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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C09D
管理番号 1288156
審判番号 不服2012-6532  
総通号数 175 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-07-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-04-10 
確定日 2014-06-11 
事件の表示 特願2006-513878「印刷用ブロック共重合ポリイミドインク組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成17年12月8日国際公開、WO2005/116152〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成17年5月24日(優先権主張 平成16年5月27日)を国際出願日とする特許出願であって、平成22年11月29日付けで拒絶理由が通知され、平成23年3月7日に意見書が提出されたが、同年12月16日付けで拒絶をすべき旨の査定がされ、これに対し、平成24年4月10日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、同年8月3日付けで前置審査の結果が報告され、同年10月17日付けで審尋され、同年12月25日に回答書が提出されたものである。

2.本願発明
本願の請求項1ないし13に係る発明は、願書に最初に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし13に記載された事項によりそれぞれ特定されるとおりのものであり、そのうち請求項1に係る発明は次のとおりである(以下、「本願発明」という)。

「安息香酸エステル系とグライム系溶媒を含有してなる混合溶媒及び該溶媒に可溶なポリイミドよりなり、該ポリイミドは塩基触媒又はラクトン類若しくは酸性化合物と塩基からなる混合触媒の存在下で、テトラカルボン酸二無水物成分と分子骨格中にシロキサン結合を有するジアミン成分とを重縮合したポリイミドオリゴマーに、テトラカルボン酸二無水物成分及び/又は分子骨格中にシロキサン結合を有しないジアミン成分とを重縮合して得られ、全ジアミン成分に対してシロキサン結合を有するジアミン成分が15?85重量%であることを特徴とする印刷用ポリイミドインク組成物。」

3.引用例
原査定の拒絶理由に引用された本願優先日前の刊行物である国際公開第2003/060010号(以下、「引用例」という)には、次の事項が記載されている。(なお、下線は審決による。)

(i)「1.ブロック共重合ポリイミド組成物において、テトラカルボン酸二無水物とジアミンから得られるブロック共重合体型ポリイミドを、ケトン、エーテル、エステルから選ばれる少なくとも一種からなる溶媒中に溶解していることを特徴とするブロック共重合ポリイミド組成物。
2.ブロック共重合ポリイミドが、テトラカルボン酸二無水物とジアミンを、ケトン、エーテル、エステルから選ばれる少なくとも一種からなる溶媒中でラクトンと塩基の触媒存在下に加熱して得られたポリイミドであることを特徴とする請求項1記載のブロック共重合ポリイミド組成物。
3.テトラカルボン酸二無水物が、3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'-ビフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、……からなる群から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項1または2記載のブロック共重合イミド組成物。
……
7.エステルが、……、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、サリチル酸メチルからなる群から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項1または2記載のブロック共重合ポリイミド組成物。
……
9.ラクトンがγ-バレロラクトンであり、塩基はピリジン、N-メチルモルホリンの少なくともいずれか一種であることを特徴とする請求項2記載のブロック共重合ポリイミド組成物。
……
13.ブロック共重合ポリイミド組成物の製造方法において、ラクトンと塩基により生成した酸触媒の存在下にテトラカルボン酸二無水物とジアミンを、ケトン、エーテル、あるいはエステルの少なくともいずれか一種を含有した溶媒中で加熱し、ポリイミドのオリゴマーを作製し、更にテトラカルボン酸二無水物またはジアミンの少なくともいずれか一方を添加して反応させることを特徴とするブロック共重合ポリイミド組成物の製法方法。(請求の範囲1?3、7、13参照)
(ii)「また、ジアミンが、シリコーンジアミン、……、3,3'-ジアミノ-4,4'ジヒドロキシジフェニルスルホン(SO2-HOAB)、……、3,4'-ジアミノジフェニルエーテル(m-DADE)、……、4,4'-ジアミノ-ジフェニルスルホン(p-DDS)、……、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(m-TPE)、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン(APB)、2,2-ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン(BAPP)、……からなる群から選ばれる少なくとも一種を挙げることができる。
具体的には、シリコーンジアミンとしては、東レ・ダウコーニング・シリコーン製のBY16-853U、BY16-853C、信越化学工業製X-22-1660B-3、KF-8010、X-22-161A等を挙げることができる。」(第7頁12行?第8頁13行参照)
(iii)「本発明の、ブロック共重合型ポリイミドは、γ-バレロラクトンと、ピリジン、N-メチルモルホリンなどから選ばれる塩基によって、以下のような平衡反応によって生成する酸を触媒として用いることによって合成することができる。

……、更に第一段の反応で溶剤可溶のポリイミドオリゴマーにすることによってケトン、エーテル、エステル、またはこれらの混合溶媒に難溶のポリイミドの溶解性を増加させることができる。」(第8頁20行?第9頁1行参照)
(iv)「このようなエーテルとして、……、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテルがが挙げられる。これらのなかでも、テトラヒドロフラン、アニソール、フェネトール、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテルは汎用溶剤であり好ましい。」(第9頁18行?26行参照)
(v)「また、ケトン、エーテル、エステルは、単独、もしくは混合して使用することができ、混合によって溶解度を調整することができる。混合比率は、ポリイミドの特性、その用途等に応じて、適宜決定することができる。特に、塗布、乾燥工程では混合溶剤の方がポリイミド樹脂組成物が安定して使用できるため好ましい。」(第10頁7行?11行参照)
(vi)「また、本発明のポリイミドからなるインキ中に混合する溶媒に不溶なフィラーには、フュームドシリカ、球状シリカ、ミルドファイバー、二酸化チタン、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、カーボンブラックから選ばれる無機フィラー、フッ素樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、架橋スチレン、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂から選ばれる合成樹脂フィラー、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、イソインドリノンエローグリーニッシュ、イソインドリノンエローレディッシュ、キナクリドンから選ばれる有機顔料を添加することができる。」(第12頁15行?22行参照)
(vii)「実施例3-11
3,3',4,4'-ビフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物(マナック社製品、分子量、以下ODPAという)37.23g(120ミリモル)、ジアミノシロキサン(東レ・ダウコーニング・シリコーン製、製品番号By16-853U、アミン当量:447)53.64g(60ミリモル)触媒として、γ-バレロラクトン1.2g(12ミリモル)及びピリジン1.9g(24ミリモル)、溶媒として安息香酸エチル(以下BAEtとする)166g、γ-ブチロラクトン40g、脱水助剤としてトルエン40gを仕込んだ。
まず25℃において窒素雰囲気下で100rpmで0.5時間撹拌し、油浴中で180℃に昇温し、180rpmで1時間攪拌した。反応中、生成した水を除いた。
得られたイミドオリゴマーは、数平均分子量(Mn)=2,133、重量平均分子量(Mw)=3,200、Mw/Mn=1.5であった。
一段階反応が終了後、25℃まで冷却し、m-DADE 6.01g(30ミリモル)、3,3'-ジアミノ-4,4'ジヒドロキシジフェニルスルホン(小西化学製 分子量280.3 以下SO2-HOABという)8.41g(30ミリモル)さらに溶媒γ-ブチロラクトン30gとトルエン30gを仕込んだ。室温において100rpmで約1時間撹拌した後、浴を180℃まで昇温して180rpmで3時間撹拌して反応させた。その間生成した水を除去した。
得られたポリイミド溶液のポリマー濃度は、30質量%であった、このポリイミドの分子量をゲルパーミエーションクロマトグラフィ法(GPC)で測定したところ、ポリスチレン換算分子量は、数平均分子量(Mn)=28,571、重量平均分子量(Mw)=60,000、Mw/Mn=2.1であった。
次いで、得られたポリイミドワニスに、無機フィラーであるヒュームドシリカ(日本アエロジル社製、R-200)をポリイミドの固形分に対して10質量%添加して、3本ロールにてよく混合した。その次、光酸発生剤として1,2-ナフトキノン-2-ジアジド-5-スルホン酸エステル(東洋合成工業製NT200)を、ポリイミドの固形分に対して15質量%添加して、ポジ型感光性ポリイミドインキを作製した。」(第26頁1行?28行参照)

4.対比、判断
上記引用例の「請求の範囲」には、「テトラカルボン酸二無水物とジアミンを、ケトン、エーテル、エステルから選ばれる少なくとも一種からなる溶媒中でラクトンと塩基の触媒存在下に加熱して得られたポリイミド」が「ケトン、エーテル、エステルから選ばれる少なくとも一種からなる溶媒中に溶解している」「ブロック共重合ポリイミド組成物」(請求項1、2)、及び、「ラクトンと塩基により生成した酸触媒の存在下にテトラカルボン酸二無水物とジアミンを、ケトン、エーテル、あるいはエステルの少なくともいずれか一種を含有した溶媒中で加熱し、ポリイミドのオリゴマーを作製し、更にテトラカルボン酸二無水物またはジアミンの少なくともいずれか一方を添加して反応させる」「ブロック共重合ポリイミド組成物の製法方法」(請求項13)が記載されており(摘示(i)参照)、その具体例として、実施例3-11には、「3,3',4,4'-ビフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物37.23g(120ミリモル)、ジアミノシロキサン53.64g(60ミリモル)触媒として、γ-バレロラクトン1.2g(12ミリモル)及びピリジン1.9g(24ミリモル)、溶媒として安息香酸エチル166g、γ-ブチロラクトン40g、脱水助剤としてトルエン40g」を仕込んで一段階反応を行い、次いで「m-DADE 6.01g(30ミリモル)、3,3’-ジアミノ-4,4'ジヒドロキシジフェニルスルホン8.41g(30ミリモル)さらに溶媒γ-ブチロラクトン30gとトルエン30g」を仕込んで反応させ、得られたポリイミドワニスに、「無機フィラーであるヒュームドシリカをポリイミドの固形分に対して10質量%」添加して混合し、「光酸発生剤として1,2-ナフトキノン-2-ジアジド-5-スルホン酸エステルを、ポリイミドの固形分に対して15質量%添加」して、「ポジ型感光性ポリイミドインキ」を作製したことが記載されている(摘示(vii)参照)から、上記引用例には、
「3,3',4,4'-ビフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物とジアミノシロキサンを、安息香酸エチルとγ-ブチロラクトンからなる溶媒中で、触媒としてのγ-バレロラクトンとピリジンの存在下に加熱し反応させてポリイミドのオリゴマーを作製し、さらにm-DADEと3,3'-ジアミノ-4,4'ジヒドロキシジフェニルスルホンを反応させることによって得たポリイミドワニスに、無機フィラーと光酸発生剤を添加してなるポジ型感光性ポリイミドインキ」
の発明が、実質的に開示されているものと認められる(以下、この発明を「引用例発明」という)。

そこで、本願発明と引用例発明とを対比すると、
(ア)引用例発明における「3,3',4,4'-ビフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物」は、本願発明における「テトラカルボン酸二無水物成分」に相当する(摘示(i)の請求項3参照)。
(イ)引用例発明における「ジアミノシロキサン」は、本願発明における「分子骨格中にシロキサン結合を有するジアミン成分」に相当する(摘示(ii)参照)。
(ウ)引用例発明における「触媒としてのγ-バレロラクトンとピリジン」は、本願発明における「ラクトン類と塩基からなる混合触媒」に相当する(摘示(i)の請求項9及び摘示(iii)参照)。
(エ)引用例発明における「m-DADE」は、「3,4'-ジアミノジフェニルエーテル」であり、「3,3'-ジアミノ-4,4'ジヒドロキシジフェニルスルホン」とともに、本願発明における「分子骨格中にシロキサン結合を有しないジアミン成分」に相当する(摘示(ii)参照)。
(オ)引用例発明において、生成されたポリイミドは安息香酸エチルとγ-ブチロラクトンからなる混合溶媒に可溶である(摘示(iii)、(v)、(vii)参照)。
となるから、両発明は、本願発明の表現を借りて表すと、
「安息香酸エステル系を含有してなる混合溶媒及び該溶媒に可溶なポリイミドよりなり、該ポリイミドはラクトン類と塩基からなる混合触媒の存在下で、テトラカルボン酸二無水物成分と分子骨格中にシロキサン結合を有するジアミン成分とを重縮合したポリイミドオリゴマーに、テトラカルボン酸二無水物成分及び/又は分子骨格中にシロキサン結合を有しないジアミン成分を重縮合して得られることを特徴とする印刷用ポリイミドインク組成物」 である点で一致し、次の点で一応相違している。

<相違点>
A.本願発明においては溶媒が「安息香酸エステル系とグライム系溶媒を含有してなる混合溶媒」であるのに対し、引用例発明においては「安息香酸エチルとγ-ブチロラクトンからなる溶媒」である点
B.本願発明においては、ポリイミドが「全ジアミン成分に対してシロキサン結合を有するジアミン成分が15?85重量%である」のに対し、引用例発明では全ジアミン成分に対するシロキサン結合を有するジアミン成分については特定されていない点

そこで、これらの相違点について検討する。

(1)相違点Aについて
引用例には、溶媒がケトン、エーテル、エステルから選ばれる少なくとも一種からなるものであることが記載され(摘示(i)参照)、選択できる「エーテル」としては、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテルなどの「グライム系溶媒」も例示されており、特にジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル(これらはグライム系溶媒に該当する。)などは汎用溶剤であり好ましい旨の記載もある(摘示(iv)参照)。そしてこれらの溶媒は、単独、もしくは混合して使用することができ、混合によって溶解度を調整することができること、塗布、乾燥工程ではポリイミド樹脂組成物が安定して使用できるため混合溶剤の方が好ましいことなども記載されている(摘示(v)参照)。
引用例のこれらの記載からすれば、引用例発明において、好ましいとされている混合溶剤を用いることを前提として、さらに溶解性や印刷性を考慮して、例示された溶媒を適宜組み合わせることは、当業者であれば容易になし得ることであると認められる。
そして、本願明細書に記載された合成例4及び5は、安息香酸エチルとγBL(γ-ブチロラクトンと解される。)の混合溶媒を用いてポリイミドを製造しているが(段落0034?0035)、合成例4、5のワニスを使用して製造した実施例7?11の印刷用ポリイミドインクが、合成例1?3の安息香酸エチルとトリグライムの混合溶媒を用いて製造した印刷用ポリイミドインク(実施例1?6、12?14)に比して、すべての評価項目において劣っているものとはいえず、したがって、安息香酸エステルと組み合わせる溶媒をγ-ブチロラクトンからグライム系溶媒に変更することで格別の効果を奏するものとはいえない。

以上のとおり、上記相違点Aに挙げられた本願発明の発明特定事項を採用することは当業者が容易になし得たことであり、それによって格別予想外の作用効果を奏しているとも認められない。

(2)相違点Bについて
引用例発明において、分子骨格中にシロキサン結合を有するジアミン成分(ジアミノシロキサン)と、分子骨格中にシロキサン結合を有しないジアミン成分(m-DADEと3,3'-ジアミノ-4,4'ジヒドロキシジフェニルスルホン)のモル比は1:1となっており(摘示(vii)参照)、「全ジアミン成分に対してシロキサン結合を有するジアミン成分が15?85重量%である」であることは明らかであるから、相違点Bは実質的な相違点ではない。

5.請求人の主張について
(1)請求人(原審の出願人)は、意見書とともに平成23年3月7日付け実験成績証明書(以下、「実験成績証明書1」ということがある。)を提出し、意見書において、
「実験成績証明書に具体的に示される通り、本願発明の実施例A(トリグライムと安息香酸エチルの60:40(w/w)混合溶媒)では、ニジミ又はタレ不良及びかすれ不良がただの一度も発生せず、版乾き性及び連続印刷性も良好であった。これに対し、γ-ブチロラクトンと安息香酸エチルの30:70(w/w)混合溶媒を用いた比較例Aや、安息香酸メチルを単独で用いた比較例Bでは、ニジミ又はタレ不良及びかすれ不良が発生し、版乾き性及び連続印刷性も満足できるものではなかった。……
実験成績証明書に具体的に示される通り、本願発明で規定される混合溶媒を用いた場合には、引用文献1の実施例で具体的に記載されている混合溶媒を用いた場合に比べ、遙かに優れた印刷性能が得られる。これは当業者が予期しない顕著な効果であると思料される。従って、本願発明は、選択発明として成立するものであり、引用文献1に対して新規性及び進歩性を有するものである。」
と主張している。

しかしながら、実験成績証明書1中の「実施例A」は、引用例発明の溶媒の組み合わせに相当する「比較例A」に比べて「版乾き性」「連続印刷性」「ニジミ又はタレ不良」「かすれ不良」において効果を奏しているものの、一方で、本願発明で規定される混合溶媒を用い、上記「実施例A」と同様にフィラーを含んでいない本願発明に係る「実施例1」(表1参照)においては、「ニジミ又はダレ不良」が発生しており(表5参照)、両者に整合性がないことが見て取れる。また、連続印刷性について実験成績証明書1ではどのような評価手法を採用したのか明確ではないが、本願明細書に記載された「実施例1」では、連続ショット回数90ショットにおいて、すでに「パターン形状が若干変形であった」との評価がされている(表6参照)のに対し、実験成績証明書1の「実施例A」では、500回の連続印刷においても問題がないものとされている(連続印刷性における◎の意味は記載されていない。)ことから、やはり両者に整合性はない。
このことは、実験成績証明書1で示された効果が本願明細書に基づかない新たな効果であるか、又は、本願発明で規定される混合溶媒を用いた場合すべてにおいて当業者が予期しない顕著な効果を奏するものではないことを示すものと解され、この実験成績証明書1の結果は、本願発明の効果を示すものとしては採用することができない。

(2)請求人は、審判請求書において、以下の主張をしている。
「合成例4及び合成例5並びにこれらで合成されたポリイミド組成物を用いた印刷用インク組成物(実施例7?11)は、平成24年4月10日付手続補正書において述べた通り、本発明の範囲外である。それにもかかわらず、これらにおいて良好な結果が得られているのは、添加剤としてフィラーを添加しているからである。本願明細書第0027段落に明記されている通り、組成物のチキソトロピー性をさらに高めるためにエアロジルや水酸化マグネシウム等のフィラーを添加することが好ましいことが記載されており、このようなフィラーを添加すれば、実験室レベルでは良好な結果が得られる。
一方、実験成績証明書では、「今回の印刷テストは本願発明で規定される混合溶媒の有効性を確認するため、難燃剤、着色剤は使用せず、泡消剤(信越化学製KS603:30%)のみ添加した。」と記載されている通り、フィラー等の、消泡剤以外の添加剤は全く添加していない。これは実験成績証明書に記載の通り、混合溶媒を用いることの効果を明瞭に示すためである。実験成績証明書に記載の通り、フィラーを添加しない場合には、本発明の混合溶媒を用いることにより顕著な効果が奏される。
……、本願実施例と実験成績証明書の結果の矛盾は、実験した組成物がフィラーを含むか否かによりもたらされた相違であり、本願発明で規定された混合溶媒を使用することにより、フィラーを添加しなくても優れた印刷性能を得ることができるという顕著な効果が奏される。」
と主張している。

しかしながら、先に述べたとおり、本願明細書において、フィラーを添加しない「実施例1」では、実験成績証明書1における「実施例A」と異なり、「ニジミ又はタレ不良」が発生していることから、「フィラーを添加しない場合には、本発明の混合溶媒を用いることにより顕著な効果が奏される」との主張は、本願明細書の記載に基づかないものである。
また、本願明細書において、フィラーを添加した実施例2?6では、「ニジミ又はダレ不良」は解消されているが、実施例6を除き「かすれ不良」が発生し、「ローリング性」についても必ずしも良好な結果が得られていない(表5参照)。このことは、本発明の混合溶媒を用いた場合は、フィラーを添加しても印刷性の評価は必ずしも良好な結果は得られないといえる。そうすると、実施例7?11において、「良好な結果が得られているのは、添加剤としてフィラーを添加しているから」との請求人の主張は首肯できるものではない。
そもそも、本願の請求項1において、「フィラーを添加したもの」を除外しているわけではないことから(逆に、請求項6?9ではフィラーについて特定している。)、フィラーを添加しない場合の効果をもって、請求項1に係る発明における顕著な効果とすることは、請求項の記載に基づくものではなく、妥当ではない。

(3)請求人は、審判請求書において、
「なお、本願発明で規定される混合溶媒を用いない場合でも、フィラーを添加することにより、印刷用インクとして用いた場合に良好な結果が得られるが、これは、実験室レベルのことであり、実際の商業利用において大量の印刷を行った場合には、本願発明で規定される混合溶媒を用いた場合には、該混合溶媒を用いずにフィラーを添加したインクと比較して、インクに濁りが発生せず、印刷中に乾きが発生しないため連続印刷性が優れるという、顕著な効果が奏される。すなわち、実験室内の実験では、効果に差がほとんど出なくても、実際の商業利用においては明らかな差が出る。」
と、また、回答書において、
「グライム系溶媒を含まない実施例8?11では、フィラーを添加することにより実験室レベルでは良好な試験結果が得られたとしても、実際に商業利用において大量の印刷を行った場合には、連続印刷性が劣ってくる。これに対し、本願発明で規定される混合溶媒を用いた場合には、商業レベルの大量印刷においても該混合溶媒を用いずにフィラーを添加したインクと比較して、インクに濁りが発生せず、印刷中に乾きが発生しないため連続印刷性が優れるという、顕著な効果が奏される。本願発明者らは、実際の業務においてこのことを知見したから本願発明を特許出願したのであり、公知技術に従ってフィラーを添加すれば問題が解決されるのであれば、本願発明は無意味なものである。本願発明者らは、業務の体験を通じて、上記のことを知得している」
と主張している。

しかしながら、本願明細書の「連続印刷性」について評価した段落0044?0045の記載においては、本願発明に係る実施例である(グライム系溶媒を含む)実施例1?6、12?14と、本願発明外である(グライム系溶媒を含まない)実施例7?11との間にあまり差は見られない(むしろ連続ショット回数100ショットにおいては、グライム系溶媒を含まない方がやや優れる。)ことから、両者は同等の「連続印刷性」を有しているものといえる。
上記請求人の主張は、この本願明細書に記載の結果とは異なる主張であって、本願明細書の記載に基づくものではなく、採用することはできない。

(4)請求人は、審理終結の通知後に審理再開を申立て、併せて平成25年6月10日付け実験成績証明書(以下、「実験成績証明書2」という。)を提出しているが、この実験成績証明書2は、以下のとおり、本願明細書には記載されていない効果について立証するものであり、本願出願後における知見に基づくものと解されるので、これを採用することはできず、したがって審理再開もしない。
なお、回答書において、「グライム系溶媒を含まないインク組成物では、フィラーを添加することにより実験室レベルでは良好な結果が得られているが、商業利用における大量印刷では、フィラーを添加した組成物であっても、グライム系溶媒を含む本願発明のインク組成物の方が連続印刷性等が優れることを示す実験成績証明書を提出予定です。」と述べていたのに対し、実験成績証明書2における「印刷性及び連続印刷性の評価」に使用したものは、「合成例2にて得られた、ポリイミドワニスを粉末化し、各溶媒にて固形分が30%に成るように調整し、難燃剤、着色剤は使用せず、泡消剤(信越化学製 KS603:30%)のみ添加した。泡消剤の添加量は、ポリイミド固形分に対して3%を添加した。」と記載されているとおり、フィラーを添加しない場合のものであり、回答書における主張を裏付けるものではないことを付記しておく。
(A)合成中の濁り発生の有無について
この点については、本願明細書段落0012に記載された「発明が解決しようとする課題」との関係もなく、さらに、本願明細書において、安息香酸エチルとγBL(γ-ブチロラクトン)を混合してブロック共重合体イミドを合成している合成例4及び5には、合成中の濁り発生について何も記載していないことから、この実験成績証明書2における実験結果は本願明細書の記載に基づくものではない。
なお、審判請求書や回答書で請求人が主張した「商業レベルの大量印刷においても該混合溶媒を用いずにフィラーを添加したインクと比較して、インクに濁りが発生せず」との関係も明確ではない。「合成中の濁りの発生」は「商業レベルの大量印刷」における「インクの濁り発生」とは別の問題である。
(B)連続印刷性(フィラーの添加なし)
本願明細書の実施例で評価した連続ショット回数100ショットを大幅に超える10000回の連続印刷性の結果であり、明らかに本願明細書において予定されていない効果である。(そもそも、トリグライムを使用しないものと比して100回の連続印刷において顕著な効果が見られない実験結果を明細書に記載し、それに基づく連続印刷性の効果を主張していたものに対し、出願後6?8年経過してから500回又は10000回の連続印刷性ではトリグライムの使用の有無により効果に違いが生じると主張することは、明細書に記載の内容を明らかに超えており、出願後に認識した効果を主張しているものと認められる。)
そして、実験成績証明書2は、実験成績証明書1における500回の連続印刷性を10000回の連続印刷性に拡張しただけであり、実験成績証明書1と同様、本願明細書の実施例の記載と整合性のないものである。すなわち、本願明細書においては、トリグライムと安息香酸エチルの混合溶媒を使用した「実施例1」(フィラーの添加なし)では、「ニジミ又はダレ不良」が発生し(表5)、連続ショット回数90ショットですでに「パターン形状が若干変形であった」と評価されている(表6)にもかかわらず、実験成績証明書2ではトリグライム及び安息香酸エチルの混合溶媒を用いる「実施例A」は「10000回の連続印刷性」及び「ニジミ又はタレ不良」の問題が全くないものとされていることから、明らかに本願明細書の記載と整合性のない評価結果を提示するものである。
なお、実験成績証明書1の連続印刷性の評価手法は、実験成績証明書1と同様に明確ではない。(本願明細書において、連続印刷性の評価方法について記載されているのは段落0044であるが、実験成績証明書1及び2ではこの段落0044を引用しておらず、また当該段落には、評価◎についての説明はない。)

6.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に記載された発明は、本願の優先日前に頒布された上記刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-05-23 
結審通知日 2013-05-28 
審決日 2013-06-13 
出願番号 特願2006-513878(P2006-513878)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C09D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 仁科 努  
特許庁審判長 松浦 新司
特許庁審判官 橋本 栄和
星野 紹英
発明の名称 印刷用ブロック共重合ポリイミドインク組成物  
代理人 谷川 英次郎  
代理人 谷川 英次郎  
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