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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1291857
審判番号 不服2012-6954  
総通号数 179 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-11-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-04-17 
確定日 2014-09-10 
事件の表示 特願2001-551472「脈管形成を抑制するためのエピガロカテキンガラートの使用」拒絶査定不服審判事件〔平成13年7月19日国際公開、WO01/051048、平成15年6月24日国内公表、特表2003-519654〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.出願の経緯
本願は、平成13年1月11日(パリ条約による優先権主張 2000年1月14日 アメリカ合衆国)を国際出願日とする特許出願であって、平成22年12月20日付けで拒絶理由が通知され、平成23年3月25日に意見書及び手続補正書が提出され、同年6月24日付けで拒絶理由が通知され、同年9月28日に意見書が提出され、平成24年1月26日付けで拒絶査定され、同年4月17日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

2.本願発明
本願の請求項1?10に係る発明は、平成23年3月25日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?10にそれぞれ記載されたとおりのものであり、そのうち請求項1に係る発明は以下のとおりである。

「エピガロカテキンガラート、エピカテキンガラートもしくはそれらの組合わせである有効量のカテキンを含有する、脈管形成(angiogenesis)に関連する異常(condition)を治療もしくは抑制するための組成物であって、前記異常が目のまわりの隈(undereye circles)である前記組成物。」

3.原査定の拒絶理由の概要
原査定の拒絶の理由は、「平成23年6月24日付け拒絶理由通知書に記載した理由1、2」であるが、当該理由1とは、「この出願は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。」というものである。
そして、平成23年6月24日付け拒絶理由通知書には、
「本願の請求項1-10に係る発明は、目の周りの隈に関するものであり、発明の詳細な説明において、本願の各請求項に規定の有効成分が、目の周りの隈の解消に有効であることの記載はあるものの、目の周りの隈の解消に有効であることは具体的実験例をもって示されておらず、具体的に示されている作用は、前記成分が脈管形成抑制作用を有することのみである。
ここで、本願出願時の技術常識を考慮すると、目の周りに隈は、目の周辺部で静脈血がうっ血した状態になること、メラニン色素の沈着、または、前記うっ血とメラニン色素の沈着が同時に起こることなどの原因で生じるものであって、前記原因は、脈管形成抑制作用によって解消するものではないから、発明の詳細な説明に示されている、脈管形成抑制作用に基づいて、目の周りの隈を解消できるとは認められない。」
と付記されている。

4.当審の判断
本願が、特許法等の一部を改正する法律(平成14年法律第24号)附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法第1条の規定による改正前の特許法(以下、単に「特許法」という。)第36条第4項に規定する要件を満たしているか否かについて、以下検討する。
(1)本願明細書の記載
ア.「脈管形成抑制におけるこれらの緑茶カテキンの使用は、その病理が血管の増殖、もしくは血液細胞の移行と関係する幅広い種々の異常の治療にカテキンを非常に有用にする。このような異常は、血管化固形ガン性腫瘍を含み、それは増殖組織として、その成長を支持するために血管を非常に頼みとする。このように、EGCG/ECG組成物は腫瘍性の成長を局所的に、もしくは全身的に治療する方法に持ちいられうる。さらに、EGCGおよび/またはECGはリウマチ様関節炎および乾癬のような慢性炎症性異常に起因する脈管形成を抑制するのに使用されうる。EGCG/ECG組成物は、さらに糖尿病性網膜症の治療に使用されうる。
好適な態様において、カテキンは脈管形成に関連する皮膚異常を治療するのに局所的に使用されうる。このような異常の例は、乾癬、アトピー性皮膚炎、接触性皮膚炎のような炎症性皮膚疾患、メラノーマまたは基底もしくは扁平上皮細胞癌のような皮膚ガン、クモ状静脈腫、および目のまわりの隈、を含む。局所的な使用において、活性カテキン成分は前述の量で、選択された賦形剤に添加され、そして約0.1mg/cm^(2)?2mg/cm^(2)皮膚の量で皮膚に付着される。異常に依存して、組成物は、異常が軽減されるときまで一時的な計画にもとづいて使用され得、または慢性の異常には、組成物は慢性的に使用され得、たとえば混合物を含有する組成物の安全で有効な量が、脈管形成に関連する異常の症状の進行を抑制するために、またはくり返えす異常を軽減するために使用される。すべての場合において、組成物の局所的使用は1回/週?約4?5回/日、好ましくは約3回/週?約3回/日、最も好ましくは約1?2回/日、実施されうる。「慢性」の使用は、ここでは、局所的使用の期間が使用者の生涯にわたることがあり得、好ましくは少なくとも約1ヶ月、もっと好ましくは約3ヶ月?約20年、もっと好ましくは約6ヶ月?約10年、なおもっと好ましくは約1年?約5年であり、治療は目のまわりのかげおよび隈、皮膚炎症、またはクモ状静脈腫のような異常の進行を抑制しうる。」(段落0005?0006)

イ.「実施例1
コラーゲンマトリックス上の内皮細胞の移行を抑制する緑茶カテキンの能力が「Boyden室」化学走性分析にならって設計された系で評価された。2つの室を分離する膜はコラーゲンTV型で被覆される。上部室はヒトの皮膚の微細血管内皮細胞(HMVEC-d,250000セル/ml)およびウシ血清アルブミンを充填される。下部室は血管内皮成長因子(VEGF,100ng/ml)および5%BSA(ウシ血清アルブミン)を含有する。0.001?1mg/mlの濃度でEGCG/ECGの組合わせ(77および23%)を含有する組成物が上部および下部室に添加され、37℃で6時間インキュベートされる;適切な賦形剤対照も同時に行なわれる。移行細胞の量がトリプシン化により膜表面に残る細胞を除去し、膜中に埋込まれた細胞を可溶化し、そして光学密度600nmで1%クリスタルバイオレットで分光光度計で定量化することにより測定される。その結果は表1に示されるように、EGCG/ECGが約0.01?1mg/mlの濃度で、使用量に依存して血管成長を抑制することを示す。
実施例2
受精鶏卵の漿尿膜(CAM)は、抗脈管形成活性の分析に適した血管ネットワークを付与することが示されている。緑茶カテキンの生体内活性を試験するために、受精した白色レグホンの卵が37℃で10日間インキュベートされ、48時間試験試料で処理され、そして対照に比較して脈管構造(……)の減少について評価される。4の日に、卵の先端に穴をあけ、そして再び密封された穴より卵白が除去される。この時に、四角形の窓が胚にわたって直接に殻に開けられ、テープで再密封される。10の日に、卵はインキュベーターから取除かれ、漿尿膜は血管特性を評価される;異常な、もしくは発育不十分な膜を有する卵は捨てられる。0.01?1mg/mlにわたる使用量の試験試料が13mmの丸いThermanoxカバーガラス上にピペット(40μl)で分注され、48時間インキュベーターにもどされる。48時間のインキュベート期間につづいて、卵のCAMは未処理の対照と比較して3つの基準について評価される:卵の生育可能性(……)、血管成長の防止を示す卵の数、および脈管構造の減少を示す領域の程度(たとえば、25?50%、50?75%、もしくは>75%)。フィトスフィンゴシンが正の対照として使用される(2.5mg/mlで100%抑制を示す)。表示はEGCG/ECGで観察された結果を示し、比較的高い濃度でEGCGが生体内で脈管形成を抑制することを示す。
表1
試料 使用量 脈管構造の減少を有する卵%
EGCG/ECG 1.0mg/ml 30%
(脈管構造の25?50%減少)
EGCG/ECG 0.5mg/ml 25%
(脈管構造の25?50%減少)
EGCG/ECG 0.01mg/ml 0%
フィトスフィンゴシン 2.5mg/ml 100%
(脈管構造の50?100%減少)」(段落0008?0009)

(2)特許法第36条第4項に規定する要件について
本願の請求項1に係る発明は、「脈管形成に関連する異常である目のまわりの隈を治療もしくは抑制するため」に使用する「EGCG、ECGもしくはそれらの組合わせである有効量のカテキンを含有する」組成物に関するものと認められる。
一方、本願明細書の発明の詳細な説明には、カテキンが「脈管形成に関連する異常である目のまわりの隈を治療もしくは抑制する」ことについては、摘示アに、「目のまわりの隈」が「脈管形成に関連する皮膚異常」の例のひとつとして他の種々の疾患とともに挙げられているにすぎず、摘示イの実施例においても、EGCG/ECGがインビトロで「血管成長を抑制する」こと(実施例1)及びインビボで「脈管形成を抑制する」ことを示すのみであって、「EGCG、ECGもしくはそれらの組合わせである有効量のカテキン」が、「脈管形成に関連する異常である目のまわりの隈を治療もしくは抑制する」ことについては具体的には何ら示されていない。
そして、EGCG/ECGが「脈管形成を治療もしくは抑制する」ことができるものであるとしても、脈管形成の抑制が直ちに目のまわりの隈の治療に有効であることは当業者に自明ではないことから、EGCG/ECGが「脈管形成を治療もしくは抑制する」ことを示すだけでは、本願請求項1に係る発明を実施することはできるとはいえない。
また、実施例(摘示イ)では、EGCG/ECGが新たな脈管形成の抑制に有効であることを示しているが、これらの実験はすでに形成された脈管(血管)を消失させるものではないことから、眼窩周囲に血管が新生されたことにより生じる「目のまわりの隈」を治療できることまでは示されていないものともいえる。
そうすると、本願明細書の発明の詳細な説明は当業者が請求項1に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではない。

5.請求人の主張について
請求人は、平成23年9月28日付け意見書において以下の主張をしている。
「当業者であれば、目の周りの(眼窩下の)領域における皮下血管系が目に見えることが目の周りの隈の原因の1つであると理解することができる。本願の実施例では、エピガロカテキンガラート(EGCG)/エピカテキンガラート(ECG)が脈管形成の抑制に有効であることが示されている。従って、EGCG、ECG、又はそれらの組み合わせは、目視可能な皮下血管系が原因である目の周りの隈を治療するのに有効である。
参考のため、Journal of Cosmetic Dermatology, 6, 211-215及びDermatol Surg 2009; 35: 1163-1171(参考資料1及び2)を本意見書に添付する。参考資料1及び2で引用されている多くの文献は、本願の出願日前のものであり、目の周りの隈の問題、その原因、及び治療法が数十年間にわたる社会的な関心事であることを示している。これらの文献は、個々の眼窩下領域における皮膚の高い透過性と皮下脂肪がほとんどない皮下の過度な血管増生との組み合わせが、目の周りの隈に関する原因のうちの1つであり、その組み合わせによって過剰な血管系の外観がもたらされ得ると開示している。
眼窩下の薄い皮膚を介して目視することができる過剰な血管新生が目の周りの黒い隈の原因の1つであろうとの長年の認識を考慮すれば、本願発明は本願の実施例により十分に裏付けられている。」

しかしながら、提示された参考文献1及び2はそれぞれ2007年及び2009年の文献であり、本願の出願後かなり経過してから発行されたものであるから、これらの文献の開示をもって本願出願時の技術水準を把握することはできない。
なお、請求人が主張するように、「眼窩下の薄い皮膚を介して目視することができる過剰な血管新生が目の周りの黒い隈の原因の1つ」であることが本願出願時の当業者の技術常識であり、そのことを考慮すれば、「本願発明は本願の実施例により十分に裏付けられている」といえるのであれば、平成23年1月11日付け拒絶理由通知書で指摘してあるとおり、引用文献1及び2に記載されているとおり、エピガロカテキンガラートやエピカテキンガラートが血管新生抑制作用を有していることは本願優先権主張日前に公知であったことからすると、当該技術常識に基づけば本願発明は引用文献1及び2の記載に基づいて当業者が容易に想到し得たものということもできる。
以上のことにかんがみ、請求人の主張は採用できない。
引用文献1.Nature, Vol.398, 1 April 1999, p.381
引用文献2.Free Radical Biology & Medicine, 1999, 27(suppl.1), s149, 456

6.むすび
以上のとおりであるから、本願は特許法第36条第4項に規定する要件を満たしておらず、特許を受けることができない。
したがって、他の理由について検討するまでもなく本願は拒絶をすべきである。
よって、上記結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-04-09 
結審通知日 2014-04-15 
審決日 2014-04-30 
出願番号 特願2001-551472(P2001-551472)
審決分類 P 1 8・ 536- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 前田 亜希  
特許庁審判長 松浦 新司
特許庁審判官 齋藤 恵
星野 紹英
発明の名称 脈管形成を抑制するためのエピガロカテキンガラートの使用  
代理人 田中 夏夫  
代理人 新井 栄一  
代理人 平木 祐輔  
代理人 藤田 節  

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