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審決分類 審判 査定不服 (訂正、訂正請求) 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C07C
管理番号 1289863
審判番号 不服2011-8295  
総通号数 177 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-09-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-04-19 
確定日 2013-10-02 
事件の表示 特許権存続期間延長登録願2010-700053「アジドのアミドへのホスフィン還元」拒絶査定不服審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本件出願は、平成22年3月17日を出願日とする、特許権の存続期間の延長登録の出願であって、平成23年1月6日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成23年4月19日に拒絶査定不服審判が請求され、その後、平成24年5月11日付けで拒絶の理由が通知され、これに対し、平成24年11月15日に意見書が提出されるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。


2.本件出願の内容
本件出願は、特許法第67条第2項の政令で定める処分を受けることが必要であったために、特許第3502342号(以下、「本件特許」という。)の特許発明の実施をすることができなかったとして、5年の特許権の存続期間の延長登録を求めるものである。
そして、本件出願の願書によれば、その政令で定める処分(以下、「本件処分」という。)の内容は、以下のものとされている。
(1)特許権の存続期間の延長登録の理由となる処分
薬事法第14条第9項に規定する医薬品に係る同項の承認
(2)処分を特定する番号
承認番号 21400AMY00010000
(3)処分の対象となった物
i) 一般名 オセルタミビルリン酸塩
ii)販売名 タミフルドライシロップ3%
(4)処分の対象となった物について特定された用途
A型又はB型インフルエンザウイルス感染症の予防


3.本件特許及び本件製法特許発明
本件特許は、平成12年11月30日(特願2000-363912号、優先権主張 1999年12月3日 (EP)欧州特許庁)に出願され、平成15年12月12日に特許権の設定登録がされたものであって、その特許発明(以下、「本件製法特許発明」という。)は、特許明細書の特許請求の範囲の請求項1?9に記載された、次のとおりのものである。

「【請求項1】式(I):
【化1】

(式中、
R^(1)は、C_(1)?_(6)-アルキル、C_(1)?_(6)-アルケニル、C_(3)?_(6)-シクロアルキル、C_(1)?_(6)-アルコキシ、C_(1)?_(6)-アルコキシカルボニル、F、Cl、Br又はIで置換されていてもよいアルキル基であり、
R^(2)は、アルキル基であり、そしてR^(3)及びR^(4)は、相互に独立して、H又はアミノ保護基であるが、ただし、R^(3)及びR^(4)の両方がHではない)の4,5-ジアミノ-シキミ酸誘導体、又はその薬学的に許容可能な付加塩の製造方法であって、
式(II):
【化2】

(式中、
R^(1)、R^(2)、R^(3)及びR^(4)は、上記と同義である)の4-アミノ-5-アジド-シキミ酸誘導体を、触媒量の酸の存在下ホスフィンを用いて還元し、必要に応じて薬学的に許容可能な付加塩へ更に変換することを特徴とする製造方法。
【請求項2】 使用されるホスフィンが、式(III):
P(R^(5))_(3) III
(式中、R^(5)は、アルキルである)を有する、請求項1記載の方法。
【請求項3】 トリ-n-ブチルホスフィンを用いる、請求項2記載の方法。
【請求項4】 還元が、極性プロトン性溶媒中、-20?30℃の温度で行われる、請求項1?3いずれか1項記載の方法。
【請求項5】 極性プロトン性溶媒が、水性エタノールである、請求項4記載の方法。
【請求項6】 触媒量のカルボン酸の存在下で行われる、請求項1?5いずれか1項記載の方法。
【請求項7】 触媒量の酢酸0.5mol%?3.0mol%の存在下で行われる、請求項1?6いずれか1項記載の方法。
【請求項8】 式(II)の4-アミノ-5-アジド-シキミ酸誘導体が、エチル(3R,4R,5S)-4-アセトアミド-5-アジド-3-(1-エチルプロポキシ)-1-シクロヘキセン-1-カルボキシラートである、請求項1?7記載の方法。
【請求項9】 式(I)の4,5-ジアミノ-シキミ酸誘導体が、エチル(3R,4R,5S)-4-アセトアミド-5-アミノ-3-(1-エチルプロポキシ)-1-シクロヘキセン-1-カルボキシラート ホスファート(1:1)である、請求項1?7いずれか1項記載の方法。」


4.当審の拒絶理由の概要
当審で審判合議体が通知した拒絶の理由は、本件特許発明の実施に特許法第67条第2項の政令で定める処分を受けることが必要であったとは認められないから、本件出願は特許法第67条の3第1項第1号に該当するというものであり、その具体的な理由の概要は、次のとおりである。
1)提出された本件医薬品製造販売承認事項一部変更承認書においては、オセルタミビルリン酸塩の製造方法は開示されていないから、本件処分が本件製法特許発明の実施に必要であったとすることができない。

2)また、仮に、本件医薬品製造販売承認事項一部変更承認書におけるオセルタミビルリン酸塩の製造方法が開示され、その製造方法が本件製法特許発明のいずれかの製造方法に該当することが明らかにされたとしても、本件製法特許発明のうち、本件処分の対象となった医薬品の「発明特定事項及び用途に該当する事項」によって特定される範囲は、先行処分によって実施できるようになっていたといえる。


5.判断
承認の対象となる医薬品は、承認書に記載された多数の事項で特定されたものであるのに対し、特許発明は技術的思想の創作を「発明特定事項」によって表現したものである。
したがって、特許法第67条の3第1項第1号の判断において、「特許発明の実施」は、処分の対象となった医薬品その物の製造販売等の行為ととらえるのではなく、処分の対象となった医薬品の承認書に記載された事項のうち特許発明の発明特定事項に該当するすべての事項(以下、「発明特定事項に該当する事項」という。)によって特定される医薬品の製造販売等の行為ととらえるのが適切である。
ただし、特許法第68条の2は、存続期間が延長された場合の特許権の効力について、「処分の対象となった物(その処分においてその物の使用される特定の用途が定められている場合にあっては、当該用途に使用されるその物)についての特許発明の実施」以外の行為に特許権の効力が及ばないことを規定しているところ、医薬品の承認においては用途に該当する事項が定められていることから、用途を特定する事項を発明特定事項として含まない特許発明の場合には、「特許発明の実施」は、処分の対象となった医薬品の承認書に記載された事項のうち、特許発明の発明特定事項に該当するすべての事項及び用途に該当する事項(以下、「発明特定事項及び用途に該当する事項」という。)によって特定される医薬品の製造販売等の行為ととらえるのが適切である。また、医薬品の承認における用途とは、延長された権利の実効性や第三者による結果の予測性を担保すべきことを考慮すると、承認書に記載された効能・効果であると解するのが相当である。

そして、本件処分の対象となった医薬品の「発明特定事項(及び用途)に該当する事項」を備えた先行医薬品についての処分(先行処分)が存在する場合には、特許発明のうち、本件処分の対象となった医薬品の「発明特定事項(及び用途)に該当する事項」によって特定される範囲は、先行処分によって実施できるようになっていたといえ、特許法第67条の3第1項第1号の拒絶理由が生じる。また、それ以前に、特許発明における発明特定事項と医薬品の承認書に記載された事項とを対比した結果、本件処分の対象となった医薬品が、いずれの請求項に係る特許発明についてもその発明特定事項のすべてを備えているといえない場合、特許法第67条の3第1項第1号の拒絶理由が生じることはいうまでもない。

これを本件についてみると、以下のとおりである。
1)について
本件製法特許発明は、化合物の製造方法の発明であり、請求項1に記載された化合物Iは、本件処分の対象となったオセルタミビルリン酸塩を包含するものといえる。ところが、提出された本件医薬品製造販売承認事項一部変更承認書においては、オセルタミビルリン酸塩の製造方法は開示されていない。
そこで、審判請求人は、オセルタミビルリン酸塩の製造方法を開示するものとして、資料6を提出した。しかしながら、この資料6は、その記載からみて、タミフルドライシロップ3%とは別異の医薬品におけるオセルタミビルリン酸塩の製造方法を開示するものであると認められるから、タミフルドライシロップ3%を対象とする本件処分におけるオセルタミビルリン酸塩の製造方法を開示するものとはいえない。
してみると、上記資料6によっては、依然として本件医薬品製造販売承認事項一部変更承認書におけるオセルタミビルリン酸塩の製造方法は開示されていないから、本件処分が本件製法特許発明の実施に必要であったとすることができない。

2)について
事案に鑑み、さらに進んで、本件医薬品製造販売承認事項一部変更承認書におけるオセルタミビルリン酸塩の製造方法が開示され、その製造方法が、上記資料6に記載のオセルタミビルリン酸塩の製造方法と同じものであって、かつ、本件製法特許発明の製造方法に該当することが明らかにされた場合の判断を、以下に説示する。

本件製法特許発明は、化合物の製造方法の発明であり、その発明特定事項は、製造する化合物I、原料である化合物II、及び、試薬や触媒といった製造条件を構成する事項であって、用途を特定する事項を発明特定事項として含まないことは明らかである。
そこで、本件製法特許発明について、本件処分の対象となった医薬品の「発明特定事項及び用途に該当する事項」を備えた先行医薬品についての処分が存在するか否かについて検討する。
本件医薬品製造販売承認事項一部変更承認書によれば、本件処分は、平成21年12月18日に受けたとされるものであり、該医薬品の有効成分は、審判請求人により提出された審査報告書の記載からみて、オセルタミビルリン酸塩であると推認され、該オセルタミビルリン酸塩の製造方法における原料や製造条件は、上述のように、上記資料6に記載のオセルタミビルリン酸塩の製造方法における原料や製造条件と同じものであって、かつ、本件製法特許発明の製造方法における原料や製造条件に該当するものである。また、上記承認書によれば、該医薬品の効能・効果はA型又はB型インフルエンザウイルス感染症及びその予防である。そして、A型又はB型インフルエンザウイルス感染症及びその予防は、用途に該当する事項である。
一方、審判請求人が別途、審判請求している別件(不服2011-8294号(特願2010-700052号))において、該案件における政令で定める処分である承認番号21200AMY00238000の医薬品製造販売承認事項一部変更承認書による処分(以下、「別件処分」という。)におけるオセルタミビルリン酸塩の製造方法が、別件において審判請求人が提出した資料6によって開示され、該製造方法は、本件において既に審判請求人が提出した上記資料6に記載のオセルタミビルリン酸塩の製造方法と同一のものであると認められる。そうすると、別件処分におけるオセルタミビルリン酸塩の製造方法は、本件処分におけるオセルタミビルリン酸塩の製造方法と同一のものであると認められる。
そして、さらにまた他の件(特願2004-700062号)において特許庁に提出された承認番号21200AMY00238000の医薬品輸入承認事項一部変更承認書による処分すなわち別件処分の一部変更前の処分(以下、「先行処分」という。)は、平成16年7月9日に受けたとされるものであり、該医薬品の有効成分がオセルタミビルリン酸塩で、その効能・効果はA型又はB型インフルエンザウイルス感染症及びその予防であるとされているものである。ここで、先行処分におけるオセルタミビルリン酸塩の製造方法は開示されていないが、別件において審判請求人が提出した審査報告書によれば、オセルタミビルリン酸塩の製造方法は変更されていないものと認められる。そうすると、先行処分におけるオセルタミビルリン酸塩の製造方法は、別件処分におけるオセルタミビルリン酸塩の製造方法と同一のものであると認められる。
してみれば、該先行処分は、本件処分に先行する処分であって、かつ、本件処分の対象となった医薬品の「発明特定事項及び用途に該当する事項」である「オセルタミビルリン酸塩の製造方法、及び、A型又はB型インフルエンザウイルス感染症及びその予防」を備えた先行医薬品についてのものであるということができる。
そうすると、本件製法特許発明のうち、本件処分の対象となった医薬品の「発明特定事項及び用途に該当する事項」によって特定される範囲は、該先行処分によって実施できるようになっていたといえる。

この点について、審判請求人は、上記意見書において、「特許法第67条の3第1項第1号の規定は、「特許発明の実施に第67条第2項の政令で定める処分を受けることが必要であったとは認められないとき」には拒絶するというものです。したがって、本件延長登録出願が認められるか否かは、先行処分の存否にかかわらず、今般対象となる本件処分がなければ、その処分にかかる範囲の特許発明が実施し得たかどうかで判断されるべきです。」などと主張するが、審判合議体の判断は上述のとおりであって、この判断と異なる見解に基づくものと認められる審判請求人の上記主張は、採用することができない。


6.むすび
以上のとおり、本件出願は特許法第67条の3第1項第1号に該当し、特許権の存続期間の延長登録を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-05-02 
結審通知日 2013-05-07 
審決日 2013-05-20 
出願番号 特願2010-700053(P2010-700053)
審決分類 P 1 8・ 71- WZ (C07C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中西 聡  
特許庁審判長 内藤 伸一
特許庁審判官 今村 玲英子
内田 淳子
発明の名称 アジドのアミドへのホスフィン還元  
代理人 小澤 圭子  
代理人 津国 肇  
代理人 鈴木 音哉  

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