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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C08F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08F
管理番号 1291480
審判番号 不服2013-15095  
総通号数 178 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-10-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-08-05 
確定日 2014-09-04 
事件の表示 特願2009-523278「自己分散可能なシリコーンコポリマーおよびその製造法、および該化合物の使用」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 2月14日国際公開、WO2008/017671、平成22年 1月 7日国内公表、特表2010-500436〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成19年8月7日(パリ条約による優先権主張 2006年8月9日 ドイツ連邦共和国)を国際出願日とする特許出願であって、平成21年4月7日に手続補正書が提出され、平成24年6月8日付けで拒絶理由が通知され、同年9月11日に意見書とともに誤訳訂正書が提出されが、平成25年4月3日付けで拒絶査定がなされ、それに対して、平成25年8月5日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正書が提出され、同年同月20日に審判請求書の手続補正書(方式)が提出され、同年10月17日に前置報告がなされ、当審において同年11月21日付けで審尋を通知し、期間を指定して請求人の意見を求めたところ、請求人からの回答書の提出が無かったものである。

第2.補正の却下の決定
[結論]
平成25年8月5日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.手続補正の内容
平成25年8月5日付け手続補正(以下、「本件手続補正」という。)は、平成24年9月11日提出の誤訳訂正書による手続補正により補正された特許請求の範囲及び明細書を補正するものであり、そのうち特許請求の範囲の請求項1について、
「【請求項1】
a)1つまたはそれ以上のエチレン系不飽和オルガノモノマーとb)1つまたはそれ以上のシリコーンマクロマーとのラジカルにより開始される溶液重合により得ることができる、乳化剤または保護コロイドの排除下で水中で自己分散可能である高い透明度のシリコーンオルガノコポリマーにおいて、c)1つまたはそれ以上の水溶性コモノマーが有機溶剤または溶剤混合物中で共重合されており、成分a?c)の全質量に対するシリコーンマクロマーb)の含量は、20質量%以上であり、かつ水溶性コモノマーc)として、クロトン酸、アクリル酸、メタクリル酸、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド(DADMAC)、2-メチル-2-プロペン-1-スルホン酸、2-プロペン-1-スルホン酸または2-アクリルアミド-2-メチル-プロパンスルホン酸を含む群からの1つまたはそれ以上が使用されていることを特徴とする、高い透明度のシリコーンオルガノコポリマー。」

「【請求項1】
a)1つまたはそれ以上のエチレン系不飽和オルガノモノマーとb)1つまたはそれ以上のシリコーンマクロマーとのラジカルにより開始される溶液重合により得ることができる、乳化剤または保護コロイドの排除下で水中で自己分散可能である高い透明度のシリコーンオルガノコポリマーにおいて、c)1つまたはそれ以上の水溶性コモノマーが有機溶剤または溶剤混合物中で共重合されており、成分a?c)の全質量に対するシリコーンマクロマーb)の含量は、20質量%以上であり、かつ水溶性コモノマーc)として、クロトン酸、アクリル酸、メタクリル酸、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド(DADMAC)、2-メチル-2-プロペン-1-スルホン酸、2-プロペン-1-スルホン酸または2-アクリルアミド-2-メチル-プロパンスルホン酸を含む群からの1つまたはそれ以上が使用され、
前記1つまたはそれ以上のエチレン系不飽和オルガノモノマーa)が、ビニルアセテート、ビニルプロピオネート、ビニルブチレート、ビニル-2-エチルヘキサノエート、ビニルラウレート、1-メチルビニルアセテート、ビニルピバレートおよび、5?13個のC原子を有するα位で分枝したモノカルボン酸のビニルエステル、1,3-ブタジエン、イソプレン、エテン、プロペン、ビニルトルエン、塩化ビニル、塩化ビニリデンまたはフッ化ビニルを含む群から選択される1つまたはそれ以上のエチレン系不飽和オルガノモノマーa)が使用されていることを特徴とする、高い透明度のシリコーンオルガノコポリマー。」
と補正するものである。

2.本件手続補正の適否について
(1)新規事項の追加の有無について
本件手続補正は、特許法第184条の6第2項の規定により、同法第17条の2第3項における願書に最初に添付された明細書及び特許請求の範囲とみなす国際出願日における国際特許出願の明細書の翻訳文及び国際出願日における国際特許出願の請求の範囲の翻訳文(以下、「当初明細書等」という。)の発明の詳細な説明の記載からみて、当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入したものではないことから、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものと認められる。

(2)補正の目的
本件手続補正は、補正前の請求項1に補正前の請求項6において規定された「ビニルアセテート、ビニルプロピオネート、ビニルブチレート、ビニル-2-エチルヘキサノエート、ビニルラウレート、1-メチルビニルアセテート、ビニルピバレートおよび、5?13個のC原子を有するα位で分枝したモノカルボン酸のビニルエステル、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、プロピルアクリレート、プロピルメタクリレート、n-ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、t-ブチルアクリレート、n-ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、t-ブチルメタクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、ノルボルニルアクリレート、1,3-ブタジエン、イソプレン、エテン、プロペン、スチレン、ビニルトルエン、塩化ビニル、塩化ビニリデンまたはフッ化ビニルを含む群から選択される1つまたはそれ以上のエチレン系不飽和オルガノモノマーa)が使用されている」のうち、「ビニルアセテート、ビニルプロピオネート、ビニルブチレート、ビニル-2-エチルヘキサノエート、ビニルラウレート、1-メチルビニルアセテート、ビニルピバレートおよび、5?13個のC原子を有するα位で分枝したモノカルボン酸のビニルエステル、1,3-ブタジエン、イソプレン、エテン、プロペン、スチレン、ビニルトルエン、塩化ビニル、塩化ビニリデンまたはフッ化ビニルを含む群から選択される1つまたはそれ以上のエチレン系不飽和オルガノモノマーa)が使用されている」との発明を特定するために必要な事項(以下、「発明特定事項」という。)を追加する補正であって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(3)独立特許要件について
そこで、本件手続補正後の請求項1に記載された発明(以下、「補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(3-1)補正発明
補正発明は、次のとおりのものである。
「a)1つまたはそれ以上のエチレン系不飽和オルガノモノマーとb)1つまたはそれ以上のシリコーンマクロマーとのラジカルにより開始される溶液重合により得ることができる、乳化剤または保護コロイドの排除下で水中で自己分散可能である高い透明度のシリコーンオルガノコポリマーにおいて、c)1つまたはそれ以上の水溶性コモノマーが有機溶剤または溶剤混合物中で共重合されており、成分a?c)の全質量に対するシリコーンマクロマーb)の含量は、20質量%以上であり、かつ水溶性コモノマーc)として、クロトン酸、アクリル酸、メタクリル酸、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド(DADMAC)、2-メチル-2-プロペン-1-スルホン酸、2-プロペン-1-スルホン酸または2-アクリルアミド-2-メチル-プロパンスルホン酸を含む群からの1つまたはそれ以上が使用され、
前記1つまたはそれ以上のエチレン系不飽和オルガノモノマーa)が、ビニルアセテート、ビニルプロピオネート、ビニルブチレート、ビニル-2-エチルヘキサノエート、ビニルラウレート、1-メチルビニルアセテート、ビニルピバレートおよび、5?13個のC原子を有するα位で分枝したモノカルボン酸のビニルエステル、1,3-ブタジエン、イソプレン、エテン、プロペン、ビニルトルエン、塩化ビニル、塩化ビニリデンまたはフッ化ビニルを含む群から選択される1つまたはそれ以上のエチレン系不飽和オルガノモノマーa)が使用されていることを特徴とする、高い透明度のシリコーンオルガノコポリマー。」

(3-2)特許法第29条第1項第3号について
(ア)刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された特開2000-169510号公報(以下、「引用文献4」という。)には、以下の記載が認められる。

(摘示1)
「【請求項1】 シリコーン系高分子乳化剤の存在下にラジカル重合性単量体を乳化重合してなる水性樹脂分散体であって、シリコーン系高分子乳化剤および/または樹脂の分子中に、ピペリジン骨格を有する単量体に由来する構造単位を、シリコーン系高分子乳化剤および樹脂の合計重量に基づいて、0.5?25重量%の割合で有することを特徴とする水性樹脂分散体。
【請求項2】 シリコーン系高分子乳化剤が、シリコーン分子の末端に(メタ)アクリロイル基を有するマクロモノマーおよびα,β-エチレン性不飽和カルボン酸と共に、ピペリジン骨格を持たない他のラジカル重合性単量体および/またはピペリジン骨格を有するラジカル重合性単量体を共重合してなる共重合体であって且つ該共重合体中のカルボキシル基の一部または全部を塩基で中和してなる共重合体である請求項1に記載の水性樹脂分散体。」(特許請求の範囲、請求項1、2)

(摘示2)
「本発明の水性樹脂分散体の製造に用いるシリコーン系高分子乳化剤としては、分子中にシリコーン単位を有し、且つラジカル重合性単量体の重合時および重合後にラジカル重合性単量体および該単量体の乳化重合により生成した樹脂分を水性媒体中に安定に乳化分散させ得るシリコーン系高分子であればいずれも使用できる。そのうちでも、本発明で好ましく用いられるシリコーン系高分子乳化剤としては、(a)シリコーン分子の末端に(メタ)アクリロイル基を有するマクロモノマー、(b)α,β-エチレン性不飽和カルボン酸、並びに(c)ピペリジン骨格を持たない他のラジカル重合性単量体および/またはピペリジン骨格含有単量体を共重合させてシリコーンを枝成分とするグラフト共重合体を製造し、該グラフト共重合体中のカルボキシル基の一部または全部を塩基で中和して得た共重合体よりなるシリコーン系高分子乳化剤を挙げることができる。
前記したシリコーン系高分子乳化剤の製造に用いるマクロモノマー(a)としては、シリコーン分子の末端に(メタ)アクリロイル基を有する数平均分子量が1,000?50,000であるマクロモノマーが、耐水性、乳化力、シリコーン系高分子乳化剤を製造する際の重合性などの点から好ましい。また、シリコーン系高分子乳化剤における該マクロモノマー(a)に由来する構造単位の含有量は、シリコーン系高分子乳化剤の重量に基づいて0.5?60重量%、特に2?50重量%であることが、シリコーン系高分子乳化剤の乳化力、貯蔵安定性、シリコーン系高分子乳化剤を含む本発明の水性樹脂分散体を用いて形成した塗膜の耐水性などの点から好ましい。該マクロモノマー(a)の製法は何ら制限されないが、例えば、(i)リチウムトリアルキルシラノレートなどの重合開始剤を使用して環状トリシロキサンまたは環状テトラシロキサンなどを重合してシリコーンリビングポリマーをつくり、これにγ-メタクリロイルオキシプロピルモノクロロジメチルシランなどを反応させるアニオン重合法(例えば特開昭59-78236号公報)、(ii)末端にシラノール基を有するシリコーンとγ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランなどとを縮合反応させる縮合法(特開昭58-16760号公報、特開昭60-123518号公報など)などを挙げることができる。
また、シリコーン系高分子乳化剤の製造に用いる前記したα,β-エチレン性不飽和カルボン酸(b)としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、無水マレイン酸などを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。α,β-エチレン性不飽和カルボン酸(b)の使用量は、シリコーン系高分子乳化剤の酸価が30?260mgKOH/g樹脂になるような量であることが好ましい。前記酸価を与えるα,β-エチレン性不飽和カルボン酸(b)の使用量は、該カルボン酸の種類によって異なるが、一般にはシリコーン系高分子乳化剤の製造に用いる全単量体[マクロモノマー(a)も含む]の重量に対して通常3?40重量%程度である。シリコーン系高分子乳化剤の酸価が前記した30mgKOH/g樹脂未満であると、塩基で中和しても該シリコーン系高分子乳化剤を水溶化できにくくなる。一方、シリコーン系高分子乳化剤の酸価が前記した260mgKOH/g樹脂を超えると、シリコーン系高分子乳化剤を含む水性樹脂分散体から得られる塗膜などの耐水性が低下し易い。
シリコーン系高分子乳化剤の製造に用いる前記した単量体(c)において、ピペリジン骨格を持たない他のラジカル重合性単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸ベヘニル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸ポリアルキレングリコール、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸パーフルオロアルキルなどの、(メタ)アクリル酸エステル;スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレンなどの芳香族ビニル化合物;(メタ)アクリロニトル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、塩化ビニル、フッ化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン、トリクロルエチレンなどを挙げることができる。これらの単量体のうちの1種または2種以上を用いることができる。そのうちでも、ピペリジン骨格を持たない他のラジカル重合性単量体(c)としては、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主体とするラジカル重合性単量体が好ましく用いられる。ピペリジン骨格を持たない他のラジカル重合性単量体の好ましい使用量は、一般に、シリコーン系高分子乳化剤の製造に用いる全単量体(マクロモノマーも含む)の重量に基づいて、10?90重量%である。」(段落【0015】?【0018】)

(摘示3)
「シリコーン系高分子乳化剤の前駆体であるシリコーンを枝成分とする前記したグラフト共重合体の製造に当たっては、ラジカル重合開始剤を用いる方法または放射線照射法のいずれでも採用できるが、ラジカル重合開始剤を用いて行うのが好ましい。その際のラジカル重合開始剤としては、一般にラジカル重合に用いられている重合開始剤のいずれもが使用でき、例えば過硫酸アンモニウム、過酸化水素などの無機系ラジカル重合開始剤;クメンヒドロパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、過酸化ベンゾイル、2,2’-アゾビスイソブチロニトリルなどの有機系ラジカル重合開始剤などを挙げることができる。また、重合時に、分子量の調整のために、必要に応じて連鎖移動剤、例えばメルカプト酢酸、メルカプトピロピオン酸、2-プロパンチオール、1-ブタンチオール、2-メチル-2-プロパンチオ-ル、2-メルカプトエタノール、エチルメルカプトアセテート、チオフェノール、2-ナフタレンチオール、ドデシルメルカプタンまたはチオグリセロールなどを用いてもよい。
前記グラフト共重合体を製造するための重合反応は、適当な有機溶媒中で、50?150℃、特に60?100℃の温度で、3?100時間、特に5?10時間の重合時間で行うのが好ましい。前記有機溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチルなどの酢酸エステル系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素溶媒、シクロヘキサン、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素溶媒、メタノール、エタノール、イソプパノール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ノルマルブチルセロソルブ、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチールプロパン、グリセリンなどのアルコール系溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメチルホルアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホアミドなどを挙げることができる。
上記により得られるグラフト共重合体の有機溶媒溶液に塩基を添加して、そのカルボキシル基の一部または全部を中和して水溶性グラフト共重合体とすることにより、本発明の水性樹脂分散体で好ましく用いられるシリコーン系高分子乳化剤が得られる。水性化のための塩基としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの無機のアルカリ金属塩、アンモニア、トリエチルアミン、トリメチルアミン、ジイソプロピルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジメチルエタノールアミンなどの1級、2級または3級アミン化合物、ピリジン、ピペリジンなどの複素環式アミン化合物を挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。カルボキシル基の中和量は、グラフト共重合体中の全カルボキシル基の50モル%以上であることが好ましい。」(段落【0020】?【0022】)

(イ)引用文献4に記載された発明
引用文献4には、摘示1からみて、「シリコーン系高分子乳化剤が、シリコーン分子の末端に(メタ)アクリロイル基を有するマクロモノマーおよびα,β-エチレン性不飽和カルボン酸と共に、ピペリジン骨格を持たない他のラジカル重合性単量体および/またはピペリジン骨格を有するラジカル重合性単量体を共重合してなる共重合体であって且つ該共重合体中のカルボキシル基の一部または全部を塩基で中和してなる共重合体」が記載されている。
また、摘示2からみて、「シリコーン系高分子乳化剤における該マクロモノマー(a)に由来する構造単位の含有量は、シリコーン系高分子乳化剤の重量に基づいて0.5?60重量%、特に2?50重量%であることが、シリコーン系高分子乳化剤の乳化力、貯蔵安定性、シリコーン系高分子乳化剤を含む本発明の水性樹脂分散体を用いて形成した塗膜の耐水性などの点から好ましい。」ことが記載されている。
また、当該共重合体について、摘示3からみて、「シリコーン系高分子乳化剤の前駆体であるシリコーンを枝成分とする前記したグラフト共重合体の製造に当たっては、ラジカル重合開始剤を用いる方法または放射線照射法のいずれでも採用できるが、ラジカル重合開始剤を用いて行うのが好ましい。・・・前記グラフト共重合体を製造するための重合反応は、適当な有機溶媒中で、・・・で行うのが好ましい。・・・上記により得られるグラフト共重合体の有機溶媒溶液に塩基を添加して、そのカルボキシル基の一部または全部を中和して水溶性グラフト共重合体とすることにより、本発明の水性樹脂分散体で好ましく用いられるシリコーン系高分子乳化剤が得られる。」ことが記載されている。
したがって、引用文献4には、
「シリコーン分子の末端に(メタ)アクリロイル基を有するマクロモノマーおよびα,β-エチレン性不飽和カルボン酸と共に、ピペリジン骨格を持たない他のラジカル重合性単量体を共重合してなる共重合体であり、且つ該共重合体中のカルボキシル基の一部または全部を塩基で中和してなる共重合体であって、当該マクロモノマー(a)に由来する構造単位の含有量は当該共重合体の重量に基づいて0.5?60重量%であり、当該共重合体は有機溶媒中でラジカル開始剤を用いる方法によって得られる水溶性共重合体」
なる発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

(ウ)対比
補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明における「シリコーン分子の末端に(メタ)アクリロイル基を有するマクロモノマー」は、補正発明における「b)1つまたはそれ以上のシリコーンマクロマー」に相当する。また、「マクロモノマー(a)に由来する構造単位の含有量は当該共重合体の重量に基づいて0.5?60重量%」は、補正発明における「成分a?c)の全質量に対するシリコーンマクロマーb)の含量は、20質量%以上」と重複一致している。
そして、引用発明における「α,β-エチレン性不飽和カルボン酸」は、摘示2からみて、「α,β-エチレン性不飽和カルボン酸(b)としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、無水マレイン酸などを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる」ことが記載されており、当該α,β-エチレン性不飽和カルボン酸が水溶性のコモノマーであることは明らかであることから、補正発明における「c)1つまたはそれ以上の水溶性コモノマー」に相当する。また、引用発明における「ピペリジン骨格を持たない他のラジカル重合性単量体」が、補正発明における「オルガノモノマー」に相当することは明らかである。
さらに、引用発明における「共重合体」は、「シリコーン分子の末端に(メタ)アクリロイル基を有するマクロモノマーおよびα,β-エチレン性不飽和カルボン酸と共に、ピペリジン骨格を持たない他のラジカル重合性単量体を共重合」させたものであり、補正発明における「シリコーンオルガノコポリマー」に相当する。
また、引用発明における「有機溶媒中でラジカル開始剤を用いる方法によって得られる水溶性共重合体」が、乳化剤または保護コロイドの排除下で水中で自己分散可能であることは明らかであり、補正発明における「ラジカルにより開始される溶液重合により得ることができる、乳化剤または保護コロイドの排除下で水中で自己分散可能であるシリコーンオルガノコポリマー」に相当するといえる。
したがって、両発明は、
「a)オルガノモノマーとb)1つまたはそれ以上のシリコーンマクロマーとのラジカルにより開始される溶液重合により得ることができる、乳化剤または保護コロイドの排除下で水中で自己分散可能であるシリコーンオルガノコポリマーにおいて、c)1つまたはそれ以上の水溶性コモノマーが有機溶剤または溶剤混合物中で共重合されており、成分a?c)の全質量に対するシリコーンマクロマーb)の含量は、20質量%以上である、シリコーンオルガノコポリマー。」
の点で一致し、以下の相違点で一応相違するものと認められる。

相違点(1)
a)オルガノモノマーについて、補正発明においては、「1つまたはそれ以上のエチレン系不飽和オルガノモノマーa)が、ビニルアセテート、ビニルプロピオネート、ビニルブチレート、ビニル-2-エチルヘキサノエート、ビニルラウレート、1-メチルビニルアセテート、ビニルピバレートおよび、5?13個のC原子を有するα位で分枝したモノカルボン酸のビニルエステル、1,3-ブタジエン、イソプレン、エテン、プロペン、ビニルトルエン、塩化ビニル、塩化ビニリデンまたはフッ化ビニルを含む群から選択される1つまたはそれ以上のエチレン系不飽和オルガノモノマーa)」であるのに対し、引用発明では「ピペリジン骨格を持たない他のラジカル重合性単量体」である点

相違点(2)
c)水溶性コモノマーについて、補正発明においては、「水溶性コモノマーc)として、クロトン酸、アクリル酸、メタクリル酸、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド(DADMAC)、2-メチル-2-プロペン-1-スルホン酸、2-プロペン-1-スルホン酸または2-アクリルアミド-2-メチル-プロパンスルホン酸を含む群からの1つまたはそれ以上が使用され」るのに対し、引用発明では「α,β-エチレン性不飽和カルボン酸」である点

相違点(3)
シリコーンオルガノコポリマーについて、補正発明においては「高い透明度」であるのに対し、引用発明においては、この点について格別特定していない点

(エ)相違点についての検討
相違点(1)について
a)オルガノモノマーについて、引用文献4には、摘示2から、「ピペリジン骨格を持たない他のラジカル重合性単量体としては、例えば、・・・酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、・・・塩化ビニル、フッ化ビニル、塩化ビニリデン、・・・などを挙げることができる。これらの単量体のうちの1種または2種以上を用いることができる。」ことが記載されている。してみると、引用文献4には、「酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、・・・塩化ビニル、フッ化ビニル、塩化ビニリデン」であるエチレン系不飽和オルガノモノマーの1つまたはそれ以上が使用されることが記載されているといえる。
したがって、相違点(1)は実質的な相違点ではない。

相違点(2)について
c)水溶性コモノマーについて、引用文献4には、摘示2から、「α,β-エチレン性不飽和カルボン酸(b)としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、・・・などを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。」ことが記載されている。してみると、引用文献4には、「アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸」である水溶性コモノマーc)の1つまたはそれ以上が使用されることが記載されているといえる。
したがって、相違点(2)は実質的な相違点ではない。

相違点(3)について
上記相違点(1)、(2)についての検討のとおり、引用発明における水溶性共重合体と補正発明におけるシリコーンオルガノコモノマーは同じ単量体成分を共重合させた共重合体であり、かつ、両者の共重合体中のシリコーンマクロマーの含量も同じ割合であることから、同じ共重合体であるならば、同じ物性を有していると認められることからすると、引用発明における水溶性共重合体は、高い透明度を有していると認められる。
したがって、相違点(3)は実質的な相違点ではない。

以上より、補正発明は、引用文献4に記載された発明と同一である。

(オ)小括
したがって、補正発明は、引用文献4に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(4)むすび
以上のとおりであるから、本件手続補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本願発明について
1.本願発明
本件手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?24に係る発明は、平成24年9月11日提出の誤訳訂正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?24に記載された事項により特定されるものであり、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】
a)1つまたはそれ以上のエチレン系不飽和オルガノモノマーとb)1つまたはそれ以上のシリコーンマクロマーとのラジカルにより開始される溶液重合により得ることができる、乳化剤または保護コロイドの排除下で水中で自己分散可能である高い透明度のシリコーンオルガノコポリマーにおいて、c)1つまたはそれ以上の水溶性コモノマーが有機溶剤または溶剤混合物中で共重合されており、成分a?c)の全質量に対するシリコーンマクロマーb)の含量は、20質量%以上であり、かつ水溶性コモノマーc)として、クロトン酸、アクリル酸、メタクリル酸、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド(DADMAC)、2-メチル-2-プロペン-1-スルホン酸、2-プロペン-1-スルホン酸または2-アクリルアミド-2-メチル-プロパンスルホン酸を含む群からの1つまたはそれ以上が使用されていることを特徴とする、高い透明度のシリコーンオルガノコポリマー。」

2.原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由とされた、平成24年6月8日付け拒絶理由通知書に記載された理由3、4の概要は、以下のとおりである。
「3.この出願の請求項1-6、8-15,17-20に係る発明は、引用文献4(特開2000-169510号公報)に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
4.この出願の請求項1-22に係る発明は、引用文献4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」

3.引用文献4の記載事項及び引用発明
引用文献4の記載事項及び引用発明は,上記「第2.2.(3)(3-2)(ア)及び(イ)」に記載したとおりである。

4.当審の判断
本願発明は、上記第2.1.の記載から、「前記1つまたはそれ以上のエチレン系不飽和オルガノモノマーa)が、ビニルアセテート、ビニルプロピオネート、ビニルブチレート、ビニル-2-エチルヘキサノエート、ビニルラウレート、1-メチルビニルアセテート、ビニルピバレートおよび、5?13個のC原子を有するα位で分枝したモノカルボン酸のビニルエステル、1,3-ブタジエン、イソプレン、エテン、プロペン、ビニルトルエン、塩化ビニル、塩化ビニリデンまたはフッ化ビニルを含む群から選択される1つまたはそれ以上のエチレン系不飽和オルガノモノマーa)が使用され」との発明特定事項を補正発明から削除したものであるから、本願発明と引用発明を対比すると、両者は、上記第2.2.(3)(3-2)(ウ)に記載した点で一致し、相違点(2)、(3)、ならびに以下の相違点で相違する。

相違点(4)
a)オルガノモノマーについて、本願発明においては、「1つまたはそれ以上のエチレン系不飽和オルガノモノマーa)」であるのに対し、引用発明では「ピペリジン骨格を持たない他のラジカル重合性単量体」である点

相違点(4)について検討するに、上記第2.2.(3)(エ)で検討したとおり、引用文献4には、摘示2からみて、エチレン系不飽和オルガノモノマーの1つまたはそれ以上が使用されることが記載されているといえる。
してみると、相違点(4)は実質的な相違点ではない。
そして、相違点(2)、(3)については、上記第2.2.(3)(エ)で検討したとおりであるから、本願発明は引用文献4に記載された発明と同一である。
したがって、本願発明は、引用文献4に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

第4.審判請求人の主張について
審判請求人は、審判請求書において、「これに対して、引用文献4には、原査定の備考欄においてご指摘されておりますように、シリコーンマクロマーと共重合させる成分として、アクリル酸系モノマー(即ち、本願発明の成分cに相当)とアクリル酸エステル系モノマーとを併用して用いることは開示されているものの、本願発明のように、アクリル酸系モノマーとビニルアセテート等の特定のエチレン系不飽和オルガノモノマーa)とを併用して用いることは何ら開示されておりません。したがって、補正後の請求項1に係る発明は、共重合成分として使用するエチレン系不飽和オルガノモノマー(a成分)がビニルアセテート等である点で、引用文献4に記載の発明とは相違し、同様に、独立請求項である請求項14及び17に係る発明も引用文献4に記載の発明とは相違いたします。」旨の主張をしている。
しかしながら、上記のように、引用文献4には、摘示2からみて、「酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、・・・塩化ビニル、フッ化ビニル、塩化ビニリデン」であるエチレン系不飽和オルガノモノマーの1つまたはそれ以上が使用されることが記載されているといえる。
したがって、審判請求人の主張は採用できない。

第5.むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明についての原査定の拒絶の理由3は妥当なものであり、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願はこの理由により拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-04-04 
結審通知日 2014-04-08 
審決日 2014-04-21 
出願番号 特願2009-523278(P2009-523278)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C08F)
P 1 8・ 113- Z (C08F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中村 英司  
特許庁審判長 田口 昌浩
特許庁審判官 塩見 篤史
大島 祥吾
発明の名称 自己分散可能なシリコーンコポリマーおよびその製造法、および該化合物の使用  
代理人 浅野 真理  
代理人 勝沼 宏仁  

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