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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L
管理番号 1284472
審判番号 不服2013-22693  
総通号数 172 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-04-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-11-20 
確定日 2014-02-25 
事件の表示 特願2010-547438「半導体装置及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 7月29日国際公開,WO2010/084746,請求項の数(6)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 1 手続の経緯
本願は,平成22年1月20日(国内優先権主張 平成21年1月23日)を国際出願日とする出願であって,平成25年7月31日に手続補正がなされ,同年9月17日付けで拒絶査定がされ,これに対して同年11月20日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

2 本願発明
本願の請求項1,2,3?6に係る発明は,平成25年7月31日に手続補正された明細書,特許請求の範囲及び図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1,2,3?6に記載されている事項により特定されるとおりのものであり,そのうちの請求項1及び2に係る発明(以下それぞれ「本願発明1」,「本願発明2」という。)は,請求項1及び2に記載されている事項により特定される以下のとおりのものである。

「【請求項1】
基体の表面に施された銀若しくは酸化銀と,半導体素子の表面に施された銀若しくは酸化銀と,が接合された半導体装置の製造方法であって,
酸化銀が基体の表面および半導体素子の表面の少なくとも一方に施され,
基体の表面に施された銀若しくは酸化銀の上に,半導体素子の表面に施された銀若しくは酸化銀が接触するように配置する工程と,
半導体素子及び基体に200℃?900℃の温度を加え,半導体素子と基体とを接合する工程と,を有することを特徴とする半導体装置の製造方法。」(本願発明1)

「【請求項2】
基体の表面に施された銀と,半導体素子の表面に施された銀と,が接合された半導体装置の製造方法であって,
基体の表面に施された銀の上に,半導体素子の表面に施された銀が接触するように配置する工程と,
半導体素子及び基体に200℃?900℃の温度を加え,半導体素子と基体とを接合する工程と,を有し,
接合する工程は,大気中若しくは酸素雰囲気中であることを特徴とする半導体装置の製造方法。」(本願発明2)

3 引用例の記載及び引用発明
(1) 本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布され,原査定の根拠となった拒絶の理由において引用された特開2006-100500号公報(以下「引用例」という。)には,「半導体発光素子及びその製造方法」(発明の名称)に関して,図1?14とともに以下の記載がある(なお,下線は当合議体にて付加したものである。)。

ア 「【0001】
本発明は,表示器又はランプ等に使用するための半導体発光素子及びその製造方法に関する。」

イ 「【0024】
光反射層2は,導電率が半導体領域3よりも大きい導電材料からなり,光反射性とオーミック性との両方を満足させることができる金属又は合金から成ることが望ましい。この条件を満足する材料は例えばAg(銀),又はAg合金である。
前記Ag合金は,
Ag 90?99.5重量%
添加元素 0.5?10重量%
から成るAgを主成分とする合金であることが望ましい。
前記添加元素は,合金元素とも呼ばれるものであって,好ましくは,Cu(銅),Au(金),Pd(パラジウム),Nd(ネオジウム),Si(シリコン),Ir(イリジウム),Ni(ニッケル),W(タングステン),Zn(亜鉛),Ga(ガリウム),Ti(チタン),Mg(マグネシウム),Y(イットリウム),In(インジウム),及びSn(スズ)から選択された1つ又は複数から成ることが望ましい。
【0025】
前記添加元素は,Ag又はAg合金から成る光反射層2の酸化を抑制する機能,光反射層2の硫化を抑制する機能,及び光反射層2と半導体領域3との間の合金化を抑制する機能の内の少なくとも1つを有する。光反射層2の酸化を抑制するためには特にCu,Auが有利である。光反射層2の硫化を抑制するためには特にZn,Snが有利である。もし,Ag又はAg合金から成る光反射層2の酸化又は硫化が生じると,光反射層2と半導体領域3及び支持基板1との間のオーミック接触が悪くなり,且つ反射率が低下する。また,光反射層2と半導体領域3との間に厚い合金化領域が生じると,光反射層2の反射率が低下する。図1の光反射層2は,後述から明らかになるように支持基板1に対する半導体領域3の貼付けに使用されている。もし,Ag又はAg合金から成る光反射層2に酸化又は硫化が生じていると,光反射層2を介した支持基板1と半導体領域3の良好な貼付けを達成できなくなる。
【0026】
光反射層2をAg合金で構成する場合において,Agに対する添加元素の割合を増大させるに従ってAg又はAg合金の酸化又は硫化の抑制効果が増大する反面,光反射率が低下する。前記特許文献1のAl反射層よりも高い反射率及びオーミック性を得るために,Agに対する添加元素の割合を0.5?10重量%にすることが望ましい。添加元素の割合が0.5重量%よりも少なくなると,所望の酸化又は硫化の抑制効果を得ることが困難になり,10重量%よりも大きくなると所望の反射率を得ることが困難になる。添加元素のより好ましい割合は1.5?5重量%である。
【0027】
光反射層2は,ここでの光の透過を阻止するために50nm以上の厚さを有することが望ましい。また,支持基板1に対する半導体領域3の貼付け機能を良好に得るために光反射層2の厚みを80nm以上にすることが望ましい。しかし,光反射層2の厚さが1500nmを越えると光反射層2を構成するAg層又はAg合金層にクラックが発生する。従って,光反射層2の好ましい厚みは50?1500nm,より好ましい厚みは80?1000nmである。」

ウ 「【0042】
図1の半導体発光素子を製造する時には,まず,図2に示す成長用基板30を用意する。成長用基板30は,この上に半導体領域3を気相成長させることができるものであればどのようなものでもよく,例えば,GaAs等の3-5族半導体,又はシリコン,又はサファイア等から選択される。この実施例では,低コスト化のために成長用基板30がシリコンで形成されている。
【0043】
次に,成長用基板30の上に図1に示したp型補助半導体層14とp型半導体層13と活性層12とn型半導体層11とを順次に周知の気相成長法で形成して発光機能を有する半導体領域3を得る。この気相成長時にp型半導体層14はp型半導体層13,活性層12,n型半導体層11のバッファ層として機能する。
【0044】
次に,図3に示すように半導体領域3の一方の主面17上にAg又はAg合金から成る第1の貼合せ層2aを周知のスパッタリング方法で形成する。勿論,第1の貼合せ層2aをスパッタリング方法以外の別の蒸着方法等で形成することもできる。この第1の貼合せ層2aの厚さは図1に示した完成後の光反射層2の約半分の厚さであることが望ましい。
【0045】
次に,図4に示すように図1と同一構成の導電性を有するシリコンから成る支持基板1を用意し,この一方の主面15上にAg又はAg合金から成る第2の貼合せ層2bを周知のスパッタリング方法で形成する。
【0046】
次に,図5に示すように支持基板1上の第2の貼合せ層2bに対して図3に示した半導体領域3の一方の主面17上の第1の貼合せ層2aを重ね合せ,且つ互いに加圧接触させて例えば210?400℃の熱処理を施してAg又はAg合金材料を相互に拡散させて第1及び第2の貼合せ層2a,2bを一体化して光反射層2を得る。この種の接合は一般に拡散接合又は熱圧着と呼ばれている。第1及び第2の貼合せ層2a,2bがAgの場合には表面をエッチングして酸化又は硫化膜を除去した後に貼合せるのが望ましい。Ag又はAg合金から成る光版車窓2は支持基板1及び半導体領域3に良好にオーミック接触し且つAlよりも大きい反射率を有する。
【0047】
次に,成長用基板30を切削又はエッチングで除去して図6に示す半導体基体を得る。なお,図3の貼付け工程前の状態で成長用基板30を除去し,半導体領域3のみを第1及び第2の貼合せ層2a,2bを介して支持基板1に貼付けることもできる。」

(2)引用発明の認定
以上を総合すると,引用例には,以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「半導体発光素子の製造方法であって,
半導体領域3の一方の主面17上にAg又はAg合金から成る第1の貼合せ層2aを形成し,
シリコンから成る支持基板1の一方の主面15上にAg又はAg合金から成る第2の貼合せ層2bを形成し,
支持基板1上の第2の貼合せ層2bに対して,半導体領域3の一方の主面17上の第1の貼合せ層2aを重ね合せ,且つ互いに加圧接触させて,
210?400℃の熱処理を施してAg又はAg合金材料を相互に拡散させて拡散接合する工程を有する,
半導体発光素子の製造方法。」

4 対比・判断
(1) 本願発明1について
ア 対比
以下に,本願発明1と引用発明とを対比する。
(ア) 引用発明の「半導体発光素子」は,「半導体装置」のうちの1つであるから,引用発明の「半導体発光素子の製造方法」は,本願発明1の「半導体装置の製造方法」に相当する。

(イ) 引用発明の「Ag合金」と,本願発明1の「酸化銀」とは,「銀を含有する金属化合物」という点で一致する。

(ウ) 引用発明の「支持基板1」は,本願発明1の「基体」に相当し,引用発明の「半導体領域3」は,本願発明1の「半導体素子」に相当する。

(エ) 上記(イ),(ウ)から「半導体領域3の一方の主面17上にAg又はAg合金から成る第1の貼合せ層2aを形成」することを構成要件として含む引用発明と,本願発明1とは,「半導体素子の表面に」銀若しくは銀を含有する金属化合物を施す点で一致し,また,「シリコンから成る支持基板1の一方の主面15上にAg又はAg合金から成る第2の貼合せ層2bを形成」することを構成要件としている引用発明と,本願発明1とは,「基体の表面に」銀若しくは銀を含有する金属化合物を施す点で一致する。

(オ) 「支持基板1上の第2の貼合せ層2bに対して,半導体領域3の一方の主面17上の第1の貼合せ層2aを重ね合せ」る工程を含む引用発明と,本願発明1とは,「基体の表面に施された」銀若しくは銀を含有する金属化合物「の上に,半導体素子の表面に施された」銀若しくは銀を含有する金属化合物「が接触するように配置する工程」を有する点で一致する。

(カ) 熱による接合を行う時の温度範囲として,引用発明は,「210?400℃」の範囲であり,本願発明1の「200℃?900℃」の範囲に含まれている。したがって,「210?400℃の熱処理を施してAg又はAg合金材料を相互に拡散させて拡散接合する工程」を含む引用発明と,本願発明1とは,「半導体素子及び基体に」「200℃?900℃」「の温度を加え,半導体素子と基体とを接合する工程」を有する点で一致する。

以上から,本願発明1と引用発明とは,

<一致点>
「基体の表面に施された銀若しくは銀を含有する金属化合物と,半導体素子の表面に施された銀若しくは銀を含有する金属化合物と,が接合された半導体装置の製造方法であって,
基体の表面に施された銀若しくは銀を含有する金属化合物の上に,半導体素子の表面に施された銀若しくは銀を含有する金属化合物が接触するように配置する工程と,
半導体素子及び基体に200℃?900℃の温度を加え,半導体素子と基体とを接合する工程と,を有することを特徴とする半導体装置の製造方法。」
で一致し,以下の点で相違する。

<相違点1>
本願発明1及び引用発明はともに,基体及び半導体素子表面に銀若しくは銀を含有する金属化合物を施されたものではあるが,上記銀を含有する金属化合物が,本願発明1は「酸化銀」であるのに対して,引用発明は「Ag合金」である点。

<相違点2>
本願発明1は,基体の表面および半導体素子の表面の少なくとも一方に「酸化銀」が施されているのに対して,引用発明はこの点が特定されていない点。

イ 判断
(ア) 相違点1について
引用例の段落24を参照すると,引用発明におけるAg合金としては,添加元素として,「Cu(銅),Au(金),Pd(パラジウム),Nd(ネオジウム),Si(シリコン),Ir(イリジウム),Ni(ニッケル),W(タングステン),Zn(亜鉛),Ga(ガリウム),Ti(チタン),Mg(マグネシウム),Y(イットリウム),In(インジウム),及びSn(スズ)から選択された1つ又は複数」と記載されているのみであり,引用例には,添加元素として酸素を含んでも良いことは記載も示唆もされていない。
また,熱による拡散接合するときの接合面に形成する金属材料として,酸化銀を用いることが半導体装置の接合の技術分野において周知技術であることを記載若しくは示唆した文献を発見することができない。
以上から,相違点1に係る金属化合物として酸化銀を用いる点は,当業者が容易になし得たこととはいえない。

(イ) まとめ
以上検討したとおり,他の相違点について検討するまでもなく,本願発明1は,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2) 本願発明2について
ア 対比
以下に,本願発明2と引用発明とを対比する。
(ア) 引用発明の「半導体発光素子」は,「半導体装置」のうちの1つであるから,引用発明の「半導体発光素子の製造方法」は,本願発明2の「半導体装置の製造方法」に相当する。

(イ) 引用発明の「Ag又はAg合金」と,本願発明2の「銀」とは,「銀」で一致し,引用発明の「支持基板1」は,本願発明2の「基体」に相当し,引用発明の「半導体領域3」は,本願発明2の「半導体素子」に相当する。したがって,引用発明の「半導体領域3の一方の主面17上に」形成された「Ag」「から成る第1の貼合せ層2a」は,本願発明2の「半導体素子の表面に施された銀」に,また引用発明の「シリコンから成る支持基板1の一方の主面15上に」形成された「Ag」「から成る第2の貼合せ層2b」は,本願発明2の「基体の表面に施された銀」に相当する。

(ウ) 引用発明の「支持基板1上の第2の貼合せ層2bに対して,半導体領域3の一方の主面17上の第1の貼合せ層2aを重ね合せ」る工程は,本願発明2の「基体の表面に施された銀の上に,半導体素子の表面に施された銀が接触するように配置する工程」に相当する。

(エ) 熱による接合を行う時の温度範囲として,引用発明は,「210?400℃」の範囲であり,本願発明2の「200℃?900℃」の範囲に含まれている。
したがって,「210?400℃の熱処理を施してAg又はAg合金材料を相互に拡散させて拡散接合する工程」を含む引用発明と,本願発明2とは,「半導体素子及び基体に」「200℃?900℃」「の温度を加え,半導体素子と基体とを接合する工程」を有する点で一致する。

以上から,本願発明2と引用発明とは,
<一致点>
「基体の表面に施された銀と,半導体素子の表面に施された銀と,が接合された半導体装置の製造方法であって,
基体の表面に施された銀の上に,半導体素子の表面に施された銀が接触するように配置する工程と,
半導体素子及び基体に200℃?900℃の温度を加え,半導体素子と基体とを接合する工程と,を有することを特徴とする半導体装置の製造方法。」
で一致し,以下の点で相違する。

<相違点1>
本願発明2は,半導体素子と基体とを接合する工程が「大気中若しくは酸素雰囲気中」で行われるのに対して,引用発明は,接合する工程の雰囲気について特定がなされていない点。

イ 判断
(ア) 相違点1について
a 引用例の段落【0046】には「第1及び第2の貼合せ層2a,2bがAgの場合には表面をエッチングして酸化又は硫化膜を除去した後に貼合せるのが望ましい。」と記載されており,銀の表面が酸化されている状況が貼合わせのためには好ましくないことが分かり,エッチング除去した後も酸化しない雰囲気で行うことは当業者にとって自明の事項である。そして,酸化膜をエッチング除去した後,あえて酸化しやすい大気中若しくは酸素雰囲気中で貼り合わせることの示唆もなく,またそうすることの動機も無い。

b また,引用例の段落【0025】の「添加元素は,Ag又はAg合金から成る光反射層2の酸化を抑制する機能」を有すること,「Ag又はAg合金から成る光反射層2に酸化又は硫化が生じていると,光反射層2を介した支持基板1と半導体領域3の良好な貼付けを達成できなくなる」という記載からは,酸化を避ける意味で,酸化しない雰囲気で貼付けを行うが,それでも完全には酸化を避けられないから,酸化を抑制する添加元素を加えるものと解するのが妥当であり,Ag合金は,酸化を抑制する機能を有する添加元素を含んでいるのであるから,あえて,酸素を含む大気中若しくは酸素雰囲気中で貼付けを行ってもよいのであると解することはできない。

c 以上から,引用例には,大気中若しくは酸素雰囲気中で貼合わせを行うことの記載,示唆はない。

d そして,銀の拡散接合の時に,大気中若しくは酸素雰囲気中で行うことが,半導体装置の接合の技術分野における周知技術であることを記載若しくは示唆した文献を発見することはできない。

e 以上から,相違点1の半導体素子と基体とを接合する工程を大気中若しくは酸素雰囲気中で行う点は,当業者が容易になし得たことととはいえない。

(イ) まとめ
以上検討したとおり,本願発明2は,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3) 請求項3?6に係る発明について
請求項3?6は,請求項1又は2のいずれかを引用してこれを更に限定しているから,本願発明1及び本願発明2が当業者が容易に発明することができたものでない以上,請求項3?6に係る発明も当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

5 まとめ
以上から,本願については,原査定の理由を検討してもその理由によって拒絶べきものとすることができない。
また,他に本願を,拒絶すべき理由を発見しない。
 
審決日 2014-02-12 
出願番号 特願2010-547438(P2010-547438)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 田代 吉成  
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 西脇 博志
松本 貢
発明の名称 半導体装置及びその製造方法  
代理人 特許業務法人池内・佐藤アンドパートナーズ  

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