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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1288934
審判番号 不服2013-3729  
総通号数 176 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-08-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-02-27 
確定日 2014-06-19 
事件の表示 特願2006-245885「X線CT装置およびX線CT装置におけるデータ処理方法」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 3月21日出願公開,特開2008- 61957〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成18年9月11日を出願日とする出願であって,平成23年8月30日付けで拒絶理由が通知され,同年11月4日付けで意見書及び手続補正書が提出され,さらに,平成24年4月23日付けで最後の拒絶理由が通知され,同年7月9日付けで意見書及び手続補正書が提出され,同年11月22日付で拒絶査定がされたのに対し,平成25年2月27日に拒絶査定不服の審判請求がされるとともに,同日付で手続補正(以下「本件補正」という。)がなされたものである。

第2 本件補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1 補正後の請求項1に係る発明
本件補正により,特許請求の範囲の請求項1は,
「【請求項1】
被検体にX線を曝射するX線管と、
前記被検体を透過したX線を含むX線を検出する、スライス方向に複数のX線検出素子を有するX線検出器と、
前記複数のX線検出素子にそれぞれ対応するX線検出データを収集するデータ収集手段と、
前記X線検出データから前記複数のX線検出素子にそれぞれ対応する生データを生成する生データ生成手段と、
前記生データから指定可能な出力用の画像データであって、前記X線検出素子の前記スライス方向の幅のスライス厚を有する複数スライス位置の単位画像データを生成する単位画像データ生成手段と、
前記複数スライス位置の単位画像データを記憶装置に記憶させると共に、前記被検体としての第1の被検体の検査が終了して前記第1の被検体とは異なる第2の被検体に関するX線検出データが収集される場合、前記第1の被検体に関する単位画像データを前記記憶装置から消去するデータ記憶制御手段と、
前記スライス厚が設定される度に前記記憶装置に記憶された複数スライス位置の単位画像データに基づいて、指定された複数のスライス厚に対応する複数スライス位置の出力画像データを生成する出力画像データ生成手段と、
を有することを特徴とするX線CT装置。」(下線は補正箇所を示す。)と補正された。

2 補正事項について
補正前の請求項1の「画像データの、前記X線検出素子の前記スライス方向の幅の自然数倍のスライス厚以下であり、前記X線検出素子の前記スライス方向の幅の自然数倍のスライス厚を有する複数スライス位置の単位画像データ」を「画像データであって、前記X線検出素子の前記スライス方向の幅のスライス厚を有する複数スライス位置の単位画像データを生成する単位画像データ」とする補正は,「単位画像データ」の「スライス厚」について,「X線検出素子の前記スライス方向の幅の自然数倍のスライス厚」を「X線検出素子の前記スライス方向の幅のスライス厚」とする補正,すなわち,「自然数倍」を「1倍」にする補正であることから,いわゆる限定的減縮に相当するものであり,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。

そこで,本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

3 引用刊行物及びその記載事項
(1)本願の出願前に頒布され,原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開2002-85355号公報(以下「引用例1」という。)には,次の事項が記載されている。なお,以下の摘記事項においては,引用発明の認定に関連する箇所に下線を付与した。
(1-ア)「【0003】近年の技術進歩に伴って、複数のスライスを同時に計測することが可能なマルチスライス型のX線CT装置が普及してきた。このマルチスライス型のX線CT装置を用いたX線CT計測は、X線源および多層検出器からなる撮影系を備えた走査駆動部と、被検体を支持し体軸方向に移動する機構を備えた寝台と、走査駆動部と前記寝台とを制御する制御手段と、多層検出器で検出された投影データを収集するデータ収集手段と、収集された投影データから被検体のX線吸収係数分布を再構成像として再構成する再構成演算手段と、再構成されたX線吸収係数分布を画像化して表示する表示手段と、操作者が当該マルチスライス型のX線CT装置に必要な値を設定し、あるいは指示を入力するためのキーボードやマウス等を備えた操作卓とから構成されていた。
【0004】ただし、本願明細書中において、多層検出器とは、1個の検出器セル(検出素子)または2個以上の検出器セルを撮像系の回転方向に一列に配列した検出器アレイを、回転軸方向に2段以上並設した1次元検出器あるいは2次元検出器であり、検出器セルが円筒あるいは多面体の表面の一部をなすように配列された検出器を指すものとする。現在、実用化されているシングルスライス型のX線断層撮影装置のほとんどは、多数の検出素子が前記回転方向に沿って、円弧上に配置された検出器を用いているいわゆる単層検出器型X線CT装置であった。これに対して、多層検出器は、この検出器がさらに回転軸方向に対しても列すなわち層をなしており、ゆえに多層型あるいはマルチスライス型と呼んで区別することとする。また、本願明細書中では、X線検出器で得られた画像のデータを投影データ、投影データから再構成されたCT像やMRIで得られたNMR像を再構成像、各再構成像から生成された表示用の画像を断層像、加算処理によって得られた画像像を加算断層像(あるいは加算画像)と記す。
・・・
【0006】この多層検出器は、通常、回転軸方向の開口幅が2.5mm程度に設定された構成となっていた。このために、マルチスライス型のX線CT装置で撮像された投影データから得られた各断層像のスライス厚は、検出器の開口幅である2.5mm程度であった。従って、従来のシングルスライス型のX線CT装置のように、10mm程度の比較的厚いスライスでの断層像を順番に表示手段に表示させて病変部位を特定した後に、病変部位を含む領域を2.5mm程度の比較的薄いスライスでの断層像により病変部位の細密な観察を可能とするために、従来のマルチスライス型のX線CT装置は、隣接する2.5mmのスライス厚の断層像(あるいは再構成像)を複数毎加算し、所望のスライス厚の断層像を生成する機能を備えていた。」

(1-イ)「【0027】・・・
ただし、実効スライス厚及び位置は、以下に示す式1及び式2でそれぞれ算出される。
実効スライス厚=(再構成像データのスライス厚)×(加算枚数)・・・式1
位置=(加算範囲の再構成像データの撮像位置の和)/(加算枚数)・・式2
【0028】次に、図9に示す演算処理手段11の動作を説明するための動作フローに基づいて、その動作を説明する。 本動作フローの開始は、キーボード16あるいはマウス15からの入力による画像診断の開始であり、この開始指示に基づいて転送手段が診断対象となる再構成像データ及び画像リスト1を再構成像データ記憶手段13からメモリ12に転送する(ステップ901)。
【0029】次に、設定手段が加算枚数(加算枚数値)及び中心となる再構成像の位置(再構成像の位置の値)を再構成像データ記憶手段13からメモリ12に読み込む(ステップ902)。ただし、加算枚数及び中心となる再構成像の位置は、予めキーボード16からの入力によって設定された値であり、この加算枚数及び中心となる再構成像の位置は再構成像データ以外であるが、実施の形態1では再構成像データ記憶手段13に格納される。 次に、ステップ901でメモリ12に転送された画像リスト1を変換手段が表示手段22の画面24上に表示する(ステップ903)。
【0030】続いて、メモリ12に設定された加算枚数と中心となる再構成像位置との値に基づいて、枠生成手段が画像リスト1に表示する枠を生成する(ステップ904)。この後に、画像リスト1に表示される撮像位置及び撮像番号と、メモリ12に設定された加算枚数及び中心となる再構成像位置とに基づいて、抽出手段がメモリ12に格納される再構成像データから加算対象となる再構成像データの撮像番号すなわち画面24上の枠で囲まれる撮像番号を抽出する(ステップ905)。
【0031】次に、加算処理手段が抽出された撮像番号に対応する再構成像データの同一画素位置毎の画素値の平均値を演算し(ステップ906)、付帯情報生成手段が得られた加算処理後の再構成像データの実効スライス厚とその中心位置とを算出し付帯情報を生成する(ステップ907)。
【0032】次に、画像生成手段が加算処理後の再構成像データから表示用の画像である断層像(加算画像)を生成し(ステップ908)、変換手段が得られた断層像(加算画像)及び付帯情報並びに画像リスト1を表示用の信号に変換し、表示手段22に出力することによって、表示手段22の画面24上に表示する(ステップ909)。
【0033】この表示後に、キーボード16に配置される第1設定手段17及び第2設定手段18並びに画像更新ボタン20からの入力待ちとなり(ステップ910)、このステップ910で第1設定手段17及び第2設定手段18並びに画像更新ボタン20からの入力がなされた場合には、計算手段がその入力に基づいてメモリ12内に設定されている加算枚数及び又は中心となる再構成像位置を演算し、得られた加算枚数及び/又は中心となる再構成像位置をメモリ12に設定した後に、ステップ904に戻り、以降キーボード16あるいはマウス15からの画像診断の終了が入力されるまでステップ904?911が繰り返される(ステップ911)。」

(1-ウ)【図9】として,以下の図面が記載されている。


(1-エ)「【0037】すなわち、第1設定手段17を回転させると、再構成像データの中心スライス位置すなわち中心となる再構成像の位置を中心に、枠102aが図3の破線で示す枠102bのように拡大または縮小されて、加算枚数を任意に変更できるようになっており、第2設定手段18を回転させると、枠103aが図3の破線で示す枠103bへ移動されて、再構成像データの加算範囲を任意に送ることができるようになっている。」

(1-オ)【図3】として,以下の図面が記載されている。


(1-カ)「【0041】一方、前述の操作で病変等の異常が発見され、さらに細かく観察する必要がある場合は、ステップ403でマウス15を操作して、図6の(ハ)に示すように、病変が存在しそうな範囲(位置106a?位置106bで示す範囲)に再構成像データスタート位置101a及び画像データエンド位置101bを移動させる。そしてこの状態で第1設定手段17を、図6の(ニ)に示すように、例えば左方向に回転させて枠107aを枠107bまで縮小し、さらに細かく観察するために加算枚数を減少させる(ステップ404)。これによって、表示手段22の画面24には、加算枚数を減少され1枚の断層像である加算画像23として表示されるので、表示された加算画像23を細かく観察することによって、病変等の異常を性格に診断できるようになる。」

(1-キ)「【0046】すなわち、大まかに病変部位置の特定を行うための表示画像である加算画像23を生成するための負荷を低減することが可能となるので、比較的厚いスライスの断層像と、病変部の詳細な観察を行うための薄いスライスの断層像との表示の切り替えをリアルタイムに行え、検者の負担を低減させると共に速やかな加算画像23の観察及び診断を行うことができる。」

してみれば,上記引用例1の記載事項を総合すると,引用例1には,以下の発明が記載されていると認められる。
「X線源および多層検出器からなる撮影系を備えた走査駆動部と,多層検出器で検出された投影データを収集するデータ収集手段と,収集された投影データから被検体のX線吸収係数分布を再構成像として再構成する再構成演算手段とを有する,マルチスライス型のX線CT装置であって,さらに,
再構成像データ及び画像リスト1が記憶される再構成像データ記憶手段13,それらが転送されるメモリ12,
メモリ12に設定された加算枚数と中心となる再構成像位置との値に基づいて、画像リスト1に表示する枠を生成する枠生成手段,
画像リスト1に表示される撮像位置及び撮像番号と,メモリ12に設定された加算枚数及び中心となる再構成像位置とに基づいて,メモリ12に格納される再構成像データから加算対象となる再構成像データの撮像番号すなわち画面24上の枠で囲まれる撮像番号を抽出する抽出手段,
抽出された撮像番号に対応する再構成像データの同一画素位置毎の画素値の平均値を演算する加算処理手段,
得られた加算処理後の再構成像データの実効スライス厚とその中心位置とを算出し付帯情報を生成する付帯情報生成手段,
加算処理後の再構成像データから表示用の画像である断層像(加算画像)を生成する画像生成手段,
を備えた装置。」(以下「引用発明」という。)

(2)本願の出願前に頒布され,原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開2000-316841号公報(以下「引用例2」という。)には,次の事項が記載されている。
(2-ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、X線減衰測定による医学的画像を作るために使用されるX線CT装置に係り、特に同時に複数スライスの画像計測を行うことができるマルチスライスX線CT装置に関する。」

(2-イ)「【0072】図15?図17は、2?5mm厚さの単一スライスの計測を行う場合の動作を示している。各図において、X線検出素子アレイ10に入射するX線ビーム(スライス方向)60はスライス方向コリメータ61によりそれぞれ2mm、3mm、5mmに絞られて、X線検出素子1のシンチレータ2に入射する。スイッチ回路5は、スイッチ制御信号68により、中心部分の4個のX線検出素子1のフォトダイオード3の出力信号を取出して4個の増幅回路40に送るように設定される。増幅回路40の出力は、画像再構成回路50に送られ、4枚のスライス画像に再構成される。さらにこの4枚の画像は、次段の画像加算回路51にて全てが加算されて、1枚の画像が得られる。」

(1-ウ)【図17】には,以下のように,一つのX線検出素子(1)から画像再構成回路(50)によって一つのスライス画像を再構成することが記載されている


4 対比・判断
(1)対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「X線源」は,本願補正発明の「被検体にX線を曝射するX線管」に相当する。

イ 引用発明の「多層検出器」は,摘記(1-ア)の【0004】からスライス方向にも複数のX線検出素子を有するものであるから,本願補正発明の「被検体を透過したX線を含むX線を検出する、スライス方向に複数のX線検出素子を有するX線検出器」に相当する。

ウ 引用発明の「多層検出器で検出された投影データを収集するデータ収集手段」における「投影データ」は,各検出器に対応するもので,本願補正発明の「X線検出素子にそれぞれ対応する生データ」に相当するから,引用発明の「多層検出器で検出された投影データを収集するデータ収集手段」は,本願補正発明の「複数のX線検出素子にそれぞれ対応するX線検出データを収集するデータ収集手段」と「前記X線検出データから前記複数のX線検出素子にそれぞれ対応する生データを生成する生データ生成手段」の両手段の機能を備えたものに相当する。

エ 引用発明の「収集された投影データから被検体のX線吸収係数分布を再構成像として再構成する再構成演算手段」における「再構成像」は,収集された投影データからのもので画像として表示されるものであるから,本願補正発明の「生データから指定可能な出力用の画像」に相当し,その「再構成像」のデータである「再構成像データ」は,摘記(1-イ)の式1「実効スライス厚=(再構成像データのスライス厚)×(加算枚数)」及び式2「位置=(加算範囲の再構成像データの撮像位置の和)/(加算枚数)」のとおり,本願補正発明の「スライス厚を有する複数スライス位置の単位画像データ」に相当するものである。
してみれば,引用発明の「収集された投影データから被検体のX線吸収係数分布を再構成像として再構成する再構成演算手段」と,本願補正発明の「生データから指定可能な出力用の画像データであって、前記X線検出素子の前記スライス方向の幅のスライス厚を有する複数スライス位置の単位画像データを生成する単位画像データ生成手段」とは,「生データから指定可能な出力用の画像データであって、スライス厚を有する複数スライス位置の単位画像データを生成する単位画像データ生成手段」の点で共通するものである。

オ 引用発明の「再構成像データ及び画像リスト1が記憶される再構成像データ記憶手段13,それらが転送されるメモリ12」は,本願補正発明の「複数スライス位置の単位画像データを記憶装置に記憶させる」「データ記憶制御手段」と共通する。

カ 本願補正発明の「スライス厚が設定される」ことについて,本願明細書の【0056】に「スライス厚指示部27は、入力装置3dからの指示情報に従って、表示用に生成する画像データの範囲およびスライス厚を設定する機能と、設定された画像生成範囲およびスライス厚を単位画像データ加算処理部28に与える機能とを有する。スライス厚は、スライス方向の位置ごとに異なる値を設定することができる。すなわち、スライス厚が一定でない複数の画像データが表示されるようにスライス厚を設定することができる。」と記載されており,引用発明の「メモリ12に設定された加算枚数と中心となる再構成像位置との値に基づいて、画像リスト1に表示する枠を生成する枠生成手段」は,摘記(1-エ)及び【図3】のように,その枠によってスライス方向の位置ごとにスライス厚を設定することができるものである。
してみれば,引用発明の「メモリ12に設定された加算枚数と中心となる再構成像位置との値に基づいて、画像リスト1に表示する枠を生成する」ことは,本願補正発明の「スライス厚が設定される」ことに相当する。

キ 引用発明の「画像リスト1に表示される撮像位置及び撮像番号と,メモリ12に設定された加算枚数及び中心となる再構成像位置とに基づいて,メモリ12に格納される再構成像データから加算対象となる再構成像データの撮像番号すなわち画面24上の枠で囲まれる撮像番号を抽出する抽出手段」,「抽出された撮像番号に対応する再構成像データの同一画素位置毎の画素値の平均値を演算する加算処理手段」及び「加算処理後の再構成像データから表示用の画像である断層像(加算画像)を生成する画像生成手段」は,本願補正発明の「前記記憶装置に記憶された複数スライス位置の単位画像データに基づいて、指定された複数のスライス厚に対応する複数スライス位置の出力画像データを生成する出力画像データ生成手段」に相当し,それは摘記(1-イ)の【0033】及び【図9】より「スライス厚が設定される度に」すなわち「枠」が変更される度に繰り返されることから,本願補正発明と同様に「前記スライス厚が設定される度に」行われるものである。

してみれば,本願補正発明と引用発明とは,
(一致点)
「被検体にX線を曝射するX線管と,
前記被検体を透過したX線を含むX線を検出する,スライス方向に複数のX線検出素子を有するX線検出器と,
前記複数のX線検出素子にそれぞれ対応するX線検出データを収集するデータ収集手段と,
前記X線検出データから前記複数のX線検出素子にそれぞれ対応する生データを生成する生データ生成手段と,
前記生データから指定可能な出力用の画像データであって,スライス厚を有する複数スライス位置の単位画像データを生成する単位画像データ生成手段と,
前記複数スライス位置の単位画像データを記憶装置に記憶させるデータ記憶制御手段と,
前記スライス厚が設定される度に前記記憶装置に記憶された複数スライス位置の単位画像データに基づいて、指定された複数のスライス厚に対応する複数スライス位置の出力画像データを生成する出力画像データ生成手段と,
を有するX線CT装置」
の点で一致し,以下の点で相違する。

(相違点1)
単位画像データのスライス厚が,本願補正発明では,「X線検出素子のスライス方向の幅」であるのに対し,引用発明では,不明である点。

(相違点2)
複数スライス位置の単位画像データを記憶装置に記憶させるデータ記憶制御手段が,本願補正発明では,「被検体としての第1の被検体の検査が終了して前記第1の被検体とは異なる第2の被検体に関するX線検出データが収集される場合、前記第1の被検体に関する単位画像データを前記記憶装置から消去する」ものであるのに対し,引用発明では,被検体に関する再構成像データ(単位画像データ)に対してそのような態様になっているかどうか不明である点。

(2)当審の判断
ア 相違点1について
引用発明は,摘記(1-カ)に記載されているとおり,病変などの異常がある場合には,細かく観察する必要があるものであるから,加算処理を施す再構成像データは,スライス方向にできるだけ薄いものに対応することが好ましいものである。この点につき,摘記(1-ア)の【0006】には,加算画像を生成するためのスライス画像が,多層検出器の開口幅程度のものとしている点が記載されている。
また,例えば,引用例2に記載されているように,マルチスライス型のX線CT装置において,所望の厚さの加算画像を一つのX線検出素子からのスライス画像を用いて得るようにすることは,本願の出願前に周知のことである。
してみれば,引用発明において,より細かく観察しようとして,再構成像データ(単位画像データ)を一つの検出素子からのものとする,すなわち,単位画像データのスライス厚を「X線検出素子のスライス方向の幅」とすることは,当業者が容易になしえたことである。

イ 相違点2について
本願補正発明の「被検体としての第1の被検体の検査が終了して前記第1の被検体とは異なる第2の被検体に関するX線検出データが収集される場合、前記第1の被検体に関する単位画像データを前記記憶装置から消去する」ことについて,本願明細書では,
「【0055】
単位画像データ保存部26は、単位画像データ後処理部25から取得した後処理後における単位画像データを保存する機能を有する。単位画像データ保存部26は、コンピュータ装置3における回路基板のボード上に設けられるメモリやDISK等の記憶装置3bを用いて構成することができる。単位画像データ保存部26にメモリが設けられる場合には、後処理後における単位画像データが一時的に保存され、DISKを設ければ恒久的に単位画像データを保存することができる。」
「【0088】
そして、ある被検体Pの検査が終了し、別の被検体Pからのデータが収集されると、過去の被検体Pに関する単位画像データは、単位画像データ保存部26から消去される。」(下線は当審において付与した。)と記載されている。
一方,引用発明において,再構成像データ(単位画像データ)は,「収集された投影データから被検体のX線吸収係数分布を再構成像として再構成する」データであり,それは摘記(1-カ)及び(1-キ)に記載されているように被検体の病変部の観察のために使用されるものであるから,「被検体」ごとに生成されるものである。そして,引用発明においても,それは「メモリ12」に記憶されている。
一般に,X線CT装置のメモリにおいて,データが容量を超える際に先のデータを消去して新たなデータを記憶することは本願の出願前に周知のこと(例えば,特開平8-196533号公報の【0013】,等参照)であり,そのメモリを節約するために1人分とする,すなわち,先の被検体のデータを消去して次の被検体のデータを記憶することも本願の出願前に周知のこと(例えば,特開平7-88109号公報の【0020】,等参照)である。
してみれば,引用発明の「メモリ12」においても,そのメモリを節約するために,上記周知技術に鑑みて,先の被検体(第1の被検体)の検査が終了して次の被検体(前記第1の被検体とは異なる第2の被検体)に関するX線検出データが収集される場合に,先の被検体に関する再構成像データをメモリ12(記憶装置)から消去すること,すなわち,「被検体としての第1の被検体の検査が終了して前記第1の被検体とは異なる第2の被検体に関するX線検出データが収集される場合、前記第1の被検体に関する単位画像データを前記記憶装置から消去する」ことは当業者が容易になし得たことである

ウ 本願補正発明の効果について
本願補正発明に基づく効果として,本願明細書では,
「【発明の効果】
【0033】
本発明に係るX線CT装置においては、より少ないデータ処理量で、より短時間に所望のスライス厚の画像データを再構成することができる。」と記載しているが,引用発明においても,引用例1の【図9】に記載されているように,生データまでもどることなく,保存している再構成像データに加算処理等を施すことにより必要とされる加算画像が得られており,摘記(1-キ)に「比較的厚いスライスの断層像と、病変部の詳細な観察を行うための薄いスライスの断層像との表示の切り替えをリアルタイムに行え、検者の負担を低減させると共に速やかな加算画像23の観察及び診断を行うことができる」と記載されていることから,上記本願補正発明に基づく効果は格別顕著なものではない。

したがって,本願補正発明は,引用発明及び周知技術に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5 まとめ
以上のとおり,本件補正は,平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。


第3 本願発明について

1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されることとなるので,本願の請求項1?5に係る発明は,平成24年7月9日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されるものであるところ,その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,次のとおりのものである。
「【請求項1】
被検体にX線を曝射するX線管と、
前記被検体を透過したX線を含むX線を検出する、スライス方向に複数のX線検出素子を有するX線検出器と、
前記複数のX線検出素子にそれぞれ対応するX線検出データを収集するデータ収集手段と、
前記X線検出データから前記複数のX線検出素子にそれぞれ対応する生データを生成する生データ生成手段と、
前記生データから指定可能な出力用の画像データの、前記X線検出素子の前記スライス方向の幅の自然数倍のスライス厚以下であり、前記X線検出素子の前記スライス方向の幅の自然数倍のスライス厚を有する複数スライス位置の単位画像データを生成する単位画像データ生成手段と、
前記複数スライス位置の単位画像データを記憶装置に記憶させると共に、前記被検体としての第1の被検体の検査が終了して前記第1の被検体とは異なる第2の被検体に関するX線検出データが収集される場合、前記第1の被検体に関する単位画像データを前記記憶装置から消去するデータ記憶制御手段と、
前記スライス厚が設定される度に前記記憶装置に記憶された複数スライス位置の単位画像データに基づいて、指定された複数のスライス厚に対応する複数スライス位置の出力画像データを生成する出力画像データ生成手段と、
を有することを特徴とするX線CT装置。」

2 引用刊行物及びその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である上記引用例1及び2の記載事項は,上記「第2」「3 引用刊行物及びその記載事項」に記載したとおりである。

3 対比・判断
上記「第2」「2 補正事項について」に記載したとおり,本願補正発明は,本願発明の「自然数倍」を「1倍」にしたものであるから,本願発明は,本願補正発明の「1倍」を「自然数倍」に拡張した発明といえる。その本願補正発明が,前記「第2」「4 対比・判断」に記載したとおり,引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明することができたものである以上,「1倍」を含む「自然数倍」である本願発明も同様の理由により,当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,その余の請求項に係る発明について言及するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。

よって,結論のとおり,審決する。
 
審理終結日 2014-04-17 
結審通知日 2014-04-22 
審決日 2014-05-07 
出願番号 特願2006-245885(P2006-245885)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61B)
P 1 8・ 575- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小田倉 直人  
特許庁審判長 尾崎 淳史
特許庁審判官 三崎 仁
藤田 年彦
発明の名称 X線CT装置およびX線CT装置におけるデータ処理方法  
代理人 特許業務法人東京国際特許事務所  
代理人 特許業務法人東京国際特許事務所  

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