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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07D
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C07D
管理番号 1290292
審判番号 不服2013-21817  
総通号数 177 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-09-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-11-07 
確定日 2014-07-30 
事件の表示 特願2009-537198「BCLタンパクの結合パートナーとの相互作用を阻害するための化合物および方法」拒絶査定不服審判事件〔平成20年5月22日国際公開、WO2008/060569、平成22年4月2日国内公表、特表2010-510214〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2007年11月14日(パリ優先権主張 外国庁受理 2006年11月15日 米国)を国際出願日とする出願であって、平成22年11月11日に手続補正がなされ、平成24年12月6日付けで拒絶の理由が通知され、平成25年3月8日に手続補正がなされるとともに意見書が提出され、同年7月11日付けで拒絶査定がなされ、同年11月7日付けで審判請求がなされるとともに手続補正がされ、平成26年1月22日に上申書及び早期審理に関する事情説明書が提出されたものである。

第2 平成25年11月7日付け手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成25年11月7日付けの手続補正を却下する。
[理由]
1.本件補正について
平成25年11月7日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、平成25年3月8日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?21(以下「補正前発明1」?「補正前発明21」という。)を、補正後の請求項1?21(以下「補正後発明1」?「補正後発明21」という。)に補正するものであって、
補正前発明1、
「【請求項1】
以下の化合物:

【化2】

【化3】

【化4】

からなる群から選択される化合物。」
を、補正後発明1、
「【請求項1】
以下の化合物:

【化2】

【化3】

【化4】

からなる群から選択される化合物。」
とする補正を含むものであって、補正前発明1の複数の選択肢の一部(具体的には、【化4】の4番目と7番目の化合物)を削除する補正であって、補正前発明1と補正後発明1の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であるから、特許請求の範囲を限定的に減縮することを目的とする補正、すなわち特許法第17条の2第4項第2号に掲げる事項を目的とする補正と認められる。

2.独立特許要件について
上記補正は、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる事項を目的とする補正であるので、次に、上記補正が、特許法第17条の2第6項の規定により準用される特許法第126条第5項の規定に適合するかを検討する。

(1)先願について
本願優先日前の2005年6月17日を国際出願日とする出願(特願2007-516793号)であって、平成24年8月17日に登録された特許第5064213号の請求項56に係る発明は、下記のように特定されている。
(1a)「
【請求項56】
式5g:
【化69】

[式中、
R_(1)が
【化70】

【化71】

【化72】

【化73】

【化74】

【化75】

【化76】

【化77】

【化78】

である]
で示される化合物。」(以下「先願発明56」という。)
先願発明56は、【化69】において示される式gにおいて、R_(1)が【化70】乃至【化78】に挙げられた基である化合物を選択肢の一つとする化合物の発明であると認められる。
そして、それら化合物のうち、R_(1)が【化78】の5番目に記載された基である化合物(以下「化合物A」という。)は、補正後発明1における【化3】の8番目の化合物と同一化合物である。(なお、2つの置換ベンジル基に結合している窒素原子に別途結合している炭素原子(他に、水素原子、イソプロピル基、ジメチルアミノメチル基が結合している)を中心に立体配置を検討すると、上記化合物A及び補正後発明1の対応する化合物ともR配置となっている。)
そうすると、補正後発明1と先願発明56は、いずれも化合物Aを選択肢の一つとする発明であるので、当該選択肢において同一の発明である。したがって、補正後発明1は、特許法第39条第1項の規定により、本願出願の際、独立して特許を受けることができない。

(2)新規性進歩性について
ア.引用刊行物記載事項
原審で引用された本願優先日前に頒布された刊行物である国際公開第2006/009869号には、日本語訳(日本語ファミリー文献である特表2008-503489号公報を参考にした。)にて下記の記載が認められる。

(2a)「Bcl-2ファミリーに属するタンパク質は、アポトーシス誘発(例えば、Bax、Bak、Bid、Bim、Noxa、Puma)および抗アポトーシス機能(例えば、Bcl-2、Bcl-xL、Mcl-1)についてのアポトーシスの鍵となる調節物質である。このファミリーのアポトーシス誘発および抗アポトーシスのメンバー間の選択的および競合的な二量体化は、アポトーシス誘発刺激を与えられた細胞の運命を決定する。Bcl-2およびBcl-xLの癌における詳細な役割については完全には分かっていないが、Bcl-2およびBcl-xLが正常な細胞回転を妨害することにより癌の発達に寄与しているだけでなく、現在の癌治療に対する癌細胞の耐性においても役割を担っていることを裏付ける証拠がいくつか挙げられている。実験でのBcl-2(Bcl-xL)の過剰発現は、癌細胞に、化学療法剤および放射線の広いスペクトルに対する耐性を付与する(Bcl-2 family proteins: Regulators of cell-death involved in the pathogenesis of cancer and resistance to therapy. J. Cell. Biochem. 1996, 60, 23-32; Reed, J. C)。Bcl-2および/またはBcl-xLは、以下に示すように全腫瘍の50%以上において過剰に発現している(Wang, S.; Yang, D.; Lippman, M.E. Targeting Bcl-2 and Bcl-xL with nonpeptidic small-molecule antagonists. Seminars in Oncology, 2003, 5, 133-142より)。

」(2頁16行?3頁の表)

(2b)「様々な小分子はBcl-2の機能を阻害することが示されている。例えば、アシルスルホンアミドは、生化学的アッセイおよびインビトロアッセイにおいて、Bcl-2およびBcl-xLの機能を阻害することが示されている。Nature (2005) 435, 677-681。それでもなお、Bcl-2に結合し、癌におけるその抗アポトーシス機能を阻害し、腫瘍における細胞死を促進する、さらなる有機低分子の必要性が存在する。本発明は、この必要性を満足し、他の関連する利点を有するものである。」(4頁20?25行)

(2c)「実施例149


パートA

ヨウ化アリール82(2.65mmol)。ビニルボロン酸191(10.62mmol)。炭酸ナトリウム(10.62mmol)およびパラジウムテトラキス(0.530mmol)を100ml容フラスコ内で秤量した。次いで、フラスコをアルゴンでパージし、内容物を4:1のトルエン/水(30mL)に溶解した。次いで、この混合物を65℃に3時間加熱した。次いで有機層を集めた。水層を3X20mLのEtOAcで抽出した。有機層をプールし、ブラインで洗浄し、MgSO_(4)で乾燥し、減圧下で濃縮した。粗製物フラッシュクロマトグラフィーで精製した(収率85%)。

パートB

化合物192(0.110g、0.205mmol)を200ml容の丸底フラスコに入れ、これに16mltBuOHに溶解したNMO(0.111g、0.820mmol)、8mlTHF、2mlH_(2)Oを加えた。この攪拌した溶液に2.9mLのOsO_(4)(0.210g、0.0205mmol;tBuOH中2.5%)溶液を滴加した。4時間後、反応をTLCによりチェックし、出発物質(SM)は完全に消費されていた。Na_(2)S_(2)O_(3)溶液でクエンチし、酢酸エチル/ブラインに分離した。水層を洗浄し、有機物をMgSO_(4)で乾燥し、濾過し、濃縮した。
次いで、この粗製物(0.010g)をTHF(0.2mL)に溶解し、これに水(20μL)および過ヨウ素酸ナトリウム(0.0041g)を加え、一晩攪拌した。反応物をNa_(2)S_(2)O_(3)でクエンチし、ブラインで洗浄し、MgSO_(4)で乾燥し、減圧下で濃縮した。粗製物をフラッシュクロマトグラフィーで精製した。(収率85%)。

パートC


アルデヒド193(0.274mmol)を秤量し、25ml容の丸底フラスコに移し、メタノール(6mL)に溶解した。アミン194(0.549mmol)をこの溶液に加え、1時間攪拌した。濁った反応物は透明に変化した。この溶液に水素化ホウ素ナトリウム(0.549mmol)を一度に加えた。さらに等量のアミンを加え、反応物を20分間攪拌した。次いで、さらに0.5等量の水素化ホウ素ナトリウムを加えて、攪拌した。反応物を酢酸(40μL)でクエンチした。ベンゼン(2mL)を反応溶液に加え、減圧下で濃縮した。粗製物を3mlのベンゼンと共にさらにもう一回共沸させて、白色の固体を得、これを高減圧下に一晩置いた。この物質を精製することなく次の工程に用いた。

パートD


化合物195(18mgs、0.035mmol)を1/8ozバイアルに加え、これに1mlDCMを加えた後、アルデヒド196(0.070mmol)を加えた。トリアセトキシ水素化ホウ素ナトリウム(0.052mmol)を1度に加え反応物を室温で攪拌した。粗製の物質をHPLCにより精製した(収率77%)。MS(ESI(+))m/e613.5(M+H)+。」(186頁10行?188頁9行)

(2d)
「実施例200

化合物300-339は、実施例149に記載の方法にしたがって合成した。化合物300-339のMSデータを以下の表に示す。・・・」
(228-229頁)

(2e)「(実施例202)

化合物414-440を実施例149に記載の方法にしたがって合成した。化合物414-440のMSデータを以下の表に示す。・・・」(235頁末行?238頁)

(2f)「実施例217
様々な本発明化合物について、Bcl-2およびBcl-xL結合親和性解析のデータを以下に示す。“****"はKiが<0.8μM、“***"はKiが0.8?6μM、“**"はKiが6?50μM、“*"はKiが>50μMであることを示す。“†"Kiが>100μM、および“††"はKiが>200μMであることを示す。“ND"は数値が測定されなかったことを示す。
化合物 Bcl-2 Bcl-XL
・・・
300 **** †
(当審注:化合物301-338も同マークのため略)
339 **** †
・・・
414 **** †
(当審注:化合物415-436も同マークのため略)
437 **** †」(264頁5行?270頁)

イ.引用刊行物に記載された発明及び対比・判断
(ア)引用発明1
引用刊行物の上記記載から、実際に合成され(摘記(2e))、かつ、Bcl結合親和性も測定されている(摘記(2f))化合物発明である化合物438の発明(以下「引用発明1」という。)が認定できる。
(再度、下図にて示す。)

引用発明1と補正後発明1における【化2】の8番目の化合物を対比すると、両化合物の化学構造は、完全に一致している。
したがって、補正後発明1は引用刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当する。

(イ)引用発明2
引用刊行物の上記記載から、実際に合成されており(摘記(2d))、またBcl結合親和性も測定されている(摘記(2f))化合物発明である化合物307の発明(以下「引用発明2」という。)が認定できる。
(再度、下図にて示す。)

引用発明2と補正後発明1における【化2】の6番目の化合物とを対比する。両者は下記相違点2においてのみ相違し、それ以外の点で一致する。
・相違点2:2-クロロ,6-フルオロベンジル基が結合する窒素原子に別途隣接する炭素原子(以下「炭素原子B」という。)に結合するアルキル基について、引用発明2においては、2-メチルプロピル基であるのに対し、補正後発明1の最初から8番目の化合物においては、イソプロピル基である点。

相違点2について検討する。引用刊行物には、上記炭素原子Bに結合する2-メチルプロピル基に相当する基として、他のアルキル基を有する化合物も記載されている。具体的には、化合物311(2-メチルプロピル基),化合物313(2-メチルプロピル基),化合物414(t-ブチル基),化合物415(イソプロピル基),化合物417(1-メチルプロピル基),化合物438(nプロピル基)等が記載されていることからみて、引用発明2の炭素原子Bに結合する2-メチルプロピル基をt-ブチル基、イソプロピル基、1-メチルプロピル基、nプロピル基などに換えても、Bcl阻害活性が失われないと理解できる。また、このことは、摘記(2f)に示されているように、引用刊行物の化合物311(2-メチルプロピル基)と化合物415(イソプロピル基)との間でBcl-2及びBcl-xLへの結合力が同程度、すなわち、Bcl阻止活性が同程度であることとも符合する。
そうすると、Bcl阻害活性を示すさらなる新規化合物を得ることを期待して、引用発明2の炭素原子Bに結合する基を2-メチルプロピル基から、t-ブチル基、イソプロピル基、1-メチルプロピル基、nプロピル基に置き換えた化合物を得ることは、当業者の通常の発明活動の範囲内のことである。
したがって、補正後発明1は、引用発明2及び引用刊行物に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。

(ウ)引用発明3
引用刊行物の上記記載から、実際に合成されており(摘記(2d))、またBcl結合親和性も測定されている(摘記(2f))化合物発明である化合物301の発明(以下「引用発明3」という。)が認定できる。
(再度、下図にて示す。)

引用発明3と補正後発明1における【化1】の2番目の化合物とを対比する。両者は下記相違点3においてのみ相違し、それ以外の点では一致する。
・相違点3:引用発明3においては、摘記(2d)においてR_(1)で示される基に含まれる置換ベンジル基における2位の置換基が、メトキシ基であるのに対し、補正後発明1の最初から2番目の化合物においては、これに対応する基がエトキシ基である点。

相違点3について検討する。引用刊行物の摘記(2d)には、上記ベンジル基の置換基としてメトキシ基を有する化合物333及びエトキシ基を有する化合物334が記載されており、また、摘記(2f)には化合物333及び化合物334の効果が同等であることも記載されている。したがって、この両化合物に接した当業者であれば、引用発明3のメトキシ基をエトキシ基に変更しても、Bcl阻害活性が失われないことを理解するといえるから、Bcl阻害活性を示すさらなる新規化合物を得ることを期待して、引用発明3の化合物についてもR_(1)中の置換ベンジル基における2位の置換基をメトキシ基からエトキシ基にかえた化合物を製造してみることは、容易になし得ることと認められる。
したがって、補正後発明1は、引用発明3及び引用刊行物に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。

(エ)引用発明4
引用刊行物の上記記載から、実際に合成されており(摘記(2d))、またBcl結合親和性も測定されている(摘記(2f))化合物発明である化合物335の発明(以下「引用発明4」という。)が認定できる。
(再度、下図にて示す。)

引用刊行物の化合物335と補正後発明1における【化3】の1番目の化合物とを対比する。両者は下記相違点4においてのみ相違し、それ以外の点では一致する。
・相違点4:引用発明4においては、摘記(2d)においてR_(1)で示される基に含まれる置換ベンジル基における6位の置換基が、メトキシ基であるのに対し、補正後発明1の【化3】の1番目の化合物においては、それに対応する基が水酸基である点。

相違点4について検討する。引用刊行物の摘記(2d)には、上記位置の置換ベンジル基として2位及び6位の位置をメトキシ基とする化合物(化合物324)及びその一方を水酸基とする化合物(化合物336)が示されており、また、摘記(2f)には化合物324及び化合物336の効果が同等であることが記載されている。したがって、この両化合物に接した当業者であれば、引用発明4のメトキシ基を水酸基に変更しても、Bcl阻害活性が失われないことを理解するといえるから、Bcl阻害活性を示すさらなる新規化合物を得ることを期待して、引用発明4についても、R_(1)で示される基に含まれる置換ベンジル基における6位の置換基をメトキシ基から水酸基にかえた化合物を製造してみることは当業者が容易になし得る程度のことと認められる。
したがって、補正後発明1は、引用発明4及び引用刊行物に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。

(3)独立特許要件についての小括
(1)、(2)に示したように、補正後発明1は、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、また、特許法第29条第2項及び特許法第39条第1項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(4)補正却下の小括
本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、補正却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
上記のとおり、平成25年11月7日付け手続補正が却下されたため、本願発明は、平成25年3月8日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?21により特定される発明であって、前記「第2 1.」で補正前発明1?21として示したものと認められる。

第4 原査定の概要
平成25年7月11日付け拒絶査定は、平成24年12月6日付け拒絶理由通知書の理由2によって本願を拒絶するものであり、その理由2には、
「2.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(1)理由 1、2
・請求項 1?24
・引用文献等 1
・備考
引用文献1には、BCLタンパク質に結合し、その機能を阻害する化合物として、本願式1に該当する化合物が多数記載されている(請求項66、67、実施例等)。
また、引用文献1の特許請求の範囲の記載等を参考にして、上記化合物の化学構造を適宜変換してみることは、当業者が適宜行うことである。
引 用 文 献 等 一 覧
1.国際公開第2006/009869号」と記載されている。

第5 当審の判断
補正前発明1には、補正後発明1の化合物がすべて含まれている。そして、上記「第2 2.独立特許要件 (2) イ(イ)?(エ)」において検討した補正前発明1に含まれる化合物、すなわち【化1】の2番目の化合物、【化2】の6番目の化合物及び【化3】の1番目の化合物については、引用発明2?4及び引用刊行物に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであることは、前述したとおりである。

第6 請求人の主張について
請求人は、審判請求書において、「引用文献1について、上記化合物300,301,307,319のBcl-2およびBcl-xLに対するKi値が実施例217に示されていますが、これによれば、これらすべての化合物のBcl-2に対するKi値「****」は<0.8μMを示したことが分かります。一方、すべての化合物のBcl-xLに対するKi値「†」は>100μMを示しており、同文献中の「††」は>200μMのKiを示すから、引用文献1に開示される化合物はBcl-xLを>100?200μMのKiで阻害することが容易に認識できます。」と主張している。
しかしながら、引用刊行物の実施例217の説明の内、Bcl-xLに関する説明には、何らかの誤記があることは次の各点から当業者が認識可能である。つまり、Kiは阻害係数を指すものであって、値が小さい程活性が高いことを前提条件として、Bcl-2阻害活性においては、活性が高いもの程マーク*が多くつくように条件設定されており、活性が高い化合物ほど表の中で目立つようにされているのに対し、Bcl-xL活性に関しては、活性が低いものほどマーク「†」が多くつくように条件設定されていることは不自然であり、「“†"Kiが>100μM、および“††"はKiが>200μMであることを示す。“ND"は数値が測定されなかったことを示す。」という記載には何らかの誤記があることは、当業者に読み取り得ることと認められる。
したがって、引用文献1に開示される化合物はBcl-xLの阻害について、100?200μMのKiを有する旨の請求人の主張は採用できない。
仮に請求人の主張が正しいとすると、本願明細書の段落0209に記載された表3,4を参照すると、本願補正前発明1に含まれる化合物34(請求項1の【化2】の8番目)のBcl-xL阻害活性は、Ki<0.2μMであるのが、同一化合物である引用刊行物の化合物438におけるBcl-xL阻害活性は†一つすなわち、100?200μMとされているのと整合しなくなる。(他の平成25年3月8日付け手続補正書により本願特許請求の範囲から削除された表4中の化合物1,19,20,21,22,25,50(引用刊行物の化合物302,334,336,306,313,330,329にそれぞれ対応)についても同様である。)
そうすると、引用刊行物のBcl-xL阻害活性の値を本願明細書中のBcl-xL阻害活性の値とそのまま比較することはできないから、上記のとおり、請求人の主張は採用できない。

第7 むすび
補正前発明1は、引用刊行物に記載された発明に基いて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-02-28 
結審通知日 2014-03-04 
審決日 2014-03-19 
出願番号 特願2009-537198(P2009-537198)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (C07D)
P 1 8・ 121- Z (C07D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 春日 淳一  
特許庁審判長 門前 浩一
特許庁審判官 井上 雅博
齋藤 恵
発明の名称 BCLタンパクの結合パートナーとの相互作用を阻害するための化合物および方法  
代理人 呉 英燦  
代理人 新田 昌宏  
代理人 秋山 信彦  
代理人 田村 恭生  
代理人 鮫島 睦  

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