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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 F01N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F01N
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F01N
管理番号 1287064
審判番号 不服2012-24748  
総通号数 174 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-06-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-12-13 
確定日 2014-04-23 
事件の表示 特願2009-540211「排気冷却を有するエンジン及びその方法」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 6月12日国際公開、WO2008/069780、平成22年 4月15日国内公表、特表2010-511838〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

この出願の手続の経緯は以下のとおりである。

平成18年12月 5日 国際出願(PCT/US2006/4619 3)
平成21年 7月21日 国際出願翻訳文提出書の提出
同 条約19条補正翻訳文提出書の提出
11月11日 出願審査請求書の提出
平成23年 8月12日付け 拒絶の理由の通知(同年8月16日書面
発送)
12月16日 意見書及び手続補正書の提出
平成24年 3月27日付け 最後の拒絶の理由の通知(同年4月3日
書面発送)
7月 3日 意見書及び手続補正書の提出
8月 7日付け 補正却下の決定(同年8月14日書面発
送)
同 拒絶の査定(同年8月14日書面発送)
12月13日 審判請求書の提出
同 手続補正書の提出
平成25年 3月 1日付け 審尋(同年3月5日書面発送)
6月 3日 回答書の提出

第2 平成24年12月13日付け手続補正書による補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]

平成24年12月13日付けの手続補正書による補正を却下する。

[理由]

1 補正の内容及び目的
平成24年8月7日付けの補正の却下の決定により、平成24年7月3日付けで特許請求の範囲についてする補正は却下されているので、平成24年12月13日付け手続補正書により特許請求の範囲についてする補正(以下、「本件補正」という。)は、平成23年12月16日に提出した手続補正書により補正する特許請求の範囲について、さらに補正をするものであって、そのうち、本件補正の補正前後の請求項1の記載は以下のとおりである。

<補正前>
「 エンジン装置であって、
エンジンと、
前記エンジンの下流の排気ラインと、
前記排気ラインにおける後処理装置と、
冷却流体源と前記排気ラインにおける前記後処理装置より上流の地点との間の導管と、
前記排気ラインにおける前記地点の付近の温度センサと、
前記温度センサから信号を受信するためのコントローラと、
冷却流体を前記排気ラインに選択的に導入するために、前記温度センサからの信号に応答して前記コントローラにより開放状態若しくは閉鎖状態に切り替え制御される、前記導管における弁とを含み、
前記後処理装置がSCRを含み、
前記後処理装置の上流に、上流の後処理装置であるDPFが設けられ、前記排気ラインにおける前記地点が、前記DPFと前記後処理装置との間に配置されているエンジン装置。」

<補正後>
「 エンジン装置であって、
エンジンと、
前記エンジンの下流の排気ラインと、
前記排気ラインにおける後処理装置と、
冷却流体源と前記排気ラインにおける前記後処理装置より上流の地点との間の導管と、
前記排気ラインにおける前記地点の付近の温度センサと、
前記温度センサから信号を受信するためのコントローラと、
冷却流体を前記排気ラインに選択的に導入するために、前記温度センサからの信号に応答して前記コントローラにより開放状態若しくは閉鎖状態に切り替え制御される、前記導管における弁とを含み、
前記後処理装置がSCRを含み、
前記後処理装置の上流に、上流の後処理装置であるDPFが設けられ、前記排気ラインにおける前記地点が、前記DPFと前記後処理装置との間に配置されており、
前記流体源が、前記エンジンの上流で且つ前記エンジンに通じる吸気ラインを含み、
第2の温度センサを、前記導管が前記流体源に接続している地点の付近に含み、前記コントローラが、前記第2の温度センサからの信号を受信し、前記コントローラが、前記弁を、前記温度センサからの前記信号、及び前記第2の温度センサからの前記信号の関数として制御する、エンジン装置。」
(当審注:下線は、請求人が補正箇所を明示するために付したものである。)

本件補正の補正前後の請求項1の記載をみると、本件補正は、実質的に、本件補正前の請求項1に記載した発明特定事項に、「前記流体源が、前記エンジンの上流で且つ前記エンジンに通じる吸気ラインを含み、第2の温度センサを、前記導管が前記流体源に接続している地点の付近に含み、前記コントローラが、前記第2の温度センサからの信号を受信し、前記コントローラが、前記弁を、前記温度センサからの前記信号、及び前記第2の温度センサからの前記信号の関数として制御する、」という発明特定事項、換言すれば、流体源の態様及び第2の温度センサの態様を追加したものであって、本件補正前の請求項1を引用する請求項5及び同様に引用する請求項7に記載した発明特定事項を共に追加したものに相当するから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「改正前特許法」という。)17条の2第4項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的としたものに該当する。

次に、本件補正の補正後の請求項10は、補正前の請求項12に対応するものと認められるところ、両者の記載は以下のとおりである。

<補正前の請求項12>
排気ラインにおける温度を制御する方法であって、
排気を、SCRを含む後処理装置よりも上流の後処理装置であるDPFに、上流温度にて導入するステップと、
前記上流温度を上昇させるステップと、
排気ラインにおける排気温度を、前記DPFと前記後処理装置との間の地点にて測定するステップと、
前記測定された温度に対応する信号をコントローラに送信するステップと、
冷却流体を前記排気ラインに、前記測定ポイントにて、前記排気ラインと冷却流体源との間のラインに配置されている弁を前記測定された温度の関数として前記コントローラにより開放状態若しくは閉鎖状態に切り替え制御することにより導入するステップとを含む方法。」

<補正後の請求項10>
「 排気ラインにおける温度を制御する方法であって、
排気を、SCRを含む後処理装置よりも上流の後処理装置であるDPFに、上流温度にて導入するステップと、
前記上流温度を上昇させるステップと、
排気ラインにおける排気温度を前記DPFと前記後処理装置との間の地点にて測定するとともに、エンジンの上流で且つ前記エンジンに通じる吸気ラインにおける温度を測定するステップと、
前記測定された温度に対応する信号をコントローラに送信するステップと、
冷却流体を前記排気ラインに、前記測定ポイントにて、前記排気ラインと、エンジンの上流で且つ前記エンジンに通じる吸気ラインを含む冷却流体源と、の間のラインに配置されている弁を前記測定された温度の関数として前記コントローラにより開放状態若しくは閉鎖状態に切り替え制御することにより導入するステップとを含む方法。」
(当審注:下線は、審判請求人が補正箇所を明示するために付したものである。)

本件補正の補正前の請求項12と補正後の請求項10の記載をみると、本件補正は、実質的に、前記請求項1と同様の趣旨で発明特定事項を追加したものに相当するから、改正前特許法17条の2第4項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的としたものに該当する。

そして、本件補正後の特許請求の範囲のその余の請求項については、いずれも、同請求項1又は10を引用して記載されたものであるから、同請求項1又は10と同様に特許請求の範囲の減縮を目的としたものである。

また、本件補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面(すなわち、特許法184条の6第2項及び3項により、それぞれ、同法36条2項の規定により願書に添付して提出したものとみなす明細書、特許請求の範囲及び図面。以下、特記しない限り、かかる明細書、特許請求の範囲及び図面(必要な場合には、手続補正書により補正されたそれら明細書、特許請求の範囲及び図面。)を総称して、「本願明細書等」ということがある。)に記載した事項の範囲内においてしたものである。

したがって、本件補正は、改正前特許法17条の2第3項及び4項に規定する要件を充足するものと認める。

2 本件補正の独立特許要件の充足性について

前記したとおり、本件補正は、改正前特許法17条の2第4項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるので、同法17条の2第5項において準用する同法126条5項に規定する要件(以下、「独立特許要件」という。)を充足するか否かについて検討すべきところ、請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)について検討する。

(1)本件補正発明の認定

本件補正発明は、特許法184条の6第2項及び3項により、それぞれ、同法36条2項の規定により願書に添付して提出したものとみなす明細書、特許請求の範囲及び図面並びに平成24年12月13日付けで補正した特許請求の範囲の記載からみて、前記「1」「<補正後>」に記載したとおりのものであると認める。

(2)引用文献及びその記載

この出願前に外国において頒布された刊行物である欧州特許出願公開1630369号明細書(2006年3月1日発行。原査定の拒絶の理由で引用した刊行物でもある。以下、「引用文献」という。)には、「Verfahren zum Betreiben einer Abgasreinigungseinrichtung einer Brennkraftmaschine insbesondere eines Kraftfahrzeugs」(「自動車用内燃機関の排ガス浄化装置の操作方法」。この翻訳文は当審による仮訳文である。以下同じ。)に関し、図面とともに、例えば、次のような記載がある。

なお、以下、引用文献を摘記する記載においては、独語による文字表記を、「a」、「o」及び「u」の変音については、それぞれ変音記号の代わりに当該変音文字の後に「e」の文字を付すことにより(大文字も同様の対応であり、語法に応じて「e」の文字は小文字とすることもある。)、また、所謂エスツェット文字については、当該文字に代えて「ss」と表記する。

ア 「[0001] Die Erfindung betrifft ein Verfahren zum Betreiben einer Abgasreinigungseinrichtung einer Brennkraftmaschine insbesondere eines Kraftfahrzeugs mit einem in einer Abgasleitung der Brennkraftmaschine angeordneten Partikelfilter, fuer den von Zeit zu Zeit Regenerationsvorgaenge mit einem thermischen Russabbrand vorgesehen sind und einem dem Partikelfilter nachgeschalteten Abgaskatalysator.
・・・
[0005] Aufgabe der Erfindung ist es demgegenueber, ein Verfahren zum Betreiben einer Abgasreinigungseinrichtung mit einem Partikelfilter und einem dem Partikelfilter nachgeschalteten Abgaskatalysator anzugeben, welches thermische Russabbrandvorgaenge unter Vermeidung einer uebermaessigen Aufheizung des Abgaskatalysators bzw. des Partikelfilters ermoeglicht.」
(2ページ1欄3行から同欄36行まで。なお、引用文献の各ページの行番号については、便宜上、各ページの中央縦方向に表示された参照行番号を使用する。以下、同じ。)

イ 「[0007] Bei dem Verfahren wird bei der Durchfuehrung einer Regeneration des Partikelfilters durch Russabbrand eine Abgastemperatur zwischen dem Partikelfilter und dem Abgaskatalysator ermittelt und dem Abgas ein kuehlendes Fluid zugegeben, wenn die Abgastemperatur zwischen dem Partikelfilter und dem Abgaskatalysator eine insbesondere erste vorgebbare Grenztemperatur und/oder eine vorgebbare maximale Anstiegsgeschwindigkeit ueberschreitet.
・・・
[0009] Der Abgaskatalysator ist vorzugsweise als SCR-Katalysator ausgebildet, der zur katalytischen Umsetzung von Stickoxiden mit einem selektiven Reduktionsmittel geeignet ist. 」
(2ページ1欄39行から2欄15行まで。)

ウ 「[0010] In Ausgestaltung des Verfahrens erfolgt die Zugabe des kuehlenden Fluids in die Abgasleitung eingangsseitig des Partikelfilters und/oder zwischen dem Partikelfilter und dem Abgaskatalysator. Durch die Zugabe des kuehlenden Fluids in die Abgasleitung zwischen dem Partikelfilter und dem Abgaskatalysator wird die Eintrittstemperatur des in den Abgaskatalysator einstroemenden Abgases abgesenkt. Dadurch wird eine Schaedigung des Abgaskatalysators durch Ueberhitzung vermieden. Vorteilhaft ist es in diesem Zusammenhang, wenn die Zugabemenge des kuehlenden Fluids so eingestellt wird, dass ein vorgebbarer Schwellenwert fuer die Temperatur des in den Abgaskatalysator eintretenden Abgases nicht ueberschritten wird. 」
(2ページ2欄29行から同欄42行まで。)

エ 「[0011] In weiterer Ausgestaltung des Verfahrens wird die Zugabemenge des kuehlenden Fluids wenigstens in Abhaengigkeit von der Abgastemperatur zwischen dem Partikelfilter und dem Abgaskatalysator eingestellt. ・・・Die Abgaseintrittstemperatur des Abgaskatalysators kann als Regelgroesse dienen. Es kann jedoch auch eine kennfeldgesteuerte Einstellung der Fluidzugabemenge vorgesehen sein. Besonders vorteilhaft ist es, wenn eine Solltemperatur fuer die Abgaseintrittstemperatur vorgegeben wird und gleichzeitig die Austrittstemperatur des Abgases aus dem Partikelfilter und der Abgasmassenstrom ermittelt werden. Es laesst sich daraus zur Erzielung der Solltemperatur eine Sollmenge fuer die Fluidzugabe ermitteln, welche gezielt eingestellt wird.」
(2ページ2欄58行から3ページ3欄27行まで。)

オ 「[0016] Vorteilhafte Ausfuehrungsformen der Erfindung sind in den Zeichnungen veranschaulicht und werden nachfolgend beschrieben.
・・・
[0019]・・・ Fuer die in das Abgas einzuspeisende Sekundaerluft kann ein Druckluftspeicher oder eine Foerdereinheit wie ein Geblaese oder ein Kompressor vorgesehen sein, was im Einzelnen nicht naeher dargestellt ist.」
(3ページ4欄32行から4ページ5欄33行まで。)

カ 「[0020] Nachfolgend wird ein bevorzugtes Verfahren zum Betreiben der in Fig. 1 dargestellten Abgasreinigungseinrichtung A naeher erlaeutert.
[0021] Bei normalem Betrieb des Motors 1 werden oxidierbare schaedliche Abgasbestandteile wie Kohlenmonoxid oder Kohlenwasserstoffe durch den Oxidationskatalystor 4 aus dem Abgas entfernt. Ferner erfolgt eine Reinigung der Abgase durch Ausfilterung der Russpartikel durch den Partikelfilter 5. ・・・Dennoch tritt im allgemeinen eine allmaehlich zunehmende Russbeladung des Partikelfilters 5 ein, so dass dieser in zunehmenden Mass verstopft und von Zeit zu Zeit eine Partikelfilterregeneration durch thermischen Russabbrand erforderlich wird.」
(4ページ5欄34行から同6欄4行まで。)

キ 「[0022] ・・・Wird eine kritische Beladung festgestellt, so wird, sobald ein hierfuer geeigneter und vom Steuergeraet 13 als zulaessig erkannter Motorbetriebszustand vorliegt, die Regeneration des Partikelfilters 5 durch thermischen Russabbrand eingeleitet.
・・・
[0026]
・・・Zur weiteren Verbesserung der Einstellgenauigkeit der Sekundaerluftzugabemenge kann eine Messung der Sekundaerlufttemperatur und/oder der Sekundaerluftzugabemenge beispielsweise mittels eines Thermoelements bzw. mittels einer Messblende vorgesehen sein.」
(4ページ6欄11行から5ページ7欄29行まで。)

[仮訳文]
ア 「[0001] 本発明は、排気管内に設けた、時々、煤を燃焼させることで再生できる粒子フィルタと粒子フィルタの後に設けた排ガス触媒を有する、自動車用内燃機関の排ガス浄化装置の操作方法を対象としたものである。
[0002] 種々の公開文書から、排ガスに二次空気を供給することで、排ガス触媒の温度を変えることが知られている。
[0003] DE10228660A1では、SCR触媒に入る排ガス温度を下げるために、比較的低温の空気を触媒の上流側に供給することが提案されている。こうすることで、触媒が冷却され、還元剤(還元性物質)の吸収能力が向上し、還元剤のすり抜けが防止できる。
[0004] DE19653958A1では、冷たい外気をエンジンとDenox(脱NOx)触媒の間の排ガス流内に射出することによって排ガスの冷却を行っている。こうすることで、触媒の温度が変換(反応)が最大になる温度より上昇することを防止できる。
[0005] 一方、本発明の課題は、粒子フィルタと、これに後続する排ガス触媒を有する排ガス浄化装置の操作法で、排ガス触媒、粒子フィルタの過剰な過熱を避けて煤の燃焼を可能にする方法である。」

イ 「[0007] この方法では、煤を燃焼して粒子フィルタを再生する場合に、粒子フィルタと排ガス触媒間の排ガス温度を測り、粒子フィルタと排ガス触媒間の排ガス温度が予め決めた第1限界温度を超えるか、予め決めた最大昇温速度を超えた場合に、冷却用流体を排ガスに供給する。粒子フィルタを再生する場合は、上記の必要条件が満たされているか、粒子フィルタに入る排ガスの温度が上昇開始しているかを確かめておくのが有効である。第1限界温度は、排ガス触媒、粒子フィルタに損傷を与える温度を考慮して決める。この関係を考慮すると、冷却のために供給する流体の量は、多分、いずれの場合も、排ガス浄化のために加える量より多くなると考えられる。
[0008] 煤の燃焼による再生には、排ガスの温度を約600℃に上げる必要がある。粒子フィルタ内、又は、その後方での排ガス温度が上がると、粒子フィルタに集積した煤の燃焼によって粒子フィルタや粒子フィルタ後部の排ガス触媒が熱損傷を受ける危険がある。本発明の方法では、この過熱による損傷を避けることができる。
[0009] 排ガス触媒は、できればSCR触媒が望ましい。この触媒は窒素酸化物を特定の還元物質で触媒変換するのに適している。」

ウ 「[0010] 本法では、粒子フィルタの入り口側、又は、粒子フィルタと排ガス触媒の間の排気管内に冷却用流体を入れる。冷却用流体を粒子フィルタと排ガス触媒の間の排気管内に入れることで、排ガス触媒に入る排ガスの温度を下げる。これによって、排ガス触媒の過熱による損傷を防ぐことができる。この場合、冷却用流体の供給量を排ガス触媒に入る排ガスの温度が、予め決めた閾値を越えないようにすることが望ましい。」

エ 「[0011] さらに、本法では、冷却用流体の供給量は、粒子フィルタと排ガス触媒間の排ガス温度によるが、できるだけ少量にする。粒子フィルタと排ガス触媒間の排ガス温度の他に、冷却用流体の供給量に影響を与える他のパラメータも利用できる。例えば、冷却用流体を粒子フィルタの入り口側に入れる場合、粒子フィルタ出口の温度の上昇速度を供給量の基準値として利用できる。これは、排ガス触媒に入る排ガスの温度が予め決めた値になる様にする場合に、供給量を決める場合に有効である。排ガスの入り口温度を希望値に調節しようとする時に、供給量を調節することも有効である。排ガス触媒に入る排ガスの温度も調整値として役立つ。また、供給量を周囲の条件を考慮して決めることも可能である。特に、排ガスの流入温度の希望値が予め決めてあり、粒子フィルタから出る排ガスの温度と排ガスの流量が分かる場合には特に有利である。これから、希望の温度を出すための供給量を求めることができる。」

オ 「[0016] 本発明の有効な実施形態について、図を示して説明をする。上記した特徴や後述する特徴は、それぞれに示した組み合わせだけでなく、他の組み合わせでも、また、単独でも、本発明の範囲を逸脱しない限り、利用可能なことは自明である。・・・
[0017] 図1に示した排ガス浄化装置Aの第1実施形態は、ここには示していない自動車の内燃機関1に結合している。内燃機関1は、空気吸入管2を通じて燃焼用空気を取り入れる。燃焼排ガスは排気管3を通って排出される。排気管3には、排ガス浄化用の構成部品として、順次、酸化触媒4、粒子フィルタ5、SCR触媒6が備えられている。内燃機関はディーゼルエンジンを対象とし、自動車は特に商用車を考慮対象とする。
[0018] 粒子フィルタ5の負荷状態を把握するために、第1圧力センサ7と第2圧力センサ8を、粒子フィルタ5の入り口側、出口側の排気管3に設ける。更に、第1温度センサ9と第2温度センサ10を、粒子フィルタ5とSCR触媒6の間の排気管3に設ける。センサ7、8、9、10の信号は、信号線11を通って電子制御装置(制御器)13に伝えられる。この装置は、これらの信号に応じて、エンジン1と排ガス浄化装置Aの作動を制御する。このための制御線の代表として、エンジンの作動を制御するためのエンジン制御線12を示した。
[0019] 温度センサ9、10の間の排気管3に、尿素水溶液(HWL)用の第1供給パイプ14と二次空気(SKL)用の第2供給パイプ15が通じている。尿素水溶液の供給量を調整するためにHWL調整装置16が設けられており、二次空気の供給量はSKL(二次空気)調整装置17で決められる。供給する尿素水溶液は、表示されていない供給タンクに貯えられており、これには、同じく表示されていない供給装置がある。排ガス中に供給する二次空気のためには、圧縮空気タンク、又は、ファン、コンプレッサの様な供給装置が設けられているが、ここには表示されていない。」

カ 「[0020] 以下、図1の排ガス浄化装置Aの望ましい作動方法について詳しく説明する。
[0021] エンジン1の通常の操作では、一酸化炭素や炭化水素等の酸化可能な有害排ガス成分は、酸化触媒4によって排ガスから除去される。更に、排ガスの浄化は、煤粒子を粒子フィルタ5で濾過することで行われる。排ガスに含まれている窒素酸化物は、SCR触媒6で還元される。・・・しかし、一般には、粒子フィルタ5には、徐々に煤が溜まり、詰りを起こすので、時々、煤を燃焼させて粒子フィルタの再生をする必要が生じる。」

キ 「[0022] ・・・臨界負荷値を決めておけば、これに対応して、制御装置13が再生許容と認めたエンジン作動状態になると、粒子フィルタ5の煤燃焼による再生が始まる。更に、エンジンの作動を粒子フィルタ5に流入する排ガスの温度を上げる様に、制御装置13によって変えることもできる。排ガスの温度は約650℃にするのが望ましい。また、吸入空気を絞るとか、燃料射出を遅くするとか、また類似のよく知られた対策を取ることもできる。
[0023] 制御装置13によって決められた粒子フィルタ再生に必要な条件が、対応する制御機構によって制御されても、粒子フィルタ5や後続のSCR触媒6が過熱するといった臨界状態になる危険性がある。これは、排ガスの流量が急減したりする場合などに、煤の燃焼が盛んになり熱の放出が大きくなることによって起きる。従って、粒子フィルタ5やSCR触媒6の材料に対して有害になる温度を、確実に越えない様にすることが特に重要である。
[0024] SCR触媒6の過熱を防ぐ本発明の方法を以下に詳述する。
[0025] 粒子フィルタ5から出る排ガスやSCR触媒6に入る排ガスの温度は、制御装置13が温度センサ9、10の信号を受けて認識する。これらの温度の一つ、特に、温度センサ10が測定した排ガス流入温度が、550-600℃の範囲内で決めた限界値を超えた場合には、供給管15を通じて二次空気を、供給管14を通じて尿素水溶液を供給する。その後の処理については下記する。
[0026] 1つの方法は、二次空気による排ガスの冷却である。この場合、温度センサ9、10の信号を参考にして、SKL(二次空気)調整装置17が二次空気供給量を決める。この決定は第2の温度センサ10が計測した排ガスの温度を調整値に使って調整することができる。二次空気供給量の決定は予め決めた温度限界を越えない様にすることが望ましい。しかし、二次空気供給量は、制御装置13で計算によって出し、SKL(二次空気)調整装置17を介して調整することもできる。このために、制御装置13は、温度センサ9や温度センサ10が測定した温度を利用する。例えば、これらの温度と目標とする温度低下度、制御装置13が入手できる実際の排ガス流量とから、混合計算(Mischungsrechnung)によって二次空気供給量を決める。二次空気供給を、ファン、又は、コンプレッサで行うときは、二次空気供給量は、これらの回転数で決める。圧縮空気タンクから取り出す場合には調整弁を付ける。その設置例を図1のSKL(二次空気)調整装置17に示した。二次空気供給量の精度を上げるためには、二次空気の温度、供給量の測定を、それぞれ、熱電対、オリフィスで行うことが考えられる。」

(3)引用発明の認定

以上の引用文献の記載を前提に、引用文献に記載された発明(以下、「引用発明」という。)の構成を、本件補正発明の構成に則して整理すると、引用発明は以下のとおりであるといえる。

「 内燃機関1の排ガス浄化装置Aであって、
内燃機関1と、
内燃機関1の下流の排気管3と、
排気管3における粒子フィルタ5及びSCR触媒6と、
排ガスを冷却する二次空気を供給する冷却流体源と排気管3におけるSCR触媒6より上流の箇所との間の第二供給パイプ15と、
排気管3における前記箇所の下流の温度センサ10と、
温度センサ10から信号を受信するための電子制御ユニット13と、
排気ガスを冷却する二次空気を排気管3に選択的に導入するために、温度センサ10からの信号に応答して電子制御ユニット13により制御される、第二供給パイプ15に設けられた二次空気調整装置17とを含み、
SCR触媒6の上流に、粒子フィルタ5が設けられ、排気管3における前記箇所が、粒子フィルタ5とSCR触媒6との間に配置されており、
温度センサ9を、排気管3における前記箇所の上流に設け、電子制御ユニット13が、温度センサ9からの信号を受信し、電子制御ユニット13が、二次空気調整装置17を、温度センサ9からの前記信号、及び温度センサ10からの信号に基づいて制御する、内燃機関の排ガス浄化装置。」

また、かかる引用発明の意義は、引用文献(特に、段落[0001]ないし[0005]、[0007]、[0008]等。)の記載によれば、少なくとも、排気管内に設けた、時々、煤を燃焼させることで再生できる粒子フィルタと粒子フィルタの後に設けた排ガス触媒を有する、自動車用内燃機関の排ガス浄化装置であって、従来、排ガスに二次空気を供給することで、排ガス触媒の温度を変えることが知られているところ、煤の燃焼による再生には、排ガスの温度を約600℃に上げる必要があり、その後方での排ガス温度が上がると、粒子フィルタに集積した煤の燃焼によって粒子フィルタ後部の排ガス触媒等が熱損傷を受ける危険があるので、その過熱による損傷を避けるというものであると理解される。

(4)対比 本件補正発明と引用発明とを対比する。

ア 相当関係について

引用発明の「内燃機関1」及び「内燃機関の排ガス浄化装置A」は、その構成、機能及び技術的意義に照らし、少なくとも、本件補正発明の「エンジン装置」に相当し、以下、同様に、引用発明の「内燃機関1」、「排気管3」、「『粒子フィルタ5』及び『SCR触媒6』」、「排ガスを冷却する二次空気を前記排気管に導入する箇所」、「排気ガスを冷却する二次空気を供給する圧縮空気タンク」、「第二供給パイプ15」、「温度センサ10」、「電子制御ユニット13」、「二次空気」、「SCR触媒6」、「粒子フィルタ5」、「空気吸入管2」、「温度センサ9」並びに「二次空気調整装置17を介して第2供給パイプ15が圧縮空気タンクと接続される箇所」は、それぞれ、順に、本件補正発明の「エンジン」、「排気ライン」、「後処理装置」、「地点」、「冷却流体源」、「導管」、「温度センサ」、「コントローラ」、「冷却流体」、「SCR」、「DPF」、「吸気ライン」、「第2の温度センサ」及び「導管が流体源に接続している地点」に相当する。

また、引用発明の「二次空気調整装置17」は、前記のとおり、排ガス中に供給する二次空気のために設けられた圧縮空気タンクと排気管3に通じる二次空気用の第2供給パイプ15との間に設けられており、二次空気による排ガスの冷却をする場合に二次空気供給量を決めるものであるとされているし、引用文献の段落[0026]に「圧縮空気タンクから取り出す場合には調整弁を付ける。その設置例を図1のSKL(二次空気)調整装置17に示した。」と記載されていることから、技術常識に照らし、少なくとも一般に流量調整に用いられるような弁を排除しないものと解される。

そして、そのような一般に流量調整に用いられる弁は、開放状態若しくは閉鎖状態を含めて弁の開放状態を変化させることにより流量を連続的又は段階的(オンオフの二段階も含む。)に切り替えて制御するものであることも技術常識であるから、その結果として選択的に流量が調整されることになるのは自明である。

したがって、前記した相当関係も考慮すると、「二次空気調整装置17」は、本件補正発明の「二次空気を排気管に選択的に導入するために、開放状態若しくは閉鎖状態に切り替え制御される、弁」に相当する。

さらに、引用文献の段落[0026]によれば、「二次空気供給量は、制御装置13で計算によって出し、SKL(二次空気)調整装置17を介して調整することもできる。このために、制御装置13は、温度センサ9や温度センサ10が測定した温度を利用する。例えば、これらの温度と目標とする温度低下度、制御装置13が入手できる実際の排ガス流量とから、・・・二次空気供給量を決める。」と記載されており、ここで、本件補正発明における「関数」の意味についての定義が本願明細書等には明示的に記載されていないものの、一般に、「関数」という用語の意味が、「数の集合Aから数の集合Bへの写像y=f(x)のこと。」(株式会社岩波書店 広辞苑第六版)と理解されていることからすれば、前記引用文献の段落[0026]の記載は、少なくとも、温度の値(数)の集合Aから二次空気量の値(数)の集合Bへの写像、すなわち、二次空気量=f(温度)という関係を用いて、電子制御ユニットが、二次空気量を調整していることは明らかであるから、前記した相当関係も考慮すると、引用発明の「電子制御ユニットが、二次空気調整装置を、温度センサ9及び温度センサ10からの信号に基づいて制御する」は、本件補正発明の「前記コントローラが、前記弁を、前記温度センサからの前記信号、及び前記第2の温度センサからの前記信号の関数として制御する」に相当する。

イ 本件補正発明と引用発明との一致点
前記アの相当関係を前提とすれば、本件補正発明と引用発明との一致点は以下のとおりである。

「 エンジン装置であって、
エンジンと、
前記エンジンの下流の排気ラインと、
前記排気ラインにおける後処理装置と、
冷却流体源と前記排気ラインにおける前記後処理装置より上流の地点との間の導管と、
前記排気ラインにおける、(第1の)温度センサと、
前記(第1の)温度センサから信号を受信するためのコントローラと、
冷却流体を前記排気ラインに選択的に導入するために、前記(第1の)温度センサからの信号に応答して前記コントローラにより開放状態若しくは閉鎖状態に切り替え制御される、前記導管における弁とを含み、
前記後処理装置がSCRを含み、
前記後処理装置の上流に、上流の後処理装置であるDPFが設けられ、前記排気ラインにおける前記地点が、前記DPFと前記後処理装置との間に配置されており、
第2の温度センサを、含み、
前記コントローラが、前記第2の温度センサからの信号を受信し、前記コントローラが、前記弁を、前記(第1の)温度センサからの前記信号、及び前記第2の温度センサからの前記信号の関数として制御する、エンジン装置。」
(当審注:「(第1の)」の語は、温度センサの区別を明確化するために,当審で付した。以下、「(第1の)温度センサ」は、「第1の温度センサ」という。)

ウ 本件補正発明と引用発明との相違点

<相違点1>
冷却流体源について、本件補正発明においては、「エンジンの上流で且つ前記エンジンに通じる吸気ラインを含」むものであるのに対して、引用発明においては、「エンジンの上流で且つ前記エンジンに通じる吸気ラインを含」むものであるか否かは不明である点。

<相違点2>
排気ラインにおける第1の温度センサの配置について、本件補正発明においては、「排気ラインにおける前記地点の付近」であるのに対して、引用発明においては、「排気管3における前記箇所の下流」である点。

<相違点3>
第2の温度センサの配置について、本件補正発明においては、「導管が流体源に接続している地点の付近に含」むものであるのに対して、引用発明においては、「排気ガスを冷却する二次空気を前記排気管に導入する箇所の上流に設けられ」る点。

(5)判断

ア 相違点1について

「流体源をエンジンの上流で且つ前記エンジンに通じる吸気ライン中の空気とし、その空気を排気ラインに供給し、排ガスの温度を調整すること」は、この技術分野における周知技術である(例えば、特開2005-36770号公報(段落【0033】、【0041】、【0043】ないし【0046】、【図2】等。)、特開平9-32540号公報(段落【0004】ないし【0009】、【0021】、【図2】、【図3】等。)、特開平2-241919号公報(1ページ右下欄14行から18行まで、2ページ左上欄11行から左下欄17行まで、同右下欄9行から19行まで、第1図等。)等を参照のこと。これらはいずれも、流体源をエンジンの上流で且つ前記エンジンに通じる吸気ライン中の空気とし、その空気を排気ラインに供給し、排ガスの温度を調整する手段であるという点で共通するものである。)。

一方、引用文献においては、引用文献の段落[0016]に「本発明の有効な実施形態について、図を示して説明をする。上記した特徴や後述する特徴は、それぞれに示した組み合わせだけでなく、他の組み合わせでも、また、単独でも、本発明の範囲を逸脱しない限り、利用可能なことは自明である。」と前置きして、そのような実施形態、すなわち実施例の記載として、同段落[0019]に、「排ガス中に供給する二次空気のためには、圧縮空気タンク、又は、ファン、コンプレッサの様な供給装置が設けられているが、・・・。」とあり、二次空気の供給源として、圧縮空気タンク、ファン及びコンプレッサが例示されている。

また、引用文献の記載においては、二次空気の供給源をどのように構成するかについて、引用文献の[特許請求の範囲]の記載においても特段特定していない。

以上のことからすると、引用文献の、二次空気の供給源として圧縮空気タンク、ファン及びコンプレッサを例示する記載は、あくまでも実施例の記載であって、二次空気の供給源を限定したものと解することはできないし、前記した引用発明の意義に照らしても、かかる流体源を、圧縮空気タンク、ファン及びコンプレッサに限定する必要があるともいえない。

したがって、引用発明においては、前記周知技術のような二次空気の供給源として流体源をエンジンの上流で且つ前記エンジンに通じる吸気ラインに含む態様を採用することが排除されるものではない。

もっとも、引用文献の記載によれば、「二次空気供給を、ファン、又は、コンプレッサで行うときは、二次空気供給量は、これらの回転数で決める。圧縮空気タンクから取り出す場合には調整弁を付ける」(段落[0026])と説明され、圧縮空気タンクから取り出す場合には調整弁を付けることが明示されているが、そうでない場合に、調整弁を用いるのか否かは不明であると解する余地がないわけではない。

しかし、かかる引用文献の記載は、前記した引用発明の意義、引用文献の[特許請求の範囲]の記載も流体源を特定するものとはされていないこと、前記した引用文献の段落【0016】の記載などから、引用発明の一つの実施例を記載したものと位置付けられるものであって、かかる記載において明示された個々の流体源やその態様に限定されるものでないことは明らかであるし、回転数で気体の供給量を決めるファンやコンプレッサであっても、さらに圧縮気体タンクを設けることや、気体の供給量を調整する弁を設け得ることは、技術常識に照らして明らかである。

したがって、引用文献のこれらの記載は、引用発明に、前記周知技術のような二次空気の供給源として流体源をエンジンの上流で且つ前記エンジンに通じる吸気ラインに含む態様を採用することを妨げる事情ともならない。

よって、引用発明において、二次空気の供給源として、前記周知技術を採用することにより、相違点1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものである。

そして、本願明細書等によれば、本件補正発明の意義は、その段落【0002】ないし【0004】に記載されているように、「DPFの下流の後処理装置への損傷の可能性を低減することができる装置・・・を提供すること」にあり、また、同段落【0015】に記載されているように、「本発明の一態様に関する特に有益な用途は、後処理装置27(例えば、SCR又はNOxトラップ)の上流にある、上流の後処理装置47(例えばDPF)からの排気を、上流の後処理装置における排気の温度が通常の動作温度よりも高くなったときに冷却することに関連している。これは、例えば、上流の温度を通常の動作温度よりも上昇させることを必然的に伴うDPFの再生手順が行われるときに生じ得る。」というものであって、同段落【0008】及び【0009】に、「図1は、本件発明の一実施形態に従うエンジン装置21を示す。・・・流体源は、通常は、エンジン23の上流の吸気ライン33であるが、流体が様々な流体源(例えば、燃焼空気ではない加圧空気)から導入されることができることは理解されよう。」とあるように、流体源の差異によって格別の意義が生じるものでもない。

そうすると、相違点1の構成に係る効果は、相違点1を構成することを困難ならしめると評価し得るような、引用発明及び周知技術並びに技術常識から当業者が予測できない顕著なものであるともいえない。

イ 相違点2について

本件補正発明においては、第1の温度センサを、排気ラインにおける前記地点の付近に含む、というものであるところ、そこでいう「付近」という用語の意味は、一般に、「近いあたり。近所。」(株式会社岩波書店 広辞苑第六版)と理解されているが、本願明細書等には、「排気ラインにおける排気温度が後処理装置の上流の地点にて測定される・・・空気が前記排気ラインに、前記測定地点にて、又は前記測定地点よりも上流にて、前記測定温度の関数として、前記コントローラの制御下で導入される。」(段落【0005】)、「温度センサ35を、排気ライン25の地点31付近に設けることができる。」(同【0010】)、「本発明の一態様に従う、排気ライン25における温度を制御する方法において、排気温度が、後処理装置27より上流の排気ラインの地点31にて測定される。測定された温度に対応して、信号がコントローラ37に送信される。空気が排気ライン25に、測定地点31にて、又は、測定地点31より上流にて、測定された温度の関数として、コントローラ37の制御下で導入される。」(同【0013】)などの記載があり、その意味に判然としないところがあるが、少なくとも、排気ラインにおける後処理装置の上流の地点であって、かつ空気が排気管に導入される地点又はその地点の上流を意味するものと理解することができる。
したがって、引用発明における「排気管3における前記箇所の下流」、すなわち、排気管3における、排ガスを冷却する二次空気を供給する冷却流体源と第二供給パイプ15で結ばれる排気管3におけるSCR触媒6より上流の箇所、の下流、を実質的に包含することとなる。

よって、相違点2は、形式的な相違点にすぎず、実質的に相違するところではない。

ウ 相違点3について

引用発明におけるSCR触媒の冷却を行う際の、熱の出入りの関係、すなわち、熱収支を考えると、SCR触媒に流入する排ガスの温度は、二次空気の温度などに依存するものであることは技術常識である。

この点、引用文献にも、引用発明の従来技術について、その段落[0003]に、「SCR触媒に入る排ガス温度を下げるために、比較的低温の空気を触媒の上流側に供給する事が提案されている。」と記載され、また、同段落[0004]に「冷たい外気をエンジンとDenox(脱NOx)触媒の間の排ガス流内に射出する事によって排ガスの冷却を行っている。」と記載されているように、排ガスの冷却のために用いられる空気について、その温度を考慮することが引用発明の創作の前提となる技術的知見であることを示している(下線は、引用文献の記載を摘記する趣旨の明確化のため、当審で付したものである。)。

また、エンジンの上流で且つ前記エンジンに通じる吸気ラインを流体源とする場合に、二次空気の温度を測定する箇所として、流体源側を選択することは、技術常識でもある(例えば、前掲の特開2005-36770号公報(段落【0069】ないし【0075】、【0078】、【図2】等。)、特開2005-42672号(段落【0009】、【0010】、【0019】、【0026】、【0031】ないし【0037】、【図1】等。)、特開平7-189720号(段落【0044】、【0049】ないし【0051】、【図1】、【図2】等。)を参照。)。

そうすると、SCR触媒に流入する排ガスの温度を制御するに際して、その制御の精度を高めることなどの必要がある場合に、同温度だけでなく、それに加えて、二次空気の温度なども加味し、より精度の高い制御を行おうとすることは、当業者であれば当然なし得る設計上の事項である。また、その前提として、制御の精度をどの程度にするかも、当業者が必要に応じて定めるべき設計上の事項である。

この点、引用文献には、さらに、その段落[0026]に、「1つの方法は、二次空気による排ガスの冷却である。この場合、温度センサ9、10の信号を参考にして、SKL(二次空気)調整装置17が二次空気供給量を決める。この決定は第2の温度センサ10が計測した排ガスの温度を調整値に使って調整する事ができる。・・・制御装置13は、温度センサ9や温度センサ10が測定した温度を利用する。例えば、これらの温度と目標とする温度低下度、制御装置13が入手できる実際の排ガス流量とから、混合計算(Mischungsrechnung)によって二次空気供給量を決める。・・・二次空気供給量の精度を上げるためには、二次空気の温度、供給量の測定を、それぞれ、熱電対、オリフィスで行うことが考えられる。」と記載されており、温度センサ9に加えて温度センサ10を用いることなど、二次空気供給量の精度を上げること、すなわち排ガスの温度の調整の精度を上げることについて記載されており、二次空気の温度なども加味してより精度の高い調整を行うことが示唆もされている。

次いで、検討を進める。

二次空気の温度を測定する際に、エンジンが通常備える構造や設備を前提とすれば、エンジンに付属して配置された吸気ラインや導管内の二次空気の温度は一様ではなく(技術常識に照らしてみれば、エンジンが熱を発生することからすれば、例えば、定常運転時であれば、吸気ライン側から排気管側に向けて導管内の二次空気の温度は次第に高くなるものと推認できる。)、どこで二次空気の温度を測定するかによって測定結果が異なってくることは明らかであり、どの部分でその温度を測定するか、あるいは何カ所で温度を測定するかは、エンジンの制御のために他のセンサがどのように設けられているか、エンジンの構造等がどういうものであるか、必要とされる制御の精度はどの程度であるか等の種々の設計条件を勘案して当業者が適宜設定し得るものである。

そうすると、引用発明において第二の温度センサを設けるに際して、二次空気の温度を呈する箇所として、エンジンの上流で且つ前記エンジンに通じる吸気ラインを流体源とする場合の流体源に導管が接続している地点の付近を選択することはこれもまた当業者であれば適宜なし得る設計上の事項であるといえる。

以上のとおりであるから、相違点3の構成は、引用発明及び技術常識に基づいて、当業者が容易に想到し得たものである。

そして、本願明細書等の記載をみても、本件補正発明は、二次空気の温度を測定するために「第2の温度センサ」を設けるにあたり、「前記導管が前記流体源に接続している地点の付近に含み、」との構成を採用しているものの、前記したとおり、吸気ラインに近いところの温度を測定するか否かは設計上の事項であるから、そのことにより、格別の技術的意義が存するものではなく、当業者が引用発明及び技術常識から予測できないような顕著な効果を奏するものではない。

むしろ、本願明細書等の記載によれば、本件補正発明は、流体源として、「エンジンの上流で且つ前記エンジンに通じる吸気ラインを含み、」と特定しているだけであって、その文理からして、他の流体源も加えた複数の流体源を用いることを排除していないから、なお、顕著な効果を奏するものではないといえる。

すなわち、本願明細書等の「流体源は、通常は、エンジン23の上流の吸気ライン33であるが、流体が、様々な流体源(例えば、燃焼空気ではない加圧空気)から導入されることができることは理解されよう。・・・図1は、ライン33xを含む流体源を点線で示す。ライン33xは、例えば、大気を、排気ライン25に空気が導入されることを可能にするように十分な圧力まで空気を加圧するためのコンプレッサ33yと共に引き込み得る。この流体源は、車両の圧縮エアシステム、例えば、トラックのブレーキに用いられるシステムであり得る。流体源が吸気ライン33を含む実施形態を、考察のために説明する。」(段落【0009】)との記載及び【図1】の記載並びに「本出願において、「含む」(“including”)などの用語の使用は制約がなく、「含む」(“comprising”)などの用語と同一の意味を有し、且つ、他の構造、材料又は動作の存在を排除しないものとする。同様に、「?であってよい」(can)又は「し得る」(may)などの用語の使用も制約がなく、その構造、材料、又は動作は必須ではないことを反映することを意図されているが、これらの用語が用いられていなくとも、このような構造、材料、又は動作が必須であることを反映するものではない。構造、材料又は動作は、現在必須であると考えられる範囲において、それらが必須であると見なされる。」(段落【0017】)との記載から、本件補正発明は、流体源として、「エンジンの上流で且つ前記エンジンに通じる吸気ラインを含み、」と特定しているだけであって、他の流体源も加えた複数の流体源を用いることを排除するものではない。

そして、本件補正発明は、そのように複数の流体源を用いる場合に、第2の温度センサを複数の流体源のうちのどの流体源に接続している地点の付近に設けるものであるのか、いずれか一カ所に設けるのか、すべての箇所に設けるのかなど、特定の流体源との関係において第2の温度センサの配置の態様を特定するものではないから、流体源として、エンジンの上流で且つ前記エンジンに通じる吸気ラインを含むからといって、必ずしも、第2の温度センサを設ける部分が、かかる吸気ラインに関連する箇所に限られるというものでもない。

例えば、本願明細書等の段落【0009】記載された「ライン33xを含む流体源を点線で示す。ライン33xは、・・・コンプレッサ33yと共に引き込み得る。」と記載されたような態様を併せ採用した場合には、通常、コンプレッサから吐き出される気体は温度が上昇するものであるとの技術常識に照らし、吸気ライン33側の第2の温度センサ41で測定する温度が必ずしも排気ラインに供給される二次空気の温度を正確に表すものであるとはいえないし、また、コンプレッサ33yの吐き出す二次空気の温度の方を測定するとしても、程度の差はあれ、同様に正確なものではないことになる。

そうすると、相違点3の構成は、二次空気の温度を考慮して制御を行ったということ以上の格別の意義はないから、そのように構成しても、相違点3を構成することを困難ならしめると評価し得るような、引用発明及び技術常識から当業者が予測できない顕著な効果が生じるものではない。

(6)小括
前記相違点1ないし相違点3を総合してもなお、本件補正発明は、引用発明及び周知技術並びに技術常識から当業者が予測できないような顕著な効果を奏するものではなく、本件補正発明全体としても、当業者が容易に想到し得たものというべきである。

よって、本件補正発明は、引用発明及び周知技術並びに技術常識に基づいて容易に発明をすることができものであるから、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 むすび
以上のとおりであるから、本件補正は、特許出願の際独立して特許を受けることができない本件補正発明を包含するものであり、そうである以上、本件補正の補正後の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定に違反するので、同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。

よって、前記結論のとおり、決定する。

なお、請求人は、平成25年6月3日に提出した回答書において、「前置報告書における<相違点B>に関し、引用文献2(特開2005-36770)には、確かに審査官殿ご指摘のように、吸気ラインに設けられた温度センサについて開示されていますが、例えば引用文献2の[0040]に「三元触媒10を通過した排気は、下流に設置された吸蔵還元型NOx触媒11に流入し」と記載されているように、引用文献2はフィルタについて開示されておらず、本発明と異なり、フィルタの間欠燃焼で昇温した排気ガス(当審注:「排ガス」と同じ。)温度を低く抑えて制御するものではありません。」と述べているので付言するが、審判請求人のいう特開2005-36770号公報は、前記のとおり、三元触媒を用いるか否かとは関わりのない、排ガスの温度を調整する手段に係わる周知技術の一例として示したものであり、引用文献2がフィルタについて開示されているか否かを論じる請求人の意見は、そもそも、その前提を欠くものである。

第3 本願発明について
前記「第2」に記載したとおり、本件補正は、却下すべきものである。

そこで、本件補正の補正前の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)について検討する。

(1)本願発明の認定
本願発明は、特許法184条の6第2項及び3項により、それぞれ、同法36条2項の規定により願書に添付して提出したものとみなす明細書、特許請求の範囲及び図面並びに平成23年12月16日付けで補正した特許請求の範囲の記載からみて、前記「第2」「1」「<補正前>」に記載したとおりのものであると認める。

(2)引用文献及びその記載並びに引用発明の認定
一方、原査定の拒絶の理由に引用されたこの出願前に外国において頒布された刊行物である引用文献及びその記載並びに引用発明の認定については、前記「第2」「2」の「(2)引用文献及びその記載」及び同「(3)引用発明の認定」に記載したとおりである。

(3)対比・判断
前記「第2」「2」「(4)対比」及び同「(5)判断」に記載したとおり、前記相違点1及び相違点3は、本件補正により本願発明に追加された構成のみに係るものであり、前記決定により本件補正が却下すべきものとされる以上、本願発明と引用発明との対比において、相違点1及び相違点3はないものとなる。
また、相違点2は、前記したとおり、実質的に相違するものではない。
したがって、本願発明と引用発明との対比において、両者に実質的に相違する点はない。

(4)小括
よって、本願発明は、引用文献に記載された発明(引用発明)である。

第4 むすび
以上のとおりであるので、本願発明は、特許法29条1項3号に規定する発明に該当し、特許を受けることができないものである。

そして、そのような発明を包含するこの出願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。

したがって、本件審判の請求には、理由がない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-11-20 
結審通知日 2013-11-26 
審決日 2013-12-10 
出願番号 特願2009-540211(P2009-540211)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F01N)
P 1 8・ 113- Z (F01N)
P 1 8・ 121- Z (F01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岩▲崎▼ 則昌  
特許庁審判長 林 浩
特許庁審判官 金澤 俊郎
藤原 直欣
発明の名称 排気冷却を有するエンジン及びその方法  
代理人 秋庭 英樹  
代理人 堅田 多恵子  
代理人 清水 英雄  
代理人 重信 和男  
代理人 小椋 正幸  
代理人 溝渕 良一  
代理人 高木 祐一  

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