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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A23L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A23L
管理番号 1287423
審判番号 不服2011-24557  
総通号数 174 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-06-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-11-14 
確定日 2014-05-07 
事件の表示 特願2006-139127「増加した総食物繊維を有するフラワー組成物、その製造プロセスおよび使用」拒絶査定不服審判事件〔平成18年11月30日出願公開、特開2006-320325〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成18年5月18日(パリ条約による優先権主張2005年5月18日、米国)の出願であって、平成22年9月7日付けで拒絶理由が通知され、平成23年3月10日付けで手続補正がなされるとともに意見書が提出されたが、同年7月6日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年11月14日付けで手続補正がなされるとともに拒絶査定不服審判が請求され、平成25年6月28日付けで審尋がなされ、平成25年10月24日付けで回答書が提出されたものである。

第2 平成23年11月14日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成23年11月14日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正の内容
前記手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。

「【請求項1】
澱粉を含む多成分組成物であるフラワーの総食物繊維を増加させるプロセスであって、該フラワーの10?50重量%の総水含量で、80?160℃の目標温度で、そして該目標温度において0.5?15分間の時間という条件下で、該フラワーを加熱して、熱処理されたフラワーを生じさせる工程を含み、
前記熱処理前では、該フラワーが、小麦粉及び米粉以外の場合であれば該フラワー中の澱粉の少なくとも40重量%のアミロース含量を有し、小麦粉あるいは米粉の場合であれば該フラワー中の澱粉の少なくとも27重量%のアミロース含量を有し、
該条件が、総食物繊維を該フラワーの重量基準で少なくとも10%増加させる様に選択されるものである、プロセス。」

2.補正の適否
前記請求項1は、フラワーに関し、補正前の「フラワー」を「澱粉を含む多成分組成物であるフラワー」に限定するものであるから、本件補正は、補正前の請求項に記載された発明を特定するために必要な事項を限定するものである。
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するか否か)について以下に検討する。

(1)本願補正発明
本願補正発明は、前記「1.補正の内容」に記載したとおりのものである。

(2)刊行物及びその記載事項
(2-1)原査定の拒絶理由に引用された本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である「特開2002-315525号公報」(原査定の引用文献1。以下、「刊行物1」という。)には、次の記載がある。
なお、下線は、当審にて付したものである。以下、同様である。

(刊1-1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 総食物繊維含量が増加した穀類の製造方法であって、穀類の乾燥質量に基づいて約8質量%?約85質量%の総水分含量を有する出発穀類を、約65℃?約150℃の温度で、少なくとも10%の総食物繊維含量(TDF)の増加を示す熱処理穀類を提供する水分及び温度条件の組み合わせで加熱することを含む、前記製造方法。
【請求項2】 前記出発穀類が少なくとも40質量%のアミロース含量を有するデンプン成分を含有し、かつ前記熱処理穀類の粒状構造が完全には破壊されない、請求項1記載の方法。
【請求項3】 請求項1又は2記載の方法により製造された穀類。」

(刊1-2)「【0011】
【発明が解決すべき課題】驚くべきことに、穀類、特に高アミロース穀類の総食物繊維含量は、ある水分範囲において加熱処理することにより著しく増加することを発見した。さらに、熱処理時に、総食物繊維含量に加えて、高アミロース穀類の難消化性デンプン含量が増加する。さらに、本発明の穀類は、独特の加工耐性を有し、食物繊維及び難消化性デンプンをほとんど損失することなく直接、食物製品に加工することができる。
【0012】
【課題を解決するための手段】本発明は食物繊維及び/又は難消化性デンプン含量が増加した穀類の製造方法及びこの方法によって調製された耐加工性を有する穀類に関する。さらに本発明は、非常に高い食物繊維及び難消化性デンプン含量を有する高アミロース穀類を提供する。特に、本発明は、選択された熱-水分処理による改良された穀類の製造と、さらにデンプン含有製品の製造における前記穀類の使用を含む。
【0013】総食物繊維含量が増加した穀類の製造方法は、穀類の乾燥質量に基づいて約8質量%?85質量%の総水分含量を有する出発穀類を、約65℃?約150℃の温度で、少なくとも10%の総食物繊維含量(TDF)の増加を示す熱処理穀類を提供する水分及び温度条件の組み合わせで加熱することを含む。本発明の改良された穀類は、独特の加工耐性を有し、食物繊維及び難消化性デンプンをほとんど損失することなく直接、食物製品に加工することができる。本発明は、さらにこの熱処理穀類を含む改良された製品を含む。
【0014】本発明は、食物繊維及び/又は難消化性デンプン含量が増加した穀類の製造方法及びこれによって製造された加工耐性の穀類に関する。さらに、本発明は、非常に高い食物繊維及び難消化性デンプン含量を有する高アミロース穀類を提供する。特に本発明は、水分と温度条件の組み合わせによる改良された穀類の製造、及び更にデンプン含有製品の製造におけるこの穀類の使用を含む。」

(刊1-3)「【0018】出発穀類として典型的な材料は、コムギ、コーンまたはトウモロコシ、コメ、オオムギ、ライムギ、モロコシ及びこれらの高アミロース含有種を含む穀類で、好ましくはコーンである。ここで用いられているように、「高アミロース」という語は、少なくとも約40質量%のアミロースからなるデンプンを含む穀類を含むことを意図している。高アミロース含量の成分デンプンを有する穀類、好ましくは70%より多いアミロース含量、及び最も好ましくは90%より多いアミロース含量の穀類が、本発明に使用するのに最適であることがわかった。
・・・
【0021】本発明の出発穀類は、また、例えば、胚芽除去粗びき穀物又はカーネル等の乾式粉砕穀類を含む、当該技術分野でよく知られた方法により部分的に加工された穀類も含む。本発明の改良された穀類は、出発穀類を、水分含量が約8?85%になるまで水和させた後、この穀類を65?150℃の温度で熱処理し、処理された穀類を乾燥させることによって製造される。改良穀類(「熱処理」穀類)を得るための、特定の水分含量及び熱処理条件は、用いる主原料穀類のタイプ及び加工法に依存する。特に、出発穀類を部分的に加工することにより、本発明の改良穀類を得るのに必要な水分含量、温度及び時間を減らすことができる。
【0022】処理される出発穀類の全水分または水含量は、典型的には、乾燥穀類の質量に基づいて約8?約85質量%の範囲で、好ましくは約15質量%?約55質量%、更に好ましくは約20質量%?約45質量%、もっとも好ましくは約20質量%?35質量%である。穀類の水分取り込みは、水和時に用いた水の量、水温、穀類の加工又は粉砕の程度、植物源に依存する。水和は、水中に浸す等、当該技術分野で知られた多くの方法により行うことができる。この水分の相対レベルは、実質的な加熱段階の間、維持され、例えば、密閉した容器内で加熱するといった当該技術分野で知られた方法によって行うことができる。熱処理の完了後、穀類をさらに乾燥してもよい。
【0023】特定の水分含量を有する出発穀類は、典型的には約65?150℃、好ましくは約90?130℃、好ましくは約90?約125℃、最も好ましくは約90?約120℃の温度で加熱される。最も好ましい温度は、穀類の植物源、加工の程度、及び穀類の水分含量に応じて変化しうる。また、穀類を加熱する時間も、所望の総食物繊維含量の他、出発穀類源、その加工の程度、水分含量、加熱温度に応じて変化する。典型的には、加熱時間は、約0.5?24時間、好ましくは約1?17時間であろう。
【0024】高いレベルの総食物繊維及び/又は難消化性デンプン含量を得るために穀類を処理するにあたり最も好ましい条件は、デンプンの顆粒構造が完全には破壊されないような条件である。高水分及び高温といった、ある条件下においては、成分デンプン粒は部分的に膨張するが、結晶度は完全には破壊されない。従って、「粒状デンプン」という語は、ここで用いられているように、少なくとも部分的に粒状構造を保持している為にある程度の結晶度を示し、これによって、その顆粒を米国特許5,849,090号に記載の方法により測定した場合に、複屈折を示し偏光下でマルタ十字架が明白であるようなデンプンを意味する。
【0025】加熱処理後、穀類を、例えば自然乾燥又はベルト乾燥により乾燥させ、水分が約10?約15質量%である平衡水分にしてもよい。流動床乾燥条件の使用を含め、他の乾燥方法も用いることができる。熱処理(及び乾燥)穀類の食物繊維含量の増加度は、用いた加工条件や、用いた特定の出発穀類によって異なる。特に、穀類における増加量は、少なくとも10%、更に好ましくは少なくとも30%、さらに好ましくは少なくとも40%、最も好ましくは少なくとも50%である。
【0026】ある条件下では、40%より多いアミロース含量を有する本発明の熱処理穀類は、総食物繊維含量のみならず難消化性デンプン含量について、所望の増加を示す。難消化性デンプン及び繊維含量の両方を増加させるためには、出発高アミロース穀類を水分約20?約35%の水分含量が得られるまで水和させ、その後約90℃?120℃の温度で熱処理しなければならない。
【0027】本発明の処理穀類は、総食物繊維含量が高い製品を作るために、直接食品に用いるか又は粉砕して穀粉として食品に用いることができる。さらに、改良された穀類に含まれるデンプンを、例えば、穀類を湿式粉砕して抽出する等、当該技術分野において通常の知識を有する者に知られた方法により、改良された穀類から単離することもできる。これらの穀類は、これを加工して用いた食品が著しく高い食物繊維及び難消化性デンプン含量を保持していることで特徴付けられる、著しく高い加工耐性を示す。」

(刊1-4)「【0041】実施例1-高TDF含量の穀類の製造
本実施例は、本発明の処理穀類の製造方法を示す。普通のトウモロコシ及びHYLON(商標)V、HYLON(商標)VII及びLAPS穀類(各50グラム)を含む高アミロース含有穀類のカーネル又は穀類を様々な時間で過剰の水に浸漬し、水分含量を乾燥穀類の5?約55質量%とした。余分な水を排出して、胚芽をタオル乾燥し、上記記載の水分秤量試験で水分含量が測定された。乾式粉砕されたトウモロコシカーネルの水分取り込みは、植物種と粉砕程度により変化した。
【0042】カーネルを温度が約65℃?150℃の乾燥器の中に入れ、密閉容器中で0.5?24時間、熱処理した。加熱後、カーネルを一晩自然乾燥して粉砕した後、上記TDF及びRS含量の測定法に従って分析した。TDF及びRS含量は、浸漬したカーネルの水分含量及び熱処理した温度により変化した。」

(2-2)原査定の拒絶理由に引用された本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である「特開2001-231469号公報」(原査定の引用文献2。以下、「刊行物2」という。)には、次の記載がある。

(刊2-1)「【特許請求の範囲】
・・・
【請求項2】 a)少なくとも40質量%のアミロース含量を有する高アミロース澱粉を、該澱粉が粒状のままであり且つ複屈折性であり、該澱粉の総水分含有率が約10?80質量%であり、温度が約60℃?160℃であるような水分および温度条件の組み合わせの下で加熱し、そして、b)アモルファス領域を除去する、ことを含む、総食物繊維含量が増加した高耐性粒状澱粉を製造する方法であって、得られる耐性粒状澱粉が、少なくとも約20%の総食物繊維含量および少なくとも約80%の耐性澱粉含量であることを特徴とする方法。」

(刊2-2)「【0014】高アミロースのトウモロコシハイブリッドは、アミロース含量の高い澱粉を天然に得るために開発され、そして1963年頃から市販品が入手できている。本発明において有用な適当な高アミロース澱粉は、少なくとも40%、特に少なくとも65質量%のアミロース含量を有する任意の澱粉である。本発明において有用な澱粉材料は、フラワー(flour)の澱粉成分が少なくとも40質量%のアミロースを含有する、高アミロースフラワーをも包含することができる。本明細書全体で使用する澱粉という語は、フラワーの包含を意図しており、そして、本明細書および特許請求の範囲においてフラワーの高アミロース含量に言及する時は、該フラワーの澱粉成分のアミロース含量を指すということを理解されたい(例えば、フラワー中の澱粉量を基準として40質量%のアミロース)。このようなフラワーは、典型的には、蛋白質(約8?13質量%)、脂質(約3質量%まで)および特定の高アミロース含量を含む澱粉(約80?90質量%)を含んでいる。」

(2-3)本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である「丸善食品総合辞典,平成10年3月25日発行,丸善株式会社」(以下、単に「周知文献」という。)には、次の記載がある。

(周知文献):
(周知-1)「フラワー[flour] ふるいにかけた穀物の粉,とくに小麦粉のこと.」(951頁右欄8?9行)

(周知-2)「コーングリッツ[corn grits] とうもろこしの胚乳部を挽き割りにしたもの.この工程で分けられた微細粉をコーンフラワーという.テンパリング(水分調節)した玄穀(主としてデント種)を粗砕し,胚芽と果・種皮,糊粉層などを除いたものを粉砕し,コーンフラワー部とコーングリッツ部にし(篩)別する.後者はさらにロールで破砕後,篩別して目的とした粒度の製品とする.コーングリッツはおもに硬質胚乳部から,コーンフラワーはおもに粉質胚乳部から生成される.コーングリッツは粒度によりそれぞれ用途が異なる.・・・コーンフラワーは,粒度60メッシュ以下で,製菓,スナック食品,水産練り製品などに利用される.」(420頁左欄16?31行)

(2-4)刊行物1に記載された発明
前記(刊1-1)?(刊1-4)によれば、刊行物1には、穀類、特に、高アミロース穀類の総食物繊維含量が、特定の水分範囲において加熱処理することにより著しく増加することを見出し、これに基づいて、総食物繊維含量(TDF)が少なくとも10%増加した穀類を製造する方法の発明として、穀類の乾燥質量に基づいて約8質量%?約85質量%の総水分含量を有する穀類とする工程、次いで、約65℃?約150℃の温度で加熱する工程を含む、次の発明(以下、「刊行物1発明」という。)がなされたことが記載されていると認められる。

(刊行物1発明):
「総食物繊維含量が増加した穀類の製造方法であって、穀類の乾燥質量に基づいて約8質量%?約85質量%の総水分含量を有する出発穀類を、約65℃?約150℃の温度で、少なくとも10%の総食物繊維含量(TDF)の増加を示す熱処理穀類を提供する水分及び温度条件の組み合わせで加熱することを含む、前記製造方法。」

(3)対比(一致点・相違点の認定)
ア 本願明細書には次の記載がある。
(ア1)「【背景技術】
【0002】
本発明は、総食物繊維の増加したフラワー組成物を製造するプロセス、得られたフラワー組成物およびその使用に関する。このフラワーは、高アミロースフラワーの選択された短い時間の熱水処理(以下「熱処理」ともいう)により調製される。さらに本発明は、この高食物繊維フラワー組成物の食品製品への使用に関する。
【0003】
フラワーは、典型的には澱粉、蛋白質、脂肪(脂質類)、繊維、ミネラル類およびいろいろな他の可能な成分を含む複雑な組成物である。澱粉成分は、二つのタイプの多糖分子、アミロース(α‐1,4‐D‐グルコシド結合により結合されたD‐無水グルコース単位の殆ど直線的で可撓性ポリマー)およびアミロペクチン(α‐1,6‐D‐グルコシド結合により結合された直鎖の分枝状ポリマー)からなる複雑な炭水化物である。
【0004】
澱粉は、特定の工程操作を経て、抵抗性澱粉に変換できることが知られていて、この抵抗性澱粉は高食物繊維含量を有しおよび/あるいは膵(pancreatic)アミラーゼに対し抵抗性がある。実質的に総食物繊維を増大させるためには、この様な工程操作は、典型的には一時間以上のオーダーのかなりの時間がかかる。研究文献は、この様な澱粉類は、結腸の健康および減少されたカロリー値を含む多くの有益な効果を有することを示す。なお、これら澱粉類は、減少した食物炭水化物、減少した血糖反応値およびインシュリン反応値を提供でき、満腹感を与え、エネルギー徐放、体重管理、低血糖症、高血糖症、損なわれたグルコース制御、インシュリン抵抗症状、タイプII真性糖尿病および向上した運動能力、精神集中および記憶に貢献する。
【0005】
驚くべきことには、高アミロースフラワーは、短時間の熱水処理で処理されてその総食物繊維含量を増大できることと、この様なフラワーはいろいろな製品に有用であることがこの度発見された。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
・・・
【0008】
総食物繊維(TDF)は、ここに使われている様に、AOAC(Association of Analytical Chemists)法991.43(Journal of AOAC, Int., 1992, v. 75, No. 3, p. 395-416)により記載された方法を使用して測定された食物繊維含量を意味する様に意図されている。総食物繊維は、乾燥ベースで報告される。
【0009】
フラワーは、ここに使われている様に、澱粉を含み、そして蛋白質、脂肪(脂質類)、繊維、ビタミン類および/あるいはミネラル類を含むことがある多成分組成物を意味する様に意図されている。フラワーは、制限なしにひき割り(meal)、全粒小麦粉、コーン、マーサ(masa)、粗びき穀物(grits)およびフレーキング粗びき穀物(flaking grits)を含む様に意図されているが、純澱粉を含む様には意図されていない。
【0010】
ここに使用されている様に、高アミロースフラワーは、実施例セクションで詳述されている電位差測定法により測定されたフラワーの澱粉に対して、小麦粉および米粉については少なくとも約27重量%のアミロースを含むフラワーを意味し、他のフラワーについては少なくとも約40重量%のアミロースを含むフラワーを意味することが意図されている。
・・・
【0012】
ここに使われている様に、加熱時間は、目標温度における時間であり、昇温(ramping)時間を含まない。
ここに使われている様に、昇温時間あるいはランピング(ramping)時間は、フラワーを室温から目標温度まで加熱するのに必要とされる時間を意味する様に意図されている。
目標温度は、ここに使われている様に、フラワーが熱水処理される温度であり、フラワーが80℃に到達した時に始まる。
・・・
【0014】
発明の詳細な説明
・・・
【0019】
本発明のフラワーを調製するに当り、フラワーを、特定された時間、特定された総水含量で、そして限定された温度と時間の組合せで処理して、フラワーの澱粉成分が部分的にあるいは全面的に糊化するのを避けるか、最小にする様にして、澱粉成分が実質的に粒状構造を保持する様にする必要がある。部分糊化は起り得るが、最小にして可能な最高のTDFを維持するようにする。・・・
【0020】
総水(湿分)含量は、乾燥フラワー(乾燥固体基準)の重量に対して約10?50重量%の範囲にあり、一実施態様において約20?30重量%の範囲にある。一つの実施態様において、湿分のこの相対レベルは、全加熱工程で実質的に一定に維持される。別の実施態様において、加熱の際に水はフラワーに添加されない(すなわち、加熱工程の際にフラワーの湿分含量以外の水は存在しない)。・・・
【0021】
フラワーは約80?160℃の目標温度で加熱され、一つの実施態様では約100?120℃の目標温度で加熱される。最も望ましい温度と水含量は、個々のフラワー組成(ソースおよび蛋白質、澱粉および脂質を含む)およびそのアミロース含量に依存して変わり得るが、高総食物繊維含量に対しては、澱粉が粒状状態に留まり、結晶特性および複屈折特性を失わないことが重要である。
【0022】
目標温度での加熱時間は、湿分の量および加熱温度は勿論のこと使用するフラワー、フラワーのアミロース含量および粒度および望ましい総食物繊維含量に依存して変化し得る。一実施態様において、この様な加熱時間は約0.5?15分である。・・・
・・・
【0026】
一つの実施態様において、熱処理はバッチ処理として行なわれ、フラワーは80?160℃の範囲の温度に昇温し、そして実質的に一定の温度に保たれる。別の実施態様において、熱処理は短い昇温時間で連続処理として行なわれる。連続処理の一つの実施態様において、フラワーは80?160℃の範囲の温度に昇温してから、実質的に一定の温度に保ち、また別の実施態様においては、この様な温度に到達した時までに熱処理が実質的に完了している。
・・・
【0031】
熱水処理されている得られたフラワー製品は、顕微鏡下で観察した時複屈折特性により、および偏光下で観察した時本来の澱粉中に存在するマルタ十字の損失がないことにより証明される粒状構造を保持した澱粉を含む。フラワーは、少なくとも約20%の総食物繊維含量を有し、熱水処理前のフラワーの総食物繊維含量より少なくとも10%(フラワーの重量に対する絶対値)高い。・・・
・・・
【実施例】
【0048】
・・・
【0072】
実施例4-連続システムにおける短い処理時間および急昇温での熱水処理により生じた増加TDFを有する高アミロースコーンフラワー
実施例1で述べた高アミロースコーンフラワーを連続短時間プロセスを用いて熱水処理した。連続プロセスのデザインは、ジャケットで加熱される薄膜乾燥機(Solidaire、モデルSJS 8-4、Hosokawa-Bepex、米国ミネソタ州)とこれと直列のジャケットで加熱されるコンベアースクリュー(Thermascrew、モデルTJ-81K3308、Hosokawa-Bepex、米国ミネソタ州)からなる。このシステムは適度な圧力下で操業する様に設計されている。ダブルナイフゲートバルブを使用して、高アミロースコーンフラワーを補給および排出しながらシステム圧を維持した。薄膜乾燥機を使用して、高アミロースコーンフラワーをそれぞれの目標温度に加熱した。薄膜乾燥機中の滞留時間は、計算して約1分間であった。加熱されたコンベアースクリューを使用して、加熱?湿分処理時間を制御した。スクリュー速度で滞留時間を調整した。熱水処理の前に、バッチリボンブレンダーを使用して、高アミロースコーンフラワーの湿分含量を25%(+/- 1%)に調節した。湿分調節高アミロースコーンフラワーを、約50kg/時で加圧システムに供給した。製品の目標温度と同等な水蒸気温度で飽和水蒸気をシステムに供給した。水蒸気供給を行なって、処理の際に製品中で少なくとも25%の湿分を保った。温度プローブは、薄膜乾燥機からコンベアースクリューへ製品を移す所に置いた。高アミロースコーンフラワーは、表4に示す条件で処理した。
試料は、TDFにつき分析した。TDFのデータを表4に示す。
【0073】
【表4】


【0074】
表4のデータは、この短時間処理が、高アミロースコーンフラワーのTDFを未処理フラワーの31%から熱水処理した製品の54?62%に増加させたことを示す。」

イ また、平成25年10月24日付け回答書には次の記載がある。

(イ1)「【回答の内容】
1.今回の審尋・・・
すなわち、出願当初に出願人が意図した発明はともかくとして、現在の特許請求の範囲に記載の発明は、実施例4及び実施例11、並びに連続工程を用いたその他の若干の実施例を基礎としたものであり、バッチ工程を用いる実施例1とは直接関係ありません。実施例1は、参考例程度の位置づけとなりますので、実施例1に基づいて行った出願人の主張は無視して頂くようお願い致します。
2.実施例4の説明
そこで、具体的な審尋事項にお答えする前に、代表的な実施例として、実施例4についてご説明致します。実施例4は、説明の便宜上分ければ、下記の3段階を含んでいます。
第1段階:バッチリボンブレンダーを用いて、原料である高アミロースコーンフラワーの湿分(水分)を調整する段階。この工程は、周囲温度、すなわち人為的な加熱や冷却を伴わない温度、実際には25℃程度の温度で行い、湿分(水分)を25%に調整しました。
・・・
第2段階:ジャケットで加熱される薄膜乾燥機を用いて、熱水処理のための一定温度(100℃、120℃、又は130℃)まで昇温する段階。この段階では、加湿されたフラワーを、100℃又はそれより高温に昇温するため、薄膜乾燥機は実質的に密閉されて加圧状態に維持しました。昇温のための加熱は、飽和水蒸気をジャッケットに供給することにより行いました。飽和水蒸気を使用したには、その圧力を制御することにより、簡単に温度が制御できるためです。
第1段階で加湿した約25℃のフラワーを一定温度(100℃、120℃、又は130℃)まで昇温するための時間は約1分間であり、したがって、当該一定の温度が高くなるにしたがって昇温速度を速くする必要があります。この昇温速度は、ジャッケットに供給する飽和水蒸気の圧力(したがって温度)を調整することにより行いました。
なお、この昇温時間は、明細書の段落〔0022〕の第2パラグラフに記載されているとおり、一般的には、「約5分間未満」です。
第3段階:第2段階において昇温されたフラワーの温度(100℃、120℃、又は130℃)を、ジャケットで加熱されるコンベアースクリュー中で、所定の時間(5分間又は15分間)にわたり維持する段階。「コンベアースクリュー」と称する装置は、内部でスクリューコンベアが回転する長い形の密閉された装置であり、その一端(入口端)から、第2段階で昇温されたフラワーが導入され、スクリューコンベアの回転により他端(出口端)に移送され、当該出口端から排出されます。
薄膜乾燥機中では、フラワーの温度(100℃、120℃、又は130℃)を維持するため、コンベアスクリュー中の圧力は、当該温度に対応する圧力に維持しました。第2段階での「薄膜乾燥機」及び第3段階での「コンベアスクリュー」内での圧力の維持は、「薄膜乾燥機」の入り口、「薄膜乾燥機」と「コンベアスクリュー」との間、及び「コンベアスクリュー」の出口に設けた「ダブルナイフゲートバルブ」を調節することにより行いました。
なお、第3段階では、昇温のための熱は必要ありませんが、コンベアスクリューからの放熱を補って一定の温度を維持するための熱を外部から加える(加熱する)必要があり、この加熱のためにジャケットに飽和水蒸気を供給しました。
実施例4には、「製品の目標温度と同等な水蒸気温度で飽和水蒸気をシステムに供給した」と記載されていますが、同等な水蒸気温度とは、製品(フラワー)の目標温度を維持するのに必要な温度であり、製品(フラワー)の目標温度より幾分高い温度であるのが一般的です。
「温度プローブ」は、「薄膜乾燥機」から「コンベアスクリュー」に流入するフラワーの温度(品温)を正確に測定するために、フラワーに接するように設置しました。当該フラワーの温度(品温)を正確に測定し、その温度を維持するように、上記の意味における、「製品の目標温度と同等な水蒸気温度」の飽和水蒸気をジャッケットに供給しました。
表4に記載の5分及び15分は、フラワーが「コンベアスクリュー」の一端(入口端)から導入され、他端(出口端)から排出されるまでの時間(滞留時間)であり、コンベアースクリュー中のスクリュー速度(具体的には、スクリューの回転速度)を調節することにより滞留時間を調節しました。」

これらによれば、本願補正発明は、澱粉を含む多成分組成物である高アミロースフラワー、例えば、澱粉の少なくとも約40重量%のアミロースを含むコーンフラワーの総食物繊維量が、短時間の熱水処理により増大することを見出し、これに基づいて、総食物繊維量が乾燥重量基準で少なくとも10%増加した高アミロースフラワーを製造する方法の発明として、出発材料としてのフラワーの水分含量を調整して総水含量10?50重量%のフラワーとする工程、次いで、このフラワーを80?160℃の範囲内の温度にまで短時間で昇温し、総水含量を維持しつつ、0.5?15分間保持する(ただし、昇温過程において80℃を超えた時点からの経過時間を含む。)という熱水処理を行う工程を含む方法として特定されたものであるということができる。

ウ 一方、刊行物1発明については、まず、その「出発穀類」は、前記(刊1-3)によれば、「典型的な材料は、コムギ、コーン・・・及びこれらの高アミロース含有種を含む穀類で、好ましくはコーン」であり、この「高アミロース」とは、「少なくとも約40質量%のアミロースからなるデンプンを含む穀類を含むことを意図している」ものであるから、本願補正発明と刊行物1発明とは、その出発材料が、いずれも、澱粉を含む多成分組成物である点、少なくとも約40質量%のアミロースからなる澱粉を含むコーンを含むものである点、で共通するということができる。
次に、刊行物1発明の「総食物繊維含量が増加した穀類の製造方法であって、」「少なくとも10%の総食物繊維含量(TDF)の増加を示す熱処理穀類を提供する水分及び温度条件の組み合わせで加熱することを含む」手段を採用する点は、本願補正発明の方法的手段として対比すれば、本願補正発明における「フラワーの総食物繊維を増加させるプロセスであって、」フラワーを「総水含量で、」「目標温度で、そして」「時間という条件下で、該フラワーを加熱して、熱処理されたフラワーを生じさせる工程を含み、」「該条件が、総食物繊維を該フラワーの重量基準で少なくとも10%増加させる様に選択されるものである、プロセス」に相当するということができる。
そして、刊行物1発明の「水分及び温度条件」としての「穀類の乾燥質量に基づいて約8質量%?85質量%の総水分含量」と「約65℃?約150℃の温度」は、本願補正発明の「該フラワーの10?50重量%の総水含量で」と「80?160℃の目標温度で」に対応するから、刊行物1発明の「水分及び温度条件」は、本願補正発明と所定の数値範囲を特定する点で共通するということができる。

エ 以上から、本願補正発明と刊行物1発明との間には、次の一致点・相違点があるということができる。

(一致点):澱粉を含む多成分組成物である出発材料の総食物繊維を増加させるプロセスであって、該出発材料を、所定の総水含量、所定の目標温度、所望の時間という条件下で加熱して、熱処理された出発材料を生じさせる工程を含み、
前記熱処理前では、該出発材料が、該出発材料中の澱粉の少なくとも40重量%のアミロース含量を有し、
前記条件が、総食物繊維を該出発材料の重量基準で少なくとも10%増加させる様に選択されるものである、プロセス。

(相違点1):澱粉を含む多成分組成物である出発材料に関し、本願補正発明は「フラワー」と特定するのに対して、刊行物1発明は「穀類」と特定する点。

(相違点2):熱処理の条件としての総含水量と目標温度に関し、本願補正発明は、「フラワーの10?50重量%の総水含量」と「80?160℃の目標温度」を特定するのに対して、刊行物1発明は、「穀類の乾燥質量に基づいて約8質量%?約85質量%の総水分含量」と「約65℃?約150℃の温度」を特定する点。

(相違点3):熱処理の条件としての加熱時間に関し、本願補正発明は「目標温度において0.5?15分間の時間」という条件を特定するのに対して、刊行物1発明はこれを特定しない点。

(4)判断(相違点の容易想到性の検討)
(4-1)相違点1について
ア 前記(周知-1)、(周知-2)のとおり、一般に、「フラワー」は、ふるいにかけた穀物の粉で、微細粉の状態の穀物を意味するものであることは当業者に周知である。

イ 一方、前記(ア1)のとおり、本願明細書の段落【0009】には、「フラワーは、ここに使われている様に、澱粉を含み、そして蛋白質、脂肪(脂質類)、繊維、ビタミン類および/あるいはミネラル類を含むことがある多成分組成物を意味する様に意図されている。フラワーは、制限なしにひき割り(meal)、全粒小麦粉、コーン、マーサ(masa)、粗びき穀物(grits)およびフレーキング粗びき穀物(flaking grits)を含む様に意図されているが、純澱粉を含む様には意図されていない。」と説明されているから、本願補正発明における「フラワー」は、コーンを例にとれば、微細粉の状態のコーンフラワーのみならず、コーンミールやコーングリッツといった粗挽き状態のコーン粒をも包含するものであると解すことができる。

ウ 翻って、刊行物1発明の「穀類」は、前記(刊1-3)のとおり、「本発明の出発穀類は、また、例えば、胚芽除去粗びき穀物又はカーネル等の乾式粉砕穀類を含む、当該技術分野でよく知られた方法により部分的に加工された穀類も含む。」と説明されているものである。

エ そうすると、前記(周知-2)の「テンパリング(水分調節)した玄穀(主としてデント種)を粗砕し,胚芽と果・種皮,糊粉層などを除いたものを粉砕し,コーンフラワー部とコーングリッツ部にし(篩)別する.」に照らし、本願補正発明の「フラワー」は、グリッツと区別されるフラワー、すなわち、前記アの意味での周知のフラワーより広い意味で用いられ、前記イのとおり、ひき割りであるミールや粗びき穀物であるグリッツをも含むものであることは明らかであるから、刊行物1発明の「胚芽除去粗びき穀物等の乾式粉砕穀類を含む」と説明される「穀類」をも包含する意図で用いられた語であると解すことができるというべきである。

オ 以上ア?エから、本願補正発明の「フラワー」と刊行物1発明の「穀類」との相違に係る相違点1は、実質的な相違点ではないということができる。

(4-2)相違点2について
ア 熱処理の条件としての総含水量に関しては、「約8質量%?約85質量%の総水分含量」との数値範囲を特定する刊行物1発明に対して、本願補正発明は、その一部である「10?50重量%」の範囲を特定するものである(「重量%」と「質量%」は、同じ数値であれば、同じ割合であることを示すことは自明である。)ところ、その一部の範囲は、前記(3)ア及びイに照らし、総食物繊維量が乾燥重量基準で少なくとも10%増加した高アミロースフラワーを製造するための総水含量、温度、時間の条件の最適化の域を出るものであるということはできないから、一致するということができる。
なお、刊行物1発明の「穀類の乾燥質量に基づいて」と本願補正発明の「フラワーの」は、いずれも、その百分率表示「%」の基準を特定するものであり、前記(4-1)のとおり、本願補正発明の「フラワー」と刊行物1発明の「穀類」とが実質的に相違するものではない以上、両者に技術的な相違をもたらすものではないことは明らかである。

イ また、熱処理の条件としての目標温度に関しては、本願補正発明の「80?160℃」との範囲は、刊行物1発明の「約65℃?約150℃の温度」との範囲と「80?150℃」の範囲で重複し、下限値が刊行物1発明の下限値より15℃高く、上限値が刊行物1発明の上限値よりも10℃高いものであるが、この上限値と下限値の相違についても、前記(3)ア及びイに照らし、総食物繊維量が乾燥重量基準で少なくとも10%増加した高アミロースフラワーを製造するための総水含量、温度、時間の条件の最適化の域を出るものであるということはできないから、結局、本願補正発明の「80?160℃」との範囲は、刊行物1に接した当業者が容易に設定することができるものであるというべきである。

ウ 以上ア及びイから、熱処理の条件としての総含水量と目標温度に関する相違点2は、いずれも、所定の範囲で一致するものであり、目標温度の範囲の上下限値の相違を加味しても、刊行物1に接した当業者が容易に設定することができるものであるというべきである。

(4-3)相違点3について
ア 前記(2-4)によれば、刊行物1発明は、穀類、特に、高アミロース穀類の総食物繊維含量が、特定の水分範囲において加熱処理することにより著しく増加するとの認識の下で、総食物繊維含量(TDF)が少なくとも10%増加した穀類を製造する方法の発明として、穀類の総水分含量を、乾燥質量に基づいて約8質量%?約85質量%とすること、加熱温度を約65℃?約150℃の範囲とすること、という条件を特定したものである。

イ ここで、一般に、大規模な工業プラントにおいて、安全性の確保やコストの削減の観点とは別に、生産性の向上と品質管理の観点から、如何にして効率化を図るか、如何にして製品を均質化し得るかを検討することは、当業者であれば当然に行うことである。
これを前記刊行物1発明についてみれば、刊行物1に接した当業者は、その実用化を念頭に置いて、大規模な工業プラントにおいて、如何にして熱処理過程を効率化し得るか、如何にして大量の穀類を均質に熱処理し得るかを当然に検討するので、短時間での穀類への均一で効率的な熱伝達による急速加熱の実現を図って、穀類については、その表面積を増やすべく、より細粒化すること、その熱処理過程については、処理雰囲気に晒される穀類の表面を増やすべく、穀粒を高く積み上げないように薄く広げて載置する形態で熱処理に供すること、しかも、この形態は穀類の熱履歴の均質化にも資すること、採用する装置については、熱処理の対象物が連続的な供給・排出の可能な穀類であるから、連続式とすることなどは、当業者が想到するに格別困難な事項ではないということができる。

ウ そうすると、前記アのとおり、刊行物1発明は、熱処理のための加熱時間を特定するものではないが、刊行物1に接した当業者にとって、前記イのような事項を想到して、刊行物1発明における熱処理のための加熱時間をより短く終えることも条件の1つとして、総食物繊維含量(TDF)が少なくとも10%増加した穀類を製造する方法の改善を図ることは、当業者が当然に指向する、条件の最適化の域を出るものではないというべきである。
そして、その時間については、刊行物1は、前記(刊1-3)のとおり、「本発明の出発穀類は、また、例えば、胚芽除去粗びき穀物又はカーネル等の乾式粉砕穀類を含む、当該技術分野でよく知られた方法により部分的に加工された穀類も含む。本発明の改良された穀類は、出発穀類を、水分含量が約8?85%になるまで水和させた後、この穀類を65?150℃の温度で熱処理し、処理された穀類を乾燥させることによって製造される。改良穀類(「熱処理」穀類)を得るための、特定の水分含量及び熱処理条件は、用いる主原料穀類のタイプ及び加工法に依存する。特に、出発穀類を部分的に加工することにより、本発明の改良穀類を得るのに必要な水分含量、温度及び時間を減らすことができる。」と、乾式粉砕加工等が施された穀類を採用すれば処理時間を低減することができるとの方向性を示し、「穀類を加熱する時間も、所望の総食物繊維含量の他、出発穀類源、その加工の程度、水分含量、加熱温度に応じて変化する。典型的には、加熱時間は、約0.5?24時間、好ましくは約1?17時間であろう。」と、具体的な目安も開示し、また、前記(刊1-4)のとおり、「高アミロース含有穀類のカーネル又は穀類を様々な時間で過剰の水に浸漬し、水分含量を乾燥穀類の5?約55質量%とした。余分な水を排出して、胚芽をタオル乾燥し、上記記載の水分秤量試験で水分含量が測定された。乾式粉砕されたトウモロコシカーネルの水分取り込みは、植物種と粉砕程度により変化した。」、「カーネルを温度が約65℃?150℃の乾燥器の中に入れ、密閉容器中で0.5?24時間、熱処理した。加熱後、カーネルを一晩自然乾燥して粉砕した後、上記TDF及びRS含量の測定法に従って分析した。TDF及びRS含量は、浸漬したカーネルの水分含量及び熱処理した温度により変化した。」との実施例も開示している(ここで、「カーネル」は、穀粒を意味することが周知である(必要であれば、ジーニアス英和大辞典の「kernel」の項などを参照のこと。))から、より急速な加熱処理に適したシステムの構築に資するものとして前記イの事項を想到する当業者であれば、刊行物1発明の穀類として、より細粒化した形態であることが周知のフラワー(必要であれば、前記(刊2-2)、(周知-2)を参照のこと。)を採用すれば、刊行物1に記載された最短の目安時間である0.5時間、すなわち、30分間よりもさらに短時間での熱処理が可能になることを予測するのは当然であるし、目標温度域の下限である65℃に到達した後に、目標温度によってはさらにその温度にまで昇温するのに要する時間があるなど、採用する昇温速度や設定した目標温度に依存してこの所要時間が変わるものであることから、より短時間での熱処理の目安として、例えば、「目標温度において0.5?15分間の時間」を設定し、相違点2に係る構成をなすことは格別困難なことではないということができる。

エ なお、穀粒をより細かくするに際して、澱粉の顆粒構造が完全には破壊されないような条件で行うべきことに関して、本願明細書の段落【0031】には、「熱水処理されている得られたフラワー製品は、顕微鏡下で観察した時複屈折特性により、および偏光下で観察した時本来の澱粉中に存在するマルタ十字の損失がないことにより証明される粒状構造を保持した澱粉を含む。」と開示されているが、この点については、前記(刊1-3)においても「複屈折を示し偏光下でマルタ十字架が明白であるようなデンプン」と記載されているとおりであり、当業者が当然に配慮すべきことである。

オ 本願補正発明の効果に関し、本願明細書には、熱処理時間の短縮のほかに、段落【0033】、【0094】?【0095】に次の記載がある。

(オ1)「得られたフラワーは、本来のフラワーと変わらないか、最小の色変化の受入れられる色を有する。一つの実施態様において、白色度を0?100のスケールで表すL値の変化が、元のフラワーと熱水処理したフラワーの間で10未満である。別の実施態様において、L値の変化は5未満であり、また別の実施態様において、L値の変化は2未満である。」

(オ2)「【0094】
実施例11-異なる処理時間での連続処理における高アミロースコーンフラワーの熱水処理
実施例1で述べた高アミロースコーンフラワーを、実施例4で説明したプロセスを使って、連続操作により熱水処理した。バッチリボンブレンダーを使って、高アミロースコーンフラワーを25%(+/- 1%)の湿分含量に調節した。湿分調節フラワーを目標温度120℃で5分間(実施例4からの試料D)、15分間(試料L)および30分間(試料N)熱処理した。表12は、処理条件、TDFおよび色のデータを示す。最大TDFは、5分間の短い処理時間で得られたことが判る。より長い処理時間におけるTDFの減少は恐らく粒の完全性の部分損失による。さらに、処理時間の30分間への延長は、L値の減少とa値の増加で表される著しいそして望ましくない製品の変色という結果となる。
【0095】
【表12】



これらによれば、本願補正発明によって得られるフラワーは、変色が少なく、製品の変色の観点から、許容範囲内のものであることが示されているということができる。また、処理時間30分の試料Nにおいては、未処理フラワーよりもTDFが24%増加(55%-31%=24%)しているが、処理時間5分の試料DよりはTDFが7%減少(55%-62%=-7%)し、また、望ましくない製品の変色があったことが示されているということができる。

カ 一方、刊行物1には、刊行物1発明による製品の変色については記載されていないが、前記(刊1-3)のとおり、刊行物1発明の用途に関し、「本発明の処理穀類は、総食物繊維含量が高い製品を作るために、直接食品に用いるか又は粉砕して穀粉として食品に用いることができる。さらに、改良された穀類に含まれるデンプンを、例えば、穀類を湿式粉砕して抽出する等、当該技術分野において通常の知識を有する者に知られた方法により、改良された穀類から単離することもできる。これらの穀類は、これを加工して用いた食品が著しく高い食物繊維及び難消化性デンプン含量を保持していることで特徴付けられる、著しく高い加工耐性を示す。」と、食品に用いられるものであることが明記されているから、食品に適用し得る範囲内の変色に抑えられているものと推認される。

キ そうすると、本願補正発明については、時間において最適条件を外れた長時間の熱処理を実施すれば、一度増加したTDFが減少し、許容範囲を外れる変色を生じることがあることが確認されているが、この事実をもって本願補正発明が格別の効果を奏するものであるということはできないというべきである。そして、前記ウのとおり、刊行物1発明において熱処理時間の短縮を制約条件として最適化を図るのであれば、最適条件を外れた長時間の熱処理を行うことは、当然に排除されるべき条件であって、最適条件を外れた長時間の熱処理によって、望ましくない変質や変色が生じる可能性があることは、当然に予測されるところである。

ク なお、相違点1、2に関して、仮に、本願補正発明のフラワーが、前記(4-1)アのとおり、微細粉の状態の穀物を意味し、刊行物1発明の穀類が、微細粉より大きい粒状の穀類を意味し、両者は、その粒の大きさにおいて相違するとしても(相違点1が実質的な相違点であるとしても)、しかも、相違点2に係る目標温度の範囲の上下限値の若干の相違を加味しても、その相違(相違点1、2)が相違点3に係る「熱処理の条件としての加熱時間」との組み合わせによってもたらす、目的とする技術効果は、結局、熱処理時間の短縮であるから、前記ア?キの説示に照らして、当業者が予測することができる範囲のものであって、格別顕著な効果を奏する発明であるということはできない。

ケ よって、相違点3は、刊行物1に記載された発明及び周知の事項に基づいて当業者が想到するに格別困難なものではない。

コ 審判請求人は、平成25年10月24日付け回答書において、補正案として「目標温度まで加熱する時間が5分間未満である」点を限定した発明を示し、本願明細書に記載された「実施例4-連続システムにおける短い処理時間および急昇温での熱水処理により生じた増加TDFを有する高アミロースコーンフラワー」に基づく発明であり、わずか5分間未満の昇温時間と0.5?15分間の熱処理時間で「総食物繊維を該フラワーの重量基準で少なくとも10%増加させる」ことができる格別顕著な効果を奏するものである旨主張する。
しかし、この補正案のとおりの発明が、連続システムを採用した実施例4に基づくプラントを特定し得るか否かはさておき、前記ア?ケのとおり、刊行物1発明における熱処理時間の短縮を図ることが当業者にとって容易に想到し得ることである以上、格別のことでなく、この点の主張は採用の限りでない。

サ まとめ
以上のとおりであるから、本願補正発明は、刊行物1に記載された発明及び周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)小括
よって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反してなされたものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成23年11月14日付けの手続補正は、前記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成23年3月10日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「【請求項1】
フラワーの総食物繊維を増加させるプロセスであって、該フラワーの10?50重量%の総水含量で、80?160℃の目標温度で、そして該目標温度において0.5?15分間の時間という条件下で、該フラワーを加熱して、熱処理されたフラワーを生じさせる工程を含み、
前記熱処理前では、該フラワーが、小麦粉及び米粉以外の場合であれば該フラワー中の澱粉の少なくとも40重量%のアミロース含量を有し、小麦粉あるいは米粉の場合であれば該フラワー中の澱粉の少なくとも27重量%のアミロース含量を有し、
該条件が、総食物繊維を該フラワーの重量基準で少なくとも10%増加させる様に選択されるものである、プロセス。」

2.刊行物
原査定の拒絶の理由で引用された刊行物、及び、その記載事項は、前記「第2[理由]2.(2)」に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、前記「第2[理由]2.」で検討した本願補正発明の「フラワー」について、「澱粉を含む多成分組成物である」を削除する関係にあるものである。
そうすると、本願発明の構成要件の一部を限定したものに相当する本願補正発明が、前記「第2[理由]2.」に記載したとおり、刊行物1に記載された発明及び周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、刊行物1に記載された発明及び周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.まとめ
以上のとおり、本願発明は、刊行物1に記載された発明及び周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
以上から、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願の他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-11-25 
結審通知日 2013-11-26 
審決日 2013-12-09 
出願番号 特願2006-139127(P2006-139127)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A23L)
P 1 8・ 121- Z (A23L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 長井 啓子  
特許庁審判長 板谷 一弘
特許庁審判官 安藤 倫世
関 美祝
発明の名称 増加した総食物繊維を有するフラワー組成物、その製造プロセスおよび使用  
代理人 高橋 正俊  
代理人 加藤 憲一  
代理人 永坂 友康  
代理人 古賀 哲次  
代理人 青木 篤  
代理人 石田 敬  

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