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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G06F
審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 取り消して特許、登録 G06F
管理番号 1292516
審判番号 不服2013-19718  
総通号数 179 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-11-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-10-10 
確定日 2014-11-04 
事件の表示 特願2008-165739「タッチパネルの押圧ポイントの走査検出装置及びその方法」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 7月 2日出願公開、特開2009-146383、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成20年6月25日(パリ条約による優先権主張2007年(平成19年)12月11日、台湾)の出願であって、平成25年6月12日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成25年10月10日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成25年10月10日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成25年10月10日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲について補正するものであり、請求項1を
「 タッチパネルの押圧ポイントの走査検出装置において、
複数の導電ストリップを有する第一導電層が形成されており、各々の導電ストリップが互いに平行しかつ互いに接触しておらず、かつ第一方向に沿って延伸されて第一端及び第二端を形成している第一基板と、
複数の導電ストリップを有する第二導電層が形成されており、各々の導電ストリップが互いに平行しかつ互いに接触しておらず、かつ第二方向に沿って延伸されて第一端及び第二端を形成しおり、前記第一基板とのあいだに複数の絶縁隔離ドットにより隔離されている第二基板と、
複数の駆動走査線を介して前記第一導電層の各々の導電ストリップとそれぞれ接続されている駆動走査回路と、
複数の感知走査線を介して前記第二導電層の各々の導電ストリップとそれぞれ接続されている走査感知回路と、
前記駆動走査回路及び前記走査感知回路に接続されているマイクロコントローラとを備え、
前記駆動走査回路は前記第一導電層の各々の導電ストリップをシーケンシャル駆動し、かつ前記駆動走査回路が前記第一導電層中の一つの導電ストリップをシーケンシャル駆動する時、前記走査感知回路により前記第二導電層の各々の導電ストリップに対してシーケンシャル走査感知を行うことにより前記タッチパネルの押圧位置を検出し、
前記第二導電層の前記導電ストリップの両端が、前記走査感知回路にのみ直接接続されており、
前記両端が接続された前記第二導電層の導電ストリップは、第一端側でシングルエンドシーケンシャル感知された後、第二端側でシングルエンドシーケンシャル感知されることを特徴とする、タッチパネルの押圧ポイントの走査検出装置。」
から
「 タッチパネルの押圧ポイントの走査検出装置において、
複数の導電ストリップを有する第一導電層が形成されており、各々の導電ストリップが互いに平行しかつ互いに接触しておらず、かつ第一方向に沿って延伸されて第一端及び第二端を形成している第一基板と、
複数の導電ストリップを有する第二導電層が形成されており、各々の導電ストリップが互いに平行しかつ互いに接触しておらず、かつ第二方向に沿って延伸されて第一端及び第二端を形成しおり、前記第一基板とのあいだに複数の絶縁隔離ドットにより隔離されている第二基板と、
複数の駆動走査線を介して前記第一導電層の各々の導電ストリップとそれぞれ接続されている駆動走査回路と、
複数の感知走査線を介して前記第二導電層の各々の導電ストリップとそれぞれ接続されている走査感知回路と、
前記駆動走査回路及び前記走査感知回路に接続されているマイクロコントローラとを備え、
前記駆動走査回路は前記第一導電層の各々の導電ストリップをシーケンシャル駆動し、かつ前記駆動走査回路が前記第一導電層中の一つの導電ストリップをシーケンシャル駆動する時、前記走査感知回路により前記第二導電層の各々の導電ストリップに対してシーケンシャル走査感知を行うことにより前記タッチパネルの押圧位置を検出し、
前記第二導電層の前記導電ストリップの両端が、前記走査感知回路にのみ直接接続されており、
前記両端が接続された前記第二導電層の導電ストリップは、第一端側と第2端側の両端ともシーケンシャル感知されることを特徴とする、タッチパネルの押圧ポイントの走査検出装置。」
に変更する補正事項を含むものである。

2.補正の適否
本件補正の上記補正事項は、補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された「第一端側でシングルエンドシーケンシャル感知された後、第二端側でシングルエンドシーケンシャル感知される」という文言を、「第一端側と第2端側の両端ともシーケンシャル感知される」という文言に変更するものである。
そして、その補正前後の文言の比較から明らかなように、上記補正事項は、「第一端側でのシングルエンドシーケンシャル感知」と「第二端側でのシングルエンドシーケンシャル感知」相互のタイミングに関する要件(「第一端側でのシングルエンドシーケンシャル感知」と「第二端側でのシングルエンドシーケンシャル感知」が順次に行われるという要件)を削除するものである。
したがって、上記補正事項は、特許請求の範囲を拡張するものであり、特許法第17条の2第5項第2号でいう「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものには該当しない。
また、上記補正事項が、特許法第17条の2第5項第1号でいう「請求項の削除」、同第3号でいう「誤記の訂正」、同第「明りょうでない記載の釈明」のいずれを目的とするものにも該当しないことは明らかである。
よって、上記補正事項を含む本件補正は、特許法第17条の2第5項の各号に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当せず、同法第17条の2第5項の規定に違反するものである。
したがって、本件補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明について

<本願請求項1に係る発明について>
1.本願発明
平成25年10月10日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1-6に係る発明は、平成25年1月23日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-6に記載された事項により特定されるものと認められるところ、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである。
「 タッチパネルの押圧ポイントの走査検出装置において、
複数の導電ストリップを有する第一導電層が形成されており、各々の導電ストリップが互いに平行しかつ互いに接触しておらず、かつ第一方向に沿って延伸されて第一端及び第二端を形成している第一基板と、
複数の導電ストリップを有する第二導電層が形成されており、各々の導電ストリップが互いに平行しかつ互いに接触しておらず、かつ第二方向に沿って延伸されて第一端及び第二端を形成しおり、前記第一基板とのあいだに複数の絶縁隔離ドットにより隔離されている第二基板と、
複数の駆動走査線を介して前記第一導電層の各々の導電ストリップとそれぞれ接続されている駆動走査回路と、
複数の感知走査線を介して前記第二導電層の各々の導電ストリップとそれぞれ接続されている走査感知回路と、
前記駆動走査回路及び前記走査感知回路に接続されているマイクロコントローラとを備え、
前記駆動走査回路は前記第一導電層の各々の導電ストリップをシーケンシャル駆動し、かつ前記駆動走査回路が前記第一導電層中の一つの導電ストリップをシーケンシャル駆動する時、前記走査感知回路により前記第二導電層の各々の導電ストリップに対してシーケンシャル走査感知を行うことにより前記タッチパネルの押圧位置を検出し、
前記第二導電層の前記導電ストリップの両端が、前記走査感知回路にのみ直接接続されており、
前記両端が接続された前記第二導電層の導電ストリップは、第一端側でシングルエンドシーケンシャル感知された後、第二端側でシングルエンドシーケンシャル感知されることを特徴とする、タッチパネルの押圧ポイントの走査検出装置。」

2.原査定の理由の概要
原査定の理由の概要は、次のとおりである。
「本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



刊行物1:特開2002-287901号公報
刊行物2:特開2000-1712441号公報
刊行物3:特開昭63-247820号公報

備考
互いに平行に導電ストリップを形成し対向させた押圧ポイントの操作検出装置(抵抗膜式タッチパネル)は、引用例1及び2にあるように従来周知なものに過ぎず、当該装置において絶縁隔離ドットを設けることも普通の技術に過ぎない。
なお、当該導電ストリップの両端部において駆動回路乃至感知回路に接続する態様に関しては、引用例3を参照のこと。

本願発明と刊行物1もしくは刊行物2記載の発明とは、主に第二導電層の導電ストリップ両端が(選択回路等を介さずに)走査感知回路にのみ直接接続されている点(相違点1)及び第二導電層の導電ストリップが第一端及び第二端でシングルエンドシーケンシャル感知される点(相違点2)で異なる。
上記相違点につき検討するに、まず相違点1については、出願人が従来技術として呈示している米国特許第5181030号明細書の図6等にもみられるように単なる周知技術に過ぎない。
また相違点2については、本願明細書段落【0027】にて「それぞれシーケンシャル走査あるいはダブルエンド同時走査を行う」のように併記して記載していることからもうかがえるように、いずれの走査方式を用いたとしてもその検知精度や速度に格段の違いは無く、またどのように走査を行うかは、必要に応じて適宜設計変更されることに過ぎず、本願明細書には、本願発明においてとりわけシングルエンドシーケンシャル感知を行ったことによって得られる効果について特段の記載は無いことから、相違点2に係る構成によってもたらされる格別顕著な効果を有意に認めることもできない。
そうとすると、本願発明は、先の拒絶理由通知で引用した引用例1乃至3に記載された発明、及び本願の従来技術にみられるような周知技術に基づいて当業者が容易になし得たというほかはない。」

3.当審の判断

(1)本願発明を「刊行物1記載に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができた発明」ということができるか否かについて

ア.刊行物1記載発明
原査定の拒絶の理由で引用された上記刊行物1には、以下の記載がある。
「 【0018】
[第2実施形態]
図4?図6に基づいて、本発明の入力装置の他の例として、マトリクス方式を用いたタッチパネルについて説明する。
図4は、本実施形態のタッチパネルの全体構造を示す分解斜視図であり、図5は、本実施形態のタッチパネルの全体構造を示す平面図である。図6は、本実施形態のタッチパネルの全体構造を示す断面図である。
なお、図5は、本実施形態のタッチパネルの下側基板と上側基板とを水平方向にずらし、上側基板側から見たときの平面図である。また、各図においては、各層や各部材を図面上で認識可能な程度の大きさとするため、各層や各部材毎に縮尺を異ならしめてある。
【0019】
図4?図6に示すように、本実施形態のタッチパネル100においては、下側基板101と上側基板102とが、所定の間隔をあけて対向配置され、熱硬化性樹脂に球状あるいは柱状のスペーサーが混入されたシール材などからなるシール107によって貼り合わされている。下側基板101は、ガラス基板であり、外側表面101aと端面101bとによって形成される角部101cと、内側表面101eと端面101bとによって形成される角部101dとが面取りされている。また、上側基板102は、強化ガラス基板であり、外側表面102aと端面102bとによって形成される角部102cと、内側表面102eと端面102bとによって形成される角部102dとが面取りされている。面取りは、例えば、グラインダーを用いて削る方法などによって行われる。
【0020】
また、図5および図6に示すように、下側基板101および上側基板102の内側表面101e、102eには、各々、少なくとも指やペン等により入力を行う範囲に対応して、下側透明電極105、上側透明電極106が帯状に複数本設けられている。下側透明電極105および上側透明電極106は、インジウム錫酸化物(ITO)等からなりものであり、互いに交差するように配置され、全体としてマトリクス状に配置するようにされている。
【0021】
また、図5に示すように、複数の下側透明電極105は配線81のそれぞれ接続され、複数の上側透明電極106は配線82にそれぞれ接続されている。また、各下側透明電極105および各上側透明電極106は、一方の透明電極を順番にスキャンして電圧を加え、他方の透明電極を順番にスキャンして電圧を検出する。
また、下側透明電極105が形成された下側基板101と、上側透明電極106が形成された上側基板102との間(下側透明電極105と上側透明電極106との間)には、図6に示すように、空気層13が挟持されている。また、下側透明電極105と上側透明電極106との間には、指やペン等による入力を行わない状態で、下側透明電極105と上側透明電極106とが接触しないように、スペーサー104が配置されている。スペーサー104は、エポキシ樹脂などを印刷することによって形成されたものであり、図6に示すように、下側透明電極105および上側透明電極106のパターンと重ならない位置に配置されている。
【0022】
なお、本実施形態においては、タッチパネル100の上側基板102側が入力者側、下側基板101側がタッチパネル100が備えられる表示装置側となっている。
【0023】
このようなマトリクス方式を用いたタッチパネル100では、入力者側から指やペン等により押圧することにより、マトリクス状に配置されている下側透明電極105と上側透明電極106とを接触させて、位置検出を行うことが可能な構造になっている。
ただし、本実施形態のタッチパネル100では、下側透明電極105と上側透明電極106とが交差した部分に対してのみ、位置検出を行うことが可能となっている。
【0024】
次に、本実施形態のタッチパネル100の位置検出の原理について簡単に説明する。
マトリックスタイプのタッチパネルでは、最初に上側基板の帯状透明電極の1本に電圧を加えて、下側電極の帯状透明電極を順番にスキャンしながら電圧を検出し、次に上側基板の次の帯状透明電極に電圧を加え、同様にスキャンしながら電圧を検出する。この時に、指やペンにより押圧されていた場合には、その上下基板が接触している帯状の上下電極をスキャンした所で電位が検出されるため、どこが押されているか検出することが出来る。」

そして、刊行物1の上記記載事項を刊行物1の関連図面と技術常識に照らせば、次のことがいえる。
(ア)刊行物1の[第2実施形態]に係る入力装置は、「タッチパネル100の押圧ポイントの走査検出装置」ともいい得るものである。
(イ)刊行物1の図4?6に示される「上側透明電極106」の層と「下側透明電極105」の層は、それぞれ、「第一導電層」、「第二導電層」と呼び得る。
(ウ)刊行物1の図4?6に示される「上側透明電極106」が刊行物1の段落【0021】でいう「一方の透明電極」(スキャンして電圧が加えられる電極)とされる場合について考えると、刊行物1の図5に示される「配線82」の先には、「各々の上側透明電極106とそれぞれ接続され、各々の上側透明電極106を順番に駆動する駆動走査回路」といい得る回路が当然に接続されており、同「配線81」の先には、「各々の下側透明電極105とそれぞれ接続され、各々の下側透明電極105に対して順番に走査感知を行う走査感知回路」といい得る回路が当然に接続されている。

以上のことと刊行物1の段落【0024】に記載される位置検出の原理とを踏まえると、刊行物1には、次の発明(以下、「刊行物1記載発明」という。)が記載されているといえる。
「 タッチパネル100の押圧ポイントの走査検出装置において、
複数の上側透明電極106を有する第一導電層が形成されており、各々の上側透明電極106が互いに平行しかつ互いに接触しておらず、かつ第一方向に沿って延伸されて第一端及び第二端を形成している上側基板102と、
複数の下側透明電極105を有する第二導電層が形成されており、各々の下側透明電極105が互いに平行しかつ互いに接触しておらず、かつ第二方向に沿って延伸されて第一端及び第二端を形成しており、前記上側基板102とのあいだに複数のスペーサー104により隔離されている下側基板101と、
複数の配線82を介して前記第一導電層の各々の上側透明電極106とそれぞれ接続されている駆動走査回路と、
複数の配線81を介して前記第二導電層の各々の下側透明電極105とそれぞれ接続されている走査感知回路と、
を備え、
前記駆動走査回路は前記第一導電層の各々の上側透明電極106を順番に駆動し、かつ前記駆動走査回路が前記第一導電層中の一つの上側透明電極106を順番に駆動する時、前記走査感知回路により前記第二導電層の各々の下側透明電極105に対して順番に走査感知を行うことにより前記タッチパネルの押圧位置を検出する、タッチパネルの押圧ポイントの走査検出装置。」

イ.対比
本願発明と刊行物1記載発明を対比すると、次のことがいえる。
(ア)刊行物1記載発明の「上側透明電極106」及び「下側透明電極105」は、本願発明の「導電ストリップ」に相当する。
(イ)刊行物1記載発明の「上側透明電極102」は、本願発明の「第一基板」に相当する。
(ウ)刊行物1記載発明の「下側透明基板101」は、本願発明の「第二基板」に相当する。
(エ)刊行物1記載発明の「複数のスペーサー104」と、本願発明の「複数の絶縁隔離ドット」とは、「複数の絶縁部材」である点で共通する。
(オ)刊行物1記載発明の「配線82」は、本願発明の「駆動走査線」に相当する。
(カ)刊行物1記載発明の「配線81」は、本願発明の「感知走査線」に相当する。
(キ)刊行物1記載発明の「順番に駆動」は、本願発明の「シーケンシャル駆動」に相当する。

したがって、本願発明と刊行物1記載発明の間には、次の一致点、相違点があるといえる。
(一致点)
「 タッチパネルの押圧ポイントの走査検出装置において、
複数の導電ストリップを有する第一導電層が形成されており、各々の導電ストリップが互いに平行しかつ互いに接触しておらず、かつ第一方向に沿って延伸されて第一端及び第二端を形成している第一基板と、
複数の導電ストリップを有する第二導電層が形成されており、各々の導電ストリップが互いに平行しかつ互いに接触しておらず、かつ第二方向に沿って延伸されて第一端及び第二端を形成しおり、前記第一基板とのあいだに複数の絶縁部材により隔離されている第二基板と、
複数の駆動走査線を介して前記第一導電層の各々の導電ストリップとそれぞれ接続されている駆動走査回路と、
複数の感知走査線を介して前記第二導電層の各々の導電ストリップとそれぞれ接続されている走査感知回路と、
を備え、
前記駆動走査回路は前記第一導電層の各々の導電ストリップをシーケンシャル駆動し、かつ前記駆動走査回路が前記第一導電層中の一つの導電ストリップをシーケンシャル駆動する時、前記走査感知回路により前記第二導電層の各々の導電ストリップに対してシーケンシャル走査感知を行うことにより前記タッチパネルの押圧位置を検出する、タッチパネルの押圧ポイントの走査検出装置。」である点。

(相違点1)
本願発明の「複数の絶縁部材」は「複数の絶縁隔離ドット」であるのに対し、刊行物1記載発明の「複数の絶縁部材」(複数のスペーサー104)は「複数の絶縁隔離ドット」と呼び得るものとは限らない点。

(相違点2)
本願発明は、「駆動走査回路及び走査感知回路に接続されているマイクロコントローラ」を備えるものとされているのに対し、刊行物1記載発明は「駆動走査回路及び走査感知回路に接続されているマイクロコントローラ」を備えるものとはされていない点。

(相違点3)
本願発明は、「第二導電層の導電ストリップの両端が、走査感知回路にのみ直接接続されており、
前記両端が接続された前記第二導電層の導電ストリップは、第一端側でシングルエンドシーケンシャル感知された後、第二端側でシングルエンドシーケンシャル感知される」という構成を有するのに対し、刊行物1記載発明はそのような構成を有しない点。

ウ.判断
(ア)(相違点1)について
刊行物1記載発明における「複数の絶縁部材」(複数のスペーサー104)が、「タッチパネルの非押圧時には「上側透明電極106」と「下側透明電極105」が相互に接触しないようにし、タッチパネルの押圧時には、その押圧箇所において「上側透明電極106」と「下側透明電極105」が相互に接触するようにするためのものであることや、そのような目的を達成し得る範囲で任意の形状のものとなされ得るものであることは、当業者に自明のことである。
また、上記目的が「複数の絶縁隔離ドット」と呼び得るもので達成可能であることも当業者に自明のことである。
してみれば、刊行物1記載発明の「複数の絶縁部材」(複数のスペーサー104)を「複数の絶縁隔離ドット」と呼び得るものとすることは、当業者が適宜なし得たことである。

(イ)(相違点2)について
以下の事情を総合すると、刊行物1記載発明において上記相違点2に係る本願発明の構成を採用することは、当業者が容易に推考し得たことというべきである。
a.刊行物1記載発明において「駆動走査回路」の動作と「走査感知回路」の動作の間にある種の連携が必要であることは、刊行物1記載発明の動作原理から当業者に自明のことであるから、刊行物1記載発明に「駆動走査回路」と「走査感知回路」とを統合して制御する何らかの制御回路を設けること自体は、当業者が普通に考えることである。
b.一方、複数の回路の統合制御を「マイクロコントローラ」と呼ばれる制御回路によって行うようにすることは、電気回路装置の技術分野における周知技術である。
c.そして、上記a.に示した事情に照らせば、上記b.に示した周知技術が刊行物1記載発明においても有用であることは、当業者に明らかであるから、刊行物1記載発明において上記b.に示した周知技術を採用することは、当業者が容易に推考し得たことである。
d.以上のことは、刊行物1記載発明において、上記相違点2に係る本願発明の構成を採用することが、当業者にとって容易であったことを意味している。

(ウ)(相違点3)について
以下の事情を総合すると、刊行物1記載発明において上記相違点3に係る本願発明の構成を採用することについては、当業者が容易に推考し得たこととはいえない。
a.上記相違点3に係る本願発明の構成が、本願優先日前に当業者に知られていたことを示す証拠はない(審査官が引用するいずれの文献も、上記相違点3に係る本願発明の構成を示すものではない。)から、上記相違点3を、「刊行物1記載発明において公知の構成を採用することで克服されるもの」ということはできない。
b.刊行物1記載発明を、上記相違点3に係る本願発明の構成を具備するように改変することに対する動機付けがあったことを示す証拠もない(審査官が引用するいずれの文献も、この点の動機付けの存在を示すものではない。)から、上記相違点3を「当業者が適宜採用し得た構成」ということもできない。
c.刊行物1記載発明を上記相違点3に係る本願発明の構成を具備するように改変することは、刊行物1記載発明の構成を複雑化させることにほかならないから、当業者が格別の動機付けなしにそのような改変を試みることは考えにくい。この意味においても、上記相違点3を「当業者が適宜採用し得た構成」ということはできない。
d.ほかに、刊行物1記載発明において上記相違点3に係る本願発明の構成を採用することが当業者にとって容易であったといえる理由を見出すことはできない。
e.刊行物1記載発明を上記相違点3に係る本願発明の構成を具備するように改変することが、刊行物1記載発明に複雑化をもたらすだけで何らのメリットをももたらさないことが明らかな場合には、上記相違点3の存在によって本願発明の進歩性を肯定することは妥当でないというべきかもしれないが、刊行物1記載発明において上記相違点3に係る本願発明の構成を採用した場合には、その構成から、(本願明細書に明示はないものの)「透明電極105、106の導電率の影響を低減できる」という効果(審査官が引用する刊行物3の[発明が解決しようとした問題点]の欄に記載されているのと同様の問題点の影響を低減できる効果)が当然に想定されるので、上記改変を、上記「何らのメリットをももたらさないことが明らかな場合」に該当するものということもできない。

(エ)まとめ
以上のとおりであるから、本願発明を「刊行物1記載発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができた発明」ということはできない。
また、刊行物1からは、上記刊行物1記載発明以上に本願発明に近似した発明を見出すことはできない。
したがって、本願発明を「刊行物1記載に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができた発明」ということはできない。

(2)本願発明を「刊行物2記載に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができた発明」ということができるか否かについて
刊行物2の段落【0025】?【0033】の記載を特に参照すれば、刊行物2にも、上記(1)で検討した刊行物1記載発明と同様の発明が記載されているといえる。
しかしながら、刊行物2には、刊行物1記載発明以上に本願発明に近似する発明は開示されておらず、刊行物2に記載された発明のうち本願発明に最も近似する発明と本願発明の間にも、上記(1)で検討した相違点3と同様の相違点は存在する。そして、その相違点の克服が容易であることを示唆する記載は刊行物2にも存在しない。
したがって、本願発明を「刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができた発明」ということもできない。

<本願請求項2、3に係る発明について>
本願請求項2、3に係る発明は、いずれも、上で検討した本願発明(本願請求項1に係る発明)が具備する要件の全てを要件として具備する発明であるから、本願発明と同様に、「刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができた発明」ということはできないし、「刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができた発明」ということもできない。

<本願請求項4?6に係る発明について>
本願請求項4に係る発明は、上で検討した本願発明(本願請求項1に係る発明)を「方法」の観点から表現し直したものであり、上で検討した本願発明と刊行物1記載発明との間の相違点3に係る本願発明の構成に対応する要件を要件として実質的に具備する発明である。
また、本願請求項5、6に係る発明は、本願請求項4に係る発明が具備する要件の全てを要件として具備する発明である。
したがって、本願請求項4?6に係る発明も、本願発明と同様に、「刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができた発明」ということはできないし、「刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができた発明」ということもできない。

<むすび>
以上のとおりであるから、本願の請求項1?6に係る発明は、「刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができた発明」ということはできないし、「刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができた発明」ということもできない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2014-10-17 
出願番号 特願2008-165739(P2008-165739)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G06F)
P 1 8・ 57- WY (G06F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 山崎 慎一  
特許庁審判長 乾 雅浩
特許庁審判官 千葉 輝久
小曳 満昭
発明の名称 タッチパネルの押圧ポイントの走査検出装置及びその方法  
代理人 家入 健  

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