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審決分類 審判 一部無効 1項3号刊行物記載  C23C
管理番号 1291812
審判番号 無効2012-800109  
総通号数 179 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-11-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2012-06-26 
確定日 2014-08-21 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第4823293号発明「成膜方法及び成膜装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 請求のとおり訂正を認める。 特許第4823293号の請求項1、8に記載された発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯

平成20年10月31日 本件特許出願(特願2008-281501)
平成23年 9月16日 設定登録(特許第4823293号)
平成24年 6月26日:本件無効審判請求
9月14日:答弁書の提出
10月24日:審理事項通知(起案日)
11月12日:口頭審理陳述要領書の提出(請求人)
11月26日:口頭審理陳述要領書の提出(被請求人)
12月10日:口頭審理実施及び調書作成
平成25年 1月 9日:審決の予告(送達日)
3月 8日:訂正請求書の提出
3月19日:訂正請求書についての手続補正書の提出

第2 訂正請求について

1 請求の要旨及び訂正の内容
本件訂正請求の要旨は,本件特許の明細書(以下,「本件特許明細書」という。)及び特許請求の範囲を,平成25年3月19日付けの手続補正により補正された本件訂正請求書に添付した訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり一群の請求項ごとに訂正しようとするものであって,その訂正(以下,「本件訂正」という。)の内容は,以下のとおりのものと認める。なお,訂正箇所に下線を付した。
(1)訂正事項1a
特許請求の範囲の請求項1について,「基体保持手段の基体保持面の全域に向け成膜材料を供給することによって前記基体保持面に保持され回転している基体のすべてに対して前記成膜材料を連続して供給する」を,「基体保持手段の基体保持面の全域に向け成膜材料を供給することによって前記基体保持面に保持され回転している複数の基体のすべてに対して前記成膜材料を連続して供給する」と訂正する(請求項1を引用する請求項2?7も同様に訂正する)。
(2)訂正事項1b
特許請求の範囲の請求項1について,「前記基体保持面の一部の領域に向けイオンを照射することによって」を,「前記基体保持面の一部の領域に向けてイオン照射可能となる成膜アシスト手段を用い,回転している前記基体保持面に対して前記イオンを連続して照射することによって」と訂正する(請求項1を引用する請求項2?7も同様に訂正する)。
(3)訂正事項1c
特許請求の範囲の請求項1について,「前記基体の一部に対して前記イオンを連続して照射することによるアシスト効果を与えながら,前記基体の表面に薄膜を堆積させる」を,「,前記基体保持面の回転に伴って移動している前記基体のそれぞれにイオンが照射されているときと照射されていないときが確保されるように前記イオンを照射し,前記基体のそれぞれに対して前記イオンを照射することによるイオンアシスト効果を与えながら,すべての基体の表面に薄膜を堆積させる」と訂正する(請求項1を引用する請求項2?7も同様に訂正する)。
(4)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2について,「前記イオンを照射することを特徴とする成膜方法。」を,「前記イオンを照射することによって,前記基体保持面の回転に伴って移動している前記基体のそれぞれにイオンが照射されているときと照射されていないときを確保することを特徴とする成膜方法。」と訂正する(請求項2を引用する請求項5?7も同様に訂正する)。
(5)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3について,「前記イオンを照射することを特徴とする成膜方法。」を,「前記イオンを照射することによって,前記基体保持面の回転に伴って移動している前記基体のそれぞれにイオンが照射されているときと照射されていないときを確保することを特徴とする成膜方法。」と訂正する(請求項3を引用する請求項4?7も同様に訂正する)。
(6)訂正事項4a
特許請求の範囲の請求項8について,「真空容器内に回転可能に配設され,基体を保持するための基体保持手段」を,「真空容器内に回転可能に配設され,複数の基体を保持するための基体保持手段」と訂正する(請求項8を引用する請求項9も同様に訂正する)。
(7)訂正事項4b
特許請求の範囲の請求項8について,「前記基体保持手段の基体保持面の全領域に対して成膜材料を供給可能となるような配置及び向きで前記真空容器内に設置された成膜手段」を,「前記基体保持手段の基体保持面の全域に向け成膜材料を供給することによって前記基体保持面に保持され回転している複数の基体のすべてに対して前記成膜材料を連続して供給可能となるような配置及び向きで前記真空容器内に設置された成膜手段」と訂正する(請求項8を引用する請求項9も同様に訂正する)。
(8)訂正事項4c
特許請求の範囲の請求項8について,「イオンを前記基体保持面の一部の領域に対し部分的に照射可能となるような構成,配置及び/又は向きで前記真空容器内に設置された成膜アシスト手段」を,「イオンを前記基体保持面の一部の領域に向けて照射可能であり,回転している前記基体保持面に対して前記イオンを連続して照射することによって,前記基体保持面の回転に伴って移動している前記基体のそれぞれにイオンが照射されているときと照射されていないときが確保されるように前記イオンを照射可能となるような構成,配置及び/又は向きで前記真空容器内に設置された成膜アシスト手段」と訂正する(請求項8を引用する請求項9も同様に訂正する)。

2 訂正の適否
(1)訂正事項1aについて
訂正事項1aは,訂正前の請求項1の「基体保持面に保持され回転している基体」について,基体の数を「複数」と限定するものであり,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。同様に,請求項1を引用する請求項2?7についての訂正も,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また,これらの訂正は,本件特許明細書の段落【0028】の記載に基づくものであるから,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり,さらに,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもない。
(2)訂正事項1bについて
訂正事項1bは,訂正前の請求項1の「基体保持面に保持され回転している基体・・・の一部に対してイオンを連続して照射する」との記載を,イオンを照射する手段を形式的に追加して記載し直したものであるから,明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。同様に,請求項1を引用する請求項2?7についての訂正も,明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
また,これらの訂正は,訂正前の特許請求の範囲の記載に基づくものであるから,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり,さらに,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもない。
(3)訂正事項1cについて
訂正事項1cは,訂正前の請求項1のイオン照射の態様をより具体的にするものであるから,明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。同様に,請求項1を引用する請求項2?7についての訂正も,明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
また,これらの訂正は,訂正前の特許請求の範囲や本件特許明細書の実施例の記載に基づくものであるから,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり,さらに,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもない。
(4)訂正事項2について
訂正事項2は,訂正前の請求項2の記載を訂正事項1cに合わせて訂正するものであるから,明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。同様に,請求項2を引用する請求項5?7についての訂正も,明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
また,これらの訂正は,訂正前の特許請求の範囲や本件特許明細書の実施例の記載に基づくものであるから,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり,さらに,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもない。
(5)訂正事項3について
訂正事項3は,訂正前の請求項3の記載を訂正事項1cに合わせて訂正するものであるから,明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。同様に,請求項3を引用する請求項4?7についての訂正も,明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
また,これらの訂正は,訂正前の特許請求の範囲や本件特許明細書の実施例の記載に基づくものであるから,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり,さらに,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもない。
(6)訂正事項4aについて
訂正事項4aは,訂正前の請求項8の「真空容器内に回転可能に配設され,基体を保持するための基体保持手段」について,基体の数を「複数」と限定するものであり,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。同様に,請求項8を引用する請求項9についての訂正も,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また,これらの訂正は,本件特許明細書の段落【0028】の記載に基づくものであるから,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり,さらに,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもない。
(7)訂正事項4bについて
訂正事項4bは,訂正前の記載を,訂正後の請求項1の「基体保持手段の基体保持面の全域に向け成膜材料を供給することによって前記基体保持面に保持され回転している複数の基体のすべてに対して前記成膜材料を連続して供給する」との記載と整合させる訂正であって,基体の数を「複数」と限定する点は,上記2(1)に記載したとおり,特許請求の範囲の減縮を目的とするもの該当し,その余の点は,明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。同様に,請求項8を引用する請求項9についての訂正も,特許請求の範囲の減縮又は明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
また,これらの訂正は,訂正前の特許請求の範囲及び本件特許明細書の段落【0028】の記載に基づくものであるから,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり,さらに,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもない。
(8)訂正事項4cについて
訂正事項4cは,訂正前の記載を,訂正後の請求項1の「一部の領域に向けて・・・照射可能・・・,回転している前記基体保持面に対して前記イオンを連続して照射することによって,前記基体保持面の回転に伴って移動している前記基体のそれぞれにイオンが照射されているときと照射されていないときが確保されるように前記イオンを照射」との記載と整合させる訂正であるから,上記2(2),2(3)に記載したとおり,明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。同様に,請求項8を引用する請求項9についての訂正も,明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
また,これらの訂正は,訂正前の特許請求の範囲や本件特許明細書の実施例の記載に基づくものであるから,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり,さらに,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもない。

3 まとめ
したがって,訂正事項1a?4cを有する本件訂正は,特許請求の範囲の減縮又は明瞭でない記載の釈明を目的とし,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり,さらに,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもない。
よって,本件訂正は,特許法第134条の2第1項ただし書き第1項又は第3号に掲げる事項を目的とするものに該当し,また,同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

第3 本件特許発明

本件訂正は上記のとおり認められたので,本件特許の請求項1,8に係る発明(以下,「本件特許発明1,2」という。)は,平成25年3月19日付けの手続補正により補正された本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲における請求項1,8に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
【請求項1】
基体保持手段の基体保持面の全域に向け成膜材料を供給することによって前記基体保持面に保持され回転している複数の基体のすべてに対して前記成膜材料を連続して供給するとともに,
前記基体保持面の一部の領域に向けてイオン照射可能となる成膜アシスト手段を用い,回転している前記基体保持面に対して前記イオンを連続して照射することによって,前記基体保持面の回転に伴って移動している前記基体のそれぞれにイオンが照射されているときと照射されていないときが確保されるように前記イオンを照射し,前記基体のそれぞれに対して前記イオンを照射することによるイオンアシスト効果を与えながら,すべての基体の表面に薄膜を堆積させることを特徴とする成膜方法。
【請求項8】
真空容器内に回転可能に配設され,複数の基体を保持するための基体保持手段と,
前記基体保持手段の基体保持面の全域に向け成膜材料を供給することによって前記基体保持面に保持され回転している複数の基体のすべてに対して前記成膜材料を連続して供給可能となるような配置及び向きで前記真空容器内に設置された成膜手段と,
イオンを前記基体保持面の一部の領域に向けて照射可能であり,回転している前記基体保持面に対して前記イオンを連続して照射することによって,前記基体保持面の回転に伴って移動している前記基体のそれぞれにイオンが照射されているときと照射されていないときが確保されるように前記イオンを照射可能となるような構成,配置及び/又は向きで前記真空容器内に設置された成膜アシスト手段とを,有する成膜装置。

第4 請求人の主張の概要及び証拠方法

1 請求人の主張の概要
請求人は,本件特許発明1,2に係る特許は無効とする,審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求め,証拠方法として,甲第1?3号証を提出し,次の無効理由を主張している。
無効理由1:本件特許発明1,2は,甲第1号証に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり,その特許は,同法第123条第1項第2号に該当し,無効とされるべきものである。
無効理由2:本件特許発明1,2は,甲第1号証に記載された発明に基いて,その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり,その特許は,同法第123条第1項第2号に該当し,無効とされるべきものである。
2 証拠方法
(1)審判請求書に添付した甲号証
甲第1号証:Hyun Ju Cho and Chang Kwon Hwangbo, "Optical inhomogeneity and microstructure of ZrO_(2) thin films prepared by ion-assisted deposition", Applied Optics, 1 October 1996, Vol. 35, No. 28, p. 5545-5552
(2)口頭審理陳述要領書に添付した甲号証
甲第2号証:H A Macleod, "Thin-Film Optical Filters", Third Edition, Institute of Physics Publishing, 2001, p. 410-412
甲第3号証:W. T. Pawlewicz et al., "Low-energy high-flux reactive ion assisted deposition of oxide optical coatings: performance, durability, stability and scalability", Proc. SPIE, The International Society for Optical Engineering, 1994, Vol. 2262, p. 2-13

第5 被請求人の主張の概要及び証拠方法

1 被請求人の主張の概要
被請求人は,本件無効審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とするとの審決を求め,証拠方法として,乙第1?9号証を提出し,本件特許発明1,2は,甲第1号証に記載された発明ではなく,さらに甲第1号証には,本件特許発明1,2を示唆する記載もないので,本件特許発明1,2は,甲第1号証に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明できたものではない旨を主張している。
2 証拠方法
(1)答弁書に添付した乙号証
乙第1号証:甲第1号証の全訳
(2)口頭審理陳述要領書に添付した乙号証
乙第2号証:特開2004-239878号公報
乙第3号証:特許第4175967号公報
乙第4号証:麻蒔立男著,「薄膜作成の基礎」第3版,株式会社日刊工業新聞社,1996年3月29日,p.187-189
(3)訂正請求書に添付した乙号証
乙第5号証:Chuanling Men et al., "AlN thin films grown by ion-beam-enhanced deposition and its application to SOI materials", Physica B, 2002, Vol. 324, p. 229-234
乙第6号証:国立天文台編,「理科年表 平成7年(机上版)」,丸善株式会社,平成6年11月30日,p.430?432,437
乙第7号証:アルゴンの質量の単位換算(訂正請求の請求人作成)
乙第8号証:W. M. Haynesら編, "CRC Handbook of Chemistry and Physics", 2010, 91st Edition, CRC Press, p. 4-100, 4-101
乙第9号証:Chang Kwon HWANGBO and Hyun Ju CHO, "Ion Assisted Deposition of TiO_(2) Thin Films by Kaufman and Gridless Ion Sources", レーザー研究, 社団法人レーザー学会, 1996年1月, 第24巻, 第1号, p. 103-109

第6 証拠方法の記載事項

1 甲号証の記載事項
(1)甲第1号証の記載事項
ア 「Optical inhomogeneity and microstructure of ZrO_(2) thin films prepared by ion-assisted deposition」(イオンアシスト蒸着(IAD)により作製されたZrO_(2)薄膜の光学的不均質性と微細構造)(文献タイトル)
イ 「2. Experiments
ZrO_(2) (in tablet form from Merck) was evaporated by an electron beam in a 700-mm box coater with a cryopump, as shown in Fig. 1. The base vacuum was approximately 8 × 10^(-7) Torr. The deposition rate was 0.3 nm/s, the substrate temperature was at 120 ℃, and the film thickness was ?500 nm. Slide glasses and Si wafers were selected as substrates for the measurement purpose.
We employed a 5-cm-aperture Kaufman hot cathode ion source (Ion Tech, Inc.) in IAD. Ar gas of 3 SCCM (SCCM denotes cubic centimeter per minute at STP) was introduced into the discharge chamber as the bombarding species, and Ar gas of 4 SCCM was put into a plasma bridge neutralizer to prevent a substrate surface from being charged with positive ions. O_(2) gas of 30 SCCM was admitted in the chamber to compensate for O_(2) deficiency in the film caused by preferential sputtering of O_(2) by Ar ions. The ion energy and the ion current density were varied in the range 250-750 eV and 0-25 μA/cm^(2), respectively. Substrates were sputter cleaned by an Ar-ion beam at 500 eV and 40 μA/cm^(2) for 5 min just before deposition.
Optical and structural properties of IAD films depend on major ion-beam parameters such as ion energy and ion current density. Densification of optical films by ion bombardment is due to the momentum transfer from bombarding ions to arriving particles on the substrate and the forward cascaded collision of particles.^(10,11) In this sense, the effects of ion bombardment are described as a function of normalized ion momentum P, which is defined as^(12-14) P = γ(2m_(i)E_(i))^(1/2), (1)
where γ is the ratio of the arrival rate of the Ar ion to that of an evaporated particle, m_(i) is the mass of the Ar ion, and E_(i) is the energy of the Ar ion. In our experiment, P was varied from 0 to 1.42 MeV/c, where c is the speed of light in vacuum. The conventional film has zero P.
Spectrophotometric reflectance and transmittance were measured to calculate the inner and outer indices of the ZrO_(2) film. Spectroscopic ellipsometry (SE) was employed to study the void fraction in the film. The vacuum-to-air spectral shift of a single-layer film and multilayer bandpass filter was observed by an optical multichannel analyzer. A cross section was observed by a scanning electron microscope (SEM). X-ray diffraction (XRD) was employed to investigate the crystal phase and the stress of the film. X-ray photoelectron spectroscopy (XPS) and atomic force microscopy (AFM) measurements were carried out to investigate the chemical properties and the surface roughness of the film, respectively.」(第5546頁左欄第5行?右欄第20行)
抄訳「2.実験
図1に示すように,ZrO_(2)(錠剤形状・・・)は,・・・箱形成膜装置の中で電子ビームによって蒸着された。基本真空度はおよそ8×10^(-7)Torrであった。成膜速度は0.3nm/s,基板の温度は120℃,膜厚はおよそ500nmであった。・・・物性測定用基板として,スライドガラスとシリコンウエハを選んだ。IADにおいて,・・・熱陰極型カウフマンイオン源・・・を用いた。3SCCM(SCCMとは,標準状態におけるcm^(3)/分で表したガス流量)・・・のアルゴンガスを衝撃用ガス種として放電チャンバーに導入・・・した。・・・
IAD法による薄膜の光学的,構造的特性は,イオンエネルギーやイオン電流密度のようなイオンビームの主要パラメータに依存する。イオン衝撃による光学薄膜の緻密化は,衝突イオンから基板に到達する粒子への運動量の移行と,粒子の前方カスケード散乱のためである。この意味で,イオン衝突の効果は正規化イオンの運動量Pの関数として表され,以下の式で定義される。
P = γ(2m_(i)E_(i))^(1/2), (1)
・・・本実験では,Pを0から1.42MeV/cの範囲で変化させた。ここで,cは真空中の光の速さである。従来の方法による薄膜では,Pが0である。
ZrO_(2)薄膜のouterとinnerの屈折率を計算するために,分光光度反射率と透過率を測定した。膜中の空隙率を調べるために,分光エリプソメトリーを用いた。・・・」
ウ 「B. Spectroscopic Ellipsometry
For SE analysis, we selected three films, i.e., one conventional film and two IAD films at P = 0.78 and 1.25 MeV/c, respectively. The reason is that the average indices of chosen IAD films are larger than those of the conventional film in Fig. 3, and the relative inhomogeneities are almost zero and positive, respectively, in Fig. 4. These ZrO_(2) films analyzed by SE were deposited on Si wafers that were located next to slide glasses in the coating chamber. Hence they are the same as those measured in the spectrophotometer.」(第5547頁右欄第11?22行)
抄訳「B.分光エリプソメトリー
SE分析においては,3種の薄膜,すなわち,従来の方法による薄膜1種とP=0.78MeV/cと1.25MeV/cでのIAD法による薄膜2種をそれぞれ選んだ。・・・SE分析に用いたこれらのZrO_(2)薄膜は,コーティングチャンバのスライドガラスに隣接して配置したシリコンウエハ上に成膜した。したがって,これらの薄膜は,分光光度計で測定したものと同じである。」
エ 図1には,箱形成膜装置内に配設され,その内周面に複数のsubstrate(基板)が保持されたdome(ドーム)が記載されている。

図1

(2)甲第2号証の記載事項
ア 「The most common types of ion sources for this purpose are broad-beam, often with extraction grids. Much of the published research and reported successes have been with the Kaufman or gridded type of ion gun.」
仮訳「この目的のために最も一般的なタイプのイオンソースは,抽出グリッドを備えることの多い,広いビームである。以前に公表された研究及び報告された成功の多くは,カウフマン型またはグリッド型のイオン銃を使用した。」
(3)甲第3号証の記載事項
ア 表2

仮訳

2 乙号証の記載事項
(1)乙第2号証の記載事項
ア 「輝尽性蛍光体層が気相堆積法(気相法)により形成される放射線画像変換パネルの製造方法において,蒸着時の支持体温度を50?150℃に制御して蒸着することを特徴とする放射線画像変換パネルの製造方法。」(【請求項1】)
イ 「以下,本発明を更に詳細に述べる。
本発明の特徴である,蒸着時の支持体(以下,基板ともいう)を50?150℃に制御する方法としては,以下の方法が挙げられる。
1)低速度で蒸着する方法
低速度で蒸着することにより,蒸発源から輻射熱,蒸気の凝集熱による基板温度上昇を制御することにより該基板温度を50?150℃に制御することができる。
2)基板-蒸発源距離を調整して蒸着する方法
基板-蒸発源距離を調整して,上記1)と同様に蒸発源から輻射熱,蒸気の凝集熱による基板温度上昇を制御することにより該基板温度を50?150℃に制御することができる。
3)蒸発源を基板中心から離して蒸着する方法(後述する図2,4参照)
図4中のθ1,θ2を調整することにより,蒸発源からの輻射熱を調整することができ,基板温度を50?150℃に制御することができる。
4)加熱ランプの出力を調整して蒸着し,50?150℃に制御する方法
5)基板を冷却して蒸着する方法
冷却水,冷媒ガス等を基板ホルダーに流して,該基板ホルダーに基板を密着,設置することにより,基板温度を冷却,調整することにより,該基板温度を50?150℃に制御することができる。
6)間欠蒸着する方法(後述する図4を参照)
蒸発源上にスリット(蒸気流通過用開口部)を有する部材を基板の下に設置し,該部材上の基板を部材に平行に左右に搬送させて,蒸発源からの輻射熱を調整することにより基板温度を50?150℃に制御することができる。
尚,蒸着時の基板温度を50?150℃に制御する方法は上記の方法に限定されるものではなく,また,上記の方法を組み合わせても良い。」(段落【0018】?【0024】)
(2)乙第3号証の記載事項
ア 「リチウムと合金化する活物質からなる活物質薄膜を,リチウムと合金化しない金属からなる集電体上に加熱蒸着法を用いて形成するリチウム二次電池用電極の製造方法において,
蒸着による成膜の際の集電体表面の最高到達温度を125?195℃の範囲内とすることを特徴とするリチウム二次電池用電極の製造方法。」(【請求項1】)
イ 「集電体表面の温度が上記範囲を上回る場合,蒸着源からの輻射熱を小さくする,集電体の冷却を強くする,成膜時間を短くするなどの方法により,集電体表面の最高到達温度を上記範囲内に制御することが考えられる。蒸着源からの輻射熱を小さくする方法としては,具体的には,集電体と蒸着源の間の距離を長くする,シャッターで輻射熱を遮断しながら間欠的に成膜するなどの方法が挙げられる。シャッターを用いて輻射熱を遮断する場合,遮断している間に集電体が冷却されることにより集電体の温度を下げることができる。」(段落【0026】)
(3)乙第4号証の記載事項
ア 「7・7 イオンビーム(アシスト)蒸着
イオンプレーティングのように,成膜中のイオン照射によりいろいろな改善を行うことができる.エピタクシーにおいてもそうである.これらを総称してイオンアシスト蒸着という.中でもイオンビームとイオンビームの助けをかりて良い薄膜作成を行う方法が研究されている.膜の結晶性,配向性,付着強度の向上,膜のち密化向上などを目的に,薄膜成長中に低エネルギー(数eV?数keV)のイオンビームを同時照射する方法をイオンビームアシスト蒸着という.
この方法には沢出の方法があるが,概括すると図7・31のようになる.
(a)はイオンビームアシストデポジション(IBAD)で,一般の薄膜ソースを用いて蒸着中にイオンガンからイオンを照射する方法で最もよく用いられる.(b)は,イオンビームデポジション(IBD)で,薄膜にしたい材料をイオンにして基板を照射成膜を行う方法である.イオンにするには固体をそのままイオンにする固体用のイオン源や,気体を分解しイオンにして,更に質量分離後目的のイオンを取り出すなどの方法がある.(c)はイオンビームスパッタデポジション(IBSD)で,薄膜にしたい材料(ターゲット)にイオンビームを照射,これをスパッタ(第8章参照)させて成膜させる方法である.二点鎖線で示すように同時にイオン照射を行うことがある.どの方法も同時に反応ガスを導入して,反応性成膜を行うことが多い.
この方法は,イオンガンを要しどちらかというと複雑な装置となる.しかしち密で強固な付着強度を有し,配向性のよい膜が得られること,イオンのエネルギーを大幅に可変とできることなどから,薄膜作成法としての自由度が高い.これを利用し,光学膜(吸収散乱が少い),機械的用途(ち密で付着強度が大きい)として工具や耐食膜,ダイヤモンドライクの膜などの成膜に用いられている^(13)).

図7・31 イオンビーム(アシスト)蒸着」(第187?189頁)
(4)乙第9号証の記載事項
ア 「Two kinds of ion sources are widely used in IAD^(5)). One is known as the Kaufman ion source which has screen and accelerating grids. The ion energy and current are controlled independently. The ion energy is monoenergetic and able to be varied up to one or two thousand eV. The ion current density is limited by a finite spacing between two grids and the divergence of ion beam is small due to an accelerating grid. The other called as a gridless or an end-Hall ion source has no accelerating grid. The ion energy is low and broad, ion current density is high, and beam divergence is large compared to that of Kaufman ion source.」(第103頁右欄第9行?第104頁第1行)
仮訳「イオンアシスト蒸着では,2種類のイオンソースが広く用いられている^(5))。1つは,スクリーングリッドと加速グリッドを有するカウフマン型イオンソースとして知られているものである。ここでは,イオンエネルギーと電流は個別に制御される。イオンエネルギーは単一エネルギーであり,1000eV又は2000eVまで可変である。イオン電流密度は,2つのグリッド間の有限空間によって制限されており,イオンビームの拡散は加速グリッドにより抑えられている。もう1つは,グリッドレスイオンソース又はエンドホールイオンソースと称される,加速グリッドを有していないものである。そのイオンエネルギーは小さく広範囲であり,イオンの電流密度は高く,ビームの拡散はカウフマン型イオンソースに比べて大きい。」
イ 「2. Experiments
A box coater with a cryo pump shown in Fig. 1 was used to deposit titania thin films and the base vacuum was lower than 8×10^(-7) Torr. Tablets of TiO_(2) (Merck, 11771) were melted by an electron beam gun at deposition rate of 0.3 nm/s and the total film thickness was about 450 nm. Substrate temperature was 140℃.
The Kaufman (Ion Tech, MPS 3000) and gridless (made in house) ion sources were used to bombard TiO_(2) films. Ar gas of 3 sccm was introduced to the Kaufman ion source and the ion energy and current density were varied from 250 to 750 eV and from 7.5 to 45 μA/cm^(2) , respectively. A plasma bridge neutralizer was used to prevent positive charges from being built up on the substrate.」(第104頁左欄第20行?右欄第15行)
仮訳「2. 実験
図1に示すように,クライオポンプを備えた箱形成膜装置を用いてチタニア薄膜を成膜し,基本真空度は8×10^(-7)Torr未満とした。錠剤形状のTiO_(2)(Merck製11771)を成膜速度0.3nm/秒で電子ビームにて溶解し,総膜厚を約450nmとした。基板の温度は140℃であった。
カウフマン型(Ion Tech製MPS3000)及びグリッドレス(自前)のイオンソースを用いて,TiO_(2)膜にイオン衝撃を行った。カウフマン型イオンソースには,3sccmのArガスを導入し,イオンエネルギーは250eVから750eVに,電流密度は7.5μA/cm^(2)から45μA/cm^(2)に変化させた。プラズマブリッジ中和装置用いて,基板上への陽電荷の蓄積を防いだ。」

第7 引用発明の認定

上記第6 1(1)アの記載によれば,甲第1号証には,イオンアシスト蒸着によりZrO_(2)薄膜を作製することが記載されており,第6 1(1)イの記載によれば,イオンアシスト蒸着には,熱陰極型カウフマンイオン源が用いられている。また,第6 1(1)エの図1によると,ドームの内周面には,複数の基板が保持されており,さらに,蒸発源とドームとの間に,蒸発したZrO_(2)の拡散を遮るものは認められず,ZrO_(2)がドームの内周面の全域に供給されているといえるから,甲第1号証には次の発明が記載されていると認められる。
「ドームの内周面の全域に向けZrO_(2)を供給することによって前記内周面に保持されている複数の基板のすべてに対して前記ZrO_(2)を供給するとともに,
前記内周面に向けてイオン照射可能となる熱陰極型カウフマンイオン源を用い,前記内周面に対して前記イオンを照射することによって,前記基板に対してイオンを照射することによるイオンアシスト効果を与えながら,前記基板に膜厚およそ500nmのZrO_(2)を成膜する方法。」(以下,「引用発明1」という。)
また,第6 1(1)イに記載の実験において,ZrO_(2)を成膜するに当たり,箱形成膜装置がZrO_(2)を供給する手段を有していることは明らかであり,上記のとおり,ZrO_(2)はドームの内周面の全域に供給されているから,前記ZrO_(2)を供給する手段は,ドームの内周面の全域に対してZrO_(2)を供給可能となるような配置及び向きで前記箱形成膜装置内に設置されていると認められる。さらに,基板はドームの内周面に保持されているから,熱陰極型カウフマンイオン源は,イオンを前記内周面に対し照射可能となるような,構成,配置及び/又は向きで前記箱形成膜装置内に設置されていると認められる。
よって,甲第1号証には次の発明も記載されていると認められる。
「基本真空度がおよそ8×10^(-7)Torrである箱形成膜装置内に配設され,複数の基板を保持するためのドームと,
前記ドームの内周面の全域に向けZrO_(2)を供給することによって前記内周面に保持されている複数の基板のすべてに対して前記ZrO_(2)を供給可能となるような配置及び向きで前記箱形成膜装置内に設置された,基板に対してZrO_(2)を供給する手段と,
イオンを前記内周面に対し照射可能となるような,構成,配置及び/又は向きで前記箱形成膜装置内に設置された熱陰極型カウフマンイオン源とを,有する成膜装置。」(以下,「引用発明2」という。)

第8 当審の判断

1 本件特許発明1と引用発明1との対比・判断
(1)本件特許発明1と引用発明1との対比
引用発明1における「ドーム」,「内周面」,「ZrO_(2)」,「基板」,「熱陰極型カウフマンイオン源」,「膜厚およそ500nmのZrO_(2)」及び「成膜する」は,本件特許発明1の「基体保持手段」,「基体保持面」,「成膜材料」,「基体」,「成膜アシスト手段」,「薄膜」及び「堆積させる」に相当し,引用発明1の方法が基板の表面に成膜する方法であることは明らかであるから,本件特許発明1と引用発明1とは,
「基体保持手段の基体保持面の全域に向け成膜材料を供給することによって前記基体保持面に保持されている複数の基体のすべてに対して前記成膜材料を供給するとともに,
前記基体保持面に向けてイオン照射可能となる成膜アシスト手段を用い,前記基体保持面に対して前記イオンを照射することによって,前記基体に対して前記イオンを照射することによるイオンアシスト効果を与えながら,前記基体の表面に薄膜を堆積させる成膜方法。」である点で一致し,以下の点で相違する。

相違点1:本件特許発明1は,「成膜材料を連続して供給する」のに対し,引用発明1は,成膜材料が連続して供給されるのか不明である点。
相違点2:本件特許発明1は,「基体保持手段の基体保持面に保持されている複数の基体」が回転しているのに対し,引用発明1は,「基体保持手段の基体保持面に保持されている複数の基体」が回転しているのか不明である点。
相違点3:本件特許発明1は,「回転している基体保持面の一部の領域に対してイオンを連続して照射することによって,前記基体保持面の回転に伴って移動している前記基体のそれぞれにイオンが照射されているときと照射されていないときが確保されるように前記イオンを照射し,前記基体のそれぞれに対して前記イオンを照射することによるイオンアシスト効果を与えながら,すべての基体の表面に薄膜を堆積させる」のに対し,引用発明1は,イオン照射の態様が不明である点。

(2)相違点についての判断
ア 相違点1について
上記第6 1(1)ア?ウの記載によれば,甲第1号証には,アルゴンイオンアシスト蒸着法(Ar-IAD法)を用いて,基板にZrO_(2)膜を作製し,その光学的不均質性と微細構造とを調べることを目的とする実験方法が記載され,具体的には,IAD法によるアルゴンイオン衝突の効果を,正規化イオンの運動量Pを0から1.42MeV/cの範囲で変化させて,ZrO_(2)薄膜の光学的不均質性と微細構造とを調べたものが記載されている。
そして,その中の分光エリプソメトリー(SE)分析に用いたZrO_(2)薄膜は,それぞれイオンアシスト無し(P=0),イオンアシスト有り(P=0.78MeV/c,1.25MeV/c)のものである。ここで,これらのイオンアシスト条件を変化させたことによる効果を検証する以上,少なくとも,調査対象となる基板に対するZrO_(2)の蒸着条件が同一であることを要することは明らかであるところ,引用発明は,ドーム上の全ての基板に対して蒸着材料が供給されるものであるから,全ての基板が調査対象であり,全ての基板に対して同一の蒸着条件で成膜されていると解することが自然である。
ここで,仮に,引用発明1において,ZrO_(2)の成膜材料が連続的に供給されないことを想定すると,蒸着源である錠剤形状のZrO_(2)に電子ビームを不連続に照射するか,蒸着源と基板との間にシャッターを設ける必要があり,前者とすると,電子ビーム照射の始点,終点において,蒸着条件が安定しないことにより,すべての基板に対して等しい蒸着条件とすることが困難と認められるし,後者とすると,上記第6 1(1)エに記載の図1にそのようなシャッターを示す記載はないし,シャッターを設けて不連続に成膜材料を供給する必然性も甲第1号証の記載から見出せない。
一方,引用発明1において,電子ビームを蒸着源である錠剤形状のZrO_(2)に連続して照射すると,蒸着条件が安定して,すべての基体に対して等しい蒸着条件とすることが容易であると認められるし,図1を含む甲第1号証のすべての記載から,蒸着源と基体との間にシャッターを設ける必要性が示唆されているとも認められないことは上述のとおりである。
そうすると,引用発明1において,全ての基板に対して同一の蒸着条件で成膜するために,電子ビームは蒸着源に連続して照射され,成膜材料はすべての基板に連続的に供給されていると解することが合理的である。
よって,相違点1は実質的な相違ではない。
なお,被請求人は,口頭審理陳述要領書において,「乙第2号証には,その請求項には何ら『間欠』という文言がないものであるが,段落0023には,『6)間欠蒸着する方法』が記載されている。また,乙第3号証には,請求項に『間欠』の文言,あるいは間欠的に蒸着材料を供給していると判断できる明記はなんら存在しないにも拘わらず,明細書の段落0026には『…蒸着源からの輻射熱を小さくする方法としては,具体的には,集電体と蒸着源の間の距離を長くする,シャッターで輻射熱を遮断しながら間欠的に成膜するなどの方法が挙げられる。・・・』との記載がある。
これらは『連続』が構成要件でない場合には,『間欠』で構成するものが存在しても請求項に『間欠』記載しない例として捉えることができる。
つまり,一方も他方も記載されていないときに,一方が記載されていなければ他方であるとの主張である『当該当業者は,成膜材料の供給を間欠的に行うことが明記されていない限り,当該成膜は,当該成膜材料が〈連続的〉に供給されるものと把握する。』などという事実は存在しないものである。」(第4頁第28行?第5頁第11行)と主張している。
確かに,上記第6 2(1)ア?2(2)イの乙第2,3号証の記載によれば,成膜中の基板温度を特定の範囲に制御するに当たり,その手段の一つとして間欠蒸着を行い得ることが認められる。しかしながら,甲第1号証には,基板の温度を積極的に制御する旨の記載は認められず,仮に基板の温度を制御しているとしても,間欠蒸着は温度制御手段の一つに過ぎないから,乙第2,3号証の記載に基づき,甲第1号証において,間欠蒸着が行われているということはできない。しかも,上記したように,第6 1(1)エの図1には,シャッター等の蒸発物の拡散を制限する部材は認められない。
したがって,甲第1号証において,間欠蒸着が行われていると解するのは合理性に欠け,上記のとおり,「成膜材料を連続して供給する」と解するのが合理的である。
イ 相違点2について
上記アに示すとおり,甲第1号証におけるコーティングチャンバ内のすべての基板は,少なくともZrO_(2)の蒸着条件が等しいことが要請されている。そして,上記第6 1(1)エの記載によれば,図1の上部の軸が回転していることが認められ,複数の基板を成膜するに当たっては,それぞれの基板の成膜条件が均一になるように,ドーム(基板ホルダー)を回転させることが通常行われていることであるから(特開2006-45632号公報の段落【0005】,【図9】,特開2007-248828号公報の段落【0026】,【図2】等参照),前記軸はドームの回転軸であると解するのが自然である。
そうすると,引用発明1において,基体保持手段の基体保持面に保持されている基体は回転していると解するのが合理的である。
よって,相違点2は実質的な相違ではない。
なお,被請求人は,口頭審理陳述要領書において,「甲第1号証の文章及び図1から,基板が回転しているかどうか不明である。例えば,乙第4号証に記載のように基板が静止した状態でイオンを照射することによるアシスト効果が知られているところ,甲第1号証の文章及び図1には,中心に図1のドーム上方に描かれた横長の長方形の部材から,容器外に向かって上方に伸びる軸の回転方向が図示されているが,その回転機構等については何らの図示も記述もないものであり,ドームが回転しているかどうか不明である。」(第3頁第24?29行)と主張している。
しかしながら,第6 2(3)アの乙第4号証の記載によれば,図7・31の(a)には,蒸着と同時に基板の全面にイオン照射を行うことが記載されているものの,基板が静止した状態であるかは不明であるから,この記載をもって,図1に記載のドームが静止しているということはできない。また,上記のとおり,図1に記載のドームは回転していると解するのが自然であり,基板が回転していても甲第1号証の目的の妨げになるとはいえないから,被請求人の主張は採用できない。
また,被請求人は,「甲第1号証の目的とする『ZrO_(2)薄膜の屈折率と微構造に於ける不均質性に於いてアルゴンイオン衝撃の効果を研究する』ためには,基板の一点を測定対象にすればよいため,回転させる必然性がない。このような事情に鑑みると,甲第1号証の図1から『回転している基板である』とは言い難い。」(第4頁第7?10行),「甲第1号証の図1は,・・・一つの基板に対してイオンアシスト蒸着を行うと解釈することもできる。これは,甲第1号証が,本件特許発明の量産するためのものではなく,・・・一品製作的なものであって,実験品をつくるための装置の例を模式的に図示したものに過ぎないことから,甲第1号証の図1では,ドームが回転するかどうかは問題ではなく,上記のように解釈することができないとは到底言い切れない。」(第7頁第3?11行)との主張をしている。
上記の主張は,1つの基板の各部分に対して,異なるイオンアシスト条件を施し,各部分のそれぞれ一点を測定対象とする調査方法を前提とするものと認められる。
しかしながら,そのような前提は,甲第1号証の図1において,ドーム上の全ての基板に対して蒸着材料が供給されていることが示されていることと合致しないから,採用の限りでない。
さらに,被請求人は,訂正請求書において,「仮に,『前記軸はドームの回転軸と解するのが自然である』としても,成膜“装置”として〈回転軸が存在する〉ことと,成膜“方法”における成膜中に〈実際に基体を回転させる〉こととは無関係である。また,“装置”として〈回転軸が存在する〉ことと,それゆえに“方法”における成膜中に〈基体が回転している〉という,短絡的な判断は,当を得ていない。すなわち,成膜装置として回転軸が存在することを理由に,成膜方法における成膜中に実際に基体を回転させている,と判断し,甲1記載の発明を認定した点で,審決予告での〈相違点3の判断〉は不当である。」(第24頁第5?12行)との主張をしている。
しかしながら,上記のとおり,図1に記載の回転軸は,成膜中にドームを回転させるものと解するのが自然であるから,被請求人の主張は採用できない。
ウ 相違点3について
上記第6 1(1)イの記載によれば,甲第1号証には,3SCCM(SCCMとは,標準状態におけるcm^(3)/分で表したガス流量)のアルゴンガスを衝撃用ガス種として放電チャンバーに導入した旨が記載されており,SCCMの単位は,通常,連続的なガス流量を示すことが当業者の技術常識であると認められる。そして,第6 1(1)エの図1によると,アルゴンガスが導入されているのは(gas in),イオン源(ion source)であるから,連続的に導入されるガスは,連続的にイオン化してドームの内周面に照射されると解するのが合理的である。また,図1によれば,イオンビームがドームの内周面に保持された複数の基板のうち1つの基板に照射されていることが認められる。この照射範囲は,第6 1(3)アの甲第3号証に記載されるカウフマンソースの照射範囲が狭い旨の技術常識と整合する。
そして,上記(2)イで検討したとおり,甲第1号証の図1では,成膜中にドームが回転していると解するのが自然であるから,図1に記載される3つの基体は,ドームの回転に伴って,イオンが照射されているときと照射されていないときが確保されているといえる。
そうすると,甲第1号証には,「回転しているドームの内周面の一部の領域に対してイオンを連続して照射することによって,前記ドームの内周面の回転に伴って移動している基体のそれぞれにイオンが照射されているときと照射されていないときが確保されるように前記イオンを照射し,前記基体のそれぞれに対して前記イオンを照射することによるイオンアシスト効果を与えながら,すべての基体の表面に薄膜を堆積させる」ことが記載されているといえる。
よって,相違点3は実質的な相違ではない。
なお,被請求人は,答弁書において,「甲第1号証の図1は,IAD(イオンビームアシスト蒸着)の装置の原理を図示した模式図に過ぎない」(第9頁第28?29行)と主張し,口頭審理陳述要領書において,「誤った認識に基づく請求人の『(2)審理事項通知書〈2-1 請求人に対して〉の〈イ〉(Arイオンビームの〈連続〉照射)について』も同様に失当である。」(第5頁第17?19行),すなわち,乙第2,3号証の記載に基けば,甲第1号証におけるイオンビームは間欠照射である可能性があることを主張している。
しかしながら,乙第2,3号証に記載の技術は,イオンアシスト蒸着に関するものではないから,これらの乙号証に,甲第1号証において,イオンが間欠的に照射されていることを窺わせる記載は存在しない。また,図1が模式図であるとしても,図の特徴的部分であるイオンビームの照射範囲を読み取ることができるし,図1の記載は,上記のとおり技術常識と整合する。
したがって,被請求人の上記の主張は当を得たものではない。
また,被請求人は,訂正請求書において,(a)上記第6 1(2)アの甲第2号証の記載に関し,「幅の広いビームのイオン源のうち,研究等でよい成果を得ているものとして,カウフマンイオン源が挙げられることが明確に記載されている。これは甲3の記載(照射範囲が狭い)と矛盾する」旨の主張(第13頁第27行?第14頁第15行),(b)甲第1号証の記載に基づき正規化イオン運動量Pを算出すると1.42(MeV/c)となり,これは,甲第1号証に記載されるPの最大値と一致する。この結果から,甲第1号証の基体に到達した蒸着粒子は,常時イオン照射を受けていなければ,甲第1号証の本文の記載内容と矛盾する旨の主張(第15頁第27行?第20頁第22行),(c)甲第1号証と同一の著者による乙第9号証には,甲第1号証の図1と同一の図が図1として掲載されており,乙第9号証では,その図1を,ビームの照射範囲が異なる2つのイオン源をそれぞれ用いた別々の実験に,同じように用いていることが示されている(第6 2(4)イ)。そうすると,甲第1号証の図1において,イオンビームの照射範囲を読み取ること自体に意味はなく,甲第1号証の図1に特徴的な部分など存在しないと理解できる旨の主張(第22頁第25行?第23頁第9行)をしている。
しかしながら,(a)甲第2号証の記載は,IADのためのイオン源として,抽出グリッドを備えることの多い,広いビームのイオン源が一般的であることと,成功例の多くが,カウフマン型またはグリッド型のイオン源であることとを個別に記載したものと解されるから,すべてのカウフマン型イオン源のビームが幅広であることを記載したものとはいえず,甲第2号証の記載は,甲第3号証の記載と矛盾するものではない。カウフマン型イオン源のビームが必ずしも幅広でないことは,上記第6 2(4)アの乙第9号証の「グリッドレスイオンソース又はエンドホールイオンソース・・・のイオンエネルギーは小さく広範囲であり,イオンの電流密度は高く,ビームの拡散はカウフマン型イオンソースに比べて大きい」との記載からも明らかである。よって,甲第1号証の図1に記載のイオンビームの照射範囲は,これらの技術事項と矛盾するものではない。(b)また,訂正請求書の第17頁第1行?第19頁第10行に記載の計算によって,小数第2位の数値が確かな数値であるのか不明であるが,Pの最大値が1.42となったとしても,この数値は,蒸着粒子がイオン照射を受けているときの正規化イオン運動量の最大値と考えられる(蒸着粒子がイオン照射を受けていないときは0となる)から,この結果は,甲第1号証の本文の記載内容と矛盾するものとはいえない。(c)さらに,乙第9号証の図1は,甲第1号証の図1と同様に,カウフマン型イオンソースを用いたときの模式図と考えられるから,甲第1号証の図1から,図の特徴的部分であるイオンビームの照射範囲を読み取ることに問題はない。

(3)小括
したがって,本件特許発明1は,甲第1号証に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。

2 本件特許発明2と引用発明2との対比
(1)本件特許発明2と引用発明2との対比
引用発明2における「ドーム」,「基本真空度がおよそ8×10-7Torrである箱形成膜装置」,「基板」,「ZrO_(2)」,「ZrO_(2)を供給する手段」及び「熱陰極型カウフマンイオン源」は,本件特許発明2の「基体保持手段」,「真空容器」,「基体」,「成膜材料」,「成膜手段」「成膜アシスト手段」に相当するから,本件特許発明2と引用発明2とは,「真空容器内に配設され,複数の基体を保持するための基体保持手段と,
前記基体保持手段の基体保持面の全域に向け成膜材料を供給することによって前記基体保持面に保持されている複数の基体のすべてに対して前記成膜材料を供給可能となるような配置及び向きで前記真空容器内に設置された成膜手段と,
イオンを前記基体保持面に対し照射可能となるような構成,配置及び/又は向きで前記真空容器内に設置された成膜アシスト手段とを,有する成膜装置。」である点で一致し,以下の点で相違する。

相違点4:本件特許発明2は,「成膜手段が成膜材料を連続して供給可能」であるのに対し,引用発明2は,成膜手段が成膜材料を連続して供給可能であるのか不明である点。
相違点5:本件特許発明2は,「基体保持手段」が「回転可能に配設され」ているのに対し,引用発明2は,基体保持手段が回転可能に配設されているのか不明である点。
相違点6:本件特許発明2は,「成膜アシスト手段」が「イオンを基体保持面の一部の領域に向けて照射可能であり,回転している前記基体保持面に対して前記イオンを連続して照射することによって,前記基体保持面の回転に伴って移動している基体のそれぞれにイオンが照射されているときと照射されていないときが確保されるように前記イオンを照射可能となるような構成,配置及び/又は向きで真空容器内に設置され」ているのに対し,引用発明2は,成膜アシスト手段がどのように真空容器内に設置されているのか不明である点。

(2)相違点についての判断
ア 相違点4について
上記第8 1(2)アの「相違点1について」で検討した理由と同様の理由により,引用発明2においては,電子ビームは蒸着源に連続して照射され,成膜手段は成膜材料を連続的に供給可能であると解することが合理的である。
よって,相違点4は実質的な相違ではない。
イ 相違点5について
上記第8 1(2)イの「相違点2について」で検討した理由と同様の理由により,引用発明2において,基体保持手段は回転可能に配設されおり,その回転により,基体保持手段の基体保持面に保持されている複数の基体は回転していると解するのが合理的である。
よって,相違点5は実質的な相違ではない。
ウ 相違点6について
上記第8 1(2)ウの「相違点3について」で検討した理由と同様の理由により,甲第1号証には,「成膜アシスト手段」が「イオンを基体保持面の一部の領域に向けて照射可能であり,回転している前記基体保持面に対して前記イオンを連続して照射することによって,前記基体保持面の回転に伴って移動している基体のそれぞれにイオンが照射されているときと照射されていないときが確保されるように前記イオンを照射可能となるような構成,配置及び/又は向きで真空容器内に設置され」ることが記載されているといえる。
よって,相違点6は実質的な相違ではない。

(3)小括
したがって,本件特許発明2は,甲第1号証に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。

第9 むすび

以上のとおり,本件特許発明1,2は,甲第1号証に記載された発明であって,特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから,その特許は,同法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきものである。
審判に関する費用については,特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により,被請求人が負担すべきものとする。
よって,結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
成膜方法及び成膜装置
【技術分野】
【0001】
この発明は、成膜方法及び成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
真空容器内で基板表面に向けて成膜材料を蒸発させる際に、基板上に堆積した蒸着層にイオンを照射することによって緻密化を行う蒸着装置、すなわちイオンアシスト蒸着装置が知られている(特許文献1,2)。
【特許文献1】特開平10-123301号公報
【特許文献2】特開2007-248828号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上述した従来手法では、蒸着源により成膜材料を供給しているすべての基板に対して、イオン源によるイオンビームの照射を行うので、イオン源から照射されるイオンビームによるイオンアシスト効果が十分ではなく、基板に形成される薄膜の膜質改善が十分ではなかった。従って、より高いイオンアシスト効果を得ることできる手法の開発が望まれていた。
【0004】
発明が解決しようとする課題は、より高いイオンアシスト効果を得ることができる成膜方法及び成膜装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明は、以下の解決手段によって上記課題を解決する。なお、以下の解決手段では、発明の実施形態を示す図面に対応する符号を付して説明するが、この符号は発明の理解を容易にするためだけのものであって発明を限定する趣旨ではない。
【0006】
発明に係る成膜方法は、基体保持手段(12)に保持され回転している基体(14)に対して成膜材料を供給するとともに、イオンを照射することによるアシスト効果を与えながら、基体(14)の表面に薄膜を堆積させる成膜方法であって、基体(14)に対する成膜材料の供給時間をT1とし、基体(14)に対するイオンの照射時間をT2としたとき、T2<T1となるようにイオンを照射することを特徴とする。
【0007】
上記発明において、T2≦((1/2)・T1)となるようにイオンを照射することができる。
【0008】
上記発明において、基体保持手段(12)に対する成膜材料の供給領域をA1とし、基体保持手段(12)に対するイオンの照射領域をA2としたとき、A2<A1となるようにイオンを照射することができる。
【0009】
上記発明において、基体保持手段(12)に対する成膜材料の供給領域をA1とし、基体保持手段(12)に対するイオンの照射領域をA2としたとき、A2≦((1/2)・A1)となるようにイオンを照射することができる。
【0010】
上記発明において、イオンの照射領域を、基体(14)の移動方向に沿って縦長状の閉曲線で囲まれる領域とすることができる。
【0011】
上記発明において、加速電圧が50?1200Vのイオンを用いることができる。
【0012】
上記発明において、照射イオン電流が50?1000mAのイオンを用いることができる。
【0013】
上記発明において、少なくとも酸素を含むイオンを用いることができる。
【0014】
発明に係る成膜装置は、真空容器(10)内に回転可能に配設され、基体(14)を保持するための基体保持手段(12)と、基体保持手段(12)に保持される基体(14)に対して成膜材料を供給し、これを基体(14)の表面に堆積させる成膜手段(34)と、イオンを基体(14)の一部に対し部分的に照射可能に配置された成膜アシスト手段(38)とを、有する。
【0015】
上記発明において、成膜アシスト手段(38)は、基体保持手段(12)に保持されるすべての基体(14)の半分以下に対してイオンを照射可能な配置で、真空容器(10)の内部に配設されてもよい。
【0016】
上記発明において、基体保持手段(12)を回転させる回転手段をさらに有し、成膜アシスト手段(38)は、基体保持手段(12)の回転する軸線に対して成膜アシスト手段(38)からイオンが照射される軸線が、6°以上70°以下の角度を有するように真空容器(10)の内部に配設されていてもよい。
【0017】
上記発明において、成膜アシスト手段(38)は、真空容器(10)の側面側に配設されていてもよい。
【0018】
上記発明において、成膜アシスト手段(38)は、基体(14)から成膜アシスト手段(38)までの距離が平均自由行程以下になるように配設されていてもよい。
【0019】
上記発明において、成膜アシスト手段(38)は、少なくとも取り付け角度が調整可能な支持手段(44)を介して真空容器(10)の側面に取り付けられていてもよい。
【0020】
上記発明において、基体(14)に対して電子を照射する第2の成膜アシスト手段(40)をさらに有し、第2の成膜アシスト手段(40)は、成膜アシスト手段(38)と所定距離離間した配置に設けられていてもよい。
【0021】
上記発明において、基体保持手段(12)は、平板状又はドーム状をなしており、その一方の面から他方の面まで貫通する貫通孔が形成され、基体(14)は、貫通孔を塞ぐように基体保持手段(12))に保持されていてもよい。
【0022】
上記発明において、基体(14)及び基体保持手段(12)を加熱するための加熱手段(53)をさらに有してもよい。
【発明の効果】
【0023】
上記発明によれば、基体に対する成膜材料の供給時間T1よりも基体に対するイオンの照射時間T2が短くなるようにイオンを照射するので、各基体に対してイオンが照射されていない時間が確保される。このイオンが照射されていない間に、イオンの照射によって表面がマイグレーションされた成膜材料の分子を基体上の安定な位置に静止させることができる。安定サイトに静止した成膜材料の分子に対してその後再びイオンが照射されても、静止した成膜材料の分子が安定サイトから動き出すことはなく、結果として緻密で良質な薄膜が得られることとなる。すなわち、より高いイオンアシスト効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、上記発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0025】
《成膜装置》
図1に示すように、本実施形態の成膜装置1は、イオン銃からイオンビーム(ガスイオン)を基板に照射しながら成膜処理が可能なイオンアシスト蒸着装置であり、縦置き円筒状の真空容器10を含む。
【0026】
真空容器10は、公知の成膜装置で通常用いられるような概ね円筒の形状を有するステンレス製の容器であり、接地電位とされている。真空容器10には、排気口(不図示。本実施形態では図1に向かって右側)が設けられており、この排気口を介して真空ポンプ(不図示)が接続されている。真空ポンプを作動させることで、真空容器10の内部が所定圧力(例えば10^(-4)?3×10^(-2)Pa程度)に排気されるようになっている。真空容器10には、内部にガスを導入するためのガス導入管(不図示)が形成されている。真空容器10には、扉(不図示。本実施形態では図1に向かって左側)を介して、ロードロック室(不図示)が接続されていてもよい。ロードロック室を備えていると、真空容器10内の真空状態を保持した状態で、基板14の搬入出を行うことが可能となる。
【0027】
真空容器10の内部の上方には、基板ホルダ12が保持されている。基板ホルダ12(基体保持手段)は、垂直軸回りに回転可能に保持されるドーム状に形成されたステンレス製の部材であり、モータ(不図示。回転手段)の出力軸(不図示。回転手段)に連結されている。
【0028】
基板ホルダ12の下面には、後述する成膜の際に、複数の基板14が支持される。なお、本実施形態の基板ホルダ12の中心には、開口が設けられており、ここに水晶モニタ50が配設されている。水晶モニタ50は、その表面に蒸着物質が付着することによる共振周波数の変化から、基板14表面に形成される物理膜厚を膜厚検出部51で検出する。膜厚の検出結果は、コントローラ52に送られる。
【0029】
真空容器10の内部の上方には、基板ホルダ12を上方から包み込むように電気ヒータ53(加熱手段)が配設されている。基板ホルダ12の温度は、熱電対などの温度センサ54で検出され、その結果はコントローラ52に送られる。
【0030】
コントローラ52は、膜厚検出部51からの出力に基づいて、後述する蒸着源34のシャッタ34a及びイオン源38のシャッタ38aの開閉状態を制御し、基板14へ形成される薄膜の膜厚を適切に制御する。また、コントローラ52は、温度センサ54からの出力に基づいて、電気ヒータ53を制御し、基板14の温度を適切に管理する。
【0031】
真空容器10の内部の下方には、蒸着源34が配設されている。蒸着源34(成膜手段)は、本実施形態では電子ビーム加熱方式によって、例えば高屈折率物質や低屈折率物質などの成膜材料を加熱して基板14に向けて放出する蒸発源である。蒸発源34は、成膜材料を載せるためのくぼみを上部に備えた坩堝(ボート)34bと、成膜材料に電子ビーム(e^(-))を照射し、これを蒸発させる電子銃34cと、坩堝34bから基板14に向かう成膜材料を遮断する位置に開閉操作可能に設けられたシャッタ34aとを備える。シャッタ34aは、コントローラ52からの指令により適宜開閉制御される。坩堝34bに成膜材料を載せた状態で、電子銃電源34dによって電子銃34cに電力を供給し、電子銃34cから電子ビームを発生させ、この電子ビームを成膜材料に照射すると、成膜材料が加熱されて蒸発する。この状態で、コントローラ52からの指令を受けてシャッタ34aを解放させると、坩堝34bから蒸発する成膜材料は基板14に向けて真空容器10の内部を移動し、基板14の表面に付着する。
【0032】
なお、蒸発源34は、電子ビーム加熱方式に限らず、直接加熱方式や間接加熱方式などの抵抗加熱方式の蒸発源であってもよい。直接加熱方式は、金属製のボートに電極を取り付けて電流を流し、直接、金属製のボートを加熱してボート自体を抵抗加熱器とし、この中に入れた成膜材料を加熱する。間接加熱方式は、ボートが直接の熱源ではなく、ボートとは別に設けられた加熱装置、例えば遷移金属などのレアメタルなどからなる蒸着フィラメントに電流を流すことにより加熱する方式である。蒸発源34が抵抗加熱方式である場合、坩堝34bに成膜材料を載せた状態で、ボート自体あるいはボートとは別に設けられた加熱装置により、成膜材料を加熱し、この状態でシャッタ34aを開くと、坩堝34bから蒸発する成膜材料は基板14に向けて真空容器10の内部を移動し、基板14の表面に付着する。
【0033】
本実施形態の蒸発源34は、成膜材料を、モータからの出力を受けて垂直軸回りに回転している基板ホルダ12に保持されるすべての基板14に対して連続して付着させることが可能となるような配置及び向きで設置されている。
【0034】
真空容器10の内部の側面側には、イオン源38が配設されている。イオン源38(成膜アシスト手段)は、イオンビーム(ion beam)を基板14に向けて放出する成膜アシスト装置であり、反応ガス(例えばO_(2))や希ガス(例えばAr)のプラズマから、正に帯電したイオン(O_(2)^(+),Ar^(+))を引き出し、加速電圧により加速して基板14に向けて射出する。イオン源38の上方には、イオン源38から基板14に向かうイオンビームを遮断する位置に開閉操作可能に設けられたシャッタ38aが備えられている。シャッタ38aは、コントローラ52から指令により適宜開閉制御される。
【0035】
本実施形態のイオン源38は、イオンビームを、モータからの出力を受けて垂直軸回りに回転している基板ホルダ12に保持されるすべての基板14に対し、その一部に部分的に照射することが可能となるような構成(例えば電極の曲率)、配置及び/又は向きで配置されている。具体的には、例えば図2に示すように、回転途中の基板ホルダ12の一部、即ちすべての基板14の一部に、イオンビームを部分的に照射(以下、「部分照射」ともいう。)することができるように、イオン源38が配置されている(図2の波線で囲まれる領域A2)。
【0036】
すなわち、イオンビームの照射領域(A2)が、蒸着源34による成膜材料の供給領域(図2の二点波線で囲まれる領域A1)より小さくなるように、イオン源38が配置される(A2<A1)。本実施形態では、特に、A2≦((1/2)・A1)となるようにイオン源38が配置されていることが好ましい。イオン源38をこのように配置することで、イオン源38から照射されるイオンビームは、回転中の基板ホルダ12に保持される基板14の一部に、部分的に照射される。これにより、基板14の表面に堆積される薄膜の膜質の改善が効果的に図られる。膜質の改善については後述する。
【0037】
なお、図2の態様のほかに、例えば図3の一点波線で囲まれる領域A2’で、イオンビームを部分照射することが可能となるように、イオン源38を配置してもよい。ただし、図3の態様では、基板ホルダ12の回転軸(図中、「×」を参照)近傍に保持される特定の基板14と、基板ホルダ12の外周近傍に保持される別の基板14との間で、イオンビームの相対的な照射時間が異なることがある。この場合、基板ホルダ12に保持されるすべての基板14の特性が均一化されないこともある。従って、本実施形態では、図2に示すように、基板14の移動方向に沿って縦長状の閉曲線(例えば略楕円)で囲まれる領域に、イオンビームを照射することができるよう、イオン源38を配置することが望ましい。
【0038】
図1に戻り、本実施形態では、シャッタ38aの上方には、イオン源38から引き出されるイオンの指向性を調整するための調整壁38b,38bが設けられていてもよい。これを設けることで、上述したイオン源38の配置如何を問わずに、イオンビームを基板ホルダ12の所定領域(例えば図2の領域A2や、図3の領域A2’など)に照射させることができる。
【0039】
本実施形態のイオン源38は、真空容器10の側面に、支持装置としてのアタッチメント44を介して取り付けられている。
【0040】
イオン源38を真空容器10の側面側に取り付けることで、これが蒸着源34と同様に、真空容器10の内部下方に配置される場合と比較して、イオン源38から照射されるイオンビームが短い飛行距離で基板14に到達する。その結果、基板14に衝突する際のイオンの運動エネルギーの低下を抑えることができる。また、イオン源38を真空容器10の側面側に取り付けることで、イオンビームは角度を有して基板14に入射されることになる。高い運動エネルギーを保った状態のイオンビームを斜め方向から基板14表面に衝突させることで、基板14表面に堆積した蒸着物質に、より大きなエネルギーを作用させることができるなど、従来よりも高いイオンアシストの効果を得ることができる。
【0041】
本実施形態のイオン源38は、蒸着源34の配置位置よりも、イオン源38の本体長さ分以上、基板14に近い位置に配置されている。また、イオン源38の取り付けが容易となるように、真空容器10の側面の一部が傾斜して形成されているが、イオン源38を取り付ける位置は任意である。また、イオン源38の取り付け位置は、真空容器10の側面に限定されず、蒸着源34と同様に、真空容器10の内部下方であってもよい。いずれにしても、基板ホルダ12に保持される基板14の一部にイオンビームを照射可能となるような位置に取り付けられる。
【0042】
アタッチメント44(支持手段)は、イオン源38の支持装置であって真空容器10の側面に取り付けられている。アタッチメント44は、真空容器10側に固定されるブラケット(不図示)と、イオン源38側をブラケットに対して傾斜可能に支持するピン(不図示)と、イオン源38の傾きを所定位置で固定するネジからなる制動部材(不図示)とを備える。そのため、イオン源38の取り付け角度を任意に調節することができる。また、真空容器10側にブラケットを配設し、これを位置調整可能なベースプレート(不図示)に固定することにより、取り付け角度のみならず、高さ方向、半径方向の位置を調整可能に構成されている。なお、高さ方向、半径方向の位置調整は、ベースプレートを上下方向及び半径方向に移動させることで行う。
【0043】
イオン源38の取り付け高さh及び半径方向の位置の変更により、イオン源38と基板14とを適切な距離に調整することができ、取り付け角度の変更により、基板14に衝突するイオンビームの入射角度や位置を調整することができる。イオン源38の高さ方向、半径方向の位置、及び取り付け角度の調整により、イオンビームのロスを最小限に抑え、イオン源38の照射領域(例えば図2のA2、図3のA2’)に対してイオン電流密度が均一な分布となるように調整する。
【0044】
イオン源38の取り付け角度θは、イオンビームを照射する軸線と、基板ホルダ12の回転軸線とのなす角度のことである。この角度が大きすぎると、基板14に対して低角度でイオンビームが入射することになるため、基板14に衝突しても基板14に大きな効果を及ぼさないまま跳ね返されるため、イオンアシストの効果が低下することもある。一方、この取り付け角度θが小さすぎる場合にも、基板14に直角に近い角度でイオンビームが衝突することになるため、蒸着物質に大きなエネルギーを与えることできず、堆積した蒸着層を緻密化する効果が低下することもある。
【0045】
本実施形態においては、取り付け角度θは6?70°の角度範囲であるときに高いイオンアシストの効果を得ることができ、従って、消費電力の低減や、優れた膜質の薄膜を得ることができる。
【0046】
また、基板14表面に斜め方向からイオンビームを入射させる方法は、基板14とイオン源38との距離に依存しない。すなわち、イオン源38からのイオンビームが基板14に到達可能な範囲であれば、基板14表面に斜め方向からイオンビームを入射させる方法を適用することで、高いイオンアシストの効果を得ることができる。
【0047】
なお、上記の取り付け角度θは、基板ホルダ12や真空容器10の大きさ若しくは成膜材料によって適宜変更可能なことはもちろんである。
【0048】
取り付け高さhは、イオン源38と基板14との距離が適切になるように設定される。取り付け高さhが高すぎると、取り付け角度θが大きくなりすぎ、一方、取り付け高さhが低すぎると基板14とイオン源38との距離が長くなるとともに取り付け角度θが小さくなりすぎる。よって、取り付け高さhは、適切な取り付け角度θを得ることができる位置である必要がある。
【0049】
イオン源38と基板14との距離は、平均自由行程1と同等若しくはそれ以下であることが望ましい。例えば、平均自由行程1=500mmであれば、イオン源38と基板14との距離も500mm以下にすることが望ましい。イオン源38と基板14との距離を平均自由行程1以下とすることで、イオン源38から放出されたイオンの半数以上を無衝突状態で基板14に衝突させることができる。高いエネルギーを有したままイオンビームを基板14に照射することができるため、イオンアシストの効果が大きく、より低い電力若しくは短時間で成膜をすることができる。
【0050】
ここで、“イオン源38と基板14の距離”とは、イオン源38の中心とイオン源38の中心から基板ホルダ12の成膜面側の中心までの距離をいう。同様に、“蒸着源34と基板14の距離”とは、蒸着源34の中心と蒸着源34の中心から基板ホルダ12の成膜面側の中心までの距離をいう。また、“イオン源38の本体長さ”とはイオン源38(イオン銃)の電極からイオンプラズマ放電室の底部までの距離である。
【0051】
イオン源38の取り付け位置は、真空容器10の側面側の位置には限定されず、アタッチメント44によって真空容器10の側面の壁面から離間した位置に配置されるようにしてもよい。アタッチメント44は半径方向にもイオン源38の位置を調整することができるため容易にこのような配置にすることができる。この場合、より近い位置から、基板14に対してイオンビームを照射することができるため、より低いエネルギー(消費電力)であっても良好なイオンアシストの効果を得ることができる。大型の蒸着装置にて、真空度の低い成膜条件で成膜を行う場合にも本実施形態を適用することができる。また、基板ホルダ12と真空容器10の内側の壁面との距離が離れている蒸着装置においても好適に木実施形態を適用できる。もちろん、イオン源38を底部に設置してもよい。この場合、底部に台座を設置して台座の上にイオン源38を取り付ければよい。
【0052】
また、上述のように、より低いイオン電流(消費電力)であっても良好なイオンアシストの効果を得ることができることから、イオンビームの衝突によって、基板14表面や基板ホルダ12に付着した蒸着物質の剥離が減少した。すなわち、真空容器10内に存在する異物を減らすことができ、より高精度な成膜を行うことができる。つまり、成膜工程の歩留まりの向上により製造コストの低減を図りつつ、高精度の光学フィルターを製造することができる。
【0053】
さらに、イオン源38を真空容器10の側面に取り付けることにより、蒸着源34と基板の問に配置される膜厚補正板(不図示)によって、イオンビームが妨げられることがなくなるため、イオンのロスが減少し、より効率的な成膜が可能となる。
【0054】
なお、基板14に対するイオンビームの入射角度の増大に伴ってイオンアシストの効果が徐々に向上するため、取り付け角度θを増大させることで消費電力の低減やイオン銃の長寿命化を図ることができる。
【0055】
真空容器10の内部の側面側には、ニュートラライザ40が配設されている。蒸発源34から基板14に向けて移動する成膜材料は、イオン源38から照射される正イオン(イオンビーム)の衝突エネルギーにより、基板14の表面に高い緻密性でかつ強固に付着する。このとき、基板14はイオンビームに含まれる正イオンにより正に帯電する。なお、イオン源38から射出された正のイオン(例えばO_(2)^(+))が基板14に蓄積することにより、基板14全体が正に帯電する現象(チャージアップ)が起こる。チャージアップが発生すると、正に帯電した基板14と他の部材との間で異常放電が起こり、放電による衝撃で基板14表面に形成された薄膜(絶縁膜)が破壊されることがある。また、基板14が正に帯電することで、イオン源38から射出される正のイオンによる衝突エネルギーが低下するため、薄膜の緻密性、付着強度などが減少することもある。このような不都合を解消し、基板14に蓄積した正の電荷を電気的に中和(ニュートラライズ)させるために、本実施形態では、ニュートラライザ40を配設したものである。
【0056】
ニュートラライザ40(第2の成膜アシスト手段)は、イオン源38によるイオンビームの照射中に、電子(e^(-))を基板14に向けて放出する成膜アシスト装置であり、Arなどの希ガスのプラズマから電子を引き出し、加速電圧で加速して電子を射出する。ここから射出される電子は、基板14表面に付着したイオンによる帯電を中和する。
【0057】
ニュートラライザ40は、イオン源38から所定距離を離間させて配設してある。なお、ニュートラライザ40の上方には、ニュートラライザ40から放出される電子の指向性を調整するための調整壁(図示省略。例えば調整壁38bを参照)が設けてあってもよい。
【0058】
ニュートラライザ40の配置は、基板14に電子を照射して中和できる位置であればよく、上述したイオン源38と同様に、電子を、基板ホルダ12に保持されるすべての基板14に対して、その一部に照射することができる配置でもよいし、あるいは、上述した蒸発源34と同様に、電子を、基板14の全部に照射可能な配置であってもよい。
【0059】
ニュートラライザ40は、基板14に電子を照射して中和できる位置に配置してあればよい。本実施形態では、ニュートラライザ40を基板ホルダ12に近い位置に配設している。このように配設することで、イオン源38から照射されたイオンが付着する基板ホルダ12の領域に向かって正確に電子を照射することができる。
【0060】
また、ニュートラライザ40はイオン源38と所定の距離離れた位置に配設されると、イオン源38から基板14に向かって移動中のイオンと直接反応することが少なく、効率よく基板ホルダ12の電荷を中和することができる。そのため、従来の蒸着装置よりもニュートラライザ40に印加される電流値を低い値にしても好適に基板ホルダ12を中和することができる。基板14表面に十分な電子を供給することができるため、例えば、高屈折率膜や低屈折率膜などの誘電体膜を完全に酸化させることができる。
本実施形態では、イオン源38及びニュートラライザ40がそれぞれ1つずつで構成されているが、これらが複数ずつ配置される構成とすることもできる。例えば、回転する基板ホルダ12の回転方向に沿ってイオン源38とニュートラライザ40が複数設けられる構成としてもよい。このような構成とすることで、大きなサイズの基板ホルダ12を備える大型の成膜装置にもより効果的に適用することができる。
【0061】
本実施形態係る成膜装置1によれば、イオンビームを部分照射可能な配置で、イオン源38を配置している。具体的には、イオン源38によるイオンビームの照射領域A2が、蒸着源34による成膜材料の供給領域A1よりも小さくなる(A2<A1)ように、イオン源38を配置している。その結果、イオンビームの照射領域A2を、成膜材料の供給領域A1と同様に、基板ホルダ12の全面(すなわち、すべての基板14に対して照射)とする場合と比較して、薄膜の緻密化が促進され、結果として高いイオンアシストの効果を得ることができる。特に、A2がA1の半分以下となる(A2≦((1/2)・A1))ようにイオン源38を配置することで、こうした効果をより一層顕著に発揮させることができる。
【0062】
なお、イオンビームの照射領域A2を、蒸着源34の成膜材料供給領域A1と同様に、基板ホルダ12の全面とし、例えば基板ホルダ12の外径を大きくして大面積化した場合、基板ホルダ12の全面にイオンビームが行き渡るようにするためには、イオン源38から引き出すイオンビームの発散角をより大きくする必要がある。イオンビームの発散角を拡げるには、イオン源38の先端に位置する電極部分の曲率を小さくする必要があり、電極曲率の極小化にはある程度の限界がある。イオン源38自体を小型化する要請がある場合には、より一層、電極の加工が困難となる。
【0063】
また、イオンビームの照射領域A2を基板ホルダ12の全面(=成膜材料の供給領域A1)とした場合、基板ホルダ12に保持されるすべての基板14に対し均一にイオンアシストを行おうとすると、イオン源38から大電流を出力させる必要がある。このため、プラズマの放電が安定化せず、均一なイオンアシストを行うことができなくばかりか、イオン源38の電極部分の寿命を著しく低下させる要因ともなる。
【0064】
さらに、イオンビームの照射領域A2を基板ホルダ12の全面とした場合、一度にすべての基板14に対し均一にイオンアシストするためには、イオンビームのイオン電流密度を均一化させることが求められる。このため、必要以上のイオン電流の放出を余儀なくされ、基板ホルダ12から外れて真空容器10の内壁に衝突する一部のイオン電流が無駄となり、イオンビームの使用効率が低下する。
【0065】
《成膜方法》
次に、成膜装置1を用いた成膜方法の一例を説明する。
【0066】
本実施形態では、光学フィルターを成膜する場合を例示する。本実施形態において成膜される光学フィルターは、高屈折率物質と低屈折率物質とを交互に積層させて成摸しているが、一種類若しくは複数種類の蒸発物質(成膜材料)からなる光学フィルターの成膜に対しても本発明は適用でき、その場合、蒸着源34の数や配置を適宜変更可能である。
【0067】
なお、本実施形態において作製する光学フィルターの具体例として、短波長透過フィルター(SWPF)と赤外線カットフィルターを挙げているが、これ以外にも、短波長透過フィルター、バンドパスフィルター・NDフィルターなどの薄膜デバイスについても適用可能である。
【0068】
(1)まず、基板ホルダ12の下面に、複数の基板14をその成膜面が下向きになる状態でセットする。基板14(基体)は、表面に誘電体膜や吸収膜が成膜によって付着される樹脂(例えばポリイミド)若しくは石英などの透光性を有する部材で構成される。基板14の形状は、円板状に限定されず、表面に薄膜を形成できる態様であれば、例えばレンズ形状、円筒状、円環状などの他の形状でもよい。なお、基板14は、セット前あるいはセット後に、湿式洗浄しておくことが好ましい。
【0069】
(2)次に、基板ホルダ12を真空容器10の内部にセットした後、真空容器10内を例えば10^(-4)?10^(-2)Pa程度にまで排気する。真空度が10^(-2)Paより高いと、膜質の低下を生ずることもある。
【0070】
(3)次に、電気ヒータ53に通電して発熱させ、基板ホルダ12を低速で回転させる。この回転により複数の基板14の温度と成膜条件を均一化させる。
【0071】
コントローラ52は、基板14の温度が、例えば常温?120℃、好ましくは50?90℃になったことを温度センサ54の出力により判定すると、成膜工程に入る。基板温度が常温未満では成膜される薄膜の密度が低く、十分な膜耐久性が得られない傾向がある。基板温度が120℃を超えると基板14としてプラスチック基板を用いている場合に、その基板14の劣化や変形が起きる可能性がある。
【0072】
本実施形態では、成膜工程に入る前に、イオン銃38をアイドル運転状態としておく。また、蒸発源34も、シャッタ34aの開動作によって直ちに成膜材料を拡散(放出)できるように準備しておく。成膜材料としては、高屈折率物質(例えばTa_(2)O_(5)やTiO_(2))や低屈折率物質(例えばSiO_(2))などが挙げられる。
【0073】
(4)次に、コントローラ52は、イオン銃38の照射電力(パワー)をアイドル状態から所定の照射電力に増大させ、シャッタ38aを開くとともに、シャッタ34aを開き、成膜材料のイオンビームアシスト蒸着(IAD:Ion-beam Assisted Deposition method)を行う。このとき、ニュートラライザ40の作動も開始する。すなわち、基板14の成膜面に対し、蒸発源34から成膜材料を飛散させる工程と、イオン銃38から引き出される導入ガス(ここでは酸素)のイオンビームを照射する工程と、電子を照射する工程とが並行して行われる(成膜処理)。
【0074】
イオンビームのアシスト条件は、以下の通りである。イオン銃38へ導入するガス種としては、例えば、酸素、アルゴン又は酸素とアルゴンの混合ガスとすることが好ましい。上記ガス種の導入量は、例えば1?100sccm、好ましくは5?50sccmである。「sccm」とは、「standard cc/m」の略で、0℃、101.3kPa(1気圧)におけるものを示す。イオンの加速電圧(V)は、例えば50?1200V、好ましくは100?1200V、より好ましくは200?400Vである。イオンの照射イオン電流(I)は、例えば50?1000mA、好ましくは100?1000mA、より好ましくは300?600mAである。
【0075】
本実施形態では、上述したようにイオン源38がイオンビームを部分照射可能な配置で配置されている(A2<A1。特にA2≦((1/2)・A1))。このため、蒸着源34及びイオン源38を同時間、稼働させた場合、1枚あたりの基板14に対して、蒸着源34による基板14に対する成膜材料の供給時間(T1)よりも、イオン源38による基板14に対するイオンビームの照射時間(T2)の方が必然的に短くなる(T2<T1)。
【0076】
これにより、基板14の表面に堆積される薄膜の膜質改善が効果的に図られる。ここに、膜質の改善とは、基板14に堆積した薄膜の清浄化と平滑化若しくは薄膜組織の緻密化を図ることであり、基板14表面に堆積された蒸着層を構成する分子(蒸着分子)が基板14上の安定な位置(安定サイト)に静止するまで移動することによって、このような効果が発現する。照射されたイオンビーム(イオン)に叩かれることで蒸着分子の移動が促進される。
【0077】
本実施形態では、T2<T1となるようにイオンビームを部分照射するので、各基板14に対してイオンビームが照射されていない時間が確保される。基板14表面に堆積された蒸着層を構成する分子(蒸着分子)は、イオンビームが照射されている間は、そのイオンビームによって化学反応(酸化)が促進されるが、その一方でイオンビームから受ける運動エネルギーによって表面がマイグレーション(物理励起)されるとの不都合を生じうる。本実施形態では、基板14に対してイオンビームに照射されていない間に、イオンビームの照射によって表面がマイグレーションされた蒸着分子を基板14上の安定な位置(安定サイト)に静止させる(落ち着かせる)ことができる。安定サイトに静止した蒸着分子に対してその後再びイオンが照射されても、静止した蒸着分子が安定サイトから動き出すことはなく、結果として緻密で良質な薄膜が得られることになるものと考えられる。すなわち、薄膜が緻密になり、且つ、組成的な均一性が向上すると共に、薄膜組織の歪みの低減を図ることができる。こうして、成膜された組織が良好な均一性を有することで、屈折率の変動が少なく、光の吸収係数が一定以下で安定する光学フィルターを得ることができる。
【0078】
なお、すべての基板14に対して、連続してイオンビームを照射した場合(全面照射)、基板14表面に堆積された蒸着分子は、基板14上の安定サイトに静止する前に再度、励起されてしまう。連続してイオンビームが照射されているからである。その結果、前記蒸着分子を安定サイトに静止させることが困難となり、これによって薄膜の緻密が阻害されるのではないかと考えられる。
【0079】
本実施形態では、特に、A2≦((1/2)・A1)となるようにイオン源38を配置することで、T2≦((1/2)・T1)となるようにイオンビームを照射することが好ましい。
【0080】
T2≦((1/2)・T1)となるようにイオンビームを照射することで、基板14の表面に堆積される薄膜の膜質の改善がより一層効果的に図られる。
【0081】
なお、イオンビームの照射時間(T2)を成膜材料の供給時間(T1)よりも短くする方法としては、上述したように、イオン源38の配置で調整する以外に、例えばイオン源38の作動をON-OFF制御することによって行うこともできる。
【0082】
ニュートラライザ40の作動条件は、以下の通りである。ニュートラライザ40へ導入するガス種としては、例えばアルゴンである。上記ガス種の導入量は、例えば10?100sccm、好ましくは30?50sccmである。電子の加速電圧は、例えば20?80V、好ましくは30?70Vである。電子電流は、イオン電流以上の電流が供給されるような電流であればよい。
【0083】
蒸着源34が成膜材料を放出する間、イオン源38のシャッタ38aを開動作して放出したイオンを基板14に衝突させることによって、基板14に付着した成膜材料の表面を平滑化すると共に緻密化する。この操作を所定回数繰り返すことにより多層膜を形成することができる。イオンビームの照射により基板14に電荷の偏りが生じるが、この電荷の偏りは、ニュートラライザ40から基板14に向けて電子を照射することで中和している。このようにして、基板14の成膜面に薄膜が所定厚みで形成される。
【0084】
(5)コントローラ52は、基板14の上に形成される薄膜の膜厚を水晶モニタ50により監視し続け、所定の膜厚になると成膜を停止する。コントローラ52は、成膜を停止する際に、シャッタ34a及びシャッタ38aを閉じる。
【0085】
本実施形態に係る成膜方法に用いる成膜装置1では、イオンビームを部分照射可能な配置で、イオン源38が配置されている。具体的には、イオンビームの照射領域A2が、蒸着源34の成膜材料の供給領域A1よりも小さくなる(A2<A1)ように、イオン源38が配置されている。このため、こうした構成の成膜装置1を用いた成膜方法によれば、蒸着源34及びイオン源38を同時間稼働させた場合、1枚あたりの基板14に対して、蒸着源34による基板14に対する成膜材料の供給時間(T1)よりも、イオン源38による基板14に対するイオンビームの照射時間(T2)の方を短くすることができる(T2≦((1/2)・T1))。
【0086】
その結果、イオン源38によるイオンビームの照射時間T2を、蒸着源34による成膜材料の供給時間T1と同様にした場合と比較して、薄膜の緻密化が促進され、結果として高いイオンアシストの効果を得ることができる。特に、T2がT1の半分以下となる(T2≦((1/2)・T1))ようにイオン源38からイオンビームを照射することで、こうした効果をより一層顕著に発揮させることができる。
【実施例】
【0087】
次に、上記発明の実施形態をより具体化した実施例を挙げ、発明をさらに詳細に説明する。
【0088】
《実験例1》
本例では、イオンビームアシスト蒸着を行う構成の図1に示す成膜装置1を準備し、下記条件で、光学フィルター試料を作製した。光学フィルター試料は、高屈折率膜と低屈折率膜との27層からなる短波長透過フィルター(Short Wave Pass Filter:SWPF)の多層膜である。
【0089】
成膜条件は以下の通りとした。
【0090】
・基板:BK7(屈折率n=1.52)。
【0091】
・成膜条件
膜材料(成膜材料):Ta_(2)O_(5)(高屈折率膜)と、SiO_(2)(低屈折率膜)。
Ta_(2)O_(5)の成膜速度:0.5nm/秒、成膜時間(T1):2260秒。
SiO_(2)の成膜速度:1.0nm/秒、成膜時間(T1):1500秒。
【0092】
・イオン源の条件
導入ガス種及び導入量:O_(2)を50sccm。
イオン加速電圧:300V。
照射イオン電流:500mA。
Ta_(2)O_(5)成膜時のイオンビームの照射時間(T2):1000秒。
SiO_(2)成膜時のイオンビームの照射時間(T2):700秒。
【0093】
・ニュートラライザの条件
導入ガス種及び導入量:Arを10sccm、
電子電流:1A。
【0094】
次に、作製した光学フィルター試料の透過分光特性(透過率T)と反射分光特性(反射率R)を測定し、その和(R+T)をグラフ化した。結果を図4に示す。図4には、参考までに、基板としてのBK7の特性についても併記した。また、図4の波長域450?550nmでの(R+T)値の平均値をプロット化した。結果を図5に示す。
【0095】
なお、本例のイオンビームの照射領域(A2)を基板ホルダ12に対する位置関係で示した様子を図6に示す。
【0096】
《実験例2》
蒸着源による成膜材料の供給領域と、イオン源によるイオンビームの照射領域がともに同一の従来の蒸着装置(図示省略)を準備し、下記条件で光学フィルター試料を作製し、その後、作製した光学フィルター試料の透過率Tと反射率Rを測定し、その和をグラフ化した。結果を図4に示す。また、波長域450?550nmでの(R+T)値の平均値をプロット化した結果を図5に示す。
【0097】
なお、本例のイオンビームの照射領域(A1)を基板ホルダ12に対する位置関係で示した様子を図7に示す。
【0098】
成膜条件は以下の通りとした。
【0099】
・基板:実験例1と同じ。
【0100】
・成膜条件
膜材料(成膜材料)並びに、Ta_(2)O_(5)及びSiO_(2)の成膜速度:何れも実験例1と同じ。
Ta_(2)O_(5)の成膜時間(T1):2260秒。
SiO_(2)の成膜時間(T1):1500秒。
【0101】
・イオン源の条件
導入ガス種、導入量、イオン加速電圧及びイオン電流:何れも実験例1と同じ。
Ta_(2)O_(5)成膜時のイオンビームの照射時間(T2):T1と同じ。
SiO_(2)成膜時のイオンビームの照射時間(T2):T1と同じ。
【0102】
・ニュートラライザの条件:何れも実験例1と同じ。
【0103】
《考察》
図4及び図5に示すように、実験例2の試料では、光の吸収分が多く確認されるのに対し、実験例1の試料では、可視光領域の全般で吸収が確認されない。特に450nmから550nmの波長域での(R+T)値が、実験例2の試料では95%程度であるのに対し、実験例1の試料では99.5%以上であり、薄膜(多層膜)での吸収がほとんどなく、良好な光学特性を持つ薄膜であることが確認できた。
【0104】
実験例1において、光学特性が良好な薄膜を形成できたのは次の理由による。すなわち、実験例1の成膜装置1では、イオンビームの照射領域(A2)が蒸着源34による成膜材料の供給領域(A1)より小さくなるように、イオン源38を配置し(A2<A1)、これにより、蒸発源34による成膜材料の供給時間(T1)よりもイオン源38によるイオンビームの照射時間(T2)を短くしている。このため、各基板14に対してイオンビームが照射されていない時間が確保される。このイオンビームに照射されていない間に、基板14表面に堆積された蒸着分子を、基板14上の安定な位置に静止させるまで移動させることができ、その結果、薄膜の緻密化が促進されるものと考えられる。これにより、薄膜が緻密になり、高いイオンアシスト効果を得ることができたものである。
【0105】
《実験例3》
Ta_(2)O_(5)成膜時のイオンビームの照射時間(T2)を800秒、SiO_(2)成膜時のイオンビームの照射時間(T2)を700秒と、実験例1よりもT2をさらに短くした以外は、実験例1と同様の条件で光学フィルター試料を作製し、同様に評価した。
【0106】
その結果、図4及び図5に示すのと同様に、可視光領域の全般で光の吸収が確認されない薄膜が形成できていることが確認できた。特に450nmから550nmの波長域での(R+T)値については、実験例1の結果以上の、ほぼ100%の値が得られ、極めて良好な光学特性を持つ薄膜を形成できていることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】図1は本発明の一実施形態に係る成膜装置を正面から見た断面図である。
【図2】図2は図1のII-II線に沿った断面図である。
【図3】図3は図2に対応する他の形態を示す断面図である。
【図4】図4は実験例1と実験例2の光学フィルターの透過率+反射率を示すグラフである。
【図5】図5は図4の波長域450?550nmでの(R+T)値の平均値を示すグラフである。
【図6】図6は実験例1(実施例)においてイオンビームの照射領域を基板ホルダに対する位置関係で示した概要図である。
【図7】図7は実験例2(比較例)においてイオンビームの照射領域を基板ホルダに対する位置関係で示した概要図である。
【符号の説明】
【0108】
1…成膜装置、10…真空容器、12…基板ホルダ(基体保持手段)、14…基板(基体)、34…蒸着源(成膜手段)、34a,38a…シャッタ、34b…坩堝、34c…電子銃、34d…電子銃電源、38…イオン源(成膜アシスト手段)、38b…調整壁、44…アタッチメント(支持手段)、40…ニュートラライザ(第2の成膜アシスト手段)、50…水晶モニタ、51…膜厚検出部、52…コントローラ、53…電気ヒータ、54…温度センサ。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体保持手段の基体保持面の全域に向け成膜材料を供給することによって前記基体保持面に保持され回転している複数の基体のすべてに対して前記成膜材料を連続して供給するとともに、
前記基体保持面の一部の領域に向けてイオン照射可能となる成膜アシスト手段を用い、回転している前記基体保持面に対して前記イオンを連続して照射することによって、前記基体保持面の回転に伴って移動している前記基体のそれぞれにイオンが照射されているときと照射されていないときが確保されるように前記イオンを照射し、前記基体のそれぞれに対して前記イオンを照射することによるイオンアシスト効果を与えながら、すべての基体の表面に薄膜を堆積させることを特徴とする成膜方法。
【請求項2】
請求項1記載の成膜方法において、1枚あたりの基体に対する、前記成膜材料の供給時間をT1とし、前記イオンの照射時間をT2としたとき、T2≦((1/2)・T1)となるように前記イオンを照射することによって、前記基体保持面の回転に伴って移動している前記基体のそれぞれに前記イオンが照射されているときと照射されていないときを確保することを特徴とする成膜方法。
【請求項3】
請求項1記載の成膜方法において、前記基体保持手段に対する前記成膜材料の供給領域をA1とし、前記基体保持手段に対する前記イオンの照射領域をA2としたとき、A2≦((1/2)・A1)となるように前記イオンを照射することによって、前記基体保持面の回転に伴って移動している前記基体のそれぞれに前記イオンが照射されているときと照射されていないときを確保することを特徴とする成膜方法。
【請求項4】
請求項1又は3記載の成膜方法において、前記イオンの照射領域を、前記基体の移動方向に沿って縦長状の閉曲線で囲まれる領域とすることを特徴とする成膜方法。
【請求項5】
請求項1?4の何れか一項記載の成膜方法において、加速電圧が50?1200Vのイオンを用いることを特徴とする成膜方法。
【請求項6】
請求項1?5の何れか一項記載の成膜方法において、照射イオン電流が50?1000mAのイオンを用いることを特徴とする成膜方法。
【請求項7】
請求項1?6の何れか一項記載の成膜方法において、少なくとも酸素を含むイオンを用いることを特徴とする成膜方法。
【請求項8】
真空容器内に回転可能に配設され、複数の基体を保持するための基体保持手段と、
前記基体保持手段の基体保持面の全域に向け成膜材料を供給することによって前記基体保持面に保持され回転している複数の基体のすべてに対して前記成膜材料を連続して供給可能となるような配置及び向きで前記真空容器内に設置された成膜手段と、
イオンを前記基体保持面の一部の領域に向けて照射可能であり、回転している前記基体保持面に対して前記イオンを連続して照射することによって、前記基体保持面の回転に伴って移動している前記基体のそれぞれにイオンが照射されているときと照射されていないときが確保されるように前記イオンを照射可能となるような構成、配置及び/又は向きで前記真空容器内に設置された成膜アシスト手段とを、有する成膜装置。
【請求項9】
請求項8記載の成膜装置において、前記成膜アシスト手段は、前記基体保持面の全領域の半分以下に対してイオンを照射可能な配置で、前記真空容器の内部に配設されていることを特徴とする成膜装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2013-03-29 
結審通知日 2013-04-03 
審決日 2013-05-13 
出願番号 特願2008-281501(P2008-281501)
審決分類 P 1 123・ 113- ZAA (C23C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 吉田 直裕  
特許庁審判長 吉水 純子
特許庁審判官 大橋 賢一
佐藤 陽一
登録日 2011-09-16 
登録番号 特許第4823293号(P4823293)
発明の名称 成膜方法及び成膜装置  
代理人 山本 和彦  
代理人 大倉 宏一郎  
代理人 大石 幸雄  
代理人 升永 英俊  
代理人 北畑 亮  
代理人 城田 百合子  
代理人 城田 百合子  
代理人 服部 昌明  
代理人 西川 久貴  
代理人 秋山 敦  
代理人 服部 昌明  
代理人 山本 和彦  
代理人 田中 伸英  
代理人 上西 浩史  
代理人 池田 和郎  
代理人 池田 和郎  
代理人 佐藤 睦  
代理人 田中 伸英  
代理人 秋山 敦  
代理人 北畑 亮  
代理人 西川 久貴  
代理人 大倉 宏一郎  
代理人 上西 浩史  

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