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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1289561
審判番号 不服2012-3774  
総通号数 176 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-08-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-02-28 
確定日 2014-07-09 
事件の表示 特願2006-509880「組織における無酸素性作業能力を高めるための方法及び組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成16年10月28日国際公開、WO2004/091497、平成18年10月 5日国内公表、特表2006-522821〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願(以下、「本願」という。)は、2004年 4月 8日(パリ条約による優先権主張 2003年 4月10日及び同年11月18日アメリカ合衆国(US))を国際出願日とする出願であって、以降の手続(書面の提出及び送付)の経緯は、概略以下のとおりである。
平成17年12月 9日 翻訳文提出書
平成21年 6月 9日 手続補正書
平成21年 7月 6日付け 拒絶理由通知書
平成22年 1月14日 意見書・手続補正書
平成22年 4月 9日付け 拒絶理由通知書
平成22年10月21日 意見書・手続補正書
平成23年 1月31日付け 拒絶理由通知書
平成23年 8月 8日 意見書・手続補正書
平成23年10月26日付け 拒絶査定
平成24年 2月28日 審判請求書

第2 本願発明
本願の発明は、平成23年 8月 8日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?19に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められ、その請求項1?19には以下のとおり記載されている(以下、請求項1?19に記載された発明を請求項に記載された順に「本願発明1」などとといい、まとめて「本願発明」ともいう。)。

「【請求項1】 アミノ酸として、グリシン、及びβ-アラニンのエステルもしくはアミドのみを含むか、又はアミノ酸として、グリシン、及びβ-アラニンのエステルもしくはアミドのみと、L-ヒスチジンとを含む組成物。
【請求項2】 クレアチン又は炭水化物をさらに含む、請求項1記載の組成物。
【請求項3】 グリシンと、β-アラニンのエステル又はアミドと、D-ピニトール(3-O-メチル-チロイノシトール)、4-ヒドロキシイソロイシン、デメチル-アステリキノンB-1化合物、αリポ酸、R-αリポ酸、グアニジノプロピオン酸、バナジウム化合物、バナジウム錯体、及び合成ホスホイノシトールグリカンペプチドの中から選択されるインスリン模倣体とを含む、組成物。
【請求項4】 スルホニル尿素、チアゾリジンジオン、及びビグアニドの中から選択されるインスリン作用修飾因子をさらに含む、請求項3記載の組成物。
【請求項5】 組成物が医薬品組成物である、請求項1?4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】 組成物が栄養補助食品、又はスポーツドリンクである、請求項1?4のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】 栄養補助食品又はスポーツドリンクが、ヒト用のサプリメントである、請求項6記載の組成物。
【請求項8】 β-アラニンのエステル又はアミドが、用量当たり0.2、0.3、0.4、0.5、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0、4.5、もしくは5グラムの量で存在する、請求項1?7のいずれかに記載の組成物。
【請求項9】 組成物が注射剤用に製剤化される、請求項8記載の組成物。
【請求項10】 骨格筋におけるヒドロニウムイオン濃度を調節し、筋肉におけるグルコースの取り込みを促進し、それによって対象における筋肉の無酸素性作業能力を高めるのに使用するための、請求項1?9のいずれかに記載の組成物。
【請求項11】 組成物が、β-アラニンのエステル又はアミドについて、少なくとも0.2グラムの用量を提供するように製剤化される、請求項10記載の組成物。
【請求項12】 組成物が、β-アラニンのエステル又はアミドについて、0.2グラム?6.4グラムの用量を提供するように製剤化される、請求項10記載の組成物。
【請求項13】 組成物が、β-アラニンのエステル又はアミドについて、少なくとも0.5グラムの用量を提供するように製剤化される、請求項10記載の組成物。
【請求項14】 組成物が、β-アラニンのエステル又はアミドについて、5グラムより大きい用量を提供するように製剤化される、請求項10記載の組成物。
【請求項15】 組成物が、β-アラニンのエステル又はアミドについて、少なくとも16グラムの用量を提供するように製剤化される、請求項10記載の組成物。
【請求項16】 組成物が、少なくとも3日の期間にわたって投与されるように製剤化される、請求項11?15のいずれかに記載の組成物。
【請求項17】 組成物が、少なくとも3日から2週間の期間にわたって投与されるように製剤化される、請求項11?15のいずれかに記載の組成物。
【請求項18】 組成物が、複数回投与されるように製剤化される、請求項11?17のいずれかに記載の組成物。
【請求項19】 組成物が、栄養補助食品又はスポーツドリンクとして製剤化される、請求項11?17のいずれかに記載の組成物。」

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由の概要は、この出願は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に適合するものではないから、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしておらず、また、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、特許法第36条6項に規定する要件を満たしていないというものである。

第4 当審の判断
当審は、原査定のとおり、この出願は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に適合するものではないから、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしておらず、また、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、特許法第36条6項に規定する要件を満たしていないと判断する。
その理由を以下に述べる。

1 発明の詳細な説明の記載

この出願の明細書の発明の詳細な説明は補正されていない。発明の詳細な説明には、以下の事項が記載されている。

ア「【0017】本発明は特定の作用機構のいずれにも限定されるものではないが、本発明は、対象における組織でのヒドロニウムイオン濃度を調節する方法であって、以下のステップ、(a)(i)グリシン、インスリン、インスリン模倣体、もしくはインスリン作用修飾因子と、β-アラニン、β-アラニンの化学的誘導体、及びβ-アラニン又はその類似体もしくは模倣体を含むペプチドからなる群から選択されるアミノ酸もしくはその活性誘導体を有する組成物との混合物、(ii)注射剤型の、少なくとも0.5グラムのβ-アラニンを含むペプチドもしくはエステル、又は(iii)少なくとも200mgのβ-アラニン、を含む組成物を準備するステップ、並びに(b)組織でのヒドロニウムイオン濃度を調節するのに効果的な量で対象に組成物を投与するステップ、を含む前記方法を提供する。
【0018】一つの態様において、本発明は、筋肉及び他の組織の無酸素性作業能力を高めるための方法及び組成物であることを特徴とする。本発明の方法及び組成物は、体における組織内での、クレアチン、及び/又はβ-アラニルヒスチジンジペプチド、もしくはβ-アラニン及びL-ヒスチジン類似体の同時の蓄積を与える。本方法は、体内へ組成物を摂取すること又は注入することを含む。一つの態様において、本組成物は、クレアチンのアベイラビリティ及び取り込みを増大させる能力がある化合物と、ヒト及び動物組織におけるβ-アラニルヒスチジンジペプチドの合成及び蓄積のための前駆体との混合物である。本発明の組成物は、体内へ導入されたときに、ヒトもしくは動物体におけるβ-アラニルヒスチジンジペプチドの合成及び蓄積を誘起することができる。
【0019】本組成物は、β-アラニンや、カルノシン、アンセリン、及びバレニン、さらにそれらの類似体等の、β-アラニンのエステル、β-アラニンのペプチドのようなβ-アラニンの化学的誘導体及び類似体を含むことができる。本組成物はまた、L-ヒスチジン及びその混合物を含んでいても良い。β-アラニン及び/又はL-ヒスチジンのそれぞれは、個々のアミノ酸として、又はジペプチド(例えば、カルノシン、アンセリン、及び/又はバレニン)、オリゴペプチド、もしくはポリペプチドの構成成分として製剤化され又は投与することができる。β-アラニン、L-ヒスチジン、カルノシン、アンセリン、及び/又はバレニン、もしくはβ-アラニンのペプチドは活性誘導体であり得る。活性誘導体は、ある物質から誘導されもしくはある物質の前駆体であり、また体内においてその物質と同じかもしくは類似する状態で機能し、あるいは体内に置かれた場合にその物質へと加工されるものである。例としては、例えば、エステル及びアミドが含まれる。組成物はまた、クレアチン、炭水化物、インスリン、インスリン模倣体、インスリン作用修飾因子もしくはグリシンのいずれか一以上を含むことができる。本発明の組成物は、栄養補助食品(例えば、飲料、ジェル、食品を含む)又はヒトもしくは動物のための医薬品組成物の調製に用いることができる。本発明の組成物は、本発明の方法のいずれにおいても用いることができる。」

イ「【0039】(詳細な説明)本発明は、β-アラニン、β-アラニンのペプチド、それらの類似体及び誘導体、β-アラニルヒスチジンジペプチド(例えば、カルノシン、アンセリン、及びバレニン)を含む組成物並びに、組織の無酸素性作業能力を高めるためのこれらの組成物を用いる方法であって、組織でのβ-アラニルヒスチジンジペプチド合成を増加させるのに効果的な量のβ-アラニンを、血液もしくは血漿に与えることを含む方法を提供する。β-アラニルヒスチジンジペプチドには、カルノシン、アンセリン、及びバレニン等のβ-アラニンのペプチドを含むことができる。一つの態様において、それらは約6.8から7.1の間のpKa値を有することができる。一つの態様において、それらは筋収縮及び疲労が進行する間、細胞内pHホメオスタシスの調節に関与し得る。タンパク質中のアミノ酸残基、無機及び有機のリン酸塩及び重炭酸塩のような、ヒドロニウムイオン緩衝に関与する他の物質の含有量は、他の細胞機能におけるそれらの関与によって制約され得る。一つの態様において、β-アラニルヒスチジンジペプチドは、細胞中にpH感受性のヒスチジン残基を蓄積する効果的な手段を提供する。筋肉β-アラニルヒスチジンジペプチド濃度の変動は、個々の運動選手の無酸素性作業能力に影響を及ぼす。
【0040】β-アラニルヒスチジンジペプチドは、体内でβ-アラニン及びL-ヒスチジンから合成される。これらの前駆体は、体内で生成され得るか、もしくは摂取されたβ-アラニルヒスチジンジペプチドの分解によるものを含め、食物を通じて利用可能とされる。体内では、β-アラニンは筋肉等の組織へ輸送される。典型的な食物が与えられる状態では、ヒト及びウマ血漿中でのβ-アラニンの濃度はL-ヒスチジンの濃度と比較して低い。これらの濃度は、ミカエリス-メンテン定数(Km)によって決められるような、その物質に対するカルノシン合成酵素、カルノシンシンセターゼの親和性との関連で考えられるべきである。ヒスチジンについてのKmは約16.8μMである。β-アラニンについてのKmは約1000から2300μMの間である。カルノシンシンセターゼのβ-アラニンに対する低い親和性、及び筋肉中でのβ-アラニンの低い濃度は、筋肉でのβ-アラニンの濃度がβ-アラニルヒスチジンジペプチドの合成に対して律速になっていることを説明している。
【0041】筋肉内のβ-アラニルヒスチジンジペプチドの量が増加すると、筋肉の性能及び筋肉によってなし得る作業量に良い影響を及ぼす。従って、ヒトもしくは動物体における組織でのβ-アラニルヒスチジンジペプチドの合成及び蓄積を増加させることが望ましい。
【0042】ヒトもしくは動物体におけるβ-アラニルヒスチジンジペプチドの合成及び蓄積は、体内のクレアチンが増加すること、β-アラニンの血液もしくは血漿濃度が増加すること、β-アラニン及びクレアチンの血液もしくは血漿濃度が増加すること、又はβ-アラニン、L-ヒスチジン、及びクレアチンの血液もしくは血漿濃度が増加することによって増加し得る。ジペプチドの増加はβ-アラニン濃度の増加と同時に起こり得る。」

ウ 本願発明の組成物の作用を確認する試験として「サラブレッド馬のI型、IIA型、及びIIB型骨格筋線維中のカルノシン濃度に対する、β-アラニン及びL-ヒスチジンの毎日複数回の投与分を含む通常の飼料の補給効果を評価した。」(【0052】実施例1)、「ヒトの血漿のβ-アラニン及びβ-アラニルジペプチド濃度に対する、遊離もしくはペプチド結合状態にあるβ-アラニンの毎日1回及び複数回の投与分を含む通常の食餌の補給効果を評価した。」(【0065】実施例2)、「β-アラニン及びタウリンの血漿濃度プロファイルに対する、7日間に1日当たり10ミリグラム/キログラム体重のβ-アラニンの3回分(すなわち、朝、昼、及び夜に投与される)を投与した効果を調べた。」(【0074】実施例3)、「筋肉のカルノシン含量及び最大随意収縮力の66%での等尺性持久力に対する、2週間に1日当たり40ミリグラム/キログラム体重のβ-アラニンの3回分(すなわち、朝、昼、及び夜に投与される)を投与した効果を調べた。」(【0077】実施例4)、「筋肉カルノシン含有量に対する、2つの投与計画を用いた4週間のβ-アラニン補給と4週間にわたり投与された等モルのL-カルノシン(β-アラニルヒスチジン)の効果を調べた。」(【0088】実施例5)が、その試験方法及び試験結果とともに記載されている。

2 実施可能要件について

(1)特許法第36条第4項第1号の規定について
特許法第36条第4項第1号は、「発明の詳細な説明は、経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に、記載しなければならない。」と規定する。この規定を受けて、特許法施行規則第24条の2は、「特許法第36条第4項第1号の経済産業省令で定めるところによる記載は、発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載することによりしなければならない。」と規定する。
つまり、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号の規定に適合するといえるためには、特許を受けようとする発明について、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に、記載したものでなければならず、その記載内容としては、発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術分野の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載することが求められているといえる。

(2)特許法第36条第4項第1号への適合性の検討
請求項1には「アミノ酸として、グリシン、及びβ-アラニンのエステルもしくはアミドのみを含むか、又はアミノ酸として、グリシン、及びβ-アラニンのエステルもしくはアミドのみと、L-ヒスチジンとを含む組成物。」が記載されている。請求項10には、請求項1を引用して「骨格筋におけるヒドロニウムイオン濃度を調節し、筋肉におけるグルコースの取り込みを促進し、それによって対象における筋肉の無酸素性作業能力を高めるのに使用するための、請求項1?9のいずれかに記載の組成物。」と記載されていること及び発明の詳細な説明の記載(上記(1)ア、イ)からみて、本願発明1は、骨格筋におけるヒドロニウムイオン濃度を調節し、筋肉におけるグルコースの取り込みを促進し、それによって対象における筋肉の無酸素性作業能力を高めるのに使用するためのものを包含する用途発明であると認められる。このような生体の機能を変化させるための組成物の用途発明について、その技術上の意義を理解するためには、当然、その組成物を実際にその用途に用いた際に、目的とする作用を有することが当業者にとって理解できるように示されている必要がある。
したがって、上記(1)で検討したことを踏まえると、骨格筋におけるヒドロニウムイオン濃度を調節し、筋肉におけるグルコースの取り込みを促進し、それによって対象における筋肉の無酸素性作業能力を高めるのに使用するための用途発明である本願発明について、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に適合するものであるためには、その組成物を骨格筋におけるヒドロニウムイオン濃度を調節し、筋肉におけるグルコースの取り込みを促進し、それによって対象における筋肉の無酸素性作業能力を高めるために用いた際に、実際に目的とする作用を発揮することができると当業者が認識し得る程度の記載がされている必要があるといえる。そこで、この観点から、本願発明についての発明の詳細な説明の記載を検討する。
請求項1の「アミノ酸として、グリシン、及びβ-アラニンのエステルもしくはアミドのみを含むか、又はアミノ酸として、グリシン、及びβ-アラニンのエステルもしくはアミドのみと、L-ヒスチジンとを含む」との記載からみて、本願発明1の組成物は、アミノ酸として、グリシンとβ-アラニンのエステルのみを含むものを包含すると認められる。
このような本願発明1に対し、発明の詳細な説明には、「サラブレッド馬のI型、IIA型、及びIIB型骨格筋線維中のカルノシン濃度に対する、β-アラニン及びL-ヒスチジンの毎日複数回の投与分を含む通常の飼料の補給効果を評価した」実施例1、「ヒトの血漿のβ-アラニン及びβ-アラニルジペプチド濃度に対する、遊離もしくはペプチド結合状態にあるβ-アラニンの毎日1回及び複数回の投与分を含む通常の食餌の補給効果を評価した」実施例2、「β-アラニン及びタウリンの血漿濃度プロファイルに対する、7日間に1日当たり10ミリグラム/キログラム体重のβ-アラニンの3回分(すなわち、朝、昼、及び夜に投与される)を投与した効果を調べた」実施例3、「筋肉のカルノシン含量及び最大随意収縮力の66%での等尺性持久力に対する、2週間に1日当たり40ミリグラム/キログラム体重のβ-アラニンの3回分(すなわち、朝、昼、及び夜に投与される)を投与した効果を調べた」実施例4、「筋肉カルノシン含有量に対する、2つの投与計画を用いた4週間のβ-アラニン補給と4週間にわたり投与された等モルのL-カルノシン(β-アラニルヒスチジン)の効果を調べた」実施例5(摘記ウ)が記載されている。これら実施例において、グリシンと共に用いられているのは、アラニン又はL-カルノシン(β-アラニルヒスチジン)であって、発明の詳細な説明において、実際に効果を確認して記載されているのは、アミノ酸として、グリシンとともに、β-アラニン又はL-カルノシン(β-アラニルヒスチジン)のみを含む組成物に限られ、アミノ酸として、グリシンとともに、β-アラニンのエステルのみを含む組成物については、発明の詳細な説明にそのような記載がない。ここで、β-アラニンの化学構造中、エステル化することができる基は、カルボキシル基のみであるから、本願発明におけるβ-アラニンのエステルとは、β-アラニンのカルボキシル基がアルコールによってエステル化された構造を有するものと認められる。そうすると、β-アラニンのエステルは、β-アラニン又はL-カルノシン(β-アラニルヒスチジン)と部分的に共通する化学構造を有するものであっても、β-アラニン又はL-カルノシン(β-アラニルヒスチジン)が、いずれも、極性基であるとともに酸性の基であるカルボキシル基を有する化合物であるのに対し、β-アラニンのエステルは、エステル化によってそのカルボキシル基が失われており、両者は極性及び酸性度の点で相違する化合物である。そして、本願発明におけるように、化合物を用いて特定の生理作用を発揮させる場合に、化合物の体内への吸収や体内での作用の発現が、化合物の物性により影響を受けることは、生体の作用に関する医学・生物の分野における技術常識である。そうすると、技術常識を考慮して発明の詳細な説明の記載を検討しても、β-アラニンのエステルが、アミノ酸として、グリシンとともに用いられた場合に、β-アラニン又はL-カルノシン(β-アラニルヒスチジン)と同様に体内へ吸収されるとともに、骨格筋におけるヒドロニウムイオン濃度を調節し、筋肉におけるグルコースの取り込みを促進し、それによって対象における筋肉の無酸素性作業能力を高める作用を実際に発揮することができるとはいえない。
したがって、発明の詳細な説明の記載は、本願発明1について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえないから、特許法第36条第4項第1号に適合するものでない。

3 サポート要件について

上記2で検討したように、本願発明1は、骨格筋におけるヒドロニウムイオン濃度を調節し、筋肉におけるグルコースの取り込みを促進し、それによって対象における筋肉の無酸素性作業能力を高めるためのものである用途発明を包含するから、そのような作用を有する組成物を提供することをその課題とするものと認められる。そして、上記2で検討したように、本願発明1の組成物は、アミノ酸として、グリシンとβ-アラニンのエステルのみを含むものを包含すると認められる。
これに対し、上記2で検討したように、技術常識を考慮して発明の詳細な説明の記載を見ても、β-アラニンのエステルが、アミノ酸として、グリシンとともに用いられた場合に、β-アラニン又はL-カルノシン(β-アラニルヒスチジン)と同様に体内へ吸収されるとともに、骨格筋におけるヒドロニウムイオン濃度を調節し、筋肉におけるグルコースの取り込みを促進し、それによって対象における筋肉の無酸素性作業能力を高める効果を発揮することができとはいえず、また、発明の詳細な説明に記載がなくても、アミノ酸として、グリシンとともβ-アラニンのエステルのみを用いた場合に、当該作用が発揮できると当業者に認識可能であるともいえない。そうすると、本願発明1において、アミノ酸として、グリシンとともにβ-アラニンのエステルのみが用いられた場合については、発明の詳細な説明から本願発明1における課題を解決できると当業者が認識できる範囲内のものであるとはいえない。
したがって、本願発明1は、発明の詳細な説明に記載されたものであるということはできないから、この出願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものでない。

第5 むすび
以上のとおり、この出願は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に適合せず、また、特許請求の範囲の記載が、同法第36条第6項第1号に適合するものでないから、同法第36条第4項及び同第6項に規定する要件を満たしていない。したがって、その余の点を検討するまでもなく、この出願は、拒絶すべきものである。
よって、上記結論のとおり、審決する。
 
審理終結日 2014-01-28 
結審通知日 2014-02-04 
審決日 2014-02-24 
出願番号 特願2006-509880(P2006-509880)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (A61K)
P 1 8・ 536- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中尾 忍  
特許庁審判長 星野 紹英
特許庁審判官 松浦 新司
齋藤 恵
発明の名称 組織における無酸素性作業能力を高めるための方法及び組成物  
代理人 平木 祐輔  
代理人 石井 貞次  
代理人 新井 栄一  
代理人 藤田 節  
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