ダミー電極6は、基板4(図1?2)もしくは半導体チップ1(図3?4)、あるいは双方(図略)の接続面側に形成され、形成部は接続後の半導体チップ1を投影した時に、少なくとも半導体チップ1の周縁部電極2に囲まれた領域内に前記突起電極と略同等高さに形成される。基板4側にダミー電極6を形成すると、回路加工時のめっきやエッチングにより回路と同時に形成可能なため特に好ましい。ダミー電極6の詳細配置について、図5?6の接続後の半導体チップの投影図を用いて以下に述べる。ダミー電極6は接続面を投影した時、円状および/または多角形状で接続領域内に複数以上が分割して存在する。基本的には直線状(図5a?b)、エル字状やコの字状(図5a?bの一部)、三角状(図5d)等の多角形状や円状(図5c)に形成可能で、それぞれ任意に組み合わせまたは複合して適用できる。
【0013】
この時、接続時の接着剤の流動性に配慮して、中央部から端部にかけて気泡が押出されて内部に残りにくい形状の配置とする。すなわち半導体チップ1の中央から端部にかけて接着剤の流動がスムーズに行える配置とすることである。接着剤の流動がスムーズに行えるダミー電極の配置としては、図6に示すように周縁電極内の接続面8を投影した時、三角状(a)、エル(L)字状(b)、半円(弧)状(c)、及びコの字状(d)のいずれかもしくはこれらが2種以上配設され、これらの頂点および/または閉じられた辺が接続領域の中央部に向けて形成され、これらは複数以上に分割形成されることが、分割部が接着剤の流動をさらに促進するので好適である。また同様な理由から、図6(a、b、e、f)で例示したように、ダミー電極6を接続領域の中央部から周縁に向けて放射状に配設することも良い。さらに図6(a)で表示したように接着剤の流動がスムーズに行えるように、角部に適当な丸みを持たせることも好適である。
【0014】
これらの場合、接着剤は、接続領域の中央部から周縁に向けて流動がスムーズに行えるので接続部に気泡の混入がなく、電極同士あるいは電極と導電粒子との接触が十分となり低い接続抵抗が得られる。ダミー電極は複数以上に分割形成されることにより、分割部が接着剤の流路になり、さらに良好な前述の接続が得られる。接続時の加熱加圧による接着剤の流動は、まず上下の電極間の接着剤が隣接電極間(スペース)に流動し、続いてスペースを充填しながら接続領域外のチップの外側にはみ出る。従って本発明ではスペースを充填しながら流動する工程が重要で、この時流動の妨げとならないようにダミー電極を配設する。
【0015】
図7に示すダミー電極6の断面図のように、電極の接続面の表面が凹凸状であると、導電粒子や硬質の粒子がこれらの電極上に保持され易い。また凹凸状を例えば溝(a)や波状、すじ状(b、c)とすることで、接着剤の流動が一層スムーズに行えるので本発明の実施に好適である。この場合の凹部の深さは0.5μm以上が好ましく、1μm以上がより好ましい。凹部の深さは平均粗さ(JIS、B0601、10点平均粗さ)でも表示できる。また(d、e)のように、台形状や逆台形状とすることも、接着剤の流動性が向上するので好ましい。またダミー電極6は接続領域の中央に対して左右および/または上下対称形とすることが、接着剤の流動が均一になり気泡混入が少なく、また曲げに対する強度保持の点からも良好な接続が得られるので好ましい。
【0016】
ダミー電極6としては前述の電極2や回路5で例示した導電性の材料以外に、絶縁層3で例示したような絶縁性材料も適用可能である。すなわちダミー電極6は接続時の加圧もしくは加熱加圧する際に、大きな変形を生じずに接続できれば良い。従って、上述した基板や半導体チップの構成材料と同等以上の耐熱性を有すれば良い。
【0017】
本発明におけるダミー電極6の高さは突起電極7と略同等高さとするが、若干の考慮が必要である。すなわち図1の構成の回路5が突起電極を兼ねる場合は回路5と同等で良いが、図2?4では回路5と突起電極7との和とする。また図3?4のように突起電極7が絶縁層3上に形成されている場合には絶縁層3からの高さとする。本発明に用いる接着剤11は図8のように、絶縁性の接着剤(図8a)を用いて両電極の直接接触により導電性を得ること(図2?4で可能、突起電極7あり)や、加圧により厚み方向のみに導電性の得られる程度の導電粒子12を含有してなる異方導電性の接着剤(図8b)を用いて、両電極間に導電粒子を介在させる方法(図1?4で可能)のどちらも採用できる。これらは液状でもフィルムでも良いが、一定厚みの連続状で入手が可能なフィルム状が好ましい。また、図8bのような導電粒子を含有した異方導電性の接着剤を用いると、図1のように新たに突起電極7を設ける必要がなく、省資源及び工程的に低コストな点から有利であり好ましい。加圧により厚み方向のみに導電性の得られる程度の導電粒子12の含有量としては、絶縁性接着剤11に対し0.1?15体積%程度、好ましくは0.3?10体積%である。これらは接続ピッチや接続電極面積を考慮して決定される。
【0018】
さらに絶縁性接着剤11と異方導電性の接着剤を積層したフィルム状物(図8c?d)は、絶縁性と導電性の機能を分離して接続できるので、特に高ピッチ接続に有用である。図1の構造を図8c(2層)の接着剤で接続した構成を図9に示す。基板4側の接着剤は導電粒子を含有しない接着剤11′の濃度が支配的であり、絶縁性の向上が得られる。絶縁性接着剤11は、通常の熱可塑性を含めた電子部品用が適用できるが、反応性接着剤が好ましい。後者の例としては、熱や光により硬化性を示す材料が広く適用できる。これらは接続後の耐熱性や耐湿性に優れることから硬化性材料の適用が好ましい。中でもエポキシ系接着剤は短時間硬化が可能で接続作業性が良く、分子構造上接着性に優れる等の特徴から好ましく適用できる。エポキシ系接着剤は、例えば高分子量のエポキシ、固形エポキシと液状エポキシ、ウレタンやポリエステル、アクリルゴム、NBR、ナイロン等で変性したエポキシを主成分とし、硬化剤や触媒、カップリング剤、充填剤などを添加してなるものが一般的である。
【0019】
本発明における硬化剤としては、接続部材の保存性を維持するために潜在性であることが好ましい。本発明でいう潜在性とは、反応性樹脂(例えばエポキシ樹脂)との共存下で、30℃以下で2ヶ月以上の保存性を有し、加熱下で急速硬化するものをいう。導電粒子12としては、Au、Ag、Pt、Ni、Cu、W、Sb、Sn、はんだ等の金属粒子やカーボン等があり、またこれら導電粒子を核材とするか、あるいは非導電性のガラス、セラミックス、プラスチック等の高分子などからなる核材に、前記したような材質からなる導電層を被覆形成したものでも良い。さらに導電粒子12を絶縁層で被覆してなる絶縁被覆粒子や、導電粒子と絶縁粒子の併用なども適用可能である。
…(略)…
【0023】
本発明によれば、半導体チップの厚みが0.3mm以下と薄い場合も、半導体チップの周縁部電極に囲まれた領域内に前記突起電極と略同等高さのダミー電極が存在するので、半導体チップと配線基板の間に接着剤を介在させて加圧もしくは加熱加圧してもチップに反りが発生せずに、接続信頼性が著しく向上する。また接続時に半導体チップの中央部が変形し難いので、接触後に残留応力が残らず薄型電子部品としての携帯に十分耐え得る曲げ強度を有する。ダミー電極は、接続時の接着剤の流動性に配慮して、中央部から端部にかけて気泡が押出されて内部に残りにくい形状の配置であるので、接続部に気泡の混入がなく低い接続抵抗と高い接続信頼性が得られる。さらに好ましい態様としての配線基板の回路電極とダミー電極が略同等高さの場合、回路加工時のめっきやエッチングにより、同時に形成可能なため特別な工程を付加せずに簡単に形成できるので、低コストで入手が容易である。また、電極の接続面の表面が凹凸状であると、導電粒子や硬質の粒子がこれらの電極上に保持され易い。また凹凸状を例えば溝(a)や波状、すじ状(b、c)とすることで、接着剤の流動が一層スムーズに行えるので本発明の実施に好適である。」

e 「【実施例】
【0024】
以下実施例でさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されない。
実施例1
(1)半導体チップ
半導体チップとして、大きさ2×10mm、厚み100μm、接続面は厚み1.5μmの窒化ケイ素で覆われ、4辺の周縁部周囲にパッドと呼ばれる100μm角のアルミ電極の露出部が200個形成されているテスト用チップを用いた。
(2)配線基板
厚みが0.1mmのガラスエポキシ基板に、前記ICチップの電極パッドのサイズに対応する厚み15μmの銅箔よりなる回路端子、及び回路端子に囲まれた領域内に、前記回路(突起電極)と略同等高さの1辺が500μmの正三角形のダミー電極を、図5dのようにチップ中心側に三角形の頂点のくるようにエッチング法により配置形成した。領域内のダミー電極の占める面積比は約50%であり、平均粗さ(JIS)が1.4μmであった。
(3)異方導電フィルム
高分子量エポキシ樹脂とマイクロカプセル型潜在性硬化剤を含有する液状エポキシ樹脂(エポキシ当量185)の比率を20/80とし、酢酸エチルの30%溶液を得た。この溶液に、粒径8±0.2μmのポリスチレン系粒子にNi/Auの厚さ0.2/0.02μmの金属被覆を形成した導電性粒子を5体積%添加し、混合分散した。この分散液をセパレータ(シリコーン処理ポリエチレンテレフタレートフィルム、厚み40μm)にロールコータで塗布し、110℃、20分乾燥し厚み15μmの異方導電フィルムを得た。
(4)接続
前記異方導電フィルムを半導体チップより若干大きな3×12mmに切断し、配線基板に貼り付けた。この後セパレータを剥離し半導体チップのパッドと回路板の端子を位置合わせし、170℃、20kgf/mm^(2)、15秒で接続した。
(5)評価
相対峙する電極間を接続抵抗、隣接する電極間を絶縁抵抗として評価したところ、接続抵抗は0.1Ω以下、絶縁抵抗は108Ω以上であり、これらは85℃、85%RH、1000時間処理後も変化がほとんどなく良好な長期信頼性を示した。この接続体の断面を研磨し顕微鏡観察したところ、図1相当の接続構造であった。また半導体チップの反りはほとんど見られず、接続部に気泡もなかった。
【0025】
実施例2
実施例1と同様であるが、配線基板の構成を変えた。すなわち厚み250μmのポリエチレンテレフタレートフィルムにAgペーストにより、印刷法で厚み15μmの回路及びダミー電極(平均粗さが2.3μm)を形成した。同様に評価したところ、この場合も図1相当の接続構造であるが、半導体チップの反りは見られず、気泡混入も少なく良好な長期信頼性を示した。接続抵抗はAgペースト回路のため、実施例1に比べ若干高いものの1Ω以下であり、絶縁抵抗は10^(8)Ω以上であった。」

f 「【0030】
実施例7?9及び比較例3
実施例1と同様であるが、半導体チップ及び配線基板のダミー電極の形状を変更した。半導体チップは大きさ5mm角で、厚みを0.05mm(実施例7)、0.1mm(100μm…実施例8)、0.3mm(実施例9)、0.6mm(比較例)と変動させた、接続面は厚み1.5μmの窒化ケイ素で覆われ、4辺の周縁部周囲にパッドと呼ばれる100μm角のアルミ電極の露出部が100個形成されているテスト用チップを用いた。配線基板は実施例1と同様で、厚みが0.1mmのガラスエポキシ基板に、前記ICチップの電極パッドのサイズに対応する厚み15μmの銅箔よりなる回路端子、及び回路端子に囲まれた領域内に、前記回路(突起電極)と略同等高さの幅ピッチが1mmの外側に開いたエル字状(図6b相当)とし、領域内のダミー電極の占める面積比は約60%とした。実施例7?9は、半導体チップの反りは見られず、良好な長期信頼性を示した。接続部に気泡のない良好な接続が得られた。半導体チップを接続した基板を丸棒を軸に曲げたところ、丸棒の半径が実施例7から順に10mm、25mm(実施例8)、40mm(実施例9)の変形迄電気的接続が保たれ、半導体チップの薄い程柔軟性があり、いずれも実用性を有するものであった。一方、比較例3の従来厚みの半導体チップの場合、チップの柔軟性がないために、100mmで簡単に断線が発生し、曲げ強度に劣った。」

g 図9を参照すると、半導体チップ1の主面上には、電極2が形成されていることが見てとれる。

(イ)引用発明
引用例1の上記摘記事項「a」の【請求項1】及び上記摘記事項「d」の段落【0011】、【0014】、【0017】を参照するとともに引用例1の図1を参酌すると、引用例1の図9に示された「接続構造」における「配線基板」は、基板4の上に、「突起電極を兼ねる」回路5が形成され、当該突起電極は、半導体チップ1の電極2に「相対する電極」であることが明らかである。

そうすると、引用例1の上記摘記事項「a」及び「d」、特に段落【0017】?【0018】並びに図8(c)及び図9を参酌してまとめると、引用例1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「厚みが0.3mm以下であり、主面上に電極2が形成された半導体チップ1と、配線基板の接続構造であって、
前記配線基板は、基板4の上に、突起電極を兼ねる回路5が形成され、当該突起電極は、半導体チップ1の電極2に相対する電極であり、基板4はガラスからなり、
半導体チップ1と前記配線基板とが接着剤で接続されてなり、
前記接着剤は、絶縁性接着剤と異方導電性の接着剤を積層したフィルム状物を用いたものであり、
基板4側の接着剤は導電粒子を含有しない接着剤11′の濃度が支配的であり、
前記異方導電性の接着剤は、絶縁性接着剤に対し導電粒子12を含有してなるものであり、
絶縁性接着剤は、エポキシを主成分とし、硬化剤や触媒、カップリング剤、充填剤などを添加してなるエポキシ系接着剤を適用し、硬化剤は、潜在性である、
半導体チップ1の接続構造。」

(ウ)引用例2:特開平4-192212号公報
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開平4-192212号公報(以下「引用例2」という。)には、「異方導電性フイルム」(発明の名称)に関して、以下の記載がある。

a 「〔産業上の利用分野〕
本発明は、微細な回路同志の電気的接続、より詳しくは、LCD(液晶ディスプレー)とフレキシブル回路基板の接続や、半導体ICとIC搭載用回路基板のマイクロ接合に用いる事のできる異方導電フィルムに関するものである。」(第1ページ第11?16行)

b 「〔課題を解決するための手段〕
本発明は、反応性エラストマー、エポキシ樹脂、これらを溶解する溶剤、マイクロカプセル化イミダゾール誘導体、および導電性粒子を含む混合物溶液を、キャリアフィルム上に流延・乾燥して製膜してなることを特徴とする異方導電フィルムである。」(第2ページ右下欄第10?16行)

c 「従来の熱硬化タイプの異方導電フィルムは、これ等の特性を満たすものとしてエポキシ樹脂を主成分とし、潜在性硬化剤、溶剤、導電性粒子を混合し、離型性の良好なフィルム、例えばフッ素樹脂系フィルムやシリコン処理を施したポリエステルフィルム上に流延・乾燥して作製されている。
しかし、熱硬化性エポキシ樹脂単独系では硬化収縮に基づく硬化後の応力が大きく、残存歪みとして、例えばLCDガラス基板とフレキシブル回路基板を通常の条件で3mm×50mmの大きさで接合を行なった場合、30?150kg/cm^(2)の応力が接合ガラス部分に加わっている。これを低減する方法として、各種の可塑剤、添加物等の混合が考えられるが、硬化性、保存性、粘着性等の特性の一部が損なわれ、結果として信頼性の良好なフィルムは得られていない。そこで樹脂の硬化収縮による応力を減らすべく樹脂処方面から種々検討を行ない、反応性エラストマー、エポキシ樹脂、およびマイクロカプセル化イミダゾール誘導体の組合せによって異方導電フィルムを硬化した場合に、残留応力が極めて小さいことを見出し本発明に到達した。
本発明において、この反応性エラストマーの配合比か残留応力の大小を決定する。多くなればなるほど残留応力は減少するが、熱硬化性の特性が損なわれ、少なすぎた場合は残留応力を減少させる効果が得られない。種々検討の結果、反応性エラストマーの配合比は樹脂全体量の20?50重量%、好ましくは25?40重量%の範囲で用いられる。
上記反応性エラストマーとは、カルボキシル基含有スチレン-ブタジエン共重合体、…(略)…カルボシキ末端飽和共重合ポリエステル樹脂等が挙げられ、エポキシ樹脂のエポキシ基と反応性を有する樹脂で、しかも相溶性が良好で共通の溶媒に均一に溶解するものを選択して用いる。
本発明におけるエポキシ樹脂は、一分子中に少なくとも二個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂が用いられる。具体例としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ダイマー酸ジグリシジルエステル、フタル酸ジグリシジルエステル、テトラブロムビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールへキサフロロアセトンジグリシジルエーテル、トリグリシジルイソシアヌレート、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンなどが挙げられ、これらの単独あるいは二種以上を混合して用いる。」(第3ページ左上欄第3行?右下欄第7行)

d「〔実施例1〕
カルボン酸変性アクリロニトリル-ブタジエン共重合体50重量部(以下、添加量は全て重量部数を表す)を、ブチルカルビトールアセテート200部に溶解した。この溶液100部に、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ当量900g/eq)50部をトルエン50部に溶解したものを混合撹拌した。ここに、導電性粒子として、平均粒径10μm、最大粒径20μm、最小粒径2μmの半田アトマイズ粉80gを均一に分散させ、そこへマイクロカプセル化イミダゾール誘導体(ビスフェノールA型エポキシ樹脂と2-フェニル-4-メチル-5ヒドロキシメチルイミダゾールの付加物)30部を混合し、均一に分散させた。この樹脂溶液を離型処理ほどこしたポリエチレンテレフタレートフィルムに、乾燥後の厚みが25μmになるように塗膜を形成し、50℃で1時間乾燥させて、異方導電フィルム得た。
〔実施例2〕
アセチル化度3 mol%以下、アセタール化度75モル%のポリビニルアセタール樹脂を、トルエンに溶解して得られた20%溶液250部と、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ当量900g/eq)のトルエン50%溶液50部と、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ当量200g/eq)80部と実施例1と同じマイクロカプセル化イミダゾール誘導体30部と速やかに撹拌混合し、ここに実施例1と同じ半田アトマイズ粉70g添加して均一に分散せしめ、更にトルエンを添加し、FEP(4フッ化エチレン-6フッ化プロピレン共重合体)フィルム上に、乾燥後の厚みが25μmになるように、流延・乾燥して異方導電フィルムを得た。
…(略)…
尚、被着体としては、銅箔35μmにニッケル5 μm、金0.5 μmのメッキを施したフレキシプル回路基板(ピッチ0.2 mm)と、面抵抗30Ωの全面電極ITOガラス(インジウム錫酸化物の薄膜をコーティングした透明導電ガラス)を用いた。」(第4ページ右下欄第16行?第5ページ左下欄第14行)

(エ)引用例3:国際公開2007/119507号
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に外国において頒布された刊行物である国際公開2007/119507号(以下「引用例3」という。)には、「チップ用保護膜形成用シート」(発明の名称)に関して、以下の記載がある。

a 「[0001] 本発明は、半導体チップ等のチップ体の裏面に保護膜を形成する際に用いられるチップ用保護膜形成用シートに関する。」

b 「0003] このような半導体装置は、一般的には次のような工程を経て製造されている。
(1)ウエハの表面にエッチング法等により回路を形成し、回路面の所定位置にバンプを形成する。
(2)ウエハ裏面を所定の厚さまで研削する。
(3)リングフレームに張設されたダイシングシートにウエハ裏面を固定し、ダイシングソーにより各回路毎に切断分離し、半導体チップを得る。
(4)半導体チップをピックアップし、フェースダウン方式で所定の基台上に実装し、必要に応じチップを保護するために樹脂封止またはチップ裏面に樹脂コーティングを施し、半導体装置を得る。
[0004] 樹脂封止は、適量の樹脂をチップ上に滴下・硬化するポッティング(potting)法や、金型を用いたモールド法などにより行われる。しかし、ポッティング法では適量の樹脂を滴下することが難しい。またモールド法では金型の洗浄等が必要になり、設備費、運転費が高価になる。樹脂コーティングは、適量の樹脂を均一に塗布することが難しいため、品質にばらつきがでることがある。したがって、均一性の高い保護膜を、チップ裏面に簡便に形成できる技術の開発が要望されていた。」

c 「発明が解決しようとする課題
[0008] 上記プロセスにおいて、保護膜の硬化の際に保護膜が収縮することでウエハに反りが発生することがあった。このような反りがあるウエハはマーキングを行う際にレーザー光の焦点が定まらず、そのため精度良くマーキングを行うことができなかった。
[0009] 本発明は上記のような従来技術に鑑みてなされたものであって、ウエハなどのワークに形成された保護膜にマーキングを行うプロセスに好適に用いられる保護膜形成用シートを提供することを目的としている。」

d 「発明を実施するための最良の形態
[0015] 以下、本発明についてさらに具体的に説明する。本発明に係るチップ用保護膜形成用シートは、剥離シートと、剥離シートの剥離面上に設けられた保護膜形成層とからなる。
…(略)…
[0017] 本発明のチップ用保護膜形成用シートにおいては、その使用に際して、保護膜形成層を熱硬化後、剥離シートを剥離し、保護膜形成層を半導体ウエハに転写する。…(略)…
[0020] 保護膜形成層は、熱硬化性を有し、半導体ウエハ等の被着体に貼付の後、硬化することで被着体に保護膜を形成する。
[0021] 該保護膜形成層は、エポキシ樹脂、バインダーポリマーおよびフィラーを必須成分として含み、必要に応じ他の成分を含む。
[0022] エポキシ樹脂は、その全量100重量%中30重量%以上、好ましくは40重量%以上、さらに好ましくは45?95重量%、特に好ましくは50?90重量%が下記式(I)および(II)式で示されるエポキシ樹脂から選択されたものである。
…(略)…
[0028] 以下、上記(I)式または(II)式で示されるエポキシ樹脂を、特に「柔軟性エポキシ樹脂」と記載することがある。柔軟性エポキシ樹脂のエポキシ当量は、好ましくは100?1000g/eq、さらに好ましくは200?600g/eqである。また柔軟性エポキシ樹脂は、その硬化物のガラス転移温度(Tg)が、好ましくは100℃以下、さらに好ましくは80℃以下である。
[0029] エポキシ樹脂として、上記柔軟性エポキシ樹脂を用いると、…(略)…
[0030] 本発明で使用するエポキシ樹脂は、上記柔軟性エポキシ樹脂単独でもよいが、硬化前の粘着物性や、硬化した保護膜の強度や耐擦傷性等を適宜に制御するため、他の汎用エポキシ樹脂がブレンドされていてもよい。
…(略)…
[0032] 柔軟性エポキシ樹脂と併用される汎用エポキシ樹脂としては、通常は、分子量300?2000程度のものが好ましく、特に分子量300?1000、好ましくは330?800の常態液状のエポキシ樹脂、分子量400?2500、好ましくは800?2000の常態固体のエポキシ樹脂およびこれらのブレンド物があげられる。また、これら汎用エポキシ樹脂のエポキシ当量は通常50?5000g/eqである。…(略)…
[0035] 本発明で使用するエポキシ樹脂は、その平均エポキシ当量が、好ましくは200?800g/eq、さらに好ましくは300?800g/eq、特に好ましくは500?700g/eqとなるように、上記柔軟性エポキシ樹脂および汎用エポキシ樹脂を混合することが望ましい。平均エポキシ当量が200g/eq以下であると加熱硬化時の収縮が大きくなり、半導体ウエハが反り、また接着力の低下が起こる可能性がある。一方、平均エポキシ当量が800g/eq以上であると、硬化後の架橋密度が低くなり、十分な接着強度がでない可能性がある。」

ウ 対比
補正発明1と引用発明とを対比する。

(ア)引用発明では、「前記配線基板は、基板4の上に、突起電極を兼ねる回路5が形成され」、「基板4はガラスからな」るから、引用発明の「突起電極を兼ねる回路5」、「基板4」及び「配線基板」は、それぞれ補正発明1の「第1の回路電極」、「第1の回路基板」及び「第1の回路部材」に相当する。
したがって、補正発明1と引用発明とは、「第1の回路基板の主面上に第1の回路電極が形成された第1の回路部材」を備え、「前記第1の回路基板がガラス基板であ」る点で一致する。

(イ)引用発明の「厚みが0.3mm以下」の「半導体チップ1」及び「電極2」は、それぞれ補正発明1の「厚み0.3mm以下」の「第2の回路基板」、「第2の回路電極」に相当する。
また、引用発明の「電極2が形成された半導体チップ1」は補正発明1の「第2の回路部材」に相当するとともに、当該「電極2が形成された半導体チップ1」は「半導体素子」であることは明らかである。
また、引用発明では、「当該突起電極は、半導体チップ1の電極2に相対する電極であ」るから、「当該突起電極」は「電極2」と「対向するように配置された」ものであるといえる。
さらにまた、上記「イ」「(ア)引用例1」の摘記事項「d」の段落【0014】等も勘案すると、引用発明において、「電極2」は「突起電極を兼ねる回路5」と「電気的に接続されている」ことは明らかである。
したがって、補正発明1と引用発明とは、「厚み0.3mm以下の第2の回路基板の主面上に第2の回路電極が形成され、前記第2の回路電極が前記第1の回路電極と対向するように配置され、前記第2の回路電極が前記第1の回路電極と電気的に接続されている第2の回路部材」を備え、「前記第2の回路部材が半導体素子であ」る点で一致する。

(ウ)引用発明では、「半導体チップ1と配線基板とが接着剤で接続されてな」るから、引用発明の「接着剤」は補正発明1の「接続部」に相当し、補正発明1と引用発明とは、「前記第1の回路部材と前記第2の回路部材との間に介在する接続部」を備える点で一致する。
また、引用発明では、「前記接着剤は、絶縁性接着剤と異方導電性の接着剤を積層したフィルム状物を用いたものであり、 基板4側の接着剤は導電粒子を含有しない接着剤11′の濃度が支配的であり、 前記異方導電性の接着剤は、絶縁性接着剤に対し導電粒子12を含有してなるものであ」るから、引用発明の「フィルム状物」は、補正発明の「回路接続用フィルム」に相当し、引用発明の「『フィルム状物』の『絶縁性接着剤』」は、補正発明1の「接着剤組成物を含有し、導電粒子を含有しない絶縁性接着剤層」に相当し、引用発明の「『フィルム状物』の『異方導電性の接着剤』」であって、「絶縁性接着剤に対し導電粒子12を含有してなるもの」は、補正発明1の「接着剤組成物及び導電粒子を含有する導電性接着剤層」に相当する。
引用発明では、「『前記接着剤」は、『フィルム状物を用いたもの』であり」、「絶縁性接着剤は、エポキシを主成分とし、硬化剤や触媒、カップリング剤、充填剤などを添加してなるエポキシ系接着剤を適用し、硬化剤は、潜在性である」から、技術常識を勘案すると、補正発明1と引用発明とは、「『接着剤』が、『回路接続用接着フィルムの硬化物』」である点、及び「前記回路接続用接着フィルムが、接着剤組成物及び導電粒子を含有する導電性接着剤層と、接着剤組成物を含有し、導電粒子を含有しない絶縁性接着剤層」を備えるものである点、並びに「前記絶縁性接着剤層に含有される接着剤組成物が、エポキシ樹脂及び潜在性硬化剤を含む」ものである点で一致する。

(エ)引用発明の「接続構造」は、補正発明1の「回路接続構造体」に相当する。

(オ)以上をまとめると、補正発明1と引用発明の一致点及び相違点は次のとおりである。

<一致点>
「第1の回路基板の主面上に第1の回路電極が形成された第1の回路部材と、
厚み0.3mm以下の第2の回路基板の主面上に第2の回路電極が形成され、前記第2の回路電極が前記第1の回路電極と対向するように配置され、前記第2の回路電極が前記第1の回路電極と電気的に接続されている第2の回路部材と、
前記第1の回路部材と前記第2の回路部材との間に介在する接続部と、
を備え、
前記接続部が、回路接続用接着フィルムの硬化物であり、
前記第1の回路基板がガラス基板であり、前記第2の回路部材が半導体素子であり、
前記回路接続用接着フィルムが、接着剤組成物及び導電粒子を含有する導電性接着剤層と、接着剤組成物を含有し、導電粒子を含有しない絶縁性接着剤層と、を備え、
前記絶縁性接着剤層に含有される接着剤組成物がエポキシ樹脂及び潜在性硬化剤を含む、回路接続構造体。」

<相違点1>
補正発明1では、「厚み0.3mm以下の第1の回路基板」であるのに対し、引用発明では、「基板4」の厚みは特定されていない点。

<相違点2>
補正発明1では、「『前記絶縁性接着剤層に含有される接着剤組成物』が、「(a)フィルム形成材」を含むのに対し、引用発明では、「フィルム状物」の「絶縁性接着剤」が、フィルム形成材を含むことは特定されていない点。

<相違点3>
補正発明1では「『前記絶縁性接着剤層に含有される接着剤組成物』が含む「エポキシ樹脂」は、「(b)エポキシ当量が200?2500であるエポキシ樹脂」であるのに対し、引用発明では、「絶縁性接着剤は、エポキシを主成分とし、硬化剤や触媒、カップリング剤、充填剤などを添加してなるエポキシ系接着剤を適用」するものの、「エポキシ系接着剤」のエポキシ当量は不明である点。

エ 判断
(ア)補正発明1についての判断
相違点1?相違点3について検討する。
先ず、相違点3について検討する。
a 相違点3について
(a)上記「イ」の「(ア)引用例1」の摘記事項「e」には、実施例1では、異方導電フィルムを得るのに、「マイクロカプセル型潜在性硬化剤を含有する液状エポキシ樹脂(エポキシ当量185)」を用いることが開示されており、この他、引用例1において、エポキシ樹脂のエポキシ当量の数値範囲に関する事項についての記載を見出すことはできない。

(b)次に、引用発明と引用例2に記載の技術との組合せについて検討する。
(b1)上記「イ」の「(ア)引用例1」の摘記事項「c」には、【発明が解決しようとする課題】として、「半導体チップ」の厚みが減少する場合、半導体チップと配線基板の間に接着剤を介在させて加圧もしくは加熱加圧すると、チップに反りが発生し接続信頼性が著しく低下し、また接続時に半導体チップの中央部が変形し易いので、残留応力による接着強度の低下や曲げ強度が不足する旨が開示されている。

(b2)他方、上記「イ」の「(ウ)引用例2」の摘記事項「d」には、実施例1及び実施例2において、異方導電フィルムを得るのに、エポキシ当量900g/eqまたは200g/eqのエポキシ樹脂を用いることが開示されている。しかしながら、摘記事項「a」を参照すると、引用例2に記載の技術は、「LCD(液晶ディスプレー)とフレキシブル回路基板の接続や、半導体ICとIC搭載用回路基板のマイクロ接合に用いる事のできる異方導電フィルムに関するもの」であり、また、上記「イ」の「(ウ)引用例2」の摘記事項「c」を参照すると、熱硬化性エポキシ樹脂単独系では硬化収縮に基づく硬化後の応力が大きいため、この残留応力を減らすべく、反応性エラストマー、エポキシ樹脂、およびマイクロカプセル化イミダゾール誘導体の組合せによって異方導電フィルムを硬化することが開示されており、引用例2には、残留応力を減らすために、エポキシ当量を900g/eqまたは200g/eqのエポキシ樹脂を用いることは開示されていない。

(b3)したがって、引用発明において、引用例2を参照したとしても、引用例1に開示の課題と引用例2に記載の技術の課題とは異なり、しかも、引用例2の上記摘記事項「d」には、被着体として、「フレキシブル回路基板」と「全面電極ITOガラス」とを用いることは開示されているものの、回路部材の一方を「半導体チップ」とすることは開示されていないので、引用発明において、引用例2に記載の技術を採用しようとすることは、当業者において動機付けがない。

(b4)仮に、引用発明において、引用例2に記載の技術を採用しようとするとしても、「エポキシ系接着剤」を得るための樹脂溶液として、反応性エラストマー等を組合わせたものを採用しようとする動機付けは得られるとしても、樹脂溶液のエポキシ樹脂として引用例2に記載の「エポキシ当量900g/eqまたは200g/eqのエポキシ樹脂」を採用しようとすることは、当業者において動機付けがない。

(b5)よって、引用発明において、「エポキシ系接着剤」の主成分の「エポキシ」として、引用例2の記載に基づき、補正発明1の「(b)エポキシ当量が200?2500であるエポキシ樹脂」を採用することは当業者が容易になし得たとはいえない。

(c)次に、引用発明と引用例3に記載の技術との組合せについて検討する。
(c1)上記「イ」の「(エ)引用例3」の摘記事項「d」には、「本発明で使用するエポキシ樹脂は、その平均エポキシ当量が、好ましくは200?800g/eq」となることが望ましい旨が開示されているが、当該「エポキシ樹脂」は半導体ウエハに転写される「保護膜形成層」が含む必須成分の一つである。

(c2)引用発明においては、「半導体チップ1と前記配線基板とが接着剤で接続されてなり、 前記接着剤は、絶縁性接着剤と異方導電性の接着剤を積層したフィルム状物を用いたものであり、 基板4側の接着剤は導電粒子を含有しない接着剤11′の濃度が支配的であり、 前記異方導電性の接着剤は、絶縁性接着剤に対し導電粒子12を含有してなるものであり、 絶縁性接着剤は、エポキシを主成分とし、硬化剤や触媒、カップリング剤、充填剤などを添加してなるエポキシ系接着剤を適用」するものであり、引用発明における「エポキシ系接着剤」の「主成分」の「エポキシ」は、「接着剤」に含有される接着剤組成物が含むものであるといえる。

(c3)したがって、引用発明において、当該「エポキシ」として、引用例3に記載された「エポキシ樹脂」を採用することは、当業者において動機付けもなく、引用発明において、引用例3を参照したとしても、相違点3に係る補正発明1の構成を採用することが、当業者であれば容易になし得たとはいえない。

(d)以上のとおりであるから、引用例2及び引用例3を参照したとしても、引用発明において、相違点3に係る補正発明1の構成を採用することが、当業者であれば容易になし得たとはいえない。

c 補正発明1についての判断のまとめ
したがって、相違点1及び相違点2について検討するまでもなく、補正発明1は、引用発明並びに引用例2及び引用例3の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(イ)補正発明2?補正発明4についての判断
補正発明2?補正発明4は、補正発明1の発明特定事項に加えてさらなる発明特定事項を追加して限定を付したものであるから、上記「(ア)補正発明1についての判断」と同様の理由により、引用発明並びに引用例2及び引用例3の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(ウ)補正発明5?補正発明8についての判断
補正発明5?補正発明8は、補正発明1の発明特定事項である「『前記絶縁性接着剤層に含有される接着剤組成物』が、『(b)エポキシ当量が200?2500であるエポキシ樹脂』を含む」ことを発明特定事項とするものであるから、上記「(ア)補正発明1についての判断」と同様の理由により、引用発明並びに引用例2及び引用例3の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(エ)判断についてのまとめ
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合する。

3 むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第3項?第6項の規定に適合する。

第3 本願発明
本件補正は上記のとおり、特許法第17条の2第3項?第6項の規定に適合するから、本願の請求項1?8に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?8に記載されている事項により特定されるとおりのものである。
そして、本願については、原査定の拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2014-02-04 
出願番号 特願2011-111532(P2011-111532)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01L)
P 1 8・ 575- WY (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 関根 崇  
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 恩田 春香
近藤 幸浩
発明の名称 回路接続用接着フィルム、これを用いた回路接続構造体及び回路部材の接続方法  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 酒巻 順一郎  
代理人 池田 正人  
代理人 城戸 博兒  
代理人 清水 義憲  

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