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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  F16L
審判 全部無効 特174条1項  F16L
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  F16L
管理番号 1290022
審判番号 無効2013-800054  
総通号数 177 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-09-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2013-04-01 
確定日 2014-08-05 
事件の表示 上記当事者間の特許第3768329号発明「サドル付き分水栓」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第3768329号に係る出願は、平成9年5月6日の出願であって、平成18年2月10日にその請求項1に係る発明について特許権の設定登録がなされたものである。
これに対して、株式会社タブチ(以下、「請求人」という。)から平成25年4月1日付けで請求項1に係る発明の特許について、無効審判の請求がなされたものであり、その後の手続は、以下のとおりである。

審判請求書 平成25年 4月 1日
審判事件答弁書 平成25年 6月24日
審理事項通知書 平成25年 7月29日
口頭審理陳述要領書(請求人) 平成25年 9月24日
口頭審理陳述要領書(被請求人) 平成25年 9月24日
上申書(請求人) 平成25年 9月30日
上申書(被請求人) 平成25年10月 2日
口頭審理(特許庁審判廷) 平成25年10月 8日

第2 審判請求人の主張
審判請求人は、審判請求書において、「特許第3768329号発明の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明についての特許を無効とする。審判請求の費用は被請求人の負担とする」との審決を求めている。そして、下記の証拠方法を提出し、次のとおり主張している。

1 無効理由1
本件特許発明は、甲第1号証?甲第4号証に基づき、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明であり、その特許は特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とされるべきである。

2 無効理由2
本件特許発明は、発明の詳細な説明に記載されていない事項が含まれ、特許法第36条第6項第1号、同条同項第2号の規定により特許を受けることができない発明であり、その特許は特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とされるべきである。

3 無効理由3
本件特許発明は、出願当初の明細書等に記載した事項の範囲を超えた補正がなされており、特許法第17条の2第3項の規定により特許を受けることができない発明であり、その特許は特許法第123条第1項第1号に該当し、無効とされるべきである。

4 証拠方法
甲第1号証 実願昭50-58545号(実開昭51-137722号)のマイクロフィルム
甲第2号証 日本水道協会規格(水道用サドル付分水栓、JWWA B 117-1982)
甲第3号証 実願昭61-70184号(実開昭62-181790号)のマイクロフィルム
甲第4号証 給水装置指針書(横須賀市水道局編 第5版)
甲第5号証 意見書(本件特許の審査段階における意見書)
甲第6号証 手続補正書(本件特許の審査段階における手続補正書)
甲第7号証 横須賀市水道局の立ち会い試験における報告書
甲第8号証 ビニル管用分岐帯の採用試験の報告書
甲第9号証 東京都水道局におけるサドル分水栓の規格
甲第10号証 サドル分水栓の腐食試験調査報告書
甲第11号証の1 水道管と直角に分岐する千葉県用のサドル分水栓生産仕様書
甲第11号証の2 水道管と平行に分岐する千葉県用のサドル分水栓生産仕様書
甲第12号証の1から4 株式会社日邦バルブのサドル分水栓の写真
甲第13号証 エポキシ樹脂の書籍
甲第14号証 サドル分水栓のサドルパッキンの図面
甲第15号証 JIS B 002(ねじ製図)
甲第16号証 ねじのJISハンドブック
甲第17号証の1 水道管と直角に分岐させる直角型サドル付分水栓図面
甲第17号証の2 水道管と平行に分岐させる直角型サドル付分水栓図面
甲第18号証 特開昭63-167191号公報
甲第19号証 フランジ式サドル付分水栓のカタログ
甲第20号証 久留米市の給水装置工事設計施工指針
甲第21号証 大韓民国実用新案1991-1722及びその翻訳文
甲第22号証の1 本件特許発明の出願時の明細書
甲第22号証の2 本件特許発明の出願時の図面
甲第23号証 特開昭61-149690号公報
甲第24号証 特開昭55-51196号公報
甲第25号証 実願昭54-68490号(実開昭55-168769号)のマイクロフィルム

5 口頭審理において
請求人は、口頭審理において下記の点を主張している。

・乙第1号証?乙第15号証の成立を認める。

・甲第2号証及び甲第4号証に記載のもの(フランジ式)は、結合方向変換時には、本件特許明細書でいうところの「止水部を分解」しているものであること、は認める。

・甲第1号証に甲第2号証?甲第4号証を組み合わせる際に甲第1号証のテーパネジ部のねじ山の部分のみをなくす。

第3 被請求人の主張
被請求人は、答弁書において、「本件審判請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする」との審決を求めている。そして、下記の証拠方法を提出し、次のとおり主張している。

1 無効理由1に対して
本件特許発明と甲第1号証に記載の発明とは、相違点2?9において相違するところ、いずれの相違点も、当業者が容易に想到するものではないから、本件特許発明は、進歩性を有することは明らかであり、請求人が主張する進歩性欠如の無効理由はない。

2 無効理由2に対して
本件特許発明は、特許法第36条第6項第1号及び第2号のいずれにも違反するものではないから、特許法第123条第1項第4号に該当せず、無効にされるべきものではない。

3 無効理由3に対して
平成17年12月28日付け手続補正書(甲第6号証)による補正は、新たな技術的事項を追加するものではないから、請求人が主張する無効理由3はない。

4 証拠方法
乙第1号証 「給水装置工事技術指針 本編」表紙、62頁、63頁及び奥付
乙第2号証 請求人カタログ「TBCサドル分水栓 TBC型・日本水道協会形・東京都形」
乙第3号証 被請求人カタログ「サドル分水栓 東京都仕様」
乙第4号証 日本水道協会規格「水道用ダクタイル鋳鉄管内面エポキシ樹脂粉体塗装 JWWA G 112」
乙第5号証 日本水道協会規格「水道用タールエポキシ樹脂塗料塗装方法 JWWA K 115」
乙第6号証 韓国実用新案1993-1631及びその翻訳文
乙第7号証 判定2010-600072の判定謄本
乙第8号証 日本水道協会「厚生省監修 水道施設設計指針・解説 1990」、平成7年9月20日、648頁?650頁及び奥付
乙第9号証 特開平8-159356号公報
乙第10号証 実願昭56-96308号(実開昭58-1895号)のマイクロフィルム
乙第11号証 実願昭57-162849号(実開昭59-67694号)のマイクロフィルム
乙第12号証 藤田賢二「水道工学」560頁及び奥付、平成18年10月30日
乙第13号証 無効2012-800176第1回口頭審理調書
乙第14号証 無効2012-800176号審決書
乙第15号証 請求人が製造販売しているねじ式サドル分水栓の承認図 (http;//catalog.tabuchi.co.jp/files/syouninpdf1/13nxdvsl.pdf)

5 口頭審理において
被請求人は、口頭審理において下記の点を主張している。

・甲第1号証?甲第8号証、甲第10号証?甲第17号証の1及び甲第18号証?甲第25号証の成立を認める。

・甲第9号証は、発行者及び押印がなく、甲第17号証の2は、右下に記載されている日付と社名の関係が一致していないので成立を否認する。

第4 本件特許発明
本件特許の請求項に係る発明は、本件特許請求の範囲、本件特許明細書及び本件図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである(以下、「本件特許発明」という。)。

「【請求項1】サドルとバンドから成るサドル本体を水道本管に固定し、前記サドルの上部端面に支受面を形成し、一方、分水栓本体の内部に三方口を有するボールをステムを介して回動自在に設け、前記分水栓本体に環状保持体を螺着し、この環状保持体と分水栓本体の内部に一対のボールシートを介在させて止水機構を構成し、前記環状保持体の下面と前記水道本管との間にガスケットを装着すると共に、前記分水栓本体の下部にフランジ部を形成し、前記支受面上に塗膜又は樹脂を介して前記フランジ部を重ねて支受面とフランジ部とを同一間隔に配置した4個のボルトで固定して、電気的腐食を防止すると共に、分水栓本体と支受面との結合方向を選択できるようにしたことを特徴とするサドル付分水栓。」

第5 甲各号証の記載内容
1 甲第1号証
請求人が甲第1号証として提出した本件出願日前に頒布された刊行物である、実願昭50-58545号(実開昭51-137722号)のマイクロフィルムには、図面とともに次の事項が記載されている。

・「実用新案登録請求の範囲
栓本体(4)を着脱自在な上胴(5)と下胴(6)とで構成し、上胴(5)にはボール栓嵌入部(7)と、このボール栓嵌入部に通ずる通水口12)(13)とを設けると共に、上胴のボール栓嵌入部(7)を下方に開口(8)させて、この開口(8)に下胴(6)の上端が螺合せしめられるようになし、上胴(5)のボール栓嵌入部(7)に装填されたボール栓(1)の下面を下胴(6)の上端面で支承するようにしたことを特徴とする分水栓。」(明細書第1頁第4?12行)

・「この考案は水道本管に分岐管を接続する場合などに使用する分水栓の改良に係る。」(明細書第1頁第14?15行)

・「(1)はボール栓で、外面は球形状に成形されており、且つ内部は中空で、外壁面には3個の通水孔(2a)(2b)(2c)が穿設されている。(3)は栓回動操作用スピンドルで、ボール栓(1)の側面に取外し自在に取付けられている。なお、前記3個の通水孔の位置関係は、先ずその内の一個(2c)が該スピンドル(3)の取付位置と対面する位置に設けられ、他の2個(2a)(2b)がスピンドルによる回動軸線と直交する位置に互に対面するように設けられている。(4)は栓本体であって、上胴(5)と下胴(6)とから成る。上胴(5)の内部にはボール栓嵌入部(7)が形成されている。この上胴(5)のボール栓嵌入部(7)の下端面は開口(8)されていて、この開口がボール栓の挿入口となる。また、この開口(8)の内壁面には雌ネジ(9)が形成されていて、この雌ネジ(9)に、下胴(6)の上端部外壁面に形成された雄ネジ(10)が螺合するようになっている。上胴(5)の側面には栓回動操作用スピンドル(3)が抜け出る為のスピンドル孔(11)が設けられ、且つ、上胴(5)の上端面、及び、スピンドル孔(11)の反対面にはそれぞれ通水口(12)(13)が設けられている。」(明細書第2頁第16行?第3頁第16行)

・「なお、ボール栓(1)と上胴及び下胴との直接接触を避ける為、ボール栓(1)の上下面にはリング状のシートパッキン(16)(17)を当てがって関接的に接触させるようになし、接触面の摩耗防止と、止水効果の向上とを図るものとする。」(明細書第4頁第15?19行)

・「このようにして組込みを終えた栓本体は、下胴(6)の下部外壁面に形成されたテーパネジ部(23)をサドルバンド(25)のボス部に形成されているネジ孔(26)にネジ込んで固定する。
次に上記分水栓の使用方法について説明する。先ず栓を取付けたサドルバンド(25)を水道本管(27)の所定の位置に据付け、次にスピンドル(3)を回動させて、栓を開いた状態にする。」(明細書第5頁第7?14行)

・「以上の如く、本考案の分水栓は外径が球形状を呈するボール栓を使用したので、従来のコック栓を使用したものに比べて、栓本体の内部の成形加工やボール栓自体の成型加工が簡単である上に、本考案では栓本体が上胴と下胴とから成り、下胴は上胴の下端開口(8)に螺合結合させられるようになっているので、上胴のボール栓嵌入部(7)へのボール栓の装填に際してはこの開口(8)を利用して、この開口からボール栓を挿入することができ、また、下胴の上端面をボール栓の支持に利用でき、且つ上下胴の螺合結合量を調節することによって、ボール栓を理想的な圧力で支承できるなど実用上極めて便利なものである。」(明細書第6頁第13行?第7頁第5行)

・上記記載事項及び第1図及び第2図を参照すると、サドルバンド(25)は、ボス部を有するサドルと、バンドとからなり、水道本管(27)に固定されているといえる。
また、下胴は、水平方向への突出部を備え、該突出部は、サドルのボス部の上面に対して、接触している状態か或いは隙間がある状態かは明確ではないものの(以下、この接触している状態か或いは隙間がある状態かは明確ではない状態を「近接」という。)、サドルのボス部には、下胴(6)の水平方向への突出部と近接している上面があるといえる。
また、サドルのボス部の下面には凹部が設けられており、下胴(6)の下部外壁面に形成されたテーパネジ部(23)をサドルのボス部に形成されているネジ孔(26)にネジ込んで固定されており、サドルのボス部の下面の凹部と、下胴(6)の下部外壁面に形成されたテーパネジ部(23)の外周と、水道本管(27)の外周との間で囲まれる領域に、ガスケットに相当する部材が設けられているといえる。

上記の記載事項及び図面の記載を総合すると、甲第1号証には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が実質的に記載されていると認められる。
「栓本体(4)を着脱自在な上胴(5)と下胴(6)とで構成し、上胴(5)にはボール栓嵌入部(7)と、このボール栓嵌入部に通ずる通水口(12)(13)とを設けると共に、上胴のボール栓嵌入部(7)を下方に開口(8)させて、この開口(8)に下胴(6)の上端が螺合せしめられるようになし、上胴(5)のボール栓嵌入部(7)に装填されたボール栓(1)の下面を下胴(6)の上端面で支承するようにした分水栓であって、
サドルバンド(25)は、ボス部を有するサドルと、バンドとからなり、水道本管(27)に固定し、
下胴は、水平方向への突出部を備え、
サドルのボス部には、下胴(6)の水平方向への突出部と近接している上面があり、
ボール栓は、3個の通水孔(2a)(2b)(2c)が穿設されており、
ボール栓の側面に栓回動操作用スピンドル(3)が取付けられており、
ボール栓(1)と上胴及び下胴との直接接触を避ける為、ボール栓(1)の上下面にはリング状のシートパッキン(16)(17)を当てがって間接的に接触させるようになし、接触面の摩耗防止と、止水効果の向上とを図っており、
サドルのボス部の下面には凹部が設けられており、
下胴(6)の下部外壁面に形成されたテーパネジ部(23)をサドルのボス部に形成されているネジ孔(26)にネジ込んで固定されており、
サドルのボス部の下面の凹部と、下胴(6)の下部外壁面に形成されたテーパネジ部(23)の外周と、水道本管(27)の外周との間で囲まれる領域に、ガスケットに相当する部材が設けられている、分水栓。」

2 甲第2号証
請求人が甲第2号証として提出した本件出願日前に頒布された刊行物である、日本水道協会規格(水道用サドル付分水栓、JWWA B 117-1982)には、次の事項が記載されている。

・「6.塗装 栓の鋳鉄部には、JWWA G 112(水道用ダクタイル鋳鉄管内面エポキシ樹脂粉体塗装)又はJWWA K 115(水道用タールエポキシ樹脂塗料塗装方法)に規定する塗装を施すものとする。」(第2頁第17?19行)

・第7頁の付図1の表には、「1 胴 JIS H5111(青銅鋳物)のBC6」、「15 サドル JIS G 5502(球状黒鉛鋳鉄品)のFCD40又はFCD45」と記載されている。

・第7頁の付図1には、サドル付き分水栓として、ねじ式とフランジ式とが記載されており、フランジ式では、胴の下部にフランジが設けられており、該フランジに設けた4本のボルトによって、サドルに取り付けられている。

・「7.3 栓のすり合わせ面漏れ試験 種類S(ねじ式)の栓のすり合わせ面漏れ試験は、止水機構の性能試験でありサドル機構には関係ないこと、既に金属接着剤(エポキシ樹脂系)を用いてサドル機構にねじ込んで一体化した止水機構が不合格になった場合の処置などを配慮し、サドル機構と組合わせる前に単体で試験を行うことができる。」(第22頁第24?28行)

3 甲第3号証
請求人が甲第3号証として提出した本件出願日前に頒布された刊行物である、実願昭61-70184号(実開昭62-181790号)のマイクロフィルムには、図面とともに次の事項が記載されている。

・「2.実用新案登録請求の範囲
分岐管を接続すべき既設配管に分岐管接続用の短い枝管をとりつけて、既設配管と枝管を連通させるための孔を該既設配管に穿孔し、該枝管の端に分岐管を接続する分岐管接続装置において、分岐管は既設配管からL形に曲がる分岐流路を形成するものとし、該枝管の端にその中心と同心のフランジを形成し、該枝管に接続される該分岐流路の接続端にもその中心と同心で上記のフランジに対応するフランジを形成し、両フランジを両者と同心で且つ互いに周方向に等間隔に配置された複数の締具によって締着結合したことを特徴とする分岐管接続装置。」(明細書第1頁第4?16行)

・「[考案が解決しようとする問題点]
上記のような従来技術においては、既設配管を通る流体の供給無停止および無噴出で、既設配管に分岐管を接続することができるが、既設配管へのジョイントのとりつけ位置によって、分岐管の方向が決定してしまい、任意の方向に分岐管を指向させることができないという欠点がある。
本考案は、上述の如き従来技術における欠点を解決し、分岐管を任意の方向に指向させることができるようにした分岐管接続装置を提供することを目的とするものである。」(明細書第3頁第16行?第4頁第7行)

・「上述のように、本考案による分岐管接続装置によれば、分岐管はL形に曲がる分岐流路を形成していて、その接続端に設けられたフランジ18は既設配管10に設けられた枝管12の端に設けられたフランジ17と、周方向に等間隔を隔てた複数の締具19によって締着結合されているので、分岐管の分岐方向は多方向に調節できる。例えば、第2図に示す実施例では、8個の締具によって締着結合されているので、分岐管は第2図に矢印で示す8方向に調節できる。」(明細書第7頁第2?11行)

4 甲第4号証
請求人が甲第4号証として提出した本件出願日前に頒布された刊行物である、給水装置指針書(横須賀市水道局編 第5版)には、次の事項が記載されている。

・第93頁の一番下の写真では、分水栓の分岐方向が本管と平行である状態が示されており、第97頁の二番目の写真では、分水栓の分岐方向が本管と垂直方向である状態が示されている。

・第174頁の表には「17 バネ座金 SUS304」、「8 六角ボルト SUS304」、「3 ボールケース BC6」、「1 本体 FCD40 エポキシ樹脂粉末塗装」と記載されている。

・第174頁の図面には、
フランジ式のサドル付分水栓が記載されており、ボールケースの下部にフランジが設けられており、該フランジに設けた4本のボルトによって、本体(サドル)に取り付けられている。

第6 当審の判断

1 無効理由1について
(1)対比
本件特許発明と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「ボス部を有するサドル」、「バンド」は、本件特許発明の「サドル」と「バンド」に相当し、甲1発明の「分水栓」は、サドルとバンドを備えているから、本件特許発明の「サドル付分水栓」に相当する。
甲1発明は、「サドルバンド(25)は、ボス部を有するサドルと、バンドとからなり、水道本管(27)に固定し」ているから、本件特許発明の「サドルとバンドから成るサドル本体を水道本管に固定」に相当する構成を備えている。
甲1発明の「サドルのボス部には、下胴(6)の水平方向への突出部と近接している上面」と、本件特許発明の「支受面」とは、「サドルの上部端面」に形成された「平面」である点で、共通している。
甲1発明の「上胴(5)」及び「下胴(6)」は、本件特許発明の「分水栓本体」及び「環状保持体」に相当する。また、甲1発明の「ボール栓」及び「栓回動操作用スピンドル」は、本件特許発明の「ボール」及び「ステム」に相当する。
甲1発明では、「ボール栓は、3個の通水孔(2a)(2b)(2c)が穿設されており、ボール栓の側面に栓回動操作用スピンドル(3)が取付けられて」いるから、甲1発明は本件特許発明の「分水栓本体の内部に三方口を有するボールをステムを介して回動自在に設け」に相当する構成を備えている。
甲1発明では、「上胴のボール栓嵌入部(7)を下方に開口(8)させて、この開口(8)に下胴(6)の上端が螺合せしめられるようになし、上胴(5)のボール栓嵌入部(7)に装填させたボール栓(1)の下面を下胴(6)の上端面で支承する」ので、甲1発明は本件特許発明の「分水栓本体に環状保持体を螺着」に相当する構成を備えている。
甲1発明では、「ボール栓(1)と上胴及び下胴との直接接触を避ける為、ボール栓(1)の上下面にはリング状のシートパッキン(16)(17)を当てがって間接的に接触させるようになし、接触面の摩耗防止と、止水効果の向上とを図って」いるから、甲1発明は本件特許発明の「環状保持体と分水栓本体の内部に一対のボールシートを介在させて止水機構を構成」に相当する構成を備えている。
甲1発明の「ガスケットに相当する部材」は、本件特許発明の「ガスケット」に相当する。

以上のことから、本件特許発明と甲1発明とは、次の点で一致する。
「サドルとバンドから成るサドル本体を水道本管に固定し、前記サドルの上部端面に平面を形成し、一方、分水栓本体の内部に三方口を有するボールをステムを介して回動自在に設け、前記分水栓本体に環状保持体を螺着し、この環状保持体と分水栓本体の内部に一対のボールシートを介在させて止水機構を構成し、ガスケットを装着したサドル付き分水栓。」

一方で、両者は次の点で相違する。
[相違点1]
「サドルの上部端面」に形成された「平面」に関して、本件特許発明では、フランジが重ねられる「支受面」であるのに対して、甲1発明では、「下胴(6)の水平方向への突出部と近接している上面」である点。

[相違点2]
ガスケットの装着に関して、本件特許発明では「環状保持体の下面と前記水道本管との間」であるのに対して、甲1発明では、「サドルのボス部の下面の凹部と、テーパネジ部(23)の外周と、水道本管(27)の外周との間で囲まれる領域」である点。

[相違点3]
分水栓本体に関して、本件特許発明では「分水栓本体の下部にフランジ部を形成し、前記支受面上に」「前記フランジ部を重ねて」いるのに対して、甲1発明では上胴(分水栓本体)の下部にフランジは設けられておらず、また、「下胴(6)の水平方向への突出部と近接している上面」は、下胴(6)の水平方向への突出部と近接しているにすぎない点。

[相違点4]
サドルの上部端面の平面に関して、本件特許発明では「支受面上に塗膜又は樹脂を介して」「フランジ部」を重ねているのに対して、甲1発明では「塗膜又は樹脂を介して」はおらず、また、フランジ部は重ねられていない点。

[相違点5]
分水栓とサドルとの固定に関して、本件特許発明では「支受面とフランジ部とを同一間隔に配置した4個のボルトで固定」しているのに対して、甲1発明では、「サドルのボス部」と下胴(環状保持体)とが、「下胴(6)の下部外壁面に形成されたテーパネジ部(23)をサドルのボス部に形成されているネジ孔(26)にネジ込んで固定されて」いる点。

[相違点6]
本件特許発明では「電気的腐食を防止する」のに対して、甲1発明では、電気腐食について明確な記載がない点。

[相違点7]
本件特許発明では「分水栓本体と支受面との結合方向を選択できる」のに対して、甲1発明では、上胴(分水栓本体)とサドルのボス部の「下胴(6)の水平方向への突出部と近接している上面」とは、方向を変えることができるかどうか明らかではない点。

(2)判断
相違点について、最初に相違点1、3、5及び7を同時に検討し、次に、相違点4、相違点2、相違点6の順で検討する。

[相違点1、3、5及び7]について

A 分水栓の吐出方向の変更について
甲第3号証には、分岐管を介してではあるものの、ボールバルブを任意の方向に指向させることができるようにすることが記載されており(前記甲第3号証の記載事項を参照。)、また、甲第2号証及び甲第4号証には、フランジ式のサドル付分水栓で、「止水部を分解」する必要はあるものの、結合方向を変換することが可能な分水栓が記載されており、特に、甲第4号証には、フランジ式のサドル付分水栓において、分岐方向が本管と平行である状態と、分岐方向が本管と垂直方向である状態が示されていることから(前記甲第2号証の記載事項及び甲第4号証の記載事項を参照。)、甲1発明においても、分水栓の吐出方向を変更しようとすることは、当然に要求されるべき課題であるといえる。
ここで、甲1発明では、上胴は下胴を介してサドルに取付けられており、また、上胴と下胴との螺合は、「上下胴の螺合結合量を調整することによって、ボール栓を理想的な圧力で支承できる」(前記甲第1号証の記載事項を参照。)ようにするために、その螺合結合量を、むやみに変更できないことを考慮すれば、分水栓の吐出方向を変更するためには、栓本体(上胴及び下胴)とサドルとの結合方向を変更する必要が有ることは明らかである。

B フランジ部について
甲1発明では、下胴(6)の下部外壁面に形成されたテーパネジ部(23)をサドルのボス部に形成されているネジ孔(26)にネジ込んで固定されており、これによって下胴をサドルに取付けている。そして、甲1発明においては、上胴と下胴とが間にボール栓及びシートパッキンを介在して組合わさることにより止水部となり、これがサドルに取り付けられている。ここで、上胴の機能は、ボール栓及びシートパッキンを内包することであり、一方、下胴の機能は、下胴の上端面でボール栓を支持すること、及び、下胴の下部外壁面のテーパネジ部で、サドルのボス部に形成されているネジ孔にネジ込んで、組込み終えた栓本体(上胴、ボール栓、シートパッキン及び下胴)をサドルに固定することである。
一方、甲第2号証では、胴(1)の内部にボールとボールシートを内包して止水部となり、この胴に設けられたフランジでサドルに取付けられているところ、甲第2号証における胴のボールとボールシートを内包している部分は、甲1発明のボール栓及びシートパッキンを内包する上胴と同様の機能を有する。
また、甲第2号証における胴のフランジ部分は、栓をサドルに取付ける機能を果たすから、甲1発明の下胴のサドルに固定する機能と同様の機能を有するといえる。
甲第4号証も甲第2号証と同様に、ボールケース(3)のボール弁体等を内包する部分は、甲1発明の上胴と同様の機能を有し、ボールケース(3)のフランジ部分は、甲1発明の下胴のサドルに固定する機能と同様の機能を有する。
甲第3号証では、ボール弁子(15)を内包するボールバルブ(14)の下部にフランジ(18)が設けられており、このフランジによって短い枝管(12)に取付けられている。すると、甲第3号証におけるボールバルブ(14)のボール弁子を内包している部分は、甲1発明の上胴と同様の機能を有し、甲第3号証におけるフランジ部分は、ボールバルブ(14)を短い枝管(12)へ取付ける機能を果たすから、甲1発明の下胴のサドルに固定する機能と同様の機能を有する。
したがって、甲第2?4号証のフランジの部分は、甲1発明の下胴のサドルに固定する機能と同様の機能を有するといえる。

C 容易性について
前記「A 分水栓の吐出方向の変更について」で述べた如く、甲1発明において、分水栓の吐出方向を変更しようとすることは、当然に要求されるべき課題であり、分水栓の吐出方向を変更するためには、栓本体(上胴及び下胴)とサドルとの結合方向を変更する必要が有るところ、甲第2?4号証のフランジの部分は、甲1発明の下胴のサドルに固定する機能と同様の機能を有するから、甲1発明において結合方向を変更するようにするために、下胴とサドルとを取付けるための、下胴に設けられたテーパネジに代えて、下胴に甲2?4号証に記載のようなフランジを設け、その際に、サドルの上部端面に形成された平面を、フランジが重ねられる支受面とし、該フランジを甲第2、4号証に記載のように、同一間隔配置した4個のボルトでサドルに固定することによって、下胴とサドルとの結合方向を選択できるようにするまでは容易と認められる。
すると、甲1発明において、下胴にフランジを設けて、サドルの上部端面に形成された平面を、フランジが重ねられる「支受面」(相違点1に係る構成)とし、「支受面とフランジ部とを同一間隔に配置した4個のボルトで固定」(相違点5に係る構成)することにより、上胴と下胴とからなる分水栓の吐出方向を変更できるようにして、結果的に、「分水栓本体と支受面との結合方向を選択できる」(相違点7に係る構成)ようにすることは、甲第2?4号証に記載された事項から、当業者が容易に想到し得たものといえる。
一方、下胴にフランジを設け、下胴のフランジによって、上胴及び下胴からなる分水栓がサドルに取付けられるから、上胴をサドルに固定する必要はない。
すると、上胴(本件特許発明の「分水栓本体」に相当。)の下部にフランジを設ける必要もなく、また、甲1発明の上胴の下部にフランジを設けることについて、その他の証拠に示唆があるものでもない。
したがって、「分水栓本体の下部にフランジ部を形成」(相違点3に係る構成)することは、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

なお、仮に、下胴のフランジに加えて、上胴にもボルトで固定するためのフランジを設けるとすると、上胴のフランジのボルト孔と下胴のフランジのボルト孔とを合致させた状態で上胴と下胴とをサドルに固定する必要があるから、上胴と下胴との螺合が特定の相対位置(90度ごと)でしかボルトで固定できないこととなる。すると、甲1発明の「上下胴の螺合結合量を調整することによって、ボール栓を理想的な圧力で支承できる」(前記甲第1号証の記載事項を参照。)との作用を奏することができなくなるから、下胴に加えて上胴にもフランジを設けることについては、阻害要因があるといえる。

D 相違点1、3、5及び7についての小括
以上のことから、本件特許発明の相違点1、相違点5、及び、相違点7に係る構成は、甲第2?4号証に記載された事項から、当業者が容易に想到し得たものである。
一方、本件特許発明の相違点3に係る構成は、甲第1?25号証の記載から当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

[相違点4]について
甲第2号証には、栓の鋳鉄部には、JWWA G 112(水道用ダクタイル鋳鉄管内面エポキシ樹脂粉体塗装)又はJWWA K 115(水道用タールエポキシ樹脂塗料塗装方法)に規定する塗装を施すことが規格されていることが記載されており、また、甲第4号証には、本体(サドル)について、「本体 FCD40 エポキシ樹脂粉末塗装」と記載されている。(前記の甲第2、4号証の記載事項を参照。)
甲第2、4号証の上記記載から、サドル全体にエポキシ樹脂を塗装することは技術常識であることが理解される。
上記「[相違点1、3、5及び7]について」で述べた如く、甲1発明において、下胴にサドルとの結合方向を選択できるようにするためのフランジを設けた際には、サドル側にも該フランジを受けるための面を設ける必要があり、また、サドル全体にエポキシ樹脂を塗装することは甲第2、4号証に記載されているように技術常識であるから、本件特許発明の上記相違点4に係る構成である「支受面上に塗膜又は樹脂を介して前記フランジ部を重ねて」いる構成は、甲第2、4号証に記載された事項から、当業者が容易になし得たものといえる。

[相違点2]について
甲1発明におけるガスケットは、 サドルのボス部の下面の凹部と、下胴の下部外壁面に形成されたテーパネジ部の外周と、水道本管の外周との間で囲まれる領域に、装着されている。しかし、下胴の下面と水道本管、すなわち本件特許発明でいうところの「環状保持体の下面と前記水道本管との間」にガスケットが位置するものではないし、また、「環状保持体の下面と前記水道本管との間」にガスケットを装着することについての示唆が、甲第1号証あるいはその他の証拠に示唆されているものではない。
以上のことから、本件特許発明の上記相違点2に係る構成は、甲第1?25号証の記載から当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

なお、請求人は、相違点2に関して、請求書、口頭審理陳述要領書及び上申書において多々主張しているので、これらの主張についての検討を以下に記載する。

・甲1発明では、サドルのボス部の下面の凹部で、下胴の下部外壁面の外側の位置に、収納されるようにガスケットが設けられているから(甲第1号証の第2図を参照。)、甲1発明のガスケットは、サドルを水道本管に固定した際に、下胴の下部外壁面の外側の位置において、サドルのボス部の下面の凹部の天井となる部分と水道本管との間で上下方向に押圧されることになる。
このようなことから、甲1発明のガスケットは、下胴の下部外壁面の外側の位置において、サドルのボス部の下面の凹部の天井となる部分と水道本管との間のシールを行うことを目的として設けられたものとは認められるものの、下胴の下部の下面と水道本管との間、すなわち本件特許発明でいう、「環状保持体の下面と前記水道本管との間」のシールを行うことを目的としたものとは認められない。

・請求人は、サドルの下方に設けられたガスケットが水道本管に当接されたときに生じる、水道本管と干渉する部分が弾性変形して水道本管と分水栓の下面の間に装着されること、すなわち甲1発明においてガスケットが弾性変形によって「環状保持体の下面と前記水道本管との間」に装着されることを主張している。
しかし、甲第1号証の図1には組立状態の断面図が記載され、ガスケットが弾性変形した状態のものであると解されるが、この組立状態の図面においても、下胴の下面にガスケットは記載されていない。
したがって、甲1発明では、ガスケットの弾性変形によって下胴の下面に装着、すなわちガスケットを「環状保持体の下面と前記水道本管との間」に装着したものであるとは認められない。
また、甲1発明において、たとえガスケットが変形して、はみ出した部分が下胴の下面と水道本管との間に存在したとしても、元もとその位置にガスケットを装着したものではないから、本件特許発明でいうところの「環状保持体の下面と前記水道本管との間にガスケットを装着」したものということはできない。

・請求人は、甲第23号証を提出して、ガスケットが分水栓下面より内側に変形して封止している態様が示されていることを、更に、甲第24号証を提出して、分水栓の下面と本管との間にパッキンリングが装着されていることを示し、下胴の下面に装着される態様は技術常識である旨を主張している。
ところで、甲第23号証記載のものでは、サドルのボス部の下面に設けられた凹部の位置と、分水栓本体の下端とが同じ位置であり、また、甲第24号証記載のものでは、分水栓の下端はサドルのボス部の下面よりも奥まったところにある。
これに対して、甲1発明は、サドルのボス部の下面の凹部の面より、下胴の下端が下側にはみ出したものであるから、下胴の下部外壁面の外側にしかガスケットを設けることができないものであり、したがって、甲1発明と、甲第23号証及び甲第24号証で示される技術常識とを同様に論じることはできず、甲1発明において下胴の下面に装着される態様が技術常識であるとはいえない。
同様の理由から、乙第6号証に記載のものでは、リテーナ(甲1発明の下胴に相当。)の下端が締結バンドの締着部(甲1発明のサドルのボス部に相当。)の下面よりも上方にあり、甲第21号証に記載のものも乙第6号証と似た構成であるから、甲1発明と、乙第6号証及び甲第21号証に示される技術水準とを同様に論じることはできない。

[相違点6]について
請求人は、甲第2号証にサドルと胴との異種金属間の電気的腐食を防止する構成が記載されていること、及び、甲第4号証に本体とボールケースとの異種金属間の電気的腐食を防止することが記載されていると主張しているので、この点についてまず検討する。

前記「[相違点4]について」で述べたように、甲第2、4号証の記載から、サドル全体にエポキシ樹脂を塗装することは技術常識である。
ところで、甲第2号証では、胴の材質はBC6で、サドルの材質はFCD40又はFCD45で、胴とサドルとを結合するボルト及びバネ座金の材質については記載されていないから、互いに異種金属からなる胴とサドルとが、ボルト及びバネ座金を介して電気的に絶縁しているか否か明らかではない。
すると、甲第2号証に開示されるエポキシ樹脂塗装による被膜では、電気的腐食が防止されるかどうかは明らかではない。

また、甲第4号証では、ボールケースの材質はBC06で、本体(本件特許発明の「サドル」に相当。)の材質はFCD40で、ボールケースと本体とを結合する六角ボルト及びバネ座金の材質はSUS304であるから、互いに異種金属からなるボールケースと本体とが、六角ボルトとバネ座金を介して電気的に導通しているといえる。
すると、甲第4号証に開示されるエポキシ樹脂塗装による被膜では、電気腐食を防止することはできないから、該エポキシ樹脂塗装による被膜は、専ら自然腐食を防止するためのものであって、電気的腐食を防止するために設けられたものではないと解される。

以上のことから、たとえ、サドル全体にエポキシ樹脂を塗装することが技術常識であり、且つ、エポキシ樹脂が電気絶縁材料であったとしても(甲第13号証を参照。)、甲第2号証または甲第4号証に記載のものにおいて、サドルに設けられたエポキシ樹脂塗装によって電気的腐食が達成されているものとは認められない。
したがって、請求人の、甲第2号証にサドルと胴との異種金属間の電気的腐食を防止する構成が記載されている、及び、甲第4号証に本体とボールケースとの異種金属間の電気的腐食を防止することが記載されている旨の主張は、理由がない。
また、分水栓本体とサドルとの異種金属間の電気的腐食を防止することについて示されている証拠はない。
よって、本件特許発明の上記相違点6に係る構成は、甲第1?25号証の記載から当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

(3)小括
以上をまとめると、本件特許発明の上記相違点1、4、5、7に係る構成については当業者が容易になし得たものであり、一方、本件特許発明の上記相違点2、3、6に係る構成は、当業者が容易になし得たものとはいえない。
すると、たとえ本件特許発明の上記相違点1、4、5、7に係る構成が当業者が容易になし得たものであったとしても、上記相違点2、3、6に係る構成が当業者が容易になし得たものとはいえないから、上記相違点1?7に係る構成を同時に具備する本件特許発明は、甲1発明及び甲第1?25号証の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは認めることができない。
そして、本件特許発明は、「分水栓本体に環状保持体を螺着し、この環状保持体と分水栓本体の内部に一対のボールシートを介在させて止水機構を構成」したものにおいて、上記相違点3に係る構成と相違点5に係る構成を同時に具備して、「分水栓本体の下部にフランジ部を形成し、前記支受面上に」「前記フランジ部を重ねて」、「支受面とフランジ部とを同一間隔に配置した4個のボルトで固定」することにより、止水部を分解することなく分岐方向を変換できるという、甲1?25号証からでは当業者が予測できないような効果を奏するものである。
したがって、請求人が主張する無効理由1は、理由がない。

2 無効理由2について
(1)「環状保持体」について
請求人は、本件特許発明の「環状保持体」について、分水栓本体を保持すると解釈もできるし、ボールを保持すると解釈することもできるとしたうえで、「環状保持体」について、何を保持するものであるか複数の解釈を行うことができるのであるから、本件特許発明の技術的範囲が不明確であり、特許法第36条第6項第2号の規定に違反している旨を述べている。
そこで、この点について検討する。

A 環状保持体が保持するものが分水栓本体であるか否かについて
請求人は本件特許発明における環状保持体が分水栓本体を保持するものであると解釈する根拠として、環状保持体の「鍔部」を指摘している。
しかし、この「鍔部」に相当する構成が、本件の特許請求の範囲の請求項1に記載されているものではないから、本件特許発明において必須の構成というものではない。
また、本件の特許請求の範囲の請求項1では、「サドルの上部端面に支受面を形成」及び「分水栓本体の下部にフランジ部を形成し、前記支受面上に塗膜又は樹脂を介して前記フランジ部を重ねて支受面とフランジ部とを同一間隔に配置した4個のボルトで固定」と記載されているように、分水栓本体の下部のフランジ部が固定されているのは、サドルの支受面である。
このように、サドルの支受面が分水栓本体を「支受」、すなわち請求人が言うところの「保持」しているのであるから、請求人の、環状保持体が分水栓本体を保持するものであるとの解釈は認められない。

B 環状保持体が保持するものについて
本件の特許請求の範囲の請求項1では、「分水栓本体の内部に三方口を有するボールをステムを介して回動自在に設け、前記分水栓本体に環状保持体を螺着し、この環状保持体と分水栓本体の内部に一対のボールシートを介在させて止水機構を構成」と記載されており、ボール及び一対のボールシートを、分水栓本体と環状保持体との間に設けて止水機構を構成することを限定しており、また、分水栓本体から環状保持体を取り外すと、ステムの向きによっては、ボールが分水栓本体の下側に存在する開口部から落ちる状態となるから、環状保持体が保持する対象はボール及びボールシートであることは明らかである。
また、一般的に、分水栓では保持体(リテーナ)がボールを固定(保持)するものといえるから(乙第6号証の、例えば「分水栓ボールバルブ(5)を胴体(1’)の内部に固定させるリテーナー(6)」(翻訳文2頁13行。)を参照。)、本件特許発明でいう「環状保持体」の保持するものはボール及びボールシートであると解釈するのが妥当である。

(2)「環状保持体の下面」について
請求人は、「環状保持体の下面」は、明細書に記載されておらず、本件特許発明が発明の詳細な説明に記載したものではなく、さらに「環状保持体の下面」が不明確なために本件特許発明が明確ではないとし、本件特許発明は、発明の詳細な説明に記載したものではなく、また、明確ではないから、特許法第36条第6項第1号及び同条同項第2号の規定に違反している旨を述べている。
そこで、この点について検討する。

A 「環状保持体の下面」のサポート要件について
ガスケット自体は、従来のねじ式サドル付分水栓やフランジ式分水栓においても汎用されており(例えば、乙第2号証の第11頁の左下表の「14 サドルガスケット」、乙第3号証の第3頁左下表の「19 サドル取付ガスケット」、及び、甲第2号証の第7頁の付図1の表の「14 サドル取付ガスケット」を参照。)、当業者であれば、本件特許明細書の段落【0014】及び【図1】の記載から、環状保持体の下面と水道本管との間にガスケットが装着されることにより、「封止」が実現され、本件特許発明の他の構成と相俟って、本件特許発明の課題(本件明細書段落【0005】?【0008】)を解決でき、また、「サドル自体は接水しないため、流体による塗膜の損傷を防止することができ、耐久性、衛生面においても有利となる。」(本件明細書段落【0018】)との発明の効果も達成されると認識できる。
このように、本件特許発明は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、かつ、発明の詳細な説明の記載及び技術常識に基づき、当業者が本件特許発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。

B 「環状保持体の下面」の明確性要件について
本件特許発明においては、「環状保持体の下面と前記水道本管との間にガスケットを装着する」と規定されていることから明らかなように、環状保持体の下面とはガスケットを装着される部分であることは明らかである。
そして、本件明細書の実施例においては、図1の記載から、環状保持体25の段鍔部31が設けられていない部分にガスケットが装着されており、該部分が「環状保持体の下面」としていることが明らかである。

なお、請求人は、本件の図1において、環状保持体の段鍔部31と水道本管との間にもガスケットが装着されており、「段鍔部31の下面」も「環状保持体の下面」に相当する旨を主張している。
しかし、仮に請求人が主張するように、環状保持体の段鍔部31の最下端が面(下面)を構成していたとしても、本件の図1では、環状保持体の段鍔部31が設けられていない部分に、ガスケットのほとんどの部分が存在している。
そして、本件特許発明では、環状保持体の段鍔部31が設けられていない部分と水道本管との間に設けられたガスケットによって、実質的に封止が行われており、この環状保持体の段鍔部31が設けられていない部分が、本件特許発明でいうところの「環状保持体の下面」に該当すると、当業者が理解することは明らかである。

(3)小括
以上のことから、本件特許は、特許法第36条第6項第1号及び2号のいずれにも違反するものではない。
したがって、請求人が主張する無効理由2は、理由がない。

3 無効理由3について
請求人は、被請求人が手続補正書(甲第6号証)で「前記環状保持体の下面」を特定する補正をしているところ、この「前記環状保持体の下面」を特定する補正が、明細書のどの箇所を根拠になされた補正であるか明らかではなく、ガスケットを環状保持体によってどのように装着しているか記載されておらず、また、「前記環状保持体の下面」を特定する補正は、環状保持体のどの部分を特定しているのか不明であり、当初明細書に記載した事項の範囲を超えた補正であり、特許法17条の2第3項の規定に違反している旨を主張している。

そこで、上記の点について検討する。
本件特許請求の範囲の請求項1には「環状保持体の下面と前記水道本管との間にガスケットを装着する」と記載されているように、「環状保持体の下面」は、ガスケットが装着される場所で、本件の願書に最初に添付された図面である本件特許の図1には、環状保持体25におけるガスケット30が装着されている部分が明確に示されており、また、ガスケットを環状保持体によってどのように装着するかについても図1から明らかであるから、手続補正書(甲第6号証)による補正は、この環状保持体25におけるガスケット30が装着されている部分を「下面」としたに過ぎないといえる。
また、前記「2 無効理由2について (2)「環状保持体の下面」について」において述べたように、環状保持体の段鍔部31が設けられていない部分に、ガスケットのほとんどの部分が存在しており、この環状保持体の段鍔部31が設けられていない部分が、本件特許発明でいうところの「環状保持体の下面」に該当することは明らかであるから、「前記環状保持体の下面」を特定する補正は、この環状保持体の段鍔部31が設けられていない部分を特定したものであるといえる。

このように、「前記環状保持体の下面」を特定する補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内でおこなうものであり、新たな技術的事項を追加するものではないから、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものではない。
したがって、請求人が主張する無効理由3は、理由がない。

第7 むすび
以上のとおり、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件特許発明についての特許(本件の請求項1に係る発明の特許)を無効とすることができない。
本件審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定により準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-11-05 
結審通知日 2013-11-08 
審決日 2013-11-21 
出願番号 特願平9-131694
審決分類 P 1 113・ 121- Y (F16L)
P 1 113・ 537- Y (F16L)
P 1 113・ 55- Y (F16L)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 丸山 英行
特許庁審判官 平田 信勝
小関 峰夫
登録日 2006-02-10 
登録番号 特許第3768329号(P3768329)
発明の名称 サドル付き分水栓  
代理人 松田 裕史  
代理人 丸山 英之  
代理人 鮫島 正洋  
代理人 和田 祐造  
代理人 ▲高▼見 憲  
代理人 小林 哲男  
復代理人 山口 建章  
代理人 辻本 希世士  
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