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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2011800098 審決 特許

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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  C07D
審判 一部無効 発明同一  C07D
管理番号 1290902
審判番号 無効2013-800212  
総通号数 178 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-10-31 
種別 無効の審決 
審判請求日 2013-11-07 
確定日 2014-08-11 
事件の表示 上記当事者間の特許第5192147号発明「ピタバスタチンカルシウムの結晶質形態」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件は,2004年2月2日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2003年2月12日 欧州特許庁(EP))を国際出願日とし,「チバ スペシャルティ ケミカルズ ホールディングス インコーポレーテッド」を出願人として,名称を「ピタバスタチンカルシウムの結晶質形態」とする発明について特許出願(特願2006-501997号)がされ,平成20年3月31日に出願人名義変更がなされて,「日産化学工業株式会社」(以下「被請求人」という。)が出願人となったものであって,平成25年2月8日に,特許第5192147号として設定登録がなされた(請求項の数6。以下,その特許を「本件特許」といい,その明細書を「本件特許明細書」といい,特許請求の範囲を「本件特許請求の範囲」という。)。

本件特許について,沢井製薬株式会社(以下「請求人」という。)から,本件無効審判の請求がなされた。その手続の経緯は以下のとおりである。なお,手続の日付は特許庁への差出日で記載してある。

平成25年11月 7日 審判請求書・甲第1?13号証提出(請求人)
平成26年 1月27日 答弁書・乙第1?10号証提出(被請求人)
同年 2月21日 審理事項通知書
同年 3月28日 上申書・甲第14?16号証提出(請求人)
同日 上申書・乙第6号証の1?9再提出
乙第11の1?3,12号証提出(被請求人)
同年 4月18日 口頭審理陳述要領書・甲第17号証提出
(請求人)
同日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
同年 4月25日 口頭審理
同年 6月17日 審理終結通知

第2 本件発明
本件特許の請求項1,2,4?6に係る発明(以下「本件発明1」,「本件特許2」,「本件特許4」?「本件発明6」といい,合わせて「本件発明」という。)は,本件特許請求の範囲の請求項1,2,4?6に記載された事項によって特定される以下のとおりのものと認める。
「【請求項1】
2θで表して、5.0(s)、6.8(s)、9.1(s)、10.0(w)、10.5(m)、11.0(m)、13.3(vw)、13.7(s)、14.0(w)、14.7(w)、15.9(vw)、16.9(w)、17.1(vw)、18.4(m)、19.1(w)、20.8(vs)、21.1(m)、21.6(m)、22.9(m)、23.7(m)、24.2(s)、25.2(w)、27.1(m)、29.6(vw)、30.2(w)、34.0(w)[ここで、(vs)は、非常に強い強度を意味し、(s)は、強い強度を意味し、(m)は、中間の強度を意味し、(w)は、弱い強度を意味し、(vw)は、非常に弱い強度を意味する]に特徴的なピークを有する特徴的なX線粉末回折図形を示し、FT-IR分光法と結合した熱重量法により測定した含水量が3?12%である、(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6(E)-ヘプタン酸ヘミカルシウム塩の結晶多形A。
【請求項2】
前記含水量が9?11%である、請求項1に記載の結晶多形A。

【請求項4】
3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6(E)-ヘプタン酸ヘミカルシウム塩の総量を基準にして、75?100重量%の請求項1?3のいずれか一項に記載の結晶多形Aを含む、前記ヘミカルシウム塩。
【請求項5】
結晶多形Aの含有量が95?100重量%である、請求項4に記載のヘミカルシウム塩。
【請求項6】
請求項1?3のいずれか一項に記載の結晶多形Aの有効量と、薬学的に許容され得る担体とを含む医薬組成物。」

ここで,本件発明1,2,4?6の「結晶多形A」の解釈について検討する。
本件特許明細書に,「本明細書で形態Aと名付けた結晶多形であって、d値(Å)および2θで表して、表1に示したとおりの特徴的なピークを有するX線粉末回折図形を示す(vs=非常に強い強度、s=強い強度、m=中間の強度、w=弱い強度、vw=非常に弱い強度)。」と記載され(【0007】参照),表1(【0008】参照)には,請求項1で規定された2θと相対強度について同じ値が記載されている。
一方,本件特許明細書には,実施例[例1]において,結晶形態Aが得られ,図1に示したようなX線粉末回折図形を特徴とし,約10%の含水率と95℃の融点を有することが記載され(【0045】参照),図1には,請求項1で規定された2θと相対強度に概ね対応するX線粉末回折図形が示されている。
本件特許明細書の実施例の記載からすれば,「結晶多形A」とは,請求項1で規定された2θと相対強度のピークを有するX線粉末回折図形を示すとともに,実施例に示される特定の融点を有するものに限られると解する余地があるといえるが,本件発明1では,融点が規定されおらず,発明の詳細な説明に「結晶多形A」の融点に関する明確な定義がないことからすれば,段落【0007】の記載のとおり,「結晶多形A」とは,請求項1で規定された2θと相対強度のピークを有するX線粉末回折図形を示すものであって,それ以外の要件はないと解するのが相当である。
よって,本件発明1,2,4?6における「結晶多形A」とはそのように解して,以下検討する。
なお,「結晶多形A」の上記解釈については,請求人(上申書第5頁第7?10行参照),被請求人(上申書第7頁第13?20行参照)とも同意している。

第3 請求の趣旨並びにその主張の概要及び請求人が提出した証拠方法
1 審判請求書,上申書,口頭審理陳述要領書に記載した無効理由の概要
請求人が主張する請求の趣旨は,
「特許第5192147号の請求項1,2,4?6に係る発明についての特許を無効にする。審判請求費用は被請求人の負担とする。との審決を求める。」であると認める(審判請求書第2頁「請求の趣旨」,第1回口頭審理調書「請求人 1」参照)。
そして,請求人が主張する無効理由1,2は,概略以下のとおりである(審判請求書第2頁第14?24行,第7頁第19行?第19頁第9行,審理事項通知書「第2 1(1),3(1)」,上申書第1頁下から第4?2行,第5頁第11?13行,口頭審理陳述要領書第2頁第6?25行,第1回口頭審理調書「請求人 3」参照)。

(1)無効理由1
本件発明1,2及び4?6は,本件優先日前の外国語出願であって本件優先日後に国際公開がされた甲第1号証出願の国際出願日における国際出願の明細書又は請求の範囲に記載された発明と同一であり,しかも,本件特許出願の発明者が甲第1号証出願に係る上記発明をした者と同一ではなく,また本件特許出願の時に,その出願人が甲第1号証出願の出願人と同一の者でもないので,特許法第29条の2の規定により,特許を受けることができない。
よって,本件発明1,2及び4?6の特許が,特許法第29条の2の規定に違反してされたものであるから,同法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきものである。

(2)無効理由2
本件発明1,2及び4?6は,本件優先日前に頒布された甲第2号証に記載された発明及び甲第8?13号証に記載された事項から導かれる技術常識に基いて,本件優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって,本件発明1,2及び4?6の特許が,特許法第29条の規定に違反してされたものであるから,同法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきものである。

2 請求人の提出した証拠方法
請求人の提出した証拠方法は,以下のとおりである。

(1)審判請求書で提出した証拠方法
甲第1号証 特表2005-520814号公報
甲第2号証 特開平5-148237号公報
甲第3号証 帝京大学教授 薬学博士 夏苅英明作成,
研究成果報告書,2013年8月9日
甲第4号証 神戸薬科大学教授 薬学博士 北河修治作成,
研究成果報告書,2013年8月30日
甲第5号証 沢井製薬株式会社 勝本麻美作成,ピタバスタチンカルシ
ウム結晶形特許追試結果報告書,平成25年6月11日
甲第6号証 沢井製薬株式会社 勝本麻美作成,
ピタバスタチンカルシウム結晶形特許追試融点測定結果,
平成25年10月28日
甲第7号証 平成23年(行ケ)第10445号知財高裁判決書,
平成24年12月5日
甲第8号証 特開平6-192228号公報
甲第9号証 特開平7-53581号公報
甲第10号証 特開昭57-91983号公報
甲第11号証 特開平6-157565号公報
甲第12号証 特開平2-131494号公報
甲第13号証 特公平6-13526号公報

(2)上申書で提出した証拠方法
甲第14号証 財団法人日本公定書協会編,第十四改正 日本薬局方,
平成13年4月20日,株式会社じほう,第49?51頁
甲第15号証 加藤誠軌著,セラミックス基礎講座3 X線回折分析,
2002年3月10日,株式会社内田老鶴圃,
第174?197頁
甲第16号証 第十四改正 日本薬局方解説書,2001年,廣川書店,
B-614?B-619頁

(3)口頭審理陳述要領書で提出した証拠方法
甲第17号証 沢井製薬株式会社 薬学博士 八木卓作成,陳述書,
平成26年4月16日

第4 答弁の趣旨並びにその主張の概要及び被請求人が提出した証拠方法
1 審判事件答弁書,上申書,口頭審理陳述要領書に記載した答弁の概要
被請求人が主張する答弁の趣旨は,「本件審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。との審決を求める。」であると認める(審判事件答弁書第2頁「答弁の趣旨」,第1回口頭審理調書「被請求人 1」参照)。
そして,被請求人は請求人が主張する上記無効理由1,2は,審判事件答弁書,上申書,口頭審理陳述要領書において,いずれも理由がない旨の主張をしていると認める。

2 被請求人の提出した証拠方法
被請求人の提出した証拠方法は,以下のとおりである。

(1)審判事件答弁書で提出した証拠方法
乙第1号証 特開2012-72175号公報
乙第2号証 日産化学工業株式会社 織田寿久作成,報告書(ピタバス
タチンカルシウム塩の結晶多形Aの温度変化に対する安定
性),平成26年1月16日
乙第3号証 日産化学工業株式会社 織田寿久作成,報告書(ピタバス
タチンカルシウム塩の異なる結晶多形の安定性の比較試験
),平成26年1月16日
乙第4号証 日産化学工業株式会社 織田寿久作成,報告書(ピタバス
タチンカルシウム塩の結晶多形の差異による安定性の比較
),平成26年1月16日
乙第5号証 日産化学工業株式会社 織田寿久作成,報告書(ピタバス
タチンカルシウム塩結晶とアトルバスタチンカルシウム塩
結晶との吸湿性比較),平成26年1月16日
乙第6号証の1 特表平2-500981号公報,第1,6頁
乙第6号証の2 特開平5-292986号公報,第1,4頁
乙第6号証の3 特開平6-298745号公報,第1,6頁
乙第6号証の4 特開2001-89462号公報,第1,6頁
乙第6号証の5 特許第2517836号公報,第1,3頁
乙第6号証の6 特表2000-506891号公報,第1,35頁
乙第6号証の7 特開平5-208943号公報,第1,4頁
乙第6号証の8 特開平9-176119号公報,第1,5,6頁
乙第6号証の9 特開平10-182559号公報,第1,13,14頁
乙第7号証 日産化学工業株式会社 織田寿久作成,報告書(ピタバス
タチンカルシウム塩(結晶多形A)の25℃減圧乾燥品の
評価),平成26年1月20日
乙第8号証 日産化学工業株式会社 織田寿久作成,報告書(ピタバス
タチンカルシウム塩(結晶多形A)湿品の減圧乾燥におけ
る水分変化),平成26年1月23日
乙第9号証 本件特許の出願手続において,平成22年8月23日付け
で提出された刊行物提出書に添付された実験報告書,
2010年8月19日
乙第10号証 日産化学工業株式会社 織田寿久作成,報告書(ピタバス
タチンカルシウム塩の異なる結晶多形における乾燥品評価
),平成26年1月16日

(2)上申書で提出した証拠方法
乙第6号証の1 全文提出
乙第6号証の2 全文提出
乙第6号証の3 全文提出
乙第6号証の4 全文提出
乙第6号証の5 全文提出
乙第6号証の6 全文提出
乙第6号証の7 全文提出
乙第6号証の8 全文提出
乙第6号証の9 全文提出
乙第11号証の1 芦澤一英編著,医薬品の多形現象と晶析の科学,
2002年9月20日,丸善プラネット株式会社,
第44?54頁,第431?441頁
乙第11号証の2 田崎裕人編,製造プロセスのスケールアップの正しい進
め方とトラブル対策事例集,2012年9月28日,
株式会社技術情報協会,第28?35頁,
第131?137頁
乙第11号証の3 平山令明編著,有機化合物結晶作製ハンドブック-原理
とノウハウ-,平成20年7月25日,丸善株式会社,
第57?84頁
乙第12号証 日産化学工業株式会社 織田寿久作成,報告書(特許公開
公報(特開平5-148237)実施例3の追試について
),平成26年3月28日

第5 当審の判断
1 無効理由1について
(1)甲第1号証の記載事項
本件特許出願の優先日前の外国語出願であって本件優先日後に国際公開がされた甲第1号証出願(特願2003-564015号)の国際出願日(2003年1月30日)における国際出願の明細書,請求の範囲には,日本語にして以下の事項が記載されている(甲第1号証は,上記外国語出願の日本語による翻訳文が国内公表されたものであるから,国際出願日における国際出願の明細書,請求の範囲を日本語に翻訳したものである。)
(1a)「別法として、(E)-(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6-ヘプテン酸およびそのカルシウム塩は、それぞれ、以下のようにして製造し得る:
(E)-(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6-ヘプテン酸((S)-1-フェニル-エチル)アミド(4.0g、6.53ミリモル)をエタノール(40mL)に溶かす。水(40mL)と水酸化ナトリウム粉末(2.64g、66ミリモル)を加え、混合物を50?55℃にて26時間、製造過程コントロール(HPLC)が完全な変換を示すまで加熱する。塩酸(59mL、1M溶液、59ミリモル)を15分の時間を要してゆっくり添加する。溶媒を減圧下に留去し、残渣を水(80mL)に溶かす。この水溶液を tert-ブチル-メチルエーテル(3×80mL)で抽出し、有機相を除去する。水相を減圧下に蒸発させ、残渣を水(176mL)に再溶解する。塩酸(6.53mL、1M溶液、6.53ミリモル)を加えて該酸を沈殿させ、次いで、酢酸エチル(176mL)を加える。この混合物を15分間撹拌し、層分離する。有機層を水(90mL)で洗う。活性炭(0.5g)を有機層に加え、混合物を30?35℃にて数時間撹拌する。濾過助剤(セルフロック(Cellflock)、1.0g)を加え、さらに30分間撹拌を続ける。活性炭を濾過助剤上に濾去し、澄明な溶液を得て、減圧下、30?35℃にて溶媒を留去し、(E)-(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6-ヘプテン酸を白色固体として得る。カルシウム塩形成のために、該酸(2.55g、6.05ミリモル)を水(40.5mL)に懸濁し、水酸化ナトリウム(0.260g、6.5ミリモル)を加えて、相当するナトリウム塩の澄明な溶液を得る。水(2mL)中塩化カルシウム(0.399g、3.49ミリモル)の溶液をナトリウム塩の溶液に滴下する。塩化カルシウムの添加後、直ちに懸濁液が形成される。懸濁液は20?25℃で4時間、15?17℃で2時間、撹拌する。生成物を濾過単離し、濾過ケーキを冷水で洗い、20?25℃で減圧下乾燥して(E)-(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6-ヘプテン酸カルシウム塩を、10.6%(w/w)の水を含む白色結晶性粉末として得る。[α]D20=+22.92°(1:1アセトニトリル/水、c=1)。X線解析は結晶変形Aの存在を明らかにした。(3S,5R)立体配置をもつエナンチオマーの比率はカラム電気泳動によると0.05%の検出限界以下であった。生成物はHPLCによると99.7面積%以上の純度を有し、対応するエピマーを0.09面積%((3S,5S)および(3R,5R)エピマーの合計;HPLCでは分離されなかった)含んいた。対応するラクトンは0.05面積%の検出限界で検出できなかった。」(原文の第39頁第8行?第40頁第8行,甲第1号証の【0135】,【0136】)

(2)甲第1号証出願の明細書,請求の範囲に記載された発明(先願発明)
甲第1号証出願の明細書には,「(E)-(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6-ヘプテン酸」の「カルシウム塩」の製造方法として,「(E)-(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6-ヘプテン酸」から「カルシウム塩形成のために、該酸(2.55g、6.05ミリモル)を水(40.5mL)に懸濁し、水酸化ナトリウム(0.260g、6.5ミリモル)を加えて、相当するナトリウム塩の澄明な溶液を得る。水(2mL)中塩化カルシウム(0.399g、3.49ミリモル)の溶液をナトリウム塩の溶液に滴下する。塩化カルシウムの添加後、直ちに懸濁液が形成される。懸濁液は20?25℃で4時間、15?17℃で2時間、撹拌する。生成物を濾過単離し、濾過ケーキを冷水で洗い、20?25℃で減圧下乾燥して(E)-(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6-ヘプテン酸カルシウム塩を、10.6%(w/w)の水を含む白色結晶性粉末として得る」ことが記載されている(摘記1a参照)。
そうすると,甲第1号証出願の明細書には,
「(E)-(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6-ヘプテン酸を水に懸濁し、水酸化ナトリウムを加えて、相当するナトリウム塩の溶液を得、水中塩化カルシウムの溶液(塩化カルシウム水溶液)を、前記ナトリウム塩の溶液に滴下し、形成された懸濁液を20?25℃で4時間、15?17℃で2時間撹拌し、生成物を濾過単離し、濾過ケーキを冷水で洗い、20?25℃で減圧下乾燥して得られた,(E)-(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6-ヘプテン酸カルシウム塩の10.6%(w/w)の水を含む白色結晶性粉末。」の発明(以下「先願発明」という。)が記載されている。

(3)対比・判断
(3-1)本件発明1に対して
ア 対比
本件発明1と先願発明とを対比する。
先願発明の「(E)-(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6-ヘプテン酸カルシウム塩」は,本件発明1の「(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6(E)-ヘプタン酸ヘミカルシウム塩」に相当する。
そうすると,本件発明1と先願発明とは,
「(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6(E)-ヘプタン酸ヘミカルシウム塩」である点で一致し,以下の点で相違している。

(1-i)X線粉末解析図形が,
本件発明1は,「2θで表して、5.0(s)、6.8(s)、9.1(s)、10.0(w)、10.5(m)、11.0(m)、13.3(vw)、13.7(s)、14.0(w)、14.7(w)、15.9(vw)、16.9(w)、17.1(vw)、18.4(m)、19.1(w)、20.8(vs)、21.1(m)、21.6(m)、22.9(m)、23.7(m)、24.2(s)、25.2(w)、27.1(m)、29.6(vw)、30.2(w)、34.0(w)[ここで、(vs)は、非常に強い強度を意味し、(s)は、強い強度を意味し、(m)は、中間の強度を意味し、(w)は、弱い強度を意味し、(vw)は、非常に弱い強度を意味する]に特徴的なピークを有する」「結晶多形A」であるのに対して,
先願発明は,どのような回折角(2θ)にピークを有し,かつ,それぞれの回折角(2θ)のピーク強度がどのようなものであるかが明確でない「結晶性粉末」である点
(1-ii)本件発明1は,「FT-IR分光法と結合した熱重量法により測定した含水量が3?12%である」であるのに対して,
先願発明は,測定方法が明確でないが「水分量が10.6w/w%」である点

イ 相違点(1-i)の検討
(ア)甲第3号証の追試で得られた結晶について
先願発明と同一の結晶を得るために,先願発明と同様に追試した甲第3号証で記載された製造方法で得られた白色結晶(以下「甲3結晶」という。)のX線粉末回折の結果が甲第4号証に示されており,これを本件発明1の結晶のX線粉末回折の結果と対比すると,以下のとおりである。
2θ(°) 相対強度
本件発明1 甲3結晶 本件発明1 甲3結晶
5.0 5.0 s 2170
6.8 6.8 s 2198
9.1 9.1 s 698
10.0 10.0 w 685
10.5 10.3 m 803
11.0 10.9 m 802
13.3 13.2 vw 823
13.7 13.6 s 978
14.0 13.9 w 1382
14.7 14.5 w 270
15.9 15.8 vw 495
16.9 16.9 w 295
17.1 17.1 vw 267
18.4 18.3 m 923
19.1 18.9 w 428
20.8 20.9 vs 1735
21.1 21.1 m 1352
21.6 21.5 m 1005
22.9 22.9 m 383
23.7 23.6 m 808
24.2 24.1 s 785
25.2 25.4 w 455
27.1 26.9 m 458
29.6 29.6 vw 300
30.2 30.1 w 538
34.0 33.8 w 298

X線粉末解析のピークの位置(2θ)について,本件発明1と甲3結晶とを対比すると,上記のように,すべての2θの値は誤差の範囲とされる最大±0.2°の範囲(本件特許明細書【0021】参照)に収まっている。
一方,X線粉末解析のピークの相対強度について,本件発明1と甲3結晶とを対比すると,本件発明1では,20.8°のピークがvs(非常に強い強度)であり,5.0°,6.8°のピークがs(強い強度)となっているのに対して,甲3結晶では,20.9°のピークが1735で,5.0°,6.8°のピークの2170,2198よりも小さい値となっている。また,本件発明1では,14.0°のピークがw(弱い強度)であり,9.1°,13.7°,24.2°のピークがs(強い強度)となっているのに対して,甲3結晶では,13.9°のピークが1382で,9.1°,13.6°,24.1°のピークの698,978,785よりも大きい値となっている。
さらに,同一結晶形の相対強度の差は20%以内で同一と認めることができ,相対強度の差が20%より大きくなる場合はまれであることから(甲第16号証B-618頁第5?9行参照),最大20%の範囲で,甲3結晶の各ピークの相対強度を変更して本件発明1の各ピークの相対強度を比較してみても,例えば,本件発明1では,14.0°のピークがw(弱い強度)であり,9.1°,24.2°のピークがs(強い強度)となっているのに対して,甲3結晶では,13.9°のピークが1106(1382×0.8)で,9.1°,24.1°のピークの838(698×1.2),942(785×1.2)よりも大きい値となるなど,本件発明1と甲3結晶の相対強度は一致していない。
そうすると,本件発明1と甲3結晶とでは,X線粉末回折のピークの相対強度について一致していないから,両者が同一であるということはできない。

(イ)甲第5号証の追試で得られた結晶について
先願発明と同一の結晶を得るために,先願発明と同様に追試した甲第5号証で記載された製造方法で得られた白色結晶(以下「甲5結晶」という。)のX線粉末回折の結果が甲第5号証(表8)に示されており,これを本件発明1の結晶のX線粉末回折の結果と対比すると,以下のとおりである。
2θ(°) 相対強度
本件発明1 甲5結晶 本件発明1 甲5結晶
5.0 5.035 s 3536
6.8 6.818 s 3466
9.1 9.177 s 1539
10.0 10.029 w 1049
10.5 10.512 m 1360
11.0 10.959 m 1576
13.3 13.254 vw 883
13.7 13.728 s 1523
14.0 14.025 w 1774
14.7 14.711 w 510
15.9 15.838 vw 680
16.9 16.898 w 463
17.1 17.154 vw 434
18.4 18.381 m 1161
19.1 19.075 w 561
20.8 20.818 vs 2479
21.1 21.016 m 1869
21.6 21.621 m 1073
22.9 22.968 m 587
23.7 23.723 m 1035
24.2 24.209 s 1264
25.2 25.239 w 647
27.1 27.080 m 719
29.6 29.640 vw 383
30.2 30.278 w 697
34.0 34.075 w 337

X線粉末回折のピーク位置(2θ)について,本件発明1と甲5結晶とを対比すると,上記のように,すべての2θの値は誤差の範囲とされる最大±0.2°の範囲内に収まっている。
一方,X線粉末回折のピークの相対強度について,本件発明1と甲5結晶とを対比すると,本件発明1では,20.8°のピークがvs(非常に強い強度)であり,5.0°,6.8°のピークがs(強い強度)となっているのに対して,甲5結晶では,20.818°のピークが2479で,5.035°,6.818°のピークの3536,3466よりも小さい値となっている。また,本件発明1では,14.0°のピークがw(弱い強度)であり,9.1°,13.7°,24.2°のピークがs(強い強度)となっているのに対して,甲5結晶では,14.025°のピークが1774で,9.177°,13.728°,24.209°のピークの1539,1523,1264よりも大きい値となっている。
さらに,上記(ア)と同様に,最大20%の範囲で,甲5結晶の各ピークの相対強度を変更して本件発明1の各ピークの相対強度を比較してみても,例えば,本件発明1では,14.0°のピークがw(弱い強度)であり,22.9°,27.1°,23.7°21.6°のピークがm(中間の強度)となっているのに対して,甲5結晶では,14.025°のピークが1419(1774×0.8)で,22.968°,27.080°,23.723°,21.621°のピークの704(587×1.2),863(719×1.2),1242(1035×1.2),1288(1073×1.2)よりも大きい値となっている。
そうすると,本件発明1と甲5結晶とでは,X線粉末回折のピークの相対強度について一致していないから,両者が同一であるということはできない。

ウ 請求人の主張について
(ア)請求人の主張
請求人は,本件発明1と先願発明との回折ピークの相対強度の相違について,概略,以下の主張をしている(上申書第4頁第4行?第5頁第6行)。
甲第15号証には,X線粉末解析の実験で,回折ピークの相対強度の差が相違することは珍しいことではないことが,また,甲第16号証には,同一結晶形の相対強度の差は20%以内で同一であるとされ,相対強度の差が20%より大きくなる場合がまれに生じると記載されている。
さらに,本件発明1と先願発明が同一でないというためには,回折ピーク位置が同じでピーク強度が相違する2種類の結晶形が存在することが前提となるが,回折ピーク位置が全て同じで,ピーク強度のみが相違する2つの結晶形が存在することを裏付ける証拠はなく,このように解するのは不自然である。そして,本件発明1と先願発明の結晶多形とは,X線粉末解析図形のピーク位置(2θ)が一致するから同一結晶形であり,ピーク強度の相違は実験誤差にすぎないと解するのが自然である。

(イ)請求人の主張の検討
本件発明1においては,X線粉末回折図形の回折角のピーク位置(2θ)とともに,各ピークの相対強度がvs(非常に強い強度),s(強い強度),m(中間の強度),w(弱い強度),vw(非常に弱い強度)の5段階で規定されている。
この相対強度については,回折角のピーク位置(2θ)と異なり,誤差範囲がどの程度許容されるのかについて,本件特許明細書には記載がないので,本件発明1の相対強度は,vs,s,m,w,vwの5段階の順序で各ピーク強度を規定したものと解するほかはなく,X線粉末回折の相対強度が,技術常識を踏まえて同一と認められる許容範囲を考慮しても,各ピーク位置に規定された5段階の相対強度の順序が本件発明1に規定されたとおりにならないものは同一であると認めることはできない。
甲第16号証の,同一結晶形の相対強度の差は20%以内であるとされ,相対強度の差が20%より大きくなる場合がまれに生じるとの記載は,相対強度の差が20%より大きくなる場合でも同一になる可能性があることを述べているにすぎず,相対強度の差が20%を超えた場合でも,両者が同一の結晶となることを意味するものではない。
なお,被請求人は,「甲第4,5号証で示された粉末X線回折の各ピークの相対強度の数値が,本件発明1の各ピークのvs,s,m,w,vwの表示の順序と1つでもその順序が入れ替わるピークがあれば,同一ではない。」と主張している(第1回口頭審理調書「被請求人が陳述した事項 2」参照)。
そうすると,相対強度における同一と認められる許容範囲(各ピークの相対強度をそれぞれ20%の範囲内で増減させること)を考慮しても,本件発明1と甲3結晶又は甲5結晶の相対強度の順序が一致することはない以上,両者が同一であるとすることはできない。

また,請求人は,回折ピーク位置が全て同じで,ピーク強度のみが相違する2つの結晶形が存在することを裏付ける証拠はなく,このように解するのは不自然であるとも主張している。
回折角のピーク位置(2θ)が一致するのに相対強度が異なる2つの結晶形があることを被請求人が立証しているわけではないが,本件発明1と先願発明が同一であることの立証責任は原則請求人にあると認められるところ,請求人は,両者のピーク位置(2θ)が一致するのに相対強度が異なる2つ以上の結晶形が存在することはなく,ピーク位置(2θ)さえ一致すれば同一の結晶形といえることを立証していない。
そして,上述のとおり,「有機化合物に関して回折角の走査範囲を0°から40°とし,また同一結晶の相対強度の差は20%以内で同一であるとしている」こと,「同一結晶間も相対強度の差が20%より大きくなる場合がまれに生じる」(甲第16号証B-618頁第5?6行参照)ことからすれば,相対強度の差が20%を超える場合は必ずしも同一結晶とはいえないとの推認が働き,甲第5号証に記載された複数の結晶間(後述する結晶4と上記甲5結晶)では,両者のピーク位置(2θ)は一致しているが,20.8°に対応する回折角(2θ)のピーク強度を100%とした場合の30.2°に対応する回折角(2θ)の相対強度が,20%よりも大きく異なる現象が生じていることからすれば,ピーク位置(2θ)が一致しても,相対強度が異なる結晶は存在し得るといえるし,その場合に,両者が同じ結晶と認めるに足る根拠は何ら示されていない。
よって,請求人の主張は採用できない。

エ 本件発明1のまとめ
以上のとおり,先願発明と同一の結晶を得るために追試して得られた甲3結晶,甲5結晶とも,本件発明1とは相違点(1-i)の点で異なるから,その余の相違点について検討するまでもなく,本件発明1は先願発明と同一であるということはできない。

(3-2)本件発明2,4?6に対して
本件発明2,本件発明4?6は,いずれも本件発明1の結晶多形Aを含むものであるから,本件発明1と先願発明とが同一であるといえない以上,本件発明2,4?6も同様に先願発明と同一であるということはできない。

(4)小括
以上のとおり,本件発明1,2,4?6は,甲第1号証出願の国際出願日における国際特許出願の明細書,請求の範囲に記載された発明と同一であるとはいえないから,本件発明1,2及び4?6の特許が,特許法第29条の2の規定に違反してされたものということはできない。

2 無効理由2について
(1)刊行物の記載事項
ア 甲第2号証の記載事項
本件特許出願の優先日前に日本国内又は外国で頒布された刊行物である甲第2号証には,以下の事項が記載されている。
(2a)「【0045】〔実施例1〕
(E)-3(R)-5(S)-ジヒドロキシ-7-〔4′-(4″-フルオロフェニル)-2′-シクロプロピルキノリン-3′-イル〕ヘプト-6-エン酸・D(+)フェネチルアミン塩 化合物〔(-)I・(+)II〕
参考例1で得られた化合物〔(±)I〕のジクロロメタン溶液に、D(+)フェネチルアミン〔(+)II〕16.2gを加え撹拌した後、ジクロロメタンを留去し、残渣を得た。残渣は、メチルイソブチルケトン、メチルイソブチルケトン-エタノール(10:1,v/v)で結晶化を繰り返し、目的とする化合物〔(-)I・(+)II〕の白色結晶19.8gを得た。(融点 144?147℃、光学純度 97%ee)。」
(2b)「【0046】〔実施例2〕
(E)-6(S)-〔4′-(4″-フルオロフェニル)-2′-シクロプロピルキノリン-3′-イルエテニル〕-4(R)-ヒドロキシ-3,4,5,6-テトラヒドロ-2H-ピラン-2-オン 化合物〔III〕
実施例1で得られた(E)-3(R)-5(S)-ジヒドロキシ-7-〔4′-(4″-フルオロフェニル)-2′-シクロプロピルキノリン-3′-イル〕ヘプト-6-エン酸・D(+)フェネチルアミン塩化合物〔(-)I・(+)II〕14.08gに、1規定塩酸25.9mL、水235mLを加え溶解させた。この溶液に、酢酸エチル250mLを加え、化合物〔(-)I〕の抽出を行った。酢酸エチル溶液を飽和食塩水で洗い、減圧下溶媒を留去した。残渣に無水トルエン250mLを加え、3時間ジーン・スターク(Dean Srark)装置で加熱還流した。減圧下、溶媒を留去し、得られた残留固体をトルエン-ヘプタンから再結晶し、目的化合物〔III〕、6.4gを得た。(融点 136?139℃)。」
(2c)「【0047】〔実施例3〕
(E)-3(R)-5(S)-ジヒドロキシ-7-〔4′-(4″-フルオロフェニル)-2′-シクロプロピルキノリン-3′-イル〕ヘプト-6-エン酸・1/2 カルシウム塩
実施例1で得られた(E)-3(R)-5(S)-ジヒドロキシ-7-〔4′-(4″-フルオロフェニル)-2′-シクロプロピルキノリン-3′-イル〕ヘプト-6-エン酸・D(+)フェネチルアミン塩化合物〔(-)I・(+)II〕12.0gに、1規定水酸化ナトリウム水溶液24.3mL、水200mLを加え、撹拌溶解させた。この溶液中に、水200mLに無水塩化カルシウム1.47gを溶解させた塩化カルシウム水溶液を滴下した。この反応液を一晩撹拌後、生じた白色沈澱をろ過し、白色結晶9.06gを得た。(融点 190?192℃〔分解〕)。」

イ 甲第8号証の記載事項
本件特許出願の優先日前に日本国内又は外国で頒布された刊行物である甲第8号証には,以下の事項が記載されている。
(8a)「【0002】
【従来の技術】ロイコトリエン(leukotriene)合成の阻害剤である下記式(I)
【0003】
【化2】
(化学式は省略する。)
【0004】の(R)-(-)-2-シクロヘプチル-N-メチルスルフォニル-[4-(2-キノリニルメトキシ)-フェニル]-アセトアミド、その製造方法及び薬品におけるその利用は既にEP344,519に記載されている。
【0005】そこに記載された製造方法によると、式(I)の化合物は非結晶性粉末状態で得られる。溶媒和物を含まない結晶性変態(solvate-free crystalline modification)は今まで知られていない。
【0006】しかし、非結晶状態の式(I)の化合物は、特に固形薬品の製造において重大な欠点を有することが明らかとなった。このように非晶質状態の式(I)の化合物を含有する薬品は、例えば非常に不十分な貯蔵安定性しか示さない。調合剤を30℃を超える温度で比較的長期間貯蔵する場合におこりがちなこの物理的不安定性は、吸収効率及びこれら調合剤の安全性を損なう。」
(8b)「【0008】
【課題を解決するための手段】公知の非結晶形と比較して、増大した物理的安定性と低減した圧力感受性に特徴を有し、それ故種々の薬品の製造のために非結晶形より相当適している、新規な結晶形の化合物(R)-(-)-2-シクロヘプチル-N-メチルスルフォニル-[4-(2-キノリニルメトキシ)-フェニル]-アセトアミドが今回見出された。」

ウ 甲第9号証の記載事項
本件特許出願の優先日前に日本国内又は外国で頒布された刊行物である甲第9号証には,以下の事項が記載されている。
(9a)「【0002】
【従来技術および課題】現在市販されているL-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩は非晶質であるため、保存時吸湿しやすく粉末の団塊化を生じやすい。また、L-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩自身の化学的安定性が充分でなく、他の薬物との配合時に影響を与えることが多い。さらに、ケーキングを生じたり、流動性が不十分なため製剤化に際して支障をきたすことが多く、実用面で支障になる品質のバラツキが生じやすい。従って、安定な結晶質L-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩として提供されることが望まれている。」

エ 甲第10号証の記載事項
本件特許出願の優先日前に日本国内又は外国で頒布された刊行物である甲第10号証には,以下の事項が記載されている。
(10a)「ラニチジンの塩酸塩(以下、ラニチジン塩酸塩と称する)は特に重要である。なぜならば、これはラニチジンを例えば、経口投与用錠剤に都合良く処方できるようにするからである。従つて、現在の製薬上の要件や規格を満足させるために、できる限り純粋かつ高度に結晶性の状態でラニチジンを製造する必要があつた。」(第2頁左下欄末行?右下欄第6行)

オ 甲第11号証の記載事項
本件特許出願の優先日前に日本国内又は外国で頒布された刊行物である甲第11号証には,以下の事項が記載されている。
(11a)「【0018】4-クロロフェニルチオメチレンビスホスホン酸は、「チルドロン酸(tiludronic acid) 」という慣用名が与えられ、このチルドロン酸のジナトリウム塩は、同様に、チルドロン酸ナトリウムと呼ばれている。」
(11b)「【0030】チルドロン酸ジナトリウム一水和物は、湿度および温度条件に関係なく、経時的に特に安定である。」

カ 甲第12号証の記載事項
本件特許出願の優先日前に日本国内又は外国で頒布された刊行物である甲第12号証には,以下の事項が記載されている。
(12a)本発明は、L-アスコルビン酸-2-リン酸(以下、AsA2Pと略記する。)のナトリウム塩(以下、Na塩と略記する。)結晶およびその製法に関する。」(第2頁左上欄第14?17行)
(12b)「本発明によれば、安定で取り扱い易く、高純度のAsA2Pが、新規なAsA2PNa塩の結晶として提供される。」(第2頁右下欄第16?18行)

キ 甲第13号証の記載事項
本件特許出願の優先日前に日本国内又は外国で頒布された刊行物である甲第13号証には,以下の事項が記載されている。
(13a)「ここに本発明者らは高純度結晶形態でそして高収率でセフロキシムアクセチルを取得しうる方法を開発することに成功した。そのような生成物は活性化合物の高純度形態であるという点から有用でありそして従って生物学的投与に対して一層適当であるのみならず、より特定的には高度に純粋の実質的に無晶(無定形)形態のセフロキシムアクセチル(この形態は予想外にも経口投与した場合高い生物学的活性を有しそして結晶性物質よりも商業的使用に対してより良好な性質バランスを有していることが発見されている)の製造の出発物質としても高度に有用である。」(第2頁左欄第48行?右欄第8行)

(2)甲第2号証に記載された発明
甲第2号証には,「(E)-3(R)-5(S)-ジヒドロキシ-7-〔4′-(4″-フルオロフェニル)-2′-シクロプロピルキノリン-3′-イル〕ヘプト-6-エン酸・D(+)フェネチルアミン塩化合物〔(-)I・(+)II〕・・・に、・・・水酸化ナトリウム水溶液・・・水・・・を加え、撹拌溶解させ・・・この溶液中に、水・・・に無水塩化カルシウム・・・を溶解させた塩化カルシウム水溶液を滴下し・・・この反応液を一晩撹拌後、生じた白色沈澱をろ過し、白色結晶・・・を得た」こと,そして,この「白色結晶」が「(E)-3(R)-5(S)-ジヒドロキシ-7-〔4′-(4″-フルオロフェニル)-2′-シクロプロピルキノリン-3′-イル〕ヘプト-6-エン酸・1/2カルシウム塩」であり,「融点190?192℃」であることも記載されている(摘記2c参照)。
そうすると,甲第2号証には,
「(E)-3(R)-5(S)-ジヒドロキシ-7-[4’-(4”-フルオロフェニル)-2’-シクロプロピルキノリン-3’-イル]ヘプト-6・エン酸・D(+)フェネチルアミン塩化合物[(-)I・(+)II]に、水酸化ナトリウム水溶液、水を加え、撹拌溶解させ、この溶液中に、水に無水塩化カルシウムを溶解させた塩化カルシウム水溶液を滴下し、この反応液を一晩撹拌後、生じた白色沈殿をろ過して得られた、融点190?192℃の(E)-3(R)-5(S)-ジヒドロキシ-7-[4’-(4”-フルオロフェニル)-2’-シクロプロピルキノリン-3’-イル]ヘプト-6・エン酸・1/2カルシウム塩の白色結晶」の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されている。

(3)対比・判断
(3-1)本件発明1に対して
ア 対比
本件発明1と甲2発明とを対比すると,両者とも,
「(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6(E)-ヘプタン酸ヘミカルシウム塩」である点で一致し,以下の点で相違している。
(2-i)X線粉末解析図形が,
本件発明1は,「2θで表して、5.0(s)、6.8(s)、9.1(s)、10.0(w)、10.5(m)、11.0(m)、13.3(vw)、13.7(s)、14.0(w)、14.7(w)、15.9(vw)、16.9(w)、17.1(vw)、18.4(m)、19.1(w)、20.8(vs)、21.1(m)、21.6(m)、22.9(m)、23.7(m)、24.2(s)、25.2(w)、27.1(m)、29.6(vw)、30.2(w)、34.0(w)[ここで、(vs)は、非常に強い強度を意味し、(s)は、強い強度を意味し、(m)は、中間の強度を意味し、(w)は、弱い強度を意味し、(vw)は、非常に弱い強度を意味する]に特徴的なピークを有する」「結晶多形A」であるのに対して,
甲2発明は,どのような回折角(2θ)にピークを有し,かつ,それぞれの回折角(2θ)のピーク強度がどのようなものであるかが明確でない「白色結晶」である点
(2-ii)本件発明1は,「FT-IR分光法と結合した熱重量法により測定した含水量が3?12%である」であるのに対して,
甲2発明は,含水量が不明である点

イ 相違点(i)の検討
(ア)同一化合物の結晶多形を作る動機付けについて
甲第8号証には,(R)-(-)-2-シクロヘプチル-N-メチルスルフォニル-[4-(2-キノリニルメトキシ)-フェニル]-アセトアミド化合物の非結晶性粉末は,物理的に不安定性で,吸収効率及び調合剤の安全性を損なうところ,非結晶形と比較して,増大した物理的安定性と低減した圧力感受性に特徴を有する新規な結晶形の化合物が得られたことが記載されている(摘記8a,8b参照)。
甲第9号証には,L-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩の非晶質は実用面で支障になる品質のバラツキが生じやすく,安定な結晶質L-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩として提供されることが望まれていることが記載されている(摘記9a参照)。
甲第10号証には,ラニチジンの塩酸塩は,現在の製薬上の要件や規格を満足させるために,できる限り純粋かつ高度に結晶性の状態でラニチジンを製造する必要があることが記載されている(摘記10a参照)。
甲第11号証には,4-クロロフェニルチオメチレンビスホスホン酸(チルドロン酸)のジナトリウム塩の一水和物は,湿度および温度条件に関係なく,経時的に特に安定であることが記載されている(摘記11a,11b参照)。
甲第12号証には,L-アスコルビン酸-2-リン酸のナトリウム塩の結晶は,安定で取り扱い易いことが記載されている(摘記12a,12b参照)。
甲第13号証には,高純度結晶形態のセフロキシムアクセチルは,生物学的投与に対して一層適当であることが記載されている(摘記13a参照)。
甲第8?13号証のこれらの記載からすれば,同一化合物において非晶質を結晶形態とすることで,医薬化合物の安定性,扱いやすさ等を改善する例が数多くあることが理解でき,一般に医薬化合物においては,非結晶性の物質を結晶化することについては強い動機付けがあり,結晶化条件を検討したり,結晶多形を調べることは当業者がごく普通に行うことと認められる。
また,乙第11号証の1(433頁第2?11行)によれば,厚生省により平成10年3月31日に通知された「新原薬及び新製剤の規格:試験方法と判定基準に関するガイドライン」(案)に,「新原薬の中には固体状態において物理的性質の異なる2つ以上の存在形(結晶多または溶媒和物)で存在するものがあり,こうした固体状態の違いが,新製剤の品質や機能に影響を及ぼすことがある。その相違が製剤機能,bioavailabilityあるいは安定性に影響を及ぼすような場合には,新原薬の規格に適切な存在形を規定すべきである」との指針が示されており,この点からも,本件優先日前に医薬化合物の結晶化条件を検討したり,結晶多形(水和物などの溶媒和物も含む)を調べることは当業者がごく普通に行うことと認められる。
そして,甲2発明は,結晶化されたものであるから,この結晶について,当業者が結晶化条件を検討したり,結晶多形の存在を調べたり,得られた結晶について分析することには,十分な動機付けを認めることができる。仮に,甲2発明が無定形(非晶質)であったとしても,上述のとおり非結晶性の物質を結晶化することについては強い動機付けがあるから,その結晶化のための結晶化条件を検討したり,その結晶多形(水和物などの溶媒和物も含む)を調べることは当業者がごく普通に行うことということができる。

(イ)本件発明1の結晶多形Aを作成する容易性について
a 甲第5号証の実験条件について
甲第5号証には,以下の示すように,甲2発明をもとに,乾燥条件を様々に設定して6つの結晶(以下「結晶1」?「結晶6」という。)を作成し,これらの粉末X線回折の結果と水分量測定の結果が示されている。
乾燥条件 乾燥時間 水分量
結晶1 追試1回目 室温減圧乾燥 30min 10.7%
結晶2 追試1回目 60℃棚式乾燥 60min 10.3%
結晶3 追試1回目 40℃送風乾燥 60min 12.7%
結晶4 追試2回目 室温減圧乾燥 48min 9.7%
結晶5 追試2回目 60℃棚式乾燥 75min 10.2%
結晶6 追試2回目 40℃送風乾燥 75min 11.1%

上記(ア)で述べたように,甲2発明を知り得た当業者であれば,甲2発明を結晶化する結晶化条件を調べたり,結晶多形の存在を調べることは,ごく普通に行うことといえるものの,甲第2号証には,得られた結晶の水分量,乾燥操作については記載がないから,結晶化条件や結晶多形の存在を調べる際に,甲第5号証のような乾燥条件によって結晶1?6のような水分量の結晶を得ることが当業者がごく普通に行うことであったのかについてさらに検討する。
本件優先日前に頒布された甲第16号証は日本薬局方解説書であるが,「多くの医薬品結晶では,結晶多形,溶媒和結晶の存在が知られている.水和結晶は水和物結晶とも呼ばれる.結晶多形,溶媒和結晶間では,溶解度,溶解速度の違いによりバイオアベイラビリティが異なったり,あるいはまた,経時的な安定性も異なる場合があることが知られている.」と記載され(B-617頁第10?13行参照),また,本件優先日前に頒布された医薬品の結晶多形に関する総説である乙第11号証の1には,「結晶化の検討に際して,結晶水と付着水,溶媒和と残留溶媒,純度(不純物,無機物)と結晶形等基礎的検討をする.」と記載されている(第435頁第16?17行参照)ことからすれば,本件優先日前において,結晶化の検討にあたっては,結晶水を有する水和物の存在は当業者が普通に確認するといえる。
そして,甲2発明は,水溶液中の反応によって得られるものであること,また,水和物の結晶水は,結晶に含まれる水分量に関連することから,甲2発明において,水溶液の反応から得られた生成物(水分を必ず含んでいる。)の乾燥状態を適宜設定して結晶の水分量を調整し,水和物結晶の存在を調査することは当業者がごく普通に行うことであったといえる。
そうすると,甲2発明において,甲第5号証のように乾燥条件を適宜設定して,水分量を変化させ,水分量が9.7?12.7%の結晶1?6を得ることは,これらの乾燥条件が特殊であるといえない以上,甲2発明の結晶化の検討において,当業者が通常行う試行錯誤の範囲内で得ることができたものと認められる。

b 粉末X線回折について
本件発明1の結晶と結晶1?6の粉末X線回折のピークの2θについて対比すると,結晶3,6とは回折角2θ(特に20°以上)が明らかに異なるが,結晶1,2,4,5については,以下に示すとおり,すべての回折角2θの値は誤差の範囲とされる最大±0.2°の範囲内に収まっている。
2θ(°)
本件発明1 結晶1 結晶2 結晶4 結晶5
5.0 4.985 5.081 4.999 5.070
6.8 6.751 6.849 6.762 6.845
9.1 9.119 9.220 9.139 9.211
10.0 9.959 10.073 9.980 10.068
10.5 10.447 10.542 10.462 10.536
11.0 10.898 10.997 10.913 10.984
13.3 13.192 13.307 13.211 13.322
13.7 13.669 13.776 13.692 13.765
14.0 13.955 14.078 13.975 14.055
14.7 14.642 14.751 14.666 14.754
15.9 15.768 15.867 15.638 15.776
16.9 16.843 16.955 16.853 16.951
17.1 17.089 17.185 17.111 17.197
18.4 18.296 18.432 18.322 18.401
19.1 19.244 19.131 18.976 19.066
20.8 20.748 20.842 20.766 20.848
21.1 21.135 21.123 21.148 21.089
21.6 21.602 21.643 21.636 21.662
22.9 22.921 23.018 22.942 23.020
23.7 23.662 23.756 23.684 23.747
24.2 24.153 24.240 24.172 24.235
25.2 25.188 25.286 25.205 25.286
27.1 27.030 27.119 27.043 27.115
29.6 29.552 29.650 29.557 29.638
30.2 30.227 30.287 30.252 30.312
34.0 34.034 34.037 34.054 34.094

次に,本件発明1の結晶と結晶1,2,4,5の粉末X線回折のピークの相対強度について対比すると,以下のとおりである。
2θ 本件発明 結晶1 結晶2 結晶4 結晶5
5.0 s 6925 5656 6672 5405
6.8 s 4591 4327 4651 3896
9.1 s 2187 1879 2064 1613
10.0 w 1615 1456 2092 1796
10.5 m 1617 1551 1638 1291
11.0 m 2534 2176 3038 2261
13.3 vw 730 687 596 644
13.7 s 1756 1758 1842 1531
14.0 w 1221 1278 993 1012
14.7 w 560 571 571 525
15.9 vw 604 593 609 505
16.9 w 526 535 582 512
17.1 vw 450 435 431 433
18.4 m 965 1045 916 934
19.1 w 371 497 480 478
20.8 vs 2840 2798 3172 2845
21.1 m 1191 1729 1128 1503
21.6 m 874 1093 853 923
22.9 m 690 681 735 695
23.7 m 965 992 888 966
24.2 s 1445 1461 1782 1596
25.2 w 617 627 654 655
27.1 m 766 766 830 798
29.6 vw 342 361 352 403
30.2 w 608 625 630 681
34.0 w 330 335 379 401

本件発明1と結晶1とを対比すると,本件発明1では,20.8°のピークがvs(非常に強い強度)であり,5.0°,6.8°のピークがs(強い強度)となっているのに対して,結晶1では,20.748°のピークが2840で,4.985°,6.751°のピークの6925,4591よりも小さい値となっている。また,本件発明1では,11.0°のピークがm(中間の強度)であり,9.1°,13.7°,24.2°のピークがs(強い強度)となっているのに対して,結晶1では,10.898°のピークが2534で,9.119°,13.669°,24.153°のピークの2187,1756,1445よりも大きい値となっている。
さらに,上記1(3)(3-1)イ(イ)でも述べたのと同様,最大20%の範囲で,結晶1の各ピークの相対強度を変更して本件発明1の各ピークの相対強度を比較してみても,例えば,本件発明1では,20.8°のピークがvs(非常に強い強度)であり,5.0°,6.8°のピークがs(強い強度)となっているのに対して,結晶1では,20.748°のピークが3408(2840×1.2)で,4.985°,6.751°のピークの5540(6925×0.8),3673(4591×0.8)よりも小さい値となっている。
そうすると,本件発明1と結晶1とは,X線粉末回折のピークの相対強度について一致していないから,両者が同一であるということはできない。

本件発明1と結晶2とを対比すると,本件発明1では,20.8°のピークがvs(非常に強い強度)であり,5.0°,6.8°のピークがs(強い強度)となっているのに対して,結晶2では,20.842°のピークが2798で,5.081°,6.849°のピークの5656,4327よりも小さい値となっている。また,本件発明1では,11.0°のピークがm(中間の強度)であり,9.1°,13.7°,24.2°のピークがs(強い強度)となっているのに対して,結晶2では,10.997°のピークが2176で,9.220°,13.776°,24.240°のピークの1879,1758,1461よりも大きい値となっている。
さらに,最大20%の範囲で,結晶2の各ピークの相対強度を変更して本件発明1の各ピークの相対強度を比較してみても,例えば,本件発明1では,20.8°のピークがvs(非常に強い強度)であり,5.0°,6.8°のピークがs(強い強度)となっているのに対して,結晶2では,20.842°のピークが3358(2798×1.2)で,5.081°,6.849°のピークの4525(5656×0.8),3462(4327×0.8)よりも小さい値となっている。
そうすると,本件発明1と結晶2とは,X線粉末回折のピークの相対強度について一致していないから,両者が同一であるということはできない。

本件発明1と結晶4とを対比すると,本件発明1では,20.8°のピークがvs(非常に強い強度)であり,5.0°,6.8°のピークがs(強い強度)となっているのに対して,結晶4では,20.766°のピークが3172で,4.999°,6.762°のピークの6672,4651よりも小さい値となっている。また,本件発明1では,11.0°のピークがm(中間の強度)であり,9.1°,13.7°,24.2°のピークがs(強い強度)となっているのに対して,結晶4では,10.913°のピークが3038で,9.139°,13.692°,24.172°のピークの2064,1842,1782よりも大きい値となっている。
さらに,最大20%の範囲で,結晶4の各ピークの相対強度を変更して本件発明1の各ピークの相対強度を比較してみても,例えば ,本件発明1では,20.8°のピークがvs(非常に強い強度)で,5.0°ピークがs(強い強度)となり,11.0°のピークがm(中間の強度)で,24.2°のピークがs(強い強度)となっているのに対して,結晶4では,20.766°のピークが3806(3172×1.2)で,4.999°のピークの5338(6672×0.8)よりも小さい値となっており,10.913°のピークが2430(3038×0.8)で,24.172°のピークの2138(1782×1.2)よりも大きな値となっている。
そうすると,本件発明1と結晶4とは,X線粉末回折のピークの相対強度について一致していないから,両者が同一であるということはできない。

本件発明1と結晶5とを対比すると,本件発明1では,20.8°のピークがvs(非常に強い強度)であり,5.0°,6.8°のピークがs(強い強度)となっているのに対して,結晶5では,20.848°のピークが2845で,5.070°,6.845°のピークの5405,3896よりも小さい値となっている。また,本件発明1では,11.0°のピークがm(中間の強度),10.0°のピークがw(弱い強度)であり,9.1°,13.7°,24.2°のピークがs(強い強度)となっているのに対して,結晶5では,10.984°,10.068°のピークが2261,1796で,9.211°,13.765°,24.235°のピークの1613,1503,1596よりも大きい値となっている。
さらに,最大20%の範囲で,結晶5の各ピークの相対強度を変更して本件発明1の各ピークの相対強度を比較してみても,本件発明1では,20.8°のピークがvs(非常に強い強度)で,5.0°ピークがs(強い強度)となり,10.0°のピークがw(弱い強度)で,22.9°のピークがm(中間の強度)となっているのに対して,結晶5では,20.848°のピークが3414(2845×1.2)で,5.070°のピークの4324(5405×0.8)よりも小さい値となっており,10.068°のピークが1437(1796×0.8)で,23.020°のピークの834(695×1.2)よりも大きな値となっている。
そうすると,本件発明1と結晶5とは,X線粉末回折のピークの相対強度について一致していないから,両者が同一であるということはできない。

(ウ)相違点の検討のまとめ
以上検討したとおり,甲2発明において,製造における乾燥条件を様々に設定して結晶1?6を製造することが,本件優先日前の技術常識から当業者が容易になし得たことであるとしても,本件発明1と結晶1?6が同一であるといえないから,甲2発明とは異なる相違点(2-i)の相対強度を有する本件発明1の結晶を当業者が容易に作成できたとは認めることができない。
また,そのほかに,甲2発明に基いて,相違点(2-i)の相対強度を有する結晶を当業者が容易に作成できるとする理由及び証拠は示されていない。

ウ 請求人の主張について
請求人は,上記1(3)(3-1)ウ(ア)と同様,本件発明1と甲2発明の追試試験として乾燥条件を適宜設定して得られた甲第5号証の結晶1,2,4,5とX線粉末回折のピークの相対強度が異なるとしても,X線粉末回折図形のピーク位置が一致する以上同一結晶形であり,ピーク強度の相違は実験誤差にすぎないと主張している(上申書第6頁第11?20行)。
しかしながら,上記イ(イ)bで述べたとおり,相対強度における同一の許容範囲を最大限に考慮しても,本件発明1と結晶1,2,4,5の各ピークの相対強度の順序が一致することはなく,両者が同一であるとすることはできない。
また,請求人は,回折ピーク位置が全て同じで,ピーク強度のみが相違する2つの結晶形が存在することを裏付ける証拠はなく,このように解するのは不自然であるとも主張するが,これも採用できないことは上記1(3)(3-1)ウ(イ)で述べたとおりである。

エ 本件発明1のまとめ
以上のとおり,甲2発明において,甲第5号証及び甲第8?13号証の記載を参酌したとしても,本件特許出願の優先日前に,相違点(2-i)の相対強度を有する結晶を作成することが当業者にとって容易になし得たものとはいえず,その余の相違点について検討するまでもなく,本件発明1は,甲第2号証に記載された発明及び甲第8?13号証に記載された事項から導かれる技術常識に基いて,本件優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

(3-2)本件発明2,4?6に対して
本件発明2,本件発明4?6は,いずれも本件発明1の結晶多形Aを含むものであるから,本件発明1が甲2発明及び甲第8?13号証に記載された事項から導かれる技術常識に基いて当業者が容易に発明したということができない以上,本件発明2,4?6も同様に甲第2号証に記載された発明及び甲第8?13号証に記載された事項から導かれる技術常識に基いて,本件特許出願の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

(4)小括
以上のとおり,本件発明1,2,4?6は,甲第2号証に記載された発明及び甲第8?13号証に記載された事項から導かれる技術常識に基いて,本件特許出願の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものと認めることができず,上記理由及び証拠によっては,本件発明1,2,4?6についての特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり,請求人が示した理由及び証拠によっては,本件発明1,2,4?6の特許は,無効とすることができない。
審判費用については,特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により,請求人が負担すべきものとする。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-06-17 
結審通知日 2014-06-19 
審決日 2014-07-03 
出願番号 特願2006-501997(P2006-501997)
審決分類 P 1 123・ 161- Y (C07D)
P 1 123・ 121- Y (C07D)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 中田 とし子
特許庁審判官 井上 雅博
木村 敏康
登録日 2013-02-08 
登録番号 特許第5192147号(P5192147)
発明の名称 ピタバスタチンカルシウムの結晶質形態  
代理人 橋口 尚幸  
代理人 生田 哲郎  
代理人 高橋 隆二  
代理人 佐野 辰巳  
代理人 増井 和夫  
代理人 齋藤 誠二郎  
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