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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 補正却下を取り消さない。原査定の理由により拒絶すべきものである。 H01J 審判 査定不服 5項独立特許用件 補正却下を取り消さない。原査定の理由により拒絶すべきものである。 H01J |
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管理番号 | 1286362 |
審判番号 | 不服2013-1374 |
総通号数 | 173 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2014-05-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2013-01-25 |
確定日 | 2014-04-02 |
事件の表示 | 特願2010-166765「高圧放電ランプ」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 2月 9日出願公開、特開2012- 28203〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成22年7月26日の出願であって、平成24年2月27日付けで拒絶理由が通知され、同年4月9日付けで意見書が提出されるとともに、同日付けで手続補正書が提出され、同年7月23日付けで拒絶理由(最後)が通知され、同年9月12日付けで意見書が提出されるとともに、同日付けで手続補正書が提出されたが、同年10月23日付けで平成24年9月12日付けの手続補正の補正の却下の決定がなされるとともに、同日付けで拒絶査定がなされた。本件は、これに対して、平成25年1月25日に拒絶査定に対する審判請求がなされたものである。 第2 平成24年10月23日付けの、平成24年9月12日付けの手続補正についての補正の却下の決定について 審判請求人(以下、単に「請求人」という。)は、審判請求書の【請求の理由】の「3.本発明の特許性」に、「平成24年9月12日提出の手続補正書の請求項1-4により本願発明の特許性を以下に主張致します。・・・従いまして、以下に、本願発明の進歩性を前回意見書(平成24年9月12日提出)の内容に基づき再度主張致します。」と記載しており、平成24年10月23日付けの、平成24年9月12日付けの手続補正(以下、単に「本願補正」という。)についての補正の却下の決定(以下、単に「補正却下」という。)についての不服を申し立てていると認められるので、補正却下の適否について、以下に検討する。 1.補正却下の内容 補正却下の理由の内容は、以下のとおりである。 理 由 請求項1-3についての補正は、特許請求の範囲の限定的減縮を目的にするものである。しかしながら、当該補正後の請求項1-3に係る発明は、次の理由により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 (独立して特許を受けることができない理由) ・特許法第29条第2項 ・請求項1-3 ・引用文献等1-5 備考: 引用文献1には、液晶プロジェクタやオーバヘッドプロジェクタ等の投写型画像表示装置のバックライトとして用いる高圧水銀放電ランプにおいて、高圧放電ランプは、電極2a,2bが封止部4a、4bに埋没している埋没長さL、すなわち、金属箔3a,3bの先端から電極2a,2bの軸棒が発光部1aの空間に至るまでの距離を2.3mm及び2.8mmとしたことが記載されている(【0001】-【0010】【0020】-【0039】【図1】-【図3】)。 本願の請求項1-3に係る発明と引用文献1に記載された発明を比較すると、本願の請求項1-3係る発明は、(1)「発光部の前記第1の電極側を覆わずに前記第2の電極側の少なくとも一部を覆う副鏡」を有し、(2)「電極と該金属箔の接合部のランプ点灯中の温度T(℃)について、T≦970である」のに対して、引用文献1に記載される発明はそのような記載がない点で相違する。 上記、相違点について、検討する。 (1)について 例えば、引用文献2に記載されるように、光源装置に副反射鏡を設けることは周知技術である。 (2)について 引用文献3には、プロジェクタに用いられる高圧放電ランプにおいて、発光部の温度に留意することに加えて、封止部の温度にも留意する必要があり、封止工程においてのストレスだけでなく、特に、封止部のクラックは、電極の表面のうち、金属箔と接続されている側とは反対側の表面に多く発生しやすく、とりわけ、電極と石英ガラスとが接触し始める部分、および電極の端面付近には大きなクラックが発生しやすいので、電極ピンと金属箔との接続部が異常に高温となるのを抑制したいことが記載されている(【0001】-【0018】【図2】)。 そして、ストレスおよびクラックは、高圧水銀ランプの点灯時、消灯時にも起き、石英ガラスに発生したクラックは発光管の破損を引き起こす原因となることも記載されている(【0007】)。 また、例えば、引用文献4に記載されるように、封止部が過熱状態となると、モリブデン箔が封止部を形成する石英ガラスから剥離した状態となる、いわゆる「箔浮き」が生じ、封止部を形成する石英ガラスに、モリブデン箔との界面の箇所からクラックが生じてしまうので、箔浮きが生じないよう封止部の温度について考慮することは技術常識である。 引用文献1,3,4の何れもプロジェクタ装置の高圧放電ランプという共通技術の技術分野に属し、ランプにクラックを生じさせないという共通の課題を有しているから、引用文献1に記載された発明において、引用文献3,4の記載を参酌して、ランプにクラックを生じさせないような動作時(ランプ点灯中)の温度にすることは当業者であれば容易になし得ることである。 例えば、引用文献2に記載されるように、プロジェクタとして使用する際、実用温度が500℃?800℃であること、また、引用文献5に記載されるように、プロジェクタ装置において、ランプ温度はランプ寿命に大きく影響を与えており、ランプ点灯中のバルブ温度は、バルブ上部において900?950℃が望ましく、バルブ下部においては上部との温度差がないことが望ましいことは公知である。 引用文献3,4には、電極と該金属箔の接合部のランプ点灯中の具体的な温度は記載されていないが、上記公知の引用文献2,5を考慮すると、引用文献1,3,4で得られたプロジェクタ装置においても、クラックを生じさせない温度にランプを冷却しながら制御し動作させた結果として、電極と該金属箔の接合部のランプ点灯中の温度T(℃)がT≦970を満たす温度となっていると認められる。 よって、本願の請求項1-3に係る発明は、引用文献1-5に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得たことである。 したがって、当該補正後の請求項1-3に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。 よって、この補正は同法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法第53条第1項の規定により上記結論のとおり決定する。 なお、本願の請求項4-6に係る発明と引用文献1に記載された発明の相違点は前記(2)のみであり、相違点(2)は、前記理由を参照されたい。 よって、本願の請求項4-6に係る発明は、引用文献1-5に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得たことである。 引 用 文 献 等 一 覧 1.国際公開第2008/023492号 2.特開2005-122955号公報 3.特開2010-129426号公報 4.特開2007-12508号公報 5.特開2008-251391号公報 2.本願補正後の特許請求の範囲の請求項に係る発明の進歩性について 請求人は、本願補正後の特許請求の範囲の請求項1?6に係る発明(以下、それぞれ、「本願補正発明1?6」という。)は進歩性を有し、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるから、却下されるべきではない旨の主張を行っているから、以下、本願補正発明1の進歩性について検討する。 3.本願補正発明1 本願補正発明1は、本願補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 「高圧放電ランプであって、 発光部及び該発光部を挟む第1及び第2の封止部を有する発光管、 前記第1及び第2の封止部にそれぞれ埋設された第1及び第2の金属箔、及び 一端が前記発光部内に突出して配置されるとともに他端が前記第1及び第2の封止部にそれぞれ埋設されて前記第1及び第2の金属箔に接合された第1及び第2の電極、 前記発光部の前記第1の電極側を覆わずに前記第2の電極側の少なくとも一部を覆う副鏡 を備え、前記発光管が石英ガラスからなり、該石英ガラスと前記第2の金属箔がランプ点灯によって剥離しないように、前記第2の電極の突出部分と埋設部分の境界部と、前記第2の金属箔の発光部側端部との間によって定義される該第2の電極の埋め込み長L(mm)、及び該第2の電極と該第2の金属箔の接合部のランプ点灯中の温度T(℃)について、 1.8≦L≦2.8、かつ、T≦970 である高圧放電ランプ。」 4.引用刊行物 補正却下の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である、国際公開第2008/023492号(以下「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。(下線は、当審が付した。) (a)「技術分野 [0001] 本発明は、投写型画像表示装置のバックライト用光源に適した高圧放電ランプの製造方法、高圧放電ランプ、ランプユニット及び投写型画像表示装置に関する。 背景技術 [0002] 近年、液晶プロジェクタやオーバヘッドプロジェクタ等の投写型画像表示装置のバックライトとして、高圧水銀放電ランプと反射鏡とを組み合わせた投射型光源(ランプユニット)が知られている。高圧水銀放電ランプは、点灯中の水銀の蒸気圧を20MPa?35MPaの範囲内に上昇させることにより可視域の連続発光を増大させたものが用いられる。 [0003] このような点灯中の圧力が高いタイプの放電ランプは、その高い圧力のために、発光管ガラス部内に存在するわずかなクラックまたは構造的な応力集中により、点灯中に破損する不具合が発生する可能性がある。そのような破損不具合を防止するために、封止部の内部に封着された金属箔の構造を改良して、金属箔の周囲に発生し得るクラックを抑制する提案がなされている。例えば特許文献1には、応力集中が生じないように、金属箔の端部に外側に膨らんだ丸みを持たせた曲線形状にすることが開示されている。 特許文献1: 特開平11-111226号公報 発明の開示 発明が解決しようとする課題 [0004] 液晶プロジェクタ等に用いられるバックライトには、高輝度であることが第1条件として要求される。そのため、電極間距離を1.5mm以下に短縮すること、あるいは、封入水銀量を増量し点灯時の水銀蒸気圧を150気圧以上にすること、などの工夫がなされてきた。 [0005] また水銀を十分に蒸発させ高圧に保つために、発光管球体部内の最冷部温度を上昇させる必要がある。そのためには、発光管球体部内の温度分布を極力均一にする構造が要求される。そのような構造にする一環として、発光管の両端に封着された電極がガラスに埋没する長さを極力短縮することにより、電極の軸棒端部の温度を上昇させることが臨まれる。 [0006] しかしながら、従来の高圧水銀放電ランプでは、発光管の両端部に封着されている電極部材の構造に起因して、点灯中の破損不具合が発生する可能性があった。そのため、上述の特許文献1のような金属箔の構造を改良する提案がなされているが、封止部に封着された電極の埋没長を短縮しランプの輝度を向上させていく設計方向の中で、単に金属箔の端部を曲線形状にする、あるいは、他の対策として提案されているように端部のエッジを化学エッチング研磨するだけでは、十分な破損防止効果が得られないことが判明した。 [0007] 電極の埋没長を短縮した場合、電極軸棒をガラス溶融封止する部位が狭くなる。そのため、溶融封止する際、その狭い部位に向かって鋭角的に溶融ガラスを押し込むような形で収縮溶融させる必要がある。鋭角的にガラスを溶融させるためには、熱拡散の少ないレーザー溶融や、極力鋭角的なバーナー炎で封止する必要がある。 [0008] ところが、これに伴い新たな問題が発生することが判った。すなわち、極力鋭角的なガラス溶融手段を講じても、ガラスが溶融収縮する段階で、電極に接続された金属箔の端部に溶融ガラスが接触してしまい、金属箔と接触した部位のガラスが冷却される。それにより、ガラスが溶融収縮しきれずに空隙が発生し、その空隙が金属箔端部に沿った形で残存してしまう。この空隙は、金属箔端部から電極の軸棒に沿うような形で延長されて発光管の球体部まで届く場合がある。その結果、ランプ点灯中の動作圧が空隙に印加されて応力集中が発生し、点灯中の破損不具合の原因となる。 [0009] 本発明は、高輝度の特性を有するとともに、封止加工に際して金属箔から電極軸上に亘って発生する空隙に起因して、点灯寿命中における破損が発生することを低減することが可能な高圧放電ランプの製造方法を提供することを目的とする。 [0010] また、そのような原因で発生する破損を抑制することが可能な構造を有する高圧放電ランプを提供することを目的とする。」 (b)「[0020] 上記構成の高圧放電ランプにおいて、前記封止部は、収縮封止加工により形成されたものとすることができる。 [0021] また、本発明のランプユニットは、上記構成の高圧放電ランプと、凹面の反射面を有する反射鏡とを備え、前記反射鏡に前記高圧放電ランプが装着されて、前記高圧放電ランプの射出光が前記反射面により反射されるように構成される。 [0022] また、本発明の投写型画像表示装置は、上記構成の高圧放電ランプと、前記高圧放電ランプからの照明光を変調して光学像を形成する光学ユニットと、前記光学像を拡大透写する投写装置とを備える。 [0023] 以下、本発明の各実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。 [0024] (実施の形態1) 本発明の実施の形態1における高圧放電ランプの製造方法について、図1?図3、図4A?4Cを参照して説明する。 [0025] 図1は、本実施の形態の製造方法により作製される高圧放電ランプの構造を示す断面図である。この高圧放電ランプは、略球体部1と、略球体部1の両端に連設された封止部4a,4bとを有し、略球体部1および封止部4a,4bは石英ガラスからなる。例えば、点灯電力が130Wの高圧水銀放電ランプの場合であれば、封止部4a、4bは、加熱溶融封止加工する前は肉厚2.0mmの円筒形状であり、円筒部の内径φ(mm)が2.0mmとなっている。 [0026] 略球体部1の内部には発光部1aである内部空間が形成され、封止部4a,4bには、電極2a,2bが発光部1a内に位置するように、電極2a,2bと接続されたモリブデンからなる金属箔3a,3bが気密封着されている。金属箔3a,3bには、外部導線6a,6bの一端がそれぞれ接続され、外部導線6a,6bの他端は封止部4a、4bの外部に導出されている。 [0027] 発光部1aには、タングステンからなる一対の電極2a,2bが、電極間距離を1.0mmとして設けられている。電極2a,2bは軸棒とその先端に設けられたコイルとからなり、電極間距離とは、コイルの先端間の距離である。電極2a,2bの軸棒は直径0.4mmであり、モリブデンからなる一対の金属箔3a,3bの先端に接続されている。電極2a,2bが封止部4a、4bに埋没している埋没長さL、すなわち、金属箔3a,3bの先端から電極2a,2bの軸棒が発光部1aの空間に至るまでの距離は2.3mmである。埋没長さLと、封止部4a,4bが加熱溶融加工される前の円筒状ガラス管の内径φとの関係は、L/φ≦1.35を満たす構造となっている。例えば、L/φ=1.15に設定される。 [0028] 金属箔3a,3bは全体としては短冊形状を有し、その先端部の角は、電極2a,2bが接続される前にカッター等にて中心軸の垂線に対し約70度の角度によって切断され、面取り部7a、7bが形成されている。切断により面取り部7a、7bが形成された金属箔3a,3bは、約2?5%の水酸化ナトリウム溶液中で電解エッチングされ、切断時に発生した端部のバリが除去されており、楔形形状になっている。楔形形状になることにより封止加工時に金属箔3a,3bの端部のバリから発生するクラックを極力抑制することが可能となり、クラックが原因による破損を抑えることが可能となる。以上の加工処理後の金属箔3a,3bに、電極2a,2bがスポット溶接により接続されている。 [0029] なお、略球体部1の内部には水銀5が約150?250mg/cm^(3)の密度で封入され、点灯中の動作圧は約150?250気圧となる。始動用希ガスとしては、アルゴンガスが200hPa、また臭素が約1×10^(-7)mol/cm^(3)の密度でそれぞれ封入されている。 [0030] 次に、本実施の形態における高圧水銀放電ランプ(以下、本発明品という)の封止加工の状態について、図を用い、従来の高圧水銀放電ランプ(以下、従来品という)の封止加工の状態と比較して説明する。 [0031] 先ず従来品の封止加工について図2に示す。図2には、電極2aと金属箔3aの接続部近傍における、加熱溶融加工が終了する前の略円筒形状の石英ガラス管8が示される。略球体部1の両端に連結されている石英ガラス管8は、肉厚が2.0mm、内径φが2.0mmである。電極2aおよび電極2aに接続された金属箔3aを封着するために、酸素,水素またはプロパンガスの混合ガスからなるガスバーナ、またはレーザーを石英ガラス管8に加熱照射することにより、石英ガラスを溶融せしめ収縮封止加工する。 [0032] 通常、ガスバーナ9またはレーザー10は、加工線Aから加工線Bの間から照射加工を開始する。加工線の目安は、金属箔3aの端部から、石英ガラス管8(封止部4a、4b)と略球体部1の境界線の部位である。加熱収縮封止する時、電極2aの軸棒が石英ガラス管8に封着される部位の長さLが、内径φに対し十分な長さを有する場合は、石英ガラス管8が収縮し、電極2aの軸棒上の(y)の部位に石英ガラス管8が接触して電極2aを封止しつつ金属箔3aを封止する。 [0033] ところが内径φに対し長さLに裕度がない場合は、石英ガラス管8が収縮する際に先ず金属箔3aの先端(x)に接触する。そのため、金属箔3aと接触した部位のガラスが冷却されることにより、石英ガラス管8が溶融収縮しきれずに空隙(z)が発生する。そして、発生した空隙(z)が金属箔3aの端部に沿った形で残存してしまう。この空隙(z)は、金属箔3aの端部から電極の軸棒に沿うような形で延長されて、高圧放電ランプの略球体部1まで到達する。その結果、ランプ点灯中の動作圧が空隙(z)部に印加されて応力集中が発生し、点灯中の破損不具合の原因となる。 [0034] 溶融ガラスと金属箔3aの先端(x)が接触することを極力迎えるために、加熱ガスバーナ9の炎を極力鋭角的に調整し石英ガラス管8を局所過熱したり、あるいは熱拡散が少なく局所加熱が可能なレーザー10を照射する。それにより、溶融収縮して電極2aに近づく石英ガラス管8の内壁が石英ガラス管8の中心軸の垂線に対してなす角度をαとするとき、石英ガラス管8の内壁がα=20度?30度の範囲の角度でもって収縮して、電極2aの軸棒上の(y)の部位から接触するようにガラス加工を調整することは可能となる。ただし、Lが短くなると加工は極めて困難となり、わずかな加工バラツキ、石英ガラス管8の材料バラツキにより空隙(z)が発生してしまう。 [0035] 内径φ=2mmに対し、電極2aの軸棒が石英ガラス管8に封着される部位の長さLを変えて封止実験を繰り返したところ、以下の結果が得られた。すなわち、Lが2.8mm以上の長さの場合、空隙(z)の発生率はn=1000本に対し発生0?1本と、発生率が0?0.1%程度であった。これに対して、Lが2.7mmになると、n=1000本に対し空隙(z)の発生が1?5本となり、発生率が0.1?0.5%と増加し始めた。Lが2.5mmの場合は、n=1000本に対し空隙(z)の発生が3?8本、Lが2.3mmの場合、n=1000本に対し空隙(z)の発生が10以上で、発生率が1%以上となった。 [0036] 次に、本発明品における封止加工の状態を図3に示す。本発明品の構成においては、金属箔3aの先端部の角部は、電極が接続される前にカッターにより、中心軸の垂線に対する角度βが20度から80度となるように切断されて、面取り部7aが形成されている。角部が切断された金属箔3aは、約2?5%の水酸化ナトリウム溶液中で電解エッチングされて、切断時に発生した端部のバリが除去されている。この加工処理後に、金属箔3aには電極2aがスポット溶接により接続されている。 [0037] 本発明品の封止加工では、金属箔3aの先端部が切り欠かれているため、石英ガラス管8が加熱溶融収縮する際に、溶融ガラスが金属箔3aの先端に接触することを抑制することが可能となる。それにより、溶融ガラスが先ず電極2aの軸棒上の(y)の部位から接触するようにガラス加工を調整することが極めて容易となる。その結果、十分に電極2aの軸棒が封着された後に、金属箔3aが封着されることとなり、空隙(z)が発生し難くなる。 [0038] 本発明品の封止加工においては、長さLが2.7mmの場合に、n=1000本に対し空隙(z)の発生が0本、Lが2.3mmの場合でも、n=1000本に対し空隙(z)の発生が0本と、顕著な効果が見られた。さらにLが2.0mmの場合でも、n=1000本に対し空隙(z)の発生が0本、Lが1.5mmの場合に、n=1000本に対し空隙(z)の発生が0?3本と、ほとんど空隙(z)の発生を抑えることができた。 [0039] したがって、封止部の石英ガラス管8の内径φ=2mmに対しLが2.7mm以下、つまり関係式L/φ≦1.35を満たしている場合、金属箔3a,3bの先端部が中心軸の垂線に対し20度から80度の角度で切断されていることが、空隙(z)の発生を抑制するのに大きな効果があることが判った。」 (c)「 」 すると、上記引用文献1の記載事項から、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。 「略球体部1と、略球体部1の両端に連設された封止部4a,4bとを有し、略球体部1および封止部4a,4bは石英ガラスからなる高圧放電ランプであって、 略球体部1の内部には発光部1aである内部空間が形成され、封止部4a,4bには、電極2a,2bが発光部1a内に位置するように、電極2a,2bと接続されたモリブデンからなる金属箔3a,3bが気密封着されており、 電極2a,2bの軸棒は直径0.4mmであり、モリブデンからなる一対の金属箔3a,3bの先端に接続されており、電極2a,2bが封止部4a、4bに埋没している埋没長さL、すなわち、金属箔3a,3bの先端から電極2a,2bの軸棒が発光部1aの空間に至るまでの距離は2.3mmである、高圧放電ランプ。」 3.対比 (1)本願補正発明1と引用発明との対比 (a)引用発明の「略球体部1」、「封止部4a,4b」、「電極2a,2b」及び「金属箔3a,3b」は、それぞれ、本願補正発明1の「発光部」、「第1及び第2の封止部」、「第1及び第2の電極」及び「第1及び第2の金属箔」に相当するから、引用発明の「略球体部1と、略球体部1の両端に連設された封止部4a,4bとを有し、略球体部1および封止部4a,4bは石英ガラスからなる高圧放電ランプであって、略球体部1の内部には発光部1aである内部空間が形成され、封止部4a,4bには、電極2a,2bが発光部1a内に位置するように、電極2a,2bと接続されたモリブデンからなる金属箔3a,3bが気密封着されており、電極2a,2bの軸棒は直径0.4mmであり、モリブデンからなる一対の金属箔3a,3bの先端に接続されて」いる構成は、本願補正発明1の「高圧放電ランプであって、発光部及び該発光部を挟む第1及び第2の封止部を有する発光管、前記第1及び第2の封止部にそれぞれ埋設された第1及び第2の金属箔、及び一端が前記発光部内に突出して配置されるとともに他端が前記第1及び第2の封止部にそれぞれ埋設されて前記第1及び第2の金属箔に接合された第1及び第2の電極」「を備え」る構成に相当する。 (b)本願補正発明1の「該石英ガラスと前記第2の金属箔がランプ点灯によって剥離しないように、」は、「1.8≦L≦2.8、かつ、T≦970である」構成とした目的を記載するものであり、本願補正発明1の構成を特定するものではないことを考慮すると、引用発明の「電極2a,2bが封止部4a、4bに埋没している埋没長さL、すなわち、金属箔3a,3bの先端から電極2a,2bの軸棒が発光部1aの空間に至るまでの距離は2.3mmである」構成は、本願補正発明1の「該石英ガラスと前記第2の金属箔がランプ点灯によって剥離しないように、前記第2の電極の突出部分と埋設部分の境界部と、前記第2の金属箔の発光部側端部との間によって定義される該第2の電極の埋め込み長L(mm)」「について、1.8≦L≦2.8」「である」構成に相当する。 (2)一致点 してみると、両者は、 「高圧放電ランプであって、 発光部及び該発光部を挟む第1及び第2の封止部を有する発光管、 前記第1及び第2の封止部にそれぞれ埋設された第1及び第2の金属箔、及び 一端が前記発光部内に突出して配置されるとともに他端が前記第1及び第2の封止部にそれぞれ埋設されて前記第1及び第2の金属箔に接合された第1及び第2の電極 を備え、前記発光管が石英ガラスからなり、該石英ガラスと前記第2の金属箔がランプ点灯によって剥離しないように、前記第2の電極の突出部分と埋設部分の境界部と、前記第2の金属箔の発光部側端部との間によって定義される該第2の電極の埋め込み長L(mm)について、 1.8≦L≦2.8 である高圧放電ランプ。」 で一致し、次の点で相違する。 (3)相違点 (イ)本願補正発明1は、「前記発光部の前記第1の電極側を覆わずに前記第2の電極側の少なくとも一部を覆う副鏡を備え」るのに対して、引用発明では、副鏡を備えていない点。 (ロ)本願補正発明1では、「該石英ガラスと前記第2の金属箔がランプ点灯によって剥離しないように、」「該第2の電極と該第2の金属箔の接合部のランプ点灯中の温度T(℃)について、」「T≦970である」構成を有する(なお、「該石英ガラスと前記第2の金属箔がランプ点灯によって剥離しないように、」は、上述したとおり、本願補正発明1の構成を特定するものではない。)のに対して、引用発明では、「電極2a,2b」と「金属箔3a,3b」の接続部の点灯中の温度が明らかではない点。 5.判断 (1)上記相違点(イ)について 高圧放電ランプに、副鏡を設けることは、特開2005-122955号公報(「副反射鏡13」参照)に示されるように周知技術であるから、引用発明の「高圧放電ランプ」に副鏡を設けることは、当業者が容易になし得ることである。 (2)上記相違点(ロ)について 引用文献1には、明細書の[0008](上記記載事項(a)参照)に「ランプ点灯中に動作圧が空隙に印加されて応力集中が発生し」との記載があり、ランプ点灯中の水銀蒸気の圧力が、ランプの封止部を破壊するという課題(本願の明細書の段落【0014】に「点灯中に置ける水銀蒸気圧の上昇による応力といった過酷な条件」「が原因となっている。」と記載された課題に相当する。)は開示されているが、点灯時や消灯時に、電極及び金属箔と封止ガラスとの熱膨張率の差により剥離やクラックが発生するという課題(本願の明細書の段落【0014】に「溶接部付近の温度上昇による熱衝撃」「が原因となっている。」と記載された課題に相当する。)は開示されていない。 しかし、特開2010-129426号公報(段落【0004】?【0007】参照。また、以下「引用文献2」という。)、特開2007-12508号公報(段落【0004】参照)の他、特開2002-175778号公報(第3頁右欄第15行?第4頁左欄第8行、第6頁左欄第10行?同頁右欄第19行参照)、特開平9-185953号公報(段落【0005】?【0007】参照。また、以下「引用文献3」という。)に示されるように、高圧放電ランプが、点灯時や消灯時に、電極及び金属箔と封止ガラスとの熱膨張率の差により剥離やクラックが発生するという周知の課題を有することが、当業者には技術常識である。 そして、引用文献2には、上記周知の課題を考慮して、「発光管を設計する際には、発光部の温度に留意することに加えて、封止部の温度にも留意する必要がある。」(段落【0005】)ことが記載され、また、引用文献3に「貝殻状クラックの発生率は、アノード電極軸13cとモリブデン箔14との溶接部の温度が高温になるに従って上昇し、逆に低温になるに従って貝殻状クラック発生率も低下する」(段落【0045】)と記載されるように、電極及び金属箔と封止ガラスとの熱膨張率の差に起因して生じる課題は、温度が高くなるほど、大きな問題となることは、当業者には自明のことである。 すると、引用発明において、上記周知の課題を解決するべく、点灯中の封止部の温度をある温度以下とすることは、当業者であれば、設計時に当然に考慮すべき事項である。 また、高圧放電ランプにおいて、封止部において発光部から若干離れた電極と金属箔の接続部付近の温度は、発光部の温度より低くなることが通常であり、発光部の温度は、800℃?1000℃程度であること(特開2008-251391号公報の段落【0014】の「ランプ水平点灯において強制空冷を強化した際にバルブ上部温度が900?950℃、バルブ下部温度が800℃においては・・・」との記載を参照)を考慮すると、従来の高圧放電ランプにおいて、点灯中の封止部において発光部から若干離れた電極と金属箔の接続部付近の温度が970℃以下であることは、普通のことであったといえる。 さらに、本願の明細書の段落【0026】に「表2から分かるように、溶接部温度が970℃以下では剥離が発生しなかった。従って、溶接部温度T(℃)について、T≦970となるようにランプが設計される必要がある。例えば、埋め込み長Lの選択、副鏡8の設計、プロジェクタに使用される場合の空冷方法等が、T≦970を満たすように行なわれる必要がある。特に、埋め込み長Lを長くするほど溶接部温度は低下する。」と記載されるように、溶接部温度が高圧放電ランプの構造に無関係な空冷方法によっても変化することは当業者には明らかであって、「T≦970」という発明特定事項が本願補正発明1に係る「高圧放電ランプ」の構成を明確に特定するものではないことも勘案すると、引用発明において、「封止部4a,4b」において「電極2a,2b」と「金属箔3a,3b」の接続部付近の点灯中の温度を970℃以下となるように構成して、上記相違点(ロ)に係る本願補正発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得ることである。 (3)効果について 本願補正発明1が奏し得る効果は、引用発明、周知技術及び技術常識から当業者が予測し得る範囲のものであって格別なものではない。 (4)結論 したがって、本願補正発明1は、引用発明、周知技術及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないから、本願補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 6.小括 以上のとおりであるから、本願補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法第53条第1項の規定により却下するとした、補正却下は妥当なものであって、取り消されるべきものではない。 第3 本願発明について 1.本願発明 補正却下は、上述のとおり、取り消されるべきものではなく、本願補正は平成24年10月23日付けで補正の却下の決定がなされているので、本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成24年4月9日付けの手続補正により補正された、本願の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 「高圧放電ランプであって、 発光部及び該発光部を挟む第1及び第2の封止部を有する発光管、 前記第1及び第2の封止部にそれぞれ埋設された第1及び第2の金属箔、及び 一端が前記発光部内に突出して配置されるとともに他端が前記第1及び第2の封止部にそれぞれ埋設されて前記第1及び第2の金属箔に接合された第1及び第2の電極、 前記発光部の前記第1の電極側を覆わずに前記第2の電極側の少なくとも一部を覆う副鏡 を備え、 前記第2の電極の突出部分と埋設部分の境界部と、前記第2の金属箔の発光部側端部との間によって定義される該第2の電極の埋め込み長L(mm)、及び該第2の電極と該第2の金属箔の接合部の温度T(℃)について、 1.8≦L≦2.8、かつ、T≦970 である高圧放電ランプ。」 2.引用刊行物 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物、その記載内容および引用発明は、前記「第2」「4.」に記載したとおりである。 3.対比・判断 本願発明は、前記「第2」で検討した本願補正発明1から、「前記発光管が石英ガラスからなり、該石英ガラスと前記第2の金属箔がランプ点灯によって剥離しないように、」及び「ランプ点灯中の」という事項を削除したものである。 そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、更に限定したものに相当する本願補正発明1は、前記「第2」「4.」及び「5.」に記載したとおり、引用発明、周知技術及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も引用発明、周知技術及び技術常識に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 してみると、本願発明は、引用発明、周知技術及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 第4 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2014-01-30 |
結審通知日 | 2014-02-05 |
審決日 | 2014-02-18 |
出願番号 | 特願2010-166765(P2010-166765) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
ZB
(H01J)
P 1 8・ 575- ZB (H01J) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 高藤 華代 |
特許庁審判長 |
伊藤 昌哉 |
特許庁審判官 |
北川 清伸 神 悦彦 |
発明の名称 | 高圧放電ランプ |
代理人 | 三山 勝巳 |
代理人 | 岡部 讓 |
代理人 | ▲濱▼口 岳久 |
代理人 | 吉澤 弘司 |