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審決分類 審判 一部無効 1項3号刊行物記載  H04J
審判 一部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H04J
審判 一部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  H04J
審判 一部無効 2項進歩性  H04J
管理番号 1287391
審判番号 無効2013-800083  
総通号数 174 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-06-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2013-05-10 
確定日 2014-05-07 
事件の表示 上記当事者間の特許第4213466号発明「適応クラスタ構成及び切替による多重キャリア通信」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件の特許第4213466号についての手続の経緯の概要は以下のとおりである。

出願日 平成13年12月13日
(パリ条約による優先権主張 平成12年12月15日 米国,平成13年4月17日 米国。)
設定登録 平成20年11月 7日
本件無効審判請求 平成25年 5月10日
審判事件答弁書 平成25年 9月 5日
口頭審理陳述要領書(請求人) 平成26年 1月21日
口頭審理陳述要領書(被請求人) 平成26年 1月21日
口頭審理 平成26年 2月 4日



第2 本件特許発明
特許第4213466号の請求項1?10に係る発明のうち,請求項1,3に係る発明(以下,各請求項の番号に対応して,「本件特許発明1」,「本件特許発明3」という。)は,特許請求の範囲の請求項1,3に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】
OFDMAシステム内でサブキャリアを割り当てる際に使用する方法において,
少なくとも1つのサブキャリアのダイバーシティクラスタを第1の加入者に割り当てる段階と,
少なくとも1つのコヒーレンスクラスタを第2の加入者に割り当てる段階であって,前記少なくとも1つのダイバーシティクラスタと前記少なくとも1つのコヒーレンスクラスタをそれぞれ同時に使用することによって前記第1及び第2の加入者との通信が生じ得る前記段階と,
セル内の移動中の加入者と静止している加入者の人口が変化した時には,クラスタ分類を再構成する段階から成ることを特徴とする方法。

【請求項3】
前記1つのダイバーシティクラスタを使用する段階は,前記1つのダイバーシティクラスタのサブキャリア全体に亘るチャネル符合化段階を含んでいることを特徴とする請求項1に記載の方法。」


第3 請求人の主張
請求人は,本件特許発明1,3についての特許を無効とする,との審決を求め,次のような無効理由を主張している。
以下の無効理由1?4は,請求人の主張する無効理由を,無効理由の具体的な説明の内容に基づいて,当審において特許法の条文にそってまとめたものである。


1.無効理由1(特許法第29条第1項第3号,同第2項)
(1)甲第1号証による新規性違反
(審判請求書7.(4) 17頁2行?34頁20行)
本件特許発明1及び3は,甲第1号証に記載された発明と同一であるので,特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであり,本件特許発明1及び3に係る特許は,同法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきである。

(2)甲第1号証と甲第2,29,30号証のいずれかとによる進歩性違反
(審判請求書7.(4) 34頁21行?41頁19行)
本件特許発明1及び3は,甲第1号証に記載された発明と,甲第2号証,甲第29号証及び甲第30号証のいずれかに記載された発明とに基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項規定により特許を受けることができないものであり,本件特許発明1及び3に係る特許は,同法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきである。


2.無効理由2(特許法第29条第2項)
甲第31号証と甲第2,29,30号証のいずれかとによる進歩性違反
(審判請求書7.(4) 41頁20行?54頁14行)
本件特許発明1及び3は,甲第31号証に記載された発明と,甲第2号証,甲第29号証及び甲第30号証のいずれかに記載された発明とに基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項規定により特許を受けることができないものであり,本件特許発明1及び3に係る特許は,同法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきである。


3.無効理由3(特許法第36条第6項第2号)
(審判請求書7.(4) 54頁15行?55頁15行)
本件特許発明1及び3は明確でないので,特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず,本件特許発明1及び3に係る特許は,特許法第123条第1項第4号に該当し,無効とすべきである。

(1)請求項1について
本件特許の請求項1は,「ダイバーシティクラスタ」,「コヒーレンスクラスタ」,及び「クラスタ分類を再構成する」ことを規定しているが,「ダイバーシティクラスタ」,「コヒーレンスクラスタ」,「クラスタ分類」は,学術用語でなく,また,移動体通信の分野において一般的に用いられる用語でもないから不明確である。
【0103】は単なる一例を提示しているにすぎず,「クラスタ分類の再構成」の定義について全く説明していないから,「クラスタ分類を再構成する」という文言は不明確なものである。

(2)請求項3について
本件特許の請求項3の「前記1つのダイバーシティクラスタを使用する段階」は,請求項3が引用する請求項1において規定されたものではない。また,「チャネル符合化」という文言は,学術用語でなく,また,移動体通信の分野において一般的に用いられる用語でもない。したがって,「前記1つのダイバーシティクラスタを使用する段階は,前記1つのダイバーシティクラスタのサブキャリア全体に亘るチャネル符合化段階を含んでいること」という文言は不明確である。


4.無効理由4(特許法第36条第6項第1号及び同第4項)
(審判請求書7.(4) 55頁16行?57頁5行)
本件特許の発明の詳細な説明は,本件特許発明1及び3を当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないので,特許法第36条第4項に規定する要件を満たしておらず,本件特許発明1及び3に係る特許は,特許法第123条第1項第4号に該当し,無効とすべきである。

(1)本件特許の請求項1は,「クラスタ分類の再構成」は,「セル内の移動中の加入者と静止している加入者の人口が変化した時」に行われる,すなわち,セル内の移動中の加入者及び静止している加入者の両方の人口が変化した時に実行される,ということを規定している。一方,【0103】は,「システムの展開に伴い人数が変わると,コヒーレンスクラスタとダイバーシティクラスタの割当は,新しいシステムの必要性を受け入れるため構成し直される。」と説明しており,この「人数」が,「移動中の加入者」の数であるのか,「静止している加入者」の数であるのか,又は「移動中の加入者」及び「静止している加入者」の両方の数であるのかについて,全く説明していない。したがって,本件特許発明1は,発明の詳細な説明に記載したものてはない。また,発明の詳細な説明は,当業者が本件特許発明1の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではない。

(2)「セル内の移動中の加入者と静止している加入者の人口が変化した時」という記載は,(i)移動中の加入者及び静止している加入者の両方の人数が変化したものの,両者の比が変化しない場合,及び,(ii)移動中の加入者及び静止している加入者の両方の人数が変化し,かつ,両者の比が変化した場合,という少なくとも2つの場合を含む記載であるが,【0103】は,場合(i)を示すのか,場合(ii)を示すのか,場合(i)及び場合(ii)の両方を示すのかについて,全く言及していない。したがって,本件特許発明1は,発明の詳細な説明に記載したものてはない。また,発明の詳細な説明は,当業者が本件特許発明1の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではない。

(3)明細書は,【0098】?【0101】において,基地局が,変化速度が所定の速度を超える加入者を移動中の加入者として判断することを開示しているが,「セル内の移動中の加入者と静止している加入者の人口が変化した時」を,基地局が具体的にどのような構成によってどのように検出するのかについて,全く言及していない。したがって,本件特許発明1は,発明の詳細な説明に記載したものてはない。また,発明の詳細な説明は,当業者が本件特許発明1の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではない。


また,請求人は,証拠方法として甲第1号証?甲第33号証を提出している。
甲第1号証:Rainer Grunheid([当審注]:表記上の理由で,「u」のウムラウトは省略して単に「u」と記載した。), Hermann Rohling, Adaptive Modulation and Multiple Access for the OFDM Transmission Technique, Wireless Personal Communications, May 2000, Volume 13, Issue 1-2, pp 5-13
甲第1号証の訳文
甲第2号証:国際公開第99/63691号
甲第3号証:井上伸雄・都丸敬介,日経コミュニケーション ブックス 新情報通信早わかり講座2([当審注]:表記上の理由で,丸囲いの「2」は単に「2」と記載した。),日経BP社,1999年1月1日 1版5刷発行,132?133頁
甲第4号証:山内雪路,スペクトラム拡散通信 次世代高性能通信に向けて,東京電機大学出版局,1997年12月20日 第1版第5刷発行,123?125頁
甲第5号証:特開平7-170242号公報
甲第6号証:特開平7-177569号公報
甲第7号証:特開平7-240709号公報
甲第8号証:特開平7-264110号公報
甲第9号証:特開平8-51463号公報
甲第10号証:特開平8-65233号公報
甲第11号証:特開平8-186509号公報
甲第12号証:特開平8-223107号公報
甲第13号証:特開平8-265274号公報
甲第14号証:特開平8-288796号公報
甲第15号証:特開平9-51394号公報
甲第16号証:特開平9-55709号公報
甲第17号証:特開平9-64804号公報
甲第18号証:特開平9-167982号公報
甲第19号証:特開平9-167990号公報
甲第20号証:特開平10-22889号公報
甲第21号証:特開平10-200474号公報
甲第22号証:特開平10-285233号公報
甲第23号証:特開平11-41138号公報
甲第24号証:特開平11-231033号公報
甲第25号証:特開平11-313299号公報
甲第26号証:特開2000-91973号公報
甲第27号証:国際公開第96/00475号に係る再公表特許公報
甲第28号証:国際公開第99/44257号
甲第29号証:特開2000-312177号公報
甲第30号証:特開2000-68975号公報
甲第31号証:国際公開第98/24258号
甲第31号証の訳文
甲第32号証:特開2000-32565号公報
甲第33号証:特開2000-115834号公報

なお,甲第2,3,4,27,28,31号証の表示名は,請求人の提出した書証に基づき,当審が修正した。



第4 被請求人の主張
これに対し,被請求人は,平成25年9月5日付け審判事件答弁書,平成26年1月21日付け口頭審理陳述要領書において,概略以下のとおり主張している。

1.無効理由1(特許法第29条第1項第3号,同第2項)
(1)甲第1号証による新規性違反
(審判事件答弁書7-6-1?7-6-2 13頁下から3行?17頁6行)
甲1発明には,本件特許発明でいう,複数のサブキャリアの集合として識別される「クラスタ」という概念自体が開示されていない。そして,基地局が,例えばインデクスやラベルなどで識別した状態でのサブキャリアのセットとしてのクラスタとしてユーザに割り当てているとの記載は甲第1号証には存在しない。甲1発明では基地局が各ユーザに対する良好なサブキャリアに関する「お好み」リストを作成し,これに応じてサブキャリアを割り当てた結果,偶々非連続のサブキャリアがあるユーザに割り当てられる結果を招来することがあるにすぎず,「ダイバーシティクラスタ」は開示されていない。よって,甲第1号証には,構成1-B,1-Cは開示されていない。([審決注]:請求項の分説については,後記「第5」の「3(1)」を参照。以下同様。)
また,甲第1号証11頁3?8行の記載によれば,甲第1号証の「お好みリスト」を用いた手法によってサブキャリアの割当てを行うアルゴリズムは,ユーザが「高い移動度」である場合は不適切であるということになるから,サブキャリアを「高い移動度」のユーザに割り当てることはできない。よって,甲第1号証には,構成1-Dは開示されていない。
したがって,本件特許発明1,3は甲第1号証に対して新規性を有する。

(2)甲第1号証と甲第2,29,30号証のいずれかとによる進歩性違反
(審判事件答弁書7-6-3?7-6-4 17頁7行?22頁4行)
甲第2号証には「クラスタ」の概念を示す記載はなく,演算量の削減及びそれによる消費電力の削減を目的とするものにすぎないから,構成1-B,1-Cは甲第2号証には開示されていない。
甲第29号証には「クラスタ」の概念は開示されてない。また,図9(a)の配置と図9(b)の配置とを同時に使用することは何ら記載もなければ,それを示唆するような記載もない。よって,構成1-B,1-Cは甲第29号証には開示されていない。
甲第30号証は,OFDM-TDMAにおいてチャネル減衰の変化が大きいときにはより多くのパイロットを設定することが記載されているにすぎず,「ダイバーシティクラスタ」は開示されておらず,「ダイバーシティクラスタ」と「コヒーレンスクラスタ」とが同時にユーザに割り当てられて使用されるという記載も示唆もない。よって,構成1-B,1-Cは甲第30号証には開示されていない。
構成1-Dについて,甲1発明では高い移動度のユーザには甲1発明の手法によるサブキャリアの割当ができないのであるから,甲2,29,30を甲1発明に適用して1-Dを備える本件特許発明1,3に至るようにすることはできない。
したがって,本件特許発明1,3は,甲1発明と,甲2発明,甲29発明又は甲30発明とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから,進歩性を有する。


2.無効理由2(特許法第29条第2項)
甲第31号証と甲第2,29,30号証のいずれかとによる進歩性違反
(審判事件答弁書7-7 22頁9行?27頁11行)
甲31発明のFD/TDMAはOFDMAではないから,甲第31号証は構成1-Aを開示していない。
甲31発明のFD/TDMAでは,同じ「Mのチャネル」(M個のキャリア)を時分割で複数移動局と多元接続しているにすぎず,「ダイバーシティクラスタ」に相当するものも「コヒーレンスクラスタ」に相当するものも存在せず,それ故にダイバーシティクラスタを第1の加入者に,コヒーレンスクラスタを第2の加入者に同時に割り当てて使用することも全く開示されていない。よって,甲第31号証には構成1-B,1-Cは開示されていない。
甲第31号証には,ダイバーシティクラスタとコヒーレンスクラスタとの「同時」の使用に関する記載も示唆もないから,クラスタ分類割当の再構成に関する開示は一切ない。よって,甲第31号証には構成1-Dは開示されていない。
構成1-Aに関し,甲31発明のFD/TDMAでは,同じ「Mのチャネル」(M個のキャリア)を時分割で複数移動局と多元接続しており,甲第2号証,甲第29号証又は甲第30号証に記載されているとするOFDMA技術を適用する必然性も動機もない。
構成1-B,1-Cに関し,甲第2号証には「ダイバーシティクラスタ」と「コヒーレンスクラスタ」とが同時に割り当てられるという記載はなく,甲第29号証には「クラスタ」という概念は開示されておらず,甲第30号証に「ダイバーシティクラスタ」は開示されておらず「ダイバーシティクラスタ」と「コヒーレンスクラスタ」とが同時に割り当てられて使用されるという記載も示唆もない。
構成1-Dに関し,甲2発明,甲29発明には「ダイバーシティクラスタ」と「コヒーレンスクラスタ」とが同時に割り当てられという記載はないから,それらの再構成についても記載も示唆もない。甲第30号証はOFDM/TDMAであるから,周波数軸に沿ったサブキャリアをユーザ毎に割り当てて多元接続することはない。
以上のことから,本件特許発明1,3は,甲1発明と,甲2発明,甲29発明又は甲30発明とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから,進歩性を有する。


3.無効理由3(特許法第36条第6項第2号)
(審判事件答弁書7-8 27頁12行?30頁9行)
(1)請求項1について
ア.「ダイバーシティクラスタ」及び「コヒーレンスクラスタ」の用語については,例えば明細書【0087】,【0088】及び【0092】の記載並びに図9,図10及び図12から理解可能であり,十分に明確である。

イ.明細書【0103】の記載と,図9及び図12の記載とから,コヒーレンスクラスタからダイバーシティクラスタへの再構成が一例として理解可能である。また,当業者であれば「移動加入者」及び「静止加入者」の各々の増減の組み合わせがあることは当然に理解できることである。したがって,「クラスタ分類を再構成する」との文言は十分に明確である。

(2)請求項3について
請求項3の「前記1つのダイバーシティクラスタを使用する段階」との記載は,請求項1の「前記少なくとも1つのダイバーシティクラスタと前記少なくとも1つのコヒーレンスクラスタをそれぞれ同時に使用することによって前記第1及び第2の加入者との通信が生じ得る前記段階」との段階を受けていることは明らかである。
また,「チャネル符号化」は,【0041】の記載によれば,各クラスタが符号化されることが明確に記載されている。


4.無効理由4(特許法第36条第6項第1号及び同第4項)
(審判事件答弁書7-9 30頁10行?第34頁2行)
(1)【0103】の「システムの展開に伴い人数が変わると」の「人数」は,「移動加入者と静止加入者の人数」を指すことは明らかである。ここで,両方の数の合計といいたいならば,「移動加入者及び静止加入者の人数」と表現される。すなわち,移動加入者の人数が変わった場合,静止加入者の人数が変わった場合,及び,移動加入者の人数及び静止加入者の人数の両方が変わった場合のすべてを含むものであることは明らかである。
請求項1は,セル内の移動中の加入者の人口が変化した時,セル内の静止している加入者の人口が変化した時,セル内の移動中の加入者の人口及び静止している加入者の人口の両方が変化した時をすべて含むもの,ということになる。したがって,請求項1の「セル内の移動中の加入者と静止している加入者の人口が変化した時」と【0103】の「システムの展開に伴い人数が変わると」とは同じことを述べていることは明らかである。
したがって,請求項1の「セル内の移動中の加入者と静止している加入者の人口が変化した時」については明細書の【0103】に記載されており,また,明細書の当該記載も本件特許発明1を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものである。

(2)請求項1には,「人口が変化したとき」と記載しているのであって,「両者の比」については言及していない。そして,【0103】の「セル内のコヒーレンスクラスタとダイバーシティクラスタの数の比率/割当は,移動加入者と静止加入者の人数の比によって異なる。」との記載は,移動加入者と静止加入者の人数の比が異なれば,コヒーレンスクラスタとダイバーシティクラスタの数の比率/割当も異なる,ということを述べているにすぎない。その後の「システムの展開に伴い人数が変わると,コヒーレンスクラスタとダイバーシティクラスタの割当は,新しいシステムの必要性を受け入れるため構成し直される。」との記載は,人数が変われば,割り当てを構成し直す,と述べており,「比」のことは触れていない。
以上のとおり,請求項1では「両者の比」については言及して折らず,【0103】でも「両者」の比を考慮していない記載もされているため,本件特許発明1の「セル内の移動中の加入者と静止している加入者の人口が変化した時」については明細書の【0103】に記載されており,また,明細書の当該記載も本件特許発明1を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものである。

(3)請求項1は,「セル内の移動中の加入者と静止している加入者の人口が変化した時」という,クラスタ分類の再構成の時期的条件をこの構成で規定しているにすぎず,この時期的上限を判断する方法は実際には様々なものが考えられるが,請求項1では何らの限定はしていない。ちなみに,「セル内の移動中の加入者と静止している加入者の人口が変化した時」の具体的な判断方法については【0098】?【0101】に例示されている。
したがって,請求項1の「セル内の移動中の加入者と静止している加入者の人口が変化した時」については明細書の【0103】に記載されており,また,明細書の当該記載も本件特許発明1を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものである。

また,被請求人は,証拠方法として乙第1号証?乙第3号証を提出している。
乙第1号証:服部武編,OFDM/OFDMA教科書,第1章 Q&Aで学ぶOFDM/OFDMAの基礎知識,インプレスR&D,2008年9月21日初版第1刷発行,2?8頁
乙第2号証:特許第4213466号公報
乙第3号証:社団法人電子情報通信学会編,改訂電子情報通信用語辞典,コロナ社,1999年7月9日改訂版第1刷発行,318頁及び417頁

なお,乙第1,3号証の表示名は,被請求人の提出した書証に基づき,当審が修正した。



第5 当審の判断
無効理由1及び2については,無効理由3及び4を判断してから,判断を行う。

1.無効理由3(特許法第36条第6項第2号)について
(1)請求項1の記載について
ア.「ダイバーシティクラスタ」,「コヒーレンスクラスタ」について
特許請求の範囲に記載された「ダイバーシティクラスタ」,「コヒーレンスクラスタ」,「クラスタ分類を再構成する」の技術的意義は,特許請求の範囲の記載からは明らかではないから,それを明らかにするために本件明細書を参酌することは当然に許容されることである。そして,特許発明の技術的範囲を定める上では,願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮して,特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈するから,特許請求の範囲に記載された用語が学術用語でなく,また,移動体通信の分野において一般的に用いられる用語もないからといって,直ちに不明確とはいえない。

そこで,本件特許明細書を見てみると,本件特許明細書には
「【0023】クラスタ102のようなクラスタは,図1Aに示すように,少なくとも1つの物理的サブキャリアを保有している論理ユニットとして定義される。クラスタは,連続した又はばらばらのサブキャリアを保有することができる。クラスタとそのサブキャリアの間のマッピングは,固定されていても再構成可能であってもよい。後者の場合,基地局は,加入者に何時クラスタが再定義されるかを通知する。或る実施形態では,周波数スペクトルは512個のサブキャリアを含んでいて,各クラスタは4個の連続したサブキャリアを含んでおり,結果的に128個のクラスタとなる。」,
「【0087】コヒーレンスクラスタとダイバーシティクラスタの間の知的切換
或る実施形態では,クラスタには2つのカテゴリ,即ち互いに接近している複数のサブキャリアを保有するコヒーレンスクラスタと,少なくとも一部がスペクトル全体に遙か離れて拡散しているサブキャリアを保有するダイバーシティクラスタがある。コヒーレンスクラスタ内の複数のサブキャリアの接近度は,チャネルコヒーレンス帯域幅内,即ち,チャネル応答が概ね同じ帯域幅内,具体的には,多くのセルラーシステムでは通常100kHz以内,であるのが望ましい。これに対し,ダイバーシティクラスタ内のサブキャリアの拡散は,多くのセルラーシステムでは通常100kHz以内であるチャネルコヒーレンス帯域幅よりも広いのが望ましい。従って,このような場合の一般的な目標は拡散を最大化することである。
【0088】図9は,セルA-Cについてのコヒーレンスクラスタとダイバーシティクラスタの代表的クラスタフォーマットを示す。図9に示すように,セルA-Cに関し,周波数(サブキャリア)のラベリングは,周波数がコヒーレンスクラスタの一部であるかダイバーシティクラスタの一部であるかを示している。例えば,1-8のラベルが付いた周波数はダイバーシティクラスタであり,9-16のラベルが付いたクラスタはコヒーレンスクラスタである。例えば,セル内のラベル1が付いた全ての周波数は,或るダーバーシティクラスタの一部であり,セル内のラベル2が付いた全ての周波数は,別のダイバーシティクラスタの一部であるが,一方ラベル9が付いた周波数のグループは1つのコヒーレンスクラスタであり,ラベル10が付いた周波数のグループは別のコヒーレンスクラスタである,等となっている。ダイバーシティクラスタは,干渉平均化を介してセル間干渉の影響を低減するために,異なるセルに対し異なる構成とすることもできる。」,
「【0103】セル内のコヒーレンスクラスタとダイバーシティクラスタの数の比率/割当は,移動加入者と静止加入者の人数の比によって異なる。システムの展開に伴い人数が変わると,コヒーレンスクラスタとダイバーシティクラスタの割当は,新しいシステムの必要性を受け入れるため構成し直される。図12は,図9よりも,もっと多くの移動する加入者をサポートできるクラスタ分類の再構成を示す。」
との記載があり,これらの記載及び図9,図12によれば,

「クラスタ」は,「少なくとも1つの物理的サブキャリアを保有している論理ユニット」と定義され,連続した又はばらばらのサブキャリアを保有することができるものであり,互いに接近している複数のサブキャリアを保有するコヒーレンスクラスタと,少なくとも一部がスペクトル全体に遙か離れて拡散しているサブキャリアを保有するダイバーシティクラスタとの2つのカテゴリがあるものと理解できる。そして,予め帯域内の全てのサブキャリアと各クラスタとの間のマッピングがなされて,図9又は図12のクラスタ構成が定義されていると理解できる。
「ダイバーシティクラスタ」は,少なくとも一部がスペクトル全体に遙か離れて拡散しているサブキャリアを保有するクラスタであり,ダイバーシティクラスタ内のサブキャリアの拡散は,多くのセルラーシステムでは通常100kHz以内であるチャネルコヒーレンス帯域幅よりも広いのが望ましいものと理解できる。
「コヒーレンスクラスタ」は,互いに接近している複数のサブキャリアを保有するクラスタであり,コヒーレンスクラスタ内の複数のサブキャリアの接近度は,チャネルコヒーレンス帯域幅内,即ち,チャネル応答が概ね同じ帯域幅内,具体的には,多くのセルラーシステムでは通常100kHz以内であるのが望ましいものと理解できる。

そして,「ダイバーシティクラスタ」及び「コヒーレンスクラスタ」についての上記解釈は,被請求人の口頭審理陳述要領書2?11頁における説明にも整合するものである。

したがって,本件特許発明1,3の「ダイバーシティクラスタ」,「コヒーレンスクラスタ」は,不明確とはいえない。

イ.「クラスタ分類を再構成する」について
本件特許明細書には,「クラスタ分類」なる記載は,上記【0103】の「図12は,図9よりも,もっと多くの移動する加入者をサポートできるクラスタ分類の再構成を示す。」との記載にしか存在しない。しかしながら,上記【0087】の「クラスタには2つのカテゴリ,即ち・・・コヒーレンスクラスタと,・・・ダイバーシティクラスタがある。」,上記【0023】の「クラスタとそのサブキャリアの間のマッピングは,固定されていても再構成可能であってもよい。」,【0088】の「例えば,1-8のラベルが付いた周波数はダイバーシティクラスタであり,9-16のラベルが付いたクラスタはコヒーレンスクラスタである。例えば,セル内のラベル1が付いた全ての周波数は,或るダーバーシティクラスタの一部であり,セル内のラベル2が付いた全ての周波数は,別のダイバーシティクラスタの一部であるが,一方ラベル9が付いた周波数のグループは1つのコヒーレンスクラスタであり,ラベル10が付いた周波数のグループは別のコヒーレンスクラスタである,等となっている。」との記載に照らせば,

「クラスタ分類」とは,「少なくとも1つの物理的サブキャリアを保有している論理ユニット」である「クラスタ」に対して,コヒーレンスクラスタ,ダイバーシティクラスタとのカテゴリー分けがなされることであり,当該カテゴリー分けはクラスタとそのサブキャリアの間のマッピングがどのように定義されているかによることは明らかである。
そして,【0103】の「図12は,図9よりも,もっと多くの移動する加入者をサポートできるクラスタ分類の再構成を示す。」との記載及び図9,図12に照らせば,例えば,クラスタインデクス(ラベル)9のクラスタは,図9においては,左から9?12番目の4つのサブキャリアを構成要素とするコヒーレンスクラスタであったものが,クラスタ分類の再構成がなされた図12においては,左から9,25,41,57番目の4つのサブキャリアを構成要素とするダイバーシティクラスタになっているから,「クラスタ分類の再構成」は,クラスタとそのサブキャリアの間のマッピング(どのサブキャリアをどのクラスタの構成要素とするかということ)を構成し直すことに伴い,当該クラスタのカテゴリー分けが変更されることと理解できる。

そして,上記【0103】の「セル内のコヒーレンスクラスタとダイバーシティクラスタの数の比率/割当は,移動加入者と静止加入者の人数の比によって異なる。」の記載によれば,セル内のコヒーレンスクラスタとダイバーシティクラスタの数の比率/割当,すなわち,例えば上記【0023】の例に照らせば,予め定義される,512個のサブキャリアからなる全帯域幅における128個のクラスタのうち,何個をコヒーレンスクラスタとし,何個をダイバーシティクラスタとするかという,両クラスタの数の比率/割当(例えば,図9のクラスタ構成における,コヒーレンスクラスタとダイバーシティクラスタの数の比率,コヒーレンスクラスタとダイバーシティクラスタの数の割当。)は,セル内のコヒーレンスクラスタが割り当てられる可能性が高い加入者とダイバーシティクラスタが割り当てられる可能性が高い加入者数の人数の比によって設計されているものと理解できる。
そして,上記【0103】の「システムの展開に伴い人数が変わると,コヒーレンスクラスタとダイバーシティクラスタの割当は,新しいシステムの必要性を受け入れるため構成し直される。図12は,図9よりも,もっと多くの移動する加入者をサポートできるクラスタ分類の再構成を示す。」の記載によれば,セル内の加入者の人数が変わると,コヒーレンスクラスタが割り当てられる可能性が高い加入者とダイバーシティクラスタが割り当てられる可能性が高い加入者数の人数の比も変わる可能性が高いことから,セル内の加入者の人数が変わったときに,セル内のコヒーレンスクラスタとダイバーシティクラスタの数の比率/割当を見直すことと理解できる。
すなわち,ダイバーシティクラスタが割り当てられる可能性が高い移動加入者数の人数が増えた場合,コヒーレンスクラスタに係るサブキャリアは余っているのに,ダイバーシティクラスタに係るサブキャリアが足りなくなり,新たにダイバーシティクラスタが割り当てられる可能性がある移動加入者にサブキャリアの割り当てができないという不都合を防ぎ,ダイバーシティクラスタが割り当てられる可能性があるより多くの移動加入者をサポートできるよう,例えば図9のようにダイバーシティクラスタとコヒーレンスクラスタの数が等しい(すなわち,比率/割当が1:1。)ものから,図12のようにダイバーシティクラスタの数がコヒーレンスクラスタの数の倍である(すなわち,比率/割当が2:1。)ものとなるように,クラスタとサブキャリアとの間のマッピングを構成し直すことと理解できる。

したがって,「クラスタ分類を再構成する」という文言は不明確とはいえない。

なお,被請求人は,口頭審理陳述要領書の11頁12行,16頁下から7?5行,43頁5?7行において,クラスタ分類の再構成は再教育と知的切り換えとにより行われている旨説明している。しかし,本件特許明細書の【0033】の記載によれば,再教育は,図9のクラスタとサブキャリアとの間のマッピングを前提とした,【0024】?【0032】及び図1Bに記載された加入者に対するクラスタの割り当てのプロセスを周期的に繰り返すことであって,クラスタとサブキャリアとの間のマッピングを図9のものから図12にものに構成し直すことと再教育との関連性は認められない。また,本件特許明細書の【0087】?【0102】の記載によれば,知的切り換えも,図9のクラスタとサブキャリアとの間のマッピングを前提とした,加入者に対するクラスタの割り当てに関するものであり,クラスタとサブキャリアとの間のマッピングを図9のものから図12にものに構成し直すことと知的切り換えとの関連性は認められない。
また,被請求人の口頭審理陳述要領書の12?13頁の「(3)クラスタ分類の再構成」には,例えば,図9の状態のラベル9のコヒーレンクスクラスタが割り当てられていた第2の加入者が高速に移動を開始すると,当該元の第2の加入者を第1の加入者と評価し直して(再教育),クラスタ分類を図9から図12のような構成に変更し,当該加入者に対してラベル9のダイバーシティクラスタを割り当てることができる旨説明されている。しかしながら,当該説明に従うと,例えば,ラベル9の加入者一人が移動を開始しただけで,同時に図9の状態のラベル11のコヒーレンクスクラスタが割り当てられていた第2の加入者自身は静止したままであるのに図12のダイバーシティクラスタ11を割り当てられてしまうこととなるから,当該説明は理にかなったものでないことは明らかである。すなわち,図9の状態のクラスタ9が割り当てられていた第2の加入者が高速に移動を開始すると,移動加入者の数が増えることとなり,結果的にダイバーシティクラスタの数が足りないこととなったら,図9のものから図12のものに再構成される可能性はあるものの,図9のものにおいて使用されてないダイバーシティクラスタの数に余裕があれば,例えば図9のラベル8等のダイバーシティクラスタが割り当てられるだけであることは明らかである。
更に,被請求人は,口頭審理陳述要領書の16?17頁の「(3)クラスタ分類の再構成」において,「システムの展開に伴い(すなわちOFDMAシステム内でクラスタ割り当てをして基地局と加入者間で通信をする過程において,周期的に再教育が実施された(システムが展開されている)クラスタの分類の再構成がなされる結果,・・・,静止している加入者と移動している加入者の人数が変われば,・・・」と説明しており,当該記載によれば,本件特許明細書の【0103】の「システムの展開」とは,周期的に再教育が実施されること,すなわち,時間が経過することを意味すると説明していると解される。しかし,本件特許明細書の【0038】の記載及び図2によれば,パイロットが基地局から周期的に送信され,【0013】の記載によれば,当該パイロットに基づく加入者から基地局へのフィードバックは10ミリ秒タイムスロット毎になされるから,「再教育」は,システムの通常の動作の一環として,当該フィードバックに対応して周期的になされるものと解するのが自然である。このように,「再教育」は,システム自体は何ら改変されておらず,単に時間の流れに沿ったシステムの通常動作であるから,これを「システムの展開」(the system evolves)と解することは困難である。なお,システムの構築に際しては,予想されるダイバーシティクラスタが割り当てられる可能性がある人数とコヒーレンスクラスタが割り当てられる可能性がある人数との比率に基づいて,両クラスタの数の比率を最適設計することは当業者が当然に考慮すべきことであるから,システムの展開は,例えばシステムの改変によりセルのカバー範囲が変わる等の事情で,上記人数の比率が変わる可能性が出てきた場合等に,新たなシステムにおけるセル内での上記人数の比率に応じてクラスタ分類を再構成することと理解することは可能であると考えられる。

(2)請求項3の記載について
請求項3が引用する請求項1には,「1つのダイバーシティクラスタを使用する段階」との直接の記載は無いが,「少なくとも1つのコヒーレンスクラスタを第2の加入者に割り当てる段階であって,前記少なくとも1つのダイバーシティクラスタと前記少なくとも1つのコヒーレンスクラスタをそれぞれ同時に使用することによって前記第1及び第2の加入者との通信が生じ得る前記段階」が記載されている。
そして,本件特許明細書の【0088】の「全てのクラスタが強い干渉を及ぼすわけではないので,サブキャリア全体に亘ってチャネル符号化を行うダイバーシティクラスタは,干渉ダイバーシティゲインを提供する。」,【0090】の「クラスタ内のサブキャリア全体に亘ってチャネル符号化しているので,ダイバーシティクラスタは,(自身の多様化の性質上)クラスタの選択ミスに対しては強いが,クラスタ選択からのゲインは小さくなる。サブキャリア全体に亘るチャネル符号化とは,各コードワードが複数のサブキャリアから送信されたビットを含んでいることを意味し,より具体的には,コードワード間の差異ビット(エラーベクトル)が複数のサブキャリアの間に分配されることを意味している。」との記載によれば,ダイバーシティクラスタを使用する際にはクラスタ内のサブキャリア全体に亘ってチャネル符号化をすることが読み取れる。
ここで,本件特許明細書には【0089】,【0090】に「チャネル符号化」に係る記載があり,「チャネル符合化」なるものは記載されていないこと,「チャネル符号化」は学術用語であり,また,移動体通信の分野において一般的に用いられる用語であることに鑑みれば,請求項3に記載された「チャネル符合化」は「チャネル符号化」の単なる誤記であることは明らかである。
以上のことから,本件特許発明3の「前記1つのダイバーシティクラスタを使用する段階」は,本件特許発明1の「少なくとも1つのコヒーレンスクラスタを第2の加入者に割り当てる段階であって,前記少なくとも1つのダイバーシティクラスタと前記少なくとも1つのコヒーレンスクラスタをそれぞれ同時に使用することによって前記第1及び第2の加入者との通信が生じ得る前記段階」における,少なくとも1つのダイバーシティクラスタを使用する際の事項を限定していることは明らかである。
したがって,請求項3の「前記1つのダイバーシティクラスタを使用する段階は,前記1つのダイバーシティクラスタのサブキャリア全体に亘るチャネル符合化段階を含んでいること」という記載は,不明確とはいえない。


2.無効理由4(特許法第36条第6項第1号及び同条第4項)について
(1)図9又は図12にて予め定義されるコヒーレンスクラスタとダイバーシティークラスタの数の比率は,それぞれのクラスタに割り当てられる可能性がある移動加入者の人数と静止加入者の人数の比率に対応させることが合理的であることは明らかである。このため,本件特許明細書の【0103】の「人数が変わると」の記載は,前記人数の比率が変わり得る人数変化がある場合と理解することができ,移動加入者の人数が変わった場合,静止加入者の人数が変わった場合,移動加入者の人数及び静止加入者の人数の両方が変わった場合の全てが含まれると解するのが自然であるから,「移動中の加入者」の人数であるのか,「静止している加入者」の人数なのか,両者の人数なのかが特定される必要性は見いだせない。そして,人数の変化により再構成を試みたものの,両方の人数が変化したものの両者の比は変化しないことにより結果的にコヒーレンスクラスタとダイバーシティークラスタの数の比率が変わらないこともあり得ることも,想定し得る範囲内のことである。
一方,請求項1には「セル内の移動中の加入者と静止している加入者の両方の人口が変化した時には」と記載されているわけではないから,必ずしも「少なくとも一方の人口が変化していないときは実行されないことを規定している」とはいえず,むしろ【0103】の「人数が変わると」の記載は,上述のとおり,人数の比率が変わり得る人数変化がある場合と理解することができるから,請求項1は,「移動中の加入者」の人数が変化した場合,「静止している加入者」の人数が変化した場合,両者の合計人数が変化した場合を含むと解釈できる。したがって,【0103】の記載が「移動中の加入者」の人数であるのか,「静止している加入者」の人数なのか,両者の人数なのか特定できないことを理由として,サポート要件及び実施可能要件が満たしていないとすることはできない。

(2)上記(1)と同様の理由で,本件特許明細書の【0103】の記載が,両方の人数が変化したものの両者の比は変化しない場合なのか,両方の人数が変化し両者の比が変化した場合なのか,その双方なのか言及していないことを理由として,サポート要件及び実施可能要件が満たしていないとすることはできない。

(3)移動局の移動度を推定する手法としては,例えば本件特許明細書の【0098】にも一例が示されているように,様々なものが周知であり,セル内の移動中の加入者の人数及び静止している加入者の人数を推定することは不可能とはいえない。
そして,「人口」が「一国または一定地域に居住する人の総数。」(株式会社岩波書店 広辞苑第六版)を意味するとしても,セルラーシステムでは加入者は通話をしていない状態でもシステム側に信号を送信しており,システム側はセル内の加入者を識別可能であることは技術常識であり,識別された加入者の契約時の情報に照らせば,セル内に居住している加入者か否かも確認できるから,セル内を移動中のセル内に居住している加入者の数,セル内で静止しているセル内に居住している加入者の数を把握することは可能であると考えられる。
したがって,本件特許明細書に特段の言及はないものの,技術常識に照らせば,「セル内の移動中の加入者と静止している加入者の人口が変化した時」を検出し得るから,発明を実施することができないとまではいえない。

以上のとおりであるから,本件特許発明1,3は,特許法第36条第6項第1号,第2号,同条第4項の規定に違反してされたものであるということはできない。


3.無効理由1(特許法第29条第1項第3号及び特許法第29条第2項)について
(1)本件特許発明1
上記「第2」の項で本件特許発明1として認めたとおりである。

ここで,請求人が採用した分説について,被請求人は審判事件答弁書において異議を唱えたが,審理事項通知にてその理由の説明を求めたところ,被請求人の口頭審理陳述要領書では釈明はなかった。そして,特許請求の範囲の記載の段落に基づいて分説を行うことは一般的であり,被請求人の主張をみても分説の差異が新規性,進歩性の判断に影響するとはいえないから,無効理由1及び2の検討では,便宜上,請求人が採用した以下の分説を採用する。
「【請求項1】
(1-A) OFDMAシステム内でサブキャリアを割り当てる際に使用する方法において,
(1-B) 少なくとも1つのサブキャリアのダイバーシティクラスタを第1の加入者に割り当てる段階と,
(1-C) 少なくとも1つのコヒーレンスクラスタを第2の加入者に割り当てる段階であって,前記少なくとも1つのダイバーシティクラスタと前記少なくとも1つのコヒーレンスクラスタをそれぞれ同時に使用することによって前記第1及び第2の加入者との通信が生じ得る前記段階と,
(1-D) セル内の移動中の加入者と静止している加入者の人口が変化した時には,クラスタ分類を再構成する段階から成ることを特徴とする方法。

【請求項3】
(3-A) 前記1つのダイバーシティクラスタを使用する段階は,前記1つのダイバーシティクラスタのサブキャリア全体に亘るチャネル符合化段階を含んでいることを特徴とする請求項1に記載の方法。」

(2)引用発明
ア.甲第1号証に記載された発明について
本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第1号証Rainer Grunheid, Hermann Rohling, Adaptive Modulation and Multiple Access for the OFDM Transmission Technique(仮訳:「OFDM送信技術のための適応変調及び多元接続」), Wireless Personal Communications, May 2000, Volume 13, Issue 1-2, pp 5-13には,図面と共に,以下の事項が記載されている。

(ア)「1. Introduction
In recent years, the multicarrier transmission technique (Orthogonal Frequency Division Multiplexing, OFDM) has gained more and more attention when it comes to proposals for future wireless communication systems. One of the advantages of OFDM is the inherent flexibility that arises from the fact that the total bandwidth is subdivided into many different subcarriers. This leads to the option of adaptive modulation techniques for the subcarriers of an OFDM signal. Furthermore, when considering the aspect of multiple access, the bandwidth can be shared very flexibly among the users. Adaptive measures are particularly efficient in scenarios where the radio channel is time-invariant, e.g., for fixed wireless access of portable, but normally stationary terminals. In this paper, the combination of suitable multiple access and adaptive modulation techniques is analysed and compared for different degrees of adaptivity. The comparisons will show the advantage of an intelligent subcarrier management.」(5頁21?32行)
(仮訳)
「1.緒言
近年,将来のワイヤレス通信システムに対する提案については,マルチキャリア送信技術(直交周波数分割多重(OFDM))が益々注目を集めてきている。OFDMの様々な利点のうちの1つは,全バンド幅が多くの異なるサブキャリアに分割されるという事実に起因する生来の柔軟性である。これが,OFDM信号の複数のサブキャリアに対して適応変調技術を行うことに繋がる。さらには,多元接続という点を考慮すると,全バンド幅は,複数のユーザの間で非常に柔軟に共有されうるものである。適応的な手法は,無線チャネルが時間に関係ないような状況,例えば,携帯可能であるが通常は静止している端末の固定ワイヤレスアクセスについて,特に効率的である。本論文では,好適な多元接続技術と適応変調技術との組み合わせが,異なる程度の適応性について分析及び比較される。このような比較によって,インテリジェントなサブキャリアの利用の利点が示される。」

(イ)「In an OFDM-TDMA systems, the total bandwidth is allocated to a single user for the duration of several OFDM blocks. In contrast, an OFDM-FDMA scheme allocates only a part of all avairable subcarriers to one mobile station. In the latter case, it is possible to assign the subcarriers in such a way that each user only gets subcarriers with high sinal-to-noise-ratio (SNR). This is due to the different radio channels experienced by the user within a cell (see next paragraph). In [1] an OFDM-FDMA scheme with such an adaptive subcarrier allocation has been analysed; considerable gains in terms of bit error rate (BER) performance could be achieved in contrast to fixed assignments, e.g., as in OFDM-TDMA.
The algorithm used in the base station to allocate subcarriers in the downlink of an OFDM-FDMA system will be concisely outlined in the following. It is assumed that the base station can measure the channel transfer factors for each user (e.g. by measuring the amplitudes in the uplink symbols of a TDD system). A number of U user and a total of K subcarriers is considered; for simplicity, but without loss of generality, it is assumed that each user is allocated the same fraction of bandwidth (K/U subcarriers).
1. All attenuations are sorted, resulting in a "favourite" list for each user, consisting of the K/U subcarriers with highest received power, and a list of alternative subcarriers (position > K/U).
2. The user with the smallest number of allocated subcarriers (relative to number of requested subcarriers) is assigned the next subcarrier.
3. If possible, the user gets the subcarrier with the highest rank from his favourite list which has not yet been allocated to him.
4. If this subcarrier has already been allocated to another user, a dicision variable is calculated to determine the (relative) accumulated power loss for each of the two competing users on the assumption that he cannot use the subcarrier.
5. The user that would suffer the larger relative power loss is assigned the specific carrier.
6. The procedure is repeated from step 2 until all subcarriers are allocated.」(6頁5?末行)
(仮訳)
「 OFDM-TDMAシステムでは,全バンド幅が,幾つかOFDMブロックの期間において単一のユーザに割り当てられる。これに対して,OFDM-FDMA方式は,すべての利用可能なサブキャリアのうちの一部のみを1つの移動局に割り当てる。後者の場合,各ユーザが高い信号対雑音比(SNR)を有するサブキャリアのみを得るように,複数のサブキャリアを割り当てることができる。これは,1つのセル内において複数のユーザによる異なる無線チャネルが得られることに起因する(次の段落を参照)。[1]では,このような適応的なサブキャリアの割り当てを行うOFDM-FDMA方式が分析されてきたが,例えばOFDM-TDMAにおけるような固定の割り当てとは対照的に,ビット誤り率(BER)性能に関して著しい利得が達成された。
OFDM-FDMAシステムのダウンリンクにおいて複数のサブキャリアを割り当てるために基地局において用いられるアルゴリズムは,以下,簡潔に概説される。基地局が,各ユーザについてチャネル伝達要素を(例えば,TDDシステムにおけるアップリンクシンボルにおける振幅を測定することにより)測定することができるものとする。Uという数のユーザ及び全体としてKのサブキャリアを考える。一般化を損なうことなく簡潔に示すために,各ユーザが同一のバンド幅部分(K/Uサブキャリア)を割り当てられるものと仮定する。
1. すべての減衰がソートされ,この結果,最高の受信電力を有するK/Uのサブキャリアからなる各ユーザ毎の「お好み」リスト,及び,代替サブキャリア(K/Uより低い順位)のリストが生成される。
2. 割り当てられたサブキャリアの数が(要求されたサブキャリアの数に関して)最小であるユーザに対して次のサブキャリアが割り当てられる。
3. 可能であれば,そのユーザは,このユーザのお好みリストから最高のランクを有するサブキャリアであってまだこのユーザに割り当てられていないサブキャリアを得る。
4. このサブキャリアが既に別のユーザに割り当てられている場合には,そのユーザがそのサブキャリアを使用できないという仮定のもと,これら2つの競合するユーザの各々について(相対的な)蓄積された電力の損失を決定するために判定変数が計算される。
5. 相対的により大きな電力の損失を被っているユーザにその特定のサブキャリアが割り当てられる。
6. すべてのサブキャリアが割り当てられるまで,ステップ2から手順が繰り返される。」

(ウ)「5.3. ADAPTIVE MODULATION AND CHANNEL CODING
So far, an uncoded transmission has been assumed. In the following, adaptive modulation will be considered in combination with channel coding. As an example, the TDMA mode is assumed. In all cases, the aim is to transmit a net data rate of 12 Mbit/s (2bit/subcarrier). For that purpose, an uncoded transmission with adaptive modulation is compared with a coded transmission where a convolutional code is applied (8-DPSK, code rate 2/3). Finally, both channel coding and adaptive modulation are used together.
(中略)
Furthermore, if the radio channel can be assumed to be time-invariant, adaptive measures such as subcarrier specific modulation (or additionally an intelligent allocation as in FDMA) seem to be appropriate. If this condition is not met (because of a high mobility of users), these measures will perform much worse or a large overhead will be required for a frequent update of the modulation assignment. In such cases, channel coding technique will be preferred.」(10頁16?22行,11頁3?8行)
(仮訳)
「5.3.適応変調及びチャネル符号化
ここまでは,符号化を行わない送信を考えてきた。以下,チャネル符号化と組み合わせて適応変調を考える。一例として,TDMAモードを考える。すべてのケースにおいて,12Mビット/秒(2ビット/サブキャリア)というネットデータレートを送信することを目的とする。この目的のために,適応変調に符号化を行わない送信を組み合わせたものを,畳込み符号が用いられた符号化を行う送信(8-DPSK,符号化率2/3)と比較する。最後に,チャネル符号化及び適応変調の両方が一緒に用いられる。
(中略)
さらには,無線チャネルが時間に関係ないものであると考えられる場合には,サブキャリアに固有の変調といったような(又は付加的にはFDMAにおけるようなインテリジェントな割り当て)適応的な手法が適切であるとように思われる。この条件が(ユーザの高い移動度に起因して)満たされない場合には,これらの手法は著しく性能を低下させ,又は,変調の割り当てを頻繁に更新することに関して大きなオーバーヘッドが必要とされる。このようなケースでは,チャネル符号化技術が望ましいであろう。」

そして,図1には,「Figure 1. OFDM-FDMA (left) and OFDM-TDMA (right) in the time-frequency plane. Users are distinguished by different shades of grey.」(仮訳)「図1.時間-周波数平面におけるOFDM-FDMA(左)OFDM-TDMA(右)。複数のユーザが,異なる明度を有するグレーによって区別されている。」として,
時間方向に1?9番目のマス目については,周波数方向に1,2,5,6,15,16番目のマス目は黒色に近いグレーとされ,周波数方向に7?11番目のマス目は灰色のグレーとされ,周波数方向に3,4,12?14番目のマス目は白色に近いグレーとされ,
時間方向に10?13番目のマス目については,周波数方向に1,2,5,6番目のマス目は黒色に近いグレーとされ,周波数方向に7?9番目のマス目は灰色のグレーとされ,周波数方向に3,4,10?16番目のマス目は白色に近いグレーとされ,
時間方向に14?20番目のマス目については,周波数方向に5?9番目のマス目は黒色に近いグレーとされ,周波数方向に1?4番目のマス目は灰色のグレーとされ,周波数方向に10?16番目のマス目は白色に近いグレーとされている。

上記各記載及び図面並びにこの技術分野の技術常識を考慮すると,

a.上記(ア),(イ)及び図1の記載によれば,甲第1号証には,OFDM-FDMAにおいて複数のユーザに適応的なサブキャリアの割り当てを行うことが記載されているといえる。

b.上記(イ)の記載によれば,適応的なサブキャリアの割り当ての際,
基地局が各ユーザについてアップリンクシンボルを用いてチャネル伝達要素を測定し,最高の受信電力を有するK/Uのサブキャリアからなる各ユーザ毎の「お好み」リスト,及び,代替サブキャリア(K/Uより低い順位)のリストを生成し,
要求されたサブキャリアの数に関して割り当てられたサブキャリアの数が最小であるユーザに対して次のサブキャリアが割り当てられ,ここで,可能であれば,そのユーザは,このユーザのお好みリストから最高のランクを有するサブキャリアであってまだこのユーザに割り当てられていないサブキャリアを得,
このサブキャリアが既に別のユーザに割り当てられている場合には,そのユーザがそのサブキャリアを使用できないという仮定のもと,これら2つの競合するユーザの各々について(相対的な)蓄積された電力の損失を決定するために判定変数が計算され,相対的により大きな電力の損失を被っているユーザにその特定のサブキャリアが割り当てられ,
すべてのサブキャリアが割り当てられるまで上記割り当て手順を繰り返す,
との手順を使用することが記載されていると認められる。

c.図1の記載によれば,上記手順を行った結果,t1?t9(便宜上,時間方向のマス目をt1?t20と表記する。)では,黒色に近いグレーのユーザにはf1,f2,f5,f6,f15,f16(便宜上,周波数方向のマス目をf1?f16と表記する。)のサブキャリアが割り当てられ,灰色のグレーのユーザにはf7?f11のサブキャリアが割り当てられ,白色に近いグレーのユーザにはf3,f4,f12?f14のサブキャリアが割り当てられ,t10?t13では,黒色に近いグレーのユーザにはf1,f2,f5,f6のサブキャリアが割り当てられ,灰色のグレーのユーザにはf7?f9のサブキャリアが割り当てられ,白色に近いグレーのユーザにはf3,f4,f10?f16のサブキャリアが割り当てられ,t14?t20では,黒色に近いグレーのユーザにはf5?f9のサブキャリアが割り当てられ,灰色のグレーのユーザにはf1?f4のサブキャリアが割り当てられ,白色に近いグレーのユーザにはf10?f16のサブキャリアが割り当てられることが例示されていると認められる。
そして,OFDM-FDMAは複数のサブキャリアを分割して多元接続するものであるから,各ユーザがそれぞれに割り当てられたサブキャリアを同時に使用して,複数のユーザとの通信が生じることは明らかである。

以上を総合すると,甲第1号証には以下の発明(以下,「甲1発明」という。)が記載されていると認める。
「OFDM-FDMAにおいて複数のユーザに適応的なサブキャリアの割り当てを行う際に使用する方法において,
基地局が各ユーザについてチャネル伝達要素を測定して各ユーザ毎のサブキャリアの受信電力順のリストを生成し,要求されたサブキャリアの数に対して割り当てられたサブキャリアの数が少ないユーザから順に前記リストに基づいてサブキャリアを割り当て,割り当てようとするサブキャリアが既に別のユーザに割り当てられている場合には,そのユーザがそのサブキャリアを使用できないという仮定のもと,これら2つの競合するユーザのうち相対的により大きな電力の損失を被っているユーザにその特定のサブキャリアが割り当てられ,すべてのサブキャリアが割り当てられるまで上記割り当て手順を繰り返し,
それぞれ割り当てられたサブキャリアを同時に使用して複数のユーザとの通信が生じる,
方法。」

イ.甲第2号証に記載された発明について
本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第2号証(国際公開第99/63691号)には,「OFDMA信号伝送装置及び方法」として,図面と共に,以下の事項が記載されている。

(ア)「本発明は移動体通信システムの基地局又は移動局における送受信装置などに適用されるOFDMA(Orthogonal Frequency Division Multiple Access)信号伝送装置及び方法に関する。」(1頁6?8行)

(イ)「しかし,上記従来のOFDMA信号伝送装置においては,下記における課題を有している。
まず,下り信号を受信する場合に,FFTを行って始めて分離できるため,移動局において,自局に割り当てられたサブキャリアのみでなく,OFDM帯域の全てのサブキャリアのデータを復調しなければならず,トラフィックが小さくても,常にサブキャリア数と同じだけのA/D変換器やFFT器が必要とし,回路規模が大きくなると共に,消費電力が大きくなる。
また,基地局において,OFDM全ユーザ(全移動局)の信号を合成してから送信アンプで増幅するため,ダイナミックレンジが大きく,非線形歪みを抑えることが困難である。
さらに,基地局において,AFC(Automatic Frequency Control)を,全OFDM帯域に対してしか行えないため,移動局毎に周波数オフセットが異なる場合や最大ドップラー周波数が大きい場合に,劣化が大きくなってしまう。
発明の開示
本発明の第1目的は,演算量の削減及び消費電力を低減することができるOFDMA信号伝送装置及び方法を提供することである。
この目的は,OFDMA信号伝送を行う送信部において,複数の直列信号の各々を並列信号に変換し,この変換された複数の並列信号を2のべき乗間隔に並べ替えてサブキャリアの割り当てを行い,その並べ替えられた並列信号の数に応じて可変した点数の逆フーリエ変換を行って時間波形に変換することにより達成される。
本発明の第2目的は,基地局において,ダイナミックレンジが小さい送信アンプを用いても非線形歪みを抑えることができるOFDMA信号伝送装置及び方法を提供することである。
この目的は,OFDMA信号伝送を行う送信部において,各系列の直列信号を並列信号に変換し,その変換された並列信号の数に応じて可変した点数の逆フーリエ変換を行って時間波形に変換し,この変換された並列信号を直列信号に変換することにより達成される。
本発明の第3目的は,基地局において,移動局毎に周波数オフセットが異なる場合や最大ドップラー周波数が大きい場合でも,高品質な受信を行うことである。
この目的は,各移動局から送信される周波数帯域を互いに異ならせ,基地局の受信部において,ディジタル信号に変換した受信信号を周波数帯域毎に区切って帯域毎のベースバンド信号に変換したのち帯域を制限し,この帯域制限された各々の信号を並列信号に変換し,フーリエ変換し,直列信号に変換することにより達成される。」(4頁1行?5頁11行)

(ウ)「図5は,実施の形態1のOFDMA信号伝送装置におけるサブキャリア割り当ての第2の例を示すサブキャリア割当図を示し,16本のサブキャリアを4ユーザ(A,B,C,D)で分割して使用する場合の例である。
また,例えば16本のサブキャリアがある場合に,各ユーザに4本ずつサブキャリアを割り当てるとすると,4ユーザが収容できる。ここで,図5に示すように,ユーザA送信データを4の余剰が0となるサブキャリアに割り当て,ユーザB送信データを4の余剰が1となるサブキャリアに,ユーザC送信データを4の余剰が2となるサブキャリアに,ユーザD送信データを4の余剰が3となるサブキャリアに割り当てると,ユーザAのみが通信をしているときには,4の余剰が0となるサブキャリアしか存在しない。」(7頁17?26行)

(エ)「図3は,基地局が4ユーザを収容する例であり,全サブキャリア数はNであるとする。ユーザA送信データ,ユーザB送信データ,ユーザC送信データ,ユーザD送信データは,各々異なるS/P変換器101?104で,N/4シンボル毎に並列化される。
これを並べ替え器105で,図5に示すように,サブキャリアを2のべき乗の間隔になるように並べ替える。この場合,間隔は4である。」(8頁5?10行)

(オ)「このように,OFDMA信号伝送を行う送信部において,複数の直列信号の各々を並列信号に変換し,この変換された複数の並列信号を2のべき乗間隔に並べ替えてサブキャリアの割り当てを行い,その並べ替えられた並列信号の数に応じて可変した点数の逆フーリエ変換を行って時間波形に変換することにより,演算量の削減及びそれによる消費電力の削減を図ることができる。
なお,ここでは基地局の送信を例にあげたが,移動局の送信においても同様の動作及び効果が得られる。」(8頁23行?9頁3行)

(カ)「本実施の形態5の特徴は,移動局毎にサブキャリアを連続して割り当てることで,受信側で移動局毎に異なるFFTによって復調できるようにして,FFTの総演算量を削減するとともに,移動局毎に異なるAFCを施せるようにして,性能を向上させるようにした点にある。
図10に示す送信部400は,例えば移動局に用いられるものであり,
(中略)
図11は,実施の形態5のOFDMA信号伝送装置におけるサブキャリア割り当ての例を示すサブキャリア割当図を示す。
(中略)
このような構成において,図10に示す送信部400は,例えば移動局であるユーザAの送信部分であるとする。送信データをS/P変換器401で並列化することにより,ユーザA送信データを図11に示すように周波数軸上に配置する。
(中略)
この例ではFFTの点数は1/4になっている。このためFFT演算の総演算量が削減でき,それによる消費電力の削減を図ることができる。」(16頁7?11行,同頁15,16行,同頁24行?17頁1行,18頁24?25行)

(キ)「図13に示す送信部500は,例えば移動局に用いられるものであり,
(中略)
図14は,実施の形態6のOFDMA信号伝送装置におけるサブキャリア割り当ての例を示すサブキャリア割当図を示す。
図14に示すように,ユーザA送信データをサブキャリア番号0,1に載せ,同様にサブキャリア番号8,9にも載せることで,周波数ダイバーシチが実現できる。これは,サブキャリア0,1か,サブキャリア8,9のフェージングがほぼ独立になるように周波数を離しておくことによって,どちらかのサブキャリアがフェージングによって大きな減衰を受けても,他方が十分なレベルで受信できる確率が高いという,いわゆるダイバーシチを実現するものである。」(19頁10行,同頁14?21行)

上記(ア)?(キ)の記載及びこの技術分野の技術常識を考慮すると,甲第2号証には,
「OFDMA信号伝送において,移動局毎に連続したサブキャリアを割り当てることで受信側で移動局毎に異なるFFTによって復調できるようにして,FFTの総演算量を削減するとともに,移動局毎に異なるAFCを施せるようにして,性能を向上させ,また,周波数ダイバーシティを行う場合には,フェージングがほぼ独立となるように周波数が離れたサブキャリアを割り当てる。」という発明(以下,「甲2発明」という。)が記載されていると認める。

ウ.甲第29号証に記載された発明について
本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第29号証(特開2000-312177号公報)には,「路車間通信システム 」として,図面と共に,以下の事項が記載されている。

(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,路上アンテナを道路に沿って配置し,道路に一連のセルを形成することにより車載装置との移動通信を可能にする路車間通信システムに関するものである。
(中略)
【0005】
【発明が解決しようとする課題】前記路上アンテナを用いたシステムの場合,搬送波間干渉や符号間干渉を防止するため,セルごとに異なった周波数の電波を用いて通信を行うのが通常である。しかし,自動車は高速移動し,短時間に複数のセルを通過するため,車載通信機の送受信周波数を高速に切り換える必要がある。このため,高速引き込み可能な発振器を備える,あるいは複数の発振器を備えるなどの対策が必要になり,機器の小型化,低コスト化の妨げとなる。
【0006】したがって,搬送波間干渉や符号間干渉を防止する対策をとった上で,全セルに対して同一周波数を用いたシステムの構築が望まれている。そこで,本発明の目的は,全セルに対して同一周波数を用いることができ,かつ,搬送波間干渉や符号間干渉を防止でき,もって,路上と車両との安定した通信を可能にする路車間通信システムを提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】(1)前記目的を達成するための請求項1記載の路車間通信システムは,OFDMで変調された信号を伝送線に送出するための制御装置と,固有の指向性を有し,前記伝送線に送出された信号を受信し,この受信された信号に基づき,同一周波数の電波を前記セル内に放射するための路上送信アンテナ装置と,前記路上送信アンテナ装置から放射されてくる電波を受信するための車載受信アンテナ,およびこの車載受信アンテナにより受信し復調を行う車載受信手段を有する車載装置とを備え,前記制御装置は,副搬送波を複数種類に分類し,当該複数種類の副搬送波にデータをそれぞれ伝送する伝送手段を有し,前記分類された少なくとも1つの種類の副搬送波は,隣りのセルに配置された路上送信アンテナ装置に送出される信号に含まれる当該種類の副搬送波のデータと同一内容のデータを伝送し,分類された他の種類の副搬送波は,隣りのセルに配置された路上送信アンテナ装置に送出される信号に含まれる当該他の種類の副搬送波のデータと異なる内容のデータを伝送するものであり,前記車載受信手段は,いずれかの種類の副搬送波のデータに切り換える切換手段を有するものである。
(中略)
【0009】しかし,本発明においてはOFDM方式を採用し,シンボルごとにガード時間を設けて,干渉する符号が重ならないようにすることができるから,同一データを複数の方向から受けてもマルチパスによる遅延に起因する符号間干渉を回避できる。そして,本発明では,副搬送波を複数種類に分類し,隣り合うセルに配置される路上送信アンテナ装置に対しては,分類されたうちの少なくとも1つの種類の副搬送波について同一内容のデータを伝送するようにしている。このことと,前記OFDM方式を採用したこととの協働により,車両が隣り合うセルの境界を通過するときでも,当該同一内容のデータを,符号間干渉をうけることなく,連続して取得することができる。したがって,通信の瞬断が生じない。」(3頁3?4欄)

(イ)「【0024】-第1の実施形態-
図2は,地上局1の電気的構成を示すブロック図である。地上局1は,制御装置6,同軸ケーブル5,路上アンテナ4などから構成される。制御装置6は,道路交通データを路上アンテナ4に与えるための送信装置7を備えている。送信装置7は,データを分割し,互いに直交する複数の搬送波を使って多重するOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplex) 変調方式を採用している。」(5頁7欄)

(ウ)「【0042】OFDMのようなマルチキャリアを使用する伝送方式では,各搬送波の周波数同期が完全にとれていない場合に特性が劣化する。特に高速移動通信に適用する場合は,ドップラーシフトが発生するため,搬送波間の同期がとりにくくなる。このため,シフトした周波数分を補正するAFC回路が必要になる。隣接する副搬送波との離調周波数Δfが狭い場合,AFC回路が捕捉した副搬送波の周波数が上側の周波数のものか,下側の周波数のものかを判定する必要があり,AFC回路が複雑になる。AFC回路を複雑にしたくなければ離調周波数Δfを広くしなければならず,このため,伝送するデータに必要な帯域よりも広い帯域を確保しなければならない。
【0043】そこで,この実施形態のように副搬送波を交互にインターリーブ配置することで,離調周波数Δfを広げることができるので,AFC回路の判定処理が容易になるとともに,帯域を広げる必要もなくなり,装置の簡素化と周波数の有効利用が実現できる。また,本実施形態により,周波数選択性フェージングに強いシステムとすることができる。図9は,周波数選択性フェージングに対する振幅変動Uを周波数軸上に書き入れた図である。第1の実施形態のように副搬送波が周波数軸上で複数のブロックに分割されている場合を図9(b)に示し,本実施形態のように副搬送波が交互にインターリーブ配置されている場合を図9(a)に示す。
【0044】図9(b)に示すように,データAの副搬送波が密集しているところに周波数選択性フェージングUが発生した場合,通信に使用している副搬送波の大部分が影響を受け,障害が発生する。しかし,図9(a) に示すように,副搬送波を交互に配置することで,通信に使用している副搬送波の一部が影響を受けるだけで,通信の障害が発生しにくくなり,フェージングに強いシステムとなる。」(11頁7欄)

上記(ア)?(ウ)の記載及びこの技術分野の技術常識を考慮すると,甲第29号証には,
「OFDM方式を採用した路車間通信システムにおいて,副搬送波を複数種類に分類し,前記分類された少なくとも1つの種類の搬送波は,隣のセルに配置された路上送信アンテナ装置に送出される信号に含まれる当該種類の副搬送波のデータと同一の内容のデータを伝送するものにおいて,2種類の副搬送波を交互に配置することで周波数選択性フェージングに強いシステムとする。」という発明(以下,「甲29発明」という。)が記載されていると認める。

エ.甲第30号証に記載された発明について
本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第30号証(特開2000-68975号公報には,「送信方法及び送信装置,並びに受信方法及び受信装置」として,図面と共に,以下の事項が記載されている。

(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,直交周波数分割多重/時分割多元接続(OFDM/TDMA)方式に基づいて信号を送受信するための送信方法及び送信装置,並びに受信方法及び受信装置,並びにそれらを組み合わせた伝送システムに関する。」(3頁3欄)

(イ)「【0022】例えば,信号の送受信を屋内環境で行う場合,例えばチャンネル減衰などのチャンネル伝達関数は,通常なだらかな曲線を描く。このような環境では,比較的少ないパイロットシンボルで有効なチャンネル推定を行うことができる。
【0023】一方,信号の送受信を屋外環境で行う場合,マルチパス効果及び移動局の高速な移動の影響により,例えばチャンネル減衰などのチャンネル伝達関数の変化は,大きくなる。したがって,有効なチャンネル推定を行うには,より多くのパイロットシンボルを用いる必要がある。」(5頁7欄)

(ウ)「【0091】図10は,屋内環境におけるチャンネル減衰の例を示すグラフである。本発明を適用した伝送システムは,受信装置を備える基地局と,送信装置を備える1又は複数の移動局により構成される。移動局は,ここに説明する例においては,屋内で使用され,移動局の移動速度は比較的遅く,マルチパス効果はそれほど深刻でないため,チャンネル減衰は,図10に示すように,比較的なだらかな曲線を描く。」(12頁22欄)

(エ)「【0094】図11は,屋外環境におけるチャンネル減衰曲線を示すグラフである。この図11に示すグラフは,図10に示すグラフに比べて変化の度合いが大きい。したがって,このような環境において,データ信号を正確に等化処理するためには,より多くのパイロット信号を必要とする。このため,図11に示す例では,各GSM周波数チャンネルの複数の副搬送波に対して,より多くのパイロットシンボルを割り当てている。」(13頁23欄)

上記(ア)?(エ)の記載及びこの技術分野の技術常識を考慮すると,甲第30号証には,
「OFDM/TDMA方式に基づく送信方法において,信号の送受信を屋内環境で行う場合は,チャンネル伝達関数は通常なだらかな曲線を描くから,比較的少ないパイロットシンボルで有効なチャンネル推定を行い,信号の送受信を屋外環境で行う場合は,マルチパス効果及び移動局の高速な移動の影響によりチャンネル伝達関数の変化は,大きくなるから,有効なチャンネル推定を行うためにより多くのパイロットシンボルを用いる。」という発明(以下,「甲30発明」という。)が記載されていると認める。

オ.甲第3?28号証に記載された周知技術について
(ア)本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第3号証(井上伸雄・都丸敬介,日経コミュニケーション ブックス 新情報通信早わかり講座2,日経BP社,1999年1月1日 1版5刷発行,132?133頁)には,図面と共に,以下の事項が記載されている。
「最初は,電波の減衰など,通信に悪影響を与える各種の現象について説明します。無線局が移動する場合は,フェージングとドップラー効果の影響を受けます。」(132頁上段),
「無線局が高速で移動している場合は,「フェージング」や「ドップラー効果」などの影響による伝搬損が発生します。ここでは,受信局側の高速移動を例にして説明します。
フェージングとは,受信局の移動に伴い,受信電界強度が大きくなったり小さくなったりする現象です(図3)。受信局が移動することで周辺環境が変化し,四方八方から来る電波の構成が変化するために起こります。受信電波群の位相が合うと受信波レベルは大きくなり,逆位相の波が重なると受信レベルは小さくなります。受信波が雑音に埋もれてしまうほど減衰すると,受信情報の復元が難しくなり,誤り発生の原因になります。」(133頁左欄4?14行),
「図3 移動通信ではフェージングにより受信電力が変動する。」(133頁右欄)

(イ)本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第4号証(山内雪路,スペクトラム拡散通信 次世代高性能通信に向けて,東京電機大学出版局,1997年12月20日 第1版第5刷発行,123?125頁)には,図面と共に,以下の事項が記載されている。
「時間ずれによって受信機のアンテナには位相が異なった二つの信号が到着する。するとうまく位相が合致したときは信号は強め合うが,位相が逆になると互いに弱め合ってしまう結果になる。しかも移動体通信を想定すると送信者または受信者が動くので,位相の合成具合は時々刻々変化し,合成信号の振幅が大幅に変わる結果となる。これが「フェージング」と呼ばれる現象である(図8.2)。」(124頁下から9?4行)

(ウ)本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第5号証(特開平7-170242号公報)には,図面と共に,以下の事項が記載されている。
「【0017】移動通信では移動器が移動するため,また既知局と移動機とは通常見通し外通信となるためマルチパスフェージングという現象が発生する。」

(エ)本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第6号証(特開平7-177569号公報)には,図面と共に,以下の事項が記載されている。
「【0028】ところで,移動通信では移動通信装置(MS)が移動するため,また基地局BSと移動機MSとは通常見通し外通信となるためマルチパスフェージングという現象が発生する。」

(オ)本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第7号証(特開平7-240709号公報)には,図面と共に,以下の事項が記載されている。
「【0002】(中略) しかし,移動体通信は一般に移動状態で通信を行うものでありその利便性と同時に伝送路の不安定性という問題を抱えている。例えば多重伝播路に起因するマルチパスフェージング(multi-path fading)や建物の影,トンネル等の電波不感帯によるシャドーウイング(shadowing)等の問題があり,」

(カ)本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第8号証(特開平7-264110号公報)には,図面と共に,以下の事項が記載されている。
「【0002】(中略) 特に移動通信システムの場合チャネルが複数の電波伝搬路で構成され,このような状況下で移動局が走行することに伴ってチャネルの複素包絡線(相乗性雑音)zf が高速に変動する。この現象は,マルチパスフェージングとして知られている。」

(キ)本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第9号証(特開平8-51463号公報)には,図面と共に,以下の事項が記載されている。
「【0001】(中略) 移動通信では電波が建物などで反射されて受信されるため,移動しながら送受信すると,受信波にはマルチパスフェージングが発生し,これが伝送誤りの原因になる。」

(ク)本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第10号証(特開平8-65233号公報)には,図面と共に,以下の事項が記載されている。
「【0003】そして,移動通信の分野では,移動体の移動速度や無線周波数,その他建物等の周辺状況によってフェージングが多様に変化し,特に,マルチパスフェージングと言われる伝搬経路を異にする複数電波の多重波干渉によるフェージングがその中心を占めている。」

(ケ)本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第11号証(特開平8-186509号公報)には,図面と共に,以下の事項が記載されている。
「【0002】
【従来の技術】陸上移動無線においては,ランダムな方向から到来する多重波により,定在波性の電磁界が生じる。この定在波性の電磁界中を移動体が走行するためレイリー分布に従う振幅変動と一様分布に従う位相変動とが生ずるといわれている。このような変動はマルチパスフェージングと呼ばれ,」

(コ)本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第12号証(特開平8-223107号公報)には,図面と共に,以下の事項が記載されている。
「【0003】(中略) しかし,都市のビル街を車両により移動している場合は,移動速度に応じたフェージングが発生し,移動速度又はビルの密集度に応じたマルチパスフェージング現象によって周期的かつ頻繁に通話品質が著しく劣化する。」

(サ)本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第13号証(特開平8-265274号公報)には,図面と共に,以下の事項が記載されている。
「【0003】一般に,例えば市街地の道路上を移動局を移動させた場合,道路上に分布する電界強度の変化の中を移動局が横切るので,移動局の受信電圧は時間的に激しく変動し,移動局が受信した信号に所謂マルチパスフェージングが発生する。」

(シ)本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第14号証(特開平8-288796号公報)には,図面と共に,以下の事項が記載されている。
「【0003】(中略) 移動時に,ドップラシフトやマルチパスフェージング等が生じると,」

(ス)本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第15号証(特開平9-51394号公報)には,図面と共に,以下の事項が記載されている。
「【0004】しかし,移動体通信システムにおける無線伝送路では,マルチパスフェージング,シャドーイング,都市雑音等の悪影響を受けることを避けることができない。特に,新幹線列車公衆電話システムや自動車電話システム等の移動体の速度が高速なシステムでは,かかる悪影響の度合いは大きい。」

(セ)本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第16号証(特開平9-55709号公報)には,図面と共に,以下の事項が記載されている。
「【0003】
【従来の技術】一般に,例えば市街地の道路上を移動局を移動させた場合,移動局が道路上に斑状に分布する電界強度の中を横切るので,受信電界は時間的に激しく変動し,所謂マルチパスフェージングが発生する。」

(ソ)本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第17号証(特開平9-64804号公報)には,図面と共に,以下の事項が記載されている。
「【0003】
【従来の技術】一般に,例えば市街地の道路上で移動局を移動させた場合,移動局が道路上にセル状に分布し,多重伝搬路を構成する電界強度の中を横切るので,受信電圧は時間的に激しく変動し,所謂マルチパスフェージングが発生する。」

(タ)本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第18号証(特開平9-167982号公報)には,図面と共に,以下の事項が記載されている。
「【0002】(中略) 通常,陸上移動通信の伝搬路は数100kHz以上の広帯域で眺めると,周波数特性がフラットでなはく,周波数に依存した振幅,位相の変動が現れ,かつこの変動は,送信局,受信局及び周囲の動きによって時間的にも変化する。この現象は周波数選択性フェージング(以下マルチパスフェージングと略称する。)と呼ばれ,広帯域伝送を行う場合の障害となる。」

(チ)本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第19号証(特開平9-167990号公報)には,図面と共に,以下の事項が記載されている。
「【0008】このように,従来方式では,車両走行時の通信において,マルチパスフェージングの影響や車両の影に入るシャドウイングにより電波の反射および影が発生し,基地局および移動局における受信品質が劣化し,たとえば受信レベルが正常とはならないために通信エラーが発生する。」

(ツ)本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第20号証(特開平10-22889号公報)には,図面と共に,以下の事項が記載されている。
「【0004】〔マルチパスフェージングについて〕(中略) また,この様な環境の中を移動体がある速度で移動した場合,到達時間毎の受信レベルの瞬間値は,移動体の移動とともに変動する。このとき,振幅変動はレイリー分布に従い,位相変動は0から2πの間に一様に分布し,その瞬時変動のことをレイリーフェージングという(図5(a))。」

(テ)本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第21号証(特開平10-200474号公報)には,図面と共に,以下の事項が記載されている。
「【0024】(中略) その目的は,静止しているか,あるいは,基地局に比較的近いため,マルチパスフェージングおよび影効果によってほとんど影響されないか,あるいは,他のセルの干渉が少ないユニットのパワーを低下させることである。」

(ト)本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第22号証(特開平10-285233号公報)には,図面と共に,以下の事項が記載されている。
「【0012】(中略) ,移動中等のように,マルチパスフェージング等が発生する電波伝搬の悪い環境では誤り率が高くなり,」

(ナ)本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第23号証(特開平11-41138号公報)には,図面と共に,以下の事項が記載されている。
「【0006】セルラシステムにおいて移動局はサービルエリア内で自由に動き回るため,受信品質は基地局との距離による伝搬ロス,伝搬経路が遮断されること等によるシャドウイング,及び複数の伝搬経路を反射して電波が伝わることによるマルチパスフェージング等によって大きく変化する。」

(ニ)本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第24号証(特開平11-231033号公報)には,図面と共に,以下の事項が記載されている。
「【0002】(中略) しかし,無線伝送速度が高速であるほどマルチパスフェージングの影響が大きいため,」

(ヌ)本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第25号証(特開平11-313299号公報)には,図面と共に,以下の事項が記載されている。
「【0039】(中略) 従って,中央局1の送信アンテナ9は,山上や高層建築の屋上といった地上の高所に設置され,そのため,移動端末2の受信環境は,該移動端末2が設置された自動車の走行するエリアによって,マルチパスフェージングやゴーストが発生し,あるいはトンネルの存在によって受信不可能な状態になる等して変化する。」

(ネ)本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第26号証(特開2000-91973号公報)には,図面と共に,以下の事項が記載されている。
「【0004】しかも,移動体通信では送信者又は受信者が移動するので,位相の合成具合が刻々変化し,合成信号の振幅が大幅に変動するマルチパスフェージングと呼ばれる現象が発生して,受信する信号が劣化しているのが普通である。」

(ノ)本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第27号証(国際公開第96/00475号に係る再公表特許公報)には,図面と共に,以下の事項が記載されている。
「ところで,移動通信では電波が建物などで反射されて受信されるため,移動しながら送受信すると,受信波にはマルチパスフェージングが発生し,受信波に現れる不規則位相回転のために誤りが発生する。」(22頁17?19行)

(ハ)本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第28号証(国際公開第99/44257号)には,図面と共に,以下の事項が記載されている。
「Close proximity to objects or movement of a user during operation of a radiotelephone may result in degraded signal quality or fluctuations in signal strength, known as multipath fading. 」(1頁11?14行)
(仮訳)
「近くに障害物があることによって,又は,ユーザが無線電話機の使用中に移動することによって,マルチパスフェージングとして知られるように,信号のクオリティが劣化し,又は,信号強度が変動することがある。」

以上の各記載によれば,
「移動している移動端末は,マルチパスフェージングの影響を受けやすく,静止している移動端末に比べて,時間の経過と共に受信電力(すなわち,チャネルの状態。)が大きく変化する。」という技術事項は周知であると認められる(以下,「周知事項1」という。)。

カ.甲第30,32,33号証に記載された周知技術について
(ア)甲第30号証には上記エに摘記した各記載が記載されている。

(イ)本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第32号証(特開2000-32565号公報)には,図面と共に,以下の事項が記載されている。
「【0031】本発明に係る無線伝送システムは,図1に示すように,基地局(BS)1と,複数の移動局(MS)2,3,4とからなる。基地局1及び移動局2?4は,相関(同期)検出器5,6をそれぞれ備える。相関検出器5,6の機能及び動作については,後述する。
(中略)
【0040】この無線伝送方法及び無線伝送装置では,互いに直交する多数の副搬送波21は,図3及び図4に示すように,多数の,例えば10個のチャンネルU0,U1,・・・,U9に配置され,これらのチャンネルU0?U9は,伝送する情報に依存した数の副搬送波21をそれぞれ含んでいる。具体的には,図4に示すように,チャンネルU0は,多数の副搬送波21を含み,チャンネルU1は,チャンネルU0とは異なる数の副搬送波21を含んでいる。OFDM-TDMA方式に基づいてデータを伝送する無線伝送方法及び無線伝送装置では,各チャンネルに割り当てられる副搬送波21の数は,伝送する情報量に依存している。例えば図4に示すチャンネルU0は,21個の副搬送波21を副搬送波を含み,一方,チャンネルU1は,10個の副搬送波21を含んでいる。したがって,チャンネルU0は,チャンネルU1の伝送レートの2倍以上の伝送レートを有する。各チャンネルU0?U9の境界では,隣接する帯域間で干渉が生じないように,又はスペクトル成分が生じないように,ガードバンド22として,1つの副搬送波を抜いている。隣接した帯域からの干渉の影響が小さいときには,ガードバンド22は必要でないが,影響が大きいときには,複数のガードバンド22を設ける必要がある。
(中略)
【0042】また,OFDM-TDMA方式では,幾つかチャンネルを集めて1グループとすることができ,例えば図6に示すように,6つのチャンネルU0?U5を集めて1グループとすることができる。1つのグループに含まれるチャンネルの数は,伝送する情報量に応じたシステムの帯域幅内であれば幾つでもよい。
(中略)
【0055】GBCCH14は,搬送波帯域幅全体を占有するが,必要に応じ,搬送波全体の中の利用可能な副搬送波のサブセット(subset)を選択することにより,搬送波帯域幅の一部に割り当てるようにしてもよい。このようにすることによって,OFDM方式における周波数の柔軟性を高めることができる。
(中略)
【0057】OBCCH15は,必要に応じ,搬送波全体の中の利用可能な副搬送波のサブセットを選択することによって,搬送波帯域幅の一部に割り当てるようにしてもよい。具体的には,例えば図8に示すように,副搬送波を2つのサブセット23と,サブセット24に分割して,サブセット23,24の副搬送波を,別々の移動局に割り当てるようにしてもよい。なお,この図8では,OBCCH15を伝送するために用いられる帯域幅全体を示しているものではない。」

(ウ)本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第33号証(特開2000-115834号公報)には,図面と共に,以下の事項が記載されている。
「【0030】ここで,本例のMMAC基地局と通信端末装置との間で無線伝送される信号は,基本的にはOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplex :直交周波数分割多重)方式と称されるマルチキャリア信号としてあるが,基地局から下り回線で通信端末装置に伝送される信号と,通信端末装置から上り回線で基地局に伝送される信号では,信号の状態を変えてある。その伝送信号の詳細については後述する。
(中略)
【0041】このフレーム構成のデータが無線伝送されるチャンネル構成例を,図3に示す。ここでは,本例のシステムで使用可能な周波数帯B0 として,例えば5GHz帯の100MHzの帯域幅が用意されているものとする。この周波数帯B0 に,1チャンネルが約20MHzの帯域幅の4つのチャンネルCH1,CH2,CH3,CH4を配置する。この4つのチャンネルCH1?CH4は,サブキャリア数がm個のマルチキャリア信号が伝送できる帯域が用意された高速アクセスが可能な広帯域チャンネルである。なお,各チャンネルCH1?CH4の帯域幅は約20MHzであるが,隣接する帯域への妨害などを考慮して,ここでは100MHzの帯域幅の周波数帯B0 には,4つの広帯域チャンネルCH1?CH4を配置するのが限度であり,この例では広帯域チャンネルを5チャンネル配置することはできない。
【0042】従って,この例では図3に示すように,使用可能周波数帯B0 の下側と上側には,各広帯域チャンネルCH1?CH4の帯域幅よりも狭いガードバンド部B1及びB2 が存在する。ここで本例においては,この両ガードバンド部B1 ,B2に,広帯域チャンネルCH1?CH4よりも帯域幅が狭い狭帯域チャンネルCH5,CH6を配置する。この狭帯域チャンネルCH5,CH6では,その帯域幅により,伝送される信号のキャリア数をj個(j<m)に制限してあり,j個のキャリアに制限された低速アクセスが可能なチャンネルである。ここではjは1の信号(即ちシングルキャリア信号)である。
(中略)
【0053】このアクセス判定の後に,空いている通信チャンネルをリンクチャンネル割当信号S3を伝送して通知する。ここでは,端末装置からの上り回線が低速アクセスであると判定したので,上り回線のチャンネルとしては,低速アクセス専用のチャンネル(チャンネルCH5,CH6のいずれか:ここではCH5)の空きスロットを指定し,下り回線のチャンネルとしては,高速アクセス用のチャンネル(チャンネルCH1?CH4のいずれか:ここではCH2)の空きスロットを指定する。」

これらの記載並びに甲第32号証の図6,図8によれば,
「OFDM方式の通信システムにおいて,基地局が,複数のサブキャリアからなるサブチャネル群を複数予め用意しておき,これら複数のサブキャリア群の中から選択した適切なサブキャリア群を,移動局に情報を送信するときに用いる。」という技術事項は周知であると認められる(以下,「周知事項2」という。)。

(3)対比・判断
ア.甲第1号証に基づく新規性違反の有無について
本件特許発明1と甲1発明とを対比すると,

(ア)「OFDM-FDMA」は「OFDMシステム」に含まれるから,甲1発明の「OFDM-FDMAにおいて複数のユーザに適応的なサブキャリアの割り当てを行う際に使用する方法」は,「OFDMシステム内でサブキャリアを割り当てる際に使用する方法」といえる。

(イ)上記「1.無効理由3(特許法第36条第6項第2号)について」の項の「(1)ア」で検討したとおり,本件特許発明1では,予め帯域内の全てのサブキャリアと各クラスタとのマッピングがされており,「ダイバーシティクラスタ」は,少なくとも一部がスペクトル全体に遙か離れて拡散しているサブキャリアを保有する論理ユニットであり,「コヒーレンスクラスタ」は,互いに接近している複数のサブキャリアを保有する論理ユニットである。
したがって,本件特許発明1の「少なくとも1つのサブキャリアのダイバーシティクラスタを第1の加入者に割り当てる段階」は,ダイバーシティクラスタを割り当てることにより,結果的に,第1の加入者に少なくとも一部がスペクトル全体に遙か離れて拡散している複数のサブキャリアが割り当てられることになり,また,「少なくとも1つのコヒーレンスクラスタを第2の加入者に割り当てる段階」は,コヒーレンスクラスタを割り当てることにより,結果的に,第2の加入者に互いに接近している複数のサブキャリアが割り当てられることになることは明らかである。
一方,甲1発明は,「ダイバーシティクラスタ」,「コヒーレンスクラスタ」なる概念は明らかにされていないが,サブキャリアの割り当て手順が行われることにより,甲第1号証の図1に示されるように,結果的に,f1,f2,f5,f6,f15,f16といった少なくとも一部がスペクトル全体に遙か離れて拡散している複数のサブキャリアが黒色に近いグレーのユーザに割り当てられ,f7?f11といった互いに接近している複数のサブキャリアが灰色のグレーのユーザに割り当てられる場合があり,OFDM-FDMAであることに鑑みれば,これらのサブキャリアをそれぞれ同時に使用することによって黒色に近いグレーのユーザ及び灰色のグレーのユーザとの通信が生じ得ることは明らかである。

以上のことから,本件特許発明1と甲1発明とでは,「結果的に,少なくとも1つの,少なくとも一部がスペクトル全体に遙か離れて拡散している複数のサブキャリアがある加入者に割り当てられる段階と,結果的に,少なくとも1つの,互いに接近している複数のサブキャリアが別の加入者に割り当てられる段階であって,前記少なくとも1つの,少なくとも一部がスペクトル全体に遙か離れて拡散している複数のサブキャリアと前記少なくとも1つの,互いに接近している複数のサブキャリアをそれぞれ同時に使用することによって前記ある加入者及び別の加入者との通信が生じ得る前記段階」を備える点で一致しているといえるものの,以下の相違点1,2の点で相違する。

したがって,両者は以下の点で一致し,また,相違する。
(一致点)
「OFDMAシステム内でサブキャリアを割り当てる際に使用する方法において,
結果的に,少なくとも1つの,少なくとも一部がスペクトル全体に遙か離れて拡散している複数のサブキャリアがある加入者に割り当てられる段階と,
結果的に,少なくとも1つの,互いに接近している複数のサブキャリアが別の加入者に割り当てられる段階であって,前記少なくとも1つの,少なくとも一部がスペクトル全体に遙か離れて拡散している複数のサブキャリアと前記少なくとも1つの,互いに接近している複数のサブキャリアをそれぞれ同時に使用することによって前記ある加入者及び別の加入者との通信が生じ得る前記段階と,
を備える,方法。」

(相違点1)
本件特許発明1は,「少なくとも1つのサブキャリアのダイバーシティクラスタを第1の加入者に割り当てる段階」,「少なくとも1つのコヒーレンスクラスタを第2の加入者に割り当てる段階」を備え,「少なくとも1つの物理的サブキャリアを保有している論理ユニット」である「クラスタ」としてサブキャリアを割り当てるのに対して,甲1発明には「クラスタ」の概念は明らかにされていなく,サブキャリア毎に,ユーザ間の調整を行って,サブキャリアの割り当てを行っている点。

(相違点2)
本件特許発明1は,更に「セル内の移動中の加入者と静止している加入者の人口が変化した時には,クラスタ分類を再構成する段階」から成るのに対し,甲1発明は当該構成を有していない点。

(相違点1についての検討)
請求人は,審判請求書30頁6行?32頁9行にて,甲第1号証の図1のt1?t9において黒色に近いグレーのユーザに割り当てられたf1及びf2,f5及びf6,f15及びf16に配置された3種類のサブキャリアはスペクトル全体において遙かに拡散しているからダイバーシティクラスタを形成し,また,同図の灰色(中濃度)のグレーのユーザに割り当てられたはf7?f11に配置されたサブキャリアは互いに接近しているからコヒーレンスクラスタを形成しているので,第1のユーザに対してダイバーシティクラスタを割り当てること及び第2のユーザに対してコヒーレンスクラスタを割り当てることが開示されている旨主張しているので,当該主張も併せて検討する。

a.本件特許明細書の
「【0026】次に,各加入者は,継続的にパイロット記号の受信をモニターし,セル間干渉及びセル内トラフィックを含め,各クラスタのSINR及び/又は他のパラメータを測定する(処理ブロック102)。この情報に基づいて,各加入者は,相対的に性能が良好な(例えば,高SINR低トラフィックローディングの)1つ又は複数のクラスタを選択して,これらの候補クラスタに関する情報を所定のアップリンクアクセスチャネルを通して基地局にフィードバックする(処理ブロック103)。例えば,10dBより高いSINR値は,性能が良好であることを表す。同様に,クラスタ利用率50%未満も,良好な性能を表している。各加入者は,他よりも相対的に性能が良好なクラスタを選択する。この選択により,各加入者は測定されたパラメータに基づいて使用が望ましいと思われるクラスタを選択することになる。
【0027】或る実施形態では,各加入者は各サブキャリアクラスタのSINRを測定して,それらSINR測定値をアクセスチャネルを通して基地局に報告する。SINR値は,クラスタ内の各サブキャリアのSINR値の平均を含んでいる。代わりに,クラスタのSINR値は,クラスタ内のサブキャリアのSINR値中最悪のSINRであってもよい。更に別の実施形態では,クラスタ内のサブキャリアのSINR値の加重平均を使用して,クラスタに関するSINRを生成している。これは,サブキャリアに適用される重み付けが異なるダイバーシティクラスタで特に有用である。」,
「【0030】クラスタ選択の後,基地局は,ダウンリンク共通制御チャネルを通して,又は加入者への接続が既に設定されている場合には専用のダウンリンクトラフィックチャネルを通して,クラスタ割当について加入者に通知する(処理ブロック105)。」,
「【0062】ダウンリンククラスタ割当のためのフィードバックフォーマット
或る実施形態では,ダウンリンクの場合,フィードバックは,選択されたクラスタのインデクスとそのSINRの両方を保有している。任意のクラスタフィードバックの代表的なフォーマットを図5に示す。図5に示すように,加入者は,クラスタとその付帯するSINR値を示すため,クラスタインデクス(ID)を提供する。例えば,フィードバックでは,加入者は,クラスタID1(501)及び当該クラスタのSINRであるSINR1(502),クラスタID2(503)及び当該クラスタのSINRであるSINR2(504),及びクラスタID3(505)及び当該クラスタのSINRであるSINR3(506)などを提供する。クラスタのSINRは,サブキャリアのSINRの平均を使って作ることができる。こうして,複数の任意のクラスタを候補として選択することができる。上記のように,選択されたクラスタは,優先順位を示すためにフィードバック内で順序付けることもできる。或る実施形態では,加入者は,クラスタの優先順位リストを作成し,SINR情報を優先順位の降順で返信する。」
との記載によれば,

図9又は図12のように,予め帯域内の全てのサブキャリアに対して各クラスタがマッピングされており,予め定義されたクラスタインデクスに基づいて各加入者は使用が望ましいと思われるクラスタを選択して基地局にフィードバックし,基地局は割り当てたクラスタを加入者に通知するものと理解できる。
すなわち,加入者に対するサブキャリアの割当は,予め定義され各加入者及び基地局に共通に認識されている「少なくとも1つの物理的サブキャリアを保有している論理ユニット」である「クラスタ」に基づいて,クラスタ単位になされるものであり,サブキャリア単位になされるものではなく,図9又は図12のクラスタとのマッピングを無視して任意のサブキャリアの集合が各加入者に割り当てられることはあり得ないと理解できる。

一方,甲1発明は,予め帯域内の全てのサブキャリアに対して各クラスタをマッピングしておらず,ユーザに対するサブキャリアの割当を予め定義された「クラスタ」に基づいてクラスタ単位に行うものではない。そして,甲1発明は,あるユーザに割り当てられる複数のサブキャリアのうち,他のユーザと競合するサブキャリアについてのみ調整がなされるものであるから,調整前のサブキャリアの集合と調整後のサブキャリアの集合とは,集合の構成要素の一部のサブキャリアのみが異なることがあることは明らかである。

したがって,甲1発明には,予め定義された割り当て単位としての「ダイバーシティクラスタ」,「コヒーレンスクラスタ」の概念は存在しない。

b.本件特許明細書の
「【0095】或る実施形態では,移動する加入者と静止している加入者が入り混じっているセルの場合,加入者又は基地局,或いは両方に,チャネル/干渉変動検出器を実装することができる。検出結果を使って,加入者及び基地局は,セル境界線上の移動加入者又は静止加入者に対してはダイバーシティクラスタを,基地局に近い静止加入者に対してはコヒーレンスクラスタを,知的に選択する。チャネル/干渉変動検出器は,クラスタ毎に時々にチャネル(SINR)変動を測定する。例えば,或る実施形態では,チャネル/干渉検出器は,各クラスタのパイロット記号の間のパワー差を測定し,移動ウインドウに亘る差を平均する(例えば,4つのタイムスロット)。差が大きければ,チャネル/干渉が頻繁に変化し,サブキャリア割当は信頼性が低いことを示している。そのような場合,その加入者にはダイバーシティクラスタがより望ましいことになる。」,
「【0097】図11に示すように,基地局の処理論理は,チャネル/干渉変動検出を行う(処理ブロック1101)。処理論理は,次に,チャネル/干渉変動検出の結果が,ユーザーが移動しているか又はセルの縁に近い静止位置にあることを示しているか否かをテストする(処理ブロック1102)。ユーザーが,移動していないか,セルの縁に近い静止位置にもいない場合,プロセスは処理ブロック1103に移り,そこで基地局の論理はコヒーレンスクラスタを選択し,それ以外の場合は,プロセスは処理ブロック1104に移り,そこで基地局の処理論理はダイバーシティクラスタを選択する。」
の記載によれば,

「ダイバーシティクラスタ」は,移動している加入者,セルの縁に近い加入者に割り当てられる蓋然性が高く,「コヒーレンスクラスタ」は,セルの縁に近い位置にいない静止している加入者に割り当てられる蓋然性が高いことが理解できる。すなわち,本件特許発明1の「第1の加入者」には,移動している加入者,セルの縁に近い加入者が該当し,「第2の加入者」には,セルの縁に近い位置にいない静止している加入者が該当すると推察される。

一方,甲1発明は,甲第1号証の記載(上記(2)ア(ア),(ウ)参照。)によれば,無線チャネルが時間に関係ないような状況,例えば,携帯可能であるが通常は静止している端末の固定ワイヤレスアクセスを前提としたものと理解され,本件特許明細書の【0094】の「固定無線アクセスのような静止している加入者の場合,時間経過と共にチャネルが変わることは殆どない。」の記載に照らせば,本件特許発明1の「静止している加入者」に相当する者に対するサブキャリア割り当てに関する発明であるといえる。そして,甲第1号証には,ユーザの高い移動度に起因して無線チャネルが時間に関係ないものとの条件が満たされない場合には,適応的な手法ではなく,チャネル符号化技術が望ましいとの示唆もあることから,時間的なチャネル変動に対応するダイバーシティクラスタを用意し,移動しているユーザーを含む「第1の加入者」にダイバーシティクラスタを割り当てるようにすることは想定していないことは明らかである。また,甲第1号証には,セル間干渉に関する記載は無く,セル間干渉は周波数の再利用率を適宜設定することによりある程度解決し得ることが技術常識であることに鑑みれば,甲1発明はセルの縁に近く位置しているユーザーを含む「第1の加入者」にダイバーシティクラスタを割り当てるようにすることを想定しているとはいえない。
すなわち,甲1発明は無線チャネルが時間に関係ないような状況を前提としたものであり,また,甲第1号証の図1のt0?t9において黒色に近いユーザ及び白色に近いユーザに割り当てられるサブキャリアは一部連続したものであることをも考慮すれば,「お好み」リストやユーザ間の競合の調整等により,結果的にあるユーザにたまたま非連続なサブキャリアが割り当てられているにすぎないといえる。

したがって,甲1発明には本件特許発明1の「ダイバーシティクラスを第1の加入者に割り当てる」,「コヒーレンスクラスタを第2の加入者に割り当てる」との概念は存在しないことは明らかである。

c.本件特許明細書には
「【発明が解決しようとする課題】
【0006】OFDMAに関してサブキャリア割当を行うという1つのアプローチは,統合最適化オペレーションであるが,これは,全セル内の全加入者の行動とチャネルに関する知識が必要なばかりでなく,現在の加入者がネットワークを抜けたり新しい加入者がネットワークに加わったりした場合,その度毎に周波数の再調整が必要になる。これは,主に,加入者情報を更新するための帯域幅コストと統合最適化のための計算費用のせいで,実際の無線システムでは非実用的である場合が多い。」,
「【0068】グループベースのクラスタ割当
(中略)グループベースのクラスタ割当の目的には,クラスタ指標付けのデータビットを減じ,これにより,クラスタ割当用のフィードバックチャネル(情報)と制御チャネル(情報)の帯域幅要件を緩和することである。グループベースのクラスタ割当は,セル間干渉を低減するためにも使用される。」,
「【0094】(中略)一方,移動する加入者の場合,チャネル時間変動(時間経過に伴うチャネルの変化による変動)は非常に大きいこともある。ある時間に高ゲインのクラスタでも,別の時間には激しいフェージングに陥ることもありうる。従って,クラスタ割当は高速で更新しなければならず,制御オーバーヘッドが膨大になってしまう。この場合,ダイバーシティクラスタを使用すれば,強さを補強し,頻繁なクラスタ再割当のオーバーヘッドを軽減することができる。」
との記載がある。

そして,各サブキャリアを指定するよりクラスタを指定する方が情報量が少ないことは自明であることにも鑑みれば,加入者に「ダイバーシティクラスタ」及び「コヒーレンスクラスタ」を割り当てることは,サブキャリア割当にかかる帯域幅コストを削減する効果を奏していることは明らかである。

一方,甲1発明はサブキャリアそのものを割り当てるのであるから,上述の効果は望み得ないことは明らかである。

上記a?cのとおりであり,本件特許発明1の「ダイバーシティクラスタを第1の加入者に割り当てる」,「コヒーレンスクラスタを第2の加入者に割り当てる」ことと,甲1発明のユーザ間の調整を経て,結果的に,連続したあるいは非連続なサブキャリアが割り当てられることとは,技術的意義が全く異なるというべきである。

したがって,請求人の主張は採用できず,本件特許発明1と甲1発明とは相違点1で相違する。

(相違点2についての検討)
請求人は,審判請求書32頁下から9行?33頁18行にて,甲第1号証の図1のt1?t9,t10?t13,t14?t20のそれぞれにおいてダイバーシティクラスタ及びコヒーレンスクラスタの割り当ては相互に異なったものとなっており,セル内の移動中のユーザ及び静止しているユーザの数が時間の経過と共に変化するとの技術常識を考慮すれば,ユーザに対するダイバーシティクラスタ及びコヒーレンスクラスタの割り当てを構成し直そうとするときにそれぞれユーザの数が時々刻々と変化し続ける可能性があること,換言すればセル内の移動中のユーザ及び静止しているユーザの数が変化したタイミングにおいてユーザに対するダイバーシティクラスタ及びコヒーレンスクラスタの割り当てをし直す可能性があることは当然に理解できるから,甲第1号証は構成1-Dを実質的に開示している旨主張しているので,当該主張も併せて検討する。

a.まず,上記「(相違点1についての検討)」で述べたとおり,甲1発明には「ダイバーシティクラスタ」及び「コヒーレンスクラスタ」の概念は認められない。そして,「1.無効理由3(特許法第36条第6項第2号)について」の項の「(1)請求項1の記載について」の項の「イ.「クラスタ分類の再構成」について」の項で述べたとおり,「クラスタ分類の再構成」とは,「クラスタとそのサブキャリアの間のマッピング(どのサブキャリアをどのクラスタの構成要素とするかということ)を構成し直すことに伴い,当該クラスタのカテゴリー分けが変更されること」と理解され,例えば本件特許の図9のクラスタ構成を前提として周期的なクラスタの割り当て(再教育)とは全く異なった概念である。したがって,本件特許の図9又は図12のように予め帯域内の全てのサブキャリアに対して各クラスタがマッピングされるものではない甲1発明には,「クラスタ分類の再構成」なる概念が存在し得ないことは明らかである。

b.また,上記「(相違点1についての検討)」の「b」で述べたとおり,甲1発明は,無線チャネルが時間に関係ないような状況,例えば,携帯可能であるが通常は静止している端末の固定ワイヤレスアクセスを前提としたもの,すなわち,本件特許明細書の【0094】の記載に照らせば本件特許発明1の「静止している加入者」に相当する者に対するサブキャリア割り当てに関する発明であるといえるから,「セル内の移動中の加入者と静止している加入者の人口が変化した時」なる概念も存在しない。

ここで,請求人は口頭審理陳述要領書5頁の「(5)予備的主張1」にて「低い移動度を有する加入者」が構成要件1-Dの「移動中の加入者」に含まれる旨主張としているが,甲1発明が前提とする端末は携帯可能であることから低い移動度であることはあり得るにせよ,無線チャネルが時間に関係ない,固定ワイヤレスアクセスを前提としている以上,「移動中の加入者」ではなく「静止している加入者」に含まれるというべきである。

c.更に,請求人は,口頭審理陳述要領書の「5-1.(2)構成要件1-Dについて」(3頁下から13行?4頁下から12行)にて,甲第1号証の「5.3」における「適応的な手法」とは「適応変調」のことを指し,サブキャリアの適応的な割り当てではない旨主張している。
しかしながら,甲第1号証の要約には,適応変調技術及び適応的なサブキャリアの割り当てが言及されており,「5.1」にはそのうちの適応変調技術のみを適用した場合のシミュレーション結果が,「5.2」には適応的なサブキャリアの割り当て及び適応変調技術を適用した場合のシミュレーション結果がそれぞれ示されているから,「5.3」の「 adaptive measures such as subcarrier specific modulation (or additionally an intelligent allocation as in FDMA)」(仮訳)「サブキャリアに固有の変調といったような(又は付加的にはFDMAにおけるようなインテリジェントな割り当て)適応的な手法」との択一的な内容の括弧書きの記載は,「5.3」が適応変調とチャネル符号化について項を起こしたものであるところ,「5.2」の適応的なサブキャリアの割り当て及び適応変調技術を適用した場合にも当てはまることを括弧書きで示唆していると解するのが自然である。
そして,「5.3」には,ユーザの高い移動度に起因して無線チャネルが時間に関係ないものであるという条件が満たされない場合に適応的な手法が適切ではない理由として,「これらの手法は著しく性能を低下させ,又は,変調の割り当てを頻繁に更新することに関して大きなオーバーヘッドが必要とされる。」と記載されているが,適応的なサブキャリア割り当てにおいてもサブキャリアの割り当てを頻繁に更新することに関して大きなオーバーヘッドが必要とされることが当然に予測できるから,「5.3」の「適応的な手法」には適応変調技術のみならず適応的なサブキャリアの割り当ても含まれると解される。

したがって,請求人の主張は採用できず,本件特許発明1と甲1発明とは相違点2で相違する。

以上のとおり,本件特許発明1と甲1発明との間には,相違点1,2が存在するから,本件特許発明1は甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。また,本件特許発明3は,本件特許発明1の従属発明であるから,同様の理由で,本件特許発明3は甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。

イ.甲第1号証と甲第2号証とに基づく進歩性違反の有無について
まず,上記(相違点1)について検討する。
a.甲第2号証の記載(上記(2)イ(ウ)参照。)の記載によれば,4の余剰が0,1,2,3となるサブキャリアをそれぞれユーザA?Dに割り当てているから,割り当て単位のサブキャリア群は4の余剰により分類される論理ユニットとみることができるので,甲2発明は,「少なくとも1つの物理的サブキャリアを保有している論理ユニット」である「クラスタ」の概念を一応有しているといえる。また,上記(2)カのとおり,「OFDM方式の通信システムにおいて,基地局が,複数のサブキャリアからなるサブチャネル群を複数予め用意しておき,これら複数のサブキャリア群の中から選択した適切なサブキャリア群を,移動局に情報を送信するときに用いる。」(周知事項2)ことは周知である。
しかしながら,甲1発明は,あるユーザに割り当てられる複数のサブキャリアのうち,他のユーザと競合するサブキャリアについてのみ調整がなされるものであるから,調整前のサブキャリアの集合と調整後のサブキャリアの集合とは,集合の構成要素の一部のサブキャリアのみが異なることがあることが明らかである。したがって,甲1発明は,サブキャリアの各々が,予め定義され各加入者及び基地局に共通に認識されている「少なくとも1つの物理的サブキャリアを保有している論理ユニット」である「クラスタ」の1つに必ずマッピングされ,クラスタ分類が再構成されない限りクラスタを構成するサブキャリアが不変である,「クラスタ」の概念に馴染まないものであることは明らかである。すなわち,甲1発明に甲2発明を適用することには阻害要因がある。

b.甲第2号証には,図11のように各ユーザに連続したサブキャリアを割り当てる実施例と,図14のようにフェージングがほぼ独立になるように周波数を離しておくことによってダイバーシチを実現する実施例とがそれぞれ例示されているが,甲第2号証の記載(上記(2)イ(イ),(カ),(キ)参照。)によれば,甲2発明は,FFT演算を大幅に削減し,それによる消費電力の削減が図ることを目的とするものであって,移動局毎にサブキャリアを連続して割り当てることで移動局毎に異なるAFCを施せるようにして性能を向上させる実施例と,フェージングがほぼ独立になるように周波数を離しておくことによってダイバーシチを実現する実施例とがそれぞれ例示されているものの,両者は独立した実施例であって,これらの実施例を同時に適用することは記載も示唆もされていない。
また,上記(2)オのとおり「移動している移動端末は,マルチパスフェージングの影響を受けやすい」(周知事項1)ことが周知であるとしても,予め用意したダイバーシティクラスタとコヒーレンスクラスタを加入者に割り当て,両クラスタを同時に使用することが周知であるとはいえない。
このため,「少なくとも1つのサブキャリアのダイバーシティクラスタを第1の加入者に割り当てる段階」と「少なくとも1つのコヒーレンスクラスタを第2の加入者に割り当てる段階」との双方を備えることを,甲2発明及び周知技術から導出することはできない。

したがって,上記(相違点1)は,甲2発明及び周知技術によっても甲1発明から当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

次に,上記(相違点2)について検討する。
クラスタ分類の再構成は,本件特許の図9のように,ダイバーシティクラスタとコヒーレンスクラスタとが予め用意されていることが前提であるところ,(相違点1)についての検討で述べたように,甲2発明も周知事項1,2もダイバーシティクラスタとコヒーレンスクラスタとの両方を予め用意して同時に使用することを教示していないから,「クラスタ分類の再構成」なる概念を導出し得ないことは明らかである。
したがって,上記(相違点2)は当業者が容易に想到し得るものでない。

以上のとおり,本件特許発明1は,甲1発明と甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。また,本件特許発明3は,本件特許発明1の従属発明であるから,同様の理由で,甲1発明と甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

ウ.甲第1号証と甲第29号証とに基づく進歩性違反の有無について
甲第29号証の【0007】の記載(上記(2)ウ(ア)参照。)に照らせば,甲第29号証の図9(a),(b)に示されたものは,副搬送波を複数種類に分類して使用するのであるから,「少なくとも1つの物理的サブキャリアを保有している論理ユニット」である「クラスタ」の概念を一応有しているといえる。しかしながら,上記「イ」の項の「a」のとおり,甲1発明に「クラスタ」の概念を適用することには阻害要因がある。
また,甲第29号証には,図9(a)のように副搬送波を交互にインターリーブ配置したものと,図9(b)のように副搬送波が周波数軸上で複数のブロックに分割されたものが記載されているが,これらを同時に使用することについては記載も示唆もされていない。また,上記「イ」の項の「b」のとおり,予め用意したダイバーシティクラスタとコヒーレンスクラスタとを加入者に割り当て,両クラスタを同時に使用することは周知とはいえない。更に,上記「ア」の項の「(相違点1についての検討)」の項の「b」のとおり,甲1発明は本件特許発明1の「静止している加入者」に相当する者に対するサブキャリア割り当てに関する発明といえる。したがって,「クラスタ分類の再構成」なる概念を導出し得ない。
したがって,上記「イ」と同様の理由で,甲29発明によっても,上記相違点1,2を当業者が容易に想到し得たとすることはできない。

以上のとおり,本件特許発明1は,甲1発明と甲29発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。また,本件特許発明3は,本件特許発明1の従属発明であるから,同様の理由で,甲1発明と甲29発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

エ.甲第1号証と甲第30号証とに基づく進歩性違反の有無について
上記「(2)エ」のとおり,甲30発明はパイロットシンボルの数に関する発明であって,甲第30号証には,「少なくとも1つの物理的サブキャリアを保有している論理ユニット」である「クラスタ」の概念は示されておらず,それ故当然ながらダイバーシティクラスタ及びコヒーレンスクラスタを割り当てることも,ダイバーシティクラスタとコヒーレンスクラスタとをそれぞれ同時に使用することも示されていない。また,上記イ,ウのとおり,予め用意したダイバーシティクラスタとコヒーレンスクラスタとを加入者に割り当て,両クラスタを同時に使用することは,いずれの文献にも教示されていない。
そして,上記「ア」の項の「(相違点1についての検討)」の項の「b」のとおり,甲1発明は本件特許発明1の「静止している加入者」に相当する者に対するサブキャリア割り当てに関する発明といえるから,甲30発明によっても,上記相違点1,2を当業者が容易に想到し得たとすることはできない。

したがって,本件特許発明1は,甲1発明と甲30発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。また,本件特許発明3は,本件特許発明1の従属発明であるから,同様の理由で,甲1発明と甲30発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(4)まとめ
以上のとおりであるから,本件特許発明1,3についての特許は,特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものではない。また,本件特許発明1,3についての特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものではない。


4.無効理由2(特許法第29条第2項)について
(1)本件特許発明1
上記「第2」の項で本件特許発明1として認めたとおりである。

(2)引用発明
ア.甲第31号証に記載された発明について
本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第31号証(国際公開第98/24258号)には「ADAPTIVE CHANNEL ALLOCATION METHOD AND APPARATUS FOR MULTI-SLOT, MULTI-CARRIER COMMUNICATION SYSTEM」(仮訳)「マルチスロット,マルチキャリア通信システム用適応的チャネル割り当て方法及び装置」として図面と共に,以下の事項が記載されている。

(ア)「Field of the Invention
The present invention relates to cellular telecommunications systems. More particularly, the present invention relates to a method and system of adaptive channel allocation in a multi-slot, multi-carrier communication system. 」(1頁11?14行)
(仮訳)
「発明の分野
本発明は,セルラ電気通信システムに関する。特に,本発明は,マルチスロット,マルチキャリア通信システムにおける適応的チャネル割り当て方法及びシステムに関する。」

(イ)「However, it is possible in such an OFDM system that a communications link in a cell of the system is assigned a set of subcarriers frequencies that includes one or more subcarriers frequencies also assigned to a communications link set up in another cell within the system. Each of these commonly assigned subcarriers frequencies may be subject to co-channel interference caused by the use of the same subcarrier frequency in the other cells. In these OFDM systems no method or system exists for coordinating the assignment of subcarrier frequencies to communications links created within different cells. In such a system the co-channel interference in a communications link caused by a subcarrier used in a neighboring cell could be very large.
Methods of allocating channel frequencies among cells in non-OFDM systems have been developed that reduce or minimize co-channel interference. Adaptive Channel Allocation (ACA) is such a method. In ACA any channel frequency allocated to a cellular system may be used to set up a link in any cell of the system regardless of whether or not the frequency is used elsewhere in the system as long as certain interference criteria are met. The channel frequencies may also be freely reused throughout the system as long as the interference criteria are met.」(3頁19行?4頁3行)
(仮訳)
「しかしながら,システムの或る1つのセル内の或る1つの通信リンクがそのシステム内の他のセル内にセット・アップされた通信リンクにまた割り当てられた1つ以上のサブキャリア周波数を含むサブキャリア周波数の集合を割り当てられることは,このようなOFDMシステムでは可能である。これらの共通に割り当てられたサブキャリア周波数の各々は,他のセル内に同じサブキャリア周波数を使用することによって引き起こされた同一チャネル干渉を受けることがある。これらのOFDMシステムでは,いくつかの異なるセル内に設立された通信リンクへのサブキャリア周波数の割り当てを組織的に調整する方法及びシステムは,存在しない。このようなシステムでは,近隣のセルに使用されたサブキャリアによって引き起こされた通信リンク内の同一チャネル干渉が非常に大きいこともあり得る。
非OFDMシステム内のセル間にチャネル周波数を割り当てる方法が開発されてきており,これらの方法は同一チャネル干渉を減少又は最小限にする。適応的チャネル割り当て(Adaptive Channel Allocation; ACA)は,このような方法である。ACAでは,セルラ・システムに割り当てられたどのチャネル周波数も,或る決まった干渉判定基準が満たされる限り,その周波数がそのシステム内のどこか他の所で使用されているか否かにかかわらずそのシステムのどのセル内でもリンクをセット・アップするために使用されてよい。それらのチャネル周波数は,干渉判定基準が満たされる限りそのシステム全体を通してまた自由に再使用されてよい。」

(ウ)「Analogous to the channels defined in a FDM communication system, the channels defined in a multi-carrier, multi-slot communication system are also susceptible co-channel interference. And, signals generated upon such channels are susceptible to frequency-selective multi-path fading. As a result, the channels assigned to a communication link in a multi-carrier, multi-slot communication system might not exhibit identical characteristics. It would provide an advantage then, to have a method and system of adaptive channel allocation for use in an a multi-carrier, multi-slot communication system.」(5頁14?21行)
(仮訳)
「FDM通信システムにおいて定義されたチャネルに類似して,マルチキャリア,マルチスロット通信システムにおいて定義されたチャネルは,同一チャネル干渉をまた受けやすい。しかも,このようなチャネル上に発生された信号は,周波数選択性マルチパスフェージングにかかりやすい。結果として,マルチキャリア,マルチスロット通信システム内の通信リンクに割り当てられたチャネルが同等の特性を現わさないこともある。
したがって,マルチキャリア,マルチスロット通信システムに適応的チャネル割り当て方法及びシステムを使用することが利点をもたらすことになろう。」

(エ)「The present invention provides a method and system of adaptive channel allocation (ACA) in a multi-carrier, multi-slot communication system.」(6頁2?3行)
(仮訳)
「本発明は,マルチキャリア,マルチスロット通信システム内の適応的チャネル割り当て(ACA)方法及びシステムを提供する。」

(オ)「Referring to Figure 1, there is illustrated a multi-slot cellular telecommunications system of the type to which the present invention generally pertains. Frequency-division, time-division multiple access (FD/TDMA) signals are generated and transmitted during operation of the system.」(8頁16?19行)
(仮訳)
「図1は,本発明が一般に適する型式のマルチスロット・セルラ電気通信システムを示す。周波数分割,時分割多元接続(frequency-division,time-division multiple access;FD/TDMA)信号がシステムの動作中発生されかつ伝送される。」

(カ)「In the ACA of the invention, for each up/down link between a mobile station and base station, the system chooses a subset of a number (M) of channel from set of a number (N) of channels. The set of N channels is the set of channels available within the system for each link, where N>M. (中略)
Referring now to Figure 2A, therein is illustrated the allocation of channels in accordance with an embodiment of the present invention, a multi-carrier, multi-slot communication system. Base station 200 communicates with mobile station 202 over downlinks 206 and uplinks 208. Base station 200 also communicates with mobile station 204 over downlinks 210 and uplinks 212. Transmissions on links 206,208, 210, and 212, within the cell uses a separate subset of M channels. The channels are used once within a cell.
(中略)
Figure 2B illustrates the channel scheme of an exemplary multi-carrier, multi- slot communication scheme, shown generally at 220. The communication scheme is represented graphically and is represented in terms of a time axis 222 and a frequency axis 224
(中略)
The frequency axis 224 represents the bandwidth available to a link in the communication scheme. The available bandwidth is divided into carriers 232. In the exemplary scheme shown in the figure, the carriers are spaced-apart by 200 kHz spacings.
A channel is formed of a time slot, carrier combination. A first channel 234 is highlighted in the figure, defined by time slot T2 and carrier f5. A signal is transmitted in bursts during successive frames of the channel defined in such manner.
A second channel 236 is also highlighted in the figure, defined by time slot T4 and carrier. A signal is transmitted in bursts during successive frames of the channel defined in such manner. The channels 234 and 236 can together be used, for example, to transmit downlink signals.
(中略)
A downlink channel, for instance, is defined by the channels 234 and 236. And an uplink channel, for instance, is defined by the channel 238, thereby to define a time division duplex scheme.
Figure 2C illustrates the channel scheme of another exemplary multi-carrier, multi-slot communication scheme, shown generally at 250. Again, the time axis 222 and frequency axis 224 are shown.
(中略)
In the illustrated communication scheme, the downlink channels are formed of channels 258, 262, and 264. And, the uplink channels are formed of channels 268, 270, 272, and 274. 」(11頁6?9行,同頁14?20行,同頁30行?12頁2行,12頁6?16行,同頁21?26行,13頁3?5行)
(仮訳)
「本発明のACAでは,移動局と基地局との間の各アップリンク/ダウンリンク毎に,システムは,或る数(N)のチャネルの集合から或る数(M)のチャネルの部分集合を選択する。Nのチャネルの集合は,各リンク毎にシステム内で利用可能なチャネルの集合であり,ここにN>Mである。(中略)
図2Aは,本発明の,マルチキャリア,マルチスロット通信システムの実施例に従うチャネルの割り当てを示す。基地局200がダウンリンク206及びアップリンク208を通じて移動局202と通信する。基地局200はまた,ダウンリンク210及びアップリンク212を通じて移動局204と通信する。セル内のリンク206,208,210,及び212上の伝送は,Mのチャネルの分離部分集合を使用する。それらのチャネルは或る1つのセル内で一回使用される。
(中略)
図2Bは,全体的に220で示された,例示的なマルチキャリア,マルチスロット通信方式のチャネル方式を示す。その通信方式はグラフで表され,かつ時間軸222及び周波数軸224を介して表される。
(中略)
周波数軸224は,その通信方式におけるリンクに利用可能な帯域幅を表す。この利用可能帯域幅は,複数のキャリア232に分割される。この図に示された例示的な方式では,これらのキャリアは,200kHzの間隔を取っている。
1つのチャネルは,タイム・スロットとキャリアとの組み合わせで形成される。第1チャネル234が,この図中でハイライトされ,タイム・スロットT2及びキャリアf5によって定義される。信号は,このようにして定義されたチャネルの連続する複数のフレームの間においてバーストとして伝送される。
第2チャネル236が,この図中でまたハイライトされ,タイム・スロットT4及びキャリアf3によって定義される。信号は,このようにして定義されたチャネルの連続する複数のフレームの間においてバーストとして伝送される。チャネル234及び236は,例えば,ダウンリンク信号を伝送するために一緒に使用することができる。
(中略)
ダウンリンク・チャネルが,例えば,チャネル234及び236によって定義される。しかも,アップリンク・チャネルが,例えば,チャネル238によって定義され,それによって時分割二重通信方式が定義される。
図2Cは,全体的に250で示された,他の例示的なマルチキャリア,マルチスロット通信方式のチャネル方式を示す。ここでも,時間軸222及び周波数軸224が示されている。
(中略)
図示の通信方式では,ダウンリンク・チャネルは,チャネル258,262,及び264で形成される。また,アップリンク・チャネルは,チャネル268,270,272,及び274で形成される。」

(キ)「Figure 8 illustrates a portion of a cellular communication system 800 in which an embodiment of the present invention is operable. A base station 852 and a single mobile terminal 854 is shown to be coupled by way of a communication link 815, thereby to permit the transmission of downlink and uplink signals therebetween. The system 800 is operable pursuant to a multi-slot, multi-carrier communication scheme in which the downlink and uplink comprises pairs of time slots and carriers, as described previously.
(中略)
A source-encoded signal generated by the encoder 864 is applied to a channel encoder 866. The channel encoder 866 channel-encodes the signal applied thereto, e.g., by increasing the redundancy of the signal applied thereto.
A channel-encoded signal generated by the encoder 866 is applied to a modulator 868 which modulates the channel-encoded signal according to the multi-slot, multi-carrier communication scheme. That is to say, the modulator modulates the channel-encoded signal upon a selected carrier and transmits the modulated signal during selected time slots. The signals generated by the modulator 868 form the downlink transmissions which are communicated to the mobile terminal 854 by way of the link created therebetween.」(24頁22?28行,25頁1?11行)
(仮訳)
「図8は,本発明の実施形態が動作可能であるセルラ通信システム800の一部分を示す。基地局852と単一移動端末854が通信リンク815を経由して結合されて示されており,それによって両者間にダウンリンク信号及びアップリンク信号の伝送を可能にする。システム800は,マルチスロットマルチキャリア通信方式に従って動作可能であり,この方式でダウンリンク及びアップリンクは先に説明したようにタイム・スロットとキャリアの対を含む。
(中略)
エンコーダ864によって発生されたソース符号化された信号がチャネル・エンコーダ866に印加される。チャネル・エンコーダ866は,例えば,これに印加される信号の冗長性を増大することによって,これに印加される信号をチャネル符号化する。
エンコーダ866によって発生されたチャネル符号化信号が変調器868に印加され,この変調器がマルチスロット,マルチキャリア通信方式に従ってチャネル符号化信号を変調する。換言すると,変調器は選択されたキャリア上でチャネル符号化信号を変調しかつ選択されたタイム・スロット中被変調信号を伝送する。変調器868によって発生された信号はダウンリンク伝送を形成し,これらが移動端末854へ,両者間に設立されたリンクを経由して通信される。」

(ク)「In the illustrated embodiment, a channel condition measurer 902 forms a portion of the mobile terminal 854. The channel condition measurer 902 is operable to measure channel conditions of channels available to form the link 815 between the base station 852 and mobile terminal 854. In one embodiment, the channel condition measurer measures the interference levels of a plurality of at least some of the N available channels, available to form the link 815. Such measurements may be made responsive to signal levels of signals applied to the measurer 902 by way of a tap 904.
In the illustrated embodiment, the channel condition measurer 902 is further operable to measure levels of multi-path fading exhibited upon channels upon which signals are transmitted to the mobile terminal 854. Indications of such multi-path fading are provided to the channel condition measurer 902 by way of the tap 906.
Measured values of the channel condition exhibited by the channels are applied to the transmit portion of the mobile terminal 854, here indicated by way of a tap 908. As noted previously, in one embodiment, the measured indications of channel conditions are provided to the base station 852 by way of a control channel.
(中略)
An ACA processor 928 is here shown to include a channel evaluator 914 and channel allocator 916.(中略)
Indications of measured values, measured by the measurer 902 or 909 are provided to the channel evaluator by way of taps 917 and 918, respectively. The channel evaluator which evaluates the channel characteristics determined by the determiner. Responsive to evaluations made by the evaluator 914, the channel allocator 916 is operable to allocate channels to form the link 815 between the base station 852 and the mobile terminal 854. Channel allocations allocated by the allocator 916 allocate channels which create the downlink as well as the uplink between the base station and mobile terminal. In one embodiment, indications of the channels allocated by the allocator 916 to form the uplink are transmitted upon control channels to the mobile terminal 854.
Because the channels are dynamically allocated to form the communication link 815 between the base station 852 and mobile 854 channel allocations of channels to be used to form the link between the base station and mobile terminal are changed, as necessary.
As can be seen from the above description, the invention provides a method and system of adaptive channel allocation for a multi-slot, multi-carrier communication scheme. Use of the invention will enhance the performance of such systems into which it is implemented.」(26頁8?22行,同頁28?29行,27頁1?18行)
(仮訳)
「図示の実施形態では,チャネル状態測定器902は,移動端末854の部分を形成する。チャネル状態測定器902は,基地局852と移動局854との間にリンク815を形成するために利用可能な複数のチャネルのチャネル状態を測定するように動作可能である。一実施形態では,チャネル状態測定器は,リンク815を形成するために利用可能な,Nの利用可能チャネルのうちの複数の少なくとも或るものの干渉レベルを測定する。このような測定は,タップ904を経由して測定器902に印加された信号の信号レベルに応答して行われることがある。
図示の実施形態では,チャネル状態測定器902は,移動端末854へ信号を伝送するチャネル上に現されるマルチパスフェージングのレベルを測定するように更に動作可能である。このようなマルチパスフェージングの表示は,タップ906を経由してチャネル状態測定器902に供給される。
チャネルによって現されるチャネル状態の測定値が移動端末854の伝送部に印加され,ここでは,タップ908を経由して表示される。先に挙げたように,1実施形態では,チャネル状態の測定表示は,制御チャネルを経由して基地局852に供給される。
(中略)
ACAプロセッサ928は,ここでは,チャネル評価器914及びチャネル割り当て器916を含むように示されている。(中略)
測定器902又は909によって測定された測定値の表示は,それぞれ,タップ917及び918を経由してチャネル評価器に供給される。チャネル評価器は,決定器(determiner)によって決定されるチャネル特性を評価する。評価器914によって行われた評価に応答して,チャネル割り当て器916が基地局852と移動端末854との間にリンク815を形成するために複数のチャネルを割り当てるように動作可能である。割り当て器916によって割り当てられたチャネル割り当ては,基地局と移動端末との間にダウンリンクばかりでなくまたアップリンクを設立するチャネルを割り当てする。一実施形態では,アップリンクを形成するために割り当て器916によって割り当てられたチャネルの表示が移動端末854へ制御チャネルを通じて伝送される。
チャネルは基地局852と移動端末854との間に通信リンク815を形成するために動的に割り当てられると云う理由から,基地局と移動端末との間にリンクを形成するために使用されるチャネル割り当ては,必要に応じて,変更される。
上の説明から判るように,本発明は,マルチスロット,マルチキャリア通信方式に対する適応的チャネル割り当て方法及びシステムを提供する。本発明の使用は,それを実施されるこのようなシステムの性能を強化することになる。」

上記(ア)?(ク)の記載及びこの技術分野の技術常識を考慮すると,

a.上記(ア)?(オ)の記載によれば,甲第31号証には,マルチスロット,マルチキャリア通信システムにおいて適応的にチャネルを割り当てる方法が記載されていると認められる。

b.上記(カ)の記載によれば,1つのチャネルはタイム・スロットとキャリアの組み合わせ(対)で形成され,各リンク毎にシステム内で利用可能な或る数(N)のチャネルの集合からある数(M)のチャネルの部分集合が選択されて割り当てられることが示されており,図2Bにはダウンリンクに(T2,f5)のチャネル234と(T4,f3)のチャネル236の2つのチャネルを割り当てる例が,図2Cにはダウンリンクに(T1,f4)のチャネル258と(T4,f2)のチャネル262と(T6,f1)のチャネル264の3つのチャネルを割り当てる例がそれぞれ示されている。
ここで,マルチスロット,マルチキャリア通信システムは周波数分割,時分割多元接続であり,上記(カ)の「セル内のリンク206,208,210,及び212上の伝送は,Mのチャネルの分離部分集合を使用する。それらのチャネルは或る1つのセル内で一回使用される。」の記載及び図2A?Cによれば,移動局202と移動局204とにそれぞれ別個のM個のチャネルが割り当てられ,同じフレーム内で使用されているものと認められる。

c.上記(キ)の記載によれば,マルチキャリア,マルチスロット通信システムにより送信される信号は,チャネル符号化されたものである。

d.上記(ク)の記載によれば,チャネル割り当てに際しては,基地局と移動局との間にリンクを形成する複数のチャネルについて,干渉レベルやマルチパスフェージングのレベル等のチャネル状態を測定し,チャネル特性を評価し,当該評価に応答して割り当てを行うものである。

以上を総合すると,甲第31号証には以下の発明(以下,「甲31発明」という。)が記載されていると認める。
「マルチスロット,マルチキャリア通信システムにおいて適応的にチャネルを割り当てる際に使用する方法において,
タイム・スロットとキャリアの組み合わせ(対)で形成される,利用可能なNのチャネルについて,干渉レベルやマルチパスフェージングのレベル等のチャネル状態を測定し,チャネル特性を評価し,当該評価に応答して,基地局と移動局との間にリンクを形成する,M(N>M)のチャネルの部分集合を選択して,複数の移動局にそれぞれ割り当て,
ある移動局に割り当てたあるMチャネルと別の移動局に割り当てた別のMチャネルとを同じフレーム内で使用することによってある前記加入者及び別の加入者との通信が生じ得る方法」

イ.甲第2号証について
甲第2号証に記載された発明は,上記「3.無効理由1(特許法第29条第1項第3号及び特許法第29条第2項)について」の項の「(2)引用発明」の項の「イ.甲第2号証に記載された発明について」の項にて甲2発明として認定したとおりである。

ウ.甲第29号証について
甲第29号証に記載された発明は,上記「3.無効理由1(特許法第29条第1項第3号及び特許法第29条第2項)について」の項の「(2)引用発明」の項の「ウ.甲第29号証に記載された発明について」の項にて甲29発明として認定したとおりである。

エ.甲第30号証について
甲第30号証に記載された発明は,上記「3.無効理由1(特許法第29条第1項第3号及び特許法第29条第2項)について」の項の「(2)引用発明」の項の「エ.甲第30号証に記載された発明について」の項にて甲30発明として認定したとおりである。

(3)対比・判断
本件特許発明1と甲31発明とを対比すると,

ア.本件特許発明1のOFDMAシステムは,複数のサブキャリアを選択的に複数の加入者に割り当てるものであり,マルチキャリアの一種といえるから,以下の相違点1は別として,両者は「マルチキャリアを用いる通信システムにおいてキャリアを割り当てる際に使用する方法」である点で一致している。

イ.本件特許発明1において各加入者に割り当てられたクラスタは通信チャネルといえるから,下記の相違点2は別として,両者は「ある加入者にあるチャネルを割り当て,別の加入者に別のチャネルを割り当て,それぞれに割り当てられたチャネルを利用することによってある加入者及び別の加入者との通信が生じ得る段階」を備える点で一致している。

したがって,両者は以下の点で一致し,また,相違する。
(一致点)
「マルチキャリアを用いる通信システムにおいてキャリアを割り当てる際に使用する方法において,
ある加入者にあるチャネルを割り当て,別の加入者に別のチャネルを割り当て,それぞれに割り当てられたチャネルを利用することによってある加入者及び別の加入者との通信が生じ得る段階
を備える方法。」

(相違点1)
「マルチキャリアを用いる通信システムにおいてキャリアを割り当てる」ことに関し,本件特許発明1は「OFDMAシステム内でサブキャリアを割り当てる」ものであるのに対して,甲31発明は「マルチスロット,マルチキャリア通信システムにおいて適応的にタイム・スロットとキャリアの組み合わせ(対)で形成されるチャネルを割り当てる」ものである点。

(相違点2)
チャネルの割り当てに関し,本件特許発明1は「少なくとも1つのサブキャリアのダイバーシティクラスタを第1の加入者に割り当てる段階と,少なくとも1つのコヒーレンスクラスタを第2の加入者に割り当てる段階」であるのに対し,甲31発明には,ダイバーシティクラスタ,コヒーレンスクラスタといった複数のサブキャリアからなる論理ユニットであるクラスタを予め用意して割り当てるとの概念はなく,タイム・スロットとキャリアの組み合わせ(対)で形成されるチャネルをチャネル特性に基づいて割り当てるものである点。

(相違点3)
本件特許発明1は「前記少なくとも1つのダイバーシティクラスタと前記少なくとも1つのコヒーレンスクラスタをそれぞれ同時に使用することによって前記第1及び第2の加入者との通信が生じ得る」のに対し,甲31発明は,マルチスロットであることから,それぞれに割り当てられたチャネルを同じフレーム内で使用するものの,「同時に使用する」とまでは必ずしもいえない点。

(相違点4)
本件特許発明1は「セル内の移動中の加入者と静止している加入者の人口が変化した時には,クラスタ分類を再構成する段階」を備えているのに対し,甲31発明は当該構成を備えていない点。

ア.甲第31号証と甲第2号証とに基づく進歩性違反の有無について
(相違点1についての検討)
請求人は,口頭審理陳述要領書5-2(1)(11頁9行?13頁10行)にて,甲第31号証は,図2Cにおいて例えばタイムスロットT1において第1の移動局がf1,f2に割り当てられたサブキャリアを使用して基地局に接続される場合もあり得る,「OFDMはまた,マルチパス伝播効果によって引き起こされる干渉を減少させる点で利点をもたらす」とのいう記載がある,同時係属出願は「・・・(OFDM)システムを利用する通信システム・・・を開示する」との記載があることから,構成要件1-Aを開示するものである旨主張しているので,当該主張も併せて検討する。

OFDMAシステムは,甲第31号証の先行技術説明にて言及され,また,例えば甲2発明,甲29発明にあるように周知のものである。しかしながら,甲31発明は,マルチスロット,マルチキャリア通信システムに係る発明であり,甲第31号証の記載(上記(2)ア(イ)参照。)の記載に照らせば,甲31発明の適応チャネル割り当て(ACA)は「非OFDMシステム」に関するものと解されるところ,甲第31号証にはマルチスロット,マルチキャリア通信システムに代えてOFDMAシステムを適用することを示唆する記載は無い。また,同じタイムスロットに複数のキャリアを同時に割り当てることは,可能性としてはあり得るにせよ,そのようなことは記載されていない。
また,甲第31号証の記載(上記(2)ア(ウ)参照。)の記載に照らせば,甲31発明はACAによりセル間の同一チャネル干渉(周波数選択性多経路フェージング)を減少し得るものであり,チャネル特性が時間的に変化する環境においてはマルチスロットがダイバーシティ作用をなすことが自明であることにも鑑みれば,甲31発明のマルチスロット,マルチキャリア通信システムをOFDMAシステムに変更する動機付けを見出すことはできない。

また,甲第31号証には,「前述の同時係属特許出願は,周波数分割多重化(FDM)システム又は直交周波数分割多重化(OFDM)システムを利用する通信システムのような,通信システムにおいてチャネルを適応分配する方法を開示する。」との記載があるが,同時係属特許出願は,甲31発明とは独立した別個の発明に係る出願であるから,甲31発明をOFDMAシステムに変更する動機付けを与えるものではない。

以上のとおりであり,OFDMAシステムが周知であるからといって,相違点1を当業者が容易に想到することができたとはいえない。

(相違点2についての検討)
請求人は,口頭審理陳述要領書5-2(2)(13頁11行?14頁6行)にて,甲第31号証は,例えば図2Bにおいてf5,f3は同一の時間において用いられ得るから,ダイバーシティクラスタを開示するものである旨主張しているので,当該主張も併せて検討する。

上記「(相違点1についての検討)」で述べたとおり,同じタイムスロットに複数のキャリアを同時に割り当てることは,可能性としてはあり得るにせよ,そのようなことは甲第31号証には記載されていないから,ダイバーシティクラスタは開示されていない。したがって,請求人の主張は採用できない。
そして,上記「3.無効理由3(特許法第29条第1項第3号及び特許法第29条第2項)について」の項の「(3)対比・判断」の項の「イ.甲第1号証と甲第2号証とに基づく進歩性違反の有無について」の項の「a」,「b」で述べたとおり,甲2発明は,「少なくとも1つの物理的サブキャリアを保有している論理ユニット」である「クラスタ」の概念を一応有しているといえ,また,フェージングがほぼ独立となるように周波数が離れたサブキャリアを割り当てることで周波数ダイバーシティを行うことも示されている。しかしながら,甲第2号証には,図11のように各ユーザに連続したサブキャリアを割り当てる実施例と,図14のようにフェージングがほぼ独立になるように周波数を離しておくことによってダイバーシチを実現する実施例との,互いに独立した実施例を同時に適用することは記載も示唆もされていない。すなわち,甲2発明は,FFT演算を大幅に削減し,それによる消費電力の削減が図ることを目的とするものであって,予め用意したダイバーシティクラスタとコヒーレンスクラスタとを加入者に割り当てるものではない。
また,上記「3(2)カ」のとおり「OFDM方式の通信システムにおいて,基地局が,複数のサブキャリアからなるサブチャネル群を複数予め用意しておき,これら複数のサブキャリア群の中から選択した適切なサブキャリア群を,移動局に情報を送信するときに用いる。」(周知事項2)ことが周知であり,上記「3(2)オ」のとおり「移動している移動端末は,マルチパスフェージングの影響を受けやすい」(周知事項1)ことが周知であるとしても,予め用意したダイバーシティクラスタとコヒーレンスクラスタとを加入者に割り当てることが周知であるとはいえない。
更に,甲31発明のマルチスロット,マルチキャリア通信システムでは,チャネルはタイム・スロットとキャリアの組み合わせ(対)で形成されることから,必ずしも同じタイムスロットに複数のキャリアが割り当てられるものではなく,チャネル特性に時間的変化が無い場合にはチャネル特性が最も良好な1つのキャリアが複数のタイムスロットにわたって使用されることが予想され,また,移動等によりチャネル特性が時間的に変化する場合でも,時間的に異なるタイムスロットを割り当てることで,ある程度ダイバーシティ作用が得られると考えられる。このため,OFDMAに係る甲2発明や周知技術2を,マルチスロットを備える甲31発明に適用する動機付けも見出せない。
したがって,相違点2は,周知技術1,2を考慮しても,甲31発明と甲2発明とに基づいて当業者が容易に想到し得たものではない。

(相違点3についての検討)
上記「(相違点2についての検討)」のとおり,予め用意したダイバーシティクラスタとコヒーレンスクラスタを加入者に割り当てることはいずれの文献にも教示されていなく,また,甲31発明は,マルチスロット,マルチキャリア通信システムであって必ずしも同一のタイムスロットに複数のキャリアが割り当てられるものではないことにも鑑みれば,「前記少なくとも1つのダイバーシティクラスタと前記少なくとも1つのコヒーレンスクラスタをそれぞれ同時に使用する」,すなわち,ダイバーシティクラスタとコヒーレンスクラスタとを同じタイムスロットにて使用することを導出し得ないとは明らかである。
したがって,相違点3は,甲31発明と甲2発明とに基づいて当業者が容易に想到し得たものではない

(相違点4についての検討)
請求人は,審判請求書49頁下から11?2行にて,甲第31号証は,基地局が移動端末に一旦割り当てたサブキャリアを必要に応じて変更することを開示しており,セル内の移動中のユーザ及び静止しているユーザの数が時間の経過と共に変化するとの技術常識を考慮すれば,移動端末に対するサブキャリアの割り当てを構成し直そうとするときにそれぞれユーザの数が時々刻々と変化し続ける可能性があること,換言すればセル内の移動中のユーザ及び静止しているユーザの数が変化したタイミングにおいて移動端末に対するサブキャリアの割り当てをし直す可能性があることは当然に理解できる旨主張し,上記(相違点4)を相違点としていない。
しかし,甲31発明はマルチスロット,マルチキャリア通信システムであって,上記「(相違点3についての検討)」のとおり,サブキャリアの割り当てを行うものではない。そして,上記「3.無効理由1(特許法第29条第1項第3号及び特許法第29条第2項)について」の項の「(3)対比・判断」の項の「ア.甲第1号証に基づく新規性違反の有無について」の「上記(相違点1についての検討)」の項の「a」で述べたとおり,「クラスタ分類の再構成」とは,「クラスタとそのサブキャリアの間のマッピング(どのサブキャリアをどのクラスタの構成要素とするかということ)を構成し直すことに伴い,当該クラスタのカテゴリー分けが変更されること」と理解され,例えば本件特許の図9のクラスタ構成を前提として周期的なクラスタの割り当て(再教育)とは全く異なった概念である。したがって,本件特許の図9又は図12のように予め帯域内の全てのサブキャリアに対して各クラスタがマッピングされるものではない甲31発明には,「クラスタ分類の再構成」なる概念が存在し得ないことは明らかである。
したがって,請求人の上記主張は採用できない。

そして,上述のように,クラスタ分類の再構成は,本件特許の図9のように,ダイバーシティクラスタとコヒーレンスクラスタとが予め用意されていることが前提であるところ,上記「(相違点2についての検討)」のとおり,いずれの文献もダイバーシティクラスタとコヒーレンスクラスタとの両方を予め用意することを教示していないから,「クラスタ分類の再構成」なる概念を導出し得ないことは明らかである。
したがって,上記(相違点4)は当業者が容易に想到し得るものでない。

以上のとおり,本件特許発明1は,甲31発明と甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。また,本件特許発明3は,本件特許発明1の従属発明であるから,同様の理由で,甲31発明と甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

イ.甲第31号証と甲第29号証とに基づく進歩性違反の有無について
まず,上記(相違点1)について検討する。
OFDMAシステムは,甲29発明にもあるように周知のものであるが,上記「ア」の「(相違点1についての検討)」のとおり,OFDMAシステムが周知であるからといって,相違点1を当業者が容易に想到することができたとはいえない。

次に,上記(相違点2)について検討する。
甲29発明は,OFDM方式を採用した路車間通信システムにおいて,2種類の副搬送波を交互に配置することで周波数選択性フェージングに強いシステムとするものであるが,上記「ア」の「(相違点2についての検討)」のとおり,マルチスロット,マルチキャリア通信システムの甲31発明にマルチスロット構成を持たないOFDM方式に係る甲29発明や周知技術2を適用する動機付けはないし,予め用意したダイバーシティクラスタとコヒーレンスクラスタとを加入者に割り当てることはいずれの文献にも記載されていない。
したがって,相違点2は,周知技術1,2を考慮しても,甲31発明と甲29発明とに基づいて当業者が容易に想到し得たものではない。

次に,上記(相違点3)について検討する。
甲31発明は,マルチスロット,マルチキャリア通信システムであるから,必ずしも同一のタイムスロットに複数のキャリアが割り当てられるものではなく,また,甲第29号証には,図9(a)の例と図9(b)の例とを同時に使用することは記載も示唆もされていないから,「前記少なくとも1つのダイバーシティクラスタと前記少なくとも1つのコヒーレンスクラスタをそれぞれ同時に使用することによって前記第1及び第2の加入者との通信が生じ得る」ことを教示するものではない。
したがって,相違点3は,甲31発明と甲29発明とに基づいて当業者が容易に想到し得たものではない。

次に,上記(相違点4)について検討する。
上記「ア」の「(相違点4についての検討)」のとおり,クラスタ分類の再構成は,本件特許の図9のように,ダイバーシティクラスタとコヒーレンスクラスタとが予め用意されていることが前提であるところ,上記「ア」での「(相違点2についての検討)」のとおり,いずれの文献もダイバーシティクラスタとコヒーレンスクラスタとの両方を予め用意することを教示していないから,「クラスタ分類の再構成」なる概念を導出し得ないことは明らかである。

以上のとおり,本件特許発明1は,甲31発明と甲29発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。また,本件特許発明3は,本件特許発明1の従属発明であるから,同様の理由で,甲31発明と甲29発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

ウ.甲第31号証と甲第30号証とに基づく進歩性違反の有無について
請求人は,口頭審理陳述要領書(4-2)(15頁5行?18頁13行)にて,甲31号証には「このようなキャリアの全てを適応的に割り当てることは・・・チャネル測定情報及び割り当て情報を転送するために過度に大量の測定リソース及びシグナリングリソースを必要とすることになろう。・・・測定リソース及びシグナリングリソースの使用を最小限にする一方,効果的ACAを,依然,提供する。」との記載があるから「チャネルの割り当てに必要とされる時間を抑えると共に,チャネルの割り当てを効率的なものとすること」をも目的としているとして「処理の効率及び速度を高めることができる」との効果を謳う甲第30号証を適用する動機付けがある旨主張しているので,当該主張も併せて検討する。

まず,上記(相違点1)について検討する。
OFDMAシステムは,甲2発明,甲29発明にもあるように周知のものであるが,上記「ア」の「(相違点1についての検討)」のとおり,OFDMAシステムが周知であるからといって,相違点1を当業者が容易に想到することができたとはいえない。

次に,上記(相違点2)及び(相違点3)について検討する。
甲30発明は,OFDM/TDMA方式に基づく送信方法であるため,チャネルはサブキャリアとタイムスロットとの組み合わせで形成される点で甲31発明と共通するものの,甲30発明は,チャンネル伝達関数の変化とパイロットシンボルの数との関係を教示するにとどまり,甲31発明にも甲30発明にも「ダイバーシティクラスタ」及び「コヒーレンスクラスタ」の概念は存在しないから,相違点2,3は,甲31発明と甲30発明とに基づいて当業者が容易に想到し得たものではない。
更に,「チャネル測定情報及び割り当て情報を転送するための測定リソース及びシグナリングリソースを最小限にすること」と「チャネルの割り当てに必要とされる時間を抑える」こととは概念的にも技術的にも全く異なることであり,リソースを増やせば必要とされる時間を抑え得ることもあるし,また,甲第31号証ではチャネルをNからMの部分集合に限定することによりリソースの問題を解決していると認められる(甲第31号証の訳文の6頁下から4行?7頁14行等参照。)から,甲第31号証が「チャネルの割り当てに必要とされる時間を抑える」ことをも目的としているとはいえず,請求人が主張する動機付けを認めることはできない。

次に,上記(相違点4)について検討する。
甲31発明及び甲30発明には「ダイバーシティクラスタ」及び「コヒーレンスクラスタ」の概念はないから,「クラスタ分類の再構成」なる概念が存在しないことは明らかであり,甲31発明と甲30発明とに基づいて相違点4を想到することはできない。

以上のとおり,本件特許発明1は,甲31発明と甲30発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。また,本件特許発明3は,本件特許発明1の従属発明であるから,同様の理由で,甲31発明と甲30発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(4)まとめ
以上のとおりであるから,本件特許発明1,3についての特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものではない。



第6 むすび
以上のとおりであるから,請求人の主張する無効理由によっては,本件の請求項1,3に係る発明についての特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については,特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により,請求人が負担すべきものとする。
よって,結論のとおり審決する。


なお,被請求人から,口頭審理における主張を繰り返す内容の平成26年3月7日付け上申書が提出された(審理終結通知の発送日と同日である同年3月10日受入。)が,審決の結論に影響するものではないので,採用しない。
 
審理終結日 2014-03-06 
結審通知日 2014-03-10 
審決日 2014-03-28 
出願番号 特願2002-550747(P2002-550747)
審決分類 P 1 123・ 537- Y (H04J)
P 1 123・ 121- Y (H04J)
P 1 123・ 536- Y (H04J)
P 1 123・ 113- Y (H04J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高野 洋  
特許庁審判長 菅原 道晴
特許庁審判官 藤井 浩
新川 圭二
登録日 2008-11-07 
登録番号 特許第4213466号(P4213466)
発明の名称 適応クラスタ構成及び切替による多重キャリア通信  
代理人 ▲崎▼地 康文  
代理人 黒田 博道  
代理人 市川 英彦  
復代理人 青木 孝博  
代理人 北口 智英  
代理人 隈部 泰正  
代理人 城山 康文  
代理人 森山 航洋  
代理人 飯田 秀郷  
代理人 金山 賢教  

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