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審決分類 審判 全部無効 1項3号刊行物記載  B23K
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  B23K
審判 全部無効 2項進歩性  B23K
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B23K
管理番号 1287723
審判番号 無効2008-800124  
総通号数 175 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-07-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2008-06-30 
確定日 2014-02-20 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3680864号「レーザーによつて材料を加工する装置」の特許無効審判事件についてされた平成22年 8月25日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消の判決(平成22年行ケ第10282号平成23年10月12日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1.手続の経緯
平成 7年 5月22日 本件出願(優先日 平成6年5月30日)
平成17年 5月27日 設定登録(特許第3680864号)
平成20年 6月30日 無効審判請求
平成21年 1月 5日 答弁書1
平成21年 3月12日 請求人・口頭審理陳述要領書1及び2
被請求人・口頭審理陳述要領書1
第1回口頭審理
平成21年 3月17日 請求人・上申書1
平成21年 4月14日 請求人・上申書2
平成21年 4月15日 被請求人・上申書1
平成21年 4月24日 被請求人・上申書2
平成21年 5月11日 一次審決(全部無効)
平成21年 9月15日 出訴(平成21年(行ケ)10277号)
平成21年12月11日 訂正審判請求(訂正2009-390151号)
平成22年 1月19日 訂正審判請求による差戻決定
平成22年 2月 8日 訂正請求(特許法第134条の3第5項)
平成22年 3月 9日 弁駁書
平成22年 4月30日 答弁書2
平成22年 6月11日 請求人・口頭審理陳述要領書3
被請求人・口頭審理陳述要領書2
平成22年 6月25日 請求人・上申書3
第2回口頭審理
平成22年 7月26日 請求人・上申書4
被請求人・上申書3
平成22年 8月 2日 補正許否の決定(許可。答弁書機会不要)
平成22年 8月25日 二次審決(訂正を認め、全部無効)
平成22年 9月 3日 出訴(平成22年(行ケ)第10282号)
平成23年10月12日 判決(審決取消)
平成23年11月18日 審理終結通知(11月22日発送)
平成23年11月28日 請求人・審理再開申立書、上申書


第2.訂正請求について

1.訂正請求の内容
被請求人が、平成21年12月11日に請求した訂正審判(訂正2009-390151号)は、特許法第134条の3第5項の規定により、本件において訂正の請求が平成22年2月8日にされたものとみなされた。
被請求人が求めた訂正の内容は、以下のとおりである。

a.請求項1の
「向けられるものにおいて、」を、
「向けられるものにおいて、
前記ノズル(43)の上面と、前記ノズル(43)の上方に配置されるとともに前記レーザービーム(3)に対して透明な窓(36)の下面との間には、前記液体ビーム(12)を形成するための液体を供給するディスク状液体供給空間(35)が形成され、
前記ノズル(43)は、ノズル通路(23)のノズル入口開口(30)を有し、」
と訂正する。

b.請求項1の
「レーザービーム(3)がノズル(43)のビーム通路(23)の入口開口(30)の所で収束され、」を、
「前記レーザービーム(3)がノズル(43)のノズル通路(23)の前記ノズル入口開口(30)の所で収束され、」
と訂正する。

c.請求項1の
「液体供給空間(35)へ供給される液体が、ノズル入口開口(30)の周りにおいてせき止め空間のないように導かれ、」を、
「前記ディスク状液体供給空間(35)へ供給される液体が、前記ノズル入口開口(30)の周りにおいてせき止め空間のないように前記ノズル(43)からの前記窓(36)の高さを設定した前記ディスク状液体供給空間(35)内を前記ノズル入口開口(30)に向かって周辺から流れるように導かれ、」
と訂正する。

d.請求項5の
「実施する装置において、」を、
「実施する装置において、
前記ノズル(43)の上面と、前記ノズル(43)の上方に配置されるとともに前記レーザービーム(3)に対して透明な窓(36)の下面との間には、前記液体ビーム(12)を形成するための液体を供給するディスク状液体供給空間(35)が形成され、
前記ノズル(43)は、ノズル通路(23)のノズル入口開口(30)を有し、」
と訂正する。

e.請求項5の
「光学要素(21、25)が、レーザービーム(3)を、ノズル通路(23)の入口開口(30)の所で収束し、」を、
「前記光学要素(21、25)が、レーザービーム(3)を、ノズル通路(23)の前記ノズル入口開口(30)の所で収束させ、」
と訂正する。

f.請求項5の
「ノズル通路(23)のための液体供給空間(35)が、ノズル入口開口(30)の上においてディスク状に従って液体せき止め空間のないように形成されており、」を、
「前記ディスク状液体供給空間(35)へ供給される液体が、前記ノズル入口開口(30)の周りにおいてせき止め空間のないように前記ノズル(43)からの前記窓(36)の高さを設定した前記ディスク状液体供給空間(35)内を前記ノズル入口開口(30)に向かって周辺から流れるように導かれ、」
と訂正する。

g.請求項6を削除する。

h.請求項6の削除に伴い、請求項7、同8、同9、同10、同11、同12、同13、同14、同15、同16及び同17を各々訂正後請求項6、同7、同8、同9、同10、同11、同12、同13、同14、同15及び同16と訂正する。

i.訂正前請求項7の引用項「請求項5又は6」を、「請求項5」と訂正する。

j.訂正前請求項8の引用項「請求項5ないし7の1つ」を、「請求項5又は6」と訂正する。

k.訂正前請求項9の「入口開口(30)」を、「ノズル入口開口(30)」と訂正するとともに、引用項「請求項5ないし8」を、「請求項5ないし7」と訂正する。

l.訂正前請求項10の引用項「請求項5ないし9」を、「請求項5ないし8」と訂正する。

m.訂正前請求項11の引用項「請求項5ないし10」を、「請求項5ないし9」と訂正する。

n.訂正前請求項12の引用項「請求項5ないし11」を、「請求項5ないし10」と訂正する。

o.訂正前請求項14の引用項「請求項13」を、「請求項12」と訂正する。

2.訂正請求についての当審の判断
訂正請求について検討する。
訂正事項a、c、dは、特許請求の範囲の減縮を目的とし、訂正事項b、eは、誤記の訂正及び明りょうでない記載の釈明を目的とし、訂正事項f、h?oは、特許請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。また、請求項6を削除する訂正事項gは、平成22年8月25日付け二次審決が送達された平成22年8月27日に確定している。
これらは、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張、変更するものでもない。
したがって、上記訂正は、特許法第134条の2第1項の規定に適合し、同条第5項で準用する特許法第126条第3項、第4項の規定にも適合するので、上記訂正を認める。
なお、この点は、両当事者間で争いはない(第2回口頭審理調書「両当事者 1」参照)。


第3.本件発明
訂正後の本件特許の請求項1ないし16に係る発明(以下「本件発明1ないし16」という。)は、以下のとおりである。
なお、ア、イ、ウ、・・・、アシ、アスの分説符号は、訂正前のものに対し、請求人が付したものであるが、妥当と認められ、両者間に争いもないので、訂正後も同様に採用した。訂正請求により訂正された部分については、下線を付した。

【請求項1】
ア.収束されるレーザービームによる材料加工方法であって、レーザービーム(3)を導く液体ビーム(12)がノズル(43)により形成され、加 工すべき加工片(9)へ向けられるものにおいて、
前記ノズル(43)の上面と、前記ノズル(43)の上方に配置されるとともに前記レーザービーム(3)に対して透明な窓(36)の下面との間には、前記液体ビーム(12)を形成するための液体を供給するディスク状液体供給空間(35)が形成され、
前記ノズル(43)は、ノズル通路(23)のノズル入口開口(30)を有し、
イ.レーザービームガイドとして作用する液体ビーム(12)へレーザービーム(3)を導入するため、
ウ.前記レーザービーム(3)がノズル(43)のノズル通路(23)の前記ノズル入口開口(30)の所で収束され、
エ.前記ディスク状液体供給空間(35)へ供給される液体が、前記ノズル入口開口(30)の周りにおいてせき止め空間のないように前記ノズル(43)からの前記窓(36)の高さを設定した前記ディスク状液体供給空間(35)内を前記ノズル入口開口(30)に向かって周辺から流れるように導かれ、
オ.それによりレーザービームのフォーカス円錐先端範囲(56)における液体の流速が、十分に高く決められるようにし、
カ.したがってフォーカス円錐先端範囲(56)において、レーザービームの一部がノズル壁を損傷しないところまで、熱レンズの形成が抑圧されることを特徴とする、
キ.材料を加工する方法。

【請求項2】
ク.ノズル入口開口(30)に形成された液体ビーム(12)が、そのビーム形成の直後に、エアクッション(39)によって囲まれ、
ケ.したがってノズル壁から“絶縁”されていることを特徴とする、
コ.請求項1記載の方法。

【請求項3】
サ.液体としてシリコンオイルが使用され、
シ.かつ0.25μmと2.1μmの間の波長を有するレーザービームが使用されることを特徴とする、
ス.請求項1又は2記載の方法。

【請求項4】
セ.加工片(9)の材料加工の際にその通口(24)から通り抜けたかつ/又はここから流出した液体ビーム(12)の液体が捕獲され、フィルタに通され、かつノズル(43)に戻されることを特徴とする、
ソ.請求項1ないし3の1つに記載の方法。

【請求項5】
タ.レーザービーム(3)を送出するレーザー(1)、及び液体ビーム(12)を形成するノズル通路(23)を備えたノズル(43)とビームガイドとしての液体ビーム(12)へレーザービーム(3)を導入する光学要素(21,25)とを有する加工モジュール(7)によって、請求項1ないし4の1つに記載の方法を実施する装置において、
前記ノズル(43)の上面と、前記ノズル(43)の上方に配置されるとともに前記レーザービーム(3)に対して透明な窓(36)の下面との間には、前記液体ビーム(12)を形成するための液体を供給するディスク状液体供給空間(35)が形成され、
前記ノズル(43)は、ノズル通路(23)のノズル入口開口(30)を有し、
チ.前記光学要素(21,25)が、レーザービーム(3)を、ノズル通路(23)の前記ノズル入口開口(30)の所で収束させ、
ツ.前記ディスク状液体供給空間(35)へ供給される液体が、前記ノズル入口開口(30)の周りにおいてせき止め空間のないように前記ノズル(43)からの前記窓(36)の高さを設定した前記ディスク状液体供給空間(35)内を前記ノズル入口開口(30)に向かって周辺から流れるように導かれ、
テ.それによりレーザービームのフォーカス円錐先端範囲(56)における液体の流速が、十分に高くあらかじめ与えることができ、
ト.したがってフォーカス円錐先端範囲(56)において、レーザービームの一部がノズル壁を損傷しないところまで、液体内における熱レンズの形成が抑圧されていることを特徴とする
ナ.装置。

【請求項6】
ネ.ノズル通路(23)及びノズル入口開口(30)の範囲の表面、及び液体が、電気的に絶縁されており、
ノ.かつノズル入口開口(30)及びノズル通路(23)の範囲における液体の流速が、材料取除き速度を高めるために液体ビームの帯電を行なうように、高く選ばれていることを特徴とする、
ハ.請求項5記載の装置。

【請求項7】
ヒ.ノズル通路(23)の液体入口縁(37)が、50μmより小さい半径を有する鋭い縁に構成されていることを特徴とする、
フ.請求項5又は6に記載の装置。

【請求項8】
ヘ.ノズル出口開口(40)が、ノズル入口開口(30)に対して広げられており、
ホ.かつノズル通路(23)の広がりが、その上側1/3のところにおいてすでに始まっていることを特徴とする、
マ.請求項5ないし7の1つに記載の装置。

【請求項9】
ミ.空間的に離れたところにあるレーザー(1)からフォーカスユニット(21,25)へレーザービームを供給するビームガイド(6)が設けられていることを特徴とする、
ム.請求項5ないし8の1つに記載の装置。

【請求項10】
メ.液体がシリコンオイルであり、
モ.レーザービームが0.25μmと2.1μmの間の波長範囲内にあることを特徴とする、
ヤ.請求項5ないし9の1つに記載の装置。

【請求項11】
ユ.材料加工の際に加工片通口から通り抜けたかつ/又は加工片から流出した液体を捕獲する捕獲槽(11)、
ヨ.及び捕獲槽(11)からポンプ吸出し可能な液体を浄化してノズル通路(23)へ戻すことができるフィルタユニット(15)を有するポンプ(17)が設けられていることを特徴とする、
アア.請求項5ないし10の1つに記載の装置。

【請求項12】
アイ.複数の軸線方向液体通路(61a,61b)を介して、ディスク状液体供給空間(35)へ液体が供給されることを特徴とする、
アウ.請求項1記載の方法。

【請求項13】
アエ.液体がリング通路(63)を介して、軸線方向液体通路(61a,61b)へ導入され、
アオ.これらの液体通路からディスク状液体供給空間(35)へ供給されることを特徴とする、
アカ.請求項12記載の方法。

【請求項14】
アキ.液体供給空間(35)の高さが挿入体(53)のねじ込み深さにより調節可能であることを特徴とする、
アク.請求項5記載の装置。

【請求項15】
アケ.ディスク状液体供給空間(35)へ液体を供給する複数の軸線方向液体通路(61a,61b)が設けられていることを特徴とする、
アコ.請求項5記載の装置。

【請求項16】
アサ.リング通路(63)が設けられ、
アシ.このリング通路から液体が、複数の軸線方向通路(61a,61b)を介してディスク状液体供給空間(35)へ供給されることを特徴とする、
アス.請求項5記載の装置。


第4.請求人の主張
1.主張の概要
請求人は、以下の理由、証拠に基づき、本件発明1ないし16を無効とするとの審決を求めている。
ここで、本件発明は、訂正の認容に伴い、訂正前本件発明6が削除され、項番が繰り上がった。本審決では、両当事者の文書の引用部分を除き、訂正後の本件発明に改めた。

第1:本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載は、平成6年法律第116号による改正前の特許法(以下、「改正前特許法」という。)第36条第4項に規定する要件を満たしていない。
第2:本件発明3及び10は改正前特許法第36条第5項第1号に規定する要件を満たしていない。本件発明3及び10に従属する発明も同様である。
第3:本件発明1及び5は改正前特許法第36条第5項第2号に規定する要件を満たしていない。本件発明1及び5に従属する請求項も同様である。
第4:本件発明1、5及び9は特許法第29条第1項第3号に該当する。
第5:本件発明1ないし16は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

これらのうち、第2の理由は、第1回口頭審理において撤回された(第1回口頭審理調書「請求人3」参照)。

甲第 1号証 欧州特許出願公開第515983号明細書及びその訳文
甲第 4号証 特開昭60-193452号公報
甲第 5号証 特公平1-38372号公報
甲第 6号証 特公昭58-5711号公報
甲第 7号証 特開平6-31479号公報
甲第 8号証 平成20年(ワ)12409号 特許権に基づく製造販売禁止等請求事件 原告準備書面(4)の写し
甲第 9号証 Journal of Applied Physics Vol.36, No.1 pp.3-8の写し及びその抄訳
甲第13号証 特開昭50-118121号公報
甲第14号証 特開平6-42432号公報
甲第15号証 平成20年(ワ)12409号 特許権に基づく製造販売禁止等請求事件 原告準備書面(5)の写し
甲第16号証 特開平6-112575号公報
甲第17号証 特開平6-5962号公報
甲第18号証 加藤洋治、鑑定書

なお、甲第8ないし17号証は、審判請求書に添付されたものではないが、平成22年8月2日の補正を許可する旨の決定により、証拠として採用する。
ここで、甲第2及び3号証は、第1回口頭審理において、甲第10ないし12号証は、第2回口頭審理において、いずれも参考資料とされた(第1回口頭審理調書「請求人 2」、第2回口頭審理調書「請求人 2」参照)。

2.具体的主張
請求人の主張する無効理由は、具体的には、以下のとおりである。
原文の丸囲み数字は「丸1」のように置き換えた。行数は空行を含まない。

ア.審判請求書第8ページ第13行?第13ページ第18行
「(4-1)第1の無効理由について
丸1 本件発明は、上述したように、液体を『せき止め空間のない』ように導き、これによりフォーカス円錐先端範囲における液体の流速を十分に高くし、熱レンズが形成されるのを抑圧するものであり、これにより、レーザービームの一部がノズル壁を損傷しないという効果を奏する。
ここで、熱レンズの形成を抑圧する本件発明の上述した効果は、詳細は後述するように、『使用するレーザービームの種類(波長)』、『レーザーの出力(ワット数)』、『使用する液体の種類』、『液体供給空間の構造』、『液体供給空間に液体を供給する圧力』等の実施条件を適切に組み合わせることによって初めて得られるものである。
しかしながら、本件明細書には、上述した効果を得るために必要な上記実施条件の組み合わせが1つも具体的に記載されていない。従って、本件明細書は、レーザー加工技術の分野における通常の知識を有する者が容易に本件発明の実施をすることができる程度に記載されておらず、特許法第36条第4項(平2法律30)に規定する要件を満たしていない。
以下、上記各実施条件の関係について詳述する。

丸2 『レーザービームの種類(波長)』と『液体の種類』について
(略)

丸3 『液体供給空間』の構造について
本件発明は、『加熱時間をそもそもできるだけ短く維持するために、液体が、レーザービームのフォーカス円錐の範囲から、とくにその先端範囲からできるだけ迅速に運び出』すことにより、熱レンズの発生を抑制している(本件特許公報4頁35?37行参照)。しかしながら、本件明細書には、熱レンズの発生を抑制することができる液体供給空間の構造として、『せき止め空間』がないように液体を導くことが記載されているのみであり、液体供給空間として如何なる構造を採用すると、『せき止め空間』なく液体を導くことができるかについて、何ら記載されていない。
(略)
このように、本件明細書には『せき止め空間』が具体的に定義されておらず、加えて、本件明細書において引用されているヨーロッパ特許出願公開第0515983号明細書(甲第1号証)を参照したとしても、『せき止め空間』が如何なるものであるかを理解することができない。従って、当業者には、液体供給空間へ供給される液体をノズル入口開口の周りにおいて『せき止め空間』のないように導く構成を容易に実施することができない。

丸4 『液体を供給する圧力』について
(略)

丸8 まとめ
以上説明したように、熱レンズの形成を抑圧し、これにより、レーザービームの一部によるノズル壁の損傷を防止するという本件発明の効果は、上述した種々の実施条件を適切に組み合わせることにより初めて発揮されるものであるが、本件明細書には、熱レンズの形成を抑圧するための各実施条件の一部が個別に記載されているのみであり、各実施条件を如何に組み合わせるべきかについては何ら記載されていない。従って、当業者が本件明細書を参照しても本件発明を容易に実施できないことは明らかであり、本件特許の『発明の詳細な説明』は、特許法第36条第4項(平2法律30)に規定する要件を満たしていない。」

イ.審判請求書第14ページ第4行?第15ページ第16行
「(4-3)第3の無効理由について
丸1 上記(3-1)構成要件(エ)、(ツ)に記載されている『せき止め空間』なる用語は、審査基準(1993(平5)年6月)の『特許法第36条第5項第2号違反の類型(1)』に該当し、その技術的意義が不明瞭である。従って、本件特許請求項1及び5の記載が、特許法第36条第5項第2号(平2法律30)に違反することは明らかである。さらに、これらの請求項に従属する請求項2乃至4及び請求項6乃至17(当審注、訂正の認容により『16』となったが、引用部分においては原文のままとした。以下同様。)も、請求項1及び5を含むものであるから、特許法第36条第5項第2号(平2法律30)に違反することは明らかである。

丸2 さらに、上記(3-1)構成要件(エ)、(ツ)に記載されている『せき止め空間のない』という表現は否定的な表現であり、これは、審査基準(1993(平5)年6月)の『特許法第36条第5項第2号違反の類型(12)丸1』に該当する。従って、本件特許の請求項1及び5の記載が、特許法第36条第5項第2号(平2法律30)に違反することは明らかである。さらに、これらの請求項に従属する請求項2乃至4及び請求項6乃至17も、請求項1及び5を含むものであるから、特許法第36条第5項第2号(平2法律30)に違反することは明らかである。

丸3 上記(3-1)構成要件(オ)、(テ)に記載されている『液体の流速が、十分に高く』という表現は比較の基準、程度が不明瞭な表現であり、これは、審査基準(1993(平5)年6月)の『特許法第36条第5項第2号違反の類型(12)丸3』に該当する。(略)

丸4 上記(3-1)構成要件(オ)、(テ)に記載されている『フォーカス円錐先端範囲(56)における液体の流速が、十分に高く』という記載は技術的に明瞭でなく、審査基準(1993(平5)年6月)の『特許法第36条第5項第2号違反の類型(1)』に該当する。即ち、『フォーカス円錐先端範囲』は、所定の容積を有する空間であり、この空間内の各部において液体の流速が異なるものとなっていることは明らかである。従って、『フオーカス円錐先端範囲(56)における液体の流速が、十分に高く』との記載は、フォーカス円錐先端範囲内の或る1点の流速を十分高くするとの意味であるか、フォーカス円錐先端範囲内の全ての点において流速を十分高くするとの意味であるか、或いは、フォーカス円錐先端範囲内の平均流速を十分高くするとの意味であるか不明である。
(略)」

ウ.審判請求書第15ページ第17行?第27ページ第23行
「(4-4)第4の無効理由について
(4-4-1) 本件発明1及び5について
上記(4-3)で説明したように、本件特許の請求項1及び5の記載は不備であるので、第4の無効理由の判断対象である本件発明1及び5の正確な理解は困難であるが、ここでは、便宜上、不明確である本件発明1の構成要件(エ)及び(オ)を仮定的に以下のように解釈して、第4の無効理由を説明する。
即ち、本件発明1の構成要件(エ)、(オ)、(カ)の記載から理解できるように、熱レンズの形成が抑制される(構成要件(カ))ためには、少なくとも、『液体の流速が十分に高いこと』(構成要件(オ))及び『せき止め空間がないこと』(構成要件(エ))が必要である。それゆえ、本件発明1においては、熱レンズの形成が抑制されていれば、構成要件(エ)における液体供給空間(35)のノズル入口開口(30)の周りにおいては『せき止め空間がなく』、且つ、構成要件(オ)におけるレーザービームのフォーカス円錐先端範囲(56)における液体の流速は十分に高いと解釈することにする。
本件発明5の構成要件(ツ)、(テ)、(ト)においても、熱レンズの形成が抑制されていれば、同様に、構成要件(ツ)において『せき止め空間がなく』、且つ、構成要件(テ)において液体の流速は十分に高いと解釈することにする。
(略)
丸1 甲第1号証(EP0515983A1)
本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第1号証(EP05159831A1、平成4年12月2日発行)には、材料アブレーション装置が記載されている。甲第1号証は、本件明細書において、本件発明に最も近い従来技術として挙げられた文献である。ここで、『材料アブレーション』とは、材料を除去(削摩、溶発、融除)することを意味するので、甲第1号証記載の『材料アブレーション装置』は、本件発明と同じ、材料にレーザービームを照射して材料を溶融させて除去する加工を行うための装置である。また、甲第1号証には、歯科治療を行うための材料アブレーション装置が実施形態として記載されているが、『実際、本発明は、たとえば工業において使用可能であって材料のアブレーションを行うための他の工具類も包含するものである。(甲第1号証翻訳文5頁18?20行)』と記載されているように、甲第1号証記載の発明は工業的な工具としても利用可能である。
(略)

(4-4-4)本件発明1と甲第1号証記載発明との対比
(略)
このように、甲第1号証には、本件発明1の構成要件(ア)?(ウ)及び(キ)が開示されている。

丸2 本件発明1の構成要件(エ)?(カ)について
ここで、甲第1号証には、本件発明1の『液体供給空間(35)へ供給される液体が、ノズル入口開口(30)の周りにおいてせき止め空間のないように導かれ、それによりレーザービームのフォーカス円錐先端範囲(56)における液体の流速が、十分に高く決められるようにし、したがってフォーカス円錐先端範囲(56)において、レーザービームの一部がノズル壁を損傷しないところまで、熱レンズの形成が抑圧される』という構成要件(エ)?(カ)については明示されていない。以下、この点について検討する。

(i)『熱レンズの発生』について
本件明細書には、甲第1号証であるヨーロッパ特許出願公開第0515983号明細書に関し、『ヨーロッパ特許出願公開第0515983号明細書により公知の構造において、さらに液体として水を利用し、かつレーザービームとして、1.064μmのND:YAGのものを利用することは、不利に作用する。この時、このビームは、ちょうど水中において無視できない吸収を有する。収束したビームのピラミッド先端の上側範囲(フォーカス円錐の先端範囲)における水の範囲は、強度分布(軸線における高い強度及び縁におけるわずかなもの)に相応して加熱され、かつ前に予想された熱レンズが生じ、この熱レンズは、ノズル壁の、とくにノズル入口の範囲におけるノズル表面の損傷を引起こし、かつ結局液体ビームを形成するノズルの破壊を引起こす。(本件特許公報4頁13?20行)』と記載されているが、甲第1号証には、このような熱レンズが発生する旨の記載はなされていない。
ここでは、まず、甲第1号証記載の装置において、熱レンズが発生するか否かを検討する。
まず、本件発明の実施形態における装置の諸元と、甲第1号証における装置の諸元を比較する。本件明細書には、装置の具体的構成として、ノズル径100μm(本件特許公報6頁7行)、液体圧力10?1000bar(同6頁48行?7頁4行)、液体として水(同5頁31?32行)、レーザービームとして波長1.064μmのND:YAGレーザー(同7頁15?16行)を使用することが記載されている。
一方、甲第1号証には、ノズル径10?500μm(事項(a8))、液体圧力0.5?100bar(事項(a10))、液体として水(事項(a9))、レーザービームとしてND:YAGレーザー(事項(a6))を使用することが記載されている。

(ii)『流速の比較』について
ここで、本件発明に係る装置と甲第1号証における装置は、ノズル径及び液体圧力の値が重複している。また、甲第2号証に記載されている数式から、時間当たりにノズルから噴射される噴射水量Qは、ノズル径(ノズルの口径)d及び液体圧力(噴射圧力)Pにより規定されることが理解できる。従って、甲第1号証記載の装置は、本件発明に係る装置と同一の水量をノズルから噴射するものと理解できる。なお、甲第2号証の数式中、ノズル孔数nは両装置とも1であることは明らかである。また、ノズル効率係数ηも両装置とも同程度の値であると考えられ、仮にノズル効率係数ηの値が異なっていたとしても、ノズル径及び液体圧力の重複範囲の広さに対して、無視できる程度の相違であると考えられる。
上記のように、甲第1号証記載の装置は、本件発明に係る装置と時間当たり同量の水を噴射するものであるから、同一口径のノズルから噴射される水の流速も、両装置において同一となる。さらに、ノズルから噴射される水の流速が、ノズルの入口における水の流速と同一であることは明らかである。ここで、ノズルの入口は、本件発明におけるフォーカス円錐先端範囲の頂点に位置する。従って、甲第1号証記載の装置と本件発明に係る装置は、フォーカス円錐先端範囲における水の流速が等しいと理解可能である。

丸3 本件発明1の構成要件(エ)?(カ)と甲第1号証記載の発明との対比
(i)上述したように、甲第1号証記載の装置と本件発明に係る装置は、フオーカス円錐先端範囲における水の流速が等しいのであるから、本件発明において熱レンズの形成が抑圧されていれば、甲第1号証記載の装置においても、本件発明と同様に、熱レンズの形成が抑圧されていることは明らかである。その結果、甲第1号証記載の装置においても『せき止め空間がなく』、さらに『液体の流速が十分に高い』ことになる。
従って、甲第1号証記載の装置においても、甲第2号証及び甲第3号証を参酌すれば、『液体供給空間(35)へ供給される液体が、ノズル入口開口(30)の周りにおいてせき止め空間のないように導かれ、それによりレーザービームのフォーカス円錐先端範囲(56)における液体の流速が、十分に高く決められるようにし、したがってフォーカス円錐先端範囲(56)において、レーザービームの一部がノズル壁を損傷しないところまで、熱レンズの形成が抑圧される(構成要件(エ)?(カ))』と理解できる。
(略)

(ii)特に『レーザーの種類と熱レンズの関係』について
上述したように、甲第1号証記載の装置においても熱レンズの形成が抑圧されていることは明らかであるが、ここでは、更に、レーザーの種類と熱レンズ形成の関係について検討を加える。
まず、甲第1号証に『コヒーレント光発生源12はたとえば、パルスモードで供給されマルチモードまたは基本モードTEM_(00)で動作するNd:YAGタイプのレーザーで構成される。もちろん他の種類のレーザーも使用することができる(事項(a6))』と記載されているように、甲第1号証記載の装置には、種々のレーザーを使用することが可能であり、一例としてNd:YAGレーザーが挙げられている。
ここで、甲第3号証の図1に記載されているように、各レーザーの水に対する吸収係数は、レーザーの波長により大幅に異なっている。例えば、波長10.6μmのCO_(2)レーザーの吸収係数は約10^(3)cm^(-1)であるのに対し、波長488nm(0.488μm)のArレーザーの吸収係数は約10^(-3)cm^(-1)である。即ち、CO_(2)レーザーはArレーザーの100万倍も吸収係数が大きい。レーザーが静水を透過したときの水の温度上昇は、レーザーの吸収係数に比例するので、Arレーザーを透過させたときの水の温度上昇は、CO_(2)レーザーを透過させたときの100万分の1となる。また、レーザーを流水に透過させた場合には、温度上昇は流速に比例して低下するので、CO_(2)レーザーを流水に透過させた場合の温度上昇は、流速が100万分の1の流水にArレーザーを透過させた場合の温度上昇と等しくなる。
このように、水の温度上昇、即ち、熱レンズの形成の有無は、使用するレーザーの種類に極めて強い影響を受けることが分かる。従って、仮に、甲第1号証記載の装置において、波長1.064μmのNd:YAGレーザー(吸収係数約10^(-1)cm^(-1))を使用した場合に熱レンズが形成されたとしても、同じNd:YAGレーザー発振器を使用して、波長0.532μmの第2高調波レーザー(吸収係数約10^(-3)cm^(-1))を発生させれば、レーザーの吸収係数は約100分の1に低下し熱レンズの形成は大幅に抑制される。
従って、仮に、甲第1号証記載の発明における水の流速が本件発明よりも遅いとしても、吸収係数の低いレーザーを適宜選択することにより、熱レンズの形成を十分に抑制することができる。即ち、甲第1号証記載の発明における水の流速が遅いとしても、この遅い流速が、吸収係数の低いレーザーに対しては十分に高い流速ということができ、甲第1号証記載の発明は、『フォーカス円錐先端範囲(56)において、レーザービームの一部がノズル壁を損傷しないところまで、熱レンズの形成が抑圧されるように、液体供給空間(35)へ供給される液体が、ノズル入口開口(30)の周りにおいて導かれると共に、レーザービームのフォーカス円錐先端範囲(56)における液体の流速が、高く』される構成を満たすことになる。」

エ.請求書第29ページ第5行?第40ページ第16行
「(4-5)第5の無効理由について(進歩性の欠如)
(略)
(4-5-3)甲第1号証乃至甲第7号証の説明
(略)

丸4 甲第4号証(特開昭60-193452号公報)
本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第4号証(特開昭60-193452公報、昭和60年10月1日発行)には、ウォータージェット型レーザー治療装置が記載されている。甲第4号証に記載されたレーザー治療装置においてもレーザー光はウォータージェットにより導光され、レーザー光により切開作用等がなされる。
甲第4号証には、次の事項が記載されている。
(d1)この発明は上記のような従来のものの欠点を除去するためになされたもので、水を加圧するポンプ、ウォータージェットを噴出するノズル孔を有するノズル、ポンプとノズルを連結するパイプ、レーザー発振器からのレーザー光を集光する集光レンズを備え、ウォータージェットをレーザー光と共に噴出させるように構成することにより、ウォータージェットによる切開作用及び冷却作用に加えてレーザー光による凝固作用及び切開作用を備えたウォータージェット型レーザー治療装置を提供するものである(甲第4号証2頁左上欄10?20行)。
(d2)レーザー発振器(15)により発振されたレーザー光(10)は集光レンズ(9)で集光され、ウインド(8)を透過し、加圧された水(7)の中を進行して、ウォータージェット(2)の中に導光される。水の屈折率は約1.33であり、大気の屈折率(約1.0)より大きいため、臨界角より小さな入射角度(13)でウォータージェット(2)内に導光されたレーザー光(11)はウォータージェット(2)の壁面で全反射し、光ファイバー内を伝搬するのと同様にしてウォータージェット(2)内を伝搬する(甲第4号証2頁右上欄10?19行)。
(d3)レーザー光(10)としては、水による吸収の少ない波長を選択する必要があり、可視域から近赤外領域の波長が適している(甲第4号証2頁左下欄5?7行)。

丸5 甲第5号証 (特公平1-38372号公報)
本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第5号証(特公平1-38372号公報、平成1年8月14日発行)には、エネルギー・ビームおよび溶液ジェットを利用した基板の処理方法が記載されている。甲第5号証に記載された基板の処理方法においては、レーザー光線は溶液のジェットにより導光され、基板のめっき又はエッチングが行われる。即ち、レーザー光線と溶液のジェットにより材料の除去が行われる。
甲第5号証には、次の事項が記載されている。
(e1)本発明は、レーザめっきおよびレーザ・エッチング方法、さらに具体的にいえば、ジェットめっきまたはジェット・エッチング過程をレーザ光線と組み合わせて実施する強化された、ジェットめっきおよびジェット・エッチング方法に関するものである(甲第5号証1欄13?18行)。
(e2)この場合、ジェットは、光導体(光学的導波管)の役割をし、光をジェットの液柱内にトラップする。ジェット流に対して全内反射を引き起こし、光がジェット流から離れて空気中に入るのを妨げる角度で光が進むとき、それが実現する。この効果は、光ファイバによる光透過と類似している(甲第5号証7欄11行?8欄4行)。
(e3)この構成では、めっき液25から構成される液体ジェット21がめっき液25の供給源からめっきすべきイオンを再補給し、光線44のレーザ・エネルギーに対する光学的導波管ないし光導体して働く。光線44の投入エネルギーのほぼ70%が陰極22に達し、ウインドー74での反射および特定のめっき液25を使用する場合は、液体ジェット21内での電解液またはめっき液による非常に弱い吸収による損失がある(甲第5号証10欄19?27行)。
(e4)CW(持続波)アルゴン・レーザ40は、25Wまでの出力の光線41を生成する。光線41はビーム拡大器42を通過して光線45をもたらし、それがレンズ43を通って光線44をもたらし、それがセル10に入る。光線44は、F-10光学系によって、ノズル20のジェット・オリフイスの中心付近に収束される(甲第5号証11欄30?36行)。

丸6 甲第6号証 (特公昭58一5711号公報)
本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第6号証には、穿孔、或いは切断用超高圧液体噴射ノズルについて、以下の事項が記載されている。
(f1)超高圧液体噴射加工装置は、必要に応じて添加物等で調整された水(以下噴射液という)に数千kg/cm^(2)の圧力を印加して、たとえば直径0.1mm程度の小孔から成るノズルから噴射させるもので、噴出した噴射液は超高速の細い流束となり、被加工物に孔をあけ、切断などの加工を行うものである(甲第6号証1欄29?35行)。
(f2)糸面11又は丸味12の寸法h或いはrは0.1mmよりも小さい値でよい。形状は開口8と同心であることを要し、また表面仕上げは鏡面ないし少くとも均一な梨地面を要するが、極めて小さい糸面ないし円弧であるから所要精度の加工もそれ程困難ではない(甲第6号証4欄18?23行)。

丸7 甲第7号証 (特開平6-31479号公報)
本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第7号証には、湿式レーザ加工方法およびレーザ加工ヘッドについて、以下の事項が記載されている。
(g1)ここで、図2で詳細構造を示すように、レーザ加工ヘッド15はレンズホルダの先端側にレーザビーム透過穴が開口したノズル部15aを有し、かつレンズホルダの内部には集光レンズ3とノズル部15aとの間を液密に隔離するように透視窓を兼ねた保護ガラス16が組み込まれ、さらにノズル部15aには液槽9から送液ポンプ10を経て配管したアシスト液供給管11aが接続されている(甲第7号証5欄8?15行)。
(g2)なお、レーザ加工ヘッド15から噴出したアシスト液は加工容器7に回収された後、配管路を通じて貯留液槽9に還流する(甲第7号証6欄19?22行)。

(4-5-4)本件発明1と先行技術発明との対比
(略)
よって、本件発明1は、・・・特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。」

オ.口頭審理陳述要領書1第8ページ第1?19行
「第2 無効理由4(新規性)について
(略)
丸3 換言すれば、『せき止め空間』の有無が液体供給空間の構成のみにより確定されることが明確にされていないと共に、甲第1号証記載の装置のフォーカス円錐先端範囲における最低の流速以下の流速をもつ点を、フォーカス円錐先端範囲内に有している装置は、熱レンズ発生の有無に関わらず、本件発明に含まれないということが明確にされていないから、本件発明は甲第1号証記載の発明と実質的に同一であり、新規性を有しないものと言わざるを得ない。」

カ.上申書2第6ページ第11?末行
「(2)本件発明の新規性欠如
上記のように、甲第1号証に記載されている発明は、必ずしも『せき止め空間』を備えたものではない。さらに、口頭審理(当審注:第1回口頭審理)において被請求人が主張した『『液体の圧力』、『レーザーの出力』、『レーザーの種類』、『液体供給空間の具体的形状』は、いずれも、熱レンズの形成に関係するが、熱レンズが形成されないように加工対象や他の要素を含め選定すればよい(第1回第1回口頭審理調書2頁14?17行)』ことを前提とすれば、甲第1号証には、『液体の圧力』、『レーザーの出力』、『レーザーの種類』、及び『液体供給空間の具体的形状』の選定の仕方如何によっては、『せき止め空間のない』発明及び『せき止め空間』のある発明の両方が開示されていると考えられる。
このように、甲第1号証に記載されている発明には、『せき止め空間のない』ものと、『せき止め空間のある』ものの両方が含まれる可能性があると考えざるを得ないのは、本件発明の『せき止め空間』の有無を判断するための構成が特定されていないことが原因である。
従って、本件発明の『せき止め空間』が明確でない以上、依然として、甲第1号証には、本件発明と同様な発明が含まれる可能性があり、その意味で、本件発明は、新規性がないと言える。」

キ.弁駁書第6ページ第16行?第7ページ第14行
「これに対し、液体供給空間が『ディスク状』であるとの限定は、単に、液体供給空間の『高さ』が横幅に比べて小さいことを限定しているだけであり、液体供給空間の具体的な『高さ』を何ら限定するものではない。よって、これにより『せき止め空間』が明確になるものではない。
仮に、『液体供給空間』が『ディスク状』であれば『せき止め空間』が存在しないとすれば、被請求人が『せき止め空間』が存在すると主張している高さ25mmの『液体供給空間』であっても、その横幅が25mmよりも大きく『液体供給空間』が『ディスク状』になっていれば『せき止め空間』が存在しないという結論が導かれる。この結論は、被請求人の上記主張とは明らかに矛盾するものであり、また、技術常識にも反するものである。したがって、『液体供給空間』が『ディスク状』であることは、『せき止め空間』の有無とは何ら関係がなく、『せき止め空間』が依然として不明確であることは明らかである。
さらに、被請求人は、無効審判において、甲第4号証(特開昭60-193452号)の図2に記載されている『液体供給空間』には『せき止め空間』が存在すると主張している。しかしながら、甲第4号証、図2記載の『液体供給空間』は『ディスク状』であり、『液体供給空間』が『ディスク状』であれば『せき止め空間』が存在しないとすれば、被請求人の上記主張とも齟齬をきたす。
なお、被請求人は、平成21年12月11日提出の訂正審判請求書33頁3行?5行において、『要するに、液体供給空間の高さを低くすれば低くするほど、即ち液体供給空間を『ディスク状』とすることによってノズル入口開口の周辺の流速が高くなることは明らかである。』と主張しているが、この主張は、液体供給空間の絶対的な高さが低いことと、液体供給空間が『ディスク状』であることをすり替えるものである。上記のように、『ディスク状』(扁平)とは、単に液体供給空間の『高さ』と横幅の関係を規定しているに過ぎず、液体供給空間が『ディスク状』であることと、『液体供給空間』の絶対的な高さが低いことは同義ではない。すなわち、液体供給空間が『ディスク状』であっても、液体供給空間の絶対的な高さが高い場合には、液体供給空間上部の流速はほぼ0となり、『せき止め空間』が存在することになる。」

ク.弁駁書第18ページ第20行?第19ページ第9行
「すなわち、本件特許発明の技術的思想は、『熱レンズの発生を抑制する』ことを、『液体供給空間の高さを最小化する』ことによって達成するものであることが分かる。
ここで、本件特許明細書には、液体供給空間の高さに関して、『ノズルへの液体供給の高さは、流れの渦形成を減少するために、ほぼノズル通路の直径を有し、又はそれよりわずかだけ大きい』(本件特許公報4頁41行?42行)、『レーザービームを伝達する窓の、ノズル開口の方に向けた下側は、100μmのノズル直径の際に200μmないし500μmの距離のところにあるようにする』(本件特許公報6頁7行?8行)、及び『液体供給空間35の高さは、理論的にはノズル通路23の横断面の半分を有するだけでよい』(本件特許公報7頁39行?40行)との記載がある。したがって、本件特許発明は、液体供給空間の高さを上記のような高さとすることによって、液体供給空間を『せき止め空間のない』構造とすることができるものであり、そうであるとすれば、本件特許発明の請求項の記載を、本件特許明細書の記載に基づいて、例えば『ディスク状液体供給空間(35)の高さが、ノズル通路(23)の横断面の半分に設定される』というように、液体供給空間の高さを具体的に限定しない限り、本件特許発明は、『せき止め空間のない』構造が不明確であり、その課題を解決する構成であるとは言えず、無効理由は解消されない。」

ケ.口頭審理陳述要領書3第4ページ第18?21行
「このように、答弁書2において被請求人が主張する『流路の急拡大』、『キャビティ』という判断基準は、被請求人により後付けで恣意的に『創作』された本件明細書の記載に基づかない判断基準であることは明らかであり、採用すべきでない。」

コ.口頭審理陳述要領書3第8ページ末行?第9ページ第5行
「このように、液体が『淀んでいる空間』が発生する条件のうちの一部が『再循環領域』の発生であり、さらに、『再循環領域』が発生する条件のうちの一部が『急拡大』又は『キャビティ』の存在であるということができる。従って、仮に、『せき止め空間』を、液体が『淀んでいる空間』と解することができたとしても、被請求人が主張している判断基準により判断することができる『せき止め空間』は、『液体が淀んでいる空間』のうちのごく一部を判断できるに過ぎない。」

サ.口頭審理陳述要領書3第9ページ第16行?第12ページ第18行
「第3 訂正請求項の明確性について
(略)

(2) 請求項1における『ノズル入口開口の周り』について
訂正請求項1は、『ノズル入口開口の周りにおいてせき止め空間のないようにノズルからの窓の高さ』が設定されていることを要件としている。
まず、『ノズル入口開口の周り』について、『液体供給空間』内のどの部分を指しているのか、本件明細書には具体的な説明がなく不明確である。
(略)

(3) 請求項1における『周辺から流れる』について
被請求人は、『周辺から流れる』の解釈について、
『液体供給空間の外部から内部に流れる液体の流れを限定するものではなく、専ら液体供給空間の内部における液体の流れを限定するものであり、液体供給空間の内部において液体がノズル入口開口に向かって流れることを意味する(答弁書2、15頁7?16行、33?35行)』
と主張している。

なお、『周辺から流れる』について、この解釈を採用した場合、甲1、甲4においても液体は『周辺から流れる』ように導かれていることになる。被請求人はここでも、請求人のこの主張に対して、『周辺から流れる』を他の限定と併せて読めば『せき止め空間』のない構成は明確である(答弁書2、16頁1?9行)と主張しているが、他の限定と併せて読むことにより、何故『せき止め空間』のない構成が明らかとなるのか、即ち、どの限定がどのように関与して『せき止め空間』のない構成が明らかとなるのか具体的な説明は為されていない。」

シ.口頭審理陳述要領書3第13ページ第12行?第15ページ第10行
「第5 訂正請求項記載の発明の進歩性について
訂正請求項記載の発明と甲1記載の発明の相違点を整理すれば、下記の2点に要約される。

丸1 本件発明の液体供給空間が『ディスク状』であるのに対して、甲1に記載された図面では液体供給空間の幅よりも高さが高いこと。
丸2 本件発明では、『レーザービームの一部がノズル壁を損傷しないところまで、熱レンズの形成が抑圧』されているのに対して、甲1記載の発明では熱レンズの形成が抑圧されているか否か、明らかでないこと。

(1) 『ディスク状』について
上記丸1については、訂正請求項における『ディスク状』の記載には、『ディスク状』の一般的な意味である『幅よりも高さが低い』こと以上の意味を見出すことができず、甲4にも記載されているように、それ自体ありふれた形状であるから、単なる設計的事項であるということができる。

(2) 『熱レンズ』について
(略)
(2-2) 『熱レンズ』の容易想到性について
(略)
しかしながら、レーザービームによる熱レンズの発生は、Journal of Applied Physics Vol.36, No.36 pp.3-8(1965)(甲9号証)に記載されており、本件特許の優先日前に既に公知である。即ち、甲9号証には、
『6328Åの赤色で作動するヘリウム-ネオンレーザーの光共振器の中に、有極性又は無極性液体セルが配置された場合における増強及び減衰過渡現象が観察された。(甲9号証抄訳1?3行)』
『これらの効果は、ビームの近傍における局所加熱、及び屈折率の横勾配から生じるレンズ効果を生成する、材料中の赤色光の吸収に起因するものと考えられる。(甲9号証抄訳8?10行)』
と記載されている。
このように、液体中をレーザー光が通過するとき、液体がレーザー光によって加熱され、液体の屈折率が変化してレンズ効果を生じることは、本件特許の優先日前に既に公知である。従って、ノズル壁に損傷が起これば、当業者は当然にレーザー光による熱レンズ現象に注意を向けるはずである。さらに、熱レンズ現象を回避するために、レーザー光が通過する液体の領域を薄くすること、液体が加熱される時間を短縮するために液体の流速を速くすることは、当業者には容易に想到可能な工夫である。
従って、本件発明は、甲1記載の発明を、甲9に記載されている『熱レンズ』に関する知見に基づいて改良することにより、当業者が容易に想到することができる発明である。」

ス.上申書3第2ページ第3?12行
「第1 ディスク状の液体供給空間について
請求人は、陳述要領書3の第5(1)において、ディスク状の液体供給空間は、甲4号証に記載されている旨主張した。請求人は、ディスク状の液体供給空間が記載されている特許文献(甲13号証、甲14号証)を本上申書と共に提出する。
すなわち、特開昭50-118121号公報(甲13号証)には、ディスク状の液体供給空間が『円板状の隙間15』(2頁右上蘭、19行)として記載されている。また、特開平6-42432号公報(甲14号証)には、ディスク状の液体供給空間が『円板状の狭い隙間15』(要約8行)として記載されている。
これらの文献にも記載されているように、ディスク状の液体供給空間は、ありふれた周知の構成であるということができる。」

セ.上申書3第3ページ第3?17行
「第3 『熱レンズ』の形成について
(略)
これら甲16、17号証に記載されている『熱レンズ』は、何れも固体の中で発生するものであるが、レーザー光により媒質が加熱され、加熱された媒質の屈折率が変化することにより、媒質がレンズのように作用するという点では、本件発明において問題とされている『熱レンズ』と同一である。(甲16号証段落0011、甲17号証段落0046参照。)
従って、レーザー光により発生する『熱レンズ』という現象は、本件特許の優先日において周知であったということができる。」

ソ.第2回口頭審理調書
「請求人の4 本件請求項中『せき止め空間のない』は、願望を記したものに過ぎない。
請求人の5 ディスク状空間そのものは、ありふれた形状であり、装置の小型化の観点から適用の動機もある。」

タ.上申書4第2ページ第1行?第5ページ第1行
「はじめに
請求人は、本上申書に添付して、加藤洋治東京大学名誉教授作成の『鑑定書』(甲第18号証。以下、『加藤鑑定書』という。)を提出し、これに基づいて、本件発明における『せき止め空間』のない構成が依然として不明確であること、本件特許訂正請求項における『ディスク状』なる限定が、単なる設計事項であることを重ねて主張する。

第1 本件特許の不明確性
(1)『せき止め空間』の意味について
(i)(略)
(ii)しかしながら、加藤鑑定書には、『流体が淀んでいる空間』という用語は、流体力学の専門家には理解できないものであり、無理に解釈を試みたとしても、それは流体力学的に意味のない概念である。即ち、加藤鑑定書には、
『この解釈で奇異に感ずるのは『流体が淀んでいる空間』という概念は流体力学にはないことである。流体力学において、しばしば使われる用語は『淀み点』という言葉で、『流速がゼロになる点』とまったく同じ意味に使われる。流れの中に物体が有るとその物体の流れに向いた面の上に、『流速がゼロになる点』が1つだけ生じる。この点を『淀み点』と呼んでいる。そしてそれ以外の点では、速度はゼロになることはない。したがって、『流体が淀んでいる空間』という用語は、流体力学の専門家には理解できない。
『淀み点』における『点』の概念を強いて拡張して『空間』とすれば、『流体の速度がいたるところゼロの空間』と理解されるが、流体力学的に意味のない概念である。』(甲18、14頁16?25行)
と、述べられている。

(2)『せき止め空間』の有無の判断基準について
(i)(略)
(ii)しかしながら、『流路の急拡大』や、『キャビティ』によって、『せき止め空間』の有無を判断することはできない。
即ち、加藤鑑定書に表明された見解では、
『資料5・見解書においては、このような空間の例として『流路の急拡大』や『キャビティ』などが挙げられているが、このような空間の中においても、流れは存在し、『流体が淀んでいる空間』と理解することはできない。資料5・見解書に添付された5種の流体力学の教科書・専門書においても、『流体が淀んでいる空間』あるいは『淀み空間』という字句は一切書かれてなく、流体力学の学問分野で定義されていない字句である。
『淀む』という字句の説明を、例えば広辞苑で調べると『丸1 流れる水がとどこおってとまる、丸2 水底に沈んでたまる、丸3 とまって動かない』、と説明されている。
また流路の急拡大によって、流れは剥離して逆流を伴う再循環領域が発生するが、実際の流れでは、この再循環領域は時間とともにその大きさが変動し、再循環領域内の流体は大規模な渦となって下流に流れて行く。したがって、『このような剥離をしている領域』を『流体が淀んでいる空間』ということはできない。
以上、要約すれば、資料5・見解書においては『流体が淀んでいる空間』という字句が作り出され、一見それに当てはまるように見える流体運動を例示し、その正当性を主張しているものであって、流体力学の専門家としては到底受け入れることはできない。』(甲18、14頁26?15頁16行)
とある。このように、『せき止め空間』なる用語は、用語としての意味自体不明確であると共に、『せき止め空間』の有無を『流路の急拡大』や、『キャビティ』によって判断することはできない。

(3)本件発明の外延について
(i)(略)
しかしながら、仮に本件発明の技術思想を理解することができるとしても、本件発明の外延は依然として不明確である。
即ち、加藤鑑定書には、
『上記訂正請求項1(資料1の2)には、液体供給空間の具体的な高さ、あるいは、液体供給空間内の液体の具体的な流速が全く記載されていない。したがって、『せき止め空間のないように』と限定された本件特許発明(資料1)と、EP515983号(資料3)発明の技術思想の相違を定性的には理解することができるとしても、どこまでが液体供給空間内の液体の流速を遅くすることを意図して設計された装置で、どこからが『せき止め空間のないように』流速を速くすることを意図して設計された装置か、流体力学的見地から明確に区別することは困難である。』(甲18、18頁6?13行)
と、述べられている。」


第5.被請求人の主張
1.主張の概要
これに対し、被請求人は、以下の理由、証拠に基づき、本件審判請求は成り立たないとの審決を求めている。

乙第 1号証 小学館発行「小学館ロベール仏和大辞典」第2291ページの写し
乙第 2号証 小学館発行「小学館ランダムハウス英和大辞典」第2版、第2636ページの写し
乙第 3号証 本件発明の国際公開第95/32834号及び抄訳
乙第 4号証 McGRAW-HILL BOOK COMPANY発行「GERMAN-ENGLISH TECHNICAL AND ENGINEERING DICTIONARY第948?949ページの写し及び抄訳
乙第 5号証 発明者陳述書及びその翻訳文
乙第 6号証 技術説明書
乙第 7号証 香川利春、平成22年4月22日付け見解書
乙第 8号証 宗像健三、陳述書
乙第 9号証 フランホーファー研究所、甲1のシミュレーション図
乙第10号証 岩波書店「流体力学実験法」第17ページ、第25ページの写し
乙第11号証 香川利春、平成22年6月8日付け見解書
乙第12号証 澁谷工業株式会社回答書

2.具体的主張
具体的理由は、以下のとおりである。

ア.答弁書第4ページ第1行?第11ページ第30行
「(2)理由1について・・・・・・実施可能性・・・・・・
(略)

(2)-7.『レーザービームの種類(波長)』と『液体の種類』について
(略)

(2)-8.『液体供給空間』の構造について
(略)
しかしながら、本件特許の技術分野の当業者であれば、『せき止め空間』は、流体がせき止められた状態の空間、即ち、流体の流れが淀み、止まっている空間を意味する。そして、流体の流れが淀み、止まっている空間とは、『流体の流速がほぼ0になっている空間』を意味することは明らかである。
更に、このことは、本件特許明細書の『発明の詳細な説明』の欄に、従来技術の説明として、
『液体静止状態は、熱レンズの構成を可能にし、又は強化する。』(本件特許公報第4頁第24行目)
との記載、及び本件発明の説明として、
『液体が、レーザービームのフォーカス円錐の範囲から、とくにその先端範囲からできるだけ迅速に運びだされる。』(本件特許公報第4頁第36行目?第37行目)
との記載があることを勘案すると、『せき止め空間』が液体(流体)静止状態の空間、即ち、『流体の流速がほぼ0になっている空間』を意味していることは明らである。そして、『せき止め空間』がないとは、『流体の流速がほぼ0になっている空間』がないことを意味するのであるから、液体供給空間へ供給される液体をノズル入口開口の周りにおいて『せき止め空間』のないように導くとは、液体供給空間へ供給される液体をノズル入口開口の周りにおいてどこにおいても流れが存在するように導くことを意味する。
そして、本件特許明細書の
『有利な構成変形において、ノズル入口に対抗する壁に、ヨーロッパ特許出願公開第0515983号明細書におけるようなフォーカスレンズも組込まれず、レーザービームを損失なく伝達する窓が組込まれるだけである。ノズル入口のほぼ真上にあるこの窓だけによって、フオーカス円錐の先端における液体容量をそもそもできるだけ少なく、かつ流速をそもそもできるだけ高く維持することが可能である。』(本件特許公報第4頁第43行目?第47行目)
との記載から、当業者であれば、液体供給空間へ供給される液体をノズル入口開口の周りにおいてどこにおいても流れが存在するように導くように構成することは容易に実施できることである。
(略)
このように、本件発明の具体的構成は実施例に詳細かつ明瞭に開示されているから、当業者であれば、容易に実施できることは明らかである。

(2)-9.『液体を供給する圧力』
(略)

(2)-10.『液体の流速』について
(略)
しかしながら、熱レンズが形成される前に液体が流れ去るように『十分に高』くすればよいだけのことである。

(2)-11.『フォーカス円錐先端範囲における液体の流速について』
(略)
しかしながら、本件発明の本質は、上述した本件発明の課題を解決するために、熱レンズの形成を抑圧することである。そのためには、『フォーカス円錐先端範囲における流体の流速が、十分に高められる』必要がある。したがって、この流体の流速とは、平均流速でもなければ、ある1点の流速でもない。即ち、フォーカス円錐先端範囲のあらゆるところにおいて流れが存在し、熱レンズが発生する前に流体をそこから速やかにかに排除することができればよいのである。そして、このようにすることは、上述したように、当業者であれば、何ら困難を伴うことなく実施できることである。

(2)-12.『レーザーの出力』について
(略)
しかしながら、レーザーの出力は、主として被加工材料の材質、形状、大きさ、加工時間等により決められるものである。そして、レーザーの出力が低ければそもそもノズルを損傷するほどの熱レンズを形成することもない。レーザーの出力が高くなれば、ノズルを損傷するほどの熱レンズが形成されるので、これを抑圧するために液体供給空間を『せき止め空間』のない構成にしたものである。そして、このように構成することは、上述したように、当業者であれば、何ら困難を伴うことなく実施できることである。

(2)-13.小括
上述したように、本件発明を実施可能にするために、上述したような実施条件のあらゆる組み合わせを列挙する必要は全くなく、本件特許明細書に記載された事項に基づいて当業者であれば、容易に実施できる・・・」

イ.答弁書第13ページ第33行?第19ページ第8行
「(4)理由3について・・・・・・明確性・・・・・・
(略)
本件発明のこれらの一連の背景を勘案すると、『せき止め空間』の技術的意義が液体(流体)静止状態の空間、即ち、『流体の流速がほぼ0になっている空間』を意味していることは明らかである。
(略)
まして、請求項1発明は、方法の発明であるから、『せき止め空間』の技術的意義が明確である以上、構造的な限定を付する必要はない。

(4)-2.上記(((2)-1.)((2)-2.)構成要件(エ)、(ツ)に記載されている『せき止め空間のない』は、上述したように、『流体の流速がほぼ0になっている空間がない』を意味することになるから、これは、或る定められた空間において、その空間全体において流体の流れが存在することを意味することになるのは明らかである。
(略)
しかしながら、この類型は、否定的表現があることにより、その結果、特許を受けようとする発明の構成に欠くことのできない事項が不明瞭になる場合のことを例示しているのであり、否定的表現を使用しても、特許を受けようとする発明の構成に欠くことのできない事項が明瞭であれば、何等問題は無い。上述したように、『せき止め空間のない』なる用語は、発明の構成に欠くことのできない事項を不明瞭にしているものではないから、請求人の主張は失当である。

(4)-3.上記(((2)-1.)((2)-2.)構成要件(オ)、(テ)に記載されている
『流体の流速が、十分に高く』
という表現は、この部分の表現だけで判断するものではない。即ち、本件発明1は、請求項1に記載された全ての構成要件により、1つの方法発明を構成しているのであり、分説された構成要件の記載の1つ1つを独立に解釈しては、本件発明の理解を誤ることになる。即ち、構成要件(カ)には、
『したがってフォーカス円錐先端範囲(56)において、レーザービームの一部がノズル壁を損傷しないところまで、熱レンズの形成が抑制される』
と記載されているように、
『流体の流速が、十分に高く』
という表現は、何の比較対象もなく『十分に高く』と言っている訳ではなく、流体の流速が、
『フオーカス円錐先端範囲(56)において、レーザービームの一部がノズル壁を損傷しないところまで、熱レンズの形成が抑制される』
だけ十分に高いことを意味しており、何ら、不明瞭な表現ではない。
(略)
(4)-4.上記(((2)-1.)、(((2)-2.)構成要件(オ)、(テ)に記載されている
『フォーカス円錐先端範囲(56)における液体の流速が、十分に高く』という記載は、文字どおり、『フォーカス円錐先端範囲(56)における液体の流速が、十分に高』
いのであって、極めて明瞭な記載である。即ち、本件発明1及び本件発明5は、フォーカス円錐先端範囲(56)において、レーザービームの一部がノズル壁を損傷しないところまで、熱レンズの形成が抑制されるのであるから、フォーカス円錐先端範囲内で流速がほぼ0になる部分があってはならないのであって、記載されている通り解釈すればよく、フォーカス円錐先端範囲全体において液体の流速を十分に高くすることを意味していることは明らかである。
(略)」

ウ.答弁書第19ページ第9行?第26ページ第9行
「(5)理由4について・・・・・・新規性・・・・・・
(略)

(5)-2.甲第1号証記載の発明について
甲第1号証には、本件発明1の
(略)
という構成要件(エ)?(力)については、全く記載されていないばかりか、示唆もない。
また、甲第1号証には、本件発明5の
(略)
という構成要件(ツ)?(ト)についても、全く記載されていないばかりか、示唆もない。
むしろ、甲第1号証には、上述したように液体供給空間にstagnationすなわち『淀み』を積極的に形成することが明確に記載されている。液体供給空間に液体が流れない『淀み』があれば、レーザー光により、『淀み』が発生した部分は加熱されて液体の密度が低くなる。液体の密度が低くなって、擬似的に熱レンズ、すなわち凹レンズが形成される。
(略)」

エ.答弁書第26ページ第10行?第35ページ末行
「(6)理由5について・・・・・・進歩性・・・・・・
(略)

(6)-6.甲第4号証(特開昭60-193452号公報)
甲第4号証には、ウォータージェット型レーザー治療装置が図面とともに記載されているが、本件発明の課題である、
『液体ビームを形成するノズルをレーザーのビームによって損傷することなく、レーザービームを材料加工のために液体ビーム内に光学的に結合することができる』
ようにすることについては、何ら記載されていないばかりか、示唆もされていない。ましてや、熱レンズの形成を抑制するために、液体供給空間は、供給される液体が、ノズル入口開口の周りにおいてせき止め空間のないように導かれるようにしたことについは何ら記載されていない。
また、『せき止め空間』の有無は、液体に関する構成要件であり、レーザーの種類とは基本的には関係がない。さらに、『せき止め空間』が存在しないように工夫した技術思想は、液体供給空間の工夫である。したがって、本件発明と関係のない技術事項を恣意的に取り上げて甲第4号証とを比較するのは、牽強付会である。本件発明と甲第4号証発明とがまったく異なる技術思想に立脚したものであることは、上述の通りである。

(6)-7.甲第5号証(特公平1-38372号公報)
甲第5号証には、エネルギー・ビームおよび溶液ジェットを利用した基板の処理方法が、図面とともに記載されているが、本件発明の課題である、
『液体ビームを形成するノズルをレーザーのビームによって損傷することなく、レーザービームを材料加工のために液体ビーム内に光学的に結合することができる』
ようにすることについては、何ら記載されていないばかりか、示唆もされていない。ましてや、熱レンズの形成を抑制するために、液体供給空間は、供給される液体が、ノズル入口開口の周りにおいてせき止め空間のないように導かれるようにしたことについては何ら記載されていない。
また、『せき止め空間』の有無は、液体に関する構成要件であり、レーザーの種類とは基本的には関係がない。さらに、『せき止め空間』が存在しないように工夫した技術思想は、液体供給空間の工夫である。したがって、本件発明と関係のない技術事項を恣意的に取り上げて甲第5号証とを比較するのは、牽強付会である。本件発明と甲第5号証発明とがまったく異なる技術思想に立脚したものであることは、上述の通りである。
(略)

(6)-9-2.(略)
しかしながら、・・・本件発明の本質は、
『液体ビームを形成するノズルをレーザーのビームによって損傷することなく、レーザービームを材料加工のために液体ビーム内に光学的に結合することができる』
ようにするといった、本件発明の課題を解決するために、熱レンズの形成を抑圧しようというものである。
そして、当該技術分野においては、
『使用するレーザービームの種類(波長)』、『レーザーの出力(ワット数)』、『使用する液体の種類』、『液体供給空間に液体を供給する圧力』等
の実施条件については、被加工材料には様々の材質、形状、大きさのもがあるので、主として、これら被加工材料の材質、形状、大きさに依存するところが大きい。被加工材料が決まれば、それに応じて、これら諸条件が決まってくる。そして、例えば、出力が大きいレーザーが必要である場合等、熱レンズが形成されやすくなるが、この場合、本件発明1は、液体供給空間へ『せき止め空間』がないように流体を導くことによって、熱レンズの形成を抑圧できるものである。
液体供給空間へ『せき止め空間』がないように流体を導いている場合と、『せき止め空間』がある場合の違いについては、それぞれ、参考図1、参考図2を参照して分かる通り、『せき止め空間』がある場合は、ノズル入口開口から液体供給空間側に少し離れた位置では、流速が殆ど0になるのに対して、『せき止め空間』がない場合は、レーザービームのフォーカス円錐先端範囲において、オーダーが異なる大きさの流速が存在する。
(略)
これは、甲第1号証発明のような構造では、ノズルから25mm離れたところにおいて、一秒間に、僅か0.0379mmしか流れていないことになる。このような箇所を有する構造では、『せき止め空間』が存在するといえる。
これに対して、例えば、半径r2=0.5mmのところの流速v2は、半径が50分の1なので、半球の表面積、即ち、流体の通過面積が2500分の1となり、流速v2は、2500倍の、
v2=94.75mm/sとなる。かかる箇所は、『せき止め空間』ではない。
(略)」

オ.口頭審理陳述要領書1第3ページ第1行?第5ページ下から2行
「a)『せき止め空間のない』の解釈について
『せき止め空間』とは、答弁書第7頁下から第7行目から第8頁第12行目に記載したように、流速がほぼ0となる部分をいうのであって、流速が完全に0となる部分を言うのではない。ノズルの開口面積と比較して液体供給空間が大きい場合には、ノズル開口部から遠く離れたところに液体の流れが淀む空間、即ち、『せき止め空間』が必ず存在する。また、液体供給空間の形状も、『せき止め空間』の存否や範囲に影響を及ぼす。
(略)
流速がほぼ0と言ってもどの程度まで0なのかということに関しては、流体機械の分野において、『淀み』が発生するというのは一般的に使用されている用語であり、参考図4中の『淀み』と示された部分が淀んでいると言えば、流体の流れを取り扱っている当業者にとっては普通に理解できる事項であって、具体的に数字を挙げて定義するようなものではない。
甲第1号証の図2は、ほぼ上記参考図4と同じ構造である。甲第1号証の図2においても、ノズルの開口部の面積と比較して液体供給空間が大きく設定されているため、ノズル開口部のすぐ近くは格別、ノズル開口部から遠く離れたレンズ(34)の下面には必ず淀みが存在する。したがって、『せき止め空間』があることは明らかである。
ウォータージェットの技術分野においては、液体供給空間内の液体をノズル開口部から高速で噴射するのであるが、本件特許発明の出願時における先行文献に記載された液体供給空間内の液体は高圧ではあるものの、液体が淀む空間が存在するものであった。このようなウォータージェット技術を応用してウォータージェットに単にレーザービームを導入して材料を加工しようとすることは提案されてきたが、実際にはノズルが熱損傷を受けるために、実用化されていなかった。
本件特許の発明者は、鋭意研究を重ねた結果、ノズルが損傷を受けるのは、液体供給空間内に液体が滞留する空間が存在することに起因した熱レンズの発生によることを初めて突き止めたのである。
甲第4号証の第2図では、そもそも本件特許発明の技術思想が記載されていない概略図でしかない。この図面は正確といえないので、技術常識に基づいて判断すると、甲第1号証と同様に、ノズル開口部のすぐ近くは格別、ウインド(8)の下面とパイプ(4)の流入口の間にはせき止め空間が存在すると言える。
甲第5号証のFIG1.2においても同様に、ノズル開口部のすぐ近くは格別、陽極(16)が液体の流れを妨げるため、その左側にめっき液の流れが淀む空間が存在する。したがって、『せき止め空間』が存在する。また、甲第5号証技術のセル(10)そのものが大きく、メッキ液25はセル(10)中に滞留しやすい。

b)せき止め空間と熱レンズ形成の関係について
簡略化して言えば、せき止め空間がなく、液体の流速が十分に高ければ、熱レンズは形成されず、また、せき止め空間があれば、熱レンズは形成される。なぜならせき止め空間があれば、せき止め空間にレーザービームの熱が除去されずに蓄積されるから、そこで温度が上昇し、温度が上昇すると液体の密度が低下して屈折率分布が生じ、光学的には凹レンズと等価になる。せき止め空間において凹レンズが形成されると、本来、収束すべきフォーカス円錐先端範囲が僅かに広がり、レーザービームの一部がノズル壁にあたり、ノズルに損傷を与え、更には破壊に至る。
本件特許発明は、液体供給空間内の液体の流速を滞留させないことにより、すなわち『せき止め空間』が存在しないようにして、フォーカス円錐先端範囲の液体の流速を高速にし、常に、レーザービームのフォーカス円錐先端範囲における熱を逃がして熱レンズの生成を抑制することに成功したのである。」

カ.第1回口頭審理調書
「被請求人4 せき止め空間があれば、レーザーの種類によらず、熱レンズは形成される。
被請求人5 低エネルギー、短時間の場合であっても、熱レンズ現象は、必ず生じるが、そもそも、加工に適さないから本件特許と無関係である。さらに、ノズル壁を損傷するものでもない。
被請求人6 入口開口の周りにおいて、せき止め空間がなければ、基本的には熱レンズはできない。
被請求人7 熱レンズ形成の有無は、せき止め空間が最大要因である。液体供給空間の高さが高いと、せき止め空間が発生しやすくなる。
被請求人8 請求人が主張する第1の無効理由のマル2、マル4ないしマル7、第3の無効理由のマル3からマル4の要素である、液体の圧力、レーザーの出力、レーザーの種類、液体供給空間の具体的形状は、いずれも、熱レンズの形成に関係するが、熱レンズが形成されないように加工対象や他の要素を含め選定すればよい。
(略)
被請求人11 流速がほぼ0かどうかは、当業者の技術常識から理解できる。
被請求人12 甲第4号証は、正確な寸法、形状が不明であるが、せき止め空間があると判断したのは、これまでの技術の流れ、図面形状に基づくものである。
被請求人13 『せき止め空間がない』と『流速が十分に高い』は、同義ではない。」

キ.上申書1第2ページ下から4行?第6ページ第5行(誤記については、上申書2により訂正した。)
「A.請求人の提出した平成21年3月12日付口頭審理陳述要領書(第2回)及び平成21年3月17日上申書に記載された装置のシミュレーションについて
(略)
シミュレーションについては、流体の解析ソフトウェアとして国際的に著名なFLUENT(Version 6.3)を使用した。

1) 番号1の場合(番号については請求人の平成21年3月17日付上申書の参考資料4の番号に倣った)
番号1の場合は、本件特許における構造である。
(略)
下の参考図12は、本件特許発明そのもののシミュレーション結果を示す流速分布図である。流速分布図中、左端にある濃い青色から赤色までの色毎の色列は、流速分布を示す。色列の右側に色毎に記載されている数字が流速(m/s)を示す。一番下の濃い色の流速は、0.00e+00?5.000e-02であるから、0(ゼロ)?0.05m/sである。最も上の赤い色の流速は、9.50e-1?1.00e+00であるから、0.95?1m/sである。また、図において濃い青色から中央にかけて赤色に変化する部分が液体供給空間で、左右両端から水が供給されるようになっている。
(略)
以上の通り、本件発明の『液体が、ノズル入口開口の周りにおいてせき止め空間のないように導かれ、それによりレーザービームのフォーカス円錐先端範囲(56)における液体の流速が、十分に高く決められるように』した構成は明らかである。その結果、熱レンズの形成が抑圧され、ノズルの損傷が回避される。
(略)
2)番号5の場合(番号については請求人の平成21年3月17日付上申書の参考資料4の番号に倣った)
番号5の場合は、甲第1号証の構造である。
(略)
この参考図13から明らかなように、ノズルの上方、すなわち、フォーカス円錐先端範囲のうちの上方において最も濃い青色の部分が存在し、最も流速が低いことが読み取れる。換言すれば、フォーカス円錐先端範囲のうちの上方においては、水は『迅速には運び出されず』水が滞留してノズルから出て行かないから熱の交換が行われないし、熱の交換が行わなければ、レーザー光によって水が加熱して熱が滞留し、熱レンズが発生する。すなわち、液体供給空間中の最も流速が低い濃い青色の部分に、せき止め空間が存し、熱レンズ発生の原因となるのである。このことは、ヨーロッパ特許出願公開0515983号明細書(甲第1号証)の明細書中に『準よどみ』『ほぼ停留』『準停留』(請求人が提出した甲第1号証のquasi stagnation訳語=訳文3頁下から3行、6頁下から12行、同頁10行)として記載され、本件特許明細書には液体供給空間中の『準よどみ』『準停留』の問題点として熱レンズの発生が明確に認識されていることからも裏付けられる。
(略)
B.上記シミュレーションに基づく本件発明における『せき止め空間』について
上記のシミュレーション結果から、『せき止め空間』とは液体の流速がほぼ0となっている空間(その空間の液体は液体供給空間からほぼ流れ出ない状態)をいうことは十分に明らかである。
なお、請求人は、本件特許と甲第1号証の構造以外についても、せき止め空間の有無と熱レンズの有無について求釈明しているが、上記のシミュレーションから『せき止め空間の有無』は明らかであるから、請求人が指摘する仮定の条件(平成21年3月12日付提出の請求人口頭審理陳述書(2)の参考資料3の番号2・3・4及び平成21年3月17日付提出の請求人上申書の参考資料4の番号2・3・4の場合についてまで釈明する必要はない。そのような議論は、侵害論で議論すべきことである。」

ク.上申書1第7ページ第17行?第10ページ第27行
「そして、『せき止め空間』とは、上述したように流速がほぼ0の空間(液体が液体供給空間から流出しない空間)を言い、上記シミュレーションからもそのような空間が存在することは視覚的にもわかるように、ウォータージェットの装置において、このような空間があるかないかは、流体機械を取り扱っている者であれば、本件特許明細書の記載から客観的に理解できるものである。

3)『せき止め空間』の構成について
(略)
しかしながら、上記シミュレーションの結果からも明らかなように、
『せき止め空間』とは、流速がほぼゼロ、即ち、その空間の液体は液体供給空間からほぼ流れ出ない状態になっている空間
であり、それは液体供給空間の高さ等を請求項1に具体的に記載しなくても、そのような状態の空間が存在すれば、その空間の存在を明確に認識できるものである。また、上記のシミュレーションのように、第三者が当業者であれば、液体供給空間内における『せき止め空間』の有無を確認することは極めて容易である。
更に、本件発明の技術思想は、液体供給空間内の液体をフォーカス円錐先端範囲に滞留させないことにより、即ちフォーカス円錐先端範囲に『せき止め空間』が存在しないようにして、当該範囲における液体の流速を十分に高く決められるようにしたことである。そして、フォーカス円錐先端範囲において『せき止め空間』が存在しないようにするためには、液体という連続体の性質上、円錐状の液体の範囲において、突如として流れを作出することは不可能であり、それより広い範囲において液体を『せき止め空間』なく導いていく必要があるのである。それゆえ請求項第1項の文言上、『ノズル入口開口(30)の周りにおいてせき止め空間のないように導かれ』となっているのである。
つまり、フォーカス円錐先端範囲の流体を淀ませることなく常に流すことにより、常に、レーザービームのフォーカス円錐先端範囲における熱を逃がして熱レンズの生成を抑制するものであり、液体供給空間の高さ等を具体的に限定することは、本件発明の技術思想を表現する上で必要なものではなく、該限定がないと本件発明が明確でないとまではいえないものである。
(略)
そして、液体が液体供給空間に留まることなく、ノズルから流出するようにしていることが明らかであれば、『せき止め空間』がないのであり、本件発明の『せき止め空間』が、液体供給空間の高さがどこまでになれば発生するのかを具体的数値を持って特定する必然性はあり得ない。それを以って、本件発明に係る特許請求の範囲の記載が明確でないという結論が導きだされるものでもない。
ましてや、本件発明1は方法の発明であって、上述したように、構造を特定しなければ、発明の技術思想を表現できないというものではない。

4)『せき止め空間』の有無の判断基準
丸1 せき止め空間が『あれば』、熱レンズは物理現象として基本的に形成される。『基本的に』としたのは、上記1)本件発明の対象外のものを意識してのことである。
そして、何よりもまず本件特許は材料を加工する発明であるから、加工対象それなりのレーザー光のエネルギーを必要とする。加工に必要なエネルギーが液体供給空間に導入され且つせき止め空間が『あれば』、熱レンズが発生してノズルの熱損傷は不可避である。

丸2 せき止め空間が『無ければ』、基本的に熱レンズは物理現象として形成されない。
即ち、液体供給空間のフオーカス円錐先端範囲にせき止め空間が『無ければ』、フォーカス円錐先端範囲に液体が滞留することなく、ノズル関口から流出するので、熱レンズの形成が抑圧されるのである。他方、上記A2)に記載したように、ノズルの入口開□から遠く離れたところでは液体が滞留する空間が存在する。
したがって、当業者であれば、液体供給空間の形状とともに、入口開口からの距離を見て、通常の場合は淀みがあるかないか、即ち、『せき止め空間』の存否は判断できるものである。このことは、上記シミュレーションを見ると、液体供給空間の高さが10mmの場合には『せき止め空間』が存在し、300μmの場合には存在しないことが明らかになっていることからも裏付けることができる。しかし、加工対象によってレーザーのパワーを大きくする必要がある場合があり、そのような場合には、当然それに合わせて液体供給空間の高さを調整する必要があるし、レーザーの種類が変化すれば、光の吸収率は変化するから、液体供給空間の高さも変化することは当然である。
つまり、液体供給空間の高さを一義的に数値では特定できない。
このように、加工対象によって、液体供給空間の高さを変動させる必要があるからこそ、本件特許は『せき止め空間のない=流速がほぼゼロではない』という機能的な記載で特定しなければならないのであるし、そのことに合理性もある。この点にこそ本件特許の中核があるからこそ請求項の第1項に方法発明をすえたのである。
では、『せき止め空間のない』状態をどのように判断するか、換言すれば『流速がほぼゼロ』か否かをどのように判断するか?
上述したように、当業者であれば、通常は『せき止め空間』の存否は判断できるものであり、また、このような一般的な傾向が分かっているので、異なるレーザーを使用する場合もシミュレーションをすれば、せき止め空間があるかないか判断できるものである。
(略)

5)機能的記載について
請求項第1項では、『せき止め空間のないように導かれ』という機能的記載がされ、一方で、液体供給空間における高さ等の特定はされていない。まず、機能的記載をしたからといって、ただちに請求項の文言が不明確になる訳ではなく、かかる機能的記載が適切か、不明確でないか、が検討されるべきである。
この点、本件発明の技術思想は、熱レンズの形成を抑圧するために、液体供給空間内の液体を入口開口の周りに滞留させないことにより、即ち『せき止め空間』が存在しないようにして、フォーカス円錐先端範囲における液体の流速を十分に高く決められるようにしたことである。そして、『せき止め空間』の有無および液体の流速においては、確かに液体供給空間の高さが一つの重要な要素となる。一方で、実際の液体供給空間の高さは、加工対象物、液体供給空間の形状、圧力、ノズル径、レーザーの種類及び出力等他の要素との兼ね合いで決まってくるのであり、液体供給空間の高さを一義的に限定することは困難である。むしろ『せき止め空間のないように導かれ』、という機能的な側面からの特定が適切である。そして、かかる記載は、せき止め空間の定義に照らして十分に明確であるのは、前述のとおりである。また、自らが共同発明者として名を連ねた先行技術との対比において、出願時の技術水準との関係も論理的に理解できるため、かかる機能的表現によっても本件発明は十分に明確である。

…請求項5について
仮に、方法発明の請求項1における『せき止め空間のない』という記載が不明確であったとしても、装置発明である請求項5においては、『せき止め空間のない』という機能的記載を『ディスク状』という構造的な形状によって特定することにより、結局、物としての装置が明確にされている。換言すれば、『ディスク状』という用語は『液体供給空間』の高さを横方向よりも低くするという客観的な尺度を有しており、かかる基準をもって請求項5発明の範囲内にあるか否かを判別することができるから、少なくとも請求項5発明の外延は明確である。」

ケ.訂正請求書第37ページ第11?18行
「(C)小括
上記のように、本件訂正発明1は、『せき止め空間』を『液体供給空間がディスク状であること』及び液体が『前記ノズル入口開口(30)の周りにおいてせき止め空間のないように前記ノズル(43)からの前記窓(36)の高さを設定した前記ディスク状液体供給空間(35)内を前記ノズル入口開口(30)に向かって周辺から流れるように導かれ』ることを限定したことにより、明確であるから特許法第36条第5項第2号に規定する要件を充たすことは明らかである。」

コ.訂正請求書第38ページ第1行?第41ページ第1行
「<3> 明細書の記載における実施可能要件
(略)

e) もちろん、当該諸条件について、多くの実施条件が存し、実施条件の組み合わせは、多岐にわたるが、当業者であれば、レーザーによる切断・加工において、レーザーの種類や出力は、主として被加工材料の材質、形状、大きさ、加工時間等を考慮した上で決定することは設計事項である。これは、レーザー加工技術における当業者であればかかる調整、決定は、当然に実施可能な行為である。これを加工対象物毎に特定するべきである、とすれば、それこそ組み合わせは無限大となり、もはや特許化することは事実上不可能となる。
次に、ノズル径も、加工対象物や加工態様との兼ね合いで決定されることは自明である。そして、ノズル径が決定されると、そこから層流噴流を出すための圧力が限定されてくる。
このように、ほとんどの実施条件は、加工対象物との兼ね合いで決定され、又は限定されるのであり、熱レンズの形成を抑圧するための実施条件を検討する前に、実施条件の組み合わせは、限定されているのである。

f) また、本件特許の発明の分野からしても、諸条件の組み合わせが詳細に開示されていなければならないとは考えられない。すなわち、多くの条件があり、その各条件の違いにより、得られる結果が容易に推測できない場合、例えば、複数の物質を化学反応させる場合等においては、諸条件により得られる結果が全く異なるので、それらの条件を詳細に決める必要があるが、本件発明のような場合には、以下に説明するように、各条件を変化させれば、得られる結果がどのようになっていくかは当業者であれば十分に予測ができるものである。
即ち、本件においては、レーザービームの液体による吸収により生ずる熱レンズの形成を抑制するためにフォーカス円錐先端範囲における液体の流速を高くするのであるが、かかるレーザービームの液体による吸収により生ずる熱レンズの形成や液体の流速は、いわば物理的変化であり、段階的に変化するものであるので、予測可能である。
具体的には、レーザービームの出力を小さくしていけば、熱レンズの形成は段々弱くなるし、レーザービームの吸収率が小さい液体を使用すれば、熱レンズの形成は弱くなる。また、フォーカス円錐先端範囲における液体の流速を高くするために、例えば、少しずつ液体供給空間の高さを低くしていけば、少しずつ流速が高くなっていく。このように、以上は物理的変化であるので、化学物質の例等に比し、予測が可能であり、このようなことは当業者であれば、明細書の記載に基づいて容易に実施できることである。
そして、熱レンズの形成を抑圧するほど流速が高いか否かは、液体供給空間の高さを含む『液体供給空間』の構造によりほぼ決まり、訂正後の発明では『ディスク状』という明確な形状が開示されている。なお、レーザーの種類、液体を供給する圧力等も熱レンズの形成の有無に関係するが、その影響度は小さい。したがって、本件発明を実施するには、加工対象及び加工態様によって、レーザーの種類、レーザーの出力、ノズル径、液体を供給する圧力等がほぼ決まり、そのような加工条件に応じてノズル入口開口の周りにおいて『せき止め空間』がないように液体供給空間の高さを含む『液体供給空間』の構造を決めればよいのである。具体的構造については、当業者であれば、上述したように、各条件の結果の予測性があるので、過度の試行錯誤をすることなく、容易に決定することができるものである。
以上説明したように、本件発明はレーザービームのフォーカス円錐先端範囲における液体を、淀み無く且つ流速を十分に高くすることにより当業者であれば、実施可能なことである。」

サ.訂正請求書第43ページ第2行?第50ページ第18行
「(C)本件訂正発明と甲1発明との相違点
i) 相違点1
液体供給空間は、本件訂正発明1では『ディスク状』であるのに対し、甲1では『円柱状』であること
ii) 相違点2
液体供給空間は、本件訂正発明1では『前記ディスク状液体供給空間(35)へ供給される液体が、前記ノズル入口開口(30)の周りにおいてせき止め空間のないように前記ノズル(43)からの前記窓(36)の高さを設定した前記ディスク状液体供給空間(35)内を前記ノズル入口開口(30)に向かって周辺から流れるように導かれ』るように構成されているのに対し、甲1では『準停留、準よどみ』空間を構成するものである点
iii) 相違点3
液体供給空間内における液体の流速に関し、本件訂正発明1では『レーザービームのフォーカス円錐先端範囲(56)における液体の流速が、十分に高く決められるようにし』ているのに対し、甲1では流速については『準よどみ、ほぼ停留、準停留、』を積極的に形成することしか記載されていない点
iv) 相違点4
熱レンズに関し、本件訂正発明1では『フォーカス円錐先端範囲(56)において、レーザービームの一部がノズル壁を損傷しないところまで、熱レンズの形成が抑圧される』ことを特定しているのに対し、甲1ではそのような知見が開示されていない点

(D) 相違点1についての検討
a)本件訂正発明1の知見又は課題
(略)
本件特許の発明者であるリヒエルツハーゲン氏は、『熱レンズ』がノズル壁を損傷するという不具合を起しているという物理的現象たる知見を見出し、且つ、それを解決するために、本件訂正発明1を発明した。すなわち、本件発明の出願前においては、ノズルの損傷を防止するには如何に液体供給空間に流れを生じさせないようにするかということが重要であると考えられており(甲12翻訳文翻訳文16頁)、層流のウォータージェットを作るためには、液体供給空間内の加圧した液体が滞留した状態にある必要がある、というのが技術常識であった(甲1、甲12翻訳文5頁)。もし、液体供給空間内がかかる状態になっていなければ、ウォータージェットが層流にならず、レーザービームがウォータージェット内で全反射せず、散乱して所望の加工精度の高い溶断幅が得られない等の加工に困難を生じる問題がある、と理解されていた。かかる状況の下、本件特許の発明者は、『液体供給空間』の流速を十分に高くするという、従来の考えとは相反する『擬似的な静止状態部分を生じないようにする』という画期的知見を得たものである。即ち、本件発明の構成を採用するには阻害要因が存在したにもかかわらず、これを超越して着想したものであり、決して審決の言うように当業者が普通に行えるようなことではない。
(略)
甲4をはじめとする他の先行技術文献にも『ノズルの損傷の回避』という目的は無論、『ノズルの損傷』の原因たる『熱レンズの生成』という知見は開示も示唆もされていない。

b)本件訂正発明1の構成
(略)
しかしながら、ウォータージェット技術又は少なくとも本件特許のようなレーザー光をウォータージェットに案内する技術において、液体供給空間がディスク状である構造は公知ではない。本件訂正発明1は、『ディスク状液体供給空間』と形状と高さを限定したことに技術的特徴があるのであり、単に液体を入れるチャンバまたは液体を供給するチャンバとして公知ではない。
本件件訂正発明1は、上記の『液体供給空間』が『ディスク状』であるという構成を必須とすることにより『液体供給空間(35)』内の『ノズル入口開口(30)の周りにおいて』液体の流速を高め、熱を速やかに排出して『熱レンズ』の生成を抑制し、『ノズルの損傷』を防止するものである。
しかし、このような本件件訂正発明1の技術的思想は、各先行技術文献には開示も示唆もされていない。
(略)

(G)相違点4についての検討
(略)
レーザー技術の分野では『熱レンズ』現象は公知ではあったが、本件特許のような『レーザー技術』と『ウォータージェット技術』とを結合させた加工技術においては、『熱レンズ』現象が生じることは少なくとも公知ではなかった。
本件特許明細書の従来技術の記載及び甲12の陳述書から明らかなように、『レーザー技術』と『ウォータージェット技術』とを結合させた加工技術においてノズルの損傷は、『熱レンズ』の生成が原因であるという知見を得たのは本件特許の発明者が世界で初めてであった。
このような『熱レンズ』の生成を抑制するために上記相違点1)及び同2)の構成を必須として採用したのが本件特許である。
(略)

(I) 本件発明が明確であったとしても特許性がないとした無効審決判断の誤り
(略)

a)先ず、ノズル壁の損傷は、レーザービームが影響しているであろうと想到することは格別の困難性はないとしても、レーザービームの如何なる挙動が影響してくるのかについてその原因を特定するのは簡単な問題ではない。なぜなら、ノズルの入口開口直径はミクロン単位の目にも見えない程度の極めて微小な穴であって、この目にも見えないような微小な穴に、レーザービームが少しでもノズルに当たらないように焦点を結ぶようにすることはそれ自体極めて高度な技術を要する問題であるところ、ノズルが損傷した場合は、レーザービームをこの微小なノズル開口にセッティングすることに失敗したと考えるのが通常の思考過程である。したがって、審決が認定するように、ノズル壁が損傷したからといって直ちにレーザービームが屈折したとは思い至らず、まして、レーザービームによる熱レンズの存在に想到すると即断するのは事後分析的思考である。

b)また、不都合の原因が判明した場合に、それを除去することは、それ自体当然ではあるが、無効事件の審理においての、『熱レンズの形成』を抑制する手段として、液体をよどむことなく流すことが自然に想到しうる『思想』という判断は、全くの論理の飛躍である。なぜなら、本件発明の出願前、本件技術分野においては、ウォータージェットを層流にするために、液体供給空間に準停留(せき止め空間)が必要であると考えられており、それを如何に確保するのかが課題であった(甲1、甲12翻訳文5頁)。即ち、本件発明の出願前においては、如何に液体供給空間に流れを生じさせないようにするかということが重要であり、流れが生じれば、ウォータージェットが層流にならず、その結果、ウォータージェット内においてレーザービームが全反射せず、よってレーザービームが散乱して加工に困難を生じる問題があった。即ち、ウォータージェットを層流にするためには、流れを生じさせることは、阻害要因となるものである。
本件発明は、その点、従来の常識を覆し、液体の流速を十分に高くするものである。したがって、熱レンズの形成を抑制するために液体をよどみなく流すことを想到することは、当時誰も考えていなかった逆転の発想であり、審決言うように、『熱レンズの形成』を抑制する手段として、液体を淀むことなく流すことが自然に想到しうる『思想』であるということは決してできない。」

シ.答弁書2第3ページ第12行?第4ページ第5行
「(1)-2)被請求人の主張の要旨
要約すると、上記審判事件における平成21年5月11日付の審決(以下、『審決』という。)においては、『せき止め空間』の有無についての定義・判断基準がなく、にもかかわらず『せき止め空間』が存在するための条件(例えば『液体供給空間の高さ』)が明らかでない状態では、『せき止め空間』の有無を判断することは困難であるため、不明確である、として、訂正前請求項1?17について、明確性を否定している。
かかる明確性の要件についての被請求人の主張は、大きく以下の2点である。

(A)まず、『せき止め空間』という用語自体が明確である。すなわち、流体力学的見地から『液体が淀んでいる空間』と理解することができ、かつ、その有無も、液体供給空間の形状及び液体の流れ方により判断ができる。このことは、従前より被請求人が主張して来た通りであるが、今般、本審判事件答弁書(2)と共に提出された東京工業大学精密工学研究所香川利春教授作成の『見解書』(乙第7号証。以下、『香川見解書』という。)からも、それが明らかである。

(B)次に、被請求人は、平成21年12月11日付けで訂正審判請求書を提出した。訂正後請求項においては、以下に詳述する限定事項により、発明の構成が益々明確となり、本件特許の請求項が明確となった。この点、請求人は、個別の限定事項について個別に反論を行い、それぞれについて『せき止め空間のない』構成を明らかにしないため限定事項として意味をなさないという趣旨の主張をしている(弁駁書6頁18行?19行、9頁16行?17行)。一方、弁駁書においては、限定事項を全体として、あるいは組み合わせたものとしての検討はなされていない。以下の(4)以下において詳述するように、請求人の個別の反論も失当なのであるが、更に、被請求人は、個別の限定事項単体で『せき止め空間』の意義を明確にしようとしているのではなく、限定事項全体において、『せき止め空間のない』構成も含めて訂正後請求項の構成を明らかとしていることをここで改めて強調する。」

ス.答弁書2第8ページ第3行?第9ページ第17行
「上記の通り、『せき止め空間』とは、液体供給空間に供給された液体が『淀んでいる空間』であるが、チャンバー内に再循環領域が形成されるときは、『液体が淀んでいる空間』が形成される。そして、その再循環領域の発生原因として、(A)流路の急拡大及び(B)キャビティが挙げられている。その上で、甲1においてはかかる原因によりチャンバー内の上部に『液体が淀んでいる空間』が発生するが、本件特許においては発生しないことが説明されている。以上のように、香川見解書によれば、『せき止め空間』が『液体が淀む空間』であること、及び『液体が淀む空間』の発生要因が明確に説明されており、かかる説明は流体力学の教科書、専門書からも十分理解しうるものである。
(略)
このように、香川見解書からも宗像陳述書からも、『せき止め空間』の用語は、『液体が淀んでいる空間』を意味すると解釈できることは明白である。

(2)-2-b)『せき止め空間』の有無の判断基準
(略)
このように、流体力学の知見のある者であれば、再循環領域の発生するか否か、ひいては『せき止め空間』が発生するか否かは、液体供給空間の形状や流れの条件(流体の種類、流速、圧力等)が与えられれば判断できるのである。そして、その際に、『流路拡大による流れの剥離』、『キャビティ部の渦形成』がある場合、『せき止め空間』があると判断するのである。

(2)-2-c)まとめ
このように、『せき止め空間』のない構成は、『液体が淀んでいる空間と理解』されるから流体力学の技術分野の当業者であれば、明確であるとともに、『せき止め空間』の有無は、(A)流路の急拡大(B)キャビティの2種類の組み合わせで判断可能であるから判断基準も明確である。」

セ.答弁書2第25ページ第4行?第26ページ第16行
「(4)相違点3・・・熱レンズの知見
(略)
(4)-1)先ず、ノズル壁の損傷は、レーザービームが影響しているであろうと想到することに格別の困難性はないとしても、レーザービームの如何なる挙動が影響してくるのかについてその原因を特定するのは簡単な問題ではない。なぜなら、ノズルの入口開口直径はミクロン単位の目にも見えない程度の極めて微小な穴であって、この目にも見えないような微小な穴に、レーザービームが少しでもノズルに当たらないように焦点を結ぶようにすることはそれ自体極めて高度な技術を要する問題であるところ、ノズルが損傷した場合は、レーザービームをこの微小なノズル開口にセッティングすることに失敗したと考えるのが通常の思考過程である。したがって、審決が認定するように、ノズル壁が損傷したからといって直ちにレーザービームが屈折したとは思い至らず、まして、レーザービームによる熱レンズの存在に想到すると即断するのは事後分析的思考である。
(4)-2)また、不都合の原因が判明した場合に、それを除去することは、それ自体は当然であるが、本件審理においては、『熱レンズの形成』を抑制する手段として、液体を淀むことなく流すことが自然に想到しうる『思想』というのは、全くの論理の飛躍である。なぜなら、訂正発明1の出願前、本件技術分野においては、噴流を層流にするために、液体供給空間に準停留(せき止め空間)が必要であると考えられており、それを如何に確保するのかが課題であった(甲1、和訳5頁)。即ち、本件発明の出願前においては、如何に液体供給空間に流れを生じさせないようにするかということが重要であり、流れが生じれば、噴流が層流にならず、その結果、噴流内においてレーザービームが全反射せず、よって、レーザービームが散乱して加工に困難を生じる問題があった。即ち、噴流を層流にするためには、流れを生じさせることは、阻害要因となるものである。
本件発明は、その点、従来の技術を覆し、液体の流速を十分に高くするものである。したがって、熱レンズの形成を抑制するために液体を淀みなく流すことを想到することは、当時誰もが考えていなかった逆転の発想であり、審決が言うように、『熱レンズの形成』を抑制する手段として、液体を淀むことなく流すことが自然に想到しうる『思想』であるということは決してできない。
なお、例えば甲4の第2図ではレーザー光の焦点がノズル開口面に無く、それよりも上の液体供給空間に位置し、同第4図ではレーザー光の焦点がノズル開口面に無く、それよりも下の噴流の内部にあるように記載されている。このような甲4の構造では、熱レンズの発生よりも、むしろノズル熱損傷の原因として、ノズルの極めて小さい直径の穴の中心にレーザービームの光軸を厳密に一致させたり、焦点深度の深さを調節したり、焦点深度の深さに亘って焦点の直径を調節するなどの条件に問題があるのではないかと考えるのが通常であり、ノズルの熱損傷の原因が熱レンズの発生であるとの知見を得るに至ること自体が困難なことである。」

ソ.第2回口頭審理調書
「被請求人8 『せき止め空間』が生じるか否かは、『液体供給空間』の形状、構造が大きな要因であり、ほとんどの場合、形状、構造で判断できるが、これのみですべて判断できるものではない。例えば液体圧力による。
被請求人9 特許法第36条第5項の判断は、出願時の先行技術との関係でなされるべき。本件は、流体の状態を説明しており、明確である。
(略)
被請求人11 甲第1号証の空間は、膨張チャンバーであって、一定量が必要であるからディスク状とすることに阻害要因がある。」

タ.上申書3第3ページ第2?6行
「(1) 甲9・13・14・16・17の取り扱いについて
甲9・13・14・16・17は、審判請求後の新たな証拠であって、しかも周知事実を裏付けるための証拠とは認められないから、本来的には、審判請求書の無効理由の要旨を変更するものである。しかしながら、被請求人は審理効率の観点からこれらを証拠として審理の対象とすることについて争わない。」

チ.上申書3第10ページ第12?末行
「(7) まとめ
以上、(2)?(6)をまとめると、以下のことが明らかとなった。
まず、上記に詳述したとおり、甲9・13・14・16・17については、それぞれ本件特許に関する技術分野において周知技術として認定できるものではない。
そして、甲9・16・17は熱レンズという現象自体については、これらより知ることができるが、本件特許における具体的な加工技術において発生するノズル損傷という問題点やそれを解消する手段については、これらの証拠からは知る由もない。
更に、甲13・14について言えば、請求人は、これらにより『ディスク状液体供給空間』が周知であることを主張しているが、本件特許と技術分野が全く異なるのであり、本件特許における『ディスク状液体供給空間』が甲13・14において、周知又は公知である、あるいは示唆されているとはいえない。
一方で、新たに被請求人により提出された乙12により、本件特許の明確性(特に『せき止め空間のない』の明確性)及び進歩性(特に、甲4との差異)は益々明らかになっている。
以上より、新たに請求人より証拠として提出された甲9・13・14・16・17をこれまで請求人より証拠として提出された甲1及び甲4等と組み合わせたとしても、本件特許を容易に想到することはできず、本件特許の新規性進歩性を否定することはできない。
(8) 訂正の意思
訂正の意思はない。」


第6.当審の判断
1.理由3(改正前特許法第36条第5項第2号)について
請求人は、理由3(第36条第5項第2号)について、以下の4点を主張する。
(1)請求項1,5の「せき止め空間」なる用語は、技術的意義が不明りょうである。
(2)請求項1,5の「せき止め空間のない」という表現は否定的な表現であり、不明確である。
(3)請求項1,5の「液体の流速が、十分に高く」という表現は比較の基準、程度が不明りょうである。
(4)請求項1,5の「フォーカス円錐先端範囲(56)における液体の流速が、十分に高く」という記載は、フォーカス円錐先端範囲内の或る1点の流速を十分高くするとの意味であるか、フォーカス円錐先端範囲内の全ての点において流速を十分高くするとの意味であるか、或いは、フォーカス円錐先端範囲内の平均流速を十分高くするとの意味であるか不明である。
(上記第4.2.イ.)

(1)について検討する。
特許法第36条第5項第2号は、「特許を受けようとする発明が明確であること」を規定する。この規定の趣旨は、特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合には、特許発明の技術的範囲が不明となり、第三者に不測の不利益を及ぼすことがあるので、そのような不都合な結果を防止することにある。
また、特許法第2条第1項は、「この法律で『発明』とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう。」と規定する。
そこで、特許を受けようとする発明が、「技術的思想の創作」として明確であるかという観点から、「せき止め空間」を検討する。

本件特許明細書には、以下の記載がある。
「この時、ヨーロッパ特許出願公開第0515983号明細書において、・・・。空間は、水ビームのためにその中にある水が、擬似的に静止状態に、すなわち緊張解除した状態にあるように構成されている。」(公報第3ページ第36?42行)
「水の使用だけが、結合効率を悪化するのではなく、ノズル入口前の液体空間の全構造的構成も悪化する。・・・、ノズル入口前においてできるだけ液体の静止状態を達成する努力が試みられた。まさしくこの液体静止状態は、熱レンズの構成を可能にし、又は強化する。・・・。
しかし本発明は、別の方法をとる。ここではすべてのことは、できるだけ熱レンズを生じることがなく、又はその作用を大幅に小さくすることにかけている。・・・。
すなわち本発明は、次のことを提案する。すなわち加熱時間をそもそもできるだけ短く維持するために、液体が、レーザービームのフォーカス円錐の範囲から、とくにその先端範囲からできるだけ迅速に運び出される。明らかに最善の結果は、わずかな吸収を有するフォーカス円錐における液体の短い滞在時間の際に達成される。」(公報第4ページ第21?38行)
「有利な構成変形において、・・・、フォーカス円錐の先端における液体容量をそもそもできるだけ少なく、かつ流速をそもそもできるだけ高く維持することが可能である。」(公報第4ページ第43?47行)
「ノズル入口開口30の上に、液体供給導管としてディスク状の液体供給空間35がある。液体供給空間35は、ノズル入口開口30の周囲にせき止め空間として作用する液体空間を持たない。」(公報第7ページ第36?39行)

これら記載から、本発明は、熱レンズ発生原因となる「液体静止状態」を取り除くため「流速を高く」するものであって、請求項1,5の「せき止め空間」なる用語が「液体静止状態」が生じる空間であることは明らかである。
この点は、甲第18号証(鑑定書)の『EP515983号に記載されている発明では、流体の整流装置として、『流体の流速を遅くさせ、そこで整流する空間』が必要であるが、本件発明では、そのような空間を設置しなくても、ノズル入口開口で整流された流れを得ることができる』という発明者の意図を想像することは不可能ではない。」(第18ページ第1?5行)とも整合する。
また、液体空間が一つの連通空間である場合、空間内で流速は連続的に変化し、流速が0になる点が存在しないことは、技術常識である(例えば、甲第18号証第14ページ第16?21行)。
してみると、「せき止め空間」は「液体静止状態」が生じる空間であるが、この場合の「静止」が流速0を意味するものでなく、「ほぼ0」程度のものと解される。
このことは、被請求人が主張する「『せき止め空間』の用語は、『液体が淀んでいる空間』を意味すると解釈できる」、「『せき止め空間』の有無は、(A)流路の急拡大(B)キャビティの2種類の組み合わせで判断可能である」(上記第5.2.ス.)とも整合する。
したがって、請求項1,5の「せき止め空間」は、発明の詳細な説明の記載、技術常識を考慮することにより、「技術的思想の創作」として明確である。

請求人は、以下のとおり主張する。
「『流体が淀んでいる空間』という字句が作り出され、一見それに当てはまるように見える流体運動を例示し、その正当性を主張しているものであって、流体力学の専門家としては到底受け入れることはできない。・・・とある。このように、『せき止め空間』なる用語は、用語としての意味自体不明確であると共に、『せき止め空間』の有無を『流路の急拡大』や、『キャビティ』によって判断することはできない。」
「仮に本件発明の技術思想を理解することができるとしても、本件発明の外延は依然として不明確である。」(上記第4.2.タ.)

請求人が主張する、学術的に厳密な用語の使用、発明の外延を明確とすることが望ましいことは当然であるが、特許法は、「技術的思想の創作」としての「特許を受けようとする発明が明確であること」を規定するにとどまり、請求人主張の2点を、必ずしも求めていない。
よって、請求人の主張は根拠がない。

(2)について検討する。
特許法上、否定的表現を禁じる規定はなく、「特許を受けようとする発明が明確であること」なる規定に照らし、判断されるべきである。
すなわち、否定的表現の使用が直ちに、特許法第36条第5項第2号に規定する要件を満たしていないことにはならない。
請求人は、「審査基準」を根拠としているが、「審査基準」は法規範ではなく、また「審理」の基準でもないから、当審における判断が、これに拘束されるものではない。
そして、上記のとおり、「せき止め空間」は明確であるから、同様の理由により「せき止め空間のない」は、明確である。

請求人は、以下のとおり主張する。
「本件特許発明は、液体供給空間の高さを上記のような高さとすることによって、液体供給空間を『せき止め空間のない』構造とすることができるものであり」(上記第4.2.ク.)
「『ノズル入口開口の周り』について、『液体供給空間』内のどの部分を指しているのか、・・・不明確である。」、「『周辺から流れる』の解釈について、・・・他の限定と併せて読むことにより、何故『せき止め空間』のない構成が明らかとなるのか・・・具体的な説明は為されていない。」(上記第4.2.サ.)。

請求人が主張する、液体供給空間の高さを特定する必要がある点については、(1)で検討したとおり、本件発明は、熱レンズ発生原因となる「液体静止状態」を取り除くため「流速を高く」するものと解されるから、確かに、液体供給空間の高さは大きな要因であるが、これのみですべてが定まるとは認められない。被請求人もこの点を主張している(上記第5.2.カ.「被請求人7」、ソ.「被請求人8」)。
「ノズル入口開口の周り」、「周辺から流れる」について検討する。
本件発明は、「熱レンズ発生原因となる『液体静止状態』を取り除くため『流速を高く』する」ものであるから、「レーザービームのフォーカス円錐先端範囲(56)における液体の流速」が重要であり、この点は、請求項1において特定されており、本件図面Fig.2を勘案すれば、明確である。
よって、請求人の主張は根拠がない。

(3)について検討する。
請求項1には、以下の記載がある。
「液体の流速が、十分に高く決められるようにし、したがってフォーカス円錐先端範囲(56)において、レーザービームの一部がノズル壁を損傷しないところまで、熱レンズの形成が抑圧される」
請求項5には、以下の記載がある。
「液体の流速が、十分に高くあらかじめ与えることができ、したがってフォーカス円錐先端範囲(56)において、レーザービームの一部がノズル壁を損傷しないところまで、液体内における熱レンズの形成が抑圧されている」
してみると、「流体の流速が、十分に高く」は、「フォーカス円錐先端範囲(56)において、レーザービームの一部がノズル壁を損傷しないところまで、熱レンズの形成が抑圧される」程度に「十分に高い」ことは、明らかである。
よって、請求人の主張は根拠がない。

(4)について検討する。
被請求人は、以下のとおり主張する。
「本件発明1及び本件発明5は、フォーカス円錐先端範囲(56)において、レーザービームの一部がノズル壁を損傷しないところまで、熱レンズの形成が抑制されるのであるから、フォーカス円錐先端範囲内で流速がほぼ0になる部分があってはならないのであって、記載されている通り解釈すればよく、フォーカス円錐先端範囲全体において液体の流速を十分に高くすることを意味していることは明らかである。」(上記第5.2.イ.)
熱レンズの形成が抑制されるという目的を踏まえると、「フォーカス円錐先端範囲内で流速がほぼ0になる部分があってはならない」のであるから、請求人が主張する3とおりの解釈のうち、「フォーカス円錐先端範囲内の『全ての点』において流速を十分高くするとの意味」であることは、明らかである。
よって、請求人の主張は根拠がない。

以上、本件発明1?16は、改正前特許法第36条第5項第2号に規定する要件を満たしているから、理由3によってでは、本件発明1?16に係る特許を、無効とすることはできない。

2.理由1(改正前特許法第36条第4項)について
請求人は、理由1(第36条第4項)について、以下を主張する。
本件発明は、液体を「せき止め空間のない」ように導き、これによりフォーカス円錐先端範囲における液体の流速を十分に高くし、熱レンズが形成されるのを抑圧するものであり、これにより、レーザービームの一部がノズル壁を損傷しないという効果を奏する。
熱レンズの形成を抑圧する本件発明の上述した効果は、「使用するレーザービームの種類(波長)」、「レーザーの出力(ワット数)」、「使用する液体の種類」、「液体供給空間の構造」、「液体供給空間に液体を供給する圧力」等の実施条件を適切に組み合わせることによって初めて得られるものであるが、必要な上記実施条件の組み合わせが1つも具体的に記載されていない。(上記第4.2.ア.)

被請求人は、以下のとおり主張する。
「実際の液体供給空間の高さは、加工対象物、液体供給空間の形状、圧力、ノズル径、レーザーの種類及び出力等他の要素との兼ね合いで決まってくる」(上記第5.2.ク.)
「具体的には、レーザービームの出力を小さくしていけば、熱レンズの形成は段々弱くなるし、レーザービームの吸収率が小さい液体を使用すれば、熱レンズの形成は弱くなる。また、フォーカス円錐先端範囲における液体の流速を高くするために、例えば、少しずつ液体供給空間の高さを低くしていけば、少しずつ流速が高くなっていく。このように、以上は物理的変化であるので、化学物質の例等に比し、予測が可能であり、このようなことは当業者であれば、明細書の記載に基づいて容易に実施できることである。
そして、熱レンズの形成を抑圧するほど流速が高いか否かは、液体供給空間の高さを含む『液体供給空間』の構造によりほぼ決まり、訂正後の発明では『ディスク状』という明確な形状が開示されている。なお、レーザーの種類、液体を供給する圧力等も熱レンズの形成の有無に関係するが、その影響度は小さい。したがって、本件発明を実施するには、加工対象及び加工態様によって、レーザーの種類、レーザーの出力、ノズル径、液体を供給する圧力等がほぼ決まり、そのような加工条件に応じてノズル入口開口の周りにおいて『せき止め空間』がないように液体供給空間の高さを含む『液体供給空間』の構造を決めればよいのである。具体的構造については、当業者であれば、上述したように、各条件の結果の予測性があるので、過度の試行錯誤をすることなく、容易に決定することができるものである。」(上記第5.2.コ.)

熱レンズの形成を抑圧するためには、「レーザーの種類」、「レーザーの出力」、「仕様する液体の種類」、「ノズル径」、「液体供給空間の構造」、「液体を供給する圧力」等の実施条件を適切に組み合わせる必要があり、特に「液体供給空間の構造」が大きい影響を与える。
すなわち、熱レンズの形成を抑圧するためには、多くの実施条件が存し、実施条件の組み合わせは、多岐にわたると解される。
訂正の認容により、熱レンズの形成を抑圧するための大きな要因である「液体供給空間の構造」が「ディスク状」とされた。
そして、被請求人主張のとおり、実施条件は、「加工対象及び加工対象によって、レーザーの種類、レーザーの出力、ノズル径、液体を供給する圧力等」がほぼ決まるものである。
また、各条件間に「傾向」があることは明らかである(第2回口頭審理調書「両当事者 2」 )。
以上、「液体供給空間の構造」は「ディスク状」であり、各条件については結果の予測性があることから、技術常識を考慮することにより、過度の試行錯誤をすることなく、本件発明を容易に実施することができるものである。
したがって、特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明を容易に実施できる程度に記載されていると認める。
以上、本件明細書は、改正前特許法第36条第4項に規定する要件を満たし、本件発明1?16に係る特許は、無効とすることはできない。

3.理由4(特許法第29条第1項第3号)について
(1)本件発明
本件発明1、5、9は、上記第3.の請求項1、5、9のとおりと認める。

(2)刊行物記載の発明
本件発明1と、同一発明者に係るものである甲第1号証には、以下の記載(訳文により示した)がある。

ア.特許請求の範囲の請求項1?2
「1.材料アブレーション装置、特に歯科用ハンドピース(1)において、
ボディー(4)および作業ヘッド(5)を画定するケース(2)と、
コヒーレント光ビーム(10)を作業表面まで伝播および案内する光学的手段(6、16、22、32;50、52、66)であって、光軸(18)を画定し、コヒーレント光発生源(12)に接続されるようになっている光学的手段と、
加圧流体を前記作業ヘッド(5)まで供給し、加圧液状流体発生源(26)に接続されるようになっている配管手段(24、30;62)と、
前記配管手段(24、30;62)の下流側の前記作業ヘッド(5)内に位置し、液状流体噴流(32)を形成するためにこれらの手段に通じているノズル(20;64)を備え、前記ノズル(20;64)の管路(44)が前記光軸(18)とほぼ一直線になり、前記配管手段が、前記ノズル(20;64)のすぐ上流側に位置し前記加圧液状流体を受け入れるようになっている少なくとも1つの体積(46;60)を備えるチャンバー(30;62)を含み、コヒーレント光ビーム(10)が前記ノズル(20;64)の管路(44)に入る前にこのコヒーレント光ビームが前記体積(46;60)を横断し、前記液状流体が、加圧された状態で前記体積(46;60)内および前記ノズル(20;64)の管路(44)内に供給されること、ならびにこのノズルにより発生した前記液状流体噴流(32)が、前記コヒーレント光ビーム(10)の光学的伝播および案内手段となることを特徴とする装置。
2.前記光学的伝播および案内手段が、
基本的に、グリップボディーとなる前記ボディー(4)の領域内の前記ケース(2)の内部に位置する光ファイバー(6)であって、端面(8)が前記作業ヘッド(5)の領域内に位置する光ファイバー(6)と、
光ファイバー(6)の前記端面(8)の下流側であって前記ノズル(20)の上流側の前記作業ヘッド(5)の領域内に位置し、焦点がノズル(20)の前記管路(44)の内部に位置するよう前記コヒーレント光ビーム(10)の焦点を合せるのに使用される前記コヒーレント光ビーム(10)の合焦手段(22)
を備えることを特徴とする、請求項1に記載の装置。」

イ.第6欄第11?28行
「このハンドピース1は、グリップボディー4ならびに作業ヘッド5を有するケース2を備える。ケース2の内部には、コヒーレント光ビーム10を光ファイバー6の端部8まで伝播および案内するための手段となる光ファイバーが設置される。光ファイバー6は、コヒーレント光ビーム10のフレキシブル伝播案内手段14によりコヒーレント光発生源12に接続されるようになっている。フレキシブル手段14は光ファイバー6の延長部により形成されるのが好ましく、そうすることにより2つの伝播案内手段間での接続を回避することができる。コヒーレント光発生源12はたとえば、パルスモードで供給されマルチモードまたは基本モードTEMooで動作するNd:YAGタイプのレーザーで構成される。もちろん他の種類のレーザーも使用することができる。」

ウ.第7欄第32?52行
「したがってチャンバー30により加圧液状流体の準停留が確保され、その後、この流体はノズル20の管路に入り、液状流体の層流噴流32が形成される。チャンバー30は、ノズル20と最後尾合焦レンズ34の間に位置する体積を画定し、このレンズは、コヒーレント光ビーム10がチャンバー30内に入ることができるよう、合焦光学部22とチャンバーの間に透明なウインドウ36を画定する。こうすることにより、最後尾合焦レンズ34から出たコヒーレント光ビーム10は、膨張チャンバー30内にある加圧液状流体内を直接伝播する。したがって合焦光学部22を出たところの界面は、レンズ-液状流体界面である。このようにビーム10は加圧液状流体内をノズル20の管路の入口まで伝播し、次に液状流体の層流噴流32と結合される。するとこの層流噴流32はコヒーレント光ビーム10用の光導波路となる。」

エ.第8欄第31?36行
「管路24によって供給される加圧液状流体は膨張チャンバー30に到達し、このチャンバー内で準定常状態に保たれる。チャンバー30からはこの液状流体はノズル20の管路44を通過し、液状流体の層流噴流32を形成する。」

オ.第8欄第58行?第9欄第15行
「ノズル20のレベルにおいて光エネルギーの大きな損失を防止し、特に乱流のリスクを制限するためには、長さが比較的短い管路が有利であり、この管路がコヒーレント光ビーム10の光軸18に完壁に一致していることが最も重要である。液状流体噴流32内においてコヒーレント光ビーム10の最良の結合が得られるようにするために、焦点がノズル20の管路44の内部に位置しかつコヒーレント光ビーム10の包絡線45がノズル20の管路44の壁に触れないようにして、コヒーレント光ビーム10が合焦される。したがってそのような特性を保証する合焦光学部が設けられる。」

カ.第9欄第46?56行
「したがって自由体積46内にある液状流体自体も加圧されており、これにより液状流体の均質性が増加し、したがってこの自由体積46の内部のコヒーレント光ビーム10のための光路の品質が向上する。
上で記載した種々の適切な手段により発生する液状流体噴流32は、・・・完全に層流である。」

キ.Fig.2
ノズル20の上面と、前記ノズル20の上方に配置される透明なウインドウ36の下面との間には、液体が供給されるチャンバー30が形成されていること、
ノズル20は、ノズル管路44のノズル入口開口を有していること、
が看取できる。

これら事項を、技術常識を勘案しつつ、本件発明1に照らして整理すると、甲第1号証には、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認める。

「合焦されるレーザービームによる材料アブレーション方法であって、コヒーレント光ビーム10を導く液状流体噴流32がノズル20により形成され、加工すべき材料へ向けられるものにおいて、
前記ノズル20の上面と、前記ノズル20の上方に配置されるとともに前記コヒーレント光ビーム10に対して透明なウインドウ36の下面との間には、前記液状流体噴流32を形成するための液体を供給するチャンバー30が形成され、
前記ノズル20は、ノズル通路のノズル入口開口を有し、
レーザービームガイドとして作用する液状流体噴流32へコヒーレント光ビーム10を導入するため、
コヒーレント光ビーム10がノズル20の管路44の入口開口の所で合焦され、
チャンバー30内に加圧液状流体の準停留、準定常状態が確保される、
材料アブレーション方法。」

(3)対比・判断
ア.本件発明1
(ア)対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「合焦」は、本件発明1の「収束」に相当し、以下同様に、「アブレーション」は「加工」に、「コヒーレント光ビーム(10)」は「レーザービーム」に、「液状流体噴流32」は「液体ビーム」に、「材料」は「加工片」に、「ウインドウ36」は「窓」に、「チャンバー30」は「液体供給空間」に、「管路44」は「ノズル通路」に、それぞれ相当する。
また、甲1発明の「チャンバー30内に加圧液状流体の準停留、準定常状態が確保される」と、本件発明1の「ディスク状液体供給空間へ供給される液体が、ノズル入口開口の周りにおいてせき止め空間のないようにノズルからの窓の高さを設定した前記ディスク状液体供給空間内を前記ノズル入口開口に向かって周辺から流れるように導かれ、それによりレーザービームのフォーカス円錐先端範囲における液体の流速が、十分に高く決められるようにし、したがってフォーカス円錐先端範囲において、レーザービームの一部がノズル壁を損傷しないところまで、熱レンズの形成が抑圧されること」とは、「液体供給空間へ液体が供給される」限りにおいて、一致する。
したがって、両者は、以下の点で一致する。

<一致点>
「収束されるレーザービームによる材料加工方法であって、レーザービームを導く液体ビームがノズルにより形成され、加工すべき加工片へ向けられるものにおいて、
前記ノズルの上面と、前記ノズルの上方に配置されるとともに前記レーザービームに対して透明な窓の下面との間には、前記液体ビームを形成するための液体を供給する液体供給空間が形成され、
前記ノズルは、ノズル通路のノズル入口開口を有し、
レーザービームガイドとして作用する液体ビームへレーザービームを導入するため、
前記レーザービームがノズルのノズル通路の前記ノズル入口開口の所で収束され、
液体供給空間へ液体が供給される、
材料を加工する方法。」

そして、以下の点で相違する。
<相違点1>
「液体供給空間」について、本件発明1は「ディスク状」であるが、甲1発明はそのようなものではない点。
<相違点2>
液体供給空間への液体の供給について、本件発明1は、「ディスク状液体供給空間へ供給される液体が、ノズル入口開口の周りにおいてせき止め空間のないようにノズルからの窓の高さを設定した前記ディスク状液体供給空間内を前記ノズル入口開口に向かって周辺から流れるように導かれ、それによりレーザービームのフォーカス円錐先端範囲における液体の流速が、十分に高く決められるようにし、したがってフォーカス円錐先端範囲において、レーザービームの一部がノズル壁を損傷しないところまで、熱レンズの形成が抑圧される」ものであるが、甲1発明は、「チャンバー30内に加圧液状流体の準停留、準定常状態が確保される」ものであり、「熱レンズの形成が抑圧される」か不明である点。

(イ)判断
本件発明1と甲1発明とを対比すると、上記相違点がある。そして、かかる相違点は、形式的なものにすぎないと認めることはできない。
よって、本件発明1は、甲1発明と同一であるとすることはできない。

イ.本件発明5、9
本件発明5は、本件発明1と同様の上記<相違点1>、<相違点2>を有するものであり、本件発明9は、本件発明5に従属するものであるから、本件発明1と同様の理由により、甲1発明と同一であるとすることはできない。

(4)まとめ
以上、本件発明1、5、9は、甲1発明と同一であるとすることはできないから、特許法第29条第1項第3号に該当しない。
よって、本件発明1、5、9に係る特許を無効とすることはできない。

4.理由5(特許法第29条第2項)について
(1)本件発明1ないし16
本件発明1ないし16は、上記第3.の請求項1ないし16のとおりと認める。

(2)刊行物記載の発明又は事項
甲第1号証の記載事項、及び認定される発明は、上記3.(2)のとおりである。

甲第4号証には、「ウォータージェット型レーザー治療装置」において、「レーザー光(10)としては、水による吸収の少ない波長を選択する必要があり、可視域から近赤外領域の波長が適している」(第2ページ左下欄第5?7行)として、レーザー光は水による吸収の少ない波長を選択する必要がある旨が記載されている。

甲第5号証には、「レーザめつきおよびレーザ・エツチング方法、さらに具体的にいえば、ジエツトめつきまたはジエツト・エツチング過程をレーザ光線と組み合せて実施する」(第1欄下から第6行?下から第3行)ものにおいて、エネルギービームとして「アルゴン・レーザ40」を利用し(第11欄第30?36行)、「めつき液25から構成される液体ジエツト21がめつき液25の供給源からめつきすべきイオンを再補給し、光線44のレーザ・エネルギーに対する光学的導波管ないし光導体として働く。」(第10欄第19?23行)との記載がある。

甲第6号証には、「穿孔或いは切断用超高圧液体噴射ノズル」に関し、「截然とした縁7で画された円形の開口8」であり、「糸面11又は丸味12の寸法h或いはrは0.1mmよりも小さい値でよい」なるノズル形状(第3欄第28?38行、第4欄第12?23行、第5図)が、さらに、「ノズル出口開口が、入口開口に対して広げられており、ノズル通路の広がりがその上側1/3のところですでに始まっている」ノズル形状(第6図、第7図)が、記載されている。

甲第7号証には、「レーザ加工方法」に関し、「加工に用いられたアシスト液が加工容器7に回収され、貯留液槽9に環流するもの」(第5欄第4?15行、第6欄第19?22行、図1)が、記載されている。

甲第9号証には、「6328Åの赤色で作動するヘリウム-ネオンレーザーの光共振器の中に、有極性又は無極性液体セルが配置された場合における増強及び減衰過渡現象が観察された。」(甲第9号証抄訳第1?3行)、「これらの効果は、ビームの近傍における局所加熱、及び屈折率の横勾配から生じるレンズ効果を生成する、材料中の赤色光の吸収に起因するものと考えられる。」(甲第9号証抄訳第8?10行)との記載がある。上記記載によれば、甲第9号証には、液体中をレーザー光が通過するとき、液体がレーザー光によって加熱され、液体の屈折率が変化してレンズ効果を生じることが記載されていると認められる。

甲第13号証には、燃料用の噴出ノズルに関する発明であって、様々な燃料で内燃機関を運転し得るようにし、燃料を燃焼しやすくするために霧状に噴霧する技術が開示されており、特に、「円板状の間隙15」は、噴出圧力が生じた場合に「ディスク状」の液体供給空間を形成することが記載されている。

甲第14号証には、燃料用の噴射ノズルに関し、甲第13号証と同様に、燃料を霧状に広角に噴霧する技術が開示されており、特に、「円板状の隙間15」は、噴出圧力が生じた場合に「ディスク状」の液体供給空間を形成することが記載されている。

甲第16号証には、光により固体レーザ媒質を励起し、レーザ発振させる固体レーザ装置に関し、一般に、固体レーザ媒質を光で励起する際、レーザ発振に寄与しない光の吸収により、固体レーザ媒質の温度が上昇し、屈折率が変化して、固体レーザの共振状態が変化する現象(熱レンズ効果)がみられるところ、簡単な構成で熱レンズ効果によるレーザ出力強度の低下を補償することができ、コストダウンに貢献することができる固体レーザ装置に関する発明が記載されていることが認められる。

甲第17号証には、非線形光学結晶素子により波長変換されたレーザ光を発生させるようなレーザ光発生装置に関し、共振器を構成する複屈折性素子の一方の面と上記非線形光学結晶素子の一方の面を平行に保ち、かつ上記非線形光学結晶素子に照射させる基本波レーザ光の径を拡げないために、励起光が照射されることにより内部に生じる熱レンズ効果を用いたレーザ媒質を用いる技術、レーザ媒質45に熱レンズ効果を持たせることにより、基本レーザ光の径を絞り込み、上記非線形光学結晶素子46に照射することにより、効率のよい第2高調波レーザ光を発生できるという技術的事項が記載されていると認められる。

(3)本件発明1についての対比・判断
(ア)対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
一致点、相違点は、上記3.(3).ア.(ア)と同様である。

(イ)判断
<相違点1>について検討するに、平成23年10月12日に判決が言渡された平成22年(行ケ)第10282号の判決において、「本件訂正発明1(当審注:本件発明1)は,・・・収束されるレーザービームによる材料加工方法であってレーザービームを導く液体ビームがノズルにより形成されて加工すべき加工片へ向けられる加工方法における『ディスク状』の『液体供給空間』を対象とする発明であるところ,甲13文献(当審注:甲第13号証)は,前記(3) アのとおり,内燃機関に用いられる燃料用の噴出ノズルに関し,従来この技術分野で達成できないと考えられていたような噴出比を得ることを課題とするものであり,本件訂正発明1とは技術分野もその機序も相違している。しかも,甲13文献に記載されたものは,前記課題を解決するために,カバープレートが旋回室によって区画されたノズル体の芯部の端面と共に円板状の間隙15を形成し,カバープレートに存する出口開口部が円板状の間隙15を介して旋回室と通じ,出口開口部の断面が間隙の周面よりも数倍大きく構成することを中核的解決手段としているものであって,『円板状の間隙15』のみを取り出せば『ディスク状』と呼べないこともないが,出口開口部の断面が間隙の周面よりも数倍大きく構成されていることに鑑みれば,『円板状の間隙15』のみを独立した空間と捉えるのは不自然であり,むしろ,出口開口部と一体の空間,そして,好ましくはさらに出口開口部と整列して形成される孔も含めた一体の空間として課題を解決するものである。さらに,『円板状の間隙15』を実際上『零』に等しいように対接させる態様もあり得るものとされており,もはや『ディスク状』の形状の空間を備えているものとはいえないというべきである。
また,甲14文献(当審注:甲第14号証)に記載された発明も,燃焼装置やエンジンに用いられる,燃料のような液状媒体のための噴出ノズルに関し,噴射精度を改善するというものであり,本件訂正発明1とは技術分野もその機序も相違する。しかも,甲14文献に記載されたものは,前記課題を解決するために,被覆板の直径がノズル本体の直径よりも小さく,ノズル本体がその出口側の端面に,被覆板を形状補完的に収容するための中央の窪みを備え,窪みの深さが被覆板の厚さよりも浅く構成することを中核的解決手段としているものであって,その実施例に記載された『円板状の隙間15』のみを取り出せば『ディスク状』と呼べないこともないが,円板状の隙間15の外周面積は被覆板12内の中央の出口16の横断面積よりもはるかに小さく構成されていることに鑑みれば,『円板状の隙間15』のみを独立した空間と捉えるのは不自然であり,むしろ,出口と一体の空間として所要の機序を備えるものであり,さらには,静止位置で『円板状の隙間15』の厚さが『零』であり,適当な噴射圧力のときに初めてほんの少し大きくなるように接触する態様もあり得るものとされており,もはや『ディスク状』の形状の空間を備えているものとはいえないというべきである。
以上によれば,本件訂正発明1の『ディスク状』『液体供給空間』について甲13文献及び甲14文献から周知とした審決の判断は誤りである。」と判示されているとおり、甲第13、14号証からディスク状液体供給空間が周知であるとすることはできない。
また、同判決において、「被告は,乙1ないし乙6文献(当審注:乙1文献は特開平3-68468号公報、乙2文献は特開昭63-251199号公報、乙3文献は特開昭63-267199号公報、乙4文献は「Applied Physics Letters Vol.43 No.9 pp876-878〔Laser-enhanced jet plating : A method of high-speed masklesspatterning〕」1983年11月作成、乙5文献は「Journal of the Electrochemical Society Vol.132, No.11,pp2575-2581 〔Electrochemical and Metallurgical Aspects ofLaser-enhanced jet Plating of Gold〕」1985年11月作成、乙6文献は「Journal of the ElectrochemicalSociety Vol.136,No.8,pp2251-2256 〔Jet and Laser-jet ElectrochemicalMicromachining of Nickel and Steel〕1989年8月作成。)からも『ディスク状』の液体供給空間が周知技術であることが明らかであると主張する。
しかし,上記各文献は,いずれも,本件訂正発明1とは技術分野が異なるか,『液体供給空間』としての機能が異なる技術を開示しているにすぎない。
すなわち,乙1文献には,高圧洗浄機に使用される高圧ノズルに関し,高さの低い流体供給空間が記載されているものの,いわゆる液体による高圧洗浄の技術に関するものであって,本件訂正発明1とは技術分野が異なるし,液体供給空間の機能も相違している。
また,乙2文献には,ノズルから高圧で液を噴射して被加工物を衝撃加工する高圧液噴射加工装置に関し,高さの低い液体供給空間が記載されているものの,レーザービームを導入して材料を加工するものではなく,本件訂正発明1とは技術分野が異なる。
さらに,乙3文献には,高圧水に砥粒(研磨材)を混入して噴射するためのアブレッシブ切断用ノズルチップに関し,高さの低い液体供給空間が記載されているものの,研磨剤を混入して被加工物の切断を行うものであって,レーザービームを導入して材料を加工する本件訂正発明1とは技術分野が異なる。
そして,乙4ないし乙6文献は,いずれも収束されるレーザービームによるメッキないしデポジション方法であってレーザービームを導く電解液ビームがノズルにより形成されて対象物に向けられるメッキ方法についてのものであって,材料の切断等の加工をするものではなく,本件訂正発明1とは技術分野が異なる。
以上のとおり,乙1ないし乙6文献は,本件訂正発明1の『ディスク状液体供給空間』に関する周知技術と認めることはできず,被告の上記主張は採用することができない。」と判示され、さらに、「被告は,甲1文献(当審注:甲第1号証)の図3,甲4文献(当審注:甲第4号証)の図2,図3及び甲5文献(当審注:甲第5号証)の図1.2にもディスク状の液体供給空間が記載されていると主張する。
しかし,甲1文献の図3は,チャンバーの一部に自由体積領域(点線で示されている部分)が示されているが,現実に流体供給空間が画成されているわけではないので,本件訂正発明1の前記i)ないしv)の構成と一体不可分の構成として技術的意義を有する『ディスク状』の『液体供給空間』と同等の液体供給空間といえないことは明らかである。
また,甲4文献は,ウォータージェット型レーザー治療装置に関するものであり,そもそも本件訂正発明1とは技術分野が異なるし,甲4文献の図2,3では液体供給空間の高さについて低い様子が示されているが,具体的な説明はされていないのであって,本件訂正発明1の前記i)ないしv)の構成と一体不可分の構成として技術的意義を有する『ディスク状』の『液体供給空間』と同等の液体供給空間といえないことは明らかである。
さらに,甲5文献は,収束されるレーザービームによるメッキ方法に関するものであって,材料の切断等の加工をするものではなく,本件訂正発明とは技術分野は異なるものである。
以上のとおり,上記各文献は,本件訂正発明1の『ディスク状液体供給空間』に関する周知技術と認めることはできず,被告の上記主張は採用することができない。」とも判示されているとおり、平成22年(行ケ)第10282号裁判事件において被告である株式会社スギノマシンから提出された上記乙1ないし乙6文献のいずれを参照しても、ディスク状液体供給空間が周知であるとすることはできない。
以上のとおりであるから、「ディスク状」の「液体供給空間」を、請求人の主張する理由及び証拠によっては、周知であるとすることができないだけでなく、各証拠に記載されたものとすることもできない。

<相違点2>について検討する。
「ディスク状」の「液体供給空間」を、請求人の主張する理由及び証拠によっては、周知であるとすることができないだけでなく、各証拠に記載されたものとすることもできない以上、甲1発明において、「液体供給空間」を「ディスク状」とすることが容易になし得たものとすることはできない。

本件発明1は、上記平成22年(行ケ)第10282号の判決において、「本件訂正発明1の『ディスク状』『液体供給空間』は,以下の構成を備えたものであることが明らかである。
i)『前記ノズル(43)の上面と,前記ノズル(43)の上方に配置されるとともに前記レーザービーム(3)に対して透明な窓(36)の下面との間に』『形成され,』『前記液体ビーム(12)を形成するための液体を供給する』ものであること,
ii)『供給される液体が,前記ノズル入口開口(30)の周りにおいてせき止め空間のないように前記ノズル(43)からの前記窓(36)の高さを設定』されるものであること,
iii)その『内』部を『供給される液体が,』『前記ノズル入口開口(30)に向かって周辺から流れるように導かれ』るものであること,
iv)『それによりレーザービームのフォーカス円錐先端範囲(56)における液体の流速が,十分に高く決められるようにし』ていること,
v)『したがってフォーカス円錐先端範囲(56)において,レーザービームの一部がノズル壁を損傷しないところまで,熱レンズの形成が抑圧されること』
(イ) 以上によれば,本件訂正発明1の『液体供給空間』は,単に『ディスク状』であるだけでなく,さらに,上記i)ないしv)の構成を一体的に備えることによって,課題を解決できるという技術的意義を有するものと認められる。」と判示されているとおり、「液体供給空間」を「ディスク状」とすることにより、本件訂正明細書第7ページ第11?15行記載の「すなわち加熱時間をそもそもできるだけ短く維持するために、液体が、レーザービームのフォーカス円錐の範囲から、とくにその先端範囲からできるだけ迅速に運び出される。明らかに最善の結果は、わずかな吸収を有するフォーカス円錐における液体の短い滞在時間の際に達成される。」という効果、及び同ページ第24?26行記載の「フォーカス円錐の先端における液体容量をそもそもできるだけ少なく、かつ流速をそもそもできるだけ高く維持することが可能である。」という効果を奏するものである。

したがって、請求人の主張する理由及び証拠方法によっては、本件発明1を当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(4)本件発明2?4、12、13についての対比・判断
請求項2は請求項1を引用し、請求項3は請求項1又は2を引用し、請求項4は請求項1ないし3を引用し、請求項12は請求項1を引用し、請求項13は請求項1を引用する請求項12を引用しているものである。
ここで、前記(3)において言及したとおり、本件発明1は、前記<相違点1>、<相違点2>に係る発明特定事項により、請求人の主張する理由及び証拠方法によっては当業者が容易になし得たとすることはできないとしたものであるので、当該本件発明1による特定事項をすべて含み、さらに、別の特定事項を備える本件発明2?4、12、13も、同様に、前記(3)において言及したとおり、当業者が容易になし得たとすることはできない。

(5)本件発明5
本件発明1を引用する本件発明5と甲1発明とを対比する。
一致点、相違点は、実質的に上記3.(3).ア.(ア)と同様であるので、請求人の主張する理由及び証拠方法によっては、本件発明5を当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(6)本件発明6?11、14?16
請求項6は請求項5を引用し、請求項7は請求項5又は6を引用し、請求項8は請求項5ないし7を引用し、請求項9は請求項5ないし8を引用し、請求項10は請求項5ないし9を引用し、請求項11は請求項5ないし10を引用し、請求項15、16は請求項5を引用しているものである。
ここで、前記(5)において言及したとおり、本件発明5は、前記<相違点1>、<相違点2>に係る発明特定事項により、請求人の主張する理由及び証拠方法によっては当業者が容易になし得たとすることはできないとしたものであるので、当該本件発明5による特定事項をすべて含み、さらに、別の特定事項を備える本件発明6?11、15、16も、同様に、前記(5)において言及したとおり、当業者が容易になし得たとすることはできない。


第7.審理再開申立等について
請求人は、審理終結通知の発送日である平成23年11月22日より後の平成23年11月28日付けで審理再開申立書及び上申書を提出した。請求人の主張する審理再開申立の理由は、上記上申書の「第4 今後の審理について」において主張しているので、以下、検討する。
(1) 請求人は、「上記判決の拘束力は、・・・同一人に対して同一内容の処分を行うことが妨げられるものではない。この点に関し請求人は、新しい事実及び理由を提出する用意があるので、是非その機会とこれに対する特許庁の判断をお願いしたい。本件無効審判における争いの根本は、満足な進歩性の判断もできないほど曖昧に請求項が記載されていることにあり、請求人は、この点『無効理由3』についても争う準備がある。
併せて、本件特許の請求項の記載は曖昧であり、甲1号証記載の発明と明確に区別することができないため、本件発明は、甲1号証記載の発明と実質的に同一である(無効理由4)と言わざるを得ず、また、甲1号証記載の発明に基づいて当業者が容易に想到できる発明である(無効理由5)ことを主張する。さらに、本件特許発明は、依然として、特許明細書の発明の詳細な説明に基づいて、当業者が容易に実施できるものでないこと(無効理由1)を主張する。」(上記上申書第5ページ第2?17行)と主張する。
しかしながら、新しい事実及び理由により無効を主張するのであれば、新しい無効審判を請求するべきである。また、現在主張している無効理由1、3ないし5についての当審の判断は、前記「第6.当審の判断」で示したとおりである。
(2) 請求人は、「被請求人が主張する判断基準を採用したとしても、本件特許発明の外延が明確でないことは、二次審決においても認定されている(二次審決52頁4?8行)。」(上記上申書第6ページ第1?3行)と主張する。
しかしながら、「外延が明確でない」ことをもって、必ずしも特許を受けようとする発明が明確でないものとなるものではない。
(3) 請求人は、「請求人が実施を希望する技術は、『液体供給空間』内の流速を遅くする技術であり、これは『液体供給空間』の構成としては、寧ろ、既に自由技術となっている甲第1号証記載の発明に類似したものである。それにも関わらず請求人は、本件特許の技術的範囲が不明確であるため、これを明確に回避することができず、侵害訴訟を提起され、自由な企業活動を制限されているのである。」(上記上申書第6ページ第17?22行)と主張する。
しかしながら、本件発明が液体供給空間内の流速を速くする技術であって、請求人の実施を希望する技術が液体供給空間内の流速を遅くする技術であれば、両者は異なるのであるから、本件発明の外延が明確であることは明らかであるし、また、請求人の実施を希望する技術が液体供給空間の流速を遅くする技術であることと、本件発明が無効であるかどうかとは、関係がないことと言わざるを得ない。
(4) 以上のとおり、請求人が平成23年11月28日付け上申書で主張する理由では、審理再開申立書をもって請求する反論の機会についてその必要性を認めることができず、その他に審理を再開すべき事情も見出し得ないから、請求人の審理再開の申立は採用することができない。


第8.むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては、本件発明1ないし16に係る特許を無効とすることはできない。
他に本件特許発明を無効とすべき理由を発見できない。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
レーザーによって材料を加工する装置
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
収束されるレーザービームによる材料加工方法であって、レーザービーム(3)を導く液体ビーム(12)がノズル(43)により形成され、加工すべき加工片(9)へ向けられるものにおいて、
前記ノズル(43)の上面と、前記ノズル(43)の上方に配置されるとともに前記レーザービーム(3)に対して透明な窓(36)の下面との間には、前記液体ビーム(12)を形成するための液体を供給するディスク状液体供給空間(35)が形成され、
前記ノズル(43)は、ノズル通路(23)のノズル入口開口(30)を有し、
レーザービームガイドとして作用する液体ビーム(12)へレーザービーム(3)を導入するため、前記レーザービーム(3)がノズル(43)のノズル通路(23)の前記ノズル入口開口(30)の所で収束され、
前記ディスク状液体供給空間(35)へ供給される液体が、前記ノズル入口開口(30)の周りにおいてせき止め空間のないように前記ノズル(43)からの前記窓(36)の高さを設定した前記ディスク状液体供給空間(35)内を前記ノズル入口開口(30)に向かって周辺から流れるように導かれ、
それによりレーザービームのフォーカス円錐先端範囲(56)における液体の流速が、十分に高く決められるようにし、したがってフォーカス円錐先端範囲(56)において、レーザービームの一部がノズル壁を損傷しないところまで、熱レンズの形成が抑圧されることを特徴とする、材料を加工する方法。
【請求項2】
ノズル入口開口(30)に形成された液体ビーム(12)が、そのビーム形成の直後に、エアクッション(39)によって囲まれ、したがってノズル壁から“絶縁”されていることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
液体としてシリコンオイルが使用され、かつ0.25μmと2.1μmの間の波長を有するレーザービームが使用されることを特徴とする、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
加工片(9)の材料加工の際にその通口(24)から通り抜けたかつ/又はここから流出した液体ビーム(12)の液体が捕獲され、フィルタに通され、かつノズル(43)に戻されることを特徴とする、請求項1ないし3の1つに記載の方法。
【請求項5】
レーザービーム(3)を送出するレーザー(1)、及び液体ビーム(12)を形成するノズル通路(23)を備えたノズル(43)とビームガイドとしての液体ビーム(12)へレーザービーム(3)を導入する光学要素(21,25)とを有する加工モジュール(7)によって、請求項1ないし4の1つに記載の方法を実施する装置において、
前記ノズル(43)の上面と、前記ノズル(43)の上方に配置されるとともに前記レーザービーム(3)に対して透明な窓(36)の下面との間には、前記液体ビーム(12)を形成するための液体を供給するディスク状液体供給空間(35)が形成され、
前記ノズル(43)は、ノズル通路(23)のノズル入口開口(30)を有し、
前記光学要素(21,25)が、レーザービーム(3)を、ノズル通路(23)の前記ノズル入口開口(30)の所で収束させ、
前記ディスク状液体供給空間(35)へ供給される液体が、前記ノズル入口開口(30)の周りにおいてせき止め空間のないように前記ノズル(43)からの前記窓(36)の高さを設定した前記ディスク状液体供給空間(35)内を前記ノズル入口開口(30)に向かって周辺から流れるように導かれ、
それによりレーザービームのフォーカス円錐先端範囲(56)における液体の流速が、十分に高くあらかじめ与えることができ、したがってフォーカス円錐先端範囲(56)において、レーザービームの一部がノズル壁を損傷しないところまで、液体内における熱レンズの形成が抑圧されていることを特徴とする装置。
【請求項6】
ノズル通路(23)及びノズル入口開口(30)の範囲の表面、及び液体が、電気的に絶縁されており、かつノズル入口開口(30)及びノズル通路(23)の範囲における液体の流速が、材料取除き速度を高めるために液体ビームの帯電を行なうように、高く選ばれていることを特徴とする、請求項5記載の装置。
【請求項7】
ノズル通路(23)の液体入口縁(37)が、50μmより小さい半径を有する鋭い縁に構成されていることを特徴とする、請求項5又は6に記載の装置。
【請求項8】
ノズル出口開口(40)が、ノズル入口開口(30)に対して広げられており、かつノズル通路(23)の広がりが、その上側1/3のところにおいてすでに始まっていることを特徴とする、請求項5ないし7の1つに記載の装置。
【請求項9】
空間的に離れたところにあるレーザー(1)からフォーカスユニット(21,25)へレーザービームを供給するビームガイド(6)が設けられていることを特徴とする、請求項5ないし8の1つに記載の装置。
【請求項10】
液体がシリコンオイルであり、レーザービームが0.25μmと2.1μmの間の波長範囲内にあることを特徴とする、請求項5ないし9の1つに記載の装置。
【請求項11】
材料加工の際に加工片通口から通り抜けたかつ/又は加工片から流出した液体を捕獲する捕獲槽(11)、及び捕獲槽(11)からポンプ吸出し可能な液体を浄化してノズル通路(23)へ戻すことができるフィルタユニット(15)を有するポンプ(17)が設けられていることを特徴とする、請求項5ないし10の1つに記載の装置。
【請求項12】
複数の軸線方向液体通路(61a,61b)を介して、ディスク状液体供給空間(35)へ液体が供給されることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項13】
液体がリング通路(63)を介して、軸線方向液体通路(61a,61b)へ導入され、これらの液体通路からディスク状液体供給空間(35)へ供給されることを特徴とする、請求項12記載の方法。
【請求項14】
液体供給空間(35)の高さが挿入体(53)のねじ込み深さにより調節可能であることを特徴とする、請求項5記載の装置。
【請求項15】
ディスク状液体供給空間(35)へ液体を供給する複数の軸線方向液体通路(61a,61b)が設けられていることを特徴とする、請求項5記載の装置。
【請求項16】
リング通路(63)が設けられ、このリング通路から液体が、複数の軸線方向通路(61a,61b)を介してディスク状液体供給空間(35)へ供給されることを特徴とする、請求項5記載の装置。
【発明の詳細な説明】
本発明は、特許請求の範囲第1項の上位概念に記載された装置に関する。
レーザービームは、種々の方法で工業における材料加工-切断、穴あけ、溶接、マーキング及び材料切除-のために利用される。例えば鋼、鋼合金、NE-金属、合成物質及びセラミックのようなほとんどすべての材料が加工可能である。ほぼこれらすべての方法においてレーザービームは、加工過程に必要な強度を発生するために、例えばレンズのような光学要素によって加工すべき材料上に収束される。この強制的なビーム収束に基づいて、作業は、焦点の場所又はそのすぐ近くの周囲においてしか可能ではない。
ドイツ連邦共和国特許出願公開第3643284号明細書によれば、レーザービームにより材料を切断する方法が公知であり、ここではこのレーザービームは、切断すべき材料に向けられた水ビーム内に結合され、かつこの中において案内されている。ビームの供給は、ビームガイド(ファイバ)を介して行なわれ、このビームガイドの一方の端部は、ノズル内において発生される水ビーム内に突出している。水ビームの直径は、ビームガイドのものより大きい。公知の装置は、水ビームの直径が、決してビームガイドのものより小さくてはいけないという欠点を有する。
しかし加工場所における大きな強度を維持するために、できるだけ小さなビーム直径が必要である。ビーム直径が小さくなるほど、レーザービーム源のわずかな出力で加工を行なうことができる。レーザーの出力が小さいほど、その購入価格はわずかになる。
ドイツ連邦共和国特許出願公開第3643284号明細書の装置のその他の欠点は、水ビーム内に突出したビームガイド端部によって明らかである。すなわちガイド端部の下に死水領域が生じ、この死水領域は、とりわけ流れ内に妨害を形成し、これら妨害は、水ビームの長さにわたって指数状に増大し、かつ最終的に水ビームの分離水滴を生じる。それ故にこの装置によって、30mmを越す層状のコンパクトなビーム長さを得ることは不可能である。
この時、ヨーロッパ特許出願公開第0515983号明細書において、もはやビームガイドを直接含まない水ノズルを構成することによって、前記の欠点を解消することが試みられている。水ビームを形成するノズルの前に、水入口とノズル入口に対して空間を閉じるフォーカスレンズとを有する水空間がある。このフォーカスレンズは、光学系の一部であり、それによりビームガイドから出たビームは、ノズルのノズル通路内に収束することができる。空間は、水ビームのためにその中にある水が、擬似的に静止状態に、すなわち緊張解除した状態にあるように構成されている。
この時、水ビーム内に結合されたレーザービームのこの第2の構成変形は、ノズル通路入口の周範囲におけるノズルの壁に管理できない損傷を引起こすことがわかった。
本発明の課題は、液体ビームを形成するノズルをレーザーのビームによって損傷することなく、レーザービームを材料加工のために液体ビーム内に光学的に結合することができる装置を提供することにある。
本発明は、フォーカス光学系によってノズルの範囲に収束したレーザービームが、液体における強度の分布に応じてこの液体を多かれ少なかれ強力に加熱することができるという知識に基づいている。異なった温度、空間的温度勾配を有する液体範囲は、空間的に固有の密度分布を有するだけでなく、空間的な屈折率分布も有する。すなわち空間的な温度勾配を有する液体は、光学的にレンズとして反応し、かつ収束したレーザービームのフォーカス円錐内において、通常発散レンズとして反応する。
この時、ヨーロッパ特許出願公開第0515983号明細書の図2に示されたように、ノズル通路内において形成される液体(水)ビーム内へのレーザービーム“製図的に最適な”結合は、残念ながら推測したようには作用しない。すなわちヨーロッパ特許出願公開第0515983号明細書に示された装置において、ノズル通路入口の上のフォーカス円錐先端の範囲に、熱レンズが生じ、この熱レンズは、ここに示された焦点の場所を上方へずらし、かつ焦点直径を大幅に増加する。それによりフォーカス円錐内のレーザービームの一部は、ノズル壁に、とくにここにおいて利用された液体せき止め空間の方に向いたノズル表面に当たる。この時一方において材料加工のために必要な高い強度によって、この時ノズルの壁が損傷する。
ヨーロッパ特許出願公開第0515983号明細書により公知の構造において、さらに液体として水を利用し、かつレーザービームとして、1.064μmのND:YAGのものを利用することは、不利に作用する。この時、このビームは、ちょうど水中において無視できない吸収を有する。収束したビームのピラミッド先端の上側範囲(フォーカス円錐の先端範囲)における水の範囲は、強度分布(軸線における高い強度及び縁におけるわずかなもの)に相応して加熱され、かつ前に予想された熱レンズが生じ、この熱レンズは、ノズル壁の、とくにノズル入口の範囲におけるノズル表面の損傷を引起こし、かつ結局液体ビームを形成するノズルの破壊を引起こす。
水の使用だけが、結合効率を悪化するのではなく、ノズル入口前の液体空間の全構造的構成も悪化する。すなわち第7頁、第32行以降及び第9頁、第41行以降に説明されているように、ノズル入口前においてできるだけ液体の静止状態を達成する努力が試みられた。まさしくこの液体静止状態は、熱レンズの構成を可能にし、又は強化する。すなわち(すでにわずかな)吸収によって加熱される液体は、なお強力に加熱されることがなく、それによりレンズ効果を減少するようにするため、できるだけ早く運び去るのではなく、逆に進行する加熱によってなお生じる熱レンズの屈折力の増強が行なわれる。
しかし本発明は、別の方法をとる。ここではすべてのことは、できるだけ熱レンズを生じることがなく、又はその作用を大幅に小さくすることにかけている。本発明において、利用したレーザービームにおいてできるだけ小さな吸収を有する液体が使用され、すなわちND:YAGレーザーのビームにおいてシリコンオイルが利用される。
さらにノズル装置及びフォーカスユニットを含む加工モジュールの構造的構成は、無視できない小さなビーム吸収の場合にも、熱レンズの効果が、そもそも生じるかぎり、最小に、したがって無視できる程度に維持されるように選択されている。
すなわち本発明は、次のことを提案する。すなわち加熱時間をそもそもできるだけ短く維持するために、液体が、レーザービームのフォーカス円錐の範囲から、とくにその先端範囲からできるだけ迅速に運び出される。明らかに最善の結果は、わずかな吸収を有するフォーカス円錐における液体の短い滞在時間の際に達成される。
前記の条件を達成するために、ヨーロッパ特許出願公開第0515983号明細書において利用された。液体を静止状態に維持するここに普及された液体せき止め空間を有する液体空間は、完全に回避される。ノズルへの液体供給の高さは、流れの渦形成を減少するために、ほぼノズル通路の直径を有し、又はそれよりわずかだけ大きい。
有利な構成変形において、ノズル入口に対向する壁に、ヨーロッパ特許出願公開第0515983号明細書におけるようなフォーカスレンズも組込まれず、レーザービームを損失なく伝達する窓が組込まれるだけである。ノズル入口のほぼ真上にあるこの窓だけによって、フォーカス円錐の先端における液体容量をそもそもできるだけ少なく、かつ流速をそもそもできるだけ高く維持することが可能である。
別の有利な構成変形において、ノズル通路の液体入口縁は、鋭い縁に構成されている。この鋭い縁のため、液体ビームとノズル通路壁の間のエアクッションによって、入口縁に液体ビーム分離部が生じる。空気は、水晶又はサファイヤのような使用すべき通常のノズル材料よりも小さな屈折率を有する。空気の屈折率は、使用すべき液体のものよりも小さく、すなわちほぼ理想的なビームガイドとして作用する液体ビームが生じる。したがって液体ビーム内において案内されるレーザービームは、ノズル壁から“絶縁”されている。
エアクッションは、とくにビームを案内する液体ビームの屈折率がノズルのものより小さいとき、この時ビームの移行を行なうことができるので、有利であるとわかった。液体の屈折率が、ノズル材料のものより大きい場合、両方の媒体(液体/ノズル壁)の間の境界面において全反射が生じるが、ビームは、いわゆる端部リング深さ(“不到達全内部反射”、“ゴーズ-ヘンヒェン-シフト”)にまで他方の材料内に侵入する。この時、ノズルの材料が、利用したビームにおいてもはや無視できない吸収係数を有する場合、ここでもエアクッションは、ビームの侵入を、したがってノズル壁の損傷を阻止する。
それどころかエアクッションの形成のため、クッションはレーザービームをノズル壁から遠ざけるので、レーザービームを吸収する材料を、ノズルのために利用することができる。さらにこれにより、このエアクッションによりビームは、わずかな調節ずれの際にももはやノズル通路壁に到達することはないので、ノズル通路軸線上へのフォーカス円錐の調節は、もはやどうしても必要というわけではない。この時、フォーカス円錐の角度は、液体ビームの開口数の理論値に相当するように選択することができる。
例えば液体として、例えばポリジメチルシロキサン又はポリメチルフェニルシロキサンのようなシリコンオイルのグループの中のオイルを利用し、かつノズル材料として水晶を利用した場合、液体の屈折率は、ノズル材料のものより大きい。この時、ノズル材料は、エアクッションがない場合でも、ビームガイドの特性を有する。この場合、ノズル通路の長さと形は、ビームの案内にとって微妙ではない。それどころか長くかつ曲げられたノズル通路を実現することができる。
シリコンオイルの代わりに、別の電気的に導通する及びとくに電気的に不導通の液体を利用することができる。これらは、利用したレーザー波長に対するその吸収が、供給内にノズルの周囲範囲において達成できる流速に着目して、熱レンズを避けるために我慢できる範囲に維持されるように選択される。利用可能な液体としてここではとくに、液体繊維において使用される液体を指摘しておく。
提案された装置は、200mmを越える液体ビーム長さを可能にする。すなわちノズル通路への入口における支障ない流れが保証されるならば、液体圧力を上昇することができ、かつコンパクトな液体ビーム長さは、とりわけ利用した液体とノズル直径に依存する最大値にまで増加する。例えば水及び150μmのノズル通路直径に対して、80バールの液体圧力の際に150mmの最大のコンパクトなビーム長さが得られる。水の代わりにシリコンオイルを利用した場合、コンパクトな液体ビーム長さは、500mmにまで増加することができる。コンパクトな液体ビーム長さとは、“分離水滴”の始まる前の長さのことである。この分離水滴は、周囲空気及び表面張力によって引起こされる不可避の渦形成に基づいている。
液体ビームの崩壊長さは、ノズル通路への入口の前の液体の圧力を介して変更することができる。しかしノズル通路入口の直前において液体に障害を意図的に持込むことの方が、洗練されている。このことは、例えば所定の周波数及び振幅の圧力衝撃を液体に及ぼすピエゾ素子によって行なうことができる。この時、液体ビームの長さは、これらのパラメータに依存している。加工すべき材料の下の層にレーザービームが当たらないようにする場合、液体ビームの長さの調節は重要である。
さらにビームの広い波長範囲における前記のオイルの吸収は、水のものより小さいので、一方において作業長さは、もはや液体における吸収によって制限されず、かつ他方においてノズルの前の熱レンズの効果は回避され、又はおおいに強力に減少される。同時に加工片の加工の間のかつその後の腐食に対する保護作用が得られる。
シリコンオイルは、このような材料加工にとって有利な一連の特性を有する。すなわちこれらは、酸化、加水分解及び天候に対する優れた耐性を有する。これらは、腐食の危険を排除する化学的不活性も有する。これらは、さらにきわめて低い可燃性及び及び高い圧縮可能性の点で優れている。
ほぼ一定の高いビーム強度を有する液体ビームの大きな長さのため、何倍も増加した作業長さが得られる。したがって、大エネルギーレーザービームを案内する液体ビームは、切断目又は穴をから出て、ビームガイドとしてのその特性をかなりの程度まで維持しているので、とりわけ多層の物体、例えばエアギャップを有する2つのガラス板からなる物体、・・・を加工することができる。
レーザービームの最適な結合は、焦点が、ノズル開口の平面内に置かれたときに達成される。レーザービームを伝達する窓の、ノズル開口の方に向いた下側は、100μmのノズル直径の際に200μmないし500μmの距離のところにあるようにする。それにより熱レンズの形成を助長する液体せき止め空間が避けられる。
その上さらに液体ビーム内において案内されるレーザービームは、平行な切断縁を可能にする。それによりとりわけわずかな材料損失でさらに大きな材料厚さを加工することができる。
液体ビーム内へのレーザービームの結合によって、とりわけビームガイド内におけるビーム案内によって悪化するレーザーのビーム品質は、二次的な役割しか演じない。それによりレーザーの購入コストは低下する。さらにレーザー源から加工モジュール内の結合位置へビームを案内するビームガイドは、利用者に対するビーム案内のすべての安全性の問題を解決する。液体ビームを持たずフォーカスシステムだけを有する通常のビームフォーカスの際、一層悪いビーム品質は、さらに短い作業長さを生じる。
レーザー源から出るビームガイドの利用、結合装置のわずかな幾何学的寸法、及びフォーカスユニットと加工すべき加工片表面との間の作業距離のもはや不必要な精密な管理は、加工モジュールの簡単な移動装置を生じる。
通常のビームフォーカスの際に生じかつ加工片の取り除かれ飛び散る材料によるフォーカス光学系又はこれらを保護する保護ガラスの汚れの危険は、なくなる。さらに液体ビームの液体は、加工領域のきわめて効率的な冷却を可能にするので、その加工縁における加工片の熱負荷は生じることがない。例えばこの時、材料は、もはや小さな橋絡片の切断の際にも歪むことはない。さらにこの冷却は、加工領域のきわめてわずかな硬化しか生じず、それにより後加工、例えば後からのねじ切りは、簡単に行なうことができる。
同時に液体が取り除かれた材料を拘束するので、ガス及びほこりの発生が防止される。それにより高価な排気フィルタ装置は省略される。
さらに燃焼現象は、衝突した液体により回避され、又は大幅に減少する。加工品質はきわめて良好である。液体の適当な選択によって、腐食可能な材料における腐食防止も達成できる。
前記本発明による方法に対して著しく高い圧力で混合された侵食材料を含む水を使用する周知の加工片の水ビーム切断と比較して、ここで必要なわずかな圧力で、可とう性液圧導管を有する簡単な減圧システムが利用できる。それにより加工モジュールの簡単な移動システムも得られる。さらに水ビーム切断の際に生じるようなノズルの強力な磨耗は、存在しない。本発明における液体ビームの制動も、どのような困難も生じない。
従来の技術によれば、液体ビームのための液体として水だけが周知である。とくに閉じた回路内における液体ビームを形成する液体の捕獲、再浄化及び再利用によって初めて、価格の利用により水とは別の液体が利用できる。
ノズル通路に対応するフォーカス円錐先端範囲に液体せき止め空間なしに1つ又は複数の液体供給導管を構成することによって、ノズル材料及び液体が、電気的に絶縁する材料からなるかぎり、ビームの液体による帯電が行なわれるとくことが確認された。帯電は、5kVを越える電圧を生じる。この時、この帯電された液体ビームが、切断すべき材料に向けられると、これは、その電荷をこの材料に放出する。この時、例えば銅又はアルミニウムが、液体ビームに結合されたND:YAGレーザーのビームによって加工されると、材料取り除き速度は、ビームの帯電に大幅に依存することが確認された。
250mJ、0.1msのパルス幅及び10バールの液体圧力を有するパルス化ND:YAGレーザーのビームにおいて、きわめてわずかな材料除去だけが行なわれる。この時、液体圧力を100バールに上昇すると、優れた取り除き速度が達成される。この時、結合されたレーザービームを含むこの液体ビームは、その帯電のため、著しく急速に加工すべき材料にプラズマを発生し、このことは、その取り除き速度を高める。この効果は、例えば1000バールに圧力を高めることによって、又はノズル入口前で液体に意図した帯電を行なうことにより、さらに増加することができる。
さらに液体ビームの帯電は、隣接する電界によってその転向を行なうように利用することができる。
次に本発明による装置の例を図面により詳細に説明する。本発明の利点は、次の説明文によって明らかである。ここでは:
図1は、材料加工装置の概略ブロック図を示し、
図2は、材料加工装置の加工モジュールの液体ビームのためのノズルを有する下側部分の長手断面図を示し、その際、ここでははっきりさせるために液体供給導管35の横断面は、ノズルブロック43に対して大幅に拡大して示されており、かつ
図3は、ノズルのノズルブロック及び液体をせき止め空間なしに供給する液体導管の、図2に対して拡大した長手断面図を示している。
図1に示された材料加工装置は、ビーム源としてND:YAGレーザー1を有し、このレーザーは、1.064μmの波長を有するレーザービーム3を送出する。ここではレーザー1は、100Wの出力を有する。このレーザービーム3は、フォーカスユニット5によって、100μmないし600μm、ここでは200μmの典型的な心直径を有するビームガイド6に結合される。ビームガイド6の心直径は、供給すべきビーム出力に相応して選択される。これは、例えば500Wのレーザーの場合400μm、かつ1kWのレーザーの場合600μmであった。ビームガイド6は、材料加工のために水平にかつ高さについて調節可能な、ノズルとも称する加工モジュール7に結合されている。レーザー1は、ビームガイド6を介したビーム案内に基づいて、加工すべき加工片9又は加工モジュール7のすぐ近くに配置する必要はない。
加工モジュール7の下に、加工すべき、ここでは切断すべき加工片9が配置されている。加工片9の下に、ここでは例えば生じた切れ目を通って流れる液体ビーム12の液体のための捕獲槽11がある。捕獲槽11内に収容された液体は、導管13を介して捕獲槽11に結合されたフィルタ15によって浄化され、かつそれから貯蔵容器16に導入され、その後、ここからこの液体は、ポンプ17によって導管19を介して加工モジュール7に戻される。導管19は、安全性の理由からかつ導管19内の圧力調節のため、ポンプ出口から圧力逃し弁20を介して貯蔵容器16に結合されている。
加工モジュール7は、ビームガイド6によって近くに案内されるレーザービームを平行化するコリメータ21、加工片9上の加工位置24に向けられた液体ビーム12を形成するノズル通路23を有するノズルブロック43、及び図3に拡大して示すように、ノズルブロック43のノズル通路23のノズル軸線31の場所における入口開口30の平面29に平行化されたレーザービーム27を収束するフォーカスレンズ25を有する。ノズル入口開口30の上に、液体供給導管としてディスク状の液体供給空間35がある。液体供給空間35は、ノズル入口開口30の周囲にせき止め空間として作用する液体空間を持たない。液体供給空間35の高さは、理論的にはノズル通路23の横断面の半分を有するだけでよい。
しかしこれは、液体の管摩擦損失を減少するため及び渦形成を避けるために、それよりいくらか大きく選定されている。液体供給空間35の壁内に、ノズル入口開口30の上においてなるべく反射防止コーティングされた窓36が挿入されており、これを通ってレーザービームは、フォーカスレンズ25によってノズル通路23の入口開口30の平面内の収束することができる。
ノズル入口開口30の縁37は、50μmより小さい、なるべく5μmより小さい半径を有する鋭い縁に構成されている。この鋭い縁37のため、その下にあるエアクッション39により上側ノズル縁37からの液体ビームの分離が生じる。空気は、水晶又はサファイヤのような使用すべき通常のノズル材料より小さな屈折率を有し、かつ空気の屈折率は、有利な液体として使われるシリコンオイルのものよりも小さいので、液体ビーム12は、ほぼ理想的なビームガイドとして成立する。ノズル材料と液体の異なった屈折率の作用については、明細書序文における説明を参照されたい。ノズル出口開口40は、入口開口30に対して、すでに上側ノズル通路の1/3のところ41から始まって広がっている。この拡大部42によって、ノズル通路23内にあるエアクッション39の渦形成が回避される。
液体ビーム12を形成する“ノズルブロック”43のノズル通路23は、図2に示すように、加工モジュール7の底部要素47において液体ビーム12のための中心貫通穴45を有するノズルブロック保持体46内に保持されている。密閉は、側方においてパッキンリング(Oリング)49によって行なわれる。液体を供給する導管19は、フランジ50にフランジ付けすることができる。
窓36は、挿入体53の中心切り欠き51内に配置されている。挿入体53に対する窓36の密閉は、同様にパッキン54によって行なわれる。この窓は、貼り込んでもよい。挿入体53は、円錐形の内部空間55を有し、この内部空間の円錐度は、フォーカスレンズ25によって収束すべきレーザービームのフォーカス円錐56に合わされている。さらに挿入体53は、おねじ57aを有し、これによりこの挿入体は、加工モジュール7の基礎部材下部59のめねじ57b内にねじ込まれている。挿入体53は、同軸的に分配された複数の軸線方向液体通路61a及び61bを有し、これら液体通路の幅は、液体を確実に液体供給空間35内に移すように選定されている。液体供給空間35の高さは、挿入体53のねじ込み深さによって調節される。液体通路61a及び61bは、図2における表示とは相違して、おねじ57aから出るスリットとして構成してもよい。液体通路61a及び61bは、それぞれ1つの移行通路62a又は62bによって、基礎部材下部59内においてノズル軸線31に対して同軸的に延びたリング通路63内に連通しており、このリング通路は、フランジ50に結合されている。挿入体53は、上方に向かって別のパッキン65によって密閉されている。基礎部材下部59は、おねじ66を介して、加工モジュール7のはっきりとは図示されていない基礎部材内にねじ込むことができる。
底部要素47は、めねじ67aを有し、これによりこの底部要素は、基礎部材下部59のおねじ67b上にねじ込むことができる。ノズルブロック43とともにノズルブロック保持体46は、底部要素47内に挿入されているので、例えば別のビーム横断面を有する液体ビーム12を利用し、又はこれを交換しようとするとき、ノズルブロック43の迅速な交換が可能である。
水及びシリコンオイルの代わりに、別の液体及び前記条件にしたがった物質の(純粋な又はコロイド状の)溶液を使用することができる。
液体供給空間35をディスク状に構成する代わりに、この液体供給空間は、鋭角半角を有する円錐状に製造してもよく、その際、角頂点(円錐先端)は、この時ノズル入口開口の上方にあるようにする。この時、窓36は、もはや面平行の板ではなく、ノズル入口開口の方に向いた側にピラミッド先端を有し、かつピラミッド先端の発散作用を補償するため、反対側に球形輪郭を有する。この構成により、ノズル入口の一層良好な流入が得られる。
サンドイッチ構造の切断の際、なるべく加工片9又は加工モジュール7は、ステップ状に動かされるだけである。この時、それぞれ個々の構造要素は、連続するパルスによって順に切断することができる。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2011-11-18 
結審通知日 2011-11-22 
審決日 2011-12-07 
出願番号 特願平8-500602
審決分類 P 1 113・ 121- YA (B23K)
P 1 113・ 536- YA (B23K)
P 1 113・ 113- YA (B23K)
P 1 113・ 537- YA (B23K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 加藤 昌人  
特許庁審判長 野村 亨
特許庁審判官 藤井 眞吾
刈間 宏信
登録日 2005-05-27 
登録番号 特許第3680864号(P3680864)
発明の名称 レーザーによつて材料を加工する装置  
代理人 達野 大輔  
代理人 入野田 泰彦  
代理人 弟子丸 健  
代理人 入野田 泰彦  
代理人 佐伯 義文  
代理人 渡邊 誠  
代理人 橋口 泰典  
代理人 松本 慶  
代理人 高橋 詔男  
代理人 渡邊 隆  
代理人 鈴木 博子  
代理人 達野 大輔  
代理人 小林 正和  
代理人 志賀 正武  
代理人 水沼 淳  
代理人 志賀 正武  
代理人 松尾 和子  
代理人 高橋 詔男  
代理人 佐竹 勝一  
代理人 渡邊 隆  
代理人 藤井 輝明  
代理人 松本 慶  
代理人 佐伯 義文  
代理人 橋口 泰典  
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