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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  B62B
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B62B
管理番号 1284878
審判番号 無効2013-800070  
総通号数 172 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-04-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2013-04-22 
確定日 2014-02-17 
事件の表示 上記当事者間の特許第5100930号発明「ベビーカー」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
平成13年3月23日 出願(特願2001-85709号)
平成23年4月21日 拒絶査定
平成23年7月25日 審判請求(不服2011-16036号)
平成24年10月5日 設定登録(特許第5100930号)
平成25年4月22日 無効審判請求
平成25年7月22日 答弁書
平成25年9月 3日 弁駁書
平成25年10月31日 通知書(審理事項通知書)
平成25年11月20日 口頭審理陳述要領書(請求人)
平成25年11月21日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
平成25年12月5日 第1回口頭審理

第2 本件発明
特許第5100930号(以下「本件特許」という。)の請求項1ないし8に係る発明は、本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。(以下、本件特許の請求項1ないし8に係る発明を「本件発明1」ないし「本件発明8」という。)
【請求項1】
U字状の手押し杆を前後に揺動可能に装着し、手押し杆を対面状態或いは背面状態に固定して使用し得るようにしたベビーカーにおいて、
前脚及び後脚の下部にそれぞれ固着され、その側部に上下摺動可能なロック部材が設けられたキャスターホルダーと、
前輪或いは後輪が直進方向に向いているときに選択的に上記ロック部材が係合する凹部が設けられているキャスター軸と、
前脚側及び後脚側のロック部材にそれぞれ両端部が連結され、前脚及び後脚内に挿通されたリードワイヤと、
前脚に摺動可能に装着されたロック切り換え操作部材と、
前脚内において上記ロック切り換え操作部材と共に上下移動可能であり、上記前脚及び後脚内に挿通されているリードワイヤが連結された連結具と、を有し、
上記ロック切り換え操作部材の摺動により、前輪側、或いは後輪側のロック部材を選択的に対応するキャスター軸に設けられた凹部に係合するようになっており、
前記ロック切り替え操作部材は、前方に揺動された前記手押し杆によって押圧されて、前記前脚に沿って下方に摺動し、
前記ロック部材は、上方に摺動した際に、前記キャスターホルダーの側部に内蔵されており、下方に摺動した際に、前記キャスターホルダーの下部から下方に突出し、前記キャスターホルダーの下方に設けられたキャスター軸の凹部に係合し、前記ロック部材は、前記キャスターホルダーの周囲から側方に突出していない、
ことを特徴とするベビーカー。
【請求項2】
前脚及び後脚内に挿通されたリードワイヤは連結具により連結されており、その連結具と前脚との間に、前脚内に挿通されたリードワイヤを介して前脚側のロック部材を上方に付勢するスプリングが設けられていることを特徴とする、請求項1に記載のベビーカー。
【請求項3】
U字状の手押し杆を前後に揺動可能に装着し、手押し杆を対面状態或いは背面状態に固定して使用し得るようにしたベビーカーにおいて、
前脚及び後脚の下部にそれぞれ固着され、その側部に上下摺動可能なロック部材が設けられたキャスターホルダーと、
前輪或いは後輪が直進方向に向いているときに選択的に上記ロック部材が係合する凹部が設けられているキャスター軸と、
前脚及び後脚内に挿通されたリードワイヤと、
前脚に摺動可能に装着されたロック切り換え操作部材と、
前脚内において上記ロック切り換え操作部材と共に上下移動可能であり、上記前脚及び後脚内に挿通されているリードワイヤが連結された連結具と、を有し、
前記リードワイヤは、前記前脚側のロック部材と連結具との間、並びに、前記後脚側のロック部材と連結具との間を延び、
上記ロック切り換え操作部材の摺動により、前輪側、或いは後輪側のロック部材を選択的に対応するキャスター軸に設けられた凹部に係合するようになっており、
前記ロック切り替え操作部材は、前方に揺動された前記手押し杆によって押圧されて、前記前脚に沿って下方に摺動し、
前記ロック部材は、上方に摺動した際に、前記キャスターホルダーの側部に内蔵されており、下方に摺動した際に、前記キャスターホルダーの下部から下方に突出し、前記キャスターホルダーの下方に設けられたキャスター軸の凹部に係合し、
前記ロック部材は、前記キャスターホルダーの周囲から側方に突出していない、
ことを特徴とするベビーカー。
【請求項4】
ロック切り替え操作部材には、手押し杆が前方に揺動されたときその手押し杆により押圧され、ロック切り替え操作部材を下方に摺動させる突片が設けられている、ことを特徴とする、請求項1?3のいずれか一項に記載のベビーカー。
【請求項5】
前記手押し杆は、前記ロック切り替え操作部材の前記突片に当接する突部を有し、前記突部は、当該突部が設けられている位置での前記手押し杆の長手方向と交差する方向へ向けて、前記手押し杆から突出している、ことを特徴とする請求項4に記載のベビーカー。
【請求項6】
前記前輪を支持する前記キャスター軸は、前記キャスターホルダーの下方に設けられ、且つ、前記キャスターホルダーに対して上下方向に摺動可能であり、前記キャスター軸が前記キャスターホルダーに対して下方に摺動した際に、前記キャスターホルダーの前記ロック部材と前記キャスター軸の前記凹部との係合が解除される、ことを特徴とする請求項1?5のいずれか一項に記載のベビーカー。
【請求項7】
前記前輪を支持する前記キャスター軸には、位置固定ピンが進退自在に設けられ、前記前輪を支持する前記キャスター軸と係合する前記キャスターホルダー内には、前記キャスター軸が前記キャスターホルダーに対して下方に摺動した際に、前記位置固定ピンに係合するようになる凹溝が設けられ、 前記位置固定ピンと前記凹溝との係合によって、前記キャスター軸の前記キャスターホルダーに対する回動が規制される、ことを特徴とする請求項6に記載のベビーカー。
【請求項8】
前記後輪を支持する前記キャスター軸は、前記手押し杆が後方に揺動している際に、前記キャスターホルダーに対する回動を規制される、ことを特徴とする請求項1?7のいずれか一項に記載のベビーカー。」

第3 請求人の主張および被請求人の主張の概略
1 請求人の主張
本件発明1ないし5及び8は、甲第1号証、甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、特許法123条第1項第2号の規定により無効とすべきである。(以下、「無効理由1」という)
また、請求項6,7の記載は特許法第36条第6項第1号の規定を満たしておらず、本件発明6、7は特許法第123条第1項第4号の規定により無効とすべきである。(以下、「無効理由2」という)

<証拠方法>
請求人は、証拠として、以下のものを提出した。
甲第1号証 特開昭63-184567号公報
甲第2号証 米国特許第5125676号明細書

2 被請求人の主張
本件発明1ないし5及び8は、甲第1号証、甲第2号証記載の発明により、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項に違反してなされたものではないので、特許法123条第1項第2号の規定に該当せず本件特許は無効とされるものではない。また、本件発明6,7は、明細書又は図面に記載されており、特許法第36条第6項第1号の規定を満たしており、特許法第123条第1項第4号の規定に該当せず本件特許は無効とされるものではない。

また、弁駁書に対する反論として以下の証拠を提出した。

乙第1号証 特許第5101744号公報
乙第2号証 特許第5128713号公報
乙第3号証 特開2012-136223号公報
乙第4号証 特開平1-106772号公報
乙第5号証 実願平2-105279号(実開平4-62271号)のマイ クロフィルム
乙第6号証 実願平2-109758号(実開平4-67570号)のマイ クロフィルム
乙第7号証 特開平1-262252号公報
乙第8号証 特開平1-262253号公報
乙第9号証 特開平1-297371号公報
乙第10号証特開平1-297372号公報

第4 当審の判断

A 無効理由1について
1 刊行物
(1)甲第1号証
甲第1号証には以下の事項が記載されている。
(1-1)
「第1図は、この発明の第1の実施例を示す側面図である。この図を用いて、第1実施例の概要を説明する。
図示する乳母車1は、基本的な構成要素として、前輪2をその下端部に有している前脚3と、後輪4をその下端部に有している後脚5と、手摺6と、この手摺6に取付けられた側板7と、後脚5上に取付けられているブラケット8にピン9を介して回動可能に取付けられている押棒10とを備えている。押棒10は、背面押しの状熊および対面押しの状態の2状態に切換可能になっている。第1図では押棒が背面押しの状熊になっており、想像線で対面押しの状態を示している。この押棒10には係合フック11が回動可能に取付けられている。この係合フック11は、押棒10が背面押しの状態になったとき手摺6に設けられている係合ピン12に係合してその位置を固定している。一方、押棒10が対面押しの状態になったとき、係合フック11は側板7に設けられている係合ピン13に係合し、その位置を固定する。
左右に位置する1対の前輪2および左右に位置する1対の後輪4は、共に転回可能に設けられている。つまり、左右に位置する1対の前脚および1対の後脚の下端部には、それぞれ、前輪キャスタ14および後輪キャスタ15が取付けられている。前輪キャスタ14に関連して前輪キャスタロック手段16が設けられる。この前輪キャスタロック手段16は、前輪キャスタ14の動作を禁止したり許容したりする。同様に、後輪キャスタ15に関連して後輪キャスタロック手段17が設けられる。この後輪キャスタロック手段17は、後輪キャスタ15の動作を禁止したり許容したりする。同様に、後輪キャスタ15に関連して後輪キャスタロック手段17が設けられる。この後輪キャスタロック手段17は、後輪キャスタ15の動作を禁止したり許容したりする。
前輪キャスタロック手段16および後輪キャスタロック手段17は、ワイヤ18を介して互いに連結されている。このワイヤ18は、たとえば側板7を貫通して内部にまで延びている係合ピン13に巻掛けられている。前脚3上に設けられたワイヤ位置切換手段19は、ワイヤ18の位置を、相対的に前輪キャスタ14に近づける前方位置および相対的に後輪キャスタ15 に近づける後方位置の2状態に切換える。
第1図に示すように押棒10が背面押しの状態にあるときには、ワイヤ位置切換手段19を操作してワイヤ18の位置を相対的に後方位置にもたらす。すると、前輪キャスタロック手段16は前輪キャスタ14の転回動作を許容するが、後輪キャスタロック手段17は後輪キャスタ15の転回動作を禁止するようになる。したがって、背面押しの状態で乳母車1を移動操作するとき、進行方向に対して前方に位置する前輪キャスタ14のみが転回可能であるので、方向転換をスムーズに行なうことができる。
次に、押捧10を、第1図において想像線で示す対面押しの状態に切換えたとする。その場合、ワイヤ位置切換手段19を操作してワイヤ18の位置を前方位置にもたらす。すると、前輪キャスタロック手段16が前輪キャスタ14の転回動作を禁止し、一方、後輪キャスタロック手段17は後輪キャスタ15の転回動作を許容するようになる。したがって、対面押しの状態で乳母車1を移動操作するとき、進行方向に対して前方に位置する後輪キャスタ15のみが転回可能であり、方向転換をスムーズに行なうことができる。
このように、図示する乳母車1は、押棒10が背面押しの状態および対面押しの状態のいずれの状態にあっても、方向転換をスムーズに行なうことができる。
次に、第2図?第9図を用いて前輪キャスタ14の具体的な構造について説明する。
前輪キャスタ14は、その上端部がピン22を介して前脚3に固定して取付けられる固定ブラケット20と、この固定ブラケット20に回転可能に支持される回転ヨーク21とを有している。第3図?第5図には、固定ブラケット20が詳細に図示されている。第3図および第5図に示す貫通穴23は、第2図に示されているピン22を挿通させるためのものである。また、第2図に示すように、固定ブラケット20は、鉛直方向に延びる支持シャフト24を保持している。
第6図?第8図には、回転ヨ-ク21が詳細に図示されている。回転ヨーク21は、その上端部分が円筒形状とされ、この円筒形状とされた部分が固定ブラケット20の円柱状の開口内に嵌め込まれる。回転ヨーク21には鉛直方向に延びる中央開口26が形成されている。そして、この中央開口26内にスリーブ25が装着される。第2図を参照して、支持シャフト24はスリーブ25を貫通して延びている。こうして、回転ヨーク21は、固定ブラケット20に支持シャフト24を中心として回転し得るように支持される。また、回転ヨーク21は、支持シャフト24から水平方向にずれた位置に挿通されている車軸27を介して前輪2を回転自在に支持している。第6図における貫通穴28は、車軸27を挿通させるためのものである。
第6図?第8図を参照して、回転ヨーク21には、その中央開口26を挿通する支持シャフト24の軸心を中心として点対称の位置に2個の突出部29,30が設けられている。これら突出部29,30にはそれぞれ鉛直方向に延びる係合凹部31,32が形成されている。
第3図?第5図を参照して、固定ブラケット20は、後方部に張り出し、かつ互いに平行な1対の張出壁33,34を有している。内側に位置する一方の張出壁34には、その上端部から下方に向かって延びる切込35が形成されている。また、1対の張出壁33,34の下方部分には、両張出壁33,34を連結する軸36が固定して設けられている。
第2図?第8図は、乳母車1の左右に位置する1対の前輪キャスタ14のうち左側に位置するものに関連した構造を図示している。一方、第9図は、乳母車1の右側に位置する前輪キャスタ14を図示している。乳母車1の左側に位置する前輪キャスタ14も右側に位置する前輪キャスタ14もその基本的な構造は同じである。
次に、主に第9図、第10図?第17図を用いて前輪キャスタロック手段16の具体的な構造について説明する。
まず第2図を参照して、前輪キャスタロック手段16は、乳母車1の左側に位置する前輪キャスタ14の固定ブラケット20に回動可能に取付けられたフロント回動アーム37と、このフロント回動アーム37に固定的に取付けられたフロントストッパロッド38とを備えている。第10図?第12図はフロント回動アーム37を詳細に図示し、第13図および第14図はフロントストッパロッド38を詳細に図示している。
第10図および第12図を参照して、フロント回動アーム37の上端部分は二叉状に形成されており、この二叉部分に軸39が取付けられている。また、フロント回動アーム37の下端部分には開口40が形成されており、この開口40内に軸41が設けられている。さらに、フロント回動アーム37の下端部分には、貫通孔42および縦溝43が形成されている。縦溝43は、フロント回動アーム37の下端部と貫通孔42とを連絡するように延びている。このような形状のフロント回動アーム37は、固定ブラケット20の後方部に張り出している1対の張出壁33,34内に位置するようにされる。
第13図および第14図を参照して、フロントストッパロッド38は全体として逆U字形状をしており、下方に延びる1対の脚部38a,38bおよびこれら両脚部を連結するように左右方向に延びている連結部38cを有している。連結部38cは、乳母車1の左右に位置する1対の前輪キャスタ14を連結するように延びている。第2図および第9図を参照して貝体的に説明すると、フロントストッパロッド38の連結部38cの左方端は、乳母車の左側に位置する前輪キャスタ14の固定ブラケット20に形成されている張出壁34を挿通し、さらにフロント回動アーム37を挿通している。第5図および第10図を参照して、前述したように、張出壁34には切込35が形成され、フロント回動アーム37には貫通孔42が形成されている。フロントストッパロッド38の連結部38cは、これら切込35および貫通孔42を通過している。また、フロントストッパロッド38の一方の脚部38aは、フロント回動アーム37の縦溝43内に嵌まり込み、その先端部分は回転ヨーク21の係合凹部31内に嵌まり込むことができるようになっている。こうして、フロント回動アーム37は、1対の張出壁33,34内で、フロントストッパロッド38の連結部38cを回動中心として回動し得るようになる。フロントストッパロッド38のー方の脚部38aはフロント回動アーム37の縦溝43内に嵌まり込んでいるので、フロント回動アーム37が回動すれば、それに応じてフロントストッパロッド38も回動する。第2図において、フロント回動アーム37およびフロントストッパロッド38が図示する状態から図動した後の状態を想像線で示している。
第2図を参照して、フロント回動アーム37の軸41と、固定ブラケット20の軸36とは、前輪側復帰ばね44によって連結されている。この前輪側復帰ばね44は、フロント回動アーム37を図において常に時計方向に回動させるように、つまりフロントストッパロッド38の脚部38aと回転ヨーク21の係合凹部31とを係合させるように付勢している。フロントストッパロッド38と係合凹部31とが係合状態にあれば、回転ヨーク21は固定ブラケット20に対して回転することができない。つまり、前輪キャスタ14の転回動作は禁じられる。一方、第2回において想像線で示すようにフロント回動アーム37およびフロントストッパロッド38が前輪側復帰ばね44の力に逆らって反時計方向に回動すれば、フロントストッパロッド38と係合凹部31との係合が解除され、前輪キャスタ14の転回動作が許容される。なお、第2図に示す状態から回転ヨーク21が180°回転している状態においては、他方の係合凹部32とフロントストッパロッド38とが係合し得るようになる。
第9図を參照して、乳母車1の右側に位置する前輪キャスタ14の1対の張出壁33,34内には、回動プレート45が配置される。この回動プレート45の詳細は、第15図?第17図に示される。図示するように、回動プレート45は、その下端部分に軸46を有している。また、回動プレート45の上部には、貫通孔47および縦溝48が形成されている。縦溝48は、回動プレート45の下端部と貫通孔47とを連結するように延びている。
第13図および第14図に示すフロントストッパロッド38の連結部38cの右方端は、乳母車1の右側に位置する前輪キャスタ14の張出壁34を挿通し、さらに回動プレート45の貫通孔47を挿通している。また、フロントストッパロッド38の脚部38bは、回動プレート45の縦溝48内に嵌まり込み、さらにその先端部が回転ヨーク21の係合凹部31内に嵌まり込み得るようになっている。こうして、回動プレート45は、フロントストッパロッド38の連結部38cを回動中心として回動し得るようになる。フロントストッパロッド38の脚部38bは回動プレート45の縦溝48内に嵌まり込んでいるので、回動プレート45およびフロントストッパロッド38は一体となって回動する。第8図において、回動プレート45およびフロントストッパロッド38の脚部38bが回動した後の状態を想像線で示している。さらに、回動プレート45の軸46と固定ブラケット20の軸36とはばね49によって連結されている。このばね49は、回動プレート45を常に図において時計方向に回動させるように、つまりフロントストッパロツド38の脚部38bと回転ヨーク21の係合凹部31または32とを係合させるように付勢している。
前述したように、フロントストッパロッド38の1対の脚部38a,38bは連結部38cによって一体的に連結されているので、フロント回動アーム37を回動させることによって一方の脚部38aが回動すれば、他方の脚部38bもそれに応じて回動する。したがって、フロント回動アーム37の回動操作によって、左右に位置する1対の前輪キャスタ14の転回動作を禁止したり許容したりすることができる。
次に、第18図?第21図を用いて、乳母車1の左右に位置する1対の後輪キャスタ15の具体的構造について説明する。なお、第18図?第21図は、1対の後輪キャスタ15のうち乳母車1の左側に位置する後輪キャスタに関連した部分を示しているが、基本的な構造については左右の後輪キャスタとも同じである。
後輪キャスタ15は、後脚5にピン52を介して固定して取付けられる固定ブラケット50と、この固定ブラケット50に支持シャフト54およびスリーブ55を介して回転可能に支持された回転ヨーク51とを備えている。回転ヨーク51は、支持シャフト54から水平方向にずれた位置で車軸57を介して後輪4を回転自在に支持している。
回転ヨーク51は、第6図?第8図に示した回転ヨ-ク21と同様、2個の突出部58,59およびこの突出部に形成された係合凹部60,61を有している。
第19図?第21図には、固定ブラケット50の詳細が図示されている。第19図および第21図に示されている貫通穴53は第18図に示されているピン52を挿通させるためのものである。図示するように、固定ブラケット50は、前方に張出し、かつ互いに平行に延びている1対の張出壁62,63を有している。内側に位置する一方の張出壁62には、切込64が形成されている。また、1対の張出壁62,63間には軸65が固定されている。
次に、主に第18図、第22図?第24図を用いて後輪キャスタロック手段17の具体的な構造について説明する。後輪キャスタロック手段17は、その下端部が固定ブラケット50の1対の張出壁62,63間に位置するようにされたリヤ回動アーム66と、このリヤ回動アーム66に固定的に取付けられるリヤストッパロッド67とを備えている。
第22図?第24図は、リヤ回動アーム66の形状を詳細に示している。リヤ回動アーム66の上端部分には軸68が設けられ、またその下端部分には開口69が形成されている。そして、開口69内には軸70が設けられている。さらに、リヤ回動アーム66の下端部には、貫通孔71および縦溝72が形成されている。縦溝72は、リヤ回動アーム66の下端部と貫通孔71とを連絡するように延びている。
リヤストッパロッド67は、第13図および第14図に示したフロントストッパロッド38と同様な形状とされている。また、図示していないが乳母車1の右側に位置する後輪キャスタの1対の張出壁内には、第15図および第16図に示したのと同様の回動プレート45が配置されている。
リヤストッパロッド67の左右方向に延びる連結部は、その左方端が第21図に示されている固定ブラケット50の切込64を挿通し、さらにリヤ回動アーム66の貫通孔7 1を挿通している。また。リヤストッパロッド67の左側に位置する一方の脚部は、リヤ回動アーム66の縦溝72内に嵌まり込み、その先端部が回転ヨーク51の係合凹部61内に嵌まり込むことができるようになっている。同様に、リヤストッパロッド67の連結部の右方端は、右側に位置する固定ブラケットの張出壁を挿通した後、回動プレートを挿通している。そして、リヤストッパロッド67の他方の脚部は、回動プレートの縦溝に嵌まり込み、その先端部が右側に位置する回転ヨークの係合凹部内に嵌まり込むことができるようになっている。
こうして、リヤ回動アーム66およびリヤストッパロッド67は、リヤストッパロッド67の連結部を回動中心として回動し得るようになっている。第1 8図において、リヤ回動アーム66およびリヤストッパロッド67が回動した後の状態を想像線で示している。また、第18図に示すように、リヤ回動アーム66の軸70と固定ブラケット50の軸65とは、後輪側復帰ばね73によって連結されている。この後輪側復帰ばね73は、リヤ回動アーム66およびリヤストッパロッド67を図において反時計方向に回動させるように、つまりリヤストッパロッド67と回転ヨーク51の係合凹部61または60とを係合させるように付勢している。
第2図を参照して、フロント回動アーム37の上端部近くに位置する前脚3上には、ピン75を介して第25図および第26図に示されているワイヤガイド部材74が固定して取付けられている。このワイヤガイド部材74は、互いに平行に延びる1対の壁を有しており、この1対の壁は軸76によって連結されている。同様に、第18図を参照して、リヤ回動アーム66の上端部近くに位置する後脚5上には、ピン75を介してワイヤガイド部材74が固定して取付けられている。第1図に示されているワイヤ18は、その前方端が前脚3上に取付けられたワイヤガイド部材74の軸76に巻掛けされた後フロント回動アーム37の軸39に連結される。一方、ワイヤ18の後方端は後脚5上に取付けられているワイヤガイド部材74の軸76に巻掛けされた後、リヤ回動アーム66の軸68に連結される。こうして、フロント回動アーム37の上端部とリヤ回動アーム66の上端部とは、ワイヤ18を介して連結される。
次に、主に第1図、第27図?第33図を参照して、ワイヤ位置切換手段19の具体的な構造について説明する。ワイヤ位置切換手段19は、ワイヤ18の位置を、相対的に前輪キャスタ14に近づける前方位置および相対的に後輪キャスタ15に近づける後方位置の2状態に切換えるものである。そしてこの実施例では、ワイヤ位置切換手段19は、ワイヤ18の延線経路上に位置するように設けられている。
第27図および第28図は、ワイヤ位置切換手段19を拡大して示している。ワイヤ位置切換手段19は、第29図?第31図に示されているスライドスリーブ77と、第32図および第33図に示されている操作つまみ78とを備えている。
第29図?第31図を参照して、スライドスリーブ77は、前脚3を囲み、かつ前脚3上を上下方向にスライドし得るような形状とされている。また、スライドスリーブ77は、図示するように、上下方向に離隔して位置する2個の平板状突出部79および80を有している。この2個の平板状突出部79と80との間には、上下方向に延び、かつ貫通した長孔80が形成されている。さらに、スライドスリ-ブ77は、途中位置にあるワイヤを連結すべき2個の耳部84,85を有している。
第32図および第33図を参照して、操作つまみ78は、貫通した中心孔88を中心とする大きな円板86と、中心孔88に対して偏心した位置に設けられている小さな円板87と、大きな円板86上に突設されている握り部89とを有している。小さな円板87の直径は、第29図に示されているスライドスリーブ77の2個の平板状突出部79,80間の距離とほぼ同じ大きさとされる。
第27図および第28図を参照して、操作つまみ78はスライドスリ-ブ 77上に置かれる。この状態では、 操作つまみ78の小さな円板87がスライドスリーブ77の2個の平板状突出部79,80の間に位置し、大きな円板86が平板状突出部79,80上に重なり合うようになっている。そして、操作つまみ78は、その中心孔88を挿通するピン90を介して前脚3上に回転可能に取付けられる。なお、ピン90はスライドスリ-ブ77の長孔81を通過している。したがって、操作つまみ78の握り部89を掴んで該操作つまみ78を回転させれば、小さな円板87がカムの作用をしてスライドスリーブ77を上下方向にスライドさせる。
第27図に示す状態では、操作つまみ78の握り部89 がスライドスリーブ77の平板状突出部80に設けられている当り部83に当接し、操作つまみ78がそれ以上時計方向に回転するのを禁止している。そして、スライドスリーブ77は相対的に上方に位置している。なお、ワイヤ18には、第2図に示されている前輪側復帰ばね44および第18図に示されている後輪側復帰ばね73によってその両端方向へ引張る張力が作用している。したがって、スライドスリーブ77が相対的に上方に位置すれば、ワイヤ18は、相対的に後輪キャスタ15に近づく後方位置にもたらされる。
一方、第28図に示すように操作つまみ78を反時計方向に回転操作し、握り部89と当り部82とを当接させれば、スライドスリ-ブ77は相対的に下方に位置する。この第28図に示す状態では、ワイヤ18は、相対的に前綸キャスタ14に近づく前方位置にもたらされる。
このように、ワイヤ位置切換手段19の操作つまみ78を回転操作することによって、ワイヤ18の位置を、相対的に前輪キャスタ14に近づける前方位置および相対的に後輪キャスタ15に近づける後方位置の2状態に切換えることができる。
次に、この発明の第1の実施例の全体の動作について説明する。
第1図に示すように、乳母車1の押棒10が背面押しの状態にあるとする。この場合、操作つまみ78は、第27図に示す状態にされる。この状態においては、ワイヤ18は相対的に後輪キャスタ15に近づく後方位置にもたらされている。したがって、第2図において想像線で示すように、フロント回動アーム37はワイヤ18に引張られて反時計方向に回動する。それに伴なって、フロントストッパロッド38も、想像線で示すように反時計方向に回動し、回転ヨーク21の係合凹部31から外れた状態になる。したがって、回転ヨーク21は固定ブラケット20に対して回転することが可能であり、前輪キャスタ14の転回動作が許容される。なお、第9図に示す右側の前輪キャスタ14についても左側の前輪キャスタと同様その転回動作が許容される。
一方、第18図を参照して、ワイヤ18が相対的に後輪キャスタ15に近づく後方に位置にあれば、リヤ回動アーム66は後輪側復帰ばね73の作用によって実線で示す位置に保持される。その状態では、リヤストッパロット67が回転ヨーク51の係合凹部61に係合している。したがって回転ヨーク51は固定ブラケット50に対して回転することができず、後輪キャスタ15の転回動作は禁止される。
こうして、押棒10が第1図において実線で示すように背面押しの状態にあるときには、前輪キャスタ14のみが転回動作可能であり、後輪キャスタ15の転回動作は禁止されている。したがって、乳母車1を移動操作するとき、その方向転換を容易に行なうことができる。
次に、 押棒10を、第1図において想像線で示すように対面押しの状態に切換えた場合には、操作つまみ78を第28図に示す状態にする。この状態では、ワイヤ18は、相対的に前輪キャスタ14に近づく前方位置にもたらされている。したがって、第2図を参照して、フロント回動アーム37は前輪側復帰ばね44の作用によって時計方向に回動する。このフロント回動アーム37の回動に応じてフロントストッパロッド38も回動し、回転ヨーク21の係合凹部31または32に嵌まり込む。したがって、回転ヨーク21の回転は禁止され、前輪キャスタ14の転回動作が禁止される。一方、第18図を参照して、リヤ回動アーム66はワイヤ18によって引張られ、想像線で示す位置にまで回動する。このリヤ回動アーム66の回動に伴なってリヤストッパロッド67も回動し、回転ヨーク51の係合凹部61から外れる。したがって、回転ヨーク51は固定ブラケット50に対して回転することが可能となり、後輪キャスタ15の転回動作が可能になる。
こうして、押し棒10が第1図において想像線で示すように対面押しの状態にあるときでも、進行方向に対して前方に位置する後輪キャスタ15のみが転回可能であるので、乳母車1を移動操作するとき方向転換を容易に行なうことができる。」(第5頁左下欄15行?第11頁左下欄2行)

(1-2)
「第34図は、この発明の第2の実施例を示す側面図である。この図を用いて、この発明の第2の実施例の概要を説明する。なお、第34図には、乳母車の左側面のみが示されているが、右側面から見た図は、後述するワイヤ125および変位部材126を除いて、同一に現われるので、以下には、主として左側面にかかわる構成についてのみ説明する。
図示する乳母車100は、基本的な骨組構造として、前脚101と、後脚102と、座席を支持する座席支持棒103と、手摺104と、手摺支持棒105と、押棒106とを備えている。押棒106は、その下端部が、軸109を介して、乳母車の折りたたみ時において反転動作をする反転ブラケット107に回動可能に連結されている。
押捧106は、内側に位置する側面にフック108を有し、外側に位置する側面につまみ110を有している。フック108とつまみ110とは一体となって動く。したがって、つまみ110を回動操作すれば、それに伴なってフック108も回動する。図示する状態では、フック108は、手摺104の後方部分に立設された係合ピン111に係合しており、それによって押捧106を背面押しの状態に維持している。第34図において想像線で示すように、押棒106が対面押しの状態にもたらされるときには、フック108は、手摺104の前方部分に立設された係合ピン112に係合する。
前脚101の下端部には、前輪キャスタ113が取付けられている。この前輪キャスタ113は、前脚101に固定して取付けられる固定ブラケット115と、固定ブラケット115に回転可能に支持される回転ヨーク116とを備えている。前輪117は、車軸118を介して、回転ヨーク116に回転自在に支持されている。
後脚102の下端部にも、後輪キャスタ114が取付けられている。この後輪キャスタ114は、後脚102に固定して取付けられる固定ブラケット119と、固定ブラケット119に回転可能に支持されている回転ヨーク120とを備えている。後輪121は、車軸122を介して、回転ヨーク120に回転自在に支持されている。
前輪キャスタ113の固定ブラケット115には、上下方向にスライドし得るように設けられたフロントスライダ123が組込まれている。図示する状態では、フロントスライダ123は上方に位置している。このようにフロントスライダ123が上方に位置しているときには、回転ヨーク116の回転動作は許容される。一方、フロントスライダ123が下方に位置したとき、このフロントスライダ123は回転ヨーク116に係合し、その結果回転ヨーク116の回転動作を禁止する。
後輪キャスタ114の固定ブラケット119にも、上下方向にスライドし得るようにされたリヤスライダ124が組込まれている。図示する状態では、リヤスライダ124は下方に位置している。このようにリヤスライダ124が下方に位置しているときには、このリヤスライダ124は回転ヨーク120に係合し、それによって回転ヨーク120の回転動作を禁止している。
フロントスライダ123とリヤスライダ124とはワイヤ125を介して連結されている。そして、このワイヤ125の途中位置には変位部材126が連結されている。変位部材126は、押棒106の回動範囲内に位置する後脚102上に配置され、ピン127を介して回動可能に設けられている。
第34図に示す状態では、押棒106が背面押しの状態に位置している。そして、進行方向に対して前方に位置する前輪キャスタ113の転回動作は許容され、進行方向に対して後方に位置する後輪キャスタ114の転回動作が禁止されている。次に、押棒106を回動操作して、想像線で示す対面押しの状態に切換えたとする。すると、変位部材材126は押棒106に押されて回動し、ワイヤ125を前輪キャスタ113に近づける前方位置にもたらす。その結果、フロントスライダ123が下方に移動し、回転ヨーク116に係合してこの回転ヨーク116の回転動作を禁止する。一方、リヤスライダ124は上方に移動し、回転∃ーク120との係合状態を解除してこの回転ヨーク120の回転動作を許容し得るようになる。こうして、乳母車100を対面押しの状態で移動操作するときには、進行方向に対して前方に位置する後輪キャスタ114の転回動作が許容され、進行方向に対して後方に位置する前輪キャスタ113の転回動作が禁止される。
第35図には、前輪キャスタ113の断面図が示されている。前輪キャスタ113は、前脚101に固定して取付けられている固定ブラケット115と、この固定ブラケット115に回転可能に保持されている回転ヨーク116とを備えている。
第35図の線XXXVII?XXXVIIに沿って見た端面図を示している第37図を参照して、固定ブラケット115には、フロントスライダ123が組込まれている。固定ブラケット115には、上下方向に延びたガイド溝128が形成されている。フロントスライダ123は、このガイド溝128に嵌まり合う形状とされ、ガイド溝128に沿って上下方向にスライドし得るようになっている。また、フロントスライダ123には、上下方向に延びた縦穴129が形成されており、この縦穴内に復帰ばね130が収容されている。復帰ばね130は、フロントスライダ123を常に下方に向かって移動させるよう付勢している。後輪キャスタ114から延びてきたワイヤ125のー端は、止めピン131を介してフロントスライダ123に連結されている。
第35図の線XXXVIII?XXXVIIIに沿って見た端面図を示している第38図を参照して、回転ヨーク116上端部分には、係合溝132が形成されている。このガイド溝132は、上述したフロントスライダ123の下端部を受入れるような形状とされている。第35図に示す状態では、フロントスライダ123が上方の位置に保たれ、かつ回転ヨーク116の係合溝132がフロントスライダ123とは反対側のところに位置している。この状態から、回転ヨーク116が180°回転し、さらにフロントスライダ123が下方の位置に移動すると、フロントスライダ123と係合溝132とが係合し、それによって回転ヨーク116の回転動作を禁止する。
第35図の線XXXX-XXXXに沿って見た端面図を示している第40図を参照して、固定ブラケット115には手動キャスタロック部材133が組込まれている。この手動キャスタロック部材133は、固定ブラケット115に形成された上下方向に延びた開口134内に収納され、この開口134内を上下方向にスライドし得るようになっている。手動キャスタロック部材133を所定位置に固定しておくために、手動キャスタロック部材133には2組の係合突起137,138が形成され、固定ブラケット115には2組の係合溝135,136が形成されている。第35図および第40図に示す状態では、一方の係合突起137が一方の係合溝135に係合し、他方の係合突起138が他方の係合溝136に係合することによって、手動キャスタロック部材133の位置を固定している。この状態から、手動キャスタロツク部材133を手または足で操作することによって下方に移動させると、2組の係合突起137,138が共に下方に位置する係合溝136に係合し、それによって手動キャスタロツク部材133をその位置で固定する。係合突起137が係合溝135から外れるとき、手動キャスタロック部材133は内方に撓むことになるが、この撓み動作を容易に行なわせるために、手動キャスタロック部材133には長孔139が形成されている。
第35図に示す状態では、手動キャスタロック部材133は上方の位置にもたらされている。この状態から、手動キャスタロック部材133を手または足で操作することによって下方の位置に移動させると、手動キャスタロック部材133の下端部と回転ヨーク116の係合溝132とが係合する。その結果、回転ヨーク116の回転動作は禁止される。
乳母車100が、第34図に示すように、背面押しの状態で移動操作されているとき、前輪キャスタ113のみが転回動作を行なうことができるようになっている。通常の走行時には、前輪キャスタ113が転回可能になっていることから乳母車の方向転換を容易に行なうことができる。しかし、乳母車100を、たとえば凹凸の激しい悪路上で移動操作するとき、前輪キャスタ113が転回可能になっていると、前輪キャスタ113が道路上の凹凸に対して敏感に反応し、かえって乳母車の操作性を悪くする。そのような場合には、手動キャスタロック部材133を手または足で操作することによって下方の位置へ移動させ、前輪キャスタ113の転回動作を禁ずる。
第35図に示す前輪キャスタ113は、乳母車100の左側面に位置している。乳母車100の右側面に位置している前輪キャスタは、ワイヤ125に関連した部分を除いて、第35図に示した構造と同一の構造を有している。したがって、乳母車の右側面に位置する前輪キャスタも、上下方向にスライド可能にされたフロントスライダを有している。この1対のフロントスライダ123が同じ動きをするように、1対のフロントスライダ123はフロント連結ロッド141を介して連結されている。
第39図には、フロントスライダ123の平面図が示されている。この第39図と第35図とを参照して、フロントスライダ123は、乳母車の内方に向かって突出している内方突出部140を有している。また、固定ブラケット115 には、フロント連結ロッド141の端部が回転可能に挿入されている。フロント連結ロッド141は、固定ブラケット115から出たところで一旦直角に折れ曲がり、フロントスライダ123の内方突出部140内に受入れられる。その後、このフロント連結ロッド141は、内方突出部140内でも直角に折れ曲がり、内方突出部140に沿って乳母車の内方に向かって延びる。フロント連結口ッド141は、乳母車の右側面にまで延び、そこでは右側前輪キャスタのフロントスライダの内方突出部内に受入れられた後、固定ブラケットに回転可能に支持される。第35図を参照して、フロントスライダ123が後述するワイヤ125の移動によって下方に移動すると、フロント連結ロッド141は、固定ブラケット115内に挿入された端部を中心として時計方向に回動する。その結果、右側前輪キヤスタのフロントスライダ123も下方に移動する。こうして、左右に位置する1対のフロントスライダ123は、フロント連結ロッド141を間に介在させることによって、同じ動きをするようになる。
第36図には、後輪キャスタ114の断面図が示されている。後輪キャスタ114は、後脚102に固定して取付けられている固定ブラケット119と、この固定ブラケット119に回転可能に保持された回転ヨーク120とを備えている。
固定ブラケット119には、上下方向に延びるガイド溝142が形成されており、このガイド溝142内にリヤスライダ124が収納されている。リヤスライダ124は、ガイド溝142に沿って上下方向にスライドし得るようになっている。第36図に示す状態では、リヤスライダ124は下方の位置に移動している。その結果、リヤスライダ124の下端部が回転ヨーク120の係合溝146に係合し、回転ヨーク120の回転を禁止している。この状態からリヤスライダ124が上方に移動すれば、リヤスライダ124の下端部と回転ヨーク120の係合溝146との係合状態が解除され、回転ヨーク120は回転動作をすることが可能になる。
リヤスライダ124には、上下方向に延びる縦溝143が形成されており、この縦溝143内に復帰ばね144が収納されている。この復帰ばね144は、リヤスライダ124を常に下方に向かって移動させるように付勢している。
前輪キャスタから延びてきたワイヤ125の他端は、止めピン147を介してリヤスライダ124に連結されている。したがって、ワイヤ125が、図示する状態から前輪キャスタに向かって移動すれば、リヤスライダ124は、復帰ばね144の力に逆らって上方に移動することになる。
第36図は乳母車の左側面に位置する左側後輪キャスタ114を示しているが、乳母車の右側面に位置している右側後輪キャスタは、ワイヤ125に関連した部分を除いて、左側後輪キャスタ114の構造と同じである。乳母車の左右側面に位置する1対のリヤスライダ124は、リヤ連結ロッド145を介して互いに連結されている。このリヤ連結ロッド145は、第35図に示したフロント連結ロッド141と同様、その両端が左右に位置する固定ブラケットに回転自在に支持されている。したがって、左側後輪キャスタ114のリヤスライダ124が上下方向に移動すれば、リヤ連結ロッド145が回動運動をし、その結果右側後輸キャスタのリヤスライダも上下方向に移動する。
第41図は、押棒106を背面押しの状態および対面押しの状態のそれぞれで固定するためのフック108に関連した部分の構造を示している。この図では、説明の便宜上、押棒106を想像線で示している。
乳母車の内側に面する押捧106の内側面にはフック108が配置され、外側面にはつまみ110が配置されている。つまみ110とフック108とは、押棒106内を貫通するピン148によって互いにしっかりと連結される。したがって、つまみ110を回動操作すれば、フック108も回動する。図示するように、フック108には、2個の係合凹部149,150が形成されている。一方の係合凹部149は、手摺104の後方部分に立設された係合ピン111に係合し、他方の係合凹部150は、手摺104の前方部分に立設された係合ビン112に係合する。
押棒106の内側面上であって、フック108の下方にはビン151が立設されている。このピン151と、フック108の下端部分とは、復帰ばね152によって連結されている。復帰ばね152は、フック108を常に第41図に示す状態に復帰させるように付勢している。第41図に示す状態では、係合凹部149と係合ピン111とが係合しており、それによって押棒108を背両押しの状態で固定している。この固定状態は、復帰ばね152の作用によって堅く維持されている。押棒106を対面押しの状態に切換えようとする場合には、つまみ11Oを復帰ばね152の力に逆らって図において反時計方向に回動操作し、係合凹部149と係合ピン111との係合状態を解除すればよい。
第42図および第43図は、ワイヤ125の位置を切換えるためのワイヤ位置切換手段として作用する変位部材126に関連した部分の構造を示している。この図では、説明に関係のない部分の図示を省略している。第42図は、押棒106が背面押しの状態で固定されており、第43図では押棒106が対面押しの状態で固定されている。また、第44図および第45図には、変位部材126が図示されている。
変位部材126は、ピン127を介して後脚102に回動可能に取付けられている。第44図および第45図に示すように、変位部材126は、外方、すなわち紙表側に露出した外方突出部153と、内方に突出した内方突出部154と、底部に形成された底壁部155とを有している。底壁部155には、丸穴156が形成されている。後輪キャスタ114のリヤスライダ124から延びてきたワイヤ125の端部には止めピン157が取付けられており、この止めピン157は変位部材126の丸穴156内に受入れられている。また、126の内方突出部154内には、丸穴158が形成されている。前輪キャスタ113のフロントスライダ123から延びてきたワイヤ125の端部には止めピン159が取付けられており、この止めピン159は内方突出部154の丸穴158内に受入れられている。こうして、変位部材126は、前輪キャスタ113と後輪キャスタ114とを連結しているワイヤ125の途中位置に連結されたことになる。
リヤスライダ124を下方に向かって移動させるように付勢している復帰ばね144(第36図)のばね力は、フロントスライダ123を下方に向かって移動させるように付勢している復帰ばね130(第35図)のばね力よりも大きくされている。復帰ばね144のばね力と復帰ばね130のばね力との差によって、変位部材126には、常に第42図において反時計方向に回動させるような力が加わっている。この反時計方向への回動は、変位部材126の底壁部155が後脚102に当接することによってその終端を規定されている。
押捧106の内側面には、押圧用突起部160が設けられている。第42図に示すように押棒106が背面押しの状態で、固定されているときには押圧用突起部160は変位部材126から離れた位置にある。この状態では、ワイヤ125は、相対的に後輪キャスタ114に近づく後方位置にもたらされている。そして、押棒106を回動操作して第43図に示す対面押しの状態にすると、押棒106の押圧用突起部160が変位部材126の外方突出部153を押し、変位部材126を図において時計方向に回動させる。この変位部材126の時計方向への回動によって、ワイヤ125は前輪キャスタ113に近づく前方位置にもたらされる。
以上の説明から明らかなように、この発明の第2の実施例では、ワイヤ切換手段として作用する変位部材126は、押棒106によって回動操作される。したがって、変位部材126を直接手で操作しなくとも、所望の状態を実現することができる。すなわち、押棒106が背面押しの状態で固定されているときには、ワイヤ125は後方位置にもたらされている。したがって、その状態では、進行方向に対して前方に位置する前輪キャスタ113の転回動作は許容されるが、進行方向に対して後方に位置する後輪キャスタ114の転回動作は禁止されている。
次に、押棒106を対面押しの状態で固定すると、変位部材126が押棒106の押圧用突起部160に押圧されて回動し、ワイヤ125を前方位置にもたらす。その結果、リヤスライダ124は上方に移動し、後輪キャスタ114の転回動作を許容する。一方、フロントスライダ123は下方に移動し、回転ヨ-ク116に係合して前輪キャスタ113の転回動作を禁止する。つまり、押棒106が対面押しの状態にあるときには、進行方向に対して前方に位置する後輪キャスタ114の転回動作が許容され、進行方向に対して後方に位置する前輪キャスタ113の転回動作が禁止される。」(第11頁左下欄3行?第16頁左上欄5行)


前記(1-2)の記載事項、及び、第34図?第46図の開示事項から、甲第1号証には以下の発明が記載されている(以下、「甲第1号証発明1」という。)。
「押棒106を前後に回動可能に軸支し、押棒106を対面押しの状態或いは背面押しの状態に固定して使用し得るようにした乳母車100において、
前脚101及び後脚102の下部にそれぞれ固着され、その側部に上下摺動可能なフロントスライダ123及びリヤスライダ124がそれぞれ設けられた前輪キャスタ113の固定ブラケット115と後輪キャスタ114の固定ブラケット119と、
前輪117或いは後輪121が直進方向に向いているときに選択的に上記フロントスライダ123及びリヤスライダ124が係合する係合溝132、146が設けられている回転ヨーク116、120と、
フロントスライダ123及びリヤスライダ124にそれぞれ両端部が連結され、前脚101及び後脚102内に挿通されたワイヤ125と、
後脚102にピン127を介して回動可能に取付けられた変位部材126と、
変位部材126には、前脚101及び後脚102内に挿通されているワイヤ125が連結され、
上記変位部材126の回動により、前輪117、或いは後輪121側のを選択的に対応する回転ヨーク116、120に設けられた係合溝に係合するようになっており、
前記変位部材126は、対面押しの状態に回動操作された押棒106の押圧用突起160によって押圧されて、時計方向に回動し、
前記フロントスライダ123及びリヤスライダ124は、上方に摺動した際に、前記固定ブラケット115、119の側部に内蔵されており、下方に摺動した際に、前記固定ブラケット115、119の下部から下方に突出し、前記固定ブラケット115、119の下方に設けられた回転ヨーク116、120の係合溝132、146に係合し、
前記フロントスライダ123及びリヤスライダ124の内方突出部140は、前記固定ブラケット115、119の周囲から側方に突出している、乳母車100。」

また、甲第1号証には、上記記載事項(1-1)及び第1図?第33図から、以下の事項が記載されている(以下、「甲1号証発明2」という。)。
「押棒10を前後に回動可能に軸支し、押棒10を対面押しの状態或いは背面押しの状態に固定して使用し得るようにした乳母車1において、
前脚3及び後脚5の下部にそれぞれ固着され、その側部に回動可能なフロント回動アーム37及びリヤ回動アーム66がそれぞれ設けられた前輪キャスタ14の固定ブラケット20と後輪キャスタ15の固定ブラケット50と、
前輪2或いは後輪4が直進方向に向いているときに選択的に上記フロント回動アーム37に固定的に取り付けられたフロントストッパロッド38の脚部38a、38b及びリヤ回動アーム66に固定的に取り付けられたリヤストッパロッド67の脚部が係合する係合凹部31、32、60、61が設けられている回転ヨーク21、51と、
フロント回動アーム37及びリヤ回動アーム66にそれぞれ両端部が連結され、前脚3及び後脚5に設けたワイヤガイド部材74に巻掛けされたワイヤ18と、
前脚3を囲み、前脚3上を上下方向にスライドし得るスライドスリーブ77と、
スライドスリーブ77には、ワイヤ18が連結され、
操作つまみ78を回転操作することにより、上記スライドスリーブ77を上下方向にスライドさせ、前輪2側、或いは後輪4側のフロントストッパロッド38の脚部或いはリヤストッパロッド67の脚部を選択的に対応する回転ヨーク21、51に設けられた係合凹部に係合するようになっており、
前記操作つまみ78は、操作者の操作によって回動される、乳母車。」

(2)甲第2号証
甲第2号証には以下の事項が記載されている。
(2-1)「When the handle 3 is moved to the other side (see FIG. 5), the handle 3 will push the cylindrical member 44 of the driven seat 4 so that the driven seat 4 will be turned with respect to the bolt 51 thereby compressing spring 55 and moving the bolt 53 along the slot 22 of the rear stay 2 with its slot 41. In the meantime, since the bolt 53 and the movable member 6 are joined together, the movable member 6 will also move within the rear stay 2 thus pulling the strings 56 and 57 to move with the movable member 6.」(第2欄35行?44行)
(ハンドル3が他方に動くとき(図5参照)、ハンドル3は、駆動部4がボルト51を軸として回転し、その結果、スプリング55を圧縮して、駆動部4のスロット41を用いて、ボルト53を後脚(リヤステー)2のスロット22に沿って動かすように、駆動部4の円筒状部材44を押す。一方、ボルト53と可動部材6は一体になっているので、可動部材6も後脚(リヤステー)2内を動き、この可動部材6とともにワイヤ56、57を牽引する。)
(( )内は審判請求人の審判請求書中における翻訳である。以下、同様。)

(2-2)「Referring to FIGS. 6, 7, 8 and 9, the front castor 7 and the rear castor 8 are respectively connected with the front stay 1 and the rear stay 2 and have axles 71 and 81, fixing lower blocks 72 and 82, and wheels 73 and 83 respectively. The upper end 74 of the front castor 7 is formed with a hole 741 which is communicated with the interior of the front stay 1. Within the hole 741 of the castor 7 there is mounted a plug 75 below which are a spring 76 and a locking pin 77. 」(第2欄45行?53行)
(図6、7、8及び9を参照すると、前輪キャスター7と後輪キャスター8は、それぞれ前脚1及び後脚2に接続されており、軸71、81、固定下部ブロック72、82、及び前輪73、後輪83を備えている。前輪キャスター7の上端部74は、前脚1の内部と接続するための穴741が形成されている。この穴741内には、プラグ75が設けられ、そのプラグ75の下側には、スプリング76とロックピン77が設けられている。)

(2-3)「The fixing lower block 72 of the front castor 7 has a hole 721 for receiving the locking pin 77. The upper block 84 of the rear castor 8 is formed with a hole 841 in which are mounted a plug 85, a spring 86 and a locking pin 87. The lower block 82 of the rear castor 8 is also formed with a pin hole 821. The other ends of the strings 56 and 57 extend through the rear stay 2 to engage with the locking pins 77 and 87 respectively. 」(第2欄53行?61行)
(前輪キャスター7の固定下部ブロック72は、ロックピン77を受けるための穴721を持つ。後輪キャスター8の上部ブロック84には、穴841が形成され、その穴841内には、プラグ85、スプリング86、及びロックピン87が設けられている。後輪キャスター8の下部ブロック82にも、ピンホール821が形成されている。ワイヤ56、57の他端は、後脚2を通して伸びてそれぞれロックピン77と87に係合している。)

(2-4)
「Hence, when no force is applied to the handle 3 to change its direction, the movable member 6 may be moved in unison with the strings 56 and 57 and the locking pin 77 does not engage with the pin hole 721 of the fixing lower block 72 so that the front wheel 73 may freely rotate through an angle of 360 degrees with respect to its vertical axis while the rear wheel 83 is kept in a fixed position by the engagement between the locking pin 87 and the pin hole 821.」(第2欄61行?第3欄1行)
(それ故、ハンドル3に方向を変更するための如何なる力も働かないときは、可動部材6は、ワイヤ56、57と一体となって動き、ロックピン77は固定下部ブロック72のピンホール721と係合しない。したがって、前輪73は垂直軸の周りに360°自由に回転できる。一方、後輪83は、ロックピン87とピンホール821の係合により、固定の位置に保たれる。)
(2-5)
「 As the handle 3 is pushed to other side, the string 57 will be pulled upwards thus pulling the locking pin 87 to compress the spring 86 and disengaging the locking pin 87 from the pin hole 821 and therefore, enabling the rear wheel 83 to rotate freely. Meanwhile, the string 56 is lowered by the locking pin 77 which is moved downwards by the recovering force of the spring 76. Hence, the locking pin 77 will engage with the pin hole 721 and the front wheel 73, which is originally rotatable freely, is kept in a fixed postion.」(第3欄1行?11行)
(ハンドル3が他方側に押されると、ワイヤ57は上方に引かれ、ロックピン87を牽引してスプリング86を圧縮し、ロックピン87とピンホール821の係合を解く。その結果、後輪83は自由に回転できるようになる。一方、ワイヤ56は、スプリング76の復元力によって下方に動かされるロックピン77によって、低い位置に保たれる。したがって、ロックピン77は、ピンホール721と係合し、前輪73は、当初は自由に回転できるようになっていたのであるが、固定位置に保持される。)

2.対比
本件発明1と甲第1号証発明1とを対比すると、その構造及び機能からみて、後者の「押棒106」は前者の「U字状の手押し杆」に相当する。以下同様に、後者の「回動可能に軸支し」は前者の「揺動可能に装着し」に、「対面押しの状態」は「対面状態」に、「背面押しの状態」は「背面状態」に、「乳母車100」は「ベビーカー」に、「前脚101」は「前脚」に、「後脚102」は「後脚」に、「フロントスライダ123」及び「リヤスライダ124」は「ロック部材」に、「前輪キャスタ113の固定ブラケット115」及び「後輪キャスタ114の固定ブラケット119」は「キャスターホルダー」に、「前輪117」は「前輪」に、「後輪121」は「後輪」に、「係合溝132、146」は「凹部」に、「回転ヨーク116、120」は「キャスター軸」に、「ワイヤ125」は「リードワイヤ」にそれぞれ相当する。
また、甲第1号証発明1の「変位部材126」と本件発明1の「ロック切り替え操作部材」とは、前方に揺動された手押し杆(押棒106)によって押圧され、ワイヤを操作する部材という限りにおいて一致する。

してみると両者は次の点で一致する。
(一致点)
「U字状の手押し杆を前後に揺動可能に装着し、手押し杆を対面状態或いは背面状態に固定して使用し得るようにしたベビーカーにおいて、
前脚及び後脚の下部にそれぞれ固着され、その側部に上下摺動可能なロック部材が設けられたキャスターホルダーと、
前輪或いは後輪が直進方向に向いているときに選択的に上記ロック部材が係合する凹部が設けられているキャスター軸と、
前脚側及び後脚側のロック部材にそれぞれ両端部が連結され、前脚及び後脚内に挿通されたリードワイヤと、
ロック切り換え操作部材と、
ロック切り替え操作部材は、前方に揺動された前記手押し杆によって押圧され、
前記ロック部材は、上方に摺動した際に、前記キャスターホルダーの側部に内蔵されており、下方に摺動した際に、前記キャスターホルダーの下部から下方に突出し、前記キャスターホルダーの下方に設けられたキャスター軸の凹部に係合する、ベビーカー。」

そして、両者は、次の点で相違する。
(相違点1)
前方に揺動された手押し杆によって押圧されるロック切り換え操作部材の構成において、本件発明1では、ロック切り換え操作部材が前脚に摺動可能に装着され、前脚内においてロック切り換え操作部材と共に上下移動可能であり、前脚及び後脚内に挿通されているリードワイヤが連結された連結具を有し、ロック切り換え操作部材の摺動により、前輪、後輪のロックを切り替える構成であるのに対し、甲第1号証発明1は、手押し杆(押棒106)によって押圧されるロック切り換え操作部材(変位部材126)が後脚にピン127を介して回動可能に取付けられ、前脚及び後脚内に挿通されているリードワイヤが直接、ロック切り換え操作部材に連結され、ロック切り換え操作部材の回動により、前輪、後輪のロックを切り替える構成である点。

(相違点2)
本件発明1は、ロック部材は、キャスターホルダーの周囲から側方に突出していないのに対し、甲第1号証発明1は、ロック部材に相当するフロントスライダ123及びリヤスライダ124の一部である、内方突出部140が、キャスターホルダー(固定ブラケット115、119)の周囲から側方に突出している点。

3.判断
以下、上記相違点について検討する。

(1)相違点1について
ア 本件発明1は、上記相違点1に係る構成により、明細書記載の「リードワイヤとロック切り換え操作部材との連結部が前脚内にあり、前脚に対してロック切り換え装置が摺動可能に装着されているだけなので外観がよく、誤操作性も少ない等の効果を奏する。」(本件明細書段落【0029】。)という効果を奏するものである。特に、前方に揺動された前記手押し杆によって押圧されるロック切り替え操作部材が、前脚に摺動可能に装着されることで、手押し杆の押圧による動作が円滑且つ確実に行われることにより、上記「誤操作性も少ない」という効果に大きく貢献することは明らかである。

イ これに対し、甲第1号証発明1は、ロック切り替え操作部材に相当する「変位部材126」は、後脚に回動可能に回動可能に軸支しされ、脚内を案内されたワイヤが、変位部材126近辺で脚外に導出され、直接変位部材に連結されている。そして、変位部材は、手押し杆(押棒106)の前方揺動により押圧され回動することで、前後輪のロックを切り替えるものではあるが、ロック切り替え操作部材の位置と動作形態の相違、前脚内に設けられた連結部の存在の有無の相違により、切り替え操作の円滑さ、誤操作の少なさは大きく異なるものである。

ウ 甲第1号証には、甲第1号証発明1とは異なる、甲第1号証発明2が記載され、前脚に上下方向にスライド可能に取り付けられたスライド部材77の構成を有している。しかしながら、当該スライド部材77は、操作者が操作つまみ78を回転操作することによりスライドする機構であり、押棒126により押圧されて揺動する、甲第1号証発明1の変位部材126と、操作つまみ78を回転操作することによりスライドするスライド部材77とは、その動作も機能も異なるものであるから、甲第1号証発明1の変位部材126に、甲第1号証発明2のスライド部材77の構成を適用することは、たとえ、当業者といえども、困難と言わざるを得ない。仮に、適用できたとしても、本件発明1のような、ロック切り替え操作部材と共に上下移動可能であり、前脚及び後脚内に挿通されているリードワイヤが連結された連結具の構成を想到し得るものではない。

エ さらに、甲第2号証に記載された事項を検討しても、甲第2号証には、ベビーカーにおいて、ハンドル3の他方側への動きで、駆動部4がボルト51を中心に回転し、その動きをボルト53を介して、リヤステー2内の可動部材6が摺動しワイヤ56、57を牽引するものであるから、たとえ、甲第1号証発明1に、甲第2号証に記載された事項を適用したとしても、甲第1号証発明1の変位部材126の回動により駆動されるワイヤ125の連結部材が後脚に設けられる程度のことが想到できるにとどまり、本件発明1の上記相違点1に係る構成に想い到るものではない。

オ そして、本件発明1は上記相違点1に係る構成により格別な効果を奏することは、上記アで述べたとおりであり、本件発明1の上記課題も構成も記載されていない甲第1号証、甲第2号証に記載された発明から、上記相違点1に係る本件発明1の構成が、当業者が容易に想到できたものということはできない。

カ 審判請求人は、甲第1号証から認定すべき発明は、甲第1号証の第1実施例(上記第4 A 1(1-1)の、「甲第1号証発明2」)と、第2実施例((上記第4 A 1(1-2)の「甲第1号証発明1」)とを総合的に勘案して甲第1号証に係る発明を認定する旨主張している(弁駁書第3頁5?12行。)。しかしながら、甲第1号証の第1実施例の「スライド部材77」と、甲第1号証の第2実施例の変位部材126とは、その動作も機能も異なるものであるから適用できないことは上述したとおりであり、請求人の上記主張は採用することはできない。

4 小括
よって相違点2についての検討をするまでもなく、本件発明1は、甲第1号証発明1、甲第1号証発明2、甲第2号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない

5 本件発明2?5及び8について
本件発明2?5及び8は、本件発明1の発明特定事項をその構成の一部とするものであるから、上記と同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。


B 無効理由2について
1 請求人の主張
請求人は、「・特許発明6は、特許発明1?5に従属しているので、構成(P)のロック部材は、特許発明1の構成(B)に記載したキャスターホルダー40aの側部に上下摺動可能に配置されたロック部材47a(前輪側)または47b(後輪側)であると考えられるところ、特許発明6の構成(P)に対応する図面の図10、図11に示す本発明の変形例によれば、キャスター軸43a、43bの上下動と、上述のロック部材47a、47bはキャスター軸43a、43bの凹部45a、45bとの係合または解除とは、全く関係ないというべきである。
・つまり、特許発明6の構成(P)は、明細書または図面において、一切開示されていないのであり、したがって、上記構成(P)は、明細書又は図面の記載にその根拠がなく、明細書のサポート要件を満たしていないものである。
・よって、特許発明6を特定した請求項6の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、特許法第123条第1項第4号の規定により無効とされるべきものである。
<特許発明7について>
・特許発明7を特定する請求項7は、請求項6に従属するものであるから、請求項6と同様に、特許法第36条第6項第1号違反があり、特許法第123条第1項第4号の規定により無効とされるべきものである。」と主張し(審判請求書7.(4)(c)(オ)<特許発明6について>?<特許発明7について>)、また、「そうすると、本件特許発明6では、構成(P)に記載するように、「前記キャスター軸が前記キャスターホルダーに対して下方に摺動した際に、前記キャスターホルダーの前記ロック部材と前記キャスター軸の前記凹部との係合が解除される」という構成は、背面押し状態のときに、前輪のキャスター軸の凹部とロック部材との係合が解除され、逆に後輪のキャスター軸の凹部とロック部材とが係合されるという構成と矛盾するものとなる。同様に、対面押しのときには、後輪のキャスター軸の凹部とロック部材との係合が解除され、前輪のキャスター軸の凹部とロック部材とが係合されるという構成とも矛盾する。すなわち、本件特許発明6の構成(P)は、その意味が不明確であるだけでなく、明細書または図面によって十分に説明されていないと言うべきである。
したがって、本件特許発明6は、本件特許発明1との従属関係が明確でなく、構成(P)を備える本件特許発明6は、明細書または図面においてサポートされていないというべきである。」と主張している(弁駁書20頁27行?21頁11行)。

2 無効理由2についての当審の判断
(1)本件請求項6、請求項7に係る発明
本件請求項6、請求項7に係る発明は、第2 【請求項6】、【請求項7】に記載されたとおりのものである。

(2)本件明細書及び図面に記載された発明及び当審の判断
ア 本件明細書の段落【0024】?【0028】には、以下の記載がある。
「【0024】
図10は本発明の変形例を示す図であり、前脚12の下端部に固着されたキャスターホルダー40aには、下端面が開口する円柱状の空所60が形成されており、その空所60内には、一側部に水平軸11aにより前輪11を軸支したキャスター軸43aがその軸線周りに回動可能、かつその空所60の内面に沿って摺動可能に装着してある。
【0025】
上記キャスター軸43aの上部外面には周方向に延びる凹部61が設けられており、その凹部61内に、上記キャスターホルダー40aに設けられた水平方向に延びる規制ピン62が挿通され、上記凹部の上下段部と規制ピン62との係合により上記キャスター軸43aの上下方向の摺動範囲が規制されている。上記キャスター軸43aにはそのキャスター軸43aの径方向に進退可能な前輪直進状態位置固定ピン63が設けられており、上記キャスター軸43a内に取り付けられたバネ64によって外方に突出するように付勢されている。
【0026】
一方、キャスターホルダー40aの空所60の下部内面には、キャスター軸43aが前輪11とともに下方位置にあり、かつ前輪11が直進方向に向いているときに、上記前輪位置固定ピン63が係合する凹溝65が設けられている。この凹溝65は軸線方向に延びており、その凹溝65の上端部にはキャスターホルダー40aの空所60の内面側に向かう傾斜が形成されている。
【0027】
しかして、ベビーカーの使用時には前輪11が接地しているため、前脚12が下方に移動しており、すなわち、キャスターホルダー40aに対して相対的にキャスター軸43aが上方位置に位置している。したがって、前輪位置固定ピン63が、図10に示すように、空所60の内面に当接し、その内面に沿って回動可能となっている。
【0028】
一方、ベビーカーの折り畳み時に手押し杆によって前輪11を上方に持ち上げると、前輪11の自重によって前輪11がキャスター軸43aとともにキャスターホルダー40aに対して下降する。したがって、その状態で前輪11が揺動して直進方向に向くと、図11に示すように、前輪直進状態位置固定ピン63がバネ64で突出され凹溝65に係合し、前輪11が直進方向に向いている状態に固定される。そのため、ベビーカーの折り畳みを行う場合にキャスター軸43aに軸支されている前輪が直進位置でない状態で無理に折り畳まれるようなことが防止される。」

イ また、【図10】、【図11】を見ると、キャスター軸43aの下方の段部において、その上面部の断面を見ると、前方(図の左側)には、ハッチングがなく、後方(図の右側)にはハッチングされていることから、【図10】、【図11】に接した当業者であれば、このハッチングがない部分は、凹部もしくは、切り欠き部と認識できることは明らかである。(添付図参照。図中の丸囲いは、当審において付した。)




ウ さらに、段落【0024】の「図10は本発明の変形例を示す図であり、・・」との記載、【図10】と対応する【図9】の記載内容から、符号は付されていないものの、【図10】のリードワイヤ50aに接続される部材は、【図9】のロック部材47aに対応するものであることは、当業者が普通に理解できることである。そして、その場合、上記イで述べたキャスター軸43aの下方段部に図示されている凹部または切り欠き部と認識できる部分は、【図9】で示すところの凹部45aに相当することも、本件明細書及び図面に接した当業者であれば、普通に理解できることである。

エ ここで、【図10】、【図11】を参照すると、ベビーカーの前輪を持ち上げると、前輪が自重によりキャスター軸43aとともに下方に移動し、【図10】、【図11】のキャスター軸43aの下方の段部に図示される凹部と、ロック部材47aに相当する部材との間隔が開き、その両者が係合していた場合は、係合が解除されることも当業者であれば、容易に理解できる。

オ してみると、本件明細書の段落【0024】?【0028】、及び、【図10】、【図11】に記載された本発明の変形例は、「前輪を支持するキャスター軸は、キャスターホルダーの下方に設けられ、且つ、キャスターホルダーに対して上下方向に摺動可能であり、キャスター軸がキャスターホルダーに対して下方に摺動した際に、キャスターホルダーのロック部材とキャスター軸の凹部との係合が解除される」構成を備えているということができ、さらに、その変形例が、請求項1に係る構成を有していることも自明である。

カ したがって、本件請求項6に係る発明は、本件明細書又は図面に記載された発明である。また、その記載においても不明瞭な記載は認められない。

キ また、段落【0025】?【0027】及び【図10】、【図11】の記載から、「前輪を支持するキャスター軸43aには、前輪位置固定ピン63が進退自在に設けられ、前輪を支持するキャスター軸43aと係合するキャスターホルダー40a内には、キャスター軸43aがキャスターホルダー40aに対して下方に摺動した際に、位置固定ピン63に係合するようになる凹溝65が設けられ、位置固定ピン63と凹溝65との係合によって、キャスター軸43aのキャスターホルダー40aに対する回動が規制される」構成が記載されていることは明らかである。

ク したがって、本件請求項7に係る発明は、本件明細書又は図面に記載された発明である。また、その記載においても不明瞭な記載は認められない。
(3)小括
以上のとおりであるから、本件請求項6、請求項7に係る発明は、本件明細書又は図面に記載された発明であり、本件請求項6、7の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものである。また、その記載においても不明瞭な記載は認められない。


第5 むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては本件発明1?5、8についての特許を無効にすることはできない。
また請求人の主張する理由によっては本件発明6、7についての特許を無効にすることはできない。
審判に関する費用については、特許法169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-12-17 
結審通知日 2013-12-19 
審決日 2014-01-08 
出願番号 特願2001-85709(P2001-85709)
審決分類 P 1 113・ 537- Y (B62B)
P 1 113・ 121- Y (B62B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 孝幸  
特許庁審判長 大熊 雄治
特許庁審判官 山口 直
平田 信勝
登録日 2012-10-05 
登録番号 特許第5100930号(P5100930)
発明の名称 ベビーカー  
代理人 宮嶋 学  
代理人 伊藤 仁恭  
代理人 永井 浩之  
代理人 角田 芳末  
代理人 堀田 幸裕  
代理人 大野 浩之  
代理人 磯貝 克臣  
代理人 勝沼 宏仁  
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