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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H03H
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H03H
管理番号 1287207
審判番号 不服2013-4346  
総通号数 174 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-06-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-03-06 
確定日 2014-05-01 
事件の表示 特願2010-511866「弾性境界波装置」拒絶査定不服審判事件〔平成21年11月19日国際公開、WO2009/139108〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成21年3月31日(国内優先権主張 特願2008-124496号 平成20年5月12日)を国際出願日とする出願であって、平成24年6月11日付けで拒絶理由が通知され、これに対して平成24年8月10日付けで意見書が提出され、平成24年12月4日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成25年3月6日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に手続補正がなされたものである。


第2.平成25年3月6日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成25年3月6日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.補正内容
本件補正は、補正前の特許請求の範囲(出願時のもの)の請求項1:
「【請求項1】
圧電基板と、
前記圧電基板上に積層されており、誘電体からなる第1の媒質層と、
前記第1の媒質層の上面に積層されており、第1の媒質層を形成している前記誘電体とは音速が異なる誘電体からなる第2の媒質層と、
前記圧電基板と、前記第1の媒質層との界面に配置されたIDT電極とを備える弾性境界波装置であって、
前記圧電基板の速い横波バルク波の音速をV1、弾性境界波の高次モードの反共振点の音速をVaとしたときに、Va>V1であることを特徴とする、弾性境界波装置。」を、

「【請求項1】
圧電基板と、
前記圧電基板上に積層されており、誘電体からなる第1の媒質層と、
前記第1の媒質層の上面に積層されており、第1の媒質層を形成している前記誘電体とは音速が異なる誘電体からなる第2の媒質層と、
前記圧電基板と、前記第1の媒質層との界面に配置されたIDT電極とを備える弾性境界波装置であって、
弾性境界波の高次モードを圧電基板側へ漏洩させるように、前記圧電基板の速い横波バルク波の音速をV1、弾性境界波の高次モードの反共振点の音速をVaとしたときに、Va>V1であることを特徴とする、弾性境界波装置。」

と補正することを含むものである。ただし、下線は当審が付加した。

すなわち、本件補正は、請求項1において、

a.「弾性境界波の高次モードを圧電基板側へ漏洩させるように、」を追加するものである。


2.補正の目的

上記補正事項a.は、「弾性境界波の高次モードを圧電基板側へ漏洩させるように、」を追加することにより、「Va>V1である」を限定的に減縮したものである。

そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法17条の2第6項において準用する同法126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。


3.引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1(国際公開第2006/114930号)には、図面とともに、以下の事項が記載されている。ただし、下線は当審が付加した。

(a)段落番号[0050]-[0051]
「[0050]
図1は、本発明の一実施形態に係る弾性境界波装置の電極構造を示す模式的平面断面図であり、図2は、弾性境界波装置の正面断面図である。
[0051]
本実施形態の弾性境界波装置10では、圧電性を有する第1の媒質11上に第3の媒質13及び、第2の媒質12がこの順序で積層されている。そして、第1の媒質11と第3の媒質13との界面に、IDT14及び反射器15,16が配置されている。すなわち、第1,第3の媒質11,13間の界面に電極が配置されている。」

(b)段落番号[0054]
「[0054]
弾性境界波装置10では、利用する遅い横波の音速が相対的に遅い第3の媒質13が、音速が相対的に速い第1,第2の媒質11,12により挟持されている。従って、弾性境界波の振動エネルギーが、相対的に音速が遅い第3の媒質13に閉じ込められ、伝搬され得る。すなわち、第2,第3の媒質12,13間の界面と、第1,第3の媒質11,13間の界面との間に、弾性境界波の振動エネルギーが閉じ込められることにより、弾性境界波が上記電極指14a,14bと直交する方向であって、IDT14が形成されている面の面方向に伝搬される。」

(c)段落番号[0055]-[0056]
「[0055]
本実施形態では、第1の媒質11は、圧電体としての15°YカットX伝搬、オイラー角で(0°,105°,0°)のLiNbO_(3)からなる。第2の媒質12は、非導電物質としてのSiNからなる。また、第3の媒質13はSiO_(2)からなる。
[0056]
IDT14及び反射器15,16はAlよりも密度が大きい金属を用いて構成されている。すなわち、IDT14は、密度ρが3000?21500kg/m3の範囲にある金属を用いて構成されている。また、IDT14の厚みH1が、IDT14の電極指ピッチをλとしたときに、0.006λ≦H1≦0.2λの範囲とされており、第3の媒質13の厚みH2が、H1<H2≦0.7λの範囲とされている。」

(d)段落番号[0079]
「上記3種類の媒質11?13を積層してなる積層体を用いた弾性境界波装置では、第3の媒質13を薄くすると、第3の媒質13の上下の界面間に閉じ込められて伝搬する高次モードをカットオフすることができ、該高次モードを抑圧することができる。」

(e)段落番号[0110]
「[0110]
第3の媒質13:SiO_(2)、厚さ100nm、200nmまたは500nm。」

(f)段落番号[0114]
「[0114]
IDT14と反射器15,16との間の電極指中心間距離は1.6μmとし、IDT14及び反射器15,16における電極指ピッチは0.8μmとした。」

したがって、刊行物1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「弾性境界波装置10であって、
圧電性を有する第1の媒質11上に第3の媒質13及び、第2の媒質12がこの順序で積層されており、そして、第1の媒質11と第3の媒質13との界面に、IDT14及び反射器15,16が配置されており、すなわち、第1,第3の媒質11,13間の界面に電極が配置されており、
該弾性境界波装置10では、利用する遅い横波の音速が相対的に遅い第3の媒質13が、音速が相対的に速い第1,第2の媒質11,12により挟持されており、従って、弾性境界波の振動エネルギーが、相対的に音速が遅い第3の媒質13に閉じ込められ、伝搬され得て、すなわち、第2,第3の媒質12,13間の界面と、第1,第3の媒質11,13間の界面との間に、弾性境界波の振動エネルギーが閉じ込められることにより、弾性境界波が上記電極指14a,14bと直交する方向であって、IDT14が形成されている面の面方向に伝搬され、
第1の媒質11は、圧電体としての15°YカットX伝搬、オイラー角で(0°,105°,0°)のLiNbO_(3)からなり、第2の媒質12は、非導電物質としてのSiNからなり、また、第3の媒質13はSiO_(2)からなり、
IDT14の電極指ピッチをλとし、
上記3種類の媒質11?13を積層してなる積層体を用いた弾性境界波装置では、第3の媒質13を薄くすると、第3の媒質13の上下の界面間に閉じ込められて伝搬する高次モードをカットオフすることができ、該高次モードを抑圧することができ、
第3の媒質13:SiO_(2)、厚さ100nm、200nmであり、
IDT14及び反射器15,16における電極指ピッチは0.8μmとした、
弾性境界波装置10。」


4.本願補正発明と引用発明の一致点・相違点

引用発明の第1の媒質11は、圧電体としての15°YカットX伝搬、オイラー角で(0°,105°,0°)のLiNbO_(3)からなるから、本願補正発明の「圧電基板」に相当する。

引用発明の第3の媒質13は、第1の媒質11上に積層されており、SiO_(2)からなるから、本願補正発明の「前記圧電基板上に積層されており、誘電体からなる第1の媒質層」に相当する。

引用発明の第2の媒質12は、第3の媒質13上に積層されており、非導電物質としてのSiNからなっている。また、利用する遅い横波の音速が相対的に遅い第3の媒質13が、音速が相対的に速い第1,第2の媒質11,12により挟持されている。したがって、 引用発明の第2の媒質12は、本願補正発明の「前記第1の媒質層の上面に積層されており、第1の媒質層を形成している前記誘電体とは音速が異なる誘電体からなる第2の媒質層」に相当する。

引用発明の弾性境界波装置10は、第1の媒質11と、第3の媒質13と、第2の媒質12と、IDT14を備えているから、本願補正発明の「圧電基板と、」「第1の媒質層と、」「第2の媒質層と、」「IDT電極とを備える弾性境界波装置」に相当する。

したがって、本願補正発明と引用発明の一致点・相違点は、次のとおりである。

[一致点]
「圧電基板と、
前記圧電基板上に積層されており、誘電体からなる第1の媒質層と、
前記第1の媒質層の上面に積層されており、第1の媒質層を形成している前記誘電体とは音速が異なる誘電体からなる第2の媒質層と、
前記圧電基板と、前記第1の媒質層との界面に配置されたIDT電極とを備える弾性境界波装置。」である点。

[相違点]
本願補正発明は、「弾性境界波の高次モードを圧電基板側へ漏洩させるように、前記圧電基板の速い横波バルク波の音速をV1、弾性境界波の高次モードの反共振点の音速をVaとしたときに、Va>V1であることを特徴とする」のに対して、引用発明には、そのような記載が無い点。


5.相違点についての検討

引用発明では、IDT14の電極指ピッチをλとし、IDT14における電極指ピッチは0.8μmとしている。したがって、λ=0.8μmである。また、IDT14の電極指ピッチをλとしたことから理解できるように、λは波長を表している。そうすると、引用発明の第3の媒質13:SiO_(2)の厚さ100nm、200nmは、波長で規格化した規格化膜厚で言えば、各々、12.5%、25.0%である。
他方、本願明細書の段落番号【0034】に「そこで、本願発明者らは、SiO_(2)膜の膜厚を薄くせずとも、高次モードリップルを抑圧(当審注:本願明細書の段落番号【0006】-【0019】及び【0039】-【0053】に高次モードスプリアスの抑圧が課題として記載されていることから、この「高次モードリップルを抑圧」は「高次モードスプリアスを抑圧」の誤記と推定される。」)し得る構造について検討した。」と記載されているものの、第1の実験例において、Va>V1を実現するために採用された具体的な構成は、SiO_(2)膜の規格化膜厚を40.0%、38.0%及び36.2%と、40.0%以下にすることである。また、本願明細書の第2の実験例?第4実験例では、SiO_(2)膜の規格化膜厚以外の、IDT電極のデューティー比や、IDT電極の厚さ方向の各積層金属の厚さを変化させて、Va>V1を実現する構成が開示されている。しかしながら、本願明細書の第2の実験例?第4実験例の構成によりVa>V1を実現した時に、高次モードスプリアスが抑圧されているか否かの検証はされていない。
してみると、本願明細書の段落番号【0007】-【0008】に記載されている「酸化ケイ素膜の膜厚を薄くすることにより、スプリアスを小さくすることができる。しかしながら、酸化ケイ素膜の膜厚を小さくすると、弾性境界波装置の周波数温度係数TCFが負の値になり、かつ該TCFの絶対値が大きくなるという問題があった。すなわち、高次モードスプリアスの抑圧とTCFの改善とは、トレードオフの関係にあった。」という問題を解決する方法として開示されているのは、SiO_(2)膜の規格化膜厚を40.0%以下にすることにより、Va>V1を実現するということである。

そうすると、引用発明では、第3の媒質13:SiO_(2)の規格化膜厚を12.5%、または25.0%として、本願補正発明と同様にSiO_(2)膜の規格化膜厚を40.0%以下にしているのであるから、引用発明においても、Va>V1が実現されていると解するのが相当である。
また、引用発明では、第3の媒質13を薄くして、第3の媒質13の上下の界面間に閉じ込められて伝搬する高次モードをカットオフすることができ、該高次モードを抑圧することができているのであるから、カットオフされた高次モードは、圧電基板側へ漏洩していると解するのが相当である。

してみると、相違点の「弾性境界波の高次モードを圧電基板側へ漏洩させるように、前記圧電基板の速い横波バルク波の音速をV1、弾性境界波の高次モードの反共振点の音速をVaとしたときに、Va>V1であることを特徴とする」は、引用発明にも備わっていると解するのが相当である。
よって、上記相違点は、実は相違点ではなかったということになる。

したがって、本願補正発明は、引用発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。


6.むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3.本願発明について
平成25年3月6日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、出願時の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものである。

1.刊行物及び引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物、及び引用発明は、前記「第2.3.」に記載したとおりである。


2.対比・判断
本願発明は、前記「第2.」で検討した本願補正発明から補正事項a.の構成を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「第2.5.」に記載したとおり、引用発明であるから、本願発明も同様の理由により、引用発明である。


3.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-02-27 
結審通知日 2014-03-04 
審決日 2014-03-17 
出願番号 特願2010-511866(P2010-511866)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H03H)
P 1 8・ 121- Z (H03H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 ▲高▼橋 徳浩  
特許庁審判長 江口 能弘
特許庁審判官 佐藤 聡史
近藤 聡
発明の名称 弾性境界波装置  
代理人 特許業務法人 宮▲崎▼・目次特許事務所  

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