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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  B65B
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  B65B
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B65B
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  B65B
管理番号 1287746
審判番号 無効2012-800208  
総通号数 175 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-07-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2012-12-21 
確定日 2014-03-17 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3909399号発明「フイルム包装の被包装物の開封用摘み片形成方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 請求のとおり訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1.手続の経緯
平成 7年10月18日 出願
平成19年 2月 2日 設定登録(特許第3909399号)
平成24年12月21日 審判請求書
平成25年 4月10日 答弁書
平成25年 4月15日付 併合審理通知(無効2012-800201 と併合)
平成25年 4月18日付 審理事項通知
平成25年 5月28日 両者・口頭審理陳述要領書
平成25年 5月31日付 審理事項通知(2)
平成25年 6月11日 請求人・口頭審理陳述要領書(2)
被請求人・口頭審理陳述要領書(2)、(3 )
口頭審理、併合分離通知
平成25年 6月21日 被請求人・上申書
平成25年 6月25日 請求人・上申書
平成25年 7月17日 被請求人・上申書(2)
平成25年 7月24日付 審決の予告
平成25年 9月11日 訂正請求書、被請求人・上申書(3)
平成25年10月18日 請求人・弁駁書、上申書(2)
平成25年11月22日付 請求人・上申書(3)
平成25年11月25日 被請求人・上申書(4)
平成25年12月25日 被請求人・上申書(5)

第2.訂正請求について
1.訂正請求の内容
被請求人が求めた訂正の内容は、訂正請求書に添付された全文訂正明細書のとおりであって、以下のとおりである。

ア.訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「フイルムの重ね合せ部をシーラによって溶着することで作られているフイルム包装の被包装物において、上記フイルムの重ね合せ部の根元側に当て付ける面の周方向及び軸方向に少なくとも小突起が点在形成されたシーラを用いて」とあるのを、
「フイルムの重ね合せ部をシーラによって溶着することで作られているフイルム包装の被包装物において、上記開封用摘み片を指で摘んで引っ張って上記熱収縮フイルムに破断を生じさせる構成として、上記フイルムの重ね合せ部の根元側に当て付ける面の周方向及び軸方向に少なくとも小突起が点在形成されたシーラを用いて」に訂正するとともに、
「このフイルムを被包装物へ熱収縮させる時に、この熱収縮により溶着した上記重ね合せ部の根元側を剥離させる方向に引っ張って、上記溶融穴の形成された重ね合せ部の根元側を離して、開封用摘み片の根元側に多数の小穴を間欠的に所定長さにわたり形成する」とあるのを、
「このフイルムを被包装物へ熱収縮させる時に、この熱収縮により溶着した上記重ね合せ部の根元側を剥離させる方向に引っ張って、上記溶融穴の形成された重ね合せ部の根元側のみを離して、開封用摘み片の根元側に上記破断を生じさせる多数の小穴を間欠的に所定長さにわたり形成する」に訂正する。

イ.訂正事項2
願書に添付した明細書の段落0004を、訂正事項1に係る訂正に伴い、その記載の整合を図るために訂正する。

2.訂正請求についての当審の判断
訂正請求について検討する。
訂正事項1は、「上記開封用摘み片を指で摘んで引っ張って上記熱収縮フイルムに破断を生じさせる構成として、」との発明特定事項を付加するとともに、「多数の小穴」について、「上記溶融穴の形成された重ね合せ部の根元側のみを離して」形成されるものであることを特定し、かつ、「上記破断を生じさせる」ものであることを特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的としている。
また、本件特許明細書の段落0003、0005?0006、図4?5の記載からみて、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張、変更するものでもない。
訂正事項2は、明瞭でない記載の釈明を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張、変更するものでもない。
したがって、上記訂正は、特許法第134条の2第1項の規定に適合し、同条第9項で準用する特許法第126条第5項、第6項の規定にも適合するので、上記訂正を認める。

第3.本件発明
訂正後の本件特許の請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)は、以下のとおりである。

「【請求項1】
被包装物を包装した熱収縮フイルムに所定幅の開封用摘み片が所定長さにわたって一体形成され、
その開封用摘み片は、熱収縮性のフイルムの熱収縮前にフイルムの重ね合せ部をシーラによって溶着することで作られているフイルム包装の被包装物において、
上記開封用摘み片を指で摘んで引っ張って上記熱収縮フイルムに破断を生じさせる構成として、上記フイルムの重ね合せ部の根元側に当て付ける面の周方向及び軸方向に少なくとも小突起が点在形成されたシーラを用いて、上記小突起により上記重ね合せ部の少なくとも一方に溶融穴を形成した状態で上記重ね合せ部を溶着して所定幅の開封用摘み片を形成し、
このフイルムを被包装物へ熱収縮させる時に、この熱収縮により溶着した上記重ね合せ部の根元側を剥離させる方向に引っ張って、上記溶融穴の形成された重ね合せ部の根元側のみを離して、開封用摘み片の根元側に上記破断を生じさせる多数の小穴を間欠的に所定長さにわたり形成するようにしたこと
を特徴とするフイルム包装の被包装物の開封用摘み片形成方法。」

第4.請求人の主張
1.主張の要点
請求人は、以下の理由により、本件特許は、特許法(以下、特記なきは「特許法」である。)第123条第1項第2号、第4号に該当し、無効とするとの審決を求めている。

無効理由1:本件発明は、甲第2ないし5号証の公知技術と同一である(第29条第1項第1号)か、公知技術から容易に発明することができたものである(第29条第2項)。

無効理由2:「根元側」の剥離の条件等が不明なため、本件発明は明確でなく(第36条第6項第2号)、発明の詳細な説明が本件発明を容易に実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない(第36条第4項第1号)。

2.証拠
請求人が提出した証拠は、以下のとおりである。
ここで、甲第1?9号証は審判請求時に、甲第10?37号証はその後、甲38?46号証は訂正請求後に、提出されたものである。

甲第 1号証:特許第3909399号公報(本件特許公報)
甲第 2号証:特開昭55-79207号公報
甲第 3号証:特開昭55-79270号公報
甲第 4号証:特開昭59-142927号公報
甲第 5号証:濱口啓一、「改訂版・ラミネートフィルムの加工技術」、株式会社日報、1992年3月1日、P10-11
甲第 6号証:実公昭49-19012号公報
甲第 7号証:特開平3-43358号公報
甲第 8号証:実公昭47-30900号公報
甲第 9号証:特開平3-56266号公報
甲第10号証:被請求人からのサンポー食品株式会社への通知書
甲第11号証:被請求人からの山本製粉株式会社への通知書
甲第12号証:被請求人からの株式会社麺のスナオシへの通知書
甲第13号証:ローレットシールローラの図面(PW2-15G-17a5-MB-1.0-10)
甲第14号証:ローレットシールローラの図面(PW2-15G-17-MB/1.0-10)
甲第15号証:ローレットシールしたシール部に溶融穴が形成されていることの証明写真
甲第16号証:特開平5-131544号公報
甲第17号証:タテシーラ/整備手順書(2007/09)
甲第18号証:JIS用語辞典 機械編、1984年8月25日、P.292-293
甲第19号証:図解 機械用語辞典 第3版 工業教育研究会編、日刊工業新聞社、1996年7月19日、P.728-729
甲第20号証:1976 JISハンドブック ねじ ISO規格収録、日本規格協会、1976年4月20日、P.832-833
甲第21号証:ローレットシールローラの図面(PW2-15G-17)
甲第22号証:ローレットシールローラの図面(PW2-15-17)
甲第23号証:シュリンクパックのカタログ、富士シール工業株式会社
甲第24号証:包装関連機材講習会テキスト 昭和48年5月
甲第25号証:包装機材講習会テキスト 昭和50年11月
甲第26号証:電子式 偏差指示温度調節計 取扱説明書
甲第27号証:神港テクノス株式会社の会社案内
甲第28号証:請求人が札幌日清株式会社ヘマルチ仕様のシュリンク包装装置を納入した納入記録書類(見積書No.7558)
甲第29号証:請求人が札幌日清株式会社へマルチ仕様のシュリンク包装装置を納入した納入記録書類(見積書No.7556)
甲第30号証:請求人が合資会社坂角総本舗へマルチ仕様のシュリンク包装装置を納入した納入記録書類(コードNo.H239)
甲第31号証:請求人が株式会社坂角総本舗ヘマルチ仕様のシュリンク包装装置を納入した納入記録書類(コードNo.H336)
甲第32号証:請求人がエースコック株式会社ヘマルチ仕様のシュリンク包装装置を2台納入した納入記録書類(コードNo.A-184及びA-185)
甲第33号証:請求人が口頭審理に持参したマルチ型のシールローラの写真
甲第34号証:請求人が口頭審理に持参したマルチ型のシールローラの写真
甲第35号証:被請求人が口頭審理陳述要領書で提示したホルダーに関するホームページ
甲第36号証:フジシールインターナショナルの社名改称履歴に関するホームページ
甲第37号証:トキワ自動包装機 取扱説明書 PW-R2-S(R2-T)標準型
甲第38号証:請求人が合資会社坂角総本舗へ昭和63年8月31日を納期として納入したマルチ仕様のシュリンク包装装置の仕様書類(H239)
甲第39号証:請求人が合資会社坂角総本舗へ昭和63年8月31日を納期として納入したマルチ仕様のシュリンク包装装置の写真(2013/10/29)
甲第40号証:甲第30号証の写真の時期についての富士フイルムイメージングシステムズ株式会社による説明書面
甲第41号証:株式会社淀川歯車製作所代表取締役田淵允康の陳述書
甲第42号証:トキワ工業株式会社取締役技術部長井上敬一の陳述書
甲第43号証:請求人が各社へマルチ仕様のシュリンク包装装置を納入した納入記録書類
甲第44号証:ウィキペディアの「インスタントラーメン」の項目
甲第45号証:インターネットの「The吸収合併:即席めんのシェア」の項目
甲第46号証:インターネットのGoogleにより「坂角」を検索した際の結果、及び「坂角総本舗」の項目

3.主張の概要
請求人の主張の概要は、以下のとおりである。
行数は、空行を含まない。

(1)無効理由1(第29条)
ア.訂正請求前にされた主張
(請求書第9ページ第12?23行、口頭審理陳述要領書第10ページ第3?11行)
小売店で販売されているカップラーメンなどは、容器を熱収縮フィルムでピロー包装した後、このフィルムを収縮させて容器に密着させる、いわゆるシュリンクピロー包装で包装されるのが一般的であり、ほとんどのカップラーメンのシュリンクピロー包装では、背貼りの縦シールにローレットシールが用いられる。
ローレットシールにより、少なくともローレット面側のフィルム端部に、ローレットにより多数の突起で溶融穴が形成される。
そのため、時として、ローレットシールの強度が弱い、シュリンクのための加熱温度が高い、あるいは、タテシーラの位置等の設定やフィルムの選定如何によって、シール部が弱シール(不適正シール)となり、シュリンク時に、意図せざる背貼りの付根側の剥離が生じ、剥離した箇所に貫通孔が現出する。このようなものは、実際に販売されているカップラーメンを観察すれば、少なくない確率で確認することができる。

(上申書第2ページ第7行?第3ページ第12行)
このようなシール部の剥離の発生を防止する対策として、例えば、シールローラを加熱するヒータや該ヒータの温度を調節する温度調節計などの性能を向上させることにより、技術的には対応可能であるが、対策には多額のコストが必要となる。
すなわち、ローレットシールの包装技術分野においては、ローレットシーラによって形成されたシール部が全く剥離しないようにすることについて、それほど強いニーズかあるわけではなく、また、現実にシール部の根元部に剥離が生じていても、製品の商品価値にそれほど影響を与えるのものではない。
したがって、ローレットシールの包装技術分野においては、コスト面及びニーズ面を考慮して、意図せずシール部に剥離が生じ得るのが通常であり、このことは、この種包装技術分野の当業者に技術常識として認識されていた。

(請求書第10ページ第1行?第11ページ下から4行、口頭審理陳述要領書(2)第2ページ第11行?第5ページ第11行、上申書第8ページ第11?17行)
甲第2号証?甲第5号証から、次の事項が周知事実として認められる。
a 被包装物を包装した熱収縮フイルムに所定幅の開封用摘み片が所定長さにわたって一体形成され、その開封用摘み片は、熱収縮性のフイルムの熱収縮前にフイルムの重ね合せ部を加熱ローラーによって溶着することで作られ、
b フイルムの重ね合せ部の根元側に当て付ける面の周方向及び軸方向に少なくとも小突起が点在形成された加熱ローラーを用いて重ね合せ部を溶着して所定幅の開封用摘み片を形成し、
c このフイルムを被包装物へ熱収縮させる
d フイルム包装の被包装物の開封用摘み片形成方法。

本件発明と周知事実とを対比すると、次の点で相違する。
[相違点1]
本件発明では、シーラを用いてフイルムの重ね合せ部を溶着する際、『シーラ表面の小突起により重ね合せ部の少なくとも一方に溶融穴を形成』するのに対し、周知事実では、この点がどうであるかが不明な点。
[相違点2]
本件発明では、フイルムを熱収縮させる際、『熱収縮により溶着した重ね合せ部の根元側を剥離させる方向に引っ張って、溶融穴の形成された重ね合せ部の根元側を離して、開封用摘み片の根元側に多数の小穴を間欠的に所定長さにわたり形成する』のに対し、周知事実では、この点がどうであるかが不明な点。

相違点1について検討する。
ローレットを用いたローレットシールの包装技術分野においては、「ローレット」とは、筋が溝のローレット、特に「多数の突起が周方向及び軸方向に並ぶように形成されているローレット」のことを指すのが一般的に周知である。
例えば、請求人が古くから使用している甲第13,14号証に記載のマルチ型のシールローラには、多数の溝が周方向及び軸方向に沿って格子状に形成されることによって、多数の四角錐状の突起が周方向及び軸方向に並ぶように形成されている。
これらの証拠においては、ローレットの文言は使用されていないが、「マルチ目」又は「マルチ」との文言が用いられている。この「マルチ目」又は「マルチ」の文言は、請求人が「多数の突起が周方向及び軸方向に並ぶように形成されているローレット」を表現するために昔から用いている文言であるが、当該ローレットを表す外国語「マルチポイントシール(Multi point seal)」なる文言から創られたものである。
更に、甲第21,22号証には、請求人が極めて古くから使用しているシールローラが記載されており、該ローラは「多数の四角錐状の突起が周方向及び軸方向に並ぶように形成されているシーラ」のシールローラである。
甲第28?32号証のいずれからも、タテシーラがマルチ仕様であることが立証並びに認定できる。
各証拠から把握できるマルチ仕様とは、甲第13、14、21、22号証の図面、甲第30号証の写真、甲第33、34号証の写真などに代表されるように、シールローラのシール面が、周方向及び軸方向に多数の突起が並んだ形状の仕様である。
したがって、ローレットシールの包装技術分野においては、「ローレット」とは、「多数の突起が周方向及び軸方向に並ぶように形成されているローレット」のこととして認識されていることは技術常識である。
周知事実の「加熱ローラー」が、ローレット加工が施されることにより、縦横に並ぶ無数の小突起を周面に備えていることから、甲第6号証及び甲第7号証から、周知事実においても、加熱ローラーを用いてフイルムの重ね合せ部を溶着する際、加熱ローラー表面の小突起により重ね合せ部の少なくとも一方に溶融穴が形成されることは明らかである。
したがって、相違点1は相違点ではない。
仮に、相違点1が相違点であったとしても、甲第6号証及び甲第7号証により容易に想到できる事項である。

相違点2について検討する。
甲第8号証及び甲第9号証の記載を鑑みると、周知事実においても、時としてフイルムの重ね合せ部の溶着強度が弱いと、あるいは(シュリンクトンネルを通る際に受ける)フイルムの熱収縮のための加熱温度が高いと、フイルムの熱収縮時にフイルムの重ね合せ部の付根側の溶着が剥離することが十分にあり得るし、そうなる現象が発生することは周知である。
上記のとおり、フイルムの重ね合せ部の少なくとも一方には溶融穴が形成されているわけであるから、フイルムの熱収縮時にフイルムの重ね合せ部の付根側の溶着が剥離すると、剥離した箇所に貫通孔が現出することには自明の理である。
したがって、相違点2は相違点ではない。
仮に、相違点2が相違点であったとしても、甲第8号証及び甲第9号証により容易に想到できる事項である。

イ.訂正請求後にされた主張
(弁駁書第3ページ第1行?第6ページ第4行、上申書(3)第2ページ第10行?第5ページ末行)
甲第14、21,22、31号証の図面に基づいて、「多数の突起が周方向及び軸方向に並ぶように形成されているシーラ」を製造していたことは、甲第41、42号証からも裏付けられる。
甲第42?46号証に示すように、請求人は本件出願前よりはるか昔から、国内外の多数の企業に対して、タテシーラがマルチ仕様となったシュリンク包装装置を納入してきた。
シュリンク包装の技術分野では、ローレットシールに使うシールローラといえば、「多数の小突起が縦横に並んだシール目」を有するシールローラであると、当業者は常識的に認識している。
「上記開封用摘み片を指で摘んで引っ張って上記熱収縮フイルムに破断を生じさせる構成として、」との発明特定事項を付加する訂正は、開封用摘み片の形成方法を何ら限定するものではなく、単に開封用摘み片の使い方を特定したにすぎない。
「上記溶融穴の形成された重ね合せ部の根元側のみを離して」形成されるものであることを特定する訂正は、重ね合わせ部を完全に剥離させるのではなく部分的に剥離させる、と限定するにすぎない。そして、部分的に剥離することは技術常識である。
これら訂正により、新たな作用・効果を奏するものではない。
よって、審決の予告の結論に影響はない。

(2)無効理由2(第36条)
(請求書第12ページ第5?19行)
本件発明1の構成の一部「このフイルムを被包装物へ熱収縮させる時に、この熱収縮により溶着した上記重ね合せ部の根元側を剥離させる方向に引っ張って、上記溶融穴の形成された重ね合せ部の根元側を離して、」は、単なる願望的記載であり、そのため、人為的操作を意図しているのか、あるいはフイルムの熱収縮に伴って自然発生的に生じる事情を含めるようにしているのかが不明確である。
どのような条件とすれば、開封用摘み片1Cの“根元側”だけを剥離できるのかが一切記載されていない。

第5.被請求人の主張
1.主張の要点
これに対し、被請求人は、本件審判請求は成り立たないとの審決を求めている。

2.証拠
被請求人が提出した証拠は、以下のとおりである。

乙第 1号証:特開平6-41246号公報
乙第 2号証:特開平6-9765号公報
乙第 3号証:特開平8-106973号公報
乙第 4号証:特開平8-330054号公報
乙第 5号証:特開2009-29080号公報
乙第 6号証:特開2006-116269号公報
乙第 7号証:特開2006-297611号公報
乙第 8号証:特開2008-254799号公報
乙第 9号証:広辞苑第六版P1006
乙第10号証:慶長小判(ウィキペディア)
乙第11号証:‘93日本包装機械便覧
乙第12号証:特開2009-208835号公報
乙第13号証:甲第30号証の写真と甲第33号証、甲第34号証等の写真との比較
乙第14号証:マルチ目に関する証拠の比較
乙第15号証:甲第21号証における「小突起の形状及び寸法を示す図」
乙第16号証:甲第22号証における「小突起の形状及び寸法を示す図」
乙第17号証:マルチ・マルチの組合せの問題点
乙第18号証:画像合成の一例(右下の画像が合成されたもの)
乙第19号証:周方向及び軸方向に小突起が点在形成されたシーラによるヒートシールの実例
乙第20号証:坂角総本舗のお菓子におけるヒートシールの実例
乙第21号証:「マルチ」の意味(広辞苑 第6版 岩波書店 2011年1月11日発行)
乙第22号証:特開平7-125765号公報
乙第23号証:特開平8-156968号公報
乙第24号証:特開平8-156969号公報
乙第25号証:特開平8-156970号公報
乙第26号証:特開平8-230935号公報
乙第27号証:特開平8-253265号公報
乙第28号証:特開平8-253267号公報
乙第29号証:特開平8-282731号公報
乙第30号証:特開平9-24970号公報
乙第31号証:特開平9-40011号公報
乙第32号証:甲第15号証の実験で用いられたフィルムが「ポリエチレン」であること

3.主張の概要
被請求人の主張の概要は、以下のとおりである。

(1)無効理由1(第29条)
ア.訂正請求前にされた主張
(答弁書第5ページ第20行?第6ページ下から2行)
甲第2号証及び甲第3号証には、構成要件の「フイルムの重ね合せ部の根元側に当て付ける面の周方向及び軸方向に少なくとも小突起が点在形成された加熱ローラー」も、この構成要件において上記加熱ローラーを用いて開封用摘み片が形成されていることを前提とする開封用摘み片形成方法も、一切記載されておらず、その示唆さえもない。
甲第4号証には、1ページ右欄11行目に「回転ローレットシール」と記載されており、第8図〔I〕に示すように加熱ローラ8には、回転軸に平行な方向に線状の突起が形成されているものにすぎない。
甲第5号証には、「シールの美麗性が要求される場合に、ローレットシール、布目シールが利用される。」と記載され、同号証の2枚目(11ページ)の「図2.シール目の形状」には、「c 布目シール」(被請求人注:非常に複雑な特殊形態の溶着)、及び、「d ローレットシール」(被請求人注:格子状の溶着)が図示されているにすぎず、構成要件の「フイルムの重ね合せ部の根元側に当て付ける面の周方向及び軸方向に少なくとも小突起が点在形成された加熱ローラー」とは認められない。

(上申書(2)第6ページ第6?10行)
甲第28号証?甲第32号証は、単に、請求人が、本件特許出願前に、「マルチのシールローラ」(又は、「マルチ目のシールローラ」を備えるシュリンク包装装置を納入した実績かあることを示しているに過ぎず、納入されたシュリンク包装装置の「マルチのシールローラ」(又は、[マルチ目のシールローラ]とは如何なる形態のローラであるか明確でない。

(上申書(2)第5ページ第9?12行)
請求人は、必ずしも本件許発明の出願日よりも前から「マルチ」が、点在形成の小突起が設けられたシーラを指すものとして使用されていたことを立証しているものではないから、「マルチ」が点在形成の小突起が設けられたシーラであったと認めることはできない。

(口頭審理陳述要領書(2)第5ページ第4?16行)
本件特許の小突起が「点在」するとは、隣接する小突起が互いに離間して配設されていることを意味し、シーラの「周方向及び軸方向」に点在形成されているから、隣接する小突起は、周方向に互いに離間して配設されると共に、軸方向にも互いに離間して配設されている。
本件特許の小突起は、「線状突起、#状(格子状)突起とは異な」り、フイルムの重ね合せ部における上記溶融穴の周りの箇所での溶着になり、溶着箇所、及び、フイルムの剥離に抵抗する溶着面積が、「線状突起、#状(格子状)突起」によって行われる面状の溶着と基本的に相違する。

(口頭審理陳述要領書第2ページ第13?19行)
「本件特許は、単に「多数の小穴を、製造時点において、温度調整により『積極的に』形成する」という方法ではなく、製造時においてフイルムを熱収縮させるときに、上記重ね合せ部の根元側を剥離させる方向に引っ張って、上記溶融穴の形成された重ね合せ部の根元側を離して、上記重ね合せ部を構成するフイルムのうち、少なくとも一方の1枚のフイルムの上記重ね合せ部の根元側に相当する位置に、多数の小穴を、「積極的に」形成する方法であります。ただし、「積極的」とは、黙認までも排除する意味ではありません。

(上申書第4ページ第1?8行)
本件特許発明は、シーラによって溶着された重ね合せ部の根元側を離すものであるから、タテシール部に剥離が発生しないようにするという技術常識に反するものである。
すなわち、主引例に本件特許発明に係る小突起が点在形成されたローレットシールが記載されていたと仮定しても、この主引例に記載の発明に、甲第6?9号証等に記載の発明を組み合わせて、本件特許発明に想到することには、上記技術常識が阻害要因となる。

イ.訂正請求後にされた主張
(上申書(5)第2ページ第6行?第3ページ下から4行)
請求人が出願前から、「多数の突起が周方向及び軸方向に並ぶように形成されているシーラ」を製造、販売していたことは、以下の点で立証されていない。
(A)甲第13号証の設計図面に示す「シールローラ」が、シュリンク包装に用いられるものであるか否かは不明であること、
(B)甲第14、21、22、31号証の設計図面には、正面図及び側面図が記載されているものは皆無であるから、このような設計図面に基づいて、「マルチ」の「シールローラ」を製作することさえできないこと、
(C)「マルチ」のシールローラという名称のシールローラの形態が甲第13号証に記載された形態のみであって、それ以外の形態のシールローラが全く存在しないことの客観的且つ具体的な証明がなされていないこと、
(D)本件特許出願前に記載された設計図面(甲第14、21、22、31号証の設計図面)に基づいて、「マルチ」のシールローラが、「ローラ周面の周方向及び軸方向に小突起が点在形成されたもの」であると認定することは、到底できないこと、
(E)「マルチ」の「シールローラ」とは、「ローラ周面の周方向及び軸方向に小突起が点在形成された」シールローラに限定されるものではなく、「ローラ周面の周方向及び軸方向に小突起が点在形成されたもの」を含むシールローラを指す用語であって、具体的には、「複数の溶着面を有するもの」を意味していると解するのがより自然であり、より合理的であること、
(F)乙第14号証に示す甲第21から32号証までの書証において、「マルチ」の「シールローラ」が、「ローラ周面の周方向及び軸方向に小突起が点在形成されたもの」であるとすれば、甲第13号証の注意書きに記載のように「マルチ・マルチの組合せ」での使用が禁止され、甲第22号証に示す設計図面が「マルチ・マルチの組合せ」であることと矛盾することになること、
(G)甲第21号証の設計図面に記載されている「小突起の正面図」(乙第15号証において赤枠内の図)が、甲第31号証の設計図面が作成された年月日以降に、書き加えられた(改竄された)可能性が極めて高いこと、
(H)甲第22号証の設計図面に記載されている「小突起の断面図」も、甲第21号証に記載されている「小突起の正面図」と同様に、甲第31号証の設計図面が作成された年月日以降に、書き加えられた(改竄された)可能性が極めて高いこと、
(I)本件特許出願前の証拠(甲第21、22、28、29、14、30、31、32号証)に記載されている「マルチ」のシールローラという名称のシールローラの形態が、それぞれ、実際にどのような形態であったのかについて、客観的且つ具体的な立証がされているとは言えず、更に、これらの証拠に記載されている「マルチ」のシールローラを用いて、実際にどのような製造方法のシュリンク包装が行われていたのかについても客観的且つ具体的な立証がされているとは言えないこと、
(J)本件特許出願前に用いられていたフイルムと比較して「溶融穴」が形成され易いフイルムを意図的に使用して、「溶融穴」が形成されることを証明する実験を行っており、その結果を証拠(甲第15号証)として提出していること。

(上申書(3)第28ページ第6?末行)
出願当時においては、開けやすくしたいという課題の解消策として、「ミシン目を形成する」、及び、「ヒートシール部にテープを挟み込む」という方法が主流であったから、たとえ、「多数の小穴」が形成される現象が周知であったとしても、当業者は、開けやすくしたいという課題の解消策として、この現象に着目するさえ困難であったと推定される。
本件特許のように、この現象を積極的に利用するために、「引っ張り力F,Fが開封用摘み片1Cの根元側の溶着力より大きくなると離せるから、予めそのような関係になるように、熱収縮性のフイルム1の材質・厚みを選定し、またシーラの挟圧力( 特に重ね合せ部の根元側の挟圧力)や、シュリンクトンネル5内の温度を調整しておく」ことによって、確実に「多数の小穴」を形成させることに想到することは、極めて困難であったと言える。
また、剥離によって形成された「多数の小穴」は、あくまで、商品として好ましくないものとの認識がされていたから、このような商品として好ましくない「多数の小穴」を、本件特許発明のように積極的に形成し、開封を容易化しようとすることは、当業者と雖も想到困難である。

(2)無効理由2(第36条)
(答弁書第11ページ第8行?第15ページ第1行、調書の被請求人欄)
構成要件「このフイルムを被包装物へ熱収縮させる時に、この熱収縮により溶着した上記重ね合せ部の根元側を剥離させる方向に引っ張って、上記溶融穴の形成された重ね合せ部の根元側を離して、開封用摘み片の根元側に多数の小穴を間欠的に所定長さにわたり形成する」は、シーラを用いてフイルムの重ね合せ部が溶着されて開封用摘み片が形成された状態から、この開封用摘み片の根本側に多数の小穴を間欠的に所定長さにわたり形成するための方法(手段)を記載しているものであるから、願望的な記載などではない。
かかる記載に関し、この手段の記載自体が「不明確」である(つまり、当業者にとって理解することが不可能である)か否かを判断した場合に、「不明確」な点は何ら存在しない。
熱収縮フイルムを重ね合せて熱溶着した開封用摘み片1Cの根本側の溶着力が剥離力よりも強い場合には、上記根本側には剥離が生じない。
しかしながら、フイルムの熱収縮によって上記根本側を引っ張って、上記根本側を剥離させようとする力(剥離力)が、上記根本側の溶着力よりも強い場合には、上記根本側に剥離が生じる。
この剥離力と溶着力との関係に関する原理は、物理学の基本的な原理なのであるから、当業者であれば当然に理解することができる。
ここで、フイルムの溶着力は、ヒートシーラの温度が低い程、弱くなるという特性がある。例えば、乙第1号証4ページ段落0016の表1に、分かり易く記載されている。
また、フイルムの熱収縮率は、シュリンク温度が高い程、高くなる。すなわち、シュリンクトンネル内の温度が高い程、フイルムの熱収縮率が大きくなる。例えば、乙第2号証6ページ段落0037の表1に分かり易く記載されている。
以上のことを把握又は経験している当業者にとっては、本件特許明細書の段落0006の内容を読めば当然にその内容を理解でき、本件特許発明を実施することができる。
更に、この段落0006には「なお、溶着した開封用摘み片1Cの根元側の離しは、上記引っ張り力F,Fが開封用摘み片1Cの根元側の溶着力より大きくなると離せるから、予めそのような関係になるように、熱収縮性のフイルム1の材質・厚みを選定し、またシーラの挟圧力(特に重ね合せ部の根元側の挟圧力)や、シュリンクトンネル5内の温度を調整しておく必要がある。」とまで詳細に記載されているのであるから、当業者が本件特許発明を実施する上で何ら困難を伴うものではない。

(調書の被請求人欄の6)
「多数」の程度、「小穴」の形状・大きさ・貫通の有無、「間欠的」については、「容易に破断することができる」効果があれば良い。

第6.無効理由1(第29条)についての当審の判断
1.本件発明
本件発明は、上記第3.のとおりと認められる。

2.刊行物記載事項
(1)甲第2号証
甲第2号証には、以下が記載されている。

(第1ページ右下欄第11?17行)
「箱や瓶等の容器類を、あるいは物品を直接に、熱収縮フイルムで被包した後、このフイルムを収縮させて、被包装物に密着させることにより、包装する場合、通常、熱収縮フイルムの側端縁同士を、合掌状(つまみ合わせ状)に重合して、熱接着するとともに、熱収縮させ、この重合溶着部分をもつて、破断時のつまみ片とする。」

(第2ページ左上欄第2行?右上欄第9行)
「本発明は、このようなおそれをなくし、僅かの力で、必ず重合溶着部の付根において、容易かつ円滑に切断しうるようにした、熱収縮フイルム包装体における破封用つまみ片と、その形成方法、並びにこのようなつまみ片を形成するための熱接着用ローラーに関するものであり、・・・。
被包装物を被包して、加熱収縮させることにより、被包装物の全周に密着している熱収縮フイルム(1)の側端部(1a)同士を、互いに合掌状に重合し、かつ熱接着することにより、・・・つまみ片(2)が形成されている。このつまみ片(2)の付根部、すなわち被包装物に接する部分は、・・・非接着部(3)となつている。
・・・。
破封に際し、このつまみ片(2)をつまんで、まず重合接着部(4)より剥した後、つまみ片(2)の長手方向に引張ると、つまみ片(2)における前記非接着部(3)は、つまみ片(2)の残りの部分たる接着部に比して、強度は小であり、かつ引張り力は、この波形の非接着部(3)に集中するので、つまみ片(2)は、非接着部において、容易かつ円滑に切断され、・・・」

(第2ページ左下欄第7行?最終行)
「ついで、この側端部(1a)(1a)は、第3図に示すように、互いに並列され、かつ垂直軸まわりに回転する1対の加熱ローラー(8)(9)の間を、重合状態で通過させられる。
一方のローラー(8)の上縁外周部には、第4図に明示されているように、波形の切込み(8a)が、一定ピッチで付設されている。・・・
また、このローラー(8)は、電線(8b)を介して供電することにより発熱しうるようになっている。
フイルム(1)の側端部(1a)(1a)同士は、ローラー(8)(9)の間を通過する間に、互いに熱接着されて、つまみ片(2)が形成される。
・・・。
ついで、シールカッター(10)(11)により、フイルム(1)の被包装物(P)に対する前後端をヒートシールするとともに切断し、熱風(12)によりフイルム(1)を熱収縮させて、被包装物(P)に密着させることにより、第1図に示したような熱収縮フイルム包装体(Q)が形成される。」

(第1図、第3図)
所定幅のつまみ片(2)が所定長さにわたって一体形成されていること。

甲第2号証に記載された事項を、図面を参照し、技術常識を勘案しつつ、本件発明に照らして整理すると、甲第2号証には以下の事項(以下「甲2事項」という。)が記載されている。

「被包装物を包装した熱収縮フイルム(1)に所定幅のつまみ片(2)が所定長さにわたって一体形成され、そのつまみ片(2)は、熱収縮フイルム(1)の熱収縮前にフイルム(1)の合掌状に重合された側端部(1a)(1a)を加熱ローラー(8)(9)によって溶着することで作られているフイルム包装の被包装物において、
上記つまみ片(2)を指で摘んで引っ張って上記熱収縮フイルム(1)に破断を生じさせる構成として、上記側端部(1a)(1a)を溶着して所定幅のつまみ片(2)を形成し、
このフイルム(1)を被包装物へ熱収縮させる
フイルム包装の被包装物のつまみ片(2)形成方法。」

請求人は、甲第2号証における「加熱ローラー」の表面が、図面で網目状であることをもって、「周方向及び軸方向に小突起が点在形成」されていると主張するが、文言上明記されていないことから、かかる主張を認めることはできない。

(2)甲第3号証
甲第3号証には、以下が記載されている。

(第1ページ右下欄第5?14行)
「箱や瓶等の容器類を、あるいは物品を直接に、熱収縮フイルムで被包した後、このフイルムを収縮させて、被包装物に密着させることにより、包装する場合、通常、熱収縮フイルムの側端縁同士を、合掌状(つまみ合わせ状)に重合して、熱接着するとともに、熱収縮させ、この重合溶着部分をもつて、破断時のつまみ片とする。
しかし、前記重合溶着部分は、熱収縮の際、被包装物に密着状態となつているので、破封時、指でつまむのが容易でないという欠点がある。」

(第2ページ左上欄最終行?右上欄第2行)
「切断時の引張り力は、・・・つまみ片(3)の付根部に容易に集中し、つまみ片(3)の切断は、より容易かつ確実となる。」

(第2ページ左下欄下から3行?右下欄第8行)
「ついで、フイルム(1)の側端部(1a)(1a)は、第4図に示すように、互いに並列され、かつ垂直軸まわりに回転する1対の加熱ローラー(10)(11)の間を、重合状態で通過させられ、・・・熱接着される。
ついで、シールカッター(12)(13)により、フイルム(1)の被包装物(P)に対する前後端をヒートシールするとともに切断し、熱風(14)によりフイルム(1)を熱収縮させる。
これにより、フイルム(1)は被包装物(P)に密着して、熱収縮フイルム包装体(Q)が形成されるが、・・・」

(第1図、第2図)
所定幅のつまみ片(3) が所定長さにわたって一体形成されていること。

甲第3号証に記載された事項を、図面を参照し、技術常識を勘案しつつ、本件発明に照らして整理すると、甲第3号証には以下の事項(以下「甲3事項」という。)が記載されている。

「被包装物を包装した熱収縮フイルム(1)に所定幅のつまみ片(3) が所定長さにわたって一体形成され、そのつまみ片(3)は、熱収縮フイルム(1)の熱収縮前にフイルム(1)の合掌状に重合された側端部(1a)(1a)を加熱ローラー(10)(11)によって溶着することで作られているフイルム包装の被包装物において、
上記つまみ片(3) を指で摘んで引っ張って上記熱収縮フイルム(1)に破断を生じさせる構成として、上記側端部(1a)(1a)を溶着して所定幅のつまみ片(3)を形成し、
このフイルム(1)を被包装物へ熱収縮させる
フイルム包装の被包装物のつまみ片(3)形成方法。」

請求人は、甲第3号証における「加熱ローラー」の表面が、図面で網目状であることをもって、「周方向及び軸方向に小突起が点在形成」されていると主張するが、文言上明記されていないことから、かかる主張を認めることはできない。

(3)甲第4号証
甲第4号証には、以下が記載されている。

(第1ページ右下欄第7行?第2頁左上欄第11行)
「従来の包装方法は、第8図に示すように、まず原反シュリンクフイルム(F)の両端縁(F1,F1)を合掌状に重合し(同図〔I〕)、その両側面から一対の加熱ローラ(8,8)を回転させながら押圧して熱融着させる所謂回転ローレットシールにより、熱融着した帯状重合部(T1)を有するチューブ(T)を形成する(同図〔II〕)。これに被包装容器(A)を装入し、帯状重合部(T1)をその根元から矢印のように折倒しチューブ周面に重ね、かつ物品の前後各側のチューブ周面を扁平に閉じるとともに(同図〔III〕)、各端部をシールカットする(同図〔IV〕)。シールカットというのは、加熱された刃先を有するシールカッター(7)にてチューブの接合すべき箇所を熱融着させるとともに、その刃先で余端部(TE)を切除することにより、線状の接合部を形成して封止を完成するものである。シールカットによりチューブの端部を封止したのち(同図〔V〕)、チューブ(T)を熱収縮させれば、前記第7図のように、容器表面の全体にフイルムが緊密に締着した包装体に仕上げられる。
上記包装体は、図示のようにフイルムのチュービング時に形成された帯状重合部(T1)がチューブ周面に折り重ねられた状態で残存する。この帯状重合部(T1)は包装体を破封する際に、チューブの破除を容易にするためのつまみ片の役目を有する。」

(第7図、第8図)
所定幅の帯状重合部(T1)が所定長さにわたって一体形成されていること。

甲第4号証に記載の「つまみ片」の役目を有する「帯状重合部(T1)」は「包装体を破封する際に、チューブの破除を容易にするため」のものであるから、指で摘んで引っ張るためのものである。
甲第4号証に記載された事項を、図面を参照し、技術常識を勘案しつつ、本件発明に照らして整理すると、甲第4号証には以下の事項(以下「甲4事項」という。)が記載されている。

「容器を包装したシュリンクフイルム(F)に所定幅のつまみ片の役目を有する帯状重合部(T1)が所定長さにわたって一体形成され、その帯状重合部(T1)は、シュリンクフイルム(F)の熱収縮前にフイルム(F)の合掌状に重合された両端縁(F1,F1)を加熱ローラ(8,8)によって熱融着することで作られているフイルム包装の容器において、
上記帯状重合部(T1)を指で摘んで引っ張って上記フイルム(F)に破断を生じさせる構成として、上記両端縁(F1,F1)を熱融着して所定幅の帯状重合部(T1)を形成し、
このフイルム(F)を容器へ熱収縮させる
フイルム包装の容器の帯状重合部(T1)形成方法。」

請求人は、甲第4号証における「加熱ローラ8」の表面が「ローレット」であることをもって、「周方向及び軸方向に小突起が点在形成」されていると主張するが、ローレットには、請求人が口頭審理陳述要領書(2)で主張するように、筋が突起のものと、溝のものとの2種類があることから、かかる主張を認めることはできない。

(4)甲第5号証
甲第5号証には、フィルム包装における各種シールの種類が記載されている。

(5)甲第6号証
甲第6号証には、ヒートシールにおいて、シール用円板3周面に凸出部を設け、シーム部Cに小孔が形成されることが記載されている。

(6)甲第7号証
甲第7号証には、包装フィルムの融着において、円板状ロール周面に突起を設け、融着部に多くは貫通する傷痕が形成されることが記載されている。

(7)甲第8号証
甲第8号証には、異種のプラスチックフィルムを熱融着して形成した、開封帯を有する包装袋において、接着部分に剥離力をかけるとフィルムが破れずに接着部分が剥離することが記載されている。

(8)甲第9号証
甲第9号証には、ヒートシール包装体において、ヒートシールの温度、時間等のシール条件のコントロールが極めて難しく、シール部が剥がれやすくなる問題が生じることが記載されている。

3.公知発明
甲2事項の「つまみ片(2)」は本件発明の「開封用摘み片」に相当し、同様に「合掌状に重合された側端部(1a)(1a)」は「重ね合せ部」に、相当する。
甲3事項の「つまみ片(3)」は本件発明の「開封用摘み片」に相当し、同様に「合掌状に重合された側端部(1a)(1a)」は「重ね合せ部」に、相当する。
甲4事項の「容器」は本件発明の「被包装物」に相当し、同様に「シュリンクフイルム(F)」は「熱収縮フイルム」に、「つまみ片の役目を有する帯状重合部(T1)」は「開封用摘み片」に、「合掌状に重合された両端縁(F1,F1)」は「重ね合せ部」に、「熱融着」は「溶着」に、相当する。

よって、甲2事項ないし甲4事項により、以下の発明(以下「公知発明」という。)は、公然知られていたと認める。

「被包装物を包装した熱収縮フイルムに所定幅の開封用摘み片が所定長さにわたって一体形成され、その開封用摘み片は、熱収縮性のフイルムの熱収縮前にフイルムの重ね合せ部を加熱ローラーによって溶着することで作られているフイルム包装の被包装物において、
上記開封用摘み片を指で摘んで引っ張って上記熱収縮フイルムに破断を生じさせる構成として、上記重ね合せ部を溶着して所定幅の開封用摘み片を形成し、
このフイルムを被包装物へ熱収縮させる
フイルム包装の被包装物の開封用摘み片形成方法。」

請求人は、甲第5号証も、上記公知発明の根拠である旨、主張するが、甲第5号証には、フィルム包装における各種シールの種類が記載されているにすぎず、フィルムの重ね合わせ部を加熱ローラーによって溶着する点、重ね合わせ部が開封用摘み片である点は記載されていないことから、甲第5号証を公知発明の根拠とすることはできない。

被請求人は、複数の刊行物(甲号証)から、「刊行物に記載された発明」を認定することは許されない旨主張するが、複数の甲号証から、「一の公知発明」を認定することに、違法はない。

4.本件発明との対比
本件発明と、公知発明とを対比する。
公知発明の「加熱ローラー」は、本件発明の「シーラ」に相当する。

したがって、両者は、以下の点で一致する。
「被包装物を包装した熱収縮フイルムに所定幅の開封用摘み片が所定長さにわたって一体形成され、その開封用摘み片は、熱収縮性のフイルムの熱収縮前にフイルムの重ね合せ部をシーラによって溶着することで作られているフイルム包装の被包装物において、
上記開封用摘み片を指で摘んで引っ張って上記熱収縮フイルムに破断を生じさせる構成として、上記重ね合せ部を溶着して所定幅の開封用摘み片を形成し、
このフイルムを被包装物へ熱収縮させる
フイルム包装の被包装物の開封用摘み片形成方法。」

そして、以下の点で相違する。
相違点1:シーラによる重ね合せ部の溶着について、本件発明では「フイルムの重ね合せ部の根元側に当て付ける面の周方向及び軸方向に少なくとも小突起が点在形成されたシーラを用いて、上記小突起により上記重ね合せ部の少なくとも一方に溶融穴を形成した状態で」溶着するが、公知発明ではシーラに「小突起が点在形成」されているか不明であり「溶融穴を形成した状態で」溶着するか明らかでない点。
相違点2:熱収縮について、本件発明では「熱収縮させる時に、この熱収縮により溶着した上記重ね合せ部の根元側を剥離させる方向に引っ張って、上記溶融穴の形成された重ね合せ部の根元側のみを離して、開封用摘み片の根元側に上記破断を生じさせる多数の小穴を間欠的に所定長さにわたり形成する」ものであるが、公知発明では明らかでない点。

5.相違点の判断
(1)相違点1
相違点1について検討する。
甲第30号証の写真は、ローラ周面の周方向及び軸方向に小突起が点在形成されていること、装置の銀色の面に「H239-7B」との表記が看取でき、その周囲白縁部に「FUJICOLOR 88」との印字がある。
かかる印字は「1988年から1989年初めにかけてプリントされたもの」(甲第40号証)であり、社会通念上も相当であるから、かかる写真は、昭和63年から昭和64年初めの間にプリントされたものであると認める。
甲第30号証の「契約報告書」には、「コードNo.H239」、「機械型式PW-R_(2)-180F/800」、「納入日63年8月31日」との表記、「部品管理表」には「ユーザー記号H239」、「83式シールローラ マルチ目」との表記がある。
甲第38号証の「標準機製作仕様書」には、「H239」、「納期63年8月31日」、「形式PW-R_(2)-180F/800」、「23※シュリンクトンネル」、「27包装材料PPシュリンク」との表記、「部品設計記録表」には「ユーザ記号H239」、「機械型式:PW・R2-180F/800」、「機械No.12567」との表記、「型式PW・R2・180F/800」の図面には「化粧缶収縮自動包装機」、「シュリンクトンネル」なる表記がある。
甲第39号証の1枚目の製造銘板写真には、「機械型式PW-R2.180F.800」、「製造番号12567」、「製造年月1988・9」との表記がある。
このことは、甲第42号証の陳述書「第4.甲第30号証について」とも整合する。
以上から、甲第30号証の写真は、昭和63年8月31日が納入日である型式「PW-R2-180F/800」、「ユーザ記号H239」、「製造番号12567」のシュリンク包装に用いられる「シールローラ」「マルチ」のものと認められる。
また、甲第13号証は2004年に作成された図面ではあるが、本件審判請求前のものであって、名称「駆動式たてシーラ」、図面番号「PW2-15G-17a5-MB-1.0-10」として、「マルチ」ローラ(品番1)と「ベタ」ローラ(品番2)が記載され、「マルチ」ローラの周面には、甲第30号証の写真と同様に、周方向及び軸方向に小突起が点在形成されている。
してみると、請求人トキワ工業株式会社において、「マルチ」の「シールローラ」とは、「ローラ周面の周方向及び軸方向に小突起が点在形成されたもの」であると認められる。
本件発明の出願前において、請求人トキワ工業株式会社が作成した「シールローラ」に関する図面である甲第14号証(PW2-15G-17-MB/1.0-10、2000年の修正はメッキ成分に関するもの)、甲第21号証(PW2-15G-17J)、甲第22号証(PW2-15-17)には「マルチ」との記載がある。また、図面番号も冒頭の「PW2-15G-17」は、出願後のものである甲第13号証と共通する。
また、本件発明の出願前において、「シールローラ」が組み込まれた装置が、請求人トキワ工業株式会社から他社に販売されたことを示す甲第28ないし32号証、甲第43号証の「シールローラ」を示す部分には「マルチ」との記載がある。
以上によれば、「ローラ周面の周方向及び軸方向に小突起が点在形成された」「シールローラ(シーラ)」が組み込まれた装置が、トキワ工業株式会社から複数の会社に販売されていることが認められる。よって、「フイルムの重ね合せ部に当て付ける面の周方向及び軸方向に少なくとも小突起が点在形成されたシーラを用いて」「溶着」することは、周知である。
かかるシーラは、上記シーラに関する図面(甲第14号証、甲第21号証、甲第22号証)、シーラの写真(甲第30号証)によれば、小突起はローラ周面の全面に形成されていることから、「フイルムの重ね合せ部の根元側に当て付ける面」にも「周方向及び軸方向に少なくとも小突起が点在形成」されていることになる。
そして、このようなシーラにより、重ね合せ部を溶着すると、「小突起により上記重ね合せ部の少なくとも一方に溶融穴を形成した状態で」溶着されることは、甲第7号証に示されるように、明らかである。
よって、相違点1に係る事項は、周知技術を踏まえれば、格別なものではない。

被請求人は、「マルチ」のシールローラは、甲第13号証の形態のみとは限らない、また、甲第13号証の「シールローラ」はシュリンク包装用とは限らない旨、主張する。
しかし、甲第13号証、甲第14号証のシーラ(シールローラ)は、材料が甲第13号証のものは「S45C」、甲第14号証のものは「S20C」と異なるものの、形状については、シール部外径が110、下部外径が98、下部内径が92、シール部厚さが10、全体厚さが23、中央下方突出部外径が28、中央下方突出部内径が19と、基本的寸法は同一である。また、シーラの外周面は、ともに縦線と横線による「格子状」に記載されている。
「マルチ」とは、形状を意味するものであり、製造現場において、用語の意味、形状が異なると製造に支障が生じる。
また、シールローラにおいて、「マルチ」が「ローラ周面の周方向及び軸方向に小突起が点在形成された」ものを意味するとの陳述書も提出されている(甲第41号証、甲第42号証)。
よって、「マルチ」の意味が甲第13号証の形態のみとは限らないとする被請求人の主張は根拠がない。

(2)相違点2
相違点2について検討する。
甲第9号証には、ヒートシールを利用した包装において、「ヒートシールの温度、時間等のシール条件のコントロールが極めて難しく、シール部が剥がれやすくなる問題が生じる」ことが記載されている。
甲第24号証の第5ページには、ヒートシールを利用した包装において、設定温度を中心に一定の範囲で温度が変動することが記載されている。
甲第25号証の第1ないし3図には、ヒートシールを利用した包装において、設定温度を中心に一定の範囲で温度が変動することが記載されている。 甲第26号証の第4ページには、設定温度の上下約5℃の間で温度を制御することが記載されている。

請求人は、「各機器の性能やフイルム材質の誤差、外乱などに起因して、シール部に意図せず剥離が生じることがある。厳密な温度管理により、これを防ぐことは可能であるが、多額のコストが必要となる。完全に剥離した場合は返品対象となるが、部分的に剥離した程度であればそのまま流通する。」旨、主張する(上申書第2ページ第13行?第3ページ第2行)。
また、別事件である無効2012-800201の請求人も、平成25年6月25日の上申書の6.(1)アで同趣旨の主張をしている。

被請求人は、以下の旨を主張する。
「フイルムの溶着力は、ヒートシーラの温度が低い程、弱くなるという特性がある。フイルムの熱収縮率は、シュリンク温度が高い程、高くなる。すなわち、シュリンクトンネル内の温度が高い程、フイルムの熱収縮率が大きくなる。」(答弁書第13ページ第14?25行)。
「包装フイルムは、商品の運搬・陳列等の取扱時、消費者の購入後、簡単に破断するようなことがないこと、包装フイルムが短期間に大きく弛むことがないこと、量産化に悪影響を及ぼさないこと、包装フイルムに要するコストが上昇しないこと等が要求されている。」(口頭審理陳述要領書第3ページ下から4行?第4ページ第2行)。

これらによると、以下の点は、業界常識であると認められる。
ヒートシールを利用した包装において、ヒートシールの設定温度には、一定の幅が許容されている。そのため、シール部に剥離が生じることがあるが、部分的に剥離した程度であれば、そのまま流通する。温度を厳密に管理することで、剥離防止は可能であるが、費用がかかり、そこまでの要請もないため、行われていない。

公知発明も、熱収縮する結果、溶着した重ね合せ部の根元側が剥離させる方向に引っ張られることは明らかである。
上記業界常識によれば、公知発明においても、許容される設定温度の幅により、シール部の剥離、本件発明でいう重ね合せ部の根元側が離れることがありうる。
相違点1で検討したとおり、「周方向及び軸方向に少なくとも小突起が点在形成」された周知のシーラによれば、「フイルムの重ね合せ部の根元側」にも「溶融穴」が形成される。
よって、引っ張られることにより、「重ね合せ部の根元側を離して」「根元側に多数の小穴が間欠的に所定長さにわたり形成」される現象があることは、業界常識であったと認められる。
本件発明は、かかる現象を「積極的に利用」することで、「溶融穴の形成された重ね合せ部の根元側のみを離」すという技術思想に基づく発明である。
そして、「根元側のみ」を離すためには、「熱収縮性のフイルム1の材質・厚みを選定し、またシーラの挟圧力(特に重ね合せ部の根元側の挟圧力)や、シュリンクトンネル5内の温度を調整しておく」必要があると解される(上申書(3)第28ページ第1?末行)。
公知発明は、製造費用の点で、厳格な管理を行わず、意図せずして「根元側」に溶融穴が形成されることがあるものにすぎず、本件発明の、積極的に「根元側のみ」に溶融穴を形成するものとは、技術思想が異なる。
熱収縮を利用した包装においては、高齢者向け等、開けやすくしたいという課題が存在するが、そのための手段として、「ミシン目を形成する」、「ヒートシール部にテープを挟み込む」という方法も存在していたから、公知発明の「多数の小穴」が形成される現象を利用し、厳格な温度等の管理を行ってまで、「根元側のみ」に溶融穴を形成し、開封を容易化しようとする動機を見出すことはできない。

請求人は、部分的に剥離させることは技術常識にすぎない旨、主張する。
しかし、本件発明は「根元側のみ」に溶融穴が形成され、そのために厳格な温度等の管理が必要とされるものであって、公知発明の意図せずして「根元側」に溶融穴が形成されるものとは、技術思想が明らかに異なるから、請求人の主張は採用できない。

したがって、相違点2を容易想到とすることはできない。

6.小括
よって、本件発明は、甲第2ないし5号証の公知発明と同一であるとも、公知発明に基づいて容易に発明することができたとも、認めることはできない。

第6.無効理由2(第36条)についての当審の判断
1.明確性
まず、明確性(第36条第6項第2号)について検討する。
本件発明は、請求項1で特定されるとおり、「熱収縮させる時に、この熱収縮により溶着した上記重ね合せ部の根元側を剥離させる方向に引っ張って、上記溶融穴の形成された重ね合せ部の根元側のみを離して、開封用摘み片の根元側に上記破断を生じさせる多数の小穴を間欠的に所定長さにわたり形成する」ものである。
したがって、「根元側に多数の小穴を間欠的に所定長さにわたり形成する」ための構成は、「熱収縮させる時に、この熱収縮により」であることが特定され、本件発明は明確である。
よって、本件特許に係る出願は、第36条第6項第2号に規定する要件を満たす。

2.実施可能性
次に、「根元側のみ」の剥離の条件(第36条第4項第1号)について検討する。
剥離の要因としては、フイルムの材質、溶着力、引っ張り力が考えられる。
フイルムの溶着力は、ヒートシーラの温度が低い程、弱くなり、引っ張り力(フイルムの熱収縮率)は、シュリンク温度が高い程、高くなる(請求人口頭審理陳述要領書第4ページ第5?9行、被請求人答弁書第13ページ第14?25行)。
フイルムの材質については、材質による強度は知られており、溶着力、引っ張り力については、上記傾向が知られていることから、当業者は、過度な試行錯誤を行うことなく、これら要因を調整し、厳格な管理を行うことにより、本件発明を容易に実施できると認められる。
よって、本件特許に係る出願は、第36条第4項第1号に規定する要件を満たす。

第7.むすび
以上、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件発明に係る特許を無効とすることはできない。
また、他に本件発明に係る特許を無効とすべき理由を発見しない。
審判費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
フイルム包装の被包装物の開封用摘み片形成方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】被包装物を包装した熱収縮フイルムに所定幅の開封用摘み片が所定長さにわたって一体形成され、その開封用摘み片は、熱収縮性のフイルムの熱収縮前にフイルムの重ね合せ部をシーラによって溶着することで作られているフイルム包装の被包装物において、上記開封用摘み片を指で摘んで引っ張って上記熱収縮フイルムに破断を生じさせる構成として、上記フイルムの重ね合せ部の根元側に当て付ける面の周方向及び軸方向に少なくとも小突起が点在形成されたシーラを用いて、上記小突起により上記重ね合せ部の少なくとも一方に溶融穴を形成した状態で上記重ね合せ部を溶着して所定幅の開封用摘み片を形成し、このフイルムを被包装物へ熱収縮させる時に、この熱収縮により溶着した上記重ね合せ部の根元側を剥離させる方向に引っ張って、上記溶融穴の形成された重ね合せ部の根元側のみを離して、開封用摘み片の根元側に上記破断を生じさせる多数の小穴を間欠的に所定長さにわたり形成するようにしたことを特徴とするフイルム包装の被包装物の開封用摘み片形成方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は容器等の商品の被包装物を包装する熱収縮フイルム(シュリンク包装)に関し、詳しくは被包装物を取り出すときに熱収縮フイルムを破るのを容易にするために熱収縮フイルムに一体形成する開封用摘み片の形成方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に熱収縮フイルムで被包装物を包装する場合は、図8に示すように熱収縮性のフイルム1をフオーマ12で筒状にして被包装物Aを包囲し、この筒状にしたフイルム1の下側の重ね合せ部1A,1B(図9R>9参照)を縦シーラ13で溶着して所定幅の開封用摘み片1Cを形成し、この開封用摘み片1Cが形成された筒状フイルム1D及び被包装物Aを進行させて、被包装物Aの進行側の筒状フイルム1Dの重ね合せ部1E,1Fを横シーラ14で溶断し、この溶断された筒状フイルム1D及び被包装物Aが所定距離進んだ時点で今度は被包装物Aの後方側の筒状フイルム1Dの重ね合せ部1G,1Hを上記横シーラ14で溶断し、この進行側及び後方側が溶断された被包装物A入りのフイルム袋1Iをシュリンクトンネル15内に通して、このシュリンクトンネル15内でフイルム袋1Iを熱収縮させることにより、図10に示すような熱収縮フイルム10の包装状態を得る。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記熱収縮フイルム10の包装は、開封用摘み片1Cの自由端1C”側を指で摘んで引っ張っても熱収縮フイルムは伸びるだけで丈夫でなかなか破れない問題を有している。本発明は、開封用摘み片を指で摘んで引っ張った場合に熱収縮フイルムを容易に破ることができ、しかも、包装設備を大幅に改変する必要がない包装フイルムの開封用摘み片形成方法を提供することを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記目的を達成するために、被包装物を包装した熱収縮フイルムに所定幅の開封用摘み片が所定長さにわたって一体形成され、その開封用摘み片は、熱収縮性のフイルムの熱収縮前にフイルムの重ね合せ部をシーラによって溶着することで作られているフイルム包装の被包装物において、上記開封用摘み片を指で摘んで引っ張って上記熱収縮フイルムに破断を生じさせる構成として、上記フイルムの重ね合せ部の根元側に当て付ける面の周方向及び軸方向に少なくとも小突起が点在形成されたシーラを用いて、上記小突起により上記重ね合せ部の少なくとも一方に溶融穴を形成した状態で上記重ね合せ部を溶着して所定幅の開封用摘み片を形成し、このフイルムを被包装物へ熱収縮させる時に、この熱収縮により溶着した上記重ね合せ部の根元側を剥離させる方向に引っ張って、上記溶融穴の形成された重ね合せ部の根元側のみを離して、開封用摘み片の根元側に上記破断を生じさせる多数の小穴を間欠的に所定長さにわたり形成するようにしたものである。
【0005】
上記方法によりフイルム包装の被包装物の開封用摘み片の根元側に間欠的な小穴が所定長さにわたり形成されるため、開封用摘み片を指で摘んで引っ張ると各小穴間に亀裂が生じて熱収縮フイルムが破断される。この場合、所定長さの間欠的な小穴は、シーラに点在形成した小突起の間隔に基づいて形成されるため、各小穴のピッチ間隔は非常に小さく、これにより熱収縮フイルムを容易に破断することができる。また、本発明の方法によれば、小突起を点在形成したシーラによって溶融穴を形成しておいて、最終的に間欠的な小穴を形成するものであるから、その間欠的な小穴を確実に作ることができるのみならず、包装設備を大幅に改変する必要もないし、その間欠的な小穴を作る設備としても耐久性がよい。
【0006】
【発明の実施の形態】
図1は本発明の実施の一態様を説明するための包装設備を示しているもので、この包装設備を利用して、まず塩化ビニル、ポリプロピレン、あるいはポリエチレン等よりなる幅広の熱収縮性のフイルム1をフオーマ2で筒状にして、進行する容器等の被包装物Aを包囲し、この筒状にしたフイルム1の下側の重ね合せ部1A,1Bを図2に示すように縦シーラ3で溶着する。この縦シーラ3は、一対の回転ローラ3A,3Bを有し、一方の回転ローラ3Aの周面には周方向及び軸方向の全面に小突起3a…が点在形成され、他方の回転ローラ3Bの周面は平になっている。したがって、この回転ローラ3A,3Bでフイルム1の下側の重ね合せ部1A,1Bを挟圧したときに図3(A)に示すように回転ローラ3Aの小突起3a…がその熱によって下側の重ね合せ部1A,1Bを溶かしながらその重ね合せ部1A,1Bに喰い込み、重ね合せ部1A,1B同士を溶着する(この溶着箇所は図3(A)に太線で示すaの箇所である)。この溶着によって図3(B)に示すように重ね合せ部1Aの縦横に上記回転ローラ3Aの小突起3a…に対応した多数の溶融穴1aを有する所定幅の開封用摘み片1Cが形成される。なお、開封用摘み片1Cの先端側は図3(A)に示すように回転ローラ3Aの突起刃3bと回転ローラ3Bの受面とによる挟圧によって所定幅に切り揃えられる。次に、上記所定幅の開封用摘み片1Cが形成された筒状のフイルム1D及び上記被包装物Aが進行して、被包装物Aの進行側の筒状のフイルム1Dの重ね合せ部1E,1Fが公知の旋回式の横シーラ4によって溶着切断(以下、溶着切断を溶断という。)される。そして、この重ね合せ部1E,1Fが溶断された筒状のフイルム1D及び被包装物Aが進行して、所定距離進んだ時点で被包装物Aの後方側の筒状のフイルム1Dの重ね合せ部1G,1Hが上記横シーラ4によって溶断され、これによって被包装物A入りのフイルム袋1Iが形成される。次いで、この進行側及び後方側が溶断された被包装物A入りのフイルム袋1Iをシュリンクトンネル5内に通して、このシュリンクトンネル5内でフイルム袋1Iを熱収縮させる。このとき、その熱収縮によって、図4に示すように開封用摘み片1Cの根元側の溶着した重ね合せ部1A,1Bにそれらを剥離させる方向の引っ張り力F,Fが働くため、その根元側が剥離される方向に引っ張られて溶融穴1a…が剥れて離れ、図5に示すように開封用摘み片1Cの根元側に多数の小穴6…が間欠的に所定長さにわたり形成されるのである。なお、溶着した開封用摘み片1Cの根元側の離しは、上記引っ張り力F,Fが開封用摘み片1Cの根元側の溶着力より大きくなると離せるから、予めそのような関係になるように、熱収縮性のフイルム1の材質・厚みを選定し、またシーラの挟圧力(特に重ね合せ部の根元側の挟圧力)や、シュリンクトンネル5内の温度を調整しておく必要がある。
【0007】
上記実施の態様では、図1に示す横シーラ4に関して、筒状のフイルム1Dの進行側の重ね合せ部1E,1Fと後方側の重ね合せ部1G,1Hを溶断するようにしたが、この横シーラ4に代えて、図6に示す横シーラ7を用いてもよい。この横シーラ7は、一対の旋回型7A,7Bとこの旋回型7A,7Bの後方側に一対の旋回溶断型7C,7Dを有し、上記一方の旋回型7Aの円弧状先端面には小突起7a…が縦横に点在形成され、上記他方の旋回型7の円弧状先端面は平になっている。したがって、この一対の旋回型7A,7Bで筒状のフイルム1Dの後方側の重ね合せ部1G,1Hを挟圧したときには上記図3(A)で説明した場合と同様に旋回型7Aの小突起7a…がその熱によって重ね合せ部1G,1Hを溶かしながらその重ね合せ部1G,1Hに喰い込み、重ね合せ部1G,1H同士を溶着すると共に、重ね合せ部1Gの縦横に上記旋回型7Aの小突起7a…に対応した多数の溶融穴を有する所定幅の開封用摘み片1C’が形成される。また、その開封用摘み片1C’の後端と後続の筒状のフイルム1Dの重ね合せ部1E,1Fは上記旋回溶断型7C,7Dによって溶断される。このため、この先行の開封用摘み片1C’が形成された被包装物A入りのフイルム袋1I’をシュリンクトンネル5内に通して熱収縮させると、上記図4で説明した場合と同様に重ね合せ部1G,1Hの根元側が引っ張られて根元側の溶融穴が剥れて離れ、開封用摘み片の根元側に所定長さの間欠的な小穴が形成されるのである。なお、この開封用摘み片1C’を形成する横シーラ7は、後方側に一対の旋回型7A,7Bを、進行側に一対の旋回溶断型7C,7Dを配置させるものであってもよく、この場合は重ね合せ部1G,1Hが溶断され、重ね合せ部1E,1Fは所定幅にわたって溶着されて開封用摘み片1C’が形成され最終的にはその開封用摘み片1C’の根元側に所定長さの間欠的な小穴が形成されることになる。また、この開封用摘み片1C’を形成する横シーラは旋回式に限らず、筒状のフイルム1Dの重ね合せ部に対して直線的に進退する押圧型形式のものであってもよい。また、この開封用摘み片1C’を形成する横シーラを用いた場合には、上記縦シーラ3に代えて、図7に示す溶断タイプの縦シーラ8であってもよい。
【0008】
また、上記各実施の態様では、所定長さの間欠的な各小穴6…を円に形成するようにしたが、重ね合せ部1A,1B(1G,1H)の根元側の離す(剥す)量を少なくして、最終的に形成される開封用摘み片1C(1C’)の根元側の各小穴を半円状などの欠円形状にしてもよく、これでも開封用摘み片1C(1C’)を指で摘んで引っ張れば各小穴間から亀裂が生じて熱収縮フイルムを容易に破断することができる。また、小突起3a…(7a…)の横断面は円形に限らず、菱形、細長状等にしておけば、最終的に形成される各小穴も菱形形状、細長形状等に形成され、熱収縮フイルムを容易に破断することができる。また、上記各実施の態様では、重ね合せ部1A,1B(1G,1H)の根元側の溶融穴1a…の1列を熱収縮時に離すようにしたが、勿論重ね合せ部1A,1B(1G,1H)の根元側の溶融穴1a…の複数列を離して、開封用摘み片1C(1C’)の根元側に複数列の間欠的な小穴6…を形成してもよい。また、重ね合せ部1A,1B(1G,1H)の根元側の溶着力を低下またはゼロとさせ、重ね合せ部1A,1B(1G,1H)の根元側の離しを容易化させるために、重ね合せ部1A,1B(1G,1H)の根元側に対応する上記回転ローラ3A(旋回型7Aまたは押圧型)の小突起3a…(7a…)の突出量を小さくするか(図3(A)の点線P1参照)或いは重ね合せ部1A,1B(1G,1H)の根元側に対応する上記回転ローラ3B(旋回型7Bまたは押圧型)の径(長さ)を小径(短寸)にするか(図3(A)の2点鎖線P2参照)或いはそれらの双方を採用してもよい。また、上記各実施の態様では、溶融穴1aを形成するシーラとして、一方側に小突起3a(7a)を持つ回転ローラ3A(旋回型7Aまたは押圧型)を用いたが、双方の回転ローラ3A,3B(旋回型7A,7Bまたは押圧型)に小突起3a(7a)を形成してこれらを軸方向(縦方向)に齟齬させる様にしてもよい。また、上記各実施の態様では、開封用摘み片1C(1C’)の重ね合せ部1A(1G)の根元側にのみ間欠的な小穴6…を形成したが、上記溶融穴1a…を重ね合せ部1B(1H)にも形成して、開封用摘み片1C(1C’)の両重ね合せ部1A,1B(1G,1H)の根元側に間欠的な小穴6…を形成してもよい。
【0009】
【発明の効果】
以上のように、本発明によれば、フイルム包装の被包装物の開封用摘み片の根元側に間欠的な小穴が所定長さにわたり確実に形成されるため、開封用摘み片を指で摘んで引っ張ることで熱収縮フイルムを容易に破断することができると共に、包装設備を大幅に改変する必要がなく、さらに破断用の間欠的な小穴を作る設備としては耐久性が極めて良いものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明の実施の一態様を説明するための包装設備の概略側面図。
【図2】
筒状にしたフイルムの下側の重ね合せ部を縦シーラで溶着する概略断面図。
【図3】
(A)は図2の要部拡大断面図(B)は開封用摘み片の一部分を示す説明図。
【図4】
フイルム袋の開封用摘み片に熱収縮時に引張力が加わる状態の要部断面図。
【図5】
フイルム袋の熱収縮後の開封用摘み片の一部分を示す説明図。
【図6】
開封用摘み片を形成する横シーラを説明するための概略断面図。
【図7】
筒状にしたフイルムの下側の重ね合せ部を溶断する縦シーラの断面図。
【図8】
従来の包装設備を示す概略側面図。
【図9】
図8の包装設備の縦シーラ部分の概略断面図。
【図10】
図8の包装設備を使用して得られた熱収縮フイルムの包装状態の斜視図。
符号の説明】
A 被包装物
1 熱収縮性のフイルム
1A,1B 筒状にしたフイルムの下側の重ね合せ部
1C 開封用摘み片
1D 筒状のフイルム
1E,1F 筒状のフイルムの進行側の重ね合せ部
1G,1H 筒状のフイルムの後方側の重ね合せ部
1I フイルム袋
3 縦シーラ 5 シュリンクトンネル 3a 小突起 6 小穴
7 横シーラ 7a 小突起
1C’ 開封用摘み片
1I’ フイルム袋
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2014-01-16 
結審通知日 2014-01-20 
審決日 2014-02-04 
出願番号 特願平7-306340
審決分類 P 1 113・ 537- YAA (B65B)
P 1 113・ 113- YAA (B65B)
P 1 113・ 121- YAA (B65B)
P 1 113・ 536- YAA (B65B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山崎 勝司  
特許庁審判長 千葉 成就
特許庁審判官 渡邊 真
紀本 孝
登録日 2007-02-02 
登録番号 特許第3909399号(P3909399)
発明の名称 フイルム包装の被包装物の開封用摘み片形成方法  
代理人 大川 博之  
代理人 藤本 昇  
代理人 北田 明  
代理人 安田 久  
代理人 安田 久  
代理人 波止元 圭  

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