• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06F
管理番号 1288277
審判番号 不服2013-7889  
総通号数 175 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-07-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-04-30 
確定日 2014-06-06 
事件の表示 特願2008- 46547「生体認証装置」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 9月10日出願公開,特開2009-205393〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由
第1 手続の経緯

本件審判請求に係る出願(以下,「本願」という。)は,平成20年2月27日を出願日とする出願であって,平成22年11月17日付けで審査請求がなされ,平成24年8月17日付けで拒絶理由通知(同年8月21日発送)がなされ,これに対して同年10月22日付けで意見書が提出されると共に手続補正書が提出されたが,平成25年1月22日付けで拒絶査定(同年1月29日謄本送達)がなされた。
これに対して,「原査定を取り消す。本件発明は特許すべきものである,との審決を求める。」との請求の趣旨で,平成25年4月30日付けで審判請求がなされると共に,同日付けで手続補正がなされたものである。
そして,平成25年5月24日付けで審査官により特許法第164条第3項の規定に基づく報告がなされ,同年11月5日付けで当審により特許法第134条第4項の規定に基づく審尋(同年11月12日発送)がなされたが,請求人からの応答がなかったものである。


第2 本件審判請求の成否について

1.補正の内容

平成25年4月30日付けの手続補正(以下,「本件補正」という。)の内容は,平成24年10月22日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1乃至2の記載

「 【請求項1】
人体の生体情報を取得する生体情報取得手段と,生体情報取得手段で取得する対象者の対象生体情報を予め登録されている登録者の登録生体情報と照合することで当該対象者が登録者であるか否かを判定する照合手段と,登録者の識別情報と対応付けて当該登録者の登録生体情報を記憶する登録生体情報記憶手段と,生体情報取得手段で取得した未登録者の生体情報を当該未登録者の識別情報と対応付けて登録生体情報記憶手段に記憶させる登録処理を行う登録処理手段と,特定の権限を有する者だけが設定可能である登録条件を記憶する登録条件記憶手段と,前記特定の権限を有する者に対してだけ登録処理手段による登録処理の実行を許可する登録処理許可手段と,無線信号を受信する受信手段とを備え,登録処理許可手段は,受信手段で受信する無線信号によって伝達された固有情報が登録条件記憶手段に記憶されている登録条件の固有情報と一致した場合にのみ登録条件を満たすと判断して,前記特定の権限を有する者以外の者に対して登録処理手段による登録処理の実行を許可することを特徴とする生体認証装置。
【請求項2】
前記登録条件は任意の開始時刻及び終了時刻であって,登録処理許可手段は,現在時刻が前記開始時刻から終了時刻までの期間である場合にのみ登録条件を満たすと判断して登録処理手段による登録処理の実行を許可することを特徴とする請求項1記載の生体認証装置。」(以下,この特許請求の範囲に記載された請求項を「補正前の請求項」という。)

を,

「 【請求項1】
人体の生体情報を取得する生体情報取得手段と,生体情報取得手段で取得する対象者の対象生体情報を予め登録されている登録者の登録生体情報と照合することで当該対象者が登録者であるか否かを判定する照合手段と,登録者の識別情報と対応付けて当該登録者の登録生体情報を記憶する登録生体情報記憶手段と,生体情報取得手段で取得した未登録者の生体情報を当該未登録者の識別情報と対応付けて登録生体情報記憶手段に記憶させる登録処理を行う登録処理手段と,特定の権限を有する者だけが設定可能である登録条件を記憶する登録条件記憶手段と,前記特定の権限を有する者に対してだけ登録処理手段による登録処理の実行を許可する登録処理許可手段と,無線信号を受信する受信手段とを備え,登録処理許可手段は,受信手段で受信する無線信号によって伝達された固有情報が登録条件記憶手段に記憶されている登録条件の固有情報と一致した場合にのみ登録条件を満たすと判断して,前記特定の権限を有する者以外の者に対して登録処理手段による登録処理の実行を許可するものにおいて,前記登録条件は任意の開始時刻及び終了時刻であって,登録処理許可手段は,現在時刻が前記開始時刻から終了時刻までの期間である場合にのみ登録条件を満たすと判断して登録処理手段による登録処理の実行を許可することを特徴とする生体認証装置。」(以下,この特許請求の範囲に記載された請求項を「補正後の請求項」という。)

に補正するものである。

そして,本件補正は,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてなされており,特許法第17条の2第3項の規定に適合している。


2.目的要件

次に本件補正が,特許法17条の2第5項の規定を満たすものであるか否か,すなわち,本件補正が,特許法第17条の2第5項に規定する,特許法第36条第5項に規定する請求項の削除,特許請求の範囲の減縮(特許法第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって,その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る),誤記の訂正,或いは,明りょうでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る)の何れかを目的としたものであるかについて,以下に検討する。

本件補正は,補正前の請求項1を削除して,補正前の請求項2を補正後の請求項1に変更するものである。

したがって,本件補正は,特許法第17条の2第5項第1号に掲げる,特許法第36条第5項に規定する請求項の削除を目的とするものに該当することから,特許法17条の2第5項の規定を満たすものである。


3.本願発明

本件補正後の請求項1に記載された発明(以下,「本願発明」という。)は,上記平成25年4月30日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものと認める。

「人体の生体情報を取得する生体情報取得手段と,生体情報取得手段で取得する対象者の対象生体情報を予め登録されている登録者の登録生体情報と照合することで当該対象者が登録者であるか否かを判定する照合手段と,登録者の識別情報と対応付けて当該登録者の登録生体情報を記憶する登録生体情報記憶手段と,生体情報取得手段で取得した未登録者の生体情報を当該未登録者の識別情報と対応付けて登録生体情報記憶手段に記憶させる登録処理を行う登録処理手段と,特定の権限を有する者だけが設定可能である登録条件を記憶する登録条件記憶手段と,前記特定の権限を有する者に対してだけ登録処理手段による登録処理の実行を許可する登録処理許可手段と,無線信号を受信する受信手段とを備え,登録処理許可手段は,受信手段で受信する無線信号によって伝達された固有情報が登録条件記憶手段に記憶されている登録条件の固有情報と一致した場合にのみ登録条件を満たすと判断して,前記特定の権限を有する者以外の者に対して登録処理手段による登録処理の実行を許可するものにおいて,前記登録条件は任意の開始時刻及び終了時刻であって,登録処理許可手段は,現在時刻が前記開始時刻から終了時刻までの期間である場合にのみ登録条件を満たすと判断して登録処理手段による登録処理の実行を許可することを特徴とする生体認証装置。」


4.引用文献

(1)引用文献1に記載されている技術的事項及び引用発明の認定

本願出願前に頒布され,原審の拒絶査定の理由である上記平成24年8月17日付けの拒絶理由通知において引用された,特開2005-29985号公報(平成17年2月3日出願公開,以下,「引用文献1」という。)には,関連する図面とともに,以下の技術的事項が記載されている。
(当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。)

A 「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は,たとえば,セキュリティ管理などにおいて,人物の顔画像,指紋画像,虹彩情報,掌形画像,指画像,音声情報などの生体情報を用いて当該人物を認証する人物認証装置に関する。
…(中略)…
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
従来の人物認証装置における辞書情報の登録方法は,上述したように当該人物認証装置を管理する管理者が立ち会って管理者の管理のもとで登録を行なっていたため,時間を指定して登録したり,管理者を尋ねるなどして行なうのが普通で,登録者は時間とか管理者の都合に合わせる必要があった。
【0006】
そこで,本発明は,辞書情報の登録を,管理者等が立ち会うことなく,被認証者本人が当該人物認証装置の利用時に行なうことが可能で,省力化と被認証者の利便性が高まる人物認証装置を提供することを目的とする。」

B 「【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明の人物認証装置は,あらかじめ認証対象となる被認証者に対して付与される当該被認証者固有の識別情報および仮パスワードを登録する第1の登録手段と,あらかじめ認証対象となる被認証者の生体情報を辞書情報として記憶する辞書記憶手段と,認証対象となる被認証者の生体情報を取得する生体情報取得手段と,この生体情報取得手段により取得された生体情報と前記辞書記憶手段に記憶された辞書情報とを照合することにより,両情報の間に所定の関係が成立するか否かを判定する第1の照合手段と,この第1の照合手段による照合の結果,前記生体情報と辞書情報との間に所定の関係が成立しないと判定された場合,当該被認証者に対し前記識別情報および仮パスワードの入力を案内する案内手段と,この案内手段による案内に基づき前記被認証者により入力される識別情報および仮パスワードを前記第1の登録手段により登録された識別情報および仮パスワードとそれぞれ照合することにより両識別情報および両仮パスワードがそれぞれ一致するか否かを判定する第2の照合手段と,この第2の照合手段による照合の結果,両識別情報および両仮パスワードがそれぞれ一致した場合,前記生体情報取得手段により取得された当該被認証者の生体情報を辞書情報として前記辞書記憶手段に記憶せしめる第2の登録手段とを具備している。」

C 「【0013】
顔特徴取得部104は,カメラ101から入力された画像において,人物の顔を検出して入力特徴情報を抽出(取得)する。顔の検出方法としては,たとえば,文献(福井和広,山口修:「形状抽出とパターン照合の組合せによる顔特徴点抽出」,電子情報通信学会論文誌(D),vol.J80-D-II,No.8,pp2170-2177(1997))などの方法を用いることで,精度の高い顔の検出が実現可能である。この場合,あらかじめ用意されたテンプレートを画像中を移動させながら相関値を求めることにより,最も高い相関値を持った場所を顔領域とする。
【0014】
辞書情報記憶部105は,あらかじめシステム全体で利用を許可された人物の生体情報を辞書情報として登録しておくものである。登録する辞書情報としては,入力された顔画像,抽出した特徴量,部分空間,部分空間を構成するための固有ベクトル,相関行列,登録の際の時刻,日時,場所などの状況情報,暗証番号,ID番号などの個人情報といったものがあげられ,必要に応じて記憶しておくことが可能とするが,本実施の形態においては,顔特徴取得部104で取得された顔切出し画像をKL展開によって固有空間に変換して得られたベクトル情報を保存するものとし,この情報を辞書情報として扱う。」

D 「【0017】
次に,図2に示すフローチャートを参照して動作を説明する。
まず,当該人物認証装置の管理者は,あらかじめ登録する被認証者に対して付与する個人IDおよび仮パスワードを入力部103から入力することにより,入出力制御部110は,この入力された個人IDおよび仮パスワードをID・パスワード記憶部111に記憶(登録)する(ステップS1)。そして,当該人物認証装置の管理者は,この登録した個人IDおよび仮パスワードを当該被認証者に対して知らせる(ステップS2)。ここに,ステップS1の処理が本発明における第1の登録手段に対応している。
【0018】
次に,被認証者100が顔画像を入力して照合を行なう(ステップS3)。すなわち,カメラ101により被認証者100の顔画像が入力されると,照合部106は,顔特徴取得部104により取得された入力特徴情報を辞書情報記憶部105に記憶されている辞書情報とを照合することにより,入力特徴情報と辞書情報との類似度を求め,求めた類似度が閾値よりも高い場合には当該人物は登録者(本人)であると判定(照合OKと判定)し,求めた類似度が閾値よりも低い場合には未登録者(本人ではない)と判定(照合NGと判定)する(ステップS4)。ここに,ステップS3の処理が本発明における第1の照合手段に対応している。」

E 「【0019】
また,照合部106は,照合NGと判定すると,当該被認証者100に対して,入出力制御部110を介して出力部102に個人IDおよびパスワードを入力するように案内する(ステップS5)。なお,この案内に基づき被認証者100は個人IDおよびパスワードを入力するが,まだ辞書情報が未登録であって初めての登録時は個人IDおよび仮パスワードを入力し,既に一度辞書情報を登録している場合は個人IDおよび本来のパスワードを入力することとする。ここに,ステップS5の処理が本発明における案内手段に対応している。
【0020】
さて,ステップS5の案内に基づき,被認証者100により入力部103から個人IDおよびパスワードが入力される。この場合,まだ辞書情報が未登録であって初めての登録であるとすると,被認証者100により個人IDおよび仮パスワードが入力される。すると,照合部106は,入出力制御部110を介して当該個人IDおよび仮パスワードを受入れ,ID・パスワード記憶部111に記憶(登録)された個人IDおよび仮パスワードとそれぞれ照合することにより,両個人IDおよび両仮パスワードが一致するか否かを判定する(ステップS6)。ここに,ステップS6の処理が本発明における第2の照合手段に対応している。
【0021】
この判定の結果,両個人IDおよび両仮パスワードの少なくともいずれか一方が不一致であれば,ステップS3に戻って上記動作を繰り返し,両個人IDおよび両仮パスワードが一致であれば,ステップS3の照合に用いられた入力特徴情報を辞書情報として辞書情報記憶部105に記憶(登録)せしめる(ステップS7)。ここに,ステップS7の処理が本発明における第2の登録手段に対応している。」

ここで,上記引用文献1に記載されている事項を検討する。

(ア)上記Aの「本発明は,たとえば,セキュリティ管理などにおいて,人物の顔画像,指紋画像,虹彩情報,掌形画像,指画像,音声情報などの生体情報を用いて当該人物を認証する人物認証装置に関する。」,「本発明は,辞書情報の登録を,管理者等が立ち会うことなく,被認証者本人が当該人物認証装置の利用時に行なうことが可能で,省力化と被認証者の利便性が高まる人物認証装置を提供することを目的とする。」との記載からすると,「人物認証装置」は人物の顔画像などの生体情報を用いて当該人物を認証するための装置であり,辞書情報の登録を,管理者等が立ち会うことなく,被認証者本人が当該人物認証装置の利用時に行うことを可能とするものであると解されるから,引用文献1には,
「生体情報を用いて人物を認証し,辞書情報の登録を,管理者等が立ち会うことなく,被認証者本人が利用時に行うことを可能とする人物認証装置」
が記載されていると解される。

(イ)上記Bの「あらかじめ認証対象となる被認証者に対して付与される当該被認証者固有の識別情報および仮パスワードを登録する第1の登録手段」との記載,上記Dの「まず,当該人物認証装置の管理者は,あらかじめ登録する被認証者に対して付与する個人IDおよび仮パスワードを入力部103から入力することにより,入出力制御部110は,この入力された個人IDおよび仮パスワードをID・パスワード記憶部111に記憶(登録)する(ステップS1)。そして,当該人物認証装置の管理者は,この登録した個人IDおよび仮パスワードを当該被認証者に対して知らせる(ステップS2)。ここに,ステップS1の処理が本発明における第1の登録手段に対応している。」との記載からすると,あらかじめ被認証者固有の識別情報および仮パスワードを登録する権限を有するのは,人物認証装置の管理者であると解されるから,引用文献1には,
「人物認証装置の管理者が,あらかじめ認証対象となる被認証者に対して付与される当該被認証者固有の識別情報および仮パスワードを登録する第1の登録手段」
が記載されていると解される。

(ウ)上記Bの「あらかじめ認証対象となる被認証者の生体情報を辞書情報として記憶する辞書記憶手段と,認証対象となる被認証者の生体情報を取得する生体情報取得手段と,この生体情報取得手段により取得された生体情報と前記辞書記憶手段に記憶された辞書情報とを照合することにより,両情報の間に所定の関係が成立するか否かを判定する第1の照合手段」との記載,上記Cの「顔特徴取得部104は,カメラ101から入力された画像において,人物の顔を検出して入力特徴情報を抽出(取得)する。…(中略)…。辞書情報記憶部105は,あらかじめシステム全体で利用を許可された人物の生体情報を辞書情報として登録しておくものである。」との記載,上記Dの「次に,被認証者100が顔画像を入力して照合を行なう(ステップS3)。すなわち,カメラ101により被認証者100の顔画像が入力されると,照合部106は,顔特徴取得部104により取得された入力特徴情報を辞書情報記憶部105に記憶されている辞書情報とを照合することにより,入力特徴情報と辞書情報との類似度を求め,求めた類似度が閾値よりも高い場合には当該人物は登録者(本人)であると判定(照合OKと判定)し,求めた類似度が閾値よりも低い場合には未登録者(本人ではない)と判定(照合NGと判定)する(ステップS4)。ここに,ステップS3の処理が本発明における第1の照合手段に対応している。」との記載からすると,「第1の照合手段」は被認証者の生体情報と,辞書記憶手段に記憶された辞書情報とを照合し,両情報の間に所定の関係が成立するか否かを判定しているが,ここでの両情報の間に所定の関係が成立するか否かの判定は,被認証者が登録者であるか否かを判定することであるといえるから,引用文献1には,
「あらかじめ認証対象となる被認証者の生体情報を辞書情報として記憶する辞書記憶手段と,
認証対象となる被認証者の生体情報を取得する生体情報取得手段と,
この生体情報取得手段により取得された生体情報と前記辞書記憶手段に記憶された辞書情報とを照合することにより,被認証者が登録者であるか否かを判定する第1の照合手段」
が記載されていると解される。

(エ)上記Bの「この第1の照合手段による照合の結果,前記生体情報と辞書情報との間に所定の関係が成立しないと判定された場合,当該被認証者に対し前記識別情報および仮パスワードの入力を案内する案内手段」との記載,上記Eの「照合部106は,照合NGと判定すると,当該被認証者100に対して,入出力制御部110を介して出力部102に個人IDおよびパスワードを入力するように案内する(ステップS5)。なお,この案内に基づき被認証者100は個人IDおよびパスワードを入力する」との記載からすると,「案内手段」は,被認証者が登録者でないと判定された場合に当該被認証者に対し識別情報および仮パスワードの入力を案内することが読み取れ,また,上記Dの「当該人物認証装置の管理者は,この登録した個人IDおよび仮パスワードを当該被認証者に対して知らせる(ステップS2)。」との記載,上記Eの「さて,ステップS5の案内に基づき,被認証者100により入力部103から個人IDおよびパスワードが入力される。この場合,まだ辞書情報が未登録であって初めての登録であるとすると,被認証者100により個人IDおよび仮パスワードが入力される。」との記載からすると,被認証者はあらかじめ管理者から識別情報および仮パスワードを知らされており,被認証者が識別情報および仮パスワードを入力する入力手段としての入力部を備えていることが読み取れるから,引用文献1には,
「この第1の照合手段による照合の結果,当該被認証者は登録者ではないと判定された場合,当該被認証者に対し前記識別情報および仮パスワードの入力を案内する案内手段と,
あらかじめ管理者から知らされた識別情報および仮パスワードを被認証者が入力する入力手段」
が記載されていると解される。

(オ)上記Bの「この案内手段による案内に基づき前記被認証者により入力される識別情報および仮パスワードを前記第1の登録手段により登録された識別情報および仮パスワードとそれぞれ照合することにより両識別情報および両仮パスワードがそれぞれ一致するか否かを判定する第2の照合手段と,この第2の照合手段による照合の結果,両識別情報および両仮パスワードがそれぞれ一致した場合,前記生体情報取得手段により取得された当該被認証者の生体情報を辞書情報として前記辞書記憶手段に記憶せしめる第2の登録手段」との記載,上記Eの「すると,照合部106は,入出力制御部110を介して当該個人IDおよび仮パスワードを受入れ,ID・パスワード記憶部111に記憶(登録)された個人IDおよび仮パスワードとそれぞれ照合することにより,両個人IDおよび両仮パスワードが一致するか否かを判定する(ステップS6)。ここに,ステップS6の処理が本発明における第2の照合手段に対応している。…(中略)… この判定の結果,両個人IDおよび両仮パスワードの少なくともいずれか一方が不一致であれば,ステップS3に戻って上記動作を繰り返し,両個人IDおよび両仮パスワードが一致であれば,ステップS3の照合に用いられた入力特徴情報を辞書情報として辞書情報記憶部105に記憶(登録)せしめる(ステップS7)。ここに,ステップS7の処理が本発明における第2の登録手段に対応している。」との記載からすると,「第2の照合手段による照合の結果,両識別情報および両仮パスワードがそれぞれ一致した場合」に,辞書情報の登録権限のある未登録者と判定しているといえるから,引用文献1には,
「この案内手段による案内に基づき前記被認証者により入力される識別情報および仮パスワードを前記第1の登録手段により登録された識別情報および仮パスワードとそれぞれ照合することにより両識別情報および両仮パスワードがそれぞれ一致するか否かを判定する第2の照合手段と,
この第2の照合手段による照合の結果,両識別情報および両仮パスワードがそれぞれ一致した場合,辞書情報の登録権限のある未登録者と判定し,前記生体情報取得手段により取得された当該被認証者の生体情報を辞書情報として前記辞書記憶手段に記憶せしめる第2の登録手段」
が記載されていると解される。

以上,(ア)乃至(オ)で指摘した事項から,引用文献1には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されているものと認める。

「生体情報を用いて人物を認証し,辞書情報の登録を,管理者等が立ち会うことなく,被認証者本人が利用時に行うことを可能とする人物認証装置であって,
人物認証装置の管理者が,あらかじめ認証対象となる被認証者に対して付与される当該被認証者固有の識別情報および仮パスワードを登録する第1の登録手段と,
あらかじめ認証対象となる被認証者の生体情報を辞書情報として記憶する辞書記憶手段と,
認証対象となる被認証者の生体情報を取得する生体情報取得手段と,
この生体情報取得手段により取得された生体情報と前記辞書記憶手段に記憶された辞書情報とを照合することにより,被認証者が登録者であるか否かを判定する第1の照合手段と,
この第1の照合手段による照合の結果,当該被認証者は登録者ではないと判定された場合,当該被認証者に対し前記識別情報および仮パスワードの入力を案内する案内手段と,
あらかじめ管理者から知らされた識別情報および仮パスワードを被認証者が入力する入力手段と,
この案内手段による案内に基づき前記被認証者により入力される識別情報および仮パスワードを前記第1の登録手段により登録された識別情報および仮パスワードとそれぞれ照合することにより両識別情報および両仮パスワードがそれぞれ一致するか否かを判定する第2の照合手段と,
この第2の照合手段による照合の結果,両識別情報および両仮パスワードがそれぞれ一致した場合,辞書情報の登録権限のある未登録者と判定し,前記生体情報取得手段により取得された当該被認証者の生体情報を辞書情報として前記辞書記憶手段に記憶せしめる第2の登録手段と,
を具備する人物認証装置。」


(2)引用文献2に記載されている技術的事項

本願出願前に頒布され,原審の拒絶査定の理由である上記平成24年8月17日付けの拒絶理由通知において引用された,特開2005-78443号公報(平成17年3月24日出願公開,以下,「引用文献2」という。)には,関連する図面とともに,以下の技術的事項が記載されている。
(当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。)

F 「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような従来の鍵管理装置では,新規利用者の指紋データを登録する場合,管理者が同行して指紋照合することが必要となる。また,新規利用者が遠隔地にいる場合や,管理者が指紋照合装置のある場所に同行できない場合には,指紋デーが登録できないという問題点がある。
【0005】
この発明は上記問題点を解消するためになされたもので,管理者の同行を必要とせず,また新規利用者や管理者に場所的な事情がある場合でも,容易に指紋登録ができるようにした指紋照合装置を提供することを目的とする。」

G 「【0009】
指紋センサ2は指紋を読み取り,表示装置3は利用者に対して指紋登録操作の手順等を案内する。テンキー4は利用者の個人番号(以下ID番号という)等を入力するときに用いられる。登録ボタン5は指紋登録に先立って操作されるボタン,照合ボタン6は指紋照合に先立って操作されるボタン,時計7は現在時刻を出力する。メモリ8Aには事前に管理者のID番号と新規利用者のID番号が書き込まれる。ICカードI/F9はICカード(個人カード)12に格納されている指紋データを読み書きする。
【0010】
電気錠I/F10は部屋の扉等の錠に接続されており,その解錠を制御する。登録用管理カード13には,管理者ID番号,新規利用者ID番号及び有効期限が事前に書き込まれる。
【0011】
次に,この実施の形態の動作を図2を参照して説明する。
指紋を登録しようとする新規利用者は,ステップS1で登録ボタン5を押す。次に,ステップS2で登録用管理カード13をICカードI/F9に挿入すると,登録用管理カード13内に書き込まれている管理者ID番号,新規利用者ID番号及び有効期限が読み取られる。読み取られた管理者ID番号は,ステップS3でメモリ8A内の管理者ID番号と比較され,両者が一致すればステップS4へ進む。
【0012】
ステップS4で同様に有効期限が時計7の出力である現時刻と比較され,条件を満たしていればステップS5へ進む。また,ステップS3及びS4で条件が満足されなければ処理は終了する。ステップS5へ進むと,新規利用者は,テンキー4を操作して新規利用者ID番号を入力する。この入力された新規利用者ID番号はステップS6で登録用管理カード13内の新規利用者ID番号とメモリ8A内の新規利用者ID番号と比較され,両者がいずれも一致しなければ処理は終了し,一致すればステップS7へ進んで,登録モードに切り換えられる。」

H 「【0017】
実施の形態2.
図3及び図4は,この発明の第3発明の一実施の形態を示す図で,図3は,指紋照合装置のブロック線図,図4は登録動作フローチャートである。
図3の指紋照合装置1Bは,図1のものに管理装置15,ネットワーク16及びネットワークI/F17を追加し,メモリ8Aに代えてメモリ8Bを設けたものであり,メモリ8B及びネットワークI/F17はCPU11に接続され,ネットワークI/F17には,ネットワーク16を介して管理装置15が接続されている。メモリ8Bには管理装置15から送信された管理者ID番号,新規利用者ID番号及び有効期限が格納されている。
【0018】
次に,この実施の形態の動作を図4を参照して説明する。
図4は図2のステップS1の前にステップS21を設け,ステップS6をステップS22に置換したものであり,他は図2と同様であるので,ステップS21,S22について説明する。
ステップS21では,管理装置15からネットワークI/F17を経由して管理者ID番号,新規利用者ID番号及び有効期限を受信し,これらをメモリ8Bに格納する。
【0019】
以下,ステップS1?S5と進み,ステップS22でテンキー4入力の新規利用者ID番号は,登録用管理カード13内及びメモリ8B内の新規利用者ID番号と比較され,それぞれ両者が一致すれば,ステップS7で登録モードに切り換えられる。そして,ステップS8?S11で指紋データとID番号が新規利用者のICカード12に書き込まれる。
このようにして,指紋照合装置1Bはネットワーク16を介して管理装置15に接続されているため,管理装置15により指紋照合装置1Bを管理することが可能となる。」

(3)引用文献3に記載されている技術的事項

本願出願前に頒布され,原審の拒絶査定の理由である上記平成24年8月17日付けの拒絶理由通知において引用された,特開2006-178897号公報(平成18年7月6日出願公開,以下,「引用文献3」という。)には,関連する図面とともに,以下の技術的事項が記載されている。
(当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。)

J 「【0009】
ここで,上記本発明の個人認証装置において,上記認証部は,情報取得部により認証用にIDと生体情報が取得された場合に,そのIDと同一のIDに対応づけられて情報記憶部に記憶されている生体情報を情報記憶部から取得して,情報取得部により認証用に今回取得された生体情報と情報取得部から取得した生体情報とを照合するものであることが好ましい。
【0010】
認証時にはIDは利用せずに生体情報のみで認証を行なうことも考えられるが,IDと生体情報との双方を認証に利用することにより一層正確な認証が可能となる。」

K 「【0031】
個人情報DB150には個人情報が登録されている。
…(中略)…
【0035】
各個人情報は,図5(A)の場合はその個人を特定するIDと生体情報(ここでは掌の静脈パターン)とのペアからなる。」


5.参考文献

本願出願前に頒布され,上記平成25年1月22日付けの原審の拒絶査定において,周知技術を示す文献として提示された,特開2001-14277号公報(平成13年1月19日出願公開,以下,「参考文献1」という。)には,関連する図面とともに,以下の技術的事項が記載されている。
(当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。)

L 「【0020】次に,情報機器101または201側の処理として,その情報機器使用者固有の情報を受信して,利用者102または202が真正者であるか否かを認証するための照合処理が行われると共に,その照合処理の結果に応じて,当該情報機器101または201の使用許可または使用拒絶処理が行われる図2は,本発明の第2の実施の形態によるカメラシステムの概要を説明するための模式図である。
【0021】すなわち,図2の(a)は,例えば,1m程度の所定の距離内において,利用者302が携帯する非接触ICカード等の無線通信媒体301と,利用者認証機能付きカメラ303との間で,無線通信による認証処理を実行するカメラシステム300を例示している。
【0022】この場合,非接触ICカード以外の無線通信媒体301の非接触タグとしては,棒型,ボタン型,指輪型等がある。
【0023】また,図2の(b)は,利用者302がズボンのポケットの中の財布に非接触ICカード等の無線通信媒体301を入れた状態で携帯する場合を例示しているが,これに限らず,利用者302が衣服のボタン,指輪,ネクタイピン等に非接触タグ等による無線通信媒体301を格納して置くようにしてもよい。」


6.対比

本願発明と引用発明とを対比する。

(1)引用発明の「人物認証装置」は,生体情報を用いて人物を認証し,辞書情報の登録を,管理者等が立ち会うことなく,被認証者本人が利用時に行うことを可能とすることを特徴とするものであるから,引用発明の「人物認証装置」は本願発明の「生体認証装置」に対応するものであるといえる。

(2)引用発明の「認証対象となる被認証者の生体情報を取得する生体情報取得手段」は,顔画像など被認証者の人体の生体情報を取得することから,本願発明の「人体の生体情報を取得する生体情報取得手段」に相当することは明らかである。
また,引用発明の「生体情報」,「辞書情報」,「被認証者」,「登録者」はそれぞれ本願発明の「対象生体情報」,「登録生体情報」,「対象者」,「登録者」に相当することは明らかであるから,引用発明の「この生体情報取得手段により取得された生体情報と前記辞書記憶手段に記憶された辞書情報とを照合することにより,被認証者が登録者であるか否かを判定する第1の照合手段」は,本願発明の「生体情報取得手段で取得する対象者の対象生体情報を予め登録されている登録者の登録生体情報と照合することで当該対象者が登録者であるか否かを判定する照合手段」に相当するといえる。

(3)引用発明において,「辞書情報」としてあらかじめ記憶した「認証対象となる被認証者の生体情報」とは,「登録者」の生体情報であると解される。
また,引用発明においても,被認証者の生体情報を辞書情報として辞書記憶手段に登録するための記憶処理を行う手段を実質的に備えていることは明らかである。
そうすると,引用発明の「あらかじめ認証対象となる被認証者の生体情報を辞書情報として記憶する辞書記憶手段」と,本願発明の「登録者の識別情報と対応付けて当該登録者の登録生体情報を記憶する登録生体情報記憶手段と,生体情報取得手段で取得した未登録者の生体情報を当該未登録者の識別情報と対応付けて登録生体情報記憶手段に記憶させる登録処理を行う登録処理手段」とは,「登録者の登録生体情報を記憶する登録生体情報記憶手段と,生体情報取得手段で取得した未登録者の生体情報を登録生体情報記憶手段に記憶させる登録処理を行う登録処理手段」である点で共通しているといえる。

(4)引用発明における「人物認証装置の管理者」は,「人物認証装置」に対して特定の権限を有する者であるといえ,引用発明の「当該被認証者固有の識別情報および仮パスワード」は辞書情報の登録に必要な登録条件であると解されるから,引用発明の「あらかじめ認証対象となる被認証者に対して付与される当該被認証者固有の識別情報および仮パスワード」は本願発明の「特定の権限を有する者だけが設定可能である登録条件」に対応するといえる。
そうすると,引用発明の「人物認証装置の管理者が,あらかじめ認証対象となる被認証者に対して付与される当該被認証者固有の識別情報および仮パスワードを登録する第1の登録手段」と,本願発明の「特定の権限を有する者だけが設定可能である登録条件を記憶する登録条件記憶手段」とは,「特定の権限を有する者だけが設定可能である登録条件を記憶する登録条件記憶手段」である点で共通しているといえる。

(5)引用発明の「第2の登録手段」は,辞書情報の登録権限のある未登録者と判定した場合に,取得された被認証者の生体情報を辞書情報として辞書記憶手段に記憶可能とすることから,本願発明の「登録処理許可手段」に対応するといえる。また,引用発明の「入力手段」は辞書情報に記憶するための登録条件に含まれる固有の情報を入力することから,本願発明の「受信手段」に対応するといえる。
さらに,引用発明の「第2の登録手段」は,被認証者により入力手段から入力される識別情報および仮パスワードを,第1の登録手段により登録された固有の情報である識別情報および仮パスワードとそれぞれ照合することにより両識別情報および両仮パスワードがそれぞれ一致するか否かを判定し,両識別情報および両仮パスワードがそれぞれ一致した場合,辞書情報の登録権限のある未登録者と判定することから,引用発明では,入力手段から入力される固有の情報が登録条件の固有の情報と一致した場合に登録条件を満たすと判断して,特定の権限を有する管理者以外の者に対して登録処理の実行を許可していると解することができる。
してみると,引用発明の「あらかじめ管理者から知らされた識別情報および仮パスワードを被認証者が入力する入力手段と,この案内手段による案内に基づき前記被認証者により入力される識別情報および仮パスワードを前記第1の登録手段により登録された識別情報および仮パスワードとそれぞれ照合することにより両識別情報および両仮パスワードがそれぞれ一致するか否かを判定する第2の照合手段と,この第2の照合手段による照合の結果,両識別情報および両仮パスワードがそれぞれ一致した場合,辞書情報の登録権限のある未登録者と判定し,前記生体情報取得手段により取得された当該被認証者の生体情報を辞書情報として前記辞書記憶手段に記憶せしめる第2の登録手段」と,本願発明の「前記特定の権限を有する者に対してだけ登録処理手段による登録処理の実行を許可する登録処理許可手段と,無線信号を受信する受信手段とを備え,登録処理許可手段は,受信手段で受信する無線信号によって伝達された固有情報が登録条件記憶手段に記憶されている登録条件の固有情報と一致した場合にのみ登録条件を満たすと判断して,前記特定の権限を有する者以外の者に対して登録処理手段による登録処理の実行を許可するものにおいて,前記登録条件は任意の開始時刻及び終了時刻であって,登録処理許可手段は,現在時刻が前記開始時刻から終了時刻までの期間である場合にのみ登録条件を満たすと判断して登録処理手段による登録処理の実行を許可する」とは,「登録処理手段による登録処理の実行を許可する登録処理許可手段と,登録条件に含まれる固有の情報を受信する受信手段とを備え,登録処理許可手段は,受信手段で受信する固有の情報が登録条件記憶手段に記憶されている登録条件の固有の情報と一致した場合に登録条件を満たすと判断して,前記特定の権限を有する者以外の者に対して登録処理手段による登録処理の実行を許可する」点で共通しているといえる。

以上から,本願発明と引用発明とは,以下の点で一致し,また,以下の点で相違する。

(一致点)

「人体の生体情報を取得する生体情報取得手段と,
生体情報取得手段で取得する対象者の対象生体情報を予め登録されている登録者の登録生体情報と照合することで当該対象者が登録者であるか否かを判定する照合手段と,
登録者の登録生体情報を記憶する登録生体情報記憶手段と,
生体情報取得手段で取得した未登録者の生体情報を登録生体情報記憶手段に記憶させる登録処理を行う登録処理手段と,
特定の権限を有する者だけが設定可能である登録条件を記憶する登録条件記憶手段と,
登録処理手段による登録処理の実行を許可する登録処理許可手段と,
登録条件に含まれる固有の情報を受信する受信手段とを備え,
登録処理許可手段は,受信手段で受信する固有の情報が登録条件記憶手段に記憶されている登録条件の固有の情報と一致した場合に登録条件を満たすと判断して,前記特定の権限を有する者以外の者に対して登録処理手段による登録処理の実行を許可することを特徴とする生体認証装置。」

(相違点1)

登録生体情報の登録処理に関し,本願発明では,登録処理手段が,未登録者の識別情報と対応付けて当該未登録者の登録生体情報を登録生体情報記憶手段に記憶させる登録処理を行うのに対して,引用発明では,辞書記憶手段が,被認証者の生体情報を辞書情報として記憶する際に被認証者の識別情報と対応付けて記憶するかどうか明記されていない点。

(相違点2)

登録条件に含まれる固有の情報の受信に関して,本願発明では受信手段が固有情報を無線信号で受信するのに対して,引用発明では,被認証者が入力するあらかじめ管理者から知らされた識別情報および仮パスワードを入力手段を介して受信する点。

(相違点3)

登録処理の実行許可の判定に関して,本願発明では「受信手段で受信する無線信号によって伝達された固有情報が登録条件記憶手段に記憶されている登録条件の固有情報と一致した場合にのみ登録条件を満たすと判断して,前記特定の権限を有する者以外の者に対して登録処理手段による登録処理の実行を許可するものにおいて,前記登録条件は任意の開始時刻及び終了時刻であって,登録処理許可手段は,現在時刻が前記開始時刻から終了時刻までの期間である場合にのみ登録条件を満たすと判断して登録処理手段による登録処理の実行を許可する」のに対して,引用発明では,「被認証者により入力される識別情報および仮パスワードを前記第1の登録手段により登録された識別情報および仮パスワードとそれぞれ照合することにより両識別情報および両仮パスワードがそれぞれ一致するか否かを判定」し,「照合の結果,両識別情報および両仮パスワードがそれぞれ一致した場合,辞書情報の登録権限のある未登録者と判定」する点。


7.当審の判断

上記相違点1乃至3について検討する。

(1)相違点1について

引用発明において,辞書情報として記憶する被認証者の生体情報は人物を認証するために利用されることは明らかであり,生体情報を認証処理に利用するためには,辞書情報において生体情報と被認証者との対応付けがなされていることが必要であることは自明である。
また,認証システムにおいて,生体情報が個人を特定するための識別情報と対応付けられて登録される旨の技術は,例えば引用文献3(上記J,K参照)に記載されているように,本願出願前には周知技術であり,このような周知技術と引用発明とは技術分野が共通しているのは明らかである。
してみると,引用発明において,上記周知技術に基づき,辞書記憶手段が,被認証者の生体情報を辞書情報として記憶する際に被認証者の識別情報と対応付けて記憶すること,すなわち,相違点1に係る構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。

よって,相違点1は格別なものではない。

(2)相違点2について

引用発明において,人物認証装置は固有の情報,すなわち,あらかじめ管理者から知らされた被認証者固有の識別情報および仮パスワードを,入力手段を介して受信しているが,被認証者が入力手段を操作して被認証者固有の情報を入力していると解される。
また,認証処理において,利用者固有の情報を無線通信で受信して,利用者を認証する旨の技術は,例えば参考文献1(上記L参照)に記載されているように,本願出願前には周知技術であり,このような周知技術と引用発明とは技術分野が共通しているのは明らかである。
してみると,引用発明において,上記周知技術に基づき,被認証者固有の情報である,あらかじめ管理者から知らされた識別情報などを無線通信による信号で受信すること,すなわち,相違点2に係る構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。

よって,相違点2は格別なものではない。

(3)相違点3について

引用発明においては,登録処理の実行許可の判定に当たり,被認証者により入力されるあらかじめ管理者から知らされた被認証者固有の情報を,第1の登録手段により登録された被認証者固有の情報とそれぞれ照合することにより,両情報がそれぞれ一致するか否かを判定していると解される。
また,認証システムにおいて,生体情報の登録条件として,登録者の識別情報のほか,生体情報の登録が可能な有効期限情報を利用して,登録処理の実行許可の判定を行う旨の技術は,例えば引用文献2(上記F,G,H参照)に記載されているように,本願出願前には周知技術であり,このような周知技術と引用発明とは技術分野が共通しているのは明らかである。
してみると,引用発明において,登録処理の実行許可の判定に当たり,被認証者により入力されるあらかじめ管理者から知らされた被認証者固有の情報を,登録された被認証者固有の情報とそれぞれ照合することに加え,上記周知技術に基づき,適宜,有効期限を開始時刻,終了時刻により定め,被認証者が登録を実行しようとする時刻が有効期限の範囲内であるか否かを判定すること,すなわち,相違点3に係る構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。

よって,相違点3は格別なものではない。

(4)小括

上記で検討したごとく,相違点1乃至相違点3は格別のものではなく,そして,この相違点を総合的に勘案しても,本願発明の奏する作用効果は,上記引用発明,引用文献2乃至3及び参考文献1に記載の周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず,格別顕著なものということはできない。


8.むすび

以上のとおり,本願の請求項1に係る発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,本願は拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-04-07 
結審通知日 2014-04-08 
審決日 2014-04-23 
出願番号 特願2008-46547(P2008-46547)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 戸島 弘詩  
特許庁審判長 辻本 泰隆
特許庁審判官 田中 秀人
仲間 晃
発明の名称 生体認証装置  
代理人 北出 英敏  
代理人 仲石 晴樹  
代理人 坂口 武  
代理人 西川 惠清  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ