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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  E06B
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  E06B
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  E06B
管理番号 1291832
審判番号 無効2013-800021  
総通号数 179 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-11-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2013-02-08 
確定日 2014-09-25 
事件の表示 上記当事者間の特許第4839108号発明「引戸装置の改修方法及び改修引戸装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1.手続の経緯等
本件は,特許法41条により特願2002-64460号に基づいて優先権を主張して出願した特願2003-62183号(以下,「原出願」という。)の一部を,特許法44条1項の規定により新たな出願とした特願2006-74123号(以下,「本件特許出願」という。)の特許であり,その経緯概要は以下のとおりである。

平成14年 3月 8日 優先基礎出願(特願2002-64460号)
平成15年 3月 7日 原出願(特願2003-62183号)

平成18年 3月17日 本件特許出願(特願2006-74123号)
平成22年 1月14日 拒絶査定
平成22年 4月16日 審判請求
平成23年 9月 2日 審決
平成23年10月 7日 設定登録(特許第4839108号)

平成24年 3月16日 無効審判請求(本件と同じ特許権に対する無効審 判請求事件)
平成24年10月26日 審決(審判請求不成立)
平成24年12月 3日 審決取消請求を知財高裁へ提起(平成24年(行 ケ)第10418号事件)
平成25年 7月24日 判決言渡(請求を棄却)

平成25年 2月 8日 本件無効審判請求
平成25年 4月25日 答弁書(被請求人)提出
平成25年 5月 2日 手続中止通知
平成25年 7月30日 手続中止解除通知
平成25年 8月28日 審理事項通知
平成25年 9月12日 口頭審理陳述要領書(請求人提出)
平成25年10月 1日 口頭審理,書面審理通知(口頭審理において)
平成25年10月 8日 審理終結通知

第2.本件無効審判事件にかかる両当事者の主張
請求人と被請求人の主張は以下のとおりである。
1.請求人の主張
請求人は,平成25年2月8日付けの審判請求書において,「特許第4839108号の全請求項に係る発明についての特許は無効とする,審判費用は,被請求人の負担とする」との審決を求め(請求の趣旨),以下の理由により,本件特許は特許法123条1項規定の無効理由1及び無効理由2が成立する旨主張し,証拠方法として甲第1,2号証を提出した。

請求項1発明?同6発明は,
a 「既設下枠の室内寄りに設けられている取付け補助部材につき,室内側の端部に連なる背後壁の立面にビスで固着して取付け」ること,
b 「改修用下枠の室内寄りを取付け補助部材で支持」すること(請求項1?3の場合),
又は「改修用下枠の室内寄りが,取付け補助部材で支持」されること(請求項4?6の場合)
を要件(以下,この要件をそれぞれ「a要件」「b要件」という。)としている。
【無効理由1】(特許法36条6項1号)
(1)a要件に関して
請求項1,2,4,5は室内側案内レールが残存する構成を包摂しているにもかかわらず,室内側案内レールを115が残存した状態で取付け補助部材に対する背後壁におけるビスによる固着を裏付ける実施形態は明細書に存在しない。
「かくして,前記aに係る発明特定要件に即するならば,室内側案内レール115が切断・除去されずに残存する構成を前提とした場合,請求項1,2,4,5発明は,室内側案内レールを固着する構成については,発明の詳細な説明の裏付けが存在せず,同条同項同号のサポート要件違反が成立する。」
(2)b要件に関して
改修用下枠の室内寄りに対し,単に取付け補助部材によって「支持」という規定では,当該「支持」が取付け補助部材の如何なる部位によって,どのような状態にて「支持」しているかに関する具体的な構成は全く不明である。
(イ)取付け補助部材の室外側壁部において改修用下枠の室内寄りを「支持」することを想定することができるが,室外側壁部による「支持」は発明の詳細な説明記載の上壁部109による支持状態から逸脱しており,サポート要件を充足していない。
(ロ)取付け補助部材の上壁において改修用下枠の室内寄りを「支持」することを想定することができるが,取付け補助部材は(明細書に記載のない)逆L字型の形態による構成をも包摂し得るものであって,サポート要件を充足していない。
「このように,前記bの発明特定事項については前記(イ)の場合には,取付け補助部材における「支持」を行う部位との関係につき,同条同項同号のサポート要件違反が成立し,前記(ロ)の場合には,取付け補助部材の基本形態に関する構成において,同条同項同号のサポート要件違反が成立する。」
【無効理由2】(分割要件違反,特許法29条)
請求項1発明?同6発明は,取付け補助部材について,a要件及びb要件を要件としていることは上述のとおりである。取付け補助部材106の形態及び固着の関係については,原出願明細書と本件特許明細書の記載は全く同一である。
(1)a要件に関して
原出願発明においては,室内側案内レールが残存している場合に,取付け補助部材が室外側壁部107を介して,室内側案内レール115にビス110によって固着されている。
これに対し,a要件のように室内側案内レールが残存している場合であっても,取付け補助部材は背後壁とビスによって固着されており,当該固着状態は原出願の固着状態と相違している。
(2)b要件に関して
b要件によれば,
(イ)取付け補助部材の室外側壁部において改修用下枠の室内寄りを「支持」すること
(ロ)取付け補助部材の上壁において改修用下枠の室内寄りを「支持」すること
の双方を想定可能であるが,本件特許明細書においては,上記(イ)の場合には,取付け補助部材における「支持」を行う部位との関係において,発明の詳細な裏付けを伴っておらず,前記(ロ)の場合には,取付け補助部材の基本形態に関する構成において,発明の詳細な裏付けを伴っていないことは,無効理由1において明らかにしたとおりである。
「取付け補助部材106の形態及び固着の関係については,原出願明細書の記載と本件特許明細書の記載とが同一である以上,本件特許明細書における・・裏付けの欠如は,原出願における発明の詳細な説明との関係においても,必然的に妥当する。」
「全請求項発明は,改修用下枠の室内側寄りに対する「支持」につき,原出願明細書に記載されていない事項の技術範囲に及んでいるが故に,特許法第44条第1項分割出願要件を充足していない。」
本件特許出願が分割要件を充足していない以上,原出願日への遡及はあり得ず,請求項1発明?同6発明は,甲2(特開2003-328645号公報,本件の原出願である特願2003-62183号の公開公報)に記載されたもの又はそれに基づいて当業者が容易に発明ができたものであり,無効理由が成立する。

[証拠方法]
甲第1号証 特許第4839108号公報(本件特許公報)
甲第2号証 特開2003-328645号公報
更に,平成25年9月12日付け口頭審理陳述要領書において,審判請求書の無効理由1,2のうち,要件aに関する無効理由を取下げるとともに,要件bに関する無効理由より無効にすべきと主張した。

2.被請求人の主張
被請求人は,平成25年4月25日付けで答弁書を提出し,「本件審判請求は成り立たない,審判費用は,請求人の負担とする,との審決を求め」(答弁の趣旨),本件特許発明(請求項1?6)について,無効理由1,2は理由がない旨主張した。

第3.本件特許発明
本件特許発明は,明細書及び図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1?6に記載された次のとおりのもの(以下,「本件特許発明1」?「本件特許発明6」という。)と認める。

「【請求項1】
建物の開口部に取付けてあるアルミニウム合金の押出し形材から成る既設上枠,アルミニウム合金の押出し形材から成り室内側案内レールと室外側案内レールを備えた既設下枠,アルミニウム合金の押出し形材から成る既設竪枠を有する既設引戸枠を残存し,
前記既設下枠の室外側案内レールを付け根付近から切断して撤去し,前記既設下枠の室内寄りに取付け補助部材を設け,この取付け補助部材を既設下枠の底壁の最も室内側の端部に連なる背後壁の立面にビスで固着して取付け,
この後に,アルミニウム合金の押出し形材から成る改修用上枠,アルミニウム合金の押出し形材から成る改修用竪枠,アルミニウム合金の押出し形材から成り室外から室内に向かって上方へ段差を成して傾斜し,室外寄りが低く,室内寄りが室外寄りよりも高い底壁を備えた改修用下枠を有する改修用引戸枠を,前記既設引戸枠内に室外側から挿入し,その改修用下枠の室外寄りを,スペーサを介して既設下枠の室外寄りに接して支持すると共に,前記改修用下枠の室内寄りを前記取付け補助部材で支持し,前記背後壁の上端と改修用下枠の上端がほぼ同じ高さであり,
前記改修用下枠の前壁を,ビスによって既設下枠の前壁に固定することで,改修用引戸枠を取付け補助部材を基準として取付けることを特徴とする引戸装置の改修方法。
【請求項2】
建物の開口部に取付けてあるアルミニウム合金の押出し形材から成る既設上枠,アルミニウム合金の押出し形材から成り室内側案内レールと室外側案内レールを備えた既設下枠,アルミニウム合金の押出し形材から成る既設竪枠を有する既設引戸枠を残存し,
前記既設下枠の室外側案内レールを付け根付近から切断して撤去し,前記既設下枠の室内寄りに取付け補助部材を設け,この取付け補助部材を既設下枠の底壁の最も室内側の端部に連なる背後壁の立面にビスで固着して取付け,
この後に,アルミニウム合金の押出し形材から成る改修用上枠,アルミニウム合金の押出し形材から成る改修用竪枠,アルミニウム合金の押出し形材から成り室外から室内に向かって上方へ段差を成して傾斜し,室外寄りが低く,室内寄りが室外寄りよりも高い底壁を備えた改修用下枠を有し,前記改修用上枠の室外側部に室外側上枠シール材を装着すると共に,前記改修用引戸枠の改修用竪枠の室外側部に室外側竪枠シール材を装着した改修用引戸枠を,前記既設引戸枠内に室外側から挿入し,その室外側上枠シール材を建物の開口部の上縁部に接すると共に,前記室外側竪枠シール材を建物の開口部の縦縁部に接し,前記改修用下枠の室外寄りを,スペーサを介して既設下枠の室外寄りに接して支持すると共に,前記改修用下枠の室内寄りを前記取付け補助部材で支持し,前記背後壁の上端と改修用下枠の上端がほぼ同じ高さであり,
前記改修用下枠の前壁を,ビスによって既設下枠の前壁に固定することで,改修用引戸枠を取付け補助部材を基準として取付けることを特徴とする引戸装置の改修方法。
【請求項3】
建物の開口部に取付けてあるアルミニウム合金の押出し形材から成る既設上枠,アルミニウム合金の押出し形材から成り室内側案内レールと室外側案内レールを備えた既設下枠,アルミニウム合金の押出し形材から成る既設竪枠を有する既設引戸枠を残存し,
前記既設下枠の室外側案内レールを付け根付近から切断して撤去すると共に,室内側案内レールを切断して撤去し,前記既設下枠の室内寄りに取付け補助部材を設け,この取付け補助部材を既設下枠の底壁の最も室内側の端部に連なる背後壁の立面にビスで固着して取付け,
この後に,アルミニウム合金の押出し形材から成る改修用上枠,アルミニウム合金の押出し形材から成る改修用竪枠,アルミニウム合金の押出し形材から成り室外から室内に向かって上方へ段差を成して傾斜し,室外寄りが低く,室内寄りが室外寄りよりも高い底壁を備えた改修用下枠を有する改修用引戸枠を,前記既設引戸枠内に室外側から挿入し,その改修用下枠の室外寄りを,スペーサを介して既設下枠の室外寄りに接して支持すると共に,前記改修用下枠の室内寄りを前記取付け補助部材で支持し,前記背後壁の上端と改修用下枠の上端がほぼ同じ高さであり,
前記改修用下枠の前壁を,ビスによって既設下枠の前壁に固定することで,改修用引戸枠を取付け補助部材を基準として取付けることを特徴とする引戸装置の改修方法。
【請求項4】
建物の開口部に残存した既設引戸枠は,アルミニウム合金の押出し形材から成る既設上枠,アルミニウム合金の押出し形材から成り室内側案内レールと室外側案内レールを備えた既設下枠,アルミニウム合金の押出し形材から成る既設竪枠を有し,前記既設下枠の室外側案内レールは付け根付近から切断して撤去され,その既設下枠の室内寄りに取付け補助部材を設け,その取付け補助部材が既設下枠の底壁の最も室内側の端部に連なる背後壁の立面にビスで固着して取付けてあり,
この既設引戸枠内に,アルミニウム合金の押出し形材から成る改修用上枠,アルミニウム合金の押出し形材から成り室外から室内に向かって上方へ段差を成して傾斜し,室外寄りが低く,室内寄りが室外寄りよりも高い底壁を備えた改修用下枠,アルミニウム合金の押出し形材から成る改修用竪枠を有する改修用引戸枠が挿入され,
この改修用引戸枠の改修用下枠の室外寄りが,スペーサを介して既設下枠の室外寄りに接して支持されると共に,前記改修用下枠の室内寄りが,前記取付け補助部材で支持され,前記背後壁の上端と改修用下枠の上端がほぼ同じ高さであり,
前記改修用下枠の前壁が,ビスによって既設下枠の前壁に固定されていることを特徴とする改修引戸装置。
【請求項5】
建物の開口部に残存した既設引戸枠は,アルミニウム合金の押出し形材から成る既設上枠,アルミニウム合金の押出し形材から成り室内側案内レールと室外側案内レールを備えた既設下枠,アルミニウム合金の押出し形材から成る既設竪枠を有し,前記既設下枠の室外側案内レールは付け根付近から切断して撤去され,その既設下枠の室内寄りに取付け補助部材を設け,その取付け補助部材が既設下枠の底壁の最も室内側の端部に連なる背後壁の立面にビスで固着して取付けてあり,
この既設引戸枠内に,アルミニウム合金の押出し形材から成る改修用上枠,アルミニウム合金の押出し形材から成り室外から室内に向かって上方へ段差を成して傾斜し,室外寄りが低く,室内寄りが室外寄りよりも高い底壁を備えた改修用下枠,アルミニウム合金の押出し形材から成る改修用竪枠を有する改修用引戸枠が挿入され,
この改修用引戸枠の改修用下枠の室外寄りが,スペーサを介して既設下枠の室外寄りに接して支持されると共に,前記改修用下枠の室内寄りが,前記取付け補助部材で支持され,前記背後壁の上端と改修用下枠の上端がほぼ同じ高さであり,
前記改修用上枠の室外側部に室外側上枠シール材が装着され,この室外側上枠シール材は建物の開口部の上縁部に接し,
前記改修用竪枠の室外側部に室外側竪枠シール材が装着され,この室外側竪枠シール材は建物の開口部の縦縁部に接し,
前記改修用下枠の前壁が,ビスによって既設下枠の前壁に固定されていることを特徴とする改修引戸装置。
【請求項6】
建物の開口部に残存した既設引戸枠は,アルミニウム合金の押出し形材から成る既設上枠,アルミニウム合金の押出し形材から成り室内側案内レールと室外側案内レールを備えた既設下枠,アルミニウム合金の押出し形材から成る既設竪枠を有し,前記既設下枠の室外側案内レールは付け根付近から切断して撤去されていると共に,室内側案内レールは切断して撤去され,その既設下枠の室内寄りに取付け補助部材を設け,その取付け補助部材が既設下枠の底壁の最も室内側の端部に連なる背後壁の立面にビスで固着して取付けてあり,
この既設引戸枠内に,アルミニウム合金の押出し形材から成る改修用上枠,アルミニウム合金の押出し形材から成り室外から室内に向かって上方へ段差を成して傾斜し,室外寄りが低く,室内寄りが室外寄りよりも高い底壁を備えた改修用下枠,アルミニウム合金の押出し形材から成る改修用竪枠を有する改修用引戸枠が挿入され,
この改修用引戸枠の改修用下枠の室外寄りが,スペーサを介して既設下枠の室外寄りに接して支持されると共に,前記改修用下枠の室内寄りが,前記取付け補助部材で支持され,前記背後壁の上端と改修用下枠の上端がほぼ同じ高さであり,
前記改修用下枠の前壁が,ビスによって既設下枠の前壁に固定されていることを特徴とする改修引戸装置。」

第4.本件特許発明にかかる検討
請求人は,平成25年9月12日付け口頭審理陳述要領書において,審判請求書の無効理由1,2のうち,要件aに関する無効理由を取下げるとし,被請求人は,平成25年10月1日の口頭審理において,その取下げに同意している(第1回口頭審理調書参照)。そのため,無効理由1のうち要件bに関する無効理由(以下において,「無効理由1」という。)及び無効理由2のうち要件bに関する無効理由(以下において,「無効理由2」という。)を検討する。

1.無効理由1について(サポート要件違反)
(1) 本件と同じ特許権に対する無効審判請求事件の審決取消訴訟(平成24年(行ケ)第10418号事件)の判決は,
「特許制度は,明細書に開示された発明を特許として保護するものであり,明細書に開示されていない発明までも特許として保護することは特許制度の趣旨に反することから,特許法36条6項1号のいわゆるサポート要件が定められたものである。したがって,同号の要件については,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明の欄の記載によって十分に裏付けられ,開示されていることが求められるものであり,同要件に適合するものであるかどうかは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が発明の詳細な説明に記載された発明であるか,すなわち,発明の詳細な説明の記載と当業者の出願時の技術常識に照らし,当該発明における課題とその解決手段その他当業者が当該発明を理解するために必要な技術的事項が発明の詳細な説明に記載されているか否かを検討して判断すべきである。」と判示していおり、以下に、発明における課題とその解決手段その他当業者が当該発明を理解するために必要な技術的事項が発明の詳細な説明に記載されているか否かについて検討する。
(2) 「本件特許発明1」?「本件特許発明6」は,前記第3に記載のとおりであるところ,本件明細書には,次の内容の記載がある。
「【技術分野】
【0001】
本発明は,建物の壁に窓として設けられている既設引戸を改修用引戸に改修する引戸装置の改修方法,及び,その改修した改修引戸装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図15は従来の技術の改修用引戸装置1を示す鉛直断面図であり,図16は図15の切断面線VII-VIIから見た水平断面図である。経年変化によって老朽化した集合住宅などの建物は,リフォームとも呼ばれる改修工事の一環として,その建物に設けられる窓もまた,改修される。この窓は,集合住宅の場合,一棟に設けられる設置箇所数が多いため,改修作業の効率の向上が望まれている。」
「【0008】
上記の改修用下枠13,改修用竪枠14および改修用上枠15が,既設下枠5,既設竪枠7および既設上枠9にそれぞれ取付けられた後,下枠カバー材19が改修用下枠13の下枠補助材30にビス47によって固定され,竪枠カバー材18が改修用竪枠14の竪枠補助材37にビス48によって固定され,上枠カバー材17が改修用上枠15の上枠補助材43にビス49によって固定される。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このような従来の技術では,改修用下枠13が既設下枠5に載置された状態で既設下枠5に固定されるので,改修用下枠13と改修用上枠15との間の空間の高さ方向の幅H1が小さくなり,有効開口面積が減少してしまうという問題がある。
【0011】
また,改修用下枠13の下枠下地材30は既設下枠5の案内レール21,22上に直接乗載され,その案内レール21,22を基準として固定されているから前述の改修用下枠13と改修用上枠15との間の空間の高さ方向の幅H1がより小さくなり,有効開口面積が減少してしまうという問題がある。
【0012】
本発明の目的は,広い開口面積を確保することができる引戸装置の改修方法及び改修引戸装置を提供することである。」
「【発明の効果】
【0018】
請求項1?6記載の本発明によれば,既設下枠の室外側案内レールを切断して撤去したので,改修用下枠と改修用上枠との間の空間の高さ方向の幅が大きく,有効開口面積が減少することがなく,広い開口面積が確保できる。
また,既設下枠に室内寄りに取付補助部材を設けるとともに,この取付け補助部材を既設下枠の底壁の最も室内側の端部に連なる背後壁の立面にビスで固着して取付け,取付け補助部材を基準として改修用引戸枠を既設引戸枠に取付けるので,既設引戸枠の形状,寸法に応じた形状,寸法の取付け補助部材を用いることで,形状,寸法が異なる既設引戸枠に同一の改修用引戸枠を取付けできる。」
「【発明を実施するための最良の形態】
・・・
【0067】
図6は本発明の実施の他の形態の改修用引戸装置50bが設置された窓51の鉛直断面図で,図7は図6の切断面線B-Bから見た窓51の水平断面図である。・・・
【0069】
この実施の形態の既設下枠56,改修用下枠69,取付け補助部材106は前述の図1,図2に示す実施の形態の既設下枠56,改修用下枠69,取付け補助部材106とほぼ同様で,既設下枠56の背後壁104の上端部に室内68側に向かう横向片104aを有し,この横向片104aと改修用下枠69の支持壁89の上端が同一高さであること,改修用下枠69の室外73側部分に乾式の室外側下枠シール材300が室内68側に向けて装着され,この室外側下枠シール材300が既設下枠56の前壁102に圧接していることが大きく相違する。
【0070】
具体的には,既設下枠56の室外側案内レール114を図6の仮想線で示すように切断して撤去されている。この室外側案内レール114は全てを切断して撤去しても良いし,若干残して撤去しても良い。
取付け補助部材106は,その室外側壁部107が室内側案内レール115にビス110で固着して取付けられる。
改修用下枠69の支持壁89,室内側脚部分91が取付け補助部材106の上壁部109に支持され,底壁81の室外寄りがスペーサ301を介して既設下枠56の底壁103の室外寄りに支持され,ビス112で取付け補助部材106に固定される。」
「【0100】
また,図14に示すように,既設下枠56の室内側案内レール115を前述と同様に切断して撤去し,取付け補助部材106を既設下枠56の背後壁104にビス110で固着しても良い。
例えば,取付け補助部材106の室内側壁部108を既設下枠56の背後壁104にビス110で固着する。この場合には室外側壁部107に図示しないビス挿通孔を形成し,そのビス挿通孔からビス止めすることが好ましい。」
(3)上記(2)認定の本件明細書の記載によれば,本件特許発明1?6は,従来技術において,
(ア)改修用下枠が既設下枠に載置された状態で既設下枠に固定されるので,改修用下枠と改修用上枠との間の空間の高さ方向の幅が小さくなり,有効開口面積が減少してしまうという問題(以下「課題(ア)」という。),及び,
(イ)改修用下枠の下枠下地材は既設下枠の案内レール上に直接乗載され,その案内レールを基準として固定されるため改修用下枠と改修用上枠との間の空間の高さ方向の幅がより小さくなり,有効開口面積が減少してしまうという問題(以下「課題(イ)」という。)があったため,
これらの問題を,
1.既設下枠の室外側案内レールを切断して撤去する(以下「構成1」という。),
2.既設下枠の室内寄りに取付け補助部材を設けるとともに,この取付け補助部材を既設下枠の底壁の最も室内側の端部に連なる背後壁の立面にビスで固着して取り付け,改修用下枠の室内寄りを取付け補助部材で支持し,取付け補助部材を基準として改修用引戸枠を既設引戸枠に取り付ける(以下「構成2」という。)ことにより解決したものであり,
構成1を採ることにより,改修用下枠と改修用上枠との間の空間の高さ方向の幅が大きく,広い開口面積が確保でき,構成2を採ることにより,既設引戸枠の形状,寸法に応じた形状,寸法の取付け補助部材を用いることで,形状,寸法が異なる既設引戸枠に同一の改修用引戸枠を取付けできるという効果を奏するものであると認められる。
そして,本件明細書【0100】には,改修用下枠69の支持壁89,室内側脚部分91が取付け補助部材106の上壁部109に支持される場合における構成1及び2の具体的な構成(実施形態)が記載されている。
(4) 他方,本件特許の請求項1?6の文言に照らすと,本件特許発明1?6には,上記(3)(本件明細書【0100】,図14)に記載した,改修用下枠69の支持壁89,室内側脚部分91が取付け補助部材106の上壁部109に支持される構成のみならず,改修用下枠の室内寄りを取付け補助部材の室外側壁部において支持する構成A,及び,改修用下枠の室内寄りを逆L字型の形態とした取付け補助部材で支持する構成Bも含まれると解釈できるところ,本件明細書には,構成A及び構成Bを充足する実施形態は記載されていない。
しかしながら,上記(3)に説示したとおり,本件特許発明1?6において,課題(ア)及び(イ)を解決するためには,構成1及び2を採用すれば足り,改修用下枠の室内寄りを取付け補助部材のどの部分において支持するか,及び,改修用下枠の室内寄りをどのような形態とした取付け補助部材で支持するかは上記課題の解決には関係せず,取付け補助部材の上壁において改修用下枠の室内寄りを支持しなければ本件発明の効果を奏しないということもない。そして,当業者にとって,改修用下枠を支持するに際して,取付け用補助部材のどの部分で支持するか,取付け用補助の形状をどのようなものとするかは,課題に対応する効果には相異を生じさせるものではないから,当業者にとって適宜決定する設計的事項に過ぎないものであることを併せ考えると,当業者であれば,本件明細書の記載から,構成2とする際に,取付け補助部材の上壁において改修用下枠の室内寄りを支持する構成のほかに,改修用下枠の室内寄りを取付け補助部材の室外側壁部において支持する構成A,及び,改修用下枠の室内寄りを逆L字型の形態とした取付け補助部材で支持する構成Bも想定できるといえる。
以上のことから,本件明細書の発明の詳細な説明には,当業者において,特許請求の範囲に記載された本件特許発明1?6の課題とその解決手段その他当業者が本件発明を理解するために必要な技術的事項が記載されているものといえる。
したがって,本件特許発明1?6は,本件明細書において十分に裏付けられ,開示されているものと認められ,特許法36条6項1号のサポート要件違反とする無効理由1には理由がない。

2.無効理由2について(分割要件違反,特許法29条)
(1) 本件は,特願2003-62183号の一部を特許法44条1項の規定により新たな出願とした特願2006-74123号の出願に係る特許である。
そして,分割要件について,平成21年(行ケ)第10352号判決は,「特許法44条1項の要件を充足するためには,本件特許発明が原出願に係る当初明細書,特許請求の範囲及び図面に記載されているか否かを判断すれば足りる。」と判示しており,以下に,本件特許発明1?6が特願2003-62183号の願書に最初に添付した明細書(以下,「原出願当初明細書等」という。)に記載されているか検討する。
(2) 原出願当初明細書には,次の内容の記載がある。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,建物の壁に窓として設けられる既設引戸を改修するために好適に実施することができる改修用引戸装置に関する。
【0002】
【従来の技術】図15は従来の技術の改修用引戸装置1を示す鉛直断面図であり,図16は図15の切断面線VII-VIIから見た水平断面図である。経年変化によって老朽化した集合住宅などの建物は,リフォームとも呼ばれる改修工事の一環として,その建物に設けられる窓もまた,改修される。この窓は,集合住宅の場合,一棟に設けられる設置箇所数が多いため,改修作業の効率の向上が望まれている。」
「【0008】上記の改修用下枠13,改修用竪枠14および改修用上枠15が,既設下枠5,既設竪枠7および既設上枠9にそれぞれ取付けられた後,下枠カバー材19が改修用下枠13の下枠補助材30にビス47によって固定され,竪枠カバー材18が改修用竪枠14の竪枠補助材37にビス48によって固定され,上枠カバー材17が改修用上枠15の上枠補助材43にビス49によって固定される。」
「【0010】
【発明が解決しようとする課題】このような従来の技術では,改修用下枠13が既設下枠5に載置された状態で既設下枠5に固定されるので,改修用下枠13と改修用上枠15との間の空間の高さ方向の幅H1が小さくなり,有効開口面積が減少してしまうという問題がある。・・・
【0011】また,改修用下枠13の下枠下地材30は既設下枠5の案内レール21,22上に直接乗載され,その案内レール21,22を基準として固定されているから前述の改修用下枠13と改修用上枠15との間の空間の高さ方向の幅H1がより小さくなり,有効開口面積が減少してしまうという問題がある。
【0012】本発明の目的は,・・・広い開口面積を確保することができる改修用引戸装置を提供することである。」
「【発明の実施の形態】
・・・
【0072】図6は本発明の実施の他の形態の改修用引戸装置50bが設置された窓51の鉛直断面図で,図7は図6の切断面線B-Bから見た窓51の水平断面図である。・・・
【0074】この実施の形態の既設下枠56,改修用下枠69,取付け補助部材106は前述の図1,図2に示す実施の形態の既設下枠56,改修用下枠69,取付け補助部材106とほぼ同様で,既設下枠56の背後壁104の上端部に室内68側に向かう横向片104aを有し,この横向片104aと改修用下枠69の支持壁89の上端が同一高さであること,改修用下枠69の室外73側部分に乾式の室外側下枠シール材300が室内68側に向けて装着され,この室外側下枠シール材300が既設下枠56の前壁102に圧接していることが大きく相違する。
【0075】具体的には,既設下枠56の室外側案内レール114を図6の仮想線で示すように切断して撤去されている。この室外側案内レール114は全てを切断して撤去しても良いし,若干残して撤去しても良い。
【0076】取付け補助部材106は,その室外側壁部107が室内側案内レール115にビス110で固着して取付けられる。
【0077】改修用下枠69の支持壁89,室内側脚部分91が取付け補助部材106の上壁部109に支持され,底壁81の室外寄りがスペーサ301を介して既設下枠56の底壁103の室外寄りに支持され,ビス112で取付け補助部材106に固定される。」
「【0145】また,図14に示すように,既設下枠56の室内側案内レール115を前述と同様に切断して撤去し,取付け補助部材106を既設下枠56の背後壁104にビス110で固着しても良い。
【0146】例えば,取付け補助部材106の室内側壁部108を既設下枠56の背後壁104にビス110で固着する。この場合には室外側壁部107に図示しないビス挿通孔を形成し,そのビス挿通孔からビス止めすることが好ましい。」
(3)上記認定の原出願当初明細書等の記載によれば,原出願当初明細書等には,
従来技術において,
(ア)改修用下枠が既設下枠に載置された状態で既設下枠に固定されるので,改修用下枠と改修用上枠との間の空間の高さ方向の幅が小さくなり,有効開口面積が減少してしまうという問題,及び,
(イ)改修用下枠の下枠下地材は既設下枠の案内レール上に直接乗載され,その案内レールを基準として固定されるため改修用下枠と改修用上枠との間の空間の高さ方向の幅がより小さくなり,有効開口面積が減少してしまうという問題があったことに鑑み,
これらの問題を,
1.既設下枠の室外側案内レールを切断して撤去する(以下「構成1」という。),
2.既設下枠の室内寄りに取付け補助部材を設けるとともに,この取付け補助部材を既設下枠の底壁の最も室内側の端部に連なる背後壁の立面にビスで固着して取り付け,改修用下枠の室内寄りを取付け補助部材で支持し,取付け補助部材を基準として改修用引戸枠を既設引戸枠に取り付ける(以下「構成2」という。)
ことにより解決したものであり,
構成1を採ることにより,改修用下枠と改修用上枠との間の空間の高さ方向の幅が大きく,広い開口面積が確保でき,構成2を採ることにより,既設引戸枠の形状,寸法に応じた形状,寸法の取付け補助部材を用いることで,形状,寸法が異なる既設引戸枠に同一の改修用引戸枠を取付けできるという効果を奏するものであると認められる。
そして,原出願当初明細書には,改修用下枠69の支持壁89,室内側脚部分91が取付け補助部材106の上壁部109に支持される場合における構成1及び2の具体的な構成(実施形態)が記載されている。
以上により,本件特許発明1?6の構成のうちb要件(「改修用下枠の室内寄りを取付け補助部材で支持」すること(請求項1?3の場合),又は「改修用下枠の室内寄りが,取付け補助部材で支持」されること(請求項4?6の場合))は原出願当初明細書等に記載されており,本件特許発明1?6は特許法44条1項所定の要件を充足するものであるから,本件の出願日は原出願日へ遡及し,甲2(特開2003-328645号公報,本件の原出願である特願2003-62183号の公開公報)に記載されたもの又はそれに基づいて当業者が容易に発明ができたものとすることはできない。
よって,無効理由2は理由がない。

第5.むすび
以上のとおりであるから,本件特許は,無効理由1,2に理由がないから,請求人の主張及び証拠方法によっては,無効とすることができない。
審判に関する費用については,特許法169条2項の規定で準用する民事訴訟法61条の規定により,全額を請求人が負担すべきものとする。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-10-08 
結審通知日 2013-10-10 
審決日 2013-10-23 
出願番号 特願2006-74123(P2006-74123)
審決分類 P 1 113・ 113- Y (E06B)
P 1 113・ 121- Y (E06B)
P 1 113・ 537- Y (E06B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 赤木 啓二伊藤 昌哉住田 秀弘土屋 真理子  
特許庁審判長 伊藤 陽
特許庁審判官 吉村 尚
瀬津 太朗
登録日 2011-10-07 
登録番号 特許第4839108号(P4839108)
発明の名称 引戸装置の改修方法及び改修引戸装置  
代理人 七條 耕司  
代理人 佐藤 嘉明  
代理人 岩▲崎▼ 孝治  
代理人 赤尾 直人  
代理人 佐藤 嘉明  
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