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審決分類 審判 全部無効 1項2号公然実施  C03C
管理番号 1290048
審判番号 無効2013-800182  
総通号数 177 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-09-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2013-09-20 
確定日 2014-07-22 
事件の表示 上記当事者間の特許第4216969号発明「合わせガラス用中間膜及び合わせガラス」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯の概要
本件特許4216969号に係る出願(以下、「本件出願」という。)は、平成11年9月30日の出願であって、平成20年11月14日にその発明について特許権の設定登録がなされたもので、その後の手続の経緯の概要は次のとおりである。

平成24年 3月 9日 別件無効審判の請求
(無効2012-800023号)
同年11月27日 別件無効審判の審決(審判請求不成立)
同年12月28日 別件無効審判の審決取消請求を知財高裁に提起
(平成24年(行ケ)10451号事件)
平成25年 9月26日 判決言渡(請求棄却)
同年 9月20日 本件無効審判の請求
同年12月17日 審判事件答弁書の提出
平成26年 1月17日 審理事項通知書
同年 3月 6日 口頭審理陳述要領書の提出(請求人)
同年 4月 3日 同 (被請求人)
同年 4月16日 上申書の提出(請求人)
(以下、「第1の上申書」という。)
同年 4月17日 口頭審理
同年 5月19日 上申書の提出(請求人)
(以下、「第2の上申書」という。)
第2 本件発明
本件特許第4216969号の特許請求の範囲の請求項1及び2に係る発明(以下、請求項の順に「本件発明1」、「本件発明2」といい、これらを総称して「本件発明」という。)は、特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「 【請求項1】
ポリビニルアセタール樹脂100重量部と、トリエチレングリコールモノ2-エチルヘキサノエートを0.1?5.0重量%含有するトリエチレングリコールジ2-エチルヘキサノエート20?60重量部とを主成分とする合わせガラス用中間膜であって、ナトリウム(Na)を5?50ppm及び/又はカリウム(K)を5?100ppm含有することを特徴とする合わせガラス用中間膜。
【請求項2】
少なくとも一対のガラス間に、請求項1記載の合わせガラス用中間膜を介在させ、一体化させて成ることを特徴とする合わせガラス。」

第3 審判請求人の主張
請求人は、「本件特許の請求項1及び2に記載された発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求めており、その理由と証拠方法は次のとおりである。

1 無効理由
本件発明は、本件特許出願前に日本国内において販売された製品の構成と同一であるから、その特許は、特許法第29条第1号第2号に該当する発明に対しなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効にすべきである。
具体的には、請求人が「株式会社中村解体(岡山県倉敷市)」から入手した甲1の初年度登録が1998年のトヨタ「チェイサー」(以下、「甲1チェイサー」という。)のフロントガラス(以下、「甲1チェイサーガラス」という。)について、車検証の記載及びフロントガラスの刻印等をもとに(甲1、甲3、甲5及び甲6)、甲1チェイサーガラスは本件特許出願前である1998年12月に日本板硝子株式会社によって製造されてトヨタ自動車株式会社に販売され、該甲1チェイーサーガラスを搭載した乗用車(甲1チェイサー)が車検証の所有者の欄に記載された者に同時期に販売されたものである。
同様に、請求人が「株式会社中村解体(岡山県倉敷市)」から入手した甲2の初年度登録が1998年のダイハツムーヴ(以下、「甲2ムーヴ」という。)のフロントガラス(以下、「甲2ムーヴガラス」という。)についても、車検証の記載及びフロントガラスの刻印等をもとに(甲2、甲4、甲5及び甲6)、該甲2ムーヴガラスは本件特許出願前である1998年3月に旭硝子株式会社によって製造されてダイハツ工業株式会社に販売され、該甲2ムーヴガラスを搭載した乗用車(甲2ムーヴ)が1998年12月31日までに車検証の所有者の欄に記載された者に販売されたものである。
そして、甲1チェイーサーガラス及び甲2ムーヴガラスより採取した中間膜の含有成分を分析した甲7、甲8、甲9をもとに、甲1チェイサーガラス及び甲2ムーヴガラスの中間膜は、トリエチレングリコールジ2-エチルヘキサノエート(以下、「3GO」という。)中のトリエチレングリコールモノ2-エチルヘキサノエート(以下、「3GO-ME」という。)含有量、ナトリウム及びカリウムの含有量に関し本件発明の特定事項と一致しているから、本件発明は甲1チェイサーガラス及び甲2ムーヴガラスの中間膜と同一である。

2 証拠方法
請求人は、審判請求書に添付して甲第1号証ないし甲第9号証を提出し、口頭審理陳述要領書に添付して甲第10号証ないし甲第17号証を提出し、第1の上申書に添付して甲第18号証ないし甲第22号証を提出し、第2の上申書に添付して甲第23号証及び甲第24号証を提出した。

甲第1号証:報告書「フロントガラスの件」(チェイサー)(中村昌徳)
甲第2号証:報告書「フロントガラスの件」(ムーヴ)(中村昌徳)
甲第3号証:トヨタリコール等情報(トヨタ自動車株式会社がリコール等の情報を公開するウェブページ)
(http://toyota.jp/recall/campaign/se021205.html)
甲第4号証:ダイハツリコール等情報(ダイハツ工業株式会社がリコール等の情報を公開するウェブページ)
(http://www.daihatsu.co.jp/info/recall/h220917-1-f.htm)
甲第5号証:自動車用窓ガラスのトレードマークおよび製造年月の見方(一般財団法人 日本自動車査定協会が公開するウェブページ)
(http://www.jaai.com/sateidojo/expert/06-02.htm)
甲第6号証:旧工業標準化法に基づくJ I Sマーク表示制度について
(日本工業標準調査会が公開するウェブページ)
(http://www.jisc.go.jp/acc/jismrk-outline.html)
甲第7号証:結果報告書「PVB樹脂の分析」
(株式会社東レリサーチセンター)
甲第8号証:実験報告書(株式会社クラレ 浅沼芳聡)
甲第9号証:陳述書(株式会社クラレ 浅沼芳聡)
甲第10号証:Plasticizer WVC3800の仕様書(Celanese Chemicals)
甲第11号証:OXSOFT3G8の仕様書(OXEA)
甲第12号証:SIGMA-ALDRICH SAFETY DATA SHEET(金(Gold))
甲第13号証:平成24年(行ケ)第10321号審決取消請求事件における原告第2準備書面(平成25年1月31日付け)
甲第14号証:実験報告書(2)(株式会社クラレ 浅沼芳聡)
甲第15号証:結果報告書 報告書S507891補足(株式会社東レリサーチセンター)
甲第16号証:SATテクノロジー・ショーケース2013 結晶シリコン太陽電池モジュールのPID劣化現象
甲第17号証:Tech-On メガソーラー PID現象とは(日経BP社)
(http://techon.nikkeibp.co.jp/article/WORD/20131010/308603/)
甲第18号証:報告書「フロントガラスの件(2)」(中村昌徳)
甲第19号証:Analysis Report (2005年11月25日)
甲第20号証:Analysis Report (2005年12月20日)
甲第21号証:Agilent J&WウルトライナートキャピラリGCカラム
甲第22号証:Agilentカラム分析機器部品カタログ(GC、GC/MS)
甲第23号証 実験報告書(株式会社クラレ 浅沼芳聡)
甲第24号証 結果報告書 報告書S507891およびS508324補足(株式会社東レリサーチセンター)

第4 被請求人の主張
被請求人は、「本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求めており、その主張の概要と証拠方法は次のとおりである。
本件におけるチェイサーガラス及びムーヴガラスは、本件特許出願前に販売されたものではなく、また、本件発明が該チェイサーガラス及びムーヴガラスの中間膜と同一ではない。
このため、本件発明は、特許法第29条第1項第2号に該当する発明ではないので、請求人の主張に理由はなく、本件発明に係る特許は無効とすることができない。
被請求人は、答弁書に添付して乙第1号証ないし乙第25号証を提出し、口頭審理陳述要領書に添付して乙第26号証ないし乙第43号証を提出した。
乙第1号証:平成11年特許願第280310号 特許メモ
乙第2号証:グラスピット社ウェブページ
(http://www.glasspit.com/service/maker/)
乙第3号証:芹沢ガラス社ウェブページ
(http://members.jcom.home.ne.jp/serika-aap/newpage44.htm)
乙第4号証:ジャパンオートガラス社ウェブページ
(http://www.frontglass.jp/article/14078636.html)
乙第5号証:ジャパンオートガラス社ウェブページ
(http://www.frontglass.jp/article/13947827.html)
乙第6号証:化学と教育、60巻12号、公益社団法人日本化学会、2012年12月20日、506?510頁
乙第7号証:ポリファイル、2011年10月号、株式会社 大成社、2011年10月10日、26?31頁
乙第8号証:THE TRC NEWS NO.95(Apr.2006)、東レリサーチセンター、平成18年4月1日、16?18頁
乙第9号証:THE TRC NEWS NO.97(Oct.2006)、東レリサーチセンター、平成18年10月1日、1?30頁
乙第10号証:THE TRC NEWS NO.102(Jan.2008)、東レリサーチセンター、平成20年1月1日、14?15頁
乙第11号証:THE TRC NEWS NO.108(Jul.2009)、東レリサーチセンター、平成21年7月1日、19?24頁
乙第12号証:SIGMA-ALDRICH SAFETY DATA SHEET(トリ(エチレングリコール)ビス(2-エチルヘキサノエート))
乙第13号証:宮城陽、基礎・専門用語を丁寧に解説した有機化学、丸善株式会社、平成19年5月10日、144?147頁
乙第14号証:THE TRC NEWS NO.102(Jan.2008)、東レリサーチセンター、平成20年1月1日、29?32頁
乙第15号証:国際公開第2013/002292号パンフレット
乙第16号証:実験成績証明書(積水化学工業株式会社 伊豆康之)
乙第17号証:実験成績証明書(積水化学工業株式会社 伊豆康之)
乙第18号証:近畿中国四国農業研究センター研究報告第6号(2007)第133?139頁
乙第19号証:BUNSEKI KAGAKU, Vol.30(1981) 599?604頁
乙第20号証:技術情報協会、微量金属分析技術、株式会社技術情報協会、2005年1月28日、46?53頁及び199?207頁
乙第21号証:実験成績証明書(積水化学工業株式会社 角田竜太)
乙第22号証:NEW GLASS Vol.16 No.2 2001、38?45頁
乙第23号証:エレクトロニクス実装学会誌、Vol.15 No.5(2012)、379?382頁
乙第24号証:THE TRC NEWS NO.115(May.2012)、東レリサーチセンター、平成24年5月1日、25?27頁
乙第25号証:実験成績証明書(積水化学工業株式会社 角田竜太)
乙第26-1号証:定期点検整備促進対策要綱
乙第26-2号証:定期点検整備促進対策要綱、定期点検整備推進協議会
乙第27号証:定期点検整備促進運動の実施例等について、社団法人 日本自動車整備振興会連合会、日整連18-328号、平成18年12月8日
乙第28-1号証:ジャパンオートガラス社ウェブページ
(http://www.frontglass.jp/category/1477137.html)
乙第28-2号証:車検のイグチ社ウェブページ
(http://www.shaken-iguchi.jp/article/13990452.html)
乙第28-3号証:ガリバー社ウェブページ
(http://221616.com/guide/basic/inspection/technique.html)
乙第29号証:TOYOTA 仕入先CSRガイドライン、2012年12月、トヨタ自動車株式会社
乙第30号証:DAIHATSU 仕入先CSRガイドライン、2010年5月、ダイハツ工業株式会社
乙第31号証:AGC グループ行動基準
乙第32-1号証:自動車産業適正取引ガイドライン、平成19年6月策定、平成20年12月改訂、経済産業省
乙第32-2号証:取引基本契約書写し
乙第33号証:「Plasticizer WVC 3800」分析証明書(Celanese Chemicals)
乙第34号証:特許第2999177号公報
乙第35号証:特開2013-108084号公報
乙第36号証:分析化学実技シリーズ機器分析編・7 ガスクロマトグラフィー、(社)日本分析化学会、2012年1月30日、24?27頁
乙第37号証:ジーエルサイエンス株式会社総合カタログ、平成25年4月、356、454頁
乙第38号証:HPLC/ガスクロ分析?トラブル・異常事例とその発生原因、解決法?、技術情報協会、2004年10月15日、188?199頁
乙第39号証:THE TRC NEWS NO.48(July.1994)、東レリサーチセンター、平成6年7月1日、15?20頁
乙第40号証:THE TRC NEWS NO.15(Jan.1986)、東レリサーチセンター、昭和61年1月1日、10?15頁
乙第41号証:ガスクロ自由自在Q&A 準備・試料導入編、丸善株式会社、平成19年8月15日、62?65頁
乙第42号証:実験成績証明書(積水化学工業株式会社 伊豆康之)
乙第43号証:マイクロ波試料分解法によるケイ酸塩試料中のケイ素およびホウ素の定量分析、ニチアス技術時報、2012、No.1、2?6頁

第5 当審の判断
1 販売時期について
特許法第29条第1項第2号公然実施とは、守秘義務を負う者以外の者において発明を実施するものであるので、本件において、甲1チェイサーガラス及び甲2ムーヴガラスが、本件出願前に守秘義務を負わない不特定の者に販売されたといえるかについて検討する。
(1)甲1チェイサーガラスについて
ア 車検登録時及び製造年月日
甲18によれば、株式会社中村解体では、1998年1月以降に生産され1999年9月までに車検登録された使用済み車輌を入手する都度、フロントガラスの中央に車検証のコピーを貼り付け、該車輌からフロントガラスを取り外し、車検証のコピーを貼り付けたままで保管していた。
そして、甲1によれば、甲1チェイサーガラスは、初年度登録が平成10年12月の甲1チェイサーの車検証が貼付されていたので、甲1チェイサーガラスは、甲1チェイサーに搭載されていたガラスである。
また、該車検証の記載から、甲1チェイサーは、1998年12月31日までに車検証所有者の欄に記載された者に販売されたものであり(甲1)、また、甲1チェイサーガラスの製造時期は、フロントガラスの刻印及び旧JISマークが付されていることから、1998年12月に製造されたものであることは明らかである(甲1、3、5、6)。

イ 交換の可能性
そこで、次に、甲1チェイサーガラスが、初年度登録時に甲1チェイサーに装着されていたことが明らかであるかを検討する。
これは、被請求人が主張するように、自動車修理会社において自動車用フロントガラスを交換することはごく一般的に行われていたし(乙2?乙5)、フロントガラスに長さ1cm以上のキズがあると車検が不適合となるので交換せざるを得ない(乙28-1ないし乙28-3)ので、甲1チェイサーガラスが車検証の初年度登録時に甲1チェイサーに搭載されて販売されたというためには、甲1チェイサーガラスが車検証の初年度登録後に交換ガラスとして甲1チェイサーに搭載されたものではないことを明らかにしなければならないからである。
この点に関し、請求人は、甲1チェイサーガラスが「交換用ガラスとして製造・販売された可能性は極めて低いと言わざるを得ない。」(口頭審理陳述要領書第4頁の(2))とするのみで、その可能性がなかったことを明らかにしていない。
また、甲18の報告書「フロントガラスの件(2)」(中村昌徳)においても、フロントガラスの製造時期と車検証の初年度登録時期が一致していれば、そのフロントガラスは初年度登録当時から装着されていた可能性が非常に高いとするにとどまる。
これらの主張・立証からは、甲1チェイサーガラスが初年度登録時から甲1チェイサーに装着されていたことを確認することはできない。
したがって、甲1チェイサーガラスは、車検証の初年度登録時に車検証所有者の欄に記載された者に販売されたとすることはできない。

ウ 車検証所有者の欄に記載された者以外への販売
請求人は、(1)中間膜メーカーからガラスメーカーへの販売、及びガラスメーカーから自動車メーカーへの販売は、合わせガラスの製造前や車検証の初年度登録時前に行われたのであるから公然実施に係る販売にあたるし、(2)交換用ガラスとして自動車修理会社へ販売されれば、その時点で公然実施にあたると主張する(口頭審理陳述要領書第4頁の(3))。
しかし、公然実施とするためには守秘義務を負わない者に対する販売でなければならず、守秘義務を負う者には、法律上、契約上等守秘義務を負う者が含まれるほか、社会通念上や商慣習、秘密にすることが暗黙のうちに求められ期待される場合にも守秘義務が生じる。
本件においては、(1)中間膜メーカーから中間膜を購入して甲1チェイサーガラスを製造・販売する日本板硝子株式会社、及び甲1チェイサーガラスを搭載した甲1チェイーサーを販売するトヨタは、契約上あるいは商慣習上守秘義務を負うので(乙29、乙31ないし乙32-2)、これらの者への販売は公然実施にはあたらない。
また、(2)本件特許出願前に自動車修理会社へ甲1チェイサーガラスの販売が行われたことについては、具体的な証拠に基づいて明らかにされていないので、本件特許出願前に自動車修理会社への販売があったとすることはできない。
さらに、請求人は、甲1チェイサーガラス同等品が本件特許出願前に自動車修理会社に販売されなかったとは考えられないとするが、明らかにされるべきは甲1チェイサーガラスが販売されたか否かであって、中間膜の組成が明らかにされていない同等品の販売をもって公然実施を主張することはできない。
したがって、請求人の主張を検討しても、甲1チェイサーガラスが、車検証所有者の欄に記載された者以外への販売によって公然実施に到ったとすることはできない。

(2)甲2ムーヴガラスについて
甲1チェイサーガラスに関する上記(1)アと同じ理由により、甲18及び甲2の車検証によれば、甲2ムーヴガラスは、甲2ムーヴに搭載されており、また、甲2ムーヴは、1998年12月31日までに車検証所有者の欄に記載された者に販売されたことは明らかである。
しかし、甲2ムーヴガラスの製造時期に関しては、フロントガラスの刻印からは、2008年3月又は1998年3月に製造されたものであることが明らかになるにとどまる。請求人は、車検証の記載から、甲2ムーヴガラスの製造時期は1998年3月であるとするが、上記(1)イの述べたと同様に、甲2ムーヴガラスについても、初年度登録後に交換された可能性が否定できない。このため、甲2ムーヴガラスの製造時期は、2008年3月か1998年3月のいずれかであって、1998年3月には確定しない。
そして、上記(1)イ及びウで述べた理由と同様の理由から、甲2ムーヴガラスは、初年度登録時に車検証所有者の欄に記載された者に販売されたとすることはできないし、請求人の主張する車検証所有者の欄に記載された者以外への販売によって公然実施になったとすることもできない。

2 中間膜の組成の同一性について
上記のとおり、甲1チェイサーガラス及び甲2ムーヴガラスは、必ずしも本件特許出願前に守秘義務を負わない者に販売されたとはいえず、このため、公然実施があったとすることはできない。しかし、仮に、本件特許出願前に甲1チェイサーガラス及び甲2ムーヴガラスが販売されたとして、これらのガラスから取り出した中間膜の組成が本件発明と同一であるかを、中間膜の3GO中の3GO-ME含有量、ナトリウム、カリウムの観点から検討する。

2-1 中間膜中の3GO-ME含有量について
(1)中間膜の3GO中の3GO-ME含有量
甲8によれば、甲1チェイサーガラスの中間膜中の3GO含有量及び3GO中の3GO-ME含有量は、それぞれ、34重量部及び0.6重量部であり、甲7によれば、それぞれ、35重量部及び0.54重量部である。また、同じく、甲2ムーヴガラスについても、甲8によれば、それぞれ35重量部及び0.3重量部であり、甲7によれば、それぞれ、35重量部及び0.30重量部である。
これらの数値は、本件発明1において、3GOを「20?60重量部」とし、3GO中の3GO-ME含有量を「0.1?5重量%」と規定する数値範囲に含まれる。
そこで、甲1チェイサーガラスと甲2ムーヴガラスの中間膜の3GO及び3GO中の3GO-ME含有量が、それぞれの販売時における含有量と同等であるといえるかが問題となる。

(2)3GOが分解して3GO-MEを生成する可能性
しかし、甲7で3GO-ME含有量の測定結果が報告されたのは2013年8月であり、甲8では2011年6月?2013年7月の間に実験が行われている。一方、甲1チェイサーガラスと甲2ムーヴガラスが甲1チェイサーと甲2ムーヴの車検証の初年度登録時に販売されたとすると、該販売は両者とも1998年12月31日までに行われている(甲1、2)。
このため、甲1チェイサーガラスと甲2ムーヴガラスは、販売から10年以上にわたって自動車のフロントガラスとして風雨、太陽光あるいは高温に曝されてきたのであるから、これらの外部環境の影響により、中間膜の化学組成が変化する可能性があることは否定できない。そこで、甲7及び甲8の現在の測定値が、両ガラスの販売時における中間膜中の3GO及び3GO中の3GO-ME量と同等であることが、具体的に確認されなければならない。
これに関し、被請求人は、一般的に高分子材料は劣化すること(乙6?11)、一般的に3GOは加水分解して3GO-MEを生成する可能性があること(乙12?15)を示し、また、実験成績証明書により、3GOは加熱又は加熱と光照射により加水分解して3GO-MEが生成すること(乙16)、及び、合わせガラス中の中間膜に含まれる3GOは紫外線照射により3GO-MEを生成すること(乙17)を示した(答弁書第13頁の「(1-4-3)高分子材料が劣化すること」以降)。
これらの証拠及び被請求人の主張によれば、甲1チェイーサーガラス及び甲2ムーヴガラスが販売時から10年以上が経過しているという仮定に基づけば、該ガラスの中間膜中の3GOは、一部が加水分解して3GO-MEを生成した可能性は否定することはできない。
したがって、甲7及び甲8の現在における3GO-ME含有量の測定値が、甲1チェイサーガラス及び甲2ムーヴガラスの販売時における測定値と同等であることが確認できない。
なお、請求人は、乙17では合わせガラスに紫外線を20000時間(約2.3年)照射しているが、乙17の実験期間である26日間で実施し得ない測定結果であり、また、水分侵入の影響を受けやすい態様での実験であるので、その信憑性が低い旨を主張する(口頭審理陳述要領書第15頁の(8))。
しかし、被請求人の陳述によれば、乙17の実験は、過去に紫外線照射が行われた合わせガラスの3GO-ME量を測定したものであり、仮に水分の影響を受けやすいとしても、促進試験としての合理性を認めることができる。このため、請求人の主張は採用できない。

(3)請求人の主張について
ア 中間膜製造時に含まれていた3GO-ME量の算出
請求人は、3GOが加水分解すると3GO-MEと等モルで2-エチルヘキサン酸が生じることを根拠に、甲1チェイーサーガラス及び甲2ムーヴガラス中の2-エチルヘキサン酸含有量の測定値から、該ガラスの中間膜製造時に含まれていた3GO-ME量を算出でき、これによれば、甲1チェイーサーガラス及び甲2ムーヴガラスの中間膜の製造時の3GO-ME量は、本件発明で規定する範囲内であった旨を主張する(口頭審理陳述要領書第17頁の(9)、甲14)。
しかし、甲7及び甲8の現在における3GO-ME含有量の測定値が、甲1チェイサーガラス及び甲2ムーヴガラスの製造時における測定値と同等であることを、2-エチルヘキサン酸含有量の測定値から確認するにあたっては、該2-エチルヘキサン酸が外部環境からの影響を受けても安定であることを具体的に明らかにしなければならない。
これに関して、被請求人は、3GOの分解によって生成した3GO-MEは比較的安定性が高いが、2-エチルヘキサン酸は生成後に反応又は分解によりその濃度が減少する傾向があることを実験成績報告書(乙42)により示し、2-エチルヘキサン酸の定量によっては、現在における測定値から製造時における3GO-ME量を算出することはできない旨を主張する(口頭審理陳述要領書第23頁の(2-10-2))。
これによれば、2-エチルヘキサン酸は生成後に反応又は分解によりその濃度が減少する傾向があることを否定することができない。
したがって、甲1チェイーサーガラス及び甲2ムーヴガラスの中間膜中に含まれる2-エチルヘキサン酸含有量を定量することにより、これらガラスの現在における測定値から製造時における3GO-ME量を算出できるとする請求人の主張は採用することができない。
請求人は、乙42の測定方法に問題があるし(甲22)、乙42の測定値は誤差があるので、乙42の分析結果は正確ではない旨と主張するが(上申書4頁)、2-エチルヘキサン酸は生成後に反応又は分解によりその濃度が減少しないこと、すなわち、2-エチルヘキサン酸が中間膜の製造から10年以上が経過したとしても安定であることについて、具体的な根拠に基づいて明らかにしていない。
このため、甲1チェイーサーガラス及び甲2ムーヴガラスの中間膜中に含まれる2-エチルヘキサン酸含有量を定量することにより、これらガラスの現在における測定値から製造時における3GO-ME量を算出できるとする請求人の主張は採用することができない。

イ 商業的に入手可能な3GOに含まれる3GO-ME量について
請求人は、商業的に入手可能な3GOには、1.5%以下の3GO-MEが含まれているので、甲1チェイーサーガラス及び甲2ムーヴガラスの製造時には、3GOに対して1.5%以下の3GO-ME、あるいは1%かそれ以上の3GO-MEが含有されていたと主張する(口頭審理陳述要領書第9頁10行、上申書第3頁の2、甲10、甲11、甲19、甲20)。
たしかに、これらの証拠によれば本件出願当時にセラニーズ社等から商業的に入手可能な3GO中には、1%かそれ以上の3GO-MEが含有されていた蓋然性が高いといえる。
しかし、甲1チェイーサーガラス及び甲2ムーヴガラスの中間膜が、セラニーズ社等から商業的に入手した3GOを用いて製造されたものであるかは明らかではないので、甲1チェイーサーガラス及び甲2ムーヴガラスの中間膜中に含まれる3GO-ME量が1%かそれ以上であったとすることはできない。
よって、請求人の主張は採用できない。

2-2 中間膜中のナトリウム及びカリウム含有量について
甲7によれば、甲1チェイサーガラスの中間膜中のナトリウム及びカリウムの含有量は、それぞれ、29ppm及び73ppmであり、甲2ムーヴガラスについては、それぞれ、35ppm及び65ppmである。これらの数値は、本件発明1において「ナトリウム(Na)を5?50ppm及び/又はカリウム(K)を5?100ppm含有すること」と規定する数値範囲に含まれる。
そこで、甲1チェイサーガラスと甲2ムーヴガラスの中間膜中のナトリウム及びカリウムの現在における含有量が、それぞれの販売時における含有量と同等であるいえるかが問題である。すわなち、2-1で検討した3GO-MEの場合と同様に、甲1チェイサーガラスと甲2ムーヴガラスは、販売から10年以上にわたって外部環境の影響を受けてきたことにより、組成が変化した可能性が検討されなければならない。
これに関しては、乙23及び乙24には太陽電池モジュールの劣化に関して記載されているが、これによれば、ガラスと接したEVA(エチレンビニルアセテート)樹脂には、長期間実曝露されてガラス中のナトリウムが拡散していることが示されている。このため、仮に、太陽電池モジュールのガラス中のナトリウムのEVA樹脂への拡散は、その使用環境下での電位差に基づくナトリウムの移動であるとしても、ガラスがガラスと接する樹脂へのナトリウム拡散源になり得るのであるから、10年以上の長期間にわたり外部環境に曝された合わせガラスの中間膜の場合においても、ガラスからのナトリウム拡散の可能性を否定することはできない。
したがって、甲1チェイサーガラスと甲2ムーヴガラスのナトリウム及びカリウムの含有量の現在における測定値が、請求人が甲23で示すとおり、測定方法に基づく質量減損率を考慮しても本件発明の規定する範囲であったとしても、10年以上外部環境に曝された合わせガラス中間膜にナトリウムが拡散している可能性を否定できないので、両者のガラスの販売時の含有量と同等であるとすることはできない。
中間膜中にナトリウムが拡散している可能性を否定できないし、甲24を検討してもこの可能性を否定できないので、請求人の主張は採用することができない。

2-3 まとめ
以上のとおりであるので、仮に甲1チェイーサーガラス及び甲2ムーヴガラスが本願出願前に販売されたとしても、その中間膜の組成が本件発明で規定する範囲内のものであるとすることはできない。

第6 むすび
本件発明は、本件特許出願前に日本国内において公然実施された発明であると認めることができないので、請求人の主張する理由及び証拠方法によっては、本件発明についての特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第64条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-05-20 
結審通知日 2014-05-26 
審決日 2014-06-09 
出願番号 特願平11-280310
審決分類 P 1 113・ 112- Y (C03C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤代 佳  
特許庁審判長 真々田 忠博
特許庁審判官 吉水 純子
川端 修

登録日 2008-11-14 
登録番号 特許第4216969号(P4216969)
発明の名称 合わせガラス用中間膜及び合わせガラス  
代理人 井窪 保彦  
代理人 黒田 薫  
代理人 藤野 睦子  
代理人 辻 淳子  
代理人 日野 真美  
代理人 北原 潤一  
代理人 特許業務法人 安富国際特許事務所  
代理人 小松 陽一郎  
代理人 古橋 伸茂  
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