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審決分類 |
審判 全部無効 1項3号刊行物記載 C04B 審判 全部無効 4項4号特許請求の範囲における明りょうでない記載の釈明 C04B 審判 全部無効 2項進歩性 C04B 審判 全部無効 4号2号請求項の限定的減縮 C04B |
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管理番号 | 1288915 |
審判番号 | 無効2013-800049 |
総通号数 | 176 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2014-08-29 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2013-03-27 |
確定日 | 2014-05-26 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第4164242号発明「セメント組成物」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 請求のとおり訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
第I.手続の経緯 特許4164242号(以下、「本件特許」という。)は、平成13年3月8日の出願であって、平成20年8月1日に設定登録されたもので、その後の無効審判における手続は次のとおりである。 ・平成25年3月27日 無効審判請求の提出 ・同年6月21日 答弁書及び訂正請求書の提出 ・同年10月15日 弁駁書の提出 ・同年12月20日 審理事項通知の発送 ・平成26年2月6日 口頭審理陳述要領書の提出(請求人及び被請求 人) ・同年2月20日 口頭審理 上申書の提出(請求人) 第II.訂正請求について (II-1)訂正請求の内容 被請求人が求める訂正は、本件特許の明細書を、訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正するものであって、訂正事項は、以下のとおりのものである(当審注:下線は、補正箇所を示すものであり、被請求人が付与した)。 (1)訂正事項1 明細書の特許請求の範囲の「【請求項1】 リン含有量の高い廃棄物を含むセメントクリンカ用原料を焼成して得られるP_(2)O_(5)含有量が0.3?2.5質量%のセメントクリンカであって、水硬率(HM)が1.93?2.15、ケイ酸率(SM)が1.3?2.2であり、かつ、MgO含有量が1.0?5.0質量%であるセメントクリンカに、総SO_(3)量が1.5?4.0質量%となるように石膏を配合してなることを特徴とするセメント組成物。」との記載を、 「【請求項1】 リン含有量の高い廃棄物を含むセメントクリンカ用原料を焼成して得られるP_(2)O_(5)含有量が0.3?2.5質量%のセメントクリンカであって、水硬率(HM)が1.93?2.15、ケイ酸率(SM)が1.3?2.2、鉄率(IM)が1.5?1.8であり、かつ、MgO含有量が1.0?5.0質量%であるセメントクリンカに、総SO_(3)量が1.5?4.0質量%となるように石膏を配合してなることを特徴とするセメント組成物。」と訂正する。 (2)訂正事項2 明細書の発明の詳細な説明の「【0007】 【課題を解決するための手段】 本発明は、P_(2)O_(5)含有量が特定の範囲にあるセメントクリンカは、水硬率(HM)、ケイ酸率(SM)およびMgO含有量の3特性の組合せによって強度低下の割合が小さくなることを見出だし、それら特性の範囲を特定し、これにより、上記の目的を達成することができるものである。」との記載を、 「【0007】 【課題を解決するための手段】 本発明は、P_(2)O_(5)含有量が特定の範囲にあるセメントクリンカは、鉄率(IM)が特定の範囲にある場合に、水硬率(HM)、ケイ酸率(SM)およびMgO含有量の3特性の組合せによって強度低下の割合が小さくなることを見出だし、それら特性の範囲を特定し、これにより、上記の目的を達成することができるものである。」と訂正する。 (3)訂正事項3 明細書の発明の詳細な説明の「【0008】 すなわち、本発明に係るセメント組成物は、「リン含有量の高い廃棄物を含むセメントクリンカ用原料を焼成して得られるP_(2)O_(5)含有量が0.3?2.5質量%のセメントクリンカであって、 ・水硬率(HM)が1.93?2.15、 ・ケイ酸率(SM)が1.3?2.2であり、かつ、 ・MgO含有量が1.0?5.0質量%である、 セメントクリンカに、総SO_(3)量が1.5?4.0質量%となるように石膏を配合してなる」(請求項1) ことを要旨とする。」との記載を、 「【0008】 すなわち、本発明に係るセメント組成物は、「リン含有量の高い廃棄物を含むセメントクリンカ用原料を焼成して得られるP_(2)O_(5)含有量が0.3?2.5質量%のセメントクリンカであって、 ・水硬率(HM)が1.93?2.15、 ・ケイ酸率(SM)が1.3?2.2、 ・鉄率(IM)が1.5?1.8であり、かつ、 ・MgO含有量が1.0?5.0質量%である、 セメントクリンカに、総SO_(3)量が1.5?4.0質量%となるように石膏を配合してなる」(請求項1) ことを要旨とする。」と訂正する。 (4)訂正事項4 明細書の発明の詳細な説明の「【0014】 そして、上記セメントクリンカは、 ・水硬率(HM);1.93?2.15、好ましくは2.0?2.15、 ・ケイ酸率(SM);1.3?2.2、かつ、 ・MgO ;1.0?5.0質量% の範囲に調整されていることが重要である。」との記載を、 「【0014】 そして、上記セメントクリンカは、 ・水硬率(HM);1.93?2.15、好ましくは2.0?2.15、 ・ケイ酸率(SM);1.3?2.2、 ・鉄率(IM)が1.5?1.8、かつ、 ・MgO ;1.0?5.0質量% の範囲に調整されていることが重要である。」と訂正する。 (5)訂正事項5 明細書の発明の詳細な説明の「【0020】 セメントクリンカの化学成分を特定する係数として上記のほかに、鉄率(IM)が知られている。 この鉄率(IM)について、本発明では、特に、限定しないが好ましい範囲は1.5?1.8である。」との記載を、 「【0020】 セメントクリンカの化学成分を特定する係数として上記のほかに、鉄率(IM)が知られている。 本発明では、この鉄率(IM)は、1.5?1.8である。」と訂正する。 (6)訂正事項6 明細書の発明の詳細な説明の「【0026】 本発明のセメントクリンカは、前記P_(2)O_(5)含有量、水硬率(HM)、ケイ酸率(SM)およびMgO含有量が所定範囲内に入るように、各原料を配合・混合・粉砕し、焼成することによって製造される。 上記混合方法は、慣用の装置で行なえばよい。焼成方法も、慣用の装置(ポルトランドセメントクリンカの焼成に用いられるNSPキルン、SPキルンなど)で行なえばよい。これらについて、本発明は、特に限定するものではない。」との記載を、 「【0026】 本発明のセメントクリンカは、前記P_(2)O_(5)含有量、水硬率(HM)、ケイ酸率(SM)、鉄率(IM)およびMgO含有量が所定範囲内に入るように、各原料を配合・混合・粉砕し、焼成することによって製造される。 上記混合方法は、慣用の装置で行なえばよい。焼成方法も、慣用の装置(ポルトランドセメントクリンカの焼成に用いられるNSPキルン、SPキルンなど)で行なえばよい。これらについて、本発明は、特に限定するものではない。」と訂正する。 (7)訂正事項7 明細書の発明の詳細な説明の「【0041】 【発明の効果】 本発明は、リン含有量の高い廃棄物を含むセメントクリンカ用原料から製造され、P_(2)O_(5)含有量が0.3?2.5質量%のセメントクリンカであって、特定の化学的比率[水硬率(HM)およびケイ酸率(SM)]およびMgO含有量を特定の範囲に限定した、高リン含有量のセメントクリンカを用い、特定量の総SO_(3)量に調製されたセメント組成物であることを特徴とし、これにより、圧縮強度の低下割合を改良できる、という効果を奏する。」との記載を、 「【0041】 【発明の効果】 本発明は、リン含有量の高い廃棄物を含むセメントクリンカ用原料から製造され、P_(2)O_(5)含有量が0.3?2.5質量%のセメントクリンカであって、特定の化学的比率[水硬率(HM)、ケイ酸率(SM)および鉄率(IM)]およびMgO含有量を特定の範囲に限定した、高リン含有量のセメントクリンカを用い、特定量の総SO_(3)量に調製されたセメント組成物であることを特徴とし、これにより、圧縮強度の低下割合を改良できる、という効果を奏する。」と訂正する。 (II-2)訂正請求の適否 (1)訂正事項1 訂正事項1は、請求項1に記載された「セメントクリンカ」の特性を示す化学的係数及びその数値の「P_(2)O_(5)含有量が0.3?2.5質量%」、「水硬率(HM)が1.93?2.15」、「ケイ酸率(SM)が1.3?2.2」、「MgO含有量が1.0?5.0質量%」に加えて、「鉄率(IM)が1.5?1.8」という化学的係数及びその数値を付加することで、「セメントクリンカ」の特性をさらに限定するものであることから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 (2)訂正事項2ないし7 訂正事項2ないし7は、訂正事項1により訂正される請求項1の記載に整合させて発明の詳細な説明の記載を訂正するものであることから、特許法第134条の2第1項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 したがって、上記訂正は、特許請求の範囲の減縮、明瞭でない記載の釈明を目的とし、いずれも、願書に添付した明細書に記載されている事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 よって、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書き、及び同条第9項において準用する同法第126条第5項、6項の規定に適合するので適法な訂正と認める。 第III.本件特許 訂正後の特許請求の範囲の請求項1ないし3に係る発明(以下、「訂正発明1」ないし「訂正発明3」という。)は、平成25年6月21日付け訂正請求書に添付された訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 「【請求項1】 リン含有量の高い廃棄物を含むセメントクリンカ用原料を焼成して得られるP_(2)O_(5)含有量が0.3?2.5質量%のセメントクリンカであって、水硬率(HM)が1.93?2.15、ケイ酸率(SM)が1.3?2.2、鉄率(IM)が1.5?1.8であり、かつ、MgO含有量が1.0?5.0質量%であるセメントクリンカに、総SO_(3)量が1.5?4.0質量%となるように石膏を配合してなることを特徴とするセメント組成物。 【請求項2】 前記セメントクリンカ用原料に含まれる廃棄物が下水汚泥、下水汚泥焼却物、都市ゴミ焼却灰および製鋼スラグから選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1に記載のセメント組成物。 【請求項3】 前記セメントクリンカ用原料として、石炭灰を使用することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のセメント組成物。」 第IV.当事者の主張 (IV-1)請求人の主張の概要 審判請求書、弁駁書、口頭審理陳述要領書、口頭審理調書及び上申書の記載によれば、請求人は、「本件特許1ないし3は、以下(1)ないし(4)の無効理由を有していることから、特許法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とされるべきである」旨の主張をし、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第10号証を提出した。 (1)本件特許1に対して (1-1)訂正発明1は、甲1号証に記載された発明であるから、本件特許1は特許法第29条第1項に違反してされたものである。 (1-2)訂正発明1は、甲2号証に記載された発明であるから、本件特許1は特許法第29条第1項に違反してされたものである。 (1-3)訂正発明1は、甲2号証に記載された発明に基いて、又は甲2号証に記載された発明と甲1号証に記載された事項とを組み合わせて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許1は特許法第29条第2項に違反してされたものである。 したがって、本件特許1は、特許法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とされるべきである。 (2)本件特許2に対して (2-1)訂正発明2は、甲2号証に記載された発明であるから、本件特許2は特許法第29条第1項に違反してされたものである。 (2-2)訂正発明2は、甲1号証に記載された発明に甲3ないし5号証のいずれかに記載された周知事項とを組み合わせて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許2は特許法第29条第2項に違反してされたものである。 (2-3)訂正発明2は、甲2号証に記載された発明に甲3ないし5号証のいずれかに記載された周知事項とを組み合わせて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許2は特許法第29条第2項に違反してされたものである。 したがって、本件特許2は、特許法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とされるべきである。 (3)本件特許3に対して (3-1)訂正発明3は、甲1号証に記載された発明に甲4号証又は甲5号証に記載された周知事項とを組み合わせて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許3は特許法第29条第2項に違反してされたものである。 (3-2)訂正発明3は、甲2号証に記載された発明に甲4号証又は甲5号証に記載された周知事項とを組み合わせて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許3は特許法第29条第2項に違反してされたものである。 したがって、本件特許3は、特許法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とされるべきである。 (4)弁駁書に記載された無効理由 (4-1)訂正発明1ないし3の「鉄率(IM)が1.5?1.8」との特定事項は、被請求人の自白、及び甲第6号証の2の記載によれば、普通セメントにおける周知の数値であり、本件特許1ないし3は、甲1号証又は甲2号証に記載された発明に、甲3号証ないし甲10号証のいずれかに記載された周知事項を組み合わせて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許1ないし3は特許法第29条第2項に違反してされたものである。 <証拠方法> 審判請求書に添付 ・甲第1号証:「都市ゴミ焼却灰を主原料としたセメントクリンカーに及 ぼす塩素並びにリンの影響とセメント物性の研究」、セメ ントコンクリート、第646号、2000年12月10日 発行、第46?50頁 ・甲第2号証:「ネオ鉄セメントの研究開発」、日本建築学会大会学術講 演梗概集、昭和51年10月発行、第1?2頁 ・甲第3号証:「セメント製造と下水汚泥」、セメントコンクリート、第 621号、1998年11月、第24?29頁 ・甲第4号証:「21世紀のセメント・コンクリート研究開発とセメント 産業の役割」、セメントコンクリート、第635号、20 00年1月10日発行、第2?9頁 ・甲第5号証:「セメント工場の未来像 循環型社会への貢献の可能性」 セメントコンクリート、第623号、1999年1月10 日発行、第4?8頁 ・甲第6号証:「新しいセメントとセメント技術」株式会社誠文堂新光社 昭和46年1月25日発行、第22?23頁、第46?4 7頁 弁駁書に添付 ・甲第6号証の2:「新しいセメントとセメント技術」株式会社誠文堂新 光社、昭和46年1月25日発行、第15頁及び16 頁 ・甲第7号証:「95-OCセメント共同試験報告」社団法人セメント協 会、平成8年3月1日発行、第4頁及び10頁 ・甲第8号証:「改訂2版 セメントの材料化学」大日本図書株式会社、 1991年9月25日発行、第3?6頁 口頭審理陳述要領書に添付 ・甲第9号証:「コンクリート技術者のためのセメント化学雑論≪増補/ アルカリ骨材反応≫社団法人セメント協会、昭和60年5 月発行、第34?38頁」 ・甲第10号証:「生コンの実務シリーズ第4巻、コンクリート用材料の 物性・購買・管理」株式会社技術書院、昭和58年4月 30日発行、第10頁及び11頁」 なお、請求人は、平成26年2月20日の口頭審理において、弁駁書で主張した新たな無効理由について、口頭審理陳述要領書6頁の「第2」に記載のとおり、「いわゆる実施可能要件違反及びサポート違反の主張を撤回する」と陳述し、被請求人はそれに同意した(平成26年2月20日付け口頭審理調書)。 (IV-2)被請求人の主張の概要 答弁書及び口頭審理陳述要領書の記載によれば、被請求人は、「本件特許1ないし3は、請求人の主張する無効理由を有しないことから、特許法第123条第1項第2号の規定に該当せず、無効とされるべきではない」旨の主張をし、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第4号証を提出した。 <証拠方法> 口頭審理陳述要領書に添付 ・乙第1号証:「セメント・コンクリート論文集 1999 No.53」 社団法人セメント協会、2000年2月25日発行、第1 16?117頁 ・乙第2号証:「セメント・コンクリート論文集 2000 No.54」 社団法人セメント協会、2001年2月10日発行、第7 2?73頁 ・乙第3号証:「セメント・コンクリート論文集 2010 No.64」 社団法人セメント協会、2011年2月25日発行、第6 0?64頁 ・乙第4号証:「小野田研究報告」、小野田セメント株式会社中央研究所 昭和40年(1965年)、第69頁 第V.甲号証に記載の事項 (V-1)甲第1号証 (甲1-1)「これを踏まえて実機クリンカーは、太平洋セメント(株)エコセメント試験所においてロータリーキルンを用いて製造した。使用した原料は、都市ゴミ焼却灰、石灰石粉末、粘士粉末および、鉄原料粉末である。実機クリンカーの化学組成を表2および表3に示した。」(45頁左欄3?8行目) (甲1-2)「表3に示した実機クリンカーE1およびE2から試製したセメントの凝結時間は、一般的な普通セメントと同等のSO_(3)量2.0%では始発時間・終結時間ともに非常に早く、制御することができなかった(図6)。・・・(中略)・・・。凝結時間を普通セメントとほぼ同等にするために必要なSO_(3)量は、クリンカーの比表面積が3300cm^(2)/gの場合、E1(C_(3)A量16%)で3.0%、E2(C_(3)A量20%)で3.5%であった。また、比表面積を4000cm^(2)/gと高くしたE2ではSO_(3)が4.0%程度必要であった。すなわち、クリンカー中のC_(3)A量が多いほど、またクリンカーの比表面積が高いほど、石こうの添加量を増加させる必要があった。」(48頁右欄3?16行目) (甲1-3)「したがって、P_(2)O_(5)の増加は見かけ上SiO_(2)の増加と同様の効果を与えるので、エーライトを減少させ、ビーライトを増加させる。」(47頁右欄1?4行) (甲1-4)表2及び表3(45頁)には、クリンカーの化学組成(%)に関し、 「 SiO_(2) Al_(2)O_(3) Fe_(2)O_(3) CaO P_(2)O_(5) MgO AC1 20.3 8.5 2.0 65.4 0.7 1.6 AC2 19.5 8.3 2.2 63.9 1.8 1.9 E1 18.5 8.8 4.1 63.2 1.3 2.1 E2 19.4 9.0 2.2 65.1 1.0 1.2 OPC(2表) 22.4 5.2 3.0 65.1 0.3 1.3 OPC(3表) 22.4 5.4 3.0 66.5 0.1 1.5 」との表示がある。 (V-2)甲第2号証 (甲2-1)「ポルトランドセメントは石灰石と粘土を主原料として製造されるが、粘土の代りに上記の高炉スラグと転炉スラグを利用出来ると石灰石の配合量は著しく節減される。 ・・・(中略)・・・。このようなセメントをネオ鉄セメントと呼ぶことにしており、研究と開発を進めた結果明るい見通しを得たので、ここに報告する。」(1頁8?12行目) (甲2-2)「4.セメントとしての諸性質 上記の試作クリンカーにセッコウをSO_(3)2%に相当する量添加し、試験ミルでブレーン比表面積4000cm^(2)/gを目標にして粉砕し、セメントを得た。このセメントの化学組成、比率、鉱物組成、細かさ、凝結、強度などを普通ポルトランドセメントと比較し表5に示した。」(2頁17?19行目) (甲2-3)表1(1頁)には、「原料」に関し、「chemical component(wt.g)」、「SiO_(2)、・・MgO、・・P_(2)O_(5)」との表示がある。 (甲2-4)表5(2頁)には、「セメント」に関し、「P_(2)O_(5)0.25%、MgO2.2%、SO_(3)2.1%」との表示がある。 (甲2-5)表2(2頁)には、「クリンカ」に関し、「H.M2.05、S.M1.86、I.M1.04」との表示がある。 (V-3)甲第3号証 (甲3-1)「下水汚泥脱水ケーキのセメント焼成炉への直接吹込みによるセメント原料化の技術(直接燃焼方式)が採用され、当社黒崎工場のセメント焼成炉で処理することとなった。以降、北九州市の全面的支援のもと、処理設備建設を経て平成9年5月から本格稼動を行っている。」(24頁左欄11?16行目) (V-4)甲第4号証 (甲4-1)図1(3頁)には、「セメント工場を中心とした資源循環型システム」に関し、「石炭灰、都市ゴミ焼却灰、下水汚泥焼却灰がセメント原料とされる」ことの図示がある。 (V-5)甲第5号証 (甲5-1)表1(7頁)には、「セメント産業における産業廃棄物・副産物使用量」に関し、「石炭灰、製鋼スラグがセメント原料とされる」ことの表示がある。 (V-6)甲第6号証 (甲6-1)「近来セッコウは早期強度に有効で乾燥収縮を補償し、化学抵抗性を改善するために正常凝結を得るに必要(一般にSO_(3)として1.3%)な量よりも多量に加えられる傾向にあって、JISのSO_(3)の上限は時代と共に増加し、最近はクリンカーの焼成に重油が使用されるために、SO_(3)が固溶される量も多くなったこともあって、1969年増量された(表-13参照)。(22頁下から2行目?23頁3行目) (V-6の2)甲第6号証の2 (甲6の2-1)表-6(15頁)には、「各種ポルトランドセメントの鉱物組成と化学成分比率」に関し、「普通セメントのIMが1.5?1.7、早強セメントのIMが1.4?1.7、中庸熱セメントのIMが1.1?1.2である」ことの表示がある。 (V-7)甲第7号証 (甲7-1)「(3)試料は、均一に調整された普通ポルトランドセメントを使用し・・・送付した。」(4頁8?12行目) (甲7-2)表1(10頁)には、「化学分析結果(%)」に関し、「会員の三酸化硫黄(SO_(3))の平均が1.8、会員外の三酸化硫黄(SO_(3))の平均が1.9である」ことの表示がある。 (V-8)甲第8号証 (甲8-1)表1・1(4頁)には、「ポルトランドセメントとその原料の化学組成(%)」に関し、「ポルトランドセメントのSO_(3)が2.0である」ことの表示がある。 (V-9)甲第9号証 (甲9-1)「諸比率・係数の工学的意味 ポルトランドセメントには、普通、早強、超早強、中庸熱、耐硫酸塩の各ポルトランドセメント、および特殊ポルトランドセメントとして白色ポルトランドセメントおよび油井セメントなどがあるが、いずれのポルトランドセメントも、その化学成分は4つの主要酸化物、二酸化けい索(SiO_(2))、酸化アルミニウム(Al_(2)O_(3))、酸化第二鉄 (Fe_(2)O_(3))および酸化カルシウム(CaO)で代表され、4成分は全化学成分の90%以上を占める。 これら4つの主要酸化物の配合割合の違いによって、セメントクリンカーの製造条件や、でき上がったセメントの強度発現性、水和熱、化学的抵抗性、乾燥収縮性状などの諸特性の大筋が決まると言ってよい。したがって、セメント工場においては、おもにこの主要4化学成分について、セメント原料組成の調合管理やセメントクリンカーの成分管理を行なっている。」(34頁右欄1?16行目) (甲9-2)「現在セメント工場において、ポルトランドセメントの成分管理に用いられている比率・係数は、ドイツ人ミハエリスの提案した水硬率(Hydraulic Modulus)、ドイツ人キュールの提案したけい酸率(Silica Modulus)、および鉄率またはアルミナ鉄比(Iron Modulus)、そのほか活動係数(Activity Index)、石灰飽和度(Lime Saturation Degree)などである。」(35頁左欄9?15行目) (甲9-3)「(3)鉄率 けい酸率では、Al_(2)O_(3)とFe_(2)O_(3)とを同等に扱っているので、Al_(2)O_(3)とFe_(2)O_(3)との量的関係を表す比率として鉄率(Al_(2)O_(3)/Fe_(2)O_(3))が必要になる。 鉄率の低い原料混合物は、低い焼成温度においてセメント化合物の生成を容易にする。反対に、鉄率の高い原料混合物は焼成しにくく、燃料消費を増加させる。なお、過剰にFe_(2)O_(3)を含む原料混合物からは、堅くて容重(密度)の高いクリンカーを生成するから、ミルでの粉砕にエネルギーを余計に必要とし、生産コストを高める結果になる。 鉄率の高い、Al_(2)O_(3)の多い原料混合物から生成するセメントは、C_(3)Aが多くなり、速硬性をもつから初期強度は高いが、水和熱は大きく、硫酸塩抵抗性が小さくなる。反対に鉄率の低い、Al_(2)O_(3)の少ないセメントは、C_(3)Aが少なく、C_(4)AFが多くなるから、初期強度は低いが、水和熱が小さく、硫酸塩抵抗性が大きい。 国内のセメントメーカー各社の各種ポルトランドセメントクリンカーの鉄率は、普通セメントクリンカーでは1.48?1.73、平均1.66であり、早強セメントクリンカーでは平均1.67、中庸熱セメントクリンカーでは平均1.00であった。」(36頁左欄下から12行目?同頁右欄10行目) (甲9-4)表2には、「比率・係数とクリンカー鉱物の関係」に関し、「水硬率、けい酸率、鉄率それぞれの大小が、セメント組成物の強度に関与する」ことの表示がある。 (V-10)甲第10号証 (甲10-1)図2.4(10頁)には、「ポルトランドセメントの分類と用途」に関し、「普通ポルトランドの生産量が全セメントの90%を占める」ことの図示がある。 第VI.甲号証記載の発明 (VI-1)甲第1号証記載の発明 (甲1-5)上記(甲1-1)、及び、都市ゴミ焼却灰が「リン含有量の高い廃棄物」にあたることは当業者における技術常識であることより、甲第1号証には、「リン含有量の高い廃棄物を含むセメントクリンカ用原料を焼成して得られるセメントクリンカ」が記載されているということができる。 (甲1-6)上記(甲1-4)、及び、技術常識としての水硬率(HM)=CaO/(SiO_(2)+Al_(2)O_(3)+Fe_(2)O_(3))より、甲第1号証には、「AC1の水硬率は2.12、AC2の水硬率は2.13、E1の水硬率は2.01、E2の水硬率は2.13、OPC(2表)の水硬率は2.13、OPC(3表)の水硬率は2.18である」ことが記載されているということができる。 (甲1-7)上記(甲1-4)、及び、技術常識としてのケイ酸率(SM)=SiO_(2)/(Al_(2)O_(3)+Fe_(2)O_(3))より、甲第1号証には、「AC1のケイ酸率は1.93、AC2のケイ酸率は1.86、E1のケイ酸率は1.43、E2のケイ酸率は1.73、OPC(2表)のケイ酸率は2.73、OPC(3表)のケイ酸率は2.67である」ことが記載されているということができる。 (甲1-8)上記(甲1-4)、及び、技術常識としての鉄率(IM)=Al_(2)O_(3)/Fe_(2)O_(3)より、甲第1号証には、「AC1の鉄率は4.3、AC2の鉄率は3.8、E1の鉄率は2.1、E2の鉄率は4.1、OPC(2表)の鉄率は1.7、OPC(2表)の鉄率は1.8である」ことが記載されているということができる。 (甲1-9)上記(甲1-2)より、甲第1号証には、「セメントクリンカに石こうを配合したセメント」が記載されているということができる。 (甲1-10)上記(甲1-2)より、甲第1号証には、「比表面積が3300cm^(2)/gでC_(3)A量が16%のE1の総SO_(3)量は3.0%,比表面積が3300cm^(2)/gでC_(3)A量が20%のE2の総SO_(3)量は3.5%、比表面積が4000cm^(2)/gのE2の総SO_(3)量は4.0%程度である」ことが記載されているということができる。 上記(甲1-1)ないし(甲1-4)の記載事項、上記(甲1-5)ないし(甲-10)の検討事項より、甲第1号証には、 「リン含有量の高い廃棄物を含むセメントクリンカ用原料を焼成して得られるP_(2)O_(5)含有量がAC1では0.7質量%、AC2では1.8質量%、E1では1.3質量%、E2では1.0質量%であるセメントクリンカであって、水硬率(HM)がAC1では2.12、AC2では2.13、E1では2.01、E2では2.13であり、ケイ酸率(SM)がAC1では1.93、AC2では1.86、E1では1.43、E2では1.73、鉄率(IM)がAC1では4.3、AC2では3.8、E1では2.1、E2では4.1であり、かつ、MgO含有量がAC1では1.6質量%、AC2では1.9質量%、E1では2.1質量%、E2では1.2質量%であるセメントクリンカに、比表面積が3300cm^(2)/gでC_(3)A量が16%のE1の総SO_(3)量は3.0%,比表面積が3300cm^(2)/gでC_(3)A量が20%のE2の総SO_(3)量は3.5%、比表面積が4000cm^(2)/gのE2の総SO_(3)量は4.0%程度となるように石こうを配合してなる、セメント。」(以下、「甲1発明」という。)が記載されているものと認める。 (VI-2)甲第2号証記載の発明 (甲2-6)上記(甲2-1)、及び、転炉スラグが製鋼スラグに相当するとともに、製鋼スラグが「リン含有量の高い廃棄物」にあたることは当業者における技術常識であることより、甲第2号証には、「リン含有量の高い廃棄物を含むセメントクリンカ用原料を焼成して得られるセメントクリンカ」が記載されているということができる。 (甲2-7)上記(甲2-2)ないし(甲2-4)より、試作クリンカにSO_(3)2質量%に相当する量のセッコウを添加したセメントのP_(2)O_(5)含有量が0.25質量%であることからして、クリンカにおけるP_(2)O_(5)含有量は、0.25質量%より僅かに大きいものであるということができるので、甲第2号証には、「P_(2)O_(5)含有量が0.25質量%より僅かに大きいセメントクリンカ」が記載されているということができる。 (甲2-8)上記(甲2-2)ないし(甲2-4)より、試作クリンカにSO_(3)2質量%に相当する量のセッコウを添加したセメントのMgO含有量が2.2質量%であることからして、クリンカにおけるMgO含有量は、2.2質量%より僅かに大きいものであるということができるので、甲第2号証には、「MgO含有量が2.2質量%より僅かに大きいセメントクリンカ」が記載されているということができる。 (甲2-9)上記(甲2-2)より、甲第2号証には、「セメントクリンカにセッコウを配合したセメント」とが記載されているということができる。 上記(甲2-1)ないし(甲2-5)の記載事項、上記(甲2-6)ないし(甲-9)の検討事項より、甲第2号証には、 「リン含有量の高い廃棄物を含むセメントクリンカ用原料を焼成して得られるP_(2)O_(5)含有量が0.25質量%より僅かに大きいセメントクリンカであって、H.Mが2.05、S.Mが1.86、I.Mが1.04であり、かつ、MgO含有量が2.2質量%より僅かに大きいセメントクリンカに、総SO_(3)量が2.1質量%となるようにセッコウを配合してなる、セメント。」 (以下、「甲2発明」という。)が記載されているものと認める。 第VII.当審の判断 (VII-1)29条第1項第3号について (VII-1-1)訂正発明1について ◇訂正発明1と甲1発明について 両者を対比する。 ・甲1発明の「石こう」、「セメント」は、訂正発明1の「石膏」、「セメント組成物」にそれぞれ相当する。 ・甲1発明の「P_(2)O_(5)含有量がAC1では0.7質量%、AC2では1.8質量%、E1では1.3質量%、E2では1.0質量%であるセメントクリンカであって、水硬率(HM)がAC1では2.12、AC2では2.13、E1では2.01、E2では2.13であり、ケイ酸率(SM)がAC1では1.93、AC2では1.86、E1では1.43、E2では1.73」「であり、かつ、MgO含有量がAC1では1.6質量%、AC2では1.9質量%、E1では2.1質量%、E2では1.2質量%であるセメントクリンカに、比表面積が3300cm^(2)/gでC_(3)A量が16%のE1の総SO_(3)量は3.0%,比表面積が3300cm^(2)/gでC_(3)A量が20%のE2の総SO_(3)量は3.5%、比表面積が4000cm^(2)/gのE2の総SO_(3)量は4.0%程度となる」は、訂正発明1の「P_(2)O_(5)含有量が0.3?2.5質量%のセメントクリンカであって、水硬率(HM)が1.93?2.15、ケイ酸率(SM)が1.3?2.2」「であり、かつ、MgO含有量が1.0?5.0質量%であるセメントクリンカに、総SO_(3)量が1.5?4.0質量%となる」に相当する。 ・甲1発明の「鉄率(IM)がAC1では4.3、AC2では3.8、E1では2.1、E2では4.11.8」と、訂正発明1の「鉄率(IM)が1.5?1.8」とは、「鉄率(IM)が所定値」という点で共通する。 上記より、訂正発明1と甲1発明は、「リン含有量の高い廃棄物を含むセメントクリンカ用原料を焼成して得られるP_(2)O_(5)含有量が0.3?2.5質量%のセメントクリンカであって、水硬率(HM)が1.93?2.15、ケイ酸率(SM)が1.3?2.2、鉄率(IM)が所定値であり、かつ、MgO含有量が1.0?5.0質量%であるセメントクリンカに、総SO_(3)量が1.5?4.0質量%となるように石膏を配合してなることを特徴とするセメント組成物」という点で一致している。 しかしながら、訂正発明1では、セメントクリンカの「鉄率(IM)が1.5?1.8」であるのに対して、甲1発明では、「鉄率(IM)がAC1では4.3、AC2では3.8、E1では2.1、E2では4.1」である点で相違している。 なお、甲第1号証には、上記「(V-1)甲第1号証」及び「(VI-1)甲第1号証記載の発明」で示したように、比較のための普通セメントクリンカとして、「P_(2)O_(5)含有量が0.3重量%、水硬率(HM)が2.13、ケイ酸率(SM)が2.73、鉄率(IM)が1.7であり、かつ、MgO含有量が1.3質量%であるセメントクリンカ」であるOPC(表2)、及び「P_(2)O_(5)含有量が0.1重量%、水硬率(HM)が2.16、ケイ酸率(SM)が2.67、鉄率(IM)が1.8であり、かつ、MgO含有量が1.5質量%であるセメントクリンカ」であるOPC(表3)が記載されているものの、OPC(2表)では「ケイ酸率(SM)が2.73」であって、これは訂正発明1の「ケイ酸率(SM)が1.3?2.2」の範囲外であり、OPC(3表)では「P_(2)O_(5)含有量が0.1重量%」、「水硬率(HM)が2.16」、「ケイ酸率(SM)が2.67」であって、これらは訂正発明1の「P_(2)O_(5)含有量が0.3?2.5質量%」、「水硬率(HM)が1.93?2.15」、「ケイ酸率(SM)が1.3?2.2」の範囲外である。 したがって、訂正発明1は、甲1発明であるということはできず、特許法第29条第1項第3号の規定に該当するものではない。 ◇訂正発明1と甲2発明について 両者を対比する。 ・甲2発明の「セッコウ」、「セメント」は、訂正発明1の「石膏」、「セメント組成物」にそれぞれ相当する。 ・甲2発明の「H.Mが2.05、S.Mが1.86」は、訂正発明1の「水硬率(HM)が1.93?2.15、ケイ酸率(SM)が1.3?2.2」に相当する。 ・甲2発明の「総SO_(3)量が2.1質量%」は、訂正発明1の「総SO_(3)量が1.5?4.0質量%」に相当する。 ・甲2発明の「P_(2)O_(5)含有量が0.25質量%より僅かに大きい」と、訂正発明1の「P_(2)O_(5)含有量が0.3?2.5質量%の」とは、「P_(2)O_(5)含有量が所定値の」という点で共通する。 ・甲2発明の「I.Mが1.04」と、訂正発明1の「鉄率(IM)が1.5?1.8」とは、「鉄率(IM)が所定値」という点で共通する。 ・甲2発明の「MgO含有量が2.2質量%より僅かに大きい」ことは、上記「(VI-2)甲第2号証記載の発明」「(甲2-8)」で示したように、試作クリンカにSO_(3)2質量%に相当する量のセッコウを添加したセメントのMgO含有量が2.2質量%であることに基づいており、これを勘案すると、訂正発明1の「MgO含有量が1.0?5.0質量%である」ことの範囲内にあるとみるのが妥当であるので、訂正発明1の「MgO含有量が1.0?5.0質量%である」ことに相当する。 上記より、訂正発明1と甲2発明は、「リン含有量の高い廃棄物を含むセメントクリンカ用原料を焼成して得られるP_(2)O_(5)含有量が所定値のセメントクリンカであって、水硬率(HM)が1.93?2.15、ケイ酸率(SM)が1.3?2.2、鉄率(IM)が所定値であり、かつ、MgO含有量が1.0?5.0質量%であるセメントクリンカに、総SO_(3)量が1.5?4.0質量%となるように石膏を配合してなる、セメント組成物。」という点で一致している。 しかしながら、少なくとも、訂正発明1では、「鉄率(IM)が1.5?1.8であ」るのに対して、甲2発明では、「鉄率(IM)が1.04であ」る点で相違している。 したがって、訂正発明1は、甲2発明であるということはできず、特許法第29条第1項第3号の規定に該当するものではない。 (VII-1-2)訂正発明2について ◇訂正発明2と甲2発明について 訂正発明2は、訂正発明1の「P_(2)O_(5)含有量が0.3?2.5質量%のセメントクリンカであって、水硬率(HM)が1.93?2.15、ケイ酸率(SM)が1.3?2.2、鉄率(IM)が1.5?1.8であり、かつ、MgO含有量が1.0?5.0質量%であるセメントクリンカ」を発明特定事項にするものであることから、上記「(VII-1-2)訂正発明1について」と同じく、甲2発明であるということはできず、特許法第29条第1項第3号の規定に該当するものではない。 (VII-2)特許法第29条第2項について (VII-2-1)訂正発明1について ◇訂正発明1と甲1発明について 上記「(VII-1-1)」「◇訂正発明1と甲1発明について」で検討したように、訂正発明1では、セメントクリンカの「鉄率(IM)が1.5?1.8」であるのに対して、甲1発明では、「鉄率(IM)がAC1では4.3、AC2では3.8E1では2.1、E2では4.1」である点で相違している(以下、「相違点α」という)。 ここで、甲第6の2号証には、上記「(V-6の2)」で示したように、普通ポルトランドセメントの鉄率(IM)が1.5?1.7、早強ポルトランドセメントの鉄率(IM)が1.4?1.7、中庸熱ポルトランドセメントの鉄率(IM)が1.1?1.2であることの記載があり、また、甲第9号証には、上記「(V-9)」で示したように、普通ポルトランドセメントクリンカの鉄率(IM)が1.48?1.73(平均1.66)、早強ポルトランドセメントクリンカの平均鉄率(IM)が1.67であることの記載があるから、「鉄率(IM)が1.5?1.8」である点は、普通ポルトランドセメントクリンカ、早強ポルトランドセメントクリンカにおいては、ごく普通の範囲であるということができる。 しかしながら、甲第6の2号証及び甲第9号証は、「P_(2)O_(5)含有量」が多く、「水硬率(HM)」、「ケイ酸率(SM)」、「MgO含有量」が特定の範囲にあるセメントクリンカについて、「鉄率(IM)が1.5?1.8」であることを示すものではないし、そのようなセメントクリンカを用いたセメント組成物の圧縮強度に関して何ら示唆するものでない。 これに対して、甲1発明は、上記(甲1-3)の「P_(2)O_(5)の増加が見かけSiO_(2)の増加と同様の効果を与えるので、エーライトを減少させ、ビーライトを増加させる」との記載から明らかなように、「P_(2)O_(5)含有量」が多いことによって、強度に寄与するエーライトが減少され、普通ポルトランドセメントより強度が減少したセメント組成物を対象とするものである。 そして、「水硬率(HM)」、「ケイ酸率(SM)」、「鉄率(IM)」のそれぞれが、セメント組成物の強度に関与することは、甲9号証の上記(甲9-4)の表2で示されるように、周知の事項である。 そうすると、「P_(2)O_(5)含有量」が多く、「水硬率(HM)」、「ケイ酸率(SM)」が特定の範囲である甲1発明のセメントクリンカに対して、甲第6の2号証及び甲第9号証に記載の普通ポルトランドセメントクリンカや早強ポルトランドセメントクリンカにおける通常の範囲の「鉄率(IM)」のみを採用しようとする動機付けは存在しないし、仮に採用したとしても、強度低下の抑制されたセメント組成物が得られるという訂正発明1の効果を、当業者は予測し得ないというべきである。 また、甲第3ないし6、7、8、10号証には、上記「第V」で示したように、「鉄率(IM)が1.5?1.8」の「セメントクリンカ」についての記載はなく、セメントクリンカの「P_(2)O_(5)含有量」と「鉄率(IM)」との関連についての記載(知見)もない。 そうすると、上記相違点αに係る訂正発明1の技術事項を採用することは、甲1発明に甲第3号証ないし甲第10号証のいずれかに記載された周知事項を組み合わせたとしても容易になし得ることではない。 なお、甲第1号証には、上記「(V-1)甲第1号証」及び「(VI-1)甲第1号証記載の発明」で示したように、比較のための普通セメントクリンカとして、「P_(2)O_(5)含有量が0.3重量%、水硬率(HM)が2.13、ケイ酸率(SM)が2.73、鉄率(IM)が1.7であり、かつ、MgO含有量が1.3質量%であるセメントクリンカ」であるOPC(表2)、及び「P_(2)O_(5)含有量が0.1重量%、水硬率(HM)が2.16、ケイ酸率(SM)が2.67、鉄率(IM)が1.8であり、かつ、MgO含有量が1.5質量%であるセメントクリンカ」であるOPC(表3)が記載されており、OPC(表2)は、「P_(2)O_(5)含有量」、「水硬率(HM)」、「鉄率(IM)」、「MgO含有量」が訂正発明1のセメントクリンカと重複するものの、「ケイ酸率(SM)」が異なっており、強度の調整には、「水硬率(HM)」、「ケイ酸率(SM)」、「鉄率(IM)」のそれぞれが関与することは前述のとおりであるから、OPC(表2)における「ケイ酸率(SM)」のみを訂正発明1の特定範囲に調整して強度低下を抑制しようとすることは、当業者にとって容易であるとはいえず、OPC(表3)は、「P_(2)O_(5)含有量」が多いクリンカではなく、「水硬率(HM)」、「ケイ酸率(SM)」も訂正発明1と異なるから、OPC(表3)から、訂正発明1を導くことは、さらに困難である。 したがって、訂正発明1は、甲1発明に甲第3号証ないし甲第10号証のいずれかに記載された周知事項を組み合わせて当業者が容易に発明をすることができたものではないので、訂正発明1は、特許法第29条第2項に違反してされたものではない。 ◇訂正発明1と甲2発明について 上記「(VII-1-1)」「◇訂正発明1と甲2発明について」で検討したように、少なくとも、訂正発明1では、セメントクリンカの「鉄率(IM)が1.5?1.8」であるのに対して、甲2発明では、「鉄率(IM)が1.04」の「セメントクリンカー」である点で相違している(以下、「相違点β」という)。 そして、先の「◇訂正発明1と甲1発明について」において、相違点αについて検討したのと同様の理由により、甲2発明のセメントクリンカに対して、甲第6号証の2や甲第9号証に記載の普通ポルトランドセメントクリンカや早強ポルトランドセメントセメントにおける通常の範囲の「鉄率(IM)」のみを採用しようとする動機付けは存在しないし、仮に採用したとしても、「P_(2)O_(5)含有量」の多いセメントクリンカを使用して、強度低下の抑制されたセメント組成物が得られるという訂正発明1の効果を、当業者は予測し得ないというべきである。 また、甲1号証には、「P_(2)O_(5)含有量」が多いセメントクリンカにおいて、訂正発明1の「鉄率(IM)」と「ケイ酸率(SM)」を同時に満たすことの記載がなく、「鉄率(IM)」または「ケイ酸率(SM)」と強度との関連についての記載(知見)もない。 さらに、甲第3ないし6、7、8、10号証には、上記「第V」で示したように、「鉄率(IM)が1.5?1.8」の「セメントクリンカ」についての記載はなく、セメントクリンカの「P_(2)O_(5)含有量」と「鉄率(IM)」との関連についての記載(知見)もない。 したがって、訂正発明1は、甲2発明に基いて、甲2発明に甲第1号証に記載された事項を組み合わせて、又は甲2発明に甲第3号証ないし甲第10号証のいずれかに記載された周知事項を組み合わせて当業者が容易に発明をすることができたものではないので、訂正発明1は、特許法第29条第2項に違反してされたものではない。 (VII-2-2)訂正発明2について 訂正発明2は、訂正発明1において「セメントクリンカ用原料に含まれる廃棄物が下水汚泥、下水汚泥焼却物、都市ゴミ焼却灰および製鋼スラグから選ばれる1種以上である」ことを限定事項にするものであり、訂正発明1の「P_(2)O_(5)含有量が0.3?2.5質量%のセメントクリンカであって、水硬率(HM)が1.93?2.15、ケイ酸率(SM)が1.3?2.2、鉄率(IM)が1.5?1.8であり、かつ、MgO含有量が1.0?5.0質量%であるセメントクリンカ」を発明特定事項にするものであることから、上記「(VII-2-1)訂正発明1について」と同じく、訂正発明2は、特許法第29条第2項に違反してされたものではない。 (VII-2-3)訂正発明3について 訂正発明3は、訂正発明1又は2において「セメントクリンカ用原料として、石炭灰を使用する」ことを限定事項にするものであり、訂正発明1及び2の「P_(2)O_(5)含有量が0.3?2.5質量%のセメントクリンカであって、水硬率(HM)が1.93?2.15、ケイ酸率(SM)が1.3?2.2、鉄率(IM)が1.5?1.8であり、かつ、MgO含有量が1.0?5.0質量%であるセメントクリンカ」を発明特定事項にするものであることから、上記「(VII-2-1)訂正発明1について」及び「(VII-2-2)訂正発明2について」と同じく、訂正発明3は、特許法第29条第2項に違反してされたものではない。 第VIII.むすび 以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、訂正後の本件特許の請求項1ないし3に係る発明の特許1ないし3を無効とすることができない。また、他にこれら発明の特許を無効にすべき理由を発見しない。 審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 セメント組成物 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】リン含有量の高い廃棄物を含むセメントクリンカ用原料を焼成して得られるP_(2)O_(5)含有量が0.3?2.5質量%のセメントクリンカであって、水硬率(HM)が1.93?2.15、ケイ酸率(SM)が1.3?2.2、鉄率(IM)が1.5?1.8であり、かつ、MgO含有量が1.0?5.0質量%であるセメントクリンカに、総SO_(3)量が1.5?4.0質量%となるように石膏を配合してなることを特徴とするセメント組成物。 【請求項2】前記セメントクリンカ用原料に含まれる廃棄物が下水汚泥、下水汚泥焼却物、都市ゴミ焼却灰および製鋼スラグから選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1に記載のセメント組成物。 【請求項3】前記セメントクリンカ用原料として、石炭灰を使用することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のセメント組成物。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、セメント組成物に関し、特に、リン含有量の高い廃棄物を含む原料を焼成して得られるセメントクリンカ(以下“本発明のセメントクリンカ”という)から製造されるセメント組成物に関する。 【0002】 【従来の技術】 近年、都市ゴミの焼却灰、下水汚泥及び該汚泥の焼却灰、並びに製鋼過程で生ずるスラグなどの産業副産物(以下、これらを総称して“廃棄物”という)は、増加の一途であり、その有効利用および再資源化が社会的に注目されている。 その再資源化の具体策として、廃棄物をポルトランドセメントの製造用原料に利用することが研究されている。 【0003】 セメント工業において、上記廃棄物を原料として用いた場合、焼成過程において、廃棄物に多量に含まれているリン化合物(一般的に、P_(2)O_(5)換算で0.3?30質量%含まれている)の大半は、セメントクリンカ中に残存する。 そして、該クリンカ中のリン含有量が多いほど、セメントの圧縮強度に著しく悪い影響を与えることが知られている。 【0004】 【発明が解決しようとする課題】 一般に、普通ポルトランドセメントクリンカのP_(2)O_(5)含有量は、多くても0.3質量%程度、大部分のポルトランドセメントクリンカは0.1?0.2質量%である。 その程度の含有量では、セメントの特性、特に圧縮強度への影響は殆ど無視できるものであった。 【0005】 しかし、前記廃棄物を原料に使用した場合、上記クリンカ中のP_(2)O_(5)含有量が1.0質量%に達することも稀ではない。 そのために、圧縮強度が著しく低下する。 例えば、上記のような高P_(2)O_(5)含有量のクリンカから製造されたセメントは、廃棄物を使用しない場合の圧縮強度(材齢7日)に比べ、P_(2)O_(5)含有量が0.5質量%のときの該強度は89%、0.8質量%のとき79%、1.0質量%のとき74%、1.3質量%のとき59%というように、圧縮強度が急激に低下する、という問題点があった。 【0006】 本発明は、上記問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、高リン含有量であっても、圧縮強度の低下割合が改良されたセメント組成物を提供することにある。 【0007】 【課題を解決するための手段】 本発明は、P_(2)O_(5)含有量が特定の範囲にあるセメントクリンカは、鉄率(IM)が特定の範囲にある場合に、水硬率(HM)、ケイ酸率(SM)およびMgO含有量の3特性の組合せによって強度低下の割合が小さくなることを見出だし、それら特性の範囲を特定し、これにより、上記の目的を達成することができるものである。 【0008】 すなわち、本発明に係るセメント組成物は、「リン含有量の高い廃棄物を含むセメントクリンカ用原料を焼成して得られるP_(2)O_(5)含有量が0.3?2.5質量%のセメントクリンカであって、 ・水硬率(HM)が1.93?2.15、 ・ケイ酸率(SM)が1.3?2.2、 ・鉄率(IM)が1.5?1.8であり、かつ、 ・MgO含有量が1.0?5.0質量%である、 セメントクリンカに、総SO_(3)量が1.5?4.0質量%となるように石膏を配合してなる」(請求項1) ことを要旨とする。 【0009】 また、本発明に係るセメント組成物は、 ・廃棄物が下水汚泥、下水汚泥焼却物、都市ゴミ焼却灰および製鋼スラグから選ばれる1種以上であること(請求項2)、および ・セメントクリンカ用原料として、石炭灰を使用すること(請求項3)、 を特徴とする。 【0011】 【発明の実施の形態】 以下、本発明について詳細に説明する。 まず、本発明のセメントクリンカについて説明する。 通常、廃棄物には、種々のリン化合物が含有されており、廃棄物の履歴によって含まれるリン化合物も、また、含有量も異なる。 例えば、下水汚泥に含まれるリン化合物と、熱処理後の下水汚泥焼却灰に含まれるリン化合物とは同一ではないし、また、それらのP_(2)O_(5)換算値も必ずしも一致しない。さらに、同種の廃棄物であっても、リン化合物の含有量が一定しないことの方が多い。 【0012】 本発明のセメントクリンカは、従来使用されている原料のほかに、上記のようなリン化合物を含む廃棄物を添加した調合原料を焼成して製造されたP_(2)O_(5)(換算)を0.3?2.5質量%含有するセメントクリンカに適用するものである。 【0013】 セメントクリンカ中のP_(2)O_(5)含有量の範囲を限定した理由は、 ・0.3質量%未満の場合、従来のセメントクリンカと変りないので、圧縮強度に対する影響がない。したがって、本発明のセメントクリンカは、0.3質量%以上の場合について適用するものである。 ・2.5質量%を超える場合、水硬率(HM)、ケイ酸率(SM)およびMgO含有量が前述した範囲内に該当していても、特に、短期材齢での強度発現の低下が著しいので好ましくない。 【0014】 そして、上記セメントクリンカは、 ・水硬率(HM);1.93?2.15、好ましくは2.0?2.15、 ・ケイ酸率(SM);1.3?2.2、 ・鉄率(IM);1.5?1.8、かつ、 ・MgO;1.0?5.0質量% の範囲に調整されていることが重要である。 【0015】 水硬率(HM)は、セメントクリンカの最も重要な化学的係数である。 その水硬率(HM)が ・2.15を超える場合、MgO含有量の多少に拘らず、強度低下の割合の改良が低くなるので、また、 ・1.8未満の場合、P_(2)O_(5)含有量が多くなるにつれて、その低下割合の改良が小さくなるので、 いずれの場合も好ましくない。 【0016】 次に、ケイ酸率(SM)について説明する。 ケイ酸率(SM)が ・2.4を超える場合、P_(2)O_(5)含有量が多いと、強度発現が低下するうえ、凝結遅延が生じる、 ・1.3未満の場合、混練物の流動性が低下する上、水和発熱量が大きくなる、ことなど強度以外の各種特性にも悪影響が生じるので好ましくない。 【0017】 MgOは、P_(2)O_(5)含有量が多い程、多量に含まれている方が強度低下を抑制する傾向にあり好ましい。例えば、下記のように含まれているのが好適である。 ・P_(2)O_(5)含有量<1.0質量%:MgO=1.0?5.0質量% ・P_(2)O_(5)含有量=1.0?2.5質量%:MgO=2.0?5.0質量% 【0018】 MgO含有量の限界点について説明する。 その含有量が5.0質量%を超えた場合(注)、 ・セメント硬化体が膨張しやすく長期安定性を阻害する原因となる、 ことから好ましくない。 (注)一般のセメントについて、JIS R 5210「ポルトランドセメント」には、セメント硬化体の膨張と長期安定性を主な理由として「MgO含有量の上限;5.0質量%」と規定する。 【0019】 ・1.0質量%未満の場合、強度の低下割合の改良効果が小さく好ましくない。この場合、前述したように、水硬率(HM)を高くしても殆ど効果が見られない。 【0020】 セメントクリンカの化学成分を特定する係数として上記のほかに、鉄率(IM)が知られている。 本発明では、この鉄率(IM)は、1.5?1.8である。 【0021】 本発明のセメントクリンカにおいて、リン含有量の高い廃棄物には、 ・下水汚泥、およびその焼却灰、 ・都市ゴミ焼却灰、 ・製鋼過程で生じるスラグ(工業副産物) などが挙げられる。 【0022】 セメントクリンカは、次のようにして製造する。 使用する廃棄物は、そのリン化合物の含有量を考慮して、セメントクリンカ中のP_(2)O_(5)含有量が0.3?2.5質量%になるように配合する。 水硬率(HM)およびケイ酸率(SM)の調整は、使用される廃棄物の成分も含め、従来から使用されているCaO原料、SiO_(2)原料、Fe_(2)O_(3)原料および必要に応じてAl_(2)O_(3)原料を用いて行なう。 【0023】 上記3原料は、具体的に、 ・CaO原料;石灰石、生石灰、消石灰など、 ・SiO_(2)原料;珪石、粘土など、 ・Fe_(2)O_(3)原料;鉄滓、鉄ケ-キなど、 ・Al_(2)O_(3)原料;粘土など、 が使用できる。 【0024】 なお、SiO_(2)原料として、石炭灰(注)を使用することができる。 石炭灰は、火力発電所、各種工場などで石炭を燃焼したさい大量に発生するので、その有効活用という観点から好ましい。 (注)例えば、フライアッシュ、シンダ-アッシュ、ボトムアッシュ、クリンカアッシュなどである。 【0025】 上記原料のほかにセメントクリンカ中のMgO含有量を1.0?5.0質量%の範囲に調整するため、MgO用原料を使用することができる。 MgO用原料は、前記CaO原料、SiO_(2)原料、Fe_(2)O_(3)原料、Al_(2)O_(3)原料および廃棄物を配合したさい、MgO含有量が上記の範囲内にあれば、必ずしも使用しなくて良い。 MgO用原料は、具体的に、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、ドロマイト、蛇紋岩、スピネル、高炉スラグなどが挙げられる。 【0026】 本発明のセメントクリンカは、前記P_(2)O_(5)含有量、水硬率(HM)、ケイ酸率(SM)、鉄率(IM)およびMgO含有量が所定範囲内に入るように、各原料を配合・混合・粉砕し、焼成することによって製造される。 上記混合方法は、慣用の装置で行なえばよい。焼成方法も、慣用の装置(ポルトランドセメントクリンカの焼成に用いられるNSPキルン、SPキルンなど)で行なえばよい。これらについて、本発明は、特に限定するものではない。 【0027】 次に、本発明に係るセメント組成物について説明する。 セメント組成物は、本発明のセメントクリンカに総SO_(3)量が1.5?4.0質量%の範囲内に納まるように石こうを配合し、粉砕して製造されるものである。 【0028】 総SO_(3)量が ・1.5質量%未満の場合;瞬結や流動性の低下が生じる ・4.0質量%を超える場合;強度低下の割合の改良効果が小さく、かつ、凝結遅延が生じる、 など、いずれの場合も好ましくない。 【0029】 セメント組成物のブレ-ン比表面積は、3000?4500cm^(2)/gが好ましい。 【0030】 使用される石こうは、2水・半水・無水石こうの1種またはそれらの混合物である。 【0031】 セメント組成物の製造方法は、前記セメントクリンカおよび石こうを ・混合粉砕する方法、 ・個別に粉砕し混合する方法 のいずれかの方法で慣用の設備を利用して行なう。 【0032】 【実施例】 以下、本発明を実施例により説明する。 1.使用原料 使用した原料(石灰石、粘土、珪石、鉄滓、下水汚泥焼却灰、ドロマイトおよび石炭灰)、および、それらの成分を表1に記載した。 なお、石こうの成分も同表に併記した。 【0033】 【表1】 【0034】 (実施例1?7、比較例1?5) 2.セメントクリンカの製造 前記原料を用いて、表2に示すP_(2)O_(5)含有量、水硬率(HM)、ケイ酸率(SM)およびMgO含有量となるように、慣用の方法で配合・混合して調合原料を造った。 各調合原料をSPロ-タリ-キルンを用い1450℃で焼成して、セメントクリンカを製造した。該クリンカの成分を同表に示した。 【0035】 3.セメント組成物の製造と強度測定 各セメントクリンカに、表1に示す副産2水石こうを添加し混合粉砕して、表2に示す総SO_(3)量を有する試製セメント組成物(ブレ-ン比表面積;3200±50cm^(2)/g)を製造した。 【0036】 各セメント組成物について、JIS R 5201「セメントの物理試験方法」の『10.強さ試験』」に準じて、材齢7日の圧縮強度を測定し、その結果を表2に示した。 なお、比較例1のセメント組成物は、普通ポルトランドセメントに相当し、その圧縮強度を基準値(100)として試製セメント組成物の圧縮強度の割合(強度比)を同表に併記した。 【0037】 【表2】 【0038】 上記表2から、実施例1?7の強度比は、比較例のそれらに比して高く、圧縮強度が改良されることが判明した。 【0039】 また、セメントクリンカ中のP_(2)O_(5)含有量が過多の場合、強度比が著しく低下する点からその含有量に上限が存在すること(比較例5)、および、MgOの含有量が本発明で規定する規定の範囲外の場合、例えP_(2)O_(5)含有量、HM、SMなどが規定内にあっても強度比が改良されないこと(実施例4と比較例4)が明らかになった。 【0040】 さらに、比較例2、3から、セメント組成物の総SO_(3)含有量が特定の範囲内であれば、目的を達成できることも明らかになった。。 【0041】 【発明の効果】 本発明は、リン含有量の高い廃棄物を含むセメントクリンカ用原料から製造され、P_(2)O_(5)含有量が0.3?2.5質量%のセメントクリンカであって、特定の化学的比率[水硬率(HM)、ケイ酸率(SM)および鉄率(IM)]およびMgO含有量を特定の範囲に限定した、高リン含有量のセメントクリンカを用い、特定量の総SO_(3)量に調製されたセメント組成物であることを特徴とし、これにより、圧縮強度の低下割合を改良できる、という効果を奏する。 【0042】 本発明は、リンによる弊害(強度低下)を軽減する手段が化学成分を調整による方法であるから、その実施が容易であり、かつ、廃棄物処理の促進ができる、という効果をも有している。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
審理終結日 | 2014-03-27 |
結審通知日 | 2014-03-31 |
審決日 | 2014-04-16 |
出願番号 | 特願2001-64517(P2001-64517) |
審決分類 |
P
1
113・
574-
YAA
(C04B)
P 1 113・ 121- YAA (C04B) P 1 113・ 113- YAA (C04B) P 1 113・ 572- YAA (C04B) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 横山 敏志 |
特許庁審判長 |
豊永 茂弘 |
特許庁審判官 |
中澤 登 吉水 純子 |
登録日 | 2008-08-01 |
登録番号 | 特許第4164242号(P4164242) |
発明の名称 | セメント組成物 |
代理人 | 衡田 直行 |
代理人 | 衡田 直行 |
代理人 | 衡田 直行 |
代理人 | 井波 実 |
代理人 | 吉澤 敬夫 |