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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 C08F
審判 査定不服 特37 条出願の単一性( 平成16 年1 月1 日から) 取り消して特許、登録 C08F
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 C08F
管理番号 1286219
審判番号 不服2013-18899  
総通号数 173 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-05-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-09-30 
確定日 2014-04-15 
事件の表示 特願2007-81934「樹脂粒子及びその用途」拒絶査定不服審判事件〔平成20年10月9日出願公開、特開2008-239785、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成19年3月27日の出願であって、平成24年7月30日付けで拒絶理由が通知され、同年9月28日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成25年6月24日付けで拒絶査定がなされ、それに対して、同年9月30日に拒絶査定不服審判請求がなされると同時に手続補正書が提出され、同年11月13日に審判請求書の手続補正書(方式)が提出され、同年12月12日付けで前置報告がなされ、それに基づいて当審で同年12月18日付けで審尋がなされ、平成26年2月21日に回答書が提出されたものである。



第2 平成25年9月30日付けの手続補正の適否

1.補正の内容
平成25年9月30日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、審判請求と同時にされた補正であり、願書に最初に添付した特許請求の範囲を補正するものであって、前記特許請求の範囲の、
「【請求項1】
一般式(I):
CH_(2)=C(CH_(3))-COO-(CH_(2)CH_(2)O)_(n)-CO-C(CH_(3))=CH_(2)(式中、nは5?20の整数である)
で示されるビニル基を分子の両末端に有する架橋性単量体及び(メタ)アクリル酸エステルとを10?50重量%と90?50重量%の割合で少なくとも含む混合物の重合物であり、かつ15%?30%の復元率を有することを特徴とする樹脂粒子。
【請求項2】
前記一般式(I)におけるnが9又は14である請求項1に記載の樹脂粒子。
【請求項3】
前記樹脂粒子が、前記混合物を懸濁安定化剤の存在下で水系懸濁重合させて得られた粒子である請求項1に記載の樹脂粒子。
【請求項4】
前記樹脂粒子が、その表面に付着した無機粉体を備え、前記無機粉体が、前記樹脂粒子の平均粒子径の1/10000?1/100の平均粒子径を有し、前記無機粉体が、前記無機粉体と前記樹脂粒子の合計に対して、0.1?5重量%使用される請求項1に記載の樹脂粒子。
【請求項5】
請求項1?4のいずれか一つに記載の樹脂粒子を含む塗膜軟質化剤。
【請求項6】
請求項1?4のいずれか一つに記載の樹脂粒子を含む塗料用艶消し剤。」
について、その請求項1を、
「【請求項1】
一般式(I):
CH_(2)=C(CH_(3))-COO-(CH_(2)CH_(2)O)_(n)-CO-C(CH_(3))=CH_(2)(式中、nは9?14の整数である)
で示されるビニル基を分子の両末端に有する架橋性単量体及び(メタ)アクリル酸エステルとを10?50重量%と90?50重量%の割合で少なくとも含む混合物の重合物であり、かつ15%?30%の復元率を有することを特徴とする樹脂粒子。」
とする補正(以下、「補正事項1」という。)を含んでおり、この他に補正事項はない。

2.補正の適否
本件補正の補正事項1は、請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である、「一般式(I)(式の記載省略)」に関する「式中、nは5?20の整数である」とのnの数値限定範囲について、これを「式中、nは9?14の整数である」と限定するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び及び解決しようとする課題が同一であるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、単に「特許法」という。)第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、特許法第17条の2第3項に違反するところはない。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「補正発明」という。)が特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について以下に検討する。

(1)刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された特開2004-99700公報(以下、「刊行物」という。)には、以下のとおり記載されている。

ア 「【請求項1】
溶剤、多孔性(メタ)アクリル酸エステル系重合体粒子及び溶剤に可溶な1種類以上の塗料用樹脂とからなり、多孔性(メタ)アクリル酸エステル系重合体粒子が、該粒子に荷重を加えて粒子径を10%変形させたとき、0.05?0.6kgf/mm^(2)の粒子強度を有することを特徴とする艶消し塗料組成物。
【請求項2】
多孔性(メタ)アクリル酸エステル系重合体粒子が、アクリル酸エステル単量体100重量部と、架橋性単量体5?100重量部との重合体からなる請求項1に記載の組成物。」

イ 「(軟質の多孔性粒子の作製方法)
軟質の多孔性粒子は、(メタ)アクリル酸エステル系単量体の単官能単量体と非重合性有機溶媒との混合物(油相)を水中(水相)に分散させ、(メタ)アクリル酸エステル系単量体を重合させ、重合反応終了後、反応生成物から非重合性有機溶剤を除去することにより製造できる。ここで、油相には架橋性単量体を添加することが好ましい。」(段落0018)

ウ 「架橋性単量体としては、ビニル基を複数個有するものであれば特に限定されない。例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、デカエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタデカエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリストールテトラ(メタ)アクリレート、フタル酸ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスルトールヘキサ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ヒドロキシピバリン酸エステルネオペンチルグリコールジアクリレート、ポリエステルアクリレート、ウレタンアクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル系単量体、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン及びこれらの誘導体である芳香族ジビニル系単量体が挙げられる。これらの架橋性単量体は、単独で、又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。
中でもエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル系単量体、カプロラクトン変性ジペンタエリスルトールヘキサ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ヒドロキシピバリン酸エステルネオペンチルグリコールジアクリレート、ポリエステルアクリレート等が皮膚刺激性が低く取り扱い作業の面から好ましい。」(段落0024?0025)

エ 「【実施例】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いて説明するが、これによって本発明が限定されるものではない。
実施例1;
[軟質の多孔性粒子の製造]
(油相)
アクリル酸ブチル 33重量部
1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート 17重量部
n-ヘキサン 50重量部
過酸化ベンゾイル 0.3重量部
(水相)
脱イオン水 400重量部
ポリビニルアルコール(鹸化度85%) 8重量部
ラウリル硫酸ナトリウム 0.04重量部
ホモミキサー(特殊機化工業社製、卓上型TKホモミキサー)により、回転数5000rpmで、上記の油相を水相に分散させた。この後、得られた分散液を、攪拌機及び温度計を備えた重合反応器に入れ、60℃で6時間攪拌を続けて懸濁重合を行った。懸濁液をろ過し、得られた反応生成物を洗浄、乾燥、粉砕して、平均粒子径8.2μmの球状で軟質の多孔性粒子を得た。多孔性粒子は、S10強度が0.20kgf/mm^(2)、比表面積が45m^(2)/gであった。なお、平均粒子径、S10強度及び比表面積の測定方法を下記する。
・・・
(2)S10強度
島津製作所製微小圧縮試験機MCTM200を用いて多孔性粒子1個を一定の負荷速度で1gfの荷重まで圧縮試験を行った場合に、粒子径が10%変形した時の荷重と圧縮前の粒子径とを次式に導入して得られる値である。
S10強度(kgf/mm^(2))=2.8×荷重(kgf)/[π×粒子径(mm)×粒子径(mm)]
S10強度の測定条件
・試料調製;エタノール中に粒子を分散させた後、試料台に塗布乾燥し、測定用試料を調製した。
・試験温度;常温
・試験用圧子;平面50(直径50μmの平面圧子)
・試験種類;圧縮試験(MODE1)
・試験荷重;1.00(gf)
・負荷速度;0.072500(gf/sec)
・変位フルスケール;10(μm)
・・・
実施例2
(油相)
アクリル酸2-エチルヘキシル 24重量部
ジエチレングリコールジメタクリレート 16重量部
酢酸エチル 60重量部
過酸化ベンゾイル 0.3重量部
(水相)
脱イオン水 400重量部
複分解ピロリン酸マグネシウム 6重量部
ラウリル硫酸ナトリウム 0.04重量部
上記油相及び水相を用い、回転数を6000rpmとすること以外は実施例1と同様にして球状で軟質の多孔性粒子を得た。多孔性粒子の平均粒子径は5.3μmであり、S10強度は0.35kgf/mm^(2)であり、比表面積は62m^(2)/gであった。
・・・
比較例1
アクリル酸ブチルをメタクリル酸メチルに代えたこと以外は実施例1と同様にして球状の多孔性粒子を得た。多孔性粒子の平均粒子径は8.5μmであり、S10強度は1.30kgf/mm^(2)であり、比表面積は58m^(2)/gであった。・・・
なお、本比較例は粒子の強度が高く、硬質な多孔性粒子を用いた場合の比較例である。
比較例2
アクリル酸ブチルの量を67重量部に、1,6-ヘキサンジオールメタクリレートの量を33重量部に変え、n-ヘキサンを配合しなかったこと以外は実施例1と同様にして球状の粒子を得た。粒子の平均粒子径は9.4μmであり、S10強度は0.36kgf/mm^(2)であり、比表面積は0.8m^(2)/gであった。・・・
なお、本比較例は粒子は軟質であるものの、粒子表面及び内部に孔を有さない非多孔性粒子を用いた場合の比較例である。
比較例3
特開2002-20691号公報の実施例1の多孔性粒子の合成をもとに以下のように粒子を得た。
窒素導入管、温度計、冷却管、滴下ロート、撹拌装置を備えた2リットルの丸底四つ口フラスコに、メトローズ60SH50(信越化学社製の水溶性セルロース)2.5%含有水溶液800gとニューコール707SF(日本乳化剤社製のアニオン系乳化剤水溶液)の10%含有水溶液2.0gを加えて強く攪拌しながら、メタクリル酸イソブチル75g、エチレングリコールジメタクリレート30g、ハードレンB-13(東洋化成社製の塩素化ポリオレフィン系樹脂溶液)25g、トリゴノックス23-C70(化薬アクゾ社製の過酸化物溶液)3gからなるアクリルモノマー、ポリオレフィン系ポリマー、過酸化物、溶剤からなる混合物を30分かけて滴下した。滴下終了後フラスコ内を強力に攪拌しながら温度を60℃に昇温し、6時間温度を一定に保った。その後冷却してフラスコ内容物を別の容器に移し、デカンテーションをくり返すことにより十分に水洗を行った。得られた粒子を乾燥して粉砕を行い、更に分級することによって平均粒子径10μmの球状アクリル樹脂粒子を得た。得られた粒子のS10強度は1.72kgf/mm^(2)であり、比表面積は2.11m^(2)/gであった。
・・・
なお、本比較例は粒子の強度が高く、硬質な多孔性粒子を用いた場合の比較例である。
比較例4
特開平10-36761号公報の実施例1の多孔性の粒子の合成をもとに以下のように粒子を得た。
分散剤溶液として信越化学社製のメトローズ60SH50の2.5%含有水溶液を用い、樹脂粒子形成用モノマー混合物としてメタクリル酸ブチル/トリメチロールプロパントリメタクリレート/ハードレンB-4000/TX23-C75(重量比50/30/20/2)を用いた。
ここで、ハードレンB-4000は、東洋化成工業社製の塩素化ポリオレフィン樹脂であり、トルエンで希釈された30%溶液である。また、TX23-C75は化薬アクゾ社製の過酸化物系重合開始剤であり、飽和脂肪族炭化水素で希釈された75%希釈品である。したがって、粒子形成成分の一部に有機溶剤を含んでいる例である。
合成手法として、撹拌機、冷却管、窒素導入管を備えたガラス製500mlの四口丸底フラスコに上記分散剤溶液300gを仕込み、常温(25℃程度)でステンレス製の撹拌翼で強く(300rpm程度)撹拌しながら、上記モノマー混合物75gを少しずつ添加した。15分間撹拌した後、徐々に昇温して50℃で一定に保った。50℃で30分間保った後に63℃に昇温し、4時間保った。その後、室温近くまで冷却して反応を終了した。
反応物を大量の水で洗浄し、乾燥器を用い80℃で2時間乾燥した。乾燥物を指で解して粉末を得た。
得られた粉末を分級して、平均粒子径10μmの球状アクリル樹脂粒子を得た。得られた樹脂粒子のS10強度は1.14kgf/mm^(2)であり、比表面積は5.48m^(2)/gであった。
・・・
なお、本比較例は粒子の強度が高く、硬質な多孔性粒子を用いた場合の比較例である。」(段落0034?0057)

(2)刊行物に記載された発明
刊行物には、摘示ア及びイより、「アクリル酸エステル単量体100重量部と、架橋性単量体5?100重量部との重合体からなる多孔性(メタ)アクリル酸エステル系重合体粒子であって、該粒子に荷重を加えて粒子径を10%変形させたとき、0.05?0.6kgf/mm^(2)の粒子強度を有する多孔性(メタ)アクリル酸エステル系重合体粒子」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

(3)対比
引用発明と補正発明とを比較すると、引用発明における「アクリル酸エステル単量体」は、補正発明における「(メタ)アクリル酸エステル」に相当し、引用発明における「架橋性単量体」は、補正発明における「架橋性単量体」に対応しており、それらの単量体成分の重合割合についても両者において重複一致している。
そして、引用発明における「多孔性(メタ)アクリル酸エステル系重合体粒子」は、補正発明における「樹脂粒子」に相当する。
そうすると、両者は、下記の一致点で一致しており、下記の相違点で相違しているといえる。

○一致点
「架橋性単量体及び(メタ)アクリル酸エステルとを10?50重量%と90?50重量%の割合で少なくとも含む混合物の重合物である樹脂粒子。」

○相違点1
架橋性単量体について、補正発明では、「一般式(I):
CH_(2)=C(CH_(3))-COO-(CH_(2)CH_(2)O)_(n)-CO-C(CH_(3))=CH_(2)(式中、nは9?14の整数である)
で示されるビニル基を分子の両末端に有する架橋性単量体」と規定しているのに対して、引用発明では、ただ単に「架橋性単量体」とのみ規定している点。

○相違点2
樹脂粒子について、補正発明では、「15%?30%の復元率を有する」と規定しているのに対して、引用発明では、特に規定していない点。

(4)相違点についての判断
○相違点1及び2について
引用発明における「架橋性単量体」としては、摘示ウより、具体的な化合物が多数例示されており、その中に、補正発明に係る「一般式(I)」においてn=10である「架橋性単量体」に該当するものである「デカエチレングリコールジ(メタ)アクリレート」が例示されているものの、皮膚刺激性が低く取り扱い作業の面から好ましいものとして、「エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート」などが挙げられており、「デカエチレングリコールジ(メタ)アクリレート」は挙げられていない。そして、実施例において具体的に用いられているものとしては、摘示エから、「1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート」(実施例1)及び「ジエチレングリコールジメタクリレート」(実施例2)のみである。
そして、比較例1では、「アクリル酸エステル単量体」としての「アクリル酸ブチル」を「メタクリル酸メチル」に代えた、粒子の強度が高く、硬質な多孔性粒子を用いた場合の比較例が示され、比較例2では、「アクリル酸ブチル」と「1,6-ヘキサンジオールメタクリレート」の量比を変え、「n-ヘキサン」を配合しなかったことにより、粒子は軟質であるものの、粒子表面及び内部に孔を有さない非多孔性粒子を用いた場合の比較例が示され、比較例3及び4では、「メタクリル酸イソブチル」と「エチレングリコールジメタクリレート」または「トリメチロールプロパントリメタクリレート」からなるアクリルモノマー、ポリオレフィン系ポリマーを用いることにより、粒子の強度が高く、硬質な多孔性粒子を用いた場合の比較例が示されているにすぎないものである。
また、刊行物には、樹脂粒子の復元率の値はもとより、復元特性ないしその程度についてすら何らの開示も示唆もない。
そうすると、刊行物の摘示ウの記載は、架橋性単量体として多数列挙されているなかの1つとして「デカエチレングリコールジ(メタ)アクリレート」が挙げられているに留まるものであって、いわゆる一行記載にすぎないものであるといえるから、刊行物には、アクリル酸エステル単量体とデカエチレングリコールジメタクリレートとを用いて、多孔性(メタ)アクリル酸エステル系重合体粒子を製造することについて何ら具体的開示がないといえる。まして、アクリル酸エステル単量体とデカエチレングリコールジメタクリレートとを用いた場合に、得られた粒子が15%?30%の復元率を有することまでが、刊行物に記載されている技術的事項であるとはいえない。
したがって、補正発明と引用発明とは同一であるとはいえない。
また、引用発明において、得られる粒子の復元率を所定範囲内とすることを期待して、架橋性単量体として、特に好ましいともされていない「デカエチレングリコールジメタクリレート」をことさら選択して使用することは、たとえその発明の技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)であっても想到することはできないものである。
そして、デカエチレングリコールジメタクリレートを使用した場合の効果について検討すると、本件の平成24年9月28日付け手続補正書により補正された明細書(以下、「本件明細書」という。)の実施例と比較例とを比較すると、架橋性単量体として、実施例では「テトラデカエチレングリコールジメタクリレート」(一般式Iのn=14)または「ノナエチレングリコールジメタクリレート」(一般式Iのn=9)を用い、比較例では、「エチレングリコールジメタクリレート」(一般式Iのn=1)または「テトラエチレングリコールジメタクリレート」(一般式Iのn=4)を用い、実施例の粒子が復元率に優れるものであることが示されている。ここで、上記のとおり、本件明細書の比較例で用いられている架橋性単量体は、nの繰り返し数からみて、刊行物の実施例で用いられている架橋性単量体と同程度のものであるといえ、特に「一般式(I):
CH_(2)=C(CH_(3))-COO-(CH_(2)CH_(2)O)_(n)-CO-C(CH_(3))=CH_(2)(式中、nは9?14の整数である)
で示されるビニル基を分子の両末端に有する架橋性単量体」を採用した場合に粒子の復元率15?30%が達成されるものと認められ、これは、刊行物の記載から示唆されるものではないし、当業者の技術常識でもない。
したがって、補正発明は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。
また、本件補正後の請求項2?6に係る発明は、補正発明をさらに限定したものであるので、補正発明と同様に、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。
よって、本件補正の補正事項1は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

そして、本件補正は補正事項1の他に補正事項はない。

3.むすび
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第3項ないし第5項の規定に適合する。



第3 本願発明

本件補正は、以上のとおり、特許法第17条の2第3項ないし第5項の規定に適合するから、本願の請求項1?6に係る発明は、平成24年9月28日に提出された手続補正書により補正された明細書及び本件補正により補正された特許請求の範囲の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定されるとおりのものである。
そして、本願については、原査定の拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2014-04-02 
出願番号 特願2007-81934(P2007-81934)
審決分類 P 1 8・ 113- WY (C08F)
P 1 8・ 65- WY (C08F)
P 1 8・ 121- WY (C08F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 鈴木 亨  
特許庁審判長 小野寺 務
特許庁審判官 蔵野 雅昭
須藤 康洋
発明の名称 樹脂粒子及びその用途  
代理人 金子 裕輔  
代理人 稲本 潔  
代理人 野河 信太郎  
代理人 甲斐 伸二  

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