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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1293219
審判番号 不服2013-19388  
総通号数 180 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-12-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-10-04 
確定日 2014-10-22 
事件の表示 特願2009-530262「等方性エッチングを用いた微細パターン形成方法」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 4月 3日国際公開,WO2008/038947,平成22年 2月25日国内公表,特表2010-506385〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,2007年9月20日(パリ条約による優先権主張2006年9月30日,大韓民国)を国際出願日とする出願であって,平成23年11月7日付けで拒絶の理由が通知され,平成24年5月15日に意見書と手続補正書が提出され,同年5月31日付けで拒絶の理由が通知され,同年9月5日に意見書と手続補正書が提出され,平成25年5月27日に拒絶査定がされたものである。
その後,同年10月4日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正書が提出され,同年12月6日付けで審尋を行い,前記審尋に対して回答がなかったので,平成26年4月16日に電話応対を行った。

第2 補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成25年10月4日に提出された手続補正書による補正を却下する。

[理 由]
1 補正の内容
平成25年10月4日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)は,補正前の特許請求の範囲の請求項1-6を補正するものであり,そのうち補正前後の請求項1は各々次のとおりである。

<補正前>
「【請求項1】
(1)ポリイミドフィルムである半導体基板に被エッチング層を形成し,前記被エッチング層の上部にフォトレジスト層をコーティングする段階と,
(2)前記フォトレジスト層でコーティングされた前記被エッチング層にリソグラフィを行い,前記リソグラフィにより生成されたフォトレジストパターンを含む前記被エッチング層に第1等方性エッチングを行なう段階と,
(3)前記フォトレジストパターンを含む前記被エッチング層の上部にパシベーション層を溶着する段階と,
(4)溶着された前記パシベーション層のうち,前記被エッチング層の前記第1等方性エッチングが施された所定の部分に相当する部分を選択的に除去する段階と,
(5)前記パシベーション層の除去された前記所定の部分に第2等方性エッチングを行なうことによって前記半導体基板を露出させる段階と,
を含む,等方性エッチングを用いた微細パターン形成方法。」

<補正後>
「【請求項1】
(1)ポリイミド基板に被エッチング層を形成し,前記被エッチング層の上部にフォトレジスト層を形成する段階と,
(2)前記フォトレジスト層でコーティングされた前記被エッチング層にリソグラフィを行い,前記リソグラフィにより生成されたフォトレジストパターンを含む前記被エッチング層に第1等方性エッチングを行なう段階と,
(3)前記被エッチング層の上部のフォトレジストパターン及び第1等方性エッチングが行われた被エッチング層と前記フォトレジストパターンとの境界面にディップコーティング(Dipping coating)方法で有機物コーティング処理したパシベーション層を溶着する段階と,
(4)溶着された前記パシベーション層のうち,前記被エッチング層の前記第1等方性エッチングが行われた所定の部分の前記パシベーション層を除去する段階と,
(5)前記パシベーション層の除去された前記所定の部分に第2等方性エッチングを行なうことによって前記ポリイミド基板を露出させる段階と,
を含む,等方性エッチングを用いた微細パターン形成方法。」

2 補正事項の整理
本件補正の補正事項を整理すると次のとおりである。

(1)補正事項1
補正前の請求項1の「ポリイミドフィルムである半導体基板に被エッチング層を形成」を補正して,補正後の請求項1の「ポリイミド基板に被エッチング層を形成」にすること。

(2)補正事項2
補正前の請求項1の「前記被エッチング層の上部にフォトレジスト層をコーティングする」を補正して,補正後の請求項1の「前記被エッチング層の上部にフォトレジスト層を形成する」にすること。

(3)補正事項3
補正前の請求項1の「前記フォトレジストパターンを含む前記被エッチング層の上部にパシベーション層を溶着する」を補正して,補正後の請求項1の「前記被エッチング層の上部のフォトレジストパターン及び第1等方性エッチングが行われた被エッチング層と前記フォトレジストパターンとの境界面にディップコーティング(Dipping coating)方法で有機物コーティング処理したパシベーション層を溶着する」にすること。

(4)補正事項4
補正前の請求項1の「溶着された前記パシベーション層のうち,前記被エッチング層の前記第1等方性エッチングが施された所定の部分に相当する部分を選択的に除去する」を補正して,補正後の請求項1の「溶着された前記パシベーション層のうち,前記被エッチング層の前記第1等方性エッチングが行われた所定の部分の前記パシベーション層を除去する」にすること。

(5)補正事項5
補正前の請求項1の「前記パシベーション層の除去された前記所定の部分に第2等方性エッチングを行なうことによって前記半導体基板を露出させる」を補正して,補正後の請求項1の「前記パシベーション層の除去された前記所定の部分に第2等方性エッチングを行なうことによって前記ポリイミド基板を露出させる」にすること。

(6)補正事項6
補正前の【請求項4】-【請求項6】の「何れかに」を補正して,それぞれ補正後の「何れか1項に」にすること。

3 新規事項追加の有無,及び,補正の目的の適否についての検討
(1)補正事項1-2及び補正事項4-6について
補正事項1-2及び補正事項4-6により補正された部分は,本願の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。また,本願の願書に最初に添付した明細書を「当初明細書」という。)に記載されているものと認められるから,補正事項1-2及び補正事項4-6は,当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではない。
したがって,補正事項1-2及び補正事項4-6は,当初明細書等に記載された事項の範囲内においてなされたものであるから,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たす。
また,補正事項1-2及び補正事項4-6が,特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たすことは明らかである。
さらに,補正事項1-2及び補正事項4-6は,特許法第17条の2第5項第4号に掲げる,明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
したがって,補正事項1-2及び補正事項4-6は,特許法第17条の2第5項に規定する要件を満たす。

(2)補正事項3について
補正事項3により補正された部分は,当初明細書等に記載されているものと認められるから,補正事項3は,当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではない。
したがって,補正事項3は,当初明細書等に記載された事項の範囲内においてなされたものであるから,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たす。
また,補正事項3が,特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たすことは明らかである。
さらに,補正事項3は,「パシベーション層」の溶着を限定するものであるから,特許法第17条の2第5項第2号に掲げる,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
したがって,補正事項3は,特許法第17条の2第5項に規定する要件を満たす。

(3)新規事項追加の有無,及び,補正の目的の適否についてのまとめ
以上検討したとおりであるから,本件補正は,特許法第17条の2第3項-第5項に規定する要件を満たすものである。
そして,本件補正は,特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正を含むものであるから,本件補正による補正後の特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か,すなわち,本件補正がいわゆる独立特許要件を満たすものであるか否かについて,以下において更に検討する。

4 独立特許要件についての検討
(1)補正後の発明
本件補正による補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明1」という。)は,本件補正により補正された明細書,特許請求の範囲及び図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定されるとおりのものである。
以下,再掲する。

「【請求項1】
(1)ポリイミド基板に被エッチング層を形成し,前記被エッチング層の上部にフォトレジスト層を形成する段階と,
(2)前記フォトレジスト層でコーティングされた前記被エッチング層にリソグラフィを行い,前記リソグラフィにより生成されたフォトレジストパターンを含む前記被エッチング層に第1等方性エッチングを行なう段階と,
(3)前記被エッチング層の上部のフォトレジストパターン及び第1等方性エッチングが行われた被エッチング層と前記フォトレジストパターンとの境界面にディップコーティング(Dipping coating)方法で有機物コーティング処理したパシベーション層を溶着する段階と,
(4)溶着された前記パシベーション層のうち,前記被エッチング層の前記第1等方性エッチングが行われた所定の部分の前記パシベーション層を除去する段階と,
(5)前記パシベーション層の除去された前記所定の部分に第2等方性エッチングを行なうことによって前記ポリイミド基板を露出させる段階と,
を含む,等方性エッチングを用いた微細パターン形成方法。」

(2)引用例とその記載事項,及び,引用発明
原査定の拒絶の理由に引用され,本願の優先権の主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である下記の引用例1には,次の事項が記載されている。(なお,下線は,当合議体において付したものである。以下同じ。)

ア 引用例1:特開2004-266230号公報
(1a)「【請求項1】
絶縁基材の表面に形成した金属層に,レーザ光の照射により昇華しない又は昇華速度が第2マスキングより遅いレジストから成る第1マスキングを介してハーフエッチングを施す工程と,
前記第1マスキングの上面及びハーフエッチングを施した部分の面を含む全面に,レーザ光の照射により昇華可能なレジストから成る第2マスキングを塗布する工程と,
前記第2マスキングとしてのレジストを塗布した面にレーザ光を照射して,レーザ光照射域の第2マスキングを昇華させ,一方,第1マスキングの投影領域内にある昇華されない前記第2マスキングの部分を保護膜として残す工程と,
前記第1マスキング及び前記保護層のレジストを介してエッチングを施し,前記金属層に導体パターンを形成する工程と,
前記第1マスキング及び保護層のレジストを剥離する工程と,からなることを特徴とする回路基板の製造方法。
【請求項2】
第1マスキングはレーザ光の照射により昇華しないレジストから成ることを特徴とする請求項1に記載の回路基板の製造方法。
【請求項3】
第1マスキングとしてのレジストはドライフィルムレジストであることを特徴とする請求項1又は2に記載の回路基板の製造方法。
【請求項4】
レーザ光の照射により昇華可能な第2マスキングとしてのレジストは,液状レジスト又は電着レジストであることを特徴とする請求項1?3のいずれか1項に記載の回路基板の製造方法。」

(1b)「【0017】
【発明の実施の形態】
以下,添付図面を参照して本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0018】
図2(a)?(f)はサブトラクティブ法を用いた本発明の第1実施形態による回路基板の製造工程を断面図で示したものである。
【0019】
図2(a)において,樹脂基材1に周知の方法にて銅箔2を形成して基板素材3とした状態を示す。樹脂基材1としては,一般的にエポキシ系樹脂或いはガラス・エポキシ系樹脂が使用される。
【0020】
次に,図2(b)において,銅箔の上面に,第1マスキング4として,ドライフィルムレジスト(DFR)を形成し,周知の方法で露光,現像を行って,レジストパターン4bを形成する。
【0021】
次に,図2(c)において,レジストパターンの第1マスキング4に向けてエッチング液を吹き付けてハーフエッチングを施す。このハーフエッチングにより,銅箔2の第1マスキング4のエッチング液通過部分4aの下側の銅箔2の周辺領域を溶解させる。そして,銅箔2の溶解する部分11がパターン17の上部の所望の幅を残すことになるように,ハーフエッチングの条件(エッチング時間,噴射圧力,噴射量等)を調整する。
【0022】
これにより,図示のように,銅箔2の第1レジストパターン4bに近接する上部においては,銅箔2の溶解した部分11がレジストパターンのエッチング液通過部分4aの幅(d)より銅箔2の内側へ若干食い込んでいて,溶解された部分11の幅(e)がレジストパターン間隔(d)より大きく,半面,銅箔2の上部と樹脂基材1に接触する界面6との間の中間領域では,丸みを帯びていて,断面形状が全体として略U字形状の溝11が形成される。」

(1d)「【0031】
図3(a)?(g)はサブトラクティブ法を用いた本発明の第2実施形態による回路基板の製造工程を断面図で示したものである。
【0032】
図3(a)?図3(c)の工程は,図2(a)?図2(c)に示す第1実施形態の各工程と同じであり,同様にして,ハーフエッチングが行われる。なお,第1マスキング4としてのドライフィルムレジスト(DFR)は,第1及び第2実施形態のいずれにおいても,レーザ光の照射により昇華しないレジストである必要がある。
【0033】
図3(d)において,前工程でハーフエッチングを施した部分の全面,即ち,第1マスキング4のレジストパターン部4bの上面及びハーフエッチングにより形成された溝11の表面を含む全面に,カバーリング特性のある,即ちレーザ光を照射することにより昇華可能な第2のレジスト20を塗布する。したがって,ハーフエッチングにより形成された溝の側部,即ち第1マスキング4の下部の投影領域内のサイドエッチング部についても,第2のレジスト20が塗布される。この第2のレジスト20は,液状レジスト又は電着レジスト等であるが,感光性のあるレジストである必要はない。このように,第2のレジスト20は感光性のものである必要がないので,レジストとしての材料の選択が広範で容易となる。もっとも,レジストの密着性及び剥離性は必要があることはいうまでもない。次にこの状態で,図3(e)に示すように,第2のレジスト20を塗布した領域の全面に対して,レーザ光21を照射する。レーザ光21の照射により第1レジストパターン4bの下側の領域を除く第2のレジスト20がアブレーション(昇華)される。このため,第1レジストパターン4bの下側の領域内における第2のレジスト20がハーフエッチングの際のサイドエッチング領域としての窪んだ部分において保護層22として残されることとなる。
【0034】
次に,図3(f)において,銅箔2の表面のドライフィルムレジスト(第1マスキングパターン)4b及び第2のレジストの昇華されなかった保護層22(第2マスキング)をマスクパターンとして,第二次のエッチングを施す。これにより,溝14の下側の銅箔の部分15が溶解され,溶解部分は,銅箔2と樹脂基材1とが接触する界面6にまで達する。
【0035】
次に,ドライフィルムレジスト(第1マスキング)4b及び第2のレジストの昇華されなかった保護層22を剥離する。
【0036】
これにより,図3(g)に示すように,深さ方向に中央部で幅が狭く上部及び下部で断面が円形に膨らんだダルマ形状の溝16が形成される。即ち,導体パターン17としては,その断面形状において幅の最も小さい部分の幅(g)と最も大きい部分の幅(h)との差が,図1に示す従来例のように導体パターンの断面形状が台形である場合の幅の差(b-a)に比べてはるかに小さくなり,したがって,隣接するパターン間のピッチ(c)をより狭くすることができ,回路基板の微細化を達成することができる。」

(1e)「【0039】
例えば,上述の実施形態においては,樹脂基材1の表面に導体パターンを形成する場合について説明したが,本発明は,例えば,図4において第3実施形態として示すように,樹脂基材を使用せずに金属板2からリードフレームを製造したり,あるいは樹脂基材として可撓性のあるものを使用することによりタブテープ(TAB-TAPE)を製造することができる。このように,本発明はサブトラクティブ法により製造するあらゆる回路基板の製品について適用可能である。」

イ 引用発明
引用例1の上記摘記(1a)-(1e)の記載から,引用例1には,以下に示す発明(以下「引用発明」という。)が開示されていると認められる。

「(a)樹脂基材1に周知の方法にて銅箔2を形成して基板素材3とする工程と,
(b)前記銅箔2の上面に,第1マスキング4として,ドライフィルムレジスト(DFR)を形成し,周知の方法で露光,現像を行って,レジストパターン4bを形成する工程と,
(c)レジストパターン4bの第1マスキング4に向けてエッチング液を吹き付けてハーフエッチングを施す工程であって,
銅箔2の第1レジストパターン4bに近接する上部においては,銅箔2の溶解した部分11がレジストパターンのエッチング液通過部分4aの幅(d)より銅箔2の内側へ若干食い込んでいて,溶解された部分11の幅(e)がレジストパターン間隔(d)より大きく,半面,銅箔2の上部と樹脂基材1に接触する界面6との間の中間領域では,丸みを帯びていて,断面形状が全体として略U字形状の溝11が形成される工程と,
(d)工程(c)でハーフエッチングを施した部分の全面,即ち,第1マスキング4のレジストパターン部4bの上面及びハーフエッチングにより形成された溝11の表面を含む全面に,カバーリング特性のある,即ちレーザ光を照射することにより昇華可能な第2のレジスト20を塗布する工程であって,
前記ハーフエッチングにより形成された溝の側部,即ち第1マスキング4の下部の投影領域内のサイドエッチング部についても,第2のレジスト20が塗布され,この第2のレジスト20は,液状レジストであるが,感光性のあるレジストである必要はない工程と,
(e)レーザ光21の照射により第1レジストパターン4bの下側の領域を除く第2のレジスト20をアブレーション(昇華)する工程と,
(f)銅箔2の表面のドライフィルムレジスト(第1マスキングパターン)4b及び第2のレジストの昇華されなかった保護層22(第2マスキング)をマスクパターンとして,第二次のエッチングを施す工程であって,
溝14の下側の銅箔の部分15が溶解され,溶解部分は,銅箔2と樹脂基材1とが接触する界面6にまで達し,深さ方向に中央部で幅が狭く上部及び下部で断面が円形に膨らんだダルマ形状の溝16を形成する工程と,
を含む,回路基板の製造方法。」

(3)本願補正発明1の進歩性についての検討
ア 本願補正発明1と引用発明との対比
(ア)引用発明の「樹脂基材1」と,本願補正発明1の「ポリイミド基板」とは,「樹脂基板」である点で一致する。

(イ)引用発明の「銅箔2」,「ドライフィルムレジスト(DFR)」,「露光,現像」,「レジストパターン4b」及び「回路基板の製造方法」は,本願補正発明1の「被エッチング層」,「フォトレジスト層」,「リソグラフィ」,「フォトレジストパターン」及び「微細パターン形成方法」に相当する。

(ウ)引用発明の工程(c)における「ハーフエッチング」は,「銅箔2の第1レジストパターン4bに近接する上部においては,銅箔2の溶解した部分11がレジストパターンのエッチング液通過部分4aの幅(d)より銅箔2の内側へ若干食い込んでいて,溶解された部分11の幅(e)がレジストパターン間隔(d)より大きく,半面,銅箔2の上部と樹脂基材1に接触する界面6との間の中間領域では,丸みを帯びていて,断面形状が全体として略U字形状の溝11が形成される」ものであるから,等方性エッチングであると理解できる。
また,引用発明の「第二次のエッチング」は,「溝14の下側の銅箔の部分15が溶解され,溶解部分は,銅箔2と樹脂基材1とが接触する界面6にまで達し,深さ方向に中央部で幅が狭く上部及び下部で断面が円形に膨らんだダルマ形状の溝16を形成する」ものであるから,等方性エッチングであると理解できる。
したがって,引用発明の「ハーフエッチング」及び「第二次のエッチング」は,それぞれ本願補正発明1の「第1等方性エッチング」及び「第2等方性エッチング」に相当する。

(エ)引用発明の「ハーフエッチングを施した部分の全面,即ち,第1マスキング4のレジストパターン部4bの上面及びハーフエッチングにより形成された溝11の表面を含む全面に,カバーリング特性のある,即ちレーザ光を照射することにより昇華可能な第2のレジスト20を塗布する工程であって,前記ハーフエッチングにより形成された溝の側部,即ち第1マスキング4の下部の投影領域内のサイドエッチング部についても,第2のレジスト20が塗布され,この第2のレジスト20は,液状レジストであるが,感光性のあるレジストである必要はない」と,本願補正発明1の「前記被エッチング層の上部のフォトレジストパターン及び第1等方性エッチングが行われた被エッチング層と前記フォトレジストパターンとの境界面にディップコーティング(Dipping coating)方法で有機物コーティング処理したパシベーション層を溶着」とは,被エッチング層の上部のフォトレジストパターン及び第1等方性エッチングが行われた被エッチング層と前記フォトレジストパターンとの境界面にパシベーション層を溶着する点で一致する。

(オ)引用発明の「レーザ光21の照射により第1レジストパターン4bの下側の領域を除く第2のレジスト20をアブレーション(昇華)する」は,本願補正発明1の「溶着された前記パシベーション層のうち,前記被エッチング層の前記第1等方性エッチングが行われた所定の部分の前記パシベーション層を除去する」に相当する。

(カ)したがって,上記(ア)-(オ)の対応関係から,本願補正発明1と引用発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。

<一致点>
「(1)樹脂基板に被エッチング層を形成し,前記被エッチング層の上部にフォトレジスト層を形成する段階と,
(2)前記フォトレジスト層でコーティングされた前記被エッチング層にリソグラフィを行い,前記リソグラフィにより生成されたフォトレジストパターンを含む前記被エッチング層に第1等方性エッチングを行なう段階と,
(3)前記被エッチング層の上部のフォトレジストパターン及び第1等方性エッチングが行われた被エッチング層と前記フォトレジストパターンとの境界面にパシベーション層を溶着する段階と,
(4)溶着された前記パシベーション層のうち,前記被エッチング層の前記第1等方性エッチングが行われた所定の部分の前記パシベーション層を除去する段階と,
(5)前記パシベーション層の除去された前記所定の部分に第2等方性エッチングを行なうことによって前記ポリイミド基板を露出させる段階と,
を含む,等方性エッチングを用いた微細パターン形成方法。」

<相違点>
・相違点1:本願補正発明1では,被エッチング層が形成されるのが,「ポリイミド基板」であるのに対して,引用発明では,そのような特定がされていない点。

・相違点2:本願補正発明1では,パシベーション層は,「ディップコーティング(Dipping coating)方法で有機物コーティング処理」することで溶着されているのに対して,引用発明では,このような特定がされていない点。

イ 本願補正発明1と引用発明との相違点についての判断
・相違点1について
引用例1の上記摘記(1e)に「樹脂基材を使用せずに金属板2からリードフレームを製造したり,あるいは樹脂基材として可撓性のあるものを使用することによりタブテープ(TAB-TAPE)を製造することができる。このように,本発明はサブトラクティブ法により製造するあらゆる回路基板の製品について適用可能である。」と記載されているから,引用発明の樹脂基材1として,可撓性のあるものを使用することは引用例1に記載された事項である。
一方,下記の周知例1の記載からも明らかなように,可撓性のある樹脂基材として,ポリイミドフィルムは,本願の優先権主張の日前において周知である。
そうすると,引用発明において,樹脂基材1として,可撓性のある樹脂基材であるポリイミドフィルム,すなわち「ポリイミド基板」を用いること,すなわち,上記相違点1について本願補正発明1の構成となすことは,当業者にとって容易である。また,このような構成を採用したことによる効果は当業者が予測する範囲内のものである。

・周知例1:特開平3-24285号公報
(周1a)「(産業上の利用分野)
本発明は金属のエッチングを利用して作られるリードフレーム,フレキシブルプリント基板,テープキャリア等の製品の製造におけるエッチング方法に関する。」(第1頁左下欄第11-15行)

(周1b)「〔実施例1〕
1.第一エッチング
ポリイミドフィルムに厚さ35μmの銅箔をエポキシ樹脂系接着剤でラミネートしたもの(以下ラミネートと言う)を脱脂処理および酸洗いしてから,市販のポジ型フォトレジスト(ノボラック樹脂系)をロールコータで,厚さ5μmに塗布した。」(第2頁右下欄第6-13行)

・相違点2について
「液状レジスト」として有機物であるものは周知である。そして,下記の周知例2-4の記載からも明らかなように,液状の材料の塗布方法として,ディップコーティング(Dipping coating)方法は,本願の優先権主張の日前において通常用いられていた方法の一つにすぎない。
したがって,引用発明において,有機物からなる第2のレジスト20を塗布するにあたり,ディップコーティング(Dipping coating)方法を用いること,すなわち,上記相違点2について,本願補正発明1の構成となすことは当業者にとって容易である。また,このような構成を採用したことによる効果は当業者が予測する範囲内のものである。

・周知例2:特開2006-86437号公報
(周2a)「【0026】
B.第2実施形態
上述した第1実施形態では,スピンコート法によって第1ゲート絶縁膜220及び第2ゲート絶縁膜230を形成したが,液体材料を用いた他の方法(例えば,スピンレス法やディップコーティング法,液滴吐出法)によって形成しても良い。」

・周知例3:特開2005-307183号公報
(周3a)「【0064】
本発明の膜形成用組成物(オリゴマー,ポリマー)は,ディップコーティング,スプレーコーティング,押出コーティング,又は縒り好ましくはスピンコーティングによって塗布することができる。」

・周知例4:特開2005-170943号公報
(周4a)「【0055】
上記ii)段階において,基板は,本発明の目的を阻害しない限り特に制限されず,熱硬化条件に耐えられる全ての基板,例えばガラス基板,シリコンウェーハ,プラスチック基板などを用途に応じて選択して使用することができる。本発明で使用可能なコーティング液を塗布する方法の例は,スピンコーティング(spin coating),ディップコーティング(dip coating),スプレーコーティング(spray coating),フローコーティング(flow coating),及びスクリーン印刷(screen printing)を含むが,これに制限されない。」

ウ 小括
相違点1-2については,以上のとおりであるから,本願補正発明1は,上記引用例1に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)むすび
本願補正発明1は,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5 補正の却下の決定のむすび
したがって,本件補正は,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成25年10月4日に提出された手続補正書による補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項1-6に係る発明は,平成24年9月5日に提出された手続補正書によって補正された明細書,特許請求の範囲及び図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1-6に記載されている事項により特定されるとおりのものであるところ,そのうち請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)は,次のとおりである。

「【請求項1】
(1)ポリイミドフィルムである半導体基板に被エッチング層を形成し,前記被エッチング層の上部にフォトレジスト層をコーティングする段階と,
(2)前記フォトレジスト層でコーティングされた前記被エッチング層にリソグラフィを行い,前記リソグラフィにより生成されたフォトレジストパターンを含む前記被エッチング層に第1等方性エッチングを行なう段階と,
(3)前記フォトレジストパターンを含む前記被エッチング層の上部にパシベーション層を溶着する段階と,
(4)溶着された前記パシベーション層のうち,前記被エッチング層の前記第1等方性エッチングが施された所定の部分に相当する部分を選択的に除去する段階と,
(5)前記パシベーション層の除去された前記所定の部分に第2等方性エッチングを行なうことによって前記半導体基板を露出させる段階と,
を含む,等方性エッチングを用いた微細パターン形成方法。」

2 進歩性について
(1)引用例及びその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用され,本願の優先権の主張の日前に頒布された刊行物である引用例1に記載されている事項は,上記「第2 4 (2)引用例とその記載事項,及び,引用発明」の項で指摘したとおりである。

(2)当審の判断
本願発明1を限定し,明瞭でない記載を釈明したものである本願補正発明1が,前記「第2 4 (3)本願補正発明1の進歩性についての検討」で判断したとおり,引用例1に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明1も同様に,引用例1に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり,本願の請求項1に係る発明は,引用例1に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。したがって,他の請求項について検討するまでもなく,本願は拒絶をすべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-05-20 
結審通知日 2014-05-27 
審決日 2014-06-10 
出願番号 特願2009-530262(P2009-530262)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01L)
P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 和瀬田 芳正越本 秀幸粟野 正明  
特許庁審判長 松本 貢
特許庁審判官 加藤 浩一
西脇 博志
発明の名称 等方性エッチングを用いた微細パターン形成方法  
代理人 龍華国際特許業務法人  

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