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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1293023
審判番号 不服2013-13223  
総通号数 180 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-12-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-07-10 
確定日 2014-10-15 
事件の表示 特願2010-174949「イメージ捕捉レンズモジュール」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 4月21日出願公開,特開2011- 81350〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成22年8月4日(パリ条約による優先権主張2009年10月2日,米国)の出願であって,平成24年9月7日付けで拒絶理由が通知され,平成25年1月10日に意見書及び手続補正書が提出されたが,同年3月5日付けで拒絶査定がなされたところ,同年7月10日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出されたものである。
なお,審判請求人は,当審における平成25年11月8日付け審尋に対して,平成26年2月10日に回答書を提出している。


第2 補正却下の決定
〔補正却下の決定の結論〕
平成25年7月10日提出の手続補正書による手続補正を却下する。

〔理由〕
1 補正の内容
平成25年7月10日提出の手続補正書による手続補正(以下「本件補正」という。)は,平成25年1月10日提出の手続補正書による手続補正によって補正された(以下「本件補正前」という。)特許請求の範囲及び明細書について,次のとおりの補正をしようとするものである。
(1)特許請求の範囲に対して
ア 本件補正前
「【請求項1】
イメージ捕捉レンズモジュールであって,
被写体側からイメージ側に順に配置された第1レンズ素子と,第2レンズ素子と,第3レンズ素子とを有する第1複合レンズと,
被写体側からイメージ側に順に配置された第4レンズ素子と,第5レンズ素子と,第6レンズ素子とを有する第2複合レンズと,
前記第2複合レンズの後方に設置されたイメージセンサに用いられるカバーガラスと,からなり,
前記第1複合レンズと,前記第2複合レンズと,前記カバーガラスとは,被写体側からイメージ側に順に配置され,
次の関係式を満たすことを特徴とするイメージ捕捉レンズモジュール。
【数1】

である。
【請求項2】
前記第2レンズ素子と前記第5レンズ素子は,高屈折率のウェハレベル基板を含む請求項1に記載のイメージ捕捉レンズモジュール。
【請求項3】
前記ウェハレベル基板の屈折率は,1.6を超える請求項2に記載のイメージ捕捉レンズモジュール。
【請求項4】
前記第1レンズ素子の曲率半径は,正値であり,前記第3レンズ素子の曲率半径は,正値であり,前記第4レンズ素子の曲率半径は,負値であり,前記第6レンズ素子の曲率半径は,正値である請求項1に記載のイメージ捕捉レンズモジュール。
【請求項5】
前記第1レンズ素子は,近軸線(paraxial line)上の前記被写体側に向いた凸面を有する平凸レンズであり,
前記第2レンズ素子は,光学平行平面板(Optical-parallel plate)であり,
前記第3レンズ素子は,軸線上のイメージ側に向いた凹面を有する平凹レンズであり,
前記第4レンズ素子は,軸線上の前記被写体側に向いた凹面を有する平凹レンズであり,
前記第5レンズ素子は,光学平行平面板であり,且つ
前記第6レンズ素子は,軸線上の前記イメージ側に向いた凹面を有する平凹レンズである請求項1に記載のイメージ捕捉レンズモジュール。
【請求項6】
さらに次の関係式を満たすことを特徴とする請求項1に記載のイメージ捕捉レンズモジュール。
【数2】

である。
【請求項7】
イメージ捕捉レンズモジュールであって,
被写体側を向いた開口を有するプレートと,
被写体側からイメージ側に順に配置された第1レンズ素子と,第2レンズ素子と,第3レンズ素子とを有する第1複合レンズと,
被写体側からイメージ側に順に配置された第4レンズ素子と,第5レンズ素子と,第6レンズ素子とを有する第2複合レンズと,
前記第2複合レンズの後方に設置された,カバーガラスを有するイメージセンサと,からなり,
前記第1複合レンズと,前記第2複合レンズと,前記カバーガラスとは,被写体側からイメージ側に順に配置され,次の関係式を満たすことを特徴とするイメージ捕捉レンズモジュール。
【数3】

である。
【請求項8】
前記第1レンズ素子は,近軸線(paraxial line)上の前記被写体側に向いた凸面を有する平凸レンズであり,
前記第2レンズ素子は,光学平行平面板(Optical-parallel plate)であり,
前記第3レンズ素子は,近軸線上のイメージ側に向いた凹面を有する平凹レンズであり,
前記第4レンズ素子は,近軸線上の前記被写体側に向いた凹面を有する平凹レンズであり,
前記第5レンズ素子は,光学平行平面板であり,且つ
前記第6レンズ素子は,近軸線上の前記イメージ側に向いた凹面を有する平凹レンズである請求項7に記載のイメージ捕捉レンズモジュール。
【請求項9】
さらに次の関係式を満たすことを特徴とする請求項7に記載のイメージ捕捉レンズモジュール。
【数4】

である。
【請求項10】
さらに次の関係式を満たすことを特徴とする請求項9に記載のイメージ捕捉レンズモジュール。
【数5】



イ 本件補正後
「【請求項1】
イメージ捕捉レンズモジュールであって,
被写体側からイメージ側に順に配置された第1レンズ素子と,第2レンズ素子と,第3レンズ素子とを有する第1複合レンズと,
被写体側からイメージ側に順に配置された第4レンズ素子と,第5レンズ素子と,第6レンズ素子とを有する第2複合レンズと,
前記第2複合レンズの後方に設置されたイメージセンサに用いられるカバーガラスと,からなり,
前記第1複合レンズと,前記第2複合レンズと,前記カバーガラスとは,被写体側からイメージ側に順に配置され,
次の関係式を満たすことを特徴とするイメージ捕捉レンズモジュール。
【数1】

【請求項2】
前記第2レンズ素子と前記第5レンズ素子は,高屈折率のウェハレベル基板を含む請求項1に記載のイメージ捕捉レンズモジュール。
【請求項3】
前記ウェハレベル基板の屈折率は,1.6を超える請求項2に記載のイメージ捕捉レンズモジュール。
【請求項4】
前記第1レンズ素子の曲率半径は,正値であり,前記第3レンズ素子の曲率半径は,正値であり,前記第4レンズ素子の曲率半径は,負値であり,前記第6レンズ素子の曲率半径は,正値である請求項1に記載のイメージ捕捉レンズモジュール。
【請求項5】
前記第1レンズ素子は,近軸線(paraxial line)上の前記被写体側に向いた凸面を有する平凸レンズであり,
前記第2レンズ素子は,光学平行平面板(Optical-parallel plate)であり,
前記第3レンズ素子は,軸線上のイメージ側に向いた凹面を有する平凹レンズであり,
前記第4レンズ素子は,軸線上の前記被写体側に向いた凹面を有する平凹レンズであり,
前記第5レンズ素子は,光学平行平面板であり,且つ
前記第6レンズ素子は,軸線上の前記イメージ側に向いた凹面を有する平凹レンズである請求項1に記載のイメージ捕捉レンズモジュール。
【請求項6】
さらに次の関係式を満たすことを特徴とする請求項1に記載のイメージ捕捉レンズモジュール。
【数2】

【請求項7】
イメージ捕捉レンズモジュールであって,
被写体側を向いた開口を有するプレートと,
被写体側からイメージ側に順に配置された第1レンズ素子と,第2レンズ素子と,第3レンズ素子とを有する第1複合レンズと,
被写体側からイメージ側に順に配置された第4レンズ素子と,第5レンズ素子と,第6レンズ素子とを有する第2複合レンズと,
前記第2複合レンズの後方に設置された,カバーガラスを有するイメージセンサと,からなり,
前記第1複合レンズと,前記第2複合レンズと,前記カバーガラスとは,被写体側からイメージ側に順に配置され,次の関係式を満たすことを特徴とするイメージ捕捉レンズモジュール。
【数3】

【請求項8】
前記第1レンズ素子は,近軸線(paraxial line)上の前記被写体側に向いた凸面を有する平凸レンズであり,
前記第2レンズ素子は,光学平行平面板(Optical-parallel plate)であり,
前記第3レンズ素子は,近軸線上のイメージ側に向いた凹面を有する平凹レンズであり,
前記第4レンズ素子は,近軸線上の前記被写体側に向いた凹面を有する平凹レンズであり,
前記第5レンズ素子は,光学平行平面板であり,且つ
前記第6レンズ素子は,近軸線上の前記イメージ側に向いた凹面を有する平凹レンズである請求項7に記載のイメージ捕捉レンズモジュール。
【請求項9】
さらに次の関係式を満たすことを特徴とする請求項7に記載のイメージ捕捉レンズモジュール。
【数4】

【請求項10】
さらに次の関係式を満たすことを特徴とする請求項9に記載のイメージ捕捉レンズモジュール。
【数5】



(2)明細書に対して
ア 【0008】
(ア)本件補正前
【数1】

(イ)本件補正後
【数1】


イ 【0010】
(ア)本件補正前
【数2】

(イ)本件補正後
【数2】


ウ 【0015】
(ア)本件補正前
【数3】

(イ)本件補正後
【数3】


2 新規事項の追加及び補正の目的について
本件補正により請求項1及び請求項7,並びに,明細書の【0008】,【0010】,【0015】に付加された「N5>1.6」及び「v5<35」なる構成は,本願の願書に最初に添付された明細書(以下「当初明細書」という。)の【0020】の「一実施形態では,第2レンズ素子L20と第5レンズ素子L50とは,高屈折率のウェハレベル基板を含む。例えば,ウェハレベル基板の屈折率は,おおよそ1.6を超え,ウェハレベル基板のアッベ数は,35より小さい。」との記載に基づくものであり,当初明細書に記載された事項の範囲内においてなされた補正であるから,特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしている。
また,本件補正後の請求項1及び7に係る前記補正は,本件補正前の請求項1に記載された「第5レンズ素子の屈折率」及び「第5レンズ素子のアッベ数」という発明特定事項を限定するものであって,本件補正の前後で当該請求項1及び7に係る発明並びに当該請求項1又は7の記載を引用する形式で記載された請求項2ないし6,8ないし10に係る発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であると認められるから,特許法17条の2第5項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで,本件補正後の請求項1ないし10に係る発明(以下,請求項1ないし10に係る発明をそれぞれ「本願補正発明1」ないし「本願補正発明10」といい,これらをまとめて「本願補正発明」という。)について,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか)について以下に検討する。

3 独立特許要件について
独立特許要件として,原査定の拒絶の理由が本件補正によって解消されているのか否かを検討する。
(1)原査定の拒絶の理由と請求人の主張等
ア 平成24年9月7日付け拒絶理由通知
平成24年9月7日付けで通知された拒絶理由のうち,原査定の拒絶の理由とされた理由(以下「記載要件違反」という。)は次のとおりである。

「1.この出願は,特許請求の範囲の記載が下記の点で,特許法第36条第6項第1号,第2号に規定する要件を満たしていない。
また,この出願は,発明の詳細な説明の記載が下記の点で,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。


請求項1-10に係る発明は,レンズ系の発明であるが,レンズ系の発明においては,出願時に,その発明がなされたことを客観的に担保するものとしての,本願発明に該当する実施例として,レンズ系を構成する各面の曲率半径,間隔,屈折率等のレンズ諸元データと,そのレンズ諸元データに基づくレンズ構成を図示したレンズ構成図と,レンズ系の収差等の光学性能を示す収差図等からなる実施例を少なくとも一例,示す必要があるところ,本願の発明の詳細な説明には,上述した実施例はまったく記載されていない。
したがって,請求項1-10に係る発明は,発明の詳細な説明の記載によって実質的になにも裏付けられていないし,また,発明の詳細な説明には,当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたとはいえないし,さらに,発明の詳細な記載から,当業者が本願発明を明確に理解することができない。
・・・(中略)・・・
よって,請求項1-10に係る発明は,発明の詳細な説明に記載したものでない。
よって,請求項1-10に係る発明は明確でない。
よって,この出願の発明の詳細な説明は,当業者が請求項1-10に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。
よって,この出願の発明の詳細な説明は,請求項1-10に係る発明について,経済産業省令で定めるところにより記載されたものではない。」

イ 平成25年1月10日提出の意見書における請求人の主張
平成25年1月10日提出の意見書(以下,単に「意見書」という。)における,前記記載要件違反に対する請求人の主張は次のとおりである。

「3. 拒絶理由が解消していることの説明
(1) 拒絶理由1が解消していることの説明
レンズデータおよび他の詳細なレンズ条件に関して
明細書段落0011および0020に記載してあるように,本特許出願は1.6を越える高屈折率のウェハーレベル基板を用いて,光学的性能を維持しつつウェハーレベル実装されたレンズモジュールの厚みを小さくしたことに特徴があります。その結果,本発明のレンズモジュールの光学的長さは携帯電話等に搭載できるほど短いものにできます。本特許出願明細書段落0014から0022に記載されたレンズデータおよびレンズ条件を満たすレンズならば,段落0011に記載された技術的効果を必ず奏します。したがって,技術的範囲を画定する上で,さらに細かいレンズデータ等は必要ありません。特定の仕様に対するレンズデータおよびレンズ条件を与えることにより,審査官殿のような当業者が本発明の実施形態をさらに容易に理解できるようになります。しかし,特定の仕様に対するレンズデータを開示することは,特許法が要求している事項ではないはずです。
さらに,本特許出願図面の図2は,特定のレンズ配置を開示しています。本特許出願の明細書と図面は,本願発明を当業者が実施するのに必要な要件をすべて満たしていると出願人は思料します。
したがって,請求項1乃至10に係る発明は,発明の詳細な説明に明確かつ十分に記載されたものです。

請求項1,6,7,9および10中の式に関して
本願発明は,明細書段落0005で引用している特願2008-287006に比べて,優れた特徴を有する。本願発明と特願2008-287006との違いは,本願が有する特徴である,N2>1.6,v2<35,|N2?N1|<0.1および|N3-N2|<0.1の組み合わせとN5>1.6,v5<35,|N5-N4|>0.1および|N6-N5|>0.1の組み合わせです。他の式の技術的意義は,特開2008-287006の明細書段落0038および0039に記載されていますし,当業者には周知のことです。これら2つの組み合わせは,N2>1.6およびN5>1.6という条件によって必要になったものであり,その技術的意義は本明細書の段落0011に記載されています。
さらに,本明細書は不特定の人を対象として起案されたものではなく,当業者を対象として起案されたものであるから,記載されていなくても当業者が当然にわかる詳細については省いてあります。したがって,各条件式を満足することによる技術上の意義は当業者ならば当然に理解することができます。
したがって,発明の詳細な説明に関する審査官殿の判断は,出願人に対し本来必要でない義務を出願人に課すものであり,拒絶理由とするのは不当です。
・・・(中略)・・・
以上より,請求項1乃至10に係る発明は,明確であり,発明の詳細な説明に記載したものである。また,発明の詳細な説明は,請求項1乃至10に係る発明について,経済産業省令で定めるところにより記載されたものです。
よって,拒絶理由1は解消していると思料いたします。」

ウ 拒絶査定の概要
原査定は,前記記載要件違反を拒絶の理由とするものであって,その「備考」欄には,意見書における前記請求人の主張に対して,次のとおりの判断が示されている。

(ア)意見書の「レンズデータおよび他の詳細なレンズ条件に関して」の欄における請求人の主張に対して
「レンズ系の技術分野においては,レンズ系を構成するレンズの曲率半径,面間隔,枚数,屈折率,アッベ数及び非球面係数等といった光学特性の差異により,収差等の得られる光学性能が大きく異なることが技術常識である。
ここで,本願発明の課題を解決する具体的手段として発明の詳細な説明に開示されている事項は,レンズ系における各レンズの慨略形状や配置,一部のレンズ材料の例示のみであり,光学系の具体的なレンズデータ等については,なんら開示されていない。とすると,上記技術常識を鑑みれば,発明の詳細な説明の段落【0014】-【0022】に記載されたレンズ構成,レンズ条件等を満たすレンズ系であれば,段落【0011】に記載された技術的効果を必ず奏するものであるとはいえないことは明らかであり,そのような説明のみをもって,本願の課題を解決する発明を実施することが可能であるとは認められないし,また,当業者が本願の課題を解決する発明を明確に理解することができるとは認められない。」

(イ)意見書の「請求項1,6,7,9および10中の式に関して」の欄における請求人の主張に対して
「上記主張について,本願発明である請求項に特定されている各条件式について,発明の詳細な説明において,当該条件式の作用,効果等についてなんら説明がなされていないとすると,当業者が本願発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が記載されているとは認められない。」

エ 審判請求書における請求人の主張
審判請求書の【請求の理由】の欄における請求人の主張は次のとおりである。

「4-2 本願発明が拒絶理由に該当しないことの説明
(1) 拒絶査定は,本願明細書は本願発明の課題を解決する手段として,「光学系の具体的なデータ等については,何ら開示していない」と指摘している。しかしながら,本願明細書では,本願発明のイメージ捕捉レンズモジュールを構成する第2レンズ素子および第5レンズ素子については,屈折率およびアッベ数の範囲を,第1レンズ素子?第6レンズ素子については,それらが満たすべき具体的な関係式を規定している。本願発明のイメージ捕捉レンズモジュールを構成する第1複合レンズおよび第2複合レンズの基板である,第2レンズ素子および第5レンズ素子の屈折率は,ともに1.6よりも大きく,極めて大きい。このように大きな屈折率を有する基板を用いることによって,カメラモジュールの厚みを小さくすることが可能になっていることが当業者ならば当然にわかることである。
本願発明は,明細書段落0005で引用している特願2008-287006に比べて,優れた特徴を有する。本願発明と特願2008-287006との違いは,本願が有する特徴である,N2>1.6,v2<35,|N2?N1|<0.1および|N3-N2|<0.1の組み合わせとN5>1.6,v5<35,|N5-N4|>0.1および|N6-N5|>0.1の組み合わせです。他の式の技術的意義は,特開2008-287006の明細書段落0038および0039に記載されていますし,当業者には周知のことです。これら2つの組み合わせは,N2>1.6およびN5>1.6という条件によって必要になったものであり,これら2つの組み合わせによって,本明細書の段落0011に記載されているように,レンズモジュールの光路長を短くしても高い光学性能を維持することが可能になっている。
さらに,本明細書は不特定の人を対象として起案されたものではなく,当業者を対象として起案されたものであるから,当業者が技術常識に基づいて当然にわかる詳細については省いてあります。したがって,各条件式を満足することによる技術上の意義は当業者ならば当然に理解することができます。
(2)これらの本願発明のイメージ捕捉レンズモジュールの光学系の具体的データに加え,明細書が開示する,レンズ系における各レンズの概略形状,配置,レンズ材料を考慮すれば,本願発明のイメージ捕捉レンズが,厚みが制限された携帯電子機器等のカメラモジュールに用いることができ,しかも十分な光学性能を有することがわかる。
したがって,本願明細書は本願発明の課題を解決する手段として,イメージ捕捉レンズモジュールを構成する第1複合レンズおよび第2複合レンズの概略形状,配置,レンズ材料だけでなく,「段落[0011]に記載された技術的効果を必ず奏する」ことが理解できる十分に具体的なレンズデータを開示している。であるから当業者が本願明細書を読めば,本願の課題を解決する発明を明確に理解できるはずである。
(3)また,明細書が開示する関係式の技術上の意義は,以上の説明から当業者は技術常識に基づき当然に理解できるはずである。
(4)以上より,本願明細書の発明の詳細な説明の記載は,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしており,拒絶査定の指摘は不当である。」

オ 平成25年11月8日付け審尋の概要
平成25年11月8日付け審尋は,特許をすべき旨の査定ができない旨報告する平成25年9月25日付け前置報告書(以下単に「前置報告書」という。)の内容についての請求人の意見を求めたものであって,当該審尋に記載した前記前置報告書における審査官の見解は次のとおりである。

「請求項1についての補正は限定的減縮を目的としている。この場合,補正後の請求項1に係る発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならない。しかしながら,請求項1に係る発明は,下記の理由により独立して特許を受けることができない。

当該補正後の請求項1に係る発明について,その実施例として,図2に概略図が記載され,段落【0020】には,各レンズ素子の曲率半径が,正値であるか負値であるか等については記載されているものの,発明の詳細な説明には,その具体的な設計値(レンズデータ)は記載されていない。
これに対して,審判請求人は,【請求の理由】において,明細書が開示する各レンズの概略形状,配置,レンズ材料を考慮すれば,本願補正発明のイメージ捕捉レンズモジュールが,厚みが制限されたカメラモジュールに用いることができ,しかも十分な光学系能を有することがわかるから,十分に具体的なレンズデータを開示している旨,主張している。
しかしながら,一般に,レンズ系の具体的な設計においては,レンズの枚数,各レンズ面の曲率半径,レンズ面間隔,屈折率,アッベ数等の多数の要素を有し,各要素を調整して,収差などのレンズ系の性能を確認しながら,数多くの試行錯誤を繰り返して,1つのレンズ系の設計が完成するものであることが,当業者の技術常識である。
この技術常識を踏まえると,上記各要素のうちの一部の要素を開示しただけの発明の詳細な説明の記載を参照しても,当業者が過度の試行錯誤を行うことなく,本願補正発明のイメージ捕捉レンズモジュールを具体的に設計して,請求項1に係る発明を実施することができるとは到底認められない。
したがって,本願の発明の詳細な説明は,当業者が請求項1に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。

次に,請求項1および対応する発明の詳細な説明の記載記載箇所には,本願補正発明であるイメージ捕捉レンズモジュールが,請求項1に記載の各条件式を満足することが規定されているが,発明の詳細な説明において,当該条件式を満足することによる作用,効果等の説明はされていない。
これに対して,審判請求人は,【請求の理由】において,各条件式の技術的な意義は,当業者には周知のこと,当業者が技術常識に基づいて当然にわかることであるから,各条件式を満足することによる技術上の意義は当業者ならば当然に理解することができる旨,主張している。
しかしながら,請求項1に特定されている各条件式について,当該条件式を満足することの技術上の意義が,当業者が技術常識に基づいて当然わかる事項であるとはいえず,本願の発明の詳細な説明において,当該条件式を満足することによる作用,効果等についてなんら説明がされていないとすると,当業者が請求項1に係る発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が記載されているとは認められないから,審判請求人の主張は採用できない。
したがって,この出願の発明の詳細な説明は,請求項1に係る発明について,経済産業省令で定めるところにより記載されたものではない。

以上のように,この出願は特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないため,当該補正後の請求項1に係る発明は,特許出願の際独立して特許を受けることができない。

よって,この補正は同法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
そして,この出願は原査定の理由に示したとおり拒絶されるべきものである。」

カ 平成26年2月10日提出の回答書における請求人の意見
平成26年2月10日提出の回答書(以下,単に「回答書」という。)における,前記前置報告書の内容についての請求人の意見は次のとおりである。

(ア)「本願の発明の詳細な説明は,当業者が請求項1に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。」とする審査官の見解に対して
「(3-1)理由(a)に関して
本願明細書は,本願発明のイメージ捕捉レンズモジュールを構成する第1?第6レンズ素子については,これらが満たすべき具体的な関係式を開示しており,第2レンズ素子および第5レンズ素子については,屈折率(N2,N5)およびアッベ数(v2,v5)の特定の範囲を規定しています(段落0008,0010,0015,0020参照)。
第2レンズ素子および第5レンズ素子は,それぞれ本願発明のイメージ捕捉レンズモジュールを構成する第1複合レンズおよび第2複合レンズのウエハレベル基板であり,1.6を超える極めて大きい屈折率を有しています。このような大きな屈折率を有する基板を用いることによって,本願発明のイメージ捕捉レンズモジュールが適用されるカメラモジュールの厚みを小さくできることは,当業者ならば当然にわかることであります。
また,本願明細書は当業者を対象として起案されたものであるので,当業者が技術常識として当然にわかる詳細についてはその記載を省略してあります。すなわち,本願の発明の詳細な説明は,要求されるレンズ系を設計するのに必要とされる多数の要素のうちの一部の要素のみを明示しており,当業者が技術常識として考慮し得る他の要素については特に開示しておりません。
したがって,本願の発明の詳細な説明に,任意のレンズ系を設計するのに必要な全ての要素についての具体的な設計値(レンズデータ)が記載されていないとしても,本願明細書が開示するレンズ系における各レンズの概略形状,配置,レンズ材料(段落0014?0022参照)と当業者の技術常識とを考慮すれば,本願発明のイメージ捕捉レンズモジュールを具体的に設計して,厚みが制限されたカメラモジュールに用いることができることは,当業者には当然に理解できるはずです。
すなわち,本願明細書は,本願発明の課題を解決する手段として,イメージ捕捉レンズモジュールを構成する各レンズの概略形状,配置,レンズ材料だけでなく,段落0011に記載された技術的効果を奏することが当業者には理解できる程度に十分に具体的なレンズデータを開示しています。
したがって,本願の発明の詳細な説明は,当業者が請求項1に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであります。」

(イ)「この出願の発明の詳細な説明は,請求項1に係る発明について,経済産業省令で定めるところにより記載されたものではない。」とする審査官の見解に対して
「(3-2)理由(b)に関して
本願発明は,本願明細書の段落0005で引用している特開2008-287006号公報(特許文献1)に記載されたものと比べて,優れた特徴を有しています。本願発明は,特許文献1に記載されたものとは,本願発明を特徴付ける上記関係式のうち,N2>1.6,v2<35,|N2-N1|<0.1および|N3-N2|<0.1の組み合わせと,N5>1.6,v5<35,|N5-N4|>0.1および|N6-N5|>0.1の組み合わせとにおいて相違しています。他の式の技術的意義は,特許文献1の明細書の段落0038および0039に記載されています。
上記の2つの組み合わせは,N2>1.6およびN5>1.6という条件によって必要になったものであり,これら2つの組み合わせによって,本願明細書の段落0011に記載されているように,レンズモジュールの光路長を短くしても高い光学性能を維持することが可能になっています。
さらに,上述したように本願明細書は当業者を対象として起案されたものであるので,当業者が技術常識として当然に理解し得る事項については記載を省いてあります。したがって,当業者であれば,本願明細書の開示内容と当業者の技術常識とに基づいて,上記の各条件式を満足することによる技術上の意義は当然に理解することができます。
すなわち,本願明細書は,当業者が請求項1に係る発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を開示しています。
したがって,本願の発明の詳細な説明は,請求項1に係る発明について,経済産業省令で定めるところにより記載されたものであります。」

(2)本願明細書及び図面の記載
ア 本件補正後の本願明細書には,次の記載がある。

(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は,イメージ捕捉レンズモジュールに関し,特に,ウェハレベル実装されるイメージ捕捉レンズモジュールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
高解像度の電子イメージセンサを用いたデジタルカメラは,一般的に高解像度の光学素子,例えばイメージ捕捉レンズモジュールを必要とする。携帯電子機器のカメラモジュールの設計と製造は,非常に挑戦的なものである。いくつかの普遍的な要因は,高生産量,一定の価格低下,サイズ制限と変化,性能と機能要求を含む。
【0003】
撮像装置上に場面の焦点を合わせるデジタルカメラモジュールのイメージ捕捉レンズは,デジタルカメラモジュール上にわずか1つのレンズ,またはメガピクセル解像度を用いたデジタルカメラモジュール上に4つものレンズを有することができる。一般的に,レンズは,コスト削減のためにプラスチックである。しかし,高品質のデジタルカメラは,しばしばその優れた光学特性により第1レンズにガラスを用いる。
【0004】
高温下での収差補正,短光路長,確保されたバックフォーカス,安定した光学性能を有する撮像レンズが公開されている(特許文献1参照)。図1は,従来の撮像レンズの構造を示す概略図である。図1を参照下さい。撮像レンズは,第1絞り(diaphragm)S1,第1接合型複合レンズ10,第2絞りS2と,第2接合型複合レンズ20を含み,全ての構造は被写体側からイメージ側に順に配置される。第1接合型複合レンズ10は,被写体側からイメージ側に順に配置された第1レンズL1と,第2レンズL2と,第3レンズL3とを含む。第2接合型複合レンズ20は,被写体側からイメージ側に順に配置された第4レンズL4と,第5レンズL5と,第6レンズL6とを含む。カバーガラス30は,第2接合型複合レンズ20とイメージセンサ素子40の間に挿入される。従来,撮像レンズは,ウェハレベル実装技術を用いて実装される。しかし,ウェハレベル実装技術を用いて実装されるとき,従来の撮像レンズは,例えば,基板とレンズの複製プロセスの制限と,光学中心のアライメント精度などの問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008-287006号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ウェハレベル実装されるイメージ捕捉レンズモジュールを提供する。」

(イ)「【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の特徴は,被写体側からイメージ側に順に配置された第1レンズ素子と,第2レンズ素子と,第3レンズ素子とを有する第1複合レンズ,被写体側からイメージ側に順に配置された第4レンズ素子と,第5レンズ素子と,第6レンズ素子とを有する第2複合レンズと,第2複合レンズの後方に設置されたイメージセンサを保護するカバーガラスと,を含むイメージ捕捉レンズモジュールを提供し,第1複合レンズと,第2複合レンズと,カバーガラスとは,被写体側からイメージ側に順に配置され,以下の関係式が満たされるということである。
【0008】
【数1】

【0009】
本発明の実施形態は,被写体側に向いた開口を有するプレートと,被写体側からイメージ側に順に配置された第1レンズ素子と,第2レンズ素子と,第3レンズ素子とを有する第1複合レンズと,被写体側からイメージ側に順に配置された第4レンズ素子と,第5レンズ素子と,第6レンズ素子とを有する第2複合レンズと,第2複合レンズの後方に設置された,カバーガラスを有するイメージセンサを含むイメージ捕捉レンズモジュールとを更に提供し,開口と,第1複合レンズと,第2複合レンズと,カバーガラスとは,被写体側からイメージ側に順に配置され,以下の関係式を満たす。
【0010】
【数2】

【発明の効果】
【0011】
ウェハレベル実装された撮像レンズモジュールの高さを低下させるために,高屈折率の基板(例えば,1.6を超える屈折率)が用いられ,高い光学性能が維持されている。よって,レンズモジュールの光路長は,携帯電話などに組み込まれるのに十分短くすることができる。よって,イメージ捕捉レンズモジュールの高さを低下させた。光学性能である,例えば,スルーフォーカスMTF@120本/mm,周辺光量(relative illumination),縦収差,および横方向色(lateral color)が向上する。」

(ウ)「【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明についての目的,特徴,長所が一層明確に理解されるよう,以下に実施形態を例示し,図面を参照にしながら,詳細に説明する。
【0014】
図2は,本発明のイメージ捕捉レンズモジュールの実施形態にかかる積層型複合レンズの構造を示す概略図である。図2を参照するとわかるように,VGA級の解像度を有するイメージ捕捉レンズモジュール100は,被写体側に向いた開口を有するプレート110を含む。第1複合レンズ120は,被写体側からイメージ側に順に配置された第1レンズ素子L10と,第2レンズ素子L20と,第3レンズ素子L30とを含む。第2複合レンズ130は,被写体側からイメージ側に順に配置された第4レンズ素子L40と,第5レンズ素子L50と,第6レンズ素子L60とを含む。イメージセンサ150は,第2複合レンズ130の後方に設置されたカバーガラス140を有する。一つの実施形態では,プレート110と,第1複合レンズ120と,第2複合レンズ130と,カバーガラス140とは,被写体側からイメージ側に順に配置され,以下の関係式を満たす。
【0015】
【数3】

【0016】
もう1つの実施形態では,以下の関係式が更に満たされる。
【0017】
【数4】

【0018】
また,以下の関係式が更に満たされる。
【0019】
【数5】

【0020】
一実施形態では,第2レンズ素子L20と第5レンズ素子L50とは,高屈折率のウェハレベル基板を含む。例えば,ウェハレベル基板の屈折率は,おおよそ1.6を超え,ウェハレベル基板のアッベ数は,35より小さい。本発明の実施例では,第2レンズ素子L20と第5レンズ素子L50のウェハレベル基板は,重ランタンフリント(lanthanum dense flint;LaSF),ランタンフリント(lanthanum flint;LaF),重バリウムフリント(barium dense flint;BaSF),フリント(flint;F)または他の適合する光学材料製とすることができる。第1,第3,第4と,第6レンズ素子は,例えば透明硬化性シリコン樹脂,または熱硬化性樹脂材料などの紫外線硬化材料を含む。第1レンズ素子L10の曲率半径は,正値であり,第3レンズ素子L30の曲率半径は,正値であり,第4レンズ素子L40の曲率半径は,負値であり,第6レンズ素子L60の曲率半径は,正値である。例えば,第1と第3レンズ素子L10,L30は,第2レンズ素子L20の両側にアレイ形式で製造されることができる。第4と第6レンズ素子L40,L60は,第5レンズ素子L50の両側にアレイ形式で製造されることができる。第1レンズ素子と,第3レンズ素子と,第4レンズ素子と,第6レンズ素子とは,モールド成形,または例えばリソグラフィーなどの他の技術によって形成することができる。第1レンズ素子と第3レンズ素子,および,第4と第6レンズ素子は,それぞれ第2レンズ素子および第5レンズ素子の上にそれぞれ直接形成するか,または接着層によって間接的に接合することができる。
【0021】
また,第1レンズ素子の被写体側と第3レンズ素子のイメージ側とは,非球面であり,第4レンズ素子の被写体側と第6レンズ素子のイメージ側とは,非球面である。
【0022】
本発明のもう1つの実施形態では,第1レンズ素子は,近軸線(paraxial line)上の被写体側に向いた凸面を有する平凸レンズであり,第2レンズ素子は,光学平行平面板(Optical-parallel plate)であり,第3レンズ素子は,近軸線上のイメージ側に向いた凹面を有する平凹レンズであり,第4レンズ素子は,近軸線上の被写体側に向いた凹面を有する平凹レンズであり,第5レンズ素子は,光学平行平面板であり,第6レンズ素子は,近軸線上のイメージ側に向いた凹面を有する平凹レンズである。
【0023】
以上,本発明の好適な実施形態を例示したが,これは本発明を限定するものではなく,本発明の精神及び範囲を逸脱しない限りにおいては,当業者であれば行い得る少々の変更や修飾を付加することが可能である。従って,本発明が請求する保護範囲は,特許請求の範囲を基準とする。」

イ 本願の図1は従来の撮像レンズの構造を示す概略図,図2は本願発明のイメージ捕捉レンズモジュールの実施形態の構造を示す概略図であって,当該図1及び2は次のとおりである。
【図1】

【図2】


(3)当審の判断
実施可能要件(特許法36条4項1号)について
(ア)判断
一般に,レンズを用いた光学系を具体的に設計する際には,レンズ枚数,各レンズ面の曲率半径,メニスカス又は非メニスカス,レンズ面間隔(レンズ厚を含む。),各レンズの屈折率とアッベ数,接合レンズの有無とその配置,非球面レンズの有無とその配置,非球面係数,絞りの位置等の多数の要素を調整して,球面収差等の諸収差やMTF等の光学系の諸特性を確認しながら,数多くの試行錯誤を繰り返して,1つの光学系の設計を完成するものであることが,当業者の技術常識である。
しかしながら,本件補正後の本願明細書には,
a プレート110と,第1複合レンズ120と,第2複合レンズ130と,カバーガラス140とが,被写体側からイメージ側に順に配置されたイメージ捕捉レンズモジュールであること(前記(2)ア(ウ)の【0014】を参照。),
b 第1複合レンズ120が,被写体側からイメージ側に順に配置された第1レンズ素子L10と,第2レンズ素子L20と,第3レンズ素子L30とを含み,第2複合レンズ130が,被写体側からイメージ側に順に配置された第4レンズ素子L40と,第5レンズ素子L50と,第6レンズ素子L60とを含むこと(前記(2)ア(ウ)の【0014】を参照。),
c 第2レンズ素子L20と第5レンズ素子L50とが,屈折率がおおよそ1.6を超え,アッベ数が35より小さく,重ランタンフリント(lanthanum dense flint;LaSF),ランタンフリント(lanthanum flint;LaF),重バリウムフリント(barium dense flint;BaSF),フリント(flint;F)または他の適合する光学材料製のウェハレベル基板であること(前記(2)ア(ウ)の【0020】を参照。),
d 第1,第3,第4及び第6レンズ素子が,例えば透明硬化性シリコン樹脂,または熱硬化性樹脂材料などの紫外線硬化材料製であること(前記(2)ア(ウ)の【0020】を参照。),
e 第1レンズ素子L10,第3レンズ素子L30及び第6レンズ素子L60の曲率半径が正値であり,第4レンズ素子L40の曲率半径が負値であること(前記(2)ア(ウ)の【0020】を参照。),すなわち,第1レンズ素子が近軸線(paraxial line)上の被写体側に向いた凸面を有する平凸レンズであり,第2レンズ素子が光学平行平面板(Optical-parallel plate)であり,第3レンズ素子が近軸線上のイメージ側に向いた凹面を有する平凹レンズであり,第4レンズ素子が近軸線上の被写体側に向いた凹面を有する平凹レンズであり,第5レンズ素子が光学平行平面板であり,第6レンズ素子が近軸線上のイメージ側に向いた凹面を有する平凹レンズであること(前記(2)ア(ウ)の【0022】を参照。),
f 第1と第3レンズ素子L10,L30が第2レンズ素子L20の両側に,第4と第6レンズ素子L40,L60が第5レンズ素子L50の両側に,それぞれモールド成形またはリソグラフィーなどによってアレイ形式で製造することができ,第1レンズ素子と第3レンズ素子,及び,第4と第6レンズ素子が,それぞれ第2レンズ素子及び第5レンズ素子の上にそれぞれ直接形成するか,または接着層によって間接的に接合することができること(前記(2)ア(ウ)の【0020】を参照。),
g 第1レンズ素子の被写体側,第3レンズ素子のイメージ側,第4レンズ素子の被写体側及び第6レンズ素子のイメージ側が非球面であること(前記(2)ア(ウ)の【0021】),
h 各レンズの屈折率及びアッベ数が【数3】又は【数4】の関係式を満たし,第1及び第2複合レンズの有効焦点距離が【数5】の関係式を満たすこと(前記(2)ア(ウ)の【0014】?【0019】を参照。),
が開示されていると認められるものの,レンズを用いた光学系の設計において重要な,非球面係数等の各種要素を明らかにした具体的な設計例は1つも開示されていない。
そうすると,本件補正後の本願明細書及び図面の記載からは,例え,本願の優先権主張の日(以下「本願優先日」という。)当時の技術常識を参酌したとしても,光学系を設計する際には,各レンズの屈折率及びアッベ数並びに各複合レンズの有効焦点距離の数値を【数3】ないし【数5】の関係式を満たす数値の中から選択するとともに,その他の非球面係数等の多数の要素の数値を決定するために,球面収差等の諸収差やMTF等の光学系の諸特性を確認しながら数多くの試行錯誤を繰り返す必要があることが明らかであるから,本件補正後の本願明細書及び図面の記載は,本願補正発明の実施に際し当業者に過度の試行錯誤を強いるものといわざるを得ない。
したがって,本件補正後の本願明細書の発明の詳細な説明が,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。

(イ)請求人の主張について
a 請求人は,意見書において「本特許出願図面の図2は,特定のレンズ配置を開示しています。本特許出願の明細書と図面は,本願発明を当業者が実施するのに必要な要件をすべて満たしていると出願人は思料します。」(前記(1)イの「レンズデータおよび他の詳細なレンズ条件に関して」の欄を参照。)などと主張する。
そこで,本願の図2についてみると,前記(ア)a,b及びeに対応する事項を見て取ることができるものの,当該図2から光学系における非球面係数等の多数の要素の具体的な数値を把握することはできない。
したがって,図2の記載を参酌したとしても,光学系を設計する際に,球面収差等の諸収差やMTF等の光学系の諸特性を確認しながら数多くの試行錯誤を繰り返す必要があることに変わりはないから,当該請求人の主張を採用することはできない。

b また,請求人は,審判請求書及び回答書において,本願明細書が当業者を対象として記載されたものであり,当業者が技術常識として「当然に分かる詳細」についての記載は省略されている旨主張した上で(前記(1)エの「(1)」の欄及び前記(1)カ(ア)を参照),回答書において「本願の発明の詳細な説明に,任意のレンズ系を設計するのに必要な全ての要素についての具体的な設計値(レンズデータ)が記載されていないとしても,本願明細書が開示するレンズ系における各レンズの概略形状,配置,レンズ材料(段落0014?0022参照)と当業者の技術常識とを考慮すれば,本願発明のイメージ捕捉レンズモジュールを具体的に設計して,厚みが制限されたカメラモジュールに用いることができる・・・(中略)・・・すなわち,本願明細書は,・・・(中略)・・・十分に具体的なレンズデータを開示しています。したがって,本願の発明の詳細な説明は,当業者が請求項1に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであります。」(前記(1)カ(ア)を参照)などと主張する。
しかしながら,当業者が光学系を設計する際には,球面収差等の諸収差やMTF等の光学系の諸特性を確認しながら数多くの試行錯誤を繰り返す必要があることが技術常識であることは,前記(ア)のとおりであるから,当該請求人の主張も採用することはできない。

イ 委任省令要件(特許法36条4項1号)について
(ア)判断
本件補正後の本願明細書の【0004】及び【0005】からは,従来の撮像レンズ(特開2008-287006号公報に記載された撮像レンズ)が,第1絞りS1,第1接合型複合レンズ10,第2絞りS2及び第2接合型複合レンズ20を被写体側からイメージ側に順に配置したものであり,前記第1接合型複合レンズ10が,第1レンズL1,第2レンズL2及び第3レンズL3を被写体側からイメージ側に順に配置したものであり,前記第2接合型複合レンズ20が,第4レンズL4,第5レンズL5及び第6レンズL6を被写体側からイメージ側に順に配置したものであり,第2接合型複合レンズ20とイメージセンサ素子40の間にカバーガラス30が挿入されたものであることを把握できる。
当該従来の撮像レンズの構造は,本願補正発明1と,「イメージ捕捉レンズモジュールであって,被写体側からイメージ側に順に配置された第1レンズ素子と,第2レンズ素子と,第3レンズ素子とを有する第1複合レンズと,被写体側からイメージ側に順に配置された第4レンズ素子と,第5レンズ素子と,第6レンズ素子とを有する第2複合レンズと,前記第2複合レンズの後方に設置されたイメージセンサに用いられるカバーガラスと,からなり,前記第1複合レンズと,前記第2複合レンズと,前記カバーガラスとは,被写体側からイメージ側に順に配置されたイメージ捕捉レンズモジュール。」である点で,すなわち,【数1】の関係式を満たす点以外の点で,一致する。
一方,本件補正後の本願明細書の【0011】(前記ア(ア)bを参照。)には,本願補正発明の効果が,レンズモジュールの光路長を携帯電話などに組み込まれるのに十分短くすることができ,かつ,高い光学性能が維持できることであることが記載されている。
そうすると,本件補正後の本願明細書の記載からは,本願補正発明1は,従来の撮像レンズにおいて【数1】の関係式を満たすという構成を採用することで,高い光学性能を維持しつつ,レンズモジュールの光路長を携帯電話などに組み込まれるのに十分短くできるようにしたものといえる。
しかしながら,本件補正後の本願明細書には,【数1】の関係式を満たす光学系の具体例は一つも記載されておらず,本願補正発明1が具体的にどのような値の光路長及び光学性能を有するのかについては,全く示されていない。
さらに,【数1】は,第2レンズ素子の屈折率と第1レンズ素子の屈折率の差の絶対値(|N2?N1|),第3レンズの屈折率と第2レンズ素子の屈折率の差の絶対値(|N3?N2|),第2レンズ素子の屈折率(N2),第2レンズ素子のアッベ数と第1レンズ素子のアッベ数の差の絶対値(|v2?v1|),第3レンズ素子のアッベ数と第2レンズ素子のアッベ数の差の絶対値(|v3?v2|),第2レンズ素子のアッベ数(v2),第5レンズ素子の屈折率と第4レンズ素子の屈折率の差の絶対値(|N5?N4|),第6レンズの屈折率と第5レンズ素子の屈折率の差の絶対値(|N6?N5|),第5レンズ素子の屈折率(N5),第5レンズ素子のアッベ数と第4レンズ素子のアッベ数の差の絶対値(|v5?v4|),第6レンズ素子のアッベ数と第5レンズ素子のアッベ数の差の絶対値(|v6?v5|)及び第5レンズ素子のアッベ数(v5)について,それぞれ,その数値範囲を規定するものであるところ,本件補正後の本願明細書には,これらの値が各数値範囲を満たすことで,何故高い光学性能を維持しつつレンズモジュールの光路長を十分短くできるのかについての理論的な説明はなされていないし,また,【数1】の関係式を満たすことによって,高い光学性能を維持しつつ,レンズモジュールの光路長を携帯電話などに組み込まれるのに十分短くできることが,本願優先日当時の技術常識に基づいて当業者が把握できることであったと認めるに足る証拠も見当たらない。
そうすると,本件補正後の本願明細書及び図面の記載からは,本願優先日当時の技術常識を参酌したとしても,本願補正発明1が,本件補正後の本願明細書に記載の,高い光学性能を維持しつつ,レンズモジュールの光路長を携帯電話などに組み込まれるのに十分短くできるという効果を有するものであるのか否かを当業者が把握することはできないものといわざるを得ない。
このような事情は,請求項1の記載を引用する形式で記載された請求項2ないし6に係る本願補正発明2ないし6,及び,【数3】(請求項1の【数1】と同じ内容である。)の関係式を満たすことを発明特定事項とする請求項7に係る本願補正発明7,並びに,当該請求項7を引用する形式で記載された請求項8ないし10に係る本願補正発明8ないし10についても同様である。
そして,本願補正発明が本件補正後の本願明細書に記載の効果を有するものであるのか否かを当業者が把握することができないような本件補正後の本願明細書の発明の詳細な説明の記載を,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載することによりしたものであるとすることはできない。

(イ)請求人の主張について
a 請求人は,意見書において「本願発明は,明細書段落0005で引用している特願2008-287006に比べて,優れた特徴を有する。本願発明と特願2008-287006との違いは,本願が有する特徴である,N2>1.6,v2<35,|N2?N1|<0.1および|N3-N2|<0.1の組み合わせとN5>1.6,v5<35,|N5-N4|>0.1および|N6-N5|>0.1の組み合わせです。他の式の技術的意義は,特開2008-287006の明細書段落0038および0039に記載されていますし,当業者には周知のことです。これら2つの組み合わせは,N2>1.6およびN5>1.6という条件によって必要になったものであり,その技術的意義は本明細書の段落0011に記載されています。」(前記(1)イの「請求項1,6,7,9および10中の式に関して」の欄を参照。)などと主張し,審判請求書及び回答書においても同旨の主張をしている(前記(1)エの「(1)」の欄及び前記(1)カ(イ)を参照。)。
そこで,特開2008-287006号公報の記載についてみると,当該公報には次の記載がある。(下線は,後述する特開2008-287006号公報から把握できる技術的事項の認定に特に関係する箇所を示す。)

(a)「【請求項1】
第1絞りと,第1接合型複合レンズと,第2絞りと,第2接合型複合レンズとを具え,
物体側から像側に向って,前記第1絞り,前記第1接合型複合レンズ,前記第2絞り,前記第2接合型複合レンズの順に配列されて構成され,
前記第1接合型複合レンズは,物体側から像側に向って,第1レンズ,第2レンズ及び第3レンズの順に配列され,
前記第2接合型複合レンズは,物体側から像側に向って,第4レンズ,第5レンズ及び第6レンズの順に配列され,
前記第1レンズ,前記第3レンズ,前記第4レンズ及び前記第6レンズが硬化性樹脂材料で形成され,
前記第2レンズ及び前記第5レンズが,高軟化温度の光学ガラス材料で形成され,
前記第1レンズと前記第2レンズとは接着剤によって接着され,かつ前記第2レンズと前記第3レンズとは接着剤によって接着され,かつ前記第4レンズと前記第5レンズとは接着剤によって接着され,かつ前記第5レンズと前記第6レンズとは接着剤によって接着されて形成され,
以下の条件(1)?(8)を満たすことを特徴とする撮像レンズ。
0≦|N_(3)-N_(2)|≦0.1 (1)
0≦|N_(3)-N_(4)|≦0.1 (2)
0≦|ν_(3)-ν_(2)|≦30.0 (3)
0≦|ν_(3)-ν_(4)|≦30.0 (4)
0≦|N_(9)-N_(8)|≦0.1 (5)
0≦|N_(9)-N_(10)|≦0.1 (6)
0≦|ν_(9)-ν_(8)|≦30.0 (7)
0≦|ν_(9)-ν_(10)|≦30.0 (8)
ただし,
N_(2):前記第1レンズの屈折率
N_(3):前記第2レンズの屈折率
N_(4):前記第3レンズの屈折率
ν_(2):前記第1レンズのアッベ数
ν_(3):前記第2レンズのアッベ数
ν_(4):前記第3レンズのアッベ数
N_(8):前記第4レンズの屈折率
N_(9):前記第5レンズの屈折率
N_(10):前記第6レンズの屈折率
ν_(8):前記第4レンズのアッベ数
ν_(9):前記第5レンズのアッベ数
ν_(10):前記第6レンズのアッベ数,
である。」
(b)「【技術分野】
【0001】
この発明は,撮像レンズに係り,特に携帯電話器等に搭載して好適な撮像レンズに関する。
【背景技術】
・・・(中略)・・・
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで,この発明の目的は,・・・(中略)・・・
【0013】
また,携帯電話器等に搭載可能な程度に光学長が短く,バックフォーカスは撮像レンズと撮像面との間にフィルタやカバーガラス等の部品を挿入する可能な程度に長く,かつ良好な画像が得られる撮像レンズを提供することにある。」
(c)「【課題を解決するための手段】
【0014】
上述の目的を達成するため,この発明の撮像レンズは,・・・(中略)・・・
【0017】
また,上述の撮像レンズにおいて,以下の条件(1)?(8)を満たすように設定するのが好適である。
【0018】
0≦|N_(3)-N_(2)|≦0.1 (1)
0≦|N_(3)-N_(4)|≦0.1 (2)
0≦|ν_(3)-ν_(2)|≦30.0 (3)
0≦|ν_(3)-ν_(4)|≦30.0 (4)
0≦|N_(9)-N_(8)|≦0.1 (5)
0≦|N_(9)-N_(10)|≦0.1 (6)
0≦|ν_(9)-ν_(8)|≦30.0 (7)
0≦|ν_(9)-ν_(10)|≦30.0 (8)
ただし,
N_(2):前記第1レンズの屈折率
N_(3):前記第2レンズの屈折率
N_(4):前記第3レンズの屈折率
ν_(2):前記第1レンズのアッベ数
ν_(3):前記第2レンズのアッベ数
ν_(4):前記第3レンズのアッベ数
N_(8):前記第4レンズの屈折率
N_(9):前記第5レンズの屈折率
N_(10):前記第6レンズの屈折率
ν_(8):前記第4レンズのアッベ数
ν_(9):前記第5レンズのアッベ数
ν_(10):前記第6レンズのアッベ数,
である。」
(d)「【発明の効果】
【0027】
・・・(中略)・・・
【0035】
次に,この発明の撮像レンズの光学的特性について説明する。
【0036】
この発明の撮像レンズの光学的な構成上の指導原理は,屈折率等の光学的特性ができる限り均質である単一の接合型複合レンズによって,収差補正及び結像という2つの役割を実現することにある。すなわち,この発明の撮像レンズが具える第1接合型複合レンズを構成する第1?第3レンズのそれぞれの屈折率及びアッベ数は互いに大きく異ならないことが望ましい。また,第2接合型複合レンズを構成する第4?第6レンズのそれぞれの屈折率及びアッベ数は互いに大きく異ならないことが望ましい。言い換えると,第1?第3レンズのそれぞれの屈折率及びアッベ数は互いに等しいことが理想的である。また,第4?第6レンズのそれぞれの屈折率及びアッベ数は互いに等しいことが理想的である。しかしながら,現実には,屈折率及びアッベ数が完全に等しい,光学ガラス材料と硬化性樹脂材料との組み合わせを見出すことは極めて困難である。
【0037】
そこで,この発明の発明者は,第1及び第2接合型複合レンズのそれぞれにおいて,構成材料である光学ガラス材料と硬化性樹脂材料との,両者の屈折率及びアッベ数の差がどの程度以下であれば,良好な画像が得られる撮像レンズを構成できるかを,数々のシミュレーション及び試作を通じて確かめた。その結果,上述の条件(1)?(8)を満たすことによって,良好な画像が得られる撮像レンズを構成できることが確かめられた。
【0038】
すなわち,第1レンズの屈折率N_(2)と第2レンズの屈折率N_(3)との差,第2レンズの屈折率N_(3)と第3レンズの屈折率N_(4)との差,第4レンズの屈折率N_(8)と第5レンズの屈折率N_(9)との差,及び第5レンズの屈折率N_(9)と第6レンズの屈折率N_(10)との差が,それぞれ0.1以内であれば歪曲収差,非点収差,及び色・球面収差が,良好な画像が形成される程度に十分に小さい値になる。
【0039】
また,第1レンズのアッベ数ν_(2)と第2レンズのアッベ数ν_(3)との差,第2レンズのアッベ数ν_(3)と第3レンズのアッベ数ν_(4)との差,第4レンズのアッベ数ν_(8)と第5レンズのアッベ数ν_(9)との差,及び第5レンズのアッベ数ν_(9)と第6レンズのアッベ数ν_(10)との差がそれぞれ30.0以内であれば,色収差の大きさを,良好な画像が形成される程度に十分に小さい値とすることができ,しかも十分なコントラストを有する画像が形成できる。
【0040】
しかも,以下の実施例に示すように,上述の条件(1)?(8)を満たすことによって,携帯電話器等に搭載可能な程度に光学長が短く,バックフォーカスは,撮像レンズと撮像面との間にフィルタやカバーガラス等の部品を挿入する可能な程度に長く,かつ良好な画像が得られる撮像レンズが実現される。」

前記(a)ないし(d)からみて,次の技術的事項を把握することができる。
「物体側から像側に向って第1レンズ,第2レンズ及び第3レンズの順に配列された第1接合型複合レンズと,
物体側から像側に向って,第4レンズ,第5レンズ及び第6レンズの順に配列された第2接合型複合レンズとを,
物体側から像側に向って順に配列して構成された撮像レンズにおいて,
第1レンズの屈折率N_(2)と第2レンズの屈折率N_(3)との差(|N_(3)-N_(2)|),第2レンズの屈折率N_(3)と第3レンズの屈折率N_(4)との差(|N_(3)-N_(4)|),第4レンズの屈折率N_(8)と第5レンズの屈折率N_(9)との差(|N_(9)-N_(8)|),及び,第5レンズの屈折率N_(9)と第6レンズの屈折率N_(10)との差(|N_(9)-N_(10)|)をそれぞれ0.1以内とすること(すなわち,条件(1),条件(2),条件(5),条件(6)を満たすこと)で,歪曲収差,非点収差及び色・球面収差を良好な画像が形成される程度に十分に小さい値にすることができ,
第1レンズのアッベ数ν_(2)と第2レンズのアッベ数ν_(3)との差(|ν_(3)-ν_(2)|),第2レンズのアッベ数ν_(3)と第3レンズのアッベ数ν_(4)との差(|ν_(3)-ν_(4)|),第4レンズのアッベ数ν_(8)と第5レンズのアッベ数ν_(9)との差(|ν_(9)-ν_(8)|),及び,第5レンズのアッベ数ν_(9)と第6レンズのアッベ数ν_(10)との差(|ν_(9)-ν_(10)|)をそれぞれ30.0以内とすること(すなわち,条件(3),条件(4),条件(7),条件(8)を満たすこと)で,色収差の大きさを,良好な画像が形成される程度に十分に小さい値とすることができ,しかも十分なコントラストを有する画像が形成できること。」(以下「技術的事項」という。)

前記技術的事項の「第1レンズの屈折率N_(2)」,「第2レンズの屈折率N_(3)」,「第3レンズの屈折率N_(4)」,「第4レンズの屈折率N_(8)」,「第5レンズの屈折率N_(9)」,「第6レンズの屈折率N_(10)」,「第1レンズのアッベ数ν_(2)」,「第2レンズのアッベ数ν_(3)」,「第3レンズのアッベ数ν_(4)」,「第4レンズのアッベ数ν_(8)」,「第5レンズのアッベ数ν_(9)」及び「第6レンズのアッベ数ν_(10)」は,本願補正発明1の【数1】の関係式における「第1レンズ素子の屈折率N1」,「第2レンズ素子の屈折率N2」,「第3レンズ素子の屈折率N3」,「第4レンズ素子の屈折率N4」,「第5レンズ素子の屈折率N5」,「第6レンズ素子の屈折率N6」,「第1レンズ素子のアッベ数v1」,「第2レンズ素子のアッベ数v2」,「第3レンズ素子のアッベ数v3」,「第4レンズ素子のアッベ数v4」,「第5レンズ素子のアッベ数v5」及び「第6レンズ素子のアッベ数v6」にそれぞれ相当するから,本願補正発明1の【数1】の関係式は,前記技術的事項の条件(1)ないし条件(8)に対して,次の変更を行ったものにほかならない。
変更1:第2レンズ素子のアッベ数と第1レンズ素子のアッベ数の差,第3レンズ素子のアッベ数と第2レンズ素子のアッベ数の差,第5レンズ素子のアッベ数と第4レンズ素子のアッベ数の差,及び,第6レンズ素子のアッベ数と第5レンズ素子のアッベ数の差の数値範囲について,その上限を35とすることで,前記技術的事項の条件(3),条件(4),条件(7)及び条件(8)の数値範囲を含み,かつ,より大きな数値範囲に拡張する。
変更2:第5レンズ素子の屈折率と第4レンズ素子の屈折率の差,及び,第6レンズ素子の屈折率と第5レンズ素子の屈折率の差について,前記技術的事項の条件(5)及び条件(6)に規定された数値範囲以外の数値範囲に規定する。
変更3:第2及び第5レンズ素子について,その屈折率が1.6より大きく,アッベ数が35より小さいという限定を加える。

しかるに,前記変更1は,前記技術的事項において「色収差の大きさを,良好な画像が形成される程度に十分に小さい値とすることができ,しかも十分なコントラストを有する画像が形成できる」という効果が得られるとされた数値範囲以外の範囲にまで,各レンズ素子のアッベ数の差の数値範囲を拡大するものであり,さらに,前記変更2は,前記技術的事項において「歪曲収差,非点収差及び色・球面収差を良好な画像が形成される程度に十分に小さい値にすることができ」るという効果が得られるとされた数値範囲以外の範囲を,各レンズ素子の屈折率の差の数値範囲とするものであるから,特開2008-287006号公報の記載からは,本願補正発明1において,【数1】の関係式を満たすことによって,本件補正後の本願明細書に記載された,高い光学性能を維持しつつ,レンズモジュールの光路長を携帯電話などに組み込まれるのに十分短くできるという効果が得られることの理論的な理由を理解することはできない。
また,請求人が指摘する本願明細書の【0011】の記載は,単に,本願補正発明によって,高い光学性能を維持しつつ,レンズモジュールの光路長を携帯電話などに組み込まれるのに十分短くできるという効果が得られることが記載されているのみであって,当該【0011】を含め,本件補正後の本願明細書に,【数1】の関係式を満たす光学系の具体例及びその光路長や光学性能が記載されているわけではなく,また,【数1】の関係式を満たすことで,何故高い光学性能を維持しつつレンズモジュールの光路長を十分短くできるのかについての理論的な説明がなされているわけでもないことは,前記(ア)で述べたとおりである。
したがって,請求人の当該主張を採用することはできない。

b また,請求人は,意見書において「本明細書は不特定の人を対象として起案されたものではなく,当業者を対象として起案されたものであるから,記載されていなくても当業者が当然にわかる詳細については省いてあります。したがって,各条件式を満足することによる技術上の意義は当業者ならば当然に理解することができます。」(前記(1)イの「請求項1,6,7,9および10中の式に関して」の欄を参照。)などとも主張し,審判請求書及び回答書においても同旨の主張をしている(前記(1)エの「(1)」の欄及び前記(1)カ(イ)を参照。)。
しかしながら,前記aで指摘した特開2008-287006号公報の記載を含め,【数1】の関係式を満たすことによって,高い光学性能を維持しつつ,レンズモジュールの光路長を携帯電話などに組み込まれるのに十分短くできることが,本願優先日当時の技術常識に基づいて当業者が把握できることであったと認めるに足る証拠が見当たらないことは,前記(ア)で述べたとおりであるから,請求人の当該主張も採用することはできない。

ウ 独立特許要件についてのまとめ
前記ア及びイのとおりであって,本件補正後の本願明細書の発明の詳細な説明の記載は,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではなく,かつ,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載することによりしたものでもないから,特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない。
したがって,本願補正発明は,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
よって,本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は前記のとおり却下されたので,本願の請求項1ないし10に係る発明(以下「本願発明」という。)は,前記第2〔理由〕1(1)アに本件補正前の請求項1ないし10として示したとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は,前記第2〔理由〕3(1)ア及びウに示したとおりの実施可能要件違反及び委任省令要件違反を含む記載要件違反である。

3 判断
本件補正は,前記第2〔理由〕1(1)及び(2)に示したとおり,本件補正前の請求項1の【数1】,請求項7の【数3】,【0008】に記載の【数1】,【0010】の【数2】及び【0015】の【数3】に,「N5>1.6」及び「v5<35」を付加するものであるところ,当該限定事項が除かれた本願発明についても,前記第2〔理由〕3(3)ア及びイと同じ理由で,本件補正前の本願明細書の発明の詳細な説明の記載は,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではなく,かつ,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載することによりしたものでもないから,本件補正前の本願明細書(以下,単に「本願明細書」という。)の発明の詳細な説明の記載は特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない。
したがって,原査定の拒絶の理由とされた実施可能要件違反及び委任省令要件違反は妥当なものである。

4 むすび
以上のとおり,本願明細書の発明の詳細な説明の記載が特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていないから,本願は拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-05-16 
結審通知日 2014-05-20 
審決日 2014-06-03 
出願番号 特願2010-174949(P2010-174949)
審決分類 P 1 8・ 536- Z (G02B)
P 1 8・ 575- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 殿岡 雅仁  
特許庁審判長 藤原 敬士
特許庁審判官 清水 康司
鉄 豊郎
発明の名称 イメージ捕捉レンズモジュール  
代理人 磯野 道造  
代理人 磯野 道造  

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