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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08G
管理番号 1290552
審判番号 不服2013-16729  
総通号数 177 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-09-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-08-30 
確定日 2014-08-04 
事件の表示 特願2009- 33012「軟質ポリウレタンフォーム」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 9月 2日出願公開、特開2010-189481〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 主な手続の経緯
本願は,平成21年2月16日を出願日とする特許出願であって,平成25年3月11日付けで拒絶理由が通知され,同年4月15日に意見書が提出されるとともに特許請求の範囲及び明細書が補正され,同年5月28日付けで拒絶査定がされ,これに対して,同年8月30日に拒絶査定不服審判が請求され(なお,請求書の請求の理由を変更する補正が同年10月15日にされている。),平成26年2月21日付けで当審において拒絶理由(以下「本件拒絶理由」という。)が通知されたものである。
なお,本件拒絶理由に対して,指定期間内に,特許法159条2項で準用する同法50条所定の意見書は提出されておらず,願書に添付した明細書なども補正されていない。

第2 特許を受けようとする発明(特許請求の範囲の記載)について
特許を受けようとする発明は,平成25年4月15日に補正された特許請求の範囲並びに明細書(以下「本願明細書」という。)の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「少なくともポリオール成分,ポリイソシアネート成分,整泡剤,触媒,発泡剤とを含むポリウレタンフォーム原料を発泡させてなる軟質ポリウレタンフォームであって,前記ポリオール成分として,水酸基価が10?60mgKOH/gで,官能基が2.0?2.4で,分子量が5000?10000のポリオール(A)と,水酸基価が70?250mgKOH/gで,官能基が2.0?2.4で,分子量が400?750のポリオール(B)と,水酸基価が70?250mgKOH/gで,官能基が2.7?3で,分子量が500?2000のポリオール(C)と,エチレンオキシド含有量が60?90重量%のポリオキシアルキレンポリオール(D)を少なくとも用い,ポリオール(A)/ポリオール(B)=35?50/65?50の割合で用い,
前記ポリイソシアネート成分の使用量はイソシアネートインデックスで100?130であり,
反発弾性が25%以下であり,ヒステリシスロスが35%以下であることを特徴とするマットレス用の軟質ポリウレタンフォーム。」(以下「本願発明」という。)

第3 本件拒絶理由
本件拒絶理由は,要するに,この出願は明細書の発明の詳細な説明の記載が特許法36条4項1号で規定する要件(いわゆる実施可能要件)を満たしていない,というものである。

第4 本願が拒絶されるべき理由
1 はじめに
本願発明は,「マットレス用の軟質ポリウレタンフォーム」という物の発明であって,「反発弾性が25%以下であり,ヒステリシスロスが35%以下である」との事項(以下「本願物性事項」という。)を発明特定事項として備えるものである。
一般に,物の発明における発明の実施とは,その物を生産,使用等をすることをいうから(特許法2条3項1号),物の発明については,例えば明細書にその物を製造することができ,使用することができることの具体的な記載があるか,そのような記載がなくても,明細書(及び図面)の記載並びに出願当時の技術常識に基づき当業者がその物を製造し,使用することができるのであれば,実施可能要件を満たすということができる。
そこで,上述の見地に立って,本願物性事項を備える本願発明のポリウレタンフォームが実施可能要件を満たすかについて,検討する。

2 本願明細書の記載
本願明細書の発明の詳細な説明には,次の記載がある(なお,下線は,審決による。)。
・ 「…,低反発弾性ポリウレタンフォームのヒステリシスロスを,高反発弾性軟質ポリウレタンフォームと同等の低ヒステリシスロスにすれば,体圧分散性能を有するにも関わらず,寝返り等の身体の位置変更が容易になると考えて本発明を完成するに至った。」(【0005】)
・ 「本発明の軟質ポリウレタンフォームは低反発弾性でありながら,ヒステリシスロスが低いため,体圧分散性能を有しつつ,寝返り等の身体の位置変更も容易な軟質ポリウレタンフォームであり,低温雰囲気下における硬度変化もない。…」(【0007】)
・ 「反発弾性が25%以下であり,ヒステリシスロスが35%以下の軟質ポリウレタンフォームは,ポリオール成分,ポリイソシアネート成分,整泡剤,触媒,発泡剤およびその他添加剤とを用いて発泡,硬化させて得られる。」(【0012】)
・ 「ポリオール成分としては,特に制限はなく,通常の軟質ポリウレタンフォームの原料として使用されるポリエーテルポリオールやポリエステルポリオールを用いることができるが,水酸基価が10?60mgKOH/gで,分子量が5000?10000のポリオール(A)と,水酸基価が70?250mgKOH/gで,分子量400?750のポリオール(B)と,水酸基価が70?250mgKOH/gで,分子量が500?2000のポリオール(C)とを含有すると,反発弾性が25%以下であり,ヒステリシスロスが35%以下の軟質ポリウレタンフォームを得られやすい。
上記水酸基価が10?60mgKOH/gで,分子量が5000?10000のポリオール(A)は,活性水素数が2である開始剤を主成分として製造され,官能基が2.0?2.4であることが好ましい。
上記水酸基価が70?250mgKOH/gで,分子量400?750のポリオール(B)は,活性水素数が2である開始剤を主成分として製造され,官能基が2.0?2.4であることが好ましい。
上記水酸基価が70?250mgKOH/gで,分子量が500?2000のポリオール(C)は,活性水素数が3である開始剤を主成分として製造され,官能基が2.7?3.0であることが好ましい。
本願発明において,ポリオール(A)/ポリオール(B)=35?50/65?50の割合で用いると,低温雰囲気下においてもフォームが硬くなりにくく,体圧分散性能を発現するため,好ましい。
また,上記ポリオール(A),ポリオール(B),ポリオール(C)に加え,エチレンオキシドの含有量が60?90重量%のポリオール(D)を添加することが好ましい。ポリオール(D)を添加すると,フォームの連通化が促され,性状の良好なフォームが得られやすい。また,フォームの戻りが遅く,体圧分散性にも優れる。」(【0013】?【0018】)
・ 「ポリイソシアネート成分としては,特に制限がなく,イソシアネート基を2以上有する芳香族系,脂環族系,脂肪族系等のポリイソシアネートや,これらを変性して得られる変性ポリイソシアネートを1種または2種以上の混合物で使用できる。具体的には,トリレンジイソシアネート(TDI),ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI),ポリメチレンポリフェニルジイソシアネート(クルードMDI),キシリレンジイソシアネート(XDI),イソホロンジイソシアネート(IPDI),ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)等のポリイソシアネート,またこれらのプレポリマー型の変性体,ヌレート変性体,ウレア変性体,カルボジイミド変性体等が挙げられる。これらのうちでも,TDI,MDI,TDIとMDIの混合物が,発泡安定性に優れるため,好ましく用いられる。
ポリイソシアネート化合物の使用量は,通常イソシアネートインデックスで表される。ポリイソシアネート化合物の使用量は,イソシアネートインデックスで100以上であり,100?130の範囲が好ましく,105?120の範囲がより好ましい。イソシアネートインデックスが100未満であってもフォームは形成できるが,硬度の高いフォームが得られにくく,加熱又は水を含むと強度低下を起こすため,上記イソシアネートインデックスで製造されることが好ましい。」(【0019】?【0020】)
・ 「本発明の軟質ポリウレタンフォームに用いる整泡剤はポリシロキサン鎖およびポリオキシアルキレン鎖を有するシリコーン系化合物を含有するものが好ましく用いられる。…
整泡剤は,シリコーン系化合物と他の化合物との混合物でもよい。他の化合物としては,グリコール類,ポリオキシアルキレン化合物が挙げられ,グリコール類が好ましい。
整泡剤の使用量は,ポリオール化合物100質量部に対して0.1質量部?5質量部以下が好ましく,0.5質量部?2質量部がより好ましい。整泡剤の使用量を0.1質量部以上とすることで,軟質ポリウレタンフォームを製造する際のセル粗れや陥没を抑制できる。また,整泡剤の使用量を5質量部以下とすることで,軟質ポリウレタンフォームの収縮を抑制できる。」(【0021】?【0022】)
・ 「本発明の軟質ポリウレタンフォームに用いる触媒としては,ウレタン化反応を促進する通常の触媒はすべて使用でき,例として,トリエチレンジアミン,ビス(N,N-ジメチルアミノ-2-エチル)エーテル,N,N,N’,N’-テトラメチルヘキサメチレンジアミンなどの3級アミン類およびそのカルボン酸塩;酢酸カリウム,オクチル酸カリウム,スタナスオクトエート,ジブチルチンジラウレート等のカルボン酸金属塩などの有機金属化合物等が挙げられる。…触媒の使用量は,ポリオール成分100質量部に対して,好ましくは0.01?6質量部,さらに好ましくは0.2?5質量部である。」(【0023】)
・ 「本発明の軟質ポリウレタンフォームに用いる発泡剤としては,水のみを発泡剤として用いるのが環境的に好ましいが,必要に応じてメチレンクロライド等の低沸点の有機化合物や,空気,二酸化炭素等の気体も使用することができる。」(【0024】)
・ 「<実施例1?4,比較例1?7>
表1に記載の配合処方のポリオール成分,触媒,発泡剤,を攪拌混合し,そこに表1に記載の配合処方のポリイソシアネート成分を加え,混ぜ合わせて発泡させることにより軟質ポリウレタンフォームを得た。」(【0029】)
・ 「【表1】

表中;
ポリオール(A)1:
ポリエーテルポリオール(分子量8000,水酸基価15,官能基数2)
ポリオール(A)2:
ポリエーテルポリオール(分子量5000,水酸基価22,官能基数2)
ポリオール(B)1:
ポリエーテルポリオール(分子量700,水酸基価160,官能基数2)
ポリオール(B)2:
ポリエーテルポリオール(分子量500,水酸基価224,官能基数2)
ポリオール(C):
ポリエーテルポリオール(分子量1000,水酸基価160,官能基数3)
ポリオール(D):
ポリエーテルポリオール(EOの含有量75重量%,水酸基価47,官能基数3)
ポリオール(E):
ポリエーテルポリオール(分子量700,水酸基価240,官能基数3)
ポリオール(F):
ポリエーテルポリオール(分子量3000,水酸基価56,官能基数3)
イソシアネート:
TDI-80(三井化学ポリウレタン社製)
整泡剤:
SH-192(東レ・ダウコーニング社製)
触媒1:
スタナスオクテート(ネオスタンU-28,日東化成株式会社製)
触媒2:
アミン触媒(DABCO33-LV,三共エアプロダクツ株式会社製)
なお,表中,ポリオール,イソシアネート,整泡剤,触媒,発泡剤の数値は重量部を表す。」(【0036】?【0037】)

3 本願が実施可能要件を満たさない具体的理由について
(1)ア 発明の詳細な説明には,製造原料について,ポリオール成分として,水酸基価が10?60mgKOH/g,官能基が2.0?2.4,分子量が5000?10000のポリオール(A)と,水酸基価が70?250mgKOH/g,官能基が2.0?2.4,分子量が400?750のポリオール(B)と,水酸基価が70?250mgKOH/g,官能基が2.7?3,分子量が500?2000のポリオール(C)と,エチレンオキシド含有量が60?90重量%のポリオキシアルキレンポリオール(D)とを少なくとも用いること(【0013】?【0016】,【0018】),ポリオール(A)及びポリオール(B)について,ポリオール(A)/ポリオール(B)=35?50/65?50の割合で用いること(【0017】),ポリイソシアネート成分としては特に制限がなく,ポリイソシアネート化合物の使用量は,イソシアネートインデックスで100?130の範囲が好ましいこと(【0019】,【0020】),整泡剤,触媒,発泡剤については種々の物が使用できること(【0021】?【0024】)が記載されている。
イ しかし,発明の詳細な説明には,ポリオール(A)及びポリオール(B)に対するポリオール(C)及びポリオキシアルキレンポリオール(D)の割合や,少なくともポリオール成分,ポリイソシアネート成分,整泡剤,触媒,発泡剤を用いて発泡,硬化させて本願発明(軟質ポリウレタンフォーム)を製造するにあたっての具体的な製造条件については,何ら記載されていない。
例えば実施例には,特定のポリオール(A)?(C),オキシアルキレンポリオール(D),イソシアネート,製泡剤,触媒及び発泡剤を特定の割合で用いることにより,本願物性事項を備える本願発明の軟質ポリウレタンフォームが製造されることが一応記載されているが,実施例における上記(A)?(D)の各成分の具体的構成は明らかでないし,具体的な製造条件についても不明である。

(2) また一般に,軟質ポリウレタンフォームの製造においては,ポリオール類,ポリイソシアネート類,整泡剤,触媒,発泡剤の組み合わせ,混合割合,製造条件等によって,フォームの密度,空隙率,気泡形状等が大きく異なり,それによって,その物性や性能も変化するものであると認められるところ,上記したように,発明の詳細な説明には,これらの各成分の組み合わせ,混合割合,製造条件と反発弾性及びヒステリシスロスとの相関関係については記載されておらず,また,そのような相関関係が出願時の技術常識であるということもできないから,当業者が本願物性事項を備える本願発明の軟質ポリウレタンフォームを製造するためには,過度の試行錯誤を必要とするといわざるを得ない。
仮に,上記(1)イで述べたところの本願明細書の実施例における各成分の具体的構成や具体的な製造条件が明らかになったとしても,本願発明の軟質ポリウレタンフォームのうち,実施例に記載されたものと同じポリウレタンフォームを実施することができるにとどまり,依然として,本願発明の全ての範囲にわたって当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているということにはならない。

4 付言
なお,本願明細書におけるポリオール(C)を有さない比較例1と実施例1?4との対比,及び,ポリオール(A)又はポリオール(B)を有さない比較例2又は3と実施例1?4との対比から,ポリオール(A),(B)及び(C)を必須成分として用いることのみをもって,反発弾性が25%以下,ヒステリシスロスが35%以下である軟質ポリウレタンフォームを製造できると解される余地があるので,以下検討する。
査定の理由(審決注:本願発明は,本願の出願前に頒布された刊行物に記載された発明であって特許法29条1項3号に該当するといういわゆる新規性欠如の理由,及び,当該刊行物に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって同条2項の規定によるといういわゆる進歩性欠如の理由。)で引用した刊行物(国際公開第2007/99995号及び国際公開第2008/50841号)には,上記ポリオール(A),(B)及び(C)を必須成分として用いて製造された軟質ポリウレタンフォームが開示されているといえるところ,この点について,請求人は,これら刊行物に記載の軟質ポリウレタンフォームは,その製造にあたりモノオールを併せて使用しているので,本願物性事項を満足しない旨主張している(請求書に係る手続補正書2?3頁)。
すなわち,請求人は,ポリオール(A),(B)及び(C)を必須成分として用いることのみをもって本願物性事項を満足する軟質ポリウレタンフォームを製造できないことを,自ら認めている。しかも,モノオールを使用しないことで本願物性事項を達成できることについて,本願明細書には開示はないし,そのことが出願時に技術常識であったということもできない。
以上,参考までに付言する。

5 まとめ
よって,発明の詳細な説明は,当業者が本願発明の実施をすることができる程度に,明確かつ十分に記載されているとはいえない。

第5 むすび
請求人は,本件拒絶理由に対して,意見書を提出するなどの反論を何らしていない。そして,以上のとおり,本件拒絶理由は妥当なものであって,これを覆すに足りる根拠が見いだせないから,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-05-29 
結審通知日 2014-06-05 
審決日 2014-06-18 
出願番号 特願2009-33012(P2009-33012)
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (C08G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小森 勇  
特許庁審判長 須藤 康洋
特許庁審判官 加賀 直人
蔵野 雅昭
発明の名称 軟質ポリウレタンフォーム  

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