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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1293389
審判番号 不服2013-21367  
総通号数 180 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-12-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-11-01 
確定日 2014-10-30 
事件の表示 特願2007-234061「眼鏡レンズ」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 3月26日出願公開,特開2009- 63976〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成19年9月10日の出願であって,平成23年11月21日付けで拒絶理由が通知され,平成24年1月25日に意見書及び手続補正書が提出され,同年10月10日付けで拒絶理由が通知され,同年12月10日に意見書及び手続補正書が提出されたが,平成24年12月10日提出の手続補正書による手続補正が平成25年8月8日付けで却下されるとともに同日付けで拒絶査定がなされたところ,同年11月1日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出されたものである。
なお,請求人は,当審における平成26年1月24日付けの審尋に対して,同年3月25日に回答書を提出している。


第2 補正却下の決定
〔補正却下の決定の結論〕
平成25年11月1日提出の手続補正書による手続補正を却下する。

〔理由〕
1 補正の内容
平成25年11月1日提出の手続補正書による手続補正(以下「本件補正」という。)は,平成24年1月25日提出の手続補正書による手続補正によって補正された(以下「本件補正前」という。)特許請求の範囲及び明細書について補正しようとするもので,そのうち,請求項1に係る補正については次のとおりである。(下線は補正箇所を示す。)
(1)本件補正前の請求項1,9,10
「【請求項1】
下記式(1)で表されるカーボネート構成単位[A]および下記式(2)で表されるカーボネート構成単位[B]からなり,カーボネート構成単位[A]のモル分率の割合がカーボネート構成単位[A]および[B]の合計に対して50?100モル%であるホモまたは共重合ポリカーボネート樹脂より成形された眼鏡レンズ。
【化1】

【化2】

(ただしmは1?20の整数)」
「【請求項9】
ホモまたは共重合ポリカーボネート樹脂もしくはポリカーボネート樹脂ブレンド物は,光弾性定数が0×10^(-12)?50×10^(-12)Pa^(-1)の範囲である請求項1または5記載の眼鏡レンズ。」
「【請求項10】
ホモまたは共重合ポリカーボネート樹脂もしくはポリカーボネート樹脂ブレンド物は,屈折率が1.45?1.65の範囲であり,且つアッベ数が50?90の範囲である請求項1または5記載の眼鏡レンズ。」

(2)本件補正後の請求項1
「【請求項1】
下記式(1)で表されるカーボネート構成単位[A]および下記式(2)で表されるカーボネート構成単位[B]からなり,カーボネート構成単位[A]のモル分率の割合がカーボネート構成単位[A]および[B]の合計に対して50?100モル%であって,光弾性定数が0×10^(-12)?50×10^(-12)Pa^(-1)の範囲であり,屈折率が1.45?1.65の範囲であり,且つアッベ数が50?90の範囲であるホモまたは共重合ポリカーボネート樹脂より成形された眼鏡レンズ。
【化1】

【化2】

(ただしmは1?20の整数)」

2 新規事項の追加及び補正の目的について
請求項1に係る本件補正は,本件補正前の請求項1に記載された発明特定事項である「ホモまたは共重合ポリカーボネート樹脂」について,「光弾性定数が0×10^(-12)?50×10^(-12)Pa^(-1)の範囲である」という本件補正前の請求項9に記載された発明特定事項,及び,「屈折率が1.45?1.65の範囲であり,且つアッベ数が50?90の範囲である」という本件補正前の請求項10に記載された発明特定事項による限定を付加しようとするものである。
本件補正により請求項1に付加された,「ホモまたは共重合ポリカーボネート樹脂」が「光弾性定数が0×10^(-12)?50×10^(-12)Pa^(-1)の範囲であ」る点は,本願の願書に最初に添付された明細書(以下,願書に最初に添付された明細書を「当初明細書」といい,願書に最初に添付された明細書及び特許請求の範囲をあわせて「当初明細書等」という。)の【0052】等に記載されており,本件補正により請求項1に付加された「ホモまたは共重合ポリカーボネート樹脂」が「屈折率が1.45?1.65の範囲であり,且つアッベ数が50?90の範囲である」点は,本願の当初明細書の【0053】,【0054】等に記載されているから,本件補正は,本願の当初明細書等に記載された事項の範囲内においてなされた補正であって,特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしている。
また,請求項1に係る本件補正は,本件補正前の請求項1に記載された発明特定事項である「ホモまたは共重合ポリカーボネート樹脂」について,「光弾性定数が0×10^(-12)?50×10^(-12)Pa^(-1)の範囲であり,屈折率が1.45?1.65の範囲であり,且つアッベ数が50?90の範囲である」ことを限定するものであって,本件補正の前後で当該請求項に係る発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であると認められるから,特許法17条の2第5項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで,本件補正後の請求項1に係る発明(以下,「本願補正発明」という。)について,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか)について次欄で検討する。

3 独立特許要件について
(1)本願補正発明
本願補正発明は,本件補正後の特許請求の範囲,明細書及び図面の記載からみて,前記1(2)にて示したとおりのものと認める。

(2)引用例
ア 国際公開第2007/013463号
(ア)国際公開第2007/013463号の記載事項
国際公開第2007/013463号(以下「引用刊行物」という。)は,原査定の拒絶の理由において「引用文献3」として引用された,本願の出願前に頒布された刊行物であって,当該引用刊行物には次の記載がある。(下線は,後述する引用発明の認定に特に関係する箇所を示す。)
a 「技術分野
[0001]
本発明は,地球環境に配慮した高耐熱性のポリカーボネート,更に詳しくは,植物資源由来のジオール化合物をジオール成分とし,ビスフェノールAをジオール成分とするポリカーボネート(ビスフェノールA型ポリカーボネート)よりも高いガラス転移温度を有する耐熱性に優れたポリカーボネート,及び,その製造方法に関する。
背景技術
[0002]
地球環境に配慮したポリカーボネートとして植物資源由来のジオール化合物であるイソソルビドをジオール成分とするポリカーボネート(イソソルビド型ポリカーボネート)が提案されている。例えば,特許文献1には,焼却処分しても地球温暖化への影響が少ない熱可塑性成形材料としてこのようなイソソルビド型ポリカーボネートが開示されている。
[0003]
このポリカーボネートは,該ジオール成分とカーボネート化合物(ジエチル又はジプロピルカーボネート等)とのエステル交換反応などによって製造され,例えば,イソソルビド,ジエチルカーボネート,ナトリウムメトキシド(触媒)を使用し,最終的に200℃まで昇温して減圧下で30分間反応させることにより,重量平均分子量84000(GPCによる;スチレン換算),ガラス転移温度86℃(DSCによる;但し昇温速度は不明である)のイソソルビド型ポリカーボネートが得られている。しかし,このポリカーボネートは,ビスフェノールA型ポリカーボネート(ガラス転移温度150℃程度;非特許文献1)に比べ,ガラス転移温度が極めて低く耐熱性に著しく劣るため,実用的価値の乏しいものであった。また,本発明者らが前記文献に開示されている方法によってこのポリカーボネートを製造しても,上記の重量平均分子量を持つものは得られず,ガラス転移温度が更に高く耐熱性に優れたイソソルビド型ポリカーボネートを得ることはできなかった。
[0004]
また,非特許文献2には,ジフェニルカーボネートを用いてガラス転移温度の高いイソソルビド型ポリカーボネートを製造する方法が開示されている。例えば,イソソルビド,ジフェニルカーボネート,酢酸亜鉛を使用し,210℃,1mmHgの条件で8時間反応させることにより,数平均分子量26700(GPCによる;スチレン換算),ガラス転移温度166℃(DSCによる;昇温速度5℃/分)のイソソルビド型ポリカーボネートが得られている。
[0005]
また,特許文献2には,イソソルビド及び脂肪族アルキレングリコールをジオール成分とするポリカーボネートが開示され,その比較例として,イソソルビド,ジフェニルカーボネート,テトラメチルアンモニウムヒドロキシド及び2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン二ナトリウム塩を使用し,最終的に250℃まで昇温して6.66×10^(-5)MPaで1時間反応させることにより,還元粘度0.457(フェノール/テトラクロロエタン混合溶媒,濃度1.2g/dl,温度30℃),ガラス転移温度163.7℃(DSCによる;昇温速度20℃/分)のイソソルビドをジオール成分とするポリカーボネートが得られることが記載されている。
[0006]
しかし,非特許文献2及び特許文献2記載のポリカーボネートは,ガラス転移温度がビスフェノールA型ポリカーボネートより高く耐熱性を一応満足できるものであるが,実用的価値の高い更に耐熱性に優れたイソソルビド型ポリカーボネートについては製造方法も含めて全く知られていなかった。
[特許文献1]特開2003-292603号公報
[特許文献2]WO2004/111106
[非特許文献1]ポリカーボネート樹脂ハンドブック,日刊工業新聞社(1992),191頁
[非特許文献2]J.Appl.PolymerSci.,86,872(2002)
[発明の開示]
[発明が解決しようとする課題]
[0007]
本発明は,地球環境に配慮した高耐熱性のポリカーボネート及びその製造方法を提供することを目的とする。即ち,本発明は,植物資源由来のジオール化合物であるイソソルビドをジオール成分とするポリカーボネート(イソソルビド型ポリカーボネート)において,公知のビスフェノールA型ポリカーボネートやイソソルビド型ポリカーボネートよりも高いガラス転移温度を有する耐熱性に優れたポリカーボネート及びその製造方法を提供する。」

b 「課題を解決するための手段
[0008]
本発明者らは,前記目的を解決すべく鋭意検討を重ねた結果,イソソルビドとジアリールカーボネートをスズ触媒存在下で最終的に220?270℃まで昇温してエステル交換反応させることにより,目的のガラス転移温度が高い耐熱性に優れたポリカーボネートが得られることを見出して本発明を完成するに至った。即ち,本発明の目的は以下の発明により解決される。
[0009]
1.下式(I)で表される構造単位を含み,昇温速度10℃/分での示差熱量測定によるガラス転移温度が170℃以上であるポリカーボネート。
[0010]
[化1]

[0011]
2.ポリカーボネートのヘキサフルオロイソプロパノール溶液(濃度0.5g/dl)の25℃における粘度測定による還元粘度(ηsp/c)が0.7dl/g以上である,上記1に記載のポリカーボネート。
[0012]
3.下式(II)で表される,上記1又は2記載のポリカーボネート(但し,式中,nは重合度を表す正の整数である。)。
[0013]
[化2]

[0014]
4.イソソルビドとジアリールカーボネートをスズ触媒存在下に最終到達温度を220?270℃の範囲としてエステル交換反応させることを特徴とする,上記1?3のいずれかに記載のポリカーボネートの製造方法。
5.スズ触媒がルイス酸である有機スズ化合物である,上記4に記載のポリカーボネートの製造方法。」

c 「発明の効果
[0015]
本発明により,地球環境に配慮した高耐熱性のポリカーボネート,即ち,植物資源由来のジオール化合物であるイソソルビドをジオール成分とするポリカーボネート(イソソルビド型ポリカーボネート)において,公知のビスフェノールA型ポリカーボネートやイソソルビド型ポリカーボネートよりも高いガラス転移温度を有する耐熱性に優れたポリカーボネート,及び,その製造方法を提供することができる。
[0016]
本発明のポリカーボネートは,再生可能な植物資源由来の原料を利用しているために廃棄に伴う地球環境への負荷が非常に少なく,更に,高耐熱性である上に高い弾性率と良好な耐加水分解性及び光学的性質を示すことから,従来のポリカーボネートの代替品と成り得るものである。例えば,シート,パイプ,容器,その他の成形品として,自動車,コンピューター及びその関連機器,光学機器・部材,電気・電子機器,情報・通信機器,精密機器,土木・建築用品,医療用品,家庭用品などの広範な用途において使用することができる。」

d 「発明を実施するための最良の形態
[0018]
以下,本発明を詳細に説明する。本発明のポリカーボネートは前記式(I)で表される構造単位を含んで成り,昇温速度10℃/分での示差熱量測定(DSC)によるガラス転移温度(Tg)が170℃以上,好ましくは170?180℃の範囲にあるポリカーボネートである。
[0019]
このポリカーボネートは,そのヘキサフルオロイソプロパノール溶液(濃度0.5g/dl)の25℃における粘度測定による還元粘度(ηsp/c)が0.7dl/g以上であることが好ましいが,0.7?2.0dl/g,更には1.0?2.0dl/g,特に1.0?1.5dl/gの範囲であることがより好ましい。還元粘度が0.7dl/gより小さいと,ガラス転移温度が低く充分な耐熱性が得られず,2.0dl/gより大きいと,溶融粘度が高く成形性が悪くなる。
[0020]
このような本発明のポリカーボネートは,また,前記式(II)で表されるポリカーボネートであること,即ち同一の構造単位の繰り返し構造を有することが好ましい。ここで,式中の「n」は重合度を表す正の整数であり,前記還元粘度に対応するものである。通常は,重合度の異なる化合物の混合物として得られ,混合物として前記還元粘度の範囲を満たす。
[0021]
本発明のポリカーボネートは,イソソルビドとジアリールカーボネートをスズ触媒存在下に最終到達温度を220?270℃の範囲としてエステル交換反応させることにより製造することができる。
[0022]
スズ触媒としては,ルイス酸である有機スズ化合物が好ましく,例えば,ジスタノキサン化合物(1-ヒドロキシ-3-イソチオシアネート-1,1,3,3-テトラブチルジスタノキサン等),酢酸スズ,ジラウリン酸ジブチルスズ,ブチルチンヒドロキシドオキシドヒドレートなどが高活性で好適である。この中では,ブチルチンヒドロキシドオキシドヒドレートが特に好ましい。触媒添加量は,ポリカーボネートを速やかに得られる条件であれば特に制限されないが,ジアリールカーボネート1モルに対して10-5?10-3モルであることが好ましい。
[0023]
ジアリールカーボネートとしては,例えば,ジフェニルカーボネート,ジナフチルカーボネート等が挙げられるが,中でもジフェニルカーボネートが好ましい。また,ジアリールカーボネートは,本発明のポリカーボネートの特性を損なわない範囲で他の有機カーボネートを単独又は複数で含んでいてもよい。このような有機カーボネートとしては,例えば,ジメチルカーボネート,ジエチルカーボネート,ジプロピルカーボネート,ジブチルカーボネート等のジアルキルカーボネートが挙げられる。
[0024]
イソソルビドは,1,4:3,6-ジアンヒドロ-D-グルシトール又は1,4:3,6-ジアンヒドロ-D-ソルビトールとも呼ばれる二環状エーテル(テトラヒドロフラン環)のジオールであり,前記式で表されるポリカーボネートのジオール成分を構成する。また,イソソルビドに加えて,必要に応じて,本発明のポリカーボネートの特性を損なわない範囲で他のジオールやポリオールを単独又は複数で含んでいてもよい。この場合,得られるポリマーは,式(I)の構造単位に加えて,他のジオールやポリオールに由来する構造を含有する。3価以上のポリオールを用いると,ポリカーボネートの分子鎖に分岐が導入される。また,ジオールやポリオールを用いない場合には,実質的に式(II)の構造を有するポリカーボネートが得られる。
[0025]
このようなジオールやポリオールとしては,例えば,イソソルビドの立体異性体(1,4:3,6-ジアンヒドロ-D-マンニトール,1,4:3,6-ジアンヒドロ-L-イディトール),脂肪族ジオール(エチレングリコール,1,3-プロパンジオール,1,4-ブタンジオール,1,5-ペンタンジオール,1,6-ヘキサンジオール,1,7-ヘプタンジオール,1,8-オクタンジオール,1,9-ノナンジオール,1,10-デカンジオール,1,11-ウンデカンジオール,1,12-ドデカンジオール,ネオペンチルグリコール等),脂環式ジオール(トランス(又はシス)-1,4-シクロヘキサンジメタノール等),芳香族ジオール(p-キシリレングリコール,m-キシリレングリコール,o-キシリレングリコール,ハイドロキノン,ビスフェノールA等),イソソルビド及びイソソルビド異性体とは異なる複素環式多価アルコール(D-ソルビトール等)が挙げられる。
[0026]
ジアリールカーボネートとイソソルビドの使用割合は,ジアリールカーボネート/イソソルビド(モル比)が0.5?2.0,更には0.91?1.1,特に0.99?1.01であることが好ましい。なお,これらが他の有機カーボネートや他のジオール又はポリオールを含む場合も,それぞれジアリールカーボネートやイソソルビドに相当するものとしてこの範囲で(即ち,カーボネートのエステル基のモル数とジオール又はポリオールのOH基のモル数がこの範囲となるように)使用される。
[0027]
本発明のポリカーボネートは,前記のように,イソソルビドとジアリールカーボネートをスズ触媒存在下で最終到達温度を220?270℃としてバッチ式又は連続式でエステル交換反応(重縮合反応)させることにより製造される。具体的には,次のような(i)前重縮合工程及び(ii)後重縮合工程の順で反応させることが好ましい。
[0028]
(i)前重縮合工程:イソソルビドとジアリールカーボネートを反応器に仕込んで,反応器内を窒素置換した後,攪拌及び/又は窒素バブリングしながら突沸させないように徐々に所定の反応温度まで昇温する。このとき,反応圧力は常圧でよいが,反応温度は120?210℃,更には150?210℃,特に180?210℃の範囲になるように制御することが好ましい。
[0029]
引き続き,所定温度において,突沸させないように徐々に減圧して圧力を500?100mmHg(66.5?13.3kPa)にして数時間保持し,生成したアルコール(フェノール等)を留出させる。その後,更に昇温及び減圧してアルコールを完全に留出させるが,その際の最終到達温度は前記温度範囲内であることが好ましい。最終到達圧力は3.0mmHg(400Pa)より低い圧力,更には0.01mmHg(1.33Pa)以上で3.0mmHg(400Pa)より低い,特に0.1?2.0mmHg(13.3?266Pa)の範囲の圧力であることが好ましい。最終到達圧力下での反応時間は30分?1時間であり,この間に生成したアルコールの留出がほぼ終了する。
[0030]
(ii)後重縮合工程:次いで,前重縮合工程の最終到達圧力下,反応温度を徐々に上げて,最終的に220?270℃,好ましくは220?260℃,更に好ましくは220?250℃の範囲にまで到達させる。このとき,昇温時間を含めて1?10時間,特に2?8時間,この温度と圧力を維持して反応を行なうことが好ましい。最終到達温度が220℃より低い場合,得られるポリカーボネートは還元粘度が低く,結果的にガラス転移温度が低く耐熱性の悪いものになる。また,270℃より高い場合は,反応時の熱劣化が顕著となって,得られるポリカーボネートは還元粘度が低く,結果的にガラス転移温度が低く耐熱性の悪いものになる。
[0031]
このように,本発明では,イソソルビドとジアリールカーボネートを,(i)前重縮合工程において,最終到達温度を120?210℃の範囲とし,最終到達圧力を3.0mmHg(400Pa)より低い圧力になるように制御して反応させ,次いで,(ii)後重縮合工程において,最終到達温度を220?270℃の範囲とし,最終到達圧力は前重縮合工程と同様に3.0mmHg(400Pa)より低い圧力となるように制御しながらアルコール(フェノール等)を留出させて反応させることが好ましい。
・・・(中略)・・・
[0034]
本発明のポリカーボネートは,射出成形,押出成形,中空成形,プレス成形など,公知のポリカーボネートに適用される成形加工法により,各種成形物に成型加工することができる。このような成形物は,例えば,シート,パイプ,容器,その他成形品として,自動車,コンピューター及び関連機器,光学機器・部材,電気・電子機器,情報・通信機器,精密機器,土木・建築用品,医療用品,家庭用品など,従来,ポリカーボネート成形物が用いられてきた広範な用途に使用できる。」

e 「実施例
[0035]
次に,実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。なお,ポリカーボネートの評価は次のように行なった。
[0036]
(1)構造解析:一次構造の解析は^(1)H-NMRにより行なった。但し,^(1)H-NMRは,AVANCE500(ブルカー・バイオスピン社製)を使用し,DMSO溶媒,積算回数32回の条件で測定した。
[0037]
(2)還元粘度(η_(sp)/c):ポリカーボネートのヘキサフルオロイソプロパノール溶液(濃度0.5g/dl)を使用して25℃でウベローデ粘度計により測定した。
[0038]
(3)融点(T_(m)),ガラス転移温度(T_(g)):示差熱量測定(DSC)により求めた(窒素雰囲気下,昇温及び降温速度10℃/分)。
[0039]
(4)引張特性:プレスシートからJIS3号ダンベル試験片を採取し,23℃,50%RHにおいて10mm/分の引張速度で測定した。
[0040]
(5)耐加水分解性:プレスシートから20mm×5mmの試験片を切り出して,50℃,90%RHの雰囲気に放置し,所定時間経過後,その試験片について還元粘度を前記と同様に測定して放置前の試験片の還元粘度に対する保持率(%)を求めた。
[0041]
(6)光学的性質(屈折率,アッベ数):プレスシートから20mm×5mmの試験片を切り出し,多波長アッベ屈折計(アタゴ社製)を用いて,23℃,50%RHの条件で測定した。このとき,屈折率はナトリウムのD線を光源として使用した。また,アッベ数(νe)は,e線,F’線,C’線を使用して同様に屈折率をそれぞれ測定し,下式により算出した。
[0042]
νe=(n_(e)-1)/(n_(F’)-n_(C’))(式中,n_(e),n_(F’),n_(C’)は,e線,F’線,C’線を使用して測定される屈折率をそれぞれ表す。)
[0043]
〔実施例1〕
直径約30mmφのガラス製反応管(撹拌機,空冷管,窒素導入管を備える)に,ジフェニルカーボネート21.408g(0.1mol),イソソルビド14.616g(0.1mol)及びブチルチンヒドロキシドオキシドヒドレート(C_(4)H_(9)Sn(O)OH・xH_(2)O)2.1mgを仕込んで,内部を窒素で置換した。次いで,以下のように重縮合反応(前重縮合工程及び後重縮合工程)を行なった。なお,昇温及び反応は窒素気流下で行なった。
[0044]
(i)前重縮合工程:前記反応管をオイルバス中に設置してバス温を室温から190℃まで1時間かけて昇温させた後,反応温度を190℃に保ったままで300mmHg(39.9kPa)に減圧し,更に100mmHg(13.3kPa)に減圧して1時間反応させた。この間にフェノールが留出し始めた。引き続き,反応温度を200℃へ上げると共に真空度を徐々に上げながら1時間反応させた。最終到達圧力は0.5mmHg(66.5Pa)であった。
[0045]
(ii)後重縮合工程:次いで,反応管を予め200℃に保っておいた塩浴に移し,0.5mmHg(66.5Pa)で反応温度が240℃になるまで昇温を続けた。2.5時間かけて240℃に到達させた後,更にその温度及び圧力で2時間反応させた。反応終了後,反応官を冷却して内容物を取り出した。得られたポリカーボネートの物性(還元粘度,融点,ガラス転移温度)を表1に示す。
[0046]
〔実施例2〕
後重縮合工程において,最終到達温度を235℃にした以外は,実施例1と同様に反応を行なってポリカーボネートを得た。得られたポリカーボネートの物性を表1に示す。また,このポリカーボネートの^(1)H-NMRスペクトルを図1に示す。これより,このポリカーボネートが前記式(II)で表される構造を有していることが明らかである。
[0047]
次に,ホットプレス(神藤金属工業製)を使用し,得られたポリカーボネートから厚み約0.35mmのシートを下記の条件で作製した。このシートについて引張特性及び光学的性質を評価した結果を表2に示す。
・予熱:225℃,5分
・加圧:225℃,10MPa,1分
・冷却:空冷,大気圧下
・・・(中略)・・・
[0055]
[表1]

[0056]
[表2]



f 「産業上の利用可能性
[0057]
本発明のポリカーボネートは,例えば,シート,パイプ,容器,その他成形品として,自動車,コンピューター及びその関連機器,光学機器・部材,電気・電子機器,情報・通信機器,精密機器,土木・建築用品,医療用品,家庭用品などの広範な用途において,従来のポリカーボネートの代替品に成り得る。」

(イ)引用刊行物に記載された発明
前記(ア)eの[0055]の[表1],及び,[0056]の[表2]には,実施例2のポリカーボネートのガラス転移温度が173℃であり,屈折率が1.5であり,アッベ数(前記(ア)eの[0041]及び[0042]に記載の「νe」)が61であることが示されているから,前記(ア)aないしfから,引用刊行物には次の発明が記載されていると認められる。

「下式(II)で表され,
撹拌機,空冷管及び窒素導入管を備える直径約30mmφのガラス製反応管に,ジフェニルカーボネート21.408g(0.1mol),イソソルビド14.616g(0.1mol)及びブチルチンヒドロキシドオキシドヒドレート(C_(4)H_(9)Sn(O)OH・xH_(2)O)2.1mgを仕込んで,内部を窒素で置換し,次いで,前記反応管をオイルバス中に設置してバス温を室温から190℃まで1時間かけて昇温させた後,反応温度を190℃に保ったままで300mmHg(39.9kPa)に減圧し,更に100mmHg(13.3kPa)に減圧して1時間反応させ,引き続き,反応温度を200℃へ上げると共に最終到達圧力が0.5mmHg(66.5Pa)となるように1時間かけて真空度を徐々に上げながら反応させ,次いで,反応管を予め200℃に保っておいた塩浴に移し,0.5mmHg(66.5Pa)で反応温度が235℃になるまで昇温を続け,2.5時間かけて235℃に到達させた後,更にその温度及び圧力で2時間反応させ,反応終了後,反応官を冷却することによって得られるポリカーボネートであって,
昇温速度10℃/分での示差熱量測定によるガラス転移温度が173℃であり,屈折率が1.5であり,アッベ数(νe)が61であるポリカーボネート,
を用いて製造された光学機器・部材用途のポリカーボネート成形物。

(但し,式中,nは重合度を表す正の整数である。)」(以下「引用発明」という。)

イ 特開2006-154783号公報
特開2006-154783号公報(以下「周知例1」という。)は,原査定の拒絶の理由において「引用文献4」として引用された,本願の出願前に頒布された刊行物であって,当該周知例1には次の記載がある。(下線は,後述する周知の事項の認定に特に関係する箇所を示す。)
(ア)「【背景技術】
【0003】
ポリカーボネート樹脂は高屈折率で透明性や耐衝撃性に優れた特性を有し,最近はレンズの素材,なかでも眼鏡レンズの素材として幅広く使用されている。ポリカーボネート樹脂製の眼鏡レンズは,従来のガラスレンズや注型重合によるプラスチックレンズ(以下注型レンズという)より薄くて,軽くて,衝撃強度が著しく高く,したがって安全で,かつ機能性が高いため,眼鏡レンズとして視力補正用レンズ,サングラスおよび保護眼鏡等に用いられるようになってきた。」

(イ)「【0088】
前記ポリカーボネート樹脂組成物を使用して眼鏡レンズを成形するには,それ自体公知の方法を採用することができる。具体的には,本発明の眼鏡レンズは,前記ポリカーボネート樹脂組成物を溶融押出した成形材料(ペレット等)を射出成形,圧縮成形,押出成形または射出圧縮成形等各種の成形方法により成形されるが,射出圧縮成形が光学歪みの少ないレンズを生産性良く成形でき好ましい方法である。射出圧縮成形において,シリンダー温度は250?320℃,金型温度は80?140℃が好ましい。」

ウ 特開2003-160660号公報
特開2003-160660号公報(以下「周知例2」という。)は,原査定の拒絶の理由において「引用文献5」として引用された,本願の出願前に頒布された刊行物であって,当該周知例2には次の記載がある。(下線は,後述する周知の事項の認定に特に関係する箇所を示す。)
(ア)「【0002】
【従来の技術】・・・(中略)・・・
【0004】一方,生産性を改善するために,熱可塑性樹脂で射出成形もしくは射出圧縮成形により眼鏡レンズを作ることも試みられ,ポリメチルメタクリレート製の眼鏡レンズ,ポリカーボネート製の眼鏡レンズが市販されている。」

(イ)「【0065】前記ポリカーボネート樹脂共重合体を使用してプラスチックレンズを成形するには,それ自体公知の方法を採用することができる。具体的には,本発明のプラスチックレンズは射出成形,圧縮成形,押出成形,射出圧縮成形等各種の成形方法により成形されるが,射出圧縮成形が光学歪みの少ないレンズを成形でき最も好ましい方法である。射出圧縮成形において,シリンダー温度は200?340℃,金型温度は60?140℃が好ましい。」

エ 特開2003-90901号公報
特開2003-90901号公報(以下「周知例3」という。)は,原査定の拒絶の理由において「引用文献6」として引用された,本願の出願前に頒布された刊行物であって,当該周知例3には次の記載がある。(下線は,後述する周知の事項の認定に特に関係する箇所を示す。)
(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,プラスチックレンズおよびそのために利用できる共重合ポリカーボネート樹脂またはポリカーボネート樹脂ブレンド物に関する。さらに詳しくは,透明性,耐熱性,耐衝撃性を高水準に保持し,屈折率とアッベ数のバランスを良好に有し,低い複屈折を有するプラスチックレンズおよび共重合ポリカーボネート樹脂に関する。本発明の共重合ポリカーボネート樹脂またはポリカーボネート樹脂ブレンド物は,前記光学特性および物理特性に優れているので,種々のプラスチックレンズの他に光学用成形品特に位相差フィルム等にも利用でき,また流動性にも優れているのでこれら成形品を容易に成形・加工するのに適している。
・・・(中略)・・・
【0004】
【発明が解決しようとする課題】そこで本発明の第1の目的は,透明性,耐熱性および耐衝撃性に優れたプラスチックレンズ殊に眼鏡レンズを提供することにある。」

(イ)「【0064】前記した共重合ポリカーボネート樹脂またはポリカーボネート樹脂ブレンド物を使用してプラスチックレンズを成形するには,それ自体公知の方法を採用することができる。具体的には,本発明プラスチックレンズは射出成形,圧縮成形,押出成形または射出圧縮成形等各種の成形方法により成形されるが,射出圧縮成形が光学歪みの少ないレンズを成形でき最も好ましい方法である。射出圧縮成形において,シリンダー温度は180?300℃,金型温度は40?120℃が好ましい。」

オ 周知例1ないし3から把握できる事項
周知例1ないし3の前記各記載(前記イ(ア)及び(イ),前記ウ(ア)及び(イ),前記エ(ア)及び(イ))からみて,「ポリカーボネート樹脂より成形された眼鏡レンズ。」が本願の出願前に周知であったと認められる(以下,「ポリカーボネート樹脂より成形された眼鏡レンズ。」を「周知の事項」という。)。

(3)対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
ア 「式(II)で表され」,「ジフェニルカーボネート21.408g(0.1mol)」と「イソソルビド14.616g(0.1mol)」とを出発物質として合成される引用発明の「ポリカーボネート」は,「式(1)で表されるカーボネート構成単位[A]および式(2)で表されるカーボネート構成単位[B]からなり,カーボネート構成単位[A]のモル分率の割合がカーボネート構成単位[A]および[B]の合計に対して50?100モル%」である「ホモまたは共重合ポリカーボネート樹脂」のうちのモル分率が100モル%であるホモポリカーボネート樹脂にほかならないから,当該引用発明の「ポリカーボネート」は,「式(1)で表されるカーボネート構成単位[A]および式(2)で表されるカーボネート構成単位[B]からなり,カーボネート構成単位[A]のモル分率の割合がカーボネート構成単位[A]および[B]の合計に対して50?100モル%」であるという本願補正発明の「ホモまたは共重合ポリカーボネート樹脂」についての発明特定事項に相当する構成を具備している。

イ 引用発明の「ポリカーボネート」の屈折率は「1.5」であって,「1.45?1.65の範囲」という本願補正発明の「ホモまたは共重合ポリカーボネート樹脂」の屈折率の数値範囲を満たしており,引用発明の「ポリカーボネート」のアッベ数(νe)は「61」であって,「50?90の範囲」という本願補正発明の「ホモまたは共重合ポリカーボネート樹脂」のアッベ数の数値範囲を満たしている。
したがって,引用発明の「ポリカーボネート」は,「屈折率が1.45?1.65の範囲であり,且つアッベ数が50?90の範囲である」という本願補正発明の「ホモまたは共重合ポリカーボネート樹脂」についての発明特定事項に相当する構成を具備している。

ウ 引用発明の「ポリカーボネート成形物」は,前記アで述べた「ホモポリカーボネート」を用いて成形されたものであるから,本願補正発明の「ホモまたは共重合ポリカーボネート樹脂より成形された」という発明特定事項に相当する構成を具備している。
また,本願補正発明の「眼鏡レンズ」が「光学部材」の一態様であることは自明であるから,本願補正発明と引用発明とは,「光学部材用途のポリカーボネート成形物」である点で一致する。

エ 前記アないしウから,本願補正発明と引用発明とは,
「下記式(1)で表されるカーボネート構成単位[A]および下記式(2)で表されるカーボネート構成単位[B]からなり,カーボネート構成単位[A]のモル分率の割合がカーボネート構成単位[A]および[B]の合計に対して50?100モル%であって,屈折率が1.45?1.65の範囲であり,且つアッベ数が50?90の範囲であるホモまたは共重合ポリカーボネート樹脂より成形された光学部材用途のポリカーボネート成形物。

(ただしmは1?20の整数)」である点で一致し,次の点で一応相違している。

相違点1:
本願補正発明の「ホモまたは共重合ポリカーボネート樹脂」の光弾性定数が0×10^(-12)?50×10^(-12)Pa^(-1)の範囲であるのに対して,
引用発明の「ポリカーボネート」の光弾性定数は明らかでない点。

相違点2:
本願補正発明が「眼鏡レンズ」であるのに対して,
引用発明は眼鏡レンズに限らない点。

(4)判断
ア 相違点について
(ア)相違点1について
a 本願の発明の詳細な説明には,本願補正発明の「ホモまたは共重合ポリカーボネート樹脂」のうちのホモポリカーボネート樹脂(引用発明の「ポリカーボネート」に相当する。)の実施例について,
「【0072】
[実施例1](ホモポリカーボネート樹脂の製造)
イソソルビド(ISS)804重量部(11モル)とおよびジフェニルカーボネート2356重量部(11モル)とを反応器に入れ,重合触媒としてテトラメチルアンモニウムヒドロキシドを1.0重量部(ジフェニルカーボネート成分1モルに対して1×10^(-4)モル),および水酸化ナトリウムを1.1×10^(-3)重量部(ジフェニルカーボネート成分1モルに対して0.25×10^(-6)モル)仕込んで窒素雰囲気下常圧で180℃に加熱し溶融させた。
【0073】
撹拌下,反応槽内を30分かけて徐々に減圧し,生成するフェノールを留去しながら13.3×10^(-3)MPaまで減圧した。この状態で20分反応させた後に200℃に昇温した後,20分かけて徐々に減圧し,フェノールを留去しながら4.00×10^(-3)MPaで20分間反応させ,さらに,220℃に昇温し30分間,250℃に昇温し30分間反応させた。
【0074】
次いで,徐々に減圧し,2.67×10^(-3)MPaで10分間,1.33×10^(-3)MPaで10分間反応を続行し,さらに減圧し,4.00×10^(-5)MPaに到達したら,徐々に260℃まで昇温し,最終的に260℃,6.66×10^(-5)MPaで1時間反応せしめた。反応後のポリマーをペレット化した。得られたポリマーの比粘度は0.26,ガラス転移温度は163℃,5%重量減少温度は351℃であった。
・・・(中略)・・・
【0078】
[実施例5?8]
実施例1?4で得られたポリカーボネート樹脂ペレットを、それぞれ塩化メチレンに溶解させ、濃度18重量%の溶液を得た。該溶液をステンレス基板上にキャストして温度40℃で20分、温度60℃で30分加熱乾燥後、フィルムを基板から剥離してさらにフィルム周囲をゆるく固定して40℃で30分、60℃で30分、80℃で1時間、100℃で5時間乾燥して膜厚40μmのフィルムを得た。これらのフィルムの光弾性定数、屈折率およびアッベ数を測定した結果を表1に示した。」
と記載されており,【0084】の【表1】には,「実施例1」のホモポリカーボネート樹脂を用いた「実施例5」のフィルムの光弾性定数が「15」であり,屈折率が「1.5」であり,アッベ数が「61」であることが示されている。
なお,本願の発明の詳細な説明には,前記【表1】の光弾性定数の単位について明記されていないが,当該【表1】に,光弾性定数の値が90×10^(-12)×Pa^(-1)である帝人化成製パンライトAD5503(特開2009-79191号公報の【0103】及び【0104】の【表1】や特開2009-62501号公報の【0091】及び【0093】の【表1】の記載等を参照。)を用いた比較例1の光弾性定数の値が「90」と示されているから,【表1】の光弾性定数の単位が「10^(-12)×Pa^(-1)」であることは明らかである。

b 本願の発明の詳細な説明に記載された前記実施例1の「ホモポリカーボネート樹脂」と引用発明の「ポリカーボネート」とを比較すると,両者は同一モル比(1:1)の同一出発物質(イソソルビド及びジフェニルカーボネート)から合成された化合物であって,構造的には,両者は同一の構成単位のみからなるホモポリカーボネート樹脂であるから,重合度に多少の違いはあるとしても同一の物質であり,両者の光学特性についてみると,屈折率及びアッベ数はいずれも同一の値(1.50及び61)を示している。
そうすると,引用発明の「ポリカーボネート」の光弾性定数は,本願の発明の詳細な説明に記載された実施例1の「ホモポリカーボネート樹脂」の光弾性定数の値である「15」×「10^(-12)×Pa^(-1)」と略同じ値と推察され,当該光弾性定数の値が本願補正発明の「0×10^(-12)?50×10^(-12)Pa^(-1)の範囲」という数値範囲外の値になることはおよそ考えられない。

c 以上のとおりであって,引用発明の「ポリカーボネート」の光弾性定数は,「0×10^(-12)?50×10^(-12)Pa^(-1)の範囲」という本願補正発明の「ホモまたは共重合ポリカーボネート樹脂」の光弾性定数の数値範囲を満たしているから,引用発明は相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項に相当する構成を具備している(すなわち,相違点1は実質的な相違点ではない。)。

(イ)相違点2について
眼鏡レンズは光学部材の一態様であり,ポリカーボネート樹脂より成形されたものはすなわちポリカーボネート成形物であるから,周知の事項(前記(2)オを参照。)である「ポリカーボネート樹脂より成形された眼鏡レンズ」は,「光学機器・部材用途のポリカーボネート成形物」の一態様である。
そして,引用刊行物の[0016],[0034](前記(2)ア(ア)c,dを参照。)等に記載されているように,引用発明の「ポリカーボネート」が廃棄に伴う地球環境への負荷が少なく,高耐熱性であり,高い弾性率と良好な耐加水分解性及び光学的性質を示すものであるため,引用発明は従来の光学機器・部材用途のポリカーボネート成形物の代替品となるのであって,当該引用発明の「ポリカーボネート」の各長所が当該「ポリカーボネート」を前記周知の事項である「ポリカーボネート樹脂より成形された眼鏡レンズ」に適用した場合においても有効であることが当業者に自明であるから,前記周知の事項の事項である「ポリカーボネート樹脂より成形された眼鏡レンズ」の代替品として引用発明を用いること,すなわち,引用発明を「ポリカーボネート樹脂より成形された眼鏡レンズ」として構成することは,当業者にとって通常の創作能力の発揮というほかない。
したがって,引用発明について,相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項に相当する構成を具備したものとすることは,周知の事項に基づいて当業者が容易に想到し得たことである。

イ 効果について
本願補正発明の奏する効果は,引用刊行物の記載及び周知の事項に基づいて,当業者が予測できた程度のものである。

(5)独立特許要件についてのまとめ
以上のとおり,本願補正発明は,引用発明及び周知の事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
よって,本件補正は,特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので,同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は前記のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,平成24年1月25日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲及び明細書の記載からみて,前記第2〔理由〕1(1)に本件補正前の請求項1として示したとおりのものと認める。

2 引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用刊行物の記載事項及び引用発明,周知例1ないし3の記載事項及び周知の事項については,前記第2〔理由〕3(2)アないしオのとおりである。

3 対比・判断
前記第2〔理由〕2で述べたとおり,本願補正発明は,本願発明を特定するために必要な事項について限定を付加したものに相当する。
そして,本願発明の構成要件をすべて含みさらに限定を付加したものに相当する本願補正発明が,前記第2〔理由〕3で述べたとおり,引用発明及び周知の事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,同様の理由で,引用発明及び周知の事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり,本願発明は,引用発明及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により,特許を受けることができない。
したがって,本願は,他の請求項について検討するまでもなく,拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-08-27 
結審通知日 2014-09-02 
審決日 2014-09-16 
出願番号 特願2007-234061(P2007-234061)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G02B)
P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大隈 俊哉  
特許庁審判長 西村 仁志
特許庁審判官 清水 康司
鉄 豊郎
発明の名称 眼鏡レンズ  
代理人 為山 太郎  

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