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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 C08J 審判 査定不服 特174条1項 取り消して特許、登録 C08J |
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管理番号 | 1286038 |
審判番号 | 不服2013-13708 |
総通号数 | 173 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2014-05-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2013-07-17 |
確定日 | 2014-04-08 |
事件の表示 | 特願2010-513307「架橋されたポリエチレン製品とその製造法」拒絶査定不服審判事件〔平成20年12月31日国際公開、WO2009/002653、平成22年9月30日国内公表、特表2010-531900、請求項の数(10)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成20年5月29日(パリ条約による優先権主張 2007年6月21日 2008年1月15日 アメリカ合衆国(US))を国際出願日とする特許出願であって、平成22年2月18日に手続補正書が提出され、平成24年4月27日付けで拒絶理由が通知され、同年10月5日に意見書とともに手続補正書が提出されたが、平成25年4月2日付けで拒絶査定がなされ、それに対して、同年7月17日に拒絶査定不服審判請求がなされると同時に手続補正書が提出され、同年9月25日付けで前置報告がなされ、それに基づいて当審で同年10月24日付けで審尋がなされ、平成26年1月29日に回答書が提出されたものである。 第2 平成25年7月17日付けの手続補正についての補正の却下の決定 1.結論 平成25年7月17日付けの手続補正を却下する。 2.理由 (1)補正の内容 平成25年7月17日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、審判請求と同時にされた補正であり、平成24年10月5日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲、明細書及び図面をさらに補正するものであって、特許請求の範囲の請求項1について、 「架橋されたポリエチレン製品を形成する方法であって、ポリエチレン樹脂を、柔軟性を与えうる量の、120より大きい粘度指数、100℃で3から300cStの動粘性率、-20℃未満の流動点、0.86未満の比重、200℃より高い引火点をもつ非官能性可塑剤(NFP)(当該NFPは、当該NFPの重量に基づき、水酸基、アリール基、置換アリール基、ハロゲン、アルコキシ基、カルボキシレート基、エステル基、アクリレート基、酸素、窒素、カルボキシル基から選択される官能基を5重量%未満で含み、かつ、オレフィン結合に含まれるNFPの炭素数は当該NFPの総炭素数の5%未満である)と混合すること、当該ブレンドを加工して製品の形状にすること、当該ブレンドを架橋して、架橋を受けたポリエチレン製品を作ることを含む方法。」 を、 「架橋されたポリエチレン製品を形成する方法であって、ポリエチレン樹脂を、120より大きい粘度指数、100℃で3から300cStの動粘性率、-20℃未満の流動点、0.86未満の比重、200℃より高い引火点をもつ非官能性可塑剤(NFP)(当該NFPは、当該NFPの重量に基づき、水酸基、アリール基、置換アリール基、ハロゲン、アルコキシ基、カルボキシレート基、エステル基、アクリレート基、酸素、窒素、カルボキシル基から選択される官能基を5重量%未満で含み、かつ、オレフィン結合に含まれるNFPの炭素数は当該NFPの総炭素数の5%未満であり、当該NFPの重量がポリエチレン樹脂の重量に基づき、4.5 重量パーセント以下であるとき、可塑剤を使用しない相当する方法と比較して、架橋効率の低下は4.9%以下であり、82℃における迅速破裂試験により決定された当該架橋されたポリエチレンの迅速破裂圧の減少のパーセントは、その最大曲げ力の減少のパーセントより小さい)と混合すること、当該ブレンドを加工して製品の形状にすること、当該ブレンドを架橋して、架橋を受けたポリエチレン製品を作ることを含む方法。」 とする、補正を含むものである。 (2)本件補正の適否について 本件補正後の請求項1には、上記(1)のとおり、「当該NFPの重量がポリエチレン樹脂の重量に基づき、4.5 重量パーセント以下であるとき、可塑剤を使用しない相当する方法と比較して、架橋効率の低下は4.9%以下であり」との事項が記載されている。 しかし、特許法第184条の6第2項の規定により同法第17条の2第3項における願書に最初に添付した明細書及び特許請求の範囲とみなされる本件国際特許出願の明細書、特許請求の範囲及び図面の中の説明の翻訳文並びに本件国際特許出願の図面(以下、まとめて「当初明細書等」という。)の記載事項を検討すると、NFP重量の割合と架橋効率との関係について具体的数値は直接記載されておらず、当初明細書等に係る図面の【図2】は、以下のとおりである。 そうすると、図2から「4.5 重量パーセント以下」あるいは「4.9%以下」のいずれの数値を読みとる、または算出することはできないことから、上記事項が記載されていると認めることができない。 ここで、本件請求人は、平成25年7月17日提出の審判請求書において、次のとおり主張している。 「・請求項1の補正について 「当該NFPの重量がポリエチレン樹脂の重量に基づき、4.5 重量パーセント以下であるとき、可塑剤を使用しない相当する方法と比較して、架橋効率の低下は4.9%以下であり」とする補正は、明細書[0265]表4、[0272]及び図2に記載された事項の範囲内でするものであり、発明特定事項「非官能性可塑剤(NFP)」を限定し特許請求の範囲を減縮するものであります(下表「図2に記載された架橋効率」参照)。 図2に記載された架橋効率 」 しかし、【図2】等について検討してみても、上記のとおり、上記主張に係る「69.4」、「68.3」及び「66.0」の値は具体的に記載されておらず、それらの値を図2から読みとることもできない。 以上のとおりであるから、当初明細書等には、図2については記載されているとしても、当該図2から「当該NFPの重量がポリエチレン樹脂の重量に基づき、4.5 重量パーセント以下であるとき、可塑剤を使用しない相当する方法と比較して、架橋効率の低下は4.9%以下」であることについての記載は一切なされていないし、そのことを図2から読み取ることもできない。 してみると、本件補正後の請求項1に記載された「当該NFPの重量がポリエチレン樹脂の重量に基づき、4.5 重量パーセント以下であるとき、可塑剤を使用しない相当する方法と比較して、架橋効率の低下は4.9%以下であり」が、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるとする根拠は見出せない。 したがって、本件補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものとはいえない。 (3)まとめ 以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明 上記第2 のとおり、平成25年7月17日付けの手続補正は却下されたので、本願の請求項1?10に係る発明(以下、「本願発明1」?「本願発明10」という。)は、平成24年10月5日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲、明細書及び図面(以下、併せて「本願明細書等」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 「【請求項1】 架橋されたポリエチレン製品を形成する方法であって、ポリエチレン樹脂を、柔軟性を与えうる量の、120より大きい粘度指数、100℃で3から300cStの動粘性率、-20℃未満の流動点、0.86未満の比重、200℃より高い引火点をもつ非官能性可塑剤(NFP)(当該NFPは、当該NFPの重量に基づき、水酸基、アリール基、置換アリール基、ハロゲン、アルコキシ基、カルボキシレート基、エステル基、アクリレート基、酸素、窒素、カルボキシル基から選択される官能基を5重量%未満で含み、かつ、オレフィン結合に含まれるNFPの炭素数は当該NFPの総炭素数の5%未満である)と混合すること、当該ブレンドを加工して製品の形状にすること、当該ブレンドを架橋して、架橋を受けたポリエチレン製品を作ることを含む方法。 【請求項2】 請求項1の方法であって、当該ポリエチレン樹脂は低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるものである方法。 【請求項3】 請求項1の方法であって、当該NFPがポリ-アルファ-オレフィン(PAOs)、分類IIIのベースストック、ガスツーリキッド製法由来の高純度炭化水素流体(GTLs)及びそれらの組合せから選択されるものである方法。 【請求項4】 請求項1の方法であって当該混合は当該ブレンドに硬化系を導入することを含むものである方法。 【請求項5】 請求項1の方法により製造された架橋されたポリエチレン製品であって、管状物又はパイプ、導管、管、ワイヤーの被覆体及び絶縁体、及びケーブルの被覆体と絶縁体からなる群から選択される製品。 【請求項6】 120より大きい粘度指数、100℃で3から300cStの動粘性率、-20℃より低い流動点、0.86未満の比重、200℃より高い引火点をもつ 0.1から 10重量パーセントの非官能性可塑剤(NFP)の層と混合された架橋ポリエチレン(PEX)を不可欠に含む組成物であって、当該NFPが、当該NFPの重量に基づき、水酸基、アリール基、置換アリール基、ハロゲン、アルコキシ基、カルボキシレート基、エステル基、アクリレート基、酸素、窒素及びカルボキシル基から選択された官能基を5重量%未満で含み、オレフィン結合に含まれる当該NFPの炭素数は当該NFPの炭素原子の総数の5%未満である組成物。 【請求項7】 請求項6の組成物を含有する少なくとも一つの層を含むパイプ、絶縁体、管状物又は被覆体。 【請求項8】 複数の層(当該PEX組成物が一層を形成する)を含む請求項7のパイプ、絶縁体又は被覆体。 【請求項9】 請求項6の当該組成物であって、当該NFPがC_(5)からC_(14)のオレフィンのオリゴマーを含むものである組成物。 【請求項10】 請求項6の組成物であって、当該ブレンドは、有機過酸化物又はシラン化合物と水分による硬化反応により架橋されているものである組成物。」 第4 原査定について 1.原査定の理由の概要 原審における平成25年4月2日付け拒絶査定の理由の概要は、「この出願については、平成24年4月27日付け拒絶理由通知書に記載した理由2によって、拒絶をすべきものです。」というものである。 そして、平成24年4月27日付け拒絶理由通知書には、次のとおり記載されている。 「理由 1.…… 2.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 (引用文献等については引用文献等一覧参照) …… <理由2について> ・請求項1-10 ・引用文献等1、2 ・備考 特に、引用文献1の、【請求項1】、【請求項10】、【請求項16】、【請求項29】、【請求項30】、【請求項44】、【請求項45】、【請求項64】、【請求項65】、【0001】(得られるポリエチレンは柔軟性を有することが記載されている。)、【0119】、【表4a】を参照のこと。ここで、請求項1記載の液体炭化水素改質剤が、本願の非官能性可塑剤(NFP)に相当する。 引用文献1には、ケーブルジャケット等の材として使用し得るポリエチレンに硬化剤を配合し得ることは記載されているものの(【請求項64】【0119】)、実際に、硬化剤を配合した例は記載されていない。しかしながら、例えば、引用文献2にも記載されるように、電線やケーブルの被覆材として、シラン架橋したポリエチレンを採用する技術は既に知られている(【請求項1】【請求項4】【0001】-【0003】【0014】【0046】【0047】)。 引 用 文 献 等 一 覧 1.国際公開第2006/083540号 (指摘箇所は特表2008-528789号公報のものである。) 2.特開2000-248074号公報」 そして、拒絶査定には、次のとおり、付記されている。 「引用文献1には、本願の非官能性可塑剤(NFP)に相当する液体炭化水素改質剤は、ミネラルオイル等の典型的な添加剤化合物の使用に伴う架橋の減少等の問題を引き起こすことなく、ポリエチレンの破壊耐性、柔軟性、加工性、引っ張り特性等の物理的・機械的性質を改善し得る剤であることが記載されている(【請求項1】【請求項10】【請求項16】【請求項29】【請求項30】【請求項44】【請求項45】【0001】【0003】【0007】【0015】【0197】【0220】【表6a】等)。したがって、出願人の主張する1)?6)の上記作用効果は、引用文献1より予測可能な効果、及び又は引用文献1記載の前記液体炭化水素改質剤を使用したことに伴う自明な効果であるといえる。」 第5 当審の判断 1.引用文献の記載 (1)引用文献1(国際公開第2006/083540号)には、次のとおり記載されている。(摘記は、対応するファミリー文献である特表2008-528789号公報に拠った。) ア 「(組成物重量部に基づいて)25重量%より多くの、20,000g/モル以上のMwを有する、1つ以上のエチレンポリマーと、少なくとも0.1重量%の液体炭化水素改質剤とを含む組成物であって、前記改質剤が、 1) 120以上の粘度指数と、 2) 100℃において3乃至3000cStの動粘度と、 3) -10℃以下の流動点と、 4) 200℃以上の引火点とを有することを特徴とし、 前記改質剤が、水酸化物、アリ-ル、及び 置換アリ-ル、ハロゲン、アルコキシ、カルボン塩酸、エステル、アクリレート、酸素、窒素、及びカルボキシルから選択される官能基を、前記改質剤の重量に基づいて5重量%未満含むことを特徴とする、組成物。」(特許請求の範囲、請求項1) イ 「前記改質剤が0.81乃至0.86の比重(15.6℃/15.6℃)を有することを特徴とする請求項1乃至29のいずれか1項に記載の組成物。」(特許請求の範囲、請求項30) ウ 「前記1乃至62のいずれか1項に記載の組成物を含む成形製品。」(特許請求の範囲、請求項63) エ 「請求項63の製品であって、前記製品が、……パイプ、ワイヤジャケット、ケーブルジャケット、……から成る群より選択されることを特徴とする製品。」(特許請求の範囲、請求項64) オ 「請求項1乃至62のいずれか1つに記載の組成物に、射出成形、圧縮成形、トランスファー成形、キャスティング、押出成形、熱成形、ブロー成形、スパンボンディング、メルトブローイング、ラミネート成形、引出成形、ファイバースピンニング、引出縮分成形、回転成形、スピンボンディング、融解紡糸、融解ブローイング、及びそれらの組み合わせの1つ以上の処理を施して製品を製造する方法。」(特許請求の範囲、請求項65) カ 「本発明はエチレンベースポリマー及び改質剤、特に液体改質剤を含むポリエチレン組成物に関する。より具体的には、本発明は、エチレンポリマーの分子量を維持しつつ、融点及び他の性質を損なわずに、柔軟性、軟度、透明度、引裂き耐性、低温衝撃耐性、及び/又は加工性が改善されたポリエチレン組成物に関する。」(段落0001) キ 「典型的な添加剤化合物の他の欠点は、それらは不飽和炭素及び/又はヘテロ原子に起因する官能価(官能基)の程度が高い(5重量%以上)ことである。……それら分子量の減少、架橋又は変色を含む融解工程及び加工工程の間の問題の原因でもある。」(段落0007) (なお、特表2008-528789号公報では、「分子量の減少、架橋又は変色」の部分が、「分子量、架橋の減少又は変色」と記載されているが、誤訳であると認められる。) ク 「定義 本発明の目的との関係及び請求の範囲において、ポリマー又はオリゴマーがオレフィンを含むと言う場合は、ポリマー又はオリゴマー中に存在するオレフィンは、それぞれオレフィンの重合した形、又はオリゴマー化した形である。同様に、ポリマー(polymer)の語は、ホモポリマー及びコポリマーをも含む。更にコポリマー(copolymer)は2つ以上のモノマーを含む任意のポリマーも含む。従って、本明細書で用いる「ポリエチレン」、「エチレンポリマー」、及び「エチレンプラストマー」の語は、少なくとも50モル%のエチレン単位(好ましくは少なくとも70モル%のエチレン単位、より好ましくは少なくとも80モル%のエチレン単位、より好ましくは少なくとも90モル%のエチレン単位、より好ましくは少なくとも95モル%のエチレン単位、又は100%のエチレン単位)を含み、20モル%未満のプロピレン単位(好ましくは15モル%未満、好ましくは10モル%未満、好ましくは5モル%未満、好ましくは0モル%のプロピレン単位)を含むポリマー又はコポリマーを意味し、以下で定義するようにEPゴム由来のエチレンは含まない。更に、「ポリエチレン組成物」の語は、1つ以上のポリエチレン成分のブレンドを意味する。」(段落0024) ケ 「本発明の目的との関係及び請求の範囲において、「EPゴム」は、エチレン及びプロピレンのコポリマーであると定義され、任意でジエンモノマーも含み、化学的架橋(すなわち、硬化)されていてもいなくても良い。エチレン含量が35乃至80重量%、ジエン含量が0乃至15重量%、及び残りはプロピレンである。前記コモノマーは(ASTMD1646で測定される)15乃至100のムーニー粘度(ML(1+4)@125℃を有する。本発明の目的との関係及び請求の範囲において、「EPDM」又は「EPDMゴム」はジエンを有するEPゴムであると定義される。」(段落0027) コ 「本発明のポリエチレン化合物は他の添加剤も含む。これらの添加剤は抗酸化剤、核剤、酸スカベンジャー、安定剤、抗粘着剤、発泡剤、チェーンブレーキング(chain-breaking)抗酸化剤等の他のUV吸収剤、冷却剤、静電気防止剤、滑剤、顔料、ダイ、及び充填剤、並びに過酸化物等の硬化剤を含む。ダイ及び他の色素は、一般的な工業的製造においては、組成物の重量に基づいて、1つの態様において0.01乃至10重量%、及び他の態様において0.1乃至6重量%含まれる。」(段落0119) (2)引用文献2(特開2000-248074号公報)には、次のとおり記載されている。 サ 「【従来の技術】シラングラフト水架橋法は、有機過酸化物を用いて架橋を行う化学架橋方式よりも、低コストで架橋ポリオレフィン材料を提供できるため、成形物の架橋ポリマ、あるいは電線・ケーブルの電気絶縁体または被覆物材料の架橋方法として広く用いられている。 この方法は、高温のポリマ成形加工機、例えば電線被覆押出機の中で、少量の有機過酸化物をグラフト反応開始剤として用いて、ポリオレフィン組成物のポリマにビニルアルコキシシランをグラフト共重合させ、電線・ケーブルの周囲に電気絶縁体、または被覆物として被せたのち、電線・ケーブルを高温高湿度雰囲気、または温水中に晒すことにより、成形物中に配合、または成形物表面から浸透させたジブチル錫ジラウレート等のシラノール縮合触媒の作用によって、ポリマにグラフトしたアルコキシシランに加水分解、および縮合を起こさせて架橋するものである。」(段落0003?0004) 2.引用発明 上記摘示ア、イ、ウ及びオから、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。 「(組成物重量部に基づいて)25重量%より多くの、20,000g/モル以上のMwを有する、1つ以上のエチレンポリマーと、少なくとも0.1重量%の液体炭化水素改質剤とを含み、前記改質剤が、 1) 120以上の粘度指数と、 2) 100℃において3乃至3000cStの動粘度と、 3) -10℃以下の流動点と、 4) 200℃以上の引火点と、 5) 0.81乃至0.86の比重(15.6℃/15.6℃)を有し、 前記改質剤が、水酸化物、アリ-ル、及び 置換アリ-ル、ハロゲン、アルコキシ、カルボン塩酸、エステル、アクリレート、酸素、窒素、及びカルボキシルから選択される官能基を、前記改質剤の重量に基づいて5重量%未満含む、組成物に、射出成形、圧縮成形、トランスファー成形、キャスティング、押出成形、熱成形、ブロー成形、スパンボンディング、メルトブローイング、ラミネート成形、引出成形、ファイバースピンニング、引出縮分成形、回転成形、スピンボンディング、融解紡糸、融解ブローイング、及びそれらの組み合わせの1つ以上の処理を施して成形製品を製造する方法。」 3.対比 本願発明1と引用発明とを対比すると、引用発明の「20,000g/モル以上のMwを有する、1つ以上のエチレンポリマー」は、本願発明1の「ポリエチレン樹脂」に相当する。 同様に、引用発明の「1)120以上の粘度指数と、2)100℃において3乃至3000cStの動粘度と、3)-10℃以下の流動点と、4)200℃以上の引火点と、5)0.81乃至0.86の比重(15.6℃/15.6℃)を有し、水酸化物、アリ-ル、及び 置換アリ-ル、ハロゲン、アルコキシ、カルボン塩酸、エステル、アクリレート、酸素、窒素、及びカルボキシルから選択される官能基を、改質剤の重量に基づいて5重量%未満含む液体炭化水素改質剤」は、本願発明1の「120より大きい粘度指数、100℃で3から300cStの動粘性率、-20℃未満の流動点、0.86未満の比重、200℃より高い引火点をもつ非官能性可塑剤(NFP)(当該NFPは、当該NFPの重量に基づき、水酸基、アリール基、置換アリール基、ハロゲン、アルコキシ基、カルボキシレート基、エステル基、アクリレート基、酸素、窒素、カルボキシル基から選択される官能基を5重量%未満で含み、かつ、オレフィン結合に含まれるNFPの炭素数は当該NFPの総炭素数の5%未満である)」に相当する。 また、引用発明の「組成物に、射出成形、圧縮成形、トランスファー成形、キャスティング、押出成形、熱成形、ブロー成形、スパンボンディング、メルトブローイング、ラミネート成形、引出成形、ファイバースピンニング、引出縮分成形、回転成形、スピンボンディング、融解紡糸、融解ブローイング、及びそれらの組み合わせの1つ以上の処理を施して成形製品を製造する」は、本願発明1の「ポリエチレン製品を形成する」あるいは「当該ブレンドを加工して製品の形状にする」に相当する。 そうすると、両者は、次の点で一致し(一致点)、次の点(相違点1及び2)で相違するといえる。 ○一致点 ポリエチレン製品を形成する方法であって、ポリエチレン樹脂を、柔軟性を与えうる量の、120より大きい粘度指数、100℃で3から300cStの動粘性率、-20℃未満の流動点、0.86未満の比重、200℃より高い引火点をもつ非官能性可塑剤(NFP)(当該NFPは、当該NFPの重量に基づき、水酸基、アリール基、置換アリール基、ハロゲン、アルコキシ基、カルボキシレート基、エステル基、アクリレート基、酸素、窒素、カルボキシル基から選択される官能基を5重量%未満で含む)と混合すること、当該ブレンドを加工して製品の形状にすること、を含む方法。 ○相違点1 本願発明1は、「架橋されたポリエチレン製品を形成する方法」ないし「ブレンドを架橋して、架橋を受けたポリエチレン製品を作ることを含む方法」であるのに対し、引用発明は、特に規定していない点。 ○相違点2 非官能性可塑剤(NFP)について、本願発明1は、「オレフィン結合に含まれるNFPの炭素数は当該NFPの総炭素数の5%未満である」のに対し、引用発明は、特に規定していない点。 4.相違点についての判断 相違点1について以下に検討する。 引用文献1には、摘示ク及びケより、「エチレンポリマー」は、化学的架橋(すなわち、硬化)されていてもいなくても良いEPゴム由来のエチレンは含まないものである。 そして、引用文献1には、摘示コより、「本発明のポリエチレン化合物は他の添加剤も含む。これらの添加剤は……充填剤、並びに過酸化物等の硬化剤を含む。」と記載されているものの、この記載は、添加しても良い任意成分として多数列挙されている添加剤のなかの1つとして「過酸化物」が挙げられているに留まるものであって、いわゆる一行記載にすぎないものである。 そうすると、かかる記載をもってして、上記「エチレンポリマー」に必須成分としての「過酸化物」を配合して、架橋し、「化学的架橋」された「エチレンポリマー」を得ることまでが、引用文献1に記載されている技術的事項であるとはいえない。 一方、本願発明1は、上記第3 のとおり、「架橋されたポリエチレン製品を形成する方法」であって、「ポリエチレン樹脂」を「非官能性可塑剤(NFP)」と混合し、製品の形状にし、架橋して、「架橋を受けたポリエチレン製品を作ることを含む方法」である。 引用文献1に記載の「液体炭化水素改質剤」は、本願発明1における「非官能性可塑剤(NFP)」に該当するものと認められるが、本願発明1における「ポリエチレン樹脂」を架橋する点は、上記のとおり、引用文献1に具体的に記載されておらず、また、示唆もされていない。 そして、引用文献2の摘示サより、「成形物の架橋ポリマ、あるいは電線・ケーブルの電気絶縁体または被覆物材料の架橋方法」として、「有機過酸化物を用いて架橋を行う化学架橋方式」及び「シラングラフト水架橋法」それ自体が公知であるとしても、そのことは、引用文献1に記載の「製品を製造する方法」において、さらに、架橋処理を施すべき、具体的かつ積極的な動機付けとはならない。また、引用文献1の摘示エの「パイプ、ワイヤジャケット、ケーブルジャケット」との記載にその動機付けの根拠を求めることはできず、そのための具体的な裏付けがあるとはいえない。 さらに、引用文献1には、摘示カより、「エチレンポリマーの分子量を維持しつつ、融点及び他の性質を損なわずに、柔軟性、軟度、透明度、引裂き耐性、低温衝撃耐性、及び/又は加工性が改善されたポリエチレン組成物」が記載されていると認められ、摘示キで指摘したとおり、添加剤化合物の他の欠点として、「分子量の減少、架橋又は変色」の問題の原因であることが認識されていたのであって、それが「分子量、架橋の減少又は変色」ではないと認められる。 これに対して、本願明細書等には、例えば、「驚くべきことに、架橋されたポリエチレン(PEX)に、ある液体炭化水素修飾剤を使用すると架橋効率を下げず、PEXで例外的に高い保留性と適合性をもち、架橋網目構造の密度を下げることなく、持続して優れた性質の修飾を与えることが見出された。本発明はプラスチック材料の柔軟性を大きくするためにベースポリマーにポリマー修飾剤を添加し、ここでこの修飾剤は架橋に悪影響を及ぼさずまたは好ましくないようにプラスチック材料のベースポリマーの構造と/または強度に影響しない。……」(段落0023?0024)と記載され、本願発明1は、作用効果として(非官能性可塑剤(NFP)の配合によって)架橋密度を下げることがないものであるから、上記した引用文献1の記載に基づいて、本願発明1の前記作用効果が示唆されることとはならない。 また、本願発明1における効果について検討しても、本願明細書等の実施例と比較例とを比較すれば、強度をほとんど変化させることなく、柔軟性を向上させるという効果が奏されていることは明らかであり、これは、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)であっても予測することができないものである。 したがって、相違点2について検討するまでもなく、本願発明1が、引用文献1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。 5.小活 以上のとおりであるから、本願発明1は引用文献1及び2に記載された発明から当業者が容易に発明できたものであるということはできない。 また、本願発明1が引用文献1及び2に記載された発明から想到容易であるといえないのは上述のとおりであるから、請求項1を直接的または間接的に引用してなる本願発明2?10についても同様に、いわゆる進歩性を否定することはできない。 第6 むすび 以上のとおり、本願については、原査定の拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2014-03-27 |
出願番号 | 特願2010-513307(P2010-513307) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(C08J)
P 1 8・ 55- WY (C08J) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 河原 肇 |
特許庁審判長 |
小野寺 務 |
特許庁審判官 |
大島 祥吾 塩見 篤史 |
発明の名称 | 架橋されたポリエチレン製品とその製造法 |
代理人 | 山崎 行造 |