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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1287308
審判番号 不服2013-1792  
総通号数 174 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-06-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-01-30 
確定日 2014-05-08 
事件の表示 特願2007-185896「医用画像観察支援システム」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 2月 5日出願公開,特開2009- 22368〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成19年7月17日を出願日とする出願であって,平成24年5月16日付けで拒絶理由が通知され,同年7月23付けで意見書及び手続補正書が提出され,同年10月25日付で拒絶査定されたのに対し,平成25年1月30日に拒絶査定不服の審判請求がされるとともに,同日付で手続補正(以下「本件補正」という。)がなされ,同年8月27日付けで審尋がなされ,同年11月1日に回答書が請求人より提出されたものである。

第2 本件補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1 補正後の請求項1に係る発明
本件補正により,特許請求の範囲の請求項1は,
「【請求項1】
患者識別情報に対応付けられた医用画像データを保管する医用画像保管装置と、患者識別情報に対応付けられた読影レポートを保管するレポート保管装置と、前記医用画像データを受けて表示する医用画像観察装置とがネットワークを介して接続された医用画像観察支援システムであって、
前記レポート保管装置は、
前記読影レポートを作成する際に参照された特定医用画像の特定医用画像データを前記医用画像保管装置から読み出すための特定情報を、前記読影レポートに対応付けて保管するレポート記憶手段と、
前記医用画像保管装置から前記患者識別情報を受け、該患者識別情報に基づき読影レポートを抽出し、該読影レポートに対応付けられた前記特定情報を前記医用画像保管装置に送信する第1の抽出手段と、
を有し、
前記医用画像保管装置は、
医用画像診断装置から受けた医用画像データを、画像生成条件に対応付けて保管する医用画像保管手段と、
前記第1の抽出手段から受けた前記特定情報に基づき、保管している前記医用画像データから前記特定医用画像データおよび前記画像生成条件を抽出する画像生成条件抽出手段と、
前記医用画像保管手段に保管された医用画像データに対し、前記画像生成条件抽出手段が抽出した前記特定医用画像データの画像生成条件に基づいて、該画像生成条件における断面位置、方向、または厚さを基準に画像処理を施すことにより、新たな医用画像データを生成する画像生成手段と、
送信要求を受けて、前記新たな医用画像データを前記医用画像観察装置に送信する手段と、
を有することを特徴とする医用画像観察支援システム。」(下線は補正箇所を示す。)と補正された。

2 補正事項について
補正前の請求項1における「前記読影レポートを作成する際に参照された特定医用画像データ」を「前記読影レポートを作成する際に参照された特定医用画像の特定医用画像データ」に限定すること,「前記画像生成条件抽出手段が抽出した画像生成条件に基づいて」を「前記画像生成条件抽出手段が抽出した前記特定医用画像データの画像生成条件に基づいて」に限定すること,「画像処理を施す」を「該画像生成条件における断面位置、方向、または厚さを基準に画像処理を施す」に限定することは,いずれも特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで,本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法17条の2第6項で準用する同法126条7項の規定に適合するか)について以下に検討する。

3 独立特許要件についての検討

3-1 特許法第29条第2項違反について

3-1-1 引用刊行物及びその記載事項
(1)本願の出願前に頒布され,原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開2003-135427号公報(以下「引用例1」という。)には,次の事項が記載されている。なお,以下の摘記において,引用発明の認定に関連する箇所に下線を付与した。

(1-ア)「【0007】また,最近のX線CT検査またはMRI検査では三次元画像を作成し,この三次元画像を観察することによって画像診断を行うことが始まっている。三次元画像は対象を立体的に表示し,対話的に視線の方向を変化させるなどして多角的に観察することが可能であるので,画像診断医だけでなく,依頼部門の整形外科医などが行う手術計画などにも非常に有益な情報を提供することができる。しかしながら,ネットワークを経由するデータ量が膨大になるために依頼部門で三次元画像を再現して作成することは困難であり,また,画像報告書に添付する画像は三次元画像をある角度で投影した二次元画像を1枚?2枚添付する程度であり,依頼部門にとって有用な三次元画像が生かされていない。」

(1-イ)「【0014】
【発明が解決しようとする課題】・・・。依頼部門でも画像診断部門と同様にもっと多くの二次元画像を観察し,三次元画像を自由に操作して理解を深めたいという要求は大きいが,現状ではこれは実現されていない。」

(1-ウ)「【0015】
【課題を解決するための手段】本発明は上記の課題を解決するために,PACSサーバーのネットワーク的近傍に高速のデータ処理装置を設置し,このデータ処理サーバーで二次元画像データの画像処理や三次元画像を作成する画像処理を行う。レポート作成システムは画像診断のキーとなるキー画像を画像診断報告書に貼り付けるとともに,そのキー画像を作成することを可能に画像処理パラメータセットをそのキー画像に付加する。ネットワークに接続した利用者端末用パーソナルコンピュータでは,画像診断報告書に添付されている画像処理パラメータセットを使用して,データ処理サーバーが二次元画像・三次元画像を作成するために必要なパラメータを指定する。データ処理サーバーは指定された画像処理パラメータに基づいてPACSサーバーから指定された画像データを読み出し,指定された画像処理パラメータに基づいてこれに二次元・三次元・四次元画像処理を施し,結果の画像データを利用者端末用パーソナルコンピュータに送付する。」

(1-エ)「【0018】依頼科の利用者は,利用者端末用パーソナルコンピュータから,画像診断報告書に添付されている画像処理パラメータセットをデータ処理サーバーに送信する。たとえば,X線CT画像データの三次元画像を閲覧する場合には,この画像処理パラメータセットには,三次元画像を作成するために使用するX線CTデータの指定と,対象物の空間領域やCT値範囲などのパラメータの指定と,三次元画像表示のための投影処理パラメータが含まれる。」

(1-オ)「【0021】本発明では,レポート作成システムには画像診断のキーとなるキー画像のほかに関連する画像検査や医師が画像診断を行うときに使用する過去の画像検査,生理検査,病歴情報などの中で,依頼部門利用者にとって有用な情報をキー画像,キー情報として報告書に貼り付けるとともに,そのキー画像を取得することを可能にする画像処理パラメータセットを報告書のキー画像に付加し,またキー情報に関連する情報を取得することを可能にする情報取得パラメータセットを報告書のキー情報に付加する機能を備えた。」

(1-カ)「【0023】
【発明の実施の形態】以下,本発明によるネットワーク環境における医用画像のレポート作成と医用画像データおよび医用情報データの利用のためのシステムにについて説明する。図2は本発明による画像診断部門と依頼部門の画像診断装置,画像表示装置,レポート関係システムのネットワーク環境を示すブロック図である。画像診断装置の一例であるX線CT装置101は被検体の複数断面のX線CTデータを収集し,再構成して複数断面の画像データを作成する。PACSサーバー102はX線CT装置101をはじめとする複数の画像診断装置で収集・再構成した画像データを保管し,必要に応じて利用者に転送するPACSのサーバーである。
・・・・
【0025】HISサーバー141は画像診断報告書とそれに添付された画像処理パラメータセットを蓄積し,画像診断を依頼した依頼部門にこの画像診断報告書とそれに添付された画像処理パラメータセットを配布する。
・・・・
【0027】データ処理サーバー103は,PACSサーバーのネットワーク的近傍に設置した高速のデータ処理装置で,このデータ処理サーバーで二次元画像データの画像処理や三次元・四次元画像を作成する画像処理を行う。
・・・・
【0028】利用者端末用パーソナルコンピュータ161,162,・・・では,データ処理サーバー103から送付された画像データを画像診断報告書とともに表示する。
・・・・
【0029】
本発明では大量の画像データを必要とする二次元・三次元・四次元画像処理はデータ処理サーバーで集中して行い,その結果の画像をネットワーク151経由で利用者端末用パーソナルコンピュータ161,162,・・・に配信するので,ネットワーク151のトラフィックはそれほど増加しない。
【0030】報告書に添付する画像処理パラメータセットには下記のパラメータを含んでいる。
1)患者を指定するパラメータ,
2)画像データを指定するパラメータ,
3)画像処理を行うためのパラメータ,
4)画像表示のためのパラメータ。
【0031】これまでの説明では,画像診断報告書の所見の根拠になった画像を作成するために使用する画像処理パラメータセットを画像診断報告書に添付する場合について説明したが,他の実施例では画像診断報告書には画像処理パラメータセットの識別子を添付し,この識別子に対応する画像処理パラメータセットはPACSサーバーまたはHISサーバーに保存する。この場合には,画像診断報告書には画像処理パラメータセットの識別子が添付される。
【0032】HISサーバー141は画像診断報告書とそれに添付された画像処理パラメータセットの識別子を蓄積し,画像診断を依頼した依頼部門にこの画像診断報告書とそれに添付された画像処理パラメータセットの識別子をネットワーク151経由で配布する。
【0033】依頼部門の利用者端末用パーソナルコンピュータ161,162,・・・はHISサーバー141に蓄積された画像診断報告書とそれに添付された画像処理パラメータセットの識別子をネットワーク151経由で受信する。依頼部門の利用者は利用者端末用パーソナルコンピュータを使用して画像診断報告書を閲覧し,それに添付された画像処理パラメータセットの識別子をデータ処理サーバー103に送信する。画像処理パラメータセットの識別子を受信したデータ処理サーバーはこの識別子をPACSサーバー102またはHISサーバー141に送信し,この識別子に対応する画像処理パラメータをPACSサーバーまたはHISサーバーから取得する。
【0034】データ処理サーバーは,この画像処理パラメータに基づいて指定された画像データをPACSサーバーから読み出し,画像処理パラメータに基づいてこれに二次元・三次元・四次元画像処理を施し,結果の画像データを利用者端末用パーソナルコンピュータに送付する。」

(1-キ)「【0040】図3は,PACSサーバーとデータ処理サーバーを一体の構造とした実施例である。PACSサーバー+データ処理サーバー104は,図2におけるPACSサーバー102とデータ処理サーバー103を一体の構造としたものである。PACSサーバーとデータ処理サーバーを一体構造とすることによって病院における画像データ保管の機能と画像作成の機能とを密接に関連付け,これによって二次元・三次元・四次元画像を作成するための画像データ取得の高速化とネットワーク負荷の減少を実現することができる。」

(1-ク)下記の図3には,「PACSサーバー+高速データ処理サーバー」(104)と,「HISサーバー」(141)と,「パーソナルコンピュータ」(131,132)と,「パーソナルコンピュータ」(161,162,163,164)とがネットワークを介して接続されたシステムが記載されている。そして,【符号の説明】において,131,132は「レポート作成用パーソナルコンピュータ」,161,162,163,164は「依頼部門利用者端末用パーソナルコンピュータ」と記載されている。なお,「高速データ処理サーバー」,「レポート作成用パーソナルコンピュータ」,「依頼部門利用者端末用パーソナルコンピュータ」は,他の摘記においては「データ処理サーバー」,「レポート作成システム」,「利用者端末用パーソナルコンピュータ」と記載されている。

これらの記載事項を総合すると,引用例1には,以下の発明が記載されていると認められる。なお,引用発明の記載に際し,図面番号は省略している。
「PACSサーバー+データ処理サーバーと,HISサーバーと,レポート作成システムと,利用者端末用パーソナルコンピュータとがネットワークを介して接続されたシステムにおいて,
上記PACSサーバーは,X線CT装置をはじめとする複数の画像診断装置で収集・再構成した画像データを保管し,
上記データ処理サーバーは,二次元画像データの画像処理や三次元・四次元画像を作成する画像処理を行い,
上記HISサーバーは,画像診断報告書とそれに添付された画像処理パラメータセットを蓄積し,
上記レポート作成システムは,画像診断のキーとなるキー画像のほかに関連する画像検査や医師が画像診断を行うときに使用する過去の画像検査,生理検査,病歴情報などの中で,依頼部門利用者にとって有用な情報をキー画像,キー情報として報告書に貼り付けるとともに,そのキー画像を取得することを可能にする画像処理パラメータセットを報告書のキー画像に付加し,またキー情報に関連する情報を取得することを可能にする情報取得パラメータセットを報告書のキー情報に付加する機能を備え,
上記利用者端末用パーソナルコンピュータでは,データ処理サーバーから送付された画像データを画像診断報告書とともに表示するシステムであって,
上記画像処理パラメータセットには,1)患者を指定するパラメータ,2)画像データを指定するパラメータ,3)画像処理を行うためのパラメータ,4)画像表示のためのパラメータを含んでおり,
上記画像診断報告書には,画像処理パラメータセットの識別子を添付し,この識別子に対応する画像処理パラメータセットはPACSサーバーまたはHISサーバーに保存され,
依頼部門の利用者は利用者端末用パーソナルコンピュータを使用して画像診断報告書を閲覧し,それに添付された画像処理パラメータセットの識別子をデータ処理サーバーに送信し,画像処理パラメータセットの識別子を受信したデータ処理サーバーはこの識別子をPACSサーバーまたはHISサーバーに送信し,この識別子に対応する画像処理パラメータをPACSサーバーまたはHISサーバーから取得し,データ処理サーバーは,この画像処理パラメータに基づいて指定された画像データをPACSサーバーから読み出し,画像処理パラメータに基づいてこれに二次元・三次元・四次元画像処理を施し,結果の画像データを利用者端末用パーソナルコンピュータに送付する,システム。」(以下「引用発明」という。)

3-1-2 対比・判断
(1)対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「PACSサーバー」は,「X線CT装置101をはじめとする複数の画像診断装置で収集・再構成した画像データを保管」するもので,かつ,「識別子に対応する画像処理パラメータセット」を「保存」するもので,その「画像処理パラメータセット」には「1)患者を指定するパラメータ」も含んでいるから,引用発明の「PACSサーバー+データ処理サーバー」で保管する画像データは,本願補正発明の「患者識別情報に対応付けられた医用画像データ」に相当するものといえる。
してみれば,引用発明の「PACSサーバー+データ処理サーバー」は,本願補正発明の「患者識別情報に対応付けられた医用画像データを保管する医用画像保管装置」に相当するものである。

イ 本願補正発明の「読影レポート」について,本願明細書【0030】に「読影レポートは、読影医などが作成したレポートであり、検査によって得られる医用画像を読影してその内容が記される。」と記載されている。一方,引用発明における「画像診断報告書」について「画像診断のキーとなるキー画像のほかに関連する画像検査や医師が画像診断を行うときに使用する過去の画像検査,生理検査,病歴情報などの中で,依頼部門利用者にとって有用な情報をキー画像,キー情報として報告書に貼り付けるとともに,そのキー画像を取得することを可能にする画像処理パラメータセットを報告書のキー画像に付加し,またキー情報に関連する情報を取得することを可能にする情報取得パラメータセットを報告書のキー情報に付加する」と記載されていることから,引用発明における「画像診断報告書」は,本願補正発明の「読影レポート」に相当するものである。そして,該報告書に画像処理パラメータセットが付加することが記載されており,それには上記「ア」で指摘したとおり,患者を指定するパラメータも含んでいるものである。
してみれば,引用発明の「画像診断報告書とそれに添付された画像処理パラメータセットを蓄積」する「HISサーバー」は,本願補正発明の「患者識別情報に対応付けられた読影レポートを保管するレポート保管装置」に相当するものである。

ウ 引用発明の「データ処理サーバーから送付された画像データを画像診断報告書とともに表示する」「利用者端末用パーソナルコンピュータ」は,本願補正発明の「医用画像データを受けて表示する医用画像観察装置」に相当する。

エ 引用発明の「キー画像」は,本願補正発明の「読影レポートを作成する際に参照された特定医用画像」に相当する。また,引用発明の「そのキー画像を取得することを可能にする画像処理パラメータセット」は,本願補正発明の「特定医用画像データを前記医用画像保管装置から読み出すための特定情報」を含むものであり,そして,その「画像処理パラメータセット」は,「報告書のキー画像に付加」されているものである。
してみれば,引用発明の「HISサーバー」で保管される「画像診断報告書」は,本願補正発明のように「前記読影レポートを作成する際に参照された特定医用画像の特定医用画像データを前記医用画像保管装置から読み出すための特定情報を、前記読影レポートに対応付けて保管」されているといえることから,引用発明の「HISサーバー」は,本願補正発明の「前記読影レポートを作成する際に参照された特定医用画像の特定医用画像データを前記医用画像保管装置から読み出すための特定情報を、前記読影レポートに対応付けて保管するレポート記憶手段」に相当する構成を有しているといえる。

オ 引用発明の「画像処理パラメータセットの識別子を受信したデータ処理サーバーはこの識別子をPACSサーバーまたはHISサーバーに送信し,この識別子に対応する画像処理パラメータをPACSサーバーまたはHISサーバーから取得する」における「データ処理サーバーはこの識別子をHISサーバーに送信し,この識別子に対応する画像処理パラメータをHISサーバーから取得する」ことは,HISサーバーが,データ処理サーバーから識別子を受け,この識別子に対応する画像診断報告書を抽出し,それに付加されている画像処理パラメータをデータ処理サーバーに送信することであるといえる。ここで,「データ処理サーバー」は「PACSサーバー+データ処理サーバー」の構成であるから,本願補正発明の「医用画像保管装置」に相当するものであることは,上記「ア」で指摘したとおりである。そして,引用発明の「識別子」は,上記「ア」で検討したように,「患者を指定するパラメータ」も含んでいることから,本願補正発明の「患者識別情報」も含むものであり,引用発明の「この識別子に対応する画像処理パラメータセット」における「画像処理パラメータセット」は,上記「エ」で検討したように,本願補正発明の「特定情報」を含むものである。
してみれば,引用発明の「HISサーバー」は,本願補正発明の「前記医用画像保管装置から前記患者識別情報を受け、該患者識別情報に基づき読影レポートを抽出し、該読影レポートに対応付けられた前記特定情報を前記医用画像保管装置に送信する第1の抽出手段」に相当する構成を有しているといえる。

カ 上記「ア」で述べたように,引用発明の「PACSサーバー」は,「X線CT装置101をはじめとする複数の画像診断装置で収集・再構成した画像データを保管」するものであるから,「医用画像診断装置から受けた医用画像データを、保管する医用画像保管手段」を有するものである。そして,それは,識別子に対応する画像処理パラメータセットを保存するもので,その画像処理パラメータセットには「3)画像処理を行うためのパラメータ」を含んでおり,これは本願補正発明の「画像生成条件」に相当するものである。
してみれば,引用発明の「PACSサーバー」すなわち「PACSサーバー+データ処理サーバー」は,本願補正発明の「医用画像診断装置から受けた医用画像データを、画像生成条件に対応付けて保管する医用画像保管手段」に相当する構成を有しているといえる。

キ 引用発明の「画像処理パラメータ」は,引用発明の「画像処理パラメータセット」の「3)画像処理を行うためのパラメータ」のことであり,それは上記「カ」で述べたように,本願補正発明の「画像生成条件」に相当している。そして,「画像処理パラメータ」は,上記「オ」で検討したように,本願補正発明の「第1の抽出手段」から受けられるものである。してみれば,引用発明の「データ処理サーバーは,この画像処理パラメータに基づいて指定された画像データをPACSサーバーから読み出」すことは,本願補正発明の「前記第1の抽出手段から受けた前記特定情報に基づき、保管している前記医用画像データから前記特定医用画像データおよび前記画像生成条件を抽出する」ことに相当するといえる。
したがって,引用発明の「データ処理サーバー」すなわち「PACSサーバー+データ処理サーバー」は,本願補正発明の「前記第1の抽出手段から受けた前記特定情報に基づき、保管している前記医用画像データから前記特定医用画像データおよび前記画像生成条件を抽出する画像生成条件抽出手段」に相当する構成を有しているといえる。

ク 引用発明の「画像処理パラメータに基づいてこれに二次元・三次元・四次元画像処理を施し,結果の画像データ」について,「画像処理パラメータ」は,本願補正発明の「画像生成条件」に相当するもので,それは,上記「キ」で検討したように,本願補正発明の「前記画像生成条件抽出手段が抽出した前記特定医用画像データの画像生成条件」に相当するものである。また,「これに」の「これ」は,PACSサーバーに保管する画像データで,本願補正発明の「医用画像保管手段に保管された医用画像データ」に相当するもので,「二次元・三次元・四次元画像処理を施し,結果の画像データ」は,本願補正発明の「画像処理を施すことにより、新たな医用画像データ」に相当するものである。
してみれば,引用発明の「画像処理パラメータに基づいてこれに二次元・三次元・四次元画像処理を施し,結果の画像データ」と,本願補正発明の「前記医用画像保管手段に保管された医用画像データに対し、前記画像生成条件抽出手段が抽出した前記特定医用画像データの画像生成条件に基づいて、該画像生成条件における断面位置、方向、または厚さを基準に画像処理を施すことにより、新たな医用画像データ」とは,「前記医用画像保管手段に保管された医用画像データに対し、前記画像生成条件抽出手段が抽出した前記特定医用画像データの画像生成条件に基づいて画像処理を施すことにより、新たな医用画像データ」の点で共通するものであるから,引用発明の「PACSサーバー+データ処理サーバー」は,「前記医用画像保管手段に保管された医用画像データに対し、前記画像生成条件抽出手段が抽出した前記特定医用画像データの画像生成条件に基づいて画像処理を施すことにより、新たな医用画像データを生成する画像生成手段」に相当する構成を有しているといえる。

ケ 引用発明の「依頼部門の利用者は利用者端末用パーソナルコンピュータを使用して画像診断報告書を閲覧し,それに添付された画像処理パラメータセットの識別子をデータ処理サーバーに送信し」「結果の画像データを利用者端末用パーソナルコンピュータに送付する」について,前者は,本願補正発明の「送信要求を受け」ることに相当し,後者は,本願補正発明の「前記新たな医用画像データを前記医用画像観察装置に送信する」ことに相当する。
してみれば,引用発明の「PACSサーバー+データ処理サーバー」は,本願補正発明の「送信要求を受けて、前記新たな医用画像データを前記医用画像観察装置に送信する手段」に相当する構成を有しているといえる。

コ 引用発明の「システム」は,医用画像を利用者端末用パーソナルコンピュータで観察することを支援するシステムといえるから,本願補正発明の「医用画像観察支援システム」に相当する。

してみれば,本願補正発明と引用発明とは,
(一致点)
「患者識別情報に対応付けられた医用画像データを保管する医用画像保管装置と,患者識別情報に対応付けられた読影レポートを保管するレポート保管装置と,前記医用画像データを受けて表示する医用画像観察装置とがネットワークを介して接続された医用画像観察支援システムであって,
前記レポート保管装置は,
前記読影レポートを作成する際に参照された特定医用画像の特定医用画像データを前記医用画像保管装置から読み出すための特定情報を,前記読影レポートに対応付けて保管するレポート記憶手段と,
前記医用画像保管装置から前記患者識別情報を受け,該患者識別情報に基づき読影レポートを抽出し,該読影レポートに対応付けられた前記特定情報を前記医用画像保管装置に送信する第1の抽出手段と,
を有し,
前記医用画像保管装置は,
医用画像診断装置から受けた医用画像データを、画像生成条件に対応付けて保管する医用画像保管手段と,
前記第1の抽出手段から受けた前記特定情報に基づき,保管している前記医用画像データから前記特定医用画像データおよび前記画像生成条件を抽出する画像生成条件抽出手段と,
前記医用画像保管手段に保管された医用画像データに対し,前記画像生成条件抽出手段が抽出した前記特定医用画像データの画像生成条件に基づいて画像処理を施すことにより,新たな医用画像データを生成する画像生成手段と,
送信要求を受けて,前記新たな医用画像データを前記医用画像観察装置に送信する手段と,
を有する医用画像観察支援システム」
の点で一致し,以下の点で相違する。

(相違点)
本願補正発明の「画像処理」が「画像生成条件に基づいて、該画像生成条件における断面位置、方向、または厚さを基準に」施すものであるのに対し,引用発明の「画像処理」は,画像処理パラメータに基づいて施すものであるものの,それが「該画像生成条件における断面位置、方向、または厚さを基準に」施すものとは特定されていない点。

(2)当審の判断
上記相違点について検討するに,引用発明の「画像処理パラメータ」は,本願補正発明の「画像生成条件」に相当するものであることは,上記(1)「対比」「キ」で指摘したとおりであり,また,一般に,三次元画像を構成する原画像について画像処理を行う際に,断面位置,方向,または厚さを基準に行うことは,例えば,審尋において提示した特開2001-87229号(図3等参照)にも記載されているように,本出願前周知のことである。さらに,引用例1の摘記(1-エ)に「この画像処理パラメータセットには,三次元画像を作成するために使用するX線CTデータの指定と,対象物の空間領域やCT値範囲などのパラメータの指定と,三次元画像表示のための投影処理パラメータが含まれる。」と記載されており,ここで,「画像処理パラメータセット」には「3)画像処理を行うためのパラメータ」である「画像処理パラメータ」を含むから,引用発明において「画像処理」を「画像生成条件に基づいて、該画像生成条件における断面位置、方向、または厚さを基準に」施すことは当業者が容易になし得ることである。
そして,引用発明は引用例1の摘記(1-ア)及び(1-イ)に記載されている課題を解決したものであるから,本願補正発明の効果も,引用例1の記載から当業者が予期し得る範囲のものであり,格別顕著なものではない。

3-1-3 小括
したがって,本願補正発明は,引用発明及び周知技術に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。


3-2 特許法第36条第6項第1号違反について
本願補正発明の「該画像生成条件における断面位置、方向、または厚さを基準に」については,請求人は,本願明細書【0092】の「過去検査の画像生成条件情報が示す断面位置、方向、及び厚さなどの条件に従って、新検査の複数の断層像データにMPR処理を施す」(下線は,当審において付与した。)に基づいていると主張しているが,当該記載からは,少なくとも「断面位置」、「方向」及び「厚さ」を必須とするものであり,「断面位置」、「方向」または「厚さ」のいずれかということにはならない。また,技術的にも,例えば,(断面)厚さだけを基準にしても,その位置が特定されてなければ,どこの位置の断層画像データについて処理を施すのか不明である。してみれば,「該画像生成条件における断面位置、方向、または厚さを基準に」画像処理を行うという本願補正発明は,発明として発明の詳細な説明に記載されているとはいえない。
したがって,本願補正発明は,特許法36条6項1号の規定する要件を満たしていないことから,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3-3 まとめ
以上のとおり,本件補正は,特許法17条の2第6項で準用する同法126条7項の規定に違反するものであり,同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下されるべきものである。

なお,請求人は,回答書で補正案を提示しているが,当該補正案は,「新たな医用画像データを生成する画像生成手段」を備える装置を「医用画像保管装置」から「医用画像観察装置」に変更するものであり,本願明細書における[第1の実施の形態](画像生成を「医用画像保管装置」で行うもの)から[第2の実施の形態](画像生成を「医用画像観察装置」で行うもの)に変更するものである。このように変更された補正案の発明は,審判請求の理由の
「本発明では、この課題を、『特定医用画像データの画像生成条件に基づいて』、『特定医用画像における断面位置、方向、または厚さを基準に画像処理を施』して、『新たな医用画像データ』生成し、医用画像観察装置に送るという構成により解決しております。
言い換えると、背景技術が、医用画像診断装置から受けた『医用画像データ』を送っているのに対し、本願発明は、あらかじめ当該『医用画像データ』に対し、特定医用画像データに基づく画像処理を施して所望の医用画像データを生成してから送信しています。
段落0006に限られませんが、この段落の例であれば、MPR画像の元となる医用画像データ(例えばボリュームデータ)を全て送るのと、MPR画像を送るのでは、医用画像観察装置でのデータ読み込みの効率は明確に異なります。」の主張にも合わないものであり,このような補正案は,特許法17条の2第5項のいずれにも該当せず,受け入れられるものではない。


第3 本願発明について

1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されることとなるので,本願の請求項1?12に係る発明は,平成24年7月23付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?12に記載された事項により特定されるものであるところ,その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,次のとおりのものである。
「【請求項1】
患者識別情報に対応付けられた医用画像データを保管する医用画像保管装置と、患者識別情報に対応付けられた読影レポートを保管するレポート保管装置と、前記医用画像データを受けて表示する医用画像観察装置とがネットワークを介して接続された医用画像観察支援システムであって、
前記レポート保管装置は、
前記読影レポートを作成する際に参照された特定医用画像データを前記医用画像保管装置から読み出すための特定情報を、前記読影レポートに対応付けて保管するレポート記憶手段と、
前記医用画像保管装置から前記患者識別情報を受け、該患者識別情報基づき読影レポートを抽出し、該読影レポートに対応付けられた前記特定情報を前記医用画像保管装置に送信する第1の抽出手段と、
を有し、
前記医用画像保管装置は、
医用画像診断装置から受けた医用画像データを、画像生成条件に対応付けて保管する医用画像保管手段と、
前記第1の抽出手段から受けた前記特定情報に基づき、保管している前記医用画像データから前記特定医用画像データおよび前記画像生成条件を抽出する画像生成条件抽出手段と、
前記医用画像保管手段に保管された医用画像データに対し、前記画像生成条件抽出手段が抽出した画像生成条件に基づいて画像処理を施すことにより、新たな医用画像データを生成する画像生成手段と、
送信要求を受けて、前記新たな医用画像データを前記医用画像観察装置に送信する手段と、
を有することを特徴とする医用画像観察支援システム。」

2 引用刊行物及びその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である上記引用例1の記載事項は,上記「第2」における「3-1-1 引用刊行物及びその記載事項」に記載したとおりである。

3 対比・判断
上記「第2」における「2 補正事項について」に記載したとおり,本願補正発明は,本願発明にさらに限定事項を追加したものであるから,本願発明は,本願補正発明から限定事項を省いた発明といえる。その本願補正発明が,前記「第2」における「3-1-2 対比・判断」に記載したとおり,引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明することができたものである以上,本願発明も同様の理由により,当業者が容易に発明をすることができたものである。


第4 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,その余の請求項に係る発明について言及するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。

よって,結論のとおり,審決する。
 
審理終結日 2014-03-06 
結審通知日 2014-03-11 
審決日 2014-03-25 
出願番号 特願2007-185896(P2007-185896)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A61B)
P 1 8・ 121- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 五閑 統一郎  
特許庁審判長 岡田 孝博
特許庁審判官 三崎 仁
森林 克郎
発明の名称 医用画像観察支援システム  
代理人 特許業務法人三澤特許事務所  
代理人 特許業務法人三澤特許事務所  

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