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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05K
管理番号 1289414
審判番号 不服2013-12366  
総通号数 176 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-08-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-06-28 
確定日 2014-07-03 
事件の表示 特願2007-336413「めっき用導電性基材、その製造方法及びそれを用いた導体層パターン付き基材の製造方法、導体層パターン付き基材、透光性電磁波遮蔽部材」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 8月 6日出願公開、特開2009-176761〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本件に係る出願(以下,「本願」と言う。)は,平成19年12月27日(国内優先権 平成18年12月27日,平成19年6月15日,平成19年12月25日)の特許出願であって,平成24年6月26日付けで通知された拒絶の理由に対して,平成24年8月23日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが,平成25年3月19日付けで拒絶査定がされ,これに対して,平成25年6月28日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに同日付けの手続補正書が提出されたものである。

2.本願発明
本願の請求項1の記載は,平成25年6月28日付け手続補正書による補正(以下,「本件補正」と言う。)により,次のものとなった。
「導電性基材の表面に,絶縁層が形成されており,その絶縁層に開口方向に向かって幅広なめっきを形成するための凹部が形成されているめっき用導電性基材であって,前記絶縁層が,ダイヤモンドライクカーボン(DLC)又は無機材料からなり,凹部の高さをh,凹部の側面の幅をsとしたとき,tanα=h/sにより求められる凹部側面の角度αが,10度以上80度以下であるめっき用導電性基材。」
ところで,本件補正前の請求項1,請求項8の記載は,それぞれ,次のとおりであった。
「【請求項1】
導電性基材の表面に,絶縁層が形成されており,その絶縁層に開口方向に向かって幅広なめっきを形成するための凹部が形成されているめっき用導電性基材であって,前記絶縁層が,ダイヤモンドライクカーボン(DLC)又は無機材料からなるめっき用導電性基材。」
「【請求項8】
凹部側面の角度が絶縁層側で10度以上80度以下である請求項1?7のいずれかに記載のめっき用導電性基材。」
本件補正後の請求項1の記載は,本件補正前の請求項8の記載で請求項1の記載を引用している部分に対応し,さらに発明特定事項である「凹部側面の角度α」につき「凹部の高さをh,凹部の側面の幅をsとしたとき,tanα=h/sにより求められる」との説明を発明特定事項として付加したものである。
そうしてみると,本件補正は,請求項1の記載についていえば,本件補正前の請求項1を削除して本件補正前の請求項8を繰り上げると共に明りょうでない記載の釈明を行ったもの,ということができる。また,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲及び図面(以下,「当初明細書等」と言う。)には,凹部側面の角度αにつき,凹部の高さをh,凹部の側面の幅をsとしたとき,tanα=h/sにより求められる旨の記載があるから(明細書の段落【0022】,図2(b)参照。),請求項1についての本件補正は,当初明細書等に記載した範囲内においてしたものである。
したがって,請求項1についての本件補正は,特許法第17条の2第5項の規定に適合するので,以下,本件補正後の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」と言う。)について,検討する。

3.刊行物
(1)原査定の拒絶の理由に示された特開平11-26980号公報(以下「刊行物1」と言う。)には,図面とともに以下の事項が記載されている。
・「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,電磁波遮蔽板およびその製造法に関し,更に詳しくは,例えば,ディスプレイ用電子管等の多量の電磁波発生源から発生する電磁波を遮蔽することができる電磁波遮蔽板およびその製造法に関するものである。」
・「【0011】次に,本発明にかかる電磁波遮蔽板の製造法について説明すると,本発明にかかる電磁波遮蔽板の製造法は,まず,図4に示すように,金属板等の導電性基板11の上に,電着を阻害する絶縁性膜12でメッシュパタ-ンを形成し,該導電性基板11の面が露出し,メッシュ状に金属電着が可能な電着部13を有する電着基板14を作製する。上記において,絶縁性膜12は,例えば,公知の重クロム酸塩系やジアゾ系等の安価な水溶性フォトレジスト等を使用し,通常の光学的パタ-ンニング法によって形成するのが一般的であるが,通常,1?2回の使用で破損するので,安定的作業では,毎回絶縁膜の形成を行う必要がある。一方,選別した各種市販のフォトレジストを,本発明の電磁波遮蔽板の製造法に適用する場合には,例えば,数回?十数回程度の反復使用が可能となる。しかし,耐久性が低いので,より強固な樹脂レジストを使用することが好ましいものである。本発明において,例えば,絶縁性膜12のパタ-ニングは,機械的切削法やレ-ザ-などの熱モ-ドでの焼き飛ばし描画法などを用いて行うことが好ましい。・・・・・本発明において,図示しないが,耐久性の高い電着基板を作製する他の方法としては,例えば,ステンレス基板面に,二酸化珪素(SiO_(2))層を形成し,次いで該二酸化珪素層をフォトエッチングして絶縁層を形成して,微細で精密な,かつ,耐久性の高い電着基板を作製することができる。」
・「【0012】次に,本発明にかかる電磁波遮蔽板の製造法は,図5に示すように,上記で作製した金属板等の導電性基板11の上にパタ-ン状の電着を阻害する絶縁性膜12を有する電着基板14を,電磁波遮蔽用の金属の電解液中に浸漬して,該電着基板14の電着部13に相当する箇所に,所望の厚さにメッシュ状金属電着層3を電着する。上記において,メッシュ状金属電着層3を構成する材料としては,前述の良導電性物質としての金属が最も有利な材料として使用することができ,従って,メッシュ状金属電着層3は,一般的には,金属電着層と見てよいものである。」
・「【0013】次に,本発明にかかる電磁波遮蔽板の製造法は,図6に示すように,上記で形成したメッシュ状金属電着層3面に透明な電磁波遮蔽用基板2を重ね合わせてその両者を圧着して該透明な電磁波遮蔽用基板2面にメッシュ状金属電着層3を接着転写し,しかる後,その接着転写したメッシュ状金属電着層3を有する透明な電磁波遮蔽用基板2を電着基板14から引き剥がして,本発明にかかる電磁波遮蔽性と透視性を有する電磁波遮蔽板Aを製造することができるものである。」

刊行物1に記載された「メッシュ状に金属電着が可能な電着部13」は,上記記載を参照して刊行物1の図4を見れば,「メッシュ状金属電着層3を電着するための凹部」であると言うことができる。

以上をふまえれば,刊行物1には,次の発明が記載されていると認めることができる(以下,この発明を「引用発明」という。)。
「導電性基板の上に,絶縁性膜が形成されており,その絶縁性膜にメッシュ状金属電着層を電着するための凹部が形成されている電着基板であって,前記絶縁性膜が二酸化珪素からなる電着基板。」

(2)同じく原査定の拒絶の理由に示された特開2006-32686号公報(以下「刊行物2」という。)には,図面とともに以下の事項が記載されている。
・「【0001】本発明は,導電性に優れかつ光透過性を有するようにパターニングされた導体層パターンの製造法及びその導体層パターンを用いた電磁波遮蔽体の製造法に関する。」
・「【0018】
本発明において,導電性基材上に幾何学図形模様が描かれるように凹部を形成させた導電性基材が用いられるが,その基材に用いられる導電性材料は,その表面に電気めっきで金属を析出させるために十分な導電性を有するものであり,金属であることが好ましい。また,その基材は,その表面に電気めっきにより形成された金属箔を接着性支持体に転写させることができるように,その上に形成された金属箔が剥離しやすいものであることが好ましい。このような材料としてはステンレス鋼,クロムめっきされた鋳鉄,クロムめっきされた鋼,チタン,チタンをライニングした材料などのめっき剥離性のよい材料からなるものがさらに好ましい。」
・「【0020】
本発明において凹部は,最終的に電磁波遮蔽材を作製したときの電磁波シールド層における導電性材料部分に対応するものである。」
・「【0021】
・・・・・・凹部の形状としては(a)に示すようなU字型であってもよいし,(b)に示すようなV字型であってもよいし,(c)に示すような矩形であっても構わない。また,後にめっきした部分を剥離することを考慮し,その剥離性を向上させるために(d)に示すように,断面が上に開いた台形であってもよい。」
・「【0053】
回転体を用いて,電気めっきにより形成されたパターンを連続的に剥離しながら,構造体を巻物として得る工程を,図14を用いて説明する。図14は,導電性基材としてドラム電極を用いた場合に,連続的に金属箔付き導体層パターンを電気めっきにより析出させながら剥離する装置の概念断面図(一部正面図)である。
【0054】
すなわち,電解浴51内の電解液52が陽極53とドラム電極などの回転体54の間のスペースに配管55とポンプ56により供給されるようになっている。陽極53と回転体54の間に電圧をかけ,回転体54を一定速度で回転させると,回転体54の表面に導体層及び金属箔が電解析出し,電解液52の外で,形成された凸部パターン付き金属箔57を連続的に回転体54から剥離しつつロール(図示せず)に巻き取ることができる。このようにして導体層パターン付き金属箔を製造することができる。」

4.対比・判断
(1)引用発明の「導電性基板」は,それを開示する刊行物1の段落【0011】の記載を見れば,電磁波遮蔽板の製造に用いる電着基板のためのものであるから,その機能,目的からして,本願発明の「導電性基材」に相当する。
引用発明の「絶縁性膜」は,本願発明の「絶縁層」に相当し,引用発明の絶縁性膜が形成される「導電性基板の上」は,本願発明の絶縁層が形成される「表面」に相当する。
引用発明の「電着」は,本願発明の「めっき」に相当する。そして,引用発明の「メッシュ状金属電着層を電着するための凹部」と,本願発明の「絶縁層に開口方向に向かって幅広なめっきを形成するための凹部」とは,「めっきを形成するための凹部」である点で共通する。
引用発明の「二酸化珪素」は,無機材料の一つであって,本願発明において選択的に記載された「ダイヤモンドライクカーボン(DLC)又は無機材料」の一つであるので,本願発明の「ダイヤモンドライクカーボン(DLC)又は無機材料」に相当する。
本願発明において,「導電性基材」の表面に,凹部を有する絶縁層が形成されたものを「めっき用導電性基材」としていることから,引用発明の,導電性基板の上に絶縁性膜が形成された,「電着基板」は本願発明の「めっき用導電性基材」に相当する。

(2)以上をふまえると,本願発明と引用発明との一致点,相違点は,次のとおりである。
《一致点》
「導電性基材の表面に,絶縁層が形成されており,その絶縁層にめっきを形成するための凹部が形成されているめっき用導電性基材であって,前記絶縁層が無機材料からなるめっき用導電性基材。」
《相違点》
めっきを形成するための凹部の形状に関し,本願発明が「開口方向に向かって幅広な凹部」でありその「凹部の高さをh,凹部の側面の幅をsとしたとき,tanα=h/sにより求められる凹部側面の角度αが,10度以上80度以下である」と限定しているのに対し,引用発明ではそのような限定がされていない点。

(3)相違点について検討する。
ア 引用発明は,導電性基板のメッシュ状電着部に電着した電着物を透明な電磁波遮蔽用基板に転写する技術に関するものであるから,転写のために,凹部に付着した電着物の剥離が容易になるようにすることは,当業者にとって自明の課題といえる。
そして,このように凹部に付着したものを転写する技術においては,容易に剥離できるように,凹部の形状を開口方向に向かって幅広な傾斜を有するものとすることが周知の技術的事項である。そのような例として,特開2003-283105号公報で,特に,段落【0014】に「図1(A)は導体層形成に用いられる凹版1を示すもので,底面幅よりも開口幅が大きな断面台形状の印刷用溝1aをその一面に有している。」という記載事項があることや,特開平9-330843号公報で,特に,段落【0038】に「図4は,上記の方法で形成された凹版20の溝21の典型的な断面形状を示す。レンズの焦点深度などレーザ加工工程で使用される光学系の特性を適切に調整することによって,溝21はその側面が2?60°のテーパ角を有する台形状の断面形状を有するように形成される。これによって,後の工程で溝21の内部に充填される導電ペーストの被形成物上への転写が容易に実施できるようになる。」という記載事項があることを挙げておく。
刊行物2には,電磁波遮蔽体の製造に用いる凹部を形成させた導電性基材に関し,電気めっきにより当該凹部に形成された金属箔を接着性支持体に転写させることができるようにしたものにおいて,その剥離性を向上させるために,当該凹部の断面が上に開いた台形の構成とすること,が記載されている(以下,「刊行物2記載の技術的事項」と言う。)。
以上をふまえると,引用発明においても,凹部に付着した電着物の剥離が容易になるようにするために,刊行物2に記載された,剥離性を向上させるために凹部の断面が上に開いた台形の構成を採用することで,「開口方向に向かって幅広な凹部」とすることは,当業者が容易に着想し得たことである。
なお,引用発明は,それを開示する刊行物1に凹部を形成するために種々の手法が採用できることも記載されていることもあり,その凹部として開口方向に向かって同じ幅のものしか形成し得ないものではない。
イ また,本願発明の凹部側面の角度αは,「10度以上80度以下」とされているが,この数値範囲に格別の技術的な意義をみいだすことはできない。
すなわち,角度αの観点で本願の明細書の開示をみると,同様の数値範囲の記載は存在するが,それ以外には,段落【0022】に「この角度が小さいと作製が困難となる傾向があり,大きいと凹部にめっきにより形成し得た金属層(導体層パターン)を剥離する際,又は,別の基材に転写する際の抵抗が大きくなる傾向がある。」との一般的な説明があるにとどまり,実施例は,45度?51度のもののみである。
そして,角度αについての「10度以上80度以下」との数値範囲は,ほぼ平面及びほぼ垂直な壁を除く,傾斜面として普通に認識される範囲を全て含むと評すべきものである。
そうしてみると,凹部側面の角度αを「10度以上80度以下」とした点は,当業者がその通常の設計能力のもとに,製造可能な範囲において剥離の目的を達成できる範囲として適宜採用し得る程度のものというべきである。ウ さらに,本願発明の発明特定事項により,引用発明,刊行物2記載の技術的事項及び上記周知の技術的事項からみて格別顕著な効果が奏されるということもできない。
エ したがって,本願発明は,引用発明,刊行物2記載の技術的事項及び上記周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび
以上のとおり,本願発明は,刊行物1に開示された引用発明,刊行物2記載の技術的事項及び上記周知の技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は,拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-05-01 
結審通知日 2014-05-07 
審決日 2014-05-20 
出願番号 特願2007-336413(P2007-336413)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H05K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 平田 信勝佐々木 正章  
特許庁審判長 堀川 一郎
特許庁審判官 中川 隆司
新海 岳
発明の名称 めっき用導電性基材、その製造方法及びそれを用いた導体層パターン付き基材の製造方法、導体層パターン付き基材、透光性電磁波遮蔽部材  
代理人 大谷 保  

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