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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1287778
審判番号 不服2010-20419  
総通号数 175 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-07-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-09-10 
確定日 2014-05-14 
事件の表示 特願2002-565070「分娩後の哺乳動物の胎盤、その使用およびそれに由来する胎盤幹細胞」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 8月22日国際公開、WO02/64755、平成16年 9月16日国内公表、特表2004-528021〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願発明,平成14年2月13日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 平成13年2月14日 米国[以下,「第1優先権主張」という。] 及び 平成13年12月5日 米国[以下,「第2優先権主張」という。])を国際出願日とする特許出願であって,以降の経緯は次のとおりである。
平成17年 2月10日 手続補正書
平成19年 7月27日付け 拒絶理由通知書
平成20年 1月18日 意見書・手続補正書
平成21年 2月12日付け 拒絶理由通知書(最後)
平成21年 8月17日 意見書・手続補正書
平成22年 4月28日付け 平成21年8月17日付け手続補正について
の補正却下の決定
平成22年 4月28日付け 拒絶査定
平成22年 9月10日 審判請求書・手続補正書
平成24年 6月29日付け 審尋
平成25年 1月 4日 回答書
平成25年 4月23日付け 審尋
(なお,平成25年4月23日付け審尋に対する回答書は提出されなかった。)
第2 平成22年9月10日付け手続補正の適否
平成22年9月10日付け手続補正(以下,「本件補正」という。)は,補正前の請求項5?9を削除し,削除に伴い請求項の番号を整理したものである。
したがって,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第1号に掲げる請求項の削除を目的とする,適法な補正であるといえる。

第3 本願発明
本願の請求項1?6に係る発明は,平成22年9月10日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定されるとおりの発明と認める。
そして,その請求項2に係る発明(以下,それぞれ「本願発明」という。)は,次の事項により特定される発明である。
「 【請求項2】
少なくとも次の特徴:CD10+,CD29+,CD34-,CD44+,CD45-,CD54+,CD90+,SH2+,SH3+,SH4+,SSEA3-,SSEA4-,OCT-4+およびABC-p+を有する,単離されたヒト胎盤幹細胞。」

第4 第1優先権主張について
1 第1優先権主張の出願書類の記載事項
(第1-1)「Method of Draining and Extracting Placenta
Draining of Cord Blood and Storage of Fresh Placenta
The method requires access to freshly drained human placentas which have been subjected to a conventional cord blood recovery process by draining substantially all of the cord blood from the placenta.It is important that the placenta be properly stored and drained if it is to be a suitable source of embryonic stem cells.」(第1優先権主張の出願書類12頁11?17行)
(当審訳)
「胎盤を排液し及び抽出する方法
臍帯血及び新鮮な胎盤保管物の排液
この方法は,胎盤から実質的に臍帯血のすべてを排出することにより,従来の臍帯血回収処理が施された,新鮮な排液されたヒト胎盤へのアクセスを必要とする。それが胚性幹細胞の適切なソースである場合に,胎盤が適切に貯蔵され排液されることは重要である。」

(第1-2)「The placenta is then perfused at periodically, preferably at 4, 8,12, and 24 hours, with a volume of perfusate, preferably 100 mL of perfusate (sterile normal saline supplemented with 1000 u/L heparin and /or EDTA and/or CPDA creatine phosphate dextrose). The effluent fluid which escapes the placenta at the opposite surface is collected and processed to isolate the stem cells of interest.」(第1優先権主張の出願書類13頁28行?14頁2行)
(当審訳)
「その後,胎盤は,多くの灌流液,好ましくは100mLの灌流液(1000U/Lヘパリンおよび/またはEDTAおよび/またはCPDAクレアチンリン酸デキストロースを補足した滅菌生理食塩水)で4,8,12および24時間で,周期的に潅流される。反対面で胎盤を流出した流出流体は,興味のある幹細胞を分離するために集められ処理される。」

(第1-3)「Stem cells are then isolated from the effluent using density gradient centrifugation, magnet cell separation or other acceptable method.
The procedure is summarized as follows:
1. Cannulate the placenta (both vein and artery).
2. Perfuse the placenta with 40 ml to 60 ml 1% heparin in IXPBS.
3. Collect the perfused blood from the sterile plastic bag which is holding the placenta.
4. Do standard lymphocyte separators by using lymphoprep solutions.
These cells are then seeded onto or into the decellularized treated matrix, for example, by immersion into culture media containing the cells, by pumping or injection of the cells into the matrix, or a combination thereof.」(14頁5?15行)
(当審訳)
「その後,幹細胞は,密度勾配遠心分離,磁気細胞分離あるいは他の許容できる方法を使用して,流出物から分離される。
その手順は以下のように要約される:
1.胎盤(静脈と動脈の両方)にカニューレを挿入する。
2.IXPBSの中の60mlの1%のヘパリンへの40mlで胎盤を潅流する。
3.胎盤を保持している殺菌したビニール袋から潅流された血液を集める。
4.リンフォプレップ溶液の使用により標準リンパ球セパレーターを行う。
その後,例えば,細胞を含んだ培地の中への浸漬によって,マトリクス中への細胞の接種又は送液により,又は,それらの組合せにより,これらの細胞は,脱細胞処理されたマトリクス上又は中に播種される。」

2 当審の判断
パリ条約による優先権の主張の効果が認められるためには,「優先権は,発明の構成部分で当該優先権の主張に係るものが最初の出願において請求の範囲内のものとして記載されていないことを理由としては,否認することができない。ただし,最初の出願に係る出願書類の全体により当該構成部分が明らかにされている場合に限る。」(第4条H)と同条約は規定している。
したがって,優先権主張の利益を享受するためには,日本出願の請求項に係る発明の構成部分が,第一国出願の出願書類の全体に記載した事項の範囲内のものである必要がある。

第1優先権主張の出願書類には,本願発明の「CD10+,CD29+,CD34-,CD44+,CD45-,CD54+,CD90+,SH2+,SH3+,SH4+,SSEA3-,SSEA4-,OCT-4+およびABC-p+を有する,単離されたヒト胎盤幹細胞」についての記載は全く無い。

また,幹細胞についての具体的な記載事項として,「胎盤を排液し及び抽出する方法」(第1-1)が記載され,その結果「反対面で胎盤を流出した流出流体は,興味のある幹細胞を分離するために集められ処理される。」(第1-2)ことが記載されている。
この記載事項からは,得られた流出流体は,興味ある幹細胞を分離するために集められた,すなわち,まだ幹細胞は分離されておらず,幹細胞を含む流出流体が集められた状態のものであることが分かる。
そして,「幹細胞は,密度勾配遠心分離,磁気細胞分離あるいは他の許容できる方法を使用して,流出物から分離される。」(第1-3)とあるように,流出流体から,幹細胞が分離されることが理解される。
しかしながら,この手法により得られた幹細胞が「CD10+,CD29+,CD34-,CD44+,CD45-,CD54+,CD90+,SH2+,SH3+,SH4+,SSEA3-,SSEA4-,OCT-4+およびABC-p+」というマーカー特性を示すか不明であって,第1優先権主張日当時の技術常識を参酌しても,そのようなマーカー特性を示すことが自明な事項ともいえない。
したがって,本願発明の構成部分は,第1優先権主張の出願書類の全体に記載した事項の範囲内のものであるとはいえず,第1優先権主張の利益を享受することはできない。

3 請求人の主張について
なお,請求人は,審判請求書4頁下から2行?5頁4行において「さらに,出願1では,ヒト胎盤を灌流する本願に記載の方法と同一の細胞単離方法を記載している。当業者であれば,少なくともこれらの開示内容から,出願1の方法によって単離された細胞と本発明の細胞が同一であることは容易に理解できるはずである。したがって,本発明の細胞で発現しているマーカーは,出願1で既に教示されているものである。よって,本願は出願1の優先権を享受し得るものであることを主張する。」(下線は,当審にて付記したものである。)と主張する。
上記請求人の主張は,第1優先権主張の出願書類に記載のものにおいて,「単離」がなされているということを前提とするものである。

しかしながら,上記(第1-3)には,「幹細胞は,密度勾配遠心分離,磁気細胞分離あるいは他の許容できる方法を使用して,流出物から分離される」と分離手法が記載されているだけであり,その分離条件さえ記載がない。
したがって,「単離」された「幹細胞」は記載されていないというべきである。

また,下記「第5 第2優先権主張について」で述べるように,第2優先権主張の出願書類の図4(下記(第2-3)参照)によれば,マーカーにより複数種類の細胞を分離するスキームが示されている。第1優先権主張の上記(第1-1)の「胎盤を排液し及び抽出する方法」で分離された細胞は,図4(第2-3)でいう「Collect Placental Perfusate」又はせいぜい「Ficoll Separation」で遠心分離し「Dead Cell Removal」した段階のものであり,これらの段階以降,更に多種の発現マーカを発現する細胞に分離されることが示されている。
このことからすると,第1優先権主張に記載された(第1-1)記載の手法で得られたものは,幹細胞が含まれているとしても多種多様な細胞の混合集団であって,特定の幹細胞のみを単離したものではないことは明白であるから,請求人の主張を採用することはできない。

第5 第2優先権主張について
1 第2優先権主張の出願書類の記載事項
(第2-1)「What is claimed is:
1. A method of collecting embryonic-like stem cells from a placenta which has been treated to remove residual cord blood said method comprising:
perfusing a placenta which has been drained of cord blood with an anticoagulant perfusion solution to flush out residual cells and embryonic-like stem cells from said drained placenta, and
collecting said residual cells and embryonic-like stem cells and perfusion solution from the drained placenta.」(第2優先権主張の出願書類13頁1?8行)
(当審訳)
「クレームは次のとおり,
1.残留臍帯血を除去するために処理された胎盤から胚様幹細胞を採取する方法であって;
前記胎盤灌流から前記残留細胞や胚性様幹細胞を洗い流すために抗凝固剤性灌流液で臍帯血の排出された胎盤を灌流し,
灌流胎盤から残留細胞及び胚様幹細胞及び灌流液を収集する工程を含む前記方法。」

(第2-2)「Stem cells are then isolated from the effluent using techniques known by those skilled in the art, such as for example, density gradient centrifugation, magnet cell separation or other acceptable method, and sorted, for example, according to the scheme shown in Figure 4.」(第2優先権主張の出願書類6頁3?6行)
(当審訳)
「次いで,幹細胞は,例えば,密度勾配遠心分離,磁気細胞分離,他の許容できる方法といった当業者にとって知られた技術を使用して溶出物から分離され,そして,例えば図4に示される枠組みに従って選別される。」

(第2-3)「

」(第2優先権主張の出願書類 図4)

(第2-4)「Flow cytometry was carried out using a Becton-Dickinson FACSCalibur instrument and FITC and PE labeled monoclonal antibodies, selected on the basis of known markers for bone marrow-derived MSC (mesenchymal stem cells), were purchased from B.D. and Caltag laboratories (S.San Francisco, CA.), and SH2, SH3 and Sh4 antibody producing hybridomas were obtained from AM.Cul.and reactivities of the MoAbs in their cultured supematants were detected by FITC or PE labeled F(ab)'2 goat anti-mouse antibodies. Lineage differentiation was carried out using the commercially available induction and maintenance culture media (BioWhittaker), used as per manufacturer's instructions.」(第2優先権主張の出願書類 11頁14?23行)
(当審訳)
「Becton-Dickinson FACS Calibur機器を用いてフローサイトメトリーを実施した。骨髄由来のMSC(間葉幹細胞)の既知マーカーに基づいて選択したFITCおよびPE標識モノクローナル抗体(mAb)は,B.D.およびCaltagラボラトリー(S.San Francisco,CA)から購入し,SH2,SH3およびSh4抗体(当審注:「Sh4」は,「SH4」の誤記と理解される。)を産生するハイブリドーマを取得して,それらの培養上清中のmAbの反応性をFITCまたはPE標識F(ab)'2ヤギ抗マウス抗体により検出した。市販の誘導および維持培地(Bio Whittaker)を製造業者の指示に従って用いて,細胞系列分化を実施した。」

(第2-5)「Flow Cytometry
The expression of CD-34, CD-38, and other stem cell-associated surface markers on early and late fraction purified mononuclear cells was assessed by flow cytometry. Briefly, cells were washed in PBS and then double-stained with anti-CD34 phycoerythrin and anti-CD38 fluorescein isothiocyanate (Becton Dickinson, Mountain View, CA).」(第2優先権主張の出願書類 12頁12?17行)
(当審訳)
「フローサイトメトリー
初期および後期画分から精製された単核細胞上のCD-34,CD-38,ならびに,その他の幹細胞関連表面マーカーの発現を,フローサイトメトリーにより評価した。簡潔いえば,細胞はPBSの中で洗われ,次に,抗CD34フィコエリトリンおよび抗CD38フルオレセインイソチオシアネート(Becton Dickinson,Mountain View,CA)で二重染色された。」

2 当審の判断
第2優先権主張の出願書類には,本願発明の「CD10+,CD29+,CD34-,CD44+,CD45-,CD54+,CD90+,SH2+,SH3+,SH4+,SSEA3-,SSEA4-,OCT-4+およびABC-p+を有する,単離されたヒト胎盤幹細胞」についての記載は全く無い。

また,第2優先権主張の出願書類には,幹細胞の分離手法について上記(第2-2)において,図4のスキーム(第2-3)が引用されている。図4(第2-3)の「Collect Placental Perfusate」(当審訳:集められた胎盤灌流液)には,「Ficoll Separation」(当審訳:フィコール分離)を経てもなお,多数の異なるマーカー特性を有する細胞の画分が含まれており,この段階では多種多様の細胞の集団であることが理解される。そして,図4には,CD34+に注目して細胞を分離することは記載されているが,これは,本願発明の構成部分である「・・・(略)・・・CD34-,・・・(略)・・・を有する,単離されたヒト胎盤幹細胞」とは,全く逆の性質を有する細胞を分離しようとするものである。
さらに,上記(第2-4)及び(第2-5)に「SH2,SH3およびSh4抗体」及び「CD-34,CD-38」マーカーについての言及があるが,このマーカー及び抗体により幹細胞が単離されることは不明であって,本願発明の構成部分である「CD10+,CD29+,CD34-,CD44+,CD45-,CD54+,CD90+,SH2+,SH3+,SH4+,SSEA3-,SSEA4-,OCT-4+およびABC-p+を有する,単離されたヒト胎盤幹細胞」なる事項を導くことはできない。

仮に,第2優先権主張の出願書類に記載された胎盤から胚様幹細胞を採取する方法により何らかの胚様幹細胞が得られたとしても,それが本願発明の「CD10+,CD29+,CD34-,CD44+,CD45-,CD54+,CD90+,SH2+,SH3+,SH4+,SSEA3-,SSEA4-,OCT-4+およびABC-p+」というマーカー特性を示す細胞であるか不明であって,第2優先権主張日当時の技術常識を参酌しても,そのようなマーカー特性が自明であるともいえない。

したがって,本願発明は,第2優先権主張の出願書類の全体に記載した事項の範囲内のものであるとはいえず,第2優先権主張の利益を享受することはできない。

第6 原査定の拒絶理由の概要
原査定の拒絶理由の概要は,請求項2に係る発明(本願発明)は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物1に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができない,とする理由を含むものである。

刊行物1:Blood, (2001.11.16), 98, [11], p.147B(Abstract# 4260)

第7 刊行物1記載の事項
上記原査定の平成21年2月21日付け拒絶理由で引用され,本願出願前(第2優先権主張日前)に頒布された刊行物である上記刊行物1には,次の事項が記載されている。
なお,翻訳は当審によるものである。また,下線は,当審において付したものである。

(刊1-1)「Recovery of Placental-Derived Cells with Mesenchymal Stem Cell Characteristics.」(標題)
(当審訳)
「間葉系幹細胞特性を有する胎盤由来細胞の回収」

(刊1-2)「We have proposed that pluripotent stem cells derived from the blastocyst ,but not recruited to differentiate during embryogenesis, may result in a quiescent state within the placenta throughout gestation. We sought to determine whether recovery and cultivation of the postpartum placenta provided an opportunity to recruit and isolate significant, viable multipotent stem cells. Human placentas, procured under full informed consent of the donor were expelled following birth of normal, full-term infants. The umbilical vessels(2 arteries and 1 vein) were identified and cannulated under sterile conditions with polyethylene catheters and connected to a flow controlled fluid circuit allowing anatomic perfusion of the placenta. Perfusates consisting of heparinized ,nutrient physiologic solutions were delivered at controlled flow rates, temperatures and pressures. The placenta was flushed with 100ml of perfusate through the arterial circuit and collected from the venous catheter to remove any residual blood at 2.5 hrs after birth. The placenta was then cultivated for periods between 12 to 24 hours at 25℃, at which time the organ was perfused with a volume of 250mL of perfusate recovered. Mononucleated cells were recovered from the perfusates by density gradient fractionation. The cells were washed , resuspended in mesenchymal stem cell maintenance medium, and cultured at 37℃ and 5% CO2. Non-adherent cells were removed after 24-48 hrs in culture. Short term cultures(<2 weeks) revealed a variety of morphologically distinct populations of cells with spindle-shaped , fibroblast-like, and stromal morphologies . Long term cultures(>4 weeks) appeared morphologically homogeneous and stromal-like. Cultures were tested by flow cytometry for mesenchymal stem cell markers(SH2, SH3, SH4),hematopoietic markers(CD34, CD45), HLA Class I and Class II ,and by their ability to differentiate into multiple cell lineages. The placental derived adherent cells tested positive for SH2, SH3, and SH4 ,were negative for CD34 and CD45, and positive for HLA Class I but not Class II. Furthermore ,when exposed to conditions that direct differentiation of marrow derived mesenchymal stem cells along adipogenic and chondrogenic pathways , these cells exhibited characteristic morphologic and biochemical changes associated with adipocytes and chondrocytes . These results are consistent with the properties of bone marrow derived mesenchymal stem cell lines previously reported. In addition, we have shown that significant numbers of hematopotetic progenitor cells can be recovered from the cultivated postpartum placenta. Taken together ,our observations implicate the postpartum human placenta as an important and novel source of multipotent stem cells which could potentially be used for the repair of damaged or diseased tissue.」
(当審訳)
「我々は,胚盤胞に由来する,胚発生中に分化することのない多能性幹細胞が,妊娠の間ずーっと胎盤内で静止状態に結果としてなっていたかもしれないと提案した。我々は,分娩後の胎盤の回収と培養が,有意に,生存可能な多能性幹細胞を得て,単離する機会を提供するか否かを決めようとした。ドナーの十分なインフォームドコンセントの下で取得されたヒト胎盤は,正常な満期出産乳児の誕生に続いて排出された。臍血管(2本の動脈および1つの静脈)が確認され,ポリエチレン・カテーテルで無菌条件の下で挿入され,そして,胎盤の解剖学的灌流を可能にするフローコントロールされた流体回路に接続された。ヘパリン処理され栄養生理学溶液から成る灌流液は,制御された速度,温度および圧力で送られた。胎盤は,動脈回路を通して100mlの灌流液でフラッシングされ,誕生の後2.5時間で,すべての残留する血液を除去するために静脈カテーテルから集められた。その後,胎盤は,25℃で12?24時間培養され,その時点で,器官は,回収された灌流液250mL量の灌流液で灌流されていた。単核の細胞が密度勾配分別によっで灌流液から回収された。細胞は洗われ,間葉系幹細胞保存培地の中に再懸濁され,37℃および5%CO2(当審注:「CO2」は,「CO_(2)」の誤記と解される。)で培養された。非付着細胞は培養の中で24-48時間の後に除去された。短期培養物(<2週)は,紡錘体形態,繊維芽細胞様,およびストロマの形態を持った様々な形態学的にはっきりした集団細胞を示した。長期培養物(>4週)は,形態学的に均質でストロマ様のように思われた。培養物は,間葉系幹細胞マーカー(SH2,SH3,SH4),造血のマーカー(CD34,CD45),HLAクラスIおよびクラスIIに対するフローサイトメトリー,および多数の細胞系統に分化するそれらの能力によってテストされた。胎盤の由来する付着細胞は,SH2,SH3およびSH4対して陽性,CD34とCD45に対しては陰性,そして,HLAクラスIに対しては陽性でクラスIIではそうではなかった。更に,骨髄の直接の分化が,脂肪生成及び軟骨形成の経路に沿った間葉系幹細胞を誘導した条件にさらされた時,これらの細胞は脂肪細胞及び軟骨細胞に関連した形態的及び生化学的変化を示した。これらの結果は,以前に報告された骨髄から取り出された間葉系幹細胞系統の特性と一致している。加えて,我々は,培養された分娩後の胎盤から造血性始原細胞の著しい数を回収することができることを示した。まとめると,我々の観察は,損傷された又は病変組織の修復に潜在的に使用され得る多能性幹細胞の重要で新規なソースとして,分娩後のヒト胎盤を示唆する。」

第8 刊行物1記載の発明
刊行物1記載の事項から次のことが理解される
1 細胞の種類
「間葉系幹細胞特性を有する胎盤由来細胞の回収」(刊1-1)と記載され,この細胞は,「骨髄の直接の分化が,脂肪生成及び軟骨形成の経路に沿った間葉系幹細胞を誘導した条件にさらされた時,これらの細胞は脂肪細胞及び軟骨細胞に関連した形態的及び生化学的変化を示した。」(刊1-2)とされており,脂肪や軟骨という全く別異な器官に分化するから,分化する器官が限られる前駆細胞ではないことは明白であり,幹細胞であることが実験によっても確かめられているものである。

2 細胞の由来
「ヒト胎盤,ドナーの十分なインフォームドコンセントの下で取得された」(刊1-2)との記載から,取得された細胞は,ヒト胎盤由来であることが分かる。

3 細胞の単離について
刊行物1の「我々は,分娩後の胎盤の回収と培養が,有意に,生存可能な多能性幹細胞を得て,単離する機会を提供するか否かを決めようとした。」(刊1-2)との記載からみて,多能性幹細胞を単離することを目的とするものである。
その結果,「胎盤の由来する付着細胞は,SH2,SH3およびSH4対して陽性,CD34とCD45に対しては陰性,そして,HLAクラスIに対しては陽性でクラスIIではそうではなかった。更に,骨髄の直接の分化が,脂肪生成及び軟骨形成の経路に沿った間葉系幹細胞を誘導した条件にさらされた時,これらの細胞は脂肪細胞及び軟骨細胞に関連した形態的及び生化学的変化を示した。」とされる細胞が得られているのだから,かかる発現マーカーの発現と分化能を有する細胞が単離されていることが分かる。

4 発現マーカー
その発現マーカーは「SH2,SH3およびSH4対して陽性,CD34とCD45に対しては陰性,そして,HLAクラスIに対しては陽性でクラスIIではそうではなかった。」(上記(刊1-2))と記載されている。
ここで,「HLAクラスIIではそうではなかった」とは,陽性となるHLAクラスIとの対比において,そうでなかったというのであるから,陰性であると理解される。

以上のことを総合すると,刊行物1には次の発明(「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「SH2,SH3およびSH4対して陽性,CD34とCD45に対しては陰性,そして,HLAクラスIに対しては陽性でクラスIIでは陰性であり,
脂肪生成及び軟骨形成の経路に沿った間葉系幹細胞を誘導した条件にさらされた時,これらの細胞は脂肪細胞及び軟骨細胞に関連した形態的及び生化学的変化する,
ヒト胎盤由来の間葉系幹細胞特性を有する単離された幹細胞。」

第9 対比
本願発明と引用発明を対比する。
1 ヒト胎盤幹細胞について
引用発明の「ヒト胎盤由来の間葉系幹細胞特性を有する単離された幹細胞」は,本願発明の「単離されたヒト胎盤幹細胞」に相当する。

2 細胞の特徴について
細胞の特徴である発現マーカーについて,引用発明の「SH2,SH3およびSH4対して陽性,CD34とCD45に対しては陰性,そして,HLAクラスIに対しては陽性でクラスIIでは陰性」,すなわち,SH2+,SH3+,SH4+,CD34-,CD45-,HLAクラスI+及びHLAクラスII-であることと,本願発明の「CD10+,CD29+,CD34-,CD44+,CD45-,CD54+,CD90+,SH2+,SH3+,SH4+,SSEA3-,SSEA4-,OCT-4+およびABC-p+」であることとは,「SH2+,SH3+,SH4+,CD34-,CD45-」である点で共通する。

3 小括
以上のことから,両発明の間には次の(一致点)があり,次の一応の(相違点)がある。
(一致点)
「少なくとも次の特徴:CD34-,CD45-,SH2+,SH3+,SH4+を有する,単離されたヒト胎盤幹細胞。」

(相違点)
発現マーカーの特徴が,本願発明が「CD10+,CD29+,CD44+,CD54+,CD90+」及び「SSEA3-,SSEA4-,OCT-4+およびABC-p+」を一致点の特徴に加えて有するのに対して,引用発明では「HLAクラスIに対しては陽性でクラスIIでは陰性」を一致点の特徴に加えて有するものであり,特徴が異なる点。

第10 検討・判断
1 発現マーカーについての共通点
上記したように,両発明は「SH2+,SH3+,SH4+,CD34-,CD45-」である点で共通する。
さらに,本願発明の特許請求の範囲だけでなく,本願明細書の発明の詳細な説明に記載の「単離されたヒト胎盤幹細胞」の特徴も含めて検討すると,本願明細書には,
「【0089】
胎盤により提供されるヒト胎盤幹細胞は,驚くことに胚様細胞であり,例えば,これらの細胞に次の細胞表面マーカーの存在が確認されている:SSEA3-,SSEA4-,OCT-4+およびABC-p+。本発明の胚様幹細胞は,OCT-4+およびABC-p+細胞表面マーカーの存在により特性決定するのが好ましい。従って,本発明は,胚供給源から単離もしくは取得されたものではないが,次のマーカー:SSEA3-,SSAE4-,OCT-4+およびABC-p+によって同定可能な幹細胞を包含する。一実施形態では,ヒト胎盤幹細胞は,MHCクラス2抗原を発現しない。」(下線は当審が付記したものである。)
との記載がある。

ここに記載の「MHC」とは,生化学辞典(第3版),株式会社東京化学同人,第3版第4刷,2000年3月1日,218頁「MHC分子」の項には,「MHC抗原(→主要組織適合(性)抗原系)と同義。同種移植におけるアロ抗原^(*)性を担う分子であり,ヒトではHLA^(*)分子,マウスでは,H-2分子(→H-2遺伝子複合体)がこれに相当する。」と記載されているように,ヒトにおいてHLAと呼ばれる抗原に相当するものである。
そうすると,前記本願明細書の「ヒト胎盤幹細胞は,MHCクラス2抗原を発現しない。」との記載は,ヒト胎盤幹細胞は,HLAクラス2抗原を発現しない,すなわち,陰性であると読み替えることができる。

引用発明は「HLAクラスIに対しては陽性でクラスIIでは陰性」とされており,一致点に記した発現マーカーの特徴に加えて,本願明細書の発明の詳細な説明に記載されたヒト胎盤幹細胞の特徴である前記「MHCクラス2抗原を発現しない」という点で共通する特徴を有し,両発明は「SH2+,SH3+,SH4+,CD34-,CD45-,MHCクラス2抗原を発現しない」点で共通することになる。

2 取得源について
幹細胞の取得源が,引用発明と本願発明は,「ヒト胎盤」であることで一致する。

3 取得方法について
本願明細書の段落【0087】には,
「胎盤から最初に収集した血液は,臍帯血と呼ばれ,これは,主に,CD34+およびCD38+造血前駆細胞を含む。分娩後最初の24時間以内の灌流で,高濃度のCD34-およびCD38+造血前駆細胞と一緒に,高濃度のCD34+およびCD38-造血前駆細胞を胎盤から単離することができる。約24時間の灌流後,前記の細胞と一緒に,高濃度のCD34-およびCD38-細胞を胎盤から単離することができる。本発明の単離および灌流した胎盤は,CD34+およびCD38-幹細胞ならびにCD34-およびCD38+幹細胞について富化された幹細胞の供給源を大量に提供する。24時間以上灌流した単離胎盤は,CD34-およびCD38-幹細胞について付加された幹細胞の供給源を大量に提供する。」
と記載されている。

他方,引用発明では,「胎盤は,動脈回路を通して100mlの灌流液でフラッシングされ,誕生の後2.5時間で,すべての残留する血液を除去するために静脈カテーテルから集められた。その後,胎盤は,25℃で12?24時間培養され,その時点で,器官は,回収された灌流液250mL量の灌流液で灌流されていた。単核の細胞が密度勾配分別によっで灌流液から回収された。」と記載されている。

両発明の「幹細胞」は胎盤に対して長時間灌流するという手段で取得されている点で共通する。

4 小括
引用発明は,「SH2,SH3およびSH4対して陽性,CD34とCD45に対しては陰性,そして,HLAクラスIに対しては陽性でクラスIIでは陰性」という特徴により,「ヒト胎盤由来の間葉系幹細胞特性を有する単離された幹細胞。」として単離,すなわち,完全に一つの種類の細胞として分離されている。

ところで,例えば,完全に一人の人間として「指紋で特定された人物(A氏)」と,「指紋に加えて虹彩,血液型及びDNAを調べて特定された人物(A氏)」は,両者共にA氏に他ならないように,細胞が単離,すなわち,たった1種類の細胞として取得されてしまうと,この単離された細胞の特徴を更に調べて示したとしても,別細胞になるわけではなく,全く同じ細胞である。

そうすると,引用発明の「幹細胞」は「単離された」ものであるから,引用発明に記載の発現マーカー以外の特徴を更に調べて特定事項として加えたとしても,引用発明の「幹細胞」であることになる。

そこで検討するに,上記「1」?「3」に記した共通性,一致性を考慮すると,引用発明の「ヒト胎盤由来の間葉系幹細胞特性を有する単離された幹細胞」と,本願発明の「単離されたヒト胎盤幹細胞」は,同一の細胞である蓋然性がきわめて高いものである。

以上を踏まえ,当審では,平成25年4月23日付けで,何らかの形で,両発明が異なることを示すデータや刊行物(非公知であっても良い。)を示し釈明されたい旨の審尋を行い,請求人に釈明をする機会を与えたが,回答がなされなかった。

以上のことを総合すると,両発明の間には,相違点に記したごとくの引用発明において調べられていない特徴があるものの,「幹細胞」として実質的に相違することろはないと言わざるを得ない。

第11 結語
以上のとおり,本願発明は,刊行物1に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであって,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-12-06 
結審通知日 2013-12-10 
審決日 2013-12-24 
出願番号 特願2002-565070(P2002-565070)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 柴原 直司  
特許庁審判長 郡山 順
特許庁審判官 齊藤 真由美
田村 明照
発明の名称 分娩後の哺乳動物の胎盤、その使用およびそれに由来する胎盤幹細胞  
代理人 新井 栄一  
代理人 田中 夏夫  
代理人 藤田 節  
代理人 平木 祐輔  

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