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審決分類 |
審判 判定 同一 属さない(申立て不成立) H04M |
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管理番号 | 1286489 |
判定請求番号 | 判定2013-600035 |
総通号数 | 173 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許判定公報 |
発行日 | 2014-05-30 |
種別 | 判定 |
判定請求日 | 2013-11-01 |
確定日 | 2014-04-10 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第4357175号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 |
結論 | イ号物件説明書に示す「iPad」は、特許第4357175号発明の技術的範囲に属しない。 |
理由 |
第1 請求の趣旨 本件判定請求の趣旨は,イ号物件説明書に示す「iPad」(以下,「イ号物件」という。)は,特許第4357175号発明の技術的範囲に属する,との判定を求めるものである。 第2 本件特許発明 1.本件特許発明の構成 本件特許発明は,特許明細書の記載からみて,特許請求の範囲の請求項1,請求項10,請求項19に記載されたとおりの以下のものである。 「【請求項1】 A ハンドヘルド装置を使用する方法であり,そのハンドヘルド装置は,操作者へ出力を提示する可視的ラスター・ディスプレイを含む少なくとも1つの出力デバイスと,操作者から入力を受けるスイッチ配列を含む少なくとも1つの入力デバイスと,無線トランスミッタと,これら少なくとも1つの出力デバイス,前記少なくとも1つの入力デバイス及び前記無線トランスミッタの動作を制御する処理回路とを含み,前記方法は, B 前記ハンドヘルド装置を操作者が操作する際に,操作者を支援するように,その操作に関する情報を前記ディスプレイを通じて表示する段階と, C 前記少なくとも1つの出力デバイスを通じて操作者へ,(a)前記ハンドヘルド装置から空間的に離間した遠隔サーバー又は(b)取り外し可能なメモリ・デバイスから与えられる第1のコンテンツの表現を提示する段階と, D 操作者により調節された時間的関係に従って第1のコンテンツの提示に時間的に重なり,且つ第1のコンテンツの形式とは同一又は異なる形式である第2のコンテンツと,少なくとも1つの受信者の識別子とを前記少なくとも1つの入力デバイスを通じて与える段階と, E 前記無線トランスミッタを通じて,前記ハンドヘルド装置から空間的に離間した遠隔サーバーに対して,第1のコンテンツの表現を送らずに,第2のコンテンツの表現と少なくとも1人の受信者の識別子とを送る段階と, F 第1のコンテンツの識別子と前記操作者により調節された時間的関係の指標とを前記遠隔サーバーに記憶させると共に,この遠隔サーバーが,前記記憶された時間的関係を保って配置された第1のコンテンツ及び第2のコンテンツを表すメッセージを前記少なくとも1人の受信者が受信するように,当該メッセージを送信する段階とを含む方法。」(以下,「本件特許発明1」という。) 「【請求項10】 G メッセージを生成するシステムであって, H (a) ハンドヘルド装置を備え,このハンドヘルド装置は,操作者へ出力を提示する可視的ラスター・ディスプレイを含む少なくとも1つの出力デバイスと,操作者から入力を受けるスイッチ配列を含む少なくとも1つの入力デバイスと,第1の無線トランスミッタと,処理回路とを含み, I その処理回路は前記ハンドヘルド装置に対し, J (1)前記ハンドヘルド装置を操作者が操作する際に,操作者を支援するように,その操作に関する情報を前記ディスプレイを通じて提示させ, K (2)前記少なくとも1つの出力デバイスを通じて操作者へ,(a)前記ハンドヘルド装置から空間的に離間したサーバー・サブシステム又は(b)取り外し可能なメモリ・デバイスから与えられる第1のコンテンツの表現を提示させ, L (3)操作者により調節された時間的関係に従って第1のコンテンツの提示に時間的に重なり,且つ第1のコンテンツの形式とは同一又は異なる形式である第2のコンテンツと,少なくとも一人の受信者の識別子とを表す少なくとも1つの信号とを前記前記少なくとも1つの入力デバイスを通じて操作者から受け取らせ, M (4)第1のコンテンツの表現を送らずに,第1の無線トランスミッタを通じて,第2のコンテンツの表現と少なくとも一人の受信者の識別子とを送らせ, N (b)前記サーバー・サブシステムは,無線レシーバーと,少なくとも1つの記憶デバイスと,処理回路とを有し,その処理回路は前記サーバー・サブシステムに対し, (1)第2のコンテンツの表現及び少なくとも1つの受信者を前記無線レシーバーを通じて受け取り,且つ前記少なくとも1つの記憶デバイスに記憶させると共に,第1のコンテンツの識別子と前記操作者により調節された時間的関係の指標とを前記少なくとも1つの記憶デバイスに記憶させ, O (2)前記記憶された時間的関係を保って配置された第1のコンテンツ及び第2のコンテンツを表すメッセージを前記少なくとも一人の受信者が受信するように送信させるシステム。」(以下,「本件特許発明2」という。) 「【請求項19】 P ハンドヘルド装置を Q 使用する方法を R 少なくとも1つの装置により実行するための指令プログラムを実行する装置により読みとり可能な該指例プログラムを担持する記録媒体であり, A’そのハンドヘルド装置は,操作者へ出力を提示する可視的ラスター・ディスプレイを含む少なくとも1つの出力デバイスと,操作者から入力を受けるスイッチ配列を含む少なくとも1つの入力デバイスと,無線トランスミッタと, 前記少なくとも1つの出力デバイス及び前記少なくとも1つの入力デバイス及び前記無線トランスミッ タの操作を制御する処理回路とを含み,前記方法は, B’前記ハンドヘルド装置を操作者が操作する際に,操作者を支援するように,その操作に関する情報を前記ディスプレイを通じて提示する段階と, C’前記少なくとも1つの出力デバイスを通じて,(a)前記ハンドヘルド装置から空間的に離間した遠隔サーバー又は(b)取り外し可能なメモリ・デバイスから与えられる第1のコンテンツの表現を提示を与える段階と, D’操作者により調節された時間的関係に従って第1のコンテンツの提示に時間的に重なる第2のコンテンツと,少なくとも1つの受信者の識別子とを前記少なくとも1つの入力デバイスを通じて与える段階と, E’前記無線トランスミッタを通じて,前記遠隔サーバーに対して,第1のコンテンツの表現を送らずに,第2のコンテンツの表現と少なくとも1つの受信者の識別子とを送り, F’且つ第1のコンテンツの識別子と前記操作者により調節された時間的関係の識別子とを前記遠隔サーバーに記憶させると共に, 前記記憶された時間関係を保って配置された第1のコンテンツ及び第2のコンテンツを表すメッセージを前記少なくとも一人の受信者が受信するように,前記遠隔サーバーがこのメッセージを送信する段階とを含む記録媒体。」(以下,「本件特許発明3」という。)([当審注]:構成要件Rの「該指例プログラム」は「該指令プログラム」の誤記と認める。) なお,「A」?「R」は,分説のために請求人が付した記号であるが,便宜上そのままこれを利用する。また,判定請求書及びイ号物件説明書における「本発明1」?「本発明3」の記載は特許請求の範囲の記載のとおりのものではないため,特許請求の範囲の記載に対応して分説し直し,本件特許発明1の構成要件A?Fに対応する本件特許発明3の構成要件はA’?F’とした。 2.本件特許発明の目的及び効果 本件特許発明の目的及び効果は,本件特許明細書の【0002】?【0005】の記載,及び同明細書全体の開示内容に照らせば,ポップカルチャーの重要な部分である音楽及び動画といった聴覚的又は視覚的コンテンツを,個人がセルラーフォンのようなモバイル装置を用いて形成及び分配できるようにし,それを友人らと共有することを可能とすることと認められる。 第3 イ号物件 イ号物件説明書に示された「iPad」は,以下のとおりである。 「a iPadは, i その大きさは高さ約24センチメートル,幅約17?19センチメートル,厚さ7.5?13.4ミリメートル及び重さは約470?700グラムであり,手にとって使用することが念頭に置かれたハンドヘルド装置であって, ii ディスプレイ(可視的ラスター・ディスプレイを含む少なくとも1つの出力デバイス)と, iii ディスプレイ兼タッチパネル(操作者から入力を受けるスイッチ配列を含む少なくとも1つの入力デバイス)と, iv WiFi及び/または3G回線/あるいはLTE回線の利用を可能とする無線チップ(無線トランスミッタ)と, v (これらの出力デバイス,前記入力デバイス及び前記無線トランスミッタの動作を制御する)Apple A4?A7プロセッサ等と呼ばれるCPU(処理回路)を含むものである。 b ユーザーは,iPadのディスプレーの表示を見ながら操作を行う(前記ハンドヘルド装置を操作者が操作する際に,操作者を支援するように,その操作に関する情報を前記ディスプレイを通じて表示する段階)。 c 前記ディスプレイ(出力デバイス)を通じて(iPadに内蔵された3G/LTE回線またはWiFiに接続するためのハードウェアを通じて)操作者へ, (a)インターネットサーバー,イントラネットサーバーなどのiPad(前記ハンドヘルド装置)から空間的に離間した遠隔サーバー,又は (b)iPadと接続コネクタや接続ケーブルなどで接続された取り外し可能なメモリ・デバイスから与えられる前記ディスプレイに表示されるコンテンツが現れる(第1のコンテンツの表現を提示する。例えばスカイプでユーザーが最初に相手方にコールするときに表示されるスカイプの稼働状況及び更新しようとする相手方がオンライン状態であることを示す初期画面。)段階と d ユーザーがiPadのディスプレイを触ってiPadを操作することによって,インタラクティブに(操作者により調節された時間的関係に従って)ディスプレイに表示されるコンテンツ(第1のコンテンツの提示。)にオーバーラップして(時間的に重なり),且つ,第1のコンテンツの形式とは同一又は,異なる形式である第2のコンテンツ(例えばスカイプでユーザーが最初に相手方にコールするときにiPadのカメラによって認識・入力される自分の顔の画像)と,例えばスカイプ名のような当該ユーザーを特定する識別情報(少なくとも1つの受信者の識別子)とを認識する(前記少なくとも1つの入力デバイスを通じて与える)段階と e 無線チップ経由で(前記無線トランスミッタを通じて),iPadからインターネットサーバーにアクセスし(前記ハンドヘルド装置から空間的に離間した遠隔サーバーに対して),例えばiPadを持つユーザーがスカイプを使用してメッセージを交換しようとする相手方に対してコールする際に,第1のコンテンツの表現を送らずに(ユーザー側に表示された初期画面の情報はそのままにしておいたうえで),第2のコンテンツの表現(ユーザーの顔の画像等)とユーザーのスカイプ名などユーザーを特定する識別情報(少なくとも1人の受信者の識別子)とを送る段階と f 第1のコンテンツの識別子(スカイプ名などの識別信号)と前記操作者により調整された時間的関係の指標とを前記遠隔サーバーに記憶させると共に,この遠隔サーバーが前記記憶された時間的関係を保って配置された第1のコンテンツ及び第2のコンテンツを表すメッセージを前記少なくとも1人の受信者が受信するように,当該メッセージを送信する段階(例えばスカイプを使用してユーザーがメッセージを交換しようとする相手方に対してコールしたことに対し,対話が不自然にならないように時間的タイミングをとって適宜にユーザーの声の音声や顔の画像のメッセージが相手方に送信される段階)とを含む方法である。」, 「g (例えばiPadに格納されたスカイプやFacetime,iMessageによって)メッセージを生成するシステムであって, h ハンドヘルド装置(本発明1Aに同じ)を備え, i その処理回路(Apple A4?A7プロセッサ等と呼ばれるCPU)は前記ハンドヘルド装置に対し, j 前記ハンドヘルド装置を操作者が操作する際に,操作者を支援するようにその操作に関する情報を前記ディスプレイを通じて提示させ(例えばスカイプの操作画面がディスプレイに表示されること), k 前記少なくとも1つの出力デバイスを通じて操作者へ,(a)前記ハンドヘルド装置から空間的に離間したサーバー・サブシステム又は(b)取り外し可能なメモリ・デバイスから与えられる第1のコンテンツの表現を提示させ(例えばスカイプを使用してユーザーがスカイプを起動したときに現れる相手方がオンライン状態にあるかどうかの表現などの稼働初期画面や音をディスプレイやスピーカーなどの出力デバイスによって出力すること), l 操作者により調節された時間的関係に従って第1のコンテンツの提示に時間的に重なり,且つ第1のコンテンツの形式とは同一又は異なる形式である第2のコンテンツと,少なくとも一人の受信者の識別子とを表す少なくとも1つの信号とを前記少なくとも1つの入力デバイスを通じて操作者から受け取らせ(例えばスカイプを使用してユーザーがメッセージを交換しようとする相手方に対してコールないしテキストメッセージを,ユーザーが自分のスカイプ名などの識別子を明らかにして相手方に提示する), m 第1のコンテンツの表現を送らずに,第1の無線トランスミッタを通じて第2のコンテンツの表現と少なくとも一人の受信者の識別子とを送らせ,(例えばスカイプを使用してユーザーがメッセージを交換しようとする相手方に対してユーザーがコールすると同時にユーザーのスカイプ名などの識別子を送付) n 第2のコンテンツの表現及び少なくとも1つの受信者を前記無線レシーバーを通じて受け取り,且つ前記少なくとも1つの記憶デバイスに記憶させると共に,第1のコンテンツの識別子と前記操作者により調節された時間的関係の指標とを前記少なくとも1つの記憶デバイスに記憶させ,(例えばスカイプを使用してユーザーがメッセージを交換しようとする相手方に対してコールしたことに対し,当該コールが不自然にならないように時間的タイミングをとるための指標となる情報をiPadのメモリなどの記憶デバイスに記憶させ) o 前記記憶された時間的関係を保って配置された第1のコンテンツ及び第2のコンテンツを表すメッセージを前記少なくとも一人の受信者が受信するように送信させる(例えばスカイプを使用してユーザーがメッセージを交換しようとする相手方に対してコールしたことに対し,当該コールが不自然にならないように時間的タイミングをとって適宜にユーザーの声の音声や顔の画像のメッセージが相手方に送信される)システム(iPadのオペレーティングシステムであるiOS及び上記スカイプやFacetime,iMessageなどのソフトウェア並びに上記プロセッサなどが総合的に作用しながら機能するiPadのシステム)。」 「p ハンドヘルド装置(本発明1Aに同じ)を q 使用する方法(本発明1BCDEFに同じ)を r 少なくとも1つの装置(iPad)により実行するための指令プログラム(iPadのオペレーティングシステムであるiOS及び上記スカイプやFacetime,iMessageなどのソフトウェア)を実行する装置により読みとり可能な当該指令プログラムを担持する記録媒体(iPadに内蔵されているメモリやフラッシュメモリなどの記録媒体)」 ここで,判定請求書の「6 請求の理由」の「(1)判定請求の必要性」における「被請求人(中略)がイ号物件説明書に示す「iPad」を,自らアップルストアと称する販売店及びインターネットウェブ上で販売し,さらにソフトバンク及びKDDIなどの通信キャリアサービス提供会社などの代理店を通じて販売していることを確認した。そこで,本件判定請求人は,被請求人に対し,特許侵害に基づく損害賠償請求等訴訟を提起する準備中である・・・」との記載,甲第2号証の「iPadシリーズ全比較」に鑑みれば,イ号物件は,被請求人がアップルストアやインターネットウェブ上,あるいはソフトバンク及びKDDIなどの通信キャリアサービス提供会社などの代理店を通じて販売している「iPad」シリーズの各端末装置であると認められる。 第4 当事者の主張 1.請求人の主張 (1)請求人は,本件特許発明1に関し,「本発明1はいわゆる方法特許であり,イ号物件(iPad)のユーザーが,イ号物件を使用して遠隔地の他者とメッセージなどの情報をやりとりする際に,本発明1の特許を実施しているというべきである。例えば,イ号物件のユーザーが,イ号物件に格納されたスカイプ等のメッセージ交換ソフトウェアを用いて音声メッセージ(映像付きの場合もあり)を遠隔地のハンドヘルド装置等(ハンドヘルド装置に限られない)を所持・使用するユーザと音声メッセージ等を交換する場合である。」(判定請求書5頁4?10行)と主張している。 (2)請求人は,間接侵害に関し,「イ号物件のiPadは,以上の方法(本発明1)の使用にのみ用いる物(特許法101条4号),又はこの方法(本発明1)の使用に用いる物のうち本発明による課題の解決に不可欠なもの(特許法101条5号)である。したがって,被請求人は,イ号物件(iPad)が,上記発明1の方法の使用に用いる物であってその発明による課題の解決に不可欠なものにつき,その発明が特許発明であること及びその物がその発明の実施に用いられることを知りながら,業として,その生産,譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をしたものである(特許法101条5号所定のみなし侵害の対象)。」(判定請求書7頁1?8行)と主張している。 (3)請求人は,均等に関し,「イ号物件である「iPad」は,本件特許請求の範囲に記載の構成と同一か少なくとも均等であることから,本件特許発明の技術的範囲に属する。イ号物件である「iPad」によって実施されている本件特許発明の技術的範囲と抵触するアイデアは,本件特許発明の特許出願時における公的技術と同一のものとはいえないし,また被請求人が公知技術から本件特許発明の特許出願時に容易に推考できたものではない。そもそも,イ号物件である「iPad」によって実施されている本件特許発明の技術的範囲と抵触するアイデアが,仮に,本件特許発明の特許出願時における公的技術と同一であり,または被請求人が公知技術から本件特許発明の特許出願時に容易に推考できたものであるとするならば,本件特許発明は特許として認可されるはずがない。」(判定請求書14頁下から8行?15頁4行)と主張している。 2.被請求人の主張 (1)被請求人は,スカイプ及びイ号物件に関し,以下のとおり主張している。 「まず厳然たる事実として,Apple社が販売するどのiPadもスカイプを搭載しない。スカイプはユーザーによるiPadの購入後,ユーザー自身の判断でインストールされるアプリケーションであって,販売時点に予めインストールされている種類のアプリケーションではない。更に言えば,スカイプとはMicrosoft社が提供するアプリケーションである(スカイプホームページの『Skypeについて』https://skype.com/ja/about/:乙1号証を参照。) スカイプをiPadにインストールするためには,ホーム画面の「App Store」アイコンをタップして起動したApp Store上でスカイプ・アプリケーションを検索し,スカイプのアプリケーションプログラムをiPadにダウンロードしてインストールしなければならない。このように,スカイプがインストールされる以前の販売時のiPadは,各種のアプリケーション・ソフトウェアの実行環境を提供する単なる汎用コンピュータに過ぎない。被請求人は汎用コンピュータを販売しているだけであって,判定請求に係るイ号物件(汎用コンピュータとスカイプのソフトウエアとを含み,スカイプはユーザが購入後に当該汎用コンピュータにインストールしたものである)を販売してはいない。 即ち,請求人はユーザーの行う行為,行った行為を前提としてイ号物件を特定し,当該イ号物件が特許発明の技術的範囲に属するかどうかの判定を求めている。しかし,請求人が求めている当該判定はiPadが特許発明の技術的範囲に属するかどうかの判定ではない。当該判定の対象は,請求人がイ号物件の説明に記載したように「例えばスカイプで・・・」として,無理やり構成したイ号物件であり,本請求は,実際の販売時のiPadではない別の製品をイ号物件とした判定請求に他ならない。」(判定請求答弁書3頁4行?下から5行) (2)被請求人は,イ号物件は本件特許発明1の構成要件A,C,D,E及びF,本件特許発明2の構成要件K,L,M,N及びO,本件特許発明3の構成要件Qを充足しないとして,概略,以下の旨主張している。 ア.構成要件Aについて ハンドヘルド装置を使用する方法を実施するのはiPadのユーザーであって,iPad自体は方法の発明に該当することはないので,イ号物件とされるiPadは構成要件Aを充足しない。 イ.構成要件C,Kについて スカイプはP2P通信を前提としており,特定の遠隔サーバを介した通信を行っていない(乙2号証(スカイプの動作説明ページ)参照)から,iPadにおいてスカイプを起動してユーザーが使用可能な状況で,何らかのコンテンツが特定のサーバーから送信されてくることはない。また,イ号物件説明書でいう初期画面の画面情報は「遠隔サーバー」や「取り外し可能なメモリ・デバイス」から与えられるものではない。したがって,イ号物件とされるiPadは構成要件C,Kを充足しない。 ウ.構成要件D,Lについて イ号物件説明書の説明によればイ号物件における「第1のコンテンツ」は「初期画面」のことと認定すべきである。そして,初期画面の表示状態においてiPadは音声やビデオの入力を受け付けることはなく,相手方の応答により通話が開始されるまでiPadのカメラによって通話者の顔の画像が認識・入力されることはない。そして,通話が開始され顔画像が入力可能となった状態では既に初期画面は消えているから,顔画像が操作者により調節された時間的関係に従って初期画面の提示に時間的に重なって入力されることはあり得ない。したがって,イ号物件とされるiPadは構成要件D,Lを充足しない。 エ.構成要件Eについて スカイプはP2P通信を前提としているから,スカイプにおいてビデオ通話を行った場合であっても,ビデオ通話で相手方に送信されるべき音声・映像はネットワーク上のノードを介して相手方の端末に送信されるのであって,特定のサーバーへ送信されることはない。また,第2のコンテンツが送信される遠隔サーバーは第1のコンテンツをハンドヘルド装置に与えることが可能なサーバーでなければならないところ,第1のコンテンツである初期画面をiPadに対して与えることが可能なサーバーは存在しないのであるから,どのようなインターネットサーバーを想定しようとも,イ号物件とされるiPadは構成要件Eが充足されることはない。 オ.構成要件Fについて 構成要件Fは遠隔サーバーの動作を規定しているが,イ号物件とされるiPadはハンドヘルド装置であって遠隔サーバーとして機能することはないから,構成要件Fが充足されることはない。また,イ号物件説明書では,「第1のコンテンツの識別子と前記操作者により調節された時間的関係の指標とを前記遠隔サーバーに記憶させる」との要件が,イ号物件の何に相当するのか特定されていない。更に,第1のコンテンツは「初期画面」であり,第2のコンテンツは「顔画像」であるところ,イ号物件では記憶された時間的関係を保って配置された初期画面及び顔画像を表すメッセージを送信していない。初期画面は発呼者に固有の情報であって,そのような固有の情報が遠隔サーバーに格納され,相手方に提供されることは一般常識から考えてもあり得ない。また,スカイプを使用してビデオ通話を行った場合,画面に表示されるのは通話画面であって,初期画面の情報が表示されることはない。したがって,イ号物件とされるiPadは構成要件Fを充足しない。 カ.構成要件N,Oについて 構成要件N,Oはサーバー側の構成を規定しているのであるから,イ号物件とされるハンドヘルド装置のiPadが構成要件N,Oを充足することはあり得ない。 キ.構成要件Qについて 構成要件C?Fについて述べた理由と同様の理由により,イ号物件とされるiPadは構成要件Qを充足しない。 (3)被請求人は,均等に関し,イ号物件が充足しない本件特許発明1の構成要件A,C,D,E及びF,本件特許発明2の構成要件K,L,N及びO,本件特許発明3の構成要件Qは,本件特許明細書の記載から見て,本件特許発明の本質的部分であるから,イ号物件は本件特許発明と均等ではない旨主張している。 第5 対比及び判断 1.イ号物件の「スカイプ」に関して 上記「第4」の項の「1.(1)」の請求人の主張及びイ号物件説明書の説明によれば,「スカイプ・アプリケーションがインストールされたiPad」をユーザーが使用する際のスカイプ・アプリケーションにかかる動作が,本件特許発明1の実施に当たるとされているものである。 しかしながら,アップルストアやインターネットウェブ上,あるいはソフトバンク及びKDDIなどの通信キャリアサービス提供会社などの代理店を通じて販売している「iPad」にスカイプ・アプリケーションがインストールされていることを認めるに足る証拠は明らかにされていない。 一方,スカイプのホームページ(https://skype.com/ja)によれば,スカイプはMicrosoft社の一事業部門であって,同社が提供するアプリケーションであることが認められる。そして,iPadでスカイプを利用するには,ユーザーが,iPadのホーム画面の「App Store」のアイコンをタップして起動したApp Srore上でスカイプ・アプリケーションを検索し,使用許諾を得た上で,スカイプのアプリケーションプログラムをiPadにダウンロードしてインストールしなければならないことは明らかである。 すなわち,イ号物件である「iPad」自体は,いわば汎用コンピュータに相当するものでしかなく,スカイプ・アプリケーションがインストールされていない「iPad」は,スカイプ・アプリケーションにかかる動作をなすことはないと認められる。 2.本件特許発明1に関して (1)構成要件の対比 ア.構成要件Aについて 本件判定請求にかかるイ号物件の「iPad」は「ハンドヘルド装置」に該当するが,本件特許発明1は「ハンドヘルド装置を使用する方法」であるから,発明のカテゴリーは物の発明ではなく方法の発明である。 そして,「ハンドヘルド装置を使用する方法」なる方法発明を実施するのはユーザであって,ハンドヘルド装置自体ではないから,ハンドヘルド装置自体である「iPad」は「ハンドヘルド装置を使用する方法」なる方法発明の構成を充足するものではない。 したがって,イ号物件である「iPad」は構成要件Aを充足しない。 イ.構成要件Bについて 本件特許明細書の【0030】,【0048】の記載によれば,ハンドヘルド装置を操作者が操作する際に,操作者を支援するように,ディスプレイを通じて表示される,その操作に関する情報は,「操作者により入力された電話番号の通常の表示」や処理中に操作者を案内するプロンプトや他の情報を含むものと認められるところ,iPadシリーズの各端末装置は少なくとも操作者により入力された電話番号を表示することは行われているといえるから,イ号物件である「iPad」は構成要件Bを充足する。 ウ.構成要件Cについて イ号物件説明書によると,本件特許発明1の構成要件Cの「第1のコンテンツ」に相当するイ号物件の構成は,「例えばスカイプでユーザーが最初に相手方にコールするときに表示されるスカイプの稼働状況及び更新しようとする相手方がオンライン状態であることを示す初期画面」とされているが,スカイプ・アプリケーションをインストールしていない販売時の「iPad」には当該初期画面が存在しないことは明らかである。 ここで,仮にスカイプ・アプリケーションがインストール済みであるとしも,スカイプはサーバー・クライアントシステムではなくP2P通信を前提とするものであることに鑑みれば,スカイプにおいて第1のコンテンツが遠隔サーバーから与えられることはなく,また,「第1のコンテンツ」が「スカイプの稼働状況及び更新しようとする相手方がオンライン状態であることを示す初期画面」であるならばリアルタイム性が必須であることから「取り外し可能なメモリ・デバイスから与えられる」こともないはずである。 また,Facetimeは第2世代以降のiPadで,iMessageはiOS5以降で動作するモデルで,それぞれ販売時において内蔵アプリケーションとして予めインストールされていると推察されるが,本件判定請求のイ号物件である「iPad」はこれらのモデルより前のモデルも含むものである。したがって,Facetime,iMessageの存在を考慮しても,イ号物件である「Pad」における「第1のコンテンツ」,「遠隔サーバー」に相当するものは確認できない。 したがって,イ号物件である「iPad」が構成要件Cを充足するということはできない。 エ.構成要件Dについて イ号物件説明書によると,本件特許発明1の構成要件Dの「第2のコンテンツ」と「少なくとも1つの受信者の識別子」に相当するイ号物件の構成は,「例えばスカイプでユーザーが最初に相手方にコールするときにiPadのカメラによって認識・入力される自分の顔の画像」と「例えばスカイプ名のような当該ユーザーを特定する識別情報」とされているが,スカイプ・アプリケーションをインストールしていない販売時の「iPad」には,当該「第2のコンテンツ」も「スカイプ名」も存在しないことは明らかである。また,イ号物件説明書でいう「スカイプ名」は送信者に当たるユーザー自身の識別情報であると推察され,「受信者の識別情報」であることは確認できない。 また,上述のとおり,Facetime,iMessageは,iPadは一部のモデルで販売時において内蔵アプリケーションとして予めインストールされていると推察されるが,本件判定請求のイ号物件であるiPadはこれらのモデルより前のモデルも含むものであるから,Facetime,iMessageの存在を考慮しても,イ号物件である「iPad」における構成要件Dに相当するものは確認できない。 更に,イ号物件説明書によると「第1のコンテンツ」は「スカイプでユーザーが最初に相手方にコールするときに表示されるスカイプの稼働状況及び更新しようとする相手方がオンライン状態であることを示す初期画面」であり,「第2のコンテンツ」は「スカイプでユーザーが最初に相手方にコールするときにiPadのカメラによって認識・入力される自分の顔の画像」であるが,イ号物件である「iPad」において操作者により調節された時間的関係に従って初期画面の提示に時間的に重なる顔画像が入力デバイスを通じて与えられることは確認できない。 したがって,イ号物件である「iPad」が構成要件Dを充足するということはできない。 オ.構成要件Eについて イ号物件説明書によると,本件特許発明1の構成要件Eの「前記ハンドヘルド装置から空間的に離間した遠隔サーバーに対して,第1のコンテンツの表現を送らずに,第2のコンテンツの表現と少なくとも1人の受信者の識別子とを送る」に相当するイ号物件の構成は,「iPadからインターネットサーバーにアクセスし,例えばiPadを持つユーザーがスカイプを使用してメッセージを交換しようとする相手方に対してコールする際に,ユーザー側に表示された初期画面の情報はそのままにしておいたうえで,ユーザーの顔の画像等とユーザーのスカイプ名などユーザーを特定する識別情報とを送る」とされているが,スカイプ・アプリケーションをインストールしていない販売時の「iPad」がスカイプに係る当該動作をなすことはない。 また,スカイプはサーバー・クライアントシステムではなくP2P通信を前提とするものであるから,スカイプにおいてサーバーがスカイプに係る特定の機能をなすことは考えられず,iPadがスカイプ以外の動作においてインターネットサーバーにアクセスすることはあるにせよ,当該インターネットサーバーがスカイプにおける動作をなすとはいえない。すなわち,イ号物件説明書でいう「インターネットサーバー」は,構成要件C及びFの機能をなす本件特許発明1の「遠隔サーバー」に相当するとはいえない。 また,イ号物件説明書の説明によれば,「ユーザーのスカイプ名などユーザーを特定する識別情報」は,送信者に当たるユーザー自身の識別情報と推察され,「受信者の識別情報」であることは確認できない。 更に,上述のとおり,Facetime,iMessageは,iPadは一部のモデルで販売時において内蔵アプリケーションとして予めインストールされていると推察されるが,iPadシリーズの全てのモデルがそうであるとはいえない。また,Facetime,iMessage使用時の「遠隔サーバー」なるものの動作を示す証拠は明らかにされていない。そして,イ号物件説明書によれば「第2のコンテンツ」は「ユーザーが最初に相手方にコールするときにiPadのカメラによって認識・入力される自分の顔の画像」であって通話中のiPadのカメラによって認識・入力される自分の顔の画像ではないから,Facetime,iMessageの存在を考慮しても,イ号物件である「iPad」における構成要件Eに相当するものは確認できない。 したがって,イ号物件である「iPad」は構成要件Eを充足するということはできない。 カ.構成要件Fについて イ号物件説明書によると,本件特許発明1の構成要件Fの「第1のコンテンツの識別子と前記操作者により調節された時間的関係の指標とを前記遠隔サーバーに記憶させると共に,この遠隔サーバーが,前記記憶された時間的関係を保って配置された第1のコンテンツ及び第2のコンテンツを表すメッセージを前記少なくとも1人の受信者が受信するように,当該メッセージを送信する」に相当するイ号物件の構成は,「スカイプ名などの識別信号と前記操作者により調整された時間的関係の指標とを前記遠隔サーバーに記憶させると共に,例えばスカイプを使用してユーザーがメッセージを交換しようとする相手方に対してコールしたことに対し,対話が不自然にならないように時間的タイミングをとって適宜にユーザーの声の音声や顔の画像のメッセージが相手方に送信される」とされているが,上述のとおり,スカイプはサーバー・クライアントシステムではなくP2P通信を前提とするものであるから,スカイプにおいてサーバーがスカイプに係る特定の機能をなすことは考えられず,また,インターネットサーバーが「操作者により調整された時間的関係の指標」を記憶することも一般的になされていることではない。 また,本件特許発明1の「遠隔サーバー」が送信する「メッセージ」は「記憶された時間的関係を保って配置された第1のコンテンツ及び第2のコンテンツを表すメッセージ」であるが,イ号物件とされるもののメッセージは「ユーザーの声の音声や顔の画像」のみであって,当該メッセージが「対話が不自然にならないように時間的タイミングをとって適宜に」「相手方に送信される」だけであるから,本件特許発明1の「メッセージ」に相当するものではない。 更に,構成要件Dによれば,本件特許発明1の「時間的関係」とは,時間的に重なる「第1のコンテンツ」の提示と「第2のコンテンツ」との間の時間的関係であるが,イ号物件説明書でいう「第1のコンテンツ」は「例えばスカイプでユーザーが最初に相手方にコールするときに表示されるスカイプの稼働状況及び更新しようとする相手方がオンライン状態であることを示す初期画面」であるから,イ号物件における「第1のコンテンツ」の提示と「第2のコンテンツ」との間の時間的関係は,スカイプやFaceTimeによるビデオ通話やiMessageによるメッセージ交換における対話に係る時間的関係ではないことは明らかである。すなわち,「前記記憶された時間的関係を保って配置された第1のコンテンツ及び第2のコンテンツを表すメッセージを前記少なくとも1人の受信者が受信するように,当該メッセージを送信する」ことと「対話が不自然にならないように時間的タイミングをとって適宜にユーザーの声の音声や顔の画像のメッセージが相手方に送信される」こととは,技術的内容が全く異なるものである。 したがって,イ号物件である「iPad」は構成要件Fを充足しない。 (2)目的・効果の検討 本件特許発明の目的は,「第2」の項の「2」の項で述べたとおり,ポップカルチャーの重要な部分である音楽及び動画といった聴覚的又は視覚的コンテンツを,個人がセルラーフォンのようなモバイル装置を用いて形成及び分配できるようにし,それを友人らと共有することを可能とすることである。 一方,イ号物件説明書の説明によれば,「第1のコンテンツ」は「ユーザーが最初に相手方にコールするときに表示されるスカイプの稼働状況及び更新しようとする相手方がオンライン状態であることを示す初期画面」であり,「第2のコンテンツ」は「スカイプでユーザーが最初に相手方にコールするときにiPadのカメラによって認識・入力される自分の顔の画像」であるから,「時間的関係を保って配置された第1のコンテンツ及び第2のコンテンツを表すメッセージ」は視覚的コンテンツと言い得るものの,ポップカルチャーの重要な部分である音楽及び動画といったコンテンツとはいえない。 また,受信者が受信する前記「メッセージ」に含まれる「第1のコンテンツ」は,受信者にとっては,操作者が最初に自分にコールするときに操作者に対して初期画面として表示される自分がオンライン状態であることを示すものであるから,そのような「第1のコンテンツ」を操作者と受信者とが共有する意義は見いだせない。また,同様の理由で,「メッセージ」が,第1のコンテンツ及び第2のコンテンツが記憶された時間的関係を保って配置されるものであることの意義も見いだせない。 そして,『時間的関係を保って配置された「ユーザーが最初に相手方にコールするときに表示されるスカイプの稼働状況及び更新しようとする相手方がオンライン状態であることを示す初期画面」及び「スカイプでユーザーが最初に相手方にコールするときにiPadのカメラによって認識・入力される自分の顔の画像」を表すメッセージ』をハンドヘルド装置が形成・分配できたところで,本件特許発明1の目的・効果を達成し得るものでないことは明らかである。 以上(1),(2)のとおりであるから,イ号物件である「iPad」は本件特許発明1の技術的範囲に属しない。 3.本件特許発明2に関して (1)構成要件の対比 ア.構成要件G,N,Oについて 本件特許発明2は「システム」に係る発明であり,構成要件N,Oはサーバー・サブシステムに係る構成であるところ,イ号物件である「iPad」は,システムの一部分を構成するにせよ,システム自体ではなく,サーバー・サブシステムを備えるものではないから,本件特許発明2の構成要件G,N,Oを有するものではない。 また,本件特許発明2の構成要件N,Oは,本件特許発明1の構成要件Fに対応するものであるが,上記「2(1)」の項の「カ」で述べたとおり,イ号物件説明書に示されるイ号物件である「iPad」の構成fは,構成要件Fを充足するものではないから,構成要件N,Oも充足しないことは明らかである。 イ.構成要件H?Jについて イ号物件である「iPad」は,ディスプレイ,操作者からの入力を受けるスイッチ配列を備える入力手段,無線送信を行う手段,iPadの動作を制御する制御手段を備えることは明らかであるから,構成要件H,Iを充足する。 また,本件特許発明2の構成要件Jは本件特許発明1の構成要件Bに対応するものであるが,上記「2(1)」の項の「イ」で述べたとおり,イ号物件説明書に示されるイ号物件の構成bは,構成要件Bを充足するから,構成要件Jも充足する。 ウ.構成要件K?Mについて 本件特許発明2の構成要件K?Mは本件特許発明1の構成要件C?Eに対応するものであるが,上記「2(1)」の項の「ウ」?「オ」で述べたとおり,イ号物件説明書に示されるイ号物件の構成c?eは,構成要件C?Eを充足するものではないから,構成要件K?Mも充足しないことは明らかである。 (2)目的・効果の検討 「2.本件特許発明1に関して」の項の「(2)目的・効果の検討」の項で述べたとおりであるから,イ号物件説明書に示される「iPad」は本件特許発明2の目的・効果を達成し得るものでないことは明らかである。 以上(1),(2)のとおりであるから,イ号物件である「iPad」は本件特許発明2の技術的範囲に属しない。 4.本件特許発明3に関して (1)構成要件の対比 ア.構成要件A’?F’について イ号物件である「iPad」は,ディスプレイ,操作者からの入力を受けるスイッチ配列を備える入力手段,無線送信を行う手段,iPadの動作を制御する制御手段を備えることは明らかであるから,構成要件A’を充足する。 本件特許発明3の構成要件B’は本件特許発明1の構成要件Bに対応するものであるが,上記「2(1)」の項の「イ」で述べたとおり,イ号物件説明書に示されるイ号物件の構成bは,構成要件Bを充足するから,構成要件B’を充足する。 本件特許発明3の構成要件C’?F’は本件特許発明1の構成要件C?Fに対応するものであるが,上記「2(1)」の項の「ウ」?「カ」で述べたとおり,イ号物件説明書に示されるイ号物件の構成c?fは,構成要件C?Fを充足するものではないから,構成要件C’?F’を充足しない。 イ.構成要件P?Rについて 請求人は,分説をP,Q,Rと分けているが,「ハンドヘルド装置を使用する方法を少なくとも1つの装置により実行するための指令プログラム」が1つの纏まりのある技術的概念であるから,構成要件P?Rについてまとめて判断する。 「iPad」に内蔵されているメモリやフラッシュメモリ等の記録媒体は,iOSやインストールしたプログラムを担持するものであるが,販売時点の「iPad」の記録媒体には,スカイプ・アプリケーションは担持されていない。また,iOSはオペレーションシステムであるから,本件特許発明3でいう「ハンドヘルド装置を使用する方法」を実行するための指令プログラムとはいえない。また,Facetime,iMessageは,iPadは一部のモデルで販売時において内蔵アプリケーションとして予めインストールされているが,iPadシリーズの全てのモデルがそうであるとはいえない。 また,構成要件Fはサーバーに動作に係るものであって,ハンドヘルド装置である「iPad」が指令プログラムとして担持するものではないことは明らかである。 そして上記アのとおりであるため,イ号物件である「iPad」は,本件特許発明3の構成要件C?Fの段階を有する方法を実行するための指令プログラムを担持しているとはいえない。 したがって,イ号物件である「iPad」は,構成要件P?Qの構成を充足しない。 (2)目的・効果の検討 「2.本件特許発明1に関して」の項の「(2)目的・効果の検討」の項で述べたとおりであるから,イ号物件説明書に示される「iPad」は本件特許発明3の目的・効果を達成し得るものでないことは明らかである。 以上(1),(2)のとおりであるから,イ号物件である「iPad」は本件特許発明3の技術的範囲に属しない。 5.均等に関して 均等と判断するには,以下(i)?(v)の5要件を全て満たすことが必要である。 (i) 特許請求の範囲に記載された構成中のイ号と異なる部分が発明の本質的な部分ではない(発明の本質的な部分)。 (ii) 前記異なる部分をイ号のものと置き換えても特許発明の目的を達成することができ,同一の作用効果を奏する(置換可能性)。 (iii) 前記異なる部分をイ号のものと置き換えることが,イ号の実施の時点において当業者が容易に想到することができたものである(置換容易性)。 (iv) イ号が特許発明の出願時における公知技術と同一又は当業者が公知技術から出願時に容易に遂行できたものではない(自由技術の除外)。 (v) イ号が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外される等の特段の事情がない(禁反言:出願等の経緯の参酌)。 しかしながら,上記1?3のとおり,少なくとも上記(i),(ii)の要件を満たさないことが明らかであるから,他の要件を判断するまでもなく,均等とはいえない。 6.間接侵害に関して 間接侵害に関しては,本判定の対象外であるので,判断しない。 第6 むすび 以上のとおりであるから,イ号物件説明書に示されるイ号物件である「iPad」は,本件特許に係る発明の構成要件を具備しないから,本件特許発明の技術的範囲に属しない。 よって,結論のとおり判定する。 |
判定日 | 2014-04-02 |
出願番号 | 特願2002-590620(P2002-590620) |
審決分類 |
P
1
2・
1-
ZB
(H04M)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 戸次 一夫 |
特許庁審判長 |
菅原 道晴 |
特許庁審判官 |
田中 庸介 山本 章裕 |
登録日 | 2009-08-14 |
登録番号 | 特許第4357175号(P4357175) |
発明の名称 | 実時間対話型コンテンツを無線交信ネットワーク及びインターネット上に形成及び分配する方法及び装置 |
代理人 | 江嶋 清仁 |
代理人 | 野村 吉太郎 |
代理人 | 大塚 康弘 |
代理人 | 坂田 恭弘 |
代理人 | 大戸 隆広 |
代理人 | 大塚 康徳 |