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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1285847
審判番号 不服2013-3906  
総通号数 173 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-05-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-02-28 
確定日 2014-03-12 
事件の表示 特願2010- 67753「小型イメージ捕捉レンズ」拒絶査定不服審判事件〔平成22年10月 7日出願公開、特開2010-224540〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成22年3月24日(パリ条約による優先権主張 2009年3月24日 米国)の出願であって、平成24年3月16日付けで拒絶理由が通知され、同年7月26日付けで意見書が提出されるとともに、同日付けで手続補正書が提出され、その後、同年10月23日付けで拒絶査定がなされた。本件は、これに対して、平成25年2月28日に拒絶査定に対する審判請求がなされたものである。


第2 本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1?11に係る発明(以下「本願発明1?11」という。)は、平成24年7月26日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
本願発明1
「小型イメージ捕捉レンズであって、
開口を有し、その開口を通してイメージを捕捉する開口ダイヤフラムと、
ウェハスケールレンズシステムと、を含み、
前記ウェハスケールレンズシステムは、
第一基板と、前記第一基板の第一側に位置する第一表面と、前記第一基板の第二側に位置する第二表面と、を含む第一レンズ群と、
第二基板と、前記第二基板の第一側に位置する第三表面と、前記第二基板の第二側に位置する第四表面と、からなる第二レンズ群と、を含み、
前記第一表面乃至第四表面は非球面で、前記第一表面と前記第二表面の一表面と前記第三表面と前記第四表面の一表面は、高屈折率Nd_hと高アッベ数 Vd_hとを有し、前記第一表面と前記第二表面のもう一つの表面と前記第三表面と前記第四表面のもう一つの表面は、低屈折率Nd_lと低アッべ数Vd_lとを有し、前記高屈折率Nd_hは前記低屈折率Nd_lより大きく、高アッベ数 Vd_hは低アッべ数Vd_lより大きく、小型イメージ捕捉レンズは、以下の条件を満たし、
Nd_h = 1.58?1.62;
Nd_l = 1.48?1.53;
Nd_l / Nd_h = 0.91?0.97;
Vd_h = 35?45;及び
Vd_l = 25?35
前記第一表面と前記第二表面の一表面は凸面で、前記第一表面と前記第二表面のもう一つの表面は凹面で、前記第三表面と前記第四表面の一表面は凸面で、前記第三表面と前記第四表面のもう一つの表面は凹面であり、
前記開口と、前記第一表面と、前記第二表面と、前記第三表面と、前記第四表面とは、この順番に被写体側から配置されていることを特徴とする小型イメージ捕捉レンズ。」

本願発明2
「前記第一表面は高屈折率Nd_hと高アッベ数 Vd_h、および、凸面を有し、第二表面は低屈折率Nd_lと低アッべ数Vd_l、および、凹面を有し、第三表面は高屈折率Nd_hと高アッベ数 Vd_h、および、凸面を有し、第四表面は低屈折率Nd_lと低アッべ数Vd_l、および、凹面を有することを特徴とする請求項1に記載の小型イメージ捕捉レンズ。」

本願発明3
「前記第一表面は低屈折率Nd_lと低アッべ数Vd_l、および、凸面を有し、前記第二表面は高屈折率Nd_hと高アッベ数 Vd_h、および、凹面を有し、前記第三表面は低屈折率Nd_lと低アッべ数Vd_l、および、凸面を有し、及び、凸面を有し、前記第四表面は高屈折率Nd_hと高アッベ数 Vd_h、および、凹面を有することを特徴とする請求項1に記載の小型イメージ捕捉レンズ。」

本願発明4
「前記第一表面は高屈折率Nd_hと高アッベ数 Vd_h、および、凸面を有し、前記第二表面は低屈折率Nd_lと低アッべ数Vd_l、および、凹面を有し、前記第三表面は低屈折率Nd_lと低アッべ数Vd_l、および、凹面を有し、前記第四表面は高屈折率Nd_hと高アッベ数 Vd_h、および、凸面を有することを特徴とする請求項1に記載の小型イメージ捕捉レンズ。」

本願発明5
「前記第一表面は低屈折率Nd_lと低アッべ数Vd_l、および、凸面を有し、前記第二表面は高屈折率Nd_hと高アッベ数 Vd_h、および、凹面を有し、前記第三表面は高屈折率Nd_hと高アッベ数 Vd_h、および、凹面を有し、前記第四表面は低屈折率Nd_lと低アッべ数Vd_l、および、凸面を有することを特徴とする請求項1に記載の小型イメージ捕捉レンズ。」

本願発明6
「前記第一表面は高屈折率Nd_hと高アッベ数 Vd_h、および、凹面を有し、前記第二表面は低屈折率Nd_lと低アッべ数Vd_l、および、凸面を有し、前記第三表面は低屈折率Nd_lと低アッべ数Vd_l、および、凸面を有し、前記第四表面は高屈折率Nd_hと高アッベ数 Vd_h、および、凹面を有することを特徴とする請求項1に記載の小型イメージ捕捉レンズ。」

本願発明7
「前記第一表面は低屈折率Nd_lと低アッべ数Vd_l、および、凹面を有し、前記第二表面は高屈折率Nd_hと高アッベ数 Vd_h、および、凸面を有し、前記第三表面は高屈折率Nd_hと高アッベ数 Vd_h、および、凸面を有し、前記第四表面は低屈折率Nd_lと低アッべ数Vd_l、および、凹面を有することを特徴とする請求項1に記載の小型イメージ捕捉レンズ。」

本願発明8
「前記第一表面は高屈折率Nd_hと高アッベ数 Vd_h、および、凹面を有し、前記第二表面は低屈折率Nd_lと低アッべ数Vd_l、および、凸面を有し、前記第三表面は高屈折率Nd_hと高アッベ数 Vd_h、および、凹面を有し、前記第四表面は低屈折率Nd_lと低アッべ数Vd_l、および、凸面を有することを特徴とする請求項1に記載の小型イメージ捕捉レンズ。」

本願発明9
「前記第一表面は低屈折率Nd_lと低アッべ数Vd_l、および、凹面を有し、前記第二表面は高屈折率Nd_hと高アッベ数 Vd_h、および、凸面を有し、前記第三表面は低屈折率Nd_lと低アッべ数Vd_l、および、凹面を有し、前記第四表面は高屈折率Nd_hと高アッベ数 Vd_h、および、凸面を有することを特徴とする請求項1に記載の小型イメージ捕捉レンズ。」

本願発明10
「前記第一表面と前記第二表面は異なる材料で形成され、前記第三表面と前記第四表面は異なる材料で形成されることを特徴とする請求項1に記載の小型イメージ捕捉レンズ。」

本願発明11
「前記小型イメージ捕捉レンズは、前記特定条件の前記第一乃至前記第四表面に従って、光の分散を減少させることを特徴とする請求項1に記載の小型イメージ捕捉レンズ。」


第3 平成24年3月16日付けの拒絶理由通知の概要
平成24年3月16日付けの拒絶理由(以下、単に「拒絶理由」という。)の概要は以下のとおりである。

・・・(前略)・・・
理 由

1.この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
2.(略)

【理由1】
(1)明細書には、請求項に記載の特定事項にはどのような意味があるのか、特に、各条件式の技術的意義や、上限値・下限値の根拠について何らの説明もなく、請求項に係る発明により、なぜ従来技術の課題を解決することができるのか理解することができない。
よって、この出願の発明の詳細な説明は、請求項1-11に係る発明について、経済産業省令で定めるところにより記載されたものではない。

(2)明細書には、第一実施形態?第八実施形態が記載されているが、各レンズ面の曲率半径や面間隔、各レンズの屈折率やアッベ数等が記載されておらず、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえない。
・・・(後略)・・・


第4 平成24年7月26日付けの意見書の概要
平成24年7月26日付けの意見書(以下、単に「意見書」という。)による請求人の主張の概要は以下のとおりである。

・・・(前略)・・・
3. 拒絶理由が解消していることの説明
3.1 特許法第36条第4項第1号の要件を満たしていることの説明
(1) 本願発明の発明者は本願発明を完成させるにあたり、まず携帯電話またはパーソナルコンピュータ用いるレンズの縮小化を如何にして可能にするかについての製品構想を準備しました。そして、可能性のあるレンズ材料および利用可能なレンズ形状を決定しました。その後、前記した製品構想、レンズ材料およびレンズ形状に基づき、詳細な設計を行い、設計したレンズの性能を調べました。勿論、レンズ設計においては、イメージセンサの選択並びに視角および全長の決定等の事項が必要でした。
本願発明の効果を生じさせるには、明細書記載のすべての条件式を満たす必要があります。各条件式の上限値および下限値は、レンズ設計およびレンズ性能を最適化した結果得られた値です。これらすべての条件式の組み合わせが本願発明にとって極めて重要であることは自明です。したがって、これら条件式を特許請求の範囲に記載しています。当然のことですが、本明細書は当業者が理解できるように記載したものです。請求項記載の発明特定事項、条件式の意義は、以上のとおりさらに説明を加えるまでもなく当業者にとって自明の事項です。以上から、明細書中の発明の詳細な説明は、請求項1乃至11に係る発明について、経済産業省令で定めるところにより記載したものです。
(2) 本願発明の主要な特徴は、小型イメージ捕捉レンズがであって、ウェハスケールレンズシステムと、を含み、このウェハスケールレンズシステムが第一基板と、前記第一基板の第一側に位置する第一表面と、前記第一基板の第二側に位置する第二表面と、をむ第一レンズ群と、第二基板と、前記第二基板の第一側に位置する第三表面と、前記第二基板の第二側に位置する第四表面と、からなる第二レンズ群と、を含み、前記第一表面乃至第四表面は非球面で、前記第一表面と前記第二表面の一表面と前記第三表面と前記第四表面の一表面は、高屈折率Nd_hと高アッベ数 Vd_hとを有し、前記第一表面と前記第二表面のもう一つの表面と前記第三表面と前記第四表面のもう一つの表面は、低屈折率Nd_lと低アッべ数Vd_lとを有し、前記高屈折率Nd_hは前記低屈折率Nd_lより大きく、高アッベ数 Vd_hは低アッべ数Vd_lより大きく、小型イメージ捕捉レンズは、Nd_h = 1.58?1.62、Nd_l = 1.48?1.53、Nd_l / Nd_h = 0.91?0.97、Vd_h = 35?45、及びVd_l = 25?35の条件を満たし、前記第一表面と前記第二表面の一表面は凸面で、前記第一表面と前記第二表面のもう一つの表面は凹面で、前記第三表面と前記第四表面の一表面は凸面で、前記第三表面と前記第四表面のもう一つの表面は凹面であり、前記開口と、前記第一表面と、前記第二表面と、前記第三表面と、前記第四表面とは、この順番に被写体側から配置されていることです。
本願発明において、各レンズ面の曲率、隣り合うレンズ間の距離、屈折率およびアッベ数は重要な特徴ではありません。当業者であるならば、公知技術を参照して本願明細書に開示されている上記特徴にしたがって本願発明を実施することができるはずです。したがって、明細書は実施可能要件を満たしています。
・・・(後略)・・・


第5 平成24年10月23日付けの拒絶査定の概要
平成24年10月23日付けの拒絶査定(以下、単に「拒絶査定」という。)の概要は以下のとおりである。

・・・(前略)・・・
備考:
(1)出願人は意見書において、本願発明の効果を生じさせるには、明細書記載のすべての条件式を満たす必要があり、各条件式の上限値および下限値は、レンズ設計およびレンズ性能を最適化した結果得られた値である旨を主張しているが、最適化した結果、どのようなレンズデータが得られたのかが具体的に示されておらず、上記主張を裏付ける証拠が存在しないため、採用することができない。
また、出願人は、これらすべての条件式の組み合わせが本願発明にとって極めて重要であることは自明であり、条件式の意義は、さらに説明を加えるまでもなく当業者にとって自明の事項である旨を主張しているが、最適化した結果得られたものであるという具体的証拠を示さず、条件式の意味も説明せずに、単に並べられた条件式の記載のみから、条件式の意義や重要性が自明といえる根拠が不明であり、上記主張は採用することができない。
ところで、当初の請求項に記載されていた条件式「Vd_l / Vd_h = 1.2?2.2」の上限値および下限値は誤っていることが明らかであるが、これらが最適化した結果得られた値であるとすれば、その最適化した結果は正しいのか疑わしく、その他の条件式の信頼性も乏しいのではないか?また、上記条件式は補正によって削除されているが、上限値および下限値が誤っているからといって、「Vd_l」と「Vd_h」の比に関する条件式自体を削除することが何故許容されるのか?すべての条件式の組み合わせが重要という主張と矛盾しているのではないか?

(2)出願人は、本願発明において、各レンズ面の曲率、隣り合うレンズ間の距離、屈折率およびアッベ数は重要な特徴ではなく、当業者であるならば、公知技術を参照して本願明細書に開示されている特徴にしたがって本願発明を実施することができるはずである旨を主張している。
しかしながら、レンズ設計分野において、ある条件を満たしつつ収差補正が良好なレンズを設計することは一般に困難であり、具体的なレンズデータが示されていない本願明細書の記載から、本願請求項に記載の条件式を満足し、かつ、良好な収差補正のレンズを設計するためには、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤が必要というべきであり、実施可能要件は満足しておらず、上記主張は採用することができない。
・・・(後略)・・・


第6 平成25年2月28日付けの審判請求書の【請求の理由】の概要
平成25年2月28日付けの審判請求書の【請求の理由】(以下、単に「請求の理由」という。)による請求人の主張の概要は以下のとおりである。

・・・(前略)・・・
3.本願発明が特許されるべき理由
・・・(中略)・・・
3-2 本願発明が拒絶理由に該当しないことの説明
(1) 一般に光学レンズを設計する場合、まずレンズ材料とレンズ形状を選択し、その後、レンズの設計をおこない、さらに最適化を行います。本願明細書に記載した各条件式の上限値および下限値は、レンズ設計およびレンズ性能を最適化した結果得られた値です。本願明細書では、本願発明にかかる小型イメージ捕捉レンズが満たすべきレンズ材料およびレンズ形状の条件について説明しています。これら条件を満たすレンズ材料およびレンズ形状を用いることにより、本願発明の課題である、光学トラック長さが短いレンズモジュールを比較的容易に設計できることが、当然理解できます。したがって本願明細書に記載した各条件式およびレンズ形状の技術上の意義は、当業者ならば技術常識に基づき、当然に理解できる内容です。
本願明細書は、通常の技術常識を有する当業者が理解できるように記載したものであり、記載しなくても当業者が発明の技術上の意義を理解できる点については記載を省いています。拒絶理由通知書および拒絶査定では、各条件式についての技術上の意義について説明されていない、また具体的なレンズデータが開示されていないから、本願明細書に記載した各条件式の技術上の意義が理解できないとしていますが、そのような判断は技術常識をまったく考慮せず、無視しています。また、具体的なレンズデータを開示することは、必須ではないはずであり、拒絶理由通知書および拒絶査定でレンズデータの記載がないから、本願発明の技術上の意義が理解できないというのは、出願人に不必要な義務を課すものです。
さらに、レンズデータが記載してあれば、明細書の記載した内容の技術上の意義が理解でき、そうでなければ理解できないということはありえません。例えば、明細書中の段落0002乃至0006の記載から、本願発明の課題はウェハスケールレベルのサイズで、しかも十分な光学性能を有するイメージ捕捉レンズを提供することです。また、本願発明の課題の解決手段は、各実施形態に示すイメージ捕捉レンズであり、図3および図3を説明する明細書中の段落0025の記載から、本願発明のイメージ捕捉レンズは極めて小型にすることができ、図5乃至図9並びに明細書中段落0026および0027の記載から本願発明のイメージ捕捉レンズは十分な性能を有することがわかります。したがって、明細書記載の本願発明の技術上の意義は、当業者が容易に理解できます。したがって本願明細書の発明の詳細な説明は、委任省令要件を満たしています。
(2) 拒絶査定は、「レンズ設計分野において、ある条件を満たしつつ収差補正が良好なレンズを設計することは一般に困難であり、具体的なレンズデータが示されていない本願明細書の記載から、本願請求項に記載の条件式を満足し、かつ、良好な収差補正のレンズを設計するためには、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤が必要というべきであり、実施可能要件は満足」していないと述べています。しかしながら、果たして具体的なレンズデータが開示されていれば「良好な収差補正のレンズを設計する」ことが容易になるでしょうか。確かに、開示したレンズデータのレンズと略同一の仕様を有するレンズの設計をする場合は、開示したレンズデータを参考にしてレンズの設計をすることができるでしょうが、そうでない場合には参考になりません。したがって、レンズ設計について、具体的なレンズデータの開示の有無は、レンズ設計の難易度にほとんど影響しません。
また、当業者ならば、記載した実施形態を満たすレンズ形状並びに屈折率およびアッベ数を有する市販のレンズ材料を適宜選択し、所望のレンズ仕様に合致するように、レンズ半径、非球面係数、レンズ厚さ等を決定することができます。その決定したレンズ収差等の特性は通常コンピュータシミュレーションにより予測することができます。さらに、レンズパラメータを最適化することによりレンズ設計を行います。本願請求項1に記載のレンズ形状および屈折率およびアッベ数を有するレンズ材料を用いれば、当業者は携帯電話、パーソナルコンピュータ等に用いる所定の仕様のレンズのレンズ半径、非球面係数、レンズ厚さ等を比較的容易に設計することができます。拒絶査定が述べるように、「当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤が必要」ということはけっしてありません。
以上から本願明細書の発明の詳細な説明に基づいて本願発明は実施可能であり、具体的なレンズデータが示されていないからといって、本願明細書の発明の詳細な説明に基づいて本願発明の実施が可能でないというのは不当です。
・・・(後略)・・・


第7 当審の判断
1.拒絶理由の理由1(特許法第36条第4項第1号)(1)(委任省令要件)について
「特許法第36条第4項第1号の経済産業省令で定めるところによる記載は、発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載することによりしなければならない。」(特許法施行規則第24条の2)と規定されているから、本願の発明の詳細な説明は、出願時の技術水準に照らして本願発明1?11がどのような技術上の意義を有するか(どのような技術的貢献をもたらしたか)を理解できるように記載することが必要である。
したがって、特に、発明を特定するための事項に数式を含む本願発明1?11にあっては、当業者が本願の明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づいて、発明の課題と当該数式による規定との実質的な関係を理解することができ、発明の課題の解決手段を理解できることが必要である。もし、理解できない場合は、発明の技術上の意義が不明であるといえる。
そこで、本願発明1?11について、当業者が本願の明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づいて、発明の課題と当該数式による規定との実質的な関係を理解することができるか否かを検討する。

本願の明細書には、発明の課題として、以下の記載がある。
「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
よって、本発明は、小型イメージ捕捉レンズを提供し、上述の問題を改善することを目的とする。」
該記載中の「上述の問題を改善すること」は、該記載より前の記載である、
「【技術分野】
【0001】
本発明は、レンズシステムに関するものであって、特に、ウェハスケールの小型イメージ捕捉レンズシステム(wafer scale miniature image capture-lens system)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ソリッドステートのイメージ捕捉素子、例えば、CCD(Charge Coupled Device)型イメージセンサ、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)型イメージセンサ等の発展により、高いパフォーマンスと画像化装置の縮小化が可能になり、画像化装置を用いる携帯電話やパソコンが普及している。また、画像化装置上に設置されるイメージ捕捉レンズの縮小化が必要とされている。
【0003】
しかし、上述のような要求があるのもかかわらず、イメージ捕捉レンズの更なる縮小化は限界にきている。公知のイメージ捕捉レンズの場合、レンズは真の三次元構造であり、センサは更に小型化が必要なので、各レンズ表面の横方向シフトと傾斜の精度の制御が非常に困難である。つまり、製造公差が減少している。
【0004】
図1は公知のウェハスケールレンズモジュールシステムを用いた画像化装置を示す図である。光線がウェハスケールレンズモジュール102と104から、感知素子106に到達する。この技術において、ウェハスケールレンズモジュール102と104と感知素子106は、VLSIプロセス技術により製造される。よって、画像化装置は、携帯電話やPDA等の携帯型電子機器に適する小型装置である。ウェハスケールレンズは、ムーアの法則(Moore’s-law)等の半導体プロセスの技術的進歩に伴って、更に縮小化し、精度の制御が更に向上される。また、公知のレンズが離散プロセス(discrete process)により製造され、レンズを一個ずつ組み立てるのに対し、ウェハスケールレンズは、バッチ処理により製造され、1000個のレンズをレンズプレート上にスタックして、レンズモジュールアレイにすることができる。しかし、体積が小さいにもかかわらず、ウェハスケール光学レンズシステムに、好ましいパフォーマンスと十分に大きい公差を有するように設計するのは困難である。よって、好ましいパフォーマンスと大きい公差を有するウェハスケールレンズシステムが必要である。
【0005】
ウェハスケール光学は、ガラス基板構造と反覆プロセス制限のために、多くの設計上の制約がある。例えば、レンズ材料、基板厚さ、レンズ撓み部の高さと大きさ、及び、光学中央位置合わせ精度等の制約である。ウェハスケールレンズが、プラスチックやガラスレンズのような主流製品になるためには、ウェハスケールレンズモジュールが、上述の設計上の制約に対応する製作公差に、見合った光学設計パフォーマンスを有することが必須である。」
を参照すると、ウエハスケールレンズシステムが大きい公差と好ましい光学設計パフォーマンスを有することであると解される。
そして、この「好ましい光学設計パフォーマンス」は、明細書中で、発明の効果を記載した、
「【発明の効果】
【0009】
本発明には、以下のような長所がある。まず、基板の両側に異なる材料のレンズモジュールを形成して、光の分散を最小化する。特に、公知のウェハスケールレンズであっても、基板の相対する両辺のレンズは異なるプロセスで製作しなければならないので、本発明のレンズモジュールの製造コストが特別に増大させることがない。次に、IRカットフィルタは、ガラス基板表面上にコートできる。最後に、本発明によれば、光学トラック長さが短いレンズモジュールを得ることができる。」
を参照すると、光の分散を最小化すること、および、光学トラック長さが短いレンズモジュールを得ることであると解される。(なお、「光の分散を最小化すること」の意味は必ずしも明確ではないところ、当業者の技術常識から、色収差を最小化することの意味であると解される。)

してみると、上記検討は、ウエハスケールレンズシステムが大きい公差を有すること、光の分散を最小化すること、および、光学トラック長さが短いレンズモジュールを得ることと、本願発明1?11の5つの数式による規定との実質的な関係を理解することができるか否かを検討することである。

本願の明細書には、5つの数式についての記載は、段落【0007】?【0008】に、
「【0007】
・・・小型イメージ捕捉レンズは、以下の条件を満たす。
【0008】
Nd_h = 1.58?1.62;
Nd_l = 1.48?1.53;
Nd_l / Nd_h = 0.91?0.97;
Vd_h = 35?45; 及び
Vd_l = 25?35」
、段落【0022】に、
「 Nd_h = 1.58?1.62;
Nd_l = 1.48?1.53;
Nd_l / Nd_h = 0.91?0.97;
Vd_h = 35?45; 及び
Vd_l = 25?35」
との記載があるが、これら5つの数式と、ウエハスケールレンズシステムが大きい公差を有すること、光の分散を最小化すること、および、光学トラック長さが短いレンズモジュールを得ることとの実質的な関係の記載や示唆はない。
また、明細書及び図面の他の記載を精査しても、ウエハスケールレンズシステムが大きい公差を有すること、光の分散を最小化すること、および、光学トラック長さが短いレンズモジュールを得ることと、本願発明1?11の5つの数式による規定との実質的な関係の記載や示唆は見あたらない。
そして、レンズシステムにおいて、公差の大きさ、光の分散(色収差)、光学トラック長さは、レンズの屈折率とアッベ数のみで決まるものではなく、レンズシステムの構成を特定する他の要素(例えば、レンズ面の曲率半径や非球面係数、レンズ面間隔(レンズ厚含む)等)も大きく影響することが技術常識であるから、本願の明細書及び図面の記載では、当業者といえども、ウエハスケールレンズシステムが大きい公差を有すること、光の分散を最小化すること、および、光学トラック長さが短いレンズモジュールを得ることと、本願発明1?11の5つの数式による規定との実質的な関係を理解することができないことは明らかである。

したがって、本願の発明の詳細な説明は、経済産業省令で定めるところにより、記載したものであるとは認められない。

請求人は、意見書及び請求の理由で、「各条件式の上限値および下限値は、レンズ設計およびレンズ性能を最適化した結果得られた値です。」と主張するが、最適化するには、多くの具体的なレンズ設計を行い、その中で、最適な値を決定したはずであるところ、本願の明細書及び図面には、各条件式を満たす具体的なレンズの設計例及び各条件式を満たさない具体的なレンズの設計例が1つも示されていないことを考慮すると、各条件式の上限値および下限値が最適化した値であるか否かは不明であって、該主張は採用できない。
また、請求人は、請求の理由で、「本願明細書に記載した各条件式およびレンズ形状の技術上の意義は、当業者ならば技術常識に基づき、当然に理解できる内容です。本願明細書は、通常の技術常識を有する当業者が理解できるように記載したものであり、記載しなくても当業者が発明の技術上の意義を理解できる点については記載を省いています。拒絶理由通知書および拒絶査定では、各条件式についての技術上の意義について説明されていない、また具体的なレンズデータが開示されていないから、本願明細書に記載した各条件式の技術上の意義が理解できないとしていますが、そのような判断は技術常識をまったく考慮せず、無視しています。」と、当業者の技術常識によれば、各条件式の技術上の意義は理解できると主張するが、具体的にどのような当業者の技術常識によれば、各条件式の技術上の意義が理解できるのかが不明であって、該主張は採用できない。

2.拒絶理由の理由1(特許法第36条第4項第1号)(2)(実施可能要件)について
一般に、レンズ系の具体的な設計においては、レンズ枚数、各レンズ面の曲率半径、メニスカス又は非メニスカス、レンズ面間隔(レンズ厚含む)、各レンズの屈折率とアッベ数、接合レンズの有無とその配置、非球面レンズの有無とその配置、非球面係数、絞りの配置等の多数の要素を有し、各要素を調整して、収差等のレンズ系の性能を確認しながら、数多くの試行錯誤を繰り返して、1つのレンズ系の設計を完成するものであることが、当業者の技術常識である。
しかし、本願の明細書には、
第一レンズ群は、第一基板と第一基板の第一側に位置する第一表面と第一基板の第二側に位置する第二表面とからなること、
第二レンズ群は、第二基板と第二基板の第一側に位置する第三表面と第二基板の第二側に位置する第四表面とからなること、
第1表面乃至第4表面は非球面であること、
第一表面と第二表面の一表面と第三表面と第四表面の一表面は、高屈折率Nd_hと高アッベ数 Vd_hとを有し、第一表面と第二表面のもう一つの表面と第三表面と第四表面のもう一つの表面は、低屈折率Nd_l と低アッべ数Vd_lとを有し、高屈折率Nd_hは低屈折率Nd_lより大きく、高アッベ数 Vd_hは低アッべ数Vd_lより大きく、5つの条件式を満たすこと、
第一表面と第二表面の一表面は凸面で、第一表面と第二表面のもう一つの表面は凹面で、第三表面と第四表面の一表面は凸面で、第三表面と第四表面のもう一つの表面は凹面であること
が、それぞれ,開示されるのみであって、
高屈折率Nd_h、高アッベ数 Vd_h、低屈折率Nd_l、低アッべ数Vd_lについては、数値範囲が開示されるのみであり、
さらに、レンズ設計において、重要な要素である非球面係数及びレンズ面間隔(レンズ厚含む)を含む、具体的な設計例は開示されていない。
すると、本願の明細書及び図面の記載からは、各レンズの屈折率及びアッベ数を数値範囲の中から選択するとともに、非球面係数やレンズ面間隔(レンズ厚含む)等の数値について、収差等のレンズ系の性能を確認しながら、数多くの試行錯誤を繰り返さないと、具体的なレンズ設計ができないことは明らかである。

したがって、本願の発明の詳細な説明は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとは認められない。

請求人は、意見書で、「本願発明において、各レンズ面の曲率、隣り合うレンズ間の距離、屈折率およびアッベ数は重要な特徴ではありません。当業者であるならば、公知技術を参照して本願明細書に開示されている上記特徴にしたがって本願発明を実施することができるはずです。」と主張するが、重要な特徴ではないことと本願発明を実施することができることとは無関係であり、また、公知技術を参照して本願発明を実施することができるはずであるとする根拠を全く示しておらず、該主張は採用できない。
また、請求人は、請求の理由で、レンズ設計の各要素は適宜決定でき、レンズ収差はコンピュータシミュレーションにより予測することができるから、比較的容易に設計することができる旨主張するが、上述したとおり、レンズ設計においては、各要素を決定し、収差をコンピュータにより計算する工程を数多く繰り返して、1つのレンズ系の設計が完成することが技術常識であるから、該主張は採用できない。

3.結論
本願は、その発明の詳細な説明の記載が、経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。


第8 むすび
以上のとおり、本願は発明の詳細な説明が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-10-09 
結審通知日 2013-10-15 
審決日 2013-10-29 
出願番号 特願2010-67753(P2010-67753)
審決分類 P 1 8・ 536- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 井上 信  
特許庁審判長 伊藤 昌哉
特許庁審判官 神 悦彦
北川 清伸
発明の名称 小型イメージ捕捉レンズ  
代理人 磯野 道造  
代理人 磯野 道造  
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