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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B29C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B29C
管理番号 1287321
審判番号 不服2013-11500  
総通号数 174 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-06-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-06-18 
確定日 2014-05-08 
事件の表示 特願2008- 72528「ペレット形状のポリエステルの気力輸送方法」拒絶査定不服審判事件〔平成20年10月30日出願公開、特開2008-260280〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、特許法第41条に基づく優先権主張を伴う平成20年3月19日(優先権主張 平成19年3月20日)の出願であって、平成24年7月4日付けの拒絶理由通知に対して、平成24年9月6日に手続補正がなされたが、平成25年3月13日付けで拒絶査定がなされた。
これに対して、平成25年6月18日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同日に手続補正がなされ、さらに、平成25年10月1日付けの当審審尋に対して、平成25年12月6日に回答がなされたものである。

2.平成25年6月18日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成25年6月18日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
(1)補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1を下記のように補正する補正を含むものである。
「【請求項1】
露点が-10℃以下の気体を使用し、吸湿性のペレット形状のポリエステルを気力輸送する方法であって、気力輸送されるポリエステルは、主たる構成単位が脂肪族ジカルボン酸及び脂肪族ジオールである脂肪族ポリエステルであり、気力輸送されたペレット形状の脂肪族ポリエステルの含水率が0.1重量%以下であることを特徴とするペレット形状のポリエステルの気力輸送方法。」(以下、「本願補正発明」という。)

(2)補正の適否
本願補正発明は、本件補正前の請求項1の「露点が0℃以下の気体」を、「露点が-10℃以下の気体」と補正するもので、気体の露点を「0℃以下」から「-10℃以下」に温度の範囲を限定するものである。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とする補正を含むものである。
そこで、本願補正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(3)引用例記載の技術事項
ア 原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平8-244033号公報(以下「引用例1」という。)には、「ポリエステルチップの製造方法および製造装置」について、次の技術事項が記載されている。
(a)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明はポリエステルチップの製造方法および製造装置に関する。さらに詳細には、含有水分率の低いポリエステルチップの製造方法および製造装置に関する。」

(b)「【0002】
【従来の技術】ポリエステルは、ポリエチレンテレフタレートを例にとれば、工業的には原料にテレフタル酸を用いるエステル化反応または原料にジメチルテレフタル酸を用いるエステル交換反応と重縮合反応の2段階法によって生産されている。重縮合反応により所定の粘度に高められたポリマーは重縮合反応槽よりストランドまたはフイルム状に押し出され冷却後、切断装置でチップにされ、水が付着した状態のチップを通常はそのまま落下させて貯槽へ溜められていた。該貯槽に溜められたチップは品質を確認、問題がなければ正常品として、より大きなチップ貯槽へと移行、紡糸工程などへ送られる。
【0003】チップを紡糸または成型射出する場合、チップを溶融する工程を経るが該工程でチップ含有水分率が高いとポリマの分解により粘度が低下し紡糸、成型でのトラブルの原因となるためチップを溶融する前に常圧又は減圧下で乾燥し、チップ含有水分率を下げることでポリマの溶融粘度低下を防止する手段が用いられている。チップ乾燥は乾燥機内部のチップに熱風を通気させるものが一般であるが、乾燥機内部でのチップの融着防止のためポリマの融点より50?150℃低い温度で乾燥しなければならず、長い乾燥時間が必要となる。特に融点が200℃以下のポリエステルに至っては乾燥温度を100℃以下にする必要があり、乾燥に50時間以上かかるものもある。また乾燥時間を短縮するため乾燥機内を減圧にする方法もあるが、このような乾燥機では回分式での乾燥しかできず、工程が複雑になる。
【0004】一方、乾燥効率を上げるため乾燥機に投入するチップの含有水分率を予め低下させる方法として、チップ化設備から排出されたチップを脱水機などを用いて付着水分を除去することでチップへの吸湿を抑制しチップの含有水分率を下げる方法が知られているが、通常使用される脱水機などでは十分に付着水分を除去することはできない。
【0005】またチップ貯槽に乾燥不活性気体を通気させてチップを予め乾燥する方法も知られている。しかしこの方法でもチップ貯槽に投入する時点におけるチップの含有水分率を維持するのが限界であり、チップ貯槽に投入する時点でチップの含有水分率を下げないことには、次工程に含有水分率の低いチップを供給することができない。」

(c)「【0009】
【課題を解決するための手段】本発明のポリエステルチップの製造方法は上記課題を解決するために次の構成を有する。すなわち、溶融状態のポリエステルを吐出口金より押し出し、案内装置を移動させながら水冷却固化すると共にチップ状に切断し、滞溜させるポリエステルチップの製造方法であって、切断されたチップを減圧又は加圧状態に保ちつつ輸送して第1の貯槽に滞溜させることを特徴とするポリエステルチップの製造方法である。
【0010】また、本発明のポリエステルチップの製造装置は上記課題を解決するために次の構成を有する。すなわち、輸送装置と貯槽を備えたポリエステルチップの製造装置であって、少なくとも第1の貯槽が吸引式または圧空式輸送装置と直結していることを特徴とするポリエステルチップの製造装置である。
【0011】本発明の製造方法において用いるポリエステルの原料グリコールはエチレングリコール(以下,EG)、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ヘキサメチレングリコール、デカメチレングリコール、シクロヘキサンジオール、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコール等の一種または二種以上を混合してもよく、目的により任意に選ぶことができる。またグリコール成分との反応に用いられる芳香族ジカルボン酸を主とする二官能性成分又はそのエステル形成性誘導体としてはテレフタル酸(以下、TPA)、イソフタル酸(以下、IPA)、ナフタリンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、オキシ安息香酸、アジピン酸、セバチン酸等の如きジカルボン酸等またはこれら酸成分のアルキル誘導体が例示され、これらのうちの一種または二種以上混合してもよい。」

(d)「【0013】本発明の方法においては、水冷却固化した後に切断した、水が多量に付着しているチップを、そのまま落下させて第1の貯槽に滞留させる従来の技術を採用するのではなく、第1の貯槽に滞留させる際に、圧送式または吸引式輸送装置により、減圧または加圧状態に保ちつつ輸送するものである。この輸送時の雰囲気が常圧であるならば、チップに付着した水を有効に減少させることができない。また、第1の貯槽に滞留させる際にかかる条件で輸送しなければ同様にチップに付着した水を有効に減少させることができない。」

(e)「【0016】チップ輸送配管内部は外気雰囲気下でもよいが、配管内での除湿強化を目的に配管内部を乾燥空気または窒素などの乾燥不活性気体雰囲気下にする方がより好ましい。
【0017】また、減圧または加圧状態に保ちつつ輸送したチップはまず第1の貯槽で滞留させるが、この第1の貯槽内に乾燥空気または窒素などの乾燥不活性気体を予め通気して置換しておくことでチップを除湿雰囲気下で滞留させ、吸湿防止をより強化することも好ましい。
【0018】このようなポリエステルチップを製造するための装置は、輸送装置と貯槽を備えたポリエステルチップの製造装置であり、少なくとも第1の貯槽に直結する輸送装置を吸引式または圧空式とするものである。輸送装置のいずれもが常圧に保たれた方式であるならば、チップに付着した水を有効に減少させることができない。また、少なくとも第1のチップ貯槽が該吸引式または圧空式輸送装置と直結しているものである。該輸送装置と第1の貯槽が直結されない場合には水分は除去されても第1の貯槽に入るまでに吸湿しやすく、本発明の目的を達成するのが困難となる。」

(f)【0021】(実施例1)重縮合反応で生産されたポリエチレンテレフタレートを重縮合缶に圧力をかけてポリマーを5トン/時間の速度でストランド状に口金より押し出し、該ポリマーを水冷却固化しチップ化カッタでチップ化した。
【0022】該チップをカッタから排出後、遠心分離式脱水機にかけ、付着水分の一部を除去した後、6トン/時間の能力の圧送式輸送設備で30メートル輸送して、チップ溜槽に投入した。
【0023】該チップ溜槽に投入されたチップを1時間滞留させた後、チップ含有水分率を測定すると、含有水分率は200ppm±50ppmであった。」

引用例1には「ポリエステルチップの製造方法」が記載され、その「製造方法」の一工程として、記載事項(d)には、「水冷却固化した後に切断した、水が多量に付着しているチップ」を、「第1の貯槽に滞留させる際に、圧送式または吸引式輸送装置により、減圧または加圧状態に保ちつつ輸送する」「方法」が記載されている。
また、記載事項(e)には、「ポリエステルチップ」の輸送にあたり、「チップ輸送配管内部」を「配管内での除湿強化を目的に配管内部を乾燥空気または窒素などの乾燥不活性気体雰囲気下」にすることが記載されている。
さらに、記載事項(c)には、この「ポリエステルチップ」の「ポリエステル」について、「原料グリコールはエチレングリコール(以下,EG)、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ヘキサメチレングリコール、デカメチレングリコール、シクロヘキサンジオール、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコール等の一種または二種以上を混合してもよく、目的により任意に選ぶことができ」、「グリコール成分との反応に用いられる芳香族ジカルボン酸を主とする二官能性成分又はそのエステル形成性誘導体としてはテレフタル酸(以下、TPA)、イソフタル酸(以下、IPA)、ナフタリンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、オキシ安息香酸、アジピン酸、セバチン酸等の如きジカルボン酸等またはこれら酸成分のアルキル誘導体が例示され、これらのうちの一種または二種以上混合してもよい」ものと記載されている。

そうすると、引用例1には次の発明(以下、この発明を「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「水冷却固化した後に切断した、水が多量に付着しているポリエステルチップを、第1の貯槽に滞留させる際に、圧送式または吸引式輸送装置により、減圧または加圧状態に保ちつつ輸送する方法であって、
チップ輸送配管内部を配管内での除湿強化を目的に配管内部を乾燥空気または窒素などの乾燥不活性気体雰囲気下にし、
このポリエステルチップのポリエステルは、原料グリコールはエチレングリコール(以下,EG)、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ヘキサメチレングリコール、デカメチレングリコール、シクロヘキサンジオール、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコール等の一種または二種以上を混合してもよく、目的により任意に選ぶことができ、グリコール成分との反応に用いられる芳香族ジカルボン酸を主とする二官能性成分又はそのエステル形成性誘導体としてはテレフタル酸(以下、TPA)、イソフタル酸(以下、IPA)、ナフタリンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、オキシ安息香酸、アジピン酸、セバチン酸等の如きジカルボン酸等またはこれら酸成分のアルキル誘導体が例示され、これらのうちの一種または二種以上混合してもよいものである、ポリエステルチップを輸送する方法。」

イ 原査定の拒絶の理由に引用文献2として引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2005-89029号公報(以下「引用例2」という。)には、次の技術事項が記載されている。
(a)「【0009】
また、本発明によれば、制御部によって制御されるエアの露点温度は、粉体の吸湿による変質や凝集を防止するために-60℃?-40℃に設定されている。これにより、水分に溶けるグルタミン酸や水分を吸収し凝集し易い塩を空気輸送する空気輸送装置に好適である。」

(b)「【0013】
空気輸送装置10は、ホッパ12内の粉体(グルタミン酸、塩、砂糖等の水分の嫌う粉体)をロータリーフィーダー14によって、その供給量をコントロールしながら輸送配管16に供給するとともに、この輸送配管16にブロア18からの乾燥した圧縮エアを供給し、この圧縮エアによって前記粉体を輸送配管16を介してサイクロン20に空気輸送する装置である。」

(c)これら記載によれば、引用例2には、水分を嫌う粉体の空気輸送において、輸送に使用する空気の露点を-60℃?-40℃に設定するものが開示されているといえる。

ウ 原査定の拒絶の理由に引用文献3として引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2003-171014号公報(以下「引用例3」という。)には、次の技術事項が記載されている。
(a)「【0002】
【従来の技術】通常、粉粒体を気送管を介して複数の処理装置に移送して処理する粉粒体処理装置においては、移送経路内の雰囲気として主として外気を用いるが、この外気に含まれる水分が移送粉粒体にさまざまな影響を与える。例えば吸湿性の高い粉粒体では、湿度が高いと粉粒体が外気中の水分を吸収して、移送経路内に配設された処理装置の粉粒体導出口付近や気送管の屈曲部などに付着・凝集し、製品製造量の安定確保、品質保全等に悪影響を及ぼすほか、さらに付着・凝集が進むと気送管が詰まり製造停止事故に繋がる恐れも出てくる。また、ある種の粉粒体では、湿度を一定量(露点-40℃のレベル)以下に保たれなければ粉粒体が変色し、製品としての品質を損なうことになる。」

(b)「【0004】
【発明が解決しようとしている課題】上述したように、粉粒体を気送管を介して各種の処理装置に移送して処理する粉粒体処理装置において、移送経路内の雰囲気として用いる気体(各種ガス、空気)の絶対湿度を露点-0℃?-60℃の範囲で制御することによって、移送対象の粉粒体の吸湿に起因する前記処理装置や気送管への粉粒体の付着・凝集を抑止し、製品製造量の安定確保や品質保全を図り、かつ気送管詰まりによる生産停止事故の発生の恐れを除去することを目的とする。それに加えて金属混入による製品品質の低下を回避し、製造された粉粒体を使用する次工程、例えば、混合・乳化・押出成形等での品質異常や機器損傷等の防止を図る。」

(c)これら記載によれば、引用例3には、吸湿性の高い粉粒体の気送管による移送において、輸送に使用する気体の露点を-0℃?-60℃の範囲で制御するものが開示されているといえる。

(4)本願補正発明と引用発明との対比
本願補正発明と引用発明とを対比すると、本願明細書の段落【0002】の記載(「ペレット形状のポリマー(以下、「ポリマーペレット」という。)は、所定の輸送配管内を圧力気体流に乗って気力輸送され」)からみて、本願補正発明の「気力輸送」とは、輸送配管内を圧力気体流に乗せて輸送することを意味するものであると認められる。
一方、引用発明のポリエステルチップの輸送方法は、ポリエステルチップを圧送式または吸引式輸送装置により輸送配管内部を輸送するものであるが、圧送式または吸引式輸送装置による輸送は、輸送配管内のポンプ等により上流側から加圧するか、下流側から減圧するかにより、上流側と下流側との間で圧力差を生じさせ、その圧力差により気体等の媒体を上流側から下流側に移動させ、その媒体の移動に乗せて輸送対象物を輸送するものであることは技術常識であるといえる。また、引用例1の「配管内部を乾燥空気または窒素などの乾燥不活性気体雰囲気下にする方がより好ましい。」(段落【0016】)、「第1の貯槽に直結する輸送装置を吸引式または圧空式とするものである。」(段落【0018】(下線は当審において付記したもの))との記載からみて、引用発明の圧送式または吸引式輸送装置における輸送配管内を移動する媒体が「気体」であることは明らかであり、引用発明の圧送式または吸引式輸送装置により輸送は、輸送配管内の気体に圧力をかけて移動させ、その移動に乗せてポリエステルチップを輸送するものであるといえ、本願補正発明の「気力輸送」に相当するものであると認められる。

そうすると、本願補正発明と引用発明は、「気体を使用し、ポリエステルを気力輸送する方法。」で一致し、下記の点で相違する。

(相違点)
(ア)本願補正発明のポリエステルが「吸湿性のペレット形状」であって、「主たる構成単位が脂肪族ジカルボン酸及び脂肪族ジオールである脂肪族ポリエステルであり、気力輸送されたペレット形状の脂肪族ポリエステルの含水率が0.1重量%以下である」のに対して、引用発明のものは「チップ」であって、「原料グリコールはエチレングリコール(以下,EG)、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ヘキサメチレングリコール、デカメチレングリコール、シクロヘキサンジオール、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコール等の一種または二種以上を混合してもよく、目的により任意に選ぶことができ、グリコール成分との反応に用いられる芳香族ジカルボン酸を主とする二官能性成分又はそのエステル形成性誘導体としてはテレフタル酸(以下、TPA)、イソフタル酸(以下、IPA)、ナフタリンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、オキシ安息香酸、アジピン酸、セバチン酸等の如きジカルボン酸等またはこれら酸成分のアルキル誘導体が例示され、これらのうちの一種または二種以上混合してもよいもの」である点。

(イ)本願補正発明が「露点が-10℃以下の気体」を使用して「ポリエステルを気力輸送する」のに対して、引用発明は、輸送配管内部を配管内での除湿強化を目的に配管内部を乾燥空気または窒素などの乾燥不活性気体雰囲気下にし、圧送式または吸引式輸送装置により、減圧または加圧状態に保ちつつ、ポリエステルチップを輸送するものである点。

(5)相違点についての判断
・相違点(ア)について
引用発明の「ポリエステルチップ」は気力輸送されるものであり、気力輸送され得る形状としてみると、本願補正発明の「ペレット形状のポリエステル」と格別な差違があるとは認められない。
また、引用例1にはチップの形状についての記載は見当たらないが、ポリエステルチップは通常小片状であることは技術常識であり、一方、本願明細書の段落【0061】に「ポリマーのペレットの形状は、粒状、不定形状、平板状、円柱状,球状等が挙げられ、特に限定されることはない。」と記載されているから、引用発明の「チップ」の形状は、本願補正発明の「ペレット」の形状に含まれるといえ、「チップ」あるいは「ペレット」を形成する工程も、本願明細書中の実施例(本願明細書段落【0047】)と引用例1に記載された実施例(段落【0021】?【0022】)を参酌すると、いずれも、ストランド状のポリエステルのポリマーを水で冷却した後、カッターでカットしており、「チップ」あるいは「ペレット」を形成する工程に相違があるとはいえないから、ポリエステルがチップ形状であるかペレット形状であるかは実質的な相違点とはいえない。
加えて、引用発明のポリエステルは、脂肪族ジカルボン酸としてのアジピン酸またはセバチン酸と、脂肪族ジオールとしてのエチレングリコール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ヘキサメチレングリコールまたはデカメチレングリコールを主たる構成単位とする脂肪族ポリエステルを含むものである。
さらに、引用例1の記載(「・・・・チップ化設備から排出されたチップを脱水機などを用いて付着水分を除去することでチップへの吸湿を抑制しチップの含有水分率を下げる方法が知られているが、・・・・」(【0004】)、「・・・・該輸送装置と第1の貯槽が直結されない場合には水分は除去されても第1の貯槽に入るまでに吸湿しやすく、本発明の目的を達成するのが困難となる。」(【0018】))からみて、引用発明のポリエステルは吸湿性を持つものであり、引用発明のポリエステルに含まれる脂肪族ポリエステルについても、吸湿性を持つものであるということができる。
そして、吸湿性を持つポリエステルが含有する水分率が小さい方が好ましいことは、引用例1の記載事項(b)(e)からみても明らかであって、引用例1の段落【0021】?【0023】の「重縮合反応で生産されたポリエチレンテレフタレートを・・・・チップ化した。・・・・圧送式輸送設備で30メートル輸送して、チップ溜槽に投入した。該チップ溜槽に投入されたチップを1時間滞留させた後、チップ含有水分率を測定すると、含有水分率は200ppm±50ppmであった。」(記載事項(f))の記載も考慮すると、ポリエチレンテレフタレートの水の含有率ではあるものの、200ppmは0.1%よりもはるかに小さい0.02%を意味するから、気力輸送した後の脂肪族ポリエステルのペレット中の水の含有率として、0.1重量%以下の含水率は、当業者が容易に設定しうる程度のものであるといえる。
そうすると、引用発明において、吸湿性のあるペレット形状のポリエステルペレットとして、主たる構成単位が脂肪族ジカルボン酸及び脂肪族ジオールである脂肪族ポリエステルについて、含有水分率を0.1重量%以下とすることは、当業者にとって容易想到の範囲ということができる。

・相違点(イ)について
本願補正発明は、「ポリエステル等の樹脂は、吸湿した水分により加水分解を生じるおそれがある。特に、生分解性機能を有する脂肪族ポリエステルは、一般に吸湿性が高く、ポリマーペレット中の水分量を管理しないと、保管時にポリマーペレット中の水分が原因とされる加水分解により著しく劣化する傾向がある。その結果、引張特性等の機械特性に優れたポリエステルが得られない場合がある」(本願明細書段落【0004】)ため、貯蔵容器に向けて「ポリエステルのペレットを気力輸送する際に、ペレットの含水率を増大させることなく簡便な手段で輸送する」(本願明細書段落【0005】)ために、「露点が-10℃以下の気体を使用」したものである。
一方、引用発明は、従来、「重縮合反応により所定の粘度に高められたポリマーは重縮合反応槽よりストランドまたはフイルム状に押し出され冷却後、切断装置でチップにされ、水が付着した状態のチップを通常はそのまま落下させて貯槽へ溜められていた」(段落【0002】)が、「チップ含有水分率が高いとポリマの分解により粘度が低下し紡糸、成型でのトラブルの原因」(段落【0003】)となるため、「第1の貯槽に滞留させる際に、圧送式または吸引式輸送装置により、減圧または加圧状態に保ちつつ輸送」(段落【0013】)したものであって、本願補正発明と引用発明のいずれも、ペレットの貯蔵容器あるいはチップの貯槽に輸送された時点での、含有する水分率を減らすことを企図するものである。
ペレットの貯蔵容器あるいはチップの貯槽に貯蔵する前の輸送の段階で、ポリエステル周囲の気体が湿潤なものであると、ポリエステルに水分が付着して吸湿してしまい、貯蔵する時点でのポリエステルの含有する水分率を低減することが難しくなるのは明らかであり、引用例1の段落【0016】の「配管内での除湿強化を目的に配管内部を乾燥空気または窒素などの乾燥不活性気体雰囲気下にする方がより好ましい。」(記載事項(e))との記載も考慮すると、引用発明において、輸送に使用される気体として水分の少ない乾燥空気を使用することは、当業者にとって自然なことであるといえる。
そして、吸湿性の高い粉体ないしは粒体を気体により搬送するのにあたり、露点が-10℃以下の乾燥した気体を使用することは、周知の技術的事項(例えば、引用例2の検討事項(c)(露点が-60℃?-40℃の範囲の乾燥気体)、引用例3の検討事項(c)(露点が-0℃?-60℃の範囲の乾燥気体)である。
そうすると、引用発明において、輸送されるポリエステルをペレット形状とし、ポリエステルを輸送する気体として露点が-10℃以下の気体を使用して、ポリエステルを気力輸送することは、当業者が容易に想到し得たものであるといえる。

なお、請求人は、本願補正発明の課題が「ペレット化成形」した脂肪族ポリエステルの貯蔵時における加水分解を抑制するために、貯蔵する前に、予め脂肪族ポリエステル中の含水率を下げることを課題としたものであるのに対し、引用例1記載の発明の課題は「成型品成形」の溶融時におけるチップ含有水分率を下げることを課題としていることで相違し、本願補正発明と引用例1記載の発明とでは、ポリエステル中の含水率を下げる工程が異なる旨(平成25年12月6日付け回答書「(a)本願発明と引用文献1に係る発明との課題の相違」の項)主張しているが、本願補正発明と引用発明のいずれも、ペレットの貯蔵容器あるいはチップの貯槽に輸送された時点での含有する水分率を減らすことを企図していることは上記したとおりであり、さらに、本願明細書中の実施例(本願明細書段落【0047】)と、引用例1に記載された実施例(段落【0021】?【0022】)のいずれにおいても、ストランド状のポリエステルのポリマーを水で冷却した後、カッターでカットし、遠心脱水機で脱水した後に気体で輸送しており、貯蔵する前の工程に相違があるとはいえない。
しかも、本願明細書の段落【0054】には「気力輸送に使用される空気の温度が過度に低いと、ポリマーペレット中の水分量を低減させるために長時間を要する傾向がある。」(下線は当審において付記したもの)とも記載され、本願補正発明のものも気力輸送の途中で気体によりポリエステル中の水分量を下げているといえるから、ポリエステル中の含水率を下げる工程のうち、気力輸送中の気体により水分量を低減させる点で、本願補正発明と引用例1記載の発明は異なるとはいえないものである。

そして、本願補正発明により得られる作用効果も、引用発明及び周知の技術的事項から当業者であれば予測し得る範囲のものであって格別とはいえない。
したがって、本願補正発明は、引用発明及び周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

請求人は、平成25年12月6日付けの回答書において補正案を提示しているので、この点につき検討するに、引用例1の段落【0013】、【0021】及び【0022】には、ストランド状の樹脂を水冷却固化した後に切断し、その後、脱水を行ってから輸送して溜槽に投入することが、同じく段落【0017】には、貯槽で滞留させる際に、貯槽内に乾燥空気などの乾燥不活性気体を予め通気して置換しておくことで吸湿防止をより強化することが記載されており、この補正案によって新たに付け加えられた発明特定事項を引用例1は開示しているといえる。
しかも、このような補正案に係る補正は、審判請求時或いは前審の段階において行うことができた内容のものであり、当審において、さらに、補正の機会を付与すべき特別の事情も存在しないものである。

(6)結論
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明について
(1)本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の各請求項に係る発明は、平成24年9月6日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載されたとおりのものであるところ、請求項1には次のとおり記載されている。
「【請求項1】
露点が0℃以下の気体を使用し、吸湿性のペレット形状のポリエステルを気力輸送する方法であって、気力輸送されるポリエステルは、主たる構成単位が脂肪族ジカルボン酸及び脂肪族ジオールである脂肪族ポリエステルであり、気力輸送されたペレット形状の脂肪族ポリエステルの含水率が0.1重量%以下であることを特徴とするペレット形状のポリエステルの気力輸送方法。」(以下、請求項1に係る発明を「本願発明」という。)

(2)引用文献記載の技術事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献及びその記載事項は、前記2.(3)に記載したとおりである。

(3)対比・判断
本願発明は、気体の露点について、前記2.で検討した本願補正発明が「-10℃以下」としたものを、「0℃以下」とするものである。
そうすると、本願発明の、気体の露点に係る数値限定以外の発明特定事項を全て含み、その数値をさらに限定した本願補正発明が、前記2.(5)に記載したとおり、引用発明及び周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)むすび
以上によれば、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-03-07 
結審通知日 2014-03-11 
審決日 2014-03-25 
出願番号 特願2008-72528(P2008-72528)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B29C)
P 1 8・ 575- Z (B29C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 奥野 剛規長谷山 健  
特許庁審判長 木村 孔一
特許庁審判官 井上 茂夫
鈴木 正紀
発明の名称 ペレット形状のポリエステルの気力輸送方法  
代理人 古部 次郎  
代理人 高梨 桜子  
代理人 山脇 浩  

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