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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03G 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G03G |
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管理番号 | 1287812 |
審判番号 | 不服2013-11965 |
総通号数 | 175 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2014-07-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2013-06-25 |
確定日 | 2014-05-12 |
事件の表示 | 特願2007-289917「トナー」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 5月28日出願公開,特開2009-116102〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は,成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は,平成19年11月7日の出願であって,平成24年9月26日付けで拒絶理由が通知され,同年10月31日に意見書及び手続補正書が提出され,同意見書を補足する実験成績証明書が同年11月2日に提出されたが,平成25年4月3日付けで拒絶査定がなされたところ,同年6月25日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出されたものである。 なお,審判請求人は,当審における平成25年8月23日付け審尋に対して,同年10月22日に回答書を提出している。 第2 補正却下の決定 〔補正却下の決定の結論〕 平成25年6月25日提出の手続補正書による手続補正を却下する。 〔理由〕 1 補正の内容 平成25年6月25日提出の手続補正書による手続補正(以下「本件補正」という。)は,平成24年10月31日提出の手続補正書による手続補正による補正後(以下「本件補正前」という。)の特許請求の範囲について補正しようとするもので,そのうち,請求項1の補正については次のとおりである。(下線は補正箇所を示す。) (1)本件補正前の請求項1 「少なくとも結着樹脂,及び負帯電性荷電制御剤として,フェノール類とアルデヒド類との縮重合反応により得られた縮重合体を含有し,前記フェノール類が,1つのフェノール性水酸基を持ち,その水酸基のオルト位には置換基のないp-アルキルフェノール(a)と,2つのフェノール性水酸基を持ち,各水酸基のオルト位には置換基のないビスフェノール化合物(b)からなり,該ビスフェノール化合物(b)の前記フェノール類における含有量が1?30モル%であり,前記アルデヒド類が,パラホルムアルデヒド及びホルムアルデヒドから選ばれる少なくとも1種であるトナーであって, 前記結着樹脂が少なくとも,ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物を90?100モル%含有するアルコール成分と,芳香族カルボン酸化合物を75?100モル%含有するカルボン酸成分とを縮重合させて得られるポリエステル(A)と, α,ω-直鎖アルカンジオールを90?100モル%含有するアルコール成分と,脂肪族ジカルボン酸化合物を90?100モル%含有するカルボン酸成分とを縮重合させて得られるポリエステル(B)を含有し,該ポリエステル(B)の結着樹脂における含有量が3?40重量%である,トナー。」 (2)本件補正後の請求項1 「少なくとも結着樹脂,及び負帯電性荷電制御剤として,フェノール類とアルデヒド類との縮重合反応により得られた縮重合体を含有し,前記フェノール類が,1つのフェノール性水酸基を持ち,その水酸基のオルト位には置換基のないp-アルキルフェノール(a)と,2つのフェノール性水酸基を持ち,各水酸基のオルト位には置換基のないビスフェノール化合物(b)からなり,該ビスフェノール化合物(b)の前記フェノール類における含有量が1?30モル%であり,前記アルデヒド類が,パラホルムアルデヒド及びホルムアルデヒドから選ばれる少なくとも1種であるトナーであって, 前記結着樹脂が少なくとも,ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物を90?100モル%含有するアルコール成分と,芳香族カルボン酸化合物を75?100モル%含有するカルボン酸成分とを縮重合させて得られるポリエステル(A)を60?97重量%と, α,ω-直鎖アルカンジオールを90?100モル%含有するアルコール成分と,脂肪族ジカルボン酸化合物を90?100モル%含有するカルボン酸成分とを縮重合させて得られるポリエステル(B)を3?40重量%含有してなる,トナー。」 2 新規事項の追加の有無及び補正の目的について 本件補正のうち請求項1に係る前記1の補正は,本件補正前には規定されていなかった結着樹脂中でのポリエステル(A)の含有量を,「60?97重量%」に限定しようとするものである。 本件補正により請求項1に付加された,結着樹脂中でのポリエステル(a)の含有量が「60?97重量%」であるという事項は,本願の願書に最初に添付した明細書の【0037】に記載されており,願書に最初に添付した明細書に記載された事項の範囲内においてなされた補正であるから,特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしている。 また,請求項1に係る前記1の補正は,本件補正前の請求項1に記載された「ポリエステル(A)」という発明特定事項を限定するものであって,本件補正の前後で当該請求項に係る発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であると認められるから,特許法17条の2第5項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで,本件補正後の請求項1に係る発明(以下,「本願補正発明」という。)について,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか)について以下に検討する。 3 独立特許要件について (1)本願補正発明 本願補正発明は,本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのもの(前記1(2)にて示したとおりのもの)と認める。 (2)引用例 ア 国際公開第2004/066030号 原査定の拒絶の理由で引用文献1として引用された国際公開第2004/066030号(以下「引用例1」という。)は,本願出願前に頒布された刊行物であって,当該引用例1には次の記載がある。(下線は,後述する引用発明の認定に特に関係する箇所を示す。) (ア)「技術分野 本発明は,静電荷像現像用トナー,およびこれに用いられる負荷電制御剤,及び負荷帯電制御剤の製造方法に関する。なお,本出願は,特許出願2003年第015207号を基礎としており,その内容をここに組み込むものとする。 背景技術 静電潜像の現像剤としては,湿式トナーの他,乾式トナーが広く用いられている。乾式トナーを用いて静電潜像を現像する場合,トナー粒子は,現像される静電潜像の極性に応じて,正または負の電荷を有している必要がある。そのため,トナー粒子の帯電性を制御するために各種の荷電制御剤が検討されている。 例えば特開昭63-266462号公報にはフェノール型化合物が開示され,例えば特公昭41-20153号公報および特公昭43-27596号公報などには含クロムアゾ染料からなる負荷電制御剤が開示されている。 しかしながら,特開昭63-266462号公報に開示されたフェノール型化合物は,ある程度の負帯電性を付与可能ではあるものの,十分なレベルではなかった。また,特公昭41-20153号公報および特公昭43-27596号公報などに開示された含クロムアゾ染料は黒色であり,カラートナーではトナーの色相に悪影響を及ぼし,さらにはクロムを含むことにより環境に悪影響を与えるものであった。 本発明は上記事情に鑑みてなされたもので,十分な帯電性を付与でき,帯電立ち上がり性が良好で,結着樹脂との相溶性,分散性も良好で,カラートナーに用いてもトナーの色相に影響を及ぼすことや,環境に悪影響を及ぼすことのない,負荷電制御剤を提供し,鮮明な画像が得られる静電荷像現像用トナーを提供することを課題とする。」(1頁5行?2頁2行) (イ)「発明の開示 本発明の負荷電制御剤は,フェノール類とアルデヒド類からの重縮合反応により得られた重縮合体を含有する負荷電制御剤であって, 前記フェノール類は,1つのフェノール性水酸基を持ち,その水酸基のオルト位には水素が結合している単核のフェノール化合物(A)と,2つ以上のフェノール性水酸基を持ち,その水酸基のオルト位には水素が結合している多核のフェノール化合物(B)とからなり, 前記フェノール類中における前記多核のフェノール化合物(B)の含有量が1?30モル%である。 本発明の静電荷像現像用トナーは, フェノール類とアルデヒド類からの重縮合反応により得られた重縮合体を含有する負荷電制御剤を含み, 前記フェノール類が,1つのフェノール性水酸基を持ち,その水酸基のオルト位には水素が結合している単核のフェノール化合物(A)と,2つ以上のフェノール性水酸基を持ち,その水酸基のオルト位には水素が結合している多核のフェノール化合物(B)とからなり,前記フェノール類中における前記多核のフェノール化合物(B)の含有量が1?30モル%であり,結着樹脂100質量部に対して前記負電荷制御剤が0.1?10質量部配合されている。」(2頁4?23行) (ウ)「発明を実施するための最良の形態 以下,本発明を詳細に説明する。 本発明は,電子写真,静電記録または静電印刷などで静電潜像を現像するための静電荷像現像用トナーおよびこれに用いられる負荷電制御剤に関する。本発明の負荷電制御剤はフェノール類とアルデヒド類の重縮合反応により得られた重縮合体を含有するものであって,フェノール類として,1つのフェノール性水酸基を持ち,その水酸基のオルト位には水素が結合している単核のフェノール化合物(以下,単に単核のフェノール化合物という。)(A)と,2つ以上のフェノール性水酸基を持ち,その水酸基のオルト位には水素が結合している多核のフェノール化合物(以下,単に多核のフェノール化合物という。)(B)とを併用する。ここで「水酸基のオルト位には水素が結合している」とは,すなわち,水酸基が結合している炭素の両隣の炭素は,これと共に芳香環を形成している炭素と結合している他は,水素のみとしか結合していないことを指す。 また,単核のフェノール化合物(A)および多核のフェノール化合物(B)としては,各々2種以上含んでいてもよい。 単核のフェノール化合物(A)としては,p-アルキルフェノール,p-アラルキルフェノール,p-フェニルフェノール,p-ヒドロキシ安息香酸エステルなどが挙げられる。これらは一種またはそれ以上混合して用いることができる。単核のフェノール化合物(A)について以下に述べる。 単核のフェノール化合物(A)としては,例えば,下記式(1)で示す化合物が挙げられる。 式(1)中,R_(1)およびR_(3)は,それぞれ水素,ハロゲン,アルキル基,アラルキル基,置換または非置換アミノ基のいずれかを示し,アルキル基としては,メチル基,エチル基,ブチル基,オクチル基,ドデシル基など炭素数1?12のものを好ましく例示できる。アラルキル基としては,ベンジル基,クミル基などが挙げられ,置換アミノ基としては,-N(CH_(3))_(2),-N(C_(2)H_(5))_(2),-N(C_(3)H_(7))_(2)などが挙げられる。 式(1)中,R_(2)は,水素,ハロゲン,アルキル基,-COC_(m)H_(2m+1)(ただし,m=1?20の整数),アラルキル基,置換または非置換フェニル基,置換または非置換アミノ基,ニトロ基,アリサイクリック基,-SO_(3)H,-Si(CH_(3))_(3),アルコキシル基,カルボキシル基,スルホアミド基,カルボモイル基,シアノ基,カルボン酸エステル基,アシル基のいずれかを示す。アルキル基,アラルキル基としては,R_(1)およびR_(3)で例示したものが例示でき,置換アミノ基の置換基としては枝分かれを有していても良い炭素数1?12のアルキル基を例示できる。・・・(中略)・・・ 式(1)で表される化合物の好ましい具体例としては,p-t-ブチルフェノール,p-t-オクチルフェノール,p-(α-クミルフェノール),p-フェニルフェノール,4-ヒドロキシ安息香酸エステルなどが挙げられる。フェノール化合物(A)は,1種単独で,あるいは2種以上を混合して使用できる。」(3頁6行?5頁5行) (エ)「多核のフェノール化合物(B)としては,例えば,ビスフェノール類,ビフェノール誘導体,ビスフェノール誘導体,トリスフェノール類またはその誘導体,テトラキスフェノール類またはその誘導体などが挙げられる。 これらのうちビフェノール誘導体としては,下記式(2)で示されるものがある。 ・・・(中略)・・・ 式(2)中,R_(5)?R_(8)は,それぞれ水素,アルキル基,ペルフルオロアルキル基,アリサイクリック基,アラルキル基,置換または非置換フェニル基,アルコキシル基,アリール基,スルホアミド基,カルボモイル基,シアノ基,カルボン酸エステル基,アシル基,ビニル基,ハロゲンのいずれかを示す。アルキル基としては,メチル基,エチル基,プロピル基,ブチル基,ペンチル基,ヘキシル基,ヘプチル基,オクチル基など炭素数1?8のものを好ましく例示できる。 ビスフェノール類またはその誘導体としては下記式(3)で示されるものがある。 式(3)中R_(9)?R_(12)は式(2)におけるR_(5)?R_(8)と同様の内容を示す。 R_(13)は,-SO_(2)-,-(CR_(14)R_(15))_(n)-(ただし,n=1?12を表し,R_(14)とR_(15)とは各々異なっていても良い。さらに,n≧2の場合には,各繰り返し単位ごとに,R_(14)とR_(15)とが各々異なっていてもかまわない。),-O-,下記式(4)で示される置換または非置換の炭素数3?8のシクロ環,下記式(5)で示されるもののいずれかである。ただし,R14およびR15は,それぞれ水素,アルキル基,ペルフルオロアルキル基,置換または非置換フェニル基のいずれかを示す。また,アルキル基は,炭素数1?16のものが挙げられ,枝分かれしていてもしていなくてもよい。・・・(中略)・・・ また,フェノール類中における多核のフェノール化合物(B)の含有量は,1?30モル%である。好ましくは2?20モル%,さらに好ましくは4?15モル%である。多核のフェノール化合物(B)のモル含有率が1モル%未満あるいは30モル%を超えると,十分な負帯電性能が得られない場合があり,特に30モル%を超えると,結着樹脂への分散性が悪くなる傾向がある。」(5頁6行?8頁9行) (オ)「アルデヒド類としては,パラホルムアルデヒド,ホルムアルデヒド,パラアルデヒドの他,下記式(8)で表されるフルフラールなどのアルデヒドを適宜使用できる。 ・・・(中略)・・・ また前記アルデヒド類はパラホルムアルデヒドおよび/またはホルムアルデヒドであることが好ましい。」(8頁11行?9頁7行) (カ)「こうして得られた負荷電制御剤を,結着樹脂100質量部に対して好ましくは0.1?10質量部,好ましくは1?7質量部使用し,後述するような方法で粒径5?15μm,好ましくは5?10μmの粒子とすることによって,帯電性,帯電立ち上がり性に優れたトナーを得ることができる。ここで,負荷電制御剤の配合量が0.1質量部未満では,トナーの帯電性,帯電立ち上がり性が不十分となる場合があり,一方,10質量部を超えると,トナーの定着特性が低下する場合がある。 トナーに使用される結着樹脂としては,例えば,ポリスチレン,ポリ-p-クロルスチレン,ポリビニルトルエンなどのスチレンおよびその置換体の単重合体;スチレン-p-クロルスチレン共重合体,スチレン-ビニルトルエン共重合体,スチレン-ビニルナフタリン共重合体,スチレンアクリル酸エステル共重合体,スチレン-メタクリル酸エステル共重合体,スチレン-α-クロルメタクリル酸メチル共重合体,スチレン-アクリロニトリル共重合体,スチレン-ビニルメチルエーテル共重合体,スチレン-ビニルエーテル共重合体,スチレン-ビニルメチルケトン共重合体,スチレン-ブタジエン共重合体,スチレン-イソプレン共重合体,スチレン-アクリロニトリル-インデン共重合体などのスチレン系共重合体;ポリ塩化ビニル,フェノール樹脂,天然変性フェノール樹脂,天然樹脂変性マレイン酸樹脂,アクリル樹脂,メタクリル樹脂,ポリ酢酸ビニール,シリコーン樹脂,ポリエステル樹脂,ポリウレタン,ポリアミド樹脂,フラン樹脂,エポキシ樹脂,キシレン樹脂,ポリビニルブチラール,テルペン樹脂,クマロインデン樹脂,石油系樹脂などが挙げられる。」(10頁23行?11頁14行) (キ)「以上説明したようにこのような負荷電制御剤は,フェノール類として,特定の単核のフェノール化合物(A)と,特定の多核のフェノール化合物(B)とを特定の割合で併用し,これとアルデヒド類との重縮合反応により得られた重縮合体を含有しているので,帯電立ち上がり性が良好で,十分な帯電性を付与でき,かつ,結着樹脂との相溶性が良く,結着樹脂との分散性も良好である。またこのような生成物は製造も安定に行うことができる。さらに,このような負荷電制御剤は,淡白色あるいは淡黄色であるので,カラートナーに用いてもトナーの色相に影響を及ぼすことがない。また,上記生成物には,クロムなどの元素が含まれていないので,環境面からも優れている。」(13頁12?20行) (ク)「[実施例1] p-t-ブチルフェノール0.45molと,2,2’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン0.032molと,パラホルムアルデヒド18.5g(ホルムアルデヒドとして0.6mol)と,5N水酸化カリウム水溶液3gとを用いて,300mlのキシレン中で水を留去しながら還流反応を8時間行った。反応溶液を,メタノールを用いて再結晶を行い,ろ過し,ろ過物をさらにメタノールで洗浄し得られた固体を乾燥して生成物を得た。 得られた生成物の分散度(質量平均分子量/数平均分子量)などを表1に示す。なお,質量平均分子量および数平均分子量は,ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定を行った。なお,検出器はShodex RI-71(昭和電工(株)製),カラムは,TSKgelG3000Hxlと,TSKgelG2000HxlとG1MHhr-M(東ソー(株)製)を使用した。 ついで,得られた生成物を用いて,下記(a)のトナー製造法およびブローオフ帯電性能評価法に沿って黒色トナーを製造し,評価した。結果を表1に示す。 (a)トナー製造法およびブローオフ帯電性能評価法 実施例で得られた生成物を負荷電制御剤として1部,結着樹脂であるスチレンアクリル共重合体100部,着色剤であるカーボンブラック(三菱化成工業(株)製,MA#100)5部,ビスコール550P(登録商標,三洋化成工業(株)製)4部を,ラボプラストミル(東洋精機製作所製)で溶融混練し,ジェットミルにて粉砕後,分級して粒径5?15μmのトナーを製造した。 得られたトナーと,キャリア(F-150,パウダーテック社製)を3:100の質量比で混合し,20℃×65%RHの条件下,所定時間(5分間,1時間,2時間)摩擦帯電させた後,ブローオフ粉体帯電量測定装置TB-203(東芝ケミカル社製)を使用して,帯電量を測定した。 また,下記式で示すように,1時間帯電量に対する5分帯電量の割合を立ち上がり率とした。 立ち上がり率(%)=(5分帯電量/1時間帯電量)×100 ・・・(中略)・・・ [実施例10] 実施例1で得られた生成物を用いて,下記(c)のトナー製造法およびブローオフ帯電性能評価法に沿って黒色トナーを製造し,評価した。結果を表9に示す。 (c)トナー製造法およびブローオフ帯電性能評価法 実施例で得られた生成物を負荷電制御剤として1部,結着樹脂であるポリエステル樹脂(酸価10mgKOH/g,水酸基価15mgKOH/g)100部,着色剤であるカーボンブラック(三菱化成工業(株)製,MA#100)5部,ビスコール550P(登録商標,三洋化成工業(株)製)4部を,ラボプラストミル(東洋精機製作所製)で溶融混練し,ジェットミルにて粉砕後,分級して粒径5?15μmのトナーを製造した。 帯電性評価については,上記(a)の場合と同様に行った。 ・・・(中略)・・・ ・・・(中略)・・・ 表1?11より明らかなように,多核のフェノール化合物(B)の使用量が少なかった比較例1では,ブローオフ帯電性能評価において,2時間摩擦帯電後の帯電量が不十分であり,また,初期の立ち上がり率も悪かった。また,多核のフェノール化合物(B)の使用量が過剰であった比較例2では反応を途中で中止せざるを得ず,評価可能な生成物が得られなかった。比較例3では溶媒として,反応生成物を溶解するジメチルホルムアミドを使用して負荷電制御剤を得たが,ブローオフ帯電性性能評価において2時間摩擦帯電後の帯電量が不十分であり,また,初期の立ち上がり率も悪かった。」(13頁24行?26頁10行) 前記(ア)ないし(ク)からみて,引用例1には,次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「フェノール類とアルデヒド類からの重縮合反応により得られた重縮合体を含有する負荷電制御剤と,結着樹脂とを含む静電荷像現像用トナーにおいて, 前記フェノール類を,1つのフェノール性水酸基を持ち,その水酸基のオルト位には水素が結合している単核のフェノール化合物(A)と,2つ以上のフェノール性水酸基を持ち,その水酸基のオルト位には水素が結合している多核のフェノール化合物(B)とからなるものとし, 前記フェノール類中における前記多核のフェノール化合物(B)の含有量を1?30モル%とし, 前記結着樹脂100質量部に対して前記負電荷制御剤を0.1?10質量部配合したものとすることによって, 帯電立ち上がり性が良好で,十分な帯電性を付与でき,かつ,結着樹脂との相溶性が良く,結着樹脂との分散性も良好なものとした静電荷像現像用トナーであって, 前記単核のフェノール化合物(A)としてはp-アルキルフェノールを挙げることができ, 前記多核のフェノール化合物(B)としてはビスフェノール類を挙げることができ, 前記アルデヒド類は,パラホルムアルデヒドおよび/またはホルムアルデヒドであることが好ましく, 前記結着樹脂としてはポリエステル樹脂を挙げることができるものであり, 例えば, 前記単核のフェノール化合物(A)として,p-アルキルフェノールであるp-t-ブチルフェノールを0.45mol用い,前記多核のフェノール化合物(B)として,ビスフェノール類である2,2’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンを0.032mol用い,前記アルデヒド類として,パラホルムアルデヒドを18.5g(ホルムアルデヒドとして0.6mol)用い,前記結着樹脂として,ポリエステル樹脂(酸価10mgKOH/g,水酸基価15mgKOH/g)を用い,前記結着樹脂100質量部に対し前記負荷電制御剤1質量部を配合したトナーは,当該トナーとキャリア(F-150,パウダーテック社製)を3:100の質量比で混合し,20℃×65%RHの条件下,5分間,1時間,2時間摩擦帯電させた後に測定した帯電量が,それぞれ,-17.9μC/g,-26.8μC/g,-28.9μC/gという優れた値であり,1時間帯電量に対する5分帯電量の割合である立ち上がり率が,67%という優れた値であるような, 静電荷像現像用トナー。」 イ 原査定の拒絶の理由で引用文献2として引用された特開2005-266753号公報(以下「引用例2」という。)は,本願出願前に頒布された刊行物であって,当該引用例2には次の記載がある。(下線は,後述する周知技術の認定に特に関係する箇所を示す。後述する引用例3及び4についても同様。) (ア)「【技術分野】 【0001】 本発明は,電子写真法,静電記録法,静電印刷法等において形成される潜像の現像に用いられる静電荷像現像用トナー及びその製造方法に関する。 【背景技術】 【0002】 特許文献1には,結晶性ポリエステルを含有する結着樹脂及び結晶性ポリエステルの軟化点より融点が10℃以上低いワックスとを含有した電子写真用トナーによって,低温定着性,耐オフセット性,耐ブロッッキング性及び耐久性を向上する技術が開示されている。 ・・・(中略)・・・ 【特許文献1】特開2001-222138号公報(請求項1,〔0029〕,〔0030〕) ・・・(中略)・・・ 【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0005】 本発明の課題は,オイルレス定着方式の画像形成装置に用いた際にも,低温定着性及び耐久性のいずれも優れた静電荷像現像用トナー及びその製造方法を提供することにある。」 (イ)「【課題を解決するための手段】 【0006】 本発明は, (1) 結着樹脂,離型剤及び着色剤を含有してなる静電荷像現像用トナーであって,前記結着樹脂が結晶性ポリエステルを含有し,前記離型剤として融点が60?85℃であり,かつ25℃における針入度が4?10のワックスを含有する静電荷像現像用トナー,並びに (2) 前記静電荷像現像用トナーの原料を溶融混練する工程を有する静電荷像現像用トナーの製造方法であって,前記溶融混練工程がオープンロール型混練機による工程である静電荷像現像用トナーの製造方法 に関する。 【発明の効果】 【0007】 本発明の静電荷像現像用トナーは,オイルレス定着方式の画像形成装置に用いた際にも,低温定着性と耐久性の両立が達成されるという優れた効果を奏する。」 (ウ)「【発明を実施するための最良の形態】 【0008】 近年の複写装置,プリンタ等の画像形成装置は低価格化/小型化を達成するためにオイルレス定着方式の普及が著しく,さらに,その高速化への要求も高まっている。かかるオイルレス定着方式の画像形成装置の小型化・高速化に対して,静電荷像現像用トナーに要求される最も重要な機能の一つが,低温定着性である。 【0009】 本発明者らは,融点の低いワックス,特に従来十分に検討されてこなかった融点が85℃以下の低融点ワックスを有効に使用する観点から,静電荷像現像用トナー(以下,単にトナーともいう)の低温定着性の向上を試みた。 【0010】 その結果,低融点ワックスを使用する際に障害となる大きな課題は,トナーの製造時,特に,結着樹脂,着色剤,離型剤等の原料の溶融混練工程を経て製造されるトナーの場合,従来広く使用される非晶質樹脂に対して低融点ワックスが十分に分散しない点にあることが判明した。 【0011】 これは,非晶質樹脂の軟化点が高く,溶融混練時の粘度が高いため,溶融粘度の低い低融点ワックスの分散が阻害されるためであった。 【0012】 ここで,非晶質樹脂の軟化点を低下させると,溶融混練時の低融点ワックスの分散性は向上するが,非晶質樹脂のガラス転移点も低下するため,製造されたトナーを画像形成装置で使用する際の耐久性が低下し,実用上大きな課題となった。 【0013】 一方,かかる非晶質樹脂の欠点を改善するために,結晶性樹脂を活用し,ワックスと併用する技術も検討されているが(特許文献1?3参照),融点が85℃以下の低融点ワックスとの併用は具体的に開示されていない。 【0014】 そこで,本発明者らが,溶融混練時の低融点ワックスの分散性とトナー使用時の耐久性の観点から,結着樹脂とワックスの見直しを図った結果,結晶性ポリエステルと特定性状の低融点ワックスの組み合わせが,前記課題を解決する優れた手段であることが判明した。 【0015】 本発明における結着樹脂は結晶性ポリエステルを含有するものである。本発明において,「結晶性」とは,軟化点と融解熱の最大ピーク温度の比(軟化点/ピーク温度)が0.6?1.3,好ましくは0.9?1.2,より好ましくは0.95?1.1であることをいい,また「非晶質」とは,軟化点と融解熱の最大ピーク温度の比(軟化点/ピーク温度)が1.3より大きく4以下,好ましくは1.5?3であることをいう。ここで,最大ピークとは,ピークの高さが最大となるピークのことをいう。 【0016】 本発明において,結晶性ポリエステルは,炭素数が2?6,好ましくは4?6の脂肪族ジオールを80モル%以上含有したアルコール成分と炭素数が2?8,好ましくは4?6,より好ましくは4の脂肪族ジカルボン酸化合物を80モル%以上含有したカルボン酸成分を縮重合させて得られた樹脂が好ましい。 【0017】 炭素数2?6の脂肪族ジオールとしては,エチレングリコール,1,2-プロピレングリコール,1,3-プロピレングリコール,1,4-ブタンジオール,1,5-ペンタンジオール,1,6-ヘキサンジオール,ネオペンチルグリコール,1,4-ブタンジオール等が挙げられ,特にα,ω-直鎖アルカンジオールが好ましい。 【0018】 炭素数2?6の脂肪族ジオールは,アルコール成分中に,80モル%以上,好ましくは80?100モル%,より好ましくは90?100モル%含有されているのが望ましい。特に,その中の1種の脂肪族ジオールが,アルコール成分中の70モル%以上,好ましくは80?95モル%を占めているのが望ましい。なかでも,1,4-ブタンジオールが,アルコール成分中,好ましくは60モル%以上,より好ましくは70?100モル%,特に好ましくは80?100モル%含有されているのが望ましい。 【0019】 アルコール成分には,炭素数2?6の脂肪族ジオール以外の多価アルコール成分が含有されていてもよく,該多価アルコール成分としては,ポリオキシプロピレン(2.2)-2,2-ビス (4-ヒドロキシフェニル) プロパン,ポリオキシエチレン(2.2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン等のビスフェノールAのアルキレン(炭素数2?3)オキサイド(平均付加モル数1?10)付加物等の芳香族ジオールやグリセリン,ペンタエリスリトール,トリメチロールプロパン等の3価以上のアルコールが挙げられる。 【0020】 炭素数2?8の脂肪族ジカルボン酸化合物としては,シュウ酸,マロン酸,マレイン酸,フマル酸,シトラコン酸,イタコン酸,グルタコン酸,コハク酸,アジピン酸,及びこれらの酸の無水物,アルキル(炭素数1?3)エステル等が挙げられ,これらの中ではフマル酸及びアジピン酸が好ましく,フマル酸がより好ましい。なお,脂肪族ジカルボン化合物とは,前記の如く,脂肪族ジカルボン酸,その無水物及びそのアルキル(炭素数1?3)エステルを指すが,これらの中では,脂肪族ジカルボン酸が好ましい。 【0021】 炭素数2?8の脂肪族ジカルボン酸化合物は,カルボン酸成分中に,80モル%以上,好ましくは80?100モル%,より好ましくは90?100モル%含有されているのが望ましい。特に,その中の1種の脂肪族ジカルボン酸化合物が,カルボン酸成分中の60モル%以上,好ましくは70?100モル%,より好ましくは80?100モル%を占めているのが望ましい。なかでも,フマル酸が,カルボン酸成分中,好ましくは60モル%以上,より好ましくは60?90モル%,特に好ましくは60?80モル%含有されているのが望ましい。 【0022】 カルボン酸成分には,炭素数2?8の脂肪族ジカルボン酸化合物以外の多価カルボン酸成分が含有されていてもよく,該多価カルボン酸成分としては,フタル酸,イソフタル酸,テレフタル酸等の芳香族ジカルボン酸;セバシン酸,アゼライン酸,n-ドデシルコハク酸,n-ドデセニルコハク酸の脂肪族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸;トリメリット酸,ピロメリット酸等の3価以上の多価カルボン酸;及びこれらの酸の無水物,アルキル(炭素数1?3)エステル等が挙げられる。 ・・・(中略)・・・ 【0031】 結晶性ポリエステルの含有量は,定着可能温度域が広く,保存性,定着性及びトナーの製造性が良好であることから,結着樹脂中,1?50重量%が好ましく,5?40重量%がより好ましく,10?30重量%が特に好ましい。」 (エ)「【0032】 さらに,本発明のトナーには,耐オフセット性及び溶融混練時の溶解粘度保持の観点より,非晶質樹脂が結着樹脂として含有されているのが好ましい。非晶質樹脂としては,非晶質ポリエステル,非晶質ポリエステルポリアミド,非晶質スチレン-アクリル樹脂等が挙げられるが,これらの中では,定着性及び結晶性ポリエステルとの相溶性の観点から,非晶質ポリエステルが好ましい。 【0033】 非晶質ポリエステルも,結晶性ポリエステルと同様にして,アルコール成分とカルボン酸成分とを縮重合させて製造することができる。ただし,非晶質ポリエステルとするためには, (1)炭素数2?6の脂肪族ジオール,炭素数2?8の脂肪族カルボン酸化合物等の樹脂の結晶化を促進するモノマーを用いる場合は,これらのモノマーを2種以上併用して結晶化を抑制すること,即ちアルコール成分及びカルボン酸成分のいずれにおいても,これらのモノマーの1種が各成分中10?70モル%,好ましくは20?60モル%を占め,かつこれらのモノマーが2種以上,好ましくは2?4種用いられていること,又は (2)樹脂の非晶質化を促進するモノマー,好ましくはアルコール成分ではビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物が,またはカルボン酸成分ではアルキル基もしくはアルケニル基で置換されたコハク酸が,アルコール成分中又はカルボン酸成分中,好ましくは両成分のそれぞれにおいて,30?100モル%,好ましくは50?100モル%用いられていることが好ましい。」 (オ)「【0037】 結晶性ポリエステルと非晶質ポリエステルの重量比(結晶性ポリエステル/非晶質ポリエステル)は,帯電性,保存性,低温定着性及び耐久性の観点から,1/99?50/50が好ましく,5/95?40/60がより好ましく,10/90?30/70が特に好ましい。また,結晶性ポリエステルと非晶質ポリエステルの総含有量は,結着樹脂中,50重量%以上が好ましく,70?100重量%がより好ましく,90?100重量%が特に好ましい。」 (カ)「【0046】 本発明のトナーには,さらに荷電制御剤が含有されていてもよく,正帯電性及び負帯電性の荷電制御剤が使用できる。正帯電性の荷電制御剤としては,画質(カブリ抑制)の観点から,4級アンモニウム塩基含有共重合体が含有するものが好ましい。特に,正帯電性トナーにあっては,4級アンモニウム塩基含有共重合体は,トナーに正帯電性を付与する電荷調整樹脂として,負帯電性を有するポリエステルが含有されている場合であっても,優れた正帯電性を確保することができる。」 (キ)「【0091】 本発明のトナーは,極めて優れた低温定着性及び耐久性を有しているため,オイルレス定着装置に用いた際に,その効果がより顕著に発揮される。 【0092】 本発明のトナーは,磁性体微粉末を含有するときは単独で現像剤として,また磁性体微粉末を含有しないときは非磁性一成分現像用トナーとして,もしくはキャリアと混合して二成分系現像剤として,特に限定されることなく,いずれの現像方法にも用いることが出来るが,結晶性ポリエステルと特定性状のワックスの組み合わせにより,トナー現像時の耐摩擦性に優れることから,本発明のトナーは非磁性一成分現像用トナーとして特に好適に使用することができる。」 (ク)「【0099】 結晶性ポリエステルの製造例2 1,4-ブタンジオール1575g,1,6-ヘキサンジオール870g,フマル酸2950g,ハイドロキノン2g及び酸化ジブチル錫4gを窒素雰囲気下にて160℃で5時間反応させた。その後200℃まで10℃/時間にて昇温,さらに200℃にて1時間反応させ,8.3kPaの減圧下で軟化点が110℃に達するまで反応させた。得られた樹脂の融解熱の最大ピーク温度は107℃,数平均分子量は4,200,重量平均分子量は72,000であった。得られた樹脂を樹脂Cとする。 【0100】 非晶質ポリエステルの製造例2 ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物(平均付加モル数:2.2モル)568g,ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物(平均付加モル数:2.2モル)792g,テレフタル酸640g及びオクチル酸錫10gを窒素雰囲気下210℃で攪拌し,軟化点が110℃に達するまで反応させた。得られた樹脂のガラス転移点は67℃,融解熱の最大ピーク温度は70℃,数平均分子量は4,000,重量平均分子量は15,000であった。得られた樹脂を樹脂Dとする。 ・・・(中略)・・・ 【0121】 実施例B1 樹脂C 10重量部,樹脂D 90重量部,着色剤「ECB-301」(大日精化工業社)3.5重量部,負帯電性荷電制御剤「ボントロンE-84」(オリエント化学工業社製)1重量部及びパラフィンワックス「HNP-9」(日本精鑞社製,融点:79℃,針入度:7)3重量部をヘンシェルミキサーにて混合した後,実施例A4と同様にしてオープンロール型連続混練機「ニーデックス」(三井鉱山(株)製)を用いて溶融混練し,混練物を得た。得られた混練物を空気中で冷却した後,ロートプレックス(アルバイン社製)にて粗粉際し,最大径2mmの粗粉砕物を得た。得られた粗粉砕物100重量部と,疎水性シリカ「R972」1.0重量部とをヘンシェルミキサーにて混合し,得られた混合物をカウンタージェットミル「400AFG」(ホソカワミクロン社製)にて,微粉砕・上限分級を行い,さらに分級機「TTSP」(ホソカワミクロン社製)にて下限分級を行い,トナーを得た。得られたトナーの体積中位粒径(D50)は5.8μmであった。 【0122】 実施例B2 負帯電性荷電制御剤として,「ボントロンE-84」の代わりに「LR-147」(日本カーリット社製)1重量部を使用した以外は,実施例B1と同様にしてトナーを得た。 【0123】 比較例B1 パラフィンワックスの代わりに,ポリプロピレンワックス「NP-105」(三井化学社製,融点:145℃,針入度:1)3重量部を使用した以外は,実施例B1と同様にしてトナーを得る。 【0124】 比較例B2 樹脂Cを使用せず,樹脂Dの使用量を100重量部に変更した以外は,実施例B1と同様にしてトナーを得た。 【0125】 試験例B1〔低温定着性〕 非磁性一成分現像方式,かつオイルレス定着方式のプリンター「MicroLine5100」(沖データ社製,負帯電型有機感光体)にトナーを実装し,100℃から200℃まで定着温度を変更しながら,5cm四方のベタ画像(トナー付着量:0.60mg/cm^(2))を得た。各定着温度で得られた画像を,500gの荷重をかけた砂消しゴムで5往復擦り,擦り前後の画像濃度比率(擦り後/擦り前)が最初に90%以上を超える温度を最低定着温度とし,以下の評価基準に従って低温定着性を評価した。結果を表2に示す。 【0126】 〔評価基準〕 ◎:最低定着温度が110℃未満である。 ○:最低定着温度が110℃以上120℃未満である。 △:最低定着温度が120℃以上140℃未満である。 ×:最低定着温度が140℃以上である。 【0127】 【表2】 【0128】 表2の結果より,比較例B1,B2と対比して,結着樹脂として結晶性ポリエステルを含有し,さらに所望の融点及び針入度を有するワックスを含有した実施例B1,B2のトナーは,低温定着性においても良好な結果が得られていることが分かる。」 ウ 原査定の拒絶の理由で引用文献3として引用された特開2006-227540号公報(以下「引用例3」という。)は,本願出願前に頒布された刊行物であって,当該引用例3には次の記載がある。 (ア)「技術分野】 【0001】 本発明は,電子写真法,静電記録法,静電印刷法等において形成される静電潜像の現像に用いられる非晶質ポリエステル,結着樹脂及び該結着樹脂を含有したトナーに関する。 【背景技術】 【0002】 電子写真における接触定着法は,非接触定着法と比較して,印字画像の定着強度が強く,さらに装置自体の小型化が可能であるため,大型機から小型機まで広く使用されている。特に,近年の高速化・高画質化による印刷方法の要求に伴い,さらなる低温定着性の向上を目的として,いわゆる結晶性ポリエステルと非晶質樹脂を結着樹脂として含有したトナーが検討されている(特許文献1,2)。 【特許文献1】特開2001-222138号公報(請求項1) 【特許文献2】特開2002-284866号公報(請求項1) 【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0003】 しかし,定着性を高めるために結晶性ポリエステルを含有したトナーの耐久性は十分でなく,特に,高耐久性の要求される一成分現像方式では,現像ロールのスジやかぶりを生じる。また,結晶性ポリエステルを含有しないトナーでは,耐久性は確保できるものの定着不良となる。 【0004】 本発明の課題は,トナーの結着樹脂として用いられ,低温定着性に優れ,長時間現像を繰り返した際にも,現像ロール上のスジの発生や,カブリの発生を防止できる,結晶性ポリエステルと共に使用される接触定着方式の電子写真トナー用非晶質ポリエステル及び該ポリエステルを含有したトナーを提供することにある。」 (イ)「【課題を解決するための手段】 【0005】 本発明は, (1) 式(I): 【0006】 【化1】 【0007】 (式中,ROはアルキレンオキサイドであり,Rは炭素数2又は3のアルキレン基,x及びyはアルキレンオキサイドの平均付加モル数を示す正の数であり,xとyの和は1?16である)で表されるビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物を50モル%以上含有したアルコール成分と,テレフタル酸を70モル%以上含有したカルボン酸成分とを縮重合させて得られ,軟化点が135?170℃,ガラス転移点が70?85℃である非晶質ポリエステルであって,結晶性ポリエステルと共に使用される接触定着電子写真用非晶質ポリエステル, (2) 前記非晶質ポリエステルを含有してなるトナー用結着樹脂,並びに (3) 前記非晶質ポリエステルを含有してなるトナー に関する。 【発明の効果】 【0008】 本発明の非晶質ポリエステルを結晶性ポリエステルと共に結着樹脂として含有したトナーは,接触定着電子写真方式において,低温定着性及び耐久性に優れた性能を発揮するという効果を奏する。」 (ウ)「【発明を実施するための最良の形態】 【0009】 本発明の非晶質ポリエステルは,式(1)で表される化合物を50モル%以上含有するアルコール成分とテレフタル酸成分を70モル%以上含有するカルボン酸成分を縮重合させて得られるものであり,軟化点,ガラス転移点および分子量分布が特定の範囲に調整されているために,本発明の非晶質ポリエステルを結晶性ポリエステルと共に結着樹脂として含有したトナーは,接触定着方式の印刷機において優れた定着性を示し,耐久性を特に要求される一成分現像方式においても,画質劣化を生じるこがなく優れた画像を得ることができる。 【0010】 本発明の非晶質ポリエステルは,接触定着電子写真トナー用の結着樹脂として,結晶性ポリエステルと共に使用される。 ・・・(中略)・・・ 【0012】 非晶質ポリエステルの原料モノマーとしては,特に制限がなく,公知のアルコール成分と,カルボン酸,カルボン酸無水物,カルボン酸エステル等の公知のカルボン酸成分が用いられる。 【0013】 アルコール成分は,式(I): 【0014】 【化2】 【0015】 (式中,ROはアルキレンオキサイドであり,Rは炭素数2又は3のアルキレン基,x及びyはアルキレンオキサイドの平均付加モル数を示す正の数であり,xとyの和は1?16,好ましくは1.5?5である)で表される化合物が,帯電性,環境特性および耐久性の観点から,アルコール成分中50モル%以上含有しており,好ましくは70モル%以上であり,より好ましくは90モル%以上である。 【0016】 式(I)で表される化合物としては,ポリオキシプロピレン(2.2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン,ポリオキシエチレン(2.2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン等のビスフェノールAのアルキレン(炭素数2?3)オキサイド(平均付加モル数1?16)付加物等が挙げられる。また,他のアルコール成分としては,エチレングリコール,プロピレングリコール,グリセリン,ペンタエリスリトール,トリメチロールプロパン,水素添加ビスフェノールA,ソルビトール,又はそれらのアルキレン(炭素数2?4)オキサイド(平均付加モル数1?16)付加物等が挙げられ,これらは単独で,又は2種以上を混合して用いることができる。 【0017】 また,カルボン酸成分としては,帯電性,耐久性の観点からテレフタル酸をカルボン酸成分中70モル%以上含有しており,好ましくは75モル%以上であり,より好ましくは80モル%以上である。」 (エ)「【0029】 本発明における非晶質ポリエステルともに使用される結晶性ポリエステルは,炭素数が2?6,好ましくは4?6の脂肪族ジオールを60モル%以上含有したアルコール成分と炭素数が2?8,好ましくは4?6,より好ましくは4の脂肪族ジカルボン酸化合物を60モル%以上含有したカルボン酸成分を縮重合させて得られる。 【0030】 炭素数2?6の脂肪族ジオールとしては,エチレングリコール,1,2-プロピレングリコール,1,3-プロピレングリコール,1,4-ブタンジオール,1,5-ペンタンジオール,1,6-ヘキサンジオール,ネオペンチルグリコール,1,4-ブテンジオール等が挙げられ,特にα,ω-直鎖アルカンジオールが好ましく,1,4-ブタンジオール及び1,6-ヘキサンジオールがより好ましく,1,6-ヘキサンジオールが特に好ましい。 【0031】 炭素数2?6の脂肪族ジオールは,アルコール成分中に,60モル%以上,好ましくは80?100モル%,より好ましくは90?100モル%含有されているのが望ましい。特に,その中の1種の脂肪族ジオールが,アルコール成分中の50モル%以上,好ましくは60モル%以上を占めているのが望ましい。なかでも,1,4-ブタンジオール又は1,6-ヘキサンジオールがアルコール成分中,好ましくは50モル%以上,より好ましくは60モル%以上,特に好ましくは80?100モル%含有されているのが望ましい。 ・・・(中略)・・・ 【0033】 炭素数2?8の脂肪族ジカルボン酸化合物としては,シュウ酸,マロン酸,マレイン酸,フマル酸,シトラコン酸,イタコン酸,グルタコン酸,コハク酸,アジピン酸,及びこれらの酸の無水物,アルキル(炭素数1?3)エステル等が挙げられ,これらの中ではフマル酸及びアジピン酸が好ましく,フマル酸がより好ましい。なお,脂肪族ジカルボン化合物とは,前記の如く,脂肪族ジカルボン酸,その無水物及びそのアルキル(炭素数1?3)エステルを指すが,これらの中では,脂肪族ジカルボン酸が好ましい。」 (オ)「【0044】 非晶質ポリエステルと結晶性ポリエステルとの重量比(非晶質ポリエステル/結晶性ポリエステル)は,耐久性,低温定着性及び保存性の観点から,99/1?50/50が好ましく,95/5?55/45がより好ましく,90/10?60/40が特に好ましい。」 (カ)「【0047】 荷電制御剤としては,ニグロシン染料,3級アミンを側鎖として含有するトリフェニルメタン系染料,4級アンモニウム塩化合物,ポリアミン樹脂,イミダゾール誘導体等の正帯電性荷電制御剤及び含金属アゾ染料,銅フタロシアニン染料,サリチル酸のアルキル誘導体の金属錯体,ベンジル酸のホウ素錯体等の負帯電性荷電制御剤が挙げられる。 【0048】 離型剤としては,カルナウバワックス,ライスワックス等の天然エステル系ワックス,ポリプロピレンワックス,ポリエチレンワックス,フィッシャートロプッシュ等の合成ワックス,モンタンワックス等の石炭系ワックス,アルコール系ワックス等のワックスが挙げられ,これらは単独でまたは2種以上を混合して含有されていてもよい。一般に,優れた低温定着性を得るためには,カルナウバワックス等の比較的融点の低いワックスが併用されることが好ましいが,本発明のトナーでは,それらの低融点ワックスの含有量が少量であっても,優れた低温定着性が発揮される。」 (キ)「【0057】 [非晶質ポリエステルH1,H2,H4,H5の製造例] 表1に示す使用量の無水トリメリット酸以外のモノマーおよび触媒を窒素導入管,脱水管,攪拌器および熱電対を装備した5リットル容の四つ口フラスコに入れ,窒素雰囲気下,230℃で反応率が90%に達するまで反応させた後,8.3kPaにて1時間反応させた。その後,210℃まで冷却し,無水トリメリット酸を投入し,1時間常圧反応を行った後200kPaにて所望の軟化点まで反応を行った。なお,本発明において反応率とは,生成反応水量(mol)/理論生成水量(mol)×100の値をいう。 ・・・(中略)・・・ 【0059】 [非晶質ポリエステルL1,L2の製造例] 表1に示す使用量のモノマーおよび触媒を窒素導入管,脱水管,攪拌器および熱電対を装備した5リットル容の四つ口フラスコに入れ,窒素雰囲気下,230℃で反応率が90%に達するまで反応させた後,8.3kPaにて1時間反応させた。その後,8.3kPaにて所望の軟化点まで反応を行った。 ・・・(中略)・・・ 【0061】 [結晶性ポリエステルC1,C2,C3の製造例] 表1に示す使用量のモノマーおよび触媒を窒素導入管,脱水管,攪拌器および熱電対を装備した5リットル容の四つ口フラスコに入れ,窒素雰囲気下,150℃で反応率が70%に達するまで反応させた後,200℃まで段階昇温を行い,1時間反応させた後,8.3kPaにて所望の軟化点まで反応を行った。 ・・・(中略)・・・ 【0063】 [実施例1?10,比較例1?3] 表1に示す原料モノマー配合において得られた樹脂組成物100重量部,カーボンブラック「MOGUL L」(キャボット社製) 4重量部,負帯電性電荷制御剤S-34(オリエント化学社製)1重量部およびポリプロピレンワックス「NP-105」(三井化学社製)1重量部をヘンシェルミキサーで混合した後,同方向回転二軸押出し機を用い,スクリュー回転速度200回転/分,混練機の設定温度80℃で溶融混練した。得られた溶融混練物を冷却,粗粉砕した後,ジェットミルにて粉砕し,分級して,体積中位粒径(D50)が8.0μmの粉体を得た。 【0064】 得られた粉体100重量部に,外添剤として「アエロジル R-972」(日本アエロジル(株)製)1.0重量部を添加し,ヘンシェルミキサーで混合することにより,トナーを得た。 【0065】 【表1】 【0066】 試験例1〔低温定着性〕 「ページプレスト N-4」(カシオ計算機社製,定着:接触定着方式,現像方式:非磁性一成分現像方式,現像ロール径:2.3cm)にトナーを実装し,トナー付着量を0.6mg/cm2 に調整して未定着画像を得た。得られた未定着画像を接触定着方式の複写機「AR-505」(シャープ(株)製)の定着機をオフラインによる定着が可能なように改良した定着機(定着速度200mm/s)を用いて,定着ロールの温度を100℃から240℃へと10℃づつ順次上昇させながら未定着画像を定着させ,定着試験を行った。 【0067】 各定着温度で得られた画像を,「ユニセフセロハン」(三菱鉛筆社製,幅18mm,JISZ-1522)を貼りつけ,30℃に設定した上記定着機の定着ロールを通過させた後,テープを剥し,テープ剥離前後後の光学反射密度を反射濃度計「RD-915」(マクベス社製)を用いて測定した。両者の比率(剥離後/剥離前)が最初に90%を超える定着ローラーの温度を最低定着温度とし,以下の評価基準に従って,低温定着性を評価した。結果を表2に示す。 【0068】 〔評価基準〕 ◎ : 最低定着温度が160℃未満 ○ : 最低定着温度が160℃以上,180℃未満 × : 最低定着温度が180℃以上 ・・・(中略)・・・ 【0076】 【表2】 【0077】 以上の結果より,実施例では,いずれも定着性に優れ,現像ロールのスジやかぶりも少なく良好なトナーが得られていることが分かる。これに対し,本願発明の非晶質ポリエステルは用いられているが結晶性ポリエステルを使用していない比較例1では,定着性に欠けており,ガラス転移点が低い非晶質ポリエステルを使用した比較例2では,現像ロールのスジやかぶりが発生し耐久性が不十分である。また,ガラス転移点が高い非晶質ポリエステルを使用した比較例3では,耐久性は満足するが,定着性が不十分である。」 エ 原査定の拒絶の理由で引用文献4として引用された特開2006-337872号公報(以下「引用例4」という。)は,本願出願前に頒布された刊行物であって,当該引用例4には次の記載がある。 (ア)「【技術分野】 【0001】 本発明は,電子写真法,静電記録法,静電印刷法等において形成される潜像の現像に用 いられる電子写真用トナーに関する。 【背景技術】 【0002】 定着性改良の観点から,結着樹脂としてポリエステルを含有したトナーが開示されている(特許文献1参照)。 【0003】 一方,近年の高速化・高画質化の要求に伴い,低温定着性向上の観点から,結晶性ポリエステルについての検討が数多くなされている(特許文献2参照)。特に,結晶性ポリエステルを非晶質ポリエステルと併用することにより,非晶質ポリエステルだけを用いた場合に比べて大幅な低温定着効果が奏される。 【特許文献1】特開2000-172009号公報 【特許文献2】特開2001-222138号公報 【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0004】 一方で,トナーの熱に対する安定性は非常に重要である。例えば,トナーは熱及び圧力によって紙等に定着されるが,定着前と定着・冷却後において同様の熱物性を示すことが好ましい。しかしながら,結晶性ポリエステルを非晶質ポリエステルと併用すると,両者の相互作用により定着前と定着・冷却後で結晶性ポリエステルの結晶性が崩れ,保存性や耐久性が損なわれ画像の定着性が劣化する傾向がある。 【0005】 しかしながら,定着時の溶融により結晶性ポリエステルと非晶質ポリエステルとの相互作用が生じることは避けられず,通常,良好な画像定着性を維持する観点からは,結晶性ポリエステルと非晶質ポリエステルの併用は困難である。 【0006】 本発明の課題は,結晶性ポリエステルと非晶質ポリエステルとを含有していても,安定した熱特性を有し,良好な画像定着性を維持することができる電子写真用トナーを提供することにある。」 (イ)「【課題を解決するための手段】 【0007】 本発明は,結晶性ポリエステル及び非晶質ポリエステルを結着樹脂として含有してなる電子写真用トナーであって,前記非晶質ポリエステルが,ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物の含有量が80モル%以上であり,該ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物におけるアルキレンオキサイドが3モル以上付加したビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物の含有量が15重量%以下であるアルコール成分と,カルボン酸成分とを縮重合させて得られる樹脂を含有してなる電子写真用トナーに関する。 【発明の効果】 【0008】 本発明のトナーは,結晶性ポリエステルと非晶質ポリエステルとを含有していても,安定した熱特性を有し,良好な画像定着性を維持することができるという優れた効果を奏するものである。」 (ウ)「【発明を実施するための最良の形態】 【0009】 本発明の電子写真用トナーは,結晶性ポリエステルと非晶質ポリエステルとを結着樹脂として含有する。・・・(中略)・・・ 【0011】 結晶性ポリエステル及び非晶質ポリエステルは,いずれもアルコール成分とカルボン酸成分とを原料モノマーとして得られる。 ・・・(中略)・・・ 【0020】 結晶性ポリエステルの原料モノマーであるアルコール成分としては,炭素数2?6の脂肪族ジオールが好ましく,なかでもα,ω-直鎖アルカンジオールが好ましく,1,4-ブタンジオール及び1,6-ヘキサンジオールがより好ましい。また,カルボン酸成分としては,ポリエステルの結晶化を促進する観点からは,フマル酸が好ましく,また,帯電性の観点からは,テレフタル酸が好ましい。 【0021】 従って,結晶性ポリエステルは,炭素数2?6の脂肪族ジオールを60モル%以上,好ましくは70モル%以上含有したアルコール成分とフマル酸及び/又はテレフタル酸を60モル%以上,好ましくは70モル%以上含有したカルボン酸成分を縮重合させて得られる樹脂が好ましく,特に,定着性の観点から,非晶質樹脂中に結晶性ポリエステルを非相溶で存在させるため,カルボン酸成分としてテレフタル酸を主成分とすることが好ましい。」 (エ)「【0023】 非晶質ポリエステルは,帯電性の観点から,ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物を80モル%以上,好ましくは90モル%以上,より好ましくは実質的に100モル%含有したアルコール成分と,カルボン酸成分とを縮重合させて得られる樹脂を含有するものであり,本発明は,かかるビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物に大きな特徴を有する。即ち,かかるビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物中のアルキレンオキサイドが3モル以上付加したビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物の含有量が,15重量%以下であり,好ましくは10重量%以下,より好ましくは5重量%以下である。 【0024】 アルキレンオキサイドが3モル以上付加したビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物(以下,AO_(3)モル以上付加物ともいう)は,アルキレンオキサイドの付加部位が結晶性ポリエステルとの相溶性が高いため,AO_(3)モル以上付加物の量が低減された非晶質ポリエステルは,結晶性ポリエステルとの相互作用が抑制されるものと推定される。 【0025】 アルキレンオキサイドの付加モル数が同じであれば,エチレンオキサイドよりもプロピレンオキサイドが好ましく,ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物の50モル%以上,好ましくは70モル%以上,より好ましくは90モル%以上がプロピレンオキサイド付加物であることが好ましい。 【0026】 非晶質ポリエステルの原料モノマーであるアルコール成分におけるビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物の平均付加モル数は,1.8?2.18が好ましく,2.0?2.15がより好ましく,2.0?2.2.10がさらに好ましい。 【0027】 また,ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物におけるアルキレンオキサイドが4モル以上付加したビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物の含有量は,画質定着性の観点から,0.1モル%以下が好ましい。」 (オ)「【0031】 非晶質ポリエステルと結晶性ポリエステルの重量比(非晶質ポリエステル/結晶性ポリエステルの重量比)は,50/50?98/2が好ましく,60/40?95/5がより好ましく,70/30?90/10がさらに好ましい。」 (カ)「【0037】 本発明のトナーは,そのまま一成分現像用トナーとして,またはキャリアと混合して二成分現像剤として,一成分現像法及び二成分現像法のいずれにも用いることができる。」 (キ)「【0043】 非晶質ポリエステルの製造例1 表1,2に示す無水トリメリット酸以外の原料モノマー及びオクチル酸スズ4gを窒素導入管,脱水管,攪拌器及び熱電対を装備した5リットル容の四つ口フラスコに入れ,230℃で20時間かけて反応させた後,8.3kPaにて1時間反応させた。さらに210℃にて無水トリメリット酸を加え所望の軟化点に達するまで反応させて,樹脂A?Kを得た。 ・・・(中略)・・・ 【0046】 【表1】 【0047】 【表2】 ・・・(中略)・・・ 【0052】 結晶性ポリエステルの製造例1 表6に示す原料モノマー,酸化ジブチル錫4g及びハイドロキノン1gを窒素導入管,脱水管,攪拌器及び熱電対を装備した5リットル容の四つ口フラスコに入れ,160℃で5時間かけて反応させた後,200℃に昇温して1時間反応させた。さらに8.3kPaにて反応を進め,樹脂aを得た。 ・・・(中略)・・・ 【0054】 【表6】 【0055】 実施例1?9及び比較例1?3 表7に示す結着樹脂,着色剤「Regal 330R」(キャボット社製)4重量部,荷電制御剤「ボントロン S-34」(オリエント化学工業社製)1重量部,ポリプロピレンワックス「SP-105」(サゾール社製)1重量部及びポリエチレンワックス「パラフリント C80」(サゾール社製)1重量部を,ヘンシェルミキサーで5分間攪拌した。 【0056】 得られた混合物を,混練部分の全長1560mm,スクリュー径42mm,バレル内径43mmの同方向回転二軸押出機を用いて溶融混練した。ロール回転速度は200r/minであった。ロール内の設定温度は100℃であり,混練物の出口温度は約150℃,混合物の供給速度は10kg/h,平均滞留時間は,約18秒であった。 【0057】 得られた混練物を冷却,粗粉砕した後,ジェットミルにより微粉砕し,分級して,体積中位粒径(D50)が7.5μmの粉体を得た。 【0058】 粉体100重量部に,外添剤として,疎水性シリカ「R972」(日本アエロジル社製)0.7重量部を添加し,ヘンシェルミキサーで混合し,トナーを得た。 ・・・(中略)・・・ 【0060】 試験例2〔低温定着性〕 複写機「AR-505」(シャープ(株)製)にトナーを実装し,普通紙(CopyBond SF-70NA,シャープ(株)製,75g/m^(2))に,トナー付着量が0.55mg/cm^(2)の未定着のベタ画像(15cm×25cm)を得た。複写機「AR-505」(シャープ(株)製)の定着機をオフラインで定着可能なように改良した定着機(定着速度:150mm/sec)で,90℃から240℃へと5℃ずつ順次上昇させながら定着試験を行った。 【0061】 定着画像に「ユニセフセロハン」(三菱鉛筆社,幅:18mm,JISZ-1522)を貼り付け,30℃に設定した定着ロールに通過させた後,テープを剥がした。テープを貼る前と剥がした後の光学反射密度を反射濃度計「RD-915」(マクベス社製)を用いて測定し,両者の比率(剥離後/貼付前)が最初に70%を越える定着温度(恒温槽の温度)を最低定着温度として,以下の評価基準に従って低温定着性を評価した。結果を表7に示す。 【0062】 〔評価基準〕 ◎:最低定着温度が135℃以下 ○:最定着温度が140?155℃ ×:最定着温度が160℃以上 ・・・(中略)・・・ 【0065】 【表7】 【0066】 以上の結果より,実施例のトナーは,比較例のトナーと対比して,低温定着性に優れ,厳しい環境下においても比較例に比べて良好な画像定着性を維持することができることが分かる。」 ここで,前記(キ)の【0055】に記載された荷電制御剤「ボントロン S-34」(オリエント化学工業社製)は,負帯電性の荷電制御剤である(引用例3の【0063】(前記ウ(キ))参照。)。 オ 前記イないしエからみて, 「荷電制御剤として負帯電性の荷電制御剤を用いたトナーにおいて, 結着樹脂として, ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物を90?100モル%含有するアルコール成分と,テレフタル酸(芳香族カルボン酸類)単独で又はテレフタル酸(芳香族カルボン酸類)と無水トリメリット酸(芳香族カルボン酸類の無水物)の合計で75?100モル%含有するカルボン酸成分とを縮重合させて得られる非晶質ポリエステルを60?95重量%と, α,ω-直鎖アルカンジオールを90?100モル%含有するアルコール成分と,脂肪族ジカルボン酸化合物を90?100モル%含有するカルボン酸成分とを縮重合させて得られる結晶性ポリエステルを5?40重量%と, を含有するものを用いることで,低温定着性及び耐久性に優れたトナーとすることができること。」(引用例2の実施例B1及びB2,引用例3の実施例1ないし3,5ないし8,引用例4の実施例1,4,8,9が,これに該当する。以下「周知技術」という。) が,本願出願前に周知であったと認められる。 (3)対比 本願補正発明と引用発明とを対比する。 ア 引用発明の「結着樹脂」,「負荷電制御剤」,「フェノール類とアルデヒド類からの重縮合反応により得られた重縮合体」,「1つのフェノール性水酸基を持ち,その水酸基のオルト位には水素が結合している単核のフェノール化合物(A)」である「p-アルキルフェノール」,「2つ以上のフェノール性水酸基を持ち,その水酸基のオルト位には水素が結合している多核のフェノール化合物(B)」である「ビスフェノール類」,「パラホルムアルデヒドおよび/またはホルムアルデヒド」及び「静電荷像現像用トナー」は,本願補正発明の「結着樹脂」,「負帯電性荷電制御剤」,「フェノール類とアルデヒド類との縮重合反応により得られた縮重合体」,「1つのフェノール性水酸基を持ち,その水酸基のオルト位には置換基のないp-アルキルフェノール(a)」,「2つのフェノール性水酸基を持ち,各水酸基のオルト位には置換基のないビスフェノール化合物(b)」,「パラホルムアルデヒド及びホルムアルデヒドから選ばれる少なくとも1種」及び「トナー」にそれぞれ相当する。 イ 引用発明におけるフェノール類中における「ビスフェノール類」の含有量と,本願補正発明におけるフェノール類中における「ビスフェノール化合物(b)」の含有量は,「1?30モル%」である点で一致する。 ウ 引用発明のポリエステル樹脂である「結着樹脂」と,本願補正発明の「ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物を90?100モル%含有するアルコール成分と,芳香族カルボン酸化合物を75?100モル%含有するカルボン酸成分とを縮重合させて得られるポリエステル(A)を60?97重量%と,α,ω-直鎖アルカンジオールを90?100モル%含有するアルコール成分と,脂肪族ジカルボン酸化合物を90?100モル%含有するカルボン酸成分とを縮重合させて得られるポリエステル(B)を3?40重量%含有」する「結着樹脂」とは,ポリエステル樹脂を含有する点で一致する。 エ 前記アないしウから,本願補正発明と引用発明とは, 「少なくとも結着樹脂,及び負帯電性荷電制御剤として,フェノール類とアルデヒド類との縮重合反応により得られた縮重合体を含有し, 前記フェノール類が,1つのフェノール性水酸基を持ち,その水酸基のオルト位には置換基のないp-アルキルフェノール(a)と,2つのフェノール性水酸基を持ち,各水酸基のオルト位には置換基のないビスフェノール化合物(b)からなり,該ビスフェノール化合物(b)の前記フェノール類における含有量が1?30モル%であり, 前記アルデヒド類が,パラホルムアルデヒド及びホルムアルデヒドから選ばれる少なくとも1種であるトナーであって, 前記結着樹脂がポリエステル樹脂を含有してなる,トナー。」である点で一致し,次の点で相違している。 相違点: ポリエステル樹脂を含有する結着樹脂について, 本願補正発明では,「ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物を90?100モル%含有するアルコール成分と,芳香族カルボン酸化合物を75?100モル%含有するカルボン酸成分とを縮重合させて得られるポリエステル(A)を60?97重量%と,α,ω-直鎖アルカンジオールを90?100モル%含有するアルコール成分と,脂肪族ジカルボン酸化合物を90?100モル%含有するカルボン酸成分とを縮重合させて得られるポリエステル(B)を3?40重量%含有」しているのに対して, 引用発明では,このようなポリエステル樹脂を含有することを特定していない点。 (4)判断 前記相違点について検討する。 ア 一般に,低温定着性に優れたトナーであれば,画像形成装置に内蔵する定着装置の小型化や,定着時間の短縮に起因する画像形成速度の向上等が可能となり,また,耐久性に優れたトナーであれば,現像ロールのスジやかぶりを防止できること等が,当業者に自明であって(引用例2の【0008】(前記(2)イ(イ)),引用例3の【0002】及び【0003】(前記(2)ウ(ア))等を参照。),引用発明の「静電荷像現像用トナー」においても,低温定着性や耐久性に優れたものであることが望ましいことが明らかであるところ,前記(2)オで認定したように, 「荷電制御剤として負帯電性の荷電制御剤を用いたトナーにおいて, 結着樹脂として, ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物を90?100モル%含有するアルコール成分と,テレフタル酸(芳香族カルボン酸類)単独で又はテレフタル酸(芳香族カルボン酸類)と無水トリメリット酸(芳香族カルボン酸類の無水物)の合計で75?100モル%含有するカルボン酸成分とを縮重合させて得られる非晶質ポリエステルを60?95重量%と, α,ω-直鎖アルカンジオールを90?100モル%含有するアルコール成分と,脂肪族ジカルボン酸化合物を90?100モル%含有するカルボン酸成分とを縮重合させて得られる結晶性ポリエステルを5?40重量%と, を含有するものを用いることで,低温定着性及び耐久性に優れたトナーとすることができること。」 は本願出願前に周知であったのだから,引用発明の「静電荷像現像用トナー」において,結着樹脂として,当該周知技術の結着樹脂である「ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物を90?100モル%含有するアルコール成分と,テレフタル酸単独で又はテレフタル酸と無水トリメリット酸の合計で75?100モル%含有するカルボン酸成分とを縮重合させて得られる非晶質ポリエステルを60?95重量%と,α,ω-直鎖アルカンジオールを90?100モル%含有するアルコール成分と,脂肪族ジカルボン酸化合物を90?100モル%含有するカルボン酸成分とを縮重合させて得られる結晶性ポリエステルを5?40重量%含有」するものを用い,もって引用発明を低温定着及び耐久性に優れたトナーとすることは,周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得たことである。 イ 前記アの「テレフタル酸」及び「無水トリメリット酸」は,ともに「芳香族カルボン酸化合物」に属する物質であるから(本願の発明の詳細な説明の【0022】を参照。),前記イの「テレフタル酸単独で又はテレフタル酸と無水トリメリット酸の合計で75?100モル%含有するカルボン酸成分」は,本願補正発明の「芳香族カルボン酸化合物を75?100モル%含有するカルボン酸成分」に相当する。 また,前記アの「非晶質ポリエステル」の含有量である「60?95重量%」は,本願補正発明の「ポリエステル(A)」の含有量である「60?97重量%」を満たしており,前記アの「結晶性ポリエステル」の含有量である「5?40重量%」は,本願補正発明の「ポリエステル(A)」の含有量である「3?40重量%」を満たしている。 したがって,引用発明において,結着樹脂として,前記アに記載したものを用いることは,引用発明において,相違点に係る本願補正発明の構成の如く構成することにほかならない。 よって,引用発明において,相違点に係る本願補正発明の構成の如く構成することは,周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得たことである。 (5)効果について 本願補正発明が有する「低温定着性に優れ」(発明の詳細な説明の【0010】)という効果は,引用例1の記載及び周知技術から当業者が予測することができた程度のものである。 また,「帯電性もさらに向上することができる」(発明の詳細な説明の【0010】)という効果については,本願の出願当初明細書の発明の詳細な説明に, 「p-t-ブチルフェノール0.225mol,p-t-オクチルフェノール0.225mol,2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン0.032mol,パラホルムアルデヒド18.5g(ホルムアルデヒドとして0.6mol)」を用いた同一の負帯電性荷電制御剤(【0090】)と, 「ポリオキシプロピレン(2.2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン」35モルと,「ポリオキシエチレン(2.0)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン」65モルと,「テレフタル酸」100モルを用いた同一のポリエステル(A) 及び 「1,4-ブタンジオール」72モルと,「1,6-ヘキサンジオール」30モルと,「フマル酸」100モルを用いた同一のポリエステル(B) からなる結着樹脂(【0087】?【0089】)とを用い,ポリエステル(A)とポリエステル(B)の配合比のみを変更した実施例1ないし3及び比較例1ないし3が記載されているのみであって,請求項1の発明特定事項に該当する物質を用いたトナー全てにおいて,それ以外の物質を用いたトナーより優れた帯電性が得られることが示されているとはいえないことを考慮すると,本願補正発明の進歩性の判断を左右するほどの格別の効果とすることはできない。 (6)独立特許要件についてのまとめ 以上のとおりであるから,本願補正発明は,引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 したがって,本件補正は,特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので,同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 1 本願発明 本件補正は前記のとおり却下されたので,本願の請求項1ないし5に係る発明は本件補正前の特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載されたとおりのものであるところ,そのうち,請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,前記第2〔理由〕1(1)に本件補正前の請求項1として示したとおりのものである。 2 引用例 原査定の拒絶の理由で請求項1に係る発明に対して引用された引用例1ないし4の記載事項,引用発明及び周知技術については,前記第2〔理由〕3(2)のとおりである。 3 対比・判断 本願補正発明は,上記第2〔理由〕2のとおり,本願発明の発明特定事項を限定したものである。 そうすると,本願発明の構成要件をすべて含み,さらに限定を付加したものに相当する本願補正発明が,上記第2〔理由〕3に記載したとおり,当業者が引用発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も同様の理由により,当業者が引用発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものである。 4 むすび 以上のとおり,本願発明は,引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により,特許を受けることができない。 したがって,本願は,他の請求項について検討するまでもなく,拒絶すべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2014-03-18 |
結審通知日 | 2014-03-19 |
審決日 | 2014-04-01 |
出願番号 | 特願2007-289917(P2007-289917) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(G03G)
P 1 8・ 121- Z (G03G) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 清水 裕勝、野田 定文 |
特許庁審判長 |
藤原 敬士 |
特許庁審判官 |
西村 仁志 清水 康司 |
発明の名称 | トナー |
代理人 | 細田 芳徳 |