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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G02F
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 G02F
管理番号 1287143
審判番号 不服2013-7468  
総通号数 174 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-06-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-04-23 
確定日 2014-05-13 
事件の表示 特願2007-308648「液晶滴下工法用シール剤、上下導通材料及び液晶表示素子」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 6月18日出願公開、特開2009-133964、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 1 手続の経緯・本願発明

本願は、平成19年11月29日の出願であって、平成24年8月16日に手続補正がなされたところ、平成25年3月13日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年4月23日に拒絶査定不服審判請求がなされると同時に手続補正がなされ、その後、同年7月8日付けで審尋がなされ、同年9月4日に回答書が提出されたものである。

本願の請求項に係る発明は、平成25年4月23日付けで補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された次の事項によって特定されるものと認められる。

「【請求項1】印刷方式により液晶滴下工法用シール剤を基板に塗布する工程と、80?120℃で1?30分加熱して液晶滴下工法用シール剤を増粘させる工程と、基板上のシール枠内に液晶を滴下する工程と、液晶を滴下した基板に他の基板を貼り合わせる工程と、紫外線照射及び加熱により液晶滴下工法用シール剤を硬化させる工程とを有する液晶表示素子の製造方法に用いることができる液晶滴下工法用シール剤であって、硬化性樹脂と増粘剤としてアクリル微粒子を含有し、25℃においてE型粘度計を用いてプローブ回転数を1rpmに設定して測定したときの粘度が5?150Pa・sであり、かつ、80?120℃で1?30分加熱後において、25℃においてE型粘度計を用いてプローブ回転数を1rpmに設定して測定したときの粘度が300?2000Pa・sであることを特徴とする液晶滴下工法用シール剤。
【請求項2】硬化性樹脂は、(メタ)アクリル樹脂を40?100重量%含有することを特徴とする請求項1記載の液晶滴下工法用シール剤。
【請求項3】(メタ)アクリル樹脂は、レゾルシノール骨格を有することを特徴とする請求項1又は2記載の液晶滴下工法用シール剤。
【請求項4】更にシランカップリング剤及び/又は溶剤を含有することを特徴とする請求項1、2又は3記載の液晶滴下工法用シール剤。
【請求項5】請求項1、2、3又は4記載の液晶滴下工法用シール剤と、導電性微粒子とを含有することを特徴とする上下導通材料。
【請求項6】請求項1、2、3又は4記載の液晶滴下工法用シール剤又は請求項5記載の上下導通材料を用いてなることを特徴とする液晶表示素子。」

以下、請求項1?6に係る発明を、それぞれ、「本願発明1」?「本願発明6」という。

2 引用刊行物の記載事項

(1)引用刊行物1

本願の出願前に頒布された刊行物である特開2002-122872号公報(以下「引用刊行物1」という。)には、以下の事項が記載されている(下線は当審で付した。以下同じ。)。
「【0003】液晶表示装置の製造は、従来から、表1の熱硬化型シール材を用いた工程で、長時間を要するものである。」、
「【0015】【課題を解決するための手段】上記課題を解決するために、本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、上記(3)の図2(a)?(d)に示すように、対向する2枚の配向膜付き電極基板8,9の少なくとも片方にシール材10を配置し、電極基板8に液晶12を必要量滴下し、2枚の電極基板8,9を真空中で貼り合わせる時に、シール材10として25℃の粘度が40?100Pa・sでラジカル重合型のアクリル系光硬化性樹脂組成物および/またはエン/チオール系光硬化性樹脂組成物を用い、波長350nm?780nmの光を照射するか、または配向膜面をマスク材で光遮断し波長制限しない紫外光を照射して硬化して接着固定することによって、上記課題を満たす液晶表示装置が得られ、本発明に到達した。」、
「【0023】上記シール材の25℃における粘度が40Pa・sより低いとシール材が液晶側に流れて目標とする表示画面が得られず、25℃の粘度が100Pa・sより高いとギャップ出しが不十分で表示むらが発生するので、25℃の粘度が40?100Pa・sのシール材が有効である(ただし、液晶の25℃における粘度は0.001?0.1Pa・s)。」、
「【0041】以下、本発明の樹脂組成物を用いて液晶表示装置を作る方法の一例を説明する。2枚の配向膜付き電極基板のうちいずれか一方の基板の配向膜側の面上に、本発明の樹脂組成物のシール材として、ロの字形のパターンとなるように塗布する。塗布方法は、スクリーン印刷法が一般的であるが、ディスペンサーを用いて塗布しても良い。
【0042】シール材塗布基板のロの字形パターン中央部に、必要な一定量の液晶を滴下する。
【0043】これら2枚の基板を、それぞれの配向膜面を内側にして、真空中で、スペーサを介して位置合わせを行ない、常圧にもどしつつ基板間のギャップを所望の間隔に調整する。
【0044】次に、本発明の方法であるが、位置合わせおよびギャップ出しが終わった状態で、上記樹脂組成物に、所定波長領域(350nm?780nm)の光を照射するか、または配向膜面のみをマスク材で光遮断して紫外光を照射することにより、上記樹脂組成物を硬化させ、2枚の基板を接着固定し貼り合わせて、液晶表示装置を作る。」

上記摘記事項を総合すると、引用刊行物1には、以下の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「液晶表示装置の製造において、熱硬化型シート材を用いた工程では長時間を要するところ、
液晶表示装置の作製において、2枚の配向膜付き電極基板のうちいずれか一方の基板の配向膜側の面上に、スクリーン印刷法によりシール材を塗布し、シール材塗布基板に液晶を滴下し、これら2枚の基板をそれぞれの配向膜面を内側にして、真空中で、スペーサを介して位置合わせを行ない、常圧にもどしつつ基板間のギャップを所望の間隔に調整し、 紫外光を照射することにより上記樹脂組成物を硬化させる方法に用いられる、25℃の粘度が40?100Pa・sのシール材。」

(2)引用刊行物2

同じく、特開2007-156183号公報(以下「引用刊行物2」という。)には、以下の事項が記載されている。
「【0048】上記構成からなる本発明のシール剤は、E型粘度計を用いて25℃において1.0rpmの条件で測定した粘度の下限が100Pa・sであり、上限が500Pa・sである。100Pa・s未満であると、滴下工法による液晶表示装置の製造において、シール剤が軟化して垂れが発生して液晶のチルト角を乱し、また、液晶中にシール剤の破片が溶出してしまう。500Pa・sを超えると、ディスペンス性に劣ることとなる。好ましい下限は200Pa・sであり、好ましい上限は420Pa・sである。」、「【0056】本発明のシール剤及び/又は本発明の上下導通材料を用いて液晶表示素子を製造する方法としては特に限定されず、例えば、以下の方法により製造することができる。まず、ITO薄膜等の2枚の電極付き透明基板の一方に、本発明のシール剤及び/又は本発明の上下導通材料をスクリーン印刷、ディスペンサー塗布等により長方形状のシールパターンを形成する。次いで、シール剤未硬化の状態で液晶の微小滴を透明基板の枠内全面に滴下塗布し、すぐに他方の透明基板を重ねあわせ、シール部に紫外線を照射して硬化させる。本発明のシール剤等が熱硬化性を有する場合には、更に100?200℃のオーブン中で1時間加熱硬化させて硬化を完了させ、液晶表示素子を作製する。本発明のシール剤及び/又は本発明の上下導通材料を用いてなる液晶表示素子もまた、本発明の1つである。」

上記摘記事項を総合すると、引用刊行物2には、以下の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
「液晶表示装置の作製において、ITO薄膜等の2枚の電極付き透明基板の一方に、シール剤をスクリーン印刷により長方形状のシールパターンを形成するよう塗布し、シール剤未硬化の状態で液晶の微小滴を透明基板の枠内全面に滴下塗布し、すぐに他方の透明基板を重ねあわせ、シール部に紫外線を照射して硬化させる方法に用いられる、E型粘度計を用いて25℃において1.0rpmの条件で測定した粘度の下限が100Pa・sであり、上限が500Pa・sであるシール剤。」

(3)引用刊行物3

同じく、特開2002-107737号公報(以下「引用刊行物3」という。)には、以下の事項が記載されている。
ア 「【0002】【従来の技術】液晶表示素子の基板の貼合わせ工程では、熱硬化性エポキシ樹脂を主成分としたシール材を、透明電極付きガラス基板上に、スクリーン印刷またはディスペンサによってパターン形成し、プリベークによるシール材の溶剤乾燥工程(80?100℃で15?30分間加熱)を経て、一対の基板を貼合わせて圧着固定し、オーブン内もしくはホットプレート上において150?200℃で60?120分間加熱して圧着し、シール材を硬化させる。
【0003】ここで、加熱圧着の工程には、電極基板間を排気(減圧)することで、気圧を利用して加圧を行う減圧プレス法と、貼合わされた一対の電極基板をプレス機を用いて加熱圧着する加圧プレス法がある。
【0004】ただし、加圧プレス法では、機械的に圧力をかけるため、プレス面の平行度がずれたり、熱による歪みの影響を受けるため、均一性の点で、大気圧を利用した減圧プレス法が好ましいとされ、減圧プレス法が主流になりつつある。
【0005】また、前記プリベーク工程の目的は溶剤乾燥であり、シール材の印刷性を保つために加えられていた溶剤をシールパターン形成後に除去することである。シール材中に溶剤を残したまま加熱圧着すると、溶剤が気化し、シール内に気泡が発生する。気泡を含んだシールは信頼性が低下し、またその気泡が大きいとシール材を貫通しシール破れになってしまう。
【0006】つまり、加熱によってシール材が硬化する過程において、シール材の硬化開始後に溶剤が気化すると、この気化した不純物としての溶剤がシール材中に閉じ込められ、気泡が発生してしまう。また、この気化した溶剤がその後も膨張し続け、シール材中で破裂した場合はシールエッジが乱れてしまうのである。
【0007】しかしながら、前述のプリベーク工程ではどうしても溶剤が除去しきれず、貼合わせ工程において気化し、シール中に気泡が発生することがあり、生産を行っている条件によっては、シール不良になるという問題がある。特に、前述した減圧プレス法では、減圧により溶剤の沸点が下がり、気化しやすくなることで気泡が発生する傾向が強くなってしまい、ある真空度において、溶剤成分が気化して膨張しようとするが、シール材の粘度が高ければ膨張することができない。そして、加熱による温度の上昇とともにシール材の粘度が下がり、ある一定の粘度まで下がると溶剤成分の膨張を抑えられなくなり、気泡が発生する。
【0008】従来の気泡対策としては、特開平11-133436号公報記載の液晶表示素子の製造方法において、減圧プレス法におけるシールエッジの乱れおよびシール内気泡の発生などを抑えるために、シール材で囲まれた一対の電極基板間の排気を開始し、所定の圧力で一定時間維持し、その後、加熱を開始してシール材の硬化を行う。これによって、加熱時の基板間全体の圧力を同圧にして気泡の発生を抑えている。
【0009】【発明が解決しようとする課題】しかしながら、前述の従来技術を用いても貼合わせ工程後の生産品の排気口周辺では、ほぼ全てのシール材中に気泡が見られ、常に不具合となる要因が存在している。実際、シール内の気泡発生によるシールパス(シール破れ)およびシール色ムラなどの問題が多発傾向にあり、工程条件のバラツキによっては大きな問題となる。
【0010】よって、上述のように、特に減圧プレス法においては、加熱および減圧の条件を制御しても完全に気泡の発生を防ぐことは非常に困難であり、シール不良を防止することはできない。
【0011】本発明の目的は、減圧プレス法において、シール材中に気泡が発生してもシール不良を生じない液晶表示素子の製造方法を提供することである。」

イ 「【0027】まず、透光性基板上に所定の透明電極パターンを形成し、オーバーコート膜や配向膜を形成した後、配向処理を施して電極基板1および電極基板2を形成する。
【0028】そして、一方の電極基板上にスクリーン印刷またはディスペンサによってシールパターンを形成し、プリベーク(80?100℃で10?30分間加熱)によって溶剤を乾燥させる。他方の電極基板上にスペーサ4を配置して図1に示すようにクランプ治具5で両基板を挟む。
【0029】排気口6から真空ポンプ(図示せず)などによって排気し、電極基板1,2間を真空状態にするとともに加熱してシール材3を硬化させる。
【0030】シール材3は、熱硬化性エポキシ樹脂を含み、粘度調整などの作業性の面からその他の成分として溶剤および充填剤などが添加されている。また、減圧加熱開始からシール材が硬化し始める硬化開始温度に達するまでに、シール材中に発生した気泡は弾け、その跡が残らないようにような柔らかい粘性を維持するよう設計されている。このような粘性の調整方法は、通常行っている方法を適用することができ、主材である熱硬化性樹脂の種類、フィラーの種類、粒度、配合量および表面処理方法を調節することにより可能である。
【0031】図2は、プリベーク後のシール材3中の残存溶剤気泡発生ポイントを示すグラフである。気泡は、溶剤が気化しようとする膨張力とシール材の粘性力が等しくなったときに発生する。図のAの曲線が示すように、初期の粘性を低く保っておけば、低温かつ低粘度から気泡が発生することになる。
【0032】図3は、シール材3のプリベーク後の粘度の温度特性グラフである。グラフからわかるように、プリベーク後のシール材の粘度は、40℃付近からシール材の硬化開始温度まで、低くなる傾向にあり、プリベーク後の粘度が高い材料(柔らかな粘性を維持できない材料)では、溶剤が膨張する粘度に到達するまでに時間がかかるため、気泡の発生が遅くなる。さらに、気泡が発生したときには硬化開始温度に近づいているため、気泡が弾けても修復する時間がなかったり、弾けることもできず、そのまま硬化するなどして気泡跡が残ることとなる。
【0033】したがって、プリベーク後の粘度が、40℃で350Pa・s以下(好ましくは250Pa・s以下)となるような粘度の低いシール材3を用いてシールパターンを形成することで、減圧プレスによる基板の貼合わせ工程において、発生した気泡が弾けても跡が残らず自然修復されるような、柔らかい粘性を維持することが可能で、気泡に起因する不良問題のない液晶表示素子が製造できる。
【0034】ただし、プリベーク後、40℃での粘度が150Pa・s以下に調整したシール材では、液晶表示素子のシール材としての信頼性に問題があり、液晶表示素子への採用は不適である。粘性を低く調整したシール材は、化学変化を起こしやすく膨張してしまうので、セルギャップが厚くなりシール材近傍に色ムラが生じる。
【0035】また、一般的な減圧プレス方式の減圧加熱条件は、
減圧条件:53.3k?80kPa(確実なセルギャップ制御を可能にする範囲)
加温条件:150?200℃(シール材を充分に硬化させる温度範囲)となっている。
【0036】さらに、上記に加え、加熱中のシール材の最低粘度が2Pa・s以上である特性を有することも重要である。これは、シール材が柔らかすぎると、減圧時にセル内外の圧力差によってセル外からセル内に向かってシールが破れることを防ぐことができる。
【0037】また、シール材の初期粘度は、印刷性などの条件より40Pa・s程度になるように調整した。
【0038】(実施例)以下では本発明のシール材を用いた実施例(実施例1?4)および本発明のシール材とは温度特性の異なるシール材を用いた比較例(比較例1?6)について説明する。
【0039】・シール材粘度の測定方法
測定装置:ストレス制御式粘弾性測定装置
ReostressRS-75(HAAKE社製)
昇温速度:5℃/分(温特測定時)
・シール材の調製
主成分(硬化型エポキシ、固形エポキシなど)
使用溶剤(ジエチレンモノメチルエーテル、3-メチル-3-メトキシブタノールなど)
溶剤含有量(8?25%)
緩衝剤(シリコンゴム、アクリルゴムなど)
フィラー(アルミナなど)
【0040】これらの成分の表面処理・配合量・粒度を組合せることによって様々な温度特性を有するシール材を調製した。
【0041】・実施例および比較例で共通に使用した部材
電極基板には、外形寸法460mm×600mm、厚さ0.7mmのソーダガラス板を使用しており、これら基板上に種々の機能膜(カラーフィルタ・透明電極・保護膜・配向膜など)を形成した。
【0042】シール材には、前述のように調製したシール材を準備し、このシール材にシール内スペーサとなる多数のガラスビーズ(直径6.9μm)を予め混入(重量比8%)した。
【0043】以下に各工程に付いて説明する。
(1)シールパターン形成工程
一方の基板上に、スクリーン印刷法によって、図4に示すようなシールパターン7を形成する。このシールパターン7は、液晶封入領域を囲むように矩形状に形成されている。また、この矩形状シールパターン7の短辺中央部には液晶注入口8が形成され、そこには液晶注入時の注入量を制御するためなどの“土手”が形成されている。さらに、このときのシールパターンの幅は0.4mmに設定されている。
【0044】(2)プリベーク工程
シールパターン形成後、溶剤乾燥工程として、90℃雰囲気のオーブンに15分間放置した。
【0045】(3)スペーサ散布工程
上述のシールパターン形成工程と並行して、他方の基板上にはスペーサを散布した。他方基板上のスペーサは、プラスチックビーズで、130個/mmφの分布密度で散布される。
【0046】(4)減圧プレス工程
次に、シールパターン7を形成し、スペーサ4を散布した両基板を貼合わし、電極基板の周縁部全周をクランプ治具5にて挟み込んでチャンバに投入する。前記一対の電極基板1,2の間隙を排気口6より排気することによって、チャンバ内の大気圧を利用して前記一対の電極基板1,2を加圧する。さらに加熱を行うことによりシール材を硬化させる。
【0047】図5は、本実施例に用いた減圧プレス工程の減圧加熱のプロファイルを示す図である。
【0048】(a)スタート時には、加熱を行わず、圧力のみ連続的にP1(60kPa)まで減圧しておき保持する。シール材は充分に伸ばしておく。
【0049】(b)その後、圧力をP2(66.5kPa)まで戻し、同時に加熱を開始する。このときの加熱は連続的に行う。
【0050】(c)シール材の粘度が高くなる粘度増加開始の手前の温度T1で温度を一定に保ち、同時に圧力をP3(80kPa)まで段階的に戻す。※T1は、シール材によって特有の温度であり、今回の実験に用いたシール材では90?120℃程度であった。
【0051】(d)圧力がP3になった段階で、加温熱を段階的に進め、シール材が完全に硬化する温度T2(170℃)で一定時間維持し、その後、段階的に温度を下げる。
【0052】(e)大気圧に戻し、減圧加熱プロセスを終了する。このようにして貼合わされた一対の電極基板1,2を分断し、2つの液晶セルを得た後、液晶材料を注入し、液晶表示素子を完成させた。」

上記摘記事項を総合すると、引用刊行物3には、以下の発明(以下「引用発明3」という。)が記載されていると認められる。
「液晶表示装置の作製において、一方の基板上に、スクリーン印刷法によってシール材によりシールパターンを形成すると、並行して他方の基板にスペーサを散布し、プリベーク(80?100℃で10?30分間加熱)によって溶剤を乾燥させた後、両電極基板を貼合わしたものを、チャンバに投入して、両電極基板の間隙から排気することによって、チャンバ内の大気圧を利用して前記両基板を加圧すると共に、加熱を行ってシール材を硬化させた後、貼合わされた両基板を分断して得た2つの液晶セルに、液晶材料を注入する方法に用いられる、初期粘度40Pa・s程度でプリベーク(80?100℃で15?30分間加熱)後40℃における粘度が150Pa・sより上で350Pa・s以下のシール材。」

(4)引用刊行物4

同じく、特開2006-23580号公報(以下「引用刊行物4」という。)には、以下の事項が記載されている。
「【0005】これに対して、光硬化熱硬化併用型シール剤を用いた滴下工法と呼ばれる液晶表示素子の製造方法が検討されている。滴下工法では、まず、2枚の電極付き透明基板の一方に、スクリーン印刷により長方形状のシールパターンを形成する。次いで、シール剤未硬化の状態で液晶の微小滴を透明基板の枠内全面に滴下塗布し、すぐに他方の透明基板を重ねあわせた後、液晶アニール時に加熱して硬化を行い、液晶表示素子を作製する。基板の貼り合わせを減圧下で行うようにすれば、極めて高い効率で液晶表示素子を製造することができる。今後はこの滴下工法が液晶表示装置の製造方法の主流となると期待されている。
【0006】このような滴下工法に用いる従来の液晶表示素子用シール剤は、紫外線硬化と熱硬化を併用させて硬化を行うのが一般的であるが、紫外線による液晶や配向膜等の部材劣化の問題や、ブラックマスク(遮光部)をシール上部に配置することにより液晶パネルを狭額縁化できるといった理由から、液晶表示素子用シール剤には紫外線が照射されない部分にも熱によって硬化するものが求められている。しかしながら、滴下工法による液晶表示素子の製造方法では、熱硬化工程において熱硬化性樹脂が完全に硬化するまでの間に若干のタイムラグが生じることから、その間は加熱により液状の熱硬化性樹脂の流動性が増大し、シール部の形状が崩れてしまったり、減圧下でシール部が決壊して液晶が漏洩してしまったりすることがあるという致命的な問題点があった。
【0007】
【特許文献1】特開2001-133794号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】本発明は、上記現状に鑑み、液晶表示素子用シール剤として滴下工法による液晶表示素子の製造に用いた場合にでも、熱硬化の際にシール部が変形したり破れたりすることがない液晶表示素子用硬化性樹脂組成物、該液晶表示素子用硬化性樹脂組成物からなる液晶滴下工法用シール剤、上下導通材料及び液晶表示素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】本発明は照射及び/又は加熱することにより硬化する液晶表示素子用硬化性樹脂組成物であって、硬化性樹脂100重量部に対して光重合開始剤0.1?20重量部、熱硬化剤0.1?40重量部及びゲル化剤0.1?30重量部を含有し、E型粘度計を用いて25℃において1.0rpmの条件で測定したときの粘度η1.0(25℃)が200?400Pa・sであり、80℃において1.0rpmの条件で測定したときの粘度η1.0(80℃)が20?500Pa・sである液晶表示素子用硬化性樹脂組成物である。」、
「【0030】本発明の硬化性樹脂組成物は、ゲル化剤を含有する。ゲル化剤を含有することにより、加熱時における硬化性樹脂組成物の粘度の低下を抑えることができ、シール部の変形や破れの発生を抑制することができる。上記ゲル化剤としては、硬化性樹脂組成物中で加熱によるゲル化により樹脂の流動性を低下させる性質を有するものであれば特に限定されないが、液晶に対する汚染性が低いことから、アクリル系微粒子や糖化合物誘導体の微粒子等の固体状のものが好適に用いられる。」

上記摘記事項を総合すると、引用刊行物4には、以下の発明(以下「引用発明4」という。)が記載されていると認められる。
「液晶表示装置の作製において、スクリーン印刷により長方形状のシールパターンを形成し、シール剤未硬化の状態で液晶の微小滴を透明基板の枠内全面に滴下塗布し、すぐに他方の透明基板を重ねあわせた後、液晶アニール時に加熱して硬化を行う方法に用いられる、E型粘度計を用いて25℃において1.0rpmの条件で測定したときの粘度η1.0(25℃)が200?400Pa・sであり、80℃において1.0rpmの条件で測定したときの粘度η1.0(80℃)が20?500Pa・sであり、加熱によるゲル化により樹脂の流動性を低下させる性質を有するアクリル系微粒子を含有し、熱硬化の際にシール部が変形したり破れたりすることがない液晶滴下工法用シール剤」

3 本願発明1と引用発明1の対比、判断

(1)本願発明1と引用発明1とを対比する。

ア 引用発明1の「スクリーン印刷法」及び「電極基板」は、それぞれ、本願発明1の「印刷方式」及び「基板」に相当する。

イ 引用発明1の「シール材塗布基板に液晶を滴下し、これら2枚の基板をそれぞれの配向膜面を内側にして、真空中で、スペーサを介して位置合わせを行な」うことは、本願発明1の「基板上のシール枠内に液晶を滴下する工程と、液晶を滴下した基板に他の基板を貼り合わせる工程」に相当する。

ウ 引用発明1の「シール材」は、「シール材塗布基板に液晶を滴下」する「液晶表示装置の作製」に用いられるものであるから、本願発明1の「液晶滴下工法用シール剤」に相当する。

エ よって、本願発明1と引用発明1とは、「印刷方式により液晶滴下工法用シール剤を基板に塗布する工程と、基板上のシール枠内に液晶を滴下する工程と、液晶を滴下した基板に他の基板を貼り合わせる工程と、液晶滴下工法用シール剤を硬化させる工程とを有する液晶表示素子の製造方法に用いることができる液晶滴下工法用シール剤。」の点で一致し、以下の点で相違するものと認められる。

(ア)本願発明1は、「液晶表示素子の製造方法」が「80?120℃で1?30分加熱して液晶滴下工法用シール剤を増粘させる工程」を含み、「液晶滴下工法用シール剤」が「25℃においてE型粘度計を用いてプローブ回転数を1rpmに設定して測定したときの粘度が5?150Pa・sであり、かつ、80?120℃で1?30分加熱後において、25℃においてE型粘度計を用いてプローブ回転数を1rpmに設定して測定したときの粘度が300?2000Pa・s」であるのに対して、引用発明1は、シール材が「25℃の粘度が40?100Pa・s」であるものの、上記のようなものであるか否か明らかでない点(以下「相違点1」という)。

(イ)「液晶滴下工法用シール剤」が、本願発明は、「硬化性樹脂と増粘剤としてアクリル微粒子を含有」するのに対して、引用発明1は、上記のようなものであるか否か明らかでない点(以下「相違点2」という)。

(ウ)「液晶滴下工法用シール剤を硬化させる工程」が、本願発明1では「紫外線照射及び加熱」するものであるのに対して、引用発明1では、「紫外光を照射」するものではあるが、加熱を行うものではない点(以下「相違点3」という)。

そうすると、引用発明1は、上記相違点1?3に係る本願発明1の発明特定事項を具備していない。
したがって、本願発明1が、引用発明1であるとすることはできない。

(2)判断
上記相違点1?3について検討する。

ア 相違点1について
相違点1は、引用刊行物2、4を見ても記載されていない。
また、引用発明3の「シール材」は、「プリベーク(80?100℃で15?30分間加熱)後40℃における粘度が150Pa・sより上で350Pa・s以下」のものである。
しかしながら、引用発明1の「シール材」は、「シール材塗布基板に液晶を滴下する」ものであるのに対して、引用発明3の「シール材」は、「(貼り合わされた両基板の間に)液晶材料を注入する」ものであるから、両者の「シール材」は、互いにその液晶表示装置の製法が異なるものである。
また、引用発明3は、「プリべーク」によって「シール材」の溶剤を乾燥させた後に、加熱、圧着して「シール材」を硬化させるものであるところ、引用発明1の「シール材」は、あらかじめ2枚の電極基板を貼り併せる際に適切な粘度(25℃の粘度が40?100Pa・s)であるものとして作製されるものであるから、引用発明3のように溶剤を乾燥させるものではない。
したがって、引用発明1に引用発明3を適用することを当業者が容易に想到し得るということはできない。
そして、本願発明は、上記相違点1の発明特定事項を具備することにより、パネル貼りあわせ時において、シール乱れや差込み等、液晶の汚染、貼り合わせの不良を防ぐという作用効果を奏するものである。
よって、引用発明1を、相違点1に係る本願特定事項とすることは当業者にとって容易に想到し得たものではない。

イ 相違点2について
引用刊行物4には、「液晶滴下工法用シール剤」に「アクリル系微粒子」を含有させる発明(引用発明4)が記載されているが、これは「熱効果の際にシール部が変形したり破れたり」しないようにするためである。しかしながら、引用発明1は、「液晶表示装置」において、熱硬化型シール材を用いた工程では長時間を要するため、「(加熱することなく)紫外光を照射」することで硬化する「樹脂組成物」を「シール材」として用いるものであるから、そもそも引用発明1の「シール材」に引用発明4の「アクリル系微粒子」を含有させる動機がないものである。
よって、引用発明1を、相違点2に係る本願特定事項とすることは当業者にとって容易に想到し得たものではない。

ウ したがって、上記相違点3を検討するまでもなく、本願発明は、引用発明1?4に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

4 むすび
以上のとおり、本願発明1は、引用刊行物1に記載された発明に記載された発明ということはできないから、特許法第29条1項3号に該当するものではない。
また、本願発明1は、引用刊行物1?4に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるということもできないから、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえない。
また、本願発明2?6は、いずれも本願発明1を引用するものであるから、上記と同様の理由で、特許法第29条第1項3号に該当するものではなく、また同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるということはできない。
以上のとおりであるから、本願については、原査定の理由を検討しても、その理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2014-04-28 
出願番号 特願2007-308648(P2007-308648)
審決分類 P 1 8・ 113- WY (G02F)
P 1 8・ 121- WY (G02F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 福田 知喜瀬川 勝久  
特許庁審判長 江成 克己
特許庁審判官 黒瀬 雅一
畑井 順一
発明の名称 液晶滴下工法用シール剤、上下導通材料及び液晶表示素子  
代理人 特許業務法人 安富国際特許事務所  

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