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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  A41B
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A41B
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  A41B
管理番号 1287177
審判番号 無効2013-800155  
総通号数 174 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-06-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2013-08-26 
確定日 2014-04-28 
事件の表示 上記当事者間の特許第4346581号発明「吸収性物品」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 請求及び答弁の趣旨
請求人は、「特許第4346581号の特許請求の範囲の請求項1ないし3に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする」との審決を求めており、被請求人は、結論と同旨の審決を求めている。

第2 手続の経緯
本件無効審判に係る主な手続の経緯を以下に示す。
平成17年 6月16日 特許出願(特願2005-176861号)
平成21年 7月24日 設定登録(特許第4346581号)
平成25年 8月26日付け 審判請求書
平成25年11月11日付け 審判答弁書
平成25年12月 5日付け 審理事項通知書
平成26年 1月22日付け 口頭審理陳述要領書(請求人)
平成26年 1月22日付け 口頭審理陳述要領書(被請求人)
平成26年 1月24日付け 審理事項通知書
平成26年 1月28日付け 審理事項通知書
平成26年 2月 5日付け 口頭審理陳述要領書(2)(請求人)
平成26年 2月 5日付け 口頭審理陳述要領書(2)(被請求人)
平成26年 2月12日付け 口頭審理陳述要領書(3)(被請求人)
平成26年 2月12日 口頭審理
平成26年 2月19日付け 上申書(請求人)
平成26年 3月 3日付け 審理終結通知書

以下、本件特許の請求項1ないし3に係る発明を、「本件発明1」ないし「本件発明3」といい、「本件発明1」ないし「本件発明3」を総称する際は「本件発明」という。また、甲第1号証ないし甲第17号証を、「甲1」ないし「甲17」という。

第3 当事者の主張
1.請求人の主張の要旨
請求人は、以下に要点を示す無効理由1-1ないし無効理由1-3及び無効理由2-1並びに無効理由2-2の5つの無効理由があると主張している(口頭審理調書の「請求人」の3を参照)。

《無効理由1-1》
本件明細書の発明の詳細な説明には、本件発明1及び2の「融着部が、物品の前後方向の各位置で幅方向の少なくとも一箇所に設けられている」という発明特定事項について、当業者が発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないから、特許法36条4項1号の規定を満たしていない。

《無効理由1-2》
「融着部が、物品の前後方向の各位置で幅方向の少なくとも一箇所に設けられている」という発明特定事項を含む、本件発明1?3は、当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものとはいえないから、特許法36条6項1号に規定された要件を満たしていない。

《無効理由1-3》
本件発明1?3の「この露出部に、前記表面シートを介さずに前記本体部の前記透過シートに融着加工を施してなる」という発明特定事項の技術的意味が不明であり、また、「擬似融着部」がどのような形状、構造を有し、いかなる技術的意義を有するものであるのかも不明瞭であるから、特許法36条6項2号に規定された要件を満たしていない。

《無効理由2-1》
本件発明1?3は、甲1に記載された発明に、単なる設計変更を施すことにより、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

《無効理由2-2》
本件発明1?3は、甲1に記載された発明に、甲2又は甲3に記載された発明を適用することにより、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

そして、無効理由2-1及び2-2の根拠として、以下の証拠方法を示している。甲1ないし甲3は、審判請求書において示し、甲4ないし甲9は、平成26年1月22日付け口頭審理陳述要領書において示し、甲10ないし甲12は、平成26年2月12日の口頭審理において示し、甲13ないし甲17は、平成26年2月19日付けの上申書において示したものである。

〈本件無効審判において提出した証拠方法〉
甲1:特開2004-298454号公報
甲2:特開2002-65739号公報
甲3:特開平10-234778号公報
甲4:実用新案登録第2565651号公報
甲5:特公平3-64137号公報
甲6:特開平5-59601号公報
甲7:実願平5-63525号(実開平7-33916号)の
CD-ROM
甲8:特開平10-43238号公報
甲9:特表2002-512901号公報
甲10:特表平9-503687号公報
甲11:特表2000-505339号公報
甲12:特開2000-201974号公報
甲13:特開平6-169948号公報
甲14:特開平5-237150号公報
甲15:特開2002-65736号公報
甲16:特開2001-328191号公報
甲17:実願昭53-20549号(実開昭54-124398号)
のマイクロフィルム

2.被請求人の主張の要旨
被請求人は、本件発明に対して請求人が主張する無効理由は、いずれも理由がないと主張している。また、請求人が本件無効審判において提出した甲1ないし甲17の成立について争ってはいない。

第4 本件発明
本件発明は、その明細書、特許請求の範囲及び図面の記載から見て、特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項によって特定されるとおりのものであり、次に示す構成要件に分説することができる。なお、本件発明の分説については、当事者間で争いがない(口頭審理調書の「両当事者」の1を参照)。
《本件発明1》
Aa.肌と対向する透液性表面シートと、
Ab.排泄液を透過する透過シートおよび排泄液を吸収保持する吸収要素か
らなる本体部と、
Ac.前記表面シートを前記本体部の上面の透過シートに融着してなる融着
部と、
Ad.を有する吸収性物品であって、
Ba.前記表面シートの両脇に前記本体部の前記透過シートが露出しており、
Bb.この露出部に、前記表面シートを介さずに前記本体部の前記透過シー
トに融着加工を施してなる擬似融着部を設け、
C.前記融着部が、物品の前後方向の各位置で幅方向の少なくとも一箇所に
設けられている、
D.ことを特徴とする吸収性物品。

《本件発明2》
E.融着部の面積率が、物品の前後端部よりもその間の中間部の方が低い、
請求項1記載の吸収性物品。

《本件発明3》
F.前記表面シートは複数の透過孔を有する孔開きシートであり、前記融着
部は前記表面シートの透過孔と比べてMD方向長さ及びCD方向長さが長
く形成されている、請求項1または2に記載の吸収性物品。

第5 無効理由に対する判断
1.無効理由1-1について
(1)請求人の主張の要旨
本件明細書段落0020の記載によれば、本件発明1及び2は、「表面シート1」に「単一の透過孔の有効開口面積が3?75mm^(2)」の「多数の排泄液の透過孔H,H…が形成されている」形態を含む。また、同書段落0048の記載によれば、本件発明1及び2は、「融着部m一箇所当たりの面積は1?300mm^(2)の範囲」である形態を含む。すると、本件発明1及び2の実施の形態では、「融着部m」の一箇所当たりの面積の方が、上記「透過孔H」の有効開口面積「3?7.5mm^(2)」より小さいことがあり得る。
本件発明1及び2は、構成要件C「融着部が、物品の前後方向の各位置で幅方向の少なくとも一箇所に設けられている」を備えるものであるところ、「融着部」一箇所当たりの面積として、「単一の透過孔」の有効開口面積より小さいものが選択された場合には、構成要件Cを満たさない可能性がある。本件明細書の発明の詳細な説明には、「融着部」一箇所当たりの面積として「単一の透過孔」の有効開口面積より小さいものが選択された場合、どのようにして構成要件Cを満たすのか、何ら説明されていないし、技術常識をもってしてもどのようにして構成要件Cを満たすのか不明である。
したがって、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。
(審判請求書6頁下から2行?9頁11行参照。行数は空行を含まない。以下同様)

(2)被請求人の主張の要旨
本件明細書段落0020、0048に記載した単一の透過孔Hの面積及び融着部の面積は、例示であり、本件発明1及び2の構成要件ではない。一方の数値範囲内のある値と、他方の数値範囲内のある値との「特定の組み合わせ」の記載が発明の詳細な説明になくとも、本件発明の従来技術、課題、構成及び作用効果について、当業者は明確かつ十分に理解できるものである。そして、「融着部」一箇所当たりの面積として「単一の透過孔」の有効開口面積より小さいものが選択された場合に、構成要件Cを満たす構成、例えば、審判答弁書に添付した説明図(審決注:本審決末尾の参考図1)に示す構成は、技術常識に基づいて当業者が容易に実施できる。したがって、無効理由1-1には、理由がない。(審判答弁書6頁5行?7頁下から2行参照)

(3)当審の判断
「融着部」一箇所当たりの面積として「単一の透過孔」の有効開口面積より小さいものが選択された場合であっても、「融着部」と「透過孔」の配置を適切に選定することにより、構成要件Cを満たす構成にできることは、当業者に自明である。被請求人は、そのような配置の一例として、審判答弁書に説明図を示しているし、また、例えば、ある1つの「融着部」が、全体的に「透過孔」の内部に入り込んでしまうような場合、それぞれの機能を発揮するために、「融着部」又は「透過孔」のいずれか一方又は双方の位置をずらす(移動する)ことにより、表面シートと透過シートとが重なる位置に「融着部」を配置できることも自明である。
よって、無効理由1-1には、理由がない。

2.無効理由1-2について
(1)請求人の主張の要旨
本件明細書には、「物品の前後方向の各位置で幅方向の少なくとも一箇所に融着部を設けたことによって、融着強度及び融着による硬化が物品前後方向に均一化し、表面シートと本体部との一体感が高まり、物品を身体前後方向に沿って湾曲させても皺が発生し難くなる。その結果、表面シートが本来有している透過性能を十二分に発揮させることができ、従来と比べて透過性能を向上させることができる。」(段落0008)と記載されている。
しかし、構成要件C「融着部が、物品の前後方向の各位置で幅方向の少なくとも一箇所に設けられている」は、前後方向において、連続する一本の融着部(全面融着も含めて)が設けられているものも含意するところ、連続する一本の融着部が形成される場合は、その融着部の左右に、「融着部が無い部分」が存在するのであるから、技術常識からして、「表面シートと本体部との一体感が高ま」るとはいえない。
したがって、本件発明は、発明の詳細な説明に記載された発明で、その記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえず、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるともいえないから、発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない。
(審判請求書9頁12行?10頁17行参照)

(2)被請求人の主張の要旨
本件発明は、本件明細書段落0007に「この融着部は、従来から表面シートの全体にわたり設けているが、物品前後方向において幅方向の何処にも融着部が無い部分が存在していた。その結果、吸収性物品を身体前後方向に沿って湾曲させたとき、融着部の有無によって表面シートに皺が発生し、表面シートの透過性能が低下していたのである。」と記載したとおり、「物品前後方向において幅方向の何処にも融着部が無い部分が存在していた」ことを問題視し、その結果として「表面シートに皺が発生し、表面シートの透過性能が低下して」したことを解決すべき問題点とするものである。「物品前後方向において幅方向の何処にも融着部が無い部分」を有する吸収性物品と本件発明とを対比すれば、「連続する一本の融着部」を設け、「融着部が物品の前後方向の各位置で幅方向の少なくとも一箇所に設けられている」ことにより、少なくともその融着部近傍において「皺の発生」が防止できるようなるのであるから、本件発明の上記作用効果が現われるものである。
(審判答弁書9頁5?24行参照)

(3)当審の判断
構成要件Cが含意する「連続する一本の融着部」を設け、「融着部が物品の前後方向の各位置で幅方向の少なくとも一箇所に設けられている」構成では、少なくともその融着部近傍において「皺の発生」が防止できると認められる。一方、「連続しない一本の融着部」、例えば、「破線(断続する線)の形態である一本の融着部」を設け、「物品前後方向において幅方向の何処にも融着部が無い部分」を有する吸収性物品では、吸収性物品を身体前後方向に沿って湾曲させたとき、「幅方向の何処にも融着部が無い部分」で、「表面シートに皺が発生」する、または、皺が発生しやすいと認められる。
「一本の融着部」を有する構成同士を比較すれば、「連続する一本の融着部」を設けた場合の方が、「連続しない一本の融着部」を設けた場合よりも「皺の発生」が防止できることが明らかである。
よって、無効理由1-2には、理由がない。

3.無効理由1-3について
(1)請求人の主張の要旨
構成要件Ba、Bbは、「表面シートの両脇に前記本体部の前記透過シートが露出しており、この露出部に、前記表面シートを介さずに前記本体部の前記透過シートに融着加工を施してなる擬似融着部を設け」であるところ、「表面シート」の両脇の、露出した「透過シート」上には、融着すべき「表面シート」が存在しないのであるから、「融着加工」など施せないはずである。したがって、「この露出部に、前記表面シートを介さずに前記本体部の前記透過シートに融着加工を施してなる」という記載の技術的意味が不明であり、そのような加工を施してなる「擬似融着部」がどのような形状、構造を有するものであるのかも不明瞭である。よって、本件発明1は、明確でなく、本件発明1を引用する本件発明2及び3も明確でない。
さらに、本件発明明細書段落0008の「表面シートの両脇に本体部を露出させるものの、これに伴って融着対象幅を減少させることなしに、本体部の露出部に、擬似的な融着部を設けることとした。こうすることによって、吸収性向上のために中間部における表面シート融着部の面積率を低下させても、融着加工条件の変動を少なく抑えることができる」という記載から見て、「中間部における表面シート融着部の面積率を低下させ」る構成でなければ、「擬似融着部」を設ける技術的意味は無い。本件発明1は、「中間部における融着部の面積率」を特定していないから、本件発明1において「擬似融着部」を設ける技術的意義が明確でない。
(審判請求書10頁18行?13頁11行参照)

(2)被請求人の主張の要旨
「表面シートは、本体部の上面にヒートシールや超音波シール等により融着される」(本件明細書段落0007)ところ、「表面シートの両脇に本体部を露出させるものの、これに伴って融着対象幅を減少させることなしに、本体部の露出部に、擬似的な融着部を設ける」(本件明細書段落0008)ものである。構成要件Ba、Bbは、露出している本体部の「透過シート」に対してヒートシールや超音波シール等の融着加工を施すことを特定しており、露出している「透過シート」に対して融着加工を施した部分が「擬似融着部」なのである。構成要件Ba、Bbに、不明確な記載は存在しない。
また、「表面シートの融着対象幅が狭くなるため……物品中間部における融着部の面積率を低くすると、物品前後方向における融着加工条件(圧力、加工時間等)の変化が急になり、安定、高品質な加工が困難になる」(本件明細書段落0008)ことを、「擬似融着部」を設けることにより回避できるのであるから、技術的意義は明確である。(審判答弁書10頁11行?12頁19行参照)

(3)当審の判断
本件明細書には、「表面シートは、本体部の上面にヒートシールや超音波シール等により融着される」(段落0007)、「表面シートの両脇に本体部を露出させるものの、これに伴って融着対象幅を減少させることなしに、本体部の露出部に、擬似的な融着部を設けることとした。こうすることによって、吸収性向上のために中間部における表面シート融着部の面積率を低下させても、融着加工条件の変動を少なく抑えることができる。」(段落0008)、「表面シート1は本体部、すなわち、図示形態のように透過シート2を有する場合には透過シート2……に融着される。この融着方法としては、ヒートシールや超音波シールを用いることができる。これらの加工方法は、加熱方式の差異を除けば基本的な原理は同じであり、加工ロールの外周面に多数設けられた凸部を表面シート1上に圧接しつつ加熱し、凸部による圧接部を融着させるものである。」(段落0044)、「表面シート1の両脇に本体部(本実施形態では透過シート2)を露出させる場合には、図示例のように、表面シート1両脇における本体部の露出部2Sまでを含め、露出面全体にわたり融着加工を施し、表面シート1に融着部m,m…を設けるだけでなく、表面シート1を介さずに本体部(本実施形態では透過シート2)の上面に擬似融着部d,d…を設けるようにするのが好ましい。これにより、前述のとおり、表面シート1を安定かつ高品質に融着することができる。」(段落0050)という記載がある。
これらを参酌すれば、「透過シート」に対して融着される対象物となる「表面シート」が存在する箇所では、両者に対して「ヒートシールや超音波シール」などの融着加工(いわば通常の融着加工)を施し、「透過シート」に対して融着される対象物となる「表面シート」が存在しない箇所、すなわち、「表面シート1両脇における本体部の露出部」箇所では、「透過シート」単独に対して、または「透過シート」とその下の「吸収性要素」とに対して「ヒートシールや超音波シール」などの融着加工を施すものであり、「表面シート」が存在しない箇所に対して融着加工を施した部分を「擬似融着部」と称していることが明らかである。
構成要件Ba、Bbは、明確である。
また、本件発明1は、「中間部における融着部の面積率」を特定していないから、「物品中間部における融着部の面積率を低くする」構成をも含んでいる。そして、このような構成においては「擬似的な融着部を設けること……によって、吸収性向上のために中間部における表面シート融着部の面積率を低下させても、融着加工条件の変動を少なく抑えることができる」(段落0008)ことが発明の詳細な説明に記載されているから、「擬似融着部」の技術的意義は明確である。
無効理由1-3には、理由がない。

4.無効理由2-1について
(1)請求人の主張の要旨
「表面シートの両脇に本体部の透過シートが露出」する構成は、「吸収性物品の技術分野」全体にわたって周知である。よって、本件発明は、甲1に記載された発明に、単なる設計変更を施すことにより、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。

(2)被請求人の主張の要旨
「表面シートの両脇に本体部の透過シートが露出」する構成は、「吸収性物品の技術分野」全体にわたって周知ではない。また、仮に、当該構成が周知であったとしても、甲1に記載された発明に、当該周知の技術的を適用することには阻害要因がある。よって、本件発明は、単なる設計変更を施すことにより、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)当審の判断
ア.甲1の記載事項
甲1には、次の記載がある。
a「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、経血やおりものなどの体液を吸収するための生理用ナプキン、パンティライナー、失禁パッド等の吸収性物品に係り、詳しくは表面材にエンボス加工が施された吸収性物品に関する。
【0002】【従来の技術】従来より、生理用ナプキン、パンティライナー、失禁パッドなどの吸収性物品において、吸収性物品の厚み方向への体液の拡散性の向上と、体液の隠蔽性の向上を目的として、トップシートの下面側に吸収性を有するセカンドシートが配置された表面材が知られている。そして、体液の吸収速度の向上や、肌触りの感の向上を目的とし、トップシートとセカンドシートとにエンボス加工を施し、トップシートとセカンドシートとを接着したものが知られている。(例えば、特許文献1参照。)。」

b「【0004】【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記特許文献1の場合、トップシートとセカンドシートとの接着は十分でなく、トップシートはセカンドシートから剥離しやすく、剥離したトップシートにヨレや皺が生じることがあった。吸収性物品の表面において、そのトップシートがヨレたり皺が生じることによって、吸収性物品の肌触り感が悪化するとともに、吸収性物品における体液の吸収性能が低下するという問題があった。
【0005】本発明の課題は、吸収性物品において、トップシートとセカンドシートとをエンボス加工により好適に接着し、トップシートのヨレを防止しすることと、体液の吸収性能低下を防止することである。
【0006】【課題を解決するための手段】以上の課題を解決するため、請求項1記載の発明は、人体との接触面側に設けられるトップシート(3)に、複数の略長方形状或いは略楕円形状のエンボス凹部(8)を有する吸収性物品(例えば、ナプキン100等)であって、前記エンボス凹部の長軸方向は、人体の動きにより前記トップシートに作用する作用力のうち、最大の作用力の方向に対し、略30度から略90度の角度になるように形成されていることを特徴とする。」

c「【0032】【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を図1から図15に基づいて説明する。図1は本発明を適用した生理用ナプキンの平面図あり、図2は図1のII-II線における断面図である。
【0033】吸収性物品としての生理用ナプキン(以下、ナプキンという。)100は、ポリエチレンシートなどからなる不透液性のバックシート2と、経血やおりものなどの体液を速やかに透過させる透液性のトップシート3と、トップシート3の裏面に配置される液体透過性を有するセカンドシート34と、これらバックシート2とセカンドシート34との間に介装される綿状パルプまたは合成パルプなどからなる吸収体4と、この吸収体4を囲繞するクレープ紙5と、吸収体4の略側縁部を起立基端とし、少なくとも排血口対応部(例えば、図1に示されるポイントP)から前後方向に所定の区間において人体との接触面側に起立するように設けられた左右一対のギャザーシート6、6等により構成されている。」

d「【0036】トップシート3は、有孔または無孔の不織布や、多孔性プラスチックシート、また不織布にポリエチレンフィルムがラミネートされたラミネートシートなどにより形成されている。……トップシート3に多数の透孔を形成した場合には、経血やおりもの等の体液がより速やかに吸収されるようになり、ドライタッチ性に優れたものとなる。
【0037】セカンドシート34は、例えば、エアスルー方式で製造されたエアスルー不織布である。このエアスルー不織布は、柔らかく、水分吸収性が良好な性質を有する。また、セカンドシート34は、トップシート3の裏面に後述するエンボス凹部8により接着されている。」

e「【0038】また、図1に示されるように、トップシート3の表面には、フィットエンボス(第1のフィットエンボス88a、第2のフィットエンボス88b、センターフィットエンボス88c)が形成されている。このフィットエンボス(第1のフィットエンボス88a、第2のフィットエンボス88b、センターフィットエンボス88c)は、トップシート3とともに吸収体4にも凹部が形成されるように、トップシート3を吸収体4に押し付けて形成されている。このトップシート3はセカンドシート34とともに、吸収体4に熱融着により接着されている。なお、図1においては、ギャザーシート6を透視し、トップシート3におけるフィットエンボスや後述するエンボス凹部8を視認して図示してある。
………
【0040】エンボス凹部8は、トップシート3側からセカンドシート34側へ向け、或いはセカンドシート34側からトップシート3側へ向けてプレス加工(エンボス加工)された凹部であり、このエンボス凹部8によりトップシート3とセカンドシート34が接着されている。エンボス凹部8は、図3に示されるように、楕円形状を有している。エンボス凹部8の短軸81と長軸82との長さの比は1:2以上である。また、長軸82の長さは2mm以上であり、好ましくは3mm以上である。」

f「【0042】吸収体4は、体液を吸収するものであり、通常はフラッフ状パルプ中に吸水性ポリマー粉末を混入したものが吸収機能およびコストの点から好適に使用されるが、体液を吸収・保持し得るものであれば良い。吸収体4は、形状保持等のためにクレープ紙5によって囲繞することが望ましい。」

g 図1から、吸収性物品(生理用ナプキン)は、物品の前後方向の各位置で幅方向の少なくとも一箇所に、エンボス凹部が存在していることが見て取れる。また、図2から、トップシート3とセカンドシート34は、幅が等しいことが見て取れる。

イ.甲1発明a
以上の記載から見て、甲1に開示された発明を、技術常識を参酌しつつ、本件発明1に倣って整理し分説すれば、甲1には、次の発明が記載されている(以下、「甲1発明a」という)。
《甲1発明a》
aa.人体との接触面側に設けられるトップシートと、
ab.トップシートと幅が等しい液体透過性を有するセカンドシートおよび体液を吸収する吸収体と、
ac.前記トップシートを前記セカンドシートに熱融着により接着してなる
エンボス凹部と、
ad.を有する吸収性物品であって、
c.前記エンボス凹部が、物品の前後方向の各位置で幅方向の少なくとも一
箇所に設けられている、
d.吸収性物品。

ウ.対比、一致点及び相違点
本件発明1と甲1発明aとを対比すると、甲1発明aの「人体との接触面側に設けられるトップシート」は、本件発明1の「肌と対向する透液性表面シート」に相当し、同様に、
「液体透過性を有するセカンドシート」は「排泄液を透過する透過シート」に、
「体液を吸収する吸収体」は「排泄液を吸収保持する吸収要素」に、
「熱融着により接着」は「融着」に、
「エンボス凹部」は「融着部」に、
それぞれ相当する。
また、甲1発明aのセカンドシートは、吸収体4の上面にあって吸収体4を包み込んでいる(図2)から、セカンドシートと吸収体とは、「本体部」を構成するものということができる。
そうすると、本件発明1と甲1発明aとの一致点及び相違点は、次のとおりである。
《一致点》
Aa.肌と対向する透液性表面シートと、
Ab.排泄液を透過する透過シートおよび排泄液を吸収保持する吸収要素か
らなる本体部と、
Ac.前記表面シートを前記本体部の上面の透過シートに融着してなる融着
部と、
Ad.を有する吸収性物品であって、
C.前記融着部が、物品の前後方向の各位置で幅方向の少なくとも一箇所に
設けられている、
D.吸収性物品。

《相違点》
本件発明1は、「表面シートの両脇に前記本体部の前記透過シートが露出しており」、「この露出部に、前記表面シートを介さずに前記本体部の前記透過シートに融着加工を施してなる擬似融着部を設け」ているのに対し、甲1発明aは、表面シートと透過シートの幅が等しく「表面シートの両脇に前記本体部の前記透過シートが露出」しておらず、また、「露出部に、前記表面シートを介さずに前記本体部の前記透過シートに融着加工を施してなる擬似融着部を設け」ていない点。

以下、相違点について検討する。

エ.周知技術について
(ア)請求人は、「表面シートの両脇に本体部の透過シートが露出」する構成は、「吸収性物品の技術分野」全体にわたって周知であり(第1回口頭審理調書の請求人の4)、その根拠は甲2から甲17である旨主張する(同口頭審理調書の請求人の4、平成26年2月19日付け上申書4頁3行?5頁3行)。

(イ)しかし、吸収性物品は、使い捨ておむつ、使い捨てトレーニングパンツ、生理用ナプキンなどの種類に分かれており、種類ごとに使用目的や構造が異なるし、それらの「表面シート」が解決しようとする課題や構成も一般的に異なっている。このため、ある種類、例えば、使い捨てトレーニングパンツにおいて「表面シートの両脇に本体部の透過シートが露出」する構成が周知であるからといって、直ちに「吸収性物品の技術分野」全体にわたって周知であるということはできない。
そして、甲1発明aは、「吸収性物品」であるが、その根拠としている構成は「生理用ナプキン」(甲1段落0032、上記ア.c参照)の構成である。したがって、甲1発明aの「表面シート」に適用可能な周知技術であるか否かは、「生理用ナプキンの表面シート」についても適用可能な周知の技術的事項であるといえるか否かによって判断するべきである。
また、本件発明1の「表面シートを前記本体部の上面の透過シートに融着してなる」との構成から見て、請求人が周知であると主張する「表面シートの両脇に本体部の透過シートが露出」する構成は、「表面シートの下層に透過シートが配置される」構成を前提とするものであり(前提条件a)、表面シートの幅が透過シートの幅より狭くなっていることによって、「表面シートの両脇に本体部の透過シートが露出」する構成といえる。
さらに、本件明細書段落0008の「排泄液を、表面シートを介さずに両脇部から直接に本体部に導入でき」という、本件発明1の課題の記載から見て、請求人が周知であると主張する「表面シートの両脇に本体部の透過シートが露出」する構成は、「本体部の透過シートが露出」する部分が、「排泄液を、表面シートを介さずに両脇部から直接に本体部に導入できる機能を発揮する程度の露出部分」(前提条件b)であることを前提とするものといえる。

(ウ)請求人が周知技術の根拠であると主張する甲2?甲17のうち、甲3、甲6、甲7は、使い捨てトレーニングパンツの発明である。
甲3には、その最も肌側に設けられるシート、すなわち表面シートが「湿潤感知手段」であり、保水能力が高いシートである技術(甲3段落0002、甲3の従来技術)と、表面シートが「強い疎水性を有する不透液性シート」(甲3段落0015)又は「幅方向の中央部に不透液性かつ強い疎水性の第1感知域26を有し、第1感知域26の両側に親水性の第2感知域27を有する」(甲3段落0017)シートであり、不透液性領域の両脇に存在する親水性領域を湿潤感知手段にする技術が記載されている。甲6、甲7には、甲3の従来技術と同等の技術が記載されている。このような「湿潤感知手段」としてのシートや、不透液性シートであってその両脇の親水性領域を湿潤感知手段とするシートの課題や構造は、生理用ナプキンの表面シートの課題や構造とは全く異なる。
さらに、高い保水能力を有して体液を長時間表面シートにとどまらせる「湿潤感知手段」としてのシートや、両脇の親水性領域を湿潤感知手段にする不透液性シートは、生理用ナプキンの表面シートにおける一般的かつ周知の課題に反している。つまり、生理用ナプキンの表面シートは、体液をすぐにその下層へと透過させ視認し難くすることが、一般的かつ周知の課題であるところ(例えば、甲14段落0003の「液体浸透性カバーは吸収体を通過してきた体液を覆ってしまうものであることが必要である。これは血液や月経液が吸収体により保持されている女性用吸収性物品には特に必要である。女性のユーザーは清潔な外観の製品を好むので、血液のしみが付いていたりすると、その製品には漏れが生じていてすぐに取り替えなければならないという印象を与えてしまう。」を参照)、「湿潤感知手段」としてのシートや、両脇の親水性領域を湿潤感知手段とする不透液性シートは、体液をすぐにその下層へと透過させ視認し難くするという、生理用ナプキンの表面シートにおける一般的かつ周知の課題の達成を不可能にする。
よって、甲3、甲6、甲7に開示された表面シートについての技術を、生理用ナプキンの表面シートについての周知技術の根拠にすることはできない。

(エ)甲4、甲5、甲8、甲9は、使い捨ておむつの発明である。このうち、甲4、甲5の最も肌側に設けられるシート、すなわち表面シートは、「大便の排泄があったときは、紙おしめ本体の上面から……シートを剥離して大便ごと丸め、そのまゝ……排棄処理ができる」(甲4段落0009)ためのシートである。この大便排棄処理用のシートの課題や構造は、生理用ナプキンの表面シートの課題や構造とは全く異なる。よって、甲4、甲5に開示された表面シートについての技術を、生理用ナプキンの表面シートについての周知技術の根拠にすることはできない。
甲8の表面シートは、甲3に従来技術として記載された「湿潤感知手段」としてのシートと同様な親水性の吸尿シート12であり、その周囲に疎水性の内面シート2が露出するように配置することによって、吸尿シート12で集中的に吸収された尿が、吸尿シート12から滲出して周囲に拡散しないようにし、尿の横漏れを防止するものである(甲8段落0012)。甲8の表面シートの「体液(尿)を集中的に吸収する」という機能は、上記(ウ)で指摘したのと同様に、生理用ナプキンの表面シートにおける一般的かつ周知の課題に反している。したがって、甲8に開示された表面シートについての技術を、生理用ナプキンの表面シートについての周知技術の根拠にすることはできない。
甲9には、表面シート(第1の材料層42)の構成の一例として、図1、図2、段落0053に、表面シートがその下層の透過シート(第2の材料層44)より幅が狭く、表面シートの両脇に透過シートが露出しているおむつ20のトップシート40(層42と層44を合わせたもの)が示されている。しかし、甲9には、第1の材料層42の幅を第2の材料層44より狭くする技術的理由やその構成によって奏される技術的効果について何も記載されていないし、当該構成を生理用ナプキンに適用した場合に奏される技術的効果が、当業者に自明であるとも認められない。したがって、甲9の図1、図2に開示された構成を、おむつとは異なる製品である生理用ナプキンに適用する理由が見出せない。よって、甲9に開示された表面シートについての技術を、生理用ナプキンの表面シートについての周知技術の根拠にすることはできない。

(オ)請求人は、甲11の12頁15?22行に、トップシートの両脇に露出部を設けた生理用ナプキンが記載されている旨主張している(平成26年2月19日付け上申書5頁1?3行)。甲11には、この記載に直接対応する図面はないが、明細書の記載から見て、図5における中央材料ストリップ25と、材料部分26、27との上下関係を逆にした構成であると認められる。しかし、図5のものは「失禁保護帯」であって「生理用ナプキン」ではない。さらに、甲11の図5に開示された構成は、体液の主要吸収部分である前後方向中央部分では、中央材料ストリップ25(表面シート)が幅方向全体に渡って延在している構成であり、前後方向両端部近傍においてのみ、両脇に露出部が存在しているにすぎない。したがって、甲11の図5に開示された構成は、「本体部の透過シートが露出」する部分が、上記(イ)で指摘した前提条件b「排泄液を、表面シートを介さずに両脇部から直接に本体部に導入できる機能を発揮する程度の露出部分」を満たしているとはいえない。
甲11に「トップシートの両脇に露出部を設けた生理用ナプキンが記載されている」旨の請求人の主張は、失当であり、甲11に「表面シートの両脇に本体部の透過シートが露出」する構成が開示されているとはいえない。

(カ)甲10、甲12、甲13及び甲15?甲17には、生理用ナプキンの発明が記載されている。
しかし、甲10に開示された生理用ナプキンは、表面シート(プラスチックフィルムウエブ10)の両脇で、縦長のストリップ14、16が表面シートの上層に位置する構成である(図5、図6)。甲10に開示された生理用ナプキンは、「表面シートの下層に透過シートが配置される」構成ではないから、上記(イ)で指摘した前提条件aを満たしていない。よって、甲10に開示された技術は、「表面シートの両脇に本体部の透過シートが露出」する構成ではない。
甲12には、透液性トップシート5が、中央域に位置する第1の吸収面域8と、その周辺へ延びる第2の吸収面域9に区画されている生理用ナプキンが開示されている。しかし、第1の吸収面域8を構成するシートの下層に、第2の吸収面域9を構成するシートが配置される構成ではない。甲12に開示された技術は、上記(イ)で指摘した前提条件aを満たしていないから、「表面シートの両脇に本体部の透過シートが露出」する構成ではない。
甲13には、表面材は不織布或いはメッシュシートをベース(透過シート)として、液透過性の多孔性フィルム(表面シート)を上記吸収面の略中央部或いは中央帯に積層した生理用ナプキンが開示されている(甲13請求項1)。しかし、甲13に開示された表面材は、「着用時の両足大腿部の付け根にあたる部分、即ち生理用ナプキンでいうとナプキン幅方向の両端部で、少なくともここに用いられる素材は肌触り感の良好なものが望まれ、また経血の吸収場所に当たる生理用ナプキンの中央部は、サラット感のある吸収特性の優れた物を用いる」(甲13段落0004)ものであり、不織布或いはメッシュシートが露出するのは、「着用時の両足大腿部の付け根にあたる部分」(甲13段落0004、図1)のみである。甲13に開示された表面材は、上記(イ)で指摘した前提条件bを満たしていないから、「表面シートの両脇に本体部の透過シートが露出」する構成が開示されているとはいえない。なお、甲13図3(c)には、液透過性の多孔性フィルム8が菱形で、前後両端では、不織布7の露出の程度が大きいものが示されているが、体液の主要吸収部分である前後方向中央部分では露出部分がほとんどないから、上記(オ)で指摘したのと同様の理由により、上記(イ)で指摘した前提条件bを満たしていない。
甲15には、透液性の基材11の表面側に、連続フィラメントの層13がループ部15a、15bを形成するように、間隔を開けた複数箇所で連続フィラメントの層13を接合した生理用ナプキンが開示されている(甲15請求項1、段落0029?0032)。このループ部を形成する連続フィラメントの層13は、「シート」ではないから、甲15に開示された技術は、「表面シートの両脇に本体部の透過シートが露出」する構成ではない。
甲16には、液透過性のトップシート31の表面に開孔シート1A(表面シート)を波形状に設置した生理用ナプキン30が開示されている(甲16段落0052?0055、図7)。図7を見ると、開孔シート1Aの両脇には、トップシート31が僅かに露出していることが見て取れる。しかし、このような僅かな露出部が、上記(イ)で指摘した前提条件bを満たしているとはいえないから、甲16に開示された技術は、「表面シートの両脇に本体部の透過シートが露出」する構成ではない。
甲17には、吸収体1を包む不織布等の包装体4の上面に、吸収孔3を設けた防水性のシート2(表面シート)を設けた生理用ナプキンが開示されている(甲17明細書、第3図)。しかし、第3図には、吸収体1と包装体4との間に設けられた非透水性のシート(明細書には説明がないが非透水性のシートであることは技術常識から見て明らかである。)の開口部の幅が、シート2の幅と同程度であることが示されている。甲17に開示された技術は、「表面シートの両脇に本体部の透過シートが露出」する構成ではない。

(キ)甲2及び甲14にも、生理用ナプキンの発明が記載されている。
甲2には、着用者の排泄部位に適度に密着させることを目的として、液透過性の表面構造体10の中央部を厚くするに際し、その製造をきわめて簡単に行なうことができ、また着用者の肌への当接感をソフトにできることを目的として(甲2段落0003、0008、0044)、「表面構造体は、吸収性物品の縦方向に途切れることなく延びる連続フィラメント束が2層以上積層されて、層間で前記連続フィラメントが部分的に接合されたものであり、前記吸収層側に位置する下層が所定幅寸法を有し、表面側に位置する上層は、前記下層よりも幅寸法が短く、前記上層は前記下層の中央部または両側部に位置している」(甲2請求項1)構成が開示されている。そして、このような構成の一例として図6及び段落0067?0072に、表面構造体10の最表面となる上層10cより、その下に位置する中層10bの幅が広く、中層10bの下に位置する下層10aの幅がさらに広く、下層10aの下に吸収層8が位置する生理用ナプキン30が示されている。また、段落0066には、中層10bを省略して、上層10cと下層10aの2層構造としてもよいことが記載されている。
これらの記載から見て、甲2には、表面構造体10の中央部を厚くする構成の製造をきわめて簡単に行なうことができ、また着用者の肌への当接感をソフトにするために、「吸収性物品の縦方向に途切れることなく延びる連続フィラメント束」という特定の材料層を用い、それらを「2層以上積層されて、層間で前記連続フィラメントが部分的に接合され」るという特定の接合構造にするものであって、「表面側に位置する上層は、前記下層よりも幅寸法が短く、前記上層は前記下層の中央部に位置している」構成が記載されている。
甲14には、第二の材料54(透過シート)の上面にそれより幅の狭い第一の材料48(表面シート)を取付けた二成分カバーを身体側カバーとした生理用ナプキンが開示されている(甲14段落0001、0016、0026、0029、0046、図1、図4、図5)。これらの記載から見て、甲14には、「表面シートの両脇に本体部の透過シートが露出」する技術が記載されているといえる。

(ク)請求人が周知技術の根拠として示した甲2?甲17のうち、生理用ナプキンに適用可能な「表面シートの両脇に本体部の透過シートが露出」する技術が記載されているものは、甲2及び甲14の僅か2件である。
しかも、甲2に示された技術は、表面構造体10の中央部を厚くする構成の製造をきわめて簡単に行なうことができ、また着用者の肌への当接感をソフトにするために、特定の材料層を用い、特定の接合構造にすることを前提として、または、これら特定の材料層及び接合構造と不可分の構成として、「表面シートの両脇に本体部の透過シートが露出」する構成を採用したものである。したがって、甲2に、これら特定の材料層及び接合構造という前提又は不可分の構成を捨象した「表面シートの両脇に本体部の透過シート」を「露出」させるという、上位概念的又は一般的な技術的思想が開示されているとはいえない。
よって、請求人が示した甲2?甲17によっては、「表面シートの両脇に本体部の透過シート」を「露出」させることが、生理用ナプキンに適用可能な技術として周知の技術であるとまではいえない。
「表面シートの両脇に本体部の透過シートが露出」する構成は、「吸収性物品の技術分野」全体にわたって周知であるとの請求人の主張は、認めることができない。

オ.設計変更について
(ア)本件発明は、甲1に記載された発明に、単なる設計変更を施すことにより、当業者が容易に発明をすることができたものであるという無効理由2-1の主張は、「表面シートの両脇に本体部の透過シートが露出」する構成が「吸収性物品の技術分野」全体にわたって周知の技術であることを前提とする主張である。しかし、上記エ.(ク)で指摘したとおり、請求人が根拠として示した甲2?甲17からは、「表面シートの両脇に本体部の透過シートが露出」する構成が「吸収性物品の技術分野」全体にわたって周知の技術であるとまではいえない。
無効理由2-1は、前提とする周知技術についての認識が誤っているから、失当である。請求人が主張する無効理由2-1によっては、本件発明1を無効にすることはできない。

(イ)念のため、「表面シートの両脇に本体部の透過シートが露出」する構成が周知技術であると仮定した場合についての判断を示す。
甲1発明aは、その前提として、目的a)吸収性物品の厚み方向への体液の拡散性の向上と、目的b)体液の隠蔽性の向上を目的として、トップシートの下面側に吸収性を有するセカンドシートが配置された構造にしているものである(甲1段落0002)。
目的aの「厚み方向への体液の拡散性の向上」は、トップシートの下面側にセカンドシートを配置する構造により、トップシートとセカンドシートとの相乗効果によって奏される作用効果であることが、当該技術分野における技術常識である(例えば、特開平4-272261号公報段落0003?0004、特許第3427525号公報段落0007、特開平6-136650号公報段落0002、特開平4-24026号公報2頁右上欄)。
また、目的bの「体液の隠蔽性の向上」は、吸収体(吸収要素)を覆うシートの厚さによって奏される作用効果であることは、自明である。
そうすると、仮に、「表面シートの両脇に本体部の透過シートが露出」する構成にすることが周知技術であるとしても、甲1発明aにこの周知技術を適用して、トップシートの幅を狭くし、その両脇にセカンドシートが露出する構成にすると、露出した部分は、上記目的a及び目的bの双方とも達成できなくなる。したがって、甲1発明aに上記周知技術を適用することには阻害要因があるから、甲1発明aに上記周知技術を適用することはできない。
よって、仮に、「表面シートの両脇に本体部の透過シートが露出」する構成にすることが周知技術であるとしても、甲1発明aに上記周知技術を適用して、本件発明1を発明することができたとはいえない。

(ウ)さらに念のため、上記阻害要因を押して甲1発明aに上記周知技術を適用した場合に、本件発明1を発明することができたかについての判断を示す。
甲1発明aのエンボス凹部は、「トップシートとセカンドシートとをエンボス加工により好適に接着し、トップシートのヨレを防止」(甲1段落0005、上記ア.b参照)するためのものである。すると、上記阻害要因を押して、甲1発明aの「トップシート」の幅を「セカンドシート」より狭くし、トップシートの両脇にセカンドシートが露出する構成にする場合、接着が不要になるトップシートの両脇に露出したセカンドシートの部分には、熱融着加工を行わないことになる。セカンドシートしか存在しない露出部分に、あえて熱融着加工を行って「疑似融着部」を設ける動機付けは存在しないし、そのような疑似融着部」を設けることが、単なる設計変更であるともいえない。
したがって、上記阻害要因を押して、あえて甲1発明aに上記周知技術を適用したとしても、本件発明1を容易に発明できたとはいえない。

オ.本件発明2、3について
本件発明2、3は、本件発明1を引用して発明特定事項を特定する発明であり、本件発明1の構成要件をすべて備えているから、本件発明1と同様の理由により、甲1発明aに、単なる設計変更を施すことにより、容易に発明できたということはできない。
よって、請求人が主張する無効理由2-1によっては、本件発明2、3を無効にすることはできない。

5.無効理由2-2について
(1)請求人の主張の要旨
「表面シートの両脇に本体部の透過シートを露出」させるという技術的思想は、甲2又は甲3に記載されており本件の特許出願前に公知である。よって、本件発明は、甲1に記載された発明に、甲2又は甲3に記載された発明を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。

(2)被請求人の主張の要旨
「表面シートの両脇に本体部の透過シートを露出」させるという技術的思想は、甲2又は甲3に記載されていない。また、仮に、当該技術的思想が公知であったとしても、甲1に記載された発明に、当該技術的思想を適用することには阻害要因がある。よって、本件発明は、甲1に記載された発明に、甲2又は甲3に記載された発明を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)当審の判断
ア.甲1の記載事項、甲1発明a、一致点及び相違点
甲1の記載事項、甲1発明a、一致点及び相違点は、上記4.(3)ア.?ウ.に示したとおりである。

イ.相違点の検討
(ア)上記4.(3)エ.(キ)、同(ク)で述べたとおり、甲2には、「表面シートの両脇に本体部の透過シートが露出」する構成が記載されているが、「吸収性物品の縦方向に途切れることなく延びる連続フィラメント束」という特定の材料層を用い、それらを「2層以上積層されて、層間で前記連続フィラメントが部分的に接合され」るという特定の接合構造にすることを前提又は不可分の構成として、「表面シートの両脇に本体部の透過シートが露出」する構成を採用したものである。甲2に、これら特定の材料層や特定の接合構造という前提又は不可分の構成を捨象した「表面シートの両脇に本体部の透過シートを露出」させるという、上位概念的又は一般的な技術的思想が開示されているとはいえない。
したがって、甲1発明aに甲2に記載された発明(技術的思想)を適用することにより、本件発明1を容易に発明することができたとはいえない。
また、上記4.(3)エ.(ウ)で述べたとおり、甲3に記載された技術は、生理用ナプキンの表面シートにおける一般的かつ周知の課題に反するものであるから、甲1発明aに甲3に記載された発明(技術的思想)を適用する動機付けあるとはいえない。したがって、甲1発明aに甲3に記載された発明を適用することにより、本件発明1を容易に発明することができたとはいえない。
請求人が主張する無効理由2-2によっては、本件発明1を無効にすることはできない。

(イ)念のため、「表面シートの両脇に本体部の透過シートを露出させる」という技術的思想が公知であると仮定した場合に、本件発明1を容易に発明することができたかを検討する。
すると、上記4.(3)オ.(イ)で述べたように、甲1発明aにこの公知技術を適用して、トップシートの幅を狭くし、その両脇にセカンドシートが露出する構成にすることには、阻害要因がある。したがって、甲1発明aに上記公知技術を適用して、本件発明1を容易に発明することができたとはいえない。
さらに、上記4.(3)オ.(ウ)で述べたように、上記阻害要因を押してあえて甲1発明aに上記公知技術を適用したとしても、本件発明1を容易に発明できたとはいえない。

(ウ)本件発明2、3は、本件発明1を引用して発明特定事項を特定する発明であり、本件発明1の構成要件をすべて備えているから、本件発明1と同様の理由により、請求人が主張する無効理由2-2によっては、本件発明2、3を無効にすることはできない。

第6 結び
以上のとおりであって、請求人が主張する無効理由1-1ないし無効理由2-2には、いずれも理由がないから、本件発明1ないし本件発明3を無効にすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人の負担とする。
よって、結論のとおり審決する。

【参考図1:審判答弁書に添付した説明図】

 
審理終結日 2014-03-03 
結審通知日 2014-03-05 
審決日 2014-03-18 
出願番号 特願2005-176861(P2005-176861)
審決分類 P 1 113・ 536- Y (A41B)
P 1 113・ 537- Y (A41B)
P 1 113・ 121- Y (A41B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 米村 耕一  
特許庁審判長 栗林 敏彦
特許庁審判官 河原 英雄
二ッ谷 裕子
登録日 2009-07-24 
登録番号 特許第4346581号(P4346581)
発明の名称 吸収性物品  
代理人 小池 寛治  
代理人 永井 義久  
復代理人 加藤 和孝  

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