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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1286796
審判番号 不服2012-7048  
総通号数 174 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-06-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-04-17 
確定日 2014-04-09 
事件の表示 特願2009-504292号「酸含有菓子組成物中のリン酸カルシウム錯体」拒絶査定不服審判事件〔平成19年10月18日国際公開、WO2007/117537、平成21年9月10日国内公表、特表2009-532478号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2007年4月4日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2006年4月5日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成23年7月11日付けの拒絶理由通知に対して、平成23年10月19日に意見書及び手続補正書が提出され、その後、平成23年12月16日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成24年4月17日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

第2 本願発明
本願に係る発明は、平成23年10月19日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?17に記載されるとおりのものであって、そのうち、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「菓子組成物であって、
(a)製菓用担体と、
(b)少なくとも1つの甘味料と、
(c)カゼインリンペプチド-リン酸カルシウムと、
(d)少なくとも1つの食品グレードの酸を含んでなり、
前記カゼインリンペプチド-リン酸カルシウムを、0.5?5重量%の量で含み、かつ、前記食品グレードの酸を、0.01?20重量%の量で含む菓子組成物。」

第3 原査定の理由
拒絶査定における拒絶理由(平成23年7月11日付けの「理由2」)の概要は、本件出願の発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明並びに周知技術に基づいて、その出願前にその発明に属する技術分野における通常の知識を有する者が、容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

1.特開平5-38258号公報
2.特表2002-540129号公報(拒絶理由では、引用文献3と表記。)
3.特表2002-500626号公報(拒絶理由では、引用文献4と表記。)
4.一ノ瀬喜憲著、「新しい抗う触性物質・リカルデント登場」、2002年12月1日、[平成22年10月28日検索](拒絶理由では、引用文献5と表記。)

第4 引用刊行物に記載された事項
1 刊行物1に記載された事項
(刊1-1)【請求項1】ガムベースおよび下記成分:
A. クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、アジピン酸、フマル酸、コハク酸、グルコノデルタラクトン、アスコルビン酸、乳酸およびこれらの混合物よりなる群から選択される少なくとも1つの粒状の食用酸;
B. レシチン、ステアレート、ステアレートのエステル誘導体、パルミテート、パルミテートのエステル誘導体、オレエート、オレエートのエステル誘導体、グリセリド、グリセリドのエステル誘導体、スクロースポリエステル、ポリグリセロールエステル、動物性ワックス、植物性ワックス、合成ワックス、石油ワックスおよびこれらの混合物よりなる群から選択される乳化剤;および、
C. デリバリーシステムの総組成物の重量の約30?約93重量%の量で存在し、分子量約2,000?約65,000のポリ酢酸ビニル
を含有する酸の制御された放出を可能にする安定な食用酸デリバリーシステムを含有する延長された酸味、フレーバーおよびジューシーさの継続を有するチューインガム組成物。
【請求項2】食用酸がチューインガム組成物の約0.1?約10重量%の量で存在する請求項1記載のチューインガム組成物。
・・・
【請求項21】充填剤、着色剤、フレーバー剤、軟化剤、可塑剤、エラストマー、エラストマー溶媒、甘味剤およびこれらの混合物が更に含有される請求項1記載のチューインガム組成物。
【請求項22】下記段階:
(A)ポリ酢酸ビニルを乳化剤とともに溶融し、そこに食用酸を均一に分散させ;混合物を混合しながら雰囲気温度に冷却する段階によりポリ酢酸ビニルコーティング内へ食用酸を閉じ込めること;
(B)得られた混合物を所望の粒径に粉砕すること;
(C)場合により(B)で形成された粒子を、乳化剤と混合した脂肪またはワックスを含有する疎水性混合物でコーティングしてデリバリーシステム粒子上に更に保護層を形成すること
を包含する食用酸のデリバリーのために有用なデリバリーシステムを調製する方法。」

(刊1-2)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は延長された刺激、酸味および増強された唾液分泌を付与するチューインガムおよび菓子組成物に配合されるように考案された食用酸のためのデリバリーシステムに関する。更に詳しくは、本発明は、水分、pH、温度および他の反応性化学成分のような要因による悪影響から食用酸を保護する方法に関する。本発明のデリバリーシステムは食用酸および甘味料の供給に特に有用であるが、フレーバー、薬品等にも適用してよい。
【0002】
【従来の技術】1986年12月23日に出願された同時係属中の米国特許出願945,743号において、本発明のデリバリーシステムは甘味料の供給に用いられた。また同時係属中の米国特許出願270,892号においても、低分子量ポリ酢酸ビニルを用いる本発明のデリバリーシステムで食用酸が供給できることの開示がさなれている。今回、このデリバリーシステムは、分子量50,000を超えるより高分子量のポリ酢酸ビニルを使用して長時間の咀嚼時間にわたり食用酸を供給する能力を有することを発見した。
【0003】食用酸をチューインガム組成物に添加して所望の酸味作用を得ることは、特に柑橘類フレーバーにおいて、従来開示されている。一般的に、酸をチューインガム組成物の水溶性チューインガム部分に直接添加し、咀嚼の間の酸の放出を確保する。例えばReam等への米国特許4,088,788号および4,151,270号は、少なくとも3重量%の1つ以上の有機酸を甘味料と組合せたものを添加することにより、相乗唾液促進作用を達成したことを開示している。開示された酸は、コーティングまたはカプセル化されることなくその遊離形態でガム組成物に直接添加されている。」

(刊1-3)「【0028】
【本発明の詳細な記述および好ましい実施態様】ポリ酢酸ビニルと上記した乳化剤の組合せにより、食用酸の上に優れた膜を形成するコーティングが得られる。これらのコーティングは実質的に水溶性に乏しく、食品酸または他の封入されている物質を加水分解から保護する。しかしなお、これらは水分の存在下である程度膨潤するのに十分な親水性も有しており、これにより、徐々にコア物質を放出する。グリセリルモノステアレートが最も好ましい乳化剤である理由は、これが意外にも、ポリ酢酸ビニルから酢酸とポリビニルアルコールへの加水分解を抑制する特性を有するためである。その他の利点は、例えば、コーティングが非齲食性であること、ポリ酢酸ビニルのコールドフロー特性が長期保存の間低いこと、デリバリーシステムの調製方法に溶媒の使用が含まれないこと、そして、デリバリーシステムが、食品酸または食品酸と甘味料の混合物を水分から保護することが望ましいような全ての食品、チューインガム、菓子、個人用製品または薬品用途に使用できることである。本発明の他の利点は明らかであろう。
【0029】デリバリーシステムを調製するには、所望の比率のポリ酢酸ビニルおよび乳化剤を溶融し、これらを短時間、例えば5分以上約85℃の温度で混合する。これらの物質が十分溶融し、均質な混合物が得られた後、適当な量の固体食用酸を添加し、更に短時間撹拌しながら溶融した塊と充分混合する。食用酸粒子を粉砕して微細粉末にした後にポリ酢酸ビニル/乳化剤混合物でカプセル化するのが好ましい。得られた混合物は半固体の塊であり、次にこれを、例えばほぼ室温に冷却して固体とし、米国標準メッシュサイズ約30?約200(600?75ミクロン)に粉砕する。
【0030】本発明のデリバリーシステムは、食品、菓子等、並びに、チューインガム組成物、薬学的組成物、義歯用製品、マウスウオッシュ等のような多くの摂取可能な製品に配合できる。
【0031】本発明で得られる製品は粉末または顆粒形態である。粒径はデリバリーシステムにとって厳密なものではなく、特定の所望の放出速度および口中感が得られるように、それらが配合される担体、例えばチューインガムまたは菓子に応じて調節できる。製品は「そのまま」種々の用途のために、例えばベイクド製品上のトッピングとして、または義歯接着剤またはマウスウオッシュの添加物として、使用できる。コーティングマトリックスは食用酸の他の種々のコア物質、例えば甘味料、噴霧乾燥フレーバー、保護、制御放出または味マスキングのためのコーティングを必要とするその他の粒状物質に対しても有用である。即ち、1つ以上のこれらの物質を1つのコーティングマトリックス内に存在させるか、あるいは、個々にマトリックスでコーティングして単独または組合せて最終製品中に使用するかしてよい。食用酸はまた、酸が逐次的に放出されるように異る量または厚みのコーティングでカプセル化することもできる。」

(刊1-4)「【0032】食用酸は食品産業では一般的に酸味料とも呼ばれており、総チューインガム組成物の約0.1?約10重量%、好ましくは約0.5?約7.5重量%、最も好ましくは約1?約2.5重量%の量で存在してよい。デリバリーシステムそのものの中の存在については、酸はデリバリーシステムの約1?約50重量%、好ましくは約20?約40重量%の量で存在する。存在する酸の特定の量は所望の酸味の所望の強度に応じて調節しなければならない。酸が多すぎたり、少なすぎる場合は、延長されたフレーバーの作用、所望の刺激および好ましい味が得られない。
【0033】本発明のポリ酢酸ビニル(PVA)コーティングは、カプセル化するべき食用酸の水溶性に従って選択された特定の分子量のPVAを使用することにより、感覚器官系への食用酸の改良された持続性酸放出をもたらす。アジピン酸、フマル酸、および乳酸のような水溶性の低い食用酸は、分子量範囲が2,000?18,000、好ましくは6,000?10,000であるようなPVAでコーティングした場合に最も持続性のある放出作用を示す。リンゴ酸、グルコノデルタラクトンのような中程度の水溶性を有する食品級酸は、分子量範囲が約15,000?25,000、好ましくは16,000?約22,000のPVAでコーティングした場合に最も持続性のある放出作用を示す。最後に、クエン酸または酒石酸のような水溶性の高い食用酸は、分子量範囲約20,000?65,000、好ましくは20,000?約35,000のPVAでコーティングした場合に最も持続性のある放出作用を示す。
【0034】酸は、単独で、または、相溶性のある甘味料、フレーバーまたは類似の従来のチューインガム成分と組合せてカプセル化してよい。あるいは、カプセル化された甘味料またはフレーバーを本発明の食用酸デリバリーシステムとは別に添加して放出特性の独特の組合せを得ることもできる。特定のフレーバー、甘味料および酸の組合せ、より長く、より強力なフレーバー、甘味、酸味およびジューシーさ(唾液分泌刺激)の作用相乗作用をもたらすことが解っている。特に、酸放出の延長は、咀嚼者により長い味の明らかな知覚を与える。この現象は、完全に解明されていないが、このような味の延長が存在し、延長された咀嚼期間にわたり実質的な進歩として咀嚼者に知覚され得ることは、味見から明らかである。
【0035】カプセル化された甘味料成分を添加しなければならない場合は、これは、強力な甘味を付与できるような、固体の天然または合成の甘味料から選択してよい。制限しないこれらの甘味料の例は、アミノ酸系甘味料、ジペプチド甘味料、グリチルリチン、サッカリンおよびその塩、エースサルフェーム塩、サイクラメート、ステビオサイド、タリン、ジヒドロカルコン化合物、塩素化スクロース重合体、例えばスクラロース、およびこれらの混合物を包含する。
【0036】デリバリーシステムの任意の一部である甘味料は、甘味を付与するのに必要な量で使用してよく、好ましくはデリバリーシステムの約0.01?約30重量%の量で配合する。アスパルテーム、サッカリンおよびその塩は好ましい甘味料であり、それぞれ、デリバリーシステムの約0.01?約50重量%および約0.01?約50重量%の量で使用してよい。これらの甘味料の好ましい量は、デリバリーシステムの約10?約20重量%、最も好ましくは約14?約18重量%である。当産業で標準的な従来の量で、副次的甘味料を最終製品、即ちチューインガム組成物中に使用してよい。
【0037】特に有効な甘味料の組合せは、アスパルテーム、サッカリンナトリウムおよびエースサルフェーム-K(エースサルフェームカリウム)である。サッカリンおよびその塩およびエースサルフェーム塩は、デリバリーシステムの約5?約50重量%の量で使用してよい。アスパルテームはこの組合せで使用する場合は、約15重量%迄の量で使用する。1つ以上の甘味料をカプセル化形態内に存在させた後に、デリバリーシステムに配合することにより、甘味料の放出を遅延させ、甘味の知覚を延長したり、その放出に時差が生じるようにしてよい。即ち、甘味料はそれらが逐次的に放出されるように配合できる。」

2 刊行物2に記載された事項
(刊2-1)「【請求項7】チューインガムであって、
(a)約10重量%?約95重量%のガムベース;および
(b)約0.1重量%?約15重量%の重炭酸ナトリウム、および
(c)約0.01重量%?約30重量%のCPP-ACPを含んでなるチューインガム。【請求項8】ガムがシュガーレスガムである、請求項7記載のガム。
【請求項9】ガムが、
(a)約0.1重量%?約10重量%の重炭酸ナトリウム、および
(b)約0.01重量%?約10重量%のCPP-ACPを含んでなる、請求項7記載のガム。
【請求項10】キャンディ糖菓であって、
(a)約10重量%?約95重量%の糖菓ベース、
(b)約0.1重量%?約15重量%の重炭酸ナトリウム、および
(c)約0.01重量%?約30重量%のCPP-ACP
を含んでなるキャンディ糖菓。
【請求項11】糖菓が圧縮キャンディ糖菓である、請求項10記載の糖菓。
【請求項12】糖菓が、
(a)約0.1重量%?約10重量%の重炭酸ナトリウム、および
(b)約0.01重量%?約10重量%のCPP-ACP
を含んでなる、請求項10記載の糖菓。」

(刊2-2)「【0002】
【先行技術の説明】
歯のう蝕の形成は充分に研究されてきている。う蝕は、歯垢の蓄積、および歯垢微生物が食物中の糖およびデンプンを発酵させるときの有機酸(歯垢酸(plaque acids))の生成に起因すると理解されている。唾液によって洗浄される前に、それら酸は、pHを低下させて、ヒドロキシアパタイトとして知られるカルシウム-リン無機質である若干のエナメル質を溶解させる、すなわち、脱無機質化させるのに充分な長さで歯垢中に蓄積し、これがう蝕(虫歯)および過敏をもたらしうる。
【0003】
歯垢自体は、口内細菌およびそれらの産生物の粘着性の膜であり、最終的に歯の上に硬い無機質が形成されて石灰化され得る。それは、結石または歯石と称されることがあるが、歯の表面上に沈着して接着した石灰化物質の硬い塊である。成熟した結石が成長するにつれて、それは、視覚的には白色または黄色になる。歯垢形成は、歯肉炎、およびその後の歯周病をもたらすことがありうる。」

(刊2-3)「【0006】
カゼインホスホペプチド-非晶質リン酸カルシウム錯体は、歯磨き剤として用いられた場合、抗う蝕性歯強化作用を有することが知られている。CPP-ACP錯体またはカルシウムカゼインペプトン-リン酸カルシウムとしても知られるそれら錯体は、カゼインホスホペプチドによって安定化された非晶質リン酸カルシウムである。CPP-ACPは、脱無機質化を抑制し、再無機質化を促進しながら、歯垢酸を緩衝化する。それは、歯の表面の歯垢中にカルシウムイオンおよびリン酸イオンを局在させることによって作用する。歯垢中のカルシウムおよびリン酸のレベルのこの増加は、歯垢酸を緩衝化するのを助け、溶液中、すなわち唾液中でカルシウムおよびリン酸の過飽和状態を維持するのを助ける。う蝕および歯垢形成の予防のためのカゼインホスホペプチド単独の使用も知られている。CPP-ACPの担体としてのチューインガムの使用が示唆されている。
【0007】
米国特許第5,130,123号および同第5,227,154号は、歯のう蝕の予防におけるカゼインホスホペプチドを教示している。WO98/40406号は、抗う蝕効力を提供するホスホペプチド-リン酸カルシウム錯体を教示している。」

(刊2-4)「【0023】
実施例2
この実験は、CPP-ACPおよび重炭酸ナトリウムを1:5の重量比で含有するチューインガム中で用いられる場合のCPP-ACPの再無機質化における効力を示す。ペレット型チューインガムを次のように配合した。」との記載とともに、「表2」には、「ペレットガム」の「成分」「%」として、
ガムベース 30.77
軟化剤 0.23
ポリオール 61.05
強度甘味料 0.21
フレーバー 1.57
重炭酸アトリウム 3.76
CPP-ACP 0.71
アラビアガム 1.70 」が記載されている。

3 刊行物3に記載された事項
(刊3-1)「1.ホスホペプチドがアミノ酸配列Ser(P)-Ser(P)-Ser(P)-Glu-Gluを含み、ホスホペプチド安定化無定形リン酸カルシウムまたはその誘導体を含有する安定化なリン酸カルシウム複合体。
2.前記無定形リン酸カルシウムは、x≧1の式[Ca_(3)(PO_(4))_(1.87)(HPO_(4))_(0.2x)H_(2)O]で示される請求の範囲第1項に記載の複合体。
3.前記無定形リン酸カルシウム誘導体は、x≧1の式[Ca_(8)(PO_(4))_(5)FxH_(2)O]で示されであるフッ化リン酸カルシウムである請求の範囲第1項に記載の複合体。
・・・
8.活性成分として請求の範囲第1項から第7項のいずれか1項に記載の複合体を含み、カルシウム、フッ化物、およびリン酸イオンを目的部位に供給する運搬媒介物。
9.練り歯磨き、歯磨き粉、液体歯磨剤、マウスウォッシュ、トローチ、チューインガム、デンタルペースト、歯肉マッサージクリーム、含漱タブレット、乳製品および他の食料のいずれか1つである請求の範囲第8項に記載の運搬媒介物。」

(刊3-2)「我々は、カゼインホスホペプチドによって安定化されたX≧1のリン酸カルシウムCa_(3)(PO_(4))_(1.87)(HPO_(4))_(0.2x)H_(2)Oの無定形体が最も溶解性に優れ、非晶性リン酸カルシウムの基本的形態であり、齲歯を防ぎカルシウムの生理的利用性を増加するリン酸カルシウムの優れた形態であることを見出した。無定形リン酸カルシウム(例えば、ACP)は、ホスホペプチドの存在下に、pH7を越えた状態(好ましくは9.0)で、カルシウムイオン(例えば、CaCl_(2))とリン酸イオン(例えば、NaHPO_(4))とを注意深く滴下して形成されなければならない。ACPが形成されると、ホスホペプチドは発生期の核に結合しホスホペプチド-ACP複合体としてACPを安定化する。ホスホペプチドが無ければACPは溶液中で凝縮し、最も安定なリン酸カルシウム相と結晶水酸化アパタイト(HA)に数分以内に形を変える。HAは不溶性で抗顛食原性活性を制限し、カルシウムの生物的利用性が低い。水酸化アパタイトより溶解性に優れるが、リン酸カルシウムCaHPO_(4)の酸性相はホスホペプチドとの結合が弱く歯の表面に十分に存在できず、それゆえ抗齲食原性活性が制限される。無定形リン酸カルシウムを安定化する前述したホスホペプチドと、特にSer(P)モチーフの予期せぬ能力は、米国特許第5,015,628号に開示も示唆もされておらず、カルシウム治療および供給に優れる新規かつ明白な利点を有する安定化された無定形リン酸カルシウム複合体を生産する方法を初めて提供する。米国特許第5,015,628号は、前記ホスホペプチドによって安定化され、優れた抗齲食原性を付与するため歯の表面に局在しうることを我々が見出したX≧1のユニークな無定形カルシウムフルオライドホオスフェート相Ca_(8)(PO_(4))_(5)FxH_(2)Oを開示しない。無定形リン酸カルシウム体を安定化する予期されぬ能力は本願発明の基礎をなす。」(第6頁下から5行?第7頁下から10行)

(刊3-3)「発明の要旨
1の見地において、本発明は、ホスホペプチドによって安定化された無定形リン酸カルシウムまたはその誘導体を含有する、該安定なリン酸カルシウム複合体を提供し、該ホスホペプチドは、Ser(P)-Ser(P)-Ser(P)-Glu-Glu-配列を含む。
無定形リン酸カルシウム(ACP)は、好ましくはx≧1である式[Ca_(3)(PO_(4))_(1.87)(HPO_(4))_(0.2x)H_(2)O]である。リン酸カルシウム誘導体は、x≧1である式[Ca_(8)(PO_(4))_(5)FxH_(2)O)]のカルシウムフルオライドホスフェートであってもよく、無定形カルシウムフルオライトホスフェート(ACFP)がある。
ホスホペプチド(PP)はいずれに由来するものでもよく、コア配列Ser(P)-Ser(P)-Ser(P)-Glu-Glu-を含有するのであれば、ホスフィチン等の他の富リン酸タンパク質やカゼインのトリプシン消化、化学的または遺伝子組換えによって得られたものであってもよい。このコア配列の側面部の配列はいずれでもよい。しかしながら、_(αs1)(59-79)[1]、β(1-25)[2]、_(αs2)(46-70)[3]または_(αs2)(1-21)[4]に含まれるフランキング配列(flanking sequence)であることが好ましい。このフランキング配列は、1以上の残基の置換、削除、追加によって任意に改変されたものであってもよい。このフランキング部の配列やアミノ酸組成は、ペプチドの構造が維持される限りこれに制限されるものではなく、カルシウムと相互作用するホスホリルやカルボキシル基の全ては、選択フランキング部がモチーフの構造的な機能に寄与するように維持される。
この形成された複合体は、好ましくはnが1以上、例えば6である式[(PP)(CP)_(8)]_(n)である。この複合体は、コロイド状の複合体であってもよい。
ホスホペプチドはACPクラスタに結合し、核形成や析出反応を開始する大きさへACPが成長することが害される準安定な溶液を製造する。このようにして、カルシウムやフッ化物イオンなどの他のイオンが例えば歯の表面におかれ、脱イオン症を防ぎ、齲歯の形成を防止する。」(第7頁下から9行?第8頁下から10行)

(刊3-4)「次いで、第2の見地によれば、本発明は、前記した安定なリン酸カルシウム複合体を提供し、複合体は、カルシウムに限定されずフッ化物イオンやリン酸イオンなどを共に目的部位に存在させる媒介物として作用する。好ましい態様では、この複合体は、優れた抗齲歯有効性を示す緩速放出無定形体である。
本発明の特に好ましい態様では、該安定なカルシウム複合体が、齲歯の治療や予防を補助する練り歯磨き、マウスウォッシュまたは口腔用製剤などの歯磨き剤に配合される。このカルシウム複合体は、組成物中0.05?50重量%、より好ましくは1.0?50重量%である。口腔用組成物では、組成物中のCPP-ACPおよび/またはCPP-ACFPの配合量が、0.05?50重量%、より好ましくは1.0?50重量%である。前記薬剤を含有する本発明の口腔組成物は、練り歯磨き、歯磨き粉、液体歯磨き剤、マウスウォッシュ、トローチ、チューインガム、歯科用軟骨、歯肉マッサージクリーム、嗽剤、乳製品および他の食料品など歯磨き剤のように口腔に用いる種々の形態に使用しおよび調製することができる。本発明の口腔組成物は、更に特に口腔組成物を成型するための公知の配合物を含んでもよい。」(第8頁下から9行?第9頁6行)

(4)刊行物4に記載された事項
(刊4-1)「新しい抗う触性物質・リカルデント登場」(標題参照)

(刊4-2)「牛乳タンパク質から作られた新しい抗う触性物質・リカルデンTM(CCP-ACP)が入ったガムが2000年5月1日に発売になりました。」(1行?2行)

(刊4-3)「*内容*
*う蝕の発生を抑えるためには、初期う蝕の段階で再石灰化を促すこと*
*脱灰と再石灰化(→リンク)の解説と牛乳タンパク質から作られた抗う触性物質「リカルデント」について講演がありました*
詳細:牛乳タンパク質から作られた抗う触性物質「リカルデント」について。
リカルデント(CPP-ACP)は、オーストラリア・メルボルン大学歯学部教授 エリック・C・レイノルズ博士の20年に渡る研究とオーストラリア最大の乳製品メーカーであるボンラック フーズ リミテッド社との研究・開発の末に生まれた新しい画期的な成分です。
CCP:カゼインホスホペプチド、牛乳タンパク質を酵素で消化したリン酸ペプチド。
ACP:非結晶性リン酸カルシュウム
リカルデント(CPP-ACP):リン酸カルシュウムを沈殿させないで過飽和の状態にするユニークな機能を有し、人や動物実験で歯牙表面に局在している自然発生したう蝕を抑制し、再石灰化することが確認されています。
特徴的なのは、歯面=エナメル質の内側まで透過し、再石灰化=う蝕を修復させる事です。
リカルデント(CPP-ACP)は、キシリトールのような代替甘味料ではありません。つまり、直接エナメル質表層下まで浸透し、初期う蝕を内部から修復させるという点において区別されます。
リカルデントガムは、キシリトールを糖質中50%含んでいます。」(「*内容*」の欄を参照)

第5 刊行物1に記載された発明
上記摘示(刊1-1)には、
「【請求項1】ガムベースおよび下記成分:
A. クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、アジピン酸、フマル酸、コハク酸、グルコノデルタラクトン、アスコルビン酸、乳酸およびこれらの混合物よりなる群から選択される少なくとも1つの粒状の食用酸;
B. レシチン、ステアレート、ステアレートのエステル誘導体、パルミテート、パルミテートのエステル誘導体、オレエート、オレエートのエステル誘導体、グリセリド、グリセリドのエステル誘導体、スクロースポリエステル、ポリグリセロールエステル、動物性ワックス、植物性ワックス、合成ワックス、石油ワックスおよびこれらの混合物よりなる群から選択される乳化剤;および、
C. デリバリーシステムの総組成物の重量の約30?約93重量%の量で存在し、分子量約2,000?約65,000のポリ酢酸ビニル
を含有する酸の制御された放出を可能にする安定な食用酸デリバリーシステムを含有する延長された酸味、フレーバーおよびジューシーさの継続を有するチューインガム組成物。
【請求項2】食用酸がチューインガム組成物の約0.1?約10重量%の量で存在する請求項1記載のチューインガム組成物。
【請求項21】充填剤、着色剤、フレーバー剤、軟化剤、可塑剤、エラストマー、エラストマー溶媒、甘味剤およびこれらの混合物が更に含有される請求項1記載のチューインガム組成物。」が記載され、これらの引用関係を整理すると、刊行物1には、
「ガムベースおよび下記成分:
A. クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、アジピン酸、フマル酸、コハク酸、グルコノデルタラクトン、アスコルビン酸、乳酸およびこれらの混合物よりなる群から選択される少なくとも1つの粒状であって、チューインガム組成物の約0.1?約10重量%の量で存在する食用酸;
B. レシチン、ステアレート、ステアレートのエステル誘導体、パルミテート、パルミテートのエステル誘導体、オレエート、オレエートのエステル誘導体、グリセリド、グリセリドのエステル誘導体、スクロースポリエステル、ポリグリセロールエステル、動物性ワックス、植物性ワックス、合成ワックス、石油ワックスおよびこれらの混合物よりなる群から選択される乳化剤;および、
C. デリバリーシステムの総組成物の重量の約30?約93重量%の量で存在し、分子量約2,000?約65,000のポリ酢酸ビニル
を含有する酸の制御された放出を可能にする安定な食用酸デリバリーシステムを含有する延長された酸味、フレーバーおよびジューシーさの継続を有するチューインガム組成物であって、充填剤、着色剤、フレーバー剤、軟化剤、可塑剤、エラストマー、エラストマー溶媒、甘味剤およびこれらの混合物が更に含有されるチューインガム組成物。」(以下「引用発明1」という。)という発明が記載されていると認められる。

第6 対比
1 本願明細書の段落【0058】には、
「菓子組成物には、チューインガム組成物以外に、キャンディが包含される。菓子組成物は、ガムベースの代わりに製菓用担体を含有することができる。上記製菓用担体は、従来技術において公知の様々な担体から選択できる。適切な担体の選択は、調製しようとする菓子のタイプに依存する。」との記載があり、上記「菓子組成物には、チューインガム組成物以外に、キャンディが包含される。」の記載によると、本願発明に係る菓子組成物には、チューインガム組成物が含まれると解せられる。
(具体的な菓子組成物の実施例である実施例1及び2では、いずれもチューンガムであることを勘案しても、上記のように解される。)

そうすると、引用発明1の「チューインガム組成物」は本願発明の「菓子組成物」に相当し、また、引用発明1の「ガムベース」は本願発明の「(a)製菓用担体」に相当する。
2 引用発明1は「充填剤、着色剤、フレーバー剤、軟化剤、可塑剤、エラストマー、エラストマー溶媒、甘味剤およびこれらの混合物が更に含有」されるもので、「甘味剤」が例示され、これは「甘味料」と同じことは明らかであるから、本願発明の「(b)少なくとも1つの甘味料」に相当する。

3 本願発明の「(d)少なくとも1つの食品グレードの酸」について、本願明細書の記載を参照すると、段落【0023】には「本明細書で用いられる用語「食品グレードの酸」とは、食用組成物への使用が許可されているあらゆる酸のことを指す。」と記載され、段落【0121】には「チューインガム及び菓子組成物中に含有させる少なくとも1つの食品グレードの酸としては、限定されないが、酢酸、アジピン酸、アスコルビン酸、酪酸、クエン酸、ギ酸、フマル酸、グルコン酸、乳酸、リンゴ酸、リン酸、シュウ酸、コハク酸、酒石酸、及びそれらの組み合わせが挙げられる。」と記載されていることから、引用発明1の「A. クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、アジピン酸、フマル酸、コハク酸、グルコノデルタラクトン、アスコルビン酸、乳酸およびこれらの混合物よりなる群から選択される少なくとも1つの粒状の食用酸」は、本願発明の「(d)少なくとも1つの食品グレードの酸」に相当する。
そして、本願発明では「食品グレードの酸を、0.01?20重量%の量で含み」,引用発明1では「約0.1?約10重量%の量で存在する食用酸」であるから、引用発明1のその使用量は、本願補正発明の使用量と重複する範囲を含んでいる。

4 引用発明1の「チューインガム組成物」は、「A.・・・食用酸」と「B・・・乳化剤」と「C.・・・ポリ酢酸ビニル」を「含有する酸の制御された放出を可能にする安定な食用酸デリバリーシステムを含有する」ものであって、また「食用酸」は「粒状」のものであるが、この「食用酸デリバリーシステム」について、刊行物1を参照すると、「食用酸デリバリーシステム」は、「ポリ酢酸ビニル」および「乳化剤」を溶融して混合した後、「固体食用酸」を添加して混合し、ポリ酢酸ビニル/乳化剤混合物で食用酸を閉じ込めてカプセル化したものである((刊1-1)【請求項22】,(刊1-3)【0029】)。
一方、本願発明の「菓子組成物」について、本願明細書の記載を参照すると、段落【0124】に「少なくとも1つの食品グレードの酸を、カプセル封入された形態、及び/又はカプセル封入されていない形態で使用してもよい。」と記載され、実施例として、段落【0152】に「制御放出(すなわち封入)形態の、CPP-ACP及び幾つかの食品グレードの酸(アジピン酸、クエン酸及びリンゴ酸)の例を示す。実施例3の封入されたCPP-ACPを、齲食抑制用のチューインガム又は菓子組成物に使用してもよい。また、封入されたCPP-ACPを、実施例4から6の1つ以上のカプセル封入された酸と組み合わせて用い、チューインガム又は菓子組成物に、再石灰化効果、及び/又は歯表面への酸耐性の付与効果を提供することができる。」として、例えば、段落【0157】?段落【0158】に「実施例4:アジピン酸の封入(ポリビニル酢酸マトリックス)」として、「ポリビニル酢酸」、「グリセロールモノステアレート」、「アジピン酸」を含ませた、酸をカプセル封入した例などが記載されている。そして、ここで例示された「アジピン酸」は固体で粒状のものといえる。
そうすると、本願発明は、乳化剤とポリ酢酸ビニルで、粒状の食用酸をカプセル封入して、食用酸を封入された形態で菓子組成物に含む場合がある。

5 してみれば、本願発明と引用発明1では、次の点で一致している。

「チューインガム組成物であって、
(a)ガムベースと、
(b)少なくとも1つの甘味料と、
(d)少なくとも1つの食品グレードの酸を0.01?20重量%含んでなる組成物。」

6 そして、次の点で相違している。

菓子組成物が、本願発明では、さらに「カゼインリンペプチド-リン酸カルシウム」を「0.5?5重量%の量」で含むのに対し、引用発明1では、この点について言及がない点。(以下「相違点A」という。)

第7 判断
1 相違点Aについて
刊行物1の【従来の技術】に記載されているように、チューイングガム組成物に柑橘類フレーバーなど、所望の酸味作用を得るために食用酸を添加することは良く行われていることであり(摘示(刊1-2))、一方で、食品に含まれる酸の作用によって歯表面の脱石灰化が引き起こされることは、例えば下記刊行物A?Dに記載されるように本願優先日前のよく知られた事項であって、これらのことは本願の明細書の段落【0003】においても「更なる、多くのチューインガム及び菓子製品(特にフルーツ風味の製品)は、例えば風味又は味覚システムの一部として酸を含有する。現在では多くの消費者(特に児童)がフルーツ味のチューインガム及び菓子製品を消費している。しかしながら、上記の酸によって歯表面のミネラル物質の消失が生じ、齲食を生じさせやすくなる。」と記載して【背景技術】としているとおりである。

刊行物A:特開昭62-212317号公報(第2頁左上欄13行?15行):「歯科学において通常遭遇する問題の一つに、酸の作用により引き起こされる歯の脱石灰化がある。」と記載されている。

刊行物B:特開平10-87461号公報(段落【0005】第2欄14行?17行):「乳酸飲料、炭酸飲料、一部のキャンデーなども、そのものに酸が含まれているため、歯を直接溶解することが問題となっている。」と記載されている。

刊行物C:特表2001-515019号公報(段落【0001】第5頁7行?9行)「歯の侵食は、とりわけ、正常な無機質化プロセスにより置換されうるよりも早く歯からカルシウムを浸出させる酸性食品により引き起こされると考えられている。」と記載されている。

刊行物D:特表2004-505027号公報(段落【0002】第2頁下から4行?2行)「虫歯および歯芽浸食は、歯の表面のエナメル(質)に酸が作用することにより起こる。歯芽浸食は典型的に、果実酸などの酸を直接消費することに関係しており、虫歯は糖の消費に関係している。」と記載されている。

そして、刊行物2?4に記載されているとおり(摘示(刊2-3)、摘示(刊3-2及び3)並びに摘示(刊4-3))、歯表面の脱石灰化を抑制し、再石灰化を促進させる物質としてカルシウムカゼインペプトン-リン酸カルシウム(CPP-ACP)は本願優先日前によく知られた物質であり、また、当該物質をチューイングガムに含有させて使用することも、刊行物2?4に記載されているとおり(摘示(刊2-1及び3),摘示(刊3-1及び4)並びに摘示(刊4-2及び4))、本願優先日前によく行われていたことである。
なお、カルシウムカゼインペプトン-リン酸カルシウム(CPP-ACP)は、カゼインリンペプチドーリン酸カルシウムと同じものであることは、本願の明細書段落【0004】にも「カゼインリンペプチド-リン酸カルシウム錯体・・・(別名CPP-ACP錯体又はカルシウムカゼインペプトン-リン酸カルシウム)」と記載されているとおり、明らかである。
そうすると、引用発明1の酸を含んだチューイングガム組成物において、酸によって歯の脱石灰化が引き起こされるとのよく知られた事項に基づいて、これを抑制するために、歯の再石灰化を促進させる物質であるCPP-ACP、すなわち本願発明の「カゼインリンペプチド-リン酸カルシウム」を含有させることは、刊行物2?4に記載された周知の技術を参照して当業者が容易になし得たことである。

そして、歯の再石灰化を促進させる物質であるCPP-ACPについては、刊行物2には、チューイングガム中に約0.01重量%?約30重量%程度、あるいは、約0.01重量%?約10重量%程度、含ませることが(摘示(刊2-1))、また、実施例としては、ペレット型チューイングガム中にCPP-ACPを0.71重量%含むことが(摘示(刊2-4))記載され、さらに、刊行物3には、チューイングガムなど口腔用組成物中に0.05?50重量%、より好ましくは1.0?50重量%配合することが(摘示(刊3-4))、記載されている。
そうすると、引用発明1の酸を含んだチューイングガム組成物において、酸による歯の脱石灰化を抑制するために、歯の再石灰化を促進させる物質であるCPP-ACPを含有させることは、刊行物2?4に記載された周知の技術を参照して当業者が容易になし得たことであり、その際、CPP-ACPについては、酸による歯の脱石灰化を抑制し、歯の再石灰化を促進させる程度の量を含有させるものであり、これを0.5?5重量%程度の量とすることも、刊行物2や刊行物3に記載された事項、特に刊行物2の具体的な実施例として0.71重量%含有させることが記載されていることからすると、当業者が適宜に設定し得たものである。

2 本願発明の効果について
哺乳類の歯表面を再石灰化し、及び/又は酸耐性を付与するための、酸含有組成物の提供に関するものであって、CPP-ACPを含まない同様の組成物よりも顕著に高いレベルで、歯表面を再石灰化させ、及び/又は酸耐性を付与することができるなどの本願発明の効果は、刊行物1に記載された事項及び刊行物2?4に記載された周知の技術から当業者が予測し得たものであり、格別顕著なものとはいえない。

3 審判請求人の主張について
(1)審判請求人は平成24年4月17日付け審判請求書の「(3)本願の請求項1に係る発明(本願発明1)について」の項において、以下のとおりに主張している。

「しかしながら、たとえ当業者であっても、CPP-ACP及び酸を含有する菓子製品が、CPP-ACPを含有せず酸だけを含有する菓子製品に比べて高い酸耐性を発揮することを予測し得るにとどまり、CPP-ACP及び酸のいずれも含有しない菓子製品に比べて高い酸耐性を発揮することまでも予測し得るとはいえません。当業者であれば、CPP-ACP及び酸を含有する菓子製品が、CPP-ACP及び酸のいずれも含有しない菓子製品に比べて高い酸耐性を発揮するようにするためには、酸を含有する菓子製品に対して相当に多量のCPP-ACPを加えなければならないと予想します。しかしながら、出願人は、その予想に反し、引用文献1に開示される0.1?10重量%と略同等の量である0.01?20質量%の食品グレードの酸を含む菓子組成物又は菓子用担体に対し、CPP-ACPが0.5?5質量%(実施例では僅か0.769質量%)という、引用文献3?5に開示されるのと同等以下の量で十分な酸耐性を与えることを見出だしております(表5)。そして、引用文献3等の記載に基づき、「CPP-ACPが、再石灰化作用だけでなく歯垢酸を緩衝化する作用を有する」ことが公知であったとしても、引用文献3?5のいずれもがCPP-ACPとともに食品グレードの酸を含むものでない以上、0.01?20質量%の食品グレードの酸を含む菓子組成物又は菓子用担体に、CPP-ACPが0.5?5質量%という極めて少量で、十分な酸耐性を与えることができるという効果は、当業者の予想を超える格別なものであるといえます。
したがいまして、たとえ当業者であっても引用文献に記載の発明に基づいて本願発明1に容易に想到できるとはいえず、本願発明1は進歩性を有すると思料します。」

(2)そこで、本願発明の「カゼインリンペプチド-リン酸カルシウムを、0.5?5重量%の量で含」むことについて、本願明細書の記載を参照すると、本願明細書中には、「カゼインリンペプチド-リン酸カルシウム」を含んだ菓子組成物における含有量について、以下のとおりに記載している。

「【0120】上記チューインガム及び菓子組成物はまた、CPP-ACP及び少なくとも1つの食品グレードの酸を含有する。上記の通り、CPP-ACPは通常、チューインガム又は菓子組成物中に約0.5%?約5重量%の量で存在させてもよい。より具体的には、歯表面を再石灰化し及び/又は酸耐性を付与するためのチューインガム及び菓子類に係る幾つかの実施形態では、CPP-ACPは組成物中に約0.5%?約1.5重量%の量で存在させてもよい。」

(3)本願明細書中の上記記載およびその他の記載を参照しても、本願発明の「カゼインリンペプチド-リン酸カルシウムを、0.5?5重量%の量で含」むことについて、その数値範囲の上限値、下限値については、特に臨界的意義は説明されておらず、よって、数値限定については格別の臨界的意義を有するとすることはできない。

(4)そして、本願明細書の実施例の記載を参照すると、「カゼインリンペプチド-リン酸カルシウム」を含んだ菓子組成物について、実施例2(段落【0143】?段落【0151】)に、CPP-ACP及びクエン酸を含有するシュガーレスチューイングガムペレットが記載されている(段落【0144】)ものの、CPP-ACPとクエン酸の含有量については、CPP-ACPを0.769重量%、酸を0.655重量%含むものの1例が記載されているのみである(段落【0145】)。
そうすると、食品グレードの酸を0.655重量%含むものについては、CPP-ACPを0.769重量%含有することで、一定の再石灰化や酸耐性を示すことは把握できるとしても、酸の量に対してCPP-ACPの量が多いのか少ないのか、その相関までが把握できるものとはいえない。

(5)そして、「1 相違点Aについて」で検討したように、CPP-ACPについては、酸による歯の脱石灰化を抑制し、歯の再石灰化を促進させる程度の量を含有させるものであり、刊行物2には「CPP-ACPは、脱無機質化を抑制し、再無機質化を促進しながら、歯垢酸を緩衝化する。」(摘示(刊2-3))と記載されていることから、歯垢酸を緩衝化するCPP-ACPが、食用酸を緩衝化することも予測され、加えて、0.5?5重量%という数値のCPP-ACPの量は、格別なものではなく、それを菓子組成物に適用した場合に、予測し得る効果を単に確認したものにすぎないともいえる。
そうするとCPP-ACPの含有量が0.5?5重量%程度で一定の効果が得られたことも格別なものとはいえないから、上記審判請求人の主張は採用できない。

第8 むすび
以上のとおり、本願発明1は、刊行物1に記載された発明及び刊行物2?4に記載された周知の技術に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本出願に係る他の請求項について検討するまでもなく、本出願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-11-01 
結審通知日 2013-11-12 
審決日 2013-11-28 
出願番号 特願2009-504292(P2009-504292)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小金井 悟  
特許庁審判長 鳥居 稔
特許庁審判官 竹之内 秀明
前田 仁
発明の名称 酸含有菓子組成物中のリン酸カルシウム錯体  
代理人 藤田 和子  

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